(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ステンレス鋼線として、式:Md30=413−462C−462N−9.2Si−8.1Mn−13.7Cr−9.5Ni〔式中の各元素は、ステンレス鋼線に含まれている各元素の含有率(単位:質量%)を示す〕で表わされるMd30が−10〜70℃であるオーステナイト系ステンレス鋼からなり、線径が0.05〜0.5mmであるステンレス鋼線が用いられ、当該ステンレス鋼線の表面上にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるめっき被膜が形成されていることを特徴とするアルミニウムめっきステンレス鋼線。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のアルミニウムめっきステンレス鋼線は、前記したように、ステンレス鋼線として、式:Md30=413−462C−462N−9.2Si−8.1Mn−13.7Cr−9.5Niで表わされるMd30が−10〜70℃であるオーステナイト系ステンレス鋼からなり、線径が0.05〜0.5mmであるステンレス鋼線が用いられ、当該ステンレス鋼線の表面上にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるめっき被膜が形成されていることを特徴とする。本発明のアルミニウムめっきステンレス鋼線は、前記構成を有するので、捻回性に優れている。
【0015】
以下に、本発明の複合撚線を図面に基づいて説明するが、本発明は、当該図面に記載の実施態様のみに限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明の複合撚線の一実施態様を示す概略断面図である。また、
図2は、本発明のアルミニウムめっきステンレス鋼線の概略断面図である。
【0017】
本発明の複合撚線1は、
図1に示されるように、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるめっき被膜2bがステンレス鋼線2aの表面に形成されたアルミニウムめっきステンレス鋼線2およびアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム素線3を有する。
【0018】
また、本発明のアルミニウムめっきステンレス鋼線2は、
図2に示されるように、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるめっき被膜2bがステンレス鋼線2aの表面に形成されている。
【0019】
ステンレス鋼線2aに伸線加工を施したときにマルテンサイトが生成することは、ステンレス鋼2aの組成によって決定されるオーステナイトの安定性が関係しており、オーステナイトの安定性には温度依存性がある。
【0020】
ステンレス鋼線2aのオーステナイト安定度の一般的な指標として、式:Md30=413−462C−462N−9.2Si−8.1Mn−13.7Cr−9.5Niがある。
【0021】
式中の各元素は、ステンレス鋼線2aに含まれている各元素の含有率(単位:質量%)である。Md30の温度が高くなるにしたがってステンレス鋼のマルテンサイト変態が生じる傾向にある。ステンレス鋼に炭素(C)などの元素を添加することにより、Md30の温度を低くし、ステンレス鋼のオーステナイトを安定化させることができる。なお、マルテンサイト変態は、一般的には加工率および加工速度がそれぞれ高くなるにしたがって進行しやすくなることが知られている。
【0022】
本発明者らは、捻回性に優れたアルミニウムめっきステンレス鋼線を得るべく、ステンレス鋼線2aにアルミニウムめっき被膜2bを形成させ、得られたアルミニウムめっきステンレス鋼線2に伸線加工を施した後の捻回性について鋭意研究を重ねた結果、ステンレス鋼線2aの組成としてMd30を−10〜70℃に制御したとき、複合撚線を構成する素線の1種としてアルミニウムめっきステンレス鋼線を用いる際に安定な製造が可能となるアルミニウムめっきステンレス鋼線が得られることが見出された。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
【0023】
撚線は、生産性を向上させる観点から撚りピッチごとに各素線に1回転の捻りが加わる方法によって製造されることが多い。このため、各素線は、張力だけでなく、捻りに対する耐久性が要求される。
【0024】
撚りピッチは、一般に撚り線の最外層の層芯径の20倍以上とされる。例えば、直径0.1mmの素線を用いて中心に1本、周辺に6本を有する7本撚線を製造するとき、最外層の層芯径は0.2mmとなることから、撚りピッチは、その20倍である4.0mm以上となるように選定されることになる。
【0025】
本発明者らは、めっき線の捻りに対する耐久性の指標として、最小撚りピッチの捻れの8倍に相当する捻れを加えたときにめっき線が破断しないこととした。すなわち、これは、線径0.1mmの素線では長さ0.5mmあたりに1回転に相当する捻りである。目安として、めっき線の線径の5倍にあたる長さあたり1回転の捻じりを付与したときに破断しなければ、そのめっき線の捻回性は合格であり、撚線の製造に支障が生じないと考えられる。
【0026】
