【文献】
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【文献】
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【文献】
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(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
原核細胞内において真核プロモーター駆動性遺伝子の発現を誘導してヘアピン様RNAを発現させる方法であって、3−モルホリノプロパン−1−スルホン酸(MOPS)、エタノール、グリセリン、及びそれらの混合物のうちから選択される化学剤と、ヘアピン様構造を有する少なくとも1つのRNA及びタンパク質をコードする少なくとも真核プロモーター駆動性遺伝子を有する原核細胞とを接触させることを含み、
前記ヘアピン様構造を有する少なくとも1つのRNAが、前記真核プロモーター駆動性遺伝子の5’−非翻訳領域(5’−UTR)にコードされている、方法。
前記薬学上又は治療上の適用は、多能性幹細胞の生成、幹細胞研究及び治療、癌治療及び疾患治療、傷口治癒処理、ならびに食物収量及び薬物供給の向上からなる群から選ばれる、請求項6に記載の方法。
前記薬学上又は治療上の適用は、多能性幹細胞の生成、幹細胞研究及び治療、癌治療及び疾患治療、傷口治癒処理、ならびに食物収量及び薬物供給の向上からなる群から選ばれるものである、請求項29、30、及び33のいずれか一項に記載の組成物。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】誘導可能なpol−2プロモーター駆動性遺伝子発現の組成物を示す図である。本発明には、実例として、pLenti−EF1α−RGFP−miR302組成物を採用し、当該組成物でE.coli DH5α細胞を形質転換し、MOPS、グリセリン、及び/又はエタノールの誘導下でRGFPのメッセンジャーRNAとタンパク質、及びmiR−302マイクロRNA及び/又はその前駆体を生成する。pLenti−EF1α−RGFP−miR302はレンチウイルス(lentiviral)プラスミドベクターであり、原核細胞と真核細胞の両方で各種のマイクロRNA/低分子ヘアピンRNA、メッセンジャーRNA、及び/又はタンパク質/ペプチドを発現するように設計されている。
【
図1B】誘導可能なpol−2プロモーター駆動の遺伝子発現の組成物により、原核細胞又は真核細胞内においてRNA転写産物とタンパク質を生成し、真核細胞内においてマイクロRNAを生成するメカニズムを示す図である。本発明には、実例として、pLenti−EF1α−RGFP−miR302組成物を採用し、当該組成物でE.coli DH5α細胞を形質転換し、MOPS、グリセリン、及び/又はエタノールの誘導下でRGFPのメッセンジャーRNAとタンパク質、及びmiR−302マイクロRNA及び/又はその前駆体を生成する。pLenti−EF1α−RGFP−miR302はレンチウイルスプラスミドベクターであり、原核細胞と真核細胞の両方で各種のマイクロRNA/低分子ヘアピンRNA、メッセンジャーRNA、及び/又はタンパク質/ペプチドを発現するように設計されている。本発明に教示されたように、当業者は、
図1Bに開示されたメカニズムにより、任意のマイクロRNA/低分子ヘアピンRNAを使用してmiR−302を置換し、又は、任意のメッセンジャーRNA/タンパク質を使用してRGFPを置換することができる。黒い矢印は、当該経路が原核細胞と真核細胞に発生することを示し、中空の矢印は、これらのステップは真核細胞内のみに発生することを示す。
【
図2】0.1%(v/v)のMOPSと0.05%(v/v)のグリセリンで混合処理された(左)、又は未処理(右)の、各細菌培地の結果を示す図である。大腸菌は処理前にpLenti−EF1α−RGFP−miR302で形質転換された。
【
図3】0.1%(v/v)のMOPSで処理された後に、生成された異なる細菌ペレット(pellets)を示す図である。大腸菌はMOPSで処理される前にpLVX−Grn−miR302+367(緑色)又はpLenti−EF1α−RGFP−miR302(赤色)で形質転換された。
【
図4】コンピテントE.coli DH5α細胞内において、異なる化学物質による、pol−2プロモーター駆動性遺伝子発現を誘導する能力を示す図である。本発明の全てのテストされた化学物質のうち、MOPS、エタノール、及びグリセリンの3つが最も効果的な誘導物である。使用可能な化学物質の濃度範囲は0.001%〜4%であり、好ましくは0.01%〜1%である。
【
図5】MOPS、グリセリン、及びエタノールのそれぞれの誘導における、RGFPタンパク質の発現のウエスタンブロット分析結果を示す図である。細菌のRuvBタンパク質を、RGFP発現を正規化する(normalize)ハウスキーピング基準(house−keeping standard)としている。ブランクE.coli DH5α細胞(即ち、ベクターで形質転換されていない)に由来するタンパク質抽出物を陰性対照群としている。
【
図6】MOPS、グリセリン、及びエタノールのそれぞれの誘導における、miR−302とその前駆体マイクロRNAクラスター(pre−miRNA cluster)の発現のノーザンブロット分析結果を示す図である。ブランクE.coli DH5α細胞(即ち、ベクターで形質転換されていない)に由来するRNA抽出物を陰性対照群としている。
【
図7】細菌抽出物(bacterial extracts,BE)から分離されたmiR−302及び/又はpre−miR−302によるiPS細胞の生成を示す図である。当該抽出物のノーザンブロット分析結果は
図6に示される。従来の報告のように、miR−302で再プログラム化されたiPS細胞(mirPSC)が球様細胞コロニーに形成され、Oct4、即ち強い標準的なESCマーカーを発現する。
【
図8】Oct4とSox2遺伝子のプロモーター領域に、細菌抽出物(BE)から分離されたmiR−302及び/又はpre−miR−302(
図6に示すようなノーザンブロット分析)で誘導された全体的なDNA脱メチル化(global DNA demethylation)が生じることを示す図である。SimonssonとGurdon(Nat Cell Biol.6,984−990,2004)の教示のように、全体的なDNA脱メチル化及びOct4発現は体細胞の再プログラム化にとって必要である。
【
図9A】miR−302及び/又はpre−miR−302で処理された、各種の腫瘍/癌細胞の体外腫瘍発生能力試験の結果を示す図である。miR−302及び/又はpre−miR−302で処理されて得られた細胞はmirPS細胞と称され、乳癌に由来するmirPS−MCF7細胞、肝臓癌に由来するmirPS−HepG2細胞、及び胎児性奇形癌(embryonal teratocarcinoma)に由来するmir−PS−Tera2細胞を含む。
図9AはmiR−302及び/又はpre−miR−302で処理される前後の細胞形態と細胞周期の速度の変化を示す。各細胞周期ステージに対応するDNA含有量のフローサイトメトリー分析の結果はグラフとして細胞形態の上方(n=3、p<0.01)に示される。
【
図9B】miR−302及び/又はpre−miR−302で処理された、各種の腫瘍/癌細胞の体外腫瘍発生能力試験の結果を示す図である。miR−302及び/又はpre−miR−302で処理されて得られた細胞はmirPS細胞と称され、乳癌に由来するmirPS−MCF7細胞、肝臓癌に由来するmirPS−HepG2細胞、及び胎児性奇形癌に由来するmir−PS−Tera2細胞を含む。
図9BはmiR−302及び/又はpre−miR−302で処理される前後の細胞形態と細胞周期の速度の変化を示す。各細胞周期ステージに対応するDNA含有量のフローサイトメトリー分析の結果はグラフとして細胞形態の上方(n=3、p<0.01)に示される。
【
図9C】miR−302及び/又はpre−miR−302で処理された、各種の腫瘍/癌細胞の体外腫瘍発生能力試験の結果を示す図である。miR−302及び/又はpre−miR−302で処理されて得られた細胞はmirPS細胞と称され、乳癌に由来するmirPS−MCF7細胞、肝臓癌に由来するmirPS−HepG2細胞、及び胎児性奇形癌に由来するmir−PS−Tera2細胞を含む。
図9Cはフローサイトメトリー分析結果の棒グラフであり、miR−302及び/又はpre−miR−302による、各種の腫瘍/癌細胞からの細胞群の有糸分裂(M期)及び休止期(G0/G1期)における変化に対する用量依存効果を示す。
【
図10A】miR−302及び/又はpre−miR−302で処理された、各種の腫瘍/癌細胞の体外腫瘍発生能力試験の結果を示す図である。miR−302及び/又はpre−miR−302で処理されて得られた細胞はmirPS細胞と称され、乳癌に由来するmirPS−MCF7細胞、肝臓癌に由来するmirPS−HepG2細胞、及び胎児性奇形癌に由来するmir−PS−Tera2細胞を含む。
図10AはmiR−302で抑制されたMatrigelチャンバーにおける腫瘍細胞の浸潤行為に対する機能性分析(n=4、p<0.05)である。
【
図10B】miR−302及び/又はpre−miR−302で処理された、各種の腫瘍/癌細胞の体外腫瘍発生能力試験の結果を示す図である。miR−302及び/又はpre−miR−302で処理されて得られた細胞はmirPS細胞と称され、乳癌に由来するmirPS−MCF7細胞、肝臓癌に由来するmirPS−HepG2細胞、及び胎児性奇形癌に由来するmir−PS−Tera2細胞を含む。
図10BはmiR−302及び/又はpre−miR−302で処理される前後の、ヒト骨髄内皮細胞(hBMEC)単層における細胞の接着(n=4、p<0.05)の比較である。
【
図11】miR−302ファミリークラスター(Tera2+mir−302s)又はアンチセンスmiR−302d(Tera2+mir−302d*)処理で、生体内腫瘍発生試験における胎児性奇形癌細胞(Tera−2)の結果(n=3、p<0.05)を示す図である。胎児性奇形癌は常に、各種の、3つの胚性胚葉(embryonic germ layer)、即ち、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉に由来する腫瘍/癌細胞を含み、当該混合型の腫瘍組織は抗腫瘍/癌薬物のテストに使用可能である。(A)インサイチュ注射を実施してから(post−is)三週間後、平均腫瘍サイズに対して形態学的評価を行う。全ての腫瘍はいずれも元の移植位置(黒い矢印で示す箇所)に位置している。全ての被試験マウスのいずれも悪液質又は腫瘍転移の症状が観察されていない。(B)ノーザンブロット分析とウエスタンブロット分析、及び(C)免疫組織化学染色分析図は、体内miR−302による、コア再プログラム化因子Oct3/4−Sox2−Nanogと、miR−302を標的とするG1チェックポイントレギュレーターであるサイクリン依存性キナーゼ2(CDK2)、サイクリンD1/D2(cyclins D1/D2)、BMI−1、及びp16Ink4a、p14Arfの発現形態に対する効果を示す。
