(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記昇圧回路制御手段は、前記第2領域において、前記インバータ回路の効率と前記モータの効率との積が最大となる直流電圧を前記昇圧回路に出力させる請求項1記載のインバータ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示されているモータ制御装置には以下のような問題点がある。
図21は、特許文献2に開示されている
図9に相当する図である。また、
図22は、
図21のA,B,C領域におけるインバータ回路の出力波形である。
【0008】
モータ回転数が低いA領域では、直流電圧指令が150Vで一定値とされている。しかし、交流電源の電圧が100V(ピーク電圧142V)とすると、ピーク電圧と比較しても昇圧回路は、少なくとも8Vの電圧を昇圧していることとなる。このため、昇圧回路がスイッチング動作を行うことによる損失が発生するという問題点がある。なお、A領域では、
図22(A)に示されるように、インバータ回路からは等幅のPWM波形が出力される。
【0009】
また、直流電圧指令がモータ回転数の増加と共に150Vから330Vで変化するB領域では、
図22(B)に示されるように、PWM制御からPAM制御とされる。すなわち、モータの回転数制御は、昇圧回路による電圧制御でのみ行われる。
このため、インバータ回路の出力波形は一定となり、モータのU相、V相、W相共にオン、オフが無い矩形波出力となる。このような矩形波駆動は、インバータ回路の出力波形をモータの回転数に応じて適した形状とできない。このため、例えばモータが正弦波駆動される場合に比べて、高調波成分が大きくなり効率が悪くなる。
【0010】
さらに、モータ回転数が高く直流電圧指令が一定となるC領域では、
図22(C)に示されるようにPAM制御が行われ、インバータの出力波形が矩形波であるため、転流位相は−40°程度が限界である(特許文献2の
図7参照)。
【0011】
また、特許文献2では、圧縮機用のモータが搭載された空気調和機において、A,B,C領域の最適な設定が明確でない。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、昇圧回路を備えてもより高い効率でモータを駆動させることができる、インバータ装置
及び空気調和
機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明のインバータ装置
及び空気調和
機は以下の手段を採用する。
【0014】
本発明の第一態様に係るインバータ装置は、直流電力の電圧を昇圧させる昇圧回路と、前記昇圧回路によって昇圧された直流電力を交流電力に変換し、モータへ供給するインバータ回路と、前記昇圧回路を制御する昇圧回路制御手段と、前記インバータ回路を制御するインバータ回路制御手段と、を備え、前記昇圧回路制御手段は、前記モータの最小回転数から中間回転数以下の第1領域では前記昇圧回路に昇圧させず、前記中間回転数を超えて定格回転数未満の第2領域では前記モータの回転数に比例して前記昇圧回路に昇圧させ、前記定格回転数以上かつ最大回転数以下である第3領域では前記昇圧回路に一定値で昇圧させ、前記インバータ回路制御手段は、前記第1領域を超えた回転数において前記モータを過変調制御し、前記モータの誘起電圧定数は、前記第1領域から前記第2領域へ切り替わる回転数において過変調制御が可能となる値とされる。
【0015】
本構成によれば、昇圧回路によって直流電力の電圧が昇圧され、インバータ回路によって昇圧された直流電力が交流電力に変換され、モータへ供給される。昇圧回路は昇圧回路制御手段によって制御され、インバータ回路はインバータ回路制御手段によって制御される。昇圧回路は、モータの最小回転数から中間回転数以下は昇圧せず、中間回転数を超えて定格回転数未満ではモータの回転数に比例して昇圧し、定格回転数以上かつ最大回転数以下では一定値で昇圧する。
【0016】
従来は、モータの最小回転数から中間回転数以下では、昇圧回路は昇圧を行っていた。このため、直流電圧とインバータの出力電圧との差が大きく、高調波成分が大きかった。一方、本構成は、モータの最小回転数から中間回転数以下である第1領域では昇圧を行わないため、直流電圧とインバータの出力電圧との差が従来にくらべて小さくなる。このため、高調波成分が低減され、モータの効率が向上する。
【0017】