Md30は、ステンレス鋼線2aに伸線加工を施したときに、ステンレス鋼2aにマルテンサイト変態が生じることを抑制する観点から、70℃以下、好ましくは65℃以下であり、Md30を低下させるためには、前記式に規定されている元素の含有率を高くすることが考えられるが、NiおよびCrの含有率が高くなるとコストが増大し、C、SiおよびMnの含有率が高くなるとステンレス鋼が硬質化し、加工性が低下することから、これらの事項を考慮して実用に即したな組成となるようにするためにMd30の下限値が−10℃に設定されている。
【0027】
ステンレス鋼線2aを構成するステンレス鋼は、クロム(Cr)を10質量%以上含有する合金鋼である。ステンレス鋼としては、例えば、JIS G4309に規定されているオーステナイト系ステンレス鋼が挙げられる。
【0028】
オーステナイト系ステンレス鋼の具体例としては、SUS301、SUS304などの一般にオーステナイト相が準安定であるとされるステンレス鋼;SUS305、SUS310、SUS316などの安定オーステナイト系ステンレス鋼などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0029】
ステンレス鋼線2aの直径は、特に限定されず、本発明の複合撚線1の用途に応じて適宜調整することが好ましい。例えば、本発明の複合撚線1を自動車のワイヤーハーネスなどの用途に用いる場合には、ステンレス鋼線2aの直径は、通常、0.05〜0.5mm程度であることが好ましい。
【0030】
ステンレス鋼線2aの表面には、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるめっき被膜2bが形成される。
【0031】
本発明の複合撚線1は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるめっき被膜2bが形成されたステンレス鋼線2aが用いられているので、アルミニウムめっきステンレス鋼線2とアルミニウム素線3との密着性に優れ、引張強度および電気抵抗の経時的安定性にも優れている。
【0032】
めっき被膜2bは、アルミニウムのみで形成されていてもよく、必要により、本発明の目的を阻害しない範囲内で他の元素が含有されていてもよい。
【0033】
前記他の元素としては、例えば、ニッケル、クロム、亜鉛、ケイ素、銅、鉄などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの他の元素をアルミニウムに含有させた場合には、めっき被膜2bの機械的強度を高めることができ、ひいては本発明の複合撚線1の引張強度を高めることができる。前記他の元素のなかでは、ステンレス鋼線2aの種類にもよるが、ステンレス鋼線2aに含まれている鉄とめっき被膜2bに含まれているアルミニウムとの間で脆性を有する鉄−アルミニウム合金層の生成を抑制し、めっき被膜2bの機械的強度を高める観点から、ケイ素が好ましい。
【0034】
めっき被膜2bにおける前記他の元素の含有率の下限値は、0質量%であるが、当該他の元素が有する性質を十分に発現させる観点から、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、アルミニウム素線との接触による電位差腐食を抑制する観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。
【0035】
ステンレス鋼線2aの表面上にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるめっき被膜2bを形成させる方法としては、例えば、ステンレス鋼線2aの表面にめっき被膜2bを形成する材料をめっきする方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0036】
ステンレス鋼線2aの表面にめっき被膜2bを形成する方法としては、例えば、溶融めっき法、電気めっき法、真空めっき法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの方法のなかでは、均一な膜厚の被膜を形成する観点から、溶融めっき法が好ましい。
【0037】
ステンレス鋼線2aにめっき膜を形成させる際には、めっき被膜の付着量を安定化させる観点から、めっき浴面からステンレス鋼線2aを引き上げるときに耐熱クロス材をステンレス鋼線2aに押し当てることにより、めっきの付着量を制御することが好ましい。
【0038】
めっき被膜2bの厚さは、アルミニウムめっきステンレス鋼線2とアルミニウム素線3との密着性を向上させる観点から、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは3μm以上であり、めっき被膜2bの機械的強度を高める観点から、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下である。
【0039】
なお、本発明の複合撚線1においては、必要により、ステンレス鋼線2aとめっき被膜2bとの間に中間層としてめっき層が形成されていてもよい。めっき層を構成する金属としては、例えば、亜鉛、ニッケル、クロム、これらの合金などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。また、めっき層は、1層のみで形成されていてもよく、同一または異なる金属からなる複数のめっき層が形成されていてもよい。なお、中間層は、ステンレス鋼線2aにめっき被膜2bを溶融めっき法によって被覆する際に形成された合金層であってもよい。
