【文献】
Cancer Investigation,2009年,Vol. 27,No. 6,Pages 613-623
【文献】
SCHOEBERL BIRGIT,AN ERBB3 ANTIBODY MM-121,IS ACTIVE IN CANCERS WITH LIGAND-DEPENDENT ACTIVATION,CANCER RESEARCH,2010年 3月 9日,V70 N6,P2485-2494
【文献】
SCHNEIDER B P,TRIPLE-NEGATIVE BREAST CANCER: RISK FACTORS TO POTENTIAL TARGETS,CLINICAL CANCER RESEARCH,米国,THE AMERICAN ASSOCIATION FOR CANCER RESEARCH,2008年12月15日,V14 N24,P8010-8018
【文献】
HARRIS LYNDSAY N,MOLECULAR SUBTYPES OF BREAST CANCER IN RELATION TO PACLITAXEL RESPONSE AND OUTCOMES 以下備考,BREAST CANCER RESEARCH,英国,CURRENT SCIENCE,2006年11月27日,V8 N6,P R66,IN WOMEN WITH METASTATIC DISEASE: RESULTS FROM CALGB 9342
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
女性において、乳癌は、最も一般的な癌の1つであり、癌による死亡の5番目に一般的な原因である。乳癌の不均質性に起因して、10年の無進行生存率は、ステージおよび型によって98%〜10%まで広く変動し得る。乳癌の異なる形態は、顕著に異なる生物学的特徴および臨床的挙動を有する場合がある。したがって、患者の乳癌の分類は、治療レジメンを決定するために重要な要素となる。例えば、現在、ホルモン受容体またはHER2受容体を標的とするいくつかの治療様式が使用可能であるため、組織学的な型およびグレードの分類に加えて、現在、乳癌は日常的に、ホルモン受容体(エストロゲン受容体(ER)およびプロゲステロン受容体(PR))の発現、およびHER2(ErbB2)の発現について評価される。ERおよびPRはいずれも、核受容体であり(大部分が細胞核に位置するが、細胞膜においても認めることができる)、ERおよび/またはPRを標的とする小分子阻害剤が開発されている。HER2、またはヒト上皮成長因子受容体2型は、通常、細胞表面上に位置する受容体であり、HER2を標的とする抗体が治療薬として開発されている。HER2は、それ自体で活性化リガンドに結合することができないEGFRファミリー(HER1(EGFR)、HER3(ErbB3)、およびHER4(ErbB4)も含む)の唯一のメンバーである。したがって、HER2は、HER3等の別のEGFRファミリーメンバーとのヘテロ二量体受容体複合体に組み込まれるときに、受容体として機能するに過ぎない。エストロゲン受容体を発現するとして分類される癌(エストロゲン受容体ポジティブ、またはER
+腫瘍)は、タモキシフェン等のERアンタゴニストで治療されることがある。同様に、高レベルのHER2受容体を発現するとして分類される乳癌は、トラスツズマブ等の抗HER2抗体、またはラパチニブ等のHER2活性受容体チロシンキナーゼ阻害剤で治療されることがある。
【0003】
トリプルネガティブ(TN)乳癌は、すべての乳癌症例の約15%を占める、十分に定義された臨床的に関連する乳癌の亜型を指定するために使用される用語である。TN腫瘍は、ERおよびPRの発現についてネガティブのスコアを取り(すなわち、従来の病理組織学的方法および基準を使用して)、増幅レベルのHER2を発現しない(すなわち、それらはER
−、PR
−、HER2
−である)。TN乳癌は、これに限らないが、主に基底様(BL)亜型として知られる乳癌の分子的および病理組織学的に明確な亜型を含む。BL亜型はまた、サイトケラチン(例えば、CK、CK5/6、CK14、CK17)および乳房の正常な基底/筋上皮細胞において認められる他のタンパク質の発現によって特徴付けられる。しかしながら、BL亜型に加えて、いくつかの「正常乳房様」、化生性癌、髄様癌、および唾液腺様腫瘍を含む、乳癌の特定の他の型もまた、トリプルネガティブ(TN)発現型を呈することができる。さらに、TN乳癌は、BRCA1変異の存在下、およびアフリカ系アメリカ人またはヒスパニック系の閉経前の女性において、より頻繁に発生する。TN腫瘍は、通常、非常に攻撃的な挙動を示し、他の乳癌型に対して、再発後の生存は短く、全体的な生存率が不良である。
【0004】
すべてのBL乳癌がTNであるとは限らない。基底様乳房腫瘍は、すべての乳癌の最大15%を占める、不均質腫瘍型であり、治療の成功を特に困難にする、攻撃的な臨床的挙動を呈する。BL乳癌の大部分は、ER−、PR−、およびHER2低(HER2
1+またはHER2ネガティブ)である。さらに、それらは通常、正常な乳房基底(筋上皮)細胞において認められるタンパク質を発現する。これらは、高分子量サイトケラチン(例えば、5/6、8、14、17、および18)、p−カドヘリン、カベオリン1および2、ネスチン、αB結晶質、およびEGFRを含む。さらに、BL腫瘍細胞は、通常、適格な相同的組み換えDNA修復の能力を欠く。
【0005】
組織学的に、大部分のBL乳癌は、IDC−NST型の高い組織学的段階にあり、非常に高い有糸分裂指数を呈する。それらはまた、通常、中心壊死または線維化領域、境界の押し出し、顕著なリンパ球浸潤、および定型/非定型髄質特徴を有し、一般に、頭頸部のヒト乳頭腫ウイルス誘発扁平上皮癌と類似する特徴を呈する。
【0006】
乳房の髄質および非定型髄質、化生性、分泌、筋上皮、および腺様嚢胞癌の大部分もまた、BL特徴を呈する。
【0007】
ホルモン受容体の発現の欠如、またはTN乳癌細胞中の相当量のHER2を考慮すると、腫瘍がER(例えば、タモキシフェン、アロマターゼ阻害剤)またはHER2(例えば、トラスツズマブ)を標的とする治療に反応しないため、治療オプションは非常に限定される。代わりに、これらの腫瘍は、有効性が限定され、多くの細胞毒性副作用を有する、従来のネオアジュバントおよびアジュバント化学療法レジメンで治療されている。さらに、そのような化学療法レジメンは、腫瘍における薬物耐性をもたらす可能性があり、TN乳癌の疾病再発リスクは、治療の最初の3年以内で他の乳癌型よりも高い。
【0008】
基底様乳癌はまた、治療が困難であり、不良な予後と関連付けられるが、BLアデノイド腺様嚢胞癌は、一般に、良好な臨床転帰と関連付けられる。製造のためのその使用
【0009】
前述に照らして、トリプルネガティブ乳癌およびBL乳癌を治療するための追加の治療オプションおよび方法が依然として必要とされる。
【発明の概要】
【0010】
本明細書では、トリプルネガティブ乳癌(例えば、腫瘍)および基底様乳癌(例えば、腫瘍)を治療するための方法、ならびにそのような方法で使用することができる、薬学的組成物が提供される。本方法および組成物は、少なくとも部分的に、ErbB3阻害がTN乳癌細胞およびBL乳癌細胞の成長を抑制することができるという発見に基づいている。特に、抗ErbB3抗体の投与は、TN乳癌細胞の成長を生体内で抑制することが証明されている。
【0011】
したがって、TNまたはBL乳癌を治療するためのErbB3阻害剤の使用(例えば、薬剤を製造するためのその使用)が提供される。別の態様では、TN乳癌腫瘍またはBL乳癌腫瘍の成長を抑制する方法が提供され、本方法は、腫瘍を有効量のErbB3阻害剤と接触させることを含む。別の態様では、患者においてTN乳癌腫瘍またはBL乳癌腫瘍の成長を抑制する方法が提供され、本方法は、有効量のErbB3阻害剤を患者に投与することを含む。さらに別の態様では、患者のTN乳癌またはBL乳癌腫瘍を治療する方法が提供され、本方法は、有効量のErbB3阻害剤を患者に投与することを含む。さらに別の態様では、患者の乳癌腫瘍またはBL乳癌腫瘍を治療する方法が提供され、本方法は、トリプルネガティブ乳癌腫瘍またはBL乳癌腫瘍のある患者を選択することと、有効量のErbB3阻害剤を患者に投与することと、を含む。
【0012】