また、従来は、モータの中間回転数から最大回転数以下では、モータの回転数制御を昇圧回路の電圧制御(PAM制御)で行っていた。このため、インバータの出力波形は矩形波でかつ、一定であり、モータの回転数に応じた効率が最適となる波形とできなかった。
一方、本構成は、モータの中間回転数を超えて定格回転数未満の第2領域では、昇圧回路が昇圧を行って直流電圧を出力するものの、モータの回転数制御はインバータ回路による過変調制御で行われる。このため、昇圧の度合いに自由度があり、昇圧回路は直流電圧を、昇圧回路の損失、インバータ回路の損失、及びモータの損失等の各損失が最小となるように設定できる。なお、第2領域は、空気調和機の運転時間の割合が多い領域として設定される。また、モータの回転数が定格回転数以上かつ最大回転数以下の第3領域でも、過変調制御が行われる。このため、従来に比べて、転流位相をより大きくでき、モータの回転数をより高速にすることができる。
【0018】
また、モータとして、第1領域から第2領域へ切り替わる回転数において過変調制御が可能となる誘起電圧定数を有するモータが選定されるので、この切り替わる領域において、最も効率の良い運転が可能となる。
【0019】
従って、本構成は、昇圧回路を備えてもより高い効率でモータを駆動させることができる。
【0020】
上記第一態様では、前記昇圧回路制御手段が、前記第2領域において、前記インバータ回路の効率と前記モータの効率との積が最大となる直流電圧を前記昇圧回路に出力させることが好ましい。
【0021】
本構成によれば、装置の効率をより向上できる。
【0022】
上記第一態様では、前記昇圧回路制御手段が、前記直流電圧と該直流電圧の指令値との差、及び前記昇圧回路を流れる電流の平均値と該電流のピーク値との差に基づいて、デューティ指令を生成し、前記デューティ指令に所定のキャリア周波数である三角波を重ねることで、前記昇圧回路が有するスイッチング素子に対する制御信号を生成することが好ましい。
【0023】
本構成によれば、昇圧回路を流れる電流の平均値と該電流のピーク値との差を用いることにより、簡易に昇圧回路を流れる電流を安定させることができる。
【0024】
上記第一態様では、前記昇圧回路が、複数が並列に接続されて構成され、前記昇圧回路制御手段が、前記昇圧回路の各々が備えるスイッチング素子に対する前記三角波の位相をずらすことが好ましい。
【0025】
本構成によれば、容量の小さなスイッチング素子で、昇圧回路全体の容量を増加させることができる。
【0026】
上記第一態様では、前記昇圧回路が有する昇圧用ダイオードの両端に接続されるリレー回路を備え、前記リレー回路が、前記第1領域においてオンとされることが好ましい。
【0027】
本構成によれば、昇圧回路における損失をより低減できる。
【0028】
本発明の第二態様に係る空気調和機は、上記記載のインバータ装置と、前記第1領域から前記第2領域へ切り替わる回転数において過変調制御が可能となる誘起電圧定数を有し、圧縮機を駆動させるモータと、を備える。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、昇圧回路を備えてもより高い効率でモータを駆動させることができる、という優れた効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、本発明に係るインバータ装置
及び空気調和
機の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0033】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態について説明する。
【0034】
図1を参照して、本第1実施形態に係るインバータ装置10の電気的構成について説明する。インバータ装置10は、一例として、空気調和機に備えられる圧縮機を回転させる圧縮機用モータ12(例えば永久磁石モータ)へ電力を供給するものである。
【0035】
インバータ装置10は、交流電源14からの三相交流電力を整流する整流回路16と、整流回路16によって整流された直流電力の電圧を昇圧させる昇圧回路18と、昇圧回路18によって昇圧された直流電力を交流電力に変換するインバータ回路20を備える。
【0036】
整流回路16は、6個の整流用ダイオード22a〜22fを備え、整流用ダイオード22a〜22fがブリッジ接続されている。
【0037】
