(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6185280
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】クリーンブースにおけるエアフィルタの自動リーク試験システムを用いたリーク試験方法
(51)【国際特許分類】
F24F 7/06 20060101AFI20170814BHJP
【FI】
F24F7/06 C
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-97903(P2013-97903)
(22)【出願日】2013年5月7日
(65)【公開番号】特開2014-219135(P2014-219135A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2016年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】591023479
【氏名又は名称】ダイダン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094042
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 知
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 雅一
(72)【発明者】
【氏名】中村 真
(72)【発明者】
【氏名】前野 孝久
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康孝
(72)【発明者】
【氏名】笹木 寿男
(72)【発明者】
【氏名】周 楽
【審査官】
佐藤 正浩
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−300263(JP,A)
【文献】
特開平11−009927(JP,A)
【文献】
特開2002−221464(JP,A)
【文献】
独国特許出願公開第04041635(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリーンブースにおけるエアフィルタの自動リーク試験システムを用いたリーク試験方法であって、
上記クリーンブースには、その天井付近に配設された上記エアフィルタと該エアフィルタの下流方向に配設されたスクリーンメッシュとの間の空間に、当該エアフィルタのリークを検知するセンサを備えたリーク試験装置を着脱可能に取り付け可能なガイドレールが設けられ、上記リーク試験装置は、上記ガイドレール上を走行するための手段をその両端部に備えるとともに、上記センサを該ガイドレールと平行な方向及び直交する方向に走査させる駆動手段を備えている上記クリーンブースにおけるエアフィルタの自動リーク試験システムを用い、
前記センサを前記ガイドレールと平行な方向または直交する方向のいずれか一方向に走査し、該センサが前記エアフィルタのリークを検知した時の当該センサの第1位置座標と、該センサを、当該第1位置座標から該ガイドレールと平行な方向または直交する方向のいずれか他方向に平行移動させて走査し、該センサが該エアフィルタのリークが検知されなくなったところの直前の当該センサの第2位置座標とに基づいて、該エアフィルタのリーク箇所の位置を特定することを特徴とするクリーンブースにおけるエアフィルタの自動リーク試験システムを用いたリーク試験方法。
【請求項2】
前記ガイドレールが着脱可能に設置されるガイドレール保持手段が備えられていることを特徴とする請求項1に記載のクリーンブースにおけるエアフィルタの自動リーク試験システムを用いたリーク試験方法。
【請求項3】
前記ガイドレールの設置間隔は、前記エアフィルタの幅とほぼ同じであることを特徴とする請求項1または2に記載のクリーンブースにおけるエアフィルタの自動リーク試験システムを用いたリーク試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーンブース内の生産機器の邪魔にならずに設置でき、スクリーンメッシュの取り外しも不要であり、さらには、足場の設置も不要なクリーンブースにおけるエアフィルタの自動リーク試験システム及びそれを用いたリーク試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米国食品医薬品局制定による医薬品製造基準(Good Manufacturing Practice:GMP)の適用を受ける製造作業所、保管場所、試験・検査作業所等のクリーンルームでは、空調装置の吹出口に塵等の異物を除去し得る防塵フィルタが設けられている。
