特許第6185079号(P6185079)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6185079-電解質材料の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6185079
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】電解質材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/32 20060101AFI20170814BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20170814BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20170814BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20170814BHJP
【FI】
   C08F8/32
   H01M8/02 P
   H01B13/00 Z
   !H01M8/10
【請求項の数】22
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-549341(P2015-549341)
(86)(22)【出願日】2012年12月21日
(65)【公表番号】特表2016-508168(P2016-508168A)
(43)【公表日】2016年3月17日
(86)【国際出願番号】US2012071358
(87)【国際公開番号】WO2014098907
(87)【国際公開日】20140626
【審査請求日】2015年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】591006586
【氏名又は名称】アウディ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】AUDI AG
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515169315
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ アラバマ,ザ ユニバーシティ オブ アラバマ
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ズィーウェイ
(72)【発明者】
【氏名】グマラ,マリカ
(72)【発明者】
【氏名】ホソカワ,ヨウイチ
(72)【発明者】
【氏名】スラッシャー,ジョセフ エス.
(72)【発明者】
【氏名】セイラー,トッド エス.
(72)【発明者】
【氏名】マツネフ,アンドレイ
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンデス,リチャード エドワード
(72)【発明者】
【氏名】ウォーターフェルド,アルフレッド
【審査官】 松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−324559(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/096653(WO,A1)
【文献】 特開平07−145362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/00 − 8/50
H01M 8/00 − 8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶性であるとともに850g/mol以下の当量を有する低当量のパーフルオロポリマ電解質材料の製造方法であって、
パーフルオロカーボンバックボーン鎖と、該パーフルオロカーボンバックボーン鎖からエーテル結合を介して延在するとともにスルホニルフルオリド基 −SO2−Fで終端するパーフルオロ側鎖と、を含む低当量のパーフルオロポリマ樹脂を提供し、
前記スルホニルフルオリド基をスルホンアミド基 −SO2−NH2に変換するように、前記パーフルオロポリマ樹脂をアンモニアガスに露出させ、
前記スルホンアミド基を、3次元架橋結合した、低当量、非水溶性のパーフルオロポリマ電解質材料のスルホンイミド基 −SO2−NH−SO2−に変換するように、スルホンアミド形態の前記パーフルオロポリマを一つ以上の化学剤と接触させる、
ことを備え
前記パーフルオロポリマ樹脂のアンモニアガスへの露出が、前記パーフルオロポリマ樹脂を固体状態でアンモニアガスに露出させることを含み、
前記パーフルオロポリマ樹脂のアンモニアガスへの露出の前に、前記パーフルオロポリマ樹脂をマイクロサイズの粒子にし、次いで前記マイクロサイズの粒子をアンモニアガスに露出させることをさらに備えた、パーフルオロポリマ電解質材料の製造方法。
【請求項2】
前記パーフルオロポリマ樹脂の提供が、直鎖状のパーフルオロポリマ樹脂を形成させるように、テトラフルオロエチレンと、一つまたは複数のパーフルオロビニルエーテルモノマと、を共重合させることを含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記パーフルオロポリマ樹脂中における、前記テトラフルオロエチレンの、前記一つまたは複数のパーフルオロビニルエーテルモノマに対するモル比が平均で3:1またはそれ未満であることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記パーフルオロポリマ樹脂の提供が、パーフルオロホモポリマ樹脂を形成させるように、パーフルオロビニルエーテルモノマを重合させることを含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記重合が、HFC43−10およびパーフルオロヘキサンを含むこれに限定しないフッ素化溶媒の有無にかかわらず、ビス(ペンタフルオロプロピオニル)ペルオキシドまたはビス(ヘプタフルオロブチリル)ペルオキシドである開始剤を用いて行われることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