【
図12】マイクロRNAmiR−302及び/又はpre−miR−302を含有する軟膏を使用して、マウス皮膚の開放創を治療する生体傷口治癒試験を示す図である。miR−302及び/又はpre−miR−302で治療するマウスの皮膚傷口は、ブランク軟膏又は他のマイクロRNA(miR−HA)で治療するマウスの皮膚傷口の少なくとも二倍の大きさである。この試験により、miR−302及び/又はpre−miR−302による処理は傷口治癒速度を顕著に向上させ、当該治癒速度は他の処理群と対照群の治癒速度のいずれかの二倍を超えたことがはっきり示された。なお、miR−302及び/又はpre−miR−302で治療された後の傷口治癒領域に、正常な毛の再成長が現れ、かつ瘢痕が残っていないのに対し、他の処理群の結果では小さな瘢痕が残り、かつ毛の成長がない(黒い矢印で示す)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[原核細胞内における真核プロモーター駆動性タンパク質コーディング遺伝子発現の誘導]
z−コンピテント大腸菌形質転換キット(z−competent E.coli transformation kit,Zymo Research,カリフォルニア州アーバイン)を使用して、pLenti−EF1α−RGFP−miR302プラスミドベクターの形質導入で大腸菌(E. coli)の形質転換を行い、37℃のLB培地で培養すると同時に、170rpmで頻繁に振盪する。
図2に示されるように、一晩培養を経た後、大腸菌コロニーが0.1%(v/v)のMOPSと0.05%(v/v)のグリセリンが添加された条件において、細菌のLB培地を明らかに赤色に染めた赤色の蛍光タンパク質RGFPが大量に発現されるのに対し、対照群のコロニーはRGFPを生成できない。マーカー機能を有するRGFPの存在は、そのRNAもそのタンパク質も製造できたことを示している。
【0016】
更に、2つの形質転換された大腸菌菌株を使用して、確認された化学剤、例えばMOPSによるタンパク質の誘導特性を証明及び体現し、そのうちの1つの菌株は、CMVプロモーターで駆動される緑色の蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を有するpLVX−Grn−miR302+367プラスミドベクターを保有しており、もう1つの菌株は、上記のpLenti−EF1α−RGFP−miR302ベクターを保有している。
図3に示されるように、0.1%(v/v)のMOPSにおいて一晩培養を経た後、pLVX−Grn−miR302+367で形質転換された大腸菌は緑色の細胞を生成し、他のpLenti−EF1α−RGFP−miR302プラスミドベクターを有するE.coliでは赤色の細胞が出現した。この結果は、MOPSのような化学物質が、II型真核ポリメラーゼ(pol−2)プロモーター又はpol−2適合性ウイルスプロモーターにより、所定のRNA及び関連タンパク質の生成を誘導できることを示している。また、この誘導生成されたRNAとタンパク質は高度に限定されており、かつ当該化学物質の添加により調節できる。ただし、注意すべきことに、当該タンパク質の収量は、これらの細菌細胞がそれぞれの色に染色されて見えるほど相当に高い。
【0017】
図4に示されるように、本発明の全てのテストされた化学物質のうち、3種の最も効果的な誘導物はMOPS、グリセリン、及びエタノールである。
図5及び実施例3に記載されるように、誘導生成された赤色の蛍光タンパク質RGFPは、さらにウエスタンブロット分析でその量が確認される。細菌のRuvBタンパク質を、RGFP発現を正規化するハウスキーピング基準とする。これらの確認された誘導物の誘導能力は、用量に依存しており、かつ濃度と比例していることが発見された。まったく処理されていない陰性対照群の大腸菌細胞では、いかなる蛍光染料も存在せず、本来の色のみを呈している。したがって、これらの結果を総合すれば、本発明は、新規な化学誘導可能な組成物及びそれが原核細胞内においてII型真核ポリメラーゼ(pol−2)プロモーター、又はpol−2適合性ウイルスプロモーター駆動性遺伝子発現を調節するための適用を明らかに提供した。当該遺伝子の産物はRNA又はタンパク質/ペプチド、或いはその両方であってもよい。上記の説明により、当業者は他のイントロンを含有しない(intron−free)遺伝子又は関連cDNAを使用してRGFP遺伝子を置換することで、原核細胞内において機能性RNA及び/又はタンパク質を生成することができることは自明である。
[原核細胞内における真核プロモーター駆動性ノンコーディングRNA発現の誘導]
上記のように、pLenti−EF1α−RGFP−miR302ベクターは、RGFP遺伝子の5’非翻訳領域(5’−UTR)に、マイクロRNAmiR−302のクラスター(miR−302 cluster)を含み(
図1Aと
図1B)、当該RGFP遺伝子の誘導された発現も、
図1Bに示されたメカニズムのように、miR−302クラスター(miR−302s前駆体)を生成する。原核細胞内に、RNAスプライシング機構(例えばスプライセオソーム,spliceosome)が欠けているので、本発明において得られたmiR−302クラスターは依然としてヘアピン様前駆体マイクロRNA(pre−miR−302s又はpri−miR−302s)であり、分離され、真核細胞内に送達されるのに好適である。真核細胞内において、これらのpre−miR−302s又はpri−miR−302sは更に処理され成熟miR−302s(即ち、miR−302マイクロRNA)になり、機能することができる。同様に、他のマイクロRNAと関連前駆体も、miR−302発現の同じステップを経て生成することができる。また、ノンコーディングRNA、例えば低分子干渉RNA(short interfering RNA,siRNA)及び低分子ヘアピンRNA(shRNA)は、上記のマイクロRNAのように発現されるように設計されることができる。これらのノンコーディングRNAは、少なくともマイクロRNAと30%〜100%の相同性を有する1つの配列を含むことが好ましい。なお、これらのshRNA/siRNAは、ヘアピンのステム領域(stem regions)で完全にマッチでき、哺乳類の前駆体マイクロRNA(pre−miRNA又はpri−miRNA)は通常ミスマッチの(mismatched)塩基対を含む。大部分のマイクロRNAは、所定の遺伝子のサイレンサー(silencers)としての機能を有し、かつ多くの生理メカニズム及び病理メカニズムにおいて、生物学的発生(biological development)、幹細胞生成、細胞核再プログラム化(nuclear reprogramming)、細胞分化、細胞周期調節、腫瘍抑制、免疫防御、アポトーシス、再生(rejuvenation)、傷口治癒、及び他の多くの各種の特殊な役割を果たしているが、これらに限定されていないので、これらの薬学と治療領域における潜在的な適用は高度に期待されている。形質導入されたプラスミドとノンコーディングRNA(即ち、マイクロRNA/低分子ヘアピンRNA)はいずれも同時に原核細胞、例えば大腸菌により増幅されることができる。増幅ステップの後に、pLenti−EF1α−RGFP−miR302プラスミドDNAと転写されたpre−miR−302s/pri−miR302sを分離させる方法は実施例5と実施例6に記載されている。増幅されたノンコーディングRNA(即ち、pre−miR−302s/pri−miR−302s)及び/又はベクター(即ち、pLenti−EF1α−RGFP−miR302)を真核細胞に送る方法は、エンドサイトーシス(endocytosis)、グリセリン注入(glycerol infusion)、ペプチド/リポソーム(liposomal)/化学物質が媒介する導入、電気穿孔法、遺伝子銃浸透、マイクロインジェクション、トランスポゾン/レトロトランスポゾン挿入、及びアデノウイルス/レトロウイルス/レンチウイルス感染から選ばれるものであってもよい。
【0018】
上記のRGFP誘導実験(
図4と5)は、化学誘導の存在下又は非存在下で、ノンコーディングpre−miR−302s及びその成熟miR−302産物の、pLenti−EF1α−RGFP−miR302で形質転換された細菌内の発現を測定することにも相当する。
図6及び実施例4に示されるように、ノーザンブロット分析により、誘導生成されたpre−miR−302sの量を確認する。RGFP誘導実験の結果(
図4と
図5)のように、ブランク対照群ではなく、MOPS、グリセリン、及びエタノールで処理された形質転換細菌内で、pre−miR−302sの発現が測定され、これらのpol−2プロモーターの化学誘導物は、原核細胞内においてもノンコーディングRNAの発現を起こすことができる。全てのマイクロRNA(miRNA)及び低分子ヘアピンRNA(shRNA)は類似した構造を有しているので、当業者は、他のノンコーディングマイクロRNA及び/又は低分子ヘアピンRNAにより、当該miR−302クラスターを置換するとともに、原核細胞内において、機能性マイクロRNA、低分子ヘアピンRNA、及び/又はその前駆体/ホモログを生成できることが分かる。
[本発明の幹細胞生成機能の応用]
米国特許出願第12/149,725号と第12/318,806号の教示のように、マイクロRNAmiR−302は、哺乳類の体細胞を、胚性幹細胞様(embryonic stem cell(ESC)−like)の誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem(iPS)cells)に再プログラム化(reprogram)するために使用可能である。多くの幹細胞応用及び治療の発展はこれらのESC様のiPS細胞に頼っている。しかし、miR−302はヒトESC内でのみ大量に生成され、他の分化した組織細胞内では大量に生成されない。ヒトESCの分離について、多くの議論の余地がある。ヒトESCの培養は大量の人力と金銭がかかる。ヒトESCのステップを回避する他の代替的方法として、合成のmiR−302の類似体(mimics)を製造する方法があるが、非常に高価でありかつ効率が劣っている。合成miR−302と天然miR−302の間の類似程度はまだ不確定である。これらの問題を解決するために、本発明は、原核細胞内においてmiR−302及び/又はその前駆体/ホモログを大量に製造するための簡単、低価、迅速、かつ誘導可能な組成物及び方法を提供できる。なお、原核細胞からmiR−302及び/又はその前駆体を分離することは、本発明の
