(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6185263
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/295 20060101AFI20170814BHJP
【FI】
G01S7/295
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-50623(P2013-50623)
(22)【出願日】2013年3月13日
(65)【公開番号】特開2014-178131(P2014-178131A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2016年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126468
【弁理士】
【氏名又は名称】田久保 泰夫
(72)【発明者】
【氏名】稲村 一芳
【審査官】
請園 信博
(56)【参考文献】
【文献】
特許第5139725(JP,B2)
【文献】
特開2013−036928(JP,A)
【文献】
特開平11−023695(JP,A)
【文献】
特開2012−185070(JP,A)
【文献】
特開平11−183612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 − 7/42
13/00 − 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物標のレーダ映像を距離方向に分離して表示するレーダ装置において、
物標により反射されたレーダエコーを受信する受信部と、
距離方向に設定した所定範囲における前記レーダエコーの最大値を算出し、前記最大値と、前記所定範囲の前記レーダ装置から離間する側の前記レーダエコーの値との差分に基づき、前記離間する側の前記レーダエコーの値を補正する処理を行う信号処理部と、
備え、
前記信号処理部は、前記レーダエコーを、
Si=Vi−K×{max(Vi−d:Vi)−Vi}e
Si:前記レーダエコーの補正後の出力データ
Vi:前記レーダエコーの補正前の入力データ
Vi−d:前記入力データViからd個だけ前に取得した前記入力データ
max(Vi−d:Vi):前記入力データVi−dから前記入力データViまでの最大値
K:係数
e:指数
として補正し、
補正された前記レーダエコーに基づくレーダ映像を表示することを特徴とするレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物標のレーダ映像を距離方向に分離して表示するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置は、レーダ信号(探知信号)を送信し、船舶や航空機等の物標によって反射されたレーダエコーを受信してレーダ映像を表示させ、物標の方位や、物標までの距離を監視する装置である。物標の方位は、レーダ信号を送信する送信アンテナの回転角度に基づいて算出することができる。また、物標までの距離は、例えば、レーダ信号を送信してからレーダエコーを受信するまでの時間に基づいて算出することができる。
【0003】
ところで、距離方向に近接している複数の物標により反射されたレーダエコーが重なると、物標を分離して識別することが困難となる。このような距離方向の分解能の低下は、送信するレーダ信号のパルス幅を狭くすることで回避可能である。しかしながら、パルス幅を狭くすると、距離分解能を高めることはできるが、受信感度が低下するため、特に、遠距離の物標を探知することが難しくなる(特許文献1参照)。
【0004】
距離分解能を高めることのできるレーダ装置として、特許文献2に開示された装置がある。このレーダ装置では、周波数をレーダ信号毎に切り換えて送信し、受信したレーダエコーに対して、送信したレーダ信号に対応した逆フーリエ変換を施すことにより、高い距離分解能を有するレーダ映像を生成することができる。
【0005】
しかしながら、前記レーダ装置は、レーダ信号の周波数を切り換えるための周波数シンセサイザや、逆フーリエ変換回路等の複雑な処理回路を必要とする。
【0006】
一方、特許文献3には、受信したレーダエコーの波形を整形することにより、距離分解能及び方位分解能を高めることのできるレーダ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−203778号公報
【特許文献2】特開平5−126943号公報
