(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6184775
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】内視鏡レンズ面の汚れ除去装置
(51)【国際特許分類】
A61B 1/12 20060101AFI20170814BHJP
A61B 1/018 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
A61B1/12 530
A61B1/018 515
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-140465(P2013-140465)
(22)【出願日】2013年7月4日
(65)【公開番号】特開2015-12947(P2015-12947A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2016年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】803000056
【氏名又は名称】公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 邦弘
(72)【発明者】
【氏名】堀 伸一郎
【審査官】
▲高▼ 芳徳
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−004938(JP,A)
【文献】
特開昭62−254742(JP,A)
【文献】
特開平07−194432(JP,A)
【文献】
特開2006−051057(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3129665(JP,U)
【文献】
特開2004−033712(JP,A)
【文献】
特開昭53−094474(JP,A)
【文献】
特開平05−207962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00 − 1/32
G02B 23/24 − 23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡の処置具用チャンネルに進退自在に挿通される、先端部近傍に開口窓を有するシースと、
前記シース内に進退自在に挿通される、可撓性を有する長尺状のワイヤと、
前記ワイヤを軸線方向に進退操作できる、前記ワイヤの基端部に設けられたハンドルと、
前記ワイヤの軸の垂直方向から前記ワイヤの基端部方向に向けて傾斜して延出している、前記ワイヤの先端部近傍に設けられたブラシと、を備え、
前記ハンドルにて前記ワイヤを軸線方向に進行操作することにより、前記ブラシを前記開口窓から露呈させ、前記ハンドルにて前記ワイヤを軸線方向に後退操作することにより、前記開口窓から露呈したブラシを前記内視鏡のレンズ面に当接させて、前記レンズ面に付着した汚れを除去することを特徴とする内視鏡レンズ面の汚れ除去装置。
【請求項2】
洗浄液を含有する多孔性を有する弾力性復元部材が、シース内部の、前記開口窓よりも先端部側に設けられており、
前記ハンドルにて前記ワイヤを軸線方向に進行操作することにより、前記ワイヤの先端部を前記弾力性復元部材に押圧させて前記弾力性復元部材から前記洗浄液を染み出させ、染み出した洗浄液を前記ブラシに付着させることを特徴とする請求項1に記載の内視鏡レンズ面の汚れ除去装置。
【請求項3】
洗浄液を含浸させた洗浄液保持材が、前記開口窓よりもシースの基端側で、シース内部に環状に設けられており、
前記ハンドルにて前記ワイヤを軸線方向に進行操作することにより、前記ブラシが前記洗浄液保持材に当接して前記ブラシに洗浄液が付着することを特徴とする請求項1に記載の内視鏡レンズ面の汚れ除去装置。
【請求項4】
前記シースには、管内部が閉じられている閉鎖部が前記開口窓よりも先端部側に設けられ、前記シースの先端部と前記閉鎖部との間には洗浄液が封入されており、
前記ハンドルにて前記ワイヤを軸線方向に進行操作することにより、前記ワイヤの先端部にて前記閉鎖部を破壊して、前記洗浄液を前記ブラシに付着させることを特徴とする請求項1に記載の内視鏡レンズ面の汚れ除去装置。
【請求項5】
前記ブラシは、前記ワイヤを挟持するようにその両側に一対配置されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の内視鏡レンズ面の汚れ除去装置。
