(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記区間走行距離算出手段は、前記区間境界検出手段により区間境界の通過が検出された場合に、算出していた前記区間走行距離を、前記無信号距離算出手段が算出していた前記無信号距離に変更して、前記区間走行距離の算出を継続する、
請求項2〜4の何れか一項に記載の車上装置。
前記区間境界検出手段は、前記走行制御情報の受信結果に基づき、同一の区間IDを含む前記走行制御情報の定常受信状態にあると判断するための所定の定常受信条件を満たしたときの当該走行制御情報の区間IDが、直前に当該定常受信条件を満たしたと判定したときの区間IDと異なる場合に、直前に当該定常受信条件を満たしたと判定したタイミングに基づいて、区間境界を通過したことを検出する、
請求項1〜7の何れか一項に記載の車上装置。
当該区間の区間IDと、当該区間の制御速度情報と、内方区間の制御速度情報とを少なくとも含む走行制御情報の電文が、軌道回路を単位とする各区間別にレールに繰り返し伝送されている当該レール上を走行する列車に搭載され、当該列車の走行区間のレールに伝送されている前記走行制御情報を受信して当該列車の走行制御を行う請求項1〜8の何れか一項に記載の車上装置と、
区間ごとに前記レールに前記走行制御情報を伝送する地上装置と、
を具備した列車制御システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、高度な列車制御を実現するためにアナログATCからデジタルATCへの移行が進められている。デジタルATCにおいては、レールに伝送するATC信号をデジタル信号(電文)とする。そのため、耐雑音性が向上するばかりか、より多くの情報伝送が可能となる。このため、伝送する電文の情報量を多くして、より高度な列車制御を実現したい要望がある。しかし、伝送する情報量が多くなるに従って1つの電文長が長くなる。また、安全のため、例えば複数の受信電文の一致などによって電文内容を確定する方法が一般的に採用されることから、デジタルATCにおける電文確定には時間を要するものとなる。このことは制動開始が遅れることにより、安全上の重要な要素となる。
【0006】
このため、アナログATCと同じようにデジタルATCにおいても、軌道回路毎に定めた制御情報を軌道回路に進入の都度、受信して検出する方式の場合には電文長を短くすることで対応している。この場合、当然のことながら情報量が少なくなり、高度な列車制御が実現できない。また、減速目標速度と減速目標地点までの距離情報を制御情報に加えることにより制動距離を確保しつつ、高度な列車制御を実現する方法も考案されている。しかしこの場合、制動開始地点が、速度発電機等からの距離パルスを積算する等の距離計測に依存することから、車軸の空転や滑走等による誤差の積算によって変動したものとなる。
【0007】
特に、非特許文献1に示すようなアナログATCで運用されている路線をデジタルATCへ切り替える場合、当該路線を走行する全ての列車の車上装置を同時期に一度に変えることは簡単ではない。すなわち、非特許文献1に開示されているような、首都圏における大規模な相互乗り入れ路線に適用する場合には、アナログATCにより運転される列車と混在して運転できるデジタルATCが求められる。この場合、安全性はもちろんとして、列車の運転取扱いが同一であることが求められる。このため、デジタルATCは、軌道回路毎に制御速度を定め、軌道回路への進入の都度、受信して検出した速度信号により制御するアナログATCと同等な制御とすることが必須条件となる。特に、安全上、デジタルATCの制動距離はアナログATCの制動距離の規定値以内とすることが必要不可欠となり、制動開始が遅れることは許されない。
【0008】
また、ATCシステムでは、軌道回路境界、すなわち区間境界の通過時に、車上側でATC信号を受信できない瞬間的な無信号(瞬時無信号)の状態が発生し、予期せずに非常ブレーキが動作し得るという問題があった。具体的には、例えば、有絶縁軌道回路の区間境界では、ATC信号波の混信受信による瞬時無信号の状態が発生する。なお、区間境界のみならず、ループコイルの撚架点や、クロスジャンパー線による死区間の通過時にも、同様の問題が発生する。また、無絶縁軌道回路の区間境界では、進入時の短絡検知の遅れ(いわゆる踏み込み送信の遅れ)による瞬時無信号の状態が発生する。このような瞬時無信号に対し、これまでは列車制御上許容される瞬断許容時間だけで対応していた。瞬断許容時間だけで対応した結果、有絶縁軌道回路の区間境界を低速で走行した場合や、無絶縁軌道回路の区間境界進入時の短絡検知が遅れた場合においては、瞬時無信号時間が瞬断許容時間を上回り、予期せずに非常ブレーキが動作する場合があった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高度な列車制御を実現するデジタルATCにおいて、区間進入時の制動開始遅れの解消を可能とする技術を実現することである。また、他の目的は、区間境界の通過時等に発生し得る瞬時無信号による不要な非常ブレーキの動作を回避する技術を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための第1の発明は、
当該区間の区間IDと、当該区間の制御速度情報と、内方区間の制御速度情報とを少なくとも含む走行制御情報の電文が、軌道回路を単位とする各区間別にレールに繰り返し伝送されている当該レール上を走行する列車に搭載され、当該列車の走行区間のレールに伝送されている前記走行制御情報を受信して当該列車の走行制御を行う車上装置であって、
前記走行制御情報の受信結果を用いて区間境界の通過を検出する区間境界検出手段と、
前記区間境界検出手段の検出結果と、受信した前記走行制御情報とを用いて、当該列車の速度制御を行う速度制御手段と、
を備えた車上装置である。
【0011】
また、他の発明として、
当該区間の区間IDと、当該区間の制御速度情報と、内方区間の制御速度情報とを少なくとも含む走行制御情報の電文が、軌道回路を単位とする各区間別にレールに繰り返し伝送されている当該レール上を走行する列車が、当該レールに伝送されている前記走行制御情報を受信して走行制御を行うための走行制御方法であって、
前記走行制御情報の受信結果を用いて区間境界の通過を検出する区間境界検出ステップと、
前記区間境界検出ステップの検出結果と、受信した前記走行制御情報とを用いて、当該列車の速度制御を行う速度制御ステップと、
を含む走行制御方法を構成しても良い。
【0012】
この第1の発明等によれば、列車に搭載される車上装置は、レールから走行制御情報を受信し、走行制御情報の受信結果を用いて区間境界を検出し、検出した区間境界と受信した走行制御情報とを用いて走行制御を行う。区間は軌道回路に対応する。このため、区間境界、すなわち軌道回路境界の通過を検出できるとともに、検出時には、当該区間境界の手前の区間(進出しようとする区間)において既に受信している走行制御情報に含まれる当該区間境界の内方の制御速度情報を利用できる。よって、区間進入時の制動開始遅れの解消を可能とする技術を実現することができる。
【0013】
また、第2の発明として、第1の発明の車上装置であって、
