特許第6184934号(P6184934)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ミネベア株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6184934-モータ 図000004
  • 特許6184934-モータ 図000005
  • 特許6184934-モータ 図000006
  • 特許6184934-モータ 図000007
  • 特許6184934-モータ 図000008
  • 特許6184934-モータ 図000009
  • 特許6184934-モータ 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6184934
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】モータ
(51)【国際特許分類】
   F16C 35/02 20060101AFI20170814BHJP
   F16C 17/10 20060101ALI20170814BHJP
   H02K 5/167 20060101ALI20170814BHJP
   H02K 7/08 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   F16C35/02 G
   F16C17/10 A
   H02K5/167 A
   H02K5/167 B
   H02K7/08 A
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-249979(P2014-249979)
(22)【出願日】2014年12月10日
(65)【公開番号】特開2016-109275(P2016-109275A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2016年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】昭和 秀明
(72)【発明者】
【氏名】中嶌 大吾
(72)【発明者】
【氏名】近藤 尚之
【審査官】 中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−286367(JP,A)
【文献】 特開2001−309609(JP,A)
【文献】 特開2014−212190(JP,A)
【文献】 特開2011−165257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 35/02
F16C 17/10
H02K 5/167
H02K 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のホルダ部を有するベースと、
前記ホルダ部内に嵌合されるとともに該ホルダ部の内周面に接着によって固定されるシャフト支持部材と、
前記シャフト支持部材に支持されるシャフトと、
前記シャフト支持部材に対し前記シャフトを介して回転自在に支持されるロータアッシーと、
前記ホルダ部の外周部に設けられるステータアッシーと、を備え、
前記ベースにおける前記ホルダ部の内周面と、該内周面に対向する前記シャフト支持部材の外周面とに、接着剤が塗布されるベース側の接着溝とシャフト支持部材側の接着溝とがそれぞれ形成され、これらベース側の接着溝およびシャフト支持部材側の接着溝は、少なくとも一部が互いに対向する状態に配置されたモータにおいて、
前記ベース側の接着溝および前記シャフト支持部材側の接着溝は、それぞれ軸方向に離間した箇所に複数本形成されているとともに、複数本の前記ベース側の接着溝の軸方向間隔と複数本の前記シャフト支持部材側の接着溝の軸方向間隔が異なることを特徴とするモータ。
【請求項2】
複数本の前記ベース側の接着溝の軸方向間隔が複数本の前記シャフト支持部材側の接着溝の軸方向間隔より小さいことを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
複数本の前記ベース側の接着溝の軸方向間隔が複数本の前記シャフト支持部材側の接着溝の軸方向間隔より大きいことを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【請求項4】
前記シャフトは前記シャフト支持部材に回転自在に支持されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のモータ。
【請求項5】
前記シャフトは前記シャフト支持部材に固定されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のモータ。
