(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
当該区間の区間IDを少なくとも含む走行制御情報の電文が、軌道回路を単位とする各区間別にレールに繰り返し伝送されている当該レール上を走行する列車に搭載され、当該列車の走行区間のレールに伝送されている前記走行制御情報を受信して当該列車の走行位置を検出する車上装置であって、
前記走行制御情報を受信する毎に、連続して受信した複数回分の前記走行制御情報の受信結果に基づき、同じ区間IDを含む前記走行制御情報の定常受信状態か否かを判定する定常受信判定手段と、
前記走行制御情報が受信されない或いは正常に受信されない無信号状態を検出し、前記定常受信判定手段により前記定常受信状態であると判定されるまでの間、前記無信号状態にあると継続して検出する無信号検出手段と、
走行距離を継続して積算し、前記定常受信判定手段により前記定常受信状態であると判定される度に積算している走行距離をリセットすることで、前記無信号状態が検出されている間の走行距離である無信号距離を算出する無信号距離算出手段と、
前記定常受信判定手段により前記定常受信状態であると判定されたときの前記走行制御情報の区間IDが、直前に前記定常受信状態にあると判定されたときの区間IDと異なる場合に、前記無信号距離分手前の走行地点を区間境界とみなして検出することで当該区間境界を通過したことを検出する境界通過検出手段と、
を備えた車上装置。
前記境界通過検出手段により検出された区間境界を基点とした走行距離である区間走行距離を算出する手段であって、前記境界通過検出手段により区間境界の通過が検出された場合に、算出していた前記区間走行距離を、前記無信号距離算出手段が算出していた前記無信号距離に変更して、前記区間走行距離の算出を継続する区間走行距離算出手段、
を更に備えた請求項1に記載の車上装置。
走行線区の基点からの距離で表される当該列車の絶対走行位置を算出する絶対走行位置算出手段であって、前記境界通過検出手段により区間境界の通過が検出された場合に、予め定められた当該区間境界の絶対位置情報から前記無信号距離分進行した位置で、算出していた前記絶対走行位置を更新して、前記絶対走行位置の算出を継続する絶対走行位置算出手段、
を更に備えた請求項1又は2に記載の車上装置。
当該区間の区間IDを少なくとも含む走行制御情報の電文が、軌道回路を単位とする各区間別にレールに繰り返し伝送されている当該レール上を走行する列車が、当該レールに伝送されている前記走行制御情報を受信して当該列車の走行位置を検出するための走行位置検出方法であって、
前記走行制御情報を受信する毎に、連続して受信した複数回分の前記走行制御情報の受信結果に基づき、同じ区間IDを含む前記走行制御情報の定常受信状態か否かを判定する定常受信判定ステップと、
前記走行制御情報が受信されない或いは正常に受信されない無信号状態を検出し、前記定常受信判定ステップにより前記定常受信状態であると判定されるまでの間、前記無信号状態にあると継続して検出する無信号検出ステップと、
走行距離を継続して積算し、前記定常受信判定ステップにより前記定常受信状態であると判定される度に積算している走行距離をリセットすることで、前記無信号状態が検出されている間の走行距離である無信号距離を算出する無信号距離算出ステップと、
前記定常受信判定ステップにより前記定常受信状態であると判定されたときの前記走行制御情報の区間IDが、直前に前記定常受信状態にあると判定されたときの区間IDと異なる場合に、前記無信号距離分手前の走行地点を区間境界とみなして検出することで当該区間境界を通過したことを検出する境界通過検出ステップと、
を含む走行位置検出方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1,2に開示された技術は、ATC信号とは別に、レールに列車検知信号を伝送する技術である。このため、車上側に、列車検知信号を受信して復調する装置が必要となる。また、列車検知信号は、隣接する軌道回路間で区別可能である必要があるため、最低でも3種類、無絶縁軌道回路を考慮する場合には更に多くの種類が必要となる。そのため、車上装置が高機能化し、また大型化する。
【0007】
