【実施例】
【0026】
(実施例1)
実施例の金属製箱体1は、
図1に示すように、略直方体形状であって、底部10、第1側壁部11及び第2側壁部12を備える。底部10の反対側は開放されており、開口部13が形成されている。金属製箱体1の外形形状は、底部10の長手方向(X方向)に対して短手方向(Y方向)が充分短く、その深さ方向(Z方向)が底部10の短手方向に対して充分大きい形状である。
【0027】
金属製箱体1は、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)製である。底部10は矩形の底面10aと、2つの変形部20を有する。底面10aは長方形であって、変形部20が底面10aの両方の短辺部10c側にそれぞれ設けられている。そして、底面10aの両長辺部10bと、変形部20の外縁に形成される後述のへり継手溶接部24とが底部10の外周縁を形成している。
【0028】
底面10aの両方の長辺部10bには第1側壁部11がそれぞれ立設されている。底部10と第1側壁部11との境界部分(長辺部10b)は、第1側壁部11をその立設方向(Z方向)に折り曲げて形成されている。第1側壁部11は、両方の長辺部10bにおいて、互いに対向するように一対で形成されている。第1側壁部11は矩形の平板状であって、金属製箱体1の長壁面を形成している。
【0029】
一方、第2側壁部12は、
図1に示すごとく、変形部20の外縁(へり継手溶接部24が形成された部分)に立設されている。第2側壁部12は、互いに対向するように一対で設けられ、第1側壁部11と第2側壁部12とが互いに隣接するように交互に設けられるとともに、第2側壁部12は、第1側壁部11から折り曲げられて形成されている。そして、第2側壁部12は、変形部20の外縁において底部10と溶接されて形成されている。第2側壁部12の中間部にはZ方向に平行な側壁溶接部12bが形成されている。かかる第2側壁部12が金属製箱体1の短壁面を形成している。
【0030】
図2(a)及び
図2(b)に示すごとく、底部10には、変形部20において、金属製箱体1の内空側に窪んだ凹陥部21が設けられている。凹陥部21によって、底面10aと連続する緩やかな傾斜面を有するテーパー部23と、Z方向に平行に立ち上がった立壁22とが形成されている。変形部20において、立壁22の端部22aと第2側壁部12の端部12aとが揃った状態で、立壁22と第2側壁部12とが面状に重ね合わせられて重合部25が形成されている。すなわち、立壁22の裏面(底部10において金属製箱体1の内空側の面に連続する面)と、第2側壁部12の裏面(金属製箱体1の内空側の面)とが略平行となる状態で対向し、近接している。重合部25において、立壁22の端部22aと第2側壁部12の端部12aとがへり継手によって溶接されて、変形部20の外縁に沿ってへり継手溶接部24が形成されている。
底部10と側壁部(第1側壁部11及び第2側壁部12)との境界部分は、底部10と第1側壁部11とを折り曲げてなる折り曲げ境界部(長辺部10b)と、底部10と第2側壁部12とを溶接してなる溶接境界部(へり継手溶接部24)とからなっている。
【0031】
次に、金属製箱体1の製造方法について説明する。
金属製箱体1の製造方法101は、
図3に示すように、展開体形成工程S1と、重合部形成準備工程S2と、折曲工程S3と、溶接工程S4とからなる。
【0032】
まず、展開体形成工程S1では、一枚の金属板をプレス機で打ち抜き加工することにより、
図4に示すように、平板状の展開体100を形成する。展開体100の形成方法はこれに限定されず、レーザーカット、ワイヤー放電加工等を採用することもできる。展開体100の形成材料である金属板は、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)製の平板で、その板厚は約0.5mmである。展開体100は、金属製箱体1の底部10に対応する底部対応部110と、底部対応部110を挟んで一対に形成される第1側壁部対応部111と、該一対の第1側壁部対応部111において底部対応部110と第1側壁部対応部111の境界部分(長辺部10b)に交差する方向の両端部にそれぞれ延在するように形成される第2側壁部対応部112a、112bと、を有する。
【0033】
底部対応部110は、
図4に示すように、底面10aに対応する底面対応部110aと、変形部20に対応する変形部対応部120とからなる。底面対応部110aの形状は長方形である。底面対応部110aの一対の短辺には変形部対応部120が延在している。
