(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば非特許文献1に開示されたGaN基板を使用する場合の問題点としては、大口径が難しいこと、および高価であることなどが挙げられる。
【0007】
また、GaN基板を紫外領域で用いる場合には、光吸収が起こるため、効率のロスとなる。GaN基板に比べて光吸収が少ないAlN基板はまだ技術的なハードルが大きく、普及には至っていない。また、R面のサファイヤ基板上にエピタキシャル成長させた非特許文献2に開示されたGaN結晶は、XRDの半値幅がc軸方向700arcsec、m軸方向1200arcsec(主面)と大きく、転位密度が高いために、高品質な結晶成長が未確立である。また、原理的に面欠陥(stacking fault)が高密度で上方へ伝播するために、結晶性に大きな影響を及ぼす。凹凸側壁からの成長も保護膜を積層する必要があり、プロセスが複雑になる。また、凹凸側壁からの成長は制御も難しい。
【0008】
さらに、非特許文献4に記載のLEDは2色発光であるため、単色発光で高効率のLEDを得ることが難しく、また、ストライプ状のSiO
2マスクを配置して形成されるため発光体積を十分に上げることができない。さらには、SiO
2マスクを配置する工程が必要になるという課題もある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ここで開示された実施形態は、凹凸表面を有する基板と、基板上
に形成され、AlxGa1-xN(0<x≦1)からなる窒化物半導体下地層と、窒化物半導体下地層上
に形成され、発光層または受光層として機能する窒化物半導体機能層とを含み、窒化物半導体下地層は、
ファセット成長によりC面に対して50°以上65°以下の角度で傾斜する傾斜面からなる凹凸面を表面として含み、窒化物半導体機能層は、窒化物半導体下地層の凹凸面上に
傾斜面に沿って設けられている窒化物半導体素子である。
【0010】
例えばこの技術を用いた場合には、R面若しくはN面のGaN基板でなくても、凹凸加工を施したサファイヤ、スピネル、SiC(炭化珪素)、Si(シリコン)などの基板を使ってピエゾ電界を抑制することができるため、発光素子の発光効率を向上させることができる。さらに凹凸面が露出することにより光取り出し効率を上げることができる。さらにコンタクト面積が大きくなることにより動作電圧を下げることもできる。サファイヤは紫外領域でも吸収係数が小さいため使用することができる。また安定なC面の駆動力(kinetics)を得ながら成長するため、結晶性がC面と変わらないほど高品質に成長することができる。
【0011】
本発明においては、R面およびN面の少なくとも一方が露出するように凹凸面が形成される。露出とは発光層または受光層等として機能する窒化物半導体機能層の下の層(窒化物半導体下地層)に凹凸面のR面およびN面の少なくとも一方が露出しており、凹凸面のR面およびN面の少なくとも一方の表面上に発光層または受光層等の窒化物半導体機能層が積層されることを意味している。したがって、発光層または受光層等の窒化物半導体機能層は、凹凸面が有する傾斜面(斜めファセット面)に沿って形成されることになる。なお、発光層または受光層等の窒化物半導体機能層は、その上に積層される層によって埋め込まれてもよい。しかし、光取り出し効率の観点から考えると、発光層または受光層等の窒化物半導体機能層が埋め込まれない構造であることが好ましい。また、本明細書におけるファセット成長により露出したR面およびN面は、それぞれ、理想的なR面(
図16の実線で取り囲まれた面)および理想的なN面(
図17の実線で取り囲まれた面)でなくてもよく、C面に対して50°以上65°以下の角度で傾斜する傾斜面であってもよく、好ましくはC面に対して50°以上65°以下の角度で傾斜するとともにa軸(a1、a2またはa3のいずれかの軸)に対して50°以上65°以下の角度で傾斜する傾斜面であってもよい。なお、窒化物半導体機能層は、発光層または受光層等の何らかの機能を発現させることが可能な窒化物半導体層である。また、窒化物半導体下地層は、窒化物半導体機能層の下側(基板側)に位置する窒化物半導体層である。また、窒化物半導体層は、In