昇圧回路18は、昇圧用リアクタ24、昇圧用ダイオード26、及び昇圧用スイッチング素子28を備える。昇圧用リアクタ24は、一端が整流回路16に接続され、他端が昇圧用ダイオード26のアノードに接続される。昇圧用ダイオード26のカソードは、インバータ回路20に接続される。昇圧用スイッチング素子28は、一端が昇圧用リアクタ24と昇圧用ダイオード26との接続点に接続され、他端が整流回路16及びインバータ回路20に接続される。
【0038】
昇圧回路18とインバータ回路20との間には、昇圧回路18の出力を平滑化する平滑化コンデンサ30が備えられている。
【0039】
インバータ回路20は、昇圧回路18から直流電圧が供給され、直流電圧を3相交流電圧に変換し、圧縮機用モータ12に供給する。具体的には、インバータ回路20は、各相に対応して設けられた上側アームのスイッチング素子32a、32b、32cと下側アームのスイッチング素子32d、32e、32fとを備えており、これらのスイッチング素子32a〜32fが制御される。これにより、圧縮機用モータ12に供給される3相交流電圧(以下「インバータ出力電圧」という。)が制御される。
【0040】
インバータ装置10は、昇圧回路電圧指令部40、昇圧回路制御部42、及びインバータ回路制御部44を備える。
なお、昇圧回路18で昇圧された直流電圧は、直流電圧検出部46によって検出される。昇圧回路18を流れる電流(以下「コンバータ電流」という。)は、コンバータ電流検出部48によって検出される。圧縮機用モータ12を流れる電流(以下「モータ電流」という。)は、昇圧回路18とインバータ回路20との間に備えられたモータ電流検出部50によって検出される。
【0041】
昇圧回路電圧指令部40は、外部の制御装置から入力される圧縮機用モータ12の回転数指令値(以下「モータ回転数指令」という。)と、インバータ回路制御部44の過変調制御のオン、オフに基づいて、直流電圧の指令値(以下「電圧指令」という。)を生成して昇圧回路制御部42へ出力する。なお、昇圧回路電圧指令部40は、過変調制御のオン、オフについて、インバータ回路制御部44から入力される過変調制御信号に基づいて判断する。
【0042】
昇圧回路制御部42は、電圧指令に基づいて、昇圧回路18の昇圧用スイッチング素子28のオン、オフを制御する制御信号(PWM信号)を生成して昇圧用スイッチング素子28へ出力する。
【0043】
インバータ回路制御部44は、モータ回転数指令に基づいて、インバータ回路20のスイッチング素子32a〜32fのオン、オフを制御する制御信号を生成し、インバータ回路20へ出力する。なお、本第1実施形態に係るインバータ回路制御部44は、圧縮機用モータ12の回転数制御を正弦波駆動制御で行う。このため、インバータ回路制御部44は、インバータ回路20が疑似正弦波PWM波形を出力するための制御信号を生成する。
また、インバータ回路制御部44は、過変調制御が可能な疑似正弦波PWM波形出力機能を有する。
【0044】
図2は、昇圧回路電圧指令部40によって実行される電圧指令生成処理の流れを示すフローチャートである。電圧指令生成処理は、圧縮機用モータ12が動作すると共に開始される。なお、
図2に示されるフローチャートは、圧縮機用モータ12の回転数が上昇する場合であり、回転数が下降する場合は、逆の流れとなる。
【0045】
なお、昇圧回路電圧指令部40は、例えば、MPU(Micro Processing Unit)であり、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等から構成されている。そして、昇圧回路電圧指令部40で実行される一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等である。
【0046】
ステップ100では、圧縮機用モータ12が最小回転数から中間回転数以下(後述するA領域)で、ゼロ電圧指令を生成して昇圧回路制御部42へ出力する。
ゼロ電圧指令は、昇圧回路18で昇圧をさせないことを示す電圧指令である。ゼロ電圧指令が入力された昇圧回路制御部42は、昇圧用スイッチング素子28をオフ状態とする。
なお、最小回転数は、圧縮機用モータ12が圧縮機を駆動させるために必要な最小の回転数である。中間回転数は、最小回転数と定格回転数の略中間値である。
【0047】
これにより、圧縮機用モータ12が最小回転数から中間回転数以下では、昇圧回路18は動作を停止することとなる。
【0048】
次のステップ102では、モータ回転数指令が中間回転数を超えたか否かを判定し、肯定判定の場合はステップ103へ移行する。一方、否定判定の場合はステップ100へ戻り、ゼロ電圧指令の出力が継続される。
【0049】