典型的な実施形態では、ErbB3阻害剤は、抗ErbB3抗体である。典型的な抗ErbB3抗体は、MM−121(Ab#6)であり、それぞれ配列番号1および2に示されるV
HおよびV
L配列を含む。別の典型的な抗ErbB3抗体は、任意にアミノ末端からカルボキシ末端の順で、それぞれ配列番号3〜5に示されるV
H CDR1、2、および3配列と、任意にアミノ末端からカルボキシ末端の順で、それぞれ配列番号6〜8に示されるV
L CDR1、2、および3配列と、を含む、抗体である。他の実施形態では、抗ErbB3抗体は、Ab#3(それぞれ配列番号9および10に示されるV
HおよびV
L配列を含む)、Ab#14(それぞれ配列番号17および18に示されるV
HおよびV
L配列を含む)、Ab#17(それぞれ配列番号25および26に示されるV
HおよびV
L配列を含む)、またはAb#19(それぞれ配列番号33および34に示されるV
HおよびV
L配列を含む)である。さらに他の実施形態では、抗ErbB3抗体は、mAb 1B4C3、mAb2D1D12、AMG−888、およびヒト化mAb8B8から成る群から選択される。別の実施形態では、抗ErbB3抗体の投与は、腫瘍の成長または侵襲性もしくは転移を阻害する。
【0013】
本明細書に提供される方法は、様々な異なる病理組織学的発現型のTN乳癌の治療において使用することができる。例えば、一実施形態では、トリプルネガティブ乳癌腫瘍は、基底様発現型を有すると病理組織学的に特徴付けられる。別の実施形態では、TN乳癌腫瘍は、BL以外の発現型を有すると病理組織学的に特徴付けられる。
【0014】
前述の方法および組成物のそれぞれでは、ErbB3阻害剤は、薬学的に許容される担体を含む製剤に含まれてもよい。
【0015】
別の態様では、本明細書に提供される治療方法は、ErbB3阻害剤ではない少なくとも1つの追加の抗癌剤を患者に投与することをさらに含む。一実施形態では、少なくとも1つの追加の抗癌剤は、白金系化学療法薬、タキサン、チロシンキナーゼ阻害剤、およびそれらの複合から成る群から選択される薬物等の少なくとも1つの化学療法薬を含む。HER2
2+を試験するTN乳癌のサブセットにおいて、現在、トラスツズマブ、ペルツズマブ、またはラパチニブ等の抗HER2剤による治療は、抗ErbB3抗体と併用されるとき、利益を提供し得ることが認められている。したがって、別の態様では、本明細書に提供される治療方法は、抗HER2剤である少なくとも1つの追加の抗癌剤の有効量を患者に投与することをさらに含む。そのような抗HER2剤はよく知られており、米国特許第5,977,322号に記載されるC6.5(およびその多数の誘導体)等の抗ErbB2抗体、米国特許第6,054,297号に記載されるトラスツズマブ、および米国特許第6,949,245号に記載されるペルツズマブ、ならびにラパチニブ(EGFRチロシンキナーゼも阻害する)およびAG879等の小分子抗HER2剤のうちの1つまたは複数を含んでもよい。
【0016】
別の実施形態では、少なくとも1つの追加の抗癌剤は、抗EGFR抗体等のEGFR阻害剤、またはEGFRシグナル伝達の小分子阻害剤を含む。典型的な抗EGFR抗体は、セツキシマブを含む。抗EGFR抗体の他の例としては、マツズマブ、パニツムマブ、ニモツズマブ、およびmAb806が挙げられる。典型的なEGFRシグナル伝達の小分子阻害剤は、ゲフィチニブを含む。EGFRシグナル伝達の有用な小分子阻害剤の他の例としては、ラパチニブ、カネルチニブ、エルロチニブHCL、ペリチニブ、PKI−166、PD158780、およびAG1478が挙げられる。
【0017】
さらに別の実施形態では、少なくとも1つの追加の抗癌剤は、VEGF阻害剤を含む。典型的なVEGF阻害剤は、ベバシズマブ抗体等の抗VEGF抗体を含む。
【0018】
別の実施形態では、抗ErbB3抗体および少なくとも1つの追加の抗癌剤の投与は、腫瘍の成長または侵襲性もしくは転移を阻害する。
【0019】
別の態様では、患者のTN乳癌またはBL乳癌を治療する方法は、MM−121およびパクリタキセルを含む複合をその患者に投与することを含む。一実施形態では、複合は、TNまたはBL乳癌の治療において治療的相乗効果を呈する。いくつかの実施例では、複合は、少なくとも2.8、少なくとも2.9、または少なくとも3.0のlog
10細胞死滅をもたらす。他の態様では、複合の単剤それぞれから得られる向上と比較して、複合は、少なくとも付加的な腫瘍成長阻害の向上をもたらす。
【0020】
別の実施形態では、MM−121およびパクリタキセルの複合を含む組成物が提供され、本複合は、TNまたはBL乳癌の治療において治療的相乗効果を呈する。いくつかの実施例では、本組成物は、少なくとも2.8、少なくとも2.9、または少なくとも3.0のlog
10細胞死滅をもたらす。
【0021】
複合薬学的組成物を含有するキットも提供される。
[本発明1001]
トリプルネガティブ乳癌の治療のための薬剤を製造するための、ErbB3阻害剤の使用。
[本発明1002]
トリプルネガティブ乳癌細胞の成長を抑制する方法であって、前記細胞を有効量のErbB3阻害剤と接触させる工程を含む、方法。
[本発明1003]
患者のトリプルネガティブ乳癌腫瘍の成長を抑制する方法であって、有効量のErbB3阻害剤を前記患者に投与する工程を含む、方法。
[本発明1004]
患者のトリプルネガティブ乳癌腫瘍を治療する方法であって、有効量のErbB3阻害剤を前記患者に投与する工程を含む、方法。
[本発明1005]
トリプルネガティブ乳癌腫瘍のある患者を選択する工程と、
有効量のErbB3阻害剤を前記患者に投与する工程と
を含む、患者の乳癌腫瘍を治療する方法。
[本発明1006]
前記ErbB3阻害剤が、抗ErbB3抗体である、本発明1001〜1005のいずれかの方法。
[本発明1007]
前記抗ErbB3抗体が、MM−121である、本発明1006の方法。
[本発明1008]
前記抗ErbB3抗体が、
アミノ末端からカルボキシ末端の順で、それぞれ配列番号3〜5に示されるV
H CDR1、2、および3の配列と、アミノ末端からカルボキシ末端の順で、それぞれ配列番号6〜8に示されるV
L CDR1、2、および3の配列とを含む抗体
を含む、本発明1006の方法。
[本発明1009]
前記抗ErbB3抗体が、
それぞれ配列番号9および10に示されるV
HおよびV
L配列を含むAb#3
を含む、本発明1006の方法。
[本発明1010]
前記抗ErbB3抗体が、
それぞれ配列番号17および18に示されるV
HおよびV
L配列を含むAb#14
を含む、本発明1006の方法。
[本発明1011]
前記抗ErbB3抗体が、
それぞれ配列番号25および26に示されるV
HおよびV
L配列を含むAb#17
を含む、本発明1006の方法。
[本発明1012]
前記抗ErbB3抗体が、
それぞれ配列番号33および34に示されるV
HおよびV
L配列を含むAb#19
を含む、本発明1006の方法。
[本発明1013]
前記抗ErbB3抗体が、mAb1B4C3、mAb2D1D12、およびヒト化mAb8B8から成る群から選択される、本発明1006の方法。
[本発明1014]
前記トリプルネガティブ乳癌腫瘍が、基底様発現型を有すると病理組織学的に特徴付けられる、本発明1001〜1005のいずれかの方法。
[本発明1015]
前記トリプルネガティブ乳癌腫瘍が、基底様以外の発現型を有すると病理組織学的に特徴付けられる、本発明1001〜1005のいずれかの方法。
[本発明1016]
ErbB3阻害剤ではない少なくとも1つの追加の抗癌剤の有効量を前記患者に投与する工程をさらに含む、本発明1003〜1015のいずれかの方法。
[本発明1017]
前記少なくとも1つの追加の抗癌剤が、少なくとも1つの化学療法薬を含む、本発明1016の方法。
[本発明1018]
前記少なくとも1つの追加の抗癌剤が、白金系化学療法薬、タキサン、チロシンキナーゼ阻害剤、抗EGFR抗体、抗ErbB2抗体、およびそれらの組み合わせから成る群から選択される、本発明1017の方法。
[本発明1019]
前記少なくとも1つの化学療法薬が、パクリタキセルである、本発明1018の方法。
[本発明1020]
前記ErbB3阻害剤が、
それぞれ配列番号3、4、および5に示されるV
H CDR1、2、および3の配列と、それぞれ配列番号6、7、および8に示されるV
L CDR1、2、および3の配列とを含む抗ErbB3抗体
である、本発明1019の方法。
[本発明1021]