αAl
βGa
γN(0≦α≦1、0≦β≦1、0≦γ≦1、(α+β+γ)>0)の式で表される窒化物半導体結晶層であって、当該窒化物半導体結晶層にn型ドーパントおよび/またはp型ドーパントがドープされてもよく、アンドープであってもよい。
【0012】
基板の凹凸表面上に形成された窒化物半導体層は、
図2および
図6に示すように、基板の凹凸表面の凸部の上方に凹凸面の凹部が位置していてもよい。基板の凹凸表面上にファセット成長を利用して凹凸面を形成することにより、基板の凹凸表面の凸部の高さおよび周期によって、基板の凹凸表面の上方に形成される斜めファセット面の大きさなどを変更することができる。
【0013】
図14の模式的平面図に示すように、基板11はドット状の凸部12を有しており、ドット状の凸部12上にファセット成長によりR面およびN面の少なくとも一方が露出する凹凸面13を形成した場合には、凹凸面13の上面視において、凹凸面13の凸部13aが6角形の辺を構成しており、6角形の複数が互いに接するように並んで配置されていることが好ましい。主面が2つ混在して12角形が互いに並んで配置されることもある。実際、
図3に示すように、細かく観察してみるとN面が露出しているために6角形とならない場合がある。しかし、基板の凹凸表面の凸部の配置が主要なファセット面に対して30°回転して配置されているためマクロに6角形が互いに並ぶように配置されている。そうすると表面の平坦面積が小さくなるため、発光効率および受光効率を向上することができる。また、
図19の模式的平面図に示すように、基板11はストライプ状の凸部12を有しており、ストライプ状の凸部12上にファセット成長によりR面およびN面の少なくとも一方が露出する凹凸面13を形成することもできる。
【0014】
図3および
図7に示すように、凹凸面には、R面とN面とが混在して露出していることが好ましい。詳細は不明であるが、凹凸面にR面とN面とが混在して露出している場合には、成長条件を変更することによって、R面およびN面の制御が可能となり、より幅広い設計が可能となる。また凹凸面の上面視において、6角形が12角形になれば表面積が大きくなるため好ましい。また成長条件によってR面とN面との比率が成長中に変われば、成長の各面の成長速度が変わることを意味し、貫通転位の振る舞いも変わる。転位を、露出面を変える過程で曲げることも可能である。
【0015】
凹凸面が有する傾斜面(斜めファセット面)は、Al
xGa
1-xN(0<x≦1)層であることが好ましい。例えば最上層、若しくは中間層としてAl
xGa
1-xN(0<x≦1)以外の材料を用いることはできる。しかしAlGaN(0<x≦1)層(Inを含んでもよいが、4元混晶は制御が難しく、ファセットを形成するのに十分な層厚を得るのに適してはいない。Inをごく少量入れるのであれば、サーファクタント効果等の電子ドーピングの効果があり好ましい可能性がある。)は、C面の成長速度が速く、R面およびN面が露出しやすくなる傾向にある。したがって、ファセットを得るための成長条件の自由度(例えば成長温度、成長速度、V/III比など)が高くなるため、好ましい。
【0016】
基板の凹凸表面の凸部の上方に空洞が存在することもある。例えば
図2では基板の凹凸表面の凸部の上方の右部にわずかに細長い空洞が存在することがわかる。これはファセット成長を継続させた際にグレイン同士が完全にフィットして会合せずにわずかに隙間を残すことに起因している。例えばこれにより歪、反りの緩和、貫通転位に対する効果的な終端などの効果(
図20参照)が期待できる。
【0017】
基板の凹凸表面の斜面上に空洞が存在していてもよい。これは、