また、走行位置を補正する基点は、特許文献1の場合には、列車検知信号を受信できなくなったことを検知した時点であり、特許文献2の場合には、列車検知信号の信号強度の変化を検知した時点である。そのため、列車検知信号の受信及び信号強度の検知に係る時間だけ基点の判断が遅れ得る。すると、補正すべき走行位置は、この遅れ時間だけずれるという問題がある。更に、実際の位置よりも進行方向側にずれることとなり、不安全側(危険側)となるため、できるだけ回避したい要望がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、車上で検出する走行位置の正確性を担保する新たな技術を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための第1の発明は、
当該区間の区間IDを少なくとも含む走行制御情報の電文が、軌道回路を単位とする各区間別にレールに繰り返し伝送されている当該レール上を走行する列車に搭載され、当該列車の走行区間のレールに伝送されている前記走行制御情報を受信して当該列車の走行位置を検出する車上装置であって、
前記走行制御情報が受信されない或いは正常に受信されない無信号状態を検出する無信号検出手段と、
前記無信号状態が継続している間の走行距離である無信号距離を算出する無信号距離算出手段と、
前記走行制御情報の受信結果に基づき、前記走行制御情報の定常受信状態にあると判断するための所定の定常受信条件を満たしたときの前記走行制御情報の区間IDが、直前に前記定常受信条件を満たしたと判定したときの区間IDと異なる場合に、前記無信号距離分手前の走行地点で区間境界を通過したことを検出する境界通過検出手段と、
を備えた車上装置である。
【0010】
また、他の発明として、
当該区間の区間IDを少なくとも含む走行制御情報の電文が、軌道回路を単位とする各区間別にレールに繰り返し伝送されている当該レール上を走行する列車が、当該レールに伝送されている前記走行制御情報を受信して当該列車の走行位置を検出するための走行位置検出方法であって、
前記走行制御情報が受信されない或いは正常に受信されない無信号状態を検出する無信号検出ステップと、
前記無信号状態が継続している間の走行距離である無信号距離を算出する無信号距離算出ステップと、
前記走行制御情報の受信結果に基づき、前記走行制御情報の定常受信状態にあると判断するための所定の定常受信条件を満たしたときの前記走行制御情報の区間IDが、直前に前記定常受信条件を満たしたと判定したときの区間IDと異なる場合に、前記無信号距離分手前の走行地点で区間境界を通過したことを検出する境界通過検出ステップと、
を含む走行位置検出方法を構成しても良い。
【0011】
この第1の発明等によれば、列車に搭載される車上装置は、レールから走行制御情報を受信し、走行制御情報の受信結果に基づき、所定の定常受信条件を満たしたときの走行制御情報の区間IDが、直前に定常受信条件を満たしたと判定したときの区間IDと異なる場合に、無信号距離分手前の走行地点で区間境界を通過したことを検出できる。よって、本発明によれば、車上で検出する走行位置の正確性を担保する新たな技術を実現することができる。また、定常受信条件を満たしたときの走行制御情報を用いるため、区間境界の検出の正確性を向上させることができる。
【0012】
また、第2の発明として、第1の発明の車上装置であって、
前記境界通過検出手段により検出された区間境界を基点とした走行距離である区間走行距離を算出する手段であって、前記境界通過検出手段により区間境界の通過が検出された場合に、算出していた前記区間走行距離を、前記無信号距離算出手段が算出していた前記無信号距離に変更して、前記区間走行距離の算出を継続する区間走行距離算出手段、
を更に備えた車上装置を構成することとしてもよい。
【0013】
この第2の発明によれば、区間境界を基点とした相対的な走行位置である区間走行距離を算出することができる。また、区間境界の通過が検出された場合に、区間走行距離を無信号距離に変更することで、区間走行距離の算出を効率的に継続することができる。
【0014】
また、第3の発明として、第1又は第2の発明の車上装置であって、
走行線区の基点からの距離で表される当該列車の絶対走行位置を算出する絶対走行位置算出手段であって、前記境界通過検出手段により区間境界の通過が検出された場合に、予め定められた当該区間境界の絶対位置情報から前記無信号距離分進行した位置で、算出していた前記絶対走行位置を更新して、前記絶対走行位置の算出を継続する絶対走行位置算出手段、
を更に備えた車上装置を構成することとしてもよい。
【0015】