非水溶性であるとともに850g/mol以下の当量を有する低当量のパーフルオロポリマ電解質材料の製造方法であって、
パーフルオロカーボンバックボーン鎖と、該パーフルオロカーボンバックボーン鎖からエーテル結合を介して延在するとともにスルホニルフルオリド基 −SO2−Fで終端するパーフルオロ側鎖と、を含む低当量のパーフルオロポリマ樹脂を提供し、
前記スルホニルフルオリド基をスルホンアミド基 −SO2−NH2に変換するように、前記パーフルオロポリマ樹脂をアンモニアガスに露出させ、
前記スルホンアミド基を、3次元架橋結合した、低当量、非水溶性のパーフルオロポリマ電解質材料のスルホンイミド基 −SO2−NH−SO2−に変換するように、スルホンアミド形態の前記パーフルオロポリマを一つ以上の化学剤と接触させる、
ことを備え、
スルホニルフルオリド形態の前記パーフルオロポリマ樹脂のアンモニアガスへの露出が、前記パーフルオロポリマ樹脂を溶解させた液体溶液中にアンモニアガスを吹き込むことを備えた、パーフルオロポリマ電解質材料の製造方法。
【請求項7】
前記パーフルオロポリマ樹脂のアンモニアガスへの露出が、前記スルホニルフルオリド基のスルホンアミド基への変換の際にアンモニアガスが消費されるのに応じて、前記パーフルオロポリマ樹脂を収容する反応容器に追加のアンモニアガスを加えることを含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記スルホニルフルオリド基のスルホンアミド基への変換を通して所定の圧力に維持するように、前記反応容器内のアンモニアガスの圧力を制御することをさらに備えることを特徴とする請求項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記一つ以上の化学剤が、F−SO2−Rf−SO2−Fを含むとともに、任意選択的にNH2−SO2−Rf’−SO2−NH2を含み、RfおよびRf’は、それぞれ独立して−(CF2n−、および−(CF2n'−O−(CF2n'−からなる群から選択され、nは1〜6、n’は1〜4であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
前記化学剤が、F−SO2−CF2−SO2−Fを含むことを特徴とする請求項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記化学剤が、F−SO2−(CF26−SO2−Fを含むことを特徴とする請求項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記化学剤が、NH2−SO2−CF2−SO2−NH2を含むことを特徴とする請求項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記化学剤が、NH2−SO2−(CF26−SO2−NH2を含むことを特徴とする請求項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記スルホンアミド形態の前記パーフルオロポリマを一つ以上の化学剤と接触させることが、前記F−SO2−Rf−SO2−F、前記NH2−SO2−Rf’−SO2−NH2、および前記スルホンアミド形態の前記パーフルオロポリマを、反応容器内に少なくとも一つの極性溶媒およびアミン触媒とともに加えることを含むことを特徴とする請求項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記スルホンアミド形態の前記パーフルオロポリマを一つ以上の化学剤と接触させることが、前記F−SO2−Rf−SO2−Fおよび前記NH2−SO2−Rf’−SO2−NH2を、反応容器内でアミン触媒および少なくとも一つの極性溶媒と混合して、スルホニルフルオリド末端基を有する直鎖状のオリゴマ材料を生成する反応を生じさせ、次いで前記スルホンアミド形態の前記パーフルオロポリマと、前記直鎖状のオリゴマ材料とを結合させて、前記パーフルオロポリマ中の前記スルホンアミド基をスルホンイミド基に変換すると同時に、3次元架橋結合した、低当量のパーフルオロポリマ電解質材料を生成させることを含むことを特徴とする請求項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記スルホンアミド形態の前記パーフルオロポリマを、前記F−SO2−Rf−SO2−Fおよび前記NH2−SO2−Rf’−SO2−NH2と接触させることが、式X/(Y+0.5Z)≧1(但し、X,Y,Zは変数、X>0、Y≧0、Z>0)に従って、XモルのF−SO2−Rf−SO2−Fと、YモルのNH2−SO2−Rf’−SO2−NH2と、Zモルの前記パーフルオロポリマと、を化合させることを含むことを特徴とする請求項に記載の製造方法。
【請求項17】
前記スルホンアミド形態の前記パーフルオロポリマを前記一つ以上の化学剤と接触させた後、未反応のスルホンアミド基をスルホンイミド基に変換するように、生成したポリマを、より多くの前記化学剤と同一の化学剤または異なる化学剤のうちの少なくとも一方で処理することをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項18】
前記未反応のスルホンアミド基が、さらにスルホンイミド基に変換されることを特徴とする請求項17に記載の製造方法。
【請求項19】
前記未反応のスルホンアミド基の変換が、それらの側鎖を−CF3基で終端させることを含むことを特徴とする請求項17に記載の製造方法。
【請求項20】
前記未反応のスルホンアミド基の変換が、それらの側鎖をスルホニルフルオリド基で終端させ、次いでそれらのスルホニルフルオリド基をスルホン酸基に変換させることを含むことを特徴とする請求項17に記載の製造方法。
【請求項21】
