特許第6185477号(P6185477)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6185477ベシクル組成物及びそれを配合した皮膚外用剤及び化粧料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6185477
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】ベシクル組成物及びそれを配合した皮膚外用剤及び化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/55 20060101AFI20170814BHJP
   A61K 8/63 20060101ALI20170814BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20170814BHJP
   A61K 8/41 20060101ALI20170814BHJP
   A61K 8/44 20060101ALI20170814BHJP
   A61K 8/14 20060101ALI20170814BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20170814BHJP
   A61Q 1/10 20060101ALI20170814BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20170814BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20170814BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20170814BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20170814BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20170814BHJP
   A61K 47/16 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   A61K8/55
   A61K8/63
   A61K8/64
   A61K8/41
   A61K8/44
   A61K8/14
   A61Q19/00
   A61Q1/10
   A61K47/28
   A61K47/24
   A61K47/42
   A61K9/107
   A61K47/22
   A61K47/16
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-544607(P2014-544607)
(86)(22)【出願日】2013年11月1日
(86)【国際出願番号】JP2013079718
(87)【国際公開番号】WO2014069631
(87)【国際公開日】20140508
【審査請求日】2016年3月22日
(31)【優先権主張番号】特願2012-244000(P2012-244000)
(32)【優先日】2012年11月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000145862
【氏名又は名称】株式会社コーセー
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】宮地 いつき
(72)【発明者】
【氏名】飯田 亜美
(72)【発明者】
【氏名】紺野 義一
【審査官】 池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−071266(JP,A)
【文献】 特開平02−076810(JP,A)
【文献】 特開平10−043578(JP,A)
【文献】 特開2006−167521(JP,A)
【文献】 特表2009−535348(JP,A)
【文献】 特開2000−198731(JP,A)
【文献】 特開2010−120857(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/053988(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)〜(D)を下記含有量で含む、皮膚外用剤用又は化粧料用ベシクル組成物;
(A)リン脂質を0.01〜5質量%、
(B)コレステロール及びフィトステロールから選ばれる1種又は2種を0.01〜5質量%、
(C)第4級アンモニウム塩及びモノ−N−長鎖アシル塩基性アミノ酸低級アルキルエステル塩から選ばれる1種又は2種を0.001〜1.0質量%、並びに
(D)ポリアルギニン、ポリリジン及びポリヒスチジンから選ばれる1種又は2種以上のポリペプチドを0.001〜5.0質量%。
【請求項2】
前記成分(D)の数平均分子量が、1500〜10000である請求項に記載のベシクル組成物。
【請求項3】
前記成分(C)が、ジパルミトイルエチルヒドロキシエチルモニウムメトサルフェート又はN−ココイル−L−アルギニンエチルエステルピロリドンカルボン酸塩である請求項1又は2に記載のベシクル組成物。
【請求項4】
前記成分(D):成分(C)の含有質量割合は、1:0.01〜10である請求項1〜の何れか1項に記載のベシクル組成物。
【請求項5】
25℃のpHが、3.0〜6.5の範囲内である請求項1〜の何れか1項に記載のベシクル組成物。
【請求項6】
25℃のζ電位が、5〜100である請求項1〜の何れか1項に記載のベシクル組成物。
【請求項7】