図6及び実施例6に示されるように、比較的簡単かつ経済的である。
【0019】
発明者は、実施例5と実施例6の記載のように、pLenti−EF1α−RGFP−miR302で形質転換された大腸菌細胞を使用して、高品質のpLenti−EF1α−RGFP−miR302ベクター及びpre−miR−302sを生成し、分離した。米国特許出願第12/149,725号と第12/318,806号の教示のように、本発明のpLenti−EF1α−RGFP−miR302とpre−miR−302sによる、iPS細胞の生成における使用は予期できるものである。実施例2により、本発明で生産されたpre−miR−302sをヒト皮膚初代角化細胞(primary keratinocytes)に導入した後、当該導入された角化細胞は、再プログラム化されESC様のiPS細胞になり、かつ強いESCマーカーOct4が発現された(
図7)。さらに、
図8及び実施例8に示されるように、亜硫酸水素塩DNA配列試験(bisulfite DNA sequencing assay)もOct4とSox2遺伝子のプロモーター領域に、全体的なDNAの脱メチル化が生じたことを示し、Oct4とSox2は最も重要な再プログラム化因子及びESCマーカーである。全体的なDNAの脱メチル化及びOct4発現は細胞が再プログラム化し始めることに成功し、かつESCと類似する多能性(pluripotency)を得る第一歩(Simonsson and Gurdon,Nat Cell Biol. 6:984−990,2004)として知られているので、MOPS誘導による(MOPS−induced)細菌抽出物から分離されたmiR−302及び/又はpre−miR−302のiPS細胞生成における効果が証明された。この例は、本発明が、多能性幹細胞の生成のための十分なmiR−302及び/又はpre−miR−302を含有する細菌抽出物又は細菌溶解物を製造することに使用可能であることを証明した。
[マイクロRNA抽出物の腫瘍/癌治療における適用]
発明者又は当業者は、本発明(実施例1、5、6)により、十分なマイクロRNAmiR−302の前駆体(pre−miR−302s又はpri−miR−302s)及び関連するmiR−302をコードする(miR−302−encoding)プラスミドベクターを生産できる。miR−302の癌治療における機能とメカニズムは、米国特許出願第12/318,806号と第12/792,413号を参照できる。従来、林(Lin)等は、この方法の、ヒト黒色腫(melanoma)、前立腺癌(Lin等,RNA 2008)、乳癌、肝細胞癌(Hepatocellular carcinoma)、及び胎児性奇形癌細胞(Lin等,Cancer Res.2010)に対する治療上の実行可能性を既に教示した。
図9A〜9Bに示されるように、全ての試験された腫瘍/癌細胞は、miR−302及び/又はpre−miR−302で処理された後、いずれも再プログラム化され正常iPS細胞になり、かつ胚様体細胞コロニー(embryoid body−like cell colonoies)を形成した。miR−302及び/又はpre−miR−302で処理され得られた細胞はmirPS細胞と呼ばれ、即ち「miR302で誘導された多能性幹細胞(miR302−induced pluripotent stem cells)」の略称である。なお、miR−302は、正常組織細胞を除いた、全てのテストされた腫瘍/癌細胞の顕著なアポトーシス(>95%)の発生を誘導することができる(Lin等,RNA 2008及びCancer Res.2010)ことも発見された。フローサイトメトリーにより、細胞周期の各時期のDNA含有量を更に分析した結果として、全てのmirPS細胞中において、有糸分裂の細胞群で顕著に減少したことを示した(
図9C)。mirPS−MCF7細胞において、有糸分裂の細胞群(M期)が49%±3%から11%±2%まで、78%減少し、mirPS−HepG2細胞において、46%±4%から17%±2%まで、63%減少し、mirPS−Tera2細胞において、50%±6%から19%±4%まで、62%減少したのに対して、静止/休止中の細胞群(G0/G1期)は、mirPS−MCF7細胞では41%±4%から74%±5%まで、mirPS−HepG2細胞では43%±3%から71%±4%まで、mirPS−Tera2細胞では40%±7%から69%±8%まで、それぞれ80%、65%、72%増加した。これらの結果は、miR−302が、これらの腫瘍/癌細胞の迅速な細胞周期の速度を効果的に弱化させ、顕著なアポトーシスを発生させることができることを示した。
【0020】
細胞浸潤試験(実施例9、Matrigelチャンバーを使用する)及び細胞接着試験(実施例10、細胞がヒト骨髓内皮細胞(hBMEC)の単細胞層に接着される)等の体外腫瘍発生能力試験(In vitro tumorigenecity assays)は、mir−302による抗増殖特性以外に、他の2種類の抗腫瘍生成の効果を示した。細胞浸潤試験(Cell invasion assay)は、全てのmirPS−腫瘍/癌細胞が、移動能力(<1%まで低下した)を失ったのに対し、元の腫瘍/癌細胞は比較的高い栄養物が補充された間隔域に積極的に浸潤し、MCF7細胞において9%±3%以上の細胞群を占め、HepG2細胞において16%±4%以上の細胞群を占め、Tera−2細胞において3%±2%以上の細胞群を占めた(
図10A)ことを示した。これと一致して、細胞接着試験(Cell adhesion assay)も、これらのmirPS−腫瘍/癌細胞は、hBMECs単細胞層に接着できないが、元のMCF7とHepG2細胞は50分間の培養後、顕著な細胞群(MCF7 7%±3%、HepG2 20%±2%)が迅速にhBMEC単細胞層(
図10B)に転移したことを示した。以上をまとめると、これらの発見は全て、miR−302及び/又はpre−miR−302は、ヒト腫瘍抑制因子であり、細胞の迅速な増殖を弱化させ、腫瘍/癌細胞アポトーシスを発生させ、かつ腫瘍/癌細胞の浸潤及び転移(metastasis)を抑制することができることを強くかつ繰り返して示している。最も重要なことに、この新規なmiR−302及び/又はpre−miR−302の機能は、悪性皮膚癌、前立腺癌、乳癌、肝臓癌治療、及び胚胎性奇形腫に含まれる異なる類型の組織に対する各種の腫瘍の治療を含むがこれらに限定されない、様々なヒト癌/腫瘍に対抗する普遍的な治療方法を提供できる。
【0021】
miR−302及び/又はpre−miR−302の腫瘍抑制機能、及び正常細胞と腫瘍/癌細胞における異なる効果を確認した後、発明者は、更に、生後八週間のオス無胸腺マウス(BALB/c nu/nu系統)により、miR−302及び/又はpre−miR−302の、Tera2に由来する奇形腫を治療する抗腫瘍薬としての活用可能性(
図11A〜11Cと実施例11〜12)を調査した。Tera−2細胞は元々ヒト胎児性奇形癌に由来し、かつ多種の原始腫瘍組織細胞(primitive timorous tissue cells)を含んでいる。その多能性により、Tera2に由来する奇形腫は通常、多種の体内腫瘍形態の治療モデルとされる。
図11Aに示されるように、miR−302及び/又はpre−miR−302で3週間治療(Tera2+mir−302s)した後、我々は、無処理群(104±23mm
3、n=4)に比べると、平均腫瘍サイズが89%以上(>89%)(11±5mm
3、n=6)と顕著に減少したことを測定できた。反対に、同じ量のアンチセンス−mir−302d(Tera2+miR302d*)を投与すると、平均腫瘍サイズが元の140%(250±73mm
3、n=3)に増加する。ノーザンブロット分析の結果も、これらの異なる処理を受けた奇形腫細胞のうち、miR−302の発現レベルと腫瘍サイズが負の相関を呈しており(
図11B)、即ち、miR−302の発現を制御することによって、体内腫瘍の増殖を効果的に制御できることを示した。これらの発現を実証するために、我々は、更にウエスタンブロット分析でmiR−302及び/又はpre−miR−302で処理された奇形腫のうち、G1チェックポイントレギュレーターCDK2、サイクリン−D1/D2、及びBMI−1の共同抑制、腫瘍抑制因子p16Ink4a、p14/p19Arfおよびコア再プログラム化因子Oct3/4、Sox2とNanogの共同活性化(
図11B)を確認した。免疫組織化学(immunohistochemical,IHC)染色で奇形腫組織におけるこれらのタンパク質を分析すると、同様に同じ結果(
図11C)を証明した。miR−302の腫瘍抑制機能及び体内と体外(in vitro,in vivo)の一致した結果に基づき、miR−302は本発明を使用して癌治療薬物を調製するマイクロRNAの実例とされることが理解できる。
[マイクロRNA抽出物の傷口治癒処理における適用]
発明者は、本発明において生成された十分なマイクロRNAmiR−302の前駆体(pre−miR−302s)及び関連するmiR−302をコードするプラスミドベクターの、動物傷口治癒における使用を調査した(実施例13)。pre−miR−302s及び関連プラスミドベクターは、実施例1と実施例5に記載された方法により増幅され、かつ実施例5と実施例6に記載された方法により抽出された。そして、分離されたpre−miR−302s及び関連するプラスミドベクターは、予め用意された、カカオバター、綿実油、オリーブオイル、ピルビン酸ナトリウム、及び白色ワセリンを含む軟膏基剤と混合された。当該予め用意された軟膏基剤におけるmiR−302の前駆体及びベクターの濃度は10μg/mLである。メスで皮膚を切り開いて皮膚の開放創を作る。miR−302及び/又はpre−miR−302を含む又は含まない軟膏を傷口に直接塗布し、軟膏は、創部全体を覆った。そして、更に液状包帯(liquid bandage)で処理済みの領域をシールした。
図12に示されるように、二週間以内に、miR−302及び/又はpre−miR−302での処理は傷口治癒の速度を顕著に向上させたことがはっきり示され、当該治癒速度は他の処理群と対照群全体の治癒速度の二倍以上である。なお、傷口について、miR−302及び/又はpre−miR−302で治療された後の傷口治癒領域には正常な毛の再成長が現れ、かつ瘢痕が残っていないのに対して、他の処理群の結果では、小さな瘢痕が残っており、かつ毛の成長がなかった(黒い矢印で示す)。
[本発明の他の適用]
