(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、船体のバランスをとるための錘および錘を船体内外において移動させる機構を設けるため、船体構造が複雑化し、建造コストが嵩む。特許文献2の技術では、潮流による船体の移動に伴うクレーンの移動を補償することができない。特許文献3および非特許文献1の技術では、水深や海底の状況等によっては使えない場合がある。また、外洋等の潮流による影響が大きい作業環境においては、揺動抑制が十分とはいえない場合もある。
本発明は、船体構造の複雑化を招くことなく、船体に設置された起重機の揺動に対する抑制力を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一の態様において、船体と、前記船体の位置および向きのうち少なくともいずれかを変更する
第1船体制御機構と、
前記船体のローリングまたは前後方向の傾きを制御する第2船体制御機構と、クレーンと、前記船体の位置を計測する
位置センサと、
前記クレーンが設置される台座と、当該台座の姿勢を計測する傾斜センサと、伸縮機構
とを有し、前記クレーンの前記船体に対する姿勢が可変になるように、前記クレーンを前記船体に対して支持する支持部と、前記
位置センサから出力された情報に基づいて前記
第1船体制御機構を制御し、
前記傾斜センサから出力された情報に基づいて前記伸縮機構を制御する制御部とを備え
、前記制御部は、前記台座の傾斜が前記伸縮機構の補正能力を超えた場合に、前記第2船体制御機構を作動させる、ことを特徴とする起重機船を提供する。
好ましい態様において、前記伸縮機構は前記台座と前記船体との間に少なくとも3つ以上設けられ、前記クレーンの姿勢が水平に維持されるように前記伸縮機構を制御する。
他の好ましい態様において、前記
制御部は、前記クレーンの基準面からの高さが一定に維持されるように前記伸縮機構を制御する。
他の好ましい態様において、前記
第1船体制御機構は、前記船体の前後方向に推進力を生じさせる第1推進装置と前記船体の横方向に推進力を生じさせる第2推進装置とを備える。
他の好ましい態様において、前記船体の挙動を計測する
挙動センサを更に備え、前記制御部は、該
計測された挙動に基づいて、前記第1推進装置および前記第2推進装置の少なくともいずれかを制御する。
他の好ましい態様において、前記制御部は、前記船体についての目標位置および目標向きが実現するまで、
前記第1船体制御機構の制御を繰り返し実行し、当該実行のタイミングを前記挙動に基づいて決定する。
本発明は、他の観点において、船体と、
前記船体の位置および向きのうち少なくともいずれかを変更する第1船体制御機構と、前記船体のローリングまたは前後方向の傾きを制御する第2船体制御機構と、クレーンと、前記船体の位置を計測する
位置センサと、
前記クレーンが設置される台座と傾斜センサと伸縮機構
とを有し、前記クレーンの前記船体に対する姿勢が可変になるように前記クレーンを前記船体に対して支持する支持部とを有する起重機船において、
前記船体の位置を計測するステップと、前記台座の姿勢を計測するステップと、前記位置センサから出力された情報に基づいて前記第1船体制御機構を制御するステップと、前記傾斜センサから出力された情報に基づいて前記伸縮機構を制御し、前記台座の傾斜が前記伸縮機構の補正能力を超えた場合は、前記第2船体制御機構を作動させるステップとを有する揺動抑制方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、船体構造の複雑化を招くことなく、船体に設置された起重機の揺動に対する抑制力が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は海面に浮かんだ状態の起重機船1を、向かって船首が左、船尾が右となるように側面(Y方向)から見た図である。
図2は、起重機船1を上から(Z方向)見た図である。
図1、2を用いて、起重機船1の構造の概略を説明する。起重機船1は、構造的に大別すると、船体10、船体制御機構20、支持部30、クレーン部40からなる。
