【実施例1】
【0016】
図1〜
図4は、本発明による移動車両用遮音装置の第1の実施形態を示す図であって、それぞれ斜視図、正面図、左側面図及び右側面図である。軌道上を走行する鉄道車両のような移動車両は複数の車両を連結して編成をなしており、複数の車両のうち特定の車両の屋根3上に屋根上設置機器の一つである集電装置を設置している。
図1〜
図4に示すように、移動車両の屋根3上には集電装置が設置される。集電装置は、主に車両の屋根3に固定した碍子6、碍子6に支持された台枠4、架線に接触して架線から集電を行う集電用舟体5、当該集電用舟体5を先端で軸支するアーム7、及びヒンジ8a,8bから構成されている。アーム7は、台枠4に対して車体幅方向と平行な回動軸線を持つヒンジ8aによって軸支されており、ヒンジ8aとアーム7の中間関節部に設けられたヒンジ8bとの関節機能によって、下方へ折り畳んで集電用舟体5を非作動位置に納めることができ、又は上方へ跳ね上げて集電位置を取ることができる。
【0017】
碍子6は車体幅方向の中心位置から片方に向かって所定の距離オフセットした位置にあるが、それに対応して集電用舟体5の左右中心位置並びにアーム7及びヒンジ8a,8bの配設位置は車体幅方向のほぼ中心位置にある。なお、集電装置の集電用舟体5は、同じ編成列車の別の集電装置に対して電気的に接続されている。したがって、集電用舟体5を非作動位置に納めた状態でも、当該別の集電装置が集電していれば、集電用舟体5は当該別の集電装置の集電用舟体と同じ電位に帯電している。
【0018】
車両の屋根3上には、集電装置を車体幅方向に挟んで対向する位置に遮音体が設置される。遮音体は、集電装置の車両進行方向左側においては、主となる遮音体1L及びこれより背の低い遮音体2Lから構成されている。遮音体1L及び遮音体2Lは車体幅方向の同じ位置に配置されており、車体長手方向に連続した壁体が分割されて配置されている。一方、集電装置の車両進行方向右側においては、遮音体は、背の高い主となる遮音体1Rと背の低い遮音体2Rとから構成されている。遮音体1R及び遮音体2Rは車体幅方向の同じ位置に配置されており、車体長手方向に連続した壁体が分割されて配置されている。
【0019】
車両進行方向の一方の碍子6に対向する部分に遮音体1Lが設けられ、また、別の碍子6に対向する部分に遮音体1Rが設けられている。これら遮音体1L及び遮音体1Rは、車両進行方向に沿って山形に形成された壁体であり、その頂上部までの高さは、ほぼ碍子6の高さ寸法と同等の高さとなっている。そして、車体長手方向の並びは遮音体1L及び遮音体2Lと逆になっており、遮音体1Lと遮音体1Rとは、側面から見て、車両進行方向に重複しない、云い代えれば車両進行方向に実質的に重なることなく設置されている。側面から見るとき、遮音体1Lは遮音体2Rと対向し、遮音体1Rは遮音体2Lと対向して配置されている。
【0020】
上記構成の遮音装置を設置した車両が走行すると、走行風により、屋根上機器の一つである集電装置の舟体5、碍子6、アーム7などから騒音が発生するが、本遮音体の構成によってこれら騒音の遮音が図られている。即ち、車両が移動することによって集電装置の騒音源が車両進行方向に対して相対的に後方へ移動するが、遮音体1Lと遮音体1Rの互い違いの設置により、例えば左側に設置した遮音体1Lが右側に設置した遮音体1Rに対して車両進行方向の後方へ変位しているので、集電用舟体5,集電装置碍子6,集電装置アーム7からの騒音を、車両進行方向に対して左側にいる騒音の観測者(あるいは居住地域)に対して効率良く遮音することができる。