本発明の好ましい適用実施例の一つは、生物医学研究、薬学上及び治療上の適用、例えば遺伝子調節及び遺伝子治療のためのマイクロRNA及び/又は低分子ヘアピンRNAを生成することである。例えば、米国特許出願第12/318,806号に開示されたように、miR−302はヒト細胞の腫瘍抑制因子であるが、これに限定されない。本発明は、癌治療又は薬物開発のための十分なmiR−302及び/又はその前駆体/ホモログを製造できる。具体的には、治療性の、微生物、動物又は植物から分離されたマイクロRNA/低分子ヘアピンRNA(microRNA/shNA)の遺伝子は、プラスミドベクターにクローニング(Cloning)され、II型真核ポリメラーゼ(pol−2)又はpol−2適合性ウイルスプロモーターで制御されることができ、当該プラスミドベクターは、非病原性細菌内に送達されることができる。このマイクロRNA/shNAの発現ベクターを含む細菌が患者の細胞内に導入されると、当該患者は、グリセリン又はエタノールを服用して当該治療性マイクロRNA/shNAの当該細菌内での生成を誘発し、細胞内に放出させることで、不調及び/又は疾患を治療することができる。
【0022】
本発明のもう一つの好ましい適用実施例は、生物医学研究、薬学上及び治療上の適用のための機能性タンパク質/ペプチドを生成することである。例えば、得られたタンパク質/ペプチドは、糖尿病を治療するためのインスリン、腫瘍/癌を治療するための腫瘍抑制タンパク質、正常な身体成長を促進させるための増殖因子、生物医学研究又はワクチン/血清に使用される抗体、及び分子生物学及び生物医学研究に使用される全ての種類の生物酵素であってもよいが、これらに限定されない。具体的には、治療性の、かつ微生物、動物又は植物から分離されたタンパク質/ペプチドの遺伝子は、プラスミドベクターにクローニングされ、II型真核ポリメラーゼ(pol−2)又はpol−2適合性ウイルスプロモーターで制御されることができ、当該プラスミドベクターは、非病原性細菌内に送達されることができる。この遺伝子発現ベクターを含む細菌が患者の細胞内に導入されると、当該患者は、グリセリン又はエタノールを服用して当該治療性タンパク質/ペプチドの当該細菌内での生成を誘発し、細胞内に放出させることで、不調及び/又は疾患を治療する。
【0023】
本発明のもう一つの好ましい適用実施例は、ヒト及び/又は動物のためのタンパク質食物収量及び薬物供給を向上させることである。細菌の迅速な増殖によるタンパク質生成は、コストの高い家畜/動物の維持に必要な時間と人力を低減できる。また、必要のない動物犠牲を回避できる。本発明の利点は、哺乳類遺伝子プロモーターを使用して哺乳類タンパク質を生成し、遺伝子工学と遺伝子修飾(modification)に伴うリスクを低下させることができることにある。
【0024】
本発明のもう一つの可能な適用実施例は生物兵器を製造することである。例えば、微生物、動物又は植物から分離された毒物/有毒タンパクの遺伝子がプラスミドベクターにクローニングされ、かつII型真核ポリメラーゼ(pol−2)又はpol−2適合性ウイルスプロモーターで制御されることが可能であり、当該微生物、動物又は植物は、炭疽杆菌(Bacillus anthracis)、毒葛、クラゲ、昆虫、魚類、両生類、及び蛇類等を含むがこれらに限定されない。当該プラスミドベクターは非病原性細菌内に送達されることができる。pol−2プロモーター駆動性遺伝子発現を誘導可能な化学剤が存在しない場合に、これらのプラスミドベクターを保有している細菌はひそかに増幅するが無害である。しかし、化学剤、例えばMOPS、エタノール、グリセリン、又はそれらの混合物が環境に存在すれば、細菌内の当該毒物/有毒タンパクの遺伝子が活性化されその効果が発揮される。
A.定義
本発明について理解しやすくするため、いくつかの用語は次のように定義される:
核酸(Nucleic Acid):デオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)の一本鎖又は二本鎖のポリマーである。
【0025】
ヌクレオチド(Nucleotide):糖部分(ペントース(pentose))、リン酸塩(phosphate)、及び窒素含有複素環式塩基(nitrogenous heterocyclic base)から構成されたデオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)のモノマー。当該塩基は、グリコシド炭素(glycosidic carbon,当該ペントースの1’の炭素)を介して、当該糖部分に連結されており、当該塩基及び糖の組合せはヌクレオシド(nucleoside)である。ヌクレオシドは、当該ペントースの3’位又は5’位で少なくとも1つのリン酸と結合され、ヌクレオチド(nucleotide)になる。デオキシリボ核酸(DNA)とリボ核酸(RNA)はそれぞれに、異なる類型のヌクレオチド単位、即ち、デオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチドからなる。
【0026】
オリゴヌクレオチド(Oligonucleotide):2つ以上の、好ましくは3つ以上の、そして通常は10個以上のデオキシリボ核酸(DNA)及び/又はリボ核酸(RNA)のモノマーからなる分子である。13個以上のモノマーを含むオリゴヌクレオチドは通常ポリヌクレオチド(polynucleotide)とも呼ばれる。オリゴヌクレオチドの正確な長さは種々の要素に依存するが、当該オリゴヌクレオチドの最も好適な機能又は用途に依存する。オリゴヌクレオチドは、化学合成、DNA複製、RNA転写、逆転写、又はそれらの組合せを含む任意の方法で生成できる。
【0027】
ヌクレオチド類似体(Nucleotide Analog):A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)又はU(ウラシル)ヌクレオチドとは構造的に異なっているが、核酸分子内の通常のヌクレオチドを置換可能な程度に十分に類似しているプリン(purine)又はピリミジン(pyrimidine)ヌクレオチドである。
【0028】
核酸組成物(Nucleic Acid Composition):オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドであり、例えば、一本鎖又は二本鎖分子構造を有するDNA又はRNA配列、又はDNA/RNA配列の混合物である。
【0029】
遺伝子(Gene):核酸組成物のうちのオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドの配列がRNA及び/又はポリペプチド(タンパク質)をコードする、その核酸組成物である。遺伝子は、ノンコーディングRNA、例えば低分子ヘアピンRNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、rRNA、tRNA、snoRNA、snRNA、及びそれらのRNA前駆体と誘導体をコードし得る。一方、遺伝子は、タンパク質/ペプチドの合成に必須のタンパク質コーディングRNA、例えば、メッセンジャーRNA(mRNA)及びその前駆体と誘導体をコードし得る。場合によって、タンパク質コーディングRNAは、少なくとも1つのマイクロRNA又はshRNA配列を含んでもよい。
【0030】
一次RNA転写産物(Primary RNA Transcript):遺伝子から直接転写され、かつRNAプロセシングも修飾も受けていないRNA配列である。
前駆体メッセンジャーRNA(Precursor messenger RNA,pre−mRNA):タンパク質コーディング遺伝子が真核細胞のII型真核RNAポリメラーゼ(Pol−II)により、転写と呼ばれる細胞内メカニズムによって生成される一次RNA転写産物である。前駆体メッセンジャーRNAの配列は、5’末端非翻訳領域(5’−UTR)、3’末端非翻訳領域(3’−UTR)、エキソン(exon)及びイントロン(intron)を含んでいる。
【0031】
イントロン(Intron):非タンパク質リーディングフレームをコードする遺伝子転写産物配列の一部又は複数の部分であり、例えば、インフレームイントロン(in−frame intron)、5’末端非翻訳領域(5’−UTR)及び3’末端非翻訳領域(3’−UTR)である。
【0032】
エキソン(Exon):タンパク質リーディングフレーム(cDNA)をコードする遺伝子転写産物配列の一部又は複数の部分であり、例えば、細胞遺伝子、増殖因子、インスリン、抗体及びそれらの類似物/ホモログと誘導体の相補的デオキシリボ核酸(cDNA)である。
【0033】
メッセンジャーRNA(Messenger RNA,mRNA):前駆体メッセンジャーRNAのエキソンのアセンブリである。メッセンジャーRNAは、細胞内のRNAスプライシング機構、例えばスプライセオソームによるイントロンの除去の後に形成され、ペプチド/タンパク質合成のためのタンパク質コーディングRNAとして使用される。当該メッセンジャーRNAにコードされるペプチド/タンパク質は、酵素、増殖因子、インスリン、抗体及びそれらの類似物/ホモログと誘導体を含むがこれらに限定されない。
【0034】
相補的デオキシリボ核酸(Complementary DNA,cDNA):一本鎖又は二本鎖デオキシリボ核酸(DNA)であり、mRNA配列に相補的な配列を含み、イントロン配列をまったく含んでいない。
【0035】
センス(Sense):配列順序及び組成は相同mRNAと同じである核酸分子である。センスの構造形態は、「+」、「s」又は「sense」の符号で示される。
アンチセンス(Antisense):各mRNA分子に相補的な核酸分子である。アンチセンスの構造形態は、「−」符号、或いは、DNA又はRNAの前に「a」又は「antisense」を付けて示され、例えば、「aDNA」又は「aRNA」である。
【0036】
塩基対(Base Pair,bp):二本鎖DNA分子に存在するアデニン(A)とチミン(T)との対関係(partnership)、又はシトシン(C)とグアニン(G)との対関係である。RNAにおいて、ウラシル(U)がチミン(T)に代わっている。一般に、当該対関係は、水素結合によりなされている。例えば、センス配列「5’−A−T−C−G−U−3’」は、そのアンチセンス配列「5’−A−C−G−A−T−3’」と完全塩基対関係を形成できる。
【0037】
5’末端(5’−end):1つのヌクレオチドの5’−水酸基がホスホジエステル結合により、次のヌクレオチドの3’−水酸基に結合された連続したヌクレオチドの5’位においてヌクレオチドが欠けている末端である。1つ以上のリン酸塩のような他の官能基が当該末端に存在し得る。
【0038】