この第3の発明によれば、列車の絶対走行位置を算出することができる。また、区間境界の通過が検出された場合に、その区間境界について予め定められた絶対位置情報に基づいて絶対走行位置が更新されるため、区間境界の通過を検出する毎に、絶対走行位置を補正することができる。しかも、区間境界の絶対位置から、区間境界の通過時に生じ得る無信号距離分進行した位置で、絶対走行位置が更新されるため、絶対走行位置の更新(補正ともいえる)を効率的に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[システム構成]
図1は、本実施形態の列車制御システム1の構成図である。
図1に示すように、列車制御システム1は、デジタルATCシステムであり、レールR上を走行する列車10に搭載される車上装置20と、地上装置30とを備えて構成される。線路には、レールRを列車走行方向に沿って区分した列車10の走行制御の単位となる区間が定められる。区間は、レールRに設置された軌道回路を単位として定められる。
【0018】
地上装置30は、各区間の進出側に接続して設けられ、走行制御情報40を伝送する。これらの地上装置30は、近隣の軌道回路から得られる列車の在線情報や、連動装置から得られる進路情報(分岐器の開通方向情報を含む)などをもとに、当該区間内の列車10に対する走行制御情報40を生成し、ATC信号(電文)に含めて当該区間のレールRに繰り返し伝送する。なお、1台の地上装置30が複数区間に対応する構成とする場合には、1台の地上装置30が複数区間それぞれに対する走行制御情報40を生成し、各区間に、対応する走行制御情報40を伝送するように構成すればよい。
【0019】
走行制御情報40には、伝送対象の区間の区間IDと、当該区間の制御速度である当該区間制御速度と、当該区間の内方隣接の区間(以下、内方区間という)の制御速度である内方区間制御速度と、内方区間の長さである内方区間長とが含まれる。区間IDは、区間毎、すなわち本実施形態では軌道回路毎に異なる。
【0020】
車上装置20は、レールRから受信した走行制御情報40に基づく自列車10の走行制御を行う。具体的には、受信した走行制御情報40に基づいて制御速度を決定し、この制御速度と自列車10の走行速度とを連続して照査し、走行速度が制御速度以下となるようにブレーキを制御する。
【0021】
[原理]
(A)本実施形態の前提とする速度制御の概要
図2は、本実施形態の前提とする速度制御の一例である走行制御情報40に基づく一段ブレーキ制御方式の速度制御を説明するための図である。
図2では、右方向を列車の進行方向とし、列車10aの後続列車の速度制御の一例を示している。
【0022】
先ず、先行列車10aが位置する区間(在線区間)の後方に隣接する区間10Tが、他の列車の進入を禁止する絶対停止区間となり、この絶対停止区間の後方の区間11T,12T,・・・が、他の列車の進入が可能な進入許容区間として定められる。
【0023】
また、先行列車10a(より詳細には、先行列車10aの在線区間)との間隔や線路条件等をもとに、進入許容区間を構成する区間11T,12T,・・・それぞれの制御速度が定められる。そして、進入許容区間を構成する区間11T,12T,・・・それぞれに、制御速度等を含む走行制御情報40が伝送される。なお、絶対停止区間については、走行制御情報40は伝送されない(無信号)。
【0024】
車上装置20は、レールRから受信した走行制御情報40をもとに走行区間の制御速度を決定・更新し、その制御速度と自列車10の走行速度とを照査し、走行速度が制御速度より高い場合は常用ブレーキを動作させ、制御速度まで減速させる。ただし、非常停止の場合には、非常ブレーキを動作させて自列車10を停止させる。制御速度は、自列車が走行中の走行区間内で一定とされる場合もあれば、直前に進出した走行区間で設定していた制御速度を参照して、走行中の走行区間内の位置に応じて徐々に低下するように設定される場合もある。速度照査を行う際の自列車10の走行位置は、後述する区間走行距離で判断することができる。
【0025】
(B)区間境界の検出
車上装置20は、自列車が位置する区間に定められた制御速度に従った速度制御を行う。つまり、新たな区間に進入すると、この進入した区間に定められた制御速度に基づく速度制御に切り替える。新たな区間への進入、すなわち区間境界の通過は、走行制御情報40の受信結果に基づいて検出する。
【0026】
