(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、魚釣用リールには、例えば、特許文献1に開示されているように、ドラグ装置が組み込まれている。このドラグ装置は、仕掛けに魚が掛かった際、引き出される釣糸に対して制動力を付与するものであり、特許文献1に開示されているようなスピニングリールでは、ドラグノブを調整することで、スプール軸に回転可能に保持されたスプールの回転に所望の制動力を加えることができるよう構成されている。
【0003】
上記したドラグ装置は、スピニングリール、両軸受型リール、片軸受型リール等、各種の魚釣用リールに組み込まれており、スピニングリールでは、フロントドラグタイプ、リヤドラグタイプが知られている。一般的に、スピニングリールでは、スプール軸とスプールとの間に制動力を生じさせるように、複数枚の制動部材(ライニングワッシャ、ドラグワッシャ)を隣接させて相互に面接触するよう配設している。
【0004】
前記ライニングワッシャは、例えば、フェルト、パルプ、強化繊維などを含んだ合成樹脂、パンチング樹脂等によって形成され、前記ドラグワッシャ(ライニングワッシャの相手材)は、耐久性に優れた金属材料等によって形成され、スプールやスプール軸に対して回り止め固定される。そして、前記ライニングワッシャは、ドラグワッシャに挟持された状態で配設され(多板で構成されることもある)、制動特性が滑らかになるように、一般的にグリスが付着された状態となっている。
【0005】
このようなドラグ装置は、実釣時において、ユーザの好みによってドラグ力が調整される。すなわち、ドラグ力を大きくしたい場合は、ドラグ調整ノブを締め付けることで、前記ライニングワッシャに対する面圧力を大きくしてドラグ力を大きく設定することができ、ドラグ調整ノブを緩めることで、前記ライニングワッシャに対する面圧力を小さくしてドラグ力を小さく設定することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、ドラグ力は、ドラグワッシャとライニングワッシャとの間の面圧力、すなわち、両者の間の摩擦力の大きさによって変化する。この場合、両者の間で生じる摩擦力が抵抗となってドラグ力が発揮されるが、両者の間には熱が発生し、また摩耗も生じることから、上記したようにライニングワッシャにグリスを塗布することでこのような現象を抑制している。
【0008】
ところで、従来のドラグ装置は、ドラグ作動時のドラグ力が安定しなかったり、ドラグ力が作用する際の静摩擦状態から動摩擦状態へ切り替わるときの衝撃が大きいといった問題がある。このような問題が生じるのはいくつかの要因があり、その一つとしてライニングワッシャに塗布されているグリスが影響を与えているものと考えられる。具体的には、ライニングワッシャにグリスを塗布すると、その表面に油膜を形成することとなるが、従来のグリスでは、ライニングワッシャとドラグワッシャとの間に安定した油膜を形成することができず、これが上記の問題の要因と考えられる。特に、ドラグ力を強く設定すると、ライニングワッシャに対する面圧力が大きくなって油膜を潰したり、グリスがライニングワッシャ内に部分的に入り込むなどして、面上にグリスが多い部分と少ない部分が混在し、油膜の状態が安定しなくなる。したがって、この状態で回転力が加わると、油膜が薄い部分では剪断力によって油膜が切れてしまい、安定したドラグ性能が得られなくなる。
【0009】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、安定したドラグ性能を発揮できるドラグ装置を組み込んだ魚釣用リールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述したように、魚釣用リールに組み込まれるドラグ装置のライニングワッシャには、グリスが塗布(浸漬)されているが、このようなグリスは、発熱及び摩耗を抑制するために用いられるのであり、従来の魚釣用リールでは、ライニングワッシャに対して浸漬し易い範囲の粘度(概ね20〜200mm
2 /s )のグリスを用いることが常識となっている。
【0011】
この場合、粘度が低くなれば流動性が高まることから、ライニングワッシャの表面で万遍なく均一な膜を形成、維持することが難しくなり、また、フェルトのようなライニング材であれば、内部へ浸透し易くなることから、部分的にグリスの膜厚が薄くなることが考えられる。安定したドラグ性能を発揮するためには、ライニングワッシャとドラグワッシャとの間に均一で安定した油膜を形成することが望ましいと考えられるが、上記したような、概ね20〜200mm