3’末端(3’−end):1つのヌクレオチドの5’−水酸基がホスホジエステル結合で次のヌクレオチドの3’−水酸基に結合された連続したヌクレオチドの3’位においてヌクレオチドが欠けている末端である。当該末端に他の官能基、多くの場合は水酸基が存在し得る。
【0039】
テンプレート(Template):核酸ポリメラーゼで複製可能な核酸分子である。テンプレートは、ポリメラーゼに依存して、一本鎖、二本鎖又は部分的な二本鎖のいずれであってもよい。合成されたコピーは、当該テンプレート、当該二本鎖テンプレート又は部分的な二本鎖のテンプレートの少なくとも一方の鎖と相補的である。RNAとDNAはいずれも、5’末端から3’末端の方向に合成される。核酸二本鎖体(duplex)の2本の鎖は、これらの2本の鎖の5’末端が当該二本鎖体の反対末端となるように常に整列されている(これらの2本の鎖の3’末端も同様である)。
【0040】
核酸テンプレート(Nucleic Acid Template):二本鎖DNA分子、二本鎖RNA分子、ハイブリッド分子(例えば、DNA−RNA又はRNA−DNAハイブリッド)、或いは、一本鎖DNA又はRNA分子である。
【0041】
保存(Conserved):ヌクレオチド配列と予め選択された(参照)配列の正確な相補物(complement)とが非ランダムにハイブリダイズする場合、当該ヌクレオチド配列は当該予め選択された配列に対して保存されている。
【0042】
相同(Homologous)又は相同性(Homology):遺伝子又はメッセンジャーRNA(mRNA)配列とポリヌクレオチド配列との間の類似性を意味する。核酸配列は、例えば、所定の遺伝子又はmRNA配列に対して部分的に又は完全に相同性を有し得る。相同性は、類似するヌクレオチド数がヌクレオチド総数に占める百分率で示されてもよい。
【0043】
相補的(Complementary)又は相補性(Complementarity又はComplementation):上記の塩基対の規則(「base pair」 rule)により、塩基の対合が発生する2つのポリヌクレオチド(即ち、mRNAとcDNAの配列)である。例えば、配列「5’−A−G−T−3’」は、配列「5’−A−C−T−3’」及び「5’−A−C−U−3’」に対して相補的である。相補性は、2つのDNAの鎖の間、或いは、1つのDNAの鎖と1つのRNAの鎖との間、或いは、2つのRNAの鎖の間のいずれにもあり得る。相補性は、「部分的」、「完全」又は「総合的」であってもよい。一部の核酸塩基のみがこれらの塩基対規則に従って対合する時に、部分的相補性と称される。塩基がこれらの核酸の鎖の間で完全に対合するときに、完全又は総合的相補性と称される。核酸の鎖の間の相補性の程度は、核酸の鎖の間のハイブリダイゼーション効率及び強度に対して重要な影響がある。これは、核酸間の結合による増幅反応と検知方法にとって特に重要である。相補率(percent complementarity又はcomplementation)は、当該核酸の1つの鎖におけるミスマッチ塩基数が合計塩基に占める比率を参照する。したがって、50%の相補率は、塩基の半分がミスマッチであり、塩基の半分は一致していることを意味する。核酸の2つの鎖の塩基数が違っている場合でも、核酸の2つの鎖が相補的となり得る。この場合に、相補性は、一部の長い鎖と短い鎖の間に起こり、そのうち、当該長い鎖の当該一部の塩基と短い鎖の塩基が対をなす。
【0044】
相補的塩基(Complemetary base):DNA又はRNAが二本鎖構造を形成するとき、通常は対になっているヌクレオチドである。
相補的ヌクレオチド配列(Complemetary Nucleotide Sequence):DNA又はRNAの一本鎖分子におけるヌクレオチド配列であり、2つの鎖の間で引き続く水素結合により特異的にハイブリダイズするもう1つの一本鎖と十分に相補的である配列である。
【0045】
ハイブリダイズ(Hybridize)及びハイブリダイゼ―ション(Hybridization):塩基対により複合体を形成するのに十分相補的なヌクレオチド配列間の、二本鎖の形成である。プライマー(又はスプライステンプレート)が標的(テンプレート)と「ハイブリダイズ」する場合、ハイブリダイズで形成された複合体(又はハイブリッド)が十分に安定であり、DNA合成を開始するために、DNAポリメラーゼにより必要とされるプライミング機能を提供する。競合的に阻害される(competitively inhibited)二つの相補的ポリヌクレオチドの間には、特異的な(即ち、非ランダム的な)相互作用が存在する。
【0046】
転写後の遺伝子サイレンシング(Posttranscriptional Gene Silencing):mRNA分解又は翻訳抑制(translational inhibition)ステージにおける標的遺伝子のノックアウト(knockout)効果又はノックダウン(knockdown)効果であり、通常、外来/ウイルスDNA、又はRNA導入遺伝子、又は低分子抑制性RNAのいずれかにより引き起こされる。
【0047】
RNA干渉(RNA interference,RNAi):真核細胞における転写後の遺伝子サイレンシングのメカニズムであり、低分子抑制性RNA分子、例えばマイクロRNA(miRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)及び低分子干渉RNA(siRNA)により引き起こされる。これらの低分子RNA分子は通常、遺伝子サイレンサーとして機能し、これらの低分子RNAに対して完全に又は部分的に相補的である細胞内遺伝子の発現を干渉する。
【0048】
遺伝子サイレンシング効果(Gene silencing effect):遺伝子機能が抑制された後の細胞の反応であり、細胞周期の減衰(cell cycle attenuation)、G0/G1チェックポイント停止(G0/G1−checkpoint arrest)、腫瘍抑制、抗腫瘍生成、癌細胞アポトーシス、及びそれらの組合せを含むがこれらに限定されない。
【0049】
ノンコーディングRNA(Non−coding RNA):細胞内翻訳メカニズムによりペプチド又はタンパク質を合成できないRNA転写産物である。ノンコーディングRNAは、長い及び短い調節性RNA分子、例えばマイクロRNA、低分子ヘアピンRNA、低分子干渉RNA、及び二本鎖RNAを含む。これらの調節性のRNA分子は通常、遺伝子サイレンサーとしての機能を有し、細胞内における、これらのノンコーディングRNAに対して完全に又は部分的に相補的である遺伝子の発現を干渉する。
【0050】
マイクロRNA(MicroRNA,miRNA):当該マイクロRNA(miRNA)に対して部分的に相補的である標的遺伝子の転写産物に連結可能な一本鎖RNAである。miRNAは通常、長さが約17〜27個のヌクレオチドのオリゴヌクレオチドであり、miRNAと標的mRNAとの間の相補程度に従い、細胞内mRNA標的物を直接分解するか、或いは標的mRNAのタンパク質翻訳を直接抑制するかのいずれかを行うことができる。天然miRNAは、殆ど全ての真核細胞内から見出され、例えば、抗ウイルス感染の防御機能を有し、また、動植物の発生中の遺伝子発現の調整を可能にする。
【0051】
前駆体マイクロRNA(Pre−miRNA):1つ又は複数のマイクロRNA(miRNA)を生成するために細胞内RNAエンドリボヌクレアーゼRNaseIIIと相互作用するための、ステムアーム(stem−arm)及びステムループ(stem−loop)領域を含んでいるヘアピン様一本鎖RNAであり、これらのマイクロRNAは、その標的遺伝子、又は配列が当該(これらの)マイクロRNAの配列に相補的な遺伝子をサイレンシングすることができる。前駆体マイクロRNAのステムアーム領域は、完全に(100%)又は部分的に(ミスマッチ)ハイブリダイズされた二本鎖体のいずれかを形成する一方、ステムループはサイクル又はヘアピンループ構造形態を形成すべくステムアーム二本鎖体の一方の端部に連結されている。本発明において、前駆体マイクロRNAは一次マイクロRNA(pri−miRNA)を含んでもよい。
【0052】
低分子干渉RNA(small interfering RNA,siRNA):サイズが約18〜27個の完全な塩基対のリボヌクレオチド二本鎖体であり、かつ殆ど完全に相補的である標的遺伝子の転写産物を分解することができる短い二本鎖RNAである。
【0053】
低分子ヘアピン又は短鎖ヘアピンRNA(small hairpin又はshort hairpin RNA,shRNA):ヘアピン様構造を形成するために、一致していない(unmatched)ループオリゴヌクレオチドで分割された、一対の部分的に又は完全に一致したステムアームヌクレオチド配列を含む一本鎖RNAである。多くの天然マイクロRNA(miRNA)は、ヘアピン様RNA前駆体、即ち、前駆体マイクロRNA(pre−miRNA)に由来する。
【0054】
ベクター(Vector):異なる遺伝子環境に移動又は滞在できる組換え型DNA(recombinant DNA,rDNA)のような組換え型核酸組成物である。一般的に、別の核酸が有効に連結されている。当該ベクターは細胞内での自己複製ができ、当該ベクター及び取付けられたセグメントも複製される。一種の好ましいベクターはエピソーム(episome)であり、即ち、染色体外(extrachromosomal)での複製が可能な核酸分子である。好ましいベクターは、自己複製、核酸の発現が可能なものである。一つ以上のポリペプチドをコードする遺伝子及び/又はノンコーディングRNA遺伝子の発現を誘導できるベクターは、ここでは「発現ベクター(expression vector)」又は「発現コンピテントベクター(expression−competent vector)」と呼ばれる。特に重要なベクターは、逆転写酵素(reverse transcriptase)を使用して、mRNAからcDNAのクローニングを可能にする。ベクターの成分は、ウイルスプロモーター又はII型(type−II)のRNAポリメラーゼ(Pol−II又はpol−2)プロモーター、又はその両方、Kozakコンセンサス翻訳開始位(Kozak consensus translation initiation site)、ポリアデニル化シグナル(polyadenylation signals)、複数の制限/クローニング部位(restriction/cloning site)、pUC複製開始点(pUC origin of replication)、複製可能な(replication−competent)原核細胞内の少なくとも1つの抗生物質耐性遺伝子を発現するためのSV40初期プロモーター(SV40 early promoter)、哺乳類細胞内の複製のための選択性のSV40複製開始点(SV40 origin)、及び/又はテトラサイクリン応答因子を含んでもよい。ベクターの構造は、線形、或いは環形の一本鎖又は二本鎖DNAであってもよく、プラスミド、ウイルスベクター、トランスポゾン、レトロトランスポゾン、DNA導入遺伝子、ジャンピング遺伝子、及びそれらの組合せからなる群から選ばれる。
