(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6184734
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】ミーリング工具およびミーリング工具に用いるミーリングインサートセット
(51)【国際特許分類】
B23C 5/08 20060101AFI20170814BHJP
B23C 5/20 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
B23C5/08 A
B23C5/20
【請求項の数】13
【外国語出願】
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-96712(P2013-96712)
(22)【出願日】2013年5月2日
(65)【公開番号】特開2013-233646(P2013-233646A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2016年3月2日
(31)【優先権主張番号】1250448-6
(32)【優先日】2012年5月4日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100153084
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 康史
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100133008
【弁理士】
【氏名又は名称】谷光 正晴
(72)【発明者】
【氏名】トマス ソグストローム
【審査官】
永石 哲也
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭50−077982(JP,A)
【文献】
特開昭62−166920(JP,A)
【文献】
特開昭50−130097(JP,A)
【文献】
実開昭61−050621(JP,U)
【文献】
特表2007−534504(JP,A)
【文献】
特開2010−058209(JP,A)
【文献】
米国特許第03320655(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/08
B23C 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝削り用のミーリング工具(1)において、
回転軸(C1)を規定する工具本体と、
円周方向に分離され、ルートインサートのインサート座を形成し、かつ、回転軸(C1)のまわりに延在する第1のライン(L1)に沿って工具本体の中に順に配置されている、複数の第1のインサート座(11)と、
円周方向に分離された複数のフランクインサートのインサート座であって、ルートインサートのインサート座の一次側(6)で回転軸(C1)のまわりに延在する第2のライン(L2)に沿って順に配置されている複数の第2のインサート座(12)と、ルートインサートのインサート座の2次側(7)で回転軸(C1)のまわりに延在する第3のライン(L3)に沿って順に配置されている複数の第3のインサート座(13)を含み、各々底部表面(16)、内側表面(17)および外側表面(18)を含んでいるフランクインサートのインサート座と、を含むミーリング工具であって、
各ルートインサートのインサート座が、交換可能なルートインサート(21)を含み、
各フランクインサートのインサート座が、交換可能なフランクインサート(22)を含み、
各ルートインサート(21)が、下部側(31)と、下部側(31)の反対側に位置してすくい面を形成する上部側(32)と、上部側(32)と下部側(31)を連結する円周方向エッジ側(33)と、そして互いに向かって収束するエッジ側(33)が上部側(32)と遭遇する場所に形成されている少なくとも1つの一次主切れ刃(36)及び二次主切れ刃(37)と、を含み、一次主切れ刃(36)と二次主切れ刃(37)の間に横方向端部切れ刃(38)が延在し、
各フランクインサート(22)が、下部側(51)と、下部側(51)の反対側に位置する上部側(52)と、上部側(52)と下部側(51)とを連結する円周方向エッジ側(53)と、を含み、
各フランクインサート(22)は、フランクインサート(22)の上部側(52)と下部側(51)を通って延在する中心軸(A)を規定しており、
フランクインサート(22)のエッジ側(53)がすくい面を形成し、
ルートインサート(21)のすくい面が、一次主切れ刃(36)と二次主切れ刃(37)と横方向端部切れ刃(38)とを含む延長平面(P1)内に延在し、
延長平面(P1)が、第1のライン(L1)が延長平面(P1)と交差する場所において第1のライン(L1)の接線に対して平行な法線を有し、その法線が、少なくともルートインサート(21)の前記切れ刃(36、37、38)の近辺においてエッジ側(33)と鋭角の逃げ角(α)を形成し、こうしてルートインサート(21)がポジティブの切削幾何形状を得るようになっていることを特徴とするミーリング工具(1)。