【請求項6】
前記ブラシは、長手方向に沿って前記ワイヤの基端部側に凸状に湾曲していることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の内視鏡レンズ面の汚れ除去装置。
【請求項7】
前記開口窓は、前記シースの先端部側に頂点を有する略二等辺三角形の形状であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の内視鏡レンズ面の汚れ除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡のレンズ面に付着した汚れを除去する内視鏡レンズ面の汚れ除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
患者に与える苦痛を緩和し、簡易に体内を観察できるものとして内視鏡装置が知られている。内視鏡装置は、体内観察のみではなく、体内の試料入手も可能であり、癌の早期発見等の有効な手段とされている。
【0003】
この内視鏡レンズ面は患者の体液等が付着して汚れることがあり、特に粘膜下層剥離術では生体粘膜からの蒸気物質によって内視鏡レンズ面が曇ることが多く、かかる場合にあっては穿孔や出血等が発生する虞がある。
【0004】
この汚れを除去するため、特許文献1及び2には、内視鏡レンズ面に送水するノズルを備える内視鏡装置が記載されている。これらの特許文献によれば、ノズルから水を噴出して内視鏡レンズに付着した汚れを洗浄除去することにより、内視鏡レンズ面の視野を確保できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−210388号公報
【特許文献2】特開2011−245004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、現実的には、内視鏡レンズ面に付着した汚れは送水機能では十分に除去することが困難である。送水により残存した内視鏡レンズ面の汚れを除去するため、患者体内に挿入した内視鏡を抜去し、体外で内視鏡レンズ面をクリーニングしてその後に内視鏡を再挿入することも可能であるが、かかる場合にあっては患者及び術者の精神的及び肉体的負担が増大することになる。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、患者及び術者の負担を増大させること無く、簡易且つ的確に内視鏡レンズ面の汚れを除去することができる内視鏡レンズ面の汚れ除去装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる内視鏡レンズ面の汚れ除去装置は、内視鏡の処置具用チャンネルに進退自在に挿通される、先端部近傍に開口窓を有するシースと、前記シース内に進退自在に挿通される、可撓性を有する長尺状のワイヤと、前記ワイヤを軸線方向に進退操作できる、前記ワイヤの基端部に設けられたハンドルと、前記ワイヤの軸の垂直方向から前記ワイヤの基端部方向に向けて傾斜して延出している、前記ワイヤの先端部近傍に設けられたブラシと、を備え、前記ハンドルにて前記ワイヤを軸線方向に進行操作することにより、前記ブラシを前記開口窓から露呈させ、前記ハンドルにて前記ワイヤを軸線方向に後退操作することにより、前記開口窓から露呈したブラシを前記内視鏡のレンズ面に当接させて、前記レンズ面に付着した汚れを除去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、患者及び術者の負担を増大させること無く、簡易且つ的確に内視鏡レンズ面の汚れを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態1にかかる内視鏡レンズ面の汚れ除去装置の概要を説明する図である。
【
図3】ブラシを内視鏡のレンズ面に当接させている状態を説明する図である。
【
図4】実施形態2にかかる内視鏡レンズ面の汚れ除去装置を説明する図である。
【
図5】実施形態3にかかる内視鏡レンズ面の汚れ除去装置を説明する図である。
【
図6】患者の体液が付着して汚れたレンズ面を示す写真図である。
【
図7】内視鏡レンズ面の汚れ除去装置を使用してレンズ面の汚れを除去している状態を説明する図である。
【
図8】汚れが除去された後のレンズ面を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0012】
(実施形態1)
図1は、本実施形態にかかる内視鏡レンズ面の汚れ除去装置900の概要を説明する図である。内視鏡レンズ面の汚れ除去装置900は、