請求項1〜の何れか1項に記載の皮膚外用剤用又は化粧料用ベシクル組成物を含む皮膚外用剤又は化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成分(A)リン脂質、成分(B)コレステロール及びフィトステロールから選ばれる1種又は2種以上、成分(C)カチオン性界面活性剤、成分(D)塩基性アミノ酸を主体とするポリペプチドを含有するベシクル組成物、並びにそれを配合した皮膚外用剤及び化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、皮膚外用剤や化粧料中に、非水溶性の有効成分を配合する方法として、水系溶媒中に、非水溶性の有効成分をベシクル粒子として分散させる方法が広く利用されている。
通常、ベシクルは、ベシクル主成分と有効成分を水系溶媒に分散した後、超音波処理や高圧処理することによって製造されていた。また、ベシクル主成分は界面活性剤から構成されており、ベシクルそのものの経時安定性は界面活性剤のもつ分子間力に頼るものであった。そのためベシクルは外的環境の影響を受けやすく凝集等が生じ、経時安定性がよくないので、経時安定性に優れるベシクルの開発が望まれていた。
【0003】
ベシクルの経時安定性を向上さるためのベシクルを構成する両親媒性物質として、例えば、天然由来のリン脂質を原料とする、2位アシル基が不飽和脂肪酸の残基であるリン脂質誘導体が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、ベシクルの経時安定性を向上さるための技術としては、ホスファチジルコリン含量90重量%以上、ヨウ素価0.1以下である水素添加大豆リン脂質を用いて平均粒径を100〜500nmに調整した化粧料用ベシクル(例えば、特許文献2参照)、また、リン脂質、ショ糖脂肪酸エステルおよびアシルアミノ酸金属塩から選ばれるベシクルの膜形成物質の1種又は2種以上と、水溶性高分子とを含有するベシクル組成物であって、ベシクル形成の際に水溶性高分子を存在せしめ、かつ高圧処理することにより得られるベシクル組成物(例えば、特許文献3参照)等が知られていた。
【0004】
一方、有効成分の中には、皮膚浸透性が低い物質もあり、皮膚に効率よく浸透させることができる技術も望まれている。例えば、リン脂質よりなるリポソームに、少なくともその構造の一部に、前記有効成分の細胞内浸透を促進する物質又はその混合物であって、前記物質又はその混合物が式R−N(R)型に4級化された植物タンパク質(式中、Rは植物タンパク質分子を記号化したものである;R及びRは独立してC1〜C6の炭化水素基であり、Rは炭素数10〜18のアルキル基である)を含むことで細胞内浸透を高める技術がある(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−88133号公報
【特許文献2】特開2006−124378号公報
【特許文献3】特開2008−94808号公報
【特許文献4】特許第4950419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、経時安定性及び皮膚浸透性に優れ、さらに使用中の肌なじみに優れるベシクル組成物、並びに該ベシクル組成物を含む皮膚外用剤及び化粧料を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、特許文献2に記載の特定のリン脂質を利用するだけでは経時安定性が不十分であり、また特許文献3に記載のベシクル製造時に水溶性高分子を添加する方法は、水溶性高分子の感触が出て感触面での制約を受ける場合があった。さらに、特許文献4に記載の4級化された植物タンパク質を含有させる方法では、変臭変色等の経時安定性について問題があった。
【0008】
本発明者らは、かかる実情に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、リン脂質と、コレステロール及びフィトステロールから選ばれる1種又は2種以上とで形成されるベシクルに、さらに塩基性アミノ酸を主体とするポリペプチドを組み合わせることにより、該ポリペプチドが、角質層のベシクルの吸着を促進し、リン脂質とコレステロール及びフィトステロールから選ばれる1種又は2種以上とを含んで形成されるベシクルを効果的に皮膚に浸透させ、また使用中の肌なじみが良好となることを見出した。
【0009】
しかし、リン脂質並びにコレステロール及びフィトステロールから選ばれる1種又は2種以上が形成するベシクルと、塩基性アミノ酸を主体とするポリペプチドとを組み合わせると、化粧料又は皮膚外用剤等において経時安定性が悪く、これによる凝集等の問題が生じた。
そこで、本発明者らは、更なる検討を行った結果、リン脂質、コレステロール及びフィトステロールから選ばれる1種又は2種以上並びに塩基性アミノ酸を主体とするポリペプチドに、カチオン性界面活性剤を併用することによって、カチオン性界面活性剤が、リン脂質とコレステロール及びフィトステロールから選ばれる1種又は2種以上、該ポリペプチドを含んでなるベシクルの分散性を良好にし、経時安定性を向上させるだけでなく、さらに該ベシクルの皮膚浸透性と使用中の肌なじみも向上させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、次の成分(A)〜(D);
(A)リン脂質
(B)コレステロール及びフィトステロールから選ばれる1種又は2種以上
(C)カチオン性界面活性剤
(D)塩基性アミノ酸を主体とするポリペプチド
を含有するベシクル組成物を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、前記成分(C)がアミノ酸残基を有するカチオン性界面活性剤である前記ベシクル組成物を提供するものである。
また、本発明は、前記成分(C)が、モノ−N−長鎖アシル塩基性アミノ酸低級アルキルエステル塩である前記ベシクル組成物を提供するものである。
また、本発明は、前記成分(D)の数平均分子量が、1500〜10000である前記ベシクル組成物を提供するものである。
また、本発明は、前記成分(D)の塩基性アミノ酸が、アルギニン、リジン及びヒスチジンから選ばれる1種又は2種以上である前記ベシクル組成物を提供するものである。
また、本発明は、前記成分(D)の塩基性アミノ酸の割合が60%モル以上である前記ベシクル組成物を提供するものである。