【請求項6】
前記ベース側の接着溝および前記シャフト支持部材側の接着溝の断面形状が三角形状もしくは円弧形状であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のモータ。
【請求項7】
前記ベース側の接着溝および前記シャフト支持部材側の接着溝の断面形状が、一方は三角形状、他方が円弧形状であることを特徴とする請求項6に記載のモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンドルモータ等のモータに係り、特にシャフトを支持するスリーブ等のシャフト支持部材とベースとの接着構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上記スピンドルモータは、例えばコンピュータ機器に使用されるハードディスク駆動装置の駆動源として用いられており、近年ではより一層のデータ容量の増大やデータ読み書きの高速化等が要望されることから、高速化や高回転精度が求められている。そのようなスピンドルモータは、一般に、固定部材であるベースの中心に固定されたスリーブ内に動圧軸受等の軸受を介してシャフトが回転自在に支持され、ベースにはステータアッシーが、また、シャフトにはロータアッシーがそれぞれ固定され、ステータアッシーのコイルに通電してロータアッシーを回転させる構成となっている。
【0003】
内部にシャフトを回転自在に支持するスリーブは、ベースに形成された円筒状部内に嵌合され、その内周面に接着によって固定される。このような固定構造においては、スリーブの外周面に形成した接着溝に接着剤を塗布してスリーブをベースに接着する形態が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−017299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種のスピンドルモータは、十分な耐衝撃性が確保されている必要性があるが、ベースまたはスリーブのいずれか一方側に接着溝を形成する形態(上記特許文献1ではスリーブ側のみ)にあっては、大きな衝撃を受けた後、接着強度が低下するおそれがあることが判った。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、ベースとスリーブ等のシャフト支持部材との衝撃を受けた後の接着強度が従来よりも向上したものとなるモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のモータは、円筒状のホルダ部を有するベースと、前記ホルダ部内に嵌合されるとともに該ホルダ部の内周面に接着によって固定されるシャフト支持部材と、前記シャフト支持部材に支持されるシャフトと、前記シャフト支持部材に対し前記シャフトを介して回転自在に支持されるロータアッシーと、前記ホルダ部の外周部に設けられるステータアッシーと、を備え、前記ベースにおける前記ホルダ部の内周面と、該内周面に対向する前記シャフト支持部材の外周面とに、接着剤が塗布されるベース側の接着溝とシャフト支持部材側の接着溝とがそれぞれ形成され、これらベース側の接着溝およびシャフト支持部材側の接着溝は、少なくとも一部が互いに対向する状態に配置されたモータにおいて、前記ベース側の接着溝および前記シャフト支持部材側の接着溝は、それぞれ軸方向に離間した箇所に複数本形成されているとともに、複数本の前記ベース側の接着溝の軸方向間隔と複数本の前記シャフト支持部材側の接着溝の軸方向間隔が異なることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、少なくとも一部が互いに対向するベース側の接着溝とシャフト支持部材側の接着溝に塗布された接着剤によって、ベースとシャフト支持部材とが接着される。各接着溝に塗布された接着剤はベースとシャフト支持部材との隙間に毛細管現象によって浸透し、接着剤が硬化することでベースとシャフト支持部材とが接着される。接着溝に塗布されて硬化した接着剤はアンカー効果を発揮して接着強度の向上に寄与するが、本発明では接着溝がベースとシャフト支持部材の双方に形成されているためアンカー効果はベースとシャフト支持部材の双方で生じ、これによりスリーブ等のシャフト支持部材側のみに接着溝を形成していた従来よりも接着強度の向上が図られる。
【0009】
本発明では、複数本の前記ベース側の接着溝の軸方向間隔が複数本の前記シャフト支持部材側の接着溝の軸方向間隔より小さい形態、または、複数本の前記ベース側の接着溝の軸方向間隔が複数本の前記シャフト支持部材側の接着溝の軸方向間隔より大きい形態を含む。また、本発明では、前記シャフトは前記シャフト支持部材に回転自在に支持されている形態を含み、また、前記シャフトは前記シャフト支持部材に固定されている形態も含む。