また、ほぼ碍子6の高さ程度の高さの山形の遮音体1Lと遮音体1Rを互い違いに設置したことにより、アーム7が折り畳まれて非集電位置を占める集電用舟体5に対して遮音体1Lと遮音体1Rは山形の裾近傍が対向することになるので、切欠きを設けることなく十分に絶縁距離を確保することができる。また、同程度の高さの遮音体1Lと遮音体1Rを互い違いに設置することで、遮音体1Lと遮音体1R間での流速の増加が起こらず、集電装置からの空力騒音の増加を防ぐことができると共に、遮音体1Lと遮音体1Rを在来線の車両限界範囲内に納めることができ、更に、走行風に曝される部分が相対的に小さくなり、遮音体1Lと遮音体1Rから発生する空力騒音を小さく抑えることができる。以上より本実施の形態によれば、構成が単純な遮音体1Lと遮音体1Rの設置により、遮音効果を高めることができると共に、在来線区間の車両限界範囲内における最大高さの遮音体を用いても絶縁距離を確保することができ、かつ遮音効果を得ることができる。
【0021】
図1〜
図2に特に示すように、車体幅方向一側(左側)において屋根3上に設けられた背の低い遮音体2Lは、車両の幅方向外側に枝分かれした遮音体1LBを備えている。
このときの遮音体の配置関係については、
図2に示すように、立設された遮音体1L,2L(図中では位置関係から図示されず)と、遮音体2Lから車体両幅方向外側に枝分かれした遮音体1LBとの配置となっている。また、車体幅方向他側(右側)において屋根3上に設けられた背の低い遮音体2Rは、車体幅方向外側に枝分かれした遮音体1RB1及び幅方向内側に枝分かれした遮音体1RB2を備えている。このときの遮音体の配置関係については、
図2に示すように、立設する遮音体1R及び遮音体2Rと、遮音体2Rから枝分かれした遮音体1RB1及び遮音体1RB2との配置となっている。
【0022】
図3には本構成を左から見た図を示す。集電装置の左側に設置される遮音体は、背の高い遮音体1L及び背の低い遮音体2L、並びに遮音体2Lから枝分かれした遮音体1LBから構成されている。立設した遮音体1L及び遮音体2Lに対して枝分かれ遮音体1LBは側方から見てその一部が重なるように配置されている。
【0023】
図4には本構成を右から見た図を示す。集電装置右側に設置される遮音体は、背の高い遮音体1R及び背の低い遮音体2R、並びに遮音体2Rから外側に枝分かれした遮音体1RB1及び内側に枝分かれした遮音体1RB2から構成される。枝分かれした遮音体1RB1及び遮音体1RB2は、それぞれ立設した遮音体1R及び遮音体2Rに対して、側方から見て一部の面積が重なるように配置されている。
【0024】
枝分かれした遮音体1LB、1RB1及び遮音体1RB2は、それぞれ遮音体2L、遮音体2Rの上辺から斜め上方に向かって延びている。また、
図1及び
図3に示すように、遮音体2Lから枝分かれした遮音体1LBは、遮音体1Lの長手方向中程の位置にまでに跨がって車体長手方向に延びている。また、
図1及び
図4に示すように、遮音体2Rから枝分かれした遮音体1RB1は、遮音体1Rの長手方向中程の位置にまで跨がって車体長手方向に延びている。主遮音体と、枝分かれした遮音体を持つ遮音体により、集電装置とその周辺から発生した空力騒音は、その直接音を遮るとともに、反射音や回折音についても、屋根3の上から車体外側に伝播するのを効果的に妨げて、遮音を向上させることができる。
【0025】
枝分かれした遮音体1LB、遮音体1RB1及び遮音体1RB2は在来線区間における車両限界及び集電装置の絶縁離隔に干渉しない位置に配置される。集電装置が車両中心に対して
