(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6184768
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】静止電磁機器用巻鉄心及び三相変圧器及び三相リアクトル
(51)【国際特許分類】
H01F 27/25 20060101AFI20170814BHJP
H01F 27/24 20060101ALI20170814BHJP
H01F 30/12 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
H01F27/24 B
H01F27/24 C
H01F30/12 A
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-133266(P2013-133266)
(22)【出願日】2013年6月26日
(65)【公開番号】特開2015-8238(P2015-8238A)
(43)【公開日】2015年1月15日
【審査請求日】2015年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】栗田 直幸
【審査官】
池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭52−049416(JP,A)
【文献】
特開昭58−070511(JP,A)
【文献】
特開昭52−058818(JP,A)
【文献】
特開昭49−121124(JP,A)
【文献】
特開昭61−248508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/25
H01F 27/24
H01F 30/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄帯状磁性材料を巻回した2つの隣接する内鉄心と、これら2つの内鉄心の外周を覆うように薄帯状磁性材料を巻回した外鉄心とを備えた静止電磁機器用三相巻鉄心において、
前記内鉄心と前記外鉄心とは、前記内鉄心の薄帯磁性材料の幅よりも前記外鉄心の薄帯磁性材料の幅が狭く、かつ前記内鉄心と前記外鉄心とが同じ巻厚に巻回されることにより、前記外鉄心の断面積が前記内鉄心の断面積よりも小さく、
一つの磁脚を構成する前記内鉄心と前記外鉄心との断面積の差の、両鉄心の断面積の和に対する百分率が40%以下であることを特徴とする静止電磁機器用三相巻鉄心。
【請求項2】
請求項1に記載の静止電磁機器用三相巻鉄心において、
前記外鉄心の薄帯状磁性材料の最内周の幅を上記内鉄心と同一とし、最外周に向かって小さくなるように構成したことを特徴とする静止電磁機器用三相巻鉄心。
【請求項3】
請求項2に記載の静止電磁機器用三相巻鉄心において、
前記外鉄心の薄帯状磁性材料の幅を連続的に小さくし、断面を台形状としたことを特徴とする静止電磁機器用巻鉄心。
【請求項4】
請求項2に記載の静止電磁機器用三相巻鉄心において、
前記外鉄心の薄帯状磁性材料の幅を内周から外周に向かって複数の段階に分けて小さくしたことを特徴とする静止電磁機器用三相巻鉄心。
【請求項5】
請求項1に記載の静止電磁機器用三相巻鉄心において、
前記薄帯状磁性材料は、珪素鋼板、アモルファス磁性薄帯又はナノ結晶磁性薄帯のいずれかにより構成されていることを特徴とする静止電磁機器用三相巻鉄心。
【請求項6】
請求項1に記載の静止電磁機器用三相巻鉄心の3本の磁脚に、それぞれ三相の1次コイルおよび2次コイルを巻回して構成されたことを特徴とする三相変圧器。
【請求項7】
請求項1に記載の静止電磁機器用三相巻鉄心の3本の磁脚に、それぞれ三相のコイルを巻回して構成されたことを特徴とする三相リアクトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多相変圧器、およびリアクトル用鉄心に関し、特に、極薄電磁鋼板、アモルファス、ナノ結晶合金等の磁性薄帯による巻鉄心を組み合わせて構成される多相鉄心の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
