(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の方法では、加工対象物への異常パルスの入射を回避するために、音響光学素子等の光路偏向器が必要とされる。音響光学素子を備えることは、レーザ加工装置の製造コストの増加につながる。本発明の目的は、製造コストの増加を抑制することができ、かつ不良パルスが加工対象物に入射することを回避することが可能なガスレーザ装置及びレーザ加工装置を提供することである。本発明の他の目的は、不良パルスの発生を回避することが可能なパルスレーザビーム出力方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によると、
無声放電励起方式のガスレーザと、
前記ガスレーザに励起用の高周波電圧を印加する電源と、
前記ガスレーザに流れる電流を測定する電流センサと、
前記電源から前記ガスレーザへの高周波電圧の印加を制御する制御装置と
を有し、
前記制御装置は、
前記ガスレーザに、レーザ発振が生じない短い期間だけ、高周波電圧の先行パルスを印加すると共に、前記先行パルスが印加されている期間に、前記電流センサで測定された電流測定値を取得し、
取得された電流測定値が許容範囲内に収まっているか否かを判定し、
取得された電流測定値が
前記許容範囲内に収まっている場合には、前記先行パルスの立ち下がり時点から、前記ガスレーザの上位レーザ準位の寿命が経過する前に、前記ガスレーザに高周波電圧の主パルスを印加してレーザ発振を生じさせ、
取得された電流測定値が
前記許容範囲の
下限値未満の場合には、前記先行パルスの立ち下がり時点から、前記ガスレーザの上位レーザ準位の寿命が経過するまでの時間、前記ガスレーザに高周波電圧を印加しないガスレーザ装置が提供される。
【0007】
本発明の他の観点によると、
無声放電励起方式のガスレーザに、レーザ発振が生じない短い期間だけ、高周波電圧の先行パルスを印加する工程と、
前記先行パルスが印加されている期間に、前記ガスレーザに流れる電流を測定して電流測定値を取得する工程と、
前記電流測定値が、許容範囲内に収まっているか否かを判定する工程と、
前記電流の測定値が、前記許容範囲内に収まっている場合には、前記先行パルスの立ち下がり時点から、前記ガスレーザの上位レーザ準位の寿命が経過する前に、前記ガスレーザに高周波電圧の主パルスを印加してレーザ発振を生じさせる工程と、
前記電流の測定値が、前記許容範囲
の下限値未満の場合には、前記先行パルスの立ち下がり時点から、前記ガスレーザの上位レーザ準位の寿命が経過するまでの時間、前記ガスレーザに高周波電圧を印加しないパルスレーザビーム出力方法が提供される。
【0008】
本発明のさらに他の観点によると、
無声放電励起方式のガスレーザと、
前記ガスレーザに、励起用の高周波電圧を印加する電源と、
前記電源に、前記ガスレーザへの高周波電圧の印加を開始する開始指令と、高周波電圧の印加を停止する停止指令とを送出する制御装置と、
加工対象物を保持するステージと、
前記ガスレーザから出力されたレーザ光を、前記ステージに保持された加工対象物の表面に集光する集光光学系と
を有し、
前記ガスレーザに、レーザ発振が生じない短い期間だけ、高周波電圧の先行パルスを印加すると共に、前記先行パルスが印加されている期間に、
前記ガスレーザに流れる電流を測定して電流測定値を取得し、
取得された電流測定値が許容範囲内に収まっているか否かを判定し、
取得された電流測定値が
前記許容範囲内に収まっている場合には、前記先行パルスの立ち下がり時点から、前記ガスレーザの上位レーザ準位の寿命が経過する前に、前記ガスレーザに高周波電圧の主パルスを印加してレーザ発振を生じさせ、
取得された電流測定値が
前記許容範囲
の下限値未満の場合には、前記先行パルスの立ち下がり時点から、前記ガスレーザの上位レーザ準位の寿命が経過するまでの時間、前記ガスレーザに高周波電圧を印加しないレーザ加工装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
