特許第6185215号(P6185215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6185215
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/30 20060101AFI20170814BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20170814BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20170814BHJP
   A61K 8/27 20060101ALI20170814BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20170814BHJP
   A61Q 17/00 20060101ALI20170814BHJP
   A61L 15/22 20060101ALI20170814BHJP
   A61L 15/44 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   A61K33/30
   A61P17/02
   A61P17/16
   A61K8/27
   A61Q19/00
   A61Q17/00
   A61L15/22 100
   A61L15/44
【請求項の数】12
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-513015(P2017-513015)
(86)(22)【出願日】2016年6月10日
(86)【国際出願番号】JP2016067404
(87)【国際公開番号】WO2016199905
(87)【国際公開日】20161215
【審査請求日】2017年3月3日
(31)【優先権主張番号】特願2015-119535(P2015-119535)
(32)【優先日】2015年6月12日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-42581(P2016-42581)
(32)【優先日】2016年3月4日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000200301
【氏名又は名称】JFEミネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 悦郎
(72)【発明者】
【氏名】越前谷 木綿子
(72)【発明者】
【氏名】三浦 ちさき
(72)【発明者】
【氏名】中田 圭美
(72)【発明者】
【氏名】山本 修
【審査官】 小堀 麻子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−038014(JP,A)
【文献】 特表2005−515191(JP,A)
【文献】 特表2004−534560(JP,A)
【文献】 特表2014−511851(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/099165(WO,A1)
【文献】 Can J Anim Sci,2001年,Vol.81, No.3,p.387-391
【文献】 日本医薬品集 医療薬 2009 年版,2008年,p.2-3,「皮膚疾患治療剤262,264 酸化亜鉛」
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 33/00
A61K 8/00
A61L 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記攪拌法による溶出試験後において、表面積あたりのZn2+イオン溶出量が0.25〜100μg/m、pHが7.0〜8.3未満であるシモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物を湿潤条件下で患部に適用する皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤;
ここで、溶出試験とは、シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物のBET比表面積が10〜150m/g、シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物と生理食塩水の質量比が1:50、37℃ における回転子を用いて500rpmでの攪拌時間が3時間である。
【請求項2】
前記シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物が、下記式(1)で表され、かつZnとClのモル比がZn/Cl=2.0〜4.0である請求項1に記載の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤、
Zn4〜6Cl1〜3(OH)7〜8・nHO (1)
nは、0〜6である。
【請求項3】
前記シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物のXRD回折ピークにおいて、ZnCl(OH)・nHOの構造が支配的であり、nは、0〜6であり、その時a軸が6.3〜6.345、c軸が23.4〜23.7である請求項1または2に記載の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の治療剤を生理食塩水に溶いて用いる場合、前記治療剤と生理食塩水との比が0.1g/L〜100g/L、前記治療剤が前記(1)式で表され、かつn=0(無水)とした時、前記治療剤全量に対する亜鉛濃度が、金属亜鉛として45質量%〜75質量%であり、かつ前記治療剤の生理食塩水溶液における亜鉛濃度が0.045g/L〜75g/Lである請求項1ないし3のいずれか1項に記載の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤。
【請求項5】
前記皮膚創傷または皮膚荒れが、表皮をへて真皮に至る皮膚創傷または皮膚荒れである請求項1ないし4のいずれか1項に記載の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤。
【請求項6】
さらに、製薬学上許容される担体を含む請求項1ないし5のいずれか1項に記載の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤。
【請求項7】
皮膚創傷または皮膚荒れに適用される請求項1ないし6のいずれか1項に記載の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤、および前記患部を閉鎖環境に保持する創傷被覆材を有する、皮膚創傷または皮膚荒れ治療用医療機器。
【請求項8】