また、本発明は、前記成分(C)が、N−ココイル−L−アルギニンエチルエステルピロリドンカルボン酸塩である前記ベシクル組成物を提供するものである。
また、本発明は、前記成分(D)が、ポリリジンである前記ベシクル組成物を提供するものである。
また、本発明は、25℃のpHが、3.0〜6.5の範囲内である前記ベシクル組成物を提供するものである。
また、本発明は、25℃のζ電位が、5〜100であるである前記ベシクル組成物を提供するものである。
【0012】
また、前記ベシクル組成物を含む皮膚外用剤及び化粧料を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リン脂質、コレステロール及びフィトステロールから選ばれる1種又は2種以上、カチオン性界面活性剤、塩基性アミノ酸を主体とするポリペプチドを組み合わせることで、経時安定性及び皮膚浸透性に優れ、さらに使用中の肌なじみに優れるベシクル組成物、並びに該ベシクル組成物を含む皮膚外用剤及び化粧料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本技術のベシクル組成物の3次元皮膚モデルにおける共焦点レーザー顕微鏡観察結果を示す図面代替用写真である。
図2】比較例のベシクル組成物の3次元皮膚モデルにおける共焦点レーザー顕微鏡観察結果を示す図面代替用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本技術は、成分(A)リン脂質、成分(B)コレステロール及びフィトステロールから選ばれる1種又は2種以上、成分(C)カチオン性界面活性剤、成分(D)塩基性アミノ酸を主体とするポリペプチドを含有するベシクル組成物、並びにそれを含む皮膚外用剤及び化粧料である。
【0016】
以下、本技術(本発明)について詳細に説明する。なお、本明細書において、「〜」はその前後の数値を含む範囲を意味するものとする。
本技術に用いられる成分(A)のリン脂質は、本技術においてベシクル構成成分として用いられるものであり、通常の化粧料や皮膚外用剤等に使用されるものであれば特に限定されるものではない。好ましい具体例としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴリン脂質などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上のものである。
さらに、成分(A)として、上述したようなリン脂質を1種又は2種以上含有する組成物でもよい。該リン脂質含有の組成物として、例えば、大豆レシチン(「大豆リン脂質」ともいう)、卵黄レシチン(「卵黄リン脂質」ともいう)、及びそれらの水素添加物、それらを酵素処理によりリゾ化したリゾレシチン等も挙げられる。このうち、好ましくは水素添加リン脂質であり、より好ましくは水素添加大豆リン脂質である。
これらは、必要に応じて1種又は2種以上を適宜選択して組み合わせて用いることができる。
具体的な商品としては、ワイエムシィ社より提供されるHSL−70、日光ケミカルズ社より提供されるNIKKOLレシノールS−10E、日清オイリオグループ社より提供されるベイシスLS−60HR、キューピー社より提供される卵黄リゾレシチンLPC−1等が挙げられる。
【0017】
本技術における成分(A)の含有量は、特に限定されるものではないが、ベシクル組成物中、0.01〜5質量%が経時安定性や肌なじみの観点で好ましく、0.05〜4質量%が経時安定性の観点でより好ましく、0.1〜2質量%がさらに好ましい。
【0018】
本技術に用いられる成分(B)のコレステロール及びフィトステロールから選ばれる1種又は2種以上は、ベシクル形成における二分子膜構造の安定性に寄与しており、これを含有することで経時安定性を向上させることができる。コレステロール及びフィトステロールを併用することも可能である。
コレステロールは、一般的に天然物から精製されており、本技術ではいずれの天然物から精製されたコレステロールも利用することができる。
フィトステロールは、一般的にフィトステロール(植物性ステロール)に分類されるものであれば使用でき、構成成分として、カンペステロール、シトステロール、スティグマスタノール等を含有するものが好ましく例示できる。かかる成分は、穀物の胚芽などを有機溶剤で抽出し、水溶性部分を除去することにより得ることができるが、既に市販されているものを購入して利用することができる。
【0019】
本技術における成分(B)の含有量は、特に限定されるものではないが、ベシクル組成物中、0.01〜5質量%が経時安定性や肌なじみの観点で好ましく、0.05〜3質量%が肌なじみの観点でより好ましく、0.05〜1質量%が好ましい。
また、成分(A)及び成分(B)の含有質量割合比は、1:0.01〜1:1とするのが好適である。
【0020】
本技術に用いられる成分(C)のカチオン性界面活性剤は、ベシクルの分散性を良好にし、さらに皮膚浸透性と使用中の肌なじみも向上させる効果を有する。
本技術において成分(C)のカチオン性界面活性剤としては、通常の化粧料や皮膚外用剤等において使用されているものであれば特に制限されず、何れのものも使用できる。
成分(C)として、例えば、塩化セチルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、臭化ベヘニルトリメチルアンモニウム、メチル硫酸ベヘニルトリメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、臭化ジオレイルジメチルアンモニウム、メチル硫酸セチルベヘニルジメチルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、ジパルミトイルエチルヒドロキシエチルモニウムメトサルフェート、ジココイルエチルヒドロキシエチルモニウムメトサルフェート、ジステアロイルエチルヒドロキシエチルモニウムメトサルフェート等の第4級アンモニウム塩;ステアロイルリジンブチルエステル・塩酸塩、N−ヤシ油脂肪酸アシルL−アルギニンエチル・DL−ピロリドンカルボン酸塩、ラウロイル−オルニチンプロピルエステル・酢酸塩等のモノ−N−長鎖アシル塩基性アミノ酸低級アルキルエステル塩;デシルグアニジン酢酸塩、2−グアニジノエチルラウリルアミド塩酸塩、2−グアニジノブチルステアロアミド・DL−ピロリドンカルボン酸塩等のグアニジン誘導体等を例示することができ、これらから1種又は2種以上を選択することができる。また、これらの塩として、例えば、ハロゲン、メトサルフェート、エトサルフェート及びメトホスフェート等が挙げられる。