【0040】
以上のようにしてステンレス鋼線2aの表面上にめっき被膜2bを形成させることにより、アルミニウムめっきステンレス鋼線2が得られる。
【0041】
アルミニウムめっきステンレス鋼線2の鋼芯線の線径のバラツキは、捻回性を向上させる観点から、4.0%以内にあることが好ましい。なお、アルミニウムめっきステンレス鋼線2の鋼芯線の線径のバラツキは、以下の実施例に記載の方法に基づいて測定したときの値である。
【0042】
次に、アルミニウムめっきステンレス鋼線2には、所望の線径を有するようにするために伸線加工が施される。アルミニウムめっきステンレス鋼線2に伸線加工を施す際には、ステンレス鋼にマルテンサイトが生成することを抑制することによってステンレス鋼線2の線径が均一となるようにし、捻回性を向上させる観点から、式:
[伸線加工率(%)]=(1−[伸線加工前の断面積]÷[伸線加工前の断面積])×100
で示される伸線加工率が20%以下となるようにアルミニウムめっきステンレス鋼線2に伸線加工を施すことが好ましい。
【0043】
以上のようにして得られる本発明のアルミニウムめっきステンレス鋼線2は、捻回性に優れていることから、例えば、自動車用ワイヤーハーネス用電線などに用いられる複合撚線などの用途に好適に使用することができる。
【0044】
本発明の複合撚線は、複数の素線が撚り合わされてなる複合撚線であり、前記アルミニウムめっきステンレス鋼線2を有することを特徴とする。本発明の複合撚線のなかでは、アルミニウムめっきステンレス鋼線2およびアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム素線3を有する複合撚線1が好ましい。
【0045】
アルミニウムめっきステンレス鋼線2およびアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム素線が用いられ、アルミニウムめっきステンレス鋼線およびアルミニウム素線3が撚り合わされた複合撚線1は、例えば、当該複合撚線1を圧着端子に装着し、複合撚線1と圧着端子とを圧着したとき、複合撚線1に含まれているアルミニウムめっきステンレス鋼線2が圧着部から引き出されがたく、優れた引張強度が発現され、さらに電気抵抗の経時的安定性に優れている。
【0046】
また、本発明の複合撚線1は、アルミニウムめっきステンレス鋼線2およびアルミニウム素線3が用いられているので、軽量化が図られ、アルミニウムめっきステンレス鋼線2とともにアルミニウム素線3が用いられているので、引張強度および電気抵抗の経時的安定性に優れている。
【0047】
さらに、本発明の複合撚線では、アルミニウムめっきステンレス鋼線2の表面とアルミニウム素線3の表面とが同質であることから、異種金属が接触したときのような電位差腐食を抑制することができる。
【0048】
したがって、本発明の複合撚線は、端子と接続することにより、当該端子の信頼性を高めることができる。
【0049】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム素線3は、アルミニウムで構成される素線であってもよく、アルミニウム合金で構成される素線であってもよい。
【0050】
アルミニウム合金としては、例えば、アルミニウム−ケイ素合金、アルミニウム−鉄合金、アルミニウム−クロム合金、アルミニウム−ニッケル合金、アルミニウム−亜鉛合金、アルミニウム−銅合金、アルミニウム−マンガン合金、アルミニウム−マグネシウム合金(例えば、JIS H4040に規定の合金番号A5056など)、アルミニウム−マグネシウム−ケイ素合金、アルミニウム−亜鉛−マグネシウム合金、アルミニウム−亜鉛−マグネシウム−銅合金などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのアルミニウム合金は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0051】
アルミニウム合金におけるアルミニウム以外の金属の含有率は、当該金属の種類などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、引張強度を向上させる観点から、0.3質量%以上であることが好ましく、軽量化を図るとともにアルミニウムめっきステンレス鋼線2との接触による電位差腐食を抑制する観点から、10質量%以下であることが好ましい。
【0052】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム素線3を構成する金属は、引張強度を向上させる観点から、好ましくはアルミニウム合金、より好ましくはアルミニウム−マンガン合金およびアルミニウム−マグネシウム−ケイ素合金である。
【0053】
アルミニウム素線3の直径は、特に限定されず、本発明の複合撚線1の用途に応じて適宜調整することが好ましい。例えば、本発明の複合撚線1を自動車のワイヤーハーネスなどの用途に用いる場合には、アルミニウム素線3の直径は、通常、0.05〜0.5mm程度であることが好ましい。