前記一つ以上の化学剤が、F−SO2−Rf−SO2−F、F−SO2−(Rf−SI)m−Rf−SO2−F、およびF−SO2−(Rf−SI)m'−(CF2m''−CF3からなる群から選択され、Rfは、それぞれ独立して−(CF2n−、および−(CF2n'−O−(CF2n'−から選択されるとともに、nは1〜6、n’は1〜4であり、SIは、−SO2−NH−SO2−であり、m,m’,m’’は、それぞれ0〜6であることを特徴とする請求項17に記載の製造方法。
【請求項22】
生成された前記パーフルオロポリマ電解質材料は、非水溶性であるとともに625g/mol以下の当量を有することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子(PEM)型燃料電池などに用いられる高分子電解質材料に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は一般的に電流を発生させるために使用される。単一の燃料セルは、通常、アノード電極と、カソード電極と、燃料と酸化剤との周知の電気化学反応により電流を発生させるようにアノード電極とカソード電極との間に配された電解質と、を含む。電解質は高分子膜であってもよく、これはプロトン交換膜すなわち「PEM」としても知られる。
【0003】
一般的な種類の高分子交換膜は、NAFION(登録商標)(デュポン社)などのパーフルオロスルホン酸(PFSA)高分子膜である。PFSAポリマは、パーフルオロ側鎖が連結した、パーフルオロカーボン骨格を有する。各側鎖はスルホン酸基で終端しており、このスルホン酸基は、アノード電極とカソード電極との間でプロトンを移動させるすなわち伝導するプロトン交換部位として機能する。
【0004】
PFSAポリマのプロトン伝導性は、相対湿度(RH)および温度に関して異なる。伝導性と水和のレベルとの関係は、プロトン輸送の2つの異なるメカニズムに基づいている。一つは、プロトン輸送が膜内の水によってアシストされるビークルメカニズム(vehicular mechanism)であり、もう一つは、プロトンがスルホン酸部位に沿ってホッピングするホッピングメカニズム(hopping mechanism)である。ビークルメカニズムは高相対湿度条件において主要な役割を果たすのに対し、ホッピングメカニズムは、低相対湿度条件において重要となる。
【0005】
特に自動車用途のPEM燃料電池は、ラジエータサイズを縮小し、システム構造を簡略化し、全システム効率を向上させるために、高温(100°C以上)かつ低相対湿度(25%RH以下)条件で作動できることが要求される。その結果、高温かつ低相対湿度条件での高いプロトン伝導性を有するPEM材料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5463005号明細書
【特許文献2】特開2002−212234号公報
【特許文献3】国際公開第2011/129967号
【特許文献4】米国特許出願公開第2009/041614号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2006/0160958号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2005/0113528号明細書
【特許文献7】米国特許第7060756号明細書
【特許文献8】欧州特許第1690314号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Polymeric materials: science and engineering -WASHINGTON- 80, 1999: 600
【非特許文献2】Zhou, Ph.D. thesis 2002, Clemson University
【非特許文献3】Xue, thesis 1996, Clemson University
【非特許文献4】Journal of Fluorine Chemistry 127 (2006) 1087-1095
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
PFSAポリマは通常、テトラフルオロエチレン(TFE)と、パーフルオロ(per-F)ビニルエーテルモノマ(Nafion(登録商標)用の、パーフルオロ−2−(2−フルオロスルホニルエトキシ)プロピルビニルエーテルすなわち「PSEPVE」など)と、のフリーラジカル共重合によって作成される。プロトン伝導性が向上したPFSAポリマを生成するための一つのアプローチは、生成ポリマ中のTFE含有量を低減することである。電解質材料の伝導性の指標は、当量(equivalent weight, EW)、すなわち1molの塩基を中和するのに必要なポリマのグラム数である。市販のPFSAポリマ(例えば、NAFION(登録商標)など)の最も一般的な当量は、800〜1100g/molであり、それにより伝導性と力学的特性とのバランスが提供される。この範囲の当量を有するPFSAポリマが必要であるが、伝導性を、例えば750g/molなどの、特定の当量の閾値以下にまで高めると、電解質が水溶性となり、PEM用としてふさわしくない。
【0009】
パーフルオロスルホンイミド(SI)酸(ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド CF3−SO2−NH−SO2−CF3など)は、PEM燃料電池用途における強い酸性度、優れた化学的および電気化学的安定性を含む好適な特性を示す。TFEと、SI−含有パーフルオロビニルエーテルモノマと、の共重合によって作成された直鎖状のパーフルオロスルホンイミドポリマ(PFSI)は、DesMarteau等によって最初に報告された(特許文献1)。PEM用途の1175〜1261g/molの範囲の当量を有するこうした種類の直鎖状のPFSIポリマは、Creager等によって報告された(非特許文献1)。また2つのSI基を含有するパーフルオロビニルエーテルモノマが合成されるとともに、対応する1175g/molの当量を有する直鎖状のPFSIポリマが作成され、PEM燃料電池運転条件において高い熱的安定性と化学的安定性を有することが実証された(非特許文献2)。PFSIポリマ中のTFE含有量を低減させることが生成ポリマのプロトン伝導性を増加させる効果的な方法である。970g/molの当量を有する直鎖状のPFSIポリマが文献において報告された(非特許文献3)。しかしながら、こうした種類のさらに低い当量を有する直鎖状のPFSIポリマは、フリーラジカル共重合法を通しての合成が困難であり、特定の当量閾値以下ではポリマが水溶性となる。