図2によれば、基板の凹凸表面の凸部上に異常成長したグレイン(結晶粒界)が揃った面を持った窒化物層と会合する際にできる空洞である。これはファセット成長ならではの効果で、ファセット成長を継続させたこの構造の多くの場合で見られる特徴である。例えばこれにより歪、反りの緩和、貫通転位に対する効果的な終端などの効果が期待できる。
【0018】
凹凸面の凹部の底に窪みが存在していてもよい。これは上記で述べたのと同じで、各ファセット面を含んだグレイン同士が隙間を有しているために起こる。これはこの構造を実現する上で不可欠な部分である可能性がある。転位の伝播を防ぐなどの効果が考えられる。
【発明の効果】
【0019】
以上の手段により、従来から特性を向上させることができる窒化物半導体素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一例である実施の形態について説明する。なお、実施の形態の説明に用いられる図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0022】
本発明は、凹凸表面を有する基板(例えばSi、SiC、サファイヤ、GaNなど)の上にファセット成長をし、その形状を保ったまま、もしくは成長過程で露出面を変化させて、下地を形成し、発光層または受光層等の窒化物半導体層を基板の主面とは異なる面から成長させる発明である。
【0023】
本発明を使えばC面上にR面(10−11)、R面から30°回転したN面(11−21)の成長が可能であり、発光層または受光層等の窒化物半導体層の成長面の選択性が著しく上がる。さらに斜めファセット面によって凹凸面を形成することで、基板単位平面あたりの発光層または受光層の体積を上げることができ、発光体積または受光体積を上げることができる。
【0024】
例えば本発明では、基板は上部から見て凸部が6角形の水玉模様を持つようなパターンで成長した例をあげる。その形状では基板の凹凸表面の凸部の上方に窪みを持つような斜めファセット面を形成することができるため、完全にR面成長若しくはN面成長したときの発光層の形状は上から見て逆6角錐の形状となる。そうするとR面がC面に対しておおよそ60°傾いて成長した場合には、平面と比べておおよそ1.5倍の面積となる。
【0025】
さらに
図3および
図7に示されるように、例えばC面を選択した場合には、R面およびN面が混在した形で成長させることが可能で、ピエゾ電界を低減することができる。
図15にGaN上のIn
0.2Ga
0.8NのC面に対する傾斜角度[°]と全極性の不連続性[C/m
2]との関係を示す(非特許文献3参照)。
図15の白抜きの円がR面およびN面に対応している。これによればおおよそピエゾ電界はC面上に成長した場合と比べて1/5以下になる。AlGaN/GaN界面の場合でもこの理論は当てはまる。それにより波動関数の重なり積分が大きくなり、発光再結合寿命を早くでき、結果発光効率が向上する。さらにc軸配向性の強い窒化物において、通常R面およびN面の成長により良質な下地結晶を作るのは安易ではない。
【0026】
しかし本発明ではC面上に低温など特定の成長条件で現れる「ファセット現象」を使用して成長させるため、C面上にC面窒化物層を成長させるのと変わらない品質(例えばX線半値幅、貫通転位、点欠陥、面欠陥等)で成長させることが可能である。特に非極性では面欠陥(stacking fault)が成長方向に伝播するため、大きな問題となる。本発明ではそれを回避することが可能である。例えばGaNおよびAlGaNでファセット成長は可能であり、そのあと「埋め込まずに」成長することによってこの構造を実現することができる。
【0027】
実施例ではAlGaNのケースを紹介する。AlGaNは、3次元成長要素がGaNに比べて強く、この自然形成での6角形〜12角形(6角形以上はR面およびN面が混在したケース)を持つファセット成長の成長許容範囲が大きい。
【0028】
また発光層または受光層のあるファセットは空間的にみて互いにフィットしている形、つまりファセット間に生じる平坦な面(
図6の2Aおよび