列車が区間境界を通過する際に、車上装置20において、一時的に走行制御情報40が受信されない無信号の状態が発生し得る。実際には、各区間に割り当てられた走行制御情報を含む電文は、個別の送信器により非同期で送信される。そのため、受信する走行制御情報を含む電文は、区間境界の前後において不連続となる。また、送信回路の引き回しや、車上受信特性のばらつき等によって、区間境界の前後で電文が寸断される。このため、区間境界前後においては、1つの電文全体を正しく受信できない破壊電文を伴うものとなり、実質的に無信号状態を呈するものとなる。なお、無絶縁軌道回路では、新たな区間への進入検知をもって当該区間への走行制御情報40の送信が開始される、いわゆる踏み込み送信が行われる。このため、新たな区間への進入時には、列車の進入検知のための遅れ時間を要するものとなり、走行制御情報40が受信されない無信号の状態が発生する。
【0027】
走行制御情報40に含まれる区間IDは隣接する区間で異なることから、区間境界通過時の無信号状態の前後においては区間IDの異なる走行制御情報を受信する。このことから、受信した走行制御情報40に含まれる区間IDの変化に基づいて、区間境界の通過を判定する。さらに、区間境界の判定と、走行制御情報40が受信されない無信号状態の間に走行した無信号距離とにより区間境界位置を判定する。
【0028】
無信号距離は、無信号距離カウンタを用いて算出する。無信号距離カウンタは、車軸に取り付けられた速度発電機から入力される回転数の計測値信号をもとに、常時、走行距離を積算し続けるカウンタ(無信号距離算出手段)であるが、積算距離(無信号距離)は、走行制御情報40の受信状況が「定常受信条件」を満たす度にリセットされる。上述のように、各区間に対して走行制御情報40が繰り返し伝送されるため、車上装置20では、レールRに伝送されている走行制御情報40を次々と受信することになる。「定常受信条件」とは、走行制御情報40を安全且つ合理的に受信したとみなせる条件であり、例えば、連続した2つの走行制御情報40が一致する、或いは、連続した3つの走行制御情報40のうち2つが一致する、といった条件に定めることができる。以下、この安全且つ合理的に受信したとみなせる条件である「定常受信条件」を満たした受信状態のことを「定常受信状態」という。
【0029】
図3は、区間境界通過の検出を説明するための図である。
図3では、横方向を列車位置として、上から順に、レールRに伝送されるATC信号、車上装置20において受信した受信電文、無信号距離カウンタのカウンタ値(無信号距離)、を示している。ATC信号は、
図3において、当該位置での信号強度(受信信号強度)を縦方向の幅で示している。当該区間の進出端からATC信号が伝送されるため、進出端に近づくにつれて縦方向の幅が大きく(太く)なるように図示している。受信電文は、車上装置20で受信された1つの走行制御情報40を1つの矩形ブロックとして示しており、付記された数字は、車上装置20が受信・解読した当該走行制御情報40に含まれる区間IDを示している。また、各矩形ブロックの図中右端の位置(タイミング)を、走行制御情報40が解読されたタイミングとして示している。クロスハッチングが施された矩形ブロックは、受信できなかった、或いは解読できなかった走行制御情報40を示す。無信号距離カウンタは、上述した通り、常時、走行距離を積算しているカウンタであり、「定常受信条件」を満たす毎にリセットされる。すなわち「定常受信状態」であると判断される毎にリセットされる。リセットされるタイミングは、走行制御情報40が受信・解読されたタイミングとなる。
【0030】
図3に示す例では、区間1Tには、区間ID=「1」の走行制御情報40が伝送され、次の区間2Tには、区間ID=「2」の走行制御情報40が伝送されている。そして、
図3(a)は、区間境界の通過直後に受信・解読した走行制御情報40にデータ化けが生じていない、正常に受信・解読できた正常時の例を示し、
図3(b)は、区間境界の通過直後に受信・解読した走行制御情報40にデータ化け(詳細には、区間IDのデータ化け)が生じた例を示している。
【0031】