【0010】
(−SO2−F形態の)PFSAポリマ樹脂の化学修飾による、約1040の計算当量を有するPFSIポリマの作成が報告された(特許文献2)。さらに、より効率的な化学修飾方法がHamrock等によって報告された(特許文献3)。その方法では、(−SO2−F形態の)直鎖状のPFSAポリマ樹脂をアセトニトリル(ACN)中においてアンモニアで処理して、−SO2−F基をスルホンアミド基(−SO2−NH2)に変換し、そしてこれをパーフルオロジスルホニルジフルオライド化合物(F−SO2−(CF23−SO2−Fなど)と反応させて、最終生成物において−SI−(CF23−SO3Hに変換する。約800g/molの当量を有する3M社の(−SO2−F形態の)PFSAから開始することによる、約625g/mol程度の低当量を有する非水溶性のポリマ電解質が報告された。しかしながら、さらに低い当量(625g/mol未満)を有するポリマ電解質は水溶性のポリマをもたらし、従ってPEM用途ではふさわしくない。
【0011】
架橋は、ポリマが水や有機溶剤に溶けるのを防ぐための効果的な方法として知られている。このステップはポリマの機械的強度を向上させることが知られている。(−SO2−F形態の)架橋PFSAポリマは、スルホニルフルオリド(−SO2−F)基とスルホンアミド(NH2−SO2−)基とのカップリング反応により、スルホンイミド酸(sulfonimide acid)(−SO2−NH−SO2−)を形成させることによって実現される。結果として得られるスルホンイミド基はまた、プロトン伝導部位としても機能する。
【0012】
Uematsu等(非特許文献4)は、ポリママトリックス中の架橋部位としてのSI基を形成させるように、TFE、PSEPVE、およびスルホンアミド含有パーフルオロビニルエーテルモノマのターポリマ中で、スルホニルフルオリド基とスルホンアミド基とをカップリングさせる熱処理(270°C)の使用を報告した。ポリママトリックスの機械的強度の向上が、当量の低下無しに示された。
【0013】
Hamrock等(引用文献4〜8)は、(−SO2−Fおよび/または−SO2−Cl形態の)PFSAポリマと反応させて、ポリママトリックス中で芳香族スルホン含有架橋結合を生成するように、芳香族架橋剤を用いることを提唱した。提唱された反応条件は、高温(160°C以上)での、触媒としてのルイス酸との熱処理を含む。提唱された生成ポリマは、900g/molよりも低い当量を有する。さらに低い当量(700g/mol以下)の架橋ポリマ生成物についてはそれらの特許文献には言及されていない。さらに、ポリママトリックスへの芳香環構造の導入は、化学的安定性に欠陥を生じさせ、PEM燃料電池における高酸性条件および高酸化条件下で、生成された高分子膜に粗悪な耐久性をもたらすおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
非水溶性、低当量のパーフルオロポリマ電解質材料の製造方法が、パーフルオロカーボンバックボーン鎖(perfluorinated carbon-carbon backbone)と、該パーフルオロカーボンバックボーン鎖から延在するとともにスルホニルフルオリド基 −SO2−Fで終端するパーフルオロ側鎖と、を含む低当量のパーフルオロポリマ樹脂を提供することを含む。パーフルオロポリマ樹脂がアンモニアガスに露出されて、スルホニルフルオリド基をスルホンアミド基 −SO2−NH2に変換する。スルホンアミド形態(sulfonamide form)のパーフルオロポリマを一つ以上の化学剤と接触させて、スルホンアミドを、3次元架橋結合した、低当量、非水溶性のパーフルオロポリマ電解質材料のスルホンイミド基 −SO2−NH−SO2−に変換する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】相対湿度に対する種々のポリマ生成物の伝導率を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
開示の実施例のプロトン交換材料は、PEM燃料電池用のプロトン交換膜として用いられ、あるいはプロトン交換が望ましいその他の用途として用いてもよい。以下に記載するように、開示のプロトン交換材料により、水などの溶媒に対する耐溶剤性を維持しながら、プロトン交換部位の密度を増加させる能力を提供する。比較として、PFSAポリマ中のTFE含有量を単純に減少させることによりプロトン交換部位の密度を増加させることは、プロトン伝導性を向上させるが、ポリマの水溶性も増加させ、これはPEM燃料電池用途では好ましくない。逆に言えば、PFSAポリマ中のTFE含有量を単純に増加させることによりプロトン交換部位の密度を低下させることは、ポリマの水安定性を向上させるが、プロトン伝導性を低下させ、PEM燃料電池性能を低下させる。
【0017】
一例のプロトン交換材料は、パーフルオロカーボンバックボーン鎖と、エーテル結合を介してパーフルオロカーボンバックボーン鎖から延在するパーフルオロ側鎖と、を含む。パーフルオロ側鎖は、一つ以上のスルホンイミド(SI)基、−SO2−NH−SO2−を有する。
【0018】
実施例では、パーフルオロカーボンバックボーン鎖は、構造 −(CF2−CF2N−CF2−CF(−O−RA−RB)− を有し、Nは平均して0以上であり、RAは、一般構造体 −CX2Xz− を含んだ直鎖状または分枝状のパーフルオロ鎖であり、Xは、2以上であり、Zは、0以上である。RBは、直鎖状または分枝状のパーフルオロ鎖であり、このパーフルオロ鎖は、1つ以上のSI基を含むとともに、−CF3基または−SO3H基で終端するか、または別のRAと共有結合する。
【0019】