【0011】
本発明では、複数本のベース側の接着溝の軸方向間隔と複数本のシャフト支持部材側の接着溝の軸方向間隔が異なり、かつ、ベース側の接着溝およびシャフト支持部材側の接着溝は、少なくとも一部が互いに対向している。したがって前記ベース側の接着溝と前記シャフト支持部材側の接着溝とは、双方の溝中央位置が軸方向にずれている。この形態では、互いに対向する接着溝の全体幅が増すことで接着剤の接着面積が大きくなり、その結果、接着強度をさらに向上させることができるため、より好ましい。なお、この形態においては、互いに対向する双方の接着溝は、溝幅の少なくとも50%以上が互いに対向するように形成されていると好ましい。
【0012】
次に、本発明は、前記ベース側の接着溝および前記シャフト支持部材側の接着溝の断面形状が三角形状もしくは円弧形状である形態を含む。この形態では、さらに、前記ベース側の接着溝および前記シャフト支持部材側の接着溝の断面形状が、一方は三角形状、他方が円弧形状である形態を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ベースとスリーブ等のシャフト支持部材との衝撃を受けた後の接着強度が従来よりも向上したものとなるモータが提供されるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るスピンドルモータ(シャフト回転型)の側断面図である。
図2図1のII部拡大図であって、(a)一実施形態のベースとスリーブとの接着構造を示す図、(b)他の実施形態のベースとスリーブとの接着構造を示す図である。
図3】他の実施形態の接着溝を示す拡大断面図である。
図4】本発明の他の実施形態に係るスピンドルモータ(シャフト固定型)の側断面図である。
図5図4のV部拡大図であって、(a)一実施形態のベースとスリーブとの接着構造を示す図、(b)他の実施形態のベースとスリーブとの接着構造を示す図である。
図6】実施例で接着強度試験を行った比較例の試験体に係るベースとスリーブとの接着構造を示す断面図である。
図7】実施例で行った接着強度試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明をスピンドルモータに適用した一実施形態を説明する。
[1]スピンドルモータの基本構成
図1により、一実施形態に係るスピンドルモータ1の基本構成を説明する。このスピンドルモータ1は、コンピュータに使用される磁気ディスクや光ディスク等のディスクを備えたデータ記憶装置の駆動源として使用されるものである。
【0017】
スピンドルモータ1は、円板状のベース2と、ベース2にスリーブ(シャフト支持部材)3を介して支持されたシャフト4と、ベース2に固定されたステータアッシー5と、シャフト4に固定されたロータアッシー6とを具備している。
【0018】
図1において水平に設置された状態のベース2には、円筒状のホルダ部21が立設されている。このホルダ部21の内側には、スリーブ嵌合孔211が形成されている。スリーブ嵌合孔211にはスリーブ3が嵌合されて固定されており、スリーブ3の中空部であるシャフト貫通孔31には、下端部にフランジ部41を有するシャフト4が下側から貫通され、かつ、回転自在に支持されている。スリーブ3とシャフト4との間の隙間には潤滑油が満たされ、スリーブ3のシャフト貫通孔31の内周面には、その潤滑油に動圧を発生させてシャフト4を支持するラジアル動圧溝(図示略)が形成されている。
【0019】
スリーブ3の下端面におけるシャフト貫通孔31の開口周囲には環状の第1の凹部311が形成され、第1の凹部311の周囲には環状の第2の凹部312が形成されている。これら凹部311,312は、シャフト貫通孔31と同心状である。第2の凹部312には、円板状のカウンタープレート39が嵌合されるとともに溶着や接着等の手段により気密的に固着されている。シャフト4のフランジ部41は第1の凹部311内に収納され、フランジ部41は、その状態で上側の第1の凹部311の頂面および下側のカウンタープレート39と対向してシャフト4の抜け止めをなしている。
【0020】
ベース2においては、ホルダ部21の外周部にステータアッシー5が固定されている。ステータアッシー5は、ホルダ部21の外周部に嵌着して固定された珪素鋼板の積層体からなるステータコア51と、ステータコア51に巻回されたステータコイル52とから構成される。
【0021】