前記走行制御情報が受信されない或いは正常に受信されない無信号状態を検出する無信号検出手段と、
前記無信号状態が継続している間の経過時間である無信号時間を算出する無信号時間算出手段と、
前記無信号状態が継続している間の走行距離である無信号距離を算出する無信号距離算出手段と、
を更に備え、
前記速度制御手段は、前記無信号状態が検出されている間の制御速度を、受信した前記走行制御情報と、前記無信号時間と、前記無信号距離とを用いて決定して速度制御する無信号期間速度制御手段を有する、
車上装置を構成しても良い。
【0014】
この第2の発明によれば、無信号状態が検出されている間の制御速度が、受信した走行制御情報と、走行制御情報が受信されない無信号状態が継続している間の経過時間である無信号時間と、無信号状態が継続している間の走行距離である無信号距離とを用いて決定されて速度制御が行われる。
【0015】
また、第3の発明として、第2の発明の車上装置であって、
前記走行制御情報は、内方区間の区間長情報を更に含み、
前記区間境界検出手段により検出された当該区間の進入側の区間境界を基点とした当該区間における走行距離である区間走行距離を算出する区間走行距離算出手段と、
当該区間に進入する前に受信した前記走行制御情報に含まれていた当該区間の区間長情報と、前記区間走行距離とを用いて、当該列車が、当該区間の進出側の区間境界の手前に定めた所定の境界接近地点より内方に位置するか否かを判定する境界接近判定手段と、
を更に備え、
前記無信号期間速度制御手段は、更に前記境界接近判定手段の判定結果を用いて制御速度を決定する、
車上装置を構成しても良い。
【0016】
この第3の発明によれば、当該列車が当該区間の進出側の区間境界に“接近”しているか否かの判定結果を更に用いて、無信号状態が検出されている間の制御速度が決定される。進出側の区間境界に“接近”しているか否かは、走行制御情報に含まれる区間長と、区間の進入側の区間境界を起点とした当該区間における区間走行距離とを用いて、当該列車が当該区間の進出側の区間境界の手前に定めた境界接近地点より内方に位置するか否かによって判定される。
【0017】
また、第4の発明として、第3の発明の車上装置であって、
前記無信号期間速度制御手段は、
(A)前記境界接近判定手段により肯定判定された場合に、
(A1)前記無信号時間が第1閾値時間以下ならば、当該区間の制御速度情報を用いて制御速度を決定し、
(A2)前記無信号時間が前記第1閾値時間より長い第2閾値時間以上、或いは、前記無信号距離が閾値距離以上ならば、停止速度となるように制御速度を決定し、
(A3)前記(A1)および(A2)以外ならば、当該区間の制御速度情報および内方区間の制御速度情報のうち、低い方の制御速度情報を用いて制御速度を決定する、
車上装置を構成しても良い。
【0018】
この第4の発明によれば、進出側の区間境界に“接近”していると判定された場合には、無信号状態が検出されている間の制御速度が次のように決定される。すなわち、(A1)無信号時間が第1閾値時間以下ならば、当該区間の制御速度情報を用いて制御速度を決定し、(A2)無信号時間が第2閾値時間以上、或いは、無信号距離が閾値距離以上ならば、停止速度となるように制御速度を決定し、(A3)この(A1),(A2)以外ならば、当該区間の制御速度情報と内方区間の制御速度情報のうちの低い方を用いて制御速度を決定する。
【0019】
進出側の区間境界に“接近”している場合に無信号状態となるケースは、撚架点上の通過等による非常ブレーキが不要な瞬時無信号(A1)、非常ブレーキが必要な無信号(A2)、区間境界の通過(A3)、の何れかと考えられる。第4の発明によれば、無信号状態にある中で、現状、どのケースに該当する蓋然性があるかを適切に判断し、適切な速度制御を実行することができる。
【0020】
例えば、無信号時間が第1閾値時間以上且つ第2閾値時間以下である場合には、(A3)のケースに該当し、区間境界を通過中とみなした速度制御を行う。すなわち、内方区間に進入して、進入した当該区間に伝送されている走行制御情報を受信する前に、当該区間の制御速度情報に違反しない制御速度に変更することができる。その結果、区間進入時の制動制御の遅れを解消することができる。またこのとき、内方区間の手前の区間(すなわち在線区間)の制御速度情報と内方区間の制御速度情報のうち低い方を用いて制御速度を決定するため、内方区間の制御速度の方が高かったとしても、低い方の在線区間の制御速度を用いて制御速度が決定されるため、安全側の動作となる。また、(A1)のケースを判断することができるため、瞬時無信号による不要な非常ブレーキを回避することができる。
【0021】
また、第5の発明として、第3又は第4の発明の車上装置であって、
前記無信号期間速度制御手段は、
(B)前記境界接近判定手段により否定判定された場合に、
(B1)前記無信号時間が前記第2閾値時間以上、或いは、前記無信号距離が前記閾値距離以上ならば、停止速度となるように制御速度を決定し、
(B2)(B1)以外ならば、当該区間の制御速度情報を用いて制御速度を決定する、
車上装置を構成しても良い。
【0022】
この第5の発明によれば、進出側の区間境界に“接近”していないと判定された場合には、無信号状態が検出されている間の制御速度が次のように決定される。すなわち、(B1)無信号時間が第2閾値時間以上、或いは、無信号距離が閾値距離以上ならば、停止速度となるように制御速度を決定し、(B2)この(B1)以外ならば、当該区間の制御速度情報を用いて制御速度を決定する。
【0023】
進出側の区間境界に“接近”していない場合には、区間内を走行中の状態にある。そのため、無信号状態となるケースは、非常ブレーキが必要な無信号(B1)、或いは、例えば撚架点上の通過等による非常ブレーキが不要な瞬時無信号(B2)、のどちらかと考えられる。第5の発明によれば、無信号状態にある中で、現状、どちらのケースに該当する蓋然性があるかを適切に判断し、適切な速度制御を動的に実行することができる。これにより、区間途中における瞬時無信号による不要な非常ブレーキを回避することができる。
【0024】
また、第6の発明として、第3〜第5の何れかの発明の車上装置であって、
前記区間走行距離算出手段は、前記区間境界検出手段により区間境界の通過が検出された場合に、算出していた前記区間走行距離を、前記無信号距離算出手段が算出していた前記無信号距離に変更して、前記区間走行距離の算出を継続する、
車上装置を構成しても良い。
【0025】
この第6の発明によれば、区間境界の通過が検出された場合に、無信号距離に変更して区間走行距離の算出が継続される。
これにより、検出された区間境界を基点とした走行距離を算出することができる。
【0026】
また、第7の発明として、第2〜第6の何れかの発明の車上装置であって、
前記無信号時間算出手段は、
経過時間を積算する時間積算手段と、
前記走行制御情報の受信結果に基づき、同一の区間IDを含む前記走行制御情報の定常受信状態にあると判断するための所定の定常受信条件を満たす場合に、前記時間積算手段による積算時間をリセットする時間リセット手段と、
を有し、前記時間積算手段による積算時間を前記無信号時間とすることで、前記無信号状態が継続している間の経過時間を含めて無信号時間を算出する手段である、