図7の3A)が少ない状態のほうが好ましい。光取り出し効率は斜めファセット面の面積をいかに大きくとるかが重要なポイントであり、平坦部が大きくなることによって斜めファセット面の面積が小さくなるためである。
【0029】
図6の2Aおよび
図7の3Aに示すような平坦な面がファセット間に生じた場合には波長が変わってしまい、2波長化してしまうことで、発光効率が低下する可能性がある。AlGaNは1000℃以上の領域ではファセット成長させた際にN面(11−21)が出やすいので、
図14に示すように基板11がドット状の凸部12を有する場合には、凹凸面13の凸部13aは6角形の辺を構成するように配置されており、凹凸面13の凸部13aによって構成される6角形の辺が発光層または受光層等の窒化物半導体層の表面の凹凸の凸部を形成する辺と平行である場合には、C面を示す平坦な面が小さくなるため好ましい。例えば、R面が主要に露出するファセット成長であれば、基板11のドット状の凸部12は、基板11上に積層される発光層または受光層等の窒化物半導体層のm軸方向に最も周期が短くなるように配置されることが好ましい。
【0030】
また低温でAlGaN層を成長させると面をN面からR面にスイッチさせることが可能である。このスイッチングが例えば転位の振る舞いを大きく変えたり、物理特性を大きく変化させる可能性がある。また低温AlGaNは、発光層または受光層でのキャリアに対する転位の影響を減らすことができるV型形状のピットを形成することができるため、あらかじめこのスイッチング現象を見込んだ上で凹凸パターンを選択することも好ましい例として考えられる。
【0031】
また完全にスイッチさせずにN面とR面とを混在させることも可能である。そうすると12角形のファセットも可能で、基板の単位面積あたりの発光層または受光層の体積を大きくすることができるため好ましい。またファセット層を埋めることなく上に伝播させるためには各ファセット同士の間、基板の凹凸表面の凸部の上方に形成される空洞も重要な役割を果たす。事実、Al
xGa
1-xN(0<x≦1)層で実現したファセット構造は、基板の凹凸表面の凸部の上方に空洞が存在する。発光層(受光層)が形成されたファセットの底面(凹凸面の凹部の底)に窪みがある。この窪みは、基板の凹凸表面の凸部の上方の空洞が完全に埋まらずに残ったのか、埋まった後に再度形成されたのか今のところ不明であるが、ファセットを形成するためには不可欠な部分である可能性がある。
【0032】
この成長では通常半極性成長および無極性成長で問題となる面欠陥(stacking fault)が下地で横方向で消し合うためにファセット面に成長した半極性の発光層では問題とならないと考えられる。高いPL強度を実現したのはおそらくこれが一因である可能性がある。
【0033】
例えば量子井戸構造においてそれが存在するファセットの底面付近ではナノオーダーで6角形〜12角形をなぞるように形成される部分がある。この構造では、基板の反りおよび歪の緩和、ならびにクラックの防止が可能である。例えばクラックに関してはAlGaN層の場合ではドーピングおよび組成の変化によって起こる。またGaN層との接合において引張応力がかかるためクラックが入る。しかし応力がかかるa軸方向がファセットにより蛇行するため、トータルの歪および応力は緩和される。したがってクラックが発生しにくい。
【0034】
例えばSi基板上にAlGaNまたはGaNを成長させる際もたびたびクラックが問題となる。Si基板上にファセット成長させ、そのままその形状を残すことでこの問題がこの要素によって緩和するため、成長の自由度が上がる。
【0035】