図1に示されるように、内視鏡の処置具用チャンネルに進退自在に挿通されるシース100と、シース100内に進退自在に挿通されるワイヤ200と、ワイヤ200を軸線方向に進退操作できるハンドル300と、ワイヤ200の先端部近傍に設けられたブラシ400と、を備える。
図1では、ワイヤ200の先端部は、開口窓110よりも、ワイヤ200の基端部側に位置している。
【0013】
シース100は、例えばフッ素樹脂チューブ又は密着巻きコイルパイプ等で形成されている。シース100の直径(外径)は例えば2〜4.2mm程度、全長は例えば1〜2m程度である。例えば、シース100の直径が2mmの場合は内視鏡が気管支鏡及び耳鼻科用内視鏡の場合に、2.8〜3.2mmの場合は内視鏡が汎用型上下部消化管内視鏡の場合に、3.7〜4.2mmの場合は内視鏡が処置用内視鏡の場合に、それぞれ使用される。シース100の先端部近傍には一対の開口窓110が設けられている。
【0014】
ワイヤ200は、長尺状で且つ可撓性を有している。ワイヤ200は、例えばステンレス鋼線の複数の素線を撚り合わせて形成された撚り線が使用される。
【0015】
ハンドル300は、ワイヤ200の基端部に設けられており、一対のリングがワイヤ200を挟持するように両側配置されて構成されている。
【0016】
ブラシ400は、可撓性のあるプラスチック製又はステンレス、プラチナ又はイリジウムを含有するプラチナ合金等の細い線材により形成されていて、これら多数本の細い線材を植毛して形成されている。
【0017】
図2は、シース100の先端部近傍を説明する図である。
図2では、ブラシ400が開口窓110から露呈している状態が記載されており、ブラシ400はワイヤ200を挟持するようにその両側に一対配置されている。このようにブラシ400が一対配置され、そのブラシ400の配置に対応するように開口窓110が一対設けられているから、シース100の開口窓110付近の強度を確保しつつ、ブラシ400の植毛形成の程度を多くすることができる。
【0018】
図2に示されるように、開口窓110は、シースの先端部側に頂点を有する略二等辺三角形の形状である。ブラシ400は、ワイヤ200の軸の垂直方向からワイヤ200の基端部方向に向けて傾斜して延出している。また、ブラシ400は、長手方向に沿ってワイヤ200の基端部側に凸状に湾曲している。
【0019】
次に、本実施形態にかかる内視鏡レンズ面の汚れ除去装置900の使用態様を説明する。
【0020】
図1に示された状態では、ワイヤ200の先端部は、開口窓110よりも、ワイヤ200の基端部側に位置しており、そのため、ワイヤ200の先端部近傍に設けられたブラシ400は、シース100内で折り畳まれている。
【0021】
次に、ハンドル300にてワイヤ200を軸線方向に進行操作させる。これにより
図2に示されるように、ブラシ400が開口窓110から露呈する。
【0022】
その後、ハンドル300にてワイヤ200を軸線方向に後退操作することにより、
図3に示されるように、開口窓110から露呈したブラシ400を内視鏡のレンズ面500に当接させる。これによりレンズ面500に付着した汚れ510を除去することができる。
【0023】
ブラシ400が上述したようにワイヤ200の基端部側に凸状に湾曲して形成されているから、ワイヤ200の頂点部のみならず芯線部がレンズ面500に当接し易くなり、その結果ブラシ400が汚れ510に当接する面積を大きくさせることができる。また、開口窓110が上述したように略二等辺三角形の形状であるから、ワイヤ200を後退操作させた際に、ブラシ400が広がった状態で汚れ510に当接し易くなる。
【0024】
以上、上述したように、本実施形態にかかる発明によれば、ブラシ400を汚れ510に当接させて直接的に除去するため、送水によるよりも効果的に除去することができる。また、患者体内に挿入した内視鏡を抜去することなく、内視鏡の処置具用チャンネルにシース100を挿通して、レンズ面500の汚れ510を除去できるので、患者及び術者の精神的及び肉体的負担が増大しにくい。
【0025】
(実施形態2)
実施形態2では、洗浄液を付加的使用して更に汚れ510を除去し易くする形態を説明する。
【0026】
図4は、実施形態2にかかる内視鏡レンズ面の汚れ除去装置900を説明する図である。
図4に示されるように、弾力性復元部材600がシース100の内部の
、開口窓110よりも先端
部側に設けられている。弾力性復元部材600は、洗浄液を含有する多孔性を有する弾力性復元部材である。