【請求項2】
エッジ側(53)が、上部側(52)と共にそれぞれすくい面およびそれぞれのフランクインサートエッジ(55a、55b)を形成する複数のエッジ側区分(53a、53b)を含むことを特徴とする請求項1に記載のミーリング工具。
【請求項3】
各フランクインサート(22)の上部側(52)と下部側(51)の間の距離が、中心軸(A)と交差する方向に沿ったフランクインサート(22)の上部側(52)の最短の長さよりも短かいことを特徴とする請求項1又は2に記載のミーリング工具。
【請求項4】
各フランクインサート(22)が、上部側(52)と下部側(51)を通って延在する締結用孔(58)を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のミーリング工具。
【請求項5】
各フランクインサート(22)が、締結用孔(58)を通って工具本体(2)内に延在し、かつ、フランクインサート(22)をフランクインサートのインサート座(12、13)に対して押込み力によって圧迫する固定用ネジ(59)を用いて、そのフランクインサートのインサート座(12、13)にそれぞれ取付けられていることを特徴とする請求項4に記載のミーリング工具。
【請求項6】
固定用ネジ(59)が、フランクインサート(22)の下部側(51)を前記押込み力の主要力成分により底部表面(16)に対して圧迫し、前記押込み力の第1のより小さい力成分により外側表面(18)に対してエッジ側区分(53a、53b)の1つを圧迫することを特徴とする請求項5に記載のミーリング工具。
【請求項7】
固定用ネジが同様に、前記押込み力の第2のより小さい力成分により内側表面(17)に対してフランクインサート(22)の別のエッジ側表面区分(53c、53d)を圧迫することを特徴とする請求項6に記載のミーリング工具。
【請求項8】
第2のより小さい力成分が、第1のより小さい力成分よりも小さいことを特徴とする請求項7に記載のミーリング工具。
【請求項9】
ルートインサート(21)の一次主切れ刃(36)と前記第2のインサート座(12)内のフランクインサート(22)のフランクインサートエッジ(56b)が、互いに交差または重複する区分を含むそれぞれの共通ラインに沿って突出する形で延在し、ルートインサート(21)の二次主切れ刃(37)と前記第3のインサート座(13)内のフランクインサート(22)のフランクインサートエッジ(56a)が、互いに交差または重複する区分を含むそれぞれの共通ラインに沿って突出する形で延在していることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のミーリング工具。
【請求項10】
ルートインサート(21)および異なるフランクインサート(22)が、円周方向に関して交互に配置されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のミーリング工具。
【請求項11】
交互の順序は、ルートインサート(21)のうちの1つの後に一次側(6)および二次側(7)のうちの一方の側のフランクインサート(22)が続き、この後に今度は、一次側(6)と二次側(7)のうちのもう一方の側のフランクインサート(22)が続くような順序であることを特徴とする請求項10に記載のミーリング工具。
【請求項12】
交互に配置される順序は、ルートインサート(21)のうちの1つの後に一次側(6)および二次側(7)のうちの一方の側のフランクインサート(22)が続き、この後に今度はルートインサート(21)が続き、次にこの後に、一次側(6)と二次側(7)のうちのもう一方の側のフランクインサート(22)が続くような順序であることを特徴とする請求項10に記載のミーリング工具。
【請求項13】
各ルートインサート(21)が、第1のライン(L1)の接線に対し垂直な対称ライン(S)を含み、一次主切れ刃(36)および二次主切れ刃(37)が対称ライン(S)に関して対称であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載のミーリング工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溝削り用ミーリング工具に関する。ミーリング工具は、直線または斜めのスロットの切削、特にスプラインの製造のためのいわゆるスロットカッターまたはスリット形成用カッターとして形成されてよいが、ミーリング工具を歯車の製造のために使用することも可能である。より厳密には、本発明は、請求項1の序文に係るミーリング工具および請求項16の序文に係るミーリングインサートセットに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、序論として標示されているタイプのミーリング工具を示す。この公知のミーリング工具は、スプロケットホイールのミーリング用に形成されている。