【0054】
本発明の複合撚線1は、アルミニウムめっきステンレス鋼線2およびアルミニウム素線3を撚り合わせることによって製造することができる。なお、本発明の複合撚線1には、本発明の目的が阻害されない範囲内で、アルミニウムめっきステンレス鋼線2およびアルミニウム素線3以外の素線が含まれていてもよい。
【0055】
本発明の複合撚線1として、例えば、
図1に示される断面形状を有する複合撚線1を製造する場合、
図3に示される方法にしたがって製造することができる。
図3は、本発明の複合撚線1の製造方法の一実施態様を示す概略説明図である。
【0056】
図3に示されるように、アルミニウムめっきステンレス鋼線2は、供給ボビン4から供給され、アルミニウム素線3は、供給ボビン5から供給される。
【0057】
図3に示される実施態様では、本発明の複合撚線1の中心部を構成する中心素線として1本のアルミニウムめっきステンレス鋼線2が供給ボビン4から供給されている。また、中心素線を包囲する周辺素線として6本のアルミニウム素線3が各供給ボビン5から送り出され、アルミニウムめっきステンレス鋼線2の周囲に供給されている。アルミニウムめっきステンレス鋼線2とアルミニウム素線3とを例えば矢印A方向に捻りながら矢印B方向に搬送することにより、複合撚線1を製造することができる。
【0058】
以上のようにして製造された複合撚線1は、
図1に示される断面形状を有するが、本発明は、当該断面形状のみに限定されるものではない。
【0059】
図1に示される複合撚線以外の他の断面形状を有する複合撚線としては、例えば、
図4に示される断面形状を有する複合撚線1が挙げられる。
図4において、(a)〜(i)は、それぞれ、本発明の他の実施態様の複合撚線の概略断面図である。
【0060】
図4(a)〜(d)には、それぞれ、最外周に配置されている素線がいずれもアルミニウム素線3であり、アルミニウムめっきステンレス鋼線2がアルミニウム素線3のみと接している複合撚線1の断面が示されている。
【0061】
図4(e)および(f)には、それぞれ、最外周に配置されている素線がいずれもアルミニウム素線3であり、アルミニウムめっきステンレス鋼線2同士が接している複合撚線1の断面図が示されている。
【0062】
また、
図4(g)〜(i)には、それぞれ、アルミニウムめっきステンレス鋼線2が最外周に配置され、すべてのアルミニウムめっきステンレス鋼線2がアルミニウム素線3のみと接している複合撚線1の断面図が示されている。
【0063】
図4(a)〜(i)に示される実施態様のなかでは、
図4(a)〜(d)に示されるように、アルミニウムめっきステンレス鋼線2がアルミニウム素線3のみと接していることが、端子(図示せず)に圧着したときに本発明の複合撚線1を端子に密着させるとともに、アルミニウムめっきステンレス鋼線2とアルミニウム素線との密着性を高め、本発明の複合撚線1の引張強度を向上させる観点から好ましい。
【0064】
複合撚線1を構成する中心素線の数は、例えば、
図1に示されるように1本であってもよく、例えば、2〜6本程度の複数本であってもよい。本発明の複合撚線1の引張強度を向上させる観点から、複合撚線1を構成する中心素線の数は、1本、3本または7本であることが好ましく、1本または3本であることがより好ましい。また、複合撚線1を構成する中心素線は、本発明の複合撚線1の引張強度を向上させる観点から、アルミニウムめっきステンレス鋼線2であることが好ましい。したがって、本発明の複合撚線1の引張強度を向上させる観点から、複合撚線1を構成する中心素線は、アルミニウムめっきステンレス鋼線2で構成され、その数が1本、3本または7本、好ましくは1本または3本であることが望ましい。
【0065】
中心素線を包囲する周辺素線の数は、例えば、
図1に示される実施態様では6本であるが、
図4(a)〜(i)に示されるように、6〜36本程度の複数本であってもよい。本発明の複合撚線1の引張強度を向上させる観点から、複合撚線1を構成する周辺素線の本数は、6〜36本であることが好ましく、6本、10本、12本、16本または18本であることがより好ましく、6本、10本または12本であることがさらに好ましく、6本であることがさらに一層好ましい。また、複合撚線1を構成する周辺素線は、本発明の複合撚線1の引張強度を向上させる観点から、アルミニウム素線3であることが好ましい。
【0066】
したがって、本発明の複合撚線1は、
図1に示されるように、中心素線が1本のアルミニウムめっきステンレス鋼線2で構成され、当該中心素線を取り囲む周辺素線が6本のアルミニウム素線3で構成されていることが、軽量化が図られ、しかも引張強度および電気抵抗の経時的安定性に優れた複合撚線1を得る観点から好ましい。
【0067】
以上説明したように、本発明の複合撚線1は、軽量化が図られており、引張強度および電気抵抗の経時的安定性に優れている。本発明の複合撚線1がこのように引張強度および電気抵抗の経時的安定性に優れているのは、以下の理由に基づくものと考えられる。
【0068】