表面が自然形成で凹凸形状となるため、光取り出し効率を上げることができる。エッチングによるダメージも低減できるためコンタクト時のエッチングによる酸化などを防ぐことができ、エッチングと比べて表面の状態を変えることなく電極(例えば透明導電酸化膜)とコンタクトさせることができる。特に200nm以上405nm以下の紫外線領域では光取り出し効率が大きな課題となっている。それは透過率の高い透明導電酸化膜が原理的に難しいからである。バンドギャップが大きければ通常結合エネルギーが大きくなるため、ドーパントなどによる原子の置換が難しくなる。したがって、活性化エネルギー、格子サイトへの置換が難しくなり、その結果高い導電性を実現するのが難しい。しかし本発明では基板の凹凸表面上にさらに表面が凹凸形状となるために、外部への光取り出し効果が著しく高くなる。従って実施例で示すように360nmのLED(発光ダイオード)でのPL発光では5倍以上著しい強度向上が平坦領域と比べて見られた。これは透明導電膜を付けていない状態での評価であるため、透明導電膜を付けた状態で測定すればさらにこの差は拡がると考えられる。
【0036】
本発明は、基板の凹凸表面の凸部の高さおよび周期を変えることによって、ファセットの形状(大きさなど)を制御することができるため、例えば光取り出し効率に関して言えば、波長によって適切な凹凸周期が異なる。したがって、この可変である特徴は大きなメリットを有する。
【0037】
本発明は、例えば、LED、太陽電池、フォトダイオードまたは電子デバイスに応用することができる。
【0038】
LEDでは、深紫外から赤外領域(200nm〜2000nm)まで使用することができる。紫外領域(200nm〜405nm)ではクラックが大きな問題となる。上述したように歪の方向が基板の表面の凹凸によって蛇行するため、また基板の単位面積あたりの表面積が大きくなるため、反り、歪およびクラックが緩和する。
【0039】
さらに紫外領域では取り出し効率が大きな問題となる。反射率の高い金属がないこと、ならびに透明性および高導電性を満たす透明導電膜がないことが挙げられる。そうすると本発明の凹凸構造により基板の凹凸および表面の凹凸が維持されるため、取り出し効率へのインパクトはかなり大きい。
【0040】
またキャリアの閉じ込めも紫外領域では問題となる。バンドギャップの高いキャリアブロック層を積層することができないからである。そうすると発光層に対してバンドオフセットの大きい障壁層を積層することが一つの解決策となるが、通常極性面だとピエゾ電界が大きくなってしまう。それにより伝導帯および価電子帯の波動関数の重なりが小さくなり、発光効率が低下する。しかしこの構造では半極性でピエゾ電界が小さくなるため、バンドオフセットを高くとったときのデメリットが小さく、キャリア閉じ込めのメリットの影響が大きくなり好ましい。
【0041】
青色領域(405nm〜470nm)では、厚膜で高品質のInGaN層を得ることが難しい。それは平衡蒸気圧がInNとGaNとで大きく異なること、および格子定数も大きく異なることから、高品質な混晶を得ることが難しいことが一因である。さらにInの層内でのマイグレーションにより、面内方向および成長方向において均一な膜を得ることが難しい。従って通常は量子井戸構造を用いる場合、GaNを障壁層として選択する場合が多い。そうすると特に上記波長範囲で長い領域では発光層(InGaN)と障壁層(GaN若しくはAlGaN)との格子不整合が大きくなり、結果としてピエゾ電界が大きくなる。そうすると上述のモデルでは発光効率が下がる。したがって、ピエゾ電界が小さくなる本発明はこの波長域ではメリットが大きい。
【0042】
光取り出し効率も、例えばITO(酸化インジウム錫)を積層した場合、すべての界面(凹凸基板/窒化物半導体層、窒化物半導体層/透明導電膜、透明導電膜/樹脂および空気)が凹凸形状となり、層内へ戻る全反射が小さくなるため、大きな改善が期待できる。またコンタクト抵抗もコンタクト面積(p層、n層、電極間)が大きくなるため原理的には小さくなる。青色領域で使用されるコンタクト層p−GaNとITOとは仕事関数がそれぞれ約7.0eVおよび4.3eVであるため、2.7eVのショットキーコンタクトとなる。
【0043】
欠陥、相互拡散、高キャリア濃度などにより、ピニングおよびトンネリングが起こることによって低コンタクト抵抗(1×10