2 /s のグリスでは、安定した油膜を形成することはできず、特に圧接力を強く(ドラグ力を強く)設定するとグリスは移動し易くなる。
【0012】
本発明者らは、ライニングワッシャの表面に設けられるグリスについて様々な検討をしたところ、従来の魚釣用リールで用いられているグリスよりも粘度が高いグリスを用いることでドラグワッシャとライニングワッシャが摩擦回転する際、ライニングワッシャの表面で安定した油膜を形成することができ、これにより、安定したドラグ特性が得られることを見出し、本発明を着想するに至った。
【0013】
すなわち、本発明に係る魚釣用リールは、上記した課題を解決するために、ハンドルの回転操作によって釣糸が巻回されるスプールと、前記スプールに対して所定の制動力を付与するドラグ装置と、を有する魚釣用リールにおいて、前記ドラグ装置は、ドラグワッシャと、ドラグワッシャに面接するライニングワッシャと、前記ドラグワッシャのライニングワッシャに対する押圧力を調整する操作部材と、を備えており、前記ライニングワッシャに、粘度が800mm
2 /s 以上のグリスが用いられていることを特徴とする。
【0014】
上記した構成の魚釣用リールによれば、ライニングワッシャに従来よりも粘度が高い(800mm
2 /s 以上)グリスを用いたことで、グリスの流動性が低下し、ライニングワッシャとドラグワッシャとの間に形成される油膜を維持できるようになる。すなわち、ライニングワッシャの面上において、油膜が薄くなる部分が点在するようなこと(不安定な油膜が形成されること)が抑制され、これによりライニングワッシャとドラグワッシャが相対回転しても、剪断力によって油膜が切れることが抑制され、安定したドラグ力を生じさせることが可能となる。特に、静摩擦から動摩擦へ切り替わる際、略均一に形成されている油膜によって、ライニングワッシャとドラグワッシャの滑り出しをスムーズにすることができ、これによりドラグ力の作動し始めに起きる衝撃が緩和され、糸切れ等が生じることが抑制される。また、動摩擦力が作用しているときも、ライニングワッシャとドラグワッシャとの間に安定した油膜が存在しており、油膜切れも抑制されるため、安定したドラグ性能が得られる。
【0015】
なお、上記した構成において、上記した粘度のグリスは、ライニングワッシャの構成にもよるが、樹脂や炭素繊維のような素材であれば表面に塗布された状態(表面に注油した状態)にあっても良いし、フェルトのような素材であれば、内部に浸漬した状態にあっても良い。また、グリスの粘度については、800mm
2 /s 以上であれば良いが、スピニングリールの場合と、両軸受型リールの場合とでは、好ましい領域が異なる。すなわち、両軸受型リールの場合、ドラグ装置はハンドル軸部分に装着され、スプールが引き出された際、ハンドル軸に設けられるドライブギアとスプール軸に設けられるピニオンギアのギア比による影響があり、好ましい粘度は、スピニングリールと比較すると高くなる。具体的には、後述するように、複数のテスターによって得られる評価によれば、スピニングリールの場合、粘度が900〜2500mm
2 /s の範囲で良好な結果が得られ、両軸受型リールの場合、粘度が5000〜23000mm
2 /s の範囲で良好な結果が得られた。また、粘度の上限については、本発明の技術思想では特に限定されないが、100000mm
2 /s 程度の高粘度のグリスを用いることも可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、安定したドラグ性能を発揮できるドラグ装置を組み込んだ魚釣用リールが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る魚釣用リールの実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
図1から
図3は、本発明に係る魚釣用リール(スピニングリール)の一実施形態を示しており、
図1はスプールの内部構成を示した図、
図2はスプール部分の拡大図、そして
図3はドラグ装置のドラグワッシャ(相手材)、及び、グリスが設けられるライニングワッシャの配置を示す斜視図である。
【0019】
スピニングリールのリール本体1には、釣竿に装着されるリール脚1aが一体形成されており、その前方には回転可能に支持されたロータ2と、ロータ2の回転運動と同期して前後動可能に支持され、釣糸が巻回されるスプール3が配設されている。
【0020】
前記リール本体1内には、ハンドル軸5aが回転可能に支持されており、その突出端部にはハンドル5が取り付けられている。また、ハンドル軸5aには、公知の巻取り駆動機構が係合しており、この巻取り駆動機構は、ハンドル軸に取り付けられ、内歯が形成されたドライブギア(駆動歯車)7と、このドライブギア7に噛合すると共にハンドル軸5aと直交する方向に延出し、内部に軸方向に延出する空洞部8aが形成されたピニオンギア8とを備えている。なお、ピニオンギア8は、その後端側に歯部8bが形成されており、この歯部8bがドライブギア7と噛合関係となる。