船首側にある操舵室付近にGNSS受信機11が設けられる。操舵室には、制御部(
図2参照)が設けられ、GNSS受信機11から出力された情報に基づいて船体制御機構20が制御される。船体制御機構20は、スクリュー21、サイドスラスター22(22a,22b)、ウインチ23a〜23dを含み、船体10の位置や向きを変更する。
支持部30は、船尾側に設けられ、センサ31と、台座45を船体10に指示するためのジャッキ32を有する。ジャッキ32により、クレーン部40は船体10に対する姿勢が可変になるように、船体10に支持される。ここで、クレーン部40は姿勢が変化してもその中心位置(水平面内の位置)は船体10の水平面内の位置に対して不変である。
クレーン部40は、台座45に固定されたクレーンであって、フック41、ジブ42、ワイヤロープ43、旋回ポスト44を含む。クレーン部40は、ワイヤロープ43およびジブ42による荷吊の上げ下げ、旋回ポスト44を中心とした旋回を行う一般的なクレーンとしての機能を有する。ただし、本実施例のクレーン部40はあくまで船体10に設置される作業のための構造体の例示であって、このタイプのクレーン以外のクレーンであってもよいし、荷吊作業以外の作業を行うための重機であってもよい。
【0010】
図3を用いて起重機船1の機能について詳細に説明する。
起重機船1は、機能的に、制御部100、監視部110、駆動部120、記憶部130、入出力部140を含む。
監視部110は、GNSS受信機11およびセンサ31を含む。GNSS受信機11は、全地球航法衛星システム(global navigation satellite system;GNSS、慣用的にGPSと呼ばれる場合もある)からの電波を受信するためのアンテナおよび受信した信号を処理する回路等を有する。GNSS受信機11は、定期的に衛星からの電波を受信し、受信した電波に基づいて船体10の現在位置を計測する。より具体的には、船体10の位置(正確にはGNSS受信機11が設けられた位置)の座標(緯度、経度)および方位(船体10の向き)を計測する。センサ31は、傾斜センサ111および加速度センサ112を含む。傾斜センサ111は、例えばジャイロセンサであって、台座45(換言するとクレーン部40全体)の姿勢(基準面(例えば水平面)に対する傾き)を計測する。計測された情報は制御部100に供給される。加速度センサ112は、例えば加速度センサや速度センサであって、船体10の動き(速度や向き、その他の挙動)を計測する。これらの計測された情報は制御部100に出力される。
【0011】
駆動部120は、伸縮機構125および船体制御機構20を含む。
伸縮機構125は、それぞれが油圧等によって独立に動作可能な3つのジャッキ32および各ジャッキの伸縮を制御する回路等を備える。各ジャッキ32が伸縮することで、台座45と船体10との間の距離や台座45の姿勢が変化する。船体制御機構20は、主推進装置122、補助推進装置123、およびウインチ23を含む。主推進装置122、補助推進装置123、ウインチ23は独立に制御可能である。
主推進装置122は、エンジン等の動力発生機構、シャフト等の動力伝達機構(いずれも図示省略)、およびスクリュー21等を含み、船体10に対して実質的に前後方向に推進力を発生させる推進機構およびスクリュー21の後方に設けられた舵(図示省略)等の方向調整機構を含む。主推進装置122は長距離を移動するのに適している。
補助推進装置123は、船首および船尾にそれぞれ設けられ、船体10の船首の横方向に設けられた空洞、および当該空洞に設けられたスクリューやシャフト等を含むサイドスラスター22であって、船体10に対して実質的に横方向の推進力(回転力)を発生させる。サイドスラスター22は、位置の微調整や(その場での)向きの調整に適している。なお、「横方向」というのは船体に対して真横だけを意味するのではなく、斜め方向を含む意味である。