すなわち、例えば、鋼線とアルミニウム素線とが撚り合わされた撚線と端子とを圧着して接続したとき、撚線と端子との圧着部では、鋼線は、ほとんど変形せずに、当該鋼線よりも柔らかいアルミニウム素線が変形し、端子内部の空隙を充填するようになる。このような状態で撚線が端子から引っ張られたとき、鋼線の保持力は、アルミニウム素線との摩擦抵抗によって付与されているところ、鋼線とアルミニウム素線の間で滑りが起こりやすく、当該アルミニウム素線がほとんど変形しないため、鋼線とアルミニウム素線との接触部における摩擦抵抗の増大は小さく、鋼線が端子から引き抜かれやすくなるものと考えられる。
【0069】
これに対して、本発明の複合撚線1では、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるめっき被膜2bが表面に形成されているアルミニウムめっきステンレス鋼線2とアルミニウム素線3とが撚り合わされており、当該複合撚線1と端子とを圧着して接続したとき、複合撚線1と端子との圧着部では、アルミニウムめっきステンレス鋼線2に用いられているステンレス鋼線2aは、ほとんど変形せずに、当該アルミニウムめっきステンレス鋼線2の表面に存在しているアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるめっき被膜2bとアルミニウム素線3とが塑性変形し、端子内部の空隙を充填するようになる。このような状態で複合撚線1が端子から引っ張られたとき、アルミニウムめっきステンレス鋼線2の表面に存在しているアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるめっき被膜2bとアルミニウム素線3との滑りが起こりにくく、摩擦抵抗が大きくなることから、アルミニウムめっきステンレス鋼線2に使用されているステンレス鋼線2aが端子から引き抜かれがたくなるものと考えられる。
【0070】
このように、本発明の複合撚線1は、前記したようにアルミニウムめっきステンレス鋼線2およびアルミニウム素線3が用いられていることから、軽量であり、しかも引張強度および電気抵抗の経時的安定性に優れているので、例えば、自動車のワイヤーハーネスなどに用いられる電線などの用途に使用することが期待されるものである。
【実施例】
【0071】
次に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0072】
実施例1〜8
鋼線として線径が0.2mmであり、表1に示す種類の鋼材からなる鋼線を用い、この鋼線を溶融アルミニウム浴(アルミニウムの純度:99.7%以上)に浸漬することにより、表1に示される厚さのアルミニウム被膜を形成させた後、線径が0.2mmとなるように伸線することにより、アルミニウムめっきステンレス鋼線を作製した。なお、被膜の厚さは、長さが100mmであるアルミニウム被膜を形成させたアルミニウムめっきステンレス鋼線の任意の5カ所を光学式外径測定器〔(株)キーエンス製、品番:LS−7000〕を用いて0.1mm間隔で測定し、測定されたアルミニウムめっきステンレス鋼線の線径の平均値からアルミニウム被膜を形成する前の線径(0.2mm)を減算することによって求めた。
【0073】
前記で得られたアルミニウムめっきステンレス鋼線を中心素線として用い、その周囲に周辺素線として線径が0.2mmであり、
図1に示されるようにアルミニウム合金A1070からなるアルミニウム素線6本を配置し、撚りピッチ12mmで撚り合わせることにより、複合撚線を得た。
【0074】
比較例1
実施例1において、アルミニウムめっきステンレス鋼線の代わりに、線径が0.2mmであり、ステンレス鋼(SUS304)からなるステンレス鋼線にめっきを施さずに当該ステンレス鋼線をそのままの状態で中心素線として用いたこと以外は、実施例1と同様にして複合撚線を作製した。
【0075】
次に、各実施例および比較例1で得られた複合撚線の中心素線の引き抜けまたは破断を以下の方法に基づいて調べた。その結果を表1に示す。
【0076】
〔複合撚線の中心素線の引き抜けまたは破断〕
複合撚線を圧着端子〔日本端子(株)製、品番:17521−M2〕に配設し、圧着端子を押圧することにより、複合撚線と圧着端子とを接続させて試料を作製した。作製した試料に対して引張試験を行ない、圧着部の中心素線の引き抜けまたは破断の評価に供した。
【0077】
なお、各素線の1本あたりの破断強度は、次のとおりである。
SUS304線からなるステンレス鋼線にアルミニウムを被覆したアルミニウムめっきステンレス鋼線:38N
SUS430線からなるステンレス鋼線にアルミニウムを被覆したアルミニウムめっきステンレス鋼線:35N
アルミニウム合金A1070からなるアルミニウム素線:9N
アルミニウム合金A5056からなるアルミニウム素線:14N
【0078】
前記で得られた試料を5本用意し、各試料に対して、引張試験機〔(株)島津製作所製、商品名:オートグラフAG−5000B〕の一方のチャックに圧着端子、もう一方のチャックに複合撚線の中心素線をそれぞれ掴持し、引張速度10mm/minにて中心素線が破断するかまたは引抜けるまで引張試験を行ない、中心素線の引き抜けたかどうかについて、以下の評価基準に基づいて評価した。
〔評価基準〕
×:中心素線が引き抜けた。
○:中心素線は引き抜けずに破断した。
【0079】
【表1】
【0080】
表1に示された結果から、各実施例で得られた複合撚線は、いずれも、比較例1で得られた撚線と対比して、中心素線の引き抜けが起こらずに破断したことがわかる。