【0021】
このうち、本技術においては、第4級アンモニウム塩及びモノ−N−長鎖アシル塩基性アミノ酸低級アルキルエステル塩が好ましい。さらに、第4級アンモニウム塩のうち、ジ長鎖アシルアルキルヒドロキシアルキルアンモニウム塩(例えば、ジパルミトイルエチルヒドロキシエチルモニウムメトサルフェート、ジココイルエチルヒドロキシエチルモニウムメトサルフェート及びジステアロイルエチルヒドロキシエチルモニウムメトサルフェート等)が好ましい。
「ジ長鎖アシルアルキルヒドロキシアルキルアンモニウム塩」及び「モノ−N−長鎖アシル塩基性アミノ酸低級アルキルエステル塩」における上記「長鎖アシル」の炭素数は、好ましくは10〜30であり、より好ましくは8〜22である。また、「長鎖アシル」は、植物系の混合脂肪酸(例えば、ヤシ油脂肪酸及びパーム核油脂肪酸等のラウリン系油脂等)又は動物系の混合脂肪酸(例えば、牛脂脂肪酸等)由来のものであってもよい。「長鎖アシル」となる脂肪酸として、例えば、ラウリン酸、ミスチリン酸、パルミチン酸、リノール酸、オレイン酸、リノレン酸及びステアリン酸等が挙げられ、これらから1種又は2種以上を選択して使用することができる。また、「ジ長鎖アシル」の場合、これらは同一又は異なっていてもよい。
また、上記「アルキル」、「ヒドロキシアルキル」及び「低級アルキル」の炭素数は、好ましくは1〜7であり、より好ましくは1〜5であり、上記「アルキル」及び「低級アルキル」として、例えば、メチル、エチル、プロピル及びブチル等が挙げられる。
また、上記「塩基性アミノ酸」として、例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン、オルニチン等及びそれらの誘導体が挙げられる。
【0022】
さらに、上記カチオン性界面活性剤の中でも、アミノ酸残基を有するカチオン性界面活性剤が好ましい。本技術に使用する該界面活性剤は、ベシクル組成物中にてカチオン性を有するものであればよい。アミノ酸残基を有するカチオン性界面活性剤としては、好ましくは該アミノ酸残基が塩基性アミノ酸残基である。アミノ酸残基を有するカチオン性界面活性剤としては、好適にはL−アルギニン残基を有する界面活性剤(「L−アルギニン系の界面活性剤」ともいう)である。L−アルギニン系の界面活性剤の場合、ベシクル組成物中にてカチオン性になるものであれば両性界面活性剤であってもよい。
さらに、本技術におけるアミノ酸残基を有するカチオン性界面活性剤であって、L−アルギニン系の界面活性剤としては、例えば、アミセーフLMA−60(商標:味の素社製)として販売されているN−[3−アルキル(C12及びC14)オキシ−2−ヒドロキシプロピルアルコール]−L−アルギニン塩酸塩2%水溶液や、CAE(商標:味の素社製)として販売されているN−ココイル−L−アルギニンエチルエステルピロリドンカルボン酸塩等を挙げることができ、N−ココイル−L−アルギニンエチルエステルピロリドンカルボン酸塩が好ましい。これらの中から選ばれる1種又は2種以上を用いると、経時安定性を向上させるだけでなく、さらに皮膚浸透性に優れるベシクル組成物となるため好ましい。
【0023】
本技術における成分(C)の含有量は、特に限定されるものではないが、ベシクル組成物中、0.001〜1.0質量%が経時安定性及び皮膚浸透性の観点で好ましく、0.02〜0.5質量%がより好ましく、0.005〜0.5質量%が皮膚浸透性の観点でより好ましい。
【0024】
本技術に用いられる成分(D)の塩基性アミノ酸を主体とするポリペプチドは、ベシクルの皮膚浸透性と使用中の肌なじみも向上させる効果を有する。塩基性アミノ酸とは、例えば、アルギニン、リジン、ヒスチジン及びオルニチン等で(通常L−型を使用)あり、塩基性アミノ酸の中から選ばれる1種又は2種以上を主体とするポリペプチドを用いると、肌なじみに優れるベシクル組成物となるため好ましい。塩基性アミノ酸を主体とするポリペプチドとは、ポリペプチドにおける塩基性アミノ酸の割合が60%モル以上、好ましくは70%モル以上、より好ましくは80%モル以上、さらに好ましくは90%モル以上である。
【0025】
なお、成分(D)のポリペプチドの数平均分子量は、アミノ酸によっても異なるが、1500〜10000が好ましい。また、成分(D)のポリペプチドの数平均分子量は、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)のチャートから算出することができる。
【0026】
さらに、上記塩基性アミノ酸を主体とするポリペプチドの中でも、ポリリジン、ポリヒスチジン等が好ましい。これらの中から選ばれる1種又は2種以上を用いると、皮膚浸透性と使用中の肌なじみに優れるベシクル組成物となるため好ましい。
該ポリペプチドの市販品としては、INCI名(International Nomenclature Cosmetic Ingredient labeling names)でPolyepsilon-Lysineと表されるポリリジン10(ポリリジンを10%含有する水溶液(一丸ファルコス社製))などを使用することができる。
【0027】
本技術における成分(D)の含有量は、特に限定されるものではないが、ベシクル組成物中、0.001〜5.0質量%が皮膚浸透性及び経時安定性の観点で好ましく、0.005〜1.0質量%が経時安定性の観点でより好ましく、さらに0.025〜0.1質量%が好ましい。
【0028】