【0003】
特に、クリーンルーム内に設けられているクリーンブースは、所定の空気清浄度レベル(例えば、グレードAで、3520個/m
3 (0.5μm)以下)であることが求められており、特に高性能なHEPA(High Efficiency Particulate Air )フィルタが設けられている。
【0004】
かかるクリーンブースでは、バリデーション(Validation)時にHEPAフィルタのリーク試験が行われている。前記GMPに規定するリーク検査法では、検査用センサ(塵捕集プローブ)をフィルタ面から所定の距離(例えば、2.5cm)を保ち、所定の速度(例えば、5cm/秒)で、かつセンサの走査軌跡が部分的に重なるようにしてフィルタ全面を走査しなければならない。
【0005】
これを、図を用いて説明する。
図1は一般的なクリーンブースの縦断面を示す模式図であり、(A)図は通常の状態であり、(B)図は従来の一般的なリーク試験時の状態を示す図である。なお、(A)図におけるスクリーンメッシュは、HEPAフィルタを通過して下方に吹き出す空気の流れを均一化するために設けられているものである。
【0006】
すなわち、(B)図のリーク試験時においては、作業員が棒の先端等にセンサを取付けて、上記条件を満たしつつHEPAフィルタの全面のリーク検査を行うため、スクリーンメッシュを取り外し、生産機器の上に足場を設置しなければならない。
【0007】
このため、ブースが汚損されたりするリスクが生ずるとともに、足場設置等の作業準備の時間、さらには、作業終了後の足場の撤去作業等の時間と費用がかかるという問題がある。また、作業員が手でセンサを走査するため、走査速度を均一とすることが困難で、測定精度や再現性が低下するという問題もあった。
【0008】
かかる作業員によるセンサ走査や、足場設置/解体作業の問題を解決するものとして、センサ(プローブ)をフィルタと平行な面内でXY軸方向に自動的に移動させる面内移動手段(XYテーブル)と、XYテーブルを上下に昇降させる昇降手段と、センサーの測定値に基づいてフィルタ性能を評価する評価手段を一つの台車の上に搭載したフィルタ性能評価装置が提案されている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−253731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、クリーンブース内に台車形式のものを持ち込む場合は、フィルタの場所によっては、生産機器が邪魔になり、台車を移動させることができなかったり、台車を停止させる際にフィルタに対するセンサーの位置合わせを目測で行わなければならない等の問題がある。
【0011】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、クリーンブース内の生産機器の邪魔にならずに設置でき、スクリーンメッシュの取り外しも不要であり、さらには、足場の設置も不要なクリーンブースにおけるエアフィルタの自動リーク試験システム及びそれを用いたリーク試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかるクリーンブースにおけるエアフィルタの
自動リーク試験システムを用いたリーク試験方法は、クリーンブースにおけるエアフィルタの自動リーク試験システム
を用いたリーク試験方法であって、上記クリーンブースには、その天井付近に配設された上記エアフィルタと該エアフィルタの下流方向に配設されたスクリーンメッシュとの間の空間に、当該エアフィルタのリークを検知するセンサを備えたリーク試験装置を着脱可能に取り付け可能なガイドレールが設けられ、上記リーク試験装置は、上記ガイドレール上を走行するための手段をその両端部に備えるとともに、上記センサを該ガイドレールと平行な方向及び直交する方向に走査させる駆動手段を
備えている上記クリーンブースにおけるエアフィルタの自動リーク試験システム
を用い、前記センサを前記ガイドレールと平行な方向または直交する方向のいずれか一方向に走査し、該センサが前記エアフィルタのリークを検知した時の当該センサの第1位置座標と、該センサを、当該第1位置座標から該ガイドレールと平行な方向または直交する方向のいずれか他方向に平行移動させて走査し、該センサが該エアフィルタのリークが検知されなくなったところの直前の当該センサの第2位置座標とに基づいて、該エアフィルタのリーク箇所の位置を特定することを特徴とする。