前記創傷被覆材が、ポリウレタンフィルム・ドレッシング材、ハイドロコロイド・ドレッシング材、ポリウレタンフォーム・ドレッシング材、アルギン酸塩被覆材、ハイドロジェル・ドレッシング材、ハイドロポリマー、セルロースフイルム、およびシルクフイルムからなる群から選択される少なくとも一つである請求項7に記載の皮膚創傷または皮膚荒れ治療用医療機器。
【請求項9】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤が創傷被覆材に塗布、含有または付着される請求項7または8に記載の皮膚創傷または皮膚荒れ治療用医療機器。
【請求項10】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤、および創傷被覆材を組み合わせて有する皮膚創傷または皮膚荒れ治療用医療セット。
【請求項11】
皮膚創傷治療用医薬組成物に有効成分として添加するために用いる添加剤であって、下記攪拌法による溶出試験後において、表面積あたりのZn2+イオン溶出量が0.25〜100μg/m、pHが7.0〜8.3未満であるシモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物を含む添加剤、ただし、前記添加剤成分が添加される前記医薬組成物は、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤を除く:
ここで、溶出試験とは、シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物のBET比表面積が10〜150m/g、シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物と生理食塩水の質量比が1:50、37℃ における回転子を用いて500rpmでの攪拌時間が3時間である。
【請求項12】
皮膚荒れ改善に用いる化粧品に有効成分として添加するために用いる添加剤であって、攪拌法による溶出試験後において、表面積あたりのZn2+イオン溶出量が0.25〜100μg/m、pHが7.0〜8.3未満であるシモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物を含有する、前記化粧品の皮膚荒れ改善効果を増強する添加剤
ここで、溶出試験とは、シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物のBET比表面積が10〜150m/g、シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物と生理食塩水の質量比が1:50、37℃ における回転子を用いて500rpmでの攪拌時間が3時間である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤およびこれを用いる医療用機器に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛は人体で2番目に多い金属であり、亜鉛の果たす重要性は、皮膚炎、拒食症、脱毛症および全体的成長障害を含む食事性欠乏症状などがあることが古くから知られている。
【0003】
特許文献1の段落[0013]には、「ボツリヌス毒素の治療的投与の前、投与と併用して、比較的多量の高吸収型の亜鉛の投与は、以前には応答が乏しかった人において毒素に対する応答性を有効にし、また同様に他の人においてもボツリヌス毒素の機能的効力も明らかに高めることを見出した」、ことが記載されている。このような「亜鉛補給剤」の例示として特許文献1の段落[0045]には、経口投与用の無機亜鉛または有機亜鉛またはそれらの組み合わせが記載され、塩化亜鉛(ZnCl)、塩基性塩化亜鉛(ZnCl(OH))、酸化亜鉛(ZnO)、硫酸亜鉛(ZnSO)が記載されている。
【0004】
しかし、シモンコーライト等の塩基性塩化亜鉛を皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤に用いることは検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2012−531421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
安価で取り扱いやすい、有効な皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、皮膚創傷または皮膚荒れに治療効果があることを知見して発明された皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤を提供する。
【0008】
すなわち本発明は、以下を提供する。
(1)塩化亜鉛、水酸化亜鉛および酸化亜鉛からなる群から選択される少なくとも一つを含み、並びに製薬学上許容される担体を含んでもよい皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤。
(2)前記塩化亜鉛が、塩化亜鉛、塩化水酸化亜鉛、および塩化水酸化亜鉛水和物からなる群から選択される少なくとも一つを含有する(1)に記載の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤。
(3)シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物の攪拌法による溶出試験後において、表面積あたりのZn2+イオン溶出量が0.25〜100μg/m、pHが7.0〜8.3未満である皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤;
ここで、溶出試験とは、シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物のBET比表面積が10〜150m/g、シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物と生理食塩水の質量比が1:50、37℃ における回転子を用いて500rpmでの攪拌時間が3時間である。
(4)シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物のXRD回折ピークにおいて、ZnCl(OH)・nHOの構造が支配的であり、その時a軸が6.3〜6.345、c軸が23.4〜23.7であることを特徴とする皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤。
【0009】
(5)前記シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物が、下記式(1)で表され、かつZnとClのモル比がZn/Cl=2.0〜4.0である(2)ないし(4)のいずれか1に記載の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤、
