特許第6185240号(P6185240)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6185240AQCおよび金属ナノ粒子の組合せにより得られる導電性インク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6185240
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】AQCおよび金属ナノ粒子の組合せにより得られる導電性インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/02 20140101AFI20170814BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   C09D11/02
   B41M5/00 120
【請求項の数】17
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-540465(P2012-540465)
(86)(22)【出願日】2010年11月23日
(65)【公表番号】特表2013-512300(P2013-512300A)
(43)【公表日】2013年4月11日
(86)【国際出願番号】ES2010070765
(87)【国際公開番号】WO2011064430
(87)【国際公開日】20110603
【審査請求日】2013年11月12日
【審判番号】不服2015-15166(P2015-15166/J1)
【審判請求日】2015年8月12日
(31)【優先権主張番号】P200902230
(32)【優先日】2009年11月25日
(33)【優先権主張国】ES
(73)【特許権者】
【識別番号】512135919
【氏名又は名称】ウニベルシダーデ デ サンティアゴ デ コンポステラ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDAD DE SANTIAGO DE COMPOSTELA
(73)【特許権者】
【識別番号】512136651
【氏名又は名称】ナノガップ スブ−エネエメ−パウダー ソシエダッド アノニマ
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100178685
【弁理士】
【氏名又は名称】田浦 弘達
(72)【発明者】
【氏名】マヌエル アルトゥーロ ロペス キンテラ
【合議体】
【審判長】 冨士 良宏
【審判官】 川端 修
【審判官】 原 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/048316(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00〜 11/54
H01B 1/00〜 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)サイズ分布の平均サイズが5〜250nmの範囲内である、少なくとも二つの異なるサイズ分布の金属ナノ粒子の混合物と、
b)安定な原子量子クラスター(AQC)からなる融剤成分との組合せを含み、
前記AQCが、500未満の金属原子数からなり、前記AQCの平均サイズが、2nm未満であり、前記AQC用の金属が、Au、Ag、Co、Cu、Pt、Fe、Cr、Pd、Ni、Rh、Pbまたはそれらの二元金属および多金属の組合せから選択され、
前記金属ナノ粒子の金属が、Au、Ag、Co、Cu、Pt、Fe、Cr、Pd、Ni、Rh、Pbまたはそれらの二元金属および多金属の組合せから選択される導電性インク。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子の混合物が双峰性分布、すなわち二つの異なる平均サイズの金属ナノ粒子の分布であり、最小粒子の平均サイズと、最大粒子の平均サイズとの比が約1/10であることを特徴とする請求項1に記載の導電性インク。
【請求項3】
前記双峰性分布において、最大粒子の平均サイズが100〜250nmの間からなり、