先行パルスの印加時の放電電流が許容範囲に収まっていない場合に、先行パルスの立ち下がり時点から、ガスレーザの上位レーザ準位の寿命が経過するまでの時間、ガスレーザに高周波電圧を印加しないことにより、不良レーザパルスの発生を回避することができる。不良レーザパルスが発生しないため、音響光学素子等の光路偏向器を準備する必要がない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に、実施例によるレーザ加工装置の概略図を示す。レーザ加工装置のレーザ光源として、ガスレーザ装置が用いられている。ガスレーザ装置は、無声放電励起方式のガスレーザ10、電源15、電流センサ18、及び制御装置20を含む。ガスレーザ10には、例えば炭酸ガスレーザが用いられる。ガスレーザ10は、光共振器を構成する部分反射鏡12と全反射鏡13、及び一対の放電電極11を含む。一対の放電電極11の間に、レーザ媒質ガスが収容されている。
【0012】
電源15が、制御装置20から制御されて、ガスレーザ10に励起用の高周波電圧Vrfを印加する。電源15は、インバータ16及びタイミング発生器17を含む。タイミング発生器17がインバータ16に、インバータ16のスイッチング素子のオンオフを制御するためのタイミング信号を送出する。インバータ16は、タイミング発生器17からのタイミング信号に基づいて、放電電極11に高周波電圧Vrfを印加する。放電電極11に高周波電圧Vrfが印加されると、放電電極11の間で放電が生じ、放電電流Irfが流れる。
【0013】
制御装置20が、タイミング発生器17にトリガ信号Trgを送出する。トリガ信号Trgは、ガスレーザ10への高周波電圧Vrfの印加を開始する開始指令と、高周波電圧Vrfの印加を停止する停止指令とを含む。一例として、トリガ信号Trgの立ち上がり及び立下りが、それぞれ開始指令及び停止指令に相当する。
【0014】
電流センサ18が、ガスレーザ10に流れる放電電流Irfを測定する。電流センサ18の測定結果が制御装置20に入力される。
【0015】
ガスレーザ10に高周波電圧が印加されると、レーザ発振条件が満たされた時点で、ガスレーザ10からパルスレーザビームLBが出力される。パルスレーザビームLBは、折り返しミラー31、ガルバノスキャナ32、集光光学系33を経由して加工対象物40に入射する。ガルバノスキャナ32は、パルスレーザビームLBを二次元方向に走査する。集光光学系33は、パルスレーザビームLBを加工対象物40の表面に集光する。集光光学系33には、例えばfθレンズが用いられる。加工対象物40は、ステージ34に保持されている。ステージ34は、加工対象物40を、その表面に平行な二次元方向に移動させる。
【0016】
図2に、ガスレーザ10に収容されているレーザ媒質ガスのエネルギ準位図を示す。炭酸ガスレーザにおいては、二酸化炭素分子の(001)準位から(100)準位または(020)準位への遷移がレーザ発振に寄与する。(001)準位が上位レーザ準位E2に相当し、(100)準位及び(020)準位が下位レーザ準位E1に相当する。ここで、カッコ内の1番目、2番目、及び3番目の数字は、それぞれ対称伸縮モード、屈曲モード、及び非対称伸縮モードの量子数を意味する。レーザ媒質ガスには窒素分子が含まれている。励起状態(v=1)の窒素分子が二酸化炭素分子に衝突することにより、窒素分子から二酸化炭素分子への振動エネルギの移動が生じる。これにより、二酸化炭素分子が(001)状態に励起される。
【0017】
下位レーザ準位E1及び上位レーザ準位E2の分子の密度を、それぞれN1及びN2で表す。熱平衡状態においては、N1>N2が成立する。レーザ媒質ガスを励起すると、反転分布状態、すなわちN1<N2の状態が得られる。反転分布密度、すなわちN2−N1
が臨界値を超えると、レーザ発振が生じる。ここで、窒素分子から二酸化炭素分子へのエネルギ移動も含めた上位レーザ準位E2の寿命をτ2で表すこととする。ここで、寿命τ2は、上位レーザ準位E2の分子の密度が、自然放出によって1/eまで低下する時間を意味する。
【0018】
図3に、実施例によるパルスレーザビーム出力方法のフローチャートを示し、
図4に、トリガ信号Trg、高周波電圧Vrf、放電電流Irfの実効値、反転分布密度N2−N1、及びパルスレーザビームLBの時間変化の一例を示す。トリガ信号Trgの立ち上がり、及び立ち下がりが、それぞれガスレーザ10への高周波電圧の印加の開始指令、及び停止指令に対応する。以下、
図1、
図3、及び
図4を参照して、パルスレーザビームLBの出力方法について説明する。
【0019】