ミーリング工具は、回転軸を画定する工具本体と、円周方向に分離され、ルートインサートのインサート座を形成しかつ、回転軸のまわりに延在する第1のラインに沿って工具本体の中に相次いで配置されている、複数の第1のインサート座と、円周方向に分離された複数のフランクインサートのインサート座であって、ルートインサートのインサート座の一次側で回転軸のまわりに延在する第2のラインに沿って相次いで配置されている複数の第2のインサート座と、ルートインサートのインサート座の2次側で回転軸のまわりに延在する第3のラインに沿って相次いで配置されている複数の第3のインサート座を含むフランクインサートのインサート座と、を含む。各フランクインサートのインサート座は、底部表面、内側表面および外側表面を含んでいる。各ルートインサート座は、交換可能な半径方向に装着されるルートインサートを含む。各フランクインサート座は、交換可能な半径方向に装着されるフランクインサートを含む。
【0003】
さらに、この公知のミーリング工具の各ルートインサートは、下部側と、下部側の反対側に位置してすくい面を形成する上部側と、上部側と下部側を連結する円周方向エッジ側と、互いに向かって収束するエッジ側が上部側と遭遇する場所に形成されている少なくとも1つの一次主切れ刃と二次主切れ刃と、を含む。各フランクインサートは、下部側と、下部側の反対側に位置する上部側と、上部側と下部側とを連結する円周方向エッジ側と、を含み、各フランクインサートは、フランクインサートの上部側と下部側を通って延在する中心軸を規定している。フランクインサートの上部側はすくい面を形成し、エッジ側は逃げ面を形成する。
【0004】
非特許文献1に示されているタイプの半径方向に装着されるフランクインサートは、工具本体内で大きな空間を必要とするという欠点を有する。このことは特に、大型のミーリング工具にあてはまる。したがって、工具本体は脆化し、大きな応力が発生する。別の問題は、形成した切り屑を適切に処理するための空間を作り出すのが困難であるという点にある。さらに、特に切れ刃の正しい軸方向位置を達成するために、この半径方向フランクインサート用のインサート座を製造することも困難である。
【0005】
非特許文献1は同様に、接線方向に装着されるルートインサートの例も示している。例えばp14を参照のこと。このようなルートインサートには、連続するルートインサートに対して異なる方向から横力が作用するという欠点がある。こうして、横力は交互に方向を変え、それによりミーリング工具の不均衡を生成する。このことはそれ自体、ワークの劣悪な表面および高い騒音レベルを生み出す。このような接線方向に装着されるルートインサートのさらなる欠点は、異なるミーリングインサートの切れ刃が互いに重複せざるを得ず、こうしてワーク内に溝を形成する危険性があるということにある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Gear Production Tools from Kennametal,p.21,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上述の問題を取り除くことにある。本発明は、工具本体が高い強度を有し、加工済みワークに優れた表面を保証する、溝削り用ミーリング工具を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、フランクインサートのエッジ側がすくい面を形成することを特徴とする最初に記したミーリング工具によって達成される。
【0009】
本発明に係るミーリング工具においては、例えばワークの2つの隣接する歯の間などで、スロットのルートつまり底面部域を機械加工するルートインサートは、半径方向に装着されている。一方、ワークの2つの隣接する歯などのスロットの外部フランクを機械加工するフランクインサートは、接線方向に装着される。「半径方向」および「接線方向」に装着されるという表現は、本発明の技術分野において認知されている定義づけであり、当業者に対して工具本体内でミーリングインサートがいかに位置づけられているかを示す。半径方向に装着されるミーリングインサートにおいては、すくい面はミーリングインサートの後部エッジから切れ刃に向かって外向きに、半径方向またはほぼ半径方向に延在する。接線方向に装着されるミーリングインサートにおいては、すくい面は、ミーリングインサートの後部エッジから切れ刃に向かって外向きに、接線方向またはほぼ接線方向に延在する。これらの表現は、ミーリングインサートが工具の回転軸との関係においてそれぞれ正確に半径方向および接線方向に延在することを意味していない。
【0010】
フランクインサートのこの接線方向の装着により、工具の回転軸に関して軸方向でのフランクインサートの延長部分は比較的短かくなり、半径方向そして好ましくは同様に接線方向におけるその延長部分は、比較的長くなる。工具本体内において軸方向でフランクインサートに必要とされる空間は、半径方向に装着されるフランクインサートに比べ相対的に短かく(上述の非特許文献1を参照のこと)、このことは工具本体の高い強度に寄与する。これはまた、ワークと係合状態にあるフランクインサートの作用切れ刃を比較的長くすることができるということをも意味し、このことはワークの機械加工された表面の高い表面平滑度に寄与する。
