(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術は、一連の転換動作におけるトルクのピークが、上限値及び下限値が定められた許容範囲内の場合に正常と判定し、許容範囲外の場合に異常と判定するものである。異常の要因としては、上限値を超えた場合を異物介在、下限値を下回った場合を構成部品の摩耗又は脱落としている。
【0005】
しかしながら、転換動作の異常の要因には、その他にも、分岐負荷の上昇、過密着或いは低密着、環境温度変化に伴うグリス等の内部抵抗の増加、電気回路の断線或いは短絡等による異常、などの様々な要因がある。そのため、特許文献1の技術のように、単にトルクのピークが正常範囲内だからといって、転換動作に異常が生じていないと保証することはできない。要因によっては、トルクのピークが正常であったとしても、異常の可能性もあるからである。また、トルクのピークが上限値を超えた要因を、画一的に異物介在と決めつけることもできない。そこで、要因別の異常の判定ができれば、有意な転換異常判定となり得る。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みて考案されたものであり、その目的とするところは、サーボモータを用いた転てつ機の転換動作の異常及びその要因を判定可能とする技術の実現にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の発明は、
定回転数制御によるサーボモータ(例えば、
図1のサーボモータ12)の駆動力によって転換動作を行う転てつ機の一連の転換動作に係る転換トルクデータを取得するデータ取得手段(例えば、
図1のトルクデータ取得部210)と、
一連の転換動作における解錠工程、転換工程及び鎖錠工程それぞれの工程での最大トルクを前記転換トルクデータから抽出する最大トルク抽出手段(例えば、
図1のピーク解析部221)と、
前記工程それぞれの最大トルクが、前記工程それぞれにおける最大トルクの通常分布範囲内か否かを少なくとも用いて、前記転てつ機の転換異常及びその要因を判定する判定手段(例えば、
図1の転換異常要因判定部230)と、
を備えた転換異常判定解析装置である。
【0008】
また、他の発明として、
コンピュータを、
定回転数制御によるサーボモータの駆動力によって転換動作を行う転てつ機の一連の転換動作に係る転換トルクデータを取得するデータ取得手段、
一連の転換動作における解錠工程、転換工程及び鎖錠工程それぞれの工程での最大トルクを前記転換トルクデータから抽出する最大トルク抽出手段、
前記工程それぞれの最大トルクが、前記工程それぞれにおける最大トルクの通常分布範囲内か否かを少なくとも用いて、前記転てつ機の転換異常及びその要因を判定する判定手段、
として機能させるためのプログラム(例えば、
図1の転換異常要因判定部230)を構成することとしてもよい。
【0009】
この第1の発明等によれば、転てつ機の転換異常及びその要因を判定することができる。すなわち、一連の転換動作における解錠工程、転換工程及び鎖錠工程それぞれの工程での最大トルクが、それぞれの工程における最大トルクの通常分布範囲内か否かを少なくとも用いて、転換異常及びその要因を判定する。転換異常の要因によってトルクの異常が表れる工程が異なるため、要因別に転換異常か否かを判定することができる。
【0010】
また、第2の発明として、第1の発明において、
前記判定手段により正常と判定された前記転換トルクデータを蓄積記憶する記憶手段(例えば、
図1の累積トルクデータ330)と、
前記蓄積記憶された前記転換トルクデータに基づいて、前記工程それぞれの前記通常分布範囲を決定する通常分布範囲決定手段(例えば、
図1の転換異常要因判定部230)と、
を更に備えた転換異常判定解析装置を構成することとしてもよい。
【0011】
この第2の発明によれば、正常と判定された転換トルクデータを蓄積記憶し、次回以降の判定基準のデータに利用することができる。第1の発明によれば、各種の要因に応じた転換異常の判定を行うことができる。そのため、正常と判定された場合には、それらの要因全てに対応する異常が無いとして、以降の判定基準のデータとすることができるのが第2の発明である。
【0012】
また、第3の発明として、第2の発明において、
前記蓄積記憶された前記転換トルクデータに基づいて、平均トルクカーブを算出する平均トルクカーブ算出手段(例えば、
図1の近似度解析部222)を更に備え、
前記判定手段は、前記データ取得手段により取得された転換トルクデータのトルクカーブと前記平均トルクカーブとの近似度を算出する近似度算出手段(例えば、
図1の近似度解析部222)を有し、当該算出した近似度を更に用いて、前記転てつ機の転換異常及びその要因を判定する、
転換異常判定解析装置を構成することとしてもよい。