実施例では、バックボーン鎖から延在する側鎖はエンドキャップ鎖、架橋鎖、またはその両方でもよい。エンドキャップ鎖は、少なくとも一つのSI基 −SO2−NH−SO2−を有し、2〜5個のSI基を有してもよく、あるいは5個を上回るSI基を有してもよい。さらに、エンドキャップ鎖は、−CF3基または−SO3H基で終端する。−CF3で終端するエンドキャップ鎖の一部は、複数のSI基を含んでもよく、−SO3Hで終端するエンドキャップ鎖の一部は、少なくとも一つのSI基を含みうる。架橋鎖は少なくとも2つのSI基を含むとともに、同一のまたは異なるポリマバックボーン鎖と共有結合しうる。
【0020】
プロトン交換材料では、パーフルオロ側鎖の20〜99%がエンドキャップ鎖であり、側鎖の80〜1%が架橋鎖である。別の例では、パーフルオロ側鎖の50〜99%がエンドキャップ鎖であり、側鎖の50〜1%が架橋鎖である。
【0021】
一例では、プロトン交換材料は以下に示す構造1を有し、Nは平均して0以上であり、RAは、一般構造体 −CX2Xz− を含んだ直鎖状または分枝状のパーフルオロ鎖であり、Xは、2以上であり、Zは、0以上である。SIはスルホンイミド基であり、RC1,RC2,RC3は、それぞれ独立して−(CF2y−および−(CF2y'−O−(CF2y'−から選択されるとともに、yは1〜6、y’は1〜4であり、m,m’,n,n’は、1以上である。m,m’,n,n’は、互いに等しくても異なってもよく、zは0以上である。当然ながら、エンドキャップ鎖および架橋鎖は、パーフルオロカーボンバックボーン鎖においてランダムに生じても良い。エンドキャップ鎖および架橋鎖の割合は、上述したとおりである。
【0022】
【化1】
【0023】
使用者は、プロトン交換部位の所望の当量を提供するように、選択された数のSI基、バックボーン構造、および側鎖構造を有する開示の実施例のプロトン交換材料を設計しうる。
【0024】
プロトン交換材料の当量は、概ね850未満である。更なる例では、当量は700未満である。更なる例では、当量は625未満である。開示の範囲により、PEM燃料電池またはその他の用途にとって望ましい相対的に高いプロトン伝導性と、膜および電極アイオノマにとって適切な流動性(rheology)とが提供される。
【0025】
こうした電解質材料、すなわちプロトン交換材料の製造方法は、
(A)パーフルオロカーボンバックボーン鎖と、そのパーフルオロカーボンバックボーン鎖から延在した、エーテル結合を有するとともにスルホニルフルオリド基 −SO2−Fで終端するパーフルオロ側鎖と、を含んだパーフルオロポリマ樹脂を作成し、
(B)−SO2−F基をスルホンアミド基 −SO2−NH2に変換させるようにパーフルオロポリマ樹脂をアンモニアガスに露出させ、
(C)−SO2−NH2基の少なくとも一部をSI基 −SO2−NH−SO2−に変換させるように、−SO2−NH2基を有するパーフルオロポリマをスルホニルフルオリド含有剤で処理することを含み、
(D)は、(もしあれば)未反応のスルホンアミド基をSI基に変換させるべく、ステップ(C)からのポリマ生成物をより多くのスルホニルフルオリド含有剤で処理するか、または異なるスルホニルフルオリド含有剤で処理するように用いられる。ステップDは任意選択的である。
【0026】
開示のSIの化学作用が架橋結合を生じさせ、その架橋結合により、低当量のポリマが水溶性となるのを防ぎ、それにより電気化学的用途での使用を可能にする。従来公知の低当量の直鎖状PFSAポリマは水溶性であり、PEM燃料電池には使用できない。
【0027】
一例の方法によって製造された電解質材料は700未満の当量を有し、従来の電解質材料に比較して優れた化学的および機械的安定性を維持しながら、高温および低相対湿度条件において優れたプロトン伝導性を提供する。
【0028】
ステップ(A)のパーフルオロポリマ樹脂は、ラジカル重合ステップを通して合成される。ステップ(B)はアミディフィケーション(amidification)ステップと呼ばれ、ステップ(C)はゲル化ステップと呼ばれ、任意選択的なステップ(D)は後処理ステップである。以下は、ステップ(A),(B),(C),(D)の限定しない例を示す。適切な場合には、本明細書において以下の略語が用いられる。
【0029】
°C:摂氏温度
3P:ビス(ペンタフルオロプロピオニル)ペルオキシド
4P:ビス(ヘプタフルオロブチリル)ペルオキシド
ACN:アセトニトリル
atm:気圧
DSC:示差走査熱分析
EW:当量
g:グラム
HFC43−10:2,3−ジヒドロデカフルオロペンタン
M:モル濃度
mtorr:ミリトル
PSEPVE:パーフルオロ−2−(2−フルオロスルホニルエトキシ)プロピルビニルエーテル
POPS:パーフルオロ 3−オクサ−4−ペンテン−スルホニルフルオリド、CF2=CF−O−CF2CF2−SO2−F
psig:ポンド/平方インチゲージ
RH:相対湿度
rpm:毎分回転数
TFE:テトラフルオロエチレン
TGA:熱重量分析。
【0030】
[ステップ(A):ラジカル重合]
パーフルオロポリマ樹脂が、TFEとパーフルオロビニルエーテルモノマ(PSEPVEまたはPOPSなど)とのラジカル重合によって製造される。重合の一例では、TFEとパーフルオロビニルエーテルモノマとのモル比が約3:1またはそれ未満であり、その結果、低当量(750未満)のポリマ樹脂が得られる。更なる例では、重合がパーフルオロビニルエーテルモノマのみで行われ、最も低い当量(280ほど)のモノマのホモポリマが製造される。
【0031】
以下の例は、ポリマ樹脂の合成の更なる詳細を示す。
【0032】
〈例A−1(TFE+PSEPVE共重合)〉
一般的な手順は、200gのHFC43−10と、550gのPSEPVEと、を600mlのオートクレーブに加え、全ての酸素を除去するようにその溶液を5回、凍結脱気することにより脱ガス処理を行うことを含む。次いでオートクレーブに窒素を0psigで充填し、200rpmの割合で攪拌しながら40°Cに加熱する。同時に開始剤供給ラインを−30°Cに冷却する。
【0033】
