【文献】
服部健雄,シリコンの自然酸化膜,表面技術,日本,一般社団法人 表面技術協会,1994年,Vol.45,No.1,p.12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一導電型単結晶シリコン基板の一方の面に第1真性シリコン系層、逆導電型シリコン系層、および第1透明導電層をこの順に有し、前記一導電型単結晶シリコン基板の他方の面に第2真性シリコン系層、一導電型シリコン系層および第2透明導電層をこの順に有する結晶シリコン系光電変換装置であって、前記一導電型単結晶シリコン基板は、表面に酸化膜を有し、
前記一導電型単結晶シリコン基板の側面に、前記一導電型単結晶シリコン基板側から、前記酸化膜、逆導電型シリコン系層および一導電型シリコン系層がこの順に形成されている、結晶シリコン系光電変換装置。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態の一例を、
図1に示した結晶シリコン系光電変換装置の模式的断面図を用いて説明する。なお、本発
明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0028】
図1の結晶シリコン系光電変換装置において、一導電型単結晶シリコン基板1(以下、基板、単結晶シリコン基板ともいう)の一方の面に第1真性シリコン系層2、他方の面に第2真性シリコン系層4が形成されている。第1真性シリコン系層2および第2真性シリコン系層4のそれぞれの表面には、逆導電型シリコン系層3および一導電型シリコン系層5が形成されている。逆導電型シリコン系層3および一導電型シリコン系層5のそれぞれの表面には、第1透明導電層6および第2透明導電層8が形成されている。
図1においては、光入射側および裏面側の両方に集電極7,9が形成されている。
【0029】
本発明における結晶シリコン系光電変換装置の製造方法は、一導電型単結晶シリコン基板を準備する基板準備工程と、前記一導電型単結晶シリコン基板表面の酸化膜を除去する酸化膜除去工程と、前記一導電型単結晶シリコン基板を製膜装置に導入する製膜装置導入工程Aと、前記第1真性シリコン系層2
または前記第2真性シリコン系層4の一方を形成するシリコン系層形成工程Aと、前記一導電型単結晶シリコン基板を反転させる工程と、前記第1真性シリコン系層2
または前記第2真性シリコン系層4の他方を形成するシリコン系層形成工程B
を有する。
【0030】
また前記第1真性シリコン系層上に逆導電型シリコン系層を形成する工程と、前記第2真性シリコン系層上に一導電型シリコン系層を形成する工程をこの順に有する。さらに、前記酸化膜除去工程から前記製膜装置導入工程Aまでの環境における、水蒸気量WA(g/m3)と暴露時間(分)の積で定義される水蒸気暴露量WtAが12g・分/m3以上165g・分/m3以下を満たす。
【0031】
以下に本発明における結晶シリコン系光電変換装置の製造方法の一実施形態を、
図2を用いて説明する。
【0032】
まず(A)の基板準備工程にて一導電型単結晶シリコン基板1を準備する。この際、基板1の表面には、
シリコン酸化膜11a(酸化膜11aともいう)が形成されている。その後、(B)の酸化膜除去工程にて酸化膜を除去する。なお、本発明においては、酸化膜が形成された基板を酸化膜付き基板11、酸化膜除去工程後の基板を酸化膜なし基板12、これらのいずれかを一導電型単結晶シリコン基板1という(シリコン基板1または基板1ともいう)。
【0033】
このように酸化膜を除去した基板1を、(C)の製膜装置導入工程Aにより製膜装置に導入し、真空にした後、(D)のシリコン
系層形成工程Aにより
、前記基板1の一方の面に、第1真性シリコン系層2を形成する。本実施形態においては、シリコン
系層形成工程Aにおいて、第1真性シリコン系層2上に逆導電型シリコン系層
3を形成している。その後、(E)の基板取出し工程Aにより、製膜装置から取り出し、(E)の基板反転工程により、基板1を反転させる。
【0034】
そして(G)の製膜装置導入工程Bにより、製膜装置に基板を導入して真空にし、(H)のシリコン系層形成工程Bにより、反転させた他方の面を製膜面として、前記第2真性シリコン系層
4を形成する。また本実施形態においては、シリコン
系層形成工程Bにおいて、第2真性シリコン系層
4上に一導電型シリコン系層5を形成している。その後、(I)の基板取出し工程Bにより、基板を製膜装置から取り出す。
【0035】
まず、一導電型単結晶シリコン基板1について説明する。一般的に単結晶シリコン基板は、シリコンに対して電荷を供給する不純物を含有しており、導電性を有している。このような不純物を含有する導電型単結晶シリコン基板としては、Si原子に対して電子を導入する不純物(例えば、リン原子)を含有するn型単結晶シリコン基板と、Si原子に対して正孔を導入する不純物(例えば、ホウ素原子)を有するp型単結晶シリコン基板とがある。すなわち、本明細書における「一導電型」とは、n型またはp型のいずれか一方であることを意味する。
【0036】
このような一導電型単結晶シリコン基板が光電変換装置に用いられる場合、単結晶シリコン基板へ入射した光が最も多く吸収される入射側のへテロ接合が逆接合であることが好ましい。光入射側のヘテロ接合が逆接合であれば、強い電場が設けられ、電子・正孔対を効率的に分離回収することができる。一方で、正孔と電子とを比較した場合、有効質量および散乱断面積の小さい電子の方が、一般的に移動度が大きい。以上の観点から、本発明において用いられる一導電型単結晶シリコン基板1は、n型単結晶シリコン基板であることが好ましい。