極薄電磁鋼板、アモルファス、ナノ結晶合金等の低損失磁性材料は、材料内に流れる渦電流による損失を抑制するため、その厚さが100μm以下の薄帯状である。それらの材料を用いる変圧器、リアクトル等の静止電磁機器用の鉄心は、それらの材料を略円形、あるいは略矩形に多数回巻回した巻鉄心を組み合わせて構成される。
【0003】
従来、巻鉄心により構成された三相鉄心として、特開昭61−248508号公報(特許文献1)に記載された変圧器用鉄心が知られている。この変圧器用鉄心では、方向性珪素鋼板を略矩形環状に巻回してなる2つの内部鉄心を備え、この2つの内部鉄心によって構成される4つの脚部の内の隣接する2つの脚部が接合されて中央脚(中央の磁脚)を構成している。2つの内部鉄心の外周囲には方向性珪素鋼板が巻回されることにより外部鉄心が構成されている。外部鉄心の2つの脚部はそれぞれ隣接する内側鉄心の脚部と組み合わされて、一方の脚部の組み合わせは外側の磁脚となるM座脚を構成し、他方の脚部の組み合わせは外側の磁脚となるT座脚を構成している。内部鉄心の断面積はM座脚及びT座脚の必要断面積の略70%に設定され、外部鉄心の断面積はM座脚及びT座脚の必要断面積の略30%に設定されている。このとき、M座脚及びT座脚の各断面積を100とすると、中央脚の断面積は140となり、中央脚の断面積がM座脚及びT座脚の各断面積の1.4倍になっている。また、珪素鋼板の幅を同一にし、巻厚を変化させることにより、外部鉄心の断面積を内部鉄心の断面積よりも小さくしている。(第2頁右上欄乃至同頁左下欄参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−248508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、外側の磁脚となるM座脚及びT座脚において必要断面積を確保し、さらに外部鉄心の断面積を内部鉄心の断面積よりも小さくするために、外部鉄心の巻厚を内部鉄心の巻厚よりも薄くしている。この場合、中央脚を構成する2つの内側鉄心の脚部で巻厚が厚くなっており、結果として、2つの内部鉄心の並び方向の寸法が大きくなる。巻鉄心を適用する製品によっては、2つの内部鉄心の並び方向の寸法が大きくなることにより、各鉄心の電極間隔が大きくなり、電極への配線長さが長くなることにより、電圧降下や損失が増加するものがある。
【0006】
本発明の目的は、各鉄心の電極間隔を小さくして、電極配線に生じる電圧降下や損失を低減することができる静止電磁機器用巻鉄心を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の静止電磁機器用巻鉄心は、薄帯状磁性材料を巻いた2つの隣接する内鉄心と、これらの内鉄心の外周を覆う外鉄心とからなる三相巻鉄心において、薄帯状磁性材料の幅を変えることにより、外鉄心の断面積を内鉄心の断面積よりも小さくする。外鉄心の断面積を内鉄心の断面積よりも小さくする場合、
内鉄心と外鉄心とが同じ巻厚に巻回し、内鉄心の断面積を従来の状態より一定量大きくし、外鉄心の断面積を同じ量だけ小さくするようにするとよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、各鉄心の電極間隔を小さくして、電極配線に生じる電圧降下や損失を低減した静止電磁機器用巻鉄心を提供することができる。また、三相巻鉄心からなる三相変圧器にあっては無負荷損失が低減され、三相変圧器が接続された変電、配電設備における電力損失を低減することができる。また、三相巻鉄心からなる三相リアクトルにあっては鉄損が低減され、三相リアクトルを用いる電力変換機器の変換効率を改善することが可能になる。
【0009】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施例における三相巻鉄心の斜視図である。
【
図3】従来例と本発明の第1の実施例とを比較する三相巻鉄心の断面図である。
【
図4A】従来の巻鉄心内の磁束密度振幅のグラフである。
【
図4B】本発明の第1の実施例における巻鉄心内の磁束密度振幅のグラフである。
【
図5】本発明の第1の実施例における、鉄心の断面積のシフト量Asと鉄心の無負荷損失の関係を示したグラフである。
【
図6】本発明の第1の実施例における、鉄心の断面積のシフト量Asと、鉄心の無負荷損失とコイルの負荷損失との合計値との関係を示したグラフである。
【
図7】本発明の第2の実施例における三相巻鉄心の断面図である。
【