前記ErbB3阻害剤が、MM−121である、本発明1019の方法。
[本発明1022]
前記少なくとも1つの追加の抗癌剤が、EGFR阻害剤を含む、本発明1016の方法。
[本発明1023]
前記EGFR阻害剤が、抗EGFR抗体を含む、本発明1022の方法。
[本発明1024]
前記抗EGFR抗体が、セツキシマブを含む、本発明1023の方法。
[本発明1025]
前記抗EGFR抗体が、マツズマブ、パニツムマブ、ニモツズマブ、およびmAb806から成る群から選択される、本発明1023の方法。
[本発明1026]
前記EGFR阻害剤が、EGFRシグナル伝達の小分子阻害剤である、本発明1022の方法。
[本発明1027]
前記EGFRシグナル伝達の小分子阻害剤が、ゲフィチニブ、ラパチニブ、カネルチニブ、ペリチニブ、エルロチニブHCL、PKI−166、PD158780、およびAG1478から成る群から選択される、本発明1026の方法。
[本発明1028]
前記少なくとも1つの追加の抗癌剤が、VEGF阻害剤を含む、本発明1016の方法。
[本発明1029]
前記VEGF阻害剤が、抗VEGF抗体を含む、本発明1028の方法。
[本発明1030]
前記抗VEGF抗体が、ベバシズマブである、本発明1029の方法。
[本発明1031]
前記トリプルネガティブ乳癌腫瘍は、
腫瘍細胞が、エストロゲン受容体(ER)およびプロゲステロン受容体に関してマイナスの得点を取り、多クローン性抗HER2一次抗体を使用する半定量的免疫組織化学的アッセイを使用して、0または1+の試験結果を得る腫瘍
である、本発明1001〜1005のいずれかの方法。
[本発明1032]
前記トリプルネガティブ乳癌腫瘍は、
腫瘍細胞が、エストロゲン受容体(ER)およびプロゲステロン受容体に関してマイナスの得点を取り、多クローン性抗HER2一次抗体を使用する半定量的免疫組織化学アッセイを使用して、2+の試験結果を得る腫瘍
である、本発明1001〜1005のいずれかの方法。
[本発明1033]
前記腫瘍細胞が、HER2遺伝子増幅に関してFISHネガティブである、本発明1032の方法。
[本発明1034]
基底様乳癌の治療のための薬剤を製造するための、ErbB3阻害剤の使用。
[本発明1035]
基底様乳癌細胞の成長を抑制する方法であって、前記細胞を有効量のErbB3阻害剤と接触させる工程を含む、方法。
[本発明1036]
患者の基底様乳癌腫瘍の成長を抑制する方法であって、有効量のErbB3阻害剤を前記患者に投与する工程を含む、方法。
[本発明1037]
基底様乳癌腫瘍について患者を治療する方法であって、有効量のErbB3阻害剤を前記患者に投与する工程を含む、方法。
[本発明1038]
基底様乳癌腫瘍のある患者を選択する工程と、
有効量のErbB3阻害剤を前記患者に投与する工程と
を含む、患者の乳癌腫瘍を治療する方法。
[本発明1039]
前記ErbB3阻害剤が、抗ErbB3抗体である、本発明1034〜1038のいずれかの方法。
[本発明1040]
前記抗ErbB3抗体が、MM−121である、本発明1039の方法。
[本発明1041]
前記抗ErbB3抗体が、
それぞれ配列番号3〜5に示されるV
H CDR1、2、および3の配列と、それぞれ配列番号6〜8に示されるV
L CDR1、2、および3の配列とを含む抗体
を含む、本発明1039の方法。
[本発明1042]
前記抗ErbB3抗体が、
それぞれ配列番号9および10に示されるV
HおよびV
L配列を含むAb#3
を含む、本発明1039の方法。
[本発明1043]
前記抗ErbB3抗体が、
それぞれ配列番号17および18に示されるV
HおよびV
L配列を含むAb#14
を含む、本発明1039の方法。
[本発明1044]
前記抗ErbB3抗体が、
それぞれ配列番号25および26に示されるV
HおよびV
L配列を含むAb#17
を含む、本発明1039の方法。
[本発明1045]
前記抗ErbB3抗体が、
それぞれ配列番号33および34に示されるV
HおよびV
L配列を含むAb#19
を含む、本発明1039の方法。
[本発明1046]
前記抗ErbB3抗体が、mAb1B4C3、mAb2D1D12、AMG−888、およびヒト化mAb8B8から成る群から選択される、本発明1039の方法。
[本発明1047]
ErbB3阻害剤ではない少なくとも1つの追加の抗癌剤の有効量を前記患者に投与する工程をさらに含む、本発明1035〜1040のいずれかの方法。
[本発明1048]
前記少なくとも1つの追加の抗癌剤が、パクリタキセルである、本発明1047の方法。
[本発明1049]
ErbB3阻害剤ではない少なくとも1つの追加の抗癌剤による基底様乳癌またはトリプルネガティブ乳癌の治療とともに、基底様乳癌またはトリプルネガティブ乳癌を治療するための薬剤を製造するための、ErbB3阻害剤の使用。
[本発明1050]
前記少なくとも1つの追加の抗癌剤が、パクリタキセルである、本発明1049の方法。
[本発明1051]
前記追加の抗癌剤が、トラスツズマブまたはペルツズマブである抗ErbB2抗体である、本発明1018または本発明1044の方法。
[本発明1052]
前記少なくとも1つの追加の抗癌剤が、ラパチニブである、本発明1018または本発明1047の方法。
[本発明1053]
前記半定量的免疫組織化学アッセイが、HercepTest(登録商標)キットを含むアッセイである、本発明1031または本発明1032の方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
詳細な説明
本明細書では、トリプルネガティブおよび基底様乳癌を治療するための方法、ならびにそのような方法を実施する際に使用することができる薬学的組成物が提供される。実施例でさらに説明されるように、現在、ErbB3阻害剤、特に抗ErbB3抗体が、生体内でTN乳癌細胞の成長を抑制できることが証明されている。したがって、本明細書では、ErbB3阻害剤を使用して、患者においてTN乳癌およびBL乳癌の成長を抑制するための方法、ならびにそのような乳癌を治療する方法が提供される。
【0024】
定義:
本明細書で使用する、「トリプルネガティブ」または「TN」という用語は、腫瘍(例えば、癌)、通常、乳房腫瘍を指し、腫瘍細胞は、エストロゲン受容体(ER)およびプロゲステロン受容体(PR)についてネガティブのスコアを取り(すなわち、従来の病理組織学的方法を使用して)、いずれも核受容体であり(すなわち、それらは主に細胞核に位置する)、腫瘍細胞は、上皮成長因子受容体2型(HER2またはErbB2)について増幅せず、受容体は、通常、細胞表面上に位置する。腫瘍細胞は、標準免疫組織化学的技法を使用して、腫瘍細胞核の5%未満がERおよびPR発現について染色される場合、ERおよびPRの発現についてネガティブであると考えられる。腫瘍細胞は、HER2(「HER2
3+」)について、大幅に増幅すると考えられる。HercepTest(商標)キット(コードK5204、Dako North America,Inc.、Carpinteria CA)を用いて、ポリクローナル抗HER2一次抗体を使用する半定量的免疫組織化学アッセイを試験するとき、蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)によって、試験結果スコア3+または試験HER2ポジティブを生じる。本明細書で使用する、腫瘍細胞は、それらが試験結果スコア0、1+、または2+を生じる場合、またはそれらがHER2FISHネガティブである場合、HER2の過剰発現についてネガティブであると考えられる。
【0025】
さらに、「トリプルネガティブ乳癌」または「TN乳癌」という用語は、異なる病理組織学的発現型の癌を包含する。例えば、あるTN乳癌は、「基底様」(「BL」)として分類され、新生細胞は、通常、乳房の正常な基底/筋上皮細胞において認められる遺伝子、例えば、高分子量基底サイトケラチン(CK、CK5/6、CK14、CK17)、ビメンチン、p−カドヘリン、αB結晶質、ファシン、ならびにカベオリン1および2を発現する。しかしながら、特定の他のTN乳癌は、異なる病理組織学的発現型を有し、その例としては、特定型のない高度侵襲性管癌、化生性癌、髄様癌、および乳房の唾液腺様腫瘍が挙げられる。
【0026】