車上装置を構成しても良い。
【0027】
この第7の発明によれば、経過時間を積算するとともに受信した走行制御情報が定常受信条件を満たす場合に積算時間をリセットし、この積算時間を無信号時間とする。このため、無信号状態が継続している間の経過時間を含めて無信号時間を算出することができる。
【0028】
また、第8の発明として、第2〜第7の何れかの発明の車上装置であって、
前記無信号距離算出手段は、
走行距離を積算する距離積算手段と、
前記走行制御情報の受信結果に基づき、同一の区間IDを含む前記走行制御情報の定常受信状態にあると判断するための所定の定常受信条件を満たす場合に、前記距離積算手段による積算距離をリセットする距離リセット手段と、
を有し、前記距離積算手段による積算距離を前記無信号距離とすることで、前記無信号状態が継続している間の走行距離を含めて無信号距離を算出する手段である、
車上装置を構成しても良い。
【0029】
この第8の発明によれば、走行距離を積算するとともに、受信した走行制御情報が定常受信条件を満たす場合に積算距離をリセットする。そして、積算距離が無信号距離とされる。このため、無信号状態が継続している間の走行距離を含めた無信号距離が算出される。
【0030】
また、第9の発明として、第1〜第8の何れかの発明の車上装置であって、
前記区間境界検出手段は、前記走行制御情報の受信結果に基づき、同一の区間IDを含む前記走行制御情報の定常受信状態にあると判断するための所定の定常受信条件を満たしたときの当該走行制御情報の区間IDが、直前に当該定常受信条件を満たしたと判定したときの区間IDと異なる場合に、直前に当該定常受信条件を満たしたと判定したタイミングに基づいて、区間境界を通過したことを検出する、
車上装置を構成しても良い。
【0031】
この第9の発明によれば、定常受信条件を満たした走行制御情報の区間IDが、直前に定常受信条件を満たした時の走行制御情報の区間IDと異なる場合に、この直前に定常受信条件を満たした時のタイミングに基づいて区間境界の通過が検出される。すなわち、受信した走行制御情報の区間IDが異なることをもって区間境界の通過を検出するとともに、直前に判定したタイミングの位置が区間境界として検出される。これにより、実際の区間境界に近い位置を区間境界として検出することが可能となる。
【0032】
更に、第10の発明として、
当該区間の区間IDと、当該区間の制御速度情報と、内方区間の制御速度情報とを少なくとも含む走行制御情報の電文が、軌道回路を単位とする各区間別にレールに繰り返し伝送されている当該レール上を走行する列車に搭載され、当該列車の走行区間のレールに伝送されている前記走行制御情報を受信して当該列車の走行制御を行う第1〜第9の何れかの発明の車上装置と、
区間ごとに前記レールに前記走行制御情報を伝送する地上装置と、
を具備した列車制御システムを構成しても良い。
【発明を実施するための形態】
【0034】
[システム構成]
図1は、本実施形態の列車制御システム1の構成図である。
図1に示すように、列車制御システム1は、デジタルATCシステムであり、レールR上を走行する列車10に搭載される車上装置20と、地上装置30とを備えて構成される。線路には、レールRを列車走行方向に沿って区分した列車10の走行制御の単位となる区間が定められる。区間は、レールRに設置された軌道回路を単位として定められる。
【0035】
地上装置30は、各区間の進出側に接続して設けられ、走行制御情報40を伝送する。これらの地上装置30は、近隣の軌道回路から得られる列車の在線情報や、連動装置から得られる進路情報(分岐器の開通方向情報を含む)などをもとに、当該区間内の列車10に対する走行制御情報40を生成し、ATC信号(電文)に含めて当該区間のレールRに繰り返し伝送する。なお、1台の地上装置30が複数区間に対応するように設けた構成とする場合には、1台の地上装置30が複数区間それぞれに対する走行制御情報40を生成し、各区間に、対応する走行制御情報40を伝送するように構成すればよい。
【0036】
走行制御情報40には、伝送対象の区間の区間IDと、当該区間の制御速度である当該区間制御速度と、当該区間の内方隣接の区間(以下、内方区間という)の制御速度である内方区間制御速度と、内方区間の長さである内方区間長とが含まれる。区間IDは、区間毎、すなわち本実施形態では軌道回路毎に異なる。
【0037】
車上装置20は、レールRから受信した走行制御情報40に基づく自列車10の走行制御を行う。具体的には、受信した走行制御情報40に基づいて制御速度を決定し、この制御速度と自列車10の走行速度とを連続して照査し、走行速度が制御速度以下となるようにブレーキを制御する。
【0038】
[原理]
(A)速度制御の概要
図2は、走行制御情報40に基づく一段ブレーキ制御方式の速度制御の一例である。
図2では、右方向を列車の進行方向とし、列車10aの後続列車の速度制御の一例を示している。
【0039】
先ず、先行列車10aが位置する区間(在線区間)の後方に隣接する区間10Tが、他の列車の進入を禁止する絶対停止区間となり、この絶対停止区間の後方の区間11T,12T,・・・が、他の列車の進入が可能な進入許容区間として定められる。
【0040】
また、先行列車10a(より詳細には、先行列車10aの在線区間)との間隔や線路条件等をもとに、進入許容区間を構成する区間11T,12T,・・・それぞれの制御速度が定められる。そして、進入許容区間を構成する区間11T,12T,・・・それぞれに、制御速度等を含む走行制御情報40が伝送される。なお、絶対停止区間については、走行制御情報40は伝送されない(無信号)。
【0041】
車上装置20は、レールRから受信した走行制御情報40をもとに走行区間の制御速度を決定・更新し、その制御速度と自列車10の走行速度とを照査し、走行速度が制御速度より高い場合は常用ブレーキを動作させ、制御速度まで減速させる。ただし、非常停止の場合には、非常ブレーキを動作させて自列車10を停止させる。
【0042】
(B)区間境界通過時の速度制御
車上装置20は、自列車が位置する区間に定められた制御速度に従った速度制御を行う。つまり、新たな区間に進入すると、この進入した区間に定められた制御速度に基づく速度制御に切り替える。新たな区間への進入、すなわち区間境界の通過は、走行制御情報40の受信結果によって検出する。
【0043】
列車が区間境界を通過する際に、車上装置20において、一時的に走行制御情報40が受信されない無信号の状態が発生し得る。実際には、各区間に割り当てられた走行制御情報を含む電文は、個別の送信器により非同期で送信される。そのため、受信する走行制御情報を含む電文は、区間境界の前後において不連続となる。また、送信回路の引き回しや、車上受信特性のばらつき等によって、区間境界の前後で電文が寸断される。このため、区間境界前後においては、1つの電文全体を正しく受信できない破壊電文を伴うものとなり、実質的に無信号状態を呈するものとなる。なお、無絶縁軌道回路では、新たな区間への進入検知をもって当該区間への走行制御情報40の送信が開始される、いわゆる踏み込み送信が行われる。このため、新たな区間への進入時には、列車の進入検知のための遅れ時間を要するものとなり、走行制御情報40が受信されない無信号の状態が発生する。