【特許文献3】特開2008−309606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3のレーダ装置では、距離方向及び方位方向に対する分解能を高めることはできるが、物標までの距離の検出精度が低下するおそれがある。すなわち、特許文献3では、レーダエコーの波形の幅が狭くなるように波形整形することで、相互に近接する物標によるレーダエコーを離間させている。この場合、レーダ装置に近接する側とレーダ装置から離間する側との双方向のレーダエコーの波形を整形しているため、整形されたレーダエコーに基づいて表示される物標の位置が変わってしまう問題がある。すなわち、レーダ装置に近接する側のレーダエコーの波形が整形されると、物標の位置がレーダ装置から遠ざかる方向に移動して表示されることになるため、レーダ装置から物標までの距離を誤認してしまうおそれがある。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、物標の距離分解能を高めることができるとともに、物標までの距離を誤認するおそれのないレーダ映像を表示することのできるレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るレーダ装置は、物標のレーダ映像を距離方向に分離して表示するレーダ装置において、物標により反射されたレーダエコーを受信する受信部と、距離方向に設定した所定範囲における前記レーダエコーの最大値を算出し、前記最大値と、前記所定範囲の前記レーダ装置から離間する側の前記レーダエコーの値との差分に基づき、前記離間する側の前記レーダエコーの値を補正する処理を行う信号処理部と、を備え、
前記信号処理部は、前記レーダエコーを、
Si=Vi−K×{max(Vi−d:Vi)−Vi}e
Si:前記レーダエコーの補正後の出力データ
Vi:前記レーダエコーの補正前の入力データ
Vi−d:前記入力データViからd個だけ前に取得した前記入力データ
max(Vi−d:Vi):前記入力データVi−dから前記入力データVi
までの最大値
K:係数
e:指数
として補正し、
補正された前記レーダエコーに基づくレーダ映像を表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のレーダ装置では、物標により反射されたレーダエコーの波形を整形する際、レーダ装置に近接する側の波形は整形せず、レーダ装置から離間する側の波形のみをレーダ装置に近接するように整形する。これにより、物標の距離分解能を高めることができるとともに、物標までの距離が波形整形の影響を受けることがないため、物標までの距離を誤認するおそれのないレーダ映像を表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る実施形態であるレーダ装置の構成ブロック図である。
【
図2】
図1における信号処理部に備えられる波形整形回路のブロック図である。
【
図3】
図2に示す波形整形回路による整形処理の前後のレーダエコーの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係る実施形態であるレーダ装置10の構成ブロック図である。
【0015】
<レーダ装置10の構成の説明>
レーダ装置10は、レーダ信号を送信し、船舶や航空機等の物標によって反射されたレーダエコーを受信してレーダ映像を表示させ、物標の方位や、物標までの距離を監視する装置である。レーダ装置10は、アンテナ12、送受信部14(受信部)、A/D変換部16、信号処理部18、座標変換部20、レーダエコー記憶部22、表示制御部24及び表示部26を備える。
【0016】
送受信部14は、アンテナ12を介して、レーダ信号を送信するとともに、物標により反射されたレーダエコーを受信する。A/D変換部16は、レーダエコーをデジタル信号に変換する。信号処理部18は、レーダエコーを処理し、所望のレーダエコーを取得する信号処理を行う。座標変換部20は、デジタル信号に変換された極座標形式のレーダエコーを直交座標形式のレーダエコーに変換する。レーダエコー記憶部22には、方位情報及び距離情報を含むレーダエコーが描画される。表示制御部24は、レーダエコー記憶部22に描画されたレーダエコーに基づき、物標のレーダ映像を表示部26に表示させる制御を行う。表示部26は、表示制御部24の制御に基づきレーダ映像を表示する。
【0017】
図2は、
図1における信号処理部18に備えられる波形整形回路28のブロック図である。波形整形回路28は、距離方向の分解能を高めるために、レーダエコーの波形整形処理を行う回路であり、パラメータ設定部30、最大値算出部32、差分指数化部34及び距離方向補正部36を備える。
【0018】
パラメータ設定部30は、波形整形のためのパラメータである参照データ数d、指数e及び係数Kを設定する。最大値算出部32は、A/D変換部16から供給される距離方向に設定した所定範囲におけるレーダエコーの最大値を算出する。差分指数化部34は、前記最大値とレーダ装置10から所定範囲だけ離間する側のレーダエコーの値との差分を、設定した指数eで冪乗した差分指数値を算出する。距離方向補正部36は、算出された差分指数値と設定した係数Kとに基づき、レーダ装置10から離間する側のレーダエコーの値を補正し、距離方向の分解能を向上させたレーダエコーを算出する。
【0019】
<レーダ装置10の処理の説明>
次に、レーダ装置10の処理について説明する。
【0020】
送受信部14は、図示しないマグネトロンを発振させ、アンテナ12を介してレーダ信号を物標に向かって送信する。レーダ信号は、物標により反射され、レーダエコーとしてアンテナ12を介して送受信部14により受信される。送受信部14により受信されたレーダエコーは、A/D変換部16によりデジタル信号に変換され、信号処理部18に供給される。信号処理部18に供給されたレーダエコーは、波形整形回路28により波形の整形処理が行われる。
【0021】
波形整形回路28では、レーダエコーである入力データV
iが以下の(1)式に従って処理され、波形整形された出力データS
iが算出される。
【0022】
S
i=V