最小粒子の平均サイズが10〜25nmの間からなることを特徴とする請求項2に記載の導電性インク。
【請求項4】
前記最大粒子に対するAQCの容積比が、1/10以下である請求項3に記載の導電性インク。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子の混合物が、三峰性分布、すなわち三つの異なる平均サイズの金属ナノ粒子の分布であり、中間粒子の平均サイズに対する最小粒子の平均サイズの比、および、最大粒子の平均サイズに対する中間粒子の平均サイズの比が、それぞれ約1/5である
ことを特徴とする請求項1に記載の導電性インク。
【請求項6】
前記金属ナノ粒子の混合物が、三峰性分布、すなわち三つの異なる平均サイズの金属ナノ粒子の分布であり、ここで最大粒子の平均サイズが100〜250nmの間からなり、中間粒子の平均サイズが25〜50nmからなり、最小粒子の平均サイズが5〜10nmからなることを特徴とする請求項5に記載の導電性インク。
【請求項7】
前記最大粒子に対するAQCの容積比が、1/30以下であることを特徴とする請求項6に記載の導電性インク。
【請求項8】
前記AQCの平均サイズが、1nm未満である請求項1〜7のいずれかに記載の導電性インク。
【請求項9】
前記AQCの融解温度が、150℃以下である請求項1〜8のいずれかに記載の導電性インク。
【請求項10】
前記AQCが、下記の群:
200未満の金属原子数からなることを特徴とするAQC、
2超27未満の金属原子数からなることを特徴とするAQC、
2〜5の金属原子数からなることを特徴とするAQC
の一つまたはいくつかに属する請求項1〜9のいずれかに記載の導電性インク。
【請求項11】
紙、ポリアミド類のポリマー、カプトン、可撓性もしくは非可撓性のポリマー、ポリエチレン製品、ポリプロピレン、アクリレート含有製品、ポリメチルメタクリレート、上記ポリマーの共重合体およびそれらの組合せからなる群より選択される温度感受性基板への印刷用である請求項1〜10のいずれかに記載の導電性インクの使用。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の金属ナノ粒子を有する導電性インクを焼結するための焼結処理での低温融剤物質としての前記AQCの使用であって、前記融剤成分が様々なサイズ分布の金属ナノ粒子間の結合成分または連結子として作用して導電性を付与し得ることを特徴とするAQCの使用。
【請求項13】
スクリーン印刷、パッド印刷およびインクジェット印刷用プリントエレクトロニクスへの請求項12に記載のAQCの使用。
【請求項14】
大量印刷、オフセット印刷、彫版印刷およびフレキソ印刷への請求項12に記載のAQCの使用。
【請求項15】
紙、ポリアミド類のポリマー、カプトン、可撓性もしくは非可撓性のポリマー、ポリエチレン製品、ポリプロピレン、アクリレート含有製品、ポリメチルメタクリレート、上記ポリマーの共重合体およびそれらの組合せからなる群より選択される温度感受性基板に印刷するための請求項12に記載のAQCの使用。
【請求項16】
ポリエステル類、ポリアミド類、ポリカーボネート類、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびその共重合体並びにそれらの組合せの群より選択した少なくとも一つを含有するポリマーフィルムへ印刷するための請求項12に記載のAQCの使用。
【請求項17】
請求項1〜10のいずれかに記載の導電性インクを製造するに当たり、
a)少なくとも二つの異なるサイズ分布の前記金属ナノ粒子を混合する工程と、
b)AQCからなる融剤成分を添加する工程と、
を備えることを特徴とする導電性インクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子量子クラスター(AQC(atomic quantum clusters)、特許文献1に記載の方法に従って合成)を様々なサイズの金属ナノ粒子の混合物と組合せての使用に基づく新しい配合のコロイドインクに関する。極低抵抗(バルク材料の抵抗に近似)を有する電子構造は、低温(<150℃)での熱処理を用いてこの配合で達成される。導電性インクは、他の用途の中でプリントエレクトロニクス産業での使用に役立つ。