【0044】
このことから、走行制御情報40が受信されない無信号状態が継続した無信号時間と、受信した走行制御情報40に含まれる区間IDの変化とに基づいて、区間境界の通過を判定する。
【0045】
無信号時間は、無信号タイマを用いて算出する。無信号タイマは、常時、経過時間を積算し続けるタイマ(計時手段)であるが、タイマ値(積算時間;無信号時間)は、走行制御情報40の受信状況が「定常受信条件」を満たす度にリセットされる。上述のように、各区間に対して走行制御情報40が繰り返し伝送されるため、車上装置20では、レールRに伝送されている走行制御情報40を次々と受信することになる。「定常受信条件」とは、走行制御情報40を安全且つ合理的に受信したとみなせる条件であり、例えば、連続した2つの走行制御情報40が一致する、或いは、連続した3つの走行制御情報40のうち2つが一致する、といった条件に定めることができる。以下、この安全且つ合理的に受信したとみなせる条件である「定常受信条件」を満たした受信状態のことを「定常受信状態」という。なお、無信号タイマは、所定のクロック信号に基づいてカウントアップするカウンタ回路で構成することができる。
【0046】
図3は、区間境界の検出の説明図である。
図3では、横方向を列車位置として、上から順に、レールRに伝送されるATC信号、車上装置20において受信した受信電文、無信号タイマのタイマ値(無信号時間)、を示している。ATC信号は、
図3において、当該位置での信号強度(受信信号強度)を縦方向の幅で示している。当該区間の進出端からATC信号が伝送されるため、進出端に近づくにつれて縦方向の幅が大きく(太く)なるように図示している。受信電文は、車上装置20で受信された1つの走行制御情報40を1つの矩形ブロックとして示しており、付記された数字は、車上装置20が受信・解読した当該走行制御情報40に含まれる区間IDを示している。また、各矩形ブロックの図中右端の位置(タイミング)を、走行制御情報40が解読されたタイミングとして示している。クロスハッチングが施された矩形ブロックは、受信できなかった、或いは解読できなかった走行制御情報40を示す。無信号タイマは、上述した通り、常時、経過時間を積算しているタイマであり、「定常受信条件」を満たす毎にリセットされる。すなわち「定常受信状態」であると判断される毎にリセットされる。リセットされるタイミングは、走行制御情報40が受信・解読されたタイミングとなる。
【0047】
図3に示す例では、区間1Tには、区間ID=「1」の走行制御情報40が伝送され、次の区間2Tには、区間ID=「2」の走行制御情報40が伝送されている。そして、
図3(a)は、区間境界の通過直後に受信・解読した走行制御情報40にデータ化けが生じしていない、正常に受信・解読できた正常時の例を示し、
図3(b)は、区間境界の通過直後に受信・解読した走行制御情報40にデータ化け(詳細には、区間IDのデータ化け)が生じた例を示している。
【0048】
列車が区間境界を通過する際には、車上装置20において一時的に走行制御情報40が受信されない無信号の状態(以下「瞬時無信号」という)が発生する。この瞬時無信号の前後では、受信する走行制御情報40に含まれる区間IDが異なる。このため、定常受信条件を満たしたと判定したとき(定常受信状態になったとき)の走行制御情報40に含まれる区間IDが、直前に定常受信条件を満たしたと判定したとき(直前に定常受信状態になっていたとき)の走行制御情報40に含まれる区間IDと異なる場合に、区間境界を通過したと判定する。そして、その直前に定常受信条件を満たしたと判定したタイミング(直前に定常受信状態になったタイミング)の位置を、通過した区間境界の位置とみなす。
【0049】
図3(a)に示すように、正常時には、区間1Tを走行中は、区間ID=「1」の走行制御情報40を連続的に受信しており、定常受信条件を満たす毎、すなわち、1つの走行制御情報40を受信・解読する毎に、無信号タイマがリセットされる。次いで、区間1T,2Tの境界の通過の際には、一時的に無信号状態となり、無信号タイマのタイマ値が増加する。その後、区間ID=「2」の走行制御情報40の受信が開始され、定常受信条件を満たした以降は、定常受信条件を満たす毎に無信号タイマがリセットされる。またこのとき、区間IDが異なる走行制御情報40について定常受信条件を満たすと判定した直前に定常受信条件を満たすと判定したタイミング、すなわち、
図3(a)の位置t1を、区間境界とみなす。
【0050】
また、
図3(b)に示す例では、区間1T,2T境界の通過直後に、受信する走行制御情報40の区間IDにデータ化けが生じ、手前の区間1Tの走行制御情報40の区間IDと一致している。この場合、区間境界を通過後、3回目に走行制御情報40が受信されたタイミングt3において、定常受信条件を満たす(定常受信状態になった)と判定される。そして、タイミングt3の直前に定常受信条件を満たすと判定したタイミングt2の位置が区間境界とみなされる。
【0051】
このように、定常受信条件によって、走行制御情報40の内容を確実に確定して安全な列車制御を実現することにより、受信データ化けなどによる区間境界の通過の誤判定を防止できる。
【0052】
そして、定常受信条件を満たしたときの走行制御情報40に含まれる区間IDが変化した場合に区間境界を通過したと判定し、新たな区間IDとなった直前の区間IDを含む走行制御情報40を受信したタイミングであって、定常受信条件を満たして受信したタイミングの位置を区間境界とみなす。このため、区間境界とみなす位置は、実際の区間境界より手前(外方)となる。これは、安全側の動作となる。
【0053】
なお、
図3(c)に示すように、もしも仮に、受信及び解読できた走行制御情報40の区間IDが2つ連続して同一であったことを正常受信と判定してしまうと、区間境界の通過直後に受信した走行制御情報40の区間IDにデータ化けが生じた場合に、実際の区間境界より内方のタイミングt4の位置を、区間境界とみなしてしまうことになる。これは、危険側の動作となる。
【0054】
また、
図3に示したように、無信号タイマは、受信した走行制御情報40が定常受信条件を満たす毎(定常受信状態であると判定される毎)にリセットされる。つまり、無信号タイマによって算出される無信号時間は、受信した走行制御情報40が定常受信条件を満たしたときを起点とした経過時間であり、実際の無信号の期間を含む時間となっている。
【0055】
区間境界を通過したか否かを判定できるタイミングは、直前の区間に伝送されている走行制御情報40の区間IDとは異なる区間IDの走行制御情報40が定常受信条件を満たしたタイミングであるため、実際に区間境界を通過したタイミングより遅れる。特に、
図3(b)に示したように、データ化けが生じた場合などや、踏み込み送信式の無絶縁軌道回路における短絡検知の遅れが大きい場合には、この判定タイミングが更に遅れる。このため、区間境界の通過時に無信号状態が発生することを利用して、無信号時間が所定の第1閾値時間に達した時点で、区間境界の通過(新たな区間への進入)と判定する。
【0056】