本明細書で同義的に使用する、「ErbB3」、「HER3」、「ErbB3受容体」、および「HER3受容体」という用語は、米国特許第5,480,968号に記載されるヒトErbB3タンパク質を指す。
【0027】
本明細書で使用する、「ErbB3阻害剤」という用語は、ErbB3の活性を阻害、下方調節、抑制、または下方制御する治療薬を含むことが意図される。本用語は、小分子阻害剤等の化学化合物、および抗体、干渉RNA(shRNA、siRNA)可溶性受容体等の生物学的薬剤を含むことが意図される。典型的なErbB3阻害剤は、抗ErbB3抗体である。
【0028】
本明細書で使用する「抗体」は、免疫グロブリン遺伝子または免疫グロブリン遺伝子のフラグメントによって実質的にコードされる結合ドメインを含む、1つまたは複数のポリペプチドで構成されるタンパク質であり、タンパク質は、免疫特異的に抗原に結合する。認識される免疫グロブリン遺伝子としては、κ、λ、α、γ、δ、ε、およびμ定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が挙げられる。軽鎖は、κまたはλのいずれかとして分類される。重鎖は、γ、μ、α、δ、またはεとして分類され、順に、それぞれ免疫グロブリンのクラスIgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEを定義する。典型的な免疫グロブリン構造単位は、同一の2対のポリペプチド鎖から成る四量体を含み、各対は、1つの「軽」鎖(約25kD)および1つの「重」鎖(約50〜70kD)を含む。「V
LおよびV
H」は、それぞれこれらの軽鎖および重鎖を指す。
【0029】
抗体は、正常な免疫グロブリンならびにその抗原結合フラグメントを含み、様々なペプチダーゼでの消化によって生成されるか、または化学的に、もしくは組み換えDNA発現技法を使用してデノボ合成されてもよい。そのようなフラグメントとしては、例えば、F(ab)
2二量体およびFab単量体が挙げられる。有用な抗体としては、単鎖抗体(単一のポリペプチド鎖として存在する抗体)、例えば、単鎖Fv抗体(scFv)が挙げられ、V
HおよびV
L鎖が一緒に結合されて(直接またはペプチドリンカーを通じて)連続ポリペプチドを形成する。
【0030】
「免疫特異的」または「免疫特異的に」とは、免疫グロブリン遺伝子または免疫グロブリン遺伝子のフラグメントによって実質的にコードされたドメインを介して、関心対象のタンパク質の1つまたは複数のエピトープに結合するが、抗原分子の混合集団を含有する試料において、他の分子を実質的に認識および結合しない抗体を指す。通常、抗体は、表面プラズモン共鳴アッセイまたは細胞結合アッセイによって測定される、50nM以下の値を有するK
dで、同種抗原に免疫特異的に結合する。そのようなアッセイの使用は、本技術分野においてよく知られており、以下の実施例3に記載される。
【0031】
「抗ErbB3抗体」は、ErbB3の細胞外ドメインに免疫特異的に結合する抗体であり、「抗ErbB2抗体」は、ErbB2の細胞外ドメインに免疫特異的に結合する抗体である。抗体は、単離抗体であってもよい。ErbB3またはErbB2に対するそのような結合は、表面プラズモン共鳴アッセイまたは細胞結合アッセイによって測定される、50nM以下の値を有するK
dを呈する。抗ErbB3抗体は、単離抗体であってもよい。典型的な抗ErbB3抗体は、ErbB3のEGF様リガンド媒介のリン酸化を阻害する。EGF様リガンドとしては、EGF、TGFα、βセルリン、ヘパリン結合上皮成長因子、ビレグリン、エピゲン、エピレグリン、およびアンフィレグリンが挙げられ、通常、ErbB1に結合し、ErbB1とErbB3とのヘテロ二量化を誘導する。
【0032】
本明細書で使用する、「EGFR阻害剤」という用語は、EGFRシグナル伝達活性を阻害、下方調節、抑制、または下方制御する治療薬を含むことが意図される。本用語は、小分子阻害剤(例えば、小分子チロシンキナーゼ阻害剤)等の化学化合物、および抗体、干渉RNA(shRNA、siRNA)、可溶性受容体等の生物学的薬剤を含むことが意図される。
【0033】
本明細書で使用する、「VEGF阻害剤」という用語は、VEGFシグナル伝達活性を阻害、下方調節、抑制、または下方制御する治療薬を含むことが意図される。本用語は、小分子阻害剤(例えば、小分子チロシンキナーゼ阻害剤)等の化学化合物、および抗体、干渉RNA(shRNA、siRNA)、可溶性受容体等の生物学的薬剤を含むことが意図される。
【0034】
本明細書で同義的に使用する、「抑制する」、「抑制」、「阻害する」、および「阻害」という用語は、活性の完全遮断を含む、生物活性(例えば、腫瘍細胞成長)のあらゆる統計的に有意な減少を指す。例えば、「阻害」とは、生物活性の約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%の減少を指すことができる。
【0035】
「患者」という用語は、予防的または治療的療法のいずれかを受けるヒトまたは他の哺乳動物を含む。
【0036】
本明細書で使用する、「治療する」、「治療している」、および「治療」という用語は、本明細書に記載されるもの等の治療的または予防的措置を指す。「治療」の方法は、疾患または障害あるいは再発疾患または障害の1つまたは複数の症状を予防、治癒、遅延、重篤度の低下、または軽減するため、またはそのような治療の非存在下で予想されるものを超えて患者の生存を延長するために、本明細書に提供されるErbB3阻害剤を患者、例えば、TNまたはBL乳癌腫瘍を有する患者に投与する。
【0037】
本明細書で使用する、「有効量」という用語は、患者に投与されるとき、TNまたはBL乳癌の治療、予後、または診断を行うために十分なErbB3阻害剤、例えば、抗ErbB3抗体等の薬剤の量を指す。治療有効量は、患者および治療される病状、患者の体重および年齢、病状の重篤度、投与方法等に応じて異なり、当業者は容易に決定することができる。投与の用量は、例えば、本明細書に提供される抗体またはその抗原結合部分の約1ng〜約10,000mg、約5ng〜約9,500mg、約10ng〜約9,000mg、約20ng〜約8,500mg、約30ng〜約7,500mg、約40ng〜約7,000mg、約50ng〜約6,500mg、約100ng〜約6,000mg、約200ng〜約5,500mg、約300ng〜約5,000mg、約400ng〜約4,500mg、約500ng〜約4,000mg、約1μg〜約3,500mg、約5μg〜約3,000mg、約10μg〜約2,600mg、約20μg〜約2,575mg、約30μg〜約2,550mg、約40μg〜約2,500mg、約50μg〜約2,475mg、約100μg〜約2,450mg、約200μg〜約2,425mg、約300μg〜約2,000、約400μg〜約1,175mg、約500μg〜約1,150mg、約0.5mg〜約1,125mg、約1mg〜約1,100mg、約1.25mg〜約1,075mg、約1.5mg〜約1,050mg、約2.0mg〜約1,025mg、約2.5mg〜約1,000mg、約3.0mg〜約975mg、約3.5mg〜約950mg、約4.0mg〜約925mg、約4.5mg〜約900mg、約5mg〜約875mg、約10mg〜約850mg、約20mg〜約825mg、約30mg〜約800mg、約40mg〜約775mg、約50mg〜約750mg、約100mg〜約725mg、約200mg〜約700mg、約300mg〜約675mg、約400mg〜約650mg、約500mg、または約525mg〜約625mgに変動させることができる。投薬は、例えば、毎週、2週間毎、3週間毎、4週間毎、5週間毎、または6週間毎であってもよい。投薬計画は、最適な治療反応を提供するように調整されてもよい。有効量はまた、薬剤のあらゆる毒性または有害作用(副作用)が最小化され、および/または有益な効果が上回る量である。MM−121の場合、投与は、正確に、または約6mg/kgもしくは12mg/kgを毎週、または12mg/kgまたは24mg/kgを隔週静脈内投与してもよい。追加の投薬計画は、以下に説明される。
【0038】
「抗癌剤」および「抗腫瘍薬」という用語は、癌性増殖等の悪性腫瘍を治療するために使用される薬物を指す。薬物療法は、単独で、または外科手術もしくは放射線療法等の他の治療と併せて使用されてもよい。
【0039】
様々な態様および実施形態は、以下の小節でさらに詳述される。
【0040】
I.