Zn4〜6Cl1〜3(OH)7〜8・nHO (1)
nは、0〜6である。
(6)上記(5)に記載の治療剤を生理食塩水に溶いて用いる場合、前記治療剤と生理食塩水との比が0.1g/L〜100g/L、前記治療剤が前記(1)式で表され、かつn=0(無水)とした時、前記治療剤全量に対する亜鉛濃度が、金属亜鉛として45質量%〜75質量%であり、かつ前記治療剤の生理食塩水溶液における亜鉛濃度が0.045g/L〜75g/Lである(5)に記載の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤。
(7)前記塩化水酸化亜鉛水和物が、亜鉛塩水溶液およびアルカリ水溶液の沈殿物生成反応によって生成される(1)〜(6)のいずれか1に記載の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤。
(8)前記沈殿物生成反応において、Zn2+イオン、Clイオン、およびOHイオンの反応が、6.0〜7.5未満、に制御された反応場で沈殿物を得る(7)に記載の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤。
【0010】
(9)前記塩化水酸化亜鉛水和物が、下記式で表されるシモンコーライトを含む(7)または(8)に記載の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤、
4〜6Cl1〜3(OH)7〜8・nH
M:亜鉛元素を示し、nは、1〜6である。
(10)前記治療剤全量に対する亜鉛濃度が、金属亜鉛として0.000001g/L〜10g/Lである(1)〜(9)のいずれか1に記載の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤。
(11)前記皮膚創傷または皮膚荒れが、表皮をへて真皮に至る皮膚創傷または皮膚荒れである(1)ないし(10)のいずれか1に記載の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤。
(12)皮膚創傷または皮膚荒れに適用される(1)ないし(11)のいずれか1に記載の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤、および前記皮膚創傷または皮膚荒れを閉鎖環境に保持する創傷被覆材を有する、皮膚創傷または皮膚荒れ治療用医療機器。
(13)前記創傷被覆材が、ポリウレタンフィルム・ドレッシング材、ハイドロコロイド・ドレッシング材、ポリウレタンフォーム・ドレッシング材、アルギン酸塩被覆材、ハイドロジェル・ドレッシング材、ハイドロポリマー、セルロースフイルム、およびシルクフイルムからなる群から選択される少なくとも一つである(12)に記載の皮膚創傷または皮膚荒れ治療用医療機器。
(14)上記(1)ないし(11)のいずれか1に記載の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤が創傷被覆材に塗布、含有または付着される(12)または(13)に記載の皮膚創傷または皮膚荒れ治療用医療機器。
(15)上記(1)ないし(11)のいずれか1に記載の皮膚の創傷または皮膚荒れ治療剤、および創傷被覆材を組み合わせて有する皮膚創傷または皮膚荒れ治療用医療セット。
(16)アルカリ水溶液と亜鉛塩水溶液とをpH6.0〜8.5で反応させて、生成する沈殿物を得る(1)ないし(11)のいずれか1に記載の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤の製造方法。
(17)表面積あたりのZn2+イオン溶出量を指標として塩化水酸化亜鉛の化学構造を選択して有効成分とする皮膚創傷または皮膚荒れの治療方法。
(18)表面積あたりのZn2+イオン溶出量を指標として塩化水酸化亜鉛の化学構造を選択して医薬組成物に添加して前記医薬組成物の治療効果、特に皮膚治療効果を促進する方法。
(19)表面積あたりのZn2+イオン溶出量を指標として塩化水酸化亜鉛の化学構造を選択して化粧品に添加して前記化粧品による美容効果を促進する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、皮膚創傷または皮膚荒れの治療に有効な治療効果を有する治療剤である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の製剤例の製造方法によって得られたシモンコーライトのXRD(X−線回折法)のチャートである。
図2】実施例1の創傷部の1週間後の治癒部位およびコントロールの観察結果を示す写真である。
図3】実施例1の2週間後の治癒部位およびコントロールの観察結果を示す写真である。
図4】表2の結果を示すグラフである。
図5】実施例1の創傷作成位置の1週間後の組織学的評価を示す顕微鏡写真である。
図6】実施例1の創傷作成位置2、創傷作成位置3の2週間後の組織学的評価を示す顕微鏡写真である。創傷作成位置以外の、位置1、位置4、位置5を合わせて示す。
図7】シモンコーライトの合成時のpHと、溶出試験後のpHの関係を示すグラフである。
図8】シモンコーライトの合成時のpHと、溶出試験後のZn2+イオン溶出量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.本発明の治療剤
本発明の治療剤は、塩化亜鉛、水酸化亜鉛および酸化亜鉛からなる群から選択される少なくとも一つを含む治療剤である。
塩基性塩化亜鉛は、亜鉛の塩化物塩であり、好ましくは化学式Zn4〜6Cl1〜3(OH)7〜8・nHO・・・式(1)で示され、nは、1〜6である。
工業分野では一般的に代表的な化学式シモンコーライトZn(OH)Cl Simonkolleiteとして知られ、この物質は、ち密な腐食生成物であって、腐食抑制効果に優れることが知られ、シモンコーライトの生成を促進してめっき層の耐食性を向上させることが知られている。
【0014】
本発明の治療剤は、塩化亜鉛、水酸化亜鉛および酸化亜鉛からなる群から選択される少なくとも一つを含む治療剤であり、塩化亜鉛は、塩化亜鉛、塩化水酸化亜鉛、および塩化水酸化亜鉛水和物からなる群から選択される少なくとも一つを含有する治療剤である。
本発明の治療剤は、天然の、または市販の塩化亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛を用いてもよいし、合成してもよいし、これらの混合物であってもよい。酸化亜鉛は日本薬局方に医薬品として記載されている。
本発明の治療剤は、亜鉛塩水溶液からアルカリ沈殿法によって生成される沈殿物を得てこれを用いてもよい。好ましくは以下に述べる沈殿物生成反応において、Zn2+イオン、Clイオン、およびOHイオンの反応が、pHが好ましくはpH6.0~7.5未満に制御された反応場で得られた沈殿物を本発明の治療剤として用いる。より好ましくは、下記式(1)で表される塩化水酸化亜鉛水和物のシモンコーライトを含む治療剤、である。