【0037】
このようにn型単結晶シリコン基板が用いられる場合の結晶シリコン系光電変換装置の構成例としては、光入射側から、集電極7/透明導電層6/p型シリコン系層3/真性シリコン系層4/n型単結晶シリコン基板1/真性シリコン系層4/n型シリコン系層5/透明導電層8/集電極9をこの順に有するものが挙げられる。当該形態においては、n型シリコン系層(n層ともいう)側を裏面側とすることが好ましい。光閉じ込めの観点から、単結晶シリコン基板の表面にはテクスチャ(凹凸構造)が形成されていることが好ましい。
【0038】
上述のように、一導電型単結晶シリコン基板1は、通常、大気雰囲気下においては、
図2(A)のように、表面に厚い酸化膜11aが形成された酸化膜付き基板11として存在するため、この酸化膜11aを(B)の酸化膜除去工程にて除去する。酸化膜を除去する方法としては、特に限定されないが、酸により除去することが好ましく、HF溶液を用いることがより好ましい。
【0039】
上記のようにして酸化膜を除去した酸化膜なし基板12を用い、(C)のように製膜装置に導入し、真空にする。その後、(D)のシリコン系層形成工程Aにてシリコン系層を製膜する。
【0040】
ここで、従来では、一導電型単結晶シリコン基板表面の酸化膜は、出来る限り無い方が好ましいと考えられてきた。すなわち酸化膜除去工程後の水分すなわち水蒸気暴露量を出来る限り少なくして酸化膜の形成を抑制することで、変換効率が向上すると考えられてきた。これは、水蒸気暴露量を少なくすることにより、厚いシリコン酸化膜の形成が抑制され、界面欠陥の生成や導電率の低下が抑えられているためと推定される。
【0041】
また特許文献1のように、n型単結晶シリコン基板を用いた場合の基板表面におけるn/p/nの逆接合形成を防ぐ観点から、n型シリコン系層→p型シリコン系層の順に製膜することが好ましいとされてきた。
【0042】
しかしながら、本発明のように、所定の水蒸気暴露量の雰囲気にさらした基板を用い、かつ、後述のように、p型シリコン系層→n型シリコン系層の順に製膜することがより好ましいことが明らかとなった。すなわち、n型単結晶シリコン基板を用いた場合、酸化膜除去工程後に、ある程度水蒸気暴露量の多い環境下にさらした後に、p型シリコン系層とn型シリコン系層とをこの順に製膜することにより、変換効率を向上できることを見出した。
【0043】
ここで、一般的に、単結晶シリコン基板と、非晶質や微結晶のシリコン系薄膜と、の間には、エピタキシャル成長が起こりやすい。ここでエピタキシャル成長とは、単結晶基板上に結晶方位が揃った単結晶の薄膜が成長する現象であり、単結晶シリコン基板上にシリコン系薄膜を製膜する場合は結晶質シリコンが成長する傾向がある。
【0044】
一般的に、エピタキシャル成長が起きると、例えば非晶質シリコン系薄膜を用いた場合、結晶/非結晶界面の界面特性が低下してVocが低下し、それに伴いFFも低下すると考えられている。これに対し本発明では、結晶/非結晶(すなわち単結晶シリコン基板/非晶質シリコン系層)の界面に所定の酸化膜を有することで、欠陥密度を抑制でき、それに伴い、VocやFFが向上し、変換効率が向上すると推測される。
【0045】
図3に示すように、酸化膜を除去した酸化膜なし基板12を、所定の水蒸気暴露量の環境下にさらすことにより、一導電型単結晶シリコン基板の表面に非常に薄いシリコン酸化膜11bが形成される(
図2には図示せず)。すなわち結晶シリコン基板とその上に形成するシリコン系層との界面に薄い酸化膜が介在する
ことになり、シリコン系層として特に非晶質シリコン系層を用いた場合、前記酸化膜が、シリコン系層のエピタキシャル成長による結晶化を阻害しているためと推定される。
【0046】
これは、上述のように、特許文献2の、第一から第二光電変換素子への不純物の混入を抑制するために、第一・第二光電変換素子
間に酸化膜を形成した薄膜系の光電変換装置とは大きく異なる。
【0047】
本発明における酸化膜の厚みは、2Å以上10Å以下が好ましい。より変換効率を向上させる観点からは、8Å以下がより好ましく、6Å以下がさらに好ましい。また生産性の観点から、3Å以上がより好ましく、4Å以上がさらに好ましい。
【0048】
本発明において、前記酸化膜除去工程から前記製膜装置導入工程Aまでの環境における、水蒸気
量W
A(g/m
3)と暴露時間(分)の積で定義される水蒸気暴露量W
tAが12g・分/m
3以上165g・分/m
3以下が好ましく、80g・分/m
3以上130g・分/m
3以下がさらに好ましい。水蒸気暴露量W
tAを上記範囲にすることにより、結晶質シリコン基板上に薄い酸化膜を介在させる
ことが可能となり、該酸化膜付き基板を用いる
ことで結晶シリコン系光電変換装置の高性能化が期待できる。
【0049】
また特許文献6のように、硝酸による酸化膜の形成などの別途の工程も不要となり、通常の工程の段階で酸化膜を形成できるため、生産性の観点からも好ましい。また特許文献6のような化学的酸化膜では、酸化膜形成速度が速く、酸化膜形成に伴い欠陥等が生じ易いと考えられる。一方、本発明のよう
な自然酸化膜は、化学的酸化膜に比べて緩やかに形成されるため、欠陥等も生じにくいと考えられる。
【0050】
また本発明において、前記酸化膜除去工程後から製膜装置に導入する製膜装置導入工程Aまでの環境における水蒸気量W
Aは、6.0g/m
3以上11.0g/m
3以下が好ましい。
【0051】