【0081】
なお、引張試験において中心素線が破断するときの強度は、前記アルミニウム被覆鋼線の1本あたりの破断強度とほぼ同等である。このことは、以下の表2〜表6に示される実施例および比較例についても同様である。
【0082】
実施例9〜11および比較例2
実施例1において、アルミニウムめっきステンレス鋼線およびアルミニウム素線を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして複合撚線を作製し、複合撚線の中心素線の引き抜けまたは破断を実施例1と同様にして調べた。その結果を表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
表2に示された結果から、各実施例で得られた複合撚線は、いずれも、比較例2で得られた撚線と対比して、中心素線の引き抜けが起こらずに破断したことがわかる。
【0085】
実施例12〜16および比較例3
実施例1において、アルミニウムめっきステンレス鋼線を表3に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして複合撚線を作製し、複合撚線の中心素線の引き抜けまたは破断を実施例1と同様にして調べた。その結果を表3に示す。
【0086】
【表3】
【0087】
表3に示された結果から、各実施例で得られた複合撚線は、いずれも、比較例3で得られた複合撚線と対比して、中心素線の引き抜けが起こらずに破断したことがわかる。
【0088】
実施例17〜21および比較例4
実施例1において、アルミニウムめっきステンレス鋼線を表4に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして複合撚線を作製し、複合撚線の中心素線の引き抜けまたは破断を実施例1と同様にして調べた。その結果を表4に示す。
【0089】
【表4】
【0090】
表4に示された結果から、各実施例で得られた複合撚線は、いずれも、比較例4で得られた複合撚線と対比して、中心素線の引き抜けが起こらずに破断したことがわかる。
【0091】
実施例22〜24および比較例5
実施例1において、アルミニウムめっきステンレス鋼線およびアルミニウム素線を表5に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして複合撚線を作製し、中心素線の引き抜けまたは破断を実施例1と同様にして調べた。その結果を表5に示す。
【0092】
【表5】
【0093】
表5に示された結果から、各実施例で得られた複合撚線は、いずれも、比較例5で得られた複合撚線と対比して、中心素線の引き抜けが起こらずに破断したことがわかる。
【0094】
実施例25〜33
実施例1において、溶融アルミニウム浴を表6に示すように変更し、アルミニウム被膜の厚さを12μmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして複合撚線を作製し、中心素線の引き抜けまたは破断を調べた。その結果を表6に示す。
【0095】
【表6】
【0096】
表6に示された結果から、各実施例で得られた複合撚線は、いずれも、中心素線の引き抜けが起こらずに破断することがわかる。また、表1および表6に示された結果から、めっき被膜にアルミニウムとともに1質量%以上のケイ素、鉄、クロム、ニッケルまたは亜鉛が含まれていても中心素線の引き抜けが起こらずに破断することがわかる。
【0097】
実施例34
鋼線としてステンレス鋼(SUS304)からなり、線径が0.2mmであるステンレス鋼線を用い、このステンレス鋼線を溶融アルミニウム浴(アルミニウムの純度:99.7%以上)に浸漬することにより、厚さ8μmのアルミニウムのめっき被膜を形成させた後、線径が0.2mmとなるように伸線することにより、アルミニウムめっきステンレス鋼線を作製した。なお、被膜の厚さは、実施例1と同様にして測定した。
【0098】
次に、前記で得られたアルミニウムめっきステンレス鋼線を中心素線として用い、その周囲に周辺素線としてアルミニウム(A1070)からなり、線径が0.2mmであるアルミニウム素線6本を配置し、撚りピッチ12mmで撚り合わせることにより、複合撚線を得た。
【0099】
比較例6
鋼線としてステンレス鋼(SUS304)からなり、線径が0.2mmであるステンレス鋼線を用い、この鋼線を溶融亜鉛浴に浸漬することにより、厚さ3μmの亜鉛のめっき被膜を形成させた後、線径が0.2mmとなるように伸線することにより、亜鉛被覆素線を作製した。なお、被膜の厚さは、実施例1と同様にして測定した。
【0100】
次に、前記で得られた亜鉛被覆素線を中心素線として用い、その周囲に周辺素線として線径が0.2mmであり、アルミニウム(A1070)からなるアルミニウム素線6本を配置し、撚りピッチ12mmで撚り合わせることにより、複合撚線を得た。
【0101】
比較例7
鋼線として線径が0.22mmであり、ステンレス鋼(SUS304)からなるステンレス鋼線を中心素線として用い、その周囲に周辺素線として線径が0.2mmであり、アルミニウム(A1070)からなるアルミニウム素線6本を配置し、撚りピッチ12mmで撚り合わせることにより、複合撚線を得た。
【0102】
比較例8