図2に示すような左寄りに設置されるため、左側の遮音体では集電装置の絶縁離隔の関係から、遮音体2Rに内側に枝分かれする遮音体を設けることはできないこともあるが、車両限界及び集電装置の絶縁離隔の観点から余裕があれば内側に設けてもよく、車体幅方向両側に設けてもよい。また、右側の遮音体から枝分かれする遮音体1RB1又は1RB2についても、どちらか片方だけでも効果が認められる。なお、実測結果からすると、車体幅方向外側に設けるときの遮音効果が大きいことが認められる。更に、枝分かれする遮音体については、背の低い遮音体に設け、背の高い遮音体に途中まで延びる例を示したが、背の高い遮音体の全長まで延ばしても良い。
【0026】
本実施例は、このような構成とすることで、構成が簡単で遮音効果が高く、在来線区間の車両限界範囲内に収まり、遮音体と集電装置との間に絶縁離隔を十分に確保することができる。また、遮音体(遮音壁) のみを設置することで、車体断面積を増加させることなく、集電装置やその他の屋根上に設置される機器の騒音の遮音効果を得ることができる。また、在来線区間での車両限界範囲を考慮して、遮音体の高さは従来の遮音体に比べて低く設定されている。また、遮音体と集電装置のホーンや碍子との間での地絡を防止するために、遮音体と集電装置と間にも絶縁離隔が確保されている。更に、枝分かれした遮音体によって、直接音のみならず、対向する遮音体からの反射音や遮音体を回り込む回折音についても車両外側へ伝播するのを抑制することができる。
【実施例2】
【0027】
本発明の実施例2を
図5〜
図8を用いて説明する。
図5〜
図8は、本発明による移動車両用遮音装置の実施例2を示す図であって、それぞれ斜視図、正面図、左側面図及び右側面図である。実施例2は、実施例1と同等の機能を奏する部材については同じ符号を付すことで再度の詳細な説明を省略する。本実施例2においても、移動車両の屋根3には、設置された集電装置を挟んで対向する形で遮音体が設置される。車体幅方向一側(左側)においては、屋根3上に主となる遮音体1L及びこれより背の低い遮音体2Lが実施例1と同様の形態で配設されるが、遮音体2Lには枝分かれする遮音体が設けられていない。一方、車体幅方向他側(右側)においては、屋根3上に主となる遮音体1R及びこれより背の低い遮音体2Rが実施例1と同様の形態で配設されるが、遮音体2Rには枝分かれする遮音体が設けられていない。
【0028】
図6には本実施例の正面図を示す。
図6にも示されているように、遮音体は集電装置を挟んで車体幅方向両側に設置される。本実施例では、車体幅方向他側(右側)において、遮音体1R及び遮音体2R(
図6には図示されず)と集電装置との間に副遮音体9が配設されている。副遮音体9は、遮音体1Rの高さよりも低いが遮音体2Rの高さよりも高いほぼ碍子6の高さを有していて、全体的な形状としては遮音体1Rと同様な山形形状を有している。遮音体1R及び遮音体2Rの後流の影響を受ける位置に副遮音体9を設置すると、空力騒音が発生するため、副遮音体9は、遮音体2Rの車体幅方向内側の位置に、遮音体2Rと平行ではあるが、遮音体1R及び遮音体2Rの車体幅方向厚さに対して2倍程度の間隔(ΔL1)を保って設置されている。本実施例の構成では、集電装置が車両中心に対して左側にオフセットして設置されているため、副遮音体9の設置位置は集電装置の高電圧部に対して絶縁離隔を確保した位置となっている。一方、集電装置と遮音体1L及び遮音体2Lの間では、アーム7を折り畳んだ状態で集電用舟体5との絶縁離隔の関係から、副遮音体を設置することはできない。
【0029】
図7には本構成を左から見た図を、
図8には本構成を右から見た図を示す。特に