本発明における「水蒸気量」とは、雰囲気中における温度をT(℃)、温度Tにおける飽和水蒸気量をa
T(g/m
3)、その雰囲気における湿度(相対湿度)をRH(%)としたとき、
水蒸気量(g/m
3)=相対湿度RH(%)×飽和水蒸気量a
T(g/m
3)/100
を意味する。
【0052】
なお、本発明においては、酸化膜除去工程から製膜装置導入工程Aまでの環境における温度をT
A、基板取出し工程Aから製膜装置導入工程Bまでの環境における温度をT
Bという。
【0053】
W
Aを6.0g/m
3以上11.0g/m
3以下とすることにより、単結晶シリコン基板表面に、厚い酸化膜が形成されることに伴う、界面欠陥の増加等の界面特性低下を抑制することが可能となる。変換効率をより向上させる観点から、前記水蒸気量W
Aは、8.0g/m
3以上がより好ましく、また10.0g/m
3以下がより好ましい。
【0054】
なお、酸化膜の厚み(すなわち酸化膜の形成し易さや、形成し難さ)は、上記の条件以外に、酸化膜除去工程から製膜装置導入工程Aまでの環境における水蒸気暴露量や温度など
により調整することができる。
【0055】
上記環境下の温度T
Aや、さらす時間t
Aは、適宜設定しうるが、例えば、20〜30℃程度の室温付近の環境下にさらした場合、t
A=1〜10分程度が好ましく、1〜6分程度が好ましい。室温付近の環境下においては、t
Aを10分以下にすることで、酸化膜が厚くなりすぎず、太陽電池特性を向上することができる。またこの場合、生産性の観点から、t
Aは1分以上が好ましい。
【0056】
本発明においては、
図2(C)の製膜装置導入工程Aの後、真空にして、(D)のシリコン系層形成工程Aにより、シリコン系層を形成することが好ましい。ここで本発明における「真空」とは、100Pa以下を意味する。
【0057】
また前記シリコン系層形成工程Aの後、
図2(E)の基板取出し工程Aにより製膜装置から単結晶シリコン基板の取り出しを行い、(F)の基板反転工程により、単結晶シリコン基板を反転(フリップともいう)させる。その後、(E)の再度製膜装置導入工程Bにより導入を行い、真空にした後、前記シリコン系層形成工程Bにより、反転させた他方の面を製膜面として、シリコン系層の形成を実施することが好ましい。
【0058】
この際、
図2(E)の基板取出し工程Aから、(G)の製膜装置導入工程Bまでの環境における水蒸気暴露量W
tBは200g・分/m
3以下であることが好適である。この理由としては、前記酸化膜除去工程から製膜装置導入工程Aまでにおいて、すでに薄い酸化膜が形成されているため、水蒸気暴露量W
tBを少なくすることにより、更なる酸化膜が形成され難くなる、すなわち酸化膜を適度な厚みに保持できるためと考えられる。従って、単結晶シリコン基板表面に、厚い酸化膜が形成されることに伴う、界面欠陥の増加や導電率の低下を抑制することが可能となり、より変換効率の向上が期待できる。W
tBは130g・分/m
3以下がより好ましく、50g・分/m
3以下が特に好ましい。
【0059】
また本発明において、前記基板取出し工程Aから製膜装置導入工程Bまでの環境における水蒸気量W
Bは7.0g/m
3以下であることが好適であり6.0g/m
3以下がより好ましく、4.0g/m
3以下が特に好ましい。
【0060】
なお、上記基板取出し工程Aから、製膜装置導入工程Bまでの環境において、上記環境下の温度T
Bや、さらす時間t
Bは、適宜設定すれば良いが、例えば20〜30℃程度の室温付近にさらした場合、上記t
Bは、短いほうが好ましく、6分以下が好ましい。なお、水蒸気暴露量W
tB、上記環境下の温度T
B、時間t
Bなどは、水蒸気暴露量W
tAや、その環境下の温度T
A、時間t
Aなどにより、適宜調整することもできる。
【0061】
なお、本発明における前記シリコン系層形成工程A
およびシリコン系層形成工程Bにおいては、少なくとも真性シリコン系層を形成すればよく、また導電型シリコン系層(p型シリコン系層または/およびn型シリコン系層)を、逆導電型シリコン系層→一導電型シリコン系層の順に製膜すれば、真性シリコン系層及び導電型シリコン系層を形成する2段形成工程でも構わない。例えば、n型単結晶シリコン基板を用いた場合、p型シリコン系層→n型シリコン系層の順に製膜すればよく、p型単結晶シリコン基板を用いた場合は、n型シリコン系層→p型シリコン系層の順に製膜すればよい。製造の容易性の観点からは、シリコン系層形成工程A
およびシリコン系層形成工程Bでは、真性シリコン系層及び導電性シリコン系層の2段形成工程を有することが好ましい。
【0062】
例えば、「シリコン系層形成工程Aにて真性シリコン系層のみを形成する」とは、シリコン系層形成工程Aにて第
1真性シリコン系層を形成し、その後、シリコン系層形成工程Bにて第
2真性シリコン系層を形成する(図示せず)ことを意味する。また「真性シリコン系層および導電性シリコン系層の2段形成工程」とは、例えば、
図2(D)のシリコン系層形成工程Aにて第
1真性シリコン系層2および逆導電型シリコン系層3を形成し、(H)のシリコン系層形成工程Bにて第
2真性シリコン系層4を形成することなどを意味する。
【0063】
シリコン系層形成工程Aにおいて、(i)第
1真性シリコン系層と逆導電型シリコン系層をこの順に形成し、シリコン系層形成工程Bにおいて、第2真性シリコン系層と一導電型シリコン系層をこの順に形成する方法、また、(ii)シリコン系層形成工程Aにおいて第1真性シリコン系層を形成して基板を反転し、シリコン系層形成工程Bにおいて第2真性シリコン系層を形成して基板を再度反転し、第