Zn4〜6Cl1〜3(OH)7〜8・nHO (1)
nは、0〜6である。
本発明の治療剤は、実施例で説明する攪拌法による溶出試験後において、Zn2+イオン溶出量が0.25〜100μg/m、pHが7.0〜8.3未満であるのが好ましく、Zn2+イオン溶出量が10〜100μg/m、pHが7.0〜8.3未満であるのがより好ましい。
(攪拌法による溶出試験)
本明細書で測定する、Zn2+イオン溶出量は、後に説明する実施例の製剤例2と同様の工程で製造時のpHを変化させて製造した各サンプルの表面積を予めBET法で測定しておく(BET比表面積計:カンタクローム・インスツルメンツ・ジャパン製 高精度・多検体ガス吸着量測定装置)。各サンプルを、生理食塩水中で攪拌した後のZn2+イオン濃度をICP発光分析装置(島津製作所製 ICPE−9000)により測定してZn2+イオン溶出量を得て、予め測定して得られている表面積で割った値である。各サンプルと生理食塩水の質量比は、1:50とし、37℃において回転子を用いて500rpmでの3時間攪拌時間の後に生理食塩水中に溶出したZn2+イオン量を測定する。
【0015】
2.本発明の治療剤の製造方法
アルカリ沈殿法に用いる塩素源として好ましくは、NHCl(塩化アンモニウム)水溶液とし、水溶液のpHが好ましくはpH6.0〜7.5未満を維持するように、鉱化材としてNaOHを滴下することで、酸性である塩化亜鉛などの亜鉛塩水溶液を滴下し沈殿物とし、10〜30時間攪拌後、沈殿物を得る。沈殿物は吸引濾過または遠心分離による固液分離を行った後、純水もしくは蒸留水にて洗浄し、真空乾燥することでシモンコーライトを含有する乾燥粉が得られる。得られるシモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物の粒度は限定されず治療薬として用いる際には、公知の方法で適切な粒径とすることができる。塩素源にはNaClなど、好ましくは、NHCl水溶液が挙げられ、亜鉛源は硫酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛の中から選択され、鉱化材としてNH、またはNaOHの水溶液の使用が挙げられる。塩素源と亜鉛源水溶液における塩素と亜鉛の濃度比(モル比)は2:5として反応させるのが好ましく、亜鉛源水溶液の濃度は0.1〜1Mの範囲であるのが好ましい。反応温度は好ましくは40℃以下、より好ましくは25℃で行う。得られるシモンコーライトを主成分する塩化水酸化亜鉛水和物は、上記の亜鉛塩水溶液とアルカリ水溶液の沈殿物生成反応によって得られる反応物、および未反応物としての原料、副生物及び原料から混入する不純物の混合物である。
【0016】
図1に本発明における製剤例の製造方法によってpH条件を変えて製造されたシモンコーライトのXRDチャートを示す。XRD装置はBruker Corporation製のD8 ADVANCEを用いた。
図1の合成時pH6.0〜7.0のチャートに示すように、シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物のXRD回折ピークにおいて、シモンコーライトであるZnCl(OH)・nHOの構造が支配的であり、その時a軸が6.3〜6.345、c軸が23.4〜23.7であるのが好ましい。XRD回折ピークにおける結晶がこの範囲であると皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤としての効果が高い。pH7.5以上ではunknown(不明)のピークが支配的となる。シモンコーライトが主成分として得られる製造条件は用いる塩素源、亜鉛源の種類や濃度によって変化するがpH条件を変えて製造すれば最適条件を見出すことができる。ここで、主成分とは混合物中で最も多い成分をいい、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは95質量%以上をいう。
【0017】
これまで、実験動物に作成した創傷部位にZnSO、ZnClおよびZnOなどの亜鉛化合物を適用し、創傷治癒効果を評価する研究が数多く行われてきた。これらの化合物は、創傷部位にZn2+イオンを供給する物質である。しかし、Zn2+イオンによる創傷治癒効果には、Zn2+イオンの至適濃度が存在することが報告されている。500μmol/L以下であれば繊維芽細胞に対する毒性を示さないが、高レベル(15mmol/L以上)の亜鉛イオンの存在は、皮膚の炎症性細胞浸潤を増加させ、再上皮化を著しく遅延させることが知られている。
また、生理食塩水を主成分とする体液のpHは約7.4〜7.5であり、本発明品のシモンコーライトを主成分とする塩基性塩化亜鉛を生理食塩水に溶解させるとZn2+イオンの生成・溶出にみあったpHの変動が予想される。また、Zn2+イオンおよび/またはClイオンを供給するpH環境、水分子のOHイオンを介して基質タンパクを分解するマトリックスメタプロテアーゼ(MMPs)酵素を効率よく活性化するためのOHイオン供給、の2点を見極めることで、さらなる治療の促進と痂皮などの治療を妨げる組織が形成されず、傷跡が残ることを抑制できるので患者のQOL(Quality of Life)の向上が期待できる。
【0018】
創傷治癒過程では、細胞の活発な増殖と移動が起こることが知られている。組織内あるいは組織間を細胞が遊走する際には、既存の細胞外マトリックスを局所的に破壊する必要がある。また、創傷部位に組織を再構築するために、新しい細胞外マトリックスの形成も同時に行なわれる。これらの過程では、種々のタンパク質分解酵素が関与する。
マトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)と組織阻害性メタロプロテアーゼ(TIMPs)の活性バランスは、創傷治癒、組織修復、血管新生、浸潤、腫瘍形成および転移などの正常事象・病理学事象の両方に関与している。
MMPsは細胞外のコラーゲンを分解する酵素であり、結合組織と結合組織中に存在する細胞により合成される。MMPsは中心に亜鉛イオンを有しており、活性部位にはZn2+イオンの結合部位が存在する。表皮の再生は、表皮細胞が創縁や皮膚付属器(毛根、汗腺等)から遊走してくることで達成される。従って、亜鉛化合物からのZn2+イオンとMMPsが結合することで細胞外マトリックスの破壊が起こり、表皮細胞の遊走が促進される。
TIMPsは、繊維芽細胞、内皮細胞等により産生され、MMPsに対し阻害作用を持つ酵素である。MMPsとTIMPsは、1:1の複合体を形成することでMMPsのコラーゲン分解を抑制する。この機構により、MMPsによるI、IIおよびIII型コラーゲンのへリックス部位の特異的な切断を抑制することで創傷部位での繊維化を促進し、再生組織のコラーゲン量を増加させることができる。