【背景技術】
【0002】
現在、導電性ペーストやインク、電子接点用の材料などの調製へのAg、Cuなどの金属ナノ粒子の使用は、プリントエレクトロニクス分野で可能性のある用途が無数にあるため、スクリーン印刷、パッド印刷およびインクジェット印刷からオフセット印刷、彫版印刷およびフレキソ印刷のような異なる大量印刷法までの範囲の全ての形態において研究が最も活発になされている分野の一つである。紙、プラスチックおよび織物のような一般に使用される材料上に低コストの電子製品を製造する可能性が、大衆消費電子製品の分野に新たな時代を創始した。これら全ての技術内において、金属ナノ粒子の安定なコロイド分散系(ナノ粒子由来の導電性インク)を適切に設計することは、この巨大な潜在能力のある市場の拡大への最も重要な試みの一つである。
【0003】
これら用途では、ナノ粒子由来の導電性インクが、適切な結果を異なる形態のプリントエレクトロニクスで達成するために最適化されるべき特定の特性を有しなければならない(例えば、インクジェット印刷法におけるAgおよびAuナノ粒子の使用:J. Perelaer et al., Advanced Materials 2006, 18, 2101、Y.-Y. Noh et al., Nature Nanotechnology 2007, 2 784Aを参照)。使用した基材への湿潤および接着の問題について、インクの配合の点で異なる戦略が展開されてきたが、それら問題とは別に、導電性インクにより印刷した金属構造体で高い導電性を達成するためには基礎的な問題が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】スペイン特許第2277531号およびその国際公開第2007/017550号明細書
【発明の概要】
【0005】
使用する印刷の種類および導電性インクの特定処方にもかかわらず、インクを用いた印刷方法は、インクの乾燥および基材上に堆積した粒子の焼結を伴う。この焼結処理は必ず温度の上昇または硬化を含む。次に、基材に損傷を与えないように十分低い温度で最終的な印刷工程において最適な電気伝導を達成するのに適したインク配合の問題が生じる。
【0006】
近年、コロイド分散系を用いる導電性インクにおいて200〜500nm超のサイズの粒子を使用することが通常になされていた。それにもかかわらず、約250nm未満のサイズを有する粒子の使用は、印刷された画像の質の向上、良好な再現性などのような注目に値する有利な点を呈することがすぐに見出された。すなわち、例えば、Fullerら(Fuller, S. B.; Wilhelm, E. J.; Jacobson, J. M. J. Microelectromech. Syst. 2002, 11, 54)は、有機溶媒中に5〜7nmのAuおよびAgのナノ粒子を含むコロイドインクを使用したとき、300℃でプリント回路板を焼結する高い性能の電子構造体がインクジェット印刷法により得ることができるのを示した。しかしながら、このような温度で行った焼結工程は、印刷すべき基板の破壊になり得る。ナノ粒子の使用における現在の試みは、特定タイプのポリマー(その中でも約150℃のガラス転移温度および約230℃の融点を有するポリカーボネートを挙げることができる)、紙などのような温度感受性の基板にナノ粒子の塗布を可能とするために、例えば150℃未満、好ましくは100℃未満の温度のように非常に低い温度でこのような高い性能を得ることである。
【0007】
次に、特許文献1には、AQCと称する原子量子クラスターを2nm未満、好ましくは1nm未満のサイズの異なる金属と共に得るための方法が開示されている。また前記文献には、その分離、安定化および機能化をするための方法が開示されている。前記方法により焼結したクラスターの物理化学的特性がナノ粒子と異なることが手法に基づいて示された。これは、エネルギー準位の分離がAQCにおいてフェルミ準位(HOMO−LUMOギャップまたはバンドギャップ)で発生するという事実に起因し、このことは、これら粒子が金属粒子のように挙動するのをやめることを意味する。