ErbB3阻害剤
本明細書でさらに詳述されるように、本明細書に提供される方法および組成物は、1つまたは複数のErbB3阻害剤の使用を伴う。
【0041】
一実施形態では、ErbB3阻害剤は、抗ErbB3抗体、例えば、モノクローナル抗体である。例示的な抗ErbB3モノクローナル抗体は、国際特許第WO2008/100624号および米国特許第7,846,440号においてさらに説明される、MM−121であり、それぞれ配列番号1および2において示される、V
HおよびV
L配列を有する。あるいは、抗ErbB3モノクローナル抗体は、ErbB3に結合するために、MM−121と競合する抗体である。別の実施形態では、抗ErbB3抗体は、MM−121のV
HおよびV
L CDR配列を含む抗体であり、それぞれ配列番号3〜5(V
H CDR1、2、3)および6〜8(V
L CDR1、2、3)において示される。抗ErbB3抗体の他の例は、Ab#3、Ab#14、Ab#17、およびAb#19を含み、国際特許第WO2008/100624号においてもさらに説明され、それぞれ配列番号9および10、17および18、25および26、ならびに33および34において示される、V
HおよびV
L配列を有する。別の実施形態では、抗ErbB3抗体は、Ab#3のV
HおよびV
L CDR配列を含む抗体であるか(それぞれ配列番号11〜13および14〜18において示される)、またはAb#14のV
HおよびV
L CDR配列を含む抗体であるか(それぞれ配列番号19〜21および22〜24において示される)、またはAb#17のV
HおよびV
L CDR配列を含む抗体であるか(それぞれ配列番号27〜29および30〜32において示される)、またはAb#19のV
HおよびV
L CDR配列を含む抗体である(それぞれ配列番号35〜37および38〜40において示される)。
【0042】
あるいは、抗ErbB3抗体は、配列番号41の残基92〜104を含む、ヒトErbB3のエピトープを結合する、モノクローナル抗体またはその抗原結合部分であり、ErbB3を発現する癌細胞の増殖の阻害によって特徴付けられる。癌細胞は、MALME−3M細胞、AdrR細胞、またはACHN細胞であってもよく、増殖は、対照に対して少なくとも10%減少され得る。追加の実施形態では、この単離したモノクローナル抗体またはその抗原結合部分が、配列番号41の残基92〜104および129を含むエピトープを結合する。
【0043】
有用な抗ErbB3抗体の他の例としては、いずれもUllrichらによる米国特許出願公開第20040197332号において説明される、抗体1B4C3および2D1D12(U3 Pharma AG)、およびAkitaらによる米国特許第5,968,511号において説明される、AMG−888(U3 Pharma AGおよびAmgen)等のモノクローナル抗体(そのヒト化型を含む)が挙げられる。
【0044】
さらに別の実施形態では、抗ErbB3抗体は、2つ以上の抗ErbB3抗体の混合またはカクテルを含むことができ、それぞれがErbB3上の異なるエピトープに結合する。一実施形態では、混合またはカクテルは、3つの抗ErbB3抗体を含み、それぞれがErbB3上の異なるエピトープに結合する。
【0045】
別の実施形態では、ErbB3阻害剤は、ErbB3の発現または活性を阻害する、RNA分子等の核酸分子を含む。ErbB3のRNAアンタゴニストは、本技術分野において説明されている(例えば、米国特許出願公開第20080318894号を参照)。さらに、ErbB3の発現および/または活性を特に阻害する、shRNAまたはsiRNA等のErbB3に特異的な干渉RNAが、本技術分野において説明されている。
【0046】
さらに別の実施形態では、ErbB3阻害剤は、ErbB3経路を通るシグナル伝達を阻害する、可溶性形態のErbB3受容体を含む。そのような可溶性ErbB3分子は、本技術分野において説明されている(例えば、それぞれMaihleらによる、米国特許第7,390,632号、米国特許出願公開第20080274504号、および米国特許出願公開第20080261270号、ならびにZhouによる米国特許出願公開第20080057064号を参照)。
【0047】
II.
方法
一態様では、TN乳癌またはBL乳癌の治療用の薬剤を製造するためのErbB3阻害剤の使用が提供される。
【0048】
別の態様では、トリプルネガティブ乳癌細胞の成長を抑制する方法が提供され、本方法は、細胞を有効量のErbB3阻害剤と接触させる工程を含む。
【0049】
別の態様では、患者のTNまたはBL乳癌腫瘍の成長を抑制する方法が提供され、本方法は、有効量のErbB3阻害剤を患者に投与する工程を含む。
【0050】
さらに別の態様では、患者のTNまたはBL乳癌腫瘍を治療する方法が提供され、本方法は、有効量のErbB3阻害剤を患者に投与する工程を含む。
【0051】
さらに別の態様では、患者の乳癌腫瘍を治療する方法が提供され、本方法は、
TNまたはBL乳癌腫瘍のある患者を選択する工程と、
有効量のErbB3阻害剤を患者に投与する工程とを含む。
【0052】
別の態様では、TNまたはBL乳癌腫瘍のある患者は、係属中の国際特許出願第PCT/US2009/054051号に開示される選択方法の使用によってさらに選択された患者である。
【0053】
トリプルネガティブ乳癌細胞、またはトリプルネガティブ乳癌腫瘍を有する患者の識別は、本技術分野においてよく知られている標準的な方法を通じて達成することができる。例えば、免疫組織化学的(IHC)染色は、生検分析において日常的に使用され、ホルマリン固定されたパラフィン包埋組織(例えば、組織学的評価のために日常的に処理される乳癌組織)から得た切片内のER、PR、およびHER2の検出、局在化、および相対定量を可能にする。TN腫瘍を識別する文脈において、腫瘍細胞核の5%未満の染色は、ERおよびPRのそれぞれについてネガティブであると考えられる。ERのIHC染色に使用される一次抗体は、例えば、1D5である(Chemicon、Temecula CA、カタログ#IHC2055)。PRのIHC染色に使用される一次抗体は、例えば、PgR636(Thermo Fisher Scientific、Fremont CA、カタログ#MS−1882−R7)またはPgR1294(Dako North America,Inc.、Carpinteria CA、コードM3568)である。使用されるErbB2 IHCアッセイは、例えば、HercepTest(商標)キット(Dako North America,Inc.、Carpinteria CA、コードK5204)、ポリクローナル抗HER2一次抗体を使用して、組織学的評価のために日常的に処理された乳癌組織において、HER2タンパク質の過剰発現を決定する、半定量的IHCアッセイであり、製造者の指示によって使用される。TN腫瘍を識別するという文脈において、0〜1+の試験結果は、Her2ネガティブであると考えられる。
【0054】
一実施形態では、トリプルネガティブ乳癌腫瘍は、基底様発現型を有すると病理組織学的に特徴付けられる。別の実施形態では、トリプルネガティブ乳癌腫瘍は、基底様以外の発現型を有すると病理組織学的に特徴付けられる。BL以外のTN乳癌病理組織学的発現型の例としては、特別な型ではない高度浸潤性乳管癌、化生性癌、髄様癌、および乳房の唾液腺様腫瘍が挙げられる。
【0055】
一態様では、ErbB3阻害剤で治療されるTNまたはBL乳癌は、ErbB1(EGFR)、ErbB3、およびヘレグリン(HRG)を共発現する。EGFRおよびHRGの発現は、RT−PCRまたは標準免疫アッセイ技法、例えば、ホルマリン固定されたパラフィン包埋組織(例えば、組織学的評価のために日常的に処理された乳癌組織)のELISAアッセイまたは免疫組織化学的染色によって、抗EGFR抗体、抗ErbB3抗体、または抗HRG抗体を使用して識別することができる。本明細書の開示による治療用の腫瘍に関する追加の特徴は、PCT出願第PCT/US2009/054051号に対する優先権を主張する、係属中の米国特許公開第20110027291号において説明される。
【0056】
一実施形態では、患者に投与されるErbB3阻害剤は、抗ErbB3抗体である。典型的な抗ErbB3抗体は、それぞれ配列番号1および2に示される、V
HおよびV
L配列を含むMM−121、またはそれぞれ配列番号3〜5に示される、V
H CDR1、2、および3と、それぞれ配列番号6〜8に示される、V
L CDR1、2、および3とを含む抗体である(すなわち、MM−121のV
HおよびV
L CDR)。追加の限定されない典型的な抗ErbB3抗体およびErbB3阻害剤の他の型は、上記の小節Iで詳述される。
【0057】
ErbB3阻害剤は、患者に対する阻害剤の効果的な送達に適したあらゆる経路によって、患者に投与することができる。例えば、多くの小分子阻害剤は、経口投与に適している。抗体および他の生物学的薬剤は、通常、非経口的、例えば、静脈内、腹腔内、皮下的、または筋肉内投与される。本明細書に提供される方法で使用するのに適した様々な投与経路、用量、および薬学的製剤が、以下でさらに詳述される。
【0058】
III.