また、本技術のベシクル組成物は、上記成分(A)〜(D)以外に水を含有する。水は、上記成分の分散媒体として用いられるものであり、ベシクル組成物として必須成分である。本技術における水の含有量は、成分(A)〜(D)の含有量により当業者により適宜決められるが、ベシクル組成物中、概ね60〜95質量%であるのが好ましい。このような水としては、精製水、温泉水、ローズ水やラベンダー水等の植物由来の水蒸気蒸留水などを使用することができる。これらの中から1種又は2種以上を使用してもよい。
【0029】
また、ベシクルを形成する過程で、上記成分(A)〜(D)(特に成分(A)及び(B))の分散性を良好に維持する必要があり、各成分の分散性改善を目的として、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−ペンタンジオール、グリセリン、ジグリセリン、ソルビトール等の多価アルコールを媒体中に添加してもよい。本技術における多価アルコールの含有量は、ベシクル組成物中、1〜20質量%であるのが好ましい。
【0030】
また、本技術のベシクル組成物は、本技術の効果を損なわない範囲で、上記成分以外のアルコール、油剤、界面活性剤、増粘剤、粉体、キレート剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、植物・微生物由来の抽出物、保湿剤・抗炎症剤・細胞賦活剤等の各種薬効剤、香料等を種々添加してもよい。また、各種添加剤はベシクル製造時に添加してもよく、ベシクル製造後に添加してもよい。また、ベシクルに内包させてもよく、内包させなくてもよい。
【0031】
また、本技術のベシクル組成物はζ電位を高めることで、経時安定性や皮膚浸透性が向上するため好ましい。ζ電位は、特に制限は無いが、5〜100(より好適には7以上80以下、さらに好適には10以上50以下)であると経時安定性により優れるため好ましい。なお、ζ電位は、大塚電子株式会社製の電気泳動光散乱光度計LEZ−600を用いて温度25℃にて測定した値である。
【0032】
また、本技術のベシクル組成物のpHは特に制限は無いが、ζ電位を高め経時安定性や皮膚浸透性を向上させるため、25℃のpHが3.0〜6.5(好適には3.5〜5.0)の範囲内であることが好ましい。
【0033】
本技術のベシクル組成物の製造方法については特に制限されず、一般的な方法により製造することができる。例えば、ボルテクスイング法〔A.D.Bangham, J.Mol.Biol., 13, 238(1965)〕、ソニケーション法〔C.Huang, Biochem., 8, 344(1969)〕、プレベシクル法〔H.Trauble, Neurosci.Res.Prog.Bull.,9, 273(1971)〕、エタノール注入法〔S.Batzri, Biochem.Biophys.Acta., 298, 1015(1973)〕、フレンチプレス押出法〔Y.Barenholz, FEBS Lett., 99, 210(1979)〕、コール酸除去法〔Y.Kagawa, J.Biol.Chem.,246, 5477(1971)〕、トリトンX−100バッチ法〔W.J.Gerritsen, Eur.J.Biochem., 85, 255(1978)〕、Ca2+融合法〔D.Papahadojopoulos,Biochem.Biophys.Acta., 394, 483(1975)〕、エーテル注入法〔D.Deazer, Biochem.Biophys.Acta., 443, 629(1976)〕、アニーリング法〔R.Lawaczeck, Biochem.Biophys.Acta., 443, 313(1976)〕、凍結融解融合法〔M.Kasahara, J.Biol.Chem., 252, 7384(1977)〕、W/O/Wエマルジョン法〔S.Matsumoto, J.Colloid Interface Sci., 62, 149(1977))、逆相蒸発法〔F.Szoka, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 75, 4194(1978)〕、多価アルコール法〔特開昭60-7932号公報〕等により製造することができる。
【0034】
本技術のベシクル組成物の製造法としては、例えば、前記成分(A)及び前記成分(B)をベシクル粒子の主な膜構成成分として用い、これら成分(A)及び(B)、成分(C)及び成分(D)、並びに適宜その他の任意成分を配合し、加熱混合して、冷却することで、ベシクル組成物を得ることが挙げられる。加熱混合する際の温度条件は60〜100℃であるのが好適である。
また、〔成分(A)+成分(B)〕:成分(C)の含有質量割合は、好ましくは1:0.001〜1であり、より好ましくは1:0.01〜0.4である。
また、〔成分(A)+成分(B)〕:成分(D)の含有質量割合は、好ましくは1:0.001〜1であり、より好ましくは1:0.01〜0.8であり、さらに好ましくは0.02〜0.08である。
また、成分(D):成分(C)の含有質量割合は、好ましくは1:0.01〜10であり、より好ましくは0.1〜5であり、さらに好ましくは1:1〜4である。
【0035】
その一例としては、80℃にて成分(A)及び成分(B)を精製水や多価アルコール等の水系溶媒に分散・溶解させ、そこに成分(C)を精製水に添加し80℃にて加熱溶解したものを添加混合し、さらに成分(D)を精製水に添加し80℃にて加熱溶解したものを添加混合した後、徐々に40℃まで冷却することで得ることができる。
【0036】
また、ベシクル形成の確認方法は、偏光顕微鏡を用いて直交ニコル下でのマルテーゼクロス像の有無の確認や、高輝度小角X線散乱装置SAXS(Anton Paar社製)を用いて小角X線散乱スペクトル測定によるピーク確認等によって行うことができる。本技術のベシクル組成物のベシクル形成の確認は、偏光顕微鏡(オリンパス社製)を用いて、直交ニコル下にてサンプルを観察し、マルテーゼクロス像の有無を確認することで行った。
