特許第6185239号(P6185239)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6185239画像処理装置、画像処理方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6185239
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】画像処理装置、画像処理方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04N 1/46 20060101AFI20170814BHJP
   H04N 1/60 20060101ALI20170814BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   H04N1/46 Z
   H04N1/40 D
   G06T1/00 510
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-274550(P2012-274550)
(22)【出願日】2012年12月17日
(65)【公開番号】特開2014-120919(P2014-120919A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年11月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】512187343
【氏名又は名称】三星ディスプレイ株式會社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Display Co.,Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】高橋 盛毅
(72)【発明者】
【氏名】吉山 雅彦
【審査官】 大室 秀明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−218961(JP,A)
【文献】 特開2010−183232(JP,A)
【文献】 特開2005−192162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/52−2/525
G06T 1/00−1/40
G06T 3/00−5/50
G06T 9/00−9/40
H04N 1/40−1/409
H04N 1/46−1/48
H04N 1/52
H04N 1/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を示す入力信号をリニアな第1の色域の第1の画像データに変換する信号入力部と、
前記第1の画像データを、前記第1の色域よりも狭い第2の色域を表示するための第2の画像データに変換する色域変換部と、
前記入力信号から得られる色相及び彩度に基づいて前記第1の画像データと前記第2の画像データの合成比率を規定するブレンド係数を設定するブレンド係数設定部と、
前記第1の画像データと前記第2の画像データとを、設定された前記ブレンド係数に応じた比率で合成した合成画像データを生成する色合成部と
を有し、
前記ブレンド係数設定部は、前記色相及び前記彩度が肌色に相当する第1の色領域の範囲である場合には第1のブレンド係数を設定し、前記色相及び前記彩度が前記第1の色領域とは異なる第2の色領域の範囲である場合には前記第1のブレンド係数より前記第2の画像データの合成比率が小さくなる第2のブレンド係数を設定し、前記色相及び前記彩度が前記第1の色領域と前記第2の色領域との間の色領域の範囲である場合には、前記第1のブレンド係数と前記第2のブレンド係数との間の前記色相及び前記彩度に応じたブレンド係数を設定し、
前記彩度は、前記第1の色領域を決める第一の値と、前記第2の色領域を決める第二の値を含み、前記第一の値と前記第二の値は互いに異なる値であることを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記第1のブレンド係数は、前記合成画像データが前記第2の画像データとなるように規定するブレンド係数であることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記第2のブレンド係数は、前記合成画像データが前記第1の画像データとなるように規定するブレンド係数であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記ブレンド係数設定部は、
前記色相及び前記彩度が前記第1の色領域から前記第2の色領域にかけて変化すると、前記第1のブレンド係数から前記第2のブレンド係数に連続的に変化するように前記ブレンド係数を設定することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の画像処理装置。
【請求項5】
色相をH、彩度をSとしたときに、