ウインチ23は巻き取り機であって、船体10の側面4箇所にアンカーによって海底に固定され又は所定の方法で他の作業船や陸上または海上の構造物に固定されたロープを巻き揚げるまたは緩めることによって、船体10の位置や向きを調整する。ウインチ23は船体10の位置や向きの微調整に適している。なお、ウインチ23の設定場所や数は
図2に示された例に限らない。
船体制御機構20は、上述した機構以外を含んでいてもよい。要するに、ここでいう「推進」とは排水によって得られる推進力のみを意味するのではなく、船体10を動かすための力を生じさせるものであればよい。
【0012】
記憶部130は、半導体メモリやハードディススク等の記憶装置である。記憶部130には、船体10の航行に必要な制御を行うための情報や制御部100において実行される各種制御プログラムが格納される他、クレーン部40の挙動を安定化させるための制御を行うために用いられる目標座標d1、推進特性データd2、制御条件データd3が記憶される。
目標座標d1は、作業を行う際に目標となる水平面内の船体10の位置座標(結果的に船体10に固定されているクレーン部40の位置座標)を含む。座標データは例えば(緯度、経度)の形式を有する。水平面内の位置(2次元位置)加えて、高さ方向の位置(つまり3次元位置)を含んでいても良い。
推進特性データd2は、スクリュー21、サイドスラスター22、ウインチ23のそれぞれについての特性(性能)を表すデータである。特性とは、船体10の位置や向きを変化させるための機構としての特性であって、例えば、単位時間当たりに発生可能な推進力や回転力(トルク)の大きさやそれらの力の発生までに要する時間(タイムラグ)などによって特徴付けられる。船体10の位置や向きをどのように変化させるのかによって要求される特性が異なる。そのため、本実施例では、特性が異なるスクリュー21、サイドスラスター22、ウインチ23のうち1以上を選択的または連携させて作動させる。
【0013】
制御条件データd3は、目標座標d1、推進特性データd2以外に、船体10の位置や向きの制御内容を決定するために用いられる情報である。例えば、位置や向きの補正を行うか否かの基準となる、目標位置や向きまでのずれの情報を含む。目標値に対して許される誤差(例えばx座標、y座標のそれぞれについて±15cm)は作業環境や作業内容に応じて異なり、許容範囲内の状態にあるのに補正しても意味がない場合もある。また、そもそも船体制御機構20の能力や潮流等の影響によって、微調整可能な量には下限があり、下限以下のずれに対して補正を実行しても、有意な効果が得られない。加えて、補正をどのようなタイミングで実行するかを規定する情報を含んでいてもよい。1回の補正で目標の状態に到達することが難しい場合、細い補正量で複数回補正を行い、徐々に目標値に近づけるのが好ましい。この際、各補正の実行タイミング(繰り返しタイミング)をどのように設定するのかを規定する。
さらに、制御条件データd3には、クレーン部40の姿勢や高さの制御で用いられるパラメータを格納してもよい。例えば、姿勢の補正が許容される範囲(例えば傾斜が水平面±0.5°)や、姿勢制御を実行するための条件(例えば傾斜が水平面に対して±1°)といった情報である。
【0014】
制御条件データd3には、加えて、潮流や波浪などの気象条件その他の環境要因に関する情報など、船体10やクレーン部40の位置やそれぞれの姿勢に影響を与えうる要因についての情報を含ませてもよい。これらの情報は、独立に用いられても良いし、相互に関連してもよい。例えば、有義波高と繰り返しタイミングとを対応付けてもよい。あるいは、船体10の挙動と、繰り返しタイミングや許容範囲とを対応付けてもよい。これにより、例えば、潮流等の影響により船体10の挙動が激しい(不安定な)場合は、繰り返しタイミングを短くしてずれが大きくならないように細かく補正を行う一方、ずれの許容範囲が大きく、船体10の挙動が安定しているような場合は、船体制御機構20の作動回数を減らして位置や向きの補正に要する燃料消費を抑えるといった内容の制御を実現することができる。
【0015】