【0013】
この第3の発明によれば、かつて正常と判定された転換トルクデータの平均トルクカーブが算出され、この平均トルクカードと、判定対象の転換トルクデータとの近似度が算出される。そして、その近似度を用いて、転換異常及びその要因が判定される。転換異常の要因によっては、突発的にトルクが異常値となるのではなく、転換動作の全体に亘ってトルクが異常となる場合がある。この場合にも、転換異常であることを判定できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[機能構成]
図1は、本実施形態の転換異常判定装置1の機能構成である。この転換異常判定装置1は、例えば機器室に設置され、電気転てつ機(以下、単に「転てつ機」という)10と通信接続されており、転てつ機10から各種信号(動作電流や負荷トルク、転換状態、転換方向など)を受信して転てつ機10の状態をモニターする。また、転てつ機10の転換動作時の負荷トルクから転換異常が発生しているか否かを判定するとともに、その転換異常要因を判定する。転てつ機10は、ポイント転換の駆動源としてサーボモータ12を備え、サーボモータ12は、動作電流を制御することで回転数を一定とする定回転数制御がなされる。つまり、サーボモータ12の動作電流から負荷トルクが求められる。なお、サーボモータ12が負荷トルクの値を出力する場合には、動作電流から負荷トルクを算出する処理は省略できる。また、サーボモータ12は定回転数で作動するため、回転数や回転角度から動作かんのストローク位置(転換位置)を求めることができる。
【0016】
図1に示すように、転換異常判定装置1は、操作部110と、表示部120と、音声出力部130と、通信部140と、処理部200と、記憶部300とを備えて構成されるコンピュータシステムである。
【0017】
操作部110は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等で実現される入力装置であり、操作入力に応じた入力信号を処理部200に出力する。表示部120は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)やELD(Electro-Luminescence Display)等で実現される表示装置であり、処理部200からの表示信号に基づく各種画面表示を行う。音声出力部130は、例えばスピーカ等で実現される音声出力装置であり、処理部200からの音声信号に基づく各種音声出力を行う。通信部140は、例えば無線通信モジュールやルータ、モデム、有線用の通信ケーブルのジャックや制御回路で実現される通信装置であり、外部機器との間で所定のデータ通信を行う。
【0018】
処理部200は、例えばCPU(Central Processing Unit)等の演算装置で実現され、記憶部300に記憶されたプログラムやデータ等に基づいて、転換異常判定装置1の全体制御を行う。また、処理部200は、トルクデータ取得部210と、トルクデータ解析部220と、転換異常要因判定部230とを有し、転換異常判定プログラム310に従った転換異常判定処理(
図9参照)を行う。
【0019】
トルクデータ取得部210は、転てつ機10の1回の転換動作に係る転換トルクデータを取得する。具体的には、転てつ機10のサーボモータ12の動作電流から負荷トルクを算出するとともに、サーボモータ12の回転数から動作かんのストローク位置(転換位置)を算出する。そして、各ストローク位置における負荷トルクの変化を示す転換トルクデータを生成する。
【0020】
図2は、転換トルクデータの一例である。
図2では、横軸を時刻t、縦軸を負荷トルクTとして、1回の転換動作におけるトルクカーブ(トルク波形)を示している。なお、サーボモータ12は定回転数制御で作動するため、転換開始からの経過時間(時刻t)はストローク位置(転換位置)を示す。理解の容易さを考慮して、以下においては、ストローク位置の代わりに、適宜、時刻tを用いて図示・説明する。また、本実施形態では、ストローク位置を、解錠工程(前半)、転換工程(中半)、及び、鎖錠工程(後半)の3つの工程範囲に分割して解析することを特徴の1つとしている。
【0021】
トルクデータ解析部220は、ピーク解析部221と、近似度解析部222と、変化量解析部223とを有し、トルクデータ取得部210によって取得された転換トルクデータに対する解析を行う。
【0022】
ピーク解析部221は、転換トルクデータのピーク値を算出する「ピーク解析」を行う。すなわち、
図2に示すように、転換トルクデータにおける3つの工程範囲(解錠/転換/鎖錠)それぞれにおける負荷トルクの最大値を、該当する工程範囲におけるピークPとする。
【0023】