このことは、クラスターの異なるエネルギー準位間の電子遷移、次いで「金属粒子」のように挙動するのを止め、その挙動が分子になる、すなわち、クラスターが粒子でなくなり、実際に「分子」になることによるプラズモンバンドの抑制および異なるバンドの発生により容易に観察される。したがって、原子量子クラスター(AQC)のサイズに近い金属ナノ粒子であっても、クラスターとは完全に異なる特性および挙動を有するので、未踏の技術分野が開かれることになる。よって、新たな特性が、ナノ粒子、微粒子またはバルク金属材料には存在しないこれらクラスターに現れる。クラスターの挙動および特性はこれらクラスターへの原子を特徴付ける重要な量子効果により異なり、その特性を金属ナノ粒子のものから単に推定することを不可能にし、従ってこれら特性および性能を本発明で提案する導電性インクの製造のような用途に対し予想することを不可能にするという確かな事実がある。
【0008】
図1は、特許文献1に記載した方法により得たAg AQCで得られる融解温度の実験結果を示す。図1aは、グラチクルに堆積した約1nmサイズのAgクラスターのTEM画像を示す。図1bは、グラチクルに100℃の処理を数秒間施した後の同じサンプルの画像を示す。Ag AQCが融解したことが確認される。まさにクラスターが金属ナノ粒子と比較し極めて低い温度で融解するため、それらは本発明において導電性インクの配合を最適化するため好都合に使用されるだろう。
【0009】
さらに、別の重要な問題は、粒子に基づく導電性インクを堆積する際にプリント電子構造体に存在する粒子間空間である。これら空間は、堆積したフィルムの横断面に存在する導電体材料の重大な減少をもたらし、したがって導電性の低下、換言すれば電気抵抗の著しい上昇をもたらす。単分散した球体によって得ることができる最小の粒子間空間(自由空間)は、理想的最密充填(fcc)では26%であり、理想的ランダム最密充填(rcp)では36%である(A.R. Kansal et al. J. Chem. Phys. 2002, 117, 8212)。実際の場合(多分散で、完全に球状でない粒子)では、この自由空間が非常に増加し、その結果導電性特性の極めて重大な減少を引き起こす。
【0010】
本発明においては、AQCの低温融剤としての使用に加えて、様々なサイズのナノ粒子の混合物が上述の自由空間を除去するために使用される。使用した異なるナノ粒子のサイズ比を求めるために理論概算を使用して、約5〜10倍の球体間のサイズ比(r/r、rは大きいナノ粒子径であり、rは小さいナノ粒子径に対応する)のものを予測する(A.R. Kansal et al. J. Chem. Phys. 2002, 117, 8212)。ランダム最密充填の場合では、初期自由体積の約60%である自由体積の低減が得られる。サイズ比の更なる増加は、前記自由体積の更なる著しい減少をもたらさない。さらに、ナノ粒子混合物へ導入すべき小さいナノ粒子のサイズを決定する際、サイズ比の増加がまた、ナノ粒子の二つのタイプ間の相分離になり得ると考える必要がある(E. Liniger et al. J. Am. Cer. Soc. 2008, 70, 843)ので、サイズ選択の際、妥協案を検討する必要がある。さらに、大きいサイズの粒子により残された自由体積が上述のように約30%であり、またr/r=1/5〜1/10の粒子サイズ比を用いた自由体積の減少が60%であることを考慮すると、大小粒子が占める体積比は約V/V=18%/70%≒0.3、すなわちV/V≒1/3である。
【0011】
本発明の理論的根拠
本発明は、様々なサイズの金属ナノ粒子と、150℃未満の融点、有利には100℃未満の融点を有する半導電性融剤成分との混合物に基づく安定なコロイドインクの新たな配合に関する。前記融剤成分は、結合成分(焼結成分)として作用し、ナノ粒子間の金属接触を達成し、極めて低い温度(<150℃)での熱処理で極低抵抗(バルク材料の抵抗に近い)を有する電子構造体を達成する驚くべき効果をもたらす。
【0012】
前記非導電性融剤成分は、特許文献1に記載の方法に従って合成した原子量子クラスター(AQC)である。
【0013】