【0011】
半径方向に装着されるルートインサートでは、一次主切れ刃および二次主切れ刃は、ワーク内のスロットのそれぞれの側を機械加工する。ルートインサートの半径方向の装着により、ルートインサートの一次主切れ刃および二次主切れ刃も同様に、同時にワークと係合状態になる。このようにして、切削力が、一次および二次主切れ刃の間で均一に分布し、不均等なまたは変動する荷重が発生することは一切ないということが保証される。こうして、振動が全く無いかまたはわずかしか発生しない状態で、かつ低い騒音レベルで、機械加工を行なうことができる。
【0012】
本発明の一実施形態によると、エッジ側は、上部側と共にそれぞれすくい面およびそれぞれのフランクインサートエッジ、そして場合によっては下部側と共にそれぞれのすくい面およびそれぞれのフランクインサートエッジを形成する複数のエッジ側区分を含む。有利には、エッジ側は、2個または4個のエッジ側区分を含んでよく、その各々が1個または2個のフランクインサートエッジを形成する。このようなフランクインサートは、中心軸上でフランクインサートを回転させることによって、2つまたは4つの位置に刃先割出し可能である。中心に対し垂直な軸のまわりで刃先を割出しすることにより、8つの位置、ひいては8つのフランクインサートエッジが利用可能となる。
【0013】
本発明のさらなる実施形態によると、各フランクインサートの上部側と下部側の間の距離は、本質的に、中心軸と交差する方向に沿った、すなわち上部側に対して平行な任意の方向に沿ったフランクインサートの上部側の最短の長さよりも短かい。有利には、上部側と下部側の間の距離は、エッジ側全体に沿って一定、または本質的に一定である。しかしながら、上部側と下部側の間の距離を、中心軸と交差する方向、例えばフランクインサートエッジから延在する第1の方向に沿ったフランクインサートの上部側の最短の長さと同じかまたはそれより長くすることも同様に可能である。しかしながら、第1の方向に対して垂直に延在する第2の方向に沿った長さは、上部側と下部側の間の距離よりも長い場合がある。
【0014】
本発明のさらなる実施形態によると、各フランクインサートは、上部側と下部側を通って延在する締結用孔を有する。有利には、各フランクインサートはこのとき、締結用孔を通って工具本体内に延在しかつフランクインサートをフランクインサートのインサート座に対して押込み力によって圧迫する固定用ネジを用いて、そのそれぞれのフランクインサートのインサート座の中に取付けられていてよい。このような固定用ネジは、比較的大きい押込み力によって信頼度の高い形でフランクインサートを締結できるようにする。フランクインサートの下部側がフランクインサートのインサート座の底部表面に対し圧迫されているおかげで、フランクインサートの軸方向位置ひいては作用フランクインサートエッジの軸方向位置を高い精度で保証することができる。
【0015】
本発明のさらなる実施形態によると、固定用ネジは、取付け方向の他の方向成分よりも著しく大きい軸方向成分を有する取付け方向に延在している。さらに、各フランクインサートのインサート座は、底部表面、外側表面および内側表面を有していてよい。有利には、固定用ネジはこのとき、フランクインサートの下部側(51)を前記押込み力の主要力成分によりインサート座表面に対して圧迫し、前記押込み力の第1のより小さい力成分により外側表面に対してエッジ側区分の1つを圧迫してよい。
【0016】
本発明のさらなる実施形態によると、固定用ネジは同様に、前記押込み力の第2のより小さい力成分により内側表面に対してフランクインサートの別のエッジ側表面区分を圧迫する。有利には、第2のより小さい力成分は、第1のより小さい力成分よりも小さくてよい。ただし、第1のより小さい力成分および第2のより小さい力成分が、同等の、または本質的に同等の大きさを有していてよいということを指摘しておくべきである。しかしながら、これとは独立して、フランクインサートが3つの表面に対し圧迫されていることが有利であり、これは、フランクインサートの位置の非常に高い精度に寄与する。
【0017】
本発明のさらなる実施形態によると、ルートインサートの一次主切れ刃と前記第2のインサート座内のフランクインサートのフランクインサートエッジは、互いに交差または重複する区分を含むそれぞれの共通ラインに沿って突出する形で延在する。同様にして、ルートインサートの二次主切れ刃と前記第3のインサート座内のフランクインサートのフランクインサートエッジは、互いに交差または重複する区分を含むそれぞれの共通ラインに沿って突出する形で延在している。
【0018】
本発明のさらなる実施形態によると、ルートインサートおよび異なるフランクインサートは、円周方向に関して交互の順序で配置されている。例えば、ルートインサートの後には、ルートインサートの各々の側に1つずつの2つのフランクインサートが続いていてよく、次にこのシーケンスが、ミーリング工具の全周で反復される。同様にミーリングインサート1つおきにルートインサートがあり、ミーリング工インサート1つおきにフランクインサートがあるようにすることもできる。他の交互順序も可能である。