近似度解析部222は、転換トルクデータと、平均トルクデータとの近似度(相関値)を算出する「近似度解析」を行う。平均トルクデータは、過去の正常な(すなわち、転換異常が発生していない)複数の転換トルクデータを平均化したトルクデータである。具体的には、過去の正常な転換トルクデータの集合である累積トルクデータ330のうちから、転換トルクデータと転てつ機、及び、転換方向が同じデータを抽出する。
【0024】
次いで、
図3に示すように、抽出した複数(N個)の累積トルクデータ330それぞれに対して、各時刻tにおけるトルクTi(t)の平均値を算出して平均トルクデータとする。そして、
図4に示すように、転換開始時刻t
0を合わせて、解析対象の転換トルクデータと平均トルクデータとのトルクの差異を求めることで、近似度を算出する。このとき、3つの工程範囲それぞれについて近似度を求める。近似度の算出は、例えば式(1)に従って算出する。
【数1】
すなわち、時刻tにおけるトルクTi(t)と平均トルクTa(t)との二乗平均平方根を工程範囲Rに亘って時間平均した値を、当該工程範囲における転換トルクデータと平均トルクデータとの近似度Dとする。
【0025】
変化量解析部223は、転換トルクデータにおける急激なトルク変化を算出する「変化量解析」を行う。すなわち、
図5に示すように、転換トルクデータにおいて、所定の短時間間隔Δt(0.05秒程度)における負荷トルクの変化量ΔTを算出し、これらのうちから最大のものを最大変化量とする。また、全期間における負荷トルクの最大値Tmを求める「最大トルク解析」を行う。なお、最大トルク解析は、ピーク解析部221が、各工程範囲のピークPの中から最大値を選択することで行ってもよい。
【0026】
転換異常要因判定部230は、トルクデータ解析部220による転換トルクデータの解析結果をもとに、転てつ機10の転換異常の有無を判定するとともに、異常有りと判定した場合には、転換異常要因を判定する。具体的には、転換異常要因テーブル320を参照して、4種類の解析項目(ピーク解析、近似度解析、変化量解析、及び、最大トルク解析)それぞれの解析結果が転換異常と判定する条件である異常判定条件を満たすか否かを判定し、これらの判定結果の組み合わせによって、転てつ機10の転換異常の有無、及び、異常要因を判定する。
【0027】
図6は、転換異常要因テーブル320のデータ構成の一例を示す図である。
図6に示すように、転換異常要因テーブル320は、4つの解析項目321それぞれに、異常判定条件322と、転換異常要因323とを対応付けて格納している。転てつ機10における転換動作の異常の要因には、異物の介在、分岐負荷の上昇、過密着或いは低密着、環境温度変化に伴うグリス等の内部抵抗の増加、電気回路の断線或いは短絡等などの様々な要因がある。
【0028】
経験的に、生じた要因の種類によって転換トルクカーブの変化が異なることが知られており、この転換トルクカーブの特徴から生じている転換異常の要因が推定可能である。
【0029】
まず、「ピーク解析」の解析結果を用いた異常判定は、ピーク解析結果である3つの
工程範囲それぞれのピークPのうち、1つ以上のピークがピーク通常分布範囲外ならば、異常判定条件を満たすと判定する。
【0030】
ピーク通常分布範囲は、正常な転換トルクデータにおけるピークPの分布範囲であり、累積トルクデータ330を参照して生成する。すなわち、累積トルクデータ330のうちから、転換トルクデータと転てつ機、及び、転換方向が同じデータを抽出する。次いで、
図7に示すように、抽出したこれらの累積トルクデータ330それぞれのピーク解析結果として得られている
工程範囲それぞれのピークPを、転換トルクデータを定義する座標平面上にプロットする。そして、プロットしたこれらのピークPの集合を含むようにピーク通常分布範囲Eを定める。3つの
工程範囲それぞれのピークPのうち、1つ以上のピークがこのピーク通常分布範囲E外ならば、異常判定条件を満たすと判定する。
【0031】
「近似度解析」の解析結果を用いた異常判定は、近似度解析結果である3つの
工程範囲それぞれの近似度のうち、1つ以上の近似度が、転換トルクデータと平均トルクデータとのトルクカーブの“差が大きい”とみなす所定の閾値以上ならば、異常判定条件を満たすと判定する。
【0032】
「変化量解析」の解析結果を用いた異常判定は、変化量解析結果である最大変化量が、トルクカーブが急激な変化をしているとみなす所定の閾値以上であるならば、異常判定条件を満たすと判定する。
【0033】
「最大トルク解析」の解析結果を用いた異常判定は、最大トルク解析の解析結果である最大トルク値が所定のトルク限界値以上であるならば、異常判定条件を満たすと判定する。
【0034】
そして、これらの解析項目のうち、1つ以上の解析項目について異常判定条件を満たすならば、転換異常有りと判定する。転換異常有りと判定した場合には、異常判定条件を満たした解析項目の組み合わせ等をもとに、転換異常要因を判定する。また、3つの