図5に示すように、変形部対応部120の形状は略長方形であって、底面対応部110aから離れるにしたがって、底面対応部110aの短手方向に膨出した形状である。
【0034】
図4に示すように、第1側壁部対応部111の形状は長方形であって、その長手方向は底部対応部110の長手方向と一致している。第2側壁部対応部112a、112bの形状はともに長方形であって、その長手方向は第1側壁部対応部111の短辺(境界部分である長辺部10bに交差する方向の両端部)に沿っている。また、
図5に示すように、第2側壁部対応部112a、112bにおいて、変形部対応部120に対向する側の側辺には、変形部対応部120の外縁に沿うように切り欠かれた切り欠き部112cが形成されている。
【0035】
次に、重合部形成準備工程S2では、
図4に示す展開体100の変形部対応部120に対して絞り加工を施すことにより、
図6に示すように凹陥部21を形成する。具体的には、
図5に示す変形部対応部120の外形より一回り小さい矩形の絞り加工部121aに対して、絞り加工部121aに対応する形状の治具を押圧して絞り加工を施す。絞り加工は一回で行ってもよいし、複数回に分けて行ってもよい。絞り加工部121aの底面対応部110a中央側の辺の位置は、切り欠き部112cの下端よりも距離d(約1.5mm)分だけ底面対応部110aの中央側に寄っている。なお、当該距離dは金属製箱体1の形状や、その形成材料の材質や板厚に合わせて適宜変更できる。また、当該距離dは、特に限定されないが、例えば0.5mm〜3.0mmの間の値とすることもできる。
【0036】
図6及び
図7に示すごとく、絞り加工によって、凹陥部21が形成されることとなる。これにより、底面対応部110aに連続するなだらかな傾斜面(凹陥部21の底面)を有するテーパー部23が形成される。これとともに、凹陥部21の外周のうち、底面対応部110aに連続する部分を除いた部分に立壁22が形成される。立壁22は第1側壁部11の立設方向(Z方向)に平行に立ち上がった壁であって、底面対応部110aに対して略垂直となっている。
【0037】
つづいて、折曲工程S3では、まず
図8に示すように、第2側壁部対応部112a、112bを立設方向(Z方向)に折り曲げる。その後、第1側壁部対応部111を立設方向(Z方向)に折り曲げて、
図2(a)に示すように、変形部20における立壁22の端部22aと第2側壁部対応部112a(112b)の端部12aとを断面におけるZ方向の高さ位置が同じ位置となるように揃えつつ、立壁22と第2側壁部対応部112a(112b)とを面状に重ね合わせて、重合部25を形成する。これとともに、
図1に示すように、第2側壁部対応部112a、112bを側壁溶接部12bにおいて互いに突き合せ状態にする。折曲工程S3はプレス機による折り曲げ加工によって行うことができる。また、
図5で示すように、絞り加工部121aの底面対応部110a中央側の辺の位置が、切り欠き部112cの下端よりも距離d(約1.5mm)分だけ底面対応部110aの中央側に寄っているため、折曲工程S3により、折り曲げ境界部(長辺部10b)の両端部側には、形成材料である金属板が約180度折り曲げられて、
図2(a)に示す折り畳み部26が形成される。
【0038】
次に、溶接工程S4では、突き合せ状態の第2側壁部対応部112a、112bを側壁溶接部12bにおいて溶接する。側壁溶接部12bは第2側壁部12の中間部において、底部10から開口部13に亘って、Z方向に平行な直線状に形成されている。本例では、側壁溶接部12bは第2側壁部12の中央にZ方向に沿って設けた。当該溶接は、TIG溶接、プラズマ溶接、レーザ溶接などにより行うことができる。本例ではTIG溶接により溶接を行った。
【0039】
ここで、第2側壁部対応部112a、112bの溶接において、側壁溶接部12bの底部10側端部又は開口部13側端部に、溶接金属の垂れによって溶接欠陥が生じる場合がある。かかる場合には、あらかじめ、側壁溶接部12bの両端において金属製箱体1の形成材料を延長した延在部(エンドタブ、図示せず)を設けておき、側壁溶接部12bの溶接の際に当該エンドタブごと溶接した後、当該エンドタブを切除することにより、側壁溶接部12bに溶接欠陥が発生するのを防止することができる。
【0040】
その後、
図2(a)に示す重合部25において、立壁22の端部22aと第2側壁部12(112a、112b)の端部12aとを溶接して、
図2(b)に示すようにへり継手溶接部24を形成する。当該溶接は、TIG溶接、プラズマ溶接、レーザ溶接などにより行うことができる。本例では側壁溶接部12bの溶接と同様に、TIG溶接により溶接を行った。