【0019】
本発明のさらなる実施形態によると、ルートインサートすくい面は、一次主切れ刃と二次主切れ刃を含む延長平面(P
1)内に延在し、各ルートインサートの延長平面(P
1)は、第1のラインが延長平面と交差する場所において第1のラインの接線に対して平行な法線を有している。ルートインサートのこのような位置づけは、ミーリングすべきスロットについて目標とされる誤差レベルおよび切削加工に関してきわめて有利である。
【0020】
さらなる実施形態によると、各ルートインサートは、第1のラインの接線に対し垂直な対称ラインを含み、一次主切れ刃および二次主切れ刃は対称ラインに関して対称である。対称ラインは、一次主切れ刃と二次主切れ刃の各々と角度βを成す。特に、ギヤミーリングにおいて、角度βは18〜32°の範囲内にあってよく、例えば角度βは20°または30°であってよい。
【0021】
目的は同様に、フランクインサートエッジ側がすくい面を形成することを特徴とする、最初に記した溝削り用のミーリング工具のミーリングインサートによっても達成される。このようなセットは、溝削り用のミーリング工具のために有利である。これらのミーリングインサートにより、ミーリング工具は、上述の要領で利用され、上述の技術的利点に寄与することができる。セット内のルートインサートの数およびフランクインサートの数は変動してよく、そのセットが形成される対象であるミーリング工具に適応されてよい。
【0022】
本発明のさらなる実施形態によると、各ルートインサートは、一次主切れ刃と二次主切れ刃の間に延在する横方向端部切れ刃を含む。端部切れ刃は、直線であってよく、あるいはそれぞれ一次主切れ刃および二次主切れ刃に向かって小さな曲率半径を伴う遷移エッジを有する直線区分を含んでいてもよい。
【0023】
本発明のさらなる実施形態によると、ルートインサートのすくい面は、一次主切れ刃と二次主切れ刃を含む延長平面内に延在し、延長平面に対する法線は、少なくともルートインサートの前記切れ刃の近辺においてエッジ側と鋭角の逃げ角を形成し、こうしてルートインサートは正の切削幾何形状を得るようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図2】
図1中の工作機械用のミーリング工具の斜視図を示す。
【
図5】ワークを通した断面図および
図2中で突出する形のミーリング工具の3つのミーリングインサートを示す。
【
図6】
図2中のミーリング工具の一部分の分解組立斜視図である。
【
図7】
図2中のミーリング工具の挟持用くさびを有するルートインサートの分解組立斜視図を示す。
【
図8】
図2中のミーリング工具の一部分の正面図を示す。
【
図9】溝削り用の修正されたミーリング工具の一部分の正面図を示す。
【
図10】
図2中のミーリング工具のルートインサートを下から見た斜視図である。
【
図11】
図10中のルートインサートを上から見た斜視図を示す。
【
図14】
図10中のルートインサートを正面から見た図を示す。
【
図15】
図10中のルートインサートを後ろから見た図を示す。
【
図17】
図2中のミーリング工具のフランクインサートを下から見た斜視図を示す。
【
図18】
図17中のフランクインサートを上から見た斜視図を示す。
【
図19】
図17中のフランクインサートを下から見た図を示す。
【
図20】
図17中のフランクインサートを横から見た図を示す。
【
図21】
図17中のフランクインサートを正面から見た図を示す。
【
図22】別の実施形態に係るミーリング工具を下から見た斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、切削加工、より厳密にはワークWの溝削り用に形成されたミーリング工具1を有する工作機械Mを概略的に示している。ミーリング工具1は、例えばスプライン、歯車、ラックなどの、1つ以上のスロットが所望される一定数の異なるワークWの切削加工に好適である。
【0026】
ミーリング工具1の第1の実施形態は、
図2〜8により詳細に示されている。ミーリング工具1は、鋼で製造してよい工具本体2と、鋼よりも硬い材料、例えば超硬合金で製造されてよい多数の交換可能なミーリングインサート21、22を含む。工具本体2は、回転軸C
1を画定し、一次側6および相対する二次側7を有する。回転軸C
1は、一次側6と二次側7を通って延在する。
【0027】
ミーリング工具1は同様に、例えばDIN138にしたがったロッドまたは駆動シャフト10を収容するための直線溝9を有する軸方向貫通孔8をも含んでいる。ロッド10は、フライス盤または多機能作業機械であり得る工作機械Mの工具スピンドル内にミーリング工具1を取付けるように形成される。工具本体2は、回転方向R
1で回転軸C
1上で回転可能である。ワークWは好適な形、つまり不動な形または可動な形で固定される。ワークWは、下向きミーリングのためには送り方向F