1真性シリコン系層上に逆導電型シリコン系層を形成し、その後第
2真性シリコン系層上に一導電型シリコン系層を形成する方法、などが挙げられるが、(i)第1真性シリコン系層と逆導電型シリコン系層をこの順に形成し、シリコン系層形成工程Bにおいて、第2真性シリコン系層と一導電型シリコン系層をこの順に形成する方法がより好ましい。この場合、後述のように、変換効率をより向上させることができる。また製造の容易性の観点からも好ましい。
【0064】
ここで、上述のように、従来では、ヘテロ接合光電変換装置において、特許文献1のように、n型単結晶シリコン基板を形成した場合における、基板表面への逆接合の形成を防止できる観点から、n型シリコン系層→p型シリコン系層の順に製膜することが好ましいとされてきた。しかしながら、本発明のように、所定の水蒸気暴露量の雰囲気にさらした基板を用いた場合は、従来とは逆のp型シリコン系層→n型シリコン系層の順に製膜することがより好ましいことが明らかとなった。これは、
図5(D)に示すように、n型基板の表面に薄い酸化膜が形成されることにより、基板側から「n/酸化膜/p/n」となり、逆接合の形成を抑制できるためと考えられる。
【0065】
n型結晶シリコン基板を用いた場合、n型シリコン系層をp型シリコン系層よりも先に製膜する
と、本質的には良好な特性を得ることができない。
一般的に、基板の光入射側と裏面側にシリコン系層などを製膜する場合、基板の製膜面とは反対面側をホルダ等で保持する必要があるため、
図4に示すようにホルダと接する部分に傷や汚れ等が形成される。
n型結晶シリコン基板を用いた場合、n型シリコン系層側から製膜すると、表面側(p層側)に傷等が形成され、p型シリコン系層が形成される際、結晶シリコン基板pn接合界面近傍に傷、汚れ等による欠陥準位ができ、キャリアがトラップされ、再結合して発電に寄与せず出力特性が低下するものと考えられる。
【0066】
酸化膜を形成した場合であっても、n層側から製膜した際の傷等の影響は比較的大きく、pn接合界面でのキャリア再結合が生じうると考えられる。一方、p型シリコン系層を先に製膜する場合、裏面側(n層側)の基板に傷等が形成されるものの、n型基板とn層は同導電型のため、キャリア再結合が少ないと考えられる。
【0067】
本発明のように、環境における水蒸気暴露量を敢えてある所定範囲にすることでn型基板の表面に薄い酸化膜が形成する
ことが可能となり、p層側から製膜した場合であっても、基板側から「n/酸化膜/p/n」となり、逆接合の形成を抑制できる。
【0068】
以上の様に所定の酸化膜を有する単結晶シリコン基板にたいしてp型半導体層をn型半導体層より先に形成することにより、pn接合界面近傍の欠陥と逆接合の形成を抑制できるため出力特性が向上すると考えられる。
【0069】
上述のように、単結晶シリコン基板1の表面にはシリコン系層が製膜される。ここでシリコン系層の製膜方法としては、プラズマCVD法が好ましい。すなわち製膜装置としてCVD装置を用いることが好ましい。
【0070】
プラズマCVD法によるシリコン系層の形成条件としては、例えば、基板温度100〜300℃、圧力20〜2600Pa、高周波パワー密度0.004〜0.8W/cm
2が好ましく用いられる。シリコン系層の製膜には、原料ガスとして、SiH
4、Si
2H
6等のシリコン含有ガスまたは、それらのガスとH
2を混合したものが用いられる。p層またはn層を形成するためのドーパントガスとしては、B
2H
6またはPH
3等が好ましく用いられる。この場合、PやBといった不純物の添加量は微量でよいため、ドーパントガスが予め原料ガスやH
2などで希釈された混合ガスを用いることもできる。また、CH
4、CO
2、NH
3、GeH
4等の異種元素を含むガスを上記ガスに添加することにより、シリコン系層として、シリコンカーバイド、シリコンナイトライド、シリコンゲルマニウム等のシリコン合金層が製膜されてもよい。
【0071】
上記の真性シリコン系層2,4は、実質的に真性なノンドープシリコン系薄膜である。単結晶シリコン基板1の表面に真性シリコン系層2,4が形成されることで、導電型シリコン層製膜時の単結晶シリコン基板への不純物拡散が抑制されつつ、単結晶シリコン基板表面のパッシベーションを有効に行うことができる。また、真性シリコン系層の膜中の水素量を変化させることで、エネルギーギャップにキャリア回収を行う上で有効なプロファイルを持たせることができる。
【0072】
本発明における真性シリコン系層は、水素プラズマ処理を行うことが好ましい。
すなわち第1真性シリコン系層
および第2真性シリコン系層の少なくともいずれか一方に、水素プラズマ処理を行うことが好ましい。水素プラズマ処理を行うことにより、単結晶シリコン基板上の欠陥および前記酸化膜の形成により発生した欠陥を水素により終端することが可能となると推測される。
【0073】
中でも、より変換効率を向上できる観点から、第1真性シリコン系層に水素プラズマ処理を行うことがより好ましく、第1真性シリコン系層および第2真性シリコン系層の両方に水素プラズマ処理を行うことが特に好ましい。第1真性シリコン系層に水素プラズマ処理を行うことにより、前記酸化膜の形成によりpn接合界面近傍の欠陥が形成される場合であっても該欠陥を抑制でき、より良好な特性が得られると考えられる。
【0074】
この際、前記真性シリコン
系層の製膜後に水素プラズマ処理を実施しても良く、前記真性シリコン
系層の製膜中に水素プラズマ処理を実施しても良い。なお「製膜中」とは、例えば第1真性シリコン