オートクレーブは、TFEとCO2との等モルの混合物を用いて105psigに加圧される。5.26重量%の4Pの、HFC43−10溶液を高圧ポンプによりオートクレーブに10ml/minの流速で1分間、追加し、次いで残りの重合のために流速を0.0167ml/minまで低下させる。重合時にTFEが消費されるに従い、全体を通してTFEの圧力を一定に維持するようにTFEとCO2との等モル混合物を継続的に添加する。5時間後、開始剤の供給とTFEの供給が停止され、残余のTFEが消費されるようにオートクレーブが一晩中静置される。
【0034】
次いで残余のCO2がオートクレーブから排出され、溶媒および過剰のモノマが120°C、20mtorrの減圧蒸留により除去され、775g/molの当量を有する95gのポリマ樹脂が産出される。
【0035】
〈例A−2(TFE+POPS共重合)〉
一般的な手順は、525gのHFC43−10と、200gのPOPSと、を600mlのオートクレーブに加え、全ての酸素を除去するようにその溶液を5回、凍結脱気することにより脱ガス処理を行うことを含む。次いでオートクレーブに窒素を0psigで充填し、200rpmの割合で攪拌しながら35°Cに加熱する。一方、開始剤供給ラインを−30°Cに冷却する。
【0036】
オートクレーブは、TFEとCO2との等モルの混合物を用いて105psigに加圧される。2.03重量%の3Pの、HFC43−10溶液を高圧ポンプによりオートクレーブに14ml/minの流速で1分間、追加し、次いで残りの重合のために流速を0.0389ml/minまで低下させる。重合時にTFEが消費されるに従い、全体を通してTFEの圧力を一定に維持するようにTFEとCO2との等モル混合物を継続的に添加する。5時間後、開始剤の供給とTFEの供給が停止され、残余のTFEが消費されるようにオートクレーブが一晩中静置される。
【0037】
次いで残余のCO2がオートクレーブから排出される。溶媒および過剰のモノマが120°C、20mtorrの減圧蒸留により除去され、700g/molの当量を有する60gのポリマが産出される。
【0038】
〈例A−3(PSEPVEの単独重合)〉
124.25gの脱気されたPSEPVEが、先に3P開始剤が収容された密閉ガラス反応容器に追加される。3.38重量%の3Pの、HFC43−10溶液2.4mlが、5日ごとに追加され、重合が20°Cで行われる。5回目の追加後5日目に、過剰なモノマが減圧蒸留により除去され、36gのPSEPVEホモポリマが産出される。
【0039】
このポリマはIRおよびTGAによって特徴付けられており、375°Cで10%の重量損失を示し、406°Cで50%の重量損失を示す。DSCは、20.11°CのTgおよび184°CのTmを示す。
【0040】
〈例A−4(POPSの単独重合)〉
140gの脱気されたPOPSが、先に3P開始剤が収容された密閉ガラス反応容器に追加される。3.38重量%の3Pの、HFC43−10溶液4.3mlが、5日ごとに追加され、重合が20°Cで行われる。5回目の追加後5日目に、過剰なモノマが減圧蒸留により除去され、33gのホモポリマが産出される。
【0041】
このポリマはIRおよびTGAによって特徴付けられており、365°Cで10%の重量損失を示し、402°Cで50%の重量損失を示す。DSCは、44.02°CのTgを示す。
【0042】
〈例A−5(バルク共重合)〉
100mlのステンレス鋼のオートクレーブに、149.42gの脱気されたPSEPVEを加えた。オートクレーブを200rpmの攪拌速度で45°Cに加熱した。オートクレーブをTFEおよびCO2の等モル混合物とともに55psigに加圧する前に、ポンプを用いて、0.2324Mの4Pの、パーフルオロヘキサン溶液2.3mlをオートクレーブに1分間に亘って添加した。次いでTFEを消費させ、圧力を降下させながら重合を一晩中進行させた。結果として得られたポリマは、赤外分光学により500g/molの当量を有していた。
【0043】
〈例A−6(バルク共重合)〉
128gの脱気されたPSEPVEが100mlのステンレス鋼のオートクレーブに加えられる。CO2スクラバ(scrubber)を取り付けた状態で、そのスクラバに位置する6点熱電対の温度を常に50°C未満に保ちながらTFEとCO2の混合物をゆっくりと加える。ニート(neat)TFEをオートクレーブに加え、オートクレーブの上部空隙内のニートTFEの圧力は、200rpmの攪拌速度で反応全体を通して55psigに維持される。ポンプを用いて、0.106Mの3Pの、パーフルオロヘキサン溶液4.0mlをオートクレーブに1分間に亘って添加し、次いで0.00667ml/minの添加速度で5時間に亘って添加する。結果として得られたポリマは、赤外分光学により約550g/molの当量を有していた。
【0044】
[ステップ(B):アミディフィケーション]
アミディフィケーションは、全ての−SO2−F基をスルホンアミド基 −SO2−NH2に変換させるように(−SO2−F形態の)パーフルオロポリマ樹脂をアンモニアに露出させることを含む。アンモニアガスを用いることにより、アミディフィケーションが無溶媒の処理において行われることを可能にし、その処理では、パーフルオロポリマ樹脂は液体溶媒溶液中に溶解されるのではなく、固体状態で処理される。パーフルオロポリマ樹脂のアンモニアガスへの露出の前に、低温グラインディング(cryogrinding)を含むこれに限定しない技術によりポリマ樹脂の粒径を縮小させ、アンモニアガスとのポリマの接触面積を増加させ、それにより反応時間を短縮し、反応収率を改善する。溶媒を無くすことにより、(i)溶媒との副反応による望ましくない副生成物を低減する、相対的に不純物の無い反応を提供し、(ii)生成物のワークアップ(work-up)を単純化することにより生成物の回収を容易にする。以下にアンモニアガスを用いたアミディフィケーションの更なる例を示し、これは溶解(溶媒)処理で実施することもできる。
【0045】
〈例(B)−1(PSEPVEホモポリマのアミディフィケーション)〉
ホモポリマのスルホンイミド形態の作成では、基体を丸底フラスコに配置し、減圧下でポリマが流動し始めるまでゆっくりと加熱した。次いでフラスコを回転させて、内部のフラスコ表面にホモポリマの薄膜を形成させた。反応フラスコを冷却し、アンモニアガスを圧力1atmとなるまで加えた。反応フラスコ内に1atmの一定圧力を維持するようにアンモニアを時折追加した。