アルミニウム(A1070)からなり、線径が0.2mmであるアルミニウム素線を中心素線として用い、その周囲に周辺素線としてアルミニウム(A1070)からなり、線径が0.2mmであるアルミニウム素線6本を配置し、撚りピッチ12mmで撚り合わせることにより、撚線を得た。
【0103】
前記で得られた撚線を用い、以下の方法にしたがって各撚線の電気抵抗の経時的安定性を調べた。その結果を
図5に示す。
【0104】
なお、
図5中、Aは実施例34で得られた複合撚線の電気抵抗の経時的安定性の測定結果、Bは比較例6で得られた複合撚線の電気抵抗の経時的安定性の測定結果、Cは比較例7で得られた複合撚線の電気抵抗の経時的安定性の測定結果、Dは比較例8で得られた撚線の電気抵抗の経時的安定性の測定結果である。
【0105】
〔電気抵抗の経時的安定性〕
撚線をポリプロピレンで被覆し、15cmの長さに切断し、その両端に端子〔市販の0.64(025)と呼ばれる車載用信号線の結線に用いられるオス端子であって、スズめっきが施された厚さ0.2mmの黄銅製の端子〕をかしめることにより、圧着して接続し、試料を作製した。
【0106】
前記で得られた4種類の試料をそれぞれ5本用意し、環境試験装置を用いて50℃の温度で相対湿度98%以上の雰囲気中で各試料について1000時間環境試験を行なった。なお、試験中、任意の時間が経過したときに環境試験装置から試料を取り出し、定電流発生装置で前記試料に1mAの電流を通電し、両端子間の電圧を測定し、その測定結果から電気抵抗の経時変化を調べた。なお、試験開始前の端子間の抵抗は、いずれの試料についても19〜22mΩの範囲にあった。
【0107】
図5に示される結果から、実施例34で得られた複合撚線(
図5中のA)は、被膜とアルミニウム素線とで異種金属が接触している比較例6で得られた複合撚線(
図5中のB)および比較例7で得られた複合撚線(
図5中のC)と対比して、電気抵抗の経時変化量が小さいことから、電気抵抗の経時的安定性に優れていることがわかる。特に、実施例34で得られた複合撚線(
図5中のA)は、比較例8で得られた撚線(
図5中のD)、すなわち中心素線および周辺素線がいずれもアルミニウム合金である撚線よりも電気抵抗の経時的安定性に優れていることは、本発明の複合撚線が奏する作用効果のなかでも特徴的な点である。
【0108】
その理由として、アルミニウム素線からなる撚線を端子に圧着したとき、アルミニウムは内部応力が低下しやすいことから、端子とアルミニウムからなる素線との間に空隙が生じやすく、その結果、電気抵抗が次第に増大するとともに、アルミニウム素線の表面に酸化皮膜が形成され、さらに経時的に電気抵抗が高くなるものと考えられる。これに対して、本発明の複合撚線は、アルミニウム被膜が表面に形成された鋼線からなる素線を含んでいるため、この鋼線が圧着部の内部応力の低下を抑制することにより、経時的な電気抵抗の増大が抑えられたものと考えられる。
【0109】
実施例35〜46および比較例9〜12
ステンレス鋼線として表7に示す鋼種からなり、線径(直径)を0.180mm、0.200mm、0.230mmまたは0.250mmに調整した後、固溶化熱処理が施されたオーステナイト系ステンレス鋼線を用意した。以下では、このめっき前のステンレス鋼線の線径(直径)を記号D
1で示す。
【0110】
【表7】
【0111】
次に、各ステンレス鋼線を溶融アルミニウム浴(アルミニウムの純度:99.7%以上)に浸漬することにより、めっき被膜の平均厚さが12μm程度となるようにアルミニウム被膜を形成させた後、線径が0.20mmとなるように伸線加工を施すことにより、アルミニウムめっきステンレス鋼線を得た。
【0112】
なお、アルミニウムめっきステンレス鋼線のめつき被膜の平均厚さは、長さが500mmのアルミニウムめっきステンレス鋼線の任意の5カ所を光学式外径測定器〔(株)キーエンス製、品番:LS−7000〕を用いて0.1mm間隔で測定し、測定されたアルミニウム被覆素線の線径の平均値からめっき被膜を形成する前の線径D
1を減算することによって求めた。
【0113】
めっき被膜を形成する前の線径D
1、めっき被膜を形成した後の線径D
2および伸線加工後の線径D
3を表8に示す。
【0114】
次に、伸線加工後のアルミニウムめっきステンレス鋼線について、めっきを除去してステンレス鋼線のみを取り出し、その線径を評価した。その評価の手順は、以下のとおりである。
【0115】
伸線加工後のアルミニウムめっきステンレス鋼線から長さ約100mm前後のステンレス鋼線径の評価用試験片を切り出した。得られた試験片を塩酸および水酸化ナトリウム水溶液に浸漬することにより、めっき層を溶解させ、ステンレス鋼線のみを露出させた。
【0116】
前記で得られたステンレス鋼線の任意の50カ所について光学式外径測定器〔(株)キーエンス製、品番:LS−7000〕を用いて線径を測定した。測定された線径のうち、最小値をD
s minとし、50カ所の測定値の平均値をD
sとした。
【0117】
前記で測定された平均値D
sと最小値D
s minから、式:
[バラつきV(%)]=[(D
s min−D
s)/D
s]×100
に基づいてバラつきVを求めた。
【0118】
伸線加工後のステンレス鋼線の線径として、平均値D
s、最小値D
