(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
開口部が形成された金属材料からなるX線不透過性の第1基板及び第2基板と、前記開口部を閉止するチタン箔からなるX線透過窓とを有し、前記第1基板と前記第2基板の間に前記X線透過窓を挟んで加熱しながら圧着することにより、前記第1基板と前記第2基板と前記X線透過窓とが熱拡散接合されて形成される基板と、
前記基板に取り付けられて内部が真空状態とされた箱型の容器部と、
前記容器部の内部において内側にある前記基板の前記開口部に設けられるX線ターゲットと、
前記容器部の内部に設けられ前記基板の開口部に対応して延在する線状の陰極及び前記陰極と前記X線ターゲットとの間に設けられ前記陰極の長手方向に対応する開口を有する複数の制御電極を有し、前記陰極から放出された電子を前記複数の制御電極によって引き出して前記X線ターゲットに電子を供給する電極部と、
を備えるX線管において、
前記X線透過窓は、前記チタン箔を複数枚積層させた状態で熱拡散接合したチタン単層であり、その箔厚が10μm以下であることを特徴とするX線管。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されるX線管のX線強度は、X線透過窓にベリリウムを使用したX線管のX線強度に満たないため、特許文献1の構成においてX線強度をより高めたX線管の開発が望まれている。
【0006】
そこで、本願発明者等は、特許文献1のX線管のX線強度を高めて更なる品質向上を図るべく鋭意研究を行う最中、X線管のX線強度を上げるためには、「定格ターゲット電圧(管電圧)を昇圧すること」及び「X線透過窓に使用するチタン箔を従来装置よりも薄くすること」でX線強度が高まることを知得したが、同時にこれら2つの条件を満たすX線管を製造するにあたり、新たな課題も発見された。
【0007】
すなわち、
図7に示すように、チタンのX線吸収端が5kV付近にあり、5kVで極端にX線透過率が低下するため、現状の管電圧である5kVから約2倍となる9.8kVまで単純に上げたとしても、
図7に示すように従来のチタン箔の厚さ(10μm)ではX線吸収端によって低下したX線透過率を賄うだけの強度が得られない。
【0008】
そこで、管電圧を上げつつチタン箔の箔厚を薄くすることで、
図7に示すようにX線透過率が向上することを確認しているが、より薄くなるようにチタン箔をローラーで圧延していくと、鋳造段階で混入したゴミによって圧延処理中にピンホールが発生するという問題がある。これは、チタンの箔厚を薄くするに連れてピンホールの発生リスクが高まり、単純にチタン箔を薄くすることでX線透過率は向上するが、ピンホールによる真空リークによりX線管の製造が困難になるという問題が発生した。
【0009】
さらに、ピンホールの問題を解決するため、樹脂材料を蒸着させる方法(例えば特許第3294440号)を採用してチタン箔に発生したピンホールを覆うことも考えられるが、樹脂材料は金属に対して5桁以上、気体透過性が高く、真空気密容器であるX線管では気密性の観点からすると気体透過性の高い樹脂材料を使うことができない。
【0010】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、X線透過窓としてチタン箔を使用してピンホールの発生リスクを極力抑えつつ、従来の箔厚よりも薄くしてX線透過率を向上させることのできるX線管を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載されたX線管は、開口部が形成された金属材料からなるX線不透過性の第1基板及び第2基板と、前記開口部を閉止するチタン箔からなるX線透過窓とを有し、前記第1基板と前記第2基板の間に前記X線透過窓を挟んで加熱しながら圧着することにより、前記第1基板と前記第2基板と前記X線透過窓とが熱拡散接合されて形成される基板と、
前記基板に取り付けられて内部が真空状態とされた箱型の容器部と、
前記容器部の内部において内側にある前記基板の前記開口部に設けられるX線ターゲットと、
前記容器部の内部に設けられ前記基板の開口部に対応して延在する線状の陰極及び前記陰極と前記X線ターゲットとの間に設けられ前記陰極の長手方向に対応する開口を有する複数の制御電極を有し、前記陰極から放出された電子を前記複数の制御電極によって引き出して前記X線ターゲットに電子を供給する電極部と、
を備えるX線管において、