-2Ωcm台)を実現しているがまだまだ改善の余地がある。したがってコンタクト面積を上げることへの動作電圧および電力効率へのインパクトは大きいと考える。またこの面では歪がないためにInのマイグレーションなども変化する可能性がある。それが発光層であるInGaN層の結晶性に大きく影響を与えることは多いに考えられる。さらに大電流密度で効率が低下するdroop現象などが現在問題となっている。これの解決策として、一つは厚膜発光層というのが挙げられる。しかしピエゾ電界による重なり積分の低下による発光効率の低下が顕著になること、結晶性の問題から現状では、内部量子効率を維持しながら実現するのは困難である。結晶性はともかく、ピエゾ電界に関してはこの技術を使えば大きく緩和されるためこの技術へのハードルが低くなる。従って今後の検討により、解決される可能性はある。また、上述したように発光面積が凹凸によって基板の単位面積に対して大きくなるため、効率のピークが大電流側に移行し、より高い電流密度での動作に適したLEDになると考えられる。
【0044】
また、Mgの発光層への拡散が問題となるケースがある。それもR面若しくはN面成長により拡散係数が変わる可能性がある。例えばMgの拡散は貫通転位を介して起こるというモデルがあるが、この面での貫通転位は傾斜しているので、拡散距離が長くなり、ジャンクション位置を発光層の近くにすることができる可能性がある。そうすると有効質量、活性化エネルギーが高く、高キャリア濃度実現が難しい、正孔の供給を高い濃度で発光層に持ってくることができ、結果として注入効率、キャリア分配が上がる可能性がある。そうすると発光効率およびdroopに好影響を与える可能性がある。
【0045】
また、緑色、赤色および赤外領域(480nm〜2000nm)では、青色領域の説明で述べたように、GaN障壁層を使った場合、発光層とのバンドオフセットが大きくなるため、ピエゾ電界低減の効果が大きくなる。その他のメリットとしてはおおよそ青色領域と同じである。
【0046】
上述した内容は、太陽電池およびフォトダイオードのような受光素子にも当てはまる。例えば光電変換の効率はピエゾ電界の低下によって上げられる。さらに受光面積も大きくなるため収率が上がると考えられる。
【0047】
また、電子デバイスでもドレイン、ゲート、ソースでの電極と窒化物半導体層のコンタクト抵抗が接触面積の観点から下げられると考える。
【実施例1】
【0048】
図18の模式的断面図に示すように、まず、直径4インチの凹凸表面を有する主面がC面のサファイヤ基板1(凸部1aのピッチP:2μm、凸部1aの幅W:1.3μm、凸部1aの高さH:0.6μm)上にAlNバッファ層8を成長させた。次に、サファイヤ基板1の温度(成長温度)を1255℃まで上昇させ、モル流量比で窒素を47%、水素を53%含むキャリアガスを用いて、AlNバッファ層8上にAl
0.1Ga
0.9N第1層2を1.5μm/hの成長速度で、36.5μmの厚さに成長させた。これにより、斜めファセット面を有する凹凸面を備えたファセット層(Al
0.1Ga
0.9N第1層2)が形成された。
【0049】
次に、モル流量比で窒素を90%、水素を10%含むキャリアガスを用いて、Al
0.1Ga
0.9N第1層2上にAl
0.1Ga
0.9N第2層3を1.5μmの厚さに成長させた。この時点でウエハの中央部はAl
0.1Ga
0.9N層3で埋められてファセット層は消失したが、ウエハの端部においては斜めファセット面を有する凹凸面を備えたファセット層が維持された。
【0050】
次に、SiH
4を導入したこと以外はAl
0.1Ga
0.9N第2層3と同一の条件で、Al
0.1Ga
0.9N第2層3上にSiドープn型Al
0.1Ga
0.9N第3層4(キャリア濃度:5×10
18/cm
3)を成長させた。この時点で、窒化物半導体層の成長を止めて、Siドープn型のAl
0.1Ga
0.9N第3層4の端部をSEM観察したところ、主要なR面にN面が混在して露出しているファセット(斜めファセット面4a)が観測された。
図5〜