系層を形成する場合、該層を2層にして、1層目を製膜した後に水素プラズマ処理を行い、その上に2層目を製膜する方法などが挙げられる。
【0075】
プラズマ処理の条件としては、例えば、基板温度100℃〜300℃、圧力20Pa〜2600Paが好ましい。プラズマ処理工程における高周波パワー密度やプラズマ処理時間は、本発明の効果が得られる範囲で適宜に設定し得る。例えば、プラズマ処理時の高周波パワー密度は、0.052W/cm
2以下が好ましく、0.039W/cm
2以下がより好ましい。また、プラズマ処理時間は、140秒以下が好ましく、120秒以下がより好ましい。
また水素プラズマ処理による水素パッシベーションや欠陥低減効果を高める観点において、プラズマ処理工程における高周波パワー密度は、0.01W/cm
2以上が好ましく、0.016W/cm
2以上がより好ましい。
結晶シリコン基板への水素パッシベーション効果を改善する観点において、プラズマ処理時間は、3秒以上であることが好ましく、10秒以上であることがより好ましい。
【0076】
真性シリコン系層2,4は、少なくとも一方が非晶質シリコン系層であることが好ましく、いずれも非晶質シリコン系層であることがより好ましい。また実質的にシリコンおよび水素からなる真性水素化非晶質シリコンであることがさらに好ましい。真性シリコン系層2,4として、非晶質シリコン系層を用いることにより、上述の、単結晶シリコン基板との界面の欠陥を、より抑制することが可能となる。
【0077】
真性シリコン系層2,4の膜厚は、3〜16nmであることが好ましく、4nm〜14nmであることがより好ましく、5nm〜10nmであることがさらに好ましい。真性シリコン系層の膜厚を3nm以上とすることで、導電型シリコン系層3,5中の不純物原子の単結晶シリコン基板面への拡散や、単結晶シリコン基板表面のカバレッジ悪化に起因する界面欠陥の増大を抑制することができる。一方、真性シリコン系層の膜厚を16nm以下とすることで、高抵抗化や光吸収ロスの増大による変換特性の低下を抑制することができる。
【0078】
第1真性シリコン系層2上には、p型シリコン系層3が形成される。p型シリコン系層は、p型水素化非晶質シリコン層、p型非晶質シリコンカーバイド層、p型酸化非晶質シリコン層等の非晶質シリコン系層であることが好ましい。非晶質シリコン系層は、微結晶シリコン系層に比して低パワー密度での製膜が可能であるため、不純物原子の単結晶シリコン基板面への拡散が抑制される。非晶質シリコン系層の中でも、不純物拡散の抑制や直列抵抗低下の観点では、p型水素化非晶質シリコン層が好ましい。一方で、p型非晶質シリコンカーバイド層あるいはp型酸化非晶質シリコン層はワイドギャップの低屈折率層として光学的なロスを低減できる点において好ましい。
【0079】
p型シリコン系層3の厚みは、3〜15nmであることが好ましい。導電型層(p型シリコン系層3およびn型シリコン系層5)は、キャリアを透明導電層に取り出すために必要な層であり、その厚みを3nm以上とすることで、キャリア移動の律速を抑制できる。一方、導電型層の厚みを15nm以下とすることで、光吸収ロスなどを抑制することができる。例えば、n型結晶シリコン基板が用いられ、p層側が光入射側である構成のヘテロ接合太陽電池においては、p層の厚みが小さいことが好ましい。
【0080】
第2真性シリコン系層4上には、n型シリコン系層5が形成される。n型シリコン系層5は、n型非晶質シリコン系層あるいはn型微結晶シリコン系層の単層により構成されてもよく、複数層により構成されてもよい(図示せず)。
【0081】
n型非晶質シリコン系層としては、隣接層との良好な接合特性が得られやすいことから、n型水素化非晶質シリコン層やn型非晶質シリコンナイトライド層が好ましい。n型微結晶シリコン系層としては、例えばn型微結晶シリコン層、n型微結晶シリコンカーバイド層、n型微結晶シリコンオキサイド層が挙げられる。n層内部の欠陥の生成を抑制する観点からは、ドープ不純物以外の不純物が積極的に添加されていないn型微結晶シリコン層が好適に用いられる。一方で、n型微結晶シリコン系層としてn型微結晶シリコンカーバイド層や、n型微結晶シリコンオキサイド層を用いることで、実効的な光学ギャップを広げることができ、屈折率も低下することから、光学的なメリットが得られる。
【0082】
n型シリコン系層5の厚みは、5nm〜50nmの範囲が好ましい。
【0083】
p型シリコン系層3上およびn型シリコン系層5上には、それぞれ第1透明導電層6および第2透明導電層8が形成される。第1および第2透明導電層の膜厚は、透明性と導電性の観点から、10nm以上140nm以下であることが好ましい。透明導電層の役割は、集電極へのキャリアの輸送であり、そのために必要な導電性があればよい。140nm以下とすることで、透明導電層自身の吸収ロスなどを抑制でき、光電変換効率の低下等を抑制できると考えられる。透明導電層としては、一般に、透明導電性金属酸化物、例えば酸化インジウムや酸化錫、酸化亜鉛、酸化チタンやその複合酸化物などからなる薄膜が用いられる。中でも、酸化インジウムを主成分とするインジウム系複合酸化物が好ましい。高い導電率と透明性の観点からは、インジウム錫複合酸化物(ITO)が特に好ましく用いられる。
【0084】