入出力部140は、ディスプレイ等の情報出力装置やキーボード等の情報入力装置であって、船体10を制御するユーザが制御部100に対して情報や指示の入力を行う一方、制御部100で実行された処理結果を表示する。
【0016】
制御部100は、CPU等の演算処理装置によって実現され、船体10の通常の航行等を制御するほか、監視部110から船体10の位置や向きおよびクレーン部40の姿勢や高さを制御する。具体的には、監視部110から取得した情報に基づいて、駆動部120の制御内容を決定する。なお、以下で説明する船体10に対する制御(船体10の位置および向きの制御)と支持部30(クレーン部40)の制御(高さおよび姿勢(傾き)の制御)とは、独立して行ってもよいし、互いの制御内容を関連付けてもよい。例えば、船体10の補正とクレーン部40の補正の実行タイミングを同期させてもよいし、共通の制御パラメータ(繰り返しタイミングをなど)を用いても良い。
【0017】
船体10の位置や向きについての制御に関し、制御部100は以下の機能を有する。
GNSS受信機11から船体10の位置情報を取得し、目標座標d1と比較して目標位置からのずれを計算する。制御条件データd3から補正幅を読み出して位置の補正を実行する必要があるかを判定する。目標までの位置や向きについての補正の内容を決定する。具体的には、監視部110から取得した情報に基づいて、船体10の現在の挙動や向きを決定し、目標までの経路や方向転換の手順、各位置における速度、進行(旋回)方向等の情報を含む補正内容を策定する。
移動経路および方向転換について内容が決まると、当該内容に適した推進制御内容を、推進特性データd2を参照して計算する。そして、算出した推進制御内容に従って各種スクリューの回転速度やウインチ23の巻き上げ速度等の指示を船体制御機構20に出力することによって、駆動部120を作動させる。
【0018】
クレーン部40の姿勢の制御に関し、制御部100は以下の機能を有する。
傾斜センサ111で取得した情報に基づいて、ジャッキ32を制御する。具体的には、台座45の傾斜(水平面からの傾き)が所定以上あるかを判定し、所定以上ある場合は補正が必要と判断し、補正量を決定する。具体的には、傾きの状態に基づいて3つのジャッキのそれぞれについて伸縮量を決定し、決定した伸縮量が実現するように油圧等を調整するための信号を伸縮機構125に供給する。また、クレーン部40の姿勢を補正する内容としては、所定の基準面(例えば水平面)に対する傾斜をゼロにするというものことに加え、所定の基準面に対する台座45の高さ(より正確には台座45の中心(クレーンの旋回軸に一致する位置)の高さ)を一定に維持するという制御を行ってもよい。この場合、制御部100は台座45の高さの情報を取得する。具体的には、加速度センサ112でZ方向の加速度を検出させ、この加速度に基づいて高さを算出する。あるいは、3次元座標を取得するGNSS受信機11を台座45に設けて台座45の高さを取得してもよい。
【0019】
なお、船体10はクレーン部40の旋回、上げ下げ、巻き取りといったクレーン自体の制御機構や、航行に必要な機能を備えているが、本発明とは直接関係ないので、説明は省略する。すなわち、本実施例においては、船体10の位置や向き、およびクレーン部40の姿勢や高さの補正に直接関係する点に絞って説明する。
【0020】
図4に船体10の制御例を表す。
制御部100は、所定時間(制御条件データd3で規定された繰り返しタイミングなど;例えば支持部30秒)が経過したかを判定する(S102)。所定時間が経過すると(S102、YES)、制御部100は監視部110で計測された現在の水平面内の位置(2次元座標)を取得する(S104)。制御部100は位置情報を取得すると、目標座標d1を参照して現在位置と目標位置とのずれを計算する(S106)。続いて、制御部100は、制御条件データd3を参照し、算出したずれに対して補正を実行する必要があるかを判定する(S108)。補正が必要な場合(S108、YES)、監視部110において所定期間の間サンプリングされた船体10の加速度を取得し(S110)、取得した加速度の時間変化に基づいて速度(の当該期間における平均値)および移動した距離を計算する(S112)。