【0055】
プロモーター(Promoter):ポリメラーゼ分子で識別され(又はそれに結合され)、RNAの合成を開始させる核酸である。本発明によれば、当該プロモーターは、既知のポリメラーゼ結合位置、エンハンサーとその類似物、及び所要のポリメラーゼを使用してRNA転写産物の合成を開始可能な任意の配列であってもよい。
【0056】
真核プロモーター(Eukaryotic promoter):遺伝子転写に必要な、II型真核RNAポリメラーゼ(pol−2)、pol−2同等物、及び/又はpol−2適合性ウイルスプロモーターで識別可能な核酸モチーフ(motifs)である。
【0057】
II型RNAポリメラーゼ(Pol−II又はpol−2)プロモーター(Type−II RNA polymerase(Pol−II or pol−2)Promoter):II型真核RNAポリメラーゼ(Pol−II又はpol−2)で識別され、かつそれに結合されるRNAプロモーターであり、当該ポリメラーゼは、真核メッセンジャーRNA(mRNA)及び/又はマイクロRNA(miRNA)を転写する。例えば、pol−2プロモーターは、哺乳類のRNAプロモーター又はサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターであってもよいが、それらに限定されない。
【0058】
II型RNAポリメラーゼ(Pol−II又はpol−2)同等物(Type−II RNA Polymerase(Pol−II or pol−2)Equivalent):哺乳類II型RNAポリメラーゼ(Pol−II又はpol−2)及びPol−II適合性ウイルスRNAポリメラーゼからなる群から選ばれる真核転写機構である。
【0059】
Pol−II適合性ウイルスプロモーター(Pol−II Compatible Viral Promoter):真核pol−2又はそれと等価な転写機構により遺伝子発現可能なウイルスのRNAプロモーターである。例えば、pol−2適合性ウイルスプロモーターは、サイトメガロウイルスプロモーター、又はレトロウイルス長末端反復(LTR)プロモーターであってもよいが、それらに限定されない。
【0060】
シストロン(Cistron):アミノ酸残基の配列をコードするDNA分子内のヌクレオチド配列であり、上流及び下流DNA発現制御要素を含む。
RNAプロセシング(RNA processing):RNAの成熟、修飾、及び分解に関与する細胞内メカニズムであり、RNAスプライシング、イントロン切除、エキソソーム消化(exosome digestion)、ナンセンス変異依存分解(nonsense−mediated decay,NMD)、RNAエディティング、RNAプロセシング、及びそれらの組合せを含む。
【0061】
抗生物質耐性遺伝子(Antibiotic Resistance Gene):発現が抗生物質を分解する能力を有する遺伝子である。当該抗生物質は、ペニシリンG、ストレプトマイシン、アンピシリン(Amp)、ネオマイシン、G418、カナマイシン、エリスロマイシン、パロマイシン(paromycin)、ホスホマイシン、スペクトロマイシン、テトラサイクリン(Tet)、ドキシサイクリン(Dox)、リファピシン、アムホテリシンB、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール、セファロチン、タイロシン及びそれらの組合せからなる群から選ばれる。
【0062】
制限/クローニング部位(Restriction/Cloning Site):制限酵素切断のためのDNAモチーフである。これらの制限/クローニング部位は、AatII、AccI、AflII/III、AgeI、ApaI/LI、AseI、Asp718I、BamHI、BbeI、BclI/II、BglII、BsmI、Bsp120I、BspHI/LU11I/120I、BsrI/BI/GI、BssHII/SI、BstBI/U1/XI、ClaI、Csp6I、DpnI、DraI/II、EagI、Ecl136II、EcoRI/RII/47III/RV、EheI、FspI、HaeIII、HhaI、HinPI、HindIII、HinfI、HpaI/II、KasI、KpnI、MaeII/III、MfeI、MluI、MscI、MseI、NaeI、NarI、NcoI、NdeI、NgoMI、NotI、NruI、NsiI、PmlI、Ppu10I、PstI、PvuI/II、RsaI、SacI/II、SalI、Sau3AI、SmaI、SnaBI、SphI、SspI、StuI、TaiI、TaqI、XbaI、XhoI、XmaIの切断位置を含むがこれらに限定されない。
【0063】
遺伝子送達(Gene Delivery):ポリソーム(polysomal)導入、リポソーム導入、化学導入、電気穿孔法、ウイルス感染、DNA組換え、トランスポゾン挿入、ジャンピング遺伝子挿入、マイクロインジェクション、遺伝子銃浸透、及びそれらの組合せからなる群から選ばれる遺伝子工学方法である。
【0064】
遺伝子工学(Genetic Engineering):DNA制限酵素反応と接合反応、相同性遺伝子の組換え、導入遺伝子混入、トランスポゾン挿入、ジャンピング遺伝子挿入、レトロウイルス感染、及びそれらの組合せからなる群から選ばれるDNA組換え方法である。
【0065】
細胞周期レギュレーター(Cell Cycle Regulator):細胞分裂及び細胞増殖速度の制御に関与し、サイクリン依存性キナーゼ2(CDK2)、サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)、サイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)、サイクリン、BMI−1、p14/p19Arf、p15Ink4b、p16Ink4a、p18Ink4c、p21Cip1/Waf1、p27Kip1、及びそれらの組合せを含むがこれらに限定されない細胞遺伝子である。
【0066】
腫瘍抑制(Tumor Suppression):細胞周期の減衰、G0/G1チェックポイント停止、腫瘍抑制、抗腫瘍発生、癌細胞アポトーシス、及びそれらの組合せを含むがこれらに限定されない細胞の抗腫瘍及び抗癌メカニズムである。
【0067】
標的細胞(Targeted Cell):体細胞、組織、幹細胞、生殖細胞、奇形腫細胞、腫瘍細胞、癌細胞、及びそれらの組合せからなる群から選ばれる単一又は複数のヒト細胞である。
【0068】
癌組織(Cancerous Tissue):皮膚癌、前立腺癌、乳癌、肝臓癌、肺癌、脳腫瘍/癌、リンパ腫、血液癌、及びそれらの組合せからなる群から選ばれる腫瘍組織である。
【0069】
転写誘導物(Transcription Inducer):遺伝子のRNA転写作用を促進及び/又は強化可能な化学剤である。転写誘導物は、3−モルホリノプロパン−1−スルホン酸(MOPS)、エタノール、グリセリン、又はそれらの混合物と類似する化学構造を含むがこれらに限定されない。
抗体(Antibody):受容体と予め選択されたリガンドを結合するための予め選択された保存ドメイン構造を有するペプチド又はタンパク質分子である。
【0070】
薬学上又は治療上の適用(Pharmaceutical又はtherapeutic Application):多能性幹細胞の生成のような幹細胞の生成と幹細胞研究及び/又は治療発展、癌治療、疾患処理、傷口治癒処理、薬物収量と食物供給の向上、及びそれらの組合せのために有用な生物医学的利用及び/又は装置である。
B.組成物及び適用
原核細胞内においてRNA及び/又はタンパク質の発現を誘導するための組成物及びその使用であって、(a)3−モルホリノプロパン−1−スルホン酸(MOPS)、エタノール、グリセリン、又はそれらの混合物と類似する構造を有する少なくとも1種の化学剤と、(b)II型真核ポリメラーゼ(pol−2)プロモーター駆動性発現メカニズム又はpol−2適合性ウイルスプロモーター駆動性発現メカニズムにより制御される少なくとも1つの遺伝子を含有する複数の原核細胞とを含み、(a)と(b)は、当該遺伝子のRNA及び/又はタンパク質産物が生成されるように当該遺伝子の発現を誘発する条件下で混合される。
【0071】
或いは、本発明は、誘導可能な遺伝子発現組成物であり、化学剤を使用して、原核細胞内において真核RNAプロモーター駆動性転写作用を促進する。誘導可能な遺伝子発現組成物は、(a)MOPS、エタノール、グリセリン、又はそれらの混合物と類似する構造を有する少なくとも1種の化学剤と、(b)II型真核ポリメラーゼ(pol−2)プロモーター駆動性発現メカニズム又はpol−2適合性ウイルスプロモーター駆動性発現メカニズムにより制御される少なくとも1つの遺伝子を含有する複数の原核細胞とを含み、(a)と(b)は、当該遺伝子の発現を誘発する条件下で混合される。
【0072】
本発明は、原則的に、変異性の原核プロモーターへの転換、又は大量の人力と金銭のコストがかかるハイブリドーマ又は哺乳類細胞の培養の必要がなく、II型真核ポリメラーゼ(pol−2)プロモーターを使用して所望のRNA及び/又はタンパク質/ペプチドを直接発現する新規な組成物の設計、及びそれにより原核細胞を誘導して生じる迅速な適応作用を提供する。
【0073】
好ましくは、当該原核細胞は細菌細胞であり、具体的には、大腸菌(E.coli)であり、当該化学剤は3−モルホリノプロパン−1−スルホン酸(MOPS)、エタノール、グリセリン、又はそれらの混合物である。なお、当該真核RNAプロモーターは、II型真核ポリメラーゼ(pol−2)プロモーター、例えばEF1α、pol−2適合性ウイルスプロモーター、例えばサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、又はレトロウイルス長末端反復(LTR)プロモーターであることが好ましい。当該真核RNAプロモーター制御の遺伝子は、マイクロRNA、低分子ヘアピンRNA、低分子干渉RNA、メッセンジャーRNA、これらの前駆体とホモログ、及びこれらの組合せからなる群から選ばれるノンコーディング又はタンパク質コーディングRNA転写産物、又はそれら両方をコードする。本発明において生成されたペプチド/タンパク質は、上記タンパク質コーディングメッセンジャーRNA転写産物から翻訳されたものであり、酵素、増殖因子、抗体、インスリン、ボツリヌス毒素(botox)、機能タンパク質とそのホモログ、及びそれらの組合せからなる群から選ばれるものであるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、当該遺伝子発現を誘導する当該条件は37℃のLB培地に、当該化学剤が添加された細菌培養条件である。