図8】本発明の第3の実施例における三相巻鉄心の断面図である。
【
図9】本発明の第4の実施例における三相巻鉄心の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施例を、図面を用いて説明する。
【0012】
[実施例1]
図1および
図3(b)は、本発明の第1の実施例による三相巻鉄心を示す。
図3(a)に示す従来の三相巻鉄心は、略同一の幅を持つ薄帯状磁性材料を巻回して、2つの内鉄心と1つの外鉄心とを作る。そして、2つの内鉄心と1つの外鉄心とを組み合わせて三相巻鉄心を構成する。これに対して本実施例では、
図1に示すように、内鉄心2の幅を一定量大きくし、外鉄心1の幅を内鉄心2の幅を大きくしたのと同じ量だけ小さくする構成をとる。
【0013】
本実施例の構成を、鉄心の断面図を示した
図3を用いて説明する。
図3は、
図2において、線X−X’に沿って切断した図である。なお、
図2は、従来の巻鉄心の構成を示す平面図である。鉄心の寸法について、高さ方向H、幅方向W及び厚さ方向aを
図2のように定義する。なお、鉄心の厚さ方向aは
図2の紙面に対して垂直方向である。
【0014】
図3(a)は、従来の巻鉄心の断面を示している。
図3(a)では、磁性材料の幅は内鉄心200、外鉄心100とも同一の値aであり、巻厚はb/2である。磁性材料の幅がaであることにより、鉄心の厚さがaとなる。各磁脚は内鉄心200と外鉄心100とを組み合わせて構成されるため、その幾何断面積はa・bと表される。図に破線で示したのは三相コイルであり、300a,300b,300cがそれぞれU相,V相,W相のコイルに相当する。三相変圧器では、巻鉄心の3本の磁脚に、それぞれ三相の1次コイルおよび2次コイルが巻回される。
【0015】
図3(b)に示した本実施例では、
図3(a)の従来の構成に対して、内鉄心2の薄帯の幅を両側に長さDだけ延長し、外鉄心1の薄帯の幅を両側に長さDだけ縮小する。その結果、両端のU相およびW相の磁脚の断面積は従来例と同一であるが、中央のV相の磁脚の断面積は従来例より2Dbだけ大きくなる。
【0016】
次に、本実施例の効果についての計算結果を、
図2,
図4,
図5,
図6(a)を使って説明する。
図2に示した従来の三相巻鉄心において、鉄心の幅をW、高さをH、薄帯の幅をa、巻鉄心の巻厚をb/2とする。また、鉄心の窓の高さをWa、幅をWbとおく。上記の各寸法、および1次,2次コイルの巻数、1次側,2次側の電流,電圧の条件を表1のように置いてシミュレーションを行い、鉄心の磁束密度分布と無負荷損とコイルで発生する負荷損とを求めた。鉄心材は、ZDMH(23P80)珪素鋼板の特性を仮定した。
【0018】
上記のパラメータを用いた三相変圧器において、
図2に明示した点A,点Bにおける磁束密度の位相変化の計算結果を
図4A、
図4Bに示す。2つの点A,BはそれぞれU相とV相を結ぶヨーク部分の、内鉄心と外鉄心の中心点である。
図4Aに示したのは従来例の三相巻鉄心を用いた変圧器、
図4Bに示したのは本実施例において、D=40mmと置いた場合の三相巻鉄心を変圧器における結果である。ともに内鉄心と外鉄心で発生する磁束密度の強度には位相差がある。その最大振幅は、従来例では±1.72T、本実施例では±1.66Tである。本実施例を適用した三相変圧器の磁束密度振幅が減少しており、その分、鉄心で発生する無負荷損失が減少する。
【0019】
図5は、内鉄心と外鉄心の薄帯の幅の変化量と、三相変圧器の無負荷損失の変化量の相関を計算した結果である。ここでは内鉄心と外鉄心の断面積の差の百分率をAsと定義し、図の横軸に用いている。Asは、従来例の鉄心の幅aと薄帯の幅の変化量Dとを用いて、
As=2D/a×100 [%]
と表される。As=0%は従来例の巻鉄心を、As=100%は外鉄心が存在せず、内鉄心を2つ隣接させたのみの三相巻鉄心であることを意味する。無負荷損失はAsの増加に伴い減少し、Asが60%以上でほぼ一定となる。
【0020】
本実施例では、三相巻鉄心のV脚の断面積を大きくするため、V相コイル3bの周長が長くなる。また、U相コイル3a,W相コイル3cも内鉄心2の幅が大きくなり、外鉄心1の幅が小さくなるため、その形状が
図3(b)に一点鎖線で示したように略五
角形となって周長が長くなる。よってその分コイルで発生する負荷損失が増加する。