列車が区間境界を通過する際には、車上装置20において一時的に走行制御情報40が受信されない無信号の状態(以下「瞬時無信号」という)が発生する。この瞬時無信号の前後では、受信する走行制御情報40に含まれる区間IDが異なる。このため、定常受信条件を満たしたと判定したとき(定常受信状態になったとき)の走行制御情報40に含まれる区間IDが、直前に定常受信条件を満たしたと判定したとき(直前に定常受信状態になっていたとき)の走行制御情報40に含まれる区間IDと異なる場合に、区間境界を通過したと判定する。そして、その直前に定常受信条件を満たしたと判定したタイミング(直前に定常受信状態になったタイミング)における走行地点である、走行距離カウンタが示す無信号距離分手前(外方)の地点を、通過した区間境界の位置とみなす。
【0032】
図3(a)に示すように、正常時には、区間1Tを走行中は、区間ID=「1」の走行制御情報40を連続的に受信しており、定常受信条件を満たす毎、すなわち、1つの走行制御情報40を受信・解読する毎に、無信号距離カウンタがリセットされる。次いで、区間1T,2Tの境界の通過の際には、一時的に無信号状態となり、無信号距離カウンタの無信号距離が増加していく。その後、区間ID=「2」の走行制御情報40の受信が開始され、定常受信条件を満たしたタイミングt12以降は、定常受信条件を満たす毎に無信号距離カウンタがリセットされる。またこのとき、区間IDが異なる走行制御情報40について定常受信条件を満たすと判定した直前に定常受信条件を満たすと判定したタイミング、すなわち、
図3(a)のタイミングt11の走行地点を、区間境界とみなす。具体的には、区間ID=「2」の走行制御情報40の受信が開始され、定常受信条件を満たしたタイミングt12において、無信号距離カウンタが算出していた無信号距離分だけ手前(外方)の走行地点を、タイミングt11の走行地点、すなわち通過した区間境界の位置とする。
【0033】
また、
図3(b)に示す例では、区間1T,2T境界の通過直後に、受信する走行制御情報40の区間IDにデータ化けが生じ、手前の区間1Tの走行制御情報40の区間IDと一致している。この場合、区間境界を通過後、3回目に走行制御情報40が受信されたタイミングt22において、定常受信条件を満たす(定常受信状態になった)と判定する。そして、タイミングt22の直前に定常受信条件を満たすと判定したタイミングt21の走行地点を、タイミングt22において無信号距離カウンタによって算出されていた無信号距離分だけ現在の走行位置から手前の走行地点として求め、当該走行地点を通過した区間境界の位置とみなす。
【0034】
このように、定常受信条件によって、走行制御情報40の内容を確実に確定して安全な列車制御を実現することにより、受信データ化けなどによる区間境界の通過の誤判定を防止できる。また、区間境界とみなす位置は、無信号状態となる前の走行地点であるため、実際の区間境界より手前(外方)となる。これは、安全側の動作となる。
【0035】
なお、
図3(c)に示すように、もしも仮に、受信及び解読できた走行制御情報40の区間IDが2つ連続して同一であったことを正常受信と判定してしまうと、区間境界の通過直後に受信した走行制御情報40の区間IDにデータ化けが生じた場合に、実際の区間境界より内方のタイミングt4の位置を、区間境界とみなしてしまうことになる。これは、危険側の動作となる。
【0036】
また、無信号距離とともに、無信号時間が算出される。無信号時間は、無信号タイマによって算出される。無信号タイマは、常時、経過時間を積算し続けるタイマであるが、タイマ値(積算時間;無信号時間)は、無信号距離カウンタと同様、走行制御情報40の受信状況が「定常受信条件」を満たす毎にリセットされる。無信号タイマは、例えば、所定のクロック信号に基づいてカウントアップするカウンタ回路で構成することができる。
【0037】
(C)区間走行距離
車上装置20は、走行線区全体における絶対位置として表した走行位置(例えばキロ程)を算出する他、走行中の区間内の位置を当該区間の区間境界からの相対位置として算出する。この相対位置が区間走行距離である。受信したATC信号に基づく速度制御を、区間走行距離に基づいて行う。区間走行距離により、走行区間中の位置を比較的高精度に特定することができるため、位置精度を高めた速度制御を実現することができる。区間走行距離は距離積算カウンタによって算出される。
【0038】
図4は、距離積算カウンタによる区間走行距離の算出を説明するための図である。
図4では、右方向を列車の進行方向とし、上から順に、レールRに伝送されるATC信号、車上装置20における受信電文、距離積算カウンタのカウント値(区間走行距離)、無信号距離カウンタのカウント値(無信号距離)、を示している。なお、距離積算カウンタのカウント値(区間走行距離)は破線で、無信号距離カウンタのカウント値(無信号距離)は実線で示している。また、