【0013】
前記ガイドレールが着脱可能に設置されるガイドレール保持手段が備えられていることを特徴とする。
【0014】
前記ガイドレールの設置間隔は、前記エアフィルタの幅とほぼ同じであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るクリーンブースにおけるエアフィルタの自動リーク試験システム及びそれを用いたリーク試験方法にあっては、エアフィルタとスクリーンメッシュの間でリーク試験装置が自走して、センサがエアフィルタ表面の走査を行うため、リーク試験の際にスクリーンメッシュを取り外す必要がなく、また、足場の設置も不要になるという効果がある。また、装置が自動的にセンサを走査するため、走査速度が均一になり、測定精度や再現性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一般的なクリーンブースの縦断面を示す模式図である。
【
図2】本発明に係るエアフィルタの自動リーク試験システムの概要を示す全体の斜視図である。
【
図4】スキャンユニットを含むリーク試験装置の主要部の拡大図である。
【
図5】リーク試験時におけるセンサの実際の動きの一例を示した図である。
【
図6】リーク検知時において、リーク箇所を正確に特定するための方法について説明するための図である。
【
図7】作業員が開閉扉を開けて、リーク検査装置を設置(あるいは撤去)する様子を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るクリーンブースにおけるエアフィルタの自動リーク試験システム及びそれを用いたリーク試験方法の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図2は、本発明に係るエアフィルタの自動リーク試験システムの概要を示す全体の斜視図である。
【0020】
図2において、クリーンブース1には、その天井付近に配設されたHEPAフィルタ2(エアフィルタの実施例)とHEPAフィルタ2の下流方向に配設されたスクリーンメッシュ3との間の空間に、HEPAフィルタ2のリークを検知するセンサを備えたリーク試験装置4がガイドレール5の上に着脱可能に取り付けられている。
【0021】
また、HEPAフィルタ2とスクリーンメッシュ3との間の空間の側壁にはリーク試験装置4を挿入/取り出し可能な挿入口が形成され、開閉扉6が設けられている。
【0022】
さらに、エアロゾル発生器7がクリーンブース1の外部に設置されており、ここで発生させたエアロゾルをクリーンブース内に送り込み、エアロゾル中の微粒子がHEPAフィルタ2を通過する量を測定して、リーク度合いを測定する。一般には、エアロゾルとしてはポリアルファオレフィン(PAO)が用いられている。発生させたPAOはPAO注入口8からクリーンブース1の内部に送り込まれる。PAO濃度測定口9において、HEPAフィルタの上流側の濃度が測定され、PAOの発生量が制御される。
【0023】
ガイドレール5は、ガイドレール保持部10の上に載置されるようになっており、試験を行うHEPAフィルタを変更する際に、ガイドレール5を取り外し、他のHEPAフィルタ2の方のガイドレール保持部10の上に載せることにより、リーク試験装置4も一緒に移動させることが可能となる。ガイドレール5については、取り外し可能にする必要がない場合には、常設の固定式としてもよい。リーク試験装置4の構成については後述する。
【0024】
図3は、リーク試験装置4の構成を示す斜視図である。リーク試験装置4は、センサである吸引プローブ41(以下、単にセンサという。)、センサ41を図の左右方向(Y方向)に移動させるスキャンユニット42、スキャンユニット42全体を図の前後方向(X方向)に移動させるローラ43、ケーブルやチューブを保持し、スキャンユニット42の前後方向への移動に伴って蛇腹のように折れ曲がるコンベア44、コンベア44を保持するコンベアホルダー45、スキャンユニット42及びローラ43の動作を制御するコントローラ46、センサ41で吸引した微粒子の量を計数するパーティクルカウンタ47を含んでいる。なお、センサ41は、平べったいロート状をしている。
【0025】
なお、
図3において、スキャンユニット42及びローラ43の駆動は、スキャンユニット42内に設けられたモータ(図示せず)により行われる。コントローラ46は有線(ケーブル)でスキャンユニット42と接続されているが、無線通信で行ってもよいことは言うまでもない。
【0026】