以上より、本発明の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤は、創傷部位に亜鉛イオンおよび・または塩素イオンを適切に供給することで細胞遊走を促進し、コラーゲン蓄積を増大し創傷治癒を促進することができると考えられる。また亜鉛イオンおよび・または塩素イオンを供給するpH環境を見極めることで、さらなる治療の促進と痂皮などの治癒を妨げる組織が形成されず、傷跡が残ることを抑制できるので患者のQOL(Quality of life)の向上が期待できる。
【0019】
3.本発明の治療剤は、医薬組成物用の添加物、化粧品用の添加物として用いることができる。
(1)本発明の治療剤は、酸化亜鉛に比べて乾燥作用や抗菌性を有さず添加剤として有用である。攪拌法による溶出試験後において、表面積あたりのZn2+イオン溶出量が0.25〜100μg/m、pHが7.0〜8.3未満であるシモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物を有効成分として含有する医薬組成物に用いる添加物に好適である。
(2)また、攪拌法による溶出試験後において、表面積あたりのZn2+イオン溶出量が0.5〜100μg/m、pHが7.0〜8.3未満であるシモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物を有効成分として含有する化粧品に用いる添加物に好適である。
ここで、溶出試験とは、シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物のBET比表面積が10〜150m/g、シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物と生理食塩水の質量比が1:50、37℃における回転子を用いて500rpmでの攪拌時間が3時間である。
【0020】
4.皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤とその製薬学上許容される担体
本発明は、皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤であり、必要な場合は製薬学上許容される担体を含んでもよい。担体は、有機溶媒、無機溶媒、具体的には水、生理食塩水、アルコール、多価アルコール、またはこれらの混合物が例示できる。この治療剤の形態としては、増粘剤等を加えてゲル状、ペースト状に加工して取り扱い性を向上させても良い。
担体として、例えば、α −オレフィンオリゴマー、パラフィンワックス、セレシン、マイクロクリスタリンワックス等の炭化水素、パーシック油、オリーブ油、牛脂、ミンク油等の動植物油、オクタン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸セチル等の合成エステル、ホオバ油、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、モクロウ、ミツロウ等の天然動植物ワックス、ステアリン酸ソルビタン、トリステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、トリオレイン酸デカグリセリル、モノラウリン酸ショ糖エステル、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等のシリコーン油及びその誘導体が挙げられる。
【0021】
パーフルオロポリエーテル等のフッ素系樹脂、エタノール、1 , 3 − ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジグリセリン等のアルコール類、カラギーナン、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、コラーゲン、エラスチン、シルク、セルロース、ラクトフェリン等のタンパクおよびその加水分解物、無水ケイ酸、ナイロンパウダー、ポリアクリル酸アルキル、アルミナ、酸化鉄等の粉体を用いてもよい。
【0022】
その他、紫外線吸収剤、ビタミン類、尿素、海水乾燥物、抗炎症剤、アミノ酸類およびその誘導体、レシチン、着色剤、香料、防腐剤等、油分としては卵黄油、マカデミアナッツ油、綿実油、アボカド油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、トウモロコシ油、ピーナッツ油、牛脂、カルナバロウ。
【0023】
またその他としてミツロウ、流動パラフィン、ラノリン、スクワラン、ステアリン酸、ラウリン酸エステル類、ミリスチン酸エステル類、イソステアリルアルコール、精製水、電気分解した水、エチルアルコール等が挙げられる。つまり、一般に化粧品、医薬部外品に共通して配合されるものは本発明の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤の担体に用いることが出来る。担体は用いなくても良い。
【0024】
例えば、その他の本発明の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤に加えても良い成分として、実際に化粧品、医薬部外品に添加されるものに応じて取捨選択される。厳密に区別できるものではないが、保湿剤としては、グリセリン、ソルビトール、ポリエチレングリコール、ピロリドンカルボン酸およびその塩、コラーゲン、1,3 − ブチレングリコール、ヒアルロン酸およびその塩、コンドロイチン硫酸およびその塩、キサンタンガム等が挙げられる。
【0025】
酸化防止剤としては、アスコルビン酸、α − トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、パラヒドロキシアニソール等が挙げられる。界面活性剤としては、ステアリル硫酸ナトリウム、セチル硫酸ジエタノールアミン、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸エチレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、大豆リゾリン脂質液、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン等が挙げられる。
【0026】
防腐剤としては、フェノキシエタノール、エチルパラベン、ブチルパラベン、酸化亜鉛をはじめとする無機顔料等が挙げられる。
消炎剤としては、グリチルリチン酸誘導体、サリチル酸誘導体、ヒノキチオール、酸化亜鉛、アラントイン等が挙げられる。
美白剤としては、胎盤抽出物、グルタチオン、ユキノシタ抽出物、アスコルビン酸誘導体、アルブチン等が挙げられる。
【0027】
血行促進剤としては、γ − オリザノール、デキストラン硫酸ナトリウム等が挙げられる。
抗脂漏剤としては、硫黄、チアントール等が挙げられる。
増粘剤としては、カルボキシビニルポリマー等が挙げられる。