シャフト4の上端部はスリーブ3から突出しており、その突出した上端部に、ロータアッシー6を構成するロータハブ61の中心部が固定されている。ロータハブ61は上面が平坦な円板部611を主体とするもので、円板部611の下面の外周縁およびその内側には、外側円筒部612および内側円筒部613がそれぞれ同心状に下方に向かって突出形成されている。ロータハブ61の外側円筒部612の内周面には、ステータコア51と隙間を空けて対向するロータマグネット62が固定されている。ロータマグネット62は、N極およびS極の複数極に着磁されている。ロータハブ61の内側円筒部613の内側には下方に開口するスリーブ収容凹所615が形成されており、このスリーブ収容凹所615の頂面にスリーブ3の上端面が対向するようになっている。スリーブ3の上端面にはスラスト動圧溝(図示略)が形成され、スラスト軸受として機能する。
【0022】
また、ロータハブ61の外側円筒部612の外周面には、鍔状のディスク載置部614が形成されている。このディスク載置部614には上記ディスク(不図示)が装着される。当該スピンドルモータ1の近傍には、該ディスクに作用する記録用ヘッド(不図示)が配設される。
【0023】
ロータアッシー6はロータハブ61とロータマグネット62とから構成され、シャフト4と一体に回転する。ベース2のロータマグネット62の直下には、回転するロータアッシー6の軸方向位置を安定させる環状の吸引板29が配設されている。
【0024】
上記のベース2、スリーブ3、シャフト4、ロータハブ61は、ステンレスやアルミニウム等の剛性を有する金属で構成される。
【0025】
上記構成を有するスピンドルモータ1は、ステータコイル52に通電すると、ステータコア51により磁場が形成され、この磁場がロータマグネット62に作用してロータアッシー6がシャフト4を中心に回転する。そして、上記ディスクはこのようなスピンドルモータ1の作動により回転、停止させられ、該ディスクに対し上記記録用ヘッドが情報の書き込みと読み出しを行う。
【0026】
[2]ベースとスリーブとの接着構造
上記のようにスリーブ3はベース2のスリーブ嵌合孔211に嵌合されて固定されているが、その固定手段として接着剤が用いられている。
【0027】
図2(a)に示すように、ベース2に形成されたホルダ部21内のスリーブ嵌合孔211の内周面22には、周方向に沿った複数本(この場合、2本)の接着溝23が軸方向に所定間隔をおいて形成されており、一方、スリーブ3の外周面32であってベース2側の接着溝23に対向する箇所には、周方向に沿ったスリーブ3側の接着溝(シャフト支持部材側の接着溝)33が形成されている。ベース2側およびスリーブ3側の各接着溝23,33は一定幅であって、軸方向に離間した所定箇所において全周にわたり形成され、対向することによって各接着溝23,33内は互いに連通している。これにより、接着剤Pが塗布される拡大隙間部が形成される。
【0028】
本実施形態では、図2(a)に示すように、互いに対向するベース2側の接着溝23とスリーブ3側の接着溝33とは、双方の溝中央位置23c,33cが軸方向(図2で上下方向)に一致する状態に配置されている。各接着溝23,33の寸法は、例えば、幅が0.5mm以下程度、深さが0.15mm以下の範囲で形成され、その本数は例えば1〜3本程度とされる。また、溝形状については断面形状が、ベース2側の接着溝23は円弧形状に形成され、スリーブ3側の接着溝33は三角形状に形成されている。
【0029】
スリーブ3をベース2に組み付け固定するにあたっては、ベース2のスリーブ嵌合孔211にスリーブ3を嵌合し(隙間嵌め、あるいは軽圧入)、互いに連通しているベース2側の接着溝23およびスリーブ3側の接着溝33に、嫌気性熱硬化型等の接着剤Pを塗布する。その接着剤Pは毛細管現象によってベース2とスリーブ3との隙間に浸透し、接着剤Pが硬化することでベース2とスリーブ3とが接着される。接着剤Pはベース2側およびスリーブ3側の各接着溝23,33内にも充満した状態で硬化する。
【0030】
本実施形態によれば、溝中央位置23c,33cを軸方向に一致させて対向配置したベース2側およびスリーブ3側の接着溝23,33内で硬化した接着剤Pが、ベース2の内周面22およびスリーブ3の外周面32に対しアンカー効果をそれぞれ発揮する。本実施形態ではベース2側とスリーブ3側の双方に接着溝23,33を形成しているため、接着剤Pによるアンカー効果はベース2とスリーブ3の双方に対して奏され、これにより従来よりもベース2とスリーブ3との接着強度の向上が図られる。
【0031】
[3]接着構造の他の実施形態
上記実施形態では、ベース2側の接着溝23とスリーブ3側の接着溝33とを、双方の溝中央位置23c,33cが軸方向に一致する状態で対向させているが、本発明は、双方の接着溝23,33は、少なくとも一部が互いに対向する状態に配置されている形態であればよいものとしている。
【0032】