図4において、距離積算カウンタ及び無信号距離カウンタのカウント値は同軸上に示しており、上方向が距離が大きくなる方向である。
【0039】
図4に示すように、手前の区間6Tを走行中は、区間ID=「6」の走行制御情報40を連続的に受信しており、定常受信条件を満たすと判定される毎、すなわち走行制御情報40の受信毎に、無信号距離カウンタがリセットされる。次いで、区間6Tと区間7Tとの境界を通過する際に、一時的に走行制御情報40が受信されない無信号状態となり、無信号距離カウンタはリセットされずにカウント値(無信号距離)は増加する。その後、区間ID=「7」の走行制御情報40の受信が開始され、定常受信条件を満たすと判定されたタイミングt6以降、定常受信条件を満たすと判定される毎、すなわち走行制御情報40の受信毎に、無信号距離カウンタがリセットされる。
【0040】
また、区間6T,7Tの境界を通過後、最初に定常受信条件を満たすと判定されるタイミングt6では、区間6T,7Tの境界の通過が検出され、距離積算カウンタのカウント値(区間走行距離)が、当該タイミングt6における無信号距離カウンタのリセット前のカウント値(無信号距離)に更新される。タイミングt6における無信号距離カウンタのリセット前のカウント値(無信号距離)は、タイミングt6の直前に定常受信条件を満たすと判定したタイミングt5の位置、すなわち、区間6T,7Tの境界とみなした位置からの走行距離である。つまり、距離積算カウンタのカウント値(区間走行距離)は、
図3を参照して説明した区間境界とみなした位置からの走行距離となっている。
【0041】
[機能構成]
図5は、車上装置20の構成図である。
図5によれば、車上装置20は、処理部100と、記憶部200とを備えて構成される一種のコンピュータ装置とも言える。
【0042】
処理部100は、例えばCPU等の演算装置で実現され、記憶部200に記憶されたプログラムやデータ等に基づいて車上装置20の全体制御を行う。また、処理部100は、速度算出部110と、無信号検出部120と、定常受信判定部130と、無信号距離算出部140と、無信号時間算出部150、区間走行距離算出部160と、境界通過検出部170と、速度制御部190とを有し、受電器11がレールRから受信した走行制御情報40を含むATC信号等に基づいて自列車の走行を制御する。
【0043】
速度算出部110は、車軸に取り付けられた速度発電機12から入力される回転数の計測値信号をもとに、自列車10の走行速度を算出(検出)する。
【0044】
無信号検出部120は、レールRから走行制御情報40が受信されていない無信号状態であることを検出する。無信号状態を検出した後は、定常受信判定部130によって次に走行制御情報40の受信状態が定常受信状態となったこと、すなわち正常受信したと判定されるまで、継続して無信号状態にあるとして検出する。
【0045】
定常受信判定部130は、定常受信条件を満たすかを判定することで、レールRから受信した走行制御情報40(
図1参照)が正常に受信されたか否か(安全かつ合理的に受信されたか否か)を判定する。定常受信条件は、直近に受信した複数の走行制御情報40を基に判断する条件とし、例えば、区間IDが同一である2つの走行制御情報40を連続して受信したこと、或いは、連続する3つの走行制御情報40のうち、区間ID或いは電文内容全体が一致する2つ以上の走行制御情報40を含むこと、などと定めることができる。
【0046】
無信号距離算出部140は、無信号状態の継続期間における走行距離である無信号距離を算出する。すなわち、上述の無信号距離カウンタに相当し、無信号距離カウンタのカウント値を、無信号距離とする。つまり、常時、走行距離をカウント(積算)し、定常受信判定部130によって走行制御情報40を安全かつ合理的、すなわち正常受信したと判定される毎に、カウント値をリセットする。走行距離は、例えば、車軸に取り付けられた速度発電機12から入力される回転数の計測値信号に基づいて算出してもよいし、速度算出部110によって算出された現在の走行速度を時間積分して求めることもできる。
【0047】
無信号時間算出部150は、無信号状態の継続時間である無信号時間を算出する。すなわち、上述の無信号タイマに相当し、この無信号タイマのタイマ値を無信号時間とする。つまり、常時、経過時間をカウント(積算)するとともに、定常受信判定部130によって走行制御情報40を安全かつ合理的、すなわち正常受信したと判定される毎に、タイマ値をリセットする。