【0037】
本技術のベシクル組成物の用途に関しては特に制限はない。本技術のベシクル組成物は、皮膚外用剤(例えば、医薬品及び医薬部外品用の皮膚外用剤)、化粧料、医薬品(経口、注射等)、食品等種々の用途の組成物の製造に用いることができる。本技術のベシクル組成物は耐熱性にも優れており、これら製造時に配合しても本技術の期待する効果を奏することも可能である。これらの組成物は、最終的に、液状、半液状(ゲル状及びペースト状を含む)、固体等いずれの形態であってもよい。
【0038】
本技術のベシクル組成物は、皮膚浸透性に優れるという特徴があり、その観点では、皮膚外用剤又は化粧料として、又はこれらを製造する際に、用いるのが好ましい。
本技術のベシクル組成物は、皮膚外用剤や化粧料として、そのまま用いてもよく、また、他の成分を含有させて皮膚外用剤や化粧料として用いてもよい。他の成分を含有させて皮膚外用剤又は化粧料にする場合は、これら製品中の本技術のベシクル組成物の含有量は、特に限定されないが、好ましくは1.0〜90質量%であり、より好ましくは3.0〜50質量%である。
【0039】
本技術のベシクル組成物を利用した皮膚外用剤又は化粧料の製造方法の一例は、以下の通りである。上述の本技術のベシクル組成物を製造すること及び前記ベシクル組成物と、有効成分等とを混合すること、等を含む皮膚外用剤又は化粧料の製造方法である。
【0040】
製造される皮膚外用剤又は化粧料の25℃のpHについては特に制限はないが、上記ベシクル組成物製造時のpHと最終的に製造される皮膚外用剤又は化粧料のpHとの差が小さいほうが好ましく、具体的にはその差が1.0以下であると、皮膚外用剤又は化粧料においてもベシクルの形状が維持され、分散性及び経時分散性が良好に維持される。
【0041】
本技術の皮膚外用剤又は化粧料の剤型については特に制限はない。液状、半液状、固体状等いずれであってもよい。その例として、乳液、クリーム、化粧水、美容液、パック、洗顔料、メーキャップ化粧料、軟膏等、種々の皮膚外用剤又は化粧料が挙げられる。また、本技術の皮膚外用剤又は化粧料には、本技術のベシクル組成物以外に、皮膚外用剤又は化粧料に通常使用される各種の成分、即ち、アルコール、油剤、界面活性剤、増粘剤、粉体、キレート剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、植物・微生物由来の抽出物、保湿剤・抗炎症剤・細胞賦活剤等の各種薬効剤、香料等を、本技術の効果を損なわない範囲で適宜加えることができる。
【0042】
本技術の皮膚外用剤又は化粧料におけるベシクルの効能についても特に制限はない。リン脂質からなるベシクルであって、皮膚浸透性に優れるという特徴がある。また、有効成分をベシクルに内包させてもよく、その態様では、上記効能とともに、有効成分の徐放性による効果も得られるであろう。
【0043】
本技術は、以下の構成を採用することも可能である。
〔1〕 次の成分(A)〜(D);
(A)リン脂質
(B)コレステロール及びフィトステロールから選ばれる1種又は2種以上
(C)カチオン性界面活性剤
(D)塩基性アミノ酸を主体とするポリペプチド
を含有するベシクル組成物。
〔2〕 前記成分(C)がアミノ酸残基を有するカチオン性界面活性剤である前記〔1〕記載のベシクル組成物。
〔3〕 前記成分(C)が、モノ−N−長鎖アシル塩基性アミノ酸低級アルキルエステル塩である前記〔1〕又は〔2〕記載のベシクル組成物。
〔4〕 前記成分(D)の数平均分子量が、1500〜10000である前記〔1〕〜〔3〕の何れか1項に記載のベシクル組成物。
〔5〕前記成分(D)の塩基性アミノ酸が、アルギニン、リジン及びヒスチジンから選ばれる1種又は2種以上のものである前記〔1〕〜〔4〕の何れか1項に記載のベシクル組成物。
〔6〕 前記成分(D)の塩基性アミノ酸の割合が60%モル以上である前記〔1〕〜〔5〕の何れか1項に記載のベシクル組成物。
〔7〕 前記成分(C)が、N−ココイル−L−アルギニンエチルエステルピロリドンカルボン酸塩である前記〔1〕〜〔6〕の何れか1項に記載のベシクル組成物。
〔8〕 前記成分(D)が、ポリリジンである前記〔1〕〜〔7〕の何れか1項に記載のベシクル組成物。
〔9〕 25℃のpHが、3.0〜6.5の範囲内である前記〔1〕〜〔8〕の何れか1項に記載のベシクル組成物。
〔10〕 25℃のζ電位が、5〜100であるである前記〔1〕〜〔9〕の何れか1項に記載のベシクル組成物。
〔11〕 前記(A)の含有量が、0.01〜5質量%である前記〔1〕〜〔10〕の何れか1項に記載のベシクル組成物。
〔12〕 前記(B)の含有量が、0.01〜5質量%である前記〔1〕〜〔11〕の何れか1項に記載のベシクル組成物。
〔13〕 前記(C)の含有量が、0.001〜1質量%である前記〔1〕〜〔12〕の何れか1項に記載のベシクル組成物。
〔14〕 前記(D)の含有量が、0.001〜5.0質量%である前記〔1〕〜〔13〕の何れか1項に記載のベシクル組成物。
〔15〕 [前記成分(A)+前記成分(B)]:前記成分(C)の含有質量割合は、1:0.001〜1である前記〔1〕〜〔14〕の何れか1項に記載のベシクル組成物。
〔16〕 [前記成分(A)+前記成分(B)]:前記成分(D)の含有質量割合は、1:0.001〜1である前記〔1〕〜〔15〕の何れか1項に記載のベシクル組成物。
〔17〕 前記成分(D):成分(C)の含有質量割合は、1:0.01〜10である前記〔1〕〜〔16〕の何れか1項に記載のベシクル組成物。
【0044】
〔18〕 前記成分(A)〜(D)を加熱混合し、冷却して得られる前記〔1〕〜〔17〕の何れか1項に記載のベシクル組成物。
〔19〕 前記成分(A)及び前記成分(B)を水系溶媒に加熱混合し、これに前記成分(C)及び(D)を加熱溶解した水系溶媒を加熱混合して得られる前記〔1〕〜〔18〕の何れか1項に記載のベシクル組成物。加熱混合の際に、薬理学的に許容され得る添加剤(好適には薬効成分)を配合することが好適である。
【0045】