図7に、Siドープn型のAl
0.1Ga
0.9N第3層4の端部のSEM観察結果を示す。
【0051】
サファイヤ基板1の温度を930℃まで下げて、モル流量比で窒素を97%、水素を3%含むキャリアガスを用いて、Siドープn型Al
0.1Ga
0.9N第3層4上に厚さ約500nmの低温Al
0.1Ga
0.9N第4層5(窒化物半導体下地層)を形成した。ここで、N面とR面とのスイッチングが起こり、R面の比率が上がる。
図1〜
図3に、低温Al
0.1Ga
0.9N第4層5の端部のSEM観察結果を示す。
【0052】
次に、低温Al
0.1Ga
0.9N第4層5上に多重量子井戸構造を有する発光層6(窒化物半導体機能層)を形成した。ここで、発光層6は、モル流量比で窒素を97%、水素を3%含むキャリアガスを用いてAl
0.1Ga
0.9Nからなる厚さ20nmのバリア層と、モル流量比で窒素を90%、水素を10%含むキャリアガスを用いてGaNからなる厚さ13nmの井戸層とを1層ずつ交互に5周期形成することによって形成された。発光層6の表面も凹凸形状を有しており、発光層6の斜めファセット面6aにはN面とR面とが混在して露出したままであった。
【0053】
その後、発光層6上に厚さ4nmのAl
0.1Ga
0.9Nバリア層(図示せず)を形成した後に、サファイヤ基板1の温度を1260℃まで上昇させ、Mgドープp型AlGaN、アンドープAlGaNおよびMgドープp型GaNをこの順に積層することによってp型層7を形成した。以上により、実施例1の窒化物半導体LEDウェハを作製した。
【0054】
実施例1のウェハの最表面を調査した結果、直径4インチのウェハには成長温度のばらつきによる面内分布があり、ウェハの内側は完全に膜が埋まり、外側が本発明のようになっていた。したがって、成長温度がファセットを維持する上で一つ重要な要因であると考えられる。
【0055】
したがって、この構造の効果は、埋まっている部分とファセットが残っている部分(本発明の構造)とを比較することによって確認できる。
図10〜
図13に、PL測定(波長266nmのYAGレーザ光による励起)の結果を示す。
図10がPL波長分布を示し、
図11がPLピーク強度分布を示し、
図12がPL積分強度分布を示し、
図13がPL半値幅分布を示す。
【0056】
図11に示すように、
図4に示される実施例1の窒化物半導体LEDウェハの中央の平坦部ではPLピーク強度が約1(a.u.)であるのに対して、端部のファセットが残っている部分(凹凸部)では約7(a.u.)と7倍となっている。これは、顕著に高い値である。
【0057】
また、
図10に示すように、中央の平坦部のPLピーク波長は358nm(
図8)であって、端部の凹凸部のPLピーク波長は355nm(
図9)であった。端部の凹凸部の斜めファセット面でPLピーク波長が短くなっていることから、端部の凹凸部では上述したようにピエゾ電界が下がっている可能性がある。
【0058】
また、
図13に示すように、中央の平坦部のPL半値幅は21.4nmであるのに対して、端部の凹凸部のPL半値幅は14.1nmであった。このように、PL半値幅は、中央の平坦部よりも端部の凹凸部の方が圧倒的に小さかった。したがって、端部の凹凸部の方が結晶性が良くなっていることが確認された。これは、バンドベンディングが小さいなどの要因が考えられる。バンドベンディングはピエゾ電界がかかった状態で実施例1のように発光層を厚さ13nmのように厚く積層すると、S次にカーブする。これによって、成長方向に対して量子準位が変わり、発光波長の不均一につながっている可能性がある。ここからもピエゾ電界が下がっている可能性が示唆される。
【0059】
図10〜
図13の面内マッピング測定では外周部にPL強度が高い領域があり、一番高い領域は外輪よりやや内側に位置している。強度を決めている大きな要因はファセットであるがファセット同士での強度の違いはまだよくわかっていない。しかしながら、斜めファセットの面内で占める割合(平坦部がいかに少ないか)、またはR面とN面との割合によって決まっている可能性も考えられる。また、vピットが大きく影響を及ぼしているかもしれない。