インクの配合におけるAQCの融剤成分としての混入は、導電性インクを開発する明白な工程でない。なぜなら、驚くべきことに、前記融剤成分が導電性でなくむしろ半導電性であるにもかかわらず、結果が高導電性能を有するインクを作製する際に完全に導電性粒子を使用することを含む標準的技法に反して、優れた導電特性を有する導電性インクになるからである。
【0014】
この態様、すなわち、ナノ粒子インクを使用して印刷を達成するのに必要な原子量子クラスターの低い融解温度の特性と粒子間自由空間の減少とを組み合わせると、本発明の目的としてここに提案した配合が、一方で少なくとも二つの異なるサイズのナノ粒子と、大きな「粒子間結合」を達成するためのAQCの特定の特性を使用した最終的な構成分とを組み合わせることによる自由空間の最大限減少を達成することにある。最大サイズのナノ粒子は、得るべきインクの最大の容積百分率をより大きな割合で構成し、低コスト並びに物理化学的特性(粘度、表面張力など)をインクの特定の必要性(印刷、基板などのタイプ)に調節するためのより大きな軽減を確実にする。中間サイズのナノ粒子は、より小さい割合で最大サイズの球体により残された空間の最大部分を満たすのに役立ち、これにより最終的な堆積構造体におけるより大きな充填の可能性を増す。最後に、AQCは、非常に小さい割合で低温の「融剤」として使用され、1)そのサイズがごく小さいことによりナノ粒子の混合物により残された隙間を満たすことが可能で、2)より高い温度を必要とする残留ナノ粒子の融解を必要とすることなく非常に低い温度でインクのナノ粒子結合および焼結を可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ナノ粒子とAQCとの混合物に基づく導電性インクの調製のためにサイズを選択する方法についての二つの特定の実施例を以下に記載する。
【0016】
用途の実施例
1.三峰性の分布+AQC
【0017】
インクに使用すべき最大ナノ粒子の最適なサイズは、100〜250nmである。より大きなナノ粒子は、そのより小さい表面/体積比により極めて高い温度での安定性および焼結に大きな課題を有する。次に、より小さいナノ粒子が、前述のように、より大きなナノ粒子により残された空間を満たすのに使用される。より小さいナノ粒子に対し選択したサイズは、コロイド状安定性低下なしに自由体積のより大きい低減を達成するために、ナノ粒子のサイズ比が約1/5(r/r=1/5)になるようなサイズである。この最後の態様は、添加剤で埋め合わせが可能となるものの、常に、インクの最終的な配合においてさらなる困難を伴う。したがって、最大ナノ粒子のサイズ(r=100〜250nm)を考慮すると、最小ナノ粒子のサイズは25〜50nmであり、いずれにしても選択サイズ間の1/5比がこれらの間隔で維持される。使用すべき大きいナノ粒子対小さいナノ粒子の容積比(または同一材料の球体を用いる場合の重量比)は、上述したように大きな粒子により残された格子間空間を覆うために約1/3である。したがって、大きいナノ粒子により残された自由体積は顕著に減少する。また、より小さい第三のナノ粒子サイズは、自由体積のより著しい実際の減少を達成するのに使用され、中間ナノ粒子と最小ナノ粒子とのサイズ比が、大きいナノ粒子と中間ナノ粒子との間に存在するものにおよそ等しくなるようにする。実施例を考慮すると、最小ナノ粒子は、rss=約5〜10nm(rssは最小粒子の半径)である。また、中間ナノ粒子対最小ナノ粒子の容積比(または同種の材料を使用する場合の重量比)は、約1/3(すなわち、最大粒子の体積の約1/10)である。この第三の粒子サイズの導入は、サイズごとの相に分かれる分散をさらに困難にする。
【0018】
最後に、特許文献1に記載されたAQCは、1)低温融剤、および2)格子間空間用の充填材として使用される。使用すべき容積比(または同一材料を使用する場合の重量比)はまた、最小粒子に対して約1/3(すなわち、最大粒子の体積の約1/30)である。このAQCの比はインクの価格を下げるために低減し得る最大最適値であることと理解すべきである。したがって、他の近似の比、例えば、1/4、1/5、1/6が考えられる。
【0019】
2.双峰性の分布+AQC
【0020】