船体10の現在速度を算出するのは、補正内容を決定する際に潮流や波浪の影響を考慮するためである。移動距離を算出するのは、センシング終了時から駆動部120の作動開始までの間のタイムラグを考慮して現在位置を補正することで制御の正確性を向上させるためである。続いて、制御部100は、監視部110から船体10の現在の向きを取得する(S114)。こうして算出した目標位置までの距離、方位、船体10の現在の向き、現在の挙動に基づいて、目標位置に対する補正の内容を策定する(S116)。補正の内容には、例えば、目標位置までの移動予定の経路や経路上の各地点における速度や向きが含まれる。
【0021】
図5に、
図4のS116で策定された移動経路および向きの変化を概念的に示す。補正された現在地点L0から目標位置Lxまで移動するために策定された経路がP2である。潮流Tcの影響(および向きを変更する必要性)のため、この例では最短距離の経路P1ではなく曲線的な経路が決定されている。
具体的には、第1回目の補正において、目標に対してθの角度の方向に速度v1で所定時間移動し、そこから補正をもう1度回行ってL2地点に到達し、更に補正をもう1度回行ってLx地点に到達し、最後に向きのみの補正(その場での方向転換)を行うという内容が決定される。なお、必ずしも目標位置までの経路(位置変更の手順)や向きの変更の手順を策定する必要はない。要するに、一回の補正によって位置や向きの変更を実現させるのに必要な、(a)速度と進行方向および/または(b)方向転換の角度が少なくとも決定されればよい。
【0022】
図4に戻り、制御部100は、策定した補正内容を基づいて、推進特性データd2を参照し、船体制御機構20をどのように制御するか(推進制御方法)を決定する(S118)。例えば、
図5において、L0〜L2までの移動については主推進装置122のみを作動させ、L2〜Lxの移動は主推進装置122と補助推進装置123を併用し、最後の補正は補助推進装置123のみを用いるといった具合である。制御部100は、決定した推進制御方法に従って駆動部120を制御する(S120)。同時に時間を計測する。
繰り返しタイミングが到来すると、第2回目の補正が行われる。ここで、目標まで移動経路が策定されている場合、第2回目以降の補正においては、環境要因等の変化により当初の策定計画からずれが生じている可能性があるが、問題はない。再度、現在位置の計測を行い、現在位置に基づいて補正内容が再度策定され、策定内容に基づいて推進装置が制御される(S104〜S120)。こうしてずれの許容範囲以内に入り補正が不要となると(S108;NO)、以後、再度補正が必要となるまで、現在位置の計測とずれの算出が繰り返えされることになる。
【0023】
上述した補正内容の策定は例示に過ぎず、例えば船体10の現在の挙動に関する情報の取得は省略してもよい。例えば、潮流の影響もなく、実質的に現在静止しているとみなせる場合、目標位置までの距離と方向のみを計算できればよい。また、船体10位置および向きのいずれか一つのみ補正対象としてもよい。例えばクレーンの位置さえ一定であれば、船体10の向きは変化しても構わないという条件がある場合は船体10の向きを補正する必要はない。一方、向きについては変動するが位置についてはロープ等の固定手段によって実質的に変化しないという状況の場合、向きのみを補正対象とする。
【0024】
図6は支持部30の制御の例を表す。
制御部100は、予め設定された所定時間(繰り返しタイミング;例えば1秒)が経過したかを判断する(S202)。所定時間が経過すると、傾斜センサ111からの情報を取得して台座45の現在の姿勢を決定する(S204)。台座45の姿勢が予め設定された許容範囲内であるかに基づいて、補正の必要性を判定する(S206)。補正の実行が必要な場合は(S206:YES)、台座45を水平にするために必要な各ジャッキについての伸縮量を計算し、伸縮量を表す制御信号を伸縮機構125に供給する(S208)。
【0025】