【0021】
前記ピニオンギア8の空洞部8aには、前記スプール3を回転可能に支持するスプール軸4が軸方向に前後動可能に挿通されている。このスプール軸4の後方側には、公知のオシレート機構10が係合しており、ハンドル5を回転操作すると、オシレート機構10を介して前記スプール軸4(スプール3)は前後に往復動される。また、前記ピニオンギア8の前方側には、ロータナットを締め付けることで、前記ロータ2がピニオンギア8に対して固定されている。すなわち、ハンドル5を巻き取り操作することで、ロータ2が回転すると共に、この回転と同期してスプール3は前後に往復動され、釣糸は、ロータと共に回転する釣糸案内装置(ラインローラ)を介して、スプール3に均等に巻回される。
【0022】
前記スプール3は、スプール軸4に対して所定の制動力を付与するドラグ装置20を介して回転可能に支持されている。
前記ドラグ装置20は、スプール3の内部(円筒状の内部空間;凹所)に収容されており、後述するように、ライニングワッシャ22,ドラグワッシャ23,24(これらを制動部材21と称する)と、これらに対して軸方向に沿って押圧力を作用する押圧部材27aと、この押圧部材27aに対する押圧力を調整するドラグ調整ノブ(操作部材)27と、を備えている。
【0023】
前記スプール軸4の先端には、雄螺子部4aが形成されており、この部分に軸方向に移動可能にナット30が回り止め嵌合されている。このナット30は、ドラグ調整ノブ27に装着固定され、カップ状に形成された前記押圧部材27a内に設けた螺旋バネ32のバネ力によってドラグ調整ノブ27側に圧接されている。また、前記スプール軸4の前部には、ピン35によってスプールメタル37が一体的に連結(スプール軸を囲繞している)されており、このスプールメタル37の外周にカップ状で内周に凹凸部が形成されたバネ受40(発音体)が回り止め嵌合されている(本実施形態では、このバネ受40も前記制動部材21を構成する)。そして、押圧部材27aに係止された環状バネ42の端部がバネ受40の凹凸部に係合しており、ドラグ調整ノブ27を回転させることにより節度感のあるクリック音を発生するように構成されている。すなわち、ドラグ調整ノブ27を左右いずれかに回すことで、ナット30をスプール軸4に対して進退させ、それによって螺旋バネ32のバネ力を調節し、ドラグ装置20の制動部材21に対して所望のドラグ力を発生させることができる。
【0024】
上記したように、制動部材21は、中央でスプール軸4を挿通させるようにリング状に形成されたライニングワッシャ22,ドラグワッシャ23,24、及びバネ受40を備えており、これらは隣接して互いに面接するように配設されている。この場合、ライニングワッシャ22は、後述するグリスが浸漬可能となるように、例えばフェルトによって形成されており、バネ受40とドラグワッシャ23との間、ドラグワッシャ23,24の間、及びドラグワッシャ24とスプール3の内面3aとの間に回転可能に介在されている。また、ドラグワッシャ23,24及びバネ受40は、ライニングワッシャの相手材となり、SUS等の金属によって形成されている。
【0025】
前記バネ受40は、スプールメタル37に対して回り止め嵌合され、前記ドラグワッシャ23は、外周端に形成した折曲部23aをスプール3に係合させてスプール3と一体回転可能に回り止め固定され、前記ドラグワッシャ24は、スプールメタル37に対して回り止め嵌合されている。すなわち、本実施形態の制動部材21は、複数枚のライニングワッシャ22を、スプール軸(スプールメタル)に対して回り止め固定されるバネ受40、スプールに対して回り止め固定されるドラグワッシャ23、及びスプール3に対して回り止め固定されるドラグワッシャ24に介在することで構成され、バネ受40に対して押圧部材27aを押し付けることで、ドラグワッシャのライニングワッシャに対する押圧力が調整され、スプール3に対してドラグ力を発生するよう構成されている。この場合、ドラグ力は、ドラグ調整ノブ27を回転操作することで調整される。
【0026】
前記ライニングワッシャ24には、グリス(図示せず)が設けられている。この場合、グリスは、ライニングワッシャ22の構成素材にもよるが、その表面部分に塗布されていても良いし、浸漬されていても良く、その表面に一定の油膜が形成された状態となっていれば良い。また、グリスについては、粘度が700mm