図8に示すように、副遮音体9は、右側の遮音体1R及び遮音体2Rに対してずれた位置に配置され、このとき側方からみて遮音体1R及び遮音体2Rに対して副遮音体9はその一部面積が重なるように配置される。遮音体1Rと副遮音体9とが車体長手方向に重なる範囲がΔL2で示されている。この範囲ΔL2は、遮音体1Rと副遮音体9との山形状の裾部分での重なりであるので、高さは低くなっており、アーム7を折り畳んだときの集電用舟体5に対して絶縁離隔を確保することができる。
【実施例3】
【0030】
本発明の実施例3を
図9〜
図12を用いて説明する。
図9〜
図12は、本発明による移動車両用遮音装置の実施例3を示す図であって、それぞれ斜視図、正面図、左側面図及び右側面図である。実施例3は、実施例1と同等の機能を奏する部材については同じ符号を付すことで再度の詳細な説明を省略する。本実施例3においても、移動車両の屋根3には、設置された集電装置を挟んで対向する形で遮音体が設置される。本実施例3においては、
図9に示すように、左側の遮音体1L及び遮音体2Lの車体幅方向外側に副遮音体10Lが配設されており、右側の遮音体1R及び遮音体2Rの車体幅方向外側に副遮音体10Rが配設されている。
【0031】
図10には本構成の正面図を示す。
図10にも示すように、遮音体1R,2R及び遮音体1L,2Lは集電装置を挟んで車体幅方向両側に設置される。本実施例では、集電装置の右側に設置される遮音体1R及び遮音体2Rの車体幅方向外側に副遮音体10Rが、一方、集電装置の左側に設置される遮音体1L及び遮音体2Lの外側に副遮音体10Lが設置される。副遮音体10L,10Rの高さレベルは、それぞれ、遮音体2Lや遮音体2Rの高さと同程度の高さレベルにあり、全体的な形状としては車体長手方向の両端が遮音体2Lや遮音体2Rの端部と同様な形状を有する低い山形形状を有している。実施例2の場合と同様に、遮音体と副遮音体の間隔が小さい場合には空力騒音が発生する可能性があるため、副遮音体10L,10Rは、遮音体2L,2Rの車体幅方向外側の位置に、遮音体2L,2Rと平行ではあるが、遮音体1R及び遮音体2Rの車体幅方向厚さに対しておおむね2倍程度の間隔を保って設置されている。副遮音体10L,10Rは、車体長手方向には、遮音体1L及び遮音体2Lの中程の位置に対応する位置まで、車体長手方向に延びている。副遮音体10L,10Rの設置位置は、遮音体1L,2L及び遮音体1R,2Rの車体幅方向外側に配設されているので、在来線区間での車両限界範囲内に納まるような形状に制限されているが、集電装置の高電圧部に対しては自ずと絶縁離隔を確保された位置となっている。
【0032】
図11には本構成を左から見た図を、
図12には本構成を右から見た図を示す。特に,
図11に示すように、副遮音体10Lは、左側の遮音体1L及び遮音体2Lに対して、側方から見ると概ね、遮音体1L及び遮音体2Lが遮蔽する範囲内に入っているが、
図12に示すように、副遮音体10Rは、右側の遮音体1R及び遮音体2Rに対しては、高さレベルが遮音体2Rのレベルよりも若干高くなっており、このとき側方からみて遮音体1R及び遮音体2Rが重なり合う裾部(実施例2の
図8に示す範囲ΔL2)の上方の開いたスペースを覆うように配置される。副遮音体10Rは、このスペースを通しての騒音漏れを防止するのに貢献する。副遮音体10Rは右側の遮音体1R及び遮音体2Rの車体幅方向外側に配置されているので、集電装置のアーム7を折り畳んだときの集電用舟体5に対して絶縁離隔を確保することができる。
【0033】
本発明は移動車両として、鉄道車両を例に採って説明したが、これに限ることなく、高速で走行して、集電装置等の屋根に設けた機器から騒音を出す車両に適用することができる。また、副遮音体9と副遮音体10L,10Rとについては区別して説明したが、スペース等の各制約が満たされるのであれば、両方の副遮音体を備えていてもよい。