前記X線透過窓は、前記X線透過窓は、
前記チタン箔を複数枚積層させた状態で熱拡散接合したチタン単層であり、その箔厚が10μm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、X線透過窓の厚さ
が10μm以下となるように所定厚さのチタン箔を複数枚積層して
熱拡散接合によりチタン単層とした構成であるため、薄く圧延されたチタン箔に生じたピンホールを他のチタン箔で覆うことがで
き、X線強度を向上させつつ、真空リークによる不良が生じることのないX線管を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。また、この実施の形態によって本発明が限定されるものではなく、この形態に基づいて当業者等により考え得る実施可能な他の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれるものとする。
【0015】
[1.X線管の構成について]
<1−1. 管構造について>
まず、本発明のX線管1の構成について説明する。
図1に示すように、本例のX線管1は、箱型形状のパッケージ2を本体とする平型管である。パッケージ2は、シールガラス(鉛ガラス)を介在させてガラス製(例えば、ソーダライムガラス)の背面板3aと枠状の側面板3bとを箱型に組み立てた容器部3を大気焼成によってドライシール化し、さらに側面板3bの開放側周縁部にシールガラスを形成した状態で第1基板4aと第2基板4bとでチタン箔のX線透過窓5を挟んだ構成の基板4を取り付けて閉止される。また、パッケージ2の内部は、背面板3aに形成した不図示の排気孔から高真空状態に排気されている。
【0016】
基板4は、X線不透過性の426合金でできた矩形板である。426合金とは42%Ni、6%Cr、残部Fe等の合金であり、容器部3を構成するソーダライムガラスと熱膨張係数が略等しい。なお、容器部3に使用するガラスの材質によって、基板4の金属材料も熱膨張率等を鑑みて適宜変更することができる。
【0017】
また、
図2に示すように、第1基板4aと第2基板4bの中央には、長手方向に沿って細長い矩形状(又はスリット状)の開口部6が形成されている。
【0018】
X線透過窓5は、第1基板4a及び第2基板4bと略同等の大きさのチタン箔であり、このチタン箔を第1基板4a,第2基板4bの間に挟んだ状態で、真空又は不活性ガス(例えば、Arガス)雰囲気中で熱拡散接合によって一体化されることで開口部6が閉止された基板4を構成している。
【0019】
熱拡散接合とは、母材を密着させ、母材の融点以下の温度条件で塑性変形が可能な限り生じない程度に加圧して、接合面間に生じる原子の拡散を使用して接合する方法である。そして、熱拡散接合を用いた方法では、第1基板4aと第2基板4bの他の部分でもチタン箔が固着剤の作用をし、第1基板4aと第2基板4bが強固に固着し、基板4の強度を向上させる効果がある。また、基板4を金属材料としているので、金属箔からなるX線透過窓5との接合性が良好である。なお、X線透過窓5は、熱拡散接合によって第1基板4aと第2基板4bと接合し、且つ、X線を透過する金属材料であればチタンに限定されない。
【0020】
また、X線透過窓5の内面には、前記開口部6の内側からX線透過窓5の内面に密着するように、タングステン(W)の膜が蒸着されることによりX線ターゲット7が形成されている。なお、X線ターゲット7としては、モリブデンなどのタングステン以外の金属を用いても良い。また、X線ターゲット7を形成せず、X線透過窓5のチタン箔をX線ターゲットとして利用することもできる。この場合、後述する陰極9から放出された電子がチタン箔に衝突した際にチタンから発生する特性X線を利用して外部に放出することができる。
【0021】
さらに、
図1では、説明の都合上、第1基板4aとX線透過窓5との間の接合面、第2基板4bとX線透過窓5との間の接合面が図示されているが、製品として完成したときは熱拡散接合により各接合面は消失することになる。
【0022】
また、X線透過窓5の材質はチタンに限定されず、従来装置のベリリウムを使用せず、所望のX線強度が得られる金属材料であればよい。
【0023】
そして、本発明のX線管1は、X線透過窓5に用いるチタン箔を従来装置よりも薄くしつつ、箔厚を薄くすることで発生するピンホールのリスクを回避しながらX線透過窓5のX線透過率を向上させるため、チタン箔の目標厚さを決め、この目標厚さとなるように薄く圧延したチタン箔を複数枚積層している。つまり、従来装置のチタン箔の箔厚が10μmとすると、これよりも薄い箔厚(例えば6μm)を目標厚さとし、この目標厚さとなるように例えば箔厚が3μmのチタン箔を2枚積層して6μmとしてX線透過窓5を構成している。