図2(b)はそのような形態の一例であり、この場合は、ベース2側の接着溝23とスリーブ3側の接着溝33とは、双方の溝中央位置23c,33cが軸方向にずれていながら、一部が互いに対向して双方が連通している。本実施形態においては、双方の接着溝23,33の溝幅の少なくとも50%以上が互いに対向するように、溝中央位置23c,33cが軸方向にずれている。これは、互いに対向する接着溝23,33の溝幅が50%未満であると、ベース2側およびスリーブ3側の接着溝23,33により形成される拡大隙間部の最小の厚みが小さくなって十分な接着強度が得られないからである。各接着溝23,33の幅および深さは上記実施形態と同じであり、ベース2側の接着溝23は図2(a)のままの位置とし、2本のスリーブ3側の接着溝33のうち、上側の接着溝33は上側のベース2側の接着溝23よりも上方にずらし、下側の接着溝33は下側のベース2側の接着溝23よりも下方にずらしている。対向するベース2側およびスリーブ3側の接着溝23,33の溝中央位置23c,33cのずれ量(図3:Dで示す)は、0.20mm以下の範囲で設定される。
【0033】
この実施形態では、ベース2側およびスリーブ3側の接着溝23,33が軸方向にずれた状態で互いに対向しているため、各接着溝23,33の幅が同じ場合、図3に示すように、それぞれの接着溝23,33の内部の接着剤は、対向する接着溝23(33)が形成されていない面(図3でベース側の内周面22の領域22a、スリーブ3側の外周面32の領域32a)にも付着する。これにより上記実施形態と比べて、互いに対向する接着溝23,33の全体幅が増すことで接着剤の接着面積が大きくなり、その結果、接着強度をさらに向上させることができる。
【0034】
ベース2側の接着溝23とスリーブ3側の接着溝33とが、双方の溝中央位置23c,33cが軸方向にずれていながら、一部が互いに対向して双方が連通している形態は、図2(b)に示す形態とは逆に、上側のベース2側の接着溝23が上側のスリーブ3側の接着溝33よりも上方にずれ、下側のベース2側の接着溝23が下側のスリーブ3側の接着溝33よりも下方にずれた形態であってもよい。また、ベース2側の全ての接着溝23がスリーブ3側の全ての接着溝33よりも上方にずれていたり、この逆に、ベース2側の全ての接着溝23がスリーブ3側の全ての接着溝33よりも下方にずれていたりする形態も含む。
【0035】
[4]シャフト支持部材の他の実施形態
上記一実施形態のスピンドルモータ1は、シャフト支持部材であるスリーブ内3にシャフト4が回転自在に支持されているが、本発明はシャフト支持部材にシャフトが固定された形式のものも含み、図4はその種のスピンドルモータを示している。図4に示すスピンドルモータ1Bにおいては、図1に示したものと同一の構成要素には同一の符号を付しており、以下では異なる構成部分を説明する。
【0036】
ベース2の中心に形成された円筒状のホルダ部21の内側はブッシュ嵌合孔212とされ、このブッシュ嵌合孔212に、上面に凹所78が形成されたカップ状のブッシュ(シャフト支持部材)7が嵌合されて接着によって固定されている。ブッシュ7の凹所78の中心には軸方向に延びるシャフト固定孔71が貫通形成されており、このシャフト固定孔71にシャフト4の下端部が圧入によって固定されている。
【0037】
この実施形態のスピンドルモータ1Bにおいては、ロータハブ61の下面中心に形成された下方に突出する軸受部616が、ブッシュ7に固定されたシャフト4対し回転自在に支持されている。シャフト4は軸受部616の中心に貫通形成された軸孔617を貫通している。また、軸受部616はブッシュ7の凹所78内に嵌め込まれ、その下端面がブッシュ7の凹所78の上面に対向する。軸受部616がシャフト4に回転自在に支持されたロータアッシー6は、軸受部616の内周面がシャフト4に対し潤滑油を介して摺動回転し、軸受部616の下端面が潤滑油を介してブッシュ7の凹所78の上面に摺動することで、シャフト4を中心に回転する。摺動面である軸受部616の内周面および下端面には、それぞれラジアル荷重およびスラスト荷重を受ける動圧溝(図示略)が形成されている。
【0038】
図5(a)に示すように、ベース2に形成されたホルダ部21内のブッシュ嵌合孔212の内周面22には、周方向に沿った複数本(この場合、2本)の接着溝23が軸方向に所定間隔をおいて形成されており、一方、ブッシュ7の外周面72であってベース2側の接着溝23に対向する箇所には、周方向に沿ったブッシュ7側の接着溝(シャフト支持部材側の接着溝)73が形成されている。ベース2側およびブッシュ7側の各接着溝23,73は一定幅であって、軸方向に離間した所定箇所において全周にわたり形成され、対向することによって各接着溝23,73内は互いに連通している。これら接着溝23,73に塗布される接着剤Pにより、ブッシュ7はベース2に固定される。各接着溝23,73内が互いに連通していることにより、接着剤Pが塗布される拡大隙間部が形成される。