s minおよびバラつきVの値を表8に併記する。なお、バラつきVの値が大きいステンレス鋼線は、伸線加工に伴うマルテンサイト変態によってステンレス鋼線の表面に凹凸が発生したためと考えられる。
【0119】
次に、伸線加工が施されたアルミニウムめっきステンレス鋼線の捻回性を評価した。その評価の手順は、以下のとおりである。
【0120】
伸線加工が施されたアルミニウムめっきステンレス鋼線を長さ100mmに切断することにより、試験線を作製し、
図6に示される捻回性評価試験機を用いて以下の破断捻回数の測定方法に基づいて試験線が破断するまでの捻回数(破断捻回数)を測定した。その結果を表8に示す。
【0121】
〔破断捻回数の測定方法〕
ねじり試験装置の試験線6をチャック7aおよび7bで掴み、試験台9上の台車12に固定されたおもり11(質量:50g)による荷重を付与し、試験線6が撓まないようにした。
【0122】
次に、チャック7bを矢印A方向に回転させ、試験線6が破断するまでの回転数を整数値で求め、これを破断捻回数とした。
【0123】
例えば、試験線6がチャック7bを90回させるまでに破断しないが、91回転させたときに破断した場合には、破断捻回数は、90回である。
【0124】
なお、捻回性の良否の判断基準は、線径の5倍にあたる線長あたり1回転の捻じりを付与したときに破断しないこととした。
【0125】
表8では、伸線加工後のアルミニウムめっきステンレス鋼線の線径が0.2mmであるので、試験線の長さを100mmとした試験では、捻回数100回が良否の判断基準となる。
【表8】
【0126】
表8に示された結果から、実施例35〜46によれば、前記判断基準を満足し、捻回性に優れたアルミニウムめっきステンレス鋼線が得られることがわかる。
【0127】
実施例47〜58および比較例13〜16
ステンレス鋼線として表7に示す鋼種からなり、線径(直径)を0.090mm、0.100mm、0.115mmまたは0.125mmに調整した後、固溶化熱処理が施されたオーステナイト系ステンレス鋼線を用意した。
【0128】
前記で固溶化熱処理が施されたオーステナイト系ステンレス鋼線を用い、前記と同様にして伸線加工後のステンレス鋼線径を測定し、捻回性の評価を行なった。その結果を表9に示す。
【0129】
【表9】
【0130】
表9に示された結果から、実施例47〜58によれば、前記判断基準を満足し、捻回性に優れたアルミニウムめっきステンレス鋼線が得られることがわかる。
【0131】
実施例59〜70および比較例17〜20
ステンレス鋼線として表7に示す鋼種からなり、線径(直径)を0.360mm、0.400mm、0.460mmまたは0.500mmに調整した後、固溶化熱処理が施されたオーステナイト系ステンレス鋼線を用意した。
【0132】
前記で固溶化熱処理が施されたオーステナイト系ステンレス鋼線を用い、前記と同様にして伸線加工後のステンレス鋼線径を測定し、捻回性の評価を行なった。その結果を表10に示す。
【0133】
【表10】
【0134】
表10に示された結果から、実施例59〜70によれば、前記判断基準を満足し、捻回性に優れたアルミニウムめっきステンレス鋼線が得られることがわかる。
【0135】
以上の結果から明らかなように、本発明のアルミニウムめっきステンレス鋼線は、前記したように、ステンレス鋼線として、式:Md30=413−462C−462N−9.2Si−8.1Mn−13.7Cr−9.5Niで表わされるMd30が−10〜70℃であるオーステナイト系ステンレス鋼からなり、線径が0.05〜0.5mmであるステンレス鋼線が用いられ、当該ステンレス鋼線の表面上にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるめっき被膜が形成されているので、捻回性に優れている。
【0136】
実験例(複合撚線の製造)
実施例47〜70で得られたアルミニウムめっきステンレス鋼線を中心素線とし、アルミニウム合金線を周辺素線として構成された複合撚線を以下の方法に基づいて製造した。
【0137】
まず、アルミニウム合金A1070からなり、直径が0.20mmに調整されたアルミニウム合金線を用意し、これを周辺素線として用いた。
【0138】
次に、実施例47〜70のずれかで得られたアルミニウムめっきステンレス鋼線を巻き付けたボビン1個およびアルミニウム合金線を巻き付けたボビン6個を準備し、
図3に示される撚線製造機を用い、撚りピッチ12mmで、長さ10000mの複合撚線を製造した。このとき、アルミニウムめっきステンレス鋼線を巻き付けたボビンは、
図3に示される撚線製造機のボビン4の位置に配置し、アルミニウム合金線を巻き付けたボビン6個は、それぞれボビン5の位置に配置した。これにより、ボビン4から繰り出されたアルミニウムめっきステンレス鋼線が中心素線となり、ボビン5から繰り出されたアルミニウム合金線が周辺素線となり、
図1に示される形態を有する複合撚線を製造したところ、複合撚線を製造しているときに断線することがなく、長さ10000mの複合撚線を順調に製造することができた。
【0139】
これに対して、アルミニウムめっきステンレス鋼線として比較例9(鋼種D)で製造したアルミニウムめっきステンレス鋼線を用いた場合は、中心素線の破断が長さ10000mの途中で2回生じたことから、当該アルミニウムめっきステンレス鋼線は、製造安定性の面で問題があった。