前記第1の色領域は、0°≦H≦50°及びS≦S1(S1は0.6以上0.75以下のいずれかの値)の範囲であり、
前記第2の色領域は、70°≦H≦240°又はS≦S2(S2は0.8以上0.95以下のいずれかの値)の範囲であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の画像処理装置。
【請求項6】
画像を示す入力信号をリニアな第1の色域の第1の画像データに変換し、
前記第1の画像データを、前記第1の色域よりも狭い第2の色域を表示するための第2の画像データに変換し、
前記入力信号から得られる色相及び彩度に基づいて前記第1の画像データと前記第2の画像データの合成比率を規定するブレンド係数を設定し、
前記第1の画像データと前記第2の画像データとを、設定された前記ブレンド係数に応じた比率で合成した合成画像データを生成し、
前記ブレンド係数を設定するときには、前記色相及び前記彩度が肌色に相当する第1の色領域の範囲である場合には第1のブレンド係数を設定し、前記色相及び前記彩度が前記第1の色領域とは異なる第2の色領域の範囲である場合には前記第1のブレンド係数より前記第2の画像データの合成比率が小さくなる第2のブレンド係数を設定し、前記色相及
び前記彩度が前記第1の色領域と前記第2の色領域との間の色領域の範囲である場合には、前記第1のブレンド係数と前記第2のブレンド係数との間の前記色相及び前記彩度に応じたブレンド係数を設定し、
前記彩度は、前記第1の色領域を決める第一の値と、前記第2の色領域を決める第二の値を含み、前記第一の値と前記第二の値は互いに異なる値であることを特徴とする画像処理方法。
【請求項7】
コンピュータに、
画像を示す入力信号をリニアな第1の色域の第1の画像データに変換するステップと、
前記第1の画像データを、前記第1の色域よりも狭い第2の色域を表示するための第2の画像データに変換するステップと、
前記入力信号から得られる色相及び彩度に基づいて前記第1の画像データと前記第2の画像データの合成比率を規定するブレンド係数を設定するステップと、
前記第1の画像データと前記第2の画像データとを、設定された前記ブレンド係数に応じた比率で合成した合成画像データを生成するステップと
を実行させ、
前記ブレンド係数を設定するステップでは、前記色相及び前記彩度が肌色に相当する第1の色領域の範囲である場合には第1のブレンド係数を設定し、前記色相及び前記彩度が前記第1の色領域とは異なる第2の色領域の範囲である場合には前記第1のブレンド係数より前記第2の画像データの合成比率が小さくなる第2のブレンド係数を設定し、前記色相及び前記彩度が前記第1の色領域と前記第2の色領域との間の色領域の範囲である場合には、前記第1のブレンド係数と前記第2のブレンド係数との間の前記色相及び前記彩度に応じたブレンド係数を設定し、
前記彩度は、前記第1の色領域を決める第一の値と、前記第2の色領域を決める第二の値を含み、前記第一の値と前記第二の値は互いに異なる値であることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色域変換を行う画像処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ等の色表示技術の向上に伴って、ディスプレイの色再現領域が拡大している。特に、最近のLEDバックライトを用いた液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等では、従来のRGB規格より広い色再現領域を実現している。このような背景から、狭色域対応の信号を広色域ディスプレイに入力した場合に良好な表示をするための、狭色域から広色域への色域変換技術が重要になっている。
【0003】
例えば、Adobe(登録商標)RGB色空間を持つディスプレイでsRGB色空間を持つ画像をそのまま表示させた場合、明らかに異なった発色で表示される。これは、使用する色域の不一致が原因であり、狭い色域で作成された画像データを、広い色域のディスプレイで表示させたときに起こる現象である。
【0004】
そこで、異なる色域を持つデバイス間の色変換技術が必要となる。色変換技術として、入力データから色相(H)、彩度(S)、明度(V)の値を求め、その値に応じて入力データを色域変換したデータ値と入力データ値を合成して、出力データを生成する方法が開示されている(特許文献1、2)。
【0005】
この方法によれば、彩度(S)の値に応じてブレンド率を決定する場合に、肌色が濃くなりすぎないように、色相(H)が赤、黄色、マゼンダの範囲で、明度(V)が中位から高い範囲において、狭色域に変換したデータの比率を高くする方法が採用されている。具体的には、合成率をrで表したときr=0.5における彩度(S)の閾値を0.5から0.8の範囲に設定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−218961号公報