2 /s 以上のものを用いれば、従来の魚釣用リールのドラグ装置に用いられているグリスと比較して、ライニングワッシャの表面に略均一の油膜を形成・維持することが可能である。なお、具体的には、後述する評価試験から、スピニングリールであれば、粘度が800mm
2 /s 以上であれば良好な結果が得られ、好ましくは、粘度が900〜2500mm
2 /s 、より好ましくは、1100〜1900mm
2 /s のものを用いるのが良い。
【0027】
この場合、上記したような粘度を有するグリスは、例えば、鉱物油を基油とし、リチウム石鹸等の増ちょう剤、及び、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の固体潤滑剤を所定の配合率で混ぜることで構成することが可能である。
以下、粘度の異なるグリスを用いた評価試験の内容、及び、粘度の高いグリスを用いたことによるドラグ特性について説明する。
【0028】
評価試験は、同じタイプのスピニングリールを複数準備し、各スピニングリールに、粘度が異なるグリスをライニングワッシャに設け、5名のテスター(A〜E)に管理釣り場で実釣してもらい、その操作性を評価することで行なった。なお、各人が使用するロッドは、普段、自らが使用しているものであり、スプールに巻回するラインについては細めのもの(2.0lb)を使用し、評価に際しては、一人当たり、1つのリールで5〜10匹程度を目標に釣ってもらった。そして、各人が、通常行っているのと同じようにドラグ設定してもらい(このため、テスター毎に初期ドラグ設定は異なる)、魚を掛ける際のフッキング操作、魚が掛かった際のドラグの滑り出し状態、ドラグの止まり方、ランディングのし易さ、魚が掛かったときのバラしやライン切れを起こさないようにするための操作(ドラグノブの調整操作、スプールの抑え付け操作、ロッドの操作など)の頻度や必要性などを総合的に判断し、従来品と比較して、非常に良いと感じたものを(◎)、良いと感じたものを(○)、多少良いと感じたものを(△)、変わらない(殆ど変らない)と感じたものを(×)とする4段階評価をしてもらった。
【0029】
なお、テスターが所有し、常用しているスピニングリールのドラグ装置に用いられているグリスの粘度は、概ね20〜200mm
2 /s である。評価は、普段使用しているロッドに、粘度が異なるグリスをライニングワッシャに設けたスピニングリールをグリス毎に複数準備し、それぞれをロッドに装着してグリス毎に評価している。すなわち、各テスターは、普段、扱い慣れているスピニングリールとの間で、グリスの相違によって操作性の違いを感覚的に把握することが可能となる。この場合、ヒットした魚種や大きさによって操作性も変わるため、できるだけ適正な評価ができるように、少なくとも5匹以上釣って評価を行ったところ、下記の表の結果が得られた。
【0031】
上記した評価によれば、グリスが高粘度(700mm
2 /s 以上)になると、全てのテスターで操作性が良くなる、と感じる結果が得られた。すなわち、粘度が600mm
2 /s では、従来品よりも多少良くなるという結果(3名のテスターが多少良くなると判断し、2名が変わらないと判断した)が得られたが、700mm
2 /s 以上になると、全てのテスターは操作性が良くなると感じており、さらに、800〜2500mm
2 /s の範囲では、いずれかのテスターも操作性が良好になると判断している。特に、1100〜1900mm
2 /s の範囲では評価が高くなり、1300〜1500mm
2 /s の範囲で最も良い評価を得ることができた。この評価試験から、グリスの粘度は、3000mm
2 /s を超えて、ある程度高くなっても、従来品よりも操作性の向上は認められるが(粘度が3100〜3300mm
2 /s でも、ある程度、良い評価が得られている)、余り粘度を高くし過ぎると、ドラグ力を発生させる際に、初期スプールフリー回転が重くなる傾向が強くなって好ましくはないと考えられる。また、ライニングワッシャをフェルト等で形成した際に、その内部にグリスを浸漬させることが困難になることも予測される。このため、用いるグリスの粘度の上限については、通常のスピニングリールの場合、実釣時の操作性の向上が効果的に図れるように、3000mm
2 /s が好ましいと考えられる。
【0032】
なお、従来品と比較して評価が良くなった理由としては、ライン切れを起こさないように、ある程度、ドラグ力を低く設定した状態で魚が掛かった際、フッキングする際にロッドを大きく煽ってもスプールの空回りが抑制されて確実にフッキングができること(フッキングに際してスプールを抑え付けたり、ドラグ調整する必要性が少なくなったこと)、魚とのやり取りにおいて、魚が断続的に引いた際、口切れしたり、ラインが切れる可能性が減ったこと(このような状況を起こさないようなドラグ調整操作が減ったこと)、魚を取り込む際に、あわてて強ドラグ状態に調整する操作が抑制されたこと、等が挙げられる。すなわち、グリスの粘度を上記した範囲に設定することにより、細いラインを使用しても糸切れや口切れが抑制できるとともに、魚とやり取りする際の操作性の向上が図れるようになる。