1に沿って、そして上向きミーリングのためには送り方向F
2で、ミーリング工具1との関係において移動可能である。当然のことながら、この代りに、ワークWを停止させた状態でミーリング工具1の移動によって送り動作を提供してもよい。
【0028】
工具本体1は、円周方向に分離された複数の第1のインサート座11、円周方向に分離された複数の第2のインサート座12、および円周方向に分離された複数の第3のインサート座13を含む。第1のインサート座11はルートインサートのインサート座を形成し、回転軸C
1のまわりに延在する第1のラインL
1(
図4および8参照)に沿って工具本体1内で相次いで配置されている。第2のインサート座12(
図4参照)は、回転軸C
1のまわりで一次側6に延在する第2のラインL
2に沿って相次いで配置されるフランクインサートのインサート座を形成する。第3のインサート座13(
図6参照)は、回転軸C
1のまわりで二次側7に延在する第3のラインL
3に沿って相次いで配置されるフランクインサートのインサート座を形成する。
【0029】
第1のインサート座11の各々は、底部表面14および内部支持表面15を含む(
図6参照)。第2のインサート座12および第3のインサート座13は、同一であるが、第1のインサート座11すなわちルートインサートのインサート座の各々の側に対称的に配置されている。各フランクインサートのインサート座すなわち第2のインサート座12および第3のインサート座13の各々は、底部表面16、内側表面17および外側表面18を含む(
図6参照)。
【0030】
第1のインサート座11の各々は、交換可能なルートインサート21を含み、各フランクインサートのインサート座、すなわち第2のインサート座12の各々および第3のインサート座13の各々は、交換可能なフランクインサート22を含む。第2のインサート座12および第3のインサート座13用のフランクインサート22は、有利には同一であってよいが、必ずしもそうである必要はない。
【0031】
第1のインサート座11各々の底部表面14は、好ましくは、特に半径方向または本質的に半径方向に底部表面14から外向きに延在する半径方向の細長い尾根19の形状を有する隆起を含む(
図6参照)。細長い尾根19は、細長い尾根19の上部表面と底部表面14の間に延在する2つの傾斜フランク表面を有する。2つのフランク表面は互いに鈍角を成している。この角度は、90°〜140°、例えば120°であってよい。上部表面は、平面で底部表面14に平行である。
【0032】
各ルートインサート21(
図10〜16参照)は、下部側31、すくい面を形成する相対する上部側32、および上部側32と下部側31を連結する円周方向エッジ側33を含む。各ルートインサート21の下部側31は、細長い谷34の形状を有する陥凹を含む。細長い谷34は、平面でかつ下部側31に対して平行であってよい底部表面とルートインサート21の下部側との間に延在する2つの傾斜フランク表面を有する。さらに各ルートインサート21は、一次主切れ刃36、二次主切れ刃37および一次主切れ刃36と二次主切れ刃37の間に延在する横方向端部切れ刃38を形成するかまたは含む。切れ刃36、37および38は、エッジ側33が上部側32と遭遇する場所で形成される。
【0033】
一次主切れ刃36および二次主切れ刃37は互いに向かって収束する。ルートインサート21のすくい面は、延長平面P
1内に延在し、この延長平面は、図示された実施形態において、一次主切れ刃36および二次主切れ刃37を含むかまたはこれに対し平行である。さらに各ルートインサート21は、第1のラインL
1の接線に対して垂直である対称ラインSを含む。細長い谷34は同様に、対称ラインSに対して平行に延在する。一次主切れ刃36と二次主切れ刃37は、対称ラインSに関して対称である。端部切れ刃38は、対称ラインSに対し垂直であってよいが、必ずしもそうである必要はない。図示された実施形態において、エッジ側33は同様に、対称ラインに対して垂直に、かつ端部切れ刃38に対し平行に延在する後部側39を形成する。
【0034】
延長平面P
1に対する法線は、少なくとも一次主切れ刃36および二次主切れ刃37の近辺でまたはこれらに沿ってエッジ側33と鋭角の逃げ角αを形成して、ルートインサート21が正の切削幾何形状を得るようにしている。有利には、同じく端部切れ刃38に沿ってエッジ側33と鋭角の逃げ角αが形成され、ルートインサート21が、端部切れ刃38に関しても正の切削幾何形状を得るようになっている。ただし、少なくとも一部の利用分野においては端部切れ刃38がワークWと切削機械加工状態にないという点に留意すべきである。同様に、端部切れ刃38に沿った逃げ角αが、一次主切れ刃36および二次主切れ刃37に沿った逃げ角とは別のサイズを有する場合があるという点にも留意すべきである。
【0035】
各ルートインサート21は、第1のインサート座において、下部側31が底部表面14に対して当接するような形で配置されている。ルートインサート21が第1のインサート座11の中に装着された場合、細長い尾根19は、ルートインサート21の下部側31の細長い谷34と係合状態になり、こうして回転軸C