【特許文献2】特開2010−245709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の色変換技術によれば、肌色のように色味が変わると人(観察者)に違和感を与える色は、入力色データの色度点をできるだけ変位させないようにする必要があるとしつつも、どのようにすれば良いのか明らかにされていない問題があった。
【0008】
すなわち、肌色のような色彩を自然な色合いで表示するために、色相(H)、彩度(S)の値をどのように設定すれば良いか不明確であった。また、色相(H)が変化した場合の合成方法が明確にされていなかった。
【0009】
そのために、異なる色域を持つデバイス間で、肌色のような特定色を人に違和感なく表示させることが実現されていなかった。
【0010】
本発明の一実施形態は、広色域に変換しても肌色のような特定色の表示において違和感を与えにくくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態によると、画像を示す入力信号をリニアな第1の色域の第1の画像データに変換する信号入力部と、前記第1の画像データを、前記第1の色域よりも狭い第2の色域を表示するための第2の画像データに変換する色域変換部と、前記入力信号から得られる色相及び彩度に基づいて前記第1の画像データと前記第2の画像データの合成比率を規定するブレンド係数を設定するブレンド係数設定部と、前記第1の画像データと前記第2の画像データとを、設定された前記ブレンド係数に応じた比率で合成した合成画像データを生成する色合成部とを有し、前記ブレンド係数設定部は、前記色相及び前記彩度が肌色に相当する第1の色領域の範囲である場合には第1のブレンド係数を設定し、前記色相及び前記彩度が前記第1の色領域とは異なる第2の色領域の範囲である場合には前記第1のブレンド係数より前記第2の画像データの合成比率が小さくなる第2のブレンド係数を設定し、前記色相及び前記彩度が前記第1の色領域と前記第2の色領域との間の色領域の範囲である場合には、前記第1のブレンド係数と前記第2のブレンド係数との間の前記色相及び前記彩度に応じたブレンド係数を設定することを特徴とする画像処理装置が提供される。
【0012】
この画像処理装置によれば、広色域の画像出力装置に表示しても肌色のような特定色の表示において違和感を与えにくくすることができる。
【0013】
別の好ましい態様において、前記第1のブレンド係数は、前記合成画像データが前記第2の画像データとなるように規定するブレンド係数であってもよい。
【0014】
この画像処理装置によれば、肌色領域の表示における違和感をより少なくすることができる。
【0015】
別の好ましい態様において、前記第2のブレンド係数は、前記合成画像データが前記第1の画像データとなるように規定するブレンド係数であってもよい。
【0016】
この画像処理装置によれば、肌色以外の色領域の色域を効果的に広げることができる。
【0017】
別の好ましい態様において、前記ブレンド係数設定部は、前記色相及び前記彩度が前記第1の色領域から前記第2の色領域にかけて変化すると、前記第1のブレンド係数から前記第2のブレンド係数に連続的に変化するように前記ブレンド係数を設定してもよい。
【0018】
この画像処理装置によれば、肌色領域とその他の色領域との間の色領域の表示における違和感をより少なくすることができる。
【0019】
別の好ましい態様において、色相をH、彩度をSとしたときに、前記第1の色領域は、0°≦H≦50°及びS≦S1(S1は0.6以上0.75以下のいずれかの値)の範囲であり、前記第2の色領域は、70°≦H≦240°又はS≦S2(S2は0.8以上0.95以下のいずれかの値)の範囲であってもよい。
【0020】
この画像処理装置によれば、肌色領域とそれ以外の色領域とを明確に設定することができる。
【0021】
本発明の一実施形態によると、画像を示す入力信号をリニアな第1の色域の第1の画像データに変換し、前記第1の画像データを、前記第1の色域よりも狭い第2の色域を表示するための第2の画像データに変換し、前記入力信号から得られる色相及び彩度に基づいて前記第1の画像データと前記第2の画像データの合成比率を規定するブレンド係数を設定し、前記第1の画像データと前記第2の画像データとを、設定された前記ブレンド係数に応じた比率で合成した合成画像データを生成し、前記ブレンド係数を設定するときには、前記色相及び前記彩度が肌色に相当する第1の色領域の範囲である場合には第1のブレンド係数を設定し、前記色相及び前記彩度が前記第1の色領域とは異なる第2の色領域の範囲である場合には前記第1のブレンド係数より前記第2の画像データの合成比率が小さくなる第2のブレンド係数を設定し、前記色相及び前記彩度が前記第1の色領域と前記第2の色領域との間の色領域の範囲である場合には、前記第1のブレンド係数と前記第2のブレンド係数との間の前記色相及び前記彩度に応じたブレンド係数を設定することを特徴とする画像処理方法が提供される。
【0022】