【0046】
ワークアップでは、以下の2つの方法のうちの一つが適用された:
1)生成物を乾燥ACNによって抽出し、溶媒を蒸発させて、生成物を減圧下100〜120°Cで乾燥させた。
2)エチルアセテートまたはジエチルエーテルを含むこれに限定しない有機溶媒に生成物を溶解させ、水で洗浄した。この溶液をMgSO4上で乾燥させ、溶媒を蒸発させて、生成物を減圧下100〜120°Cで乾燥させた。
【0047】
第2の方法により、ポリマ生成物からの全てのNH4Fの除去が可能となる。3.5gのPSEPVEホモポリマ(7.85mmol,−SO2−F形態)から開始して、84%の収率の、2.91gのポリマ生成物(−SO2−NH2形態)が得られた。
【0048】
〈例(B)−2(PSEPVEホモポリマのアミディフィケーション)〉
6.67gのPSEPVEホモポリマ(−SO2−F形態)をフラスコに加え、気体アンモニアを20°Cで加えた。アンモニアが消費されるに従い、15psigの圧力で3日間、圧力を一定に保つようにアンモニアを更に追加した。100°C、20mtorrでNH4Fを除去した。得られたポリマにACNを加え、ポリマを溶解させるように80°Cで12時間、加熱した。溶液が別の容器に静かに移され、ACNが蒸留によって除去されて、5.78gのポリマ生成物(−SO2−NH2形態)を産出した。このポリマ生成物は、極性有機溶媒に対してよく溶解し、ACN中で100mg/mlの溶解度を有する。
【0049】
〈例(B)−3(TFE−PSEPVE共重合体のアミディフィケーション)〉
当量775を有するPSEPVEおよびTFEの共重合体4.00gをNiオートクレーブに加え、NH3を加えて、30psig、20°Cに12時間、維持した。生成したNH4Fを、100°C、20mtorrで、減圧蒸留により除去した。150mlACNの2つのアリコート(aliquot)を加え、スルホンアミドポリマ生成物を溶解させるように80°Cに加熱した。溶液が別の容器に静かに移され、ACNが蒸留によって除去されて、3.46gのポリマ生成物(−SO2−NH2形態)を産出した。このポリマは、極性有機溶媒に可溶であり、ACN中で10mg/mlの溶解度を有するとともに、N−メチル−2−ピロリジノン中で25mg/mlの溶解度を有する。
【0050】
〈例(B)−4(溶液のアミディフィケーション)〉
TFEとPSEPVEの共重合体6.52gを還流パーフルオロヘキサン中に溶解させる。アンモニアを溶液中に吹き込み、常温で数時間、高還流比に維持した。アンモニアを沸騰蒸発させ、フッ化アンモニウムを含む揮発性物質を全て、50mtorrで110°Cに加熱することによって除去した。次いで乾燥ACNをフラスコに加えて加熱し、還流させた。ACNの3回の抽出後、87%の収量で5.67gの白色生成物が得られた。
【0051】
[ステップ(C):ゲル化]
ゲル化ステップでは、アミディフィケーションステップ(B)からのスルホンアミド形態のパーフルオロポリマが第1の化学剤と反応して、スルホンアミド基の少なくとも一部をSI基に変換させると同時に架橋側鎖を生成させる。一例として、第1の化学剤は、F−SO2−Rf−SO2−Fを含むとともに、任意選択的にNH2−SO2−Rf’−SO2−NH2を含み、RfおよびRf’は、それぞれ独立して−(CF2n−、および−(CF2n'−O−(CF2n'−から選択されるとともに、nは1〜6、n’は1〜4である。更なる例では、nは、n’と等しい、またはn’と異なる。
【0052】
実施例では、ゲル化ステップは、1ステップ反応または2ステップ反応のいずれかで行われる。1ステップ反応は、F−SO2−Rf−SO2−F、NH2−SO2−Rf’−SO2−NH2、およびスルホンアミド形態のパーフルオロポリマを、反応容器内に少なくとも一つの極性溶媒および触媒としての少なくとも一つのアミンとともに加えることを含む。一例では、極性溶媒は、これに限定しないが、ACN、1,4−ジオキサン、DMF、NMP、およびそれらの組合せを含む。アミン触媒は、これに限定しないが、トリメチルアミン(TMA)、トリエチルアミン(TEA)、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、およびそれらの組合せを含む。反応温度は、約25°C〜100°Cまたはそれ以上である。一例では、その温度は50°C〜80°Cである。反応時間は、反応試薬、比率、および反応温度に応じて数時間から最高1ヶ月である。
【0053】
2ステップ反応は、最初にF−SO2−Rf−SO2−FおよびNH2−SO2−Rf’−SO2−NH2を、反応容器内で(上述した)少なくとも一つの極性溶媒および触媒としての少なくとも一つのアミンと混合して、その両端が−SO2−Fで終端する直鎖状のSI−含有オリゴマを生成する反応を生じさせる。次いでアミディフィケーションステップからのスルホンアミド形態のパーフルオロポリマを反応溶液中に加えて、直鎖状のSI−含有オリゴマと反応させる。一例では、F−SO2−Rf−SO2−F、NH2−SO2−Rf’−SO2−NH2、およびTEAを反応容器内でACNおよびTEAと結合させる。その混合物を50〜80°Cで1時間〜1週間攪拌して、その両端に−SO2−F基を有する直鎖状のSI−含有オリゴマを生成させる。次いで(任意選択的にACN中の)アミディフィケーションステップからのスルホンアミド形態のパーフルオロポリマを上記の反応混合物中に加える。反応時間は、試薬、比率、および反応温度に応じて数時間から1ヶ月である。
【0054】
更なる例では、1ステップ又は2ステップのゲル化が、式X/(Y+0.5Z)≧1(但し、X,Y,Zは変数、X>0、Y≧0、Z>0)に従って、XモルのF−SO2−Rf−SO2−Fと、YモルのNH2−SO2−Rf’−SO2−NH2と、Zモルのパーフルオロポリマと、を化合させることを含む(スルホンアミド基から計算)。
【0055】
[ステップ(D):後処理]