ステップ103では、過変調制御に入ったか否かを判断し、肯定判定の場合は、次のステップ104へ移行する。一方、否定判定の場合は、ステップ100へ戻り、ゼロ電圧指令の出力が継続される。
【0050】
ステップ104では、モータ回転数指令が中間回転数を超えて定格回転数未満(後述するB領域)で、昇圧電圧指令を生成して昇圧回路制御部42へ出力する。
昇圧電圧指令は、モータ回転数指令に示される回転数に比例して、直流電圧を昇圧させる電圧指令である。すなわち、モータ回転数指令が大きくなると昇圧電圧指令も大きくなり、昇圧回路18から出力される直流電圧も大きくなる。
【0051】
次のステップ106では、モータ回転数指令が定格回転数以上か否かを判定し、肯定判定の場合はステップ107へ移行する。一方、否定判定の場合はステップ104へ戻り、昇圧電圧指令の出力が継続される。
【0052】
ステップ107では、昇圧電圧指令値が予め設定した昇圧電圧最大値か否かを判定し、肯定判定の場合はステップ108へ移行する。一方、否定判定の場合はステップ104へ戻り、昇圧電圧指令の出力が継続される。
【0053】
ステップ108では、モータ回転数指令が定格回転数以上かつ最大回転数以下において、一定電圧指令を生成して昇圧回路制御部42へ出力する。
一定電圧指令は、一定値の直流電圧を出力するように昇圧させる電圧指令である。
【0054】
図3は、本第1実施形態に係る昇圧回路18から出力される直流電圧及びインバータ回路20から出力されるインバータ出力電圧のモータ回転数に応じた変化を示す図である。
A領域は、最小回転数から中間回転数以下でのモータ回転数である。B領域は、中間回転数を超えて定格回転数未満でのモータ回転数である。C領域は、定格回転数以上かつ最大回転数以下までのモータ回転数である。
また、
図4は、本第1実施形態に係るインバータ回路20の出力波形を示す模式図である。
【0055】
図4(A)は、A領域におけるインバータ回路20の出力波形を示しており、A領域では、疑似正弦波PWM波形が出力される。
そして、
図3に示されるように、A領域ではゼロ電圧指令が出力されるため、昇圧回路18は停止し、昇圧を行わないので、直流電圧は低く設定される。なお、モータ回転数が上昇すると流れる電流も増加して電圧降下が生じるため、A領域ではモータ回転数の上昇に伴い徐々に直流電圧が低下する。なお、この電圧降下は、圧縮機用モータ12の運転に支障のない大きさである。
この結果、昇圧回路18を停止させているので、従来に比べて昇圧回路18の損失が低減する。また、直流電圧が低いので、直流電圧とインバータ出力電圧との差が小さくなり、
図5に示されるように従来に比べて高調波成分が小さく、圧縮機用モータ12の効率が向上する。
【0056】
図4(B)は、B領域におけるインバータ回路20の出力波形を示しており、B領域では、過変調制御のための疑似正弦波PWM波形が出力される。
すなわち、本第1実施形態に係るインバータ装置10は、B領域において従来のように昇圧回路18によってモータ回転数を制御(PAM制御)するのではなく、インバータ回路20の過変調制御によってモータ回転数を制御する。一方、昇圧回路18は、過変調制御に適した直流電圧を出力する。このため、
図3に示されるように、昇圧回路18は、B領域においてモータ回転数に比例して昇圧するものの、モータ回転数を制御しないので、昇圧の度合いに自由度がある。
従って、昇圧回路18は、直流電圧をインバータ装置10の効率が最大となるように設定できる。例えば、昇圧回路18の損失、インバータ回路20の損失、圧縮機用モータ12の損失等の各損失が最小となるように、すなわち、効率が最大となるように直流電圧が設定される。
【0057】
直流電圧と各効率との関係を示した
図6を参照して、B領域において装置の効率が最大となる直流電圧の設定について説明する。
図6(A)は、インバータ回路20の効率(以下「インバータ効率」という。)と直流電圧との関係を示し、
図6(B)は、圧縮機用モータ12の効率(以下「モータ効率」という。)と直流電圧との関係を示し、
図6(C)は、インバータ効率とモータ効率の積と直流電圧との関係を示す。
図6(A)に示されるように直流電圧は小さいほど、インバータ効率は高くなる。また、
図6(B)に示されるように直流電圧が大きいほどモータ効率は高くなる。
そこで、昇圧回路電圧指令部40は、B領域において、インバータ効率とモータ効率の積が最大となる直流電圧を示す電圧指令を昇圧回路制御部42へ出力し、該直流電圧を昇圧回路18から出力させる。
【0058】