【0048】
区間走行距離算出部160は、区間境界を基点とした自列車の走行距離である区間走行距離を算出する。区間走行距離は、距離積算カウンタを用いて算出する。距離積算カウンタは、常時、走行距離を積算し、境界通過検出部170によって区間境界の通過が確定されると、カウント値を、無信号距離算出部140によって算出されている無信号距離に更新する。走行距離は、例えば、車軸に取り付けられた速度発電機12から入力される回転数の計測値信号に基づいて算出してもよいし、速度算出部110によって算出された現在の走行速度を時間積分して求めることもできる。
【0049】
境界通過検出部170は、自列車が区間境界を通過したことを判定する。すなわち、定常受信判定部130によって走行制御情報40を正常受信した(すなわち安全かつ合理的に受信した)と判定された走行制御情報40の区間IDが、前回正常受信した(すなわち前回、安全かつ合理的に受信した)と判定された走行制御情報40の区間IDと異なる場合に、区間境界を通過したことを検出する。また、区間境界の通過検出のタイミングにおいて無信号距離算出部140が算出していた無信号距離分手前の走行地点を、区間境界の位置と判定する。
【0050】
速度制御部190は、
図2を参照して上述した通り、受電器11により受信された走行制御情報40に基づいて走行中の走行区間の制御速度を設定・更新する。そして、設定した制御速度に従った自列車の速度制御を行う。すなわち、走行中の走行区間の制御速度のうち、区間走行距離算出部160で算出されている区間走行距離に対応する制御速度と、速度算出部110で算出された自列車10の現在の走行速度とを照査し、現在の走行速度が制御速度より高い場合は常用ブレーキを動作させ、制御速度まで減速させる。設定した制御速度が停止速度の場合は、非常ブレーキを動作させて列車を停止させる。また、速度制御部190は、無信号時間算出部150によって算出されている無信号時間が所定時間以上に達した場合に、非常ブレーキを動作させて列車を停止させる。
【0051】
記憶部200は、ROMやRAM、ハードディスク等の記憶装置で実現され、処理部100が車上装置20を統合的に制御するためのプログラムやデータ等を記憶しているとともに、処理部100の作業領域として用いられ、処理部100が実行した演算結果等が一時的に格納される。本実施形態では、列車制御プログラム210が記憶される。
【0052】
[作用効果]
このように、本実施形態によれば、列車10に搭載される車上装置20は、レールRから受信した走行制御情報40に基づき、所定の定常受信条件を満たしたときの当該走行制御情報40の区間IDが、直前に当該定常受信条件を満たしたと判定したときの区間IDと異なる場合に、無信号距離分手前の地点で区間境界を通過したことを検出できる。また、定常受信条件を満たしたときの走行制御情報40を用いるため、区間境界の検出の正確性を向上させることができる。
【0053】
また、区間境界の通過を検出した場合に、区間走行距離を無信号距離で更新するため、区間走行距離の算出を効率的に継続することができる。
【0054】
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。例えば、各種条件の数値は一例であり、適宜、他の数値に設定してもよい。
【0055】
また、上述した実施形態では、列車の走行位置として、区間境界を基点とした相対的な走行位置である区間走行距離を算出することとしたが、走行線区全体における絶対位置として表した絶対走行位置を算出することとしてもよい。絶対走行位置としては、例えばキロ程を用いることができる。
図6,7を参照して具体的に説明する。
【0056】
図6は、絶対位置積算カウンタによる絶対走行位置の算出を説明するための図である。
図6(1)では、右方向を列車の進行方向とし、上から順に、レールRに伝送されるATC信号、車上装置20の受信電文、絶対位置積算カウンタのカウント値(絶対走行位置)、無信号距離カウンタのカウント値(無信号距離)、を示している。また、絶対位置積算カウンタ及び無信号距離カウンタのカウント値は同軸上で示しており、走行線区の基点(0km地点)からの距離(キロ程)で示している。この場合、左から右に列車が進行するのに伴い、絶対走行位置が大きくなることとしている。
【0057】
また、