【0060】
中央の平坦部のX線半値幅は中央の平坦部が(0004)(004)102arcsec、(1−102)(102)417arcsecであり、斜めファセット面を有する端部の凹凸部は(0004)(004)122arcsec、(1−102)(102)363arcsecであって、ほとんど遜色がないものができた。
図2に示す実施例1で作製した低温Al
0.1Ga
0.9N第4層の断面のSEM像を参照すると、R面(10−11)が窪んでいる。N面(11−21)に段差があることにより光取り出し効率を向上させている可能性がある。
【0061】
ここで、4変数で示した結晶面方位(0004)は3変数で(004)、(1−102)は3変数で(102)と変換して表記することができる。
【実施例2】
【0062】
発光層6の井戸層として、GaNにわずかにInを入れたInGaN(モル流量比で20%)からなる井戸層を形成(温度が高く、モル流量比で水素を3%含むキャリアガスを用いているためにほとんど入らない)したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の窒化物半導体LEDウェハを作製した。
【0063】
図14に示すように、実施例2の窒化物半導体LEDウェハの端部の凹凸部のPLピーク波長は362nmであって、実施例1の窒化物半導体LEDウェハと同様に、中央の平坦部に対して端部の斜めファセット面を有する凹凸部のPL強度は著しく向上した(中央の平坦部1.3[a.u.]、端部の凹凸部5.4[a.u.])。
【0064】
図20および
図21に、実施例2の窒化物半導体LEDウェハの端部のSTEM像を示す。
図20には、貫通転位が横方向に曲がり、基板の凹凸表面の凸部の上方の空洞で終端していることが示されている。また、
図21には、発光層の多重量子井戸構造の周期構造が斜めファセット面に平行に形成されていることが示されている。
【実施例3】
【0065】
図22に、実施例3の窒化物半導体LEDチップの模式的な断面図を示す。まず、実施例1と同一の方法および同一の条件でp型層7までを形成した。次に、p型層7上にITOからなる透明導電層20をスパッタ法により温度300℃の条件で80nmの厚さに形成した。次に、Siドープn型Al
0.1Ga
0.9N第3層4を露出させるため、透明導電層20、p型層7、発光層6および低温Al
0.1Ga
0.9N第4層5をICPによりパターンエッチングした。次に、ワイヤー接続のためのTi/Alからなるp側パッド電極21を透明導電層20上に形成し、n側パッド電極22をSiドープn型Al
0.1Ga
0.9N第3層4の露出面上に形成して、実施例3の窒化物半導体LEDウェハを作製した。次に、実施例3の窒化物半導体LEDウェハの基板1をレーザスクライブ法により分割して、実施例3の窒化物半導体LEDチップを作製した。実施例3の窒化物半導体LEDチップの作製の際に透明導電層20の表面は平坦化せず、低温Al
0.1Ga
0.9N第4層のR面およびN面に沿った面が残る形とした。
【0066】
実施例3の窒化物半導体LEDウェハにおいても、PL強度が極性面上に発光層を成長したものよりも高くなっていたことから、EL(エレクトロルミネッセンス)でも同様に高くなることが予想される。また、実施例3の窒化物半導体LEDチップにおいては、大電流密度領域においても発光効率の低下が生じにくいこと(droop現象の低減)が期待される。
【0067】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の実施の形態および各実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0068】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。