この画像処理方法によれば、広色域の画像出力装置に表示しても肌色のような特定色の表示において違和感を与えにくくすることができる。
【0023】
本発明の一実施形態によると、コンピュータに、画像を示す入力信号をリニアな第1の色域の第1の画像データに変換するステップと、前記第1の画像データを、前記第1の色域よりも広い第2の色域の第2の画像データに変換するステップと、前記入力信号から得られる色相及び彩度に基づいて前記第1の画像データと前記第2の画像データの合成比率を規定するブレンド係数を設定するステップと、前記第1の画像データと前記第2の画像データとを、設定された前記ブレンド係数に応じた比率で合成した合成画像データを生成するステップとを実行させ、前記ブレンド係数を設定するステップでは、前記色相及び前記彩度が肌色に相当する第1の色領域の範囲である場合には第1のブレンド係数を設定し、前記色相及び前記彩度が前記第1の色領域とは異なる第2の色領域の範囲である場合には前記第1のブレンド係数より前記第2の画像データの合成比率が少なくなる第2のブレンド係数を設定し、前記色相及び前記彩度が前記第1の色領域と前記第2の色領域との間の色領域の範囲である場合には、前記第1のブレンド係数と前記第2のブレンド係数との間の前記色相及び前記彩度に応じたブレンド係数を設定することを特徴とするプログラムが提供される。
【0024】
このプログラムによれば、広色域の画像出力装置に表示しても肌色のような特定色の表示において違和感を与えにくくすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、異なる色域の画像出力装置に表示しても肌色のような特定色の表示において違和感を与えにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係る画像処理装置の構成を示すブロック図。
図2】Adobe RGBとsRGBの色域の違いを示すグラフ。
図3】0°≦H≦50°における彩度(S)とブレンド係数αの関係を示すグラフ。
図4】色相(H)に対するブレンド係数αの値を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を、図面等を参照しながら説明する。但し、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に例示する実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0028】
<画像処理装置について>
図1は本発明の実施形態に係る画像処理装置の構成を示すブロック図を示す。この画像処理装置は、信号入力部100と、色域変換部と102と、ブレンド係数設定部(α設定部)104と、合成部106と、信号出力部108とから構成されている。
【0029】
信号入力部100は、画像を示す信号(入力信号Rin,Gin,Bin)が入力される。信号入力部100は、この入力信号Rin,Gin,Binを0〜1に規格化する。さらに、規格化した後の信号にべき乗変換を行って、リニアな画像データVr,Vg,Vbを生成する。例えば、入力信号がsRGBの規格である場合、そのガンマ(γ)値は2.2なので、2.2をべき乗してリニアな画像データVr,Vg,Vbを生成する。
【0030】
色域変換部102は、変換マトリクスを用いて、信号入力部100で生成された画像データVr,Vg,Vbをより広色域のディスプレイにおいて、狭色域表示をするための画像データに変換する。例えば、Adobe RGB色域のディスプレイにおいてsRGB色域表示をする場合があるが、これに限られない。色域変換部102は、変換マトリクスを用いて、広色域のディスプレイにおいて狭色域表示をするための計算を行う。すなわち、色域変換部102は、信号入力部100で生成された画像データを、この画像データの色域よりも狭い色域を表示するための画像データに変換する。そして、色変換後の画像データVr’,Vg’,Vb’を生成する。
【0031】
ブレンド係数設定部104は、入力信号Rin,Gin,Binから得られる色相(H)と彩度(S)に基づいて、ブレンド係数αを設定する。ブレンド係数αは、合成部106で合成される画像データVr,Vg,Vbと画像データVr’,Vg’,Vb’との合成比率を規定する。この例では、合成比率は、ブレンド係数αが1であれば、画像データVr’,Vg’,Vb’が100%であり、ブレンド係数αが0であれば、画像データVr,Vg,Vbが100%である。ブレンド係数設定部104は、入力信号Rin,Gin,Binから得られる色相(H)と彩度(S)が肌色に相当する肌色領域である場合にはブレンド係数αを1に設定し、その他の色領域(肌色領域を含まない色領域)である場合にはブレンド係数αを1未満の値、例えば0に設定する。また、ブレンド係数設定部104は、肌色領域と、その他の色領域との間の色領域である場合には、入力信号Rin,Gin,Binから得られる色相(H)と彩度(S)に応じてブレンド係数αを設定する。このとき、入力信号Rin,Gin,Binから得られる色相(H)と彩度(S)が肌色領域からその他の色領域にかけて変化すると、ブレンド係数αは連続的に変化するように設定される。