図2(a)に示すように、重合部25が形成された状態において、同じ高さ位置となっている立壁22の端部22aと第2側壁部12の端部12aとがへり継手によって溶接されることにより、
図2(b)に示すように立壁22と第2側壁部12の両端部に亘ってへり継手溶接部24が形成される。なお、重合部25の溶接は、
図1に示すように、一方の折り畳み部26を開始位置とし、他方の折り畳み部26を終了位置として行う。
【0041】
上記製造方法101により製造された金属製箱体1について、開口部13を所定の方法で閉塞して、金属製箱体1の気密性をHeリークテストにより検査したところ、十分高い気密性を有することを確認した。
【0042】
上記製造方法101により製造された金属製箱体1の作用効果について説明する。
金属製箱体1は、上記溶接工程S4では、重合部25において立壁22の端部22aと第2側壁部12の端部12aとがへり継手により溶接されて、へり継手溶接部24が形成される。これによって、底部10と第2側壁部12との溶接境界部(へり継手溶接部24)において、高い溶接品質が得られ、その結果、気密性についての信頼性の高い金属製箱体1が提供される。さらに、重合部25において両端部12a、22aをへり継手によって溶接するため、TIG溶接によっても確実に溶接することができる。そのため、レーザ溶接などにより溶接する場合に比べて、低いコストで高い信頼性を有する金属製箱体1を製造できる。
【0043】
また、重合部25において立壁22と第2側壁部12をへり継手によって溶接するため、本例のように板厚が約0.5mmの薄肉のステンレス鋼板であっても、溶接境界部(へり継手溶接部24)の気密性が充分確保できる。これにより、溶接境界部(へり継手溶接部24)の気密性を維持しつつ、金属製箱体1が軽量化される。
【0044】
さらに、金属製箱体1の外形は、
図1に示すように、底部10の長手方向(X方向)に対して短手方向(Y方向)が充分短く、その深さ方向(Z方向)が底部10の短手方向に比べて充分大きい形状である。そして、上記折曲工程S3において長壁面となる第1側壁部11を底部10から折り曲げて折り曲げ境界部(長辺部10b)を形成し、上記溶接工程S4において短壁面となる第2側壁部12と底部10とをへり継手溶接して溶接境界部(へり継手溶接部24)を形成している。これにより、折り曲げ境界部をも溶接する場合に比べて、溶接長さを大幅に短くすることができるため、金属製箱体1の気密性についての信頼性が一層高まる。また、溶接長さが大幅に短くなるため、溶接作業が軽減され、生産性に優れる。また、金属製箱体1は、上述の通り、深さ方向(Z方向)が短手方向(Y方向)に比べて充分大きいため、金属板の深絞り加工のみでは成形が困難であるが、本例の製造方法101によれば金属製箱体1を容易に成形することができる。
【0045】
また、重合部25の溶接が、一方の折り畳み部26を開始位置とし、他方の折り畳み部26を終了位置として行うため、溶接の開始位置と終了位置では、端面同士の溶接ではなく、形成材料である金属板を約180度折り曲げた部分の溶接となる。これにより、溶接の開始位置と終了位置で溶接欠陥が生じることが効果的に防止される。なお、本例では、折り畳み部26を設けたが、これに限らず、
図5において、絞り加工部121aの底面対応部110a中央側の辺の位置を、底面対応部110aの長手方向において切り込み部112cの下端と同じ位置(すなわち、距離dを0)として、折り畳み部26を設けないこととしてもよい。この場合は、重合部25溶接の開始位置と終了位置で溶接欠陥が生じない条件で溶接を行う。
【0046】
また、本例では、
図5及び
図6に示すように第2側壁部対応部112a、112bの凹陥部21側に切り欠き部112cが形成されており、
図2(a)に示すように端部12aが底面10aよりも内側(金属製箱体1の内空側)に位置している。また、立壁22の端部22aも底面10aよりも内側に位置している。これにより、
図2(b)に示すように、両端部12a、22aを溶接して形成されるへり継手溶接部24も底面10aよりも内側に位置することとなる。その結果、金属製箱体1を載置したときにへり継手溶接部24が載置面と干渉しないため、へり継手溶接部24によって金属製箱体1の載置状態が不安定になることが防止される。
【0047】
さらに、側壁溶接部12bは第2側壁部12の中間部に形成されている。これにより、側壁溶接部12bの底部10側の端部は、底部10(立壁22)と第2側壁部12との溶接部(へり継手溶接部24)の中間部に位置することとなる。これにより、側壁溶接部12bの底部10側の端部とへり継手溶接部24の端部とが一致しないため、両溶接部の信頼性が高まる。
【0048】