なお、圧縮機用モータ12の誘起電圧定数(V/rpm)は、A領域からB領域へ切り替わる回転数において過変調制御が可能となる値である。すなわち、圧縮機用モータ12として、モータ回転数がB領域に入った場合に、過変調制御が可能となる誘起電圧定数を有するモータが選定されている。
圧縮機用モータ12は、誘起電圧よりも高いインバータ回路20の出力電圧によって回転する。このため、インバータ回路20が過変調制御を行う場合の出力電圧が、誘起電圧と同等となる圧縮機用モータ12が選定されることで、圧縮機用モータ12に対する過変調制御が可能となる。
一例として、過変調制御を行う場合のインバータ回路20の出力電圧の最大値V
MAXは、直流電圧をV
DCとすると、下記(1)式で表される。
【数1】
(1)式は、2アーム変調方式の線間の最大電圧の例で、nは変調率を表し、nが1より大きい場合に可変調制御と呼ばれる。
【0059】
図4(C)は、C領域におけるインバータ回路20の出力波形を示しており、C領域ではB領域と同様に、過変調制御のための疑似正弦波PWM波形が出力される。なお、C領域では、弱め磁束制御(進角制御ともいう。)によって、モータ回転数が制御される。
定格回転数以上かつ最大回転数以下においても、正弦波駆動制御が行われるので、弱め磁束制御を行うための圧縮機用モータ12の転流位相は原理上90°程度まで可能となる。このため、インバータ装置10は、進角制御によって、高い回転数でもよりトルクを増大でき、モータ回転数をより高効率で高速に制御可能となる。
【0060】
図7は、本第1実施形態に係るモータ回転数に応じたモータ効率の変化を示した図である。
図7に示されるように、A,B,C領域におけるモータ効率が従来に比べて向上する。
【0061】
次に、空気調和機としてのA,B,C領域の設定について説明する。
表1は、業務用空気調和機における運転条件に対する運転時間の割合を示した表である。また、表2は、住宅用空気調和機における運転条件に対する運転時間の割合を示した表である。なお、表1,2における「中間」とは圧縮機用モータ12を中間回転数近辺で回転させる運転であり、「定格」とは圧縮機用モータ12を定格回転数近辺で回転させる運転である。
【表1】
【表2】
【0062】
表1,2に示されるように、冷房中間と暖房中間の運転時間の合計が、業務用及び住宅用共に約80%であり、運転時間の割合の殆どを占めている。
すなわち、空気調和機としては、冷房中間と暖房中間における効率を向上させることが望ましい。このため、本第1実施形態では、圧縮機用モータ12の最小回転数から中間回転数以下をA領域とし、中間回転数を超えて定格回転数未満をB領域とし、定格回転数以上かつ最大回転数以下をC領域とし、A領域が冷房中間及び暖房中間に相当するように設定している。
【0063】
上述したように、インバータ装置10は、空気調和機の運転時間の割合が多い領域として設定されているA領域において、昇圧回路18に昇圧させず効率を上昇させる。
そして、圧縮機用モータ12として、A領域からB領域へ切り替わる回転数において過変調制御が可能となる誘起電圧定数を有するモータが選定されるので、冷房中間や暖房中間において、最も効率の良い運転が可能となる。
【0064】
このように、空気調和機に備えられるインバータ装置10は、中間回転数がA領域を超えて定格回転数未満のB領域において、効率が向上するように圧縮機用モータ12を制御するので、空気調和機の電気代を削減することができる。
【0065】
以上説明したように、本第1実施形態に係るインバータ装置10は、直流電力の電圧を昇圧させる昇圧回路18と、昇圧回路18によって昇圧された直流電力を交流電力に変換し、圧縮機用モータ12へ供給するインバータ回路20と、を備える。
圧縮機用モータ12の最小回転数から中間回転数以下のA領域では、昇圧回路18は昇圧しない。また、中間回転数を超えて定格回転数未満のB領域では、昇圧回路18は圧縮機用モータ12の回転数に比例して昇圧する。また、定格回転数以上かつ最大回転数以下であるC領域では、昇圧回路18は一定値で昇圧する。そして、A領域を超えた回転数において圧縮機用モータ12は、インバータ回路20によって過変調制御される。なお、圧縮機用モータ12の誘起電圧定数は、A領域からB領域へ切り替わる回転数において過変調制御が可能となる値とされる。
従って、本第1実施形態に係るインバータ装置10は、昇圧回路18を備えてもより高い効率で圧縮機用モータ12を駆動させることができる。
【0066】
〔第2実施形態〕
以下、本発明の第2実施形態について説明する。
【0067】