【0032】
合成部106は、信号入力部100で生成された画像データVr,Vg,Vbと色域変換部102で生成された画像データVr’,Vg’,Vb’をブレンド係数設定部104で設定されたブレンド係数αに応じた合成比率で合成する。ここでは、肌色など色味が変わると人に違和感を生じる色はできるだけ狭色域表示がされるようにし、肌色の色領域以外については広色域表示ができるように合成する。そして、合成部106は、合成された画像データVrb,Vgb,Vbbを生成する。
【0033】
信号出力部108では、合成後の画像信号Vrb,Vgb,Vbbをべき乗変換し、出力信号Rin,Gin,Binを生成する。例えば、1/2.2のべき乗変換を行い、必要ビット数のRout,Gout,Boutを生成する。出力信号Rout,Gout,Boutの出力先はディスプレイ、プロジェクターあるいはプリンターなどの画像出力装置である。
【0034】
図1で示す画像処理装置では、ブレンド係数設定部104を設けることにより、狭い色域の画像データを広い色域を持つデバイスに出力しても自然な色合いで画像を表示させることができる。次に、このような画像処理の詳細を説明する。
【0035】
<画像処理方法について>
まず、入力信号Rin,Gin,Binを0〜1に規格化した後、γ=2.2のべき乗変換により、Vr,Vg,Vbを算出する。8ビットを仮定した場合は以下の式(1)の通りとなる。
【0036】
【数1】
【0037】
sRGBのガンマ(γ)は2.2なので、入ってきたRGBの画像データを8ビットのレベル幅(255)で除算して規格化(0.0〜1.0の値に)した後、2.2をべき乗することで画像データVr,Vg,Vbはリニア(線形)な値となる。
【0038】
次に、画像データVr,Vg,Vbから色変換後の画像データVr’,Vg’,Vb’を算出する。ここで、広色域のディスプレイにおいて、狭色域表示をするための変換マトリクス[Mc]は、式(2)、(3)により求める。
【0039】
【数2】
【0040】
ここで、[Mnc]は狭色域の変換マトリクス、[Mwc]は広色域の変換マトリクス、[Mc]=[Mwc]‐1[Mnc]である。
【0041】
例えば、広色域をAdobe RGB、狭色域をsRGBとした場合の例を説明する。表1は、Adobe RGBとsRGBのCIE xy座標値を示し、それをCIE xy色度図にプロットしたものを図2に示す。ここで、白色(W)は同じD65である。図2から明らかな通りAdobe RGBはsRGBと比べて広い色域を有しており、RGBの中では特に緑が広がっている。
【0042】
【表1】
【0043】
また、Adobe RGBとsRGBの変換マトリクス及び式(3)における[Mc]の値を表2〜4に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
【表4】
【0047】
上記で得られた画像データVr,Vg,Vbと画像データVr’,Vg’,Vb’とを、ブレンド係数αを用いてブレンドし、合成画像データVrb,Vgb,Vbbを生成する。合成画像データVrb,Vgb,Vbbは、式(4)〜(6)で求める。なお、ブレンド係数αの詳細については後述する。
【0048】
【数3】
【0049】
合成画像データVrb,Vgb,Vbbのべき乗変換を行い、必要なビット数に応じた出力信号Rout,Gout,Boutに変換する。例えば、1/2.2のべき乗変換を行い、必要ビット数のRout,Gout,Boutを生成する。8ビットを仮定した場合は以下の式(7)の通りとなる。
【0050】
【数4】
【0051】
<ブレンド係数について>
ブレンド係数αは、入力信号Rin,Gin,Binから得られる色相(H)と彩度(S)に基づいて設定される。肌色領域とその他の色領域(肌色領域を含まない色領域)とはそれぞれ、色相(H)と彩度(S)の範囲から設定されている。入力信号Rin,Gin,Binから得られる色相(H)と彩度(S)が肌色領域である場合、又はその他の色領域である場合には、ブレンド係数αは固定されている。また、肌色領域と、その他の色領域との間の色領域についてはブレンド係数αが連続的に変化するように設定する。肌色領域及びその他の色領域の色相(H)と彩度(S)の範囲を例示すると次の通りである。
【0052】
(1)肌色領域
0°≦H≦50° 及び S≦S1(S1=0.6〜0.75)
ブレンド係数α=1(狭色域表示)
(2)その他の色領域
70°≦H≦340° 又は S≧S2(S2=0.8〜0.95)
ブレンド係数α=0(広色域表示)
【0053】