任意選択的に、上記のゲル化ステップ後、パーフルオロポリマ中の未反応のスルホンアミド基が第2の化学剤で更に処理されてSI基に変換されるとともに側鎖が−CF3または−SO2−Fのいずれかで終端され、−SO2−Fは、基礎液処理によりスルホン酸基に変換される。例えば、任意選択的に追加の極性溶媒およびアミン触媒を有する、第2の化学剤が、上記のゲル化ステップからの反応混合物中に直接添加される。あるいは、第2の化学剤を、上記のゲル化ステップから単離したポリマ生成物と、反応容器内で(上記の)少なくとも一つの極性溶媒および少なくとも一つのアミン触媒とともに反応させる。
【0056】
更なる例では、第2の化学剤は、F−SO2−Rf−SO2−F、F−SO2−(Rf−SI)m−Rf−SO2−F、およびF−SO2−(Rf−SI)m'−(CF2m''−CF3から選択され、Rfは、それぞれ独立して−(CF2n−、および−(CF2n'−O−(CF2n'−から選択されるとともに、nは1〜6、n’は1〜4であり、SIは、スルホンイミドであり、m,m’,m’’は、それぞれ0〜6である。
【0057】
〈例C−1〉
窒素保護されたグローブボックス中の20mlガラス瓶に、アミディフィケーションステップからのスルホンアミド形態のパーフルオロポリマ223mg(0.25mmol)と、188mg(2.5mmol)のF−SO2−(CF24−SO2−Fと、0.35ml(Aldrich >99.5%、2.5mmol)のTEAと、0.64ml(Aldrich、無水物)のACNと、を加えた。反応混合物を50°Cに加熱し、5時間攪拌して、黄色のゲルを形成させた。次いで反応混合物を80°Cに加熱して、1日攪拌した。生成したゲルを1M HCl溶液中で12時間、常温でゆっくりと酸性化させた。酸性化したゲルを30%H22中に常温で3週間浸漬することにより清浄化し、これをフード内で乾燥させて、無色の生成物を得た。
【0058】
単離されたポリマ生成物の当量は、滴定により約500g/molであることが測定された。赤外分光学によりスルホンアミド基は検出されなかった。水摂取率(water uptake ratio)は最高540%であるが、生成ポリマは沸騰水には不溶性である。80°Cおよび広範な相対湿度範囲(20〜95%RH)下では、ポリマ生成物は、Nafion(登録商標)112膜の約2.8倍のプロトン伝導性を示した。
【0059】
〈例C−2〉
アミディフィケーションステップからのスルホンアミドポリマ(1.5g、2.14mmol)をガラス瓶に配置し、9mlのACNを加えた。反応混合物を懸濁液が形成されるまで攪拌し、次いでF−SO2−(CF22−SO2−F(1.8g、6.77mmol)と、2.5mlのTEAを加えた。反応混合物を6時間超音波処理し、その後55〜60°Cで1日攪拌した。次いで反応温度を80〜85°Cまで上昇させ、反応混合物を更に1日攪拌した(1ステップゲル化)。
【0060】
F−SO2−(CF22−SO2−F(1.8g、6.77mmol)と、3mlのACNと、2.5mlのTEAと、を反応混合物に加え、その後、6時間超音波処理し、55〜60°Cで1日攪拌し、80〜85°Cで1日攪拌した(後処理)。
【0061】
反応混合物を、80〜90°Cで約1時間、KOH/H2O/DMSO(15/35/50重量%)溶液で処理し、脱イオン水で洗浄し、次いで〈例C−1〉に記載のように酸性化、清浄化して、64%の収量の無色の単離されたポリマ生成物を得た。
【0062】
〈例C−3(2ステップゲル化)〉
0.4mlのACNおよび0.1mlのTEA中の、NH2−SO2−(CF24−SO2−NH2(0.0654g、0.182mmol)およびF−SO2−(CF24−SO2−F(0.143g、0.374mmol)の溶液を75〜80°Cで2.5時間攪拌し、F−SO2−((CF24−SI)m−(CF24−SO2−F溶液(但し、mは平均2)を得た。
【0063】
上記のF−SO2−((CF24−SI)m−(CF24−SO2−F溶液の半分の量をグローブボックス内で、0.3mlのACNおよび0.1mlのTEA中におけるアミディフィケーションステップからのスルホンアミドポリマの溶液(0.081g、0.182mmol)に加えた。この反応混合物を55〜60°Cで64時間攪拌した(約10時間でゲル化が発生)。次いでF−SO2−(CF24−SO2−F(0.07g、0.183mmol)、ACN(0.3ml)、TEA(0.1ml)を反応混合物に加えて、その混合物を更に55〜60°Cで16時間攪拌し、80〜85°Cで20時間攪拌した(後処理ステップ)。上記の例に記載したワークアップ後、ポリマ生成物を45%の収量で単離した。
【0064】
開始ポリマ、反応剤、反応剤の比率、および/または反応条件の種類を変えることにより、様々な構造、異なる当量、および異なる物理的性質(機械的特性およびプロトン伝導特性を含む)を有する生成ポリマが得られる。攪拌および2ステップのゲル化の両方が、生成ポリマの収量を増加させるのに有効であった。
【0065】
上記と同じ方法を用い、PSEPVEホモポリマから開始することにより、高いプロトン伝導性を有する非水溶性の生成ポリマが得られた(図1に示す)。
【0066】
Type−1:F−SO2−(CF22−O−(CF22−SO2−FおよびNH2−SO2−(CF24−SO2−NH2を用いた2ステップのゲル化による。
【0067】
Type−2:F−SO2−(CF24−SO2−FおよびNH2−SO2−(CF24−SO2−NH2を用いた2ステップのゲル化による。
【0068】
Type−3:F−SO2−(CF24−SO2−Fを用いた1ステップのゲル化による。
【0069】
特徴部の組合せを例示に示すが、本発明の様々な実施例の利点を実現するために全ての特徴部を組み合わせる必要はない。換言すれば、本発明の実施例に従って設計されたシステムは、必ずしも構造1に示された全ての特徴部または構造1に概略的に示す全ての部位を含むものではない。さらに、一実施例の選択された特徴部をその他の実施例の選択された特徴部と組み合わせてもよい。
【0070】
上記の記載は本質的に限定的なものではなく例示に過ぎない。本発明の真意を逸脱することなく開示の実施例に対する種々の変形や修正が当業者にとって明らかとなるであろう。したがって、本発明に付与される法的保護の範囲は付記の特許請求の範囲を検討することによってのみ決定される。
図1