特許第6185501号(P6185501)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6185501
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】ヒートインシュレータ
(51)【国際特許分類】
   F01N 13/14 20100101AFI20170814BHJP
   F02B 77/11 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   F01N13/14
   F02B77/11 D
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-41195(P2015-41195)
(22)【出願日】2015年3月3日
(65)【公開番号】特開2016-160851(P2016-160851A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2016年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 富久
(72)【発明者】
【氏名】下笠 宏周
(72)【発明者】
【氏名】前田 昭一
【審査官】 稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−042686(JP,A)
【文献】 特開2005−248778(JP,A)
【文献】 実開昭54−118912(JP,U)
【文献】 特開平08−093470(JP,A)
【文献】 特開2004−353582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 13/00−13/20
F02B 77/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気管に形成された屈曲部を覆う被覆部を備えたヒートインシュレータであって、
前記被覆部には、前記排気管の周方向に沿って延びる複数のスリットが形成されており、これらスリットは、それぞれ前記排気管の周方向の一方側のみが、前記被覆部の端縁部において開放されていると共に、前記排気管が延びる方向において互いに隣り合う前記スリットの開放方向が互いに反対方向となっており、
これらスリットが前記排気管が延びる方向において所定間隔を存して形成されていることにより前記スリット同士の間にスリット間プレート部が形成されており、
当該ヒートインシュレータの少なくとも一箇所が前記排気管に接合されていることを特徴とするヒートインシュレータ。
【請求項2】
請求項1記載のヒートインシュレータにおいて、
前記排気管は、前記屈曲部よりも排気ガス流れ方向の上流側部分である上流部と、前記屈曲部よりも排気ガス流れ方向の下流側部分である下流部とを備えており、
前記排気管の前記屈曲部の上側半分を覆う前記被覆部、前記排気管の前記上流部の上側半分を覆う上流被覆部、および、前記排気管の前記下流部の上側半分を覆う下流被覆部を備えた第1インシュレータ部と、
前記排気管の前記上流部の下側半分を覆い、前記第1インシュレータ部の前記上流被覆部に接合され、この上流被覆部との間で前記排気管の前記上流部の全周囲を覆う第2インシュレータ部と、
前記排気管の前記下流部の下側半分を覆い、前記第1インシュレータ部の前記下流被覆部に接合され、この下流被覆部との間で前記排気管の前記下流部の全周囲を覆うと共に、前記第2インシュレータ部との間に所定間隔を存して配設された第3インシュレータ部とを備え、
前記各スリットは前記第1インシュレータ部の前記被覆部に形成されており、
前記第1インシュレータ部の前記上流被覆部および前記第2インシュレータ部が前記排気管に接合されていることを特徴とするヒートインシュレータ。
【請求項3】
請求項2記載のヒートインシュレータにおいて、
前記第1インシュレータ部の前記下流被覆部および前記第3インシュレータ部は、前記排気管に対してスライド移動自在に支持されていることを特徴とするヒートインシュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関の排気管を覆うヒートインシュレータに係る。特に、本発明は、屈曲部を有する排気管を覆うヒートインシュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に開示されているように、スライド機構を介して排気管に組み付けられたヒートインシュレータが知られている。この特許文献1に開示されているヒートインシュレータは、直管で成る排気管を覆うものであって、その長手方向(排気ガス流れに沿う方向)の一端側が排気管に固定され、他端側がスライド機構によって排気管に対して相対移動自在に組み付けられている。これにより、排気管の内部に高温の排気ガスが流れて排気管がその長手方向に熱膨張し、排気管の熱