【実施例】
【0074】
1.細菌細胞培養と化学物質処理
z−コンピテント大腸菌形質転換キット(z−competent E. coli transformation kit,Zymo Research,カリフォルニア州アーバイン)から得られたコンピテント大腸菌DH5α細胞株(competent E.coli DH5α)と望ましいプラスミドベクター、例えばpLVX−Grn−miR302+367又はpLenti−EF1α−RGFP−miR302とを混合して、形質転換作用を行う。形質転換されていない細菌細胞を、10mMの硫酸マグネシウム(MgSO
4)と0.2mMのブドウ糖が補充された37℃のLB(ルリア−ベルターニ(Luria−Bertani))培地において正常に増殖させながら、170rpmで頻繁に振盪した。一方、形質転換した細菌細胞は、上述したLB培地に、100μg/mlのアンピシリンを更に添加して培養した。化学誘導のために、10mMの硫酸マグネシウムと0.2mMのブドウ糖が補充され、100μg/mlのアンピシリンが添加されたLB培地において、1リットルごとの当該LB培地のそれぞれに0.5〜2mlのMOPS、グリセリン、エタノール、又はそれらの組合せを添加した。なお、形質転換した細菌細胞は、陰性対照群として、上記のアンピシリンが添加されたが、化学誘導物がまったく添加されていないLB培地において培養された。
2.ヒト細胞培養及びマイクロRNAの導入
ヒト初代表皮細胞(human primary epidermal skin cells,hpESC)は、20%のウシ胎仔血清(FBS)が補充された新鮮なRPMI1640培養液における4mg/mlのコラゲナーゼIによって、37℃で最小2mm
3の体積から35分間消化させて分離したものである。分離された角化細胞は、37℃で5%の二酸化炭素の条件で、EpiLife無血清(serum−free)の細胞培養液において培養され、当該培地には、ヒト角化細胞増殖添加剤(HKGS,Invitrogen,カリフォルニア州カールスバッド)及び抗生物質が添加された。細胞増殖が50%〜60%の密集度(confluency)に達したときに、細胞をトリプシン/EDTA溶液に1分間曝露し、無フェノールレッドのDMEM培養液(phenol red−free DMEMmedium,Invitrogen)で一回リンスして、更に、これらの分離された細胞を1:10で希釈した後、新鮮なHKGS添加剤を含むEpiLife培養液で再播種した。ヒト癌/腫瘍細胞株MCF7、HepG2、及びTera−2は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC,メリーランド州ロックビル)から取得され、製造者の指示した条件で培養された。マイクロRNAの導入において、15μgの分離されたmiR−302及び/又はその前駆体を50μlの導入剤(X−tremeGENE HP DNA transfection reagent)が混合されたEpiLife培養液に溶解させた。10分間の培養を経て、当該混合液を100mm細胞培養皿内で50%〜60%密集度(confluency)に達したhpESC又は癌/腫瘍細胞にそれぞれ添加した。12〜18時間後、新鮮なHKGS添加剤を含むEpiLife培養液又はATCCの指示した条件の培養液で元の培養液を交換した。3〜4日ごとに、導入ステップを3〜4回繰り返して導入効率を向上させてもよい。細胞形態が球様に変化した後、20%の血清代替物(Knockout serum)、1%MEM非必須アミノ酸、100μMのβ−メルカプトエタノール、1mMのGlutaMax、1mMのピルビン酸ナトリウム、10ng/mlの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、10ng/mlのFGF−4、5ng/mlのLIF、100IU/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、0.1μMのA83−01、及び0.1μMのバルプロン酸(Stemgent,カリフォルニア州サンディエゴ)が補充されたknockoutDMEM/F−12培地(Invitrogen)により、37℃、5%のCO
2の条件でこれらの細胞(mirPSC)を培養し継代した。
3.タンパク質抽出とウエスタンブロット分析法
製造者が指示したように、プロテアーゼ抑制剤(protease inhibitor)、ロイペプチン(Leupeptin)、TLCK、TAME及びPMSFが補充されたCelLytic−M溶解/抽出試薬(CelLytic−M lysis/extraction reagent,Sigma)により細胞(1,000,000個)を溶解させた。そして、12,000rpm、4℃で当該溶解液を20分間遠心分離し、遠心分離された上澄液が得られた。改良されたSOFTmaxタンパク質測定パッケージにより、E−maxマイクロプレートリーダー(microplate reader,Molecular Devices,CA)上でタンパク質濃度を測定した。還元(reducing,+50mM DTT)及び非還元(non−reducing,DTTなし)の条件で、30μgの細胞溶解産物をSDS−PAGEサンプル緩衝液にそれぞれ添加し、6%〜8%のポリアクリルアミドゲルに入れる前に、3分間沸騰させた。そして、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE)でタンパク質を解析し、その後に、タンパク質をニトロセルロース膜にエレクトロブロッティングし、当該膜をオデッセーブッロキング試薬(Odyssey blocking reagent,Li−Cor Biosciences,ネブラスカ州リンカーン)において培養し、室温で2時間保管した。次に、当該試薬に一次抗体を添加し、当該混合物を4℃で保管し作用させた。使用された一次抗体は、Oct3/4(Santa Cruz Biotechnology,カリフォルニア州サンタクルーズ)、Sox2(Santa Cruz)、Nanog(Santa Cruz)、CDK2(Santa Cruz)、サイクリンD1(Santa Cruz)、サイクリンD2(Abcam)、BMI−1(Santa Cruz)、ケラチン16(Abcam)、β−アクチン(Chemicon、カリフォルニア州テメキュラ)、RuvB(Santa Cruz)、及びRGFP(Clontech)を含んでいる。一晩経た後、TBS−Tで当該膜を三回リンスし、そして、Alexa Fluor 680反応性染料(1:2,000,Invitrogen−Molecular Probes)を結合したヒツジ抗マウスIgG(goat anti−mouse IgG)二次抗体に、室温で1時間曝露した。TBS−Tで三回リンスした後、Li−Corオデッセー赤外線映像装置(Li−Cor Odyssey Infrared Imager)及びオデッセーソフトウェアv.10(Li−Cor)を使用して、免疫ブロットの蛍光スキャン及び映像分析を処理した。
4.RNA抽出とノーザンブロット分析法
mirVana(登録商標)マイクロRNA分離キット(Ambion,テキサス州オースティン)により総RNA(10μg)を分離した。そして、15%のTBE−尿素ポリアクリルアミドゲル又は3.5%の低融点アガロースゲル電気泳動で当該RNAを分画し、当該分画されたRNAをナイロン膜にエレクトロブロッティングした。そして、[LNA]−DNAプローブ(5’−[TCACTGAAAC] ATGGAAGCAC TTA−3’)(配列番号1)により、miR−302及び/又はpre−miR−302を検知した。当該プローブは、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)で純化され、かつ、[
32P]−dATP(>3000Ci/mM,Amersham International,イリノイ州アーリントンハイツ)の存在下で、ターミナルトランスフェラーゼ(terminal transferase,20 units)で20分間テール標識(tail−labeled)された。
5.プラスミド増幅とプラスミドDNA/総RNA抽出
プラスミドで形質転換(実施例1)されたコンピテント大腸菌DH5α細胞を37℃で、10mMの硫酸マグネシウム及び0.2mMのブドウ糖が補充されたLB培地中に一晩培養し、170rpmで頻繁に振盪した。増幅作用以外に、上記培地の1リットルごとに、さらに0.5〜2mlのMOPS、グリセリン、及び/又はエタノールを添加して真核プロモーター駆動のRNA及び/又はタンパク質の生成を誘発した。プラスミド純化キット(HiSpeed plasmid purification kit,Qiagen,カリフォルニア州バレンシア)を使用して、全ての増幅されたプラスミドDNA及び発現されたmRNA/マイクロRNAをあわせて分離し、分離ステップは、製造者の指示したステップに従うが少し調整したものであり、即ち、RNase AをP1緩衝液内に添加しなかった。プラスミド及びmRNAs/マイクロRNA両方を含む最終抽出産物は、DEPC処理された超純水(ddH
2O)に溶解され、使用されるまで−80℃で保管された。増幅されたプラスミドベクターのみを純化したい場合に、製造者の指示したステップに従って、RNase AをP1緩衝液に添加する。
6.マイクロRNA及びmRNAの分離/純化
更に、製造者の指示に従って、mirVana(登録商標)miRNA分離キット(Ambion,テキサス州オースティン)を使用して実施例5の方法により分離された総RNAを純化した。最終産物は、DEPC処理された超純水(ddH
2O)に溶解され、使用されるまで−80℃で保管された。細菌RNAは自然状態において分解が非常に迅速(数時間)であるが、真核ポリ−A RNA(mRNA)及びヘアピン様マイクロRNA前駆体(pre−miRNA又はpri−miRNA)は4℃で比較的安定(半減期が3〜4日にも達する)であるので、この差異を利用して後の適用のための純mRNA及び/又はpre−miRNAを取得しておくことができる。例えば、RGFPのmRNAは、細胞導入の検証のために使用可能であり、pre−miR−302sは、体細胞を胚性幹細胞様(ESC−like)のiPS細胞に再プログラム化するために使用可能である。純化されたpre−miR−302sを幹細胞培養液に添加して当該再プログラム化を促進及び維持することができる。
7.免疫染色分析