薬学的組成物
別の態様では、本明細書に開示される方法で使用することができる薬学的組成物、すなわち、TNまたはBL乳癌腫瘍を治療するための薬学的組成物が提供される。
【0059】
一実施形態では、TN乳癌を治療するための薬学的組成物は、ErbB3阻害剤および薬学的担体を含む。ErbB3阻害剤は、薬学的担体を用いて、薬学的組成物に製剤化することができる。さらに、薬学的組成物は、例えば、TNまたはBL乳癌腫瘍の患者を治療するための組成物の使用に関する指示を含むことができる。
【0060】
一実施形態では、組成物中のErbB3阻害剤は、抗ErbB3抗体、例えば、MM−121またはErbB3の免疫特異的結合を提供するように、MM−121に存在するため、同一の相対順序で抗体内に位置付けられたMM−121のV
HおよびV
L CDRを含む抗体である。追加の限定されない典型的な抗ErbB3抗体およびErbB3阻害剤の他の形態は、上記の小節Iに詳述される。
【0061】
本明細書で使用する、「薬学的に許容される担体」は、任意およびすべての溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤、緩衝剤、ならびに生理学的に適合する他の賦形剤を含む。好ましくは、担体は、非経口、経口、または局所投与に適している。投与経路に応じて、活性化合物、例えば、小分子または生物学的薬剤は、酸および化合物を不活性化し得る他の自然状態の作用から化合物を保護するように、材料でコーティングされてもよい。
【0062】
薬学的に許容される担体は、滅菌水溶液または分散液、および滅菌注入溶液または分散液を即時調製するための滅菌粉末、ならびに錠剤、ピル、カプセル等を調製するための従来の賦形剤を含む。薬学的に活性な物質を製剤化するためのそのような媒体および薬剤の使用は、本技術分野において知られている。あらゆる従来の媒体または薬剤が、活性化合物と適合しない限りを除いて、本明細書に提供される薬学的組成物におけるそれらの使用が検討される。補助活性化合物もまた、組成物に組み込むことができる。
【0063】
薬学的に許容される担体は、薬学的に許容される抗酸化剤を含むことができる。薬学的に許容される抗酸化剤の例としては、(1)水溶性抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸、塩酸システイン、重硫酸ナトリウム、メタ重硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等、(2)油溶性抗酸化剤、例えば、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、α−トコフェロール等、および(3)金属キレート剤、例えば、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸等が挙げられる。
【0064】
本明細書に提供される薬学的組成物に用いられてもよい適切な水性および非水性担体の例としては、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、およびそれらの適切な混合、ならびにオレイン酸エチル等の注入可能な有機エステルが挙げられる。必要であれば、例えば、レシチン等のコーティング材料の使用によって、分散剤の場合は必要な粒径を維持することによって、および界面活性剤の使用によって、適切な流動性を維持することができる。多くの場合、組成物中に等張剤、例えば、砂糖、マンニトール等のポリアルコール、ソルビトール、または塩化ナトリウムを含むことが有用となる。注入可能な組成物の長期吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸塩およびゼラチンを組成物中に含めることによってもたらすことができる。
【0065】
これらの組成物はまた、保存剤、湿潤剤、乳化剤、および分散剤等の機能的賦形剤を含有してもよい。
【0066】
治療組成物は、通常、製造および保管の条件下で滅菌、非発熱性、および安定していなければならない。組成物は、溶液、マイクロエマルション、リポソーム、または高い薬物濃度に適した他の秩序構造として製剤化することができる。
【0067】
滅菌注入溶液は、上に列挙される成分の1つまたは複合とともに、適切な溶媒中に必要な量で活性化合物を組み込み、必要に応じて、その後に滅菌、例えば、精密ろ過することによって調製することができる。一般に、分散液は、基本の分散媒体および上に列挙されるものから必要な他の成分を含有する、滅菌媒体に活性化合物を組み込むことによって調製される。滅菌注入溶液を調製するための滅菌粉末の場合、調製方法は、真空乾燥およびフリーズドライ(凍結乾燥)を含み、活性成分の粉末に加えて、任意の追加の望ましい成分を事前に滅菌ろ過されたその溶液から産生する。活性剤は、滅菌条件下で追加の薬学的に許容される担体および必要とされ得る任意の保存剤、緩衝剤、または推進剤と混合されてもよい。
【0068】
微生物の存在を防止することは、上記の滅菌手順および様々な抗菌剤と抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、ソルビン酸フェノール等の包含によって保証されてもよい。砂糖、塩化ナトリウム等の等張剤を組成物に含めることが望ましい場合もある。さらに、注入可能な薬学的形態の長期吸収は、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチン等の吸収を遅延させる薬剤の包含によってもたらされてもよい。
【0069】
ErbB3阻害剤を含む薬学的組成物は、単独または複合療法で投与することができる。例えば、複合療法は、ErbB3阻害剤と、少なくとも1つまたは複数の追加の治療薬、例えば、以下の小節IVでさらに詳述される、本技術分野において知られている1つまたは複数の化学療法薬とを含む、本明細書に提供される組成物を含むことができる。薬学的組成物はまた、放射線療法および/または外科手術と併せて投与することもできる。
【0070】
投薬レジメンは、最適な望ましい反応(例えば、治療反応)を提供するように調製される。例えば、単一のボーラスが投与されてもよく、いくつかの分割用量が長期間に渡って投与されてもよく、または治療状況の要件によって示されるように、用量を比例的に増減させてもよい。
【0071】
抗体投与の典型的な用量範囲としては、10〜1000mg(抗体)/kg(患者の体重)、10〜800mg/kg、10〜600mg/kg、10〜400mg/kg、10〜200mg/kg、30〜1000mg/kg、30〜800mg/kg、30〜600mg/kg、30〜400mg/kg、30〜200mg/kg、50〜1000mg/kg、50〜800mg/kg、50〜600mg/kg、50〜400mg/kg、50〜200mg/kg、100〜1000mg/kg、100〜900mg/kg、100〜800mg/kg、100〜700mg/kg、100〜600mg/kg、100〜500mg/kg、100〜400mg/kg、100〜300mg/kg、および100〜200mg/kgが挙げられる。典型的な投薬スケジュールとしては、3日毎に1回、5日毎に1回、7日毎に1回(すなわち、週に1回)、10日毎に1回、14日毎に1回(すなわち、2週間毎に1回)、21日毎に1回(すなわち、3週間毎に1回)、28日毎に1回(すなわち、4週間毎に1回)、および1ヶ月に1回が挙げられる。
【0072】
投与の容易性および用量の均一性のために、単位用量形態の非経口製剤を製剤化することが有利であり得る。本明細書で使用する単位用量形態は、治療される患者の単一用量として適切な物理的に個別の単位を指し、各単位は、任意の必要な薬学的担体に随伴する望ましい治療効果をもたらすように計算された既定量の活性薬剤を含有する。単位用量形態の仕様は、(a)活性化合物の固有の特徴および達成される特定治療効果、ならびに(b)個人の感受性を治療するためにそのような活性化合物を複合する技術に固有の制限によって決定され、それらに直接依存する。
【0073】
本明細書に開示される薬学的組成物中の活性成分の実際の用量レベルは、患者に毒性となることなく、特定の患者、組成、および投与形態に望ましい治療反応を達成するために有効な量の活性成分を得るように、変動されてもよい。本明細書で使用する「非経口」とは、投与の文脈において、腸内および局所投与以外の、通常、注入による投与形態を意味し、これらに限定されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮膚内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、くも膜下、髄腔内、硬膜外、および胸骨内注射および注入が挙げられる。
【0074】
本明細書で使用する、「非経口投与」および「非経口的に投与される」という表現は、腸内(すなわち、消化管を介する)および局所投与以外の投与形態、通常、注射または注入によるものを指し、これらに限定されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮膚内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、くも膜下、髄腔内、硬膜外、および胸骨内注射および注入が挙げられる。静脈内注射および注入は、(これに限らないが)抗体投与に使用される場合が多い。
【0075】
本明細書に提供される薬剤が調剤としてヒトまたは動物に投与されるとき、それらは単独で付与するか、または例えば、活性成分の0.001〜90%(例えば、0.005〜70%、例えば、0.01〜30%)を含有する薬学的組成物として、薬学的に許容される担体と併せて付与することができる。
【0076】
IV.