ステップS1(
図3)において、ガスレーザ10に高周波電圧の先行パルスVp1を印加する。
図4に示すように、時刻t1からt2までの期間、先行パルスVp1がガスレーザ10に印加される。
【0020】
以下、ステップS1の動作について説明する。時刻t1において、トリガ信号Trgが立ち上がり、時刻t2において、トリガ信号Trgが立ち下がる。時刻t1よりも前は、ガスレーザ10のレーザ媒質ガスは熱平衡状態である。このとき、反転分布は生じておらず、反転分布密度N2−N1は0または負である。
【0021】
制御装置20から電源15にトリガ信号Trgが送出されることにより、時刻t1からt2の間、電源15からガスレーザ10に、高周波電圧Vrfの先行パルスVp1が印加される。先行パルスVp1の印加が開始された後、ガスレーザ10で放電が生じると、放電電流Irfが流れ始める。ガスレーザ10で放電が生じると、レーザ媒質ガスが励起され、上位レーザ準位E2(
図2)の分子の密度N2、及び反転分布密度N2−N1が増加する。
【0022】
時刻t2において、先行パルスVp1の印加が停止されることにより、放電電流Irfが0になる。レーザ媒質ガスの分子のエネルギ準位が上位レーザ準位E2から下位レーザ準位E1に遷移することにより、反転分布密度N2−N1が低下する。
【0023】
先行パルスVp1は、レーザ発振が生じない程度の短い時間だけ、ガスレーザ10に印加される。具体的には、先行パルスVp1の印加が停止される時刻t2の時点では、反転分布密度N2−N1は、レーザ発振に至る臨界値Thを超えていない。
【0024】
ステップS2(
図3)において、制御装置20が、時刻t1からt2までの期間、電流センサ18から放電電流Irfの測定値を取得する。ステップS3(
図3)において、制御装置20は、取得された放電電流Irfの測定値に基づいて、放電状態の正常性を判定する。例えば、時刻t1からt2までの放電電流Irfが許容範囲に収まっている場合には、放電状態が正常であると判定され、放電電流Irfが許容範囲に収まっていない場合には、放電状態が異常であると判定される。放電電流Irfが許容範囲に収まっているか否かは、放電電流Irfのピーク値に基づいて判定される。放電電流Irfのピーク値の絶対値が、判定しきい値It以上になった場合、放電状態が正常であると判定される。
【0025】
放電状態が正常であると判定された場合には、ステップS4(
図3)において、ガスレーザ10に高周波電圧の主パルスVp2を印加する。
【0026】
以下、ステップS4の動作について説明する。
図4に示すように、時刻t3でトリガ信号Trgが立ち上がり、時刻t5でトリガ信号Trgが立ち下がる。時刻t3からt5ま
での間、ガスレーザ10に高周波電圧Vrfの主パルスVp2が印加される。主パルスVp2が印加されると、放電が生じて、放電電流Irfが流れ始める。ガスレーザ10で放電が発生することにより、上位レーザ準位E2の分子の密度N2が増加し、反転分布密度N2―N1が増加する。
【0027】
時刻t4で、反転分布密度N2−N1が臨界値Thを超えると、レーザ発振が開始され、パルスレーザビームLBのレーザパルスが立ち上がる。レーザパルスの波形はガスレーザ10の特性に依存する。
図4では、レーザパルスの立ち上がり時に、光強度がピークを示し、その後、ほぼ一定の光強度が維持される例を示している。
【0028】
時刻t5において、トリガ信号Trgが立ち下がると、ガスレーザ10への主パルスVp2の印加が停止する。これにより、放電電流Irfが0になり、反転分布密度N2−N1が低下し始め、パルスレーザビームLBのレーザパルスが立ち下がる。
【0029】
先行パルスVp1の印加停止時刻t2から、主パルスVp2の印加開始時刻t3までの経過時間は、ガスレーザ10の上位レーザ準位E2の寿命τ2よりも短い。このため、時刻t3の時点で、上位レーザ準位E2に十分多くの分子が残存している。これにより、主パルスVp2の印加開始時刻t3から極短時間で、反転分布密度N2−N1を臨界値Thに到達させることができる。また、先行パルスVp1の印加時にガスレーザ10に供給された励起エネルギを有効に利用することができる。
【0030】
先行パルスVp1の印加時に、放電状態の正常性が確認されているため、主パルスVp2の印加時にも、高い確率で放電状態の正常性が担保される。