組織サンプルの包埋、切片化、及び染色は、従来の報告のとおりに行われた(林(Lin)等,RNA 2008)。一次抗体は、Oct3/4(Santa Cruz)、Sox2(Santa Cruz)、Nanog(Santa Cruz)、及びRGFP(Clontech)を含んでいる。蛍光染料で標記されたヒツジ抗ウサギ(goat anti−rabbit)又はウマ抗マウス(horse anti−mouse)抗体を二次抗体(Invitrogen−Molecular Probes)として使用した。蛍光80i顕微鏡定量分析システム(fluorescent 80i microscopic quantitation system)及びMetamorph映像処理プログラム(Nikon)を使用して100×又は200×の拡大倍率で結果を検証及び分析した。
8.亜硫酸水素塩によるDNA配列決定
DNA分離キット(DNA isolation kit,Roche)を使用して約2,000,000個の細胞から遺伝子DNAを分離した。分離されたDNAを1μg取って、製造者の指示した方法に従って、亜硫酸水素塩(CpGenome DNA modification kit,Chemicon,カリフォルニア州テメキュラ)で処理した。亜硫酸水素塩の処理は、全ての非メチル化シトシンをウラシルに変換し、メチル化シトシンはシトシンのままである。亜硫酸水素塩DNA配列決定の分析について、我々は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)でOct3/4及びNanogのプロモーター領域を増幅した。Oct3/4プロモーター領域の増幅に使用されたプライマーは、5’−GAGGCTGGAG CAGAAGGATT GCTTTGG−3’(配列番号2)及び5’−CCCTCCTGAC CCATCACCTC CACCACC−3’(配列番号3)を含み、Nanogプロモーター領域の増幅に使用されたプライマーは、5’−TGGTTAGGTT GGTTTTAAAT TTTTG−3’(配列番号4)及び5’−AACCCACCCT TATAAATTCT CAATTA−3’(配列番号5)を含んでいる。まず、亜硫酸水素塩で修飾されたDNA(50ng)とこれらのプライマー(計100pmole)を1倍PCR緩衝液において混合し、94℃に加熱してから2分間維持し、そして、すぐに氷で冷却した。その後、高精度のPCRキット(Expand High Fidelity PCR kit,Roche)を使用して、94℃で1分間及び70℃で3分間のPCRを25サイクル行った。更に、3%のアガロースゲル電気泳動法で正確な長さを有する増幅されたDNA産物を分画し、そして、ゲル抽出キット(Qiagen)で当該DNA産物を純化してから、DNA配列決定を行った。亜硫酸水素塩で修飾されたDNA配列における変化していないシトシンと、亜硫酸水素塩で修飾されていないDNA配列における変化していないシトシンとを比較することにより、DNAメチル化位置の詳細プロフィールを得られた。
9.細胞浸潤試験
200μg/mlのMatrigelを単独で、又は、無フェノールレッドDMEM培養液に20%のFBS及び1%のL−グルタミン(L−Glutamine)が補充されたMatrigelをチャンバーインサート(chamber inserts,孔径12μm,Chemicon)に塗布し、チャンバーインサートを無菌環境に置き、一晩乾燥させた。無フェノールレッドのDMEM培養液により細胞を収集、洗浄、及び再懸濁して、最終的に100,000個/mlの細胞密度にした。500μlの当該細胞懸濁液を上層チャンバー(top chamber)内に分配し、1.5mlのDMEM条件の培養液を下層チャンバーに添加して走化性勾配(chemotactic gradient)を形成した。37℃で16時間の一晩培養の後、浸潤状況を測定した。脱脂綿により上層チャンバーを拭き、そして100%のメタノール中で膜下側に位置する浸潤細胞を10分間固定し、空気乾燥し、クレシルバイオレット(cresyl violet)で20分間を染色し、水でやさしく洗浄した。乾燥した後、1:1の100%のエタノール及び0.2Mのクエン酸ナトリウム(NaCitrate)を含む洗液を使用して膜上のクレシルバイオレット染色を20分間溶出し、精密マイクロプレートリーダー(Precision Microplate Reader,Molecular Dynamics)により波長570nmでの吸光度を読み取った。被測定サンプルの吸光度と、チャンバーインサート膜層(総細胞数)を拭かない場合に得られた吸光度とを比較して、浸潤細胞の百分率を得た。結果を
図10Aに示した。
10.細胞接着試験
細胞接着試験は従来の報告に記載されたとおりに行った(Lin等,Cancer Res.2010)。ヒト骨髓内皮細胞(hBMEC)を100,000個/mlの密度で96ウェルプレートに蒔き、試験を行う前に、接着培養液(adhesion medium)[RPMI 1640/0.1%のBSA/20mM HEPES(pH7.4)]で洗浄した。トリプシン(腫瘍/癌細胞に使用される)又はコラゲナーゼ(mirPS細胞に使用される)を使用して、被測定細胞を分離し、無菌生理食塩水で細胞を洗浄し、細胞を1,000,000個/mlの密度で10μM fura−4アセトキシメチルエステル(acetoxymethyl ester,fluorescent probe,Sigma)を含有するPBSに再懸濁させ、37℃の暗い環境で1時間保管した。そして、当該細胞を遠心分離し、1%(v/v)のプロベネシド(probenecid,100mM)を含む無血清培養液で細胞を洗浄し、そして、当該細胞を接着培養液及び37℃の暗い環境で20分間培養し、細胞内の蛍光プローブを活性化する。次に、当該100,000個の細胞(1ウェル当たり300μlの細胞懸濁液)をコンフルエントな(confluent)hBMEC内皮細胞単層に添加し、37℃で50分間培養した。250μlの接着培養液で二回洗浄し、接着されていない細胞を除去した。蛍光プレートリーダ(fluorescent plate reader、Molecular Dynamics)を使用して37℃で励起波長485nm及び発光波長530nmで蛍光を読み取った。結果を
図10Bに示した。
11.移植と奇形腫の形成
約5〜10個のmirPS細胞に由来する胚様体(4〜8細胞ステージ)を50μlのDMEM培養液と基底膜基質Matrigelの2:1の混合液に懸濁させ、そしてこれらのmirPS細胞に由来する胚様体を生後六週間のメス偽妊娠免疫不全SCID−beigeマウスの子宮に移植した。当該偽妊娠のマウスを準備する方法として、腹膜内に1IUのヒト閉経期ゴナドトロピン(human menopausal gonadotrophin,HMG)を二日注射し、そしてヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotrophin,hCG)を一日注射した。移植の間に、2.5%のアベルチン(Avertin)溶液を使用して、マウスごとに0.4mlの用量でマウスを麻酔した。移植後、又は当該移植細胞塊が100mm
3の大きさ以上に発達した時、当該異種移植塊(xenografted masses)を3〜4週間監視した。当該嚢腫/奇形腫を切除した後、(長さ×幅
2)/2の式によりその体積を計算し、それに計数及び秤量し、更に組織学分析を行った。奇形腫様組織嚢腫(teratoma−like tissue cysts)の形成は通常、移植後約2.5週間で観察できる。結果は
図11Aに示すとおりである。
12.生体内腫瘍発生試験
我々は、Tera−2細胞(総体積100μlのMatrigel−PBSにおける2,000,000個の細胞)を生後八週間のオスマウス(BALB/c nu/nu系統)の脇腹(例えば、右後肢)に異種移植した。当該腫瘍を週ごとに監視し、Tera−2の異種移植後一週間で、インサイチュ注射でpre−miR−302s又はpre−miR−302をコードするプラスミドベクター、例えばpCMV−miR302sベクター又はpCMV−miR302d*ベクターを導入した。2μg(マウスの体重1gあたり)の、ポリエチレンイミン(PEI)で調製されたpCMV−miR302s又はpCMV−miR302d*ベクター(総計10μg)により、処理(二回の処理の間に三日の間隔を置く)を5回行った。製造者の使用指示に従って、体内−jetPEIデリバリー試薬(Polyplus−transfection Inc.,ニューヨーク州ニューヨーク)を使用した。注射完了三週後、又は、ベクターで処理されていない腫瘍が約100mm
3の平均サイズまで増殖した後、サンプルの収集を開始した。主要器官、例えば血液、脳、心臓、肺、肝臓、腎臓及び脾臓、及び異種移植腫瘍を取り出し、腫瘍の組織学評価及び免疫反応細胞毒性テストを行った。触診で腫瘍の形成を監視し、(長さ×幅
2)/2の式により腫瘍体積を計算した。なお、腫瘍についても、計数、解剖及び秤重し、ヘマトキシリン・エオジン染色(H&E)及び免疫染色試験で組織学検査を行った。組織学検査の結果、脳、心臓、肺、肝臓、腎臓及び脾臓において検知できる組織病変はなかった。結果を
図11Aと11Cに示した。
13.生体傷口治癒試験
Pre−miR−302s及び関連プラスミドベクターは、実施例1と実施例5に記載の方法で増幅され、実施例5と実施例6に記載の方法で抽出された。そして、分離されたpre−miR−302s及び関連プラスミドベクターは、予め用意されたカカオバター、綿実油、オリーブオイル、ピルビン酸ナトリウム、及び白色ワセリンを含む軟膏基剤と混合された。準備された軟膏基剤における当該miR−302前駆体の濃度が10μg/mLである。メスにより、皮膚を切開して生皮膚の開放創を生じさせ、約0.5cmの傷口を対照群として生じさせ、1.0cmの傷口を実験群として生じさせた。軟膏(約0.3mL)を傷口に直接塗布し、創部全体を覆った。更に、液状包帯により処理済みの領域をシールした。
14.統計分析
免疫染色、ウエスタンブロット及びノーザンブロットの分析について、75%よりも大きいシグナル強度変化をいずれも陽性結果とみなし、これらの結果は、分析後、平均値±標準差(mean±SE)で表す。データの統計分析は、一元配置分散分析(one−way ANOVA)で行われた。主たる効果が有意である場合、ダネットの多重比較(Dunnett’s post−hoc test)検定を使用して、対照群と顕著な差異がある群(グループ)を識別した。2つの処理群の間を一対ごとに比較するために、両側スチューデントT検定(two−tailed student t test)を使用した。2つ以上の治療群を含む実験については、ANOVAの後に、多重範囲検定(post−hocmultiple range test)を実施した。p<0.05の確率値は統計学的に有意であると考えた。全てのp値は両側試験にて決定した。
【0075】
参考文献