インクの配合は、双峰性の分布+AQCのみを導入することにより単純化することができる。理由は、実際には、使用するナノ粒子が単分散(サイズの標準偏差(s)と平均サイズ(x)との比が10%未満であるのを単分散と理解する)でなく、ある程度の多少の多分散性を常に有しているためである。この多分散性(s/x>10%)は、一方でサイズごとの相分離を抑制する安定性に有利に働き、同時に格子間空間の自由体積を低減する。このため、大きなナノ粒子が100〜250nmの範囲と仮定すると、最小ナノ粒子のサイズを初期サイズの10倍まで低下させるのに配合を使用することができる。換言すれば、使用すべき小さいナノ粒子のサイズは10〜25nmであり、選択した小さい粒子と大きい粒子との平均サイズ間で1/10の比を維持する。大きいナノ粒子と小さいナノ粒子との容積比は、約1/3であり続ける。この場合、1/10のサイズ比を維持するのに導入すべき次の最小粒子サイズは約1nmであり、この実施例ではAQCを混合物の第三の成分として、同時に「融剤」として使用する。使用すべきAQCの最大最適比は、最小ナノ粒子に対して約1/3、すなわち大きな粒子に対して約1/10である。
【0021】
発明の方法案
上記によれば、導電性インクの配合の最適化のために半導電性融剤成分、特にAQCと、様々なサイズのナノ粒子との組合せが提案されており、ここでAQCは以下のように理解される:
500個未満の金属原子(Mn、n<500)で構成されるものとして特徴付けられる安定な原子量子クラスターAQC
200個未満の金属原子(Mn、n<200)で構成されるものとして特徴付けられるAQC
2個超27個未満の間の金属原子(Mn、2<n<27)で構成されるものとして特徴付けられるAQC
2〜5個の間の金属原子で構成されるものとして特徴付けられるAQC
金属がAu、Ag、Co、Cu、Pt、Fe、Cr、Pd、Ni、Rh、Pbまたはそれらの二元金属および多金属の組合せから選択されるAQC。
【0022】
本発明で、AQCと、様々なサイズの少なくとも二種類の金属ナノ粒子とを組み合わせることにより形成した導電性インクの配合における低温「融剤」材料としてのAQCの使用を提案するもので、ここで大きいナノ粒子(100〜250nmの間)および小さいナノ粒子(10〜25nmの間)が常に大きいナノ粒子と小さいナノ粒子との平均サイズ間で1/10の比を維持する。使用すべき重量比(同じ材料について)は、直ぐ近くのより大きいサイズに対し直ぐ近くのより小さいサイズのナノ粒子の約1/3である。これら比は、異なる材料をそれぞれのナノ粒子サイズに使用する場合、その密度に比例して変更されなければならない。
【0023】
他の好ましい可能性は、三つの異なるサイズ:大きなナノ粒子(100〜250nmの間)、中間のナノ粒子(25〜50nmの間)および小さいナノ粒子(5〜10nmの間)であり、それぞれの場合より大きい粒子サイズと直ぐ近くのより小さい粒子サイズとの間で1/5の比を常に維持する混合物とAQCとの組合せを使用することにある。また、この場合、使用すべき重量比(同じ材料について)は1/3であり、異なる材料をそれぞれのサイズに使用する場合、その密度に比例して変更される。
【0024】
本発明では、使用すべきナノ粒子の金属は、Au、Ag、Co、Cu、Pt、Fe、Cr、Pd、Ni、Rh、Pbまたはそれらの二元金属および多金属の組合せから選択される。しかしながら、経済的利点により、最大ナノ粒子についてCu、FeまたはAgのような材料を使用することが好ましい。その理由は、これらが導電性インクの配合に使用すべき材料の大部分を構成するからである。最小ナノ粒子またはクラスターについて、使用される割合がより少ないので、プリントエレクトロニック構造体の最終的な導電性を低下させる酸化作用を防止する目的のためより腐食しない材料を使用することができる。
【0025】
極めて低い温度(<150℃)で融解するAQCの存在により、ここに記載した導電性インクは、紙、ポリアミドタイプのポリマー、カプトン、可撓性または比較的非可撓性のポリマー、ポリエチレン製品、ポリプロピレン、アクリレート含有製品、ポリメチルメタクリレート、上述したポリマーの共重合体またはそれらの組合せのような温度感受性基板、ならびにポリエステル類、ポリアミド類、ポリカーボネート類、ポリエチレン、ポリプロピレン、さらにはその共重合体およびそれらの組合せをからなる群から選択した少なくとも一つを含有するポリマーフィルムに塗布することができる。