図6には、上記のAsと、本実施例の三相変圧器の無負荷損失と負荷損失との合計値の変化量である全損失比の相関を、変圧器の負荷率が100%,50%,40%,25%の4通りの場合について図示している。全損失比が従来例に比べて減少するのは、負荷率が50%以下、かつAsがおおむね40%以下の領域である。これを超える領域においては、コイルで発生する負荷損失の増加量が、鉄心で発生する無負荷損失の減少量を上回るため、全損失が増加する。よって本実施例は、負荷率が50%以下、Asがおおむね40%以下の領域において適用するのが好適である。なお、三相変圧器の平均負荷率が40%を下回る事例においては、Asの値を40%以上に設定しても、全損失が減少する効果が得られる。
【0021】
[実施例2]
図7は、本発明の第2の実施例を示す。
図7は従来の三相巻鉄心を示した
図2の線X−X’に沿って切断した図に対応する図である。本実施例では、内鉄心2の薄帯の幅を従来例のaより両側にDずつ広げてa+2Dとしている。また、外鉄心1の薄帯の幅を連続して変化させ、最内周の幅がa+2D、最外周の幅がa−6Dの台形状とする。この結果、両側のU相およびW相の内鉄心と外鉄心を合わせた磁脚の断面積は、従来例と同一のa・bとなり、実施例1と同様の効果が得られる。
【0022】
[実施例3]
図8は、本発明の第3の実施例を示す。
図8は従来の三相巻鉄心を示した
図2の線X−X’に沿って切断した図に対応する図である。本実施例では、内鉄心2の薄帯の幅を従来例のaより両側にDずつ広げてa+2Dとしている。また、外鉄心1の薄帯の幅を2種類用意し、図に示す如く段状に巻いて構成している。図に点線で示したのは実施例2に記載の台形状に構成した外鉄心1の形状であり、本実施例では、外鉄心1の断面積をこの台形と同一となるように構成する。その結果、両側のU相およびW相の磁脚の断面積は従来例と同一のa・bとなり、実施例1及び実施例2と同様の効果が得られる。
図8には、外鉄心1の薄帯の幅が2種類の場合について示しているが、3種類以上の幅の薄帯を用意し、段状に巻いて構成してもよい。
【0023】
[参照例1]
図9は、本発明の
参照例を示す。
図9は従来の三相巻鉄心を示した
図2の線X−X’に沿って切断した図に対応する図である。本
参照例では、内鉄心2の薄帯の幅を従来例のaより両側にDずつ広げてa+2Dとしている。また、巻厚を従来例のb/2よりdだけ大きくして、V相の磁脚の幅をb+2dとする。また、外鉄心1の薄帯の幅を従来例のaより両側にDずつ小さくして幅をa−2Dとし、かつ巻厚を従来例のb/2よりdだけ小さくする。すると、U相およびW相の磁脚の断面積は従来例と同一であり、実施例1から実施例3と同様の効果が得られる。
【0024】
上述した本実施例
及び参照例に係る静止電磁機器用巻鉄心は、薄帯状磁性材料を巻いた2つの隣接する内鉄心と、これらの内鉄心の外周を覆う外鉄心からなる三相巻鉄心において、2つの内鉄心の断面積を従来の状態より一定量大きくし、外鉄心の断面積を同じ量だけ小さくしたものである。
【0025】
また、薄帯状磁性材料の幅を変えることにより、外鉄心1の断面積を内鉄心2の断面積よりも小さくしている。これにより、鉄心の幅方向の寸法Wの増加を抑え、各鉄心の電極間隔を小さくすることができる。そして、電極配線に生じる電圧降下や損失を低減した静止電磁機器用巻鉄心を提供することができる。特に変圧器においては、鉄心の幅方向の寸法Wの増加により、各鉄心の電極間隔が大きくなる傾向がある。
【0026】
また、静止電磁機器用巻鉄心はもともと幅寸法の方が厚み寸法よりも大きい。そのため、鉄心の幅寸法を大きくするよりも厚み寸法を大きくすることにより、設置したときの安定性が向上する。
【0027】
なお、本発明は上記した各実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0028】
上記のすべての実施例は,該巻鉄心を三相変圧器用の鉄心として適用する場合を想定しているが,三相リアクトル用鉄心に適用しても,磁脚の断面積を適切に変更することにより全損失が減少し,本発明の効果が同様に得られる。
【0029】
上記の薄帯状磁性材料としは、珪素鋼板、アモルファス磁性薄帯、又はナノ結晶磁性薄帯を用いることができる。
【符号の説明】
【0030】
1…外鉄心、2…内鉄心、3a…U相コイル、3b…V相コイル、3c…W相コイル。