【0039】
この実施形態では、図5(a)に示すように、互いに対向するベース2側の接着溝23とブッシュ7側の接着溝73とは、双方の溝中央位置23c,73cが軸方向(図5で上下方向)に一致する状態に配置されている。溝の断面形状は上記一実施形態と同様であって、ベース2側の接着溝23は円弧形状に形成され、ブッシュ7側の接着溝73は三角形状に形成されている。
【0040】
図5(b)は、図2(b)に示した場合と同様に、ベース2側とブッシュ側7の接着溝23,73の双方の溝中央位置23c,73cが軸方向にずれていながら、一部が互いに対向して双方が連通している形態を示している。この場合も、双方の接着溝23,33の溝幅の少なくとも50%以上が互いに対向するように、溝中央位置23c,33cが軸方向にずれており、そのずれ量は0.20mm以下の範囲で設定される。
【0041】
[5]その他
なお、上記各実施形態では、ベース2側の接着溝23は断面円弧形状に形成され、スリーブ3側およびブッシュ7側の接着溝33,73は断面三角形状に形成されているが、溝形状の組み合わせはこの逆、すなわちベース2側の接着溝23が三角形状、スリーブ3側およびブッシュ7側の接着溝33,73が円弧形状であってもよく、また、双方がともに三角形状か円弧形状のいずれかであってもよい。しかし、本発明では各接着溝23,33,73の断面形状は任意であり、本実施形態には限定されない。
【0042】
また、上下複数段に形成される各接着溝23,33(73)においては、対向する接着溝23,33(73)の溝中央位置23c,33c(73c)を一致させた形態と、ずれている形態とを組み合わせてもよい。また、各接着溝23,33,73の寸法および本数は、上記実施形態に限定されず適宜に選択されるが、1〜3本が好適とされる。
【実施例】
【0043】
次に、本発明の実施例を挙げて本発明の効果を実証する。
図1に示した構造を有するスピンドルモータにおいて、ベース側の接着溝とスリーブ側の接着溝が図2(a)に示した上下2段で各接着溝の溝中央位置が軸方向に一致して対向する形態のものを実施例1とした。また、図2(b)に示したベース側の接着溝とスリーブ側の接着溝が上下2段で各接着溝の溝中央位置が軸方向にずれて対向する形態のものを実施例2とした。これに対し、図6に示すようにベース側にのみ接着溝を形成した形態のものを比較例とした。実施例1,2および比較例の各接着溝の形状(断面の形状)、深さ、幅、対向する接着溝の溝中央位置のずれ量については、表1に示す通りである。各試験体の接着溝に嫌気性接着剤を塗布してベースにスリーブを接着した。
【0044】
【表1】
【0045】
ベースにスリーブを接着した上記の実施例1,2および比較例の試験体を、下記の接着強度試験に供し、ベースとスリーブとの接着強度を評価した。
【0046】
[接着強度試験]
まず、試験体のスピンドルモータを軸方向に落下させて衝撃を与える。衝撃の度合いは加速度のG値で表わし、1200Gの場合、1500Gの場合とする。また、衝撃を与えないもの、すなわち0Gの試験体も用意する。0G、1200G、1500Gが付与された試験体を、実施例1,2および比較例につきそれぞれ5個ずつ得る(試験体1〜5)。次いで、試験体を、図1に示した状態から上下反転させた状態としてベースを保持し、スリーブを下方に押す荷重をかけ、スリーブがロータアッシーごとベースから下方に抜けた時までの押した荷重の最大値を、接着強度(N)とする。試験結果を、表2に示すとともに、図7で平均値をグラフ化した。
【0047】
【表2】
【0048】
上記結果によれば、衝撃を与えない場合(0G)には、実施例1,2および比較例の接着強度に大きな差はないが、1200G、または1500Gの衝撃を与えた場合に比較例よりも実施例1,2の方が接着強度が高い値を示している。また、実施例1,2を比較すると実施例1よりも実施例2の方が衝撃を与えた後の接着強度が高い。すなわちベース側およびスリーブ側の双方に接着溝を対向させて形成する場合には、溝中央位置をずらした方が衝撃を与えた後の接着強度高いことが判った。
【符号の説明】
【0049】
1,1B…スピンドルモータ
2…ベース
21…ホルダ部
23…ベース側の接着溝
23c…ベース側の接着溝の溝中央位置
3…スリーブ(シャフト支持部材)
33…スリーブ側の接着溝(シャフト支持部材側の接着溝)
33c…スリーブ側の接着溝の溝中央位置
4…シャフト
5…ステータアッシー
6…ロータアッシー
62…ロータマグネット
7…ブッシュ(シャフト支持部材)
73…ブッシュ側の接着溝(シャフト支持部材側の接着溝)
73c…ブッシュ側の接着溝の溝中央位置
D…溝中央位置のずれ量
P…接着剤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7