pH調整剤としては、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、グリコール酸、水酸化ナトリウム、ハイドロタルサイト等が挙げられる。
【0028】
治療剤の濃度は、特に限定されないが、治療剤を生理食塩水に溶いて用いる場合、治療剤と生理食塩水の比が0.1g/L〜100g/L、治療剤が上記(1)式で表され、かつn=0(無水)とした時、治療剤全量に対する亜鉛濃度が、金属亜鉛として45質量%〜75質量%であり、かつ治療剤の生理食塩水溶液における亜鉛濃度が0.045g/L〜75g/Lである。濃度がこの範囲であると治療効果が高い。
【0029】
5.皮膚創傷または皮膚荒れ治療用医療機器とそれに用いる創傷被覆材
本発明の治療剤は限定されないが、表皮をへて真皮に至る皮膚創傷または皮膚荒れの治癒に有効である。表皮をへて真皮に至る皮膚全層欠損の皮膚創傷または皮膚荒れの治癒に有効である。
本発明の治療剤は、皮膚創傷または皮膚荒れに適用され、さらに創傷被覆材と共に用いれば、前記皮膚創傷または皮膚荒れを閉鎖環境に保持する皮膚創傷または皮膚荒れ治療用医療機器とすることができる。ここで、「皮膚創傷または皮膚荒れに適用され」とは、皮膚創傷または皮膚荒れに直接塗布されてもよく、皮膚創傷または皮膚荒れの周辺の皮膚に適用されても良い。創傷被覆材は前記皮膚創傷または皮膚荒れを閉鎖環境に保持する医療機器である。また他の態様として、本発明の治療剤が創傷被覆材に塗布、含有または付着され、本発明の治療剤が塗布、含有または付着された創傷被覆材が前記皮膚創傷または皮膚荒れを閉鎖環境に保持する医療機器であってもよい。
【0030】
創傷被覆材
皮膚創傷または皮膚荒れの治癒には、乾燥環境下で治癒させる場合と、湿潤環境下で治癒させる場合とがある。乾燥環境下で治癒させる場合は創傷被覆材として何もしない場合もあるが、通常は傷口、皮膚荒れ部の保護のために通気性の良い創傷被覆材で覆う。ガーゼ、包帯、通気性のあるフイルム状創傷被覆材がある。
本発明の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤は、創傷被覆材で閉鎖環境とし、さらに適切な湿潤環境に保持できるので治療に有効である。無機系の材料である本発明の治療剤と有機系の材料である創傷被覆材とを組み合わせて、有機系・無機系の材料のハイブリッド化することで大きな相乗効果が得られる。
本発明の治療剤を使用する際に、生理食塩水などを溶媒として液剤とする場合と、創傷内に浸出液があり創傷が潤っている場合は粉体の剤形で使用することができる。必要な場合はその中間の増粘状態やゲル剤とすることもできる。本発明の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤は、創傷被覆材で閉鎖環境とし、さらに個々の創傷に適切な湿潤状態に維持できるよう剤形を液剤や、粉体に調整することができるので湿潤環境での治療に有効である。液剤や、粉体のいずれの剤形でも、本発明の治療剤を創傷被覆材と共に用いれば、痂皮などの治癒を妨げる組織が形成されず、傷跡が残ることを抑制できるので患者のQOL(Quality of life)が高い。
【0031】
また、以下の創傷被覆材を用いて、閉鎖環境を提供して創傷治癒を促進することができる。
1)ポリウレタンフィルム・ドレッシング材
商品名、テガダーム(3M社製),オプサイトウンド(Smith & Nephew社製)、I V3000 (Smith & Nepnew社製)、 バイオクルーシフ (Johnson & Johnson社製)などが例示できる。片面が粘着面を構成する透明なフィルムで,水蒸気や酸素が透過でき,中が蒸れないようになっているポリウレタンフィルム・ドレッシング材である。出血を伴わない創面,浅い褥瘡(発赤のみ)、あるいは水癒の保護,褥瘡の予防などに使われるが,後述するアルギン酸塩被覆材やハイドロジェルの密封用に有用である。
【0032】
2)ハイドロコロイド・ドレッシング材
商品名、デュオアクティブ (Convatec社製)、コムフィール(コロプラスト社製)、テガソーブ(3M社製)、アブソキュア(日東メディカル社製)などが例示できる。シート状であり、外側が防水層、内側が親水性コロイド粒子を含む粘着面を構成する。大きさ、形はさまざまであり、厚さは,ポリウレタンフォームを用いてクッション性を持たせた厚いもの(デュオアクティフ、CGF)や,非常に薄くしなやかなもの(デュオアクティブET社製)がある。通常はシート状のものが使われるが,ペースト状のもの(コムフィール・ペースト社製)、顆粒状のもの(デユオアクテイブ),陥凹した創やポケツ卜形成をした褥瘡に使われる。外側の防水層により外気から遮断されるため,特に仙骨部褥瘡では尿便失禁などから創面を保護することができる。内側の親水性コロイド粒子は浸出液を吸収することで湿潤したゲルとなり,湿潤環境を提供する。なお,外気中の酸素を遮断する。創面のコロイド粒子がゲル化するため,創面に癒着することはない。新鮮外傷での使用では,薄いデュオアクティブ、がある。
【0033】
3)ポリウレタンフォーム・ドレッシング材
商品名、ハイドロサイト(Smith& Nephew社製)がある。一番外側が水分を通さないポリウレタンフィルム、一番内側が非固着性の薄いポリウレタンで、これらに厚い親水性吸収フォームが挟まれる。中層は高い吸水性を持ち、浸出液を吸収し,かつ適度の水分を保持し創面の湿潤環境を保つ。このため,浸出液の多い創面に用いられる。浸出液の多い褥瘡にハイドロコロイドを使用するとすぐに溶けてしまい周囲の皮膚が過度に浸軟することがあるが,そういう場合は,ポリウレタンの方が使いやすい。またドレッシング材自体が溶けないため、創面にドレッシング材が残ることもなく取り扱いも非常に簡単である。
新鮮外傷では全ての皮膚欠損創に使えるが,指尖部損傷への適用が好ましい。指尖部は通常でもぶつかりやすい部位であり,指尖部損傷での創部への打撃は非常な痛みを伴う。
しかしハイドロサイトで指尖部を覆うと,ドレッシング材自体に厚みとクッション性があり、ぶつかった際の衝撃が弱まり,好適である。基本的にドレッシング材そのものに固着性がないためバンソウコウなどでの固定が必要となるが,皮膚が極めて脆弱な老人で、「水で、濡らした障子紙を裂くように」皮膚が裂けてしまう場合は,バンソウコウの固定をせずに,包帯で巻くだけでも良い。
【0034】
4)アルギン酸塩被覆材
商品名、カルトスタッ卜(Convatec社製)、ソーブサン(アルケア社製)、アルゴダーム(メディコン社製)、クラビオAG(クラレ社製)などがある。海草のコンブから抽出されたアルギン酸塩(ソーブサン、アルゴダームではカルシウム塩,カルトスタットではカルシウム塩とナトリウム塩の混合)を繊維状にして不織布にしたもの。アルギン酸は自重の15〜20倍の水分を吸収するが,浸出液などのナトリウムイオンを含む水分を吸収するとゲル化する。このゲルが創面の湿潤環境を保つ。また,極めて強力な止血効果を有する。これは,ゲル化する際にカルシウムイオンを放出することによるもの。通常はフィルムドレッシング材で密封して使用する。幾つかの製品があるがカルトスタットは線維が太く硬いためゲル化する率が低く崩れにくいが,ソーブサンは線維が細く柔らかいゲルになり,崩れやすいが,実際の使用では大きな差はない。挫傷などで創面をブラッシングした際の出血も,アルギン酸塩被覆材で対応できる。以上のような特性から,この被覆材は「出血を伴う皮膚欠損創」に好ましい。