1に対するルートインサート21の軸方向回転が保証される。ルートインサート21が第1のインサート座11内に装着された場合、細長い尾根19のフランク表面は、細長い谷34のフランク表面の各々1つに対して当接する。有利には、尾根19の上部表面と谷34の底部表面の間には間隙が存在してよい。さらに、ルートインサート21の後部側39は、回転軸C
1との関係におけるルートインサート21の半径方向位置を保証する内部支持表面15に対して当接する。
【0036】
示された実施形態において、各ルートインサート21は、ルートインサート21の上部側32に対し当接しかつ底部表面14および内部支持表面15に対してルートインサート21を圧迫するくさび形ブロック40を用いて、それぞれの第1のインサート座11の中にしっかりと固定される。くさび形ブロック40は、このブロックを通って延在しそれと係合状態にある二条ネジ41(
図6参照)と、工具本体21内のネジ孔(図示せず)を用いて、ルートインサート21に対して締付けられる。ルートインサート21は同様に、他の方法、例えばルートインサート21内の孔を通って工具本体2内に延在する固定用ネジを用いてしっかりと固定されてもよいという点に留意すべきである。
【0037】
各フランクインサート22(
図17〜20参照)は、下部側51、相対する上部側52および上部側52と下部側51を連結する円周方向エッジ側53を含む。下部側51と上部側52は各々、互いに平行である延長平面を画定している。各フランクインサート22は、その上部側52と下部側51を通って延在する中心軸Aを画定している。各フランクインサート22の上部側52と下部側51の間の距離は、示された実施形態において、中心軸Aと直交する任意の方向に沿ったフランクインサート22の上部側52または下部側51の最短長さよりも、本質的に短かい。例えば、前記距離は、最大でフランクインサート22の上部側52の前記最短長さの85%、より詳細には最大で最小のインサート幅の85%であってよい。
【0038】
フランクインサート22のエッジ側53は、すくい面を形成し、4つのエッジ側区分を含む。示された実施形態において、エッジ側53は、上部側52と共にそれぞれのすくい面をおよびそれぞれのフランクインサートエッジ55a、55bを形成する2つのエッジ側区分53aおよび53bを含む。上述のインサート幅は、フランクインサートエッジ55a、55bの長さに対応する。示された実施形態において、フランクインサート22は相応して、中心軸A上で180°回転することにより割出し可能である。示された実施形態において、フランクインサート22はさらに、中心軸Aに対し垂直である軸上で180°回転することにより刃先割出し可能である。このような割出しによって、2つのエッジ側区分53aのおよび53bは、下部側51と共にそれぞれのフランクインサートエッジ56a、56bを形成する。
【0039】
示された実施形態において、各フランクインサート22は相応して4つのフランクインサートエッジ55a、55b、56aおよび56bを有し、これらは割出しにより、作用フランクインサートエッジを形成することができる。こうして、示された実施形態において、エッジ側53は、上部側52および下部側51といかなる切れ刃も形成しない2つのエッジ側区分53cおよび53dを含む。しかしながら、前記4つのエッジを同様に、フランクインサートエッジとして形成してもよく、フランクインサート22は、中心軸Aの方向に見られる二次形状を得る、ということに留意すべきである。
【0040】
各フランクインサート22は、上部側52と下部側51を通って延在する締結用孔58を有する。各フランクインサート22は、底部表面16を通って工具本体2内に延在するネジ孔60の中に締結用孔58を通って延在する固定用ネジ59(
図6参照)を用いて、そのそれぞれの第2または第3のインサート座12、13の中に取付けられ、しっかりと固定される。固定用ネジ59を用いて、フランクインサート22の下部側51または上部側52は、押込み力によってインサート座12、13の底部表面16に対し圧迫される。
【0041】
固定用ネジ59は、取付け方向の他の方向成分よりも著しく大きい軸方向成分を有する取付け方向に延在する。固定用ネジ59は、前記押込み力の主要な力成分により底部表面16に対してフランクインサート22の下部側51または上部側52を圧迫する。同時に、前記押込み力の第1のより小さい力成分により、エッジ側区分53a、53bの1つが外側表面18に対して圧迫される。さらに、固定用ネジ59は同様に、前記押込み力の第2のより小さい力成分により内側表面17に対してフランクインサート22のエッジ側区分53cおよび53dの1つを圧迫する。好ましくは、第2のより小さい力成分は、第1のより小さい力成分よりも小さい。
【0042】
図1〜9に示された実施形態において、第1のラインL
1ならびに第2および第3のラインL
2およびL
3は、相互にかつ回転軸C
1に垂直な平面に対して平行に延在する。さらに、示された実施形態において、各ルートインサート21の延長平面P