図6(2)は、区間IDを用いた区間境界の識別と、当該区間境界における絶対位置(以下「境界絶対位置」と称する)とを対応付けて格納した区間境界位置データを示す。境界絶対位置は、キロ程で示される。
【0058】
図6(1)において、無信号距離カウンタは、
図4を参照して説明した動作と同じ動作を行う。すなわち、列車が手前の区間6Tを走行中は、区間ID=「6」の走行制御情報40を連続的に受信しており、定常受信条件を満たすと判定される毎、すなわち走行制御情報40の受信毎に、無信号距離カウンタがリセットされる。次いで、区間6Tと区間7Tとの境界を通過する際に、タイミングt9以降、一時的に走行制御情報40が受信されない無信号状態となり、無信号距離カウンタはリセットされずにカウント値(無信号距離)が増加する。その後、区間ID=「7」の走行制御情報40の受信が開始され、定常受信条件を満たすと判定されたタイミングt10以降は、定常受信条件を満たすと判定される毎、すなわち走行制御情報40の受信毎に、無信号距離カウンタがリセットされる。
【0059】
区間6T,7Tの境界を通過後、最初に定常受信条件を満たすと判定されたタイミングt10では、区間6Tの区間IDが「6」、区間7Tの区間IDが「7」であることから区間境界を通過したことが検出されるとともに、区間境界位置データより、区間6T,7Tの境界絶対位置が「10k800m」であることが分かる。
【0060】
一方、絶対位置積算カウンタは、区間境界が検出されるまで走行距離を積算することで列車の走行絶対位置を継続してカウントする。走行距離は、例えば、車軸に取り付けられた速度発電機12から入力される回転数の計測値信号に基づいて算出してもよいし、速度算出部110によって算出された現在の走行速度を時間積分して求めることもできる。
【0061】
区間境界が検出された場合には、予め定められた当該区間境界の境界絶対位置に、無信号距離カウンタのカウンタ値を加えた位置で、絶対位置積算カウンタのカウント値が更新される。
図6では、区間6T,7Tの境界を通過後、最初に定常受信条件を満たすと判定されたタイミングt10において、区間6T,7Tの境界絶対位置が区間境界位置データから読み出される。そして、読み出された境界絶対位置(
図6(2)では“10k800m”)に、無信号距離カウンタのカウント値(
図6(1)では“Δd”)を加えた位置で、絶対位置積算カウンタのカウント値が更新される。つまり、絶対位置積算カウンタのカウント値(絶対走行位置)は、
図3を参照して説明した区間境界とみなした絶対位置で補正された絶対走行位置となる。更新後は、更新されたカウント値から走行距離の積算を開始する。
【0062】
図7は、この場合の車上装置20の構成図である。
図5に示した車上装置20の構成に加えて、記憶部200は、
図6(2)に示した区間境界位置データ250を記憶する。また、処理部100は、絶対走行位置算出部180を更に備える。絶対走行位置算出部180は、絶対位置積算カウンタを用いて列車の絶対走行位置を算出する。また、絶対走行位置算出部180は、境界通過検出部170によって区間境界の通過が検出されると、通過した境界の境界絶対位置を区間境界位置データ250から読み出し、読み出した境界絶対位置から無信号距離算出部140によって算出されている無信号距離分進行した位置で、絶対位置積算カウンタのカウント値(絶対走行位置)を更新する。
【0063】
これにより、区間境界の通過が検出された場合には、その区間境界について予め定められた絶対位置に基づいて絶対走行位置が更新されるため、区間境界の通過を検出する毎に、絶対走行位置を補正することができる。しかも、区間境界の絶対位置から、区間境界の通過時に生じ得る無信号距離分進行した位置で、絶対走行位置が更新されるため、絶対走行位置の更新(補正ともいえる)を効率的に行うことができる。
【0064】
なお、
図6では、走行方向が、キロ程が大きくなる方向であるとして説明したが、逆方向の場合も同様に適用することができる。その場合、絶対位置積算カウンタはカウント値を減算することとし、区間境界の通過検出に当たっては、境界絶対位置から無信号距離分減算することで、無信号距離分進行した位置に絶対走行位置を更新することができる。
【0065】
なお、絶対走行位置の算出方法としては、走行中の走行区間と、外方直近の区間との区間境界の境界絶対位置に、区間走行距離算出部160が算出している区間走行距離を加える方法を採用することとしてもよい。