複合療法
ある実施形態では、TN乳癌細胞の成長を抑制するため、またはTN乳房腫瘍もしくはBL乳房腫瘍のある患者を治療するための本明細書に提供される方法および使用は、ErbB3阻害剤、およびErbB3阻害剤ではない少なくとも1つの追加の抗癌剤の投与を含み得る。
【0077】
一実施形態では、少なくとも1つの追加の抗癌剤は、少なくとも1つの化学療法薬を含む。そのような化学療法薬の非限定例としては、白金系化学療法薬(例えば、シスプラチン、カルボプラチン)、タキサン(例えば、パクリタキセル(Taxol(登録商標))、ドセタキセル(Taxotere(登録商標))、EndoTAG−1(商標)(正荷電脂質系複合体で被包されたパクリタキセル製剤、MediGene)、Abraxane(登録商標)(アルブミンに結合されたパクリタキセル製剤)、チロシンキナーゼ阻害剤(例えば、イマチニブ/Gleevec(登録商標)、スニチニブ/Sutent(登録商標)、ダサチニブ/Sprycel(登録商標)、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0078】
別の実施形態では、少なくとも1つの追加の抗癌剤は、抗EGFR抗体またはEGFRシグナル伝達の小分子阻害剤等のEGFR阻害剤を含む。典型的な抗EGFR抗体は、セツキシマブ(Erbitux(登録商標))である。セツキシマブは、ImClone System Incorporatedから市販されている。抗EGFR抗体の他の例としては、マツズマブ(EMD72000)、パニツムマブ(Vectibix(登録商標)、Amgen)、ニモツズマブ(TheraCIM(登録商標))、およびmAb806が挙げられる。EGFRシグナル伝達経路の典型的な小分子阻害剤は、AstraZenecaおよびTevaから市販されている、ゲフィチニブ(Iressa(登録商標))である。EGFRシグナル伝達経路の小分子阻害剤の他の例としては、エルロチニブHCL(OSI−774、Tarceva(登録商標)、OSI Pharma)、ラパチニブ(Tykerb(登録商標)、GlaxoSmithKline)、カネルチニブ(カネルチニブ二塩酸塩、Pfizer)、ペリチニブ(Pfizer)、PKI−166(Novartis)、PD158780、およびAG1478(4−(3−クロロアニリノ)−6,7−ジメトキシキナゾリン)が挙げられる。
【0079】
さらに別の実施形態では、少なくとも1つの追加の抗癌剤は、VEGF阻害剤を含む。典型的なVEGF阻害剤は、ベバシズマブ(Avastatin(登録商標)、Genentech)等の抗VEGF抗体を含む。
【0080】
さらに別の実施形態では、少なくとも1つの追加の抗癌剤は、抗ErbB2抗体を含む。適切な抗ErbB2抗体は、トラスツズマブおよびペルツズマブを含む。
【0081】
一態様では、本発明による併用の有効性の向上は、治療的相乗効果を達成することによって証明することができる。
【0082】
「治療的相乗効果」という用語は、指定用量での2つの製品の併用が、同一用量での最善の2つの製品それぞれの単独使用よりも有効であるときを指す。一実施例では、治療的相乗効果は、腫瘍体積パラメータに関する反復測定による変数(例えば、時間因子)の二元分散分析から得られた推定値を使用して、併用と最善の単一薬剤とを比較することによって評価することができる。
【0083】
「付加的」という用語は、指定用量での2つ以上の製品の併用が、2つ以上の製品のそれぞれを用いて得られる有効性の総和よりも等しく有効であるときを指し、一方「超付加的」という用語は、併用が、2つ以上の製品のそれぞれを用いて得られる有効性の総和よりも有効であるときを指す。
【0084】
有効性(併用の有効性を含む)を定量化することができる別の方法は、以下の等式によって決定される、log
10細胞死滅を計算することによる。
log
10細胞死滅=T−C(日数)/3.32xT
d
式中、T−Cは、細胞成長の遅延を表し、治療群(T)の腫瘍および対照群(C)の腫瘍が、既定値(例えば、1gまたは10mL)に到達するまでの平均時間(日数)であり、T
dは、対照動物において腫瘍の体積を二倍にするために必要な時間(日数)を表す。この方法を適用するとき、製品は、log
10細胞死滅が0.7以上である場合に活性であると考えられ、log
10細胞死滅が2.8を超えると非常に活性であると考えられる。
【0085】
この方法を使用すると、組成成分のそれぞれが一般にその最大耐量以下の用量で存在する、その独自の最大耐量で使用される併用は、log
10細胞死滅が、単独で投与されるときの最善組成成分のlog
10細胞死滅の値よりも優れているときに治療的相乗効果を呈する。典型的な例では、併用のlog
10細胞死滅は、少なくとも1つのlog細胞死滅によって、併用の最善組成成分のlog
10細胞死滅の値を超える。
【実施例】
【0086】
実施例1:MM−121がトリプルネガティブヒト乳癌異種移植片MAXF449に及ぼす効果
担癌マウスのMM−121治療の抗腫瘍有効性および耐性に関する分析は、NMRIヌードマウスにおいて、トリプルネガティブヒト乳癌異種移植片MAXF449(ONCOTEST GmbH、Frieburg、Germany)を使用して行われる。MAXF449は、ヌードマウスの連続継代において皮下注射を介して確立された、ヒト腫瘍外植片である(外植片に関して、固形の侵襲性管として組織学的に説明され、明らかに定義されていない)。これらの実験で使用されるMAXF449細胞は、22回継代された。NMRIヌードマウスは、Taconic farms、Charles River Laboratories InternationalまたはHarlan Laboratoriesから取得される。マウスは、温度と湿度が調整された部屋にある、個別に換気されたTecniplastポリカーボネート(Macrolon)ケージ(IVC)セットに収容され、食餌と酸性水に自由にアクセスできる。
【0087】
単剤療法における抗腫瘍有効性を調査するために、MM−121または媒体対照(100μL)を、3日毎に腹腔内注射によって、600μg/マウス(PBS中の6mg/mL溶液としてのMM−121)で担癌マウスに与えた。対照マウスは、PBS媒体のみを受容する。有効性は、抗体治療されたマウスと媒体対照マウスとの間の腫瘍成長を比較することによって決定され、相対腫瘍体積の中央値の実験対対照比(T/C値)として表される。50%を下回る最小T/C値は、治療が有効であると評価するための前提条件である。対照群および実験群は、それぞれ1つの腫瘍を担持する10匹のマウスを含む。ランダム化のために、同様のサイズの腫瘍を担持するマウスを30匹得るために、腫瘍当たり40匹のマウスが片側に移植される。
【0088】
マウスをランダム化し、十分な数の個別の腫瘍が約200mm
3の体積に成長したら治療を開始する。デジタルカリパス測定によって腫瘍を測定し(LxW)、式Pi/6(W2xL)を使用して腫瘍体積を計算する。最初の用量は、0日目(ランダム化の日)または1日後のいずれかに投与する。
【0089】
最終用量の投与から約24時間後、すべてのマウスを出血させて血清を調製し、さらに急速冷凍およびFFPE用に同一マウスから腫瘍を収集する(それぞれ1/2腫瘍)。
【0090】
動物実験の規則に従って、腫瘍体積が1800mm
3を超える場合(1腫瘍/マウス)、マウスを犠牲死させる。マウスは、それらの腫瘍がそのサイズに成長するまでであるが、60日を超えない間で監視し、投薬する。その後、試料収集のために犠牲死させる。
【0091】
研究の最後、最終用量の投与から約24時間後、研究対象のすべてのマウスを舌下出血させて、血清調製のための最大量の血液を得る。それぞれ約250μLの2つの試験管に血清を分注する。
【0092】
さらに、液体窒素中で急速冷凍するため(1/2腫瘍、試料を保存するためのCOVARISバッグが提供される)、および10%緩衝ホルマリン中で24時間未満固定した後、脱水およびパラフィン包埋するために(FFPE、1/2腫瘍)すべてのマウスから得た腫瘍を即刻切除する。
【0093】
動物の体重および腫瘍の直径(WおよびL)を1週間に2回測定し、式Pi/6(W2xL)を使用して腫瘍体積を計算する。腫瘍成長曲線をプロットする。2および4倍増時間の腫瘍阻害および絶対成長遅延を計算する。
【0094】
実質的に記載のとおり実行した実験の結果は、
図1に提示される。MM−121治療は、腫瘍成長を阻害または停止し、いくつかの例では、腫瘍サイズを減少させた。これらのヒトトリプルネガティブ腫瘍異種移植片におけるTGI(腫瘍成長阻害)は、約200%であると計算された。
【0095】
実施例2:MM−121がトリプルネガティブヒト乳癌異種移植片MDA−MB−231に及ぼす効果
一般的な麻酔下、バルブ/cヌードマウスに10
7MDA−MB−231ヒトトリプルネガティブ乳癌細胞(ATCC)を、側腹部に皮下的に、または乳房脂肪体の中のいずれかに注射する。次に、確立された腫瘍のあるマウス(すなわち、細胞注射に続く腫瘍成長の7〜10日後)を、実施例1に記載されるように、PBSまたはMM−121のいずれかを用いて、3日毎に600μg MM−121/マウスで腹腔内治療する。実施例1に記載されるように、腫瘍体積を1週間に2回測定する。