【0035】
5)ハイドロジェル・ドレッシング材
商品名、ジェリバーム(竹虎社製)、ニュージェル(Johnson & Johnson社製)、イントラサイト(Smith & Nephew社製)、グラニュゲル(Convatec社製)、クリアサイト(日本シグマックス社製)などがある。一見「透明な軟膏」のように見えるが、親水性ポリマー分子が架橋を作り,マトリックス構造をとり,その中に水分を含んでいる。
ポリマーの種類が違ったり,増粘剤が加えられていたり,水分量が製品ごとに違っている。水分量も97%というものから60%程度のものまでさまざまある。通常は,フィルムドレッシングで密封して利用する。「乾燥気昧の開放創」、すなわち浸出液が少ない創面で有効である。また,深い陥凹となっている開放創にも利用できる。黒い痴皮が覆っている黒色期の褥瘡をこの被覆材で密封すると自己融解が早まり,デブリードマンしやすくなる。創周囲の皮膚が脆弱な場合,フィルムドレッシングでの密封が難しいが、この場合は,ジェルを直接ガーゼで、覆っても十分効果がある。
【0036】
6)ハイドロポリマー
商品名、ティエール(Johnson& Johnson社製)がある。創にあたるハイドロポリマー吸収パッドは、浸出液を吸収して浸出液の方向に向かって膨らむ(体積が増加する)という性質を持つ。主成分は少量のアクリルポリマーを含む親水性ポリウレタンフォームである。浸出液があるとその方向に向かって膨化する。つまり,陥凹した創にこの被覆材を使うとその陥回した形に合わせて突出し創面に柔らかくフィットすることになる。術後の創離開,皮弁壊死などに伴う広範で深い皮膚軟部組織欠損創に適用できる。
【0037】
7)シルクフイルム
シルクフィブロインは生糸として利用されてきたが、強度、生体適合性、生分解性に優れ、シルクを歯、骨、軟骨、眼組織、血管などの再生を促す足場材料として利用できる。
シルクフィルム、不織布等を創傷被覆材として本発明の皮膚創傷または皮膚荒れ治療剤と組み合わせて用いれば、線維芽細胞の遊走と増殖に有効であると考えられる。閉鎖環境で湿潤環境とするにはポリウレタンフイルムをシルクフイルムの表面に貼ることができる。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0039】
(製剤例1)
反応容器に0.08M塩化アンモニウム水溶液を500mL調製し、これとは別に滴下反応溶液として0.1M塩化亜鉛水溶液を1000mL用意した。pH調整液として30質量%水酸化ナトリウム水溶液を準備した。
ポンプを接続したpHコントローラを用いて、上記の塩化アンモニウム溶液のpHを6.5に維持しながら攪拌を行った状態で、塩化亜鉛水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液を滴下した。塩化亜鉛水溶液を全て滴下した後、16時間攪拌、養生した。
その後、反応液を遠心分離によって固液分離し、得られた固体は水洗、遠心分離を3回繰り返した。このように洗浄した沈殿物を真空乾燥して式(1)に示す組成範囲を有するシモンコーライトを得た。
【0040】
(製剤例2)
合成時のpHを5.5〜10とし、製剤例1と同様の工程で製造例1(pH6.5)を含む製造時のpHを変化させた各サンプルを製造した。pH5.5では、pHが低すぎたことによって、沈殿物が得られなかった。
【0041】
(溶出試験)
製剤例2で得られた各乾燥粉0.6gに対し生理食塩水30gを用いて攪拌法による溶出試験を行い、Zn2+イオン溶出量とpHの測定を行った。溶出試験の方法は、シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物のBET比表面積を10〜150m/gに調整し、シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物と生理食塩水の質量比が1:50、回転子を用いて500rpmでの攪拌時間を3時間とし、溶出試験後のpHとZn2+イオン溶出量を測定した。結果を図7図8および表1に示す。
図8に示すように、pH7.5前後は、シモンコーライトを含む塩化水酸化亜鉛水和物の合成において特異点と考えられ、pH7.5未満ではシモンコーライトの収率、結晶性の向上が観察できる。一方pH7.5以上では異相がまじってきて、pH8.5以上では亜鉛水酸化物が支配的に合成されると考えられる。
【0042】
【表1】
【0043】
(実施例1)
約500gのSDラットに2%セデラック(キシラジン)を0.2mL/500gで筋肉注射により投与して鎮静させ,セボフルレン吸入麻酔薬を2%で全身麻酔を行った。ラット腹側部にキシロカイン(リドカイン+2%アドレナリン)を投与して局部麻酔した後,表皮〜皮下組織に至る直径10mmの全層欠損創を作成し,0.01gの上記製剤例1の粉末を、作成した全層欠損創に塗布し,さらに医療用創傷被覆材であるデュオアクティブで被覆した。
【0044】
(組織染色、ヘマトキシリン−エオシン(H-E)染色)
組織染色の方法は、創傷部位トリミング(切除)→ ホルマリンで固定 → 脱脂処理(キシレンに24時間浸漬する。) → 脱水処理する。
脱水処理は、70%エタノールに、12時間浸漬してエタノールを揮発除去し、80%エタノール、90%エタノール、および95.5%エタノールで、各30分ずつ脱水し、キシレンで2回洗浄する。
その後試料をパラフィンに包埋処理し → 切片を作成し → H-E染色を行った。
細胞核をヘマトキシリンで青紫色に染色し、細胞質、膠原線維、筋線維をエオジンで赤色に染色した。 → 染色後の試料をプレパラートに封入し、顕微鏡観察した結果を図5、6に示す。
【0045】
創傷被覆材で被覆後、1週間後の治癒部位の観察結果(図2):製剤例1で得られた本発明の治療剤を塗布し創傷被覆材で被覆後、1週間後のサンプルでは,創傷部位に白色の組織が認められるが,本発明の治療剤を用いず医療用創傷被覆材であるデュオアクティブで被覆したのみのコントロールでは腹膜が明瞭に確認され、傷が治癒していない。
創傷被覆材で被覆後、2週後の治癒部位の観察結果(図3):製剤例1で得られた本発明の治療剤を塗布し創傷被覆材で被覆後、2週間後のサンプルでは、明らかに創傷部位の縮小が観察され,腹膜は認められない。これに対して,本発明の治療剤を用いないコントロールでは創傷部位の僅かな縮小が認められるが,腹膜が認められる未治癒部位も観察された。
【0046】
(再上皮化率の測定方法)