i−K×{max(V
i−d:V
i)−V
i}
e…(1)
【0023】
ここで、入力データV
iは、波形整形回路28にi番目に入力される入力データである。入力データV
i−dは、入力データV
iから参照データ数dだけ前に入力された入力データである。指数e及び係数Kは、レーダエコーの波形の幅を狭くするように整形するためのパラメータである。これらのパラメータは、送受信部14からアンテナ12を介して送信されるレーダ信号のパルス幅に応じて設定することができる。参照データ数d、指数e及び係数Kの各パラメータは、予めオペレータによりパラメータ設定部30に設定されている。最大値max(V
i−d:V
i)は、(i−d)番目からi番目までのd個の入力データV
i−d〜V
iから選択した電界強度が最大の入力データである。
【0024】
最大値算出部32は、パラメータ設定部30からの参照データ数dに従い、A/D変換部16から供給された入力データV
i−d〜V
iの最大値max(V
i−d:V
i)を算出する。差分指数化部34は、入力データV
iと、算出された最大値max(V
i−d:V
i)と、パラメータ設定部30からの指数eとを用いて、差分指数値{max(V
i−d:V
i)−V
i}
eを算出する。距離方向補正部36は、入力データV
iと、算出された差分指数値{max(V
i−d:V
i)−V
i}
eと、パラメータ設定部30からの係数Kとを用いて、(1)式に基づいて入力データV
iを補正した出力データS
iを算出する。
【0025】
図3は、
図2に示す波形整形回路28による整形処理の前後のレーダエコーの説明図である。
【0026】
レーダエコーの電界強度が増加する部分A1及び電界強度が減少する部分A2は、整形前の第1物標によるレーダエコーである。また、レーダエコーの電界強度が増加する部分B1及び電界強度が減少する部分B2は、整形前の第2物標によるレーダエコーである。第1物標は、第2物標よりもレーダ装置10側にある。第1物標及び第2物標が近接している場合、整形前のレーダエコーは、部分A1、A2及びB1、B2の電界強度の各最大値(点P1、P2の値)と、部分A2、B1間の電界強度の極小値(点P3の値)との差が小さいため、第1物標と第2物標とを分離して識別することが困難である。
【0027】
これに対して、レーダエコーの部分A3及びA4は、(1)式に基づく整形後の第1物標によるレーダエコーであり、部分B3及びB4は、整形後の第2物標によるレーダエコーである。この場合、参照データ数dにより規定されるレーダエコーの電界強度が増加する範囲では、
max(V
i−d:V
i)=V
i
となるため、この範囲の出力データS
iは、(1)式から、
S
i=V
i
となる。従って、この範囲では、レーダ装置10に近接する第1物標のレーダエコーの部分A1と部分A3、及び、レーダ装置10に近接する第2物標のレーダエコーの部分B1と部分B3は、整形処理の前後で変わらない。
【0028】
一方、参照データ数dにより規定されるレーダエコーの電界強度が減少する範囲では、
max(V
i−d:V
i)=V
i−d
となるため、この範囲の出力データS
iは、(1)式から、
S
i=V
i−K×(V
i−d−V
i)
e
となる。従って、この範囲では、レーダ装置10から離間する第1物標のレーダエコーの部分A2と、レーダ装置10から離間する第2物標のレーダエコーの部分B2とは、電界強度が弱くなる部分A4と部分B4にそれぞれ整形処理されることになる。
【0029】
この結果、波形整形回路28から出力される整形されたレーダエコーは、レーダ装置10に近接する側の第1物標及び第2物標までの距離が整形処理の影響を受けないため、レーダ装置10に対する第1物標及び第2物標の位置を誤認することなく検出することができる。なお、レーダ装置10から離間する側の第1物標及び第2物標までの距離は、整形処理によりレーダ装置10側に近づくことになるが、第1物標及び第2物標の位置検出に対して問題になることはない。
【0030】
また、
図3に示すように、整形処理前の部分A2、B1間の電界強度の極小値(点P3の値)は、整形処理を行うことにより、部分A4、B3間の電界強度の極小値(点P4の値)へと大きく減少する。従って、距離方向の分解能が高くなり、第1物標によるレーダエコーと第2物標によるレーダエコーとを容易に分離して識別することができる。
【0031】
以上のようにして整形処理されたレーダエコーは、座標変換部20により極座標形式から直交座標形式に変換された後、レーダエコー記憶部22に描画される。次いで、表示制御部24は、レーダエコー記憶部22に描画されたレーダエコーを読み出し、レーダ映像として表示部26に表示させる。この場合、レーダエコーは、
図3に示すように、波形が整形処理されて表示されるため、距離方向に高い分解能を得ることができるとともに、物標までの距離を誤認することのないレーダ映像を得ることができる。
【0032】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で変更することが可能である。
【符号の説明】
【0033】
10…レーダ装置
12…アンテナ
14…送受信部
16…A/D変換部
18…信号処理部
20…座標変換部
22…レーダエコー記憶部
24…表示制御部
26…表示部
28…波形整形回路
30…パラメータ設定部
32…最大値算出部
34…差分指数化部