図4は、スキャンユニット42を含むリーク試験装置の主要部の拡大図である。リーク試験時において、スキャンユニット42は、クリーンブース1内に設置されたガイドレール5の上に載置され、コントローラ46からの指令により、ローラ43が回転してスキャンユニット42がX方向に移動する。また、センサ41はスキャンユニット上をY方向に移動することもできる。
【0027】
図5に基づいて、本発明に係るクリーンブースにおけるエアフィルタの自動リーク試験システムの動作の一例について説明する。
図5は、リーク試験時におけるセンサ41の実際の動きの一例を示した図である。
【0028】
まず始めに、(A)図のように、センサ41を、HEPAフィルタ2の縁に沿って、X方向→Y方向→X方向→Y方向とHEPAフィルタの周上を右回りに一周させる。もちろん、この逆の左回りでもよいことは言うまでもない。こうすることにより、HEPAフィルタの接合箇所からの漏れを検知することができる。
【0029】
次に、(B)図のように、センサ41をX方向に走査し、HEPAフィルタ2の一辺の長さ分だけ走査したら、Y方向にセンサ41を移動させ、再びX方向に走査する。移動する量は、センサ41の横幅よりも若干短い距離が好ましい。検査箇所の漏れをなくすため、走査する箇所を若干オーバーラップさせるためである。なお、センサ41を90度回転させて(C)図のようにY方向に走査してもよい。
【0030】
ここで注意が必要なのは、センサ41は平べったいロート状をしているため、例えば、
図5(B)の走査をしている途中で、パーティクルカウンタの値が基準値を超えた場合(すなわちリークが検知された場合)、HEPAフィルタのリーク箇所は、X方向の位置は特定できるが、Y方向の位置は,詳細には特定できないということである。なお、実際の運用では、リークが検知された場合は、検知される直前の位置までセンサ41を一旦戻して、走査速度を下げて、より精密な測定を行っている。
【0031】
しかしながら、速度を落として、より精密な測定を行ったとしても、センサ41の吸入口がある程度の幅を持っている以上は、Y方向の正確な位置を特定することはできない。
【0032】
図6は、リーク検知時において、リーク箇所を正確に特定するための方法について説明するための図である。
図6(a)では、まず、通常時(リークが検知されるまでの間)は、
図5(B)のようにセンサ41を走査し、リークが検知された時のX方向の位置(X座標)を記憶する。
【0033】
次に、センサ41を90度回転させ、
図5(C)のようにセンサ41を走査し、リークが検知された時のY方向の位置(Y座標)を記憶する。その結果、座標(X,Y)で特定される箇所が、HEPAフィルタ2におけるリーク箇所となる。これにより、リーク箇所の補修が容易となる。
【0034】
図6(b)には、別の方法が示されている。センサ41を90度回転することに代えて、センサ41を横方向にスライドして平行移動させる。センサ41をスライドさせるやり方としては、ローラ43でスキャンユニット42をX方向に移動しているときには、スキャンユニット42によりY方向へ平行移動させ、他方、スキャンユニット42でY方向に移動しているときには、ローラ43によりX方向へ平行移動させればよい。また、スキャンユニット42に対してセンサ41自体を平行移動してもよい。リークが検知されたX方向の位置(X座標)を基準として、センサ41を横方向にスライドして平行移動させていき、この移動過程で、リークが検知されなくなったところの直前の位置がY方向におけるリークの位置(Y座標)となるので、このようにしてHEPAフィルタ2のリーク箇所を判定するようにしてもよい。
【0035】
図7は、作業員が開閉扉6を開けて、リーク検査装置4を設置(あるいは撤去)する様子を示した図である。このように、リーク検査装置を着脱自在な形態にすることにより、1台のリーク検査装置で複数のクリーンブースのリーク試験の実施が可能となり、リーク試験装置の導入コストを大幅に削減することができる。また、クリーンブースの側壁側からリーク試験装置の出し入れが可能なため、リーク試験の実施時にスクリーンメッシュを外す必要がなくなり、作業時間が短縮される。
【符号の説明】
【0036】
1 クリーンブース
2 HEPAフィルタ
3 スクリーンメッシュ
4 リーク試験装置
5 ガイドレール
6 開閉扉
7 エアロゾル発生器
8 PAO注入口
9 PAO濃度測定口
10 ガイドレール保持部
41 センサ(吸引プローブ)
42 スキャンユニット
43 ローラ
44 コンベア
45 コンベアホルダー
46 コントローラ
47 パーティクルカウンタ