1は、第1のラインL
1が延長平面P
1と交差する場所における第1のラインL
1の接線に対して平行な法線を有する。ただし、前記法線を前記接線に対して傾斜させることも可能である。
【0043】
図1〜8に示された実施形態において、ルートインサート21の一次主切れ刃36および前記第2のインサート座12内のフランクインサート22のフランクインサートエッジ56bは、それぞれの共通ラインに沿って突出する形で延在し、これらは、互いに重複し共通の方向に延在する区分を含む(
図5参照)。同じようにして、ルートインサート21の二次主切れ刃37および前記第3のインサート座13内のフランクインサート22のフランクインサートエッジ56aは、それぞれの共通ラインに沿って突出する形で延在し、これらは、互いに重複し共通の方向に延在する区分を含む(
図5参照)。
【0044】
図9に示された実施形態において、ルートインサート21の一次主切れ刃36および前記第2のインサート座12内のフランクインサート22のフランクインサートエッジ56bは、それぞれの共通ラインに沿って突出する形で延在し、これらは、互いに交差し鈍角を成す区分を含む。同じようにして、ルートインサート21の二次主切れ刃37および前記第3のインサート座13内のフランクインサート22のフランクインサートエッジ56aは、それぞれの共通ラインに沿って突出する形で延在し、これらは、互いに交差し鈍角γを成す区分を含む。
図9において、フランクインサート22のフランクインサートエッジ56aは、ルートインサート21の二次主切れ刃37の隣りで突出している。
【0045】
図1〜9示された実施形態において、ラインL
1、L
2およびL
3は、回転軸C
1が直交する軸方向平面内に延在する。このようなミーリング工具は、スプラインおよびラック内にスロットをミーリングするために特に好適である。
【0046】
図22〜24では、ラインL
1、L
2およびL
3が回転軸C
1と一定の角度を成す別の実施形態が例示されている。より厳密には、これらのラインは、一定のピッチを有するらせん状のラインを形成する。ピッチ角δは1〜10°であってよい。他の点では
図1〜9中のミーリング工具と同じ設計を有するこのようなミーリング工具は、歯車切削に特に好適であり、ホブまたはその一部であってよい。この場合、
図22〜24に示されたタイプの複数のミーリング工具1を互いに並べて配置し、ラインL
1、L
2およびL
3がホブ工具のそれぞれの一定のピッチを形成するような形で互いとの関係において固定してよい。この実施形態においては、ルートインサート21のすくい面が、一次主切れ刃36と二次主切れ刃37を含む延長平面P
1内に延在していることも同様に有利である。切削すべき歯、特に歯のインボリュートに高い精度を得る目的で、各ルートインサート21の延長平面P
1は、第1のラインL
1が延長平面P
1と交差する場所において第1のラインL
1の接線に対して平行な法線を有していることが有利である。このような設計は、
図1〜9に示された実施形態においても同様に有利であるかもしれない。
【0047】
示された実施形態におけるルートインサート21には、延長平面P
1および/または主切れ刃36、37および端部切れ刃38の上または下に延びる切り屑生成または切り屑破断手段が具備されていてよい、ということに留意すべきである。
【0048】
ルートインサート21が、いわゆる突出部を提供するため端部切れ刃38の近辺に一次および二次主切れ刃36、37のエッジを含んでいてよい、ということに留意されたい。こうして、これらの外部エッジたわみは、延長平面P
1内またはそれに平行に延在し得る突出切れ刃を形成する。同じ突出切れ刃は、ワークW内のスロットの底部表面の近辺の切り出しをより深いまたはより広いものにすることができる。
【0049】
本発明は、示された実施形態に限定されず、後続するクレームの範囲内で変更および修正される場合がある。
【符号の説明】
【0050】
1 ミーリング工工具
2 工具本体
6 一次側
7 二次側
8 軸方向孔
9 溝
10 ロッド
11 第1のインサート座
12 第2のインサート座
13 第3のインサート座
14 底部表面
15 内部支持表面
16 底部表面
17 内側表面
18 外側表面
19 細長い尾根
21 ルートインサート
22 フランクインサート
31 下部側
32 上部側
33 エッジ側
34 細長い谷
36 一次主切れ刃
37 二次主切れ刃
38 端部切れ刃
39 後部側
40 くさび形ブロック
41 2条ネジ
51 下部側
52 上部側
53 エッジ側
53a〜53d エッジ側区分
55a、55b フランクインサートエッジ
56a、56b フランクインサートエッジ
58 締結用孔
59 固定用ネジ
60 ネジ孔
M 工作機械
W ワーク
C
1 回転軸
R
1 回転方向
F
1 送り方向
F
2 送り方向
L
1 第1のライン
L
2 第2のライン
L
3 第3のライン
P
1 延長平面
α 逃げ角
S 対称ライン
A 中心軸
δ ピッチ角
β 角度
γ 突出角度