【0026】
次に、導電性インクの製造方法を提案するもので、次の工程:
a)様々なサイズの金属ナノ粒子を混合する工程、
b)融解温度が金属ナノ粒子の初期混合物のものより実質的に低く、特に150℃未満である低温の融剤で、サイズが2nm未満である半導電体成分を添加する工程、
c)紙、ポリアミドタイプのポリマー、カプトン、可撓性または比較的非可撓性のポリマー、ポリエチレン製品、ポリプロピレン、アクリレート含有製品、ポリメチルメタクリレート、上述したポリマーの共重合体またはそれらの組合せである基板のいずれかにインクを堆積させる工程と、
d)基板上に堆積したインクの温度を、金属ナノ粒子がその融点に達せず、半導電体融剤成分が融解して、金属ナノ粒子間の金属接点が高い導電性となり得るようにインクの焼結を達成するために上昇させる工程とを備えることを特徴とする。
【実施例】
【0027】
実施例:ナノ粒子およびAQCの双峰性分布を含むインクジェット印刷用インクの合成。
【0028】
ナノ粒子およびAQCの双峰性混合物に基づき、Agの最終的な濃度が30重量%であるインク50gをインクジェット印刷の導電性インクとして使用するために合成した。
【0029】
インクの最終的な配合は、エチレングリコール(EG)/エタノール(E)の50/50(重量)の混合物を使用して、ナノ粒子+AQCの双峰性分布から構成される。双峰性分布に使用される粒子は、1)50nmの平均サイズおよび図2に示したサイズ分布を有する大きなAgナノ粒子と、2)5nmの平均サイズおよび図3に示したサイズ分布を有する小さなAgナノ粒子である。使用したAQCは、図4に示すように、1nm未満のサイズのAgクラスターであった。
【0030】
本例のAg30%の導電性インク50gに対するインクの最終組成は、以下の通りである。
25%の大きなAgナノ粒子:12.5g
4.9%の小さなAgナノ粒子:2.45g
0.1%のAg AQC:0.05g
35%のエチレングリコール(EG):17.5g
35%のエタノール(E):17.5g
【0031】
配合を以下の通りに調製した:最初に、HO中濃度0.5Ag/Lの大きいナノ粒子の水分散配合液25Lを用いた。この溶液を遠心分離し、得られたナノ粒子のペーストにEG17.5gを添加し、完全に再分散するまで攪拌した。
【0032】
さらに、HO中濃度1gAQC/LのAg AQCの分散液0.05Lを用い、EG中のナノ粒子混合物に添加した。この新たな混合物をロータリエバポレータ中で濃縮し、全ての水を除去した。
【0033】
その後、EtOH中濃度10mg Ag/gの小さいナノ粒子のEtOH分散液245gを前記混合物に添加した。
【0034】
最後に、生成した混合物をロータリエバポレータ中で濃縮し、17.5gのEtOH重量を達成するまでEtOHを除去した。
【0035】
富士フィルムDimatixプリンターを使用してカプトン基板上に本実施例のインクで印刷し、100℃で30分間の熱処理を施したプリント回路板を、図5に示す。このようにして得た回路板の配線の伝導率は、1.3〜2.5オームであった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】特許文献1の記載に従い合成し、顕微鏡グラチクル上に堆積させたAgクラスター(図1a)およびグラチクルを100℃で30秒間加熱した後のクラスターと同じサンプル(図1b)の透過型電子顕微鏡像を示す。
図2】実施例のインクの配合に使用した最大Agナノ粒子のサイズ分布を示す。
図3】実施例のインクの配合に使用した最小Agナノ粒子のサイズ分布を示す。
図4】クラスターの平均サイズが<1nmであることを示すAu(111)の一原子テラス上に堆積したAg AQCの走査型トンネル顕微鏡像を示す。
図5】富士フィルムDimatixプリンターを使用して実施例1のインクでカプトン上に印刷し、100℃で30分間現場処理した後のプリント電子回路板を示す。
図1a
図1b
図2
図3
図4
図5