【0033】
また、両軸受型リールについても同一のテスターA〜Eによって評価試験を行ったところ、グリスが高粘度(800mm
2 /s 以上)になると、従来の両軸受型リールと比較してある程度操作性が良くなる、と感じる結果が得られた。ただし、上述したように、両軸受型リールは、ドラグ装置が組み込まれている部分のギア比の関係から、スプールが繰り出された際のドラグワッシャとライニングワッシャ部分での回転量がスピニングリールと異なるとともに、ドラグ装置を構成するワッシャ部分(ドラグワッシャ、ライニングワッシャ)の構成も異なることから、好ましいグリスの範囲は若干高くなった。このため、表2で示すように、比較的高評価が得られる範囲で試験を行った。
【0034】
評価は、スピニングリールの場合と同様、普段使用しているロッドに、粘度が異なるグリスをライニングワッシャに設けた両軸受型リール(ギア比は6.8〜9.1)をグリス毎に複数準備し、それぞれをロッドに装着してグリス毎に評価している。すなわち、各テスターは、普段、扱い慣れている両軸受型リールとの間で、グリスの相違によって操作性の違いを感覚的に把握することが可能となる。
【0036】
上記した評価結果では、グリスが高粘度(5000mm
2 /s 以上)になると、全てのテスターで操作性が良くなる、と感じる結果が得られた。すなわち、粘度が3000mm
2 /s では、従来品よりも多少良くなるという結果(3名のテスターが多少良くなると判断し、2名が変わらないと判断した)が得られたが、5000mm
2 /s 以上になると、全てのテスターは操作性が良くなると感じており、5000〜23000mm
2 /s の範囲では、いずれかのテスターも操作性が良好になると判断している。特に、7000〜17000mm
2 /s の範囲では評価が高くなり、11000〜13000mm
2 /s の範囲で最も良い評価を得ることができた。なお、この評価試験から、グリスの粘度は、25000mm
2 /s を超えて、ある程度高くなっても、従来品よりも操作性の向上は認められる。この場合、上限については、ギア比、ライニングワッシャの素材等の関係で明確に特定することはできないが、100000mm
2 /s 程度であっても、従来品と比較すれば相対的に良好、という評価が得られるものと考えられる。
【0037】
図4は、同じドラグ装置において、ライニングワッシャに設けられるグリスの粘度を変えて(上段は1280mm
2 /s の粘度、下段は20mm
2 /s の粘度)、スプールからの引き出し試験を行った際に得られる時間と共に変化する張力変化の測定結果である(グリスの粘度以外は同条件に設定してある)。なお、ドラグ装置は、3枚のライニングワッシャを3枚のドラグワッシャで挟持した多板構造であり、共にドラグ力を300gに設定し、スプールからの釣糸の引き出し速度を1km/hとして、時間と共に釣糸に作用する張力変化を測定した。
【0038】
両グラフにおいて、点線で囲む部分は、釣糸を引き出し始めてドラグ装置が滑り出す瞬間(静摩擦状態から動摩擦状態に変化する)を示しており、両グラフの対比から明らかなように、グリスの粘度が高いライニングワッシャを用いることで、ドラグ装置が滑り出すときの張力変化は緩やかになる。これは、ライニングワッシャとドラグワッシャ間での油膜が安定して維持された状態にあり、両者が相対回転する際に、剪断作用によって油膜が切れる現象が抑制され、両者が滑り出す瞬間に急激な張力変化が起こらないことが把握できる。すなわち、粘度の高いグリスを用いることにより、急激な張力変化が抑制され、糸切れすることが無くなるか、或いは、糸切れを引き起こさないようにする操作が不要となり、上記したような操作性が良好になる、という結果が得られたものと考えられる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されることはなく、種々変形することが可能である。上記したスピニングリールの実施形態のドラグ装置は、ライニングワッシャを3枚としたが、その枚数は限定されることはない。また、ドラグワッシャやライニングワッシャの素材に関しては、上記した粘度のグリスが保持できるものであれば、特定のものに限定されることはない。さらに、上記した実施形態では、スピニングリールを例示したが、両軸受型リール、電動リール、片軸受型リールのドラグ装置に適用することも可能である。