さらに、側壁溶接部12bは、第2側壁部12の中央において第2側壁部12の立設方向に沿うように形成されている。これにより、一対の第1側壁部11から折り曲げられて第2側壁部12を形成する部分(第2側壁部対応部112a、112b)の形状がそれぞれ同一となっており、展開体100の形状が底部10の中心を基準とする点対称の形状となっている。これにより、重合部形成準備工程S2において、絞り加工のために展開体100をプレス機へセットする際の展開体100の向きが180度違っていてもよく、また、展開体100の裏表を逆にセットしてもよい等、加工上の制約が少なく、重合部形成準備工程S2の工程設計の自由度が向上する。
【0049】
本例では、重合部形成準備工程S2において、立壁22は、立設方向(Z方向)に平行になるまで立ち上げたが、これに限らず、凹陥部21を椀状に形成して、立壁22を傾斜させておいてもよい。この場合は、折曲工程S3において、重合部25を形成する際に、第2側壁部対応部112a、112bを傾斜した立壁22に押し付けることにより、立壁22の少なくとも一部を立設方向(Z方向)に平行になるまで立ち上げて、両者を面状に重ね合わせるようにすることができる。このようにすれば、重合部25において、立壁22と第2側壁部対応部112a、112bとの隙間をなくすことができ、へり継手溶接部24の信頼性が高まる。
【0050】
本例では、重合部形成準備工程S2の後、折曲工程S3において、第2側壁部対応部112a、112bを立設方向(Z方向)に折り曲げ、続いて第1側壁部対応部111を立設方向(Z方向)に折り曲げたが、これに限定されない。例えば、重合部形成準備工程S2の前に第2側壁部対応部112a、112bを立設方向(Z方向)に折り曲げ、その後に重合部形成準備工程S2を行い、続いて折曲工程S3において第1側壁部対応部111を立設方向(Z方向)に折り曲げてもよい。また、重合部形成準備工程S2において、凹陥部21を形成するのと同時に第2側壁部対応部112a、112bを立設方向(Z方向)に折り曲げ、その後に折曲工程S3において、第1側壁部対応部111を立設方向(Z方向)に折り曲げてもよい。いずれの場合でも、本例と同様の作用効果を奏する。
【0051】
本例では、金属製箱体1の製造工程101において、溶接工程S4では、側壁溶接部12bを溶接した後、重合部25を溶接してへり継手溶接部24を形成したが、これに限らず、重合部25を溶接してへり継手溶接部24を形成した後に側壁溶接部12bを溶接してもよい。この場合でも、本例と同様の作用効果を奏する。
【0052】
また、本例では、変形部20(凹陥部21)を底部10に設けたが、これに限定されず、変形部(凹陥部)を第2側壁部に設けてもよい。この場合でも実施例1の金属製箱体1と同様の作用効果を奏する。
また、本例では、開口部13に蓋部材を取り付けるなど、他の部材を取り付けてもよい。蓋部材などの他の部材は金属製箱体1と別体として取り付けることができるし、金属製箱体1と一体的に形成することもできる。
【0053】
(実施例2)
他の実施例である金属製箱体2は、
図9に示すごとく、側壁溶接部212cが第2側壁部212の中央ではなく、第2側壁部212と第1側壁部11との境界部分寄りに形成されている。
図10に示すように、金属製箱体2の展開体200は、第1側壁部対応部111aの両端部に第2側壁部対応部212aが延在するように形成され、第1側壁部対応部111bの両端部に第2側壁部対応部212bが延在するように形成されており、第2側壁部対応部212aは第2側壁部対応部212bに比べて長くなっている。なお、実施例1の金属製箱体1と同等の構成要素等には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0054】
金属製箱体2は実施例1の金属製箱体1と同様の製造工程で形成されるが、折曲工程S3では、上述のように、第2側壁部対応部212a、212bは立壁22とともに重合部25を形成するように、立壁22に沿って折り曲げられる。そして、第2側壁部対応部212a、212bが互いに突き合わせされた状態となる。そして溶接工程S4において、第2側壁部対応部212a、212bが互いに溶接されて側壁溶接部212cが形成される。そして、重合部25において、上述のごとく、へり継手溶接部24が形成される。
【0055】
本例によれば、側壁溶接部212cが第2側壁部212と第1側壁部11との境界部分寄りに形成されているため、側壁溶接部212cとの干渉を回避して第2側壁部212の中央領域に、別の加工を施すための加工部を広く確保することができる。他の実施例である金属製箱体2においても、実施例1の金属製箱体1と同等の作用効果を奏する。