本発明における透明導電層は、光透過性が高く、かつ低抵抗であることが好ましい。第1透明導電層および第2透明導電層は、いずれも公知の手法により製膜することができる。製膜方法としては、スパッタリング法、有機金属化学気相堆積(MOCVD)法、熱CVD法、プラズマCVD法、分子線ビームエピタキシー(MBE)法やパルスレーザー堆積(PLD)法などが挙げられる。中でもITO等のインジウム系複合酸化物層の製膜には、スパッタリング法が好適に用いられる。透明導電層製膜時の基板温度は適宜設定すればよいが、200℃以下が好ましい。それ以上の高温となると、シリコン系層から水素が脱離して、ケイ素原子にダングリングボンドが発生し、キャリアの再結合中心となる場合がある。
【0085】
透明導電層6,8上には、電流取り出しのための集電極7,9が形成されることが好ましい。集電極は、インクジェット、スクリーン印刷、導線接着、スプレー等の公知技術によって作製できるが、生産性の観点からはスクリーン印刷が好ましい。スクリーン印刷法においては、金属粒子と樹脂バインダーからなる導電ペーストをスクリーン印刷によって印刷する工程が好ましく用いられる。集電極としては、例えば、Agペースト、Cu等が材料に用いられる。
【0086】
少なくとも光入射側の集電極は、太陽電池セルへの光入射面積を大きくするために、櫛形パターン等の形状にパターン化されていることが好ましい。光入射側と反対側の集電極は、パターン化されていてもよく、パターン化されていなくともよい。例えば、光入射側と反対側の金属電極10が透明導電層上の略全面に形成されている場合は、金属電極層が、シリコン基板に吸収されなかった光がセル外に漏れることを抑止する反射層として作用し得る(図示せず)。また、透明導電層と集電極あるいは金属電極層との間に、反射層としてAgやAl等の金属層が形成されていてもよい。
【0087】
以上のように、本発明においては、光電変換特性が向上した結晶シリコン系光電変換装置を得ることが可能となる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
[測定方法]
膜厚は、断面の透過型電子顕微鏡(TEM)観察により求めた。なお、TEM観察によって、真性シリコン系層と導電型シリコン系層との界面を識別することは困難である。そのため、これらの層の膜厚は、TEM観察から求められた各層の合計厚みと製膜時間の比から算出した。また、テクスチャが形成されたシリコン基板表面に形成された層については、テクスチャの斜面と垂直な方向を膜厚方向とした。光電変換装置の光電変換特性は、ソーラーシミュレータを用いて評価した。
【0090】
水蒸気量は、並板乾湿計(佐藤計量器製作所製)を用いて湿度を測定し、測定した雰囲気内の温度T(℃)における飽和水蒸気量a
T(g/m
3)をかけた下記の式により求めた。
水蒸気量(g/m
3)=相対湿度RH(%)×飽和水蒸気量a
T(g/m
3)/100
なお、温度T=25(℃)のとき、飽和水蒸気量は、a
25=23.0(g/m
3)として上記式により水蒸気量を求めた。また上記のように求めた水蒸気量(g/m
3)と、該水蒸気にさらした暴露時間(分)をかけた以下の式により水蒸気暴露量を求めた。
水蒸気暴露量(g・分/m
3)=水蒸気量(g/m
3)×暴露時間(分)
【0091】
[実施例1]
実施例1では、
図1に模式的に示す結晶シリコン系光電変換装置が製造された。また各工程における雰囲気の温度は25℃であった。
【0092】
入射面の面方位が(100)で、厚みが200μmのn型単結晶シリコン基板を準備し(基板準備工程)、上記基板がアセトン中で洗浄された。その後、基板が2重量%のHF水溶液に3分間浸漬され、表面の酸化シリコン膜が除去された後、超純水によるリンスが2回行われた。次に70℃に保持された5/15重量%のKOH/イソプロピルアルコール水溶液に、シリコン基板が15分間浸漬され、基板表面がエッチングされて、テクスチャが形成された。その後、超純水によるリンスが2回行われた。原子間力顕微鏡(AFM パシフィックナノテクノロジー社製)により単結晶シリコン基板1の表面観察を行ったところ、基板表面はエッチング
が進行しており、(111)面が露出したピラミッド型のテクスチャが形成されていた。
【0093】
次に15ppmのオゾン濃度を有する水溶液に基板を浸して基板表面に付着した不純物を取り込むように基板表面を酸化させた。その後、基板を2重量%のHF水溶液に3分間浸漬させ、基板表面の不純物を酸化膜ごと除去した(酸化膜除去工程)
。シリコン酸化膜除去後に
基板がCVD装置へ導入された(製膜装置導入工程A)。この際、酸化膜除去工程から製膜装置導入工程Aまでの環境における水蒸気暴露量W
tAは13g・分/m
3(水蒸気量6.5g/m
3g、暴露時間2分)であった。そして、CVD装置に導入後、60Paまで真空にし、一方の面(入射面側)に、単結晶シリコン基板1の表面側に接する第1真性非晶質シリコン層2を5nm形成した。次に水素ガスのみを導入し、基板温度150℃、圧力120Pa、投入パワー密度0.026W/cm
2にてプラズマ処理を60秒行った。第1真性非晶質シリコン層2上にp型非晶質シリコン層3が10nmの膜厚で製膜された(シリコン系層形成工程A)。p型非晶質シリコン層3の製膜条件は、基板温度が150℃、圧力60Pa、SiH
4/希釈B
2H
6流量比が1/3、高周波パワー密度が0.011W/cm
2であった。なお、上記希釈B
2H
6ガスとしては、H
2によりB
2H
6濃度が5000ppmまで希釈されたガスが用いられた。
【0094】
単結晶シリコン基板1の一方に前記非晶質シリコン層が製膜された後、単結晶シリコン基板1をCVD装置から取り出した(基板取出し工程A)。この際、大気中の水蒸気暴露量W
tBは110g・分/m