上記において、S1は肌色領域を決めるS値であり、S2はその他の色領域を決めるS値であり、両者は異なった値をとる。すなわち、S2は1よりも小さい値をとり、S1はS2以下の値をとる。しかし、S1とS2はあまり離れた値をとることは色再現上好ましくなくある程度近接した値で設定することが好ましい。このように色相及び彩度の範囲を規定することで、肌色領域とそれ以外の色領域とを明確に設定することができる。S1とS2の値は適宜設定されるものであるが、この両者の値を大きくとるということは、狭色域への色変換が強まるということである。
【0054】
なお、肌色領域とその他の色領域は、上記範囲に限定されるものではなく、色相、彩度、明度から勘案して肌色領域と認識し得る範囲であれば、実施者が適宜することも可能である。
【0055】
上記で示したように、肌色領域のブレンド係数αを1としたとき、その他の色領域のブレンド係数を1未満の値に設定する。特に、その他の色領域のブレンド係数を1未満の一定の値であって、例えば0に設定することが好ましい。このようにブレンド係数を設定することで、肌色領域については狭色域表示とし、それ以外の色領域については広色域表示をすることができる。
【0056】
なお、入力信号のRGBデータから色相(H)、彩度(S)、明度(V)は式(8)〜(10)により求められる。
【0057】
【数5】
【0058】
例えば、sRGBの画像データをAdobe RGBで表示させる場合、肌色を違和感なく表示させるためには、S1を0.6以上0.75以下の範囲で設定し、S2を0.8以上0.95以下の範囲で設定することが好ましい。S1とS2の組み合わせの一例は、S1=0.6とした場合にS2=0.8(ブレンド係数α=0.5のときS=0.7)と設定し、S1=0.75とした場合にS2=0.95(ブレンド係数α=0.5のときのS=0.85)と設定することである。具体的に、sRGBからAdobe RGBへの変換の場合にはS1=0.75に設定し、S2=0.95に設定することが好ましい。
【0059】
ブレンド係数αは、彩度を決めるS値がS1以下の場合α=1とし、S2以上の場合αは1未満の一定値(例えば、α=0)と設定する。S1とS2は異なる値をとるため、S1とS2の間の色領域についてはブレンド係数αが連続的に変化するように設定する。例えば、S値がS1より大きく、S2よりも小さい領域では式(11)に従ってブレンド係数αを設定する。
【0060】
【数6】
【0061】
図3は、0°≦H≦50°における彩度(S)とブレンド係数αの関係を示すグラフである。図3で示すグラフは、ブレンド係数α=1のとき狭色域表示をし、α=0のとき広色域表示をする場合を示している。そして、S1=0.6としS2=0.8とした場合、あるいはS1=0.75としS2=0.95とした場合に、S1とS2の間でブレンド係数αが連続的に変化することを示している。
【0062】
図4は、色相(H)に対するブレンド係数αの値を示す。肌色領域とその他の色領域とにおいてはブレンド係数αの値は一定の値をとるが、その両者の間の色領域においては、色相(H)の値の変化に応じてブレンド係数αは連続的に変化するように設定されている。肌色領域とその他の色領域との間の色領域におけるブレンド係数を連続的に変化させることで、該当する領域の合成比率を連続的に変化させることができる。
【0063】
例えば、色相(H)との関係において肌色領域とその他の色領域との間の領域におけるブレンド係数αは式(12)、(13)で設定する。
【0064】
【数7】
【0065】
図4では、色相(H)が、50°<H<70°の範囲において、ブレンド係数αが0よりも大きい値をとる場合、ブレンド係数αは連続的に変化することを示している。また、340°<H<360°の範囲においても同様である。
【0066】
このように、肌色領域とその他の色領域とを色相と彩度の範囲によって規定して、それぞれの領域に対応したブレンド係数を設定することで、ブレンド係数の設定方法を具体化することができる。ブレンド係数の設定方法が明確になり、肌色付近について、従来の色域と同様な表示を実現するとともに、それ以外の色域については広色域ディスプレイ特有の飽和度の高い色表示を実現できる。
【0067】
特に、肌色領域において、狭色域に変換される領域を広くすることにより、彩度(S)の値が大きくなるような(明度(V)の値が低い)肌色(具体的には、陰になった肌色の部分、日焼けした肌の色、褐色の肌色)において自然な色合いの肌色を表示できる。
【0068】
また、肌色の色領域以外の色領域で完全に広色域に変換することによって、広い範囲において、広色域ディスプレイ特有の飽和度の高い色表示を実現できる。
【0069】
<画像処理プログラムについて>
本実施の形態で示す画像処理方法は、プログラムとしてコンピュータ等の機器に読み込ませ、あるいは機器に組み込んでCPUに実行させることができる。かかるプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されていることもあり、また通信ネットワークを通じて提供することも可能である。
【符号の説明】
【0070】
100…信号入力部、102…色域変換部、104…ブレンド係数設定部、106…色合成部、108…信号出力部

図1
図2
図3
図4