図4は、区間境界の通過に伴う速度制御を説明するための図である。上から順に、レールRに伝送されるATC信号、車上装置20における受信電文、無信号タイマのタイマ値(無信号時間)、「75km/h」及び「55km/h」それぞれを制御速度とする制御速度信号の出力状態、常用ブレーキ信号の出力状態、を示している。なお、制御速度信号の出力状態は、Hレベルが出力有り、Lレベルが出力無しに相当し、ブレーキ信号の出力状態は、Hレベルが出力無し、Lレベルが出力有りに相当する。
【0057】
図4に示す例では、手前の区間1Tには、区間ID=「1」、当該区間制御速度V
0=「75km/h」、内方区間制御速度V
1=「55km/h」、の走行制御情報40が伝送され、次の区間2Tには、区間ID=「2」、当該区間制御速度V
0=「55km/h」、内方区間制御速度V
1=「20km/h」、の走行制御情報40が伝送される。
【0058】
図4において、手前の区間1Tを走行中は、区間ID=「1」の走行制御情報40を連続的に受信し、走行制御情報40の受信毎に定常受信条件を満たすと判定されて無信号タイマがリセットされるとともに、「75km/h」の制御速度信号が出力されている。このとき、受信している走行制御情報40によって、次の区間2Tの制御速度である「55km/h」を取得している。
【0059】
次いで、区間境界の通過時には、一時的な無信号が発生し、無信号タイマはリセットされずにタイマ値が増加し続ける。そして、無信号タイマのタイマ値(無信号時間)が第1閾値時間に達すると、区間境界を通過したと仮定して(仮判定)、次の区間2Tの制御速度に基づく速度制御に切り替える。つまり、出力される制御速度信号が、現在の「75km/h」の速度制御信号から「55km/h」の速度制御信号に変更される。また、
図4においては、低い制御速度への変更となり(下位速度制御)、列車速度が制御速度を超えたため、常用ブレーキ信号が出力されている。
【0060】
図4をより詳細に説明する。無信号時間が第1閾値時間に達した時点で次の区間へ進入したと仮定しているため(仮判定しているため)、無信号時間が第1閾値時間に達した時点では、現在の区間の制御速度、及び、次の区間の制御速度のうち、低い方の制御速度としておく。そして、次の区間(2T)において定常受信状態になったこと、すなわち、定常受信条件を満たした走行制御情報40の区間ID(ID=2)が、直前に定常受信条件を満たしたときの走行制御情報40の区間ID(ID=2)と同一となった時点で、次の区間(2T)の制御速度に変更している。これにより、例えば、現在の区間の制御速度よりも次の区間の制御速度のほうが高い場合(上位速度制御)であっても、区間境界の通過と確定できなければ、低い方の制御速度として安全側に速度制御することができる。
【0061】
(C)無信号
車上装置20は、レールRから受信した走行制御情報40に基づいて列車10の速度制御を行うが、走行制御情報40が受信されない無信号の場合には、列車10を停止させる必要があるか否かを判定し、必要有りと判定した場合に非常ブレーキを動作させて列車を停止させる。無信号は、目的や原因によって主に3種類に分類され、上述の区間境界の通過時等に発生する無信号である瞬時無信号の他、絶対停止信号と、緊急停止信号とがある。
【0062】
絶対停止信号は、絶対停止区間の停止信号である。
図2に示したように、先行列車10aの直近後方区間に定められる絶対停止区間は、全ての列車の進入が禁止される。また、列車の在線区間における列車最後端車軸からその後方の区間境界までの間も、列車車軸により信号が遮断されるために必然的に無信号となり、絶対停止区間である。
【0063】
緊急停止信号は、事故発生や閉そく装置の故障等によって、緊急に列車を停止する必要があるときの停止信号である。この緊急停止信号も、絶対停止信号と同様に、走行制御情報40を送信しない無信号となる。
【0064】
瞬時無信号は、上述のように、列車10が区間境界を通過する際に、車上装置20において一時的に走行制御情報40が受信されないことによって瞬間的に発生する無信号である。これは、上述の絶対停止信号や緊急停止信号と異なり、意図せずに発生する無信号である。つまり、有絶縁区間境界を通過する際には、その前後の区間に伝送されている信号波の混信によって瞬時無信号が発生する。なお、このような瞬時無信号は、区間境界のみならず、例えばループコイルの撚架点や、クロスジャンパー線等による死区間でも発生し得る。
【0065】
これらの3種類の無信号(絶対停止信号、緊急停止信号、瞬時無信号)のうち、絶対停止信号及び緊急停止信号については、非常ブレーキを動作させて列車を停止させる必要があるが、瞬時無信号については、列車を停止させる必要は無い。本実施形態において、列車を停止させる必要がある無信号(絶対停止信、及び、緊急停止信号)と、停止させる必要のない無信号(瞬時無信号)とは、無信号時間及び無信号距離を用いて判別する。
【0066】
無信号時間は、上述のように、無信号タイマによって算出される。無信号距離は、無信号状態が継続した期間における走行距離であり、無信号距離カウンタによって算出される。
【0067】
図5は、無信号距離カウンタによる無信号距離の算出を説明する図である。
図5では、横軸を列車位置として、上から順に、車上装置20における受信電文、無信号距離カウンタのカウント値(無信号距離)、を示している。
図5(a)は、受信する走行制御情報40の区間IDが全て同一の場合、
図5(b)は、区間境界の通過などによって受信する走行制御情報40の区間IDが変化する場合、の例を示している。
【0068】
図5に示すように、無信号距離カウンタは、常時、走行距離を積算し、無信号タイマと同様に、受信した走行制御情報40が定常受信条件を満たしたタイミングでリセットされる。走行距離は、走行速度を時間積分することで求められる。つまり、無信号距離カウンタによって算出される無信号距離は、受信した走行制御情報40が定常受信条件を満たしたときを起点とした走行距離であり、実際に無信号の状態であった期間の走行距離を含む。
【0069】
そして、無信号距離が所定の許容距離条件を満たさなくなった場合、或いは、無信号時間が所定の許容時間条件を満たさなくなった場合に、現在の無信号は、絶対停止信号、或いは、緊急停止信号であると判断して、非常ブレーキを動作させて列車を停止速度とするブレーキ制御を行う。言い換えれば、無信号距離が許容距離条件を満たし、且つ、無信号時間が許容時間条件を満たす場合は、発生している無信号は瞬時無信号であると判断して列車を停止させない。
【0070】
許容距離条件とは、無信号状態での走行を許容する距離条件であり、具体的には、無信号距離が所定の閾値距離未満であることである。この閾値距離は、列車の走行速度に応じて定められる。これは、同一時間であっても、走行速度によってその間の走行距離が変化するためである。例えば、閾値距離は、低速では数m、高速では、低速の場合よりも長く十数m程度に定められる。ここで、走行速度の低速/高速は、例えば、時速数kmを閾値として判断される。
【0071】
また、許容時間条件とは、無信号状態での走行を許容する時間条件であり、具体的には、所定の第2閾値時間未満であることである。この第2閾値時間は、第1閾値時間より長い時間であり、例えば数秒程度に定められる。
【0072】