図8は、本第2実施形態に係るインバータ装置10の構成を示す。なお、
図8における
図1と同一の構成部分については
図1と同一の符号を付して、その説明を省略する。
本第2実施形態に係るインバータ装置10は、昇圧回路18が有する昇圧用ダイオード26の両端に、リレー回路60が接続される。
本第2実施形態に係る昇圧回路電圧指令部40は、回転数指令がA領域の範囲内である場合に、リレー回路60へオン信号を出力する。これにより、リレー回路60は、A領域においてオンとされる。
【0068】
従って、本第2実施形態に係るインバータ装置10は、ゼロ電圧指令によって昇圧回路18が停止している間、昇圧用ダイオード26を短絡させることとなる。従って、昇圧回路18が停止している間、昇圧用ダイオード26での損失が殆ど無くなる。
【0069】
なお、力率改善の作用のある昇圧用リアクタ24を昇圧用ダイオード26と共に短絡させることにより、損失を低減させることも考えられる。しかしながら、昇圧用リアクタ24が短絡されることで、電源の力率が悪化して、入力電流が増大し、整流回路16の損失が増大する可能性がある。また、電源電流の波形が歪み、電源電流の高調波が増加する可能性もあり、好ましくない。
一方、昇圧用ダイオード26のみを短絡させることで、昇圧用リアクタ24による高力率が維持される。これにより、入力電流の増大が無くなると共に整流回路16の損失増大が無くなり、電流波形も維持して、電源電流の高調波の増加が抑制される。
【0070】
〔第3実施形態〕
以下、本発明の第3実施形態について説明する。
本第3実施形態に係るインバータ装置10の構成は、
図1に示す第1実施形態に係るインバータ装置10又は
図8に示す第2実施形態に係るインバータ装置10の構成と同様であるので説明を省略する。
【0071】
図9は、本第3実施形態に係る昇圧回路制御部42の機能ブロック図である。
本第3実施形態に係る昇圧回路制御部42は、電圧制御を行う積分制御部70、電流制御を行う比例制御部72、及び昇圧用スイッチング素子28の制御信号を生成する制御信号生成部74を備える。
【0072】
積分制御部70は、直流電圧検出値V
dcと電圧指令V
refとの差を用いた積分制御を、下記(2)式に基づいて行う。K
Iは積分制御ゲインである。なお、直流電圧検出値V
dcと電圧指令V
refとの差は減算器78によって算出される。
【数2】
【0073】
比例制御部72は、コンバータ電流検出値の平均値(以下「コンバータ電流平均値I
CAV」という。)とコンバータ電流検出値のピーク値(以下「コンバータ電流ピーク値I
cp」という。)との差を用いた比例制御を、下記(3)式に基づいて行う。K
Pは比例制御ゲインである。なお、コンバータ電流平均値I
CAVとコンバータ電流ピーク値I
cpとの差は減算器80によって算出される。
【数3】
【0074】
積分制御部70で算出された積分制御値Iと比例制御部72で算出された比例制御値Pは、加算部82によって加算され、デューティ指令とされる。このように、昇圧回路制御部42は、積分制御と比例制御に基づいて、昇圧用スイッチング素子28のデューティ指令を生成する。
そして、制御信号生成部74は、デューティ指令に所定のキャリア周波数である三角波を重ねることで、昇圧用スイッチング素子28に対する制御信号を生成する。
すなわち、表3に示されるように、三角波の振幅よりもデューティ指令の方が大きい場合は、昇圧用スイッチング素子28はオンとなる。一方、三角波の振幅よりもデューティ指令の方が小さい場合は、昇圧用スイッチング素子28はオフとなる。
【表3】
【0075】
ここで、
図10〜13は、比例制御ゲインK
pを変更した場合において、昇圧回路18が有する昇圧用リアクタ24に流れるコンバータ電流のシミュレーション結果である。
【0076】
図10は比例制御ゲインK
pを1とした場合、
図11は比例制御ゲインK
pを2とした場合、
図12は比例制御ゲインK
pを3とした場合、
図13は比例制御ゲインK
pを4とした場合である。
図10は、すなわち電流制御を行わずに電圧制御のみを行っている場合であり、昇圧用リアクタ24を流れるコンバータ電流は、正弦波状に変動している。しかし、
図11〜13に示されるように、比例制御ゲインK
pを増加させ、電流制御を行うことで、正弦波状の変動は小さくなり、コンバータ電流は安定することが分かる。
【0077】
このように、本第3実施形態に係る昇圧回路制御部42は、コンバータ電流平均値I
CAVとコンバータ電流ピーク値I