〔20〕 前記〔1〕〜〔19〕の何れか1項に記載のベシクル組成物を含む皮膚外用剤又は化粧料。
〔21〕 前記〔1〕〜〔19〕の何れか1項に記載のベシクル組成物及び薬理学的に許容され得る添加剤を含む皮膚外用剤又は化粧料。当該ベシクル組成物の含有量は、1〜90%が好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、本技術(本発明)を具体的に説明するために実施例及び試験例を挙げるが、本技術(本発明)はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0047】
実施例1〜11及び比較例1〜3:ベシクル組成物
表1及び表2に示す組成のベシクル組成物を下記製造方法により製造し、各試料の「経時安定性」、「皮膚浸透性」、「肌なじみ」について、以下に示す方法により評価判定し、結果を併せて表1及び表2に示した。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
注1:HSL−70(ワイエムシィ社製)
注2:ニッスイマリンコレステロール(日本水産社製)
注3:25-NBD Chloresterol(Avanti Polar Lipids社製)
注4:フィトステロール(エーザイフード・ケミカル社製)
注5:DEHYQUART AU−56/G(コグニス社製)
注6:ポリリジン10(一丸ファルコス社製:分子量約5000)
注7:CAE(味の素社製)
【0051】
(製造方法)
A:成分1〜6を80℃に加熱して溶液とした。
B:Aで得られた溶液に、75℃に保持しながら成分7〜9及び成分10〜11をそれぞれ添加し、ディスパミキサーにて、分散液を得た。
C:Bで得られた分散液を40℃まで徐々冷却して、ベシクル組成物を得た。
【0052】
〔pH測定〕
各試料のpHはガラス電極のpHメーター(HORIBA社製)を用いて25℃にて測定した。
【0053】
〔ζ電位測定〕
各試料のゼータ電位は大塚電子株式会社製の電気泳動光散乱光度計LEZ−600を用いて25℃にて測定した。測定は3回行い、結果はその平均値で表した。
【0054】
〔ベシクルの確認試験〕
偏光顕微鏡(オリンパス社製)を用いて、直交ニコル下にて製造直後の各試料を観察し、マルテーゼクロス像の有無を確認した。
【0055】
[経時安定性]
経時安定性については、ベシクルの経時安定性について、偏光顕微鏡にてマルテーゼクロス像の観察を行い評価した。具体的には、各試料の製造直後の状態を基準とし、50℃にて1ヶ月静置したものを観察し、確認されるマルテーゼクロス像の数量について下記(イ)4段階判定基準を用いて判定した。
【0056】
(イ)4段階判定基準
(判定):(評価)
◎ :マルテーゼクロス像の数量が80%以上確認できた
○ :マルテーゼクロス像の数量が60%以上80%未満確認できた
△ :マルテーゼクロス像の数量が30%以上60%未満確認できた
× :マルテーゼクロス像の数量が30%未満確認できた
【0057】
[皮膚浸透性]
東洋紡社製3次元皮膚モデル(TESTSKIN LSE)を、真皮側にPBS(pH7.4)が湿潤するようアルミトレーの上に乗せ、蛍光コレステロール(25-NBD Chloresterol、Avanti Polar Lipids社製)で標識した、上記実施例1〜11及び比較例1〜3をそれぞれ5μg/cmになるように塗布し、4時間静置した。その後、3次元皮膚モデルを取り出し、凍結した後、薄層切片とし、共焦点レーザー顕微鏡(FV−1000、オリンパス社製)で撮影を行った。蛍光物質の角層への浸透度合いを、下記の式より算出し下記(ロ)4段階判定基準を用いて判定した。なお、10箇所にて浸透度合いを計算し、それらの平均値を算出した。また、ベシクル組成物はすべてミニエクストルーダー(Avanti Polar Lipids社製)を用いて平均粒径約200nmに調製した。

浸透度合い (%)=蛍光コレステロールが浸透した厚さ/角層全体の厚さ×100
【0058】
図1は本技術(本発明)の実施例1のベシクル組成物の3次元皮膚モデルにおける共焦点レーザー顕微鏡観察結果を示したものであり、白い矢印の先端は角層の最下層を示す。図1の左側は薄層切片の写真であり、右側の写真の白い部分は左側の写真と同部位における薄層切片に浸透した蛍光コレステロールを示した写真である。
図2は比較例1のベシクル組成物の3次元皮膚モデルにおける共焦点レーザー顕微鏡観察結果を示したものであり、白い矢印の先端は角層の最下層を示す。図2の左側は薄層切片の写真であり、右側の写真の白い部分は左側の写真と同部位における薄層切片に浸透した蛍光コレステロールを示した写真である。
図1及び図2からわかるように、本技術(本発明)のベシクル組成物は、比較例に比べ、角層全体における蛍光コレステロールの浸透が優れたものであった。
また、本技術のベシクル組成物は、熱安定性にも優れており、実施例13〜16の製品(具体的には化粧料又は皮膚外用剤等)の製造時で加熱工程があっても、得られた製品において本技術のベシクル組成物の機能を良好に発揮することが可能である。
【0059】
(ロ)4段階判定基準
(判定):(評価)
◎ :浸透度合いが50%以上である
○ :浸透度合いが40%以上であるが50%未満である
△ :浸透度合いが30%以上であるが40%未満である
× :浸透度合いが30%未満である
【0060】
[肌なじみ]
各試料について化粧品評価専門パネル20名が上腕内側部に塗布した際に感じる肌なじみをパネル各人が下記絶対評価にて6段階に評価し評点を付け、各試料ごとにパネル全員の評点合計から、その平均値を算出し、下記4段階判定基準により判定した。
【0061】
絶対評価基準
(評点):(評価)
6点:肌なじみを非常に感じる
5点:肌なじみを感じる
4点:やや肌なじみを感じる
3点:普通
2点:あまり肌なじみを感じない
1点:肌なじみを感じない
4段階判定基準
(判定):(評点の平均点)
◎ :5点を超える
○ :3.5点を超える5点以下
△ :2点を超える3.5点以下
× :2点以下
【0062】