図6は、踏み込み送信式の無絶縁区間境界を通過する際の瞬時無信号の判定を説明するための図である。
図6では、横軸を列車位置として、上から順に、区間4Tへの列車進入を検知するための列車検知信号レベル及び列車検知出力、レールRに伝送されるATC信号、車上装置20における受信電文、無信号タイマのタイマ値(無信号時間)、無信号距離カウンタのカウント値(無信号距離)、「75km/h」及び「55km/h」それぞれの制御速度信号の出力状態、及び、制御速度、を示している。
図6(a)は、次の区間4Tによる進入検知の遅れが許容範囲内である場合を示し、
図6(b)は、進入検知の遅れが許容範囲を超える場合を示している。
【0073】
図6(a)に示すように、手前の区間3Tを走行中は、区間ID=「3」、制御速度=「75km/h」、の走行制御情報40を連続的に受信しており、定常受信条件を満たす毎、すなわち走行制御情報40の受信毎に、無信号タイマ及び無信号距離カウンタがリセットされる。列車が区間境界を通過すると、走行制御情報40が受信されない無信号状態が発生し、無信号タイマ及び無信号距離カウンタはともにリセットされずにタイマ値及びカウント値は増加する。
【0074】
そして、無信号タイマのタイマ値(無信号時間)が第1閾値時間に達したことで区間境界の通過が仮判定され、制御速度が、手前の区間3Tの制御速度である「75km/h」と次の区間4Tの制御速度である「55km/h」とのうち、低い方の「55km/h」に変更される。その後、次の区間4Tに伝送されている走行制御情報40を受信し、定常受信条件を満たすと、無信号タイマ及び無信号距離カウンタが、ともにリセットされる。以降は、定常受信条件を満たす毎、すなわち走行制御情報40の受信毎に、無信号タイマ及び無信号距離カウンタがリセットされる。
【0075】
一方、
図6(b)に示すように、地上装置による区間4Tへの列車進入検知が遅れた場合には、区間4Tへの走行制御情報40の伝送開始が遅れる。このため、車上装置20における走行制御情報40の受信も遅れることとなる。区間境界を通過後、無信号タイマのタイマ値(無信号時間)が第1閾値時間に達したことで区間境界の通過が仮判定されて制御速度が「55km/h」に変更されるまでは
図6(a)と同じであるが、その後、定常受信条件を満たす前に無信号距離カウンタのカウント値(無信号距離)が閾値距離に達する。このため、列車を緊急停止させるべき無信号であると判断し、制御速度を停止速度に変更する。停止速度へのブレーキ制御は非常ブレーキの動作となる。なお、閾値距離に達した後、更に所定の猶予時間(例えば1.5秒など)待って、それでも定常受信条件を満たさない場合にはじめて制御速度を停止速度に変更することとしてもよい。何れにせよ、制御速度を停止速度とするか否かを少なくとも無信号距離を用いて制御する。
【0076】
図7は、区間途中の撚架点を通過する際の瞬時無信号の判定を説明するための図である。
図7では、横軸を列車位置として、上から順に、レールRに伝送されるATC信号、車上装置20における受信電文、無信号タイマのタイマ値(無信号時間)、無信号距離カウンタのカウント値(無信号距離)、「20km/h」の制御速度信号の出力状態、及び、制御速度、を示している。区間5Tには、区間ID=「5」、制御速度=「20km/h」、の走行制御情報40が伝送されている。
図7(a)は、通常の走行速度(高速)で撚架点上を通過した場合を示し、
図7(b)は、撚架点上で停止した場合を示している。
【0077】
図7(a)に示すように、区間5Tを走行中は、区間ID=「5」の走行制御情報40を連続的に受信し、走行制御情報の受信毎に定常受信条件を満たすと判定されて無信号タイマ及び無信号距離カウンタがリセットされるとともに、「20km/h」の速度制御信号が出力されている。次いで、撚架点(詳細には、撚架点を含む所定範囲)に差し掛かると、車上装置20におけるATC信号の受信信号強度が徐々に低下し、このATC信号の受信信号強度が所定強度を下回った時点で、走行制御情報40が受信されない無信号状態となる。この無信号状態の間は、定常受信条件が満たされず、無信号タイマ及び無信号距離カウンタは、ともにリセットされずにタイマ値及びカウント値が増加する。
【0078】
撚架点(詳細には、撚架点を含む所定範囲)を通り過ぎると、車上装置20におけるATC信号の受信信号強度が徐々に増加し、このATC信号の受信信号強度が所定強度に達した時点で、再度、走行制御情報40が受信されるようになる。そして、定常受信条件を満たした時点で、無信号タイマ及び無信号距離カウンタがともにリセットされる。この時点では、無信号タイマのカウント値(無信号時間)が第2閾値時間に達せず、且つ、無新語距離カウンタのカウント値(無信号距離)が閾値距離に達していない。以降は、定常受信条件を満たす毎、すなわち、1つの走行制御情報の受信毎に、無信号タイマ、及び、無信号距離カウンタがリセットされる。
【0079】
一方、
図7(b)に示すように、列車が撚架点上で停止した場合には、列車が撚架点に差し掛かり、車上装置20におけるATC信号の受信強度が徐々に低下して所定強度を下回って走行制御情報40が受信されない無信号状態となるまでは、
図7(a)と同様である。撚架点上で停止するため、車上装置20において走行制御情報40が受信されない無信号状態が継続し、無信号タイマのタイマ値(無信号時間)が増加する。列車は停止しているため、無信号距離カウンタは増加しない。そして、無信号タイマのタイマ値(無信号時間)が第2閾値時間に達した時点で、列車を緊急停止させるべき無信号であると判断し、制御速度が停止速度に変更され、非常ブレーキが動作する。
【0080】
図8は、距離積算カウンタによる区間走行距離の算出の説明図である。
図8では、右方向を列車の進行方向とし、上から順に、レールRに伝送されるATC信号、車上装置20における受信電文、距離積算カウンタのカウント値(区間走行距離)、無信号距離カウンタのカウント値(無信号距離)、を示している。なお、距離積算カウンタのカウント値(区間走行距離)は破線で、無信号距離カウンタのカウント値(無信号距離)は実線で示している。
【0081】
図8に示すように、手前の区間6Tを走行中は、区間ID=「6」の走行制御情報40を連続的に受信しており、定常受信条件を満たすと判定される毎、すなわち走行制御情報40の受信毎に、無信号距離カウンタがリセットされる。次いで、区間6Tと区間7Tとの境界を通過する際に、一時的に走行制御情報40が受信されない無信号状態となり、無信号距離カウンタはリセットされずにカウント値(無信号距離)は増加する。その後、区間ID=「7」の走行制御情報40の受信が開始され、定常受信条件を満たすと判定されたタイミングt6以降、定常受信条件を満たすと判定される毎、すなわち走行制御情報40の受信毎に、無信号距離カウンタがリセットされる。
【0082】
また、区間6T,7Tの境界を通過後、最初に定常受信条件を満たすと判定されるタイミングt6では、区間6T,7Tの境界の通過が判定され、距離積算カウンタのカウント値(区間走行距離)が、当該タイミングt6における無信号距離カウンタのリセット前のカウント値(無信号距離)に更新される。タイミングt6における無信号距離カウンタのリセット前のカウント値(無信号距離)は、タイミングt6の直前に定常受信条件を満たすと判定したタイミングt5の位置、すなわち、区間6T,7Tの境界とみなした位置からの走行距離である。つまり、距離積算カウンタのカウント値(区間走行距離)は、