創傷作製時および治療後の皮膚を拡大して撮影して創傷作製時の初期創傷部位を測定して実線で、1週間後および2週間後の写真に記入し、初期創傷部位W0の面積を測定し、治療後の未治癒部位(Wt)の面積をImage J[ウエブで公開されているオープンソース;Wayne Rasband(NIH)]で測定して、測定した面積を下記式を用いて再上皮化率を%で算出する。図2および図3に示す治療後の再上皮化率をコントロールと共に表2および図4に示した。
再上皮化率(%)=(W0−Wt)/W0 × 100%
【0047】
【表2】
【0048】
表2、図4に示す結果から、本発明例(サンプル)の2週間後の再上皮化率は比較例(コントロール)の約1.9倍であった。
再上皮化率:2週間後の比較例と本発明例との再上皮化率の異なった分散を持つ2群のデータのt-検定を行った。4つの創傷から3つを抽出して行ったところエラーバーが比較的大きいため有意差は認められなかったが,4つの創傷から計算すると本発明例の有意差が認められた。なお、再上皮化率の算出において,コントロールの白色の組織は未治癒領域として評価した。
4つの創傷からの計算を,表3に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
図5図6は、1週間および2週間経過後の組織学的観察結果を示す皮膚断面の顕微鏡写真である。図5,6の上図は全体図で、倍率36倍であり、図5,6の下図は上図に示す位置の拡大図であり倍率360倍である。
図5は上図に示す創傷作成位置の本発明例の1週間後の治癒の状態を示し、その拡大図を下図に示す。図6の上図は創傷作成位置2,3を示し、下図は、上図に示す創傷作成位置の創傷作成位置2、創傷作成位置3の2週間後の組織学的評価を示す顕微鏡写真である。創傷作成位置以外の、位置1、位置4、位置5の組織学的評価を示す顕微鏡写真を合わせて示し、創傷の治癒状態の進行状況を正常皮膚の状態と比較した。
[1週後の組織観察(図5)]:本発明の治療剤を塗布した場合,コラーゲン,繊維芽細胞やマクロファージが認められたことから増殖期であると考えられる。また,白色組織は肉芽組織と考えられるので,再上皮化率の計算で白色組織が治癒した組織と判断すると,本発明の治療剤は極めて高い皮膚再生能力を示していると判断できた。
[2週後の組織観察(図6)]:炎症性細胞の浸潤がなく、肉芽組織(毛細血管とコラーゲン繊維の形成)が 観察されたため増殖期の段階であると判断できた。
これらの結果から,シモンコーライトを含む本発明の治療剤は、有効な創傷治療材料であることが明らかとなった。炎症を引き起こすことなく、皮膚の再生または毛根の再生が行えると考えられる。したがって本発明の治療剤は、表皮をへて真皮に達しない皮膚創傷または皮膚荒れの治療効果がある、表皮をへて真皮に至る皮膚創傷または皮膚荒れに治療効果がある、または、表皮をへて真皮に至る皮膚全層欠損の皮膚創傷または皮膚荒れに治療効果がある。このことから、本発明の治療剤は実施例で示す皮膚創傷のみならず重篤な肌荒れに起因する同様な傷に対しても治癒効果がある。
【0051】
(実施例2)
実施例1と同様に全層欠損創を作成し,製剤例2の各粉末を、作製した全層欠損創にそれぞれ塗布し,さらに医療用創傷被覆材であるデュオアクティブで被覆する。再上皮化率が80〜90%の間であり、製造条件でpHが6.0〜7.5未満の範囲内で得られた本発明の治療剤が治癒効果に優れている。
【0052】
下記表4に、溶出試験後のpHと2週間後の創傷治癒効果(再上皮化率、コラーゲンの再生、毛球の再生、肉芽の形成)を評価した結果を示す。
【0053】
【表4】
【0054】
表4の評価方法は、再上皮化率はコントロールを1とする上記測定方法による評価である。コラーゲンは、太いコラーゲン繊維が一方向に延びている様子を観察した。毛球について、毛球が確認できるかの観察結果である。肉芽形成は、毛細血管、繊維芽細胞で構成される組織が観察されるか否かの評価である。
コラーゲン:コラーゲンについては、健全な皮膚細胞と比較して、コラーゲン繊維の太さと配向性を評価した。
コラーゲン:コラーゲンについては、健全な皮膚細胞と比較して、コラーゲン繊維の太さと配向性を指標とした。
コラーゲン太さ:×:かなり細い
△:細い
○:やや劣る
◎:同程度
コラーゲン配向性:×:乱雑
△:かなり劣る
○:やや劣る
◎:同程度
毛球: ×:毛球の形成はない。
○△:毛球の形成はわずか。
○:毛球が形成されている。
◎:毛球の形成が顕著に認められる。
肉芽形成:○△:肉芽の形成がわずか。
○:肉芽が認められる。
◎:肉芽が顕著に認められる。
【0055】
表4には比較として、コントロールの結果も合わせて示した。本発明品のシモンコーライトは、再上皮化の度合いでコントールを上回るだけでなく、再生された組織においては、特にコラーゲンの外観においては、健全な皮膚組織と同等に回復しており、効果は大きいことが分かる。
このように、本発明品は有機系の市販の創傷被覆材に対し、本発明の治療剤である無機系の材料を用いて、有機系・無機系の材料のハイブリッド化することで大きな相乗効果が得られ、創傷治癒能が大幅に向上するものと考えられる。
【0056】
(試験結果の評価)
上記の各種試験結果から、以下のような整理ができる。創傷治癒においてpHが8以上の値で炎症反応を生じるため,創傷治癒剤はpHが中性〜8の範囲が適している。合成時のpHに対する溶出試験後のpHを見ると(図7および図8)、至適pHを越す合成時のpHは7.5のみであり,創傷治癒過程で重要な役割を果たすZn2+イオン溶出も少ない。この結果は,合成時のpHが7.5の場合,MMPsの活性部位にZn2+イオンが結合しないため,細胞外マトリックスの破壊が生じないことによって創傷治癒過程での細胞遊走が促進されず,創傷の治癒が促進しないことを示している。合成時のpHが7.5前後の領域以外のときには,至適pH範囲内であること,Zn2+イオン溶出も多いことから,創傷治癒は少なからず促進する。表4に示すように,ラットの創傷治癒評価は,上記の考察を満足させるものである。特に,亜鉛イオンの溶出が高い合成時pH7のときには,至適pH内であり,創傷治癒が顕著であることが実験的に明らかとなっている。なお合成時のpHが7.5前後の領域において、溶出挙動が特異的な挙動を示す理由としては、シモンコーライト単相としての回収率が単純に向上するpH7まで、およびpHが8以上でシモンコーライト以外のZn(OH)のような水酸化物相が支配的になっていく過程との間の過渡期であることが原因と推定しているが、現時点では詳細は明らかとなっていない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の治療剤は、表皮をへて真皮に至る皮膚創傷または皮膚荒れに治療効果がある。
したがって、そのような重篤な創傷または肌荒ればかりではなく、大小の種々の傷または肌荒れに対して、治療効果があり、広く傷薬として用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8