表1及び表2の結果から明らかな如く、本技術(本発明)の実施例1〜11のベシクル組成物は、経時安定性、皮膚浸透性、肌なじみの全てにおいて優れたものであった。これに対して、N−ココイル−L−アルギニンエチルエステルピロリドンカルボン酸塩もポリリジンも含有しない比較例1は皮膚浸透性及び肌なじみが不十分なものであった。N−ココイル−L−アルギニンエチルエステルピロリドンカルボン酸塩を含有しない比較例2は特にベシクルの経時安定性が悪く凝集し、肌なじみの点でも満足いくものが得られなかった。ポリリジンを含有しない比較例3は特に皮膚浸透性の点で満足いくものが得られなかった。
【0063】
実施例12:ベシクル組成物
(成分) (%)
1.水素添加大豆リン脂質(注1) 1.0
2.コレステロール(注2) 0.25
3.グリチルレチン酸ステアリル(注8) 0.1
4.ジプロピレングリコール 10.0
5.精製水 30.0
6.ポリリジン10%水溶液(注6) 0.5
7.クエン酸 0.11
8.N−ココイル−L−アルギニンエチルエステル
ピロリドンカルボン酸塩(注7) 0.1
9.精製水 残 量
注8:シーオーグレチノール(丸善製薬社製)
【0064】
(製造方法)
A:成分1〜4を80℃に加熱して溶液とした。
B:Aで得られた溶液に、75℃に保持しながら成分5〜7及び成分8〜9をそれぞれ添加し、ディスパミキサーにて、分散液を得た。
C:Bで得られた分散液を40℃まで徐々冷却して、ベシクル組成物を得た。
【0065】
実施例12のベシクル組成物は経時安定性、皮膚浸透性、肌なじみの全てにおいて優れたものであった。
【0066】
実施例13:美容液
(成分) (%)
1.イソステアリルアルコール 0.5
2.水素添加大豆リン脂質 (注1) 1.5
3.グリセリルモノステアレート 0.5
4.イソオクタン酸セチル 5.0
5.ベヘニルアルコール 0.5
6.グリセリン 12.0
7.1,3−ブチレングリコール 8.0
8.精製水 残 量
9.キサンタンガム 0.1
10.ヒドロキシプロピルメチルセルロース (注9) 0.1
11.実施例12記載のベシクル組成物 20.0
12.フェノキシエタノール 0.3
13.香料 0.2
(注9)METOLOSE 65SH4000(信越化学工業社製)
【0067】
(製造方法)
A:成分1〜5を70℃で均一に溶解混合する。
B:成分6〜10を70℃で均一に混合する。
C:AにBを添加し70℃で乳化する
D:Cを40℃まで冷却し、成分11〜13を添加して均一に混合し、美容液を得た。
【0068】
実施例13の美容液は皮膚浸透性及びベシクルの経時安定性に優れ、肌なじみや保湿効果に優れた美容液であった。
【0069】
実施例14:水中油型アイクリーム
(成分) (%)
1.モノステアリン酸グリセリル 3.5
2.モノステアリン酸ポリエチレングリコール(40モル) 2.0
3.流動パラフィン 3.0
4.ワセリン 8.0
5.トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル 5.0
6.ジメチルポリシロキサン 1.0
7.セトステアリルアルコール 2.0
8.ベヘニルアルコール 2.0
9.1,3ブチレングリコール 5.0
10.キサンタンガム 0.1
11.精製水 残 量
12.エデト酸二ナトリウム 0.05
13.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
14.実施例1記載のベシクル組成物 5.0
15.香料 0.1
【0070】
(製造方法)
A:成分1〜8を70℃で加熱溶解する。
B:成分9〜13を70℃で加熱溶解後、Aに添加し、乳化する。
C:Bを室温まで冷却後、成分14〜15を添加し、水中油型アイクリームを得た。
【0071】
実施例14の水中油型アイクリームは皮膚浸透性及びベシクルの経時安定性に優れ、肌
なじみや保湿効果に優れた水中油型アイクリームであった。
【0072】
実施例15:化粧水
(成分) (%)
1.グリセリン 5.0
2.1,3−ブチレングリコール 5.0
3.コハク酸 0.07
4.コハク酸ナトリウム 0.07
5.モノオレイン酸
ポリオキシエチレン(20モル)ソルビタン 1.2
6.エタノール 8.0
7.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
8.香料 0.05
9.実施例2のベシクル組成物 5.0
10.精製水 残 量
11.コウジ酸 0.5
【0073】
(製造方法)
A:成分5〜8を混合溶解する。
B:成分1〜4、10〜11を混合溶解する。
C:BにAを添加混合し、さらに、成分9を添加混合して化粧水を得た。
【0074】
実施例15の化粧水は皮膚浸透性及びベシクルの経時安定性に優れ、肌なじみや保湿効
果に優れた化粧水であった
【0075】
実施例16:水中油型乳液
(成分) (%)
1.スクワラン 5.0
2.デカメチルシクロペンタシロキサン 5.0
3.ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油 2.0
4.セトステアリルアルコール 0.5
5.1,3−ブチレングリコール 7.0
6.グリセリン 5.0
7.アクリル酸−メタクリル酸アルキル共重合体(注10) 0.2
8.パラオキシ安息香酸メチル 0.05
9.トリエタノールアミン 0.2
10.エデト酸二ナトリウム 0.02
11.精製水 残 量
12.香料 0.02
13. 実施例6のベシクル組成物 10.0
14.ジプロピレングリコール 7.0
15.精製水 10.0
注10:ペミュレンTR−2(NOVEON社製)
【0076】
(製造方法)
A:成分1〜6を70℃にて加熱溶解する。
B:成分7〜11を70℃にて加熱後、Aに添加し乳化する。
C:Bを室温まで冷却後する。
D:Cに成分13〜16を添加し、水中油型乳液を得た。
【0077】
実施例16の水中油型乳液は皮膚浸透性及びベシクルの経時安定性に優れ、肌なじみや保湿効果に優れた乳液であった。
図1
図2