【0024】
チタン箔は、〔発明が解決しようとする課題〕の項でも述べたように圧延して薄くすればするほどピンホールの発生リスクが高まってしまう。しかしながら、本例のように、薄く圧延したチタン箔を複数枚重ねることにより、仮に積層する全てのチタン箔にピンホールが発生していたとしても全てのピンホールの位置が一致する可能性は極めて低いため、複数枚のチタン箔を積層することで他のチタン箔によってピンホールが覆われることになる。
【0025】
そして、ピンホールを覆うように積層した状態で熱拡散接合を行えば、各箔の接合面間の空隙が消失し、ついには界面が消失してチタン箔同士が接合される。従って、薄いチタン箔単体をX線透過窓5として使用するよりも、格段にピンホールの発生リスクを抑制する効果を奏する。
【0026】
なお、チタン箔の目標厚さとするため、チタン箔の箔厚を適宜組み合わせることができる。例えば、チタン箔の目標厚さを4μmとし、チタン箔の圧延限界厚さを1μmとした場合、1μm厚のチタン箔を4枚積層した構成、2μm厚のチタン箔を2枚積層した構成、2μm厚のチタン箔1枚と1μm厚のチタン箔を2枚の合計3枚を積層した構成等が考え得るが、これらの組合せは実験等によって最適な組合せを検討して適宜選択すればよい。
【0027】
<1−2.電極構成について>
次に、X線管1のパッケージ2内部における電極構成について説明する。
図1及び
図3に示すように、パッケージ2の内部には、X線透過窓5と反対側の容器部3の内面に、ガラスへの帯電を防止するための背面電極8が設けられている。
【0028】
背面電極8の下方には、電子源である線状の陰極9が張設されている。陰極9は、タングステン等からなるワイヤー上の芯線の表面に炭酸塩を施したもので、芯線を通電加熱することで、熱電子を放出するものである。
【0029】
陰極9の下方には、陰極9から電子を引き出すためのメッシュ状の開口10aを有する第1制御電極10が設けられている。また、第1制御電極10の下方には、電子線の照射範囲を規制する第2制御電極11が設けられている。
【0030】
第2制御電極11は、周囲の四方を板体に囲まれた箱型の電極部材であり、線状の陰極8と対応する部分に細長いスリットの開口11aを有し、且つ開口11aにメッシュ11bが形成されている。
【0031】
第2制御電極11の開口11a及びメッシュ11bは、前述した第1基板4aの開口部6及びその近傍に設けられたX線ターゲットとしても機能するチタン箔のX線透過窓5に対応しており、陰極9から放出された電子が第2制御電極11から放射される範囲を規制し、第1基板4a側のX線透過窓5やその近傍に電子を当てることによって、効率的にX線を発生させてパッケージ2外に取り出せるように構成されている。また、第2制御電極11とX線透過窓5の距離も、X線ターゲットとしても機能するX線透過窓5に対し、電子が適切な状態で衝突するために適した値に設定されている。
【0032】
そして、背面電極8、陰極9、第1制御電極10、第2制御電極11によって電極部12を構成している。
【0033】
このような電極構成により、陰極8は、周囲が所定の電位が印加された電極で囲われるので、容器部3内面の帯電の影響を受けることなく、陰極8周囲の電位を安定させることができる。
【0034】
また、第2制御電極11には、第1制御電極10によって引き出された電子がX線透過窓5以外の場所、例えばパッケージ2の内壁等に衝突し、X線ターゲットとしても機能するX線透過窓5(アノード)と陰極9との絶縁性を悪化させることがないように、陰極9側を遮蔽する機能も有している。
【0035】
なお、背面電極8は、容器部3と線状の陰極9との距離が十分保たれていれば、容器部3への電子の帯電の影響が少なく不要である。また、制御電極は、第1制御電極10、第2制御電極11に加えて、線状の陰極9からX線透過窓5までの距離、管電圧、或いはX線透過窓5から取り出すX線の集束度合いに応じて追加しても良い。
【0036】
さらに、第1制御電極10並びに第2制御電極11は、基板4と同様、容器部3の熱膨張係数をほぼ等しくするために、426合金を使用することが望ましい。
【0037】