【0031】
ステップS3(
図3)で、放電状態が異常であると判定された場合には、ステップS5(
図3)において、上位レーザ準位E2の寿命τ2よりも長い時間、高周波電圧Vrfを印加することなく待機する。
【0032】
以下、ステップS5(
図3)の動作について説明する。
図4に示した時刻t10にトリガ信号Trgが立ち上がり、時刻t11にトリガ信号Trgが立ち下がる。時刻t10からt11までの間、ガスレーザ10に高周波電圧Vrfの先行パルスVp1が印加され、放電電流Irfが流れる。
図4の時刻t10からt11までの放電電流Irfの測定値は、許容範囲に収まっていない。
図4では、放電電流Irfの測定値が許容範囲の下限値よりも小さい例が示されている。このため、時刻t11において、反転分布密度N2−N1が目標値に達していない。放電状態が異常と判定された場合、制御装置20は、高周波電圧の主パルスVp2を印加することなく、上位レーザ準位E2の寿命τ2よりも長い時間待機する。その後、ステップS1(
図3)に戻る。
【0033】
先行パルスVp1の印加によって流れる放電電流Irfの測定値が、許容範囲の下限値より小さい場合、その後に主パルスVp2を印加すると、異常なレーザ発振が生じ、ピークパワーの小さなウィークパルスが出力される可能性が高い。逆に、先行パルスVp1の印加によって流れる放電電流Irfの測定値が、許容範囲の上限値より大きい場合、その後に主パルスVp2を印加すると、異常なレーザ発振が生じ、ピークパワーの大きなストロングパルスが出力される可能性が高い。実施例においては、高周波電圧Vrfの先行パルスVp1を印加することによって異常放電を検知することによって、不良レーザパルスの出力を防止することができる。
【0034】
図5A〜
図5Cを参照して、実施例によるレーザ加工装置を用いた加工方法について説明する。
図5Aに、加工前の加工対象物の断面図を示す。加工対象物として、例えばビルドアップ基板が用いられる。下側の樹脂層41の上に、第1の金属膜42が形成されてい
る。第1の金属膜42及び下側の樹脂層41の上に、上側の樹脂層43が形成されている。樹脂層43の上に、第2の金属膜44が形成されている。樹脂層41、43には、例えばガラス繊維を含んだポリイミドが用いられる、第1の金属膜42及び第2の金属膜44には、例えば銅が用いられる。なお、銅以外の金属を用いてもよい。
【0035】
図5Bに示すように、第1の金属膜42の上の樹脂層43及び第2の金属膜44に、第1のレーザパルスLp1を入射させることにより、第2の金属膜44に開口45を形成し、樹脂層43に凹部46を形成する。凹部46の側面は、深くなるに従って平断面が小さくなるように傾斜している。
図5Bでは、凹部46が第1の金属膜42まで達していない例を示しているが、凹部46の底面に第1の金属膜42の一部が露出するようにしてもよい。この場合にも、凹部46の側面が傾斜する。このため、第1の金属膜42が露出した部分の面積は、開口45の面積よりも小さい。凹部46の深さは、第1のレーザパルスLp1のパルスエネルギ密度に依存する。
【0036】
図5Cに示すように、凹部46に、複数の第2のレーザパルスLp2を入射させる。第2のレーザパルスLp2の各々のパルス幅は、第1のレーザパルスLp1のパルス幅より短い。第2のレーザパルスLp2の入射により、凹部46の側面及び底面の樹脂層43が除去され、凹部46の底面に第1の金属膜42が露出する。
図5Bに示した段階で、凹部46の底面に第1の金属膜42が露出していた場合には、第2のレーザパルスLp2の入射によって、第1の金属膜42が露出する領域が大きくなる。
【0037】
第1のレーザパルスLp1及び第2のレーザパルスLp2は、
図3及び
図4に示した実施例によるパルスレーザビームLBの出力方法により生成される。このため、不良レーザパルスの発生を未然に回避し、加工品質の低下を防止することができる。
【0038】
さらに、実施例によるレーザ加工装置は、ガスレーザ10から出力されたパルスレーザビームLBの、加工対象物40への入射を妨げるための音響光学素子等の光偏向器を準備する必要がない。このため、レーザ加工装置の製造コスト削減を図ることが可能になる。
【0039】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。