【0096】
実質的に記載のとおり実行した実験の結果は、
図2に提示される。MM−121治療は、これらの実験において、ヒトトリプルネガティブ乳癌腫瘍の成長を本質的に完全に停止させた。
【0097】
実施例3:結合親和性の測定(K
D)
抗ErbB抗体の解離定数は、表面プラズモン共鳴アッセイおよび細胞結合アッセイという2つの独立した技法のいずれか、または両方を使用して測定されてもよい。
【0098】
表面プラズモン共鳴アッセイ
表面プラズモン共鳴アッセイは、Wassafら(2006)のAnalytical Biochem.,351:241〜253に記載のとおり行う。1つの実装では、組み換えErbBタンパク質を検体として、および抗ErbB抗体をリガンドとして使用するBIACORE3000器具(GE Healthcare)を使用する。K
D値は、式K
D=K
d/K
aに基づいて計算する。
【0099】
細胞結合アッセイ
MALME−3M細胞(ATCC)を使用して、ErbB3結合について細胞結合アッセイを行う。アッセイは、実質的に以下のとおり行う。
【0100】
2mLトリプシン−EDTA+2mL RMPI+5mM EDTAを用いて、室温で5分間、細胞を分離する。完全RPMI(10mL)をトリプシン化した細胞に即時添加し、ゆっくり再懸濁させて、Beckman卓上遠心分離機において1100rpmで5分間沈降させる。BD染色緩衝液中(PBS+2% FBS+0.1%アジ化ナトリウム、Becton Dickinson)、2x10
6細胞/mLで細胞を再懸濁させ、50μL(1x10
5細胞)アリコートを96ウェル滴定プレートに載置する。
【0101】
BD染色緩衝液中150μLの200nM抗ErbB抗体溶液を調製し、75μLのBD染色緩衝液に連続的に2倍希釈する。希釈した抗体の濃度は、200nM〜0.4nMの範囲であった。次に、50μLアリコートの異なるタンパク質希釈液を、50μLの細胞懸濁液に直接添加して、最終濃度100nM、50nM、25nM、12nM、6nM、3nM、1.5nM、0.8nM、0.4nM、および0.2nMの抗体を得る。
【0102】
96ウェルプレート内の分注細胞を、タンパク質希釈液を用いて室温で30分間、プラットフォーム攪拌器上でインキュベートし、300μL BD染色緩衝液で3回洗浄する。次に、100μLの二次抗体(例えば、BD染色緩衝液中のAlexa647標識化ヤギ抗ヒトIgGの1:750希釈液)を用いて、冷室で45分間、プラットフォーム攪拌器上で細胞をインキュベートする。最後に、細胞を2回洗浄し、ペレットして、250μL BD染色緩衝液+0.5μg/mLヨウ化プロピジウム中で再懸濁させる。FL4チャネルを使用し、FACSCALIBURフローサイトメーター内で10,000細胞の分析を行う。MFI値および対応する抗ErbB抗体の濃度を、それぞれy軸およびx軸上にプロットする。分子のK
Dは、非線形回帰曲線の一部位結合モデルを使用し、GraphPad PRISMソフトウェアを使用して決定する。
【0103】
K
D値は、式Y=Bmax
* X/K
D +Xに基づいて計算する(Bmax:飽和蛍光、X:抗体濃度、Y:結合の程度)。
【0104】
実施例4:MM−121およびパクリタキセルでの複合療法による生体内腫瘍成長の阻害
方法:
バルブ/cヌードマウス(雌、Charles River Labからの4〜5週齢)の乳房体に10x106個の細胞を同所移植する。腫瘍のサイズを平均100mm
3に到達させた後、同様の腫瘍サイズ分布を有するマウスを含む、10匹のマウスの4群にランダム化する。各群のマウスは、1)MM−121(150μg/マウス、腹腔内、Q3D)、2)媒体対照(PBS、腹腔内)、3)パクリタキセル(5mg/kg LC Lab)、または4)パクリタキセル(5mg/kg)およびMM−121(150μg/マウス)で治療する。治療は4週間継続する。1週間に2回腫瘍を測定し、腫瘍体積は、p/6x長さx幅
2として計算する(幅は短い方の測定値である)。
【0105】
結果:
MDA−MB−231トリプルネガティブ乳癌異種移植片モデルにおいて、上記の方法またはそのマイナー変化を使用して、MM−121とパクリタキセルの複合を生体内で調査した。マウスを準最適用量のMM−121、パクリタキセル、MM−121およびパクリタキセルの複合、または媒体対照で治療する(
図3)。MM−121およびパクリタキセルはいずれも、それぞれ生体内で腫瘍成長を阻害するが、MM−121およびパクリタキセルの複合療法を受けるマウスは、個別の治療のそれぞれから得られたものと比較して、腫瘍成長阻害の向上を呈した。腫瘍成長阻害の向上は、治療的相乗効果を呈し、複合の単剤それぞれから得られる向上と比較して、少なくともほぼ付加的であった。
【0106】
表1は、
図3を生成するために使用されたデータを示す。表2は、初期腫瘍体積に正規化された、
図3に示される同一実験から得たデータを使用して、腫瘍体積の平均%変化を示す。
【0107】
(表1):
図3を生成するために使用されたデータ−平均腫瘍体積(mm
3)
【0108】
実施例5:生体内の標的および化学療法とのMM−121複合
方法:
バルブ/cヌードマウス(雌、Charles River Labからの4〜5週齢)の乳房体に10x106個の細胞を同所移植する。腫瘍のサイズを平均150mm
3に到達させた後、同様の腫瘍サイズ分布を有するマウスを含む、8匹のマウスの9群にランダム化する。各群のマウスを、1)MM−121(300μg/マウス、腹腔内、Q3D)、2)媒体対照(PBS、腹腔内)、3)パクリタキセル(10mg/kg LC Labs)、4)エルロチニブ(50mg/kg PO 5XQD)、5)セツキシマブ(2mg/kg Q3D)、6)エルロチニブ(50mg/kg)およびMM−121(300μg/マウス)との複合療法、7)セツキシマブ(2mg/kg)およびMM−121(300μg/マウス)との複合療法、8)エルロチニブ(50mg/kg)およびMM−121(300μg/マウス)およびパクリタキセル(10mg/kg)との複合療法、または9)セツキシマブ(2mg/kg)およびMM121(300μg/マウス)およびパクリタキセル(10mg/kg)の投与で治療する。治療は4週間継続する。1週間に2回腫瘍を測定し、腫瘍体積は、p/6x長さx幅
2として計算する(幅は短い方の測定値である)。
【0109】
結果:他の薬剤と併用されるとき、腫瘍成長を阻害するMM−121の有効性を試験するために、MDA−MB−231トリプルネガティブ乳癌異種移植片モデルにおいて、上記の方法またはそのマイナー変化を使用して、これらの複合を生体内で試験した。MM−121(準最適用量で複合投与される)、セツキシマブ、パクリタキセル、MM−121およびセツキシマブ、ならびにMM−121とセツキシマブとパクリタキセルとのトリプル複合を用いてマウスを治療した。
図4Aに示されるように、MM−121およびセツキシマブの複合療法は、いずれかの薬剤を単独使用するよりも大幅に腫瘍成長を阻害し、少なくとも39日目まで、本質的に腫瘍成長を停止させた。成長率の減少は、治療的相乗効果を示し、ある例では、単剤療法のいずれかから得られた減少率と比較して、少なくともほぼ付加的な成長の減少を表した。パクリタキセルの添加は、MM−121およびセツキシマブの効果を強化しなかった。次に、MM−121、エルロチニブ、MM−121、およびエルロチニブ、またはMM−121とエルロチニブとパクリタキセルとのトリプル複合を用いてマウスを治療した。
図4Bに示されるように、MM−121とエルロチニブとの複合は、いずれかの薬剤を単独で用いる治療と比較して、腫瘍成長率に対して統計的に有意な効果を有しなかった。反対に、MM−121、エルロチニブ、およびパクリタキセルのトリプル複合を用いる治療は、腫瘍成長率の明らかな減少をもたらし、少なくとも39日目まで、本質的に腫瘍成長を停止させた。成長率の減少は、治療的相乗効果を示し、ある例では、単剤療法または二剤療法のいずれかから得られた減少率と比較して、少なくともほぼ付加的な成長の減少を表した。
【0110】
表3は、
図4Aおよび4Bを生成するために使用されたデータを示す。表4は、初期腫瘍体積に正規化された、
図4Aおよび4Bに示される同一実験から得たデータを使用して、腫瘍体積の平均変化%を示す。
【0111】
(表2)
図4Aおよび4Bを生成するために使用されたデータ−平均腫瘍体積(mm
3)
【0112】
均等物
当業者であれば、単なる日常実験を使用して、本明細書に記載される特定実施形態の多くの均等物を認識するか、または確認することができるであろう。そのような均等物は、以下の請求項によって包含されるものとする。従属請求項に開示される実施形態のあらゆる組み合わせは、本発明の範囲内であると考えられる。
【0113】
参照による組み込み
本明細書で言及される発行済み特許、特許出願、および公開のそれぞれおよびすべては、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0114】
配列一覧の要約