そして、上述した構成を備えたX線管1を用いて空気等にX線を照射してイオン化し、このイオンを帯電した被除電体(X線照射対象物)に放射することで、被除電体の除電処理を行うことができる。
【0038】
[2.性能評価について]
次に、上述した構成を備えるX線管1の性能評価について説明する。
なお、下記工程は本発明を限定するものではなく、前・後記の趣旨に照らし合わせて適宜設計変更することは何れも本発明の技術的範囲に含まれるものとする。
【0039】
図4は、従来装置のX線管と本実施例のX線管1とのX線強度の比較である。上述した製造方法に沿って作製したX線管1におけるチタン箔の箔厚に応じたX線強度を従来装置(管電圧5kV、箔厚10μm)と比較したグラフである。なお、実験条件は、電流を150μA定格とし、X線管1とX線照射対象物との間の距離(測定距離)を30cmとした。
【0040】
図示の通り、従来装置のX線管(管電圧5kV、箔厚10μm)を「1」とすると、同じく従来装置のX線管(管電圧9.8kV、箔厚10μm)はX線強度が約25倍程度高まることが確認された。これは、管電圧を約2倍に上げたことでX線強度が高まることを証明している。
【0041】
また、従来のX線管(管電圧5kV、箔厚10μm)と本実施例のX線管1(管電圧9.8kV、箔厚6μm又は管電圧9.8kV、箔厚4μm)とを比較すると、X線強度がそれぞれ約34倍、約36倍となった。これは、管電圧を約2倍にしたことに加えて、X線透過窓5の箔厚を従来装置よりも薄くしたことで得られた効果である。また、箔厚が薄くなるに連れてX線強度が高まることも確認できた。
【0042】
図5は、従来装置のX線管と本実施例のX線管1との除電速度の比較例である。本実施例のX線管1におけるチタン箔の箔厚に応じた除電速度を従来装置(管電圧5kV、箔厚10μm)と比較したグラフである。なお、実験条件は、電流を150μA定格とし、X線管1と被除電体との間の距離(測定距離)を30cmとした。
【0043】
図示の通り、従来装置のX線管(管電圧5kV、箔厚10μm)を「1」とすると、同じく従来装置のX線管(管電圧9.8kV、箔厚10μm)は除電速度が約5.7倍程度高まることが確認された。これは、管電圧を約2倍に上げたことでX線強度が高まったため除電速度が向上したことを示している。
【0044】
また、従来のX線管(管電圧5kV、箔厚10μm)と本実施例のX線管1(管電圧9.8kV、箔厚6μm又は管電圧9.8kV、箔厚4μm)とを比較すると、それぞれ約6.5倍、約7.3倍となった。これは、管電圧を約2倍にしたことに加えて、箔厚を従来装置よりも薄くしたことでX線強度が高まったために得られた効果である。また、箔厚が薄くなるに連れて除電速度が高まることも確認できた。
【0045】
図6は、従来装置のX線管と本実施例のX線管1とのX線強度及び除電速度の比較例である。本実施例のX線管1におけるチタン箔の箔厚に応じたX線強度と除電速度を従来装置(管電圧9.8kV、箔厚10μm)と比較したグラフである。なお、実験条件は、実施例1、2の条件と同様であり、またグラフ中の点線は、各データの回帰直線である。
【0046】
図示の通り、従来のX線管(管電圧9.8kV、箔厚10μm)と本実施例のX線管1(管電圧9.8kV、箔厚6μm又は管電圧9.8kV、箔厚4μm)とを比較すると、X線強度はそれぞれ約1.35倍、約1.42倍となり、除電速度はそれぞれ約1.15倍、約1.27倍となった。これは、X線透過窓5の箔厚が薄くなるに連れてX線強度が向上することを証明している。
【0047】
なお、上述した性能評価では、チタン箔の箔厚が2μmのものを2枚重ねてX線透過窓5の箔厚を4μmにしたものが最も薄い実施例となっているが、X線管1の容器内を真空にした状態で耐え得る厚さであればよい。従って、チタン箔の箔厚を1μmにし、それを2枚重ねてX線透過窓5の箔厚を2μmにすれば、4μmや6μmのX線透過窓5に比べて更なるX線強度の向上や除電速度の向上が見込めることは容易に推察できる。
【0048】
以上説明したように、上述したX線管1は、従来装置のX線透過窓5の厚さより薄い目標厚さを決め、この目標厚さとなるように所定厚さに圧延した金属材料であるチタン箔を複数枚積層してX線透過窓5を構成している。
【0049】
これにより、従来装置よりもX線透過窓5の厚さを薄くすることができ、且つ窓部分を複数枚で構成することにより薄く圧延されたチタン箔に生じたピンホールを他のチタン箔で覆うことができるため、X線強度を向上させつつ、真空リークによる不良が生じることのないX線管1を提供することができる。