3(水蒸気量11.0g/m
3g、暴露時間10分)であった。取り出された単結晶シリコン基板1を反転して(基板反転工程)、再びCVD装置に導入し(製膜装置導入工程B)、60Paにした後、単結晶シリコン基板1の他方の面(裏面側)に、第2真性非晶質シリコン層4が5nmの膜厚で製膜された。第2真性非晶質シリコン層4の製膜条件は、第1真性非晶質シリコン層21の製膜条件と同一であった。第2真性非晶質シリコン層4上にn型非晶質シリコン層5が10nmの膜厚で製膜された(シリコン系層形成工程B)。n型非晶質シリコン層5の製膜条件は、基板温度が150℃、圧力60Pa、SiH
4/希釈PH
3流量比が1/2、高周波パワー密度が0.011W/cm
2であった。なお、上記希釈PH
3ガスとしては、H
2によりPH
3濃度が5000ppmまで希釈されたガスが用いられた。単結晶シリコン基板1の一方に前記非晶質シリコン層が製膜された後、単結晶シリコン基板1をCVD装置から取り出した(基板取出し工程B)。
【0095】
p型非晶質シリコン層3上およびn型非晶質シリコン層5上のそれぞれに、第1透明導電層6および第2透明導電層8として、インジウム錫複合酸化物(ITO)が100nmの膜厚で製膜された。ITOの製膜には、ターゲットとして酸化インジウムと酸化スズの焼結体(酸化錫含有量が5重量%)が用いられた。キャリアガスとしてアルゴンが100sccmで導入され、基板温度は室温、圧力0.2Pa、高周波パワー密度0.5W/cm
2の条件で製膜が行われた。
【0096】
上記の透明導電層6,8のそれぞれの表面に、集電極7,9として、銀ペーストがスクリーン印刷された。その後、銀ペーストを固化するために、150℃の大気下にて60分間加熱が行われて、櫛形の集電極が形成された。集電極の間隔は2mmとした。
【0097】
その後、レーザー加工機によりセル外周部のシリコンウェハが0.5mmの幅で除去され、本発明のヘテロ接合太陽電池が作製された。
【0098】
[実施例2、3]
シリコン酸化膜除去工程から製膜装置導入工程Aまでの環境における暴露時間が表1に示すように変更された以外は、実施例1と同様にして太陽電池セルが作製された。
【0099】
[実施例4]
シリコン酸化膜除去工程から製膜装置導入工程Aまでの環境における水蒸気量W
Aが表1に示すように変更された以外は、実施例3と同様にして太陽電池セルが作製された。
【0100】
[実施例5]
シリコン酸化膜除去工程から製膜装置導入工程Aまでの環境における暴露時間が表1に示すように変更された以外は、実施例4と同様にして太陽電池セルが作製された。
【0101】
[実施例6,7]
基板取出し工程Aから製膜装置導入工程Bまでの環境における水蒸気暴露量W
tBが表1に示すように変更された以外は、実施例4と同様にして太陽電池セルが作製された。
【0102】
[比較例1]
シリコン酸化膜除去工程から製膜装置導入工程Aまでの環境における暴露時間および水蒸気量W
Aが表1に示すように変更された以外は、実施例1と同様にして太陽電池セルが作製された。
【0103】
[比較例2]
シリコン酸化膜除去工程から製膜装置導入工程Aまでの環境における暴露時間が表1に示すように変更された以外は、比較例1と同様にして太陽電池セルが作製された。
【0104】
[比較例3]
シリコン酸化膜除去工程から製膜装置導入工程Aまでの環境における水蒸気量W
Aが表1に示すように変更された以外は、実施例6と同様にして太陽電池セルが作製された。
【0105】
[比較例4]
シリコン酸化膜除去工程から製膜装置導入工程Aまでの環境における暴露時間が表1に示すように変更された以外は、比較例3と同様にして太陽電池セルが作製された。
【0106】
上記各実施例、および比較例の太陽電池セルの光電変換特性を、ソーラーシミュレータを用いて評価した結果を表1に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
水蒸気暴露量WtAが12g・分/m
3以下の比較例1、2に比べて、WtAが12.0g・分/m
3以上の実施例1〜6では、VocとFFが向上し、これに伴い変換効率が向上した。
【0109】
この理由としては、所定の水蒸気暴露量を有する雰囲気において工程を実施することで、単結晶シリコン基板1の表面に非常に薄い酸化膜が形成される、すなわち結晶質シリコン(単結晶シリコン基板1)と、その上に形成する非晶質シリコンとの界面に酸化膜が介在する
ことになり、酸化膜が結晶界面での非晶質シリコンのエピタキシャル成長を阻害したためと推測される。
【0110】
また酸化膜がバリア層として機能し、リーク電流を誘導するキャリアの逆流を防いだためと推測される。一方、所定よりも低い水蒸気暴露量において工程を実施した比較例1,2の太陽電池は、酸化膜を有していない
かまたは非常に薄いために、エピタキシャル成長を妨害できず、またバリア層として機能しきれなかったと推測される。
【0111】
また、水蒸気暴露量WtAが165.0g・分/m
3より多い比較例3および比較例4では、WtAが165.0g・分/m
3以下の実施例1〜8と比べて、VocとFFが減少し、これに伴い変換効率が低下した。この理由としては、水蒸気暴露量が多すぎると、単結晶シリコン基板1の表面に厚い酸化膜が形成され、界面欠陥の増加や導電率の低下を招いているためと考えられる。
【0112】
また実施例1〜5のうち、実施例4の変換効率が特に向上したことから、水蒸気暴露量Wcは、80.0g・分/m
3以上、130.0g・分/m
3以下程度が特に好ましいと考えられる。