図3を参照して説明した区間境界とみなした位置からの走行距離となっている。
【0083】
[機能構成]
図9は、車上装置20の構成図である。
図9によれば、車上装置20は、処理部100と、記憶部200とを備えて構成される一種のコンピュータ装置とも言える。
【0084】
処理部100は、例えばCPU等の演算装置で実現され、記憶部200に記憶されたプログラムやデータ等に基づいて車上装置20の全体制御を行う。また、処理部100は、位置速度算出部110と、無信号検出部120と、定常受信判定部130と、無信号時間算出部140、無信号距離算出部150と、区間走行距離算出部160と、境界通過判定部170と、境界接近判定部180と、速度制御部190とを有する。
【0085】
位置速度算出部110は、車軸に取り付けられた速度発電機12から入力される回転数の計測値信号(PG信号)をもとに、自列車10の現在の走行位置(走行距離)、及び、走行速度を算出する。算出した走行位置、及び、走行距離は、算出位置速度情報220として記憶される。
【0086】
無信号検出部120は、レールRから走行制御情報40が受信されていない無信号状態であることを検出する。無信号状態を検出した後は、定常受信判定部130によって次に走行制御情報40の受信状態が定常受信状態となったこと、すなわち正常受信したと判定されるまで、継続して無信号状態にあるとして検出する。
【0087】
定常受信判定部130は、定常受信条件を満たすかを判定することで、レールRから受信した走行制御情報40が正常に受信されたか否か(安全かつ合理的に受信されたか否か)を判定する。定常受信条件は、直近に受信した複数の走行制御情報40を基に判断する条件とし、例えば、区間IDが同一である2つの走行制御情報40を連続して受信したこと、或いは、連続する3つの走行制御情報40のうち、区間ID或いは電文内容全体が一致する2つ以上の走行制御情報40を含むこと、などと定めることができる。
【0088】
無信号時間算出部140は、無信号状態の継続時間である無信号時間を算出する。すなわち、上述の無信号タイマに相当し、この無信号タイマのタイマ値を無信号時間とする。つまり、常時、経過時間をカウント(積算)するとともに、定常受信判定部130によって走行制御情報40を安全かつ合理的、すなわち正常受信したと判定される毎に、タイマ値をリセットする。
【0089】
無信号距離算出部150は、無信号状態の継続期間における走行距離である無信号距離を算出する。すなわち、上述の無信号距離カウンタに相当し、無信号距離カウンタのカウント値を、無信号距離とする。つまり、常時、走行距離をカウント(積算)し、定常受信判定部130によって走行制御情報40を安全かつ合理的、すなわち正常受信したと判定される毎に、カウント値をリセットする。走行距離は、例えば、位置速度算出部110によって算出された現在の走行速度を時間積分して求められる。
【0090】
区間走行距離算出部160は、区間境界を基点とした自列車の走行距離である区間走行距離を算出する。区間走行距離は、距離積算カウンタを用いて算出する。この距離積算カウンタは、常時、走行距離を積算し、境界通過判定部170によって区間境界の通過が確定されると、カウント値を、無信号距離算出部150によって算出されている無信号距離に更新する。走行距離は、例えば、位置速度算出部110によって算出された現在の走行速度を時間積分して求められる。
【0091】
境界通過判定部170は、自列車が区間境界を通過したことを判定する。すなわち、無信号時間算出部140によって算出された無信号時間が第1閾値時間に達した場合に、区間境界を通過したと仮判定する。第1閾値時間は、閾値情報240に含めて記憶されている。また、定常受信判定部130によって走行制御情報40を正常受信した(すなわち安全かつ合理的に受信した)と判定された走行制御情報40の区間IDが、前回正常受信した(すなわち前回、安全かつ合理的に受信した)と判定された走行制御情報40の区間IDと異なる場合に、区間境界を通過したと確定する。
【0092】
境界接近判定部180は、現在走行中の区間の進出側の区間境界への接近を判定する。具体的には、自列車の走行位置が、当該区間内であって進出側の手前に定めた境界接近地点に達している場合に、当該区間の進出側の区間境界に接近していると判定する。境界接近地点は、進入側から、当該区間の区間長の所定割合(例えば、80%)の距離の位置に定められる。つまり、区間走行距離算出部160によって算出された区間走行距離が、当該区間の区間長の所定割合(例えば、80%)に達している場合に、当該区間の進出側の区間境界に接近していると判定する。
【0093】
速度制御部190は、有信号時制御速度設定部191と、無信号時制御速度設定部192とを有し、有信号時制御速度設定部191、或いは、無信号時制御速度設定部192が設定した制御速度に従った自列車の速度制御を行う。すなわち、通常は、設定した制御速度と、位置速度算出部110で算出された自列車10の現在の走行速度とを照査し、現在の走行速度が制御速度より高い場合は常用ブレーキを動作させ、制御速度まで減速させる。設定した制御速度が停止速度の場合は、非常ブレーキを動作させて列車を停止させる。
【0094】
有信号時制御速度設定部191は、無信号検出部120によって無信号が検出されていない(有信号の)期間における制御速度を設定する。具体的には、定常受信判定部130によって走行制御情報40を正常受信した(安全かつ合理的に受信した)と判定される毎に、当該走行制御情報40に含まれる当該区間の制御速度である当該区間制御速度V
0を制御速度として設定する。
【0095】
無信号時制御速度設定部192は、無信号検出部120によって無信号が検出されている間における制御速度を設定する。具体的には、境界接近判定部180によって進出側の区間境界に接近していると判定された場合には、次のように制御速度を設定する。すなわち、無信号時間が第1閾値時間以下ならば、受信した走行制御情報40に含まれる当該区間の制御速度(当該区間制御速度)V
0を、制御速度として設定する。また、無信号時間が第2閾値時間以上である、或いは、無信号距離が閾値距離以上である場合には、停止速度を制御速度として設定する。これら以外の場合には、受信した走行制御情報40に含まれる当該区間制御速度V
0と、次の区間の制御速度(内方区間制御速度)V
1とのうち、低い方の速度を制御速度として設定する。なお、第1閾値時間、第2閾値時間、及び、閾値距離は、閾値情報240に含めて記憶されている。
【0096】
一方、区間境界に接近していないと判定された場合には、次のように制御速度を設定する。すなわち、無信号時間が第2閾値時間以上である、或いは、無信号距離が閾値距離以上である場合には、停止速度を制御速度として設定する。これ以外の場合には、受信した走行制御情報40に含まれる当該区間の制御速度V
0を制御速度として設定する。
【0097】