cpとの差に基づいて、デューティ指令を生成するので、簡易にコンバータ電流を安定させることができる。
また、昇圧回路制御部42は、直流電圧を上昇させる場合には、キャリア周波数を上昇させる必要がなく、デューティ指令のみを上昇させればよいので、損失が少なく、簡易な構成で直流電圧を上昇できる。
【0078】
〔第4実施形態〕
以下、本発明の第4実施形態について説明する。
図14は、本第4実施形態に係る昇圧回路18の構成を示す。なお、
図14における
図1と同一の構成部分については
図1と同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0079】
第4実施形態に係る昇圧回路18は、昇圧回路18Aと昇圧回路18Bを備える。
昇圧回路18Aと昇圧回路18Bは並列に接続され、各々同じ構成である。
すなわち、昇圧回路18Aは、昇圧用リアクタ24A、昇圧用ダイオード26A、及び昇圧用スイッチング素子28Aを備え、昇圧回路18Bは、昇圧用リアクタ24B、昇圧用ダイオード26B、及び昇圧用スイッチング素子28Bを備える。
【0080】
図15は、第4実施形態に係る昇圧回路制御部42の構成図である。なお、
図15における
図9と同一の構成部分については
図9と同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0081】
第4実施形態に係る昇圧回路制御部42は、制御信号生成部74A及び制御信号生成部74Bを備える。
制御信号生成部74Aは、昇圧回路18Aが有する昇圧用スイッチング素子28Aに対する制御信号を生成する。制御信号生成部74Bは、昇圧回路18Bが有する昇圧用スイッチング素子28Bに対する制御信号を生成する。
第4実施形態に係る昇圧回路制御部42は、昇圧用スイッチング素子28Aに対する三角波と昇圧用スイッチング素子28Bに対する三角波との位相差を180°とする。
【0082】
従って、第4実施形態に係るインバータ装置10は、昇圧回路18A,18Bは、交互に動作し、小さな容量の昇圧用スイッチング素子28A,28Bで、昇圧回路18全体としての容量を増加させることができる。
【0083】
なお、
図14の例では、2つの昇圧回路18A,18Bが並列に接続される形態について図示しているが、これに限らず、3つ以上の昇圧回路18A,18B,・・・が並列に接続されてもよい。また、3つ以上の昇圧回路18A,18B,・・・が並列に接続される場合、昇圧回路制御部42は、昇圧回路18A,18B,・・・の各々が備える昇圧用スイッチング素子28A,28B,・・・に対する三角波の位相をずらす。
【0084】
また、
図16は、昇圧回路18A,18Bにリレー回路60が接続されている構成図である。昇圧回路電圧指令部40は、回転数指令がA領域の範囲内である場合に、リレー回路60へオン信号を出力する。
従って、本第4実施形態に係るインバータ装置10は、ゼロ電圧指令によって昇圧回路18が停止している間、昇圧用ダイオード26A,26Bを短絡させることとなる。従って、昇圧回路18A,18Bが停止している間、昇圧用ダイオード26A,26Bでの損失が殆ど無くなる。
【0085】
以上、本発明を、上記各実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記各実施形態に多様な変更又は改良を加えることができ、該変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。また、上記各実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0086】
例えば、上記各実施形態では、モータ電流検出部50を昇圧回路18とインバータ回路20との間に備えられる形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、モータ電流検出部50が、
図17(A)に示されるように、インバータ回路20の下アームのスイッチング素子32d,32e,32fに備えられ、U,V,W相の出力電流を検出する形態や、
図17(B)に示されるように、インバータ回路20と圧縮機用モータ12との間を流れる2相の電流を検出する形態としてもよい。
【0087】
また、上記各実施形態では、インバータ装置10が空気調和機に備えられる圧縮機用モータ12を動作する形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、インバータ装置10が他の装置に備えられるモータを動作する形態としてもよい。