【0113】
また、水蒸気暴露量W
tBが165.0g・分/m
3より少ない実施例4および6では、W
tBが165.0g・分/m
3以上の実施例7と比べて、VocとFFが向上し、これに伴い変換効率が向上したことから、W
tBは130g・分/m
3以下がより好ましく、50g・分/m
3以下が特に好ましい。
【0114】
次に、シリコン系層の製膜順や、水素プラズマ処理の条件を変更した場合の太陽電池特性の違いについて検討した。
【0115】
[実施例8]
シリコン系層形成工程Bにおいて単結晶シリコン基板1の裏面側の第2真性非晶質シリコン層に水素プラズマ処理を実施した点以外は、実施例4と同様にして太陽電池セルが作製された。
【0116】
[実施例9]
実施例9では、シリコン系層形成工程Aにおいて前記第1真性シリコン系層2形成時に水素プラズマ処理を実施しない点において実施例4とは製造方法が異なっていた。それ以外は、実施例4と同様の方法で太陽電池を製造した。
【0117】
[実施例10]
実施例10では、シリコン系層形成工程Aにおいて前記第1真性シリコン系層2形成時に水素プラズマ処理を実施しなかった点以外は、実施例8と同様にして太陽電池セルが作製された。
【0118】
[比較例5]
比較例5では、n型非晶質シリコン層5をp型非晶質シリコン層3より先にした点以外は、実施例9と同様にして太陽電池セルが作製された。
【0119】
[比較例6]
比較例6では、シリコン系層形成工程Bにおいて前記第2真性シリコン系層4形成時に水素プラズマ処理を実施した点以外は、比較例5と同様にして太陽電池セルが作製された。
【0120】
[比較例7]
比較例7では、シリコン系層形成工程Aにおいて前記第1真性シリコン系層2形成時に水素プラズマ処理を実施した点以外は、比較例5と同様にして太陽電池セルが作製された。
【0121】
[比較例8]
比較例8では、シリコン酸化膜除去工程から製膜装置導入工程Aまでの環境における暴露時間および水蒸気量W
Aが表1に示すように変更された以外は、比較例5と同様にして太陽電池セルが作製された。
【0122】
[比較例9]
比較例9では、p型非晶質シリコン層3をn型非晶質シリコン層5より先にした点以外は、比較例8と同様にして太陽電池セルが作製された。
【0123】
[比較例10]
比較例10では、シリコン酸化膜除去工程から製膜装置導入工程Aまでの環境における暴露時間および水蒸気量W
Aが表1に示すように変更された以外は、比較例8と同様にして太陽電池セルが作製された。
【0124】
[比較例11]
比較例11では、p型非晶質シリコン層3をn型非晶質シリコン層5より先にした点以外は、比較例10と同様にして太陽電池セルが作製された。
【0125】
上記各実施例、および比較例の太陽電池セルの光電変換特性を、ソーラーシミュレータを用いて評価した結果を表2に示す。
【0126】
【表2】
【0127】
n層形成工程を経た後にp層形成工程(n→p)を実施した比較例5、6、7と、p層形成工程を経た後にn層形成工程(p→n)を実施した実施例9、10、4を各々比較すると、p→n層の順に製膜した実施例の方が、変換効率が向上した。
【0128】
一方、比較例8(n→p)と比較例9(p→n)を比較すると、n→p層の順に製膜した比較例8の方が、変換効率が向上した。これは、本発明のような所定の酸化膜を有する場合(実施例9,10,4など)は、酸化膜により、基板側から「n/酸化膜/p/n」の構成となり、逆接合が抑制されたためと考えられる。また
図4に示すように、n→pの順で製膜する場合、光起電力素子の表面側(p層側)においては、ホルダ等への接触により生じうる傷、汚れ等により、この上にp型シリコン系層を形成するに伴い結晶シリコン基板pn接合界面に傷、汚れ等による欠陥準位ができ、キャリアがトラップされ、再結合して発電に寄与しなかったためと考えられる。
【0129】
さらに酸化膜を除去した酸化膜なし基板12を、所定の水蒸気暴露量の環境下にさらすことにより、n型単結晶シリコン基板の表面に非常に薄いシリコン酸化膜11bが形成され、該酸化膜付き基板を用いてp型半導体層をn型半導体層より先に形成する
ことによって、裏面にp型半導体層が回り込み裏面側にもpn接合が形成される虞があるが、前記酸化膜が前記回り込みにより生じうるpn接合の形成を阻害したためと考えられる。
【0130】
また水素プラズマを実施していない実施例9に対し、水素プラズマを行った実施例4,8,10では、VocとFFが向上し(データに記載なし)、変換効率が向上した。
この理由としては、前記真性シリコン系層に水素プラズマ処理を行うことにより前記酸化膜の形成により発生した欠陥を水素により終端しているためであると推測される。
【0131】
また実施例4、8、10を比較すると、水素プラズマをn層側に行った実施例10に対し、p層側に行った実施例4では変換効率が向上した。これは、p層側に水素プラズマを行う
ことで光電変換特性に大きく寄与するpn接合界面近傍の欠陥準位によるキャリアの再結合が抑制されるためであると考えられる。
【0132】
またp層側とn層側真性シリコン層の両方への水素プラズマ処理も実施した実施例8において変換効率が特に向上したことから、p層およびn層の両方に水素プラズマ処理を行う
ことが特に好ましいと考えられる。
【0133】
以上より、本発明のように、n型単結晶シリコン基板を用いた場合、所定の水蒸気暴露量を有する雰囲気下に太陽電池セルをさらし、p型半導体層をn型半導体層より先に形成することにより、光電変換特性を向上できることがわかった。