記憶部200は、ROMやRAM、ハードディスク等の記憶装置で実現され、処理部100が車上装置20を統合的に制御するためのプログラムやデータ等を記憶しているとともに、処理部100の作業領域として用いられ、処理部100が実行した演算結果等が一時的に格納される。本実施形態では、列車制御プログラム210と、算出位置速度情報220と、受信走行制御情報230と、閾値情報240とが記憶される。
【0098】
[処理の流れ]
図10は、列車制御処理の流れを説明するフローチャートである。この処理は、車上装置20において、処理部100が列車制御プログラム210に従って実行する処理である。
【0099】
図10によれば、先ず、無信号検出部120が、走行制御情報40を受信できない無信号が発生しているか否かを検出する。無信号が発生しているならば(ステップA1:YES)、無信号時速度制御処理を行う(ステップA15)。
【0100】
無信号が発生していないならば(ステップ1:NO)、定常受信判定部130が走行制御情報40を正常受信したか否か(安全かつ合理的に受信したか否か)を判定する。走行制御情報40を正常受信した(安全かつ合理的に受信した)ならば(ステップA3:YES)、続いて、境界通過判定部170が、当該走行制御情報40の受信によって区間境界の通過を確定したか否かを判定する。区間境界の通過を確定したならば(ステップA5:YES)、区間走行距離を無信号距離に更新する(ステップA7)。
【0101】
続いて、無信号時間、及び、無信号距離をリセットする(ステップA9)。また、正常受信した(安全かつ合理的に受信した)走行制御情報40に含まれる当該区間の制御速度V
0を制御速度に設定し(ステップA11)、設定した制御速度と現在の走行速度とを照査し、列車速度が制御速度以下となるように常用ブレーキを動作させるブレーキ制御を行う(ステップA13)。その後、ステップA1に戻り、同様の処理を繰り返す。
【0102】
図11は、無信号時速度制御処理の流れを説明するフローチャートである。先ず、境界接近判定部180が、自列車が進出側の区間境界に接近したか否かを判定する。区間境界に接近しているならば(ステップB1:YES)、無信号時間と第1閾値時間とを比較する。無信号時間が第1閾値時間以下ならば(ステップB3:NO)、当該区間の制御速度V
0を制御速度に設定し(ステップB5)、設定した制御速度と現在の走行速度とを照査し、列車速度が制御速度以下となるように常用ブレーキを動作させるブレーキ制御を行う(ステップB15)。
【0103】
無信号時間が第1閾値時間を超えるならば(ステップB3:YES)、続いて、無信号時間と第2閾値時間とを比較する。無信号時間が第2閾値時間以上ならば(ステップB7:NO)、停止速度を制御速度に設定し(ステップB25)、非常ブレーキを動作させるブレーキ制御を行う(ステップB27)。無信号時間が第2閾値時間未満であることは、無信号状態での走行を許容する許容時間条件を満たすと言え、この許容時間条件を満たさなくなった場合には、列車を停止させる。
【0104】
無信号時間が第2閾値時間未満ならば(ステップB7:YES)、現在の走行速度に応じて閾値距離を設定し(ステップB9)、無信号距離と設定した閾値距離とを比較する。無信号距離が閾値距離以上ならば(ステップB11:NO)、停止速度を制御速度に設定し(ステップB25)、非常ブレーキを動作させるブレーキ制御を行う(ステップB27)。無信号距離が閾値距離未満であることは、無信号状態での走行を許容する許容距離条件を満たすと言え、この許容時間条件を満たさなくなった場合には、列車を停止させる。
【0105】
無信号距離が閾値距離未満ならば(ステップB11:YES)、当該区間の制御速度V
0と内方区間の制御速度V
1とのうち、低い方を制御速度として設定する(ステップB13)。そして、設定した制御速度と現在の走行速度とを照査し、列車速度が制御速度以下となるように常用ブレーキを動作させるブレーキ制御を行う(ステップB15)。その後、走行制御情報40を正常受信したか否か(安全かつ合理的に受信したか否か)を判定し、正常受信していないならば(ステップB17:NO)、ステップB3に戻り、同様の処理を繰り返す。
【0106】
走行制御情報40を正常受信した(安全かつ合理的に受信した)ならば(ステップB17:YES)、当該走行制御情報40の受信によって区間境界の通過を確定したか否かを判定する。区間境界の通過を確定したならば(ステップB19:YES)、区間走行距離に無信号距離を設定して区間走行距離を更新する(ステップB21)。その後、無信号時間、及び、無信号距離をリセットする(ステップB23)。
【0107】
一方、区間境界に接近していないならば(ステップB1:NO)、無信号時間と第2閾値時間とを比較する。無信号時間が第2閾値時間以上ならば(ステップB29:NO)、停止速度を制御速度に設定し(ステップB43)、非常ブレーキを動作させるブレーキ制御を行う(ステップB45)。
【0108】
無信号時間が第2閾値時間未満ならば(ステップB29:YES)、現在の走行速度に応じて閾値距離を設定し(ステップB31)、無信号距離と設定した閾値距離とを比較する。無信号距離が閾値距離以上ならば(ステップB33:NO)、停止速度を制御速度に設定し(ステップB43)、非常ブレーキを動作させるブレーキ制御を行う(ステップB45)。無信号距離が閾値距離未満ならば(ステップB33:YES)、当該区間制御速度V
0を制御速度に設定し(ステップB35)、設定した制御速度と現在の走行速度とを照査し、列車速度が制御速度以下となるように常用ブレーキを動作させるブレーキ制御を行う(ステップB37)。
【0109】
その後、走行制御情報40を正常受信したか否か(安全かつ合理的に受信したか否か)を判定し、正常受信していないならば(ステップB39:NO)、ステップB29に戻り、同様の処理を繰り返す。走行制御情報40を正常受信したならば(ステップB39:YES)、無信号時間、及び、無信号距離をリセットする(ステップB41)。以上の処理を行うと、無信号時速度制御処理を終了する。
【0110】
[作用効果]
このように、本実施形態によれば、列車10に搭載される車上装置20は、レールRから受信した走行制御情報40に基づく走行制御を行う。すなわち、走行制御情報40が受信されない無信号状態の間の経過時間である無信号時間を算出し、無信号時間が第1閾値時間に達すると、区間境界を通過したとみなして、次の区間(内方区間)の制御速度に応じた速度制御に変更する。これにより、受信電文の解読・判別による区間進入時の制動開始の遅れを解消できる。
【0111】
また、無信号状態の間の走行距離である無信号距離を算出し、無信号時間が第1閾値時間より長い第2閾値時間に達した場合、或いは、無信号距離が閾値距離に達した場合に、停止速度を制御速度として列車を停止させる。これにより、区間境界の通過時等に発生する瞬時無信号による不要な非常ブレーキを回避できる。
【0112】
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。例えば、各種条件の数値は一例であり、適宜、他の数値に設定してもよい。例えば、境界接近地点を、進入側から当該区間の区間長の80%の地点として一例を挙げたが、当該区間の区間長から列車編成長を減算した長さ分だけ、進入側から進んだ地点を境界接近地点とする等、他の設定方法を選択することとしてもよい。