工程範囲のうちの何れの
工程範囲において異常判定条件が満たされたのかを判定して、一連の転換動作のどの過程で転換異常が発生したかを推定する。
【0035】
トルクデータ管理部240は、取得された転換トルクデータの管理を行う。すなわち、転換異常要因判定部230によって転換異常無しと判定された場合に、転換トルクデータを、対応する転てつ機の識別情報である転てつ機IDや転換方向、取得日時、当該転換トルクデータに対するトルクデータ解析部220による解析結果と対応付けて、新たな累積トルクデータ330として蓄積記憶する。
【0036】
図8は、累積トルクデータ330のデータ構成の一例を示す図である。
図8によれば、累積トルクデータ330は、転換トルクデータ毎に生成され、データID331と、転てつ機ID332と、転換方向333と、転換トルクデータ334と、解析結果データ335とを格納している。
【0037】
解析結果データ335は、解析項目それぞれに、解析結果を対応付けて格納している。
【0038】
記憶部300は、処理部200が転換異常判定装置1を統合的に制御するための諸機能を実現するためのシステムプログラムや、本実施形態を実現するためのプログラムやデータ等を記憶するとともに、処理部200の作業領域として用いられ、操作部110からの操作データ等が一時的に格納される。本実施形態では、記憶部300には、転換異常判定プログラム310と、転換異常要因テーブル320と、累積トルクデータ330とが記憶される。
【0039】
[処理の流れ]
図9は、転換異常判定処理の流れを説明するフローチャートである。転換異常判定処理は、処理部200が転換異常判定プログラム310を実行することで実現される。先ず、トルクデータ取得部210が、転てつ機10から転換トルクデータを取得する(ステップS1)。次いで、トルクデータ解析部220が、取得された転換トルクデータに対する解析処理を行う。すなわち、ピーク解析部221が、転換トルクデータにおける工程範囲それぞれのトルクの最大値(ピーク)を算出する「ピーク解析」を行う(ステップS3)。また、近似度解析部222が、累積トルクデータ330に基づいて、過去の正常な転換データを平均化した平均トルクデータを算出する(ステップS5)。そして、工程範囲それぞれについて、転換トルクデータと平均トルクデータとの近似度を算出する「近似度解析」を行う(ステップS7)。また、変化量解析部223が、転換トルクデータにおける最大変化量及び最大トルクを算出する「変化量解析」及び「最大トルク解析」を行う(ステップS9)。
【0040】
続いて、転換異常要因判定部230が、解析結果に基づく転換異常の判定処理を行う。すなわち、ピーク解析部221が、正常時の転換トルクデータである累積トルクデータ330をもとに、ピーク通常分布範囲Eを算出する(ステップS11)。そして、ピーク解析、近似度解析、変化量解析、及び、最大トルク解析のそれぞれの解析結果が、転換異常要因テーブル320で定められる異常判定条件を満たすか否かによって、転換異常の有無を判定する(ステップS13)。
【0041】
その結果、転換異常有りと判定したならば(ステップS15:YES)、転換異常要因テーブル320を参照して、異常判定条件を満たした解析条件の組み合わせ等に基づいて、転換異常要因を判定し(ステップS17)、転換異常が発生した箇所を特定する(ステップS19)。また、転換異常無しと判定したならば(ステップS15:NO)、転換トルクデータを、解析結果とともに、新たな累積トルクデータ330として追加記憶する(ステップS23)。
【0042】
そして、異常の有無や、異常要因、異常箇所といった転換異常判定結果を、例えば表示部120に表示出力する(ステップS21)。以上の処理を行うと、本処理を終了する。
【0043】
[作用効果]
このように、本実施形態の転換異常判定装置1によれば、転てつ機10から取得した転換トルクデータに対する解析として、ピーク解析、近似度解析、変化量解析、最大トルク解析といった複数の解析を行い、これらの解析結果によって、転換異常の有無やその要因を判定することができる。特に、本実施形態では、一連の転換動作における解錠工程、転換工程及び鎖錠工程それぞれの工程でのトルクのピーク値が、それぞれの工程におけるピーク通常分布範囲内か否かを用いて、転換異常及びその要因を判定する。転換異常の要因によってトルクの異常が表れる工程が異なるため、要因別に転換異常か否かを判定することができる。
【0044】
なお、本発明の適用可能な実施形態がこれに限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。例えば、上述した負荷トルクを、所定の最大トルクに対する負荷トルクとする負荷トルク率に置き換えてもよく、負荷トルクとするか、負荷トルク率とするかは均等の範囲である。