【0027】
洗浄液は、人体に有害では無く且つ患者の体液等の汚れに対して洗浄力を備えるものであるならば、特に限定されることなく使用することができ、例えば、n-アルキルベンゼンスルホネート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、エチルアルコール等を含有する洗浄液が好ましい。
【0028】
本実施形態にかかる内視鏡レンズ面の汚れ除去装置900は、ハンドル300にてワイヤ200を軸線方向に進行操作することにより、ワイヤ200の先端部を弾力性復元部材600に押圧させて使用する。これにより弾力性復元部材600から洗浄液を染み出させ、染み出した洗浄液をブラシ400に付着させる。洗浄液が付着したブラシ400により、レンズ面500に付着した汚れ510を効率的に除去することができる。
【0029】
(実施形態3)
実施形態3においても、実施形態2と同様に、洗浄液を付加的使用して更に汚れ510を除去し易くする形態を説明する。
【0030】
図5は、実施形態3にかかる内視鏡レンズ面の汚れ除去装置900を説明する図である。
図5に示されるように、洗浄液保持材700が、開口窓110よりもシースの基端側で、シース100内部に環状に設けられている。洗浄液保持材700は、洗浄液が含浸保持されて構成されているものであれば、特に限定なく使用することができ、例えば洗浄液が含浸された不織布等にて形成される。
【0031】
本実施形態にかかる内視鏡レンズ面の汚れ除去装置900は、ハンドル300にてワイヤ200を軸線方向に進行操作することにより、ブラシ400を洗浄液保持材700に当接させてブラシ400に洗浄液を付着させる。洗浄液が付着したブラシ400により、レンズ面500に付着した汚れ510を効率的に除去することができる。
【0032】
(その他の実施形態)
上述の実施形態2では、洗浄液を含有する弾力性復元部材600が、シース100の内部の先端側に設けられていたが、このような実施形態に限定されることなく、例えば、シース100の開口窓110よりも先端部側に、管内部が閉じられている閉鎖部を設けて、シース100の先端部と閉鎖部との間には洗浄液を封入することも可能である。かかる場合、ハンドル300にてワイヤ200を軸線方向に進行操作し、ワイヤ200の先端部にて閉鎖部を破壊し、洗浄液をブラシ400に付着させる。
【0033】
また、例えば、洗浄液そのものを、洗浄液の表面張力をもって、シース100の内部の先端側に位置させておくことも可能である。
【0034】
また、内視鏡下処置において、処置具のコントロールをサポートし、適切な視野を確保するために内視鏡の先端部に先端フードを取り付ける場合があるが、本発明によりこの先端フードの汚れを除去することも可能である。
【実施例】
【0035】
シース100としてオリンパスシステムメディカルのネット鉗子を使用した。ブラシ400として、大創産業の極盛りタイプのつけまつげを使用し、ワイヤ200の先端部近傍に瞬間接着剤にて取り付けた。ブラシ400の長さは15mmとした。シース100の先端部から20mm程度ワイヤの基端部方向に移動した位置に、二等辺三角形の形状の開口窓を一対形成した。
【0036】
このようにして作成した内視鏡レンズ面の汚れ除去装置900を使用して、患者の体液が付着して汚れたレンズ面500の洗浄を試みた。
図6は、患者の体液が付着して汚れたレンズ面を示す写真図であり、粘膜下層剥離術における生体粘膜からの蒸気物質によりレンズ面が曇っている状態が示されている。
【0037】
図7は、内視鏡レンズ面の汚れ除去装置を使用してレンズ面の汚れを除去している状態を説明する図である。
図7に示されるように、ハンドル300にてワイヤ200を軸線方向に進行操作及び後退操作を繰り返して、開口窓110から露呈したブラシ400を内視鏡のレンズ面500に当接させる動作を繰り返した。
【0038】
図8は、汚れが除去された後のレンズ面を示す写真図である。
図8に示されるように、本発明によれば、ブラシ400を内視鏡のレンズ面500に直接的に当接させるため、汚れを効果的に除去することができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0039】
内視鏡装置のレンズ面の汚れ除去に使用できる。
【符号の説明】
【0040】
100:シース
110:開口窓
200:ワイヤ
300:ハンドル
400:ブラシ
500:レンズ面
510:汚れ
600:弾力性復元部材
700:洗浄液保持材
900:内視鏡レンズ面の汚れ除去装置