この実施例によれば、クレーン部40の位置とクレーン部40の姿勢とが一定の状態に維持される。シミュレーションの結果、例えば、同一サイズの一般的な起重機船を想定した場合、安全に荷吊作業ができる限界の有義波高(作業限界波高という)が0.5メートルと仮定すると、上記実施例を用いた場合の作業限界の有義波高は1.5mとなることが明らかになった。逆に、ある気象条件の港において、1年に3%しかクレーン船を稼働させることができないとしても(つまり稼働率は3%)、上述の通り、従来の3倍の作業限界波高を有する上記実施例の起重機船によれば、稼動率は70%に達する。
このように、上記実施例の起重機船は、作業限界波高が従来よりも大きいので、荷吊作業を行うことができる海域や気象条件についての制約が従来に比べて少なくなる。逆に、作業環境が同一であれば稼働率が向上する。
また、本実施例によれば、ロープやワイヤ等を用いて海底その他の構造物に固定することが困難な環境であっても、荷吊作業を行うことができる。さらに、錘を用いた制振機構を採用していないので、船体構造が複雑にならず、且つ錘や錘を移動させるためのスペースを確保するという構造上の制約もないので、建造コストの抑制、船体設計の自由度が増す。特に大型船にはサイドスラスター等の推進装置が備わっていることが通常であるので、クレーンの船体に対する位置を補正するためだけに使用される移動機構を設ける必要もない。
【0026】
<変形例>
上記実施例は適宜変形してもよい。以下、変形を行う際の観点を例示する。
図7は起重機船1Aの側面図である。起重機船1Aは、支持部30に替えて支持部30Aを用いる。支持部30Aは、伸縮機構125として、ジャッキ32に替えて、各々対向する一対のジャッキ33aおよび一対のジャッキ33bを備える。各ジャッキ33aおよびジャッキ33bは正方形の4頂点に配置される。すなわち、台座45と船体10とは計4つのジャッキによって支持され、各ジャッキは2つの支持部材が接続点Rで回転可能に接合中心に接合されることによって形成されている。各ジャッキは、結合角度を変えることで船体10と台座45までの距離を各々変える。これにより、船体10に対する台座45の姿勢が変化する。
【0027】
伸縮機構125として採用する支持機構は、油圧シリンダー等を用いた液体作動式に限らず、機械式、空気式であってもよい。また、制御部100からの指示を受け付ける機能を有さず、ジャッキの姿勢の変化に起因した液体の圧力変化や弾性変形に起因した復元力等を利用して水平状態を維持するダンパ機構を備えてもよい。
【0028】
船体10にローリング(右舷−左舷方向の運動)を抑制するための機構や、前後(船首−船尾)
方向の傾きを補正するための機構を設け、台座45の傾斜が伸縮機構125で実現できる補正能力を超えている場合、これらの機構を、伸縮機構125に替えてまたは伸縮機構125とともに、作動させてもよい。
【0029】
上記実施例に主推進装置122、補助推進装置123、およびウインチ23は、船体10の位置や向きを変化させるための手段の一例にすぎない。特性の異なる複数の船体制御機構を有している必要は必ずしもない。あるいは、複数の船体制御機構を有する場合であっても、推進や方向転換の機能を実現するために、主・従(補助)の機能的役割が明確に定められている必要はない。例えば、補助推進装置123として、船体底部の四隅付近に、プロペラとこのプロペラの向き(排水によって推進力を生み出す方向)を360°自在に変更可能な機構とを設けることにより、船体の位置(中心位置)および船体の向きの少なくともいずれかを制御してもよい。この場合、他の推進装置を省略してもよいし、他の推進装置と協働して船体の位置や向きを制御してもよい。
要は、本発明の起重機船は、船体と、前記船体の位置および向きの少なくともいずれかを変更する船体制御機構と、クレーンと、前記船体の位置を計測するセンサと、伸縮機構を有し、前記クレーンの前記船体に対する姿勢が可変になるように、前記クレーンを前記船体に対して支持する支持部と、前記センサから出力された情報に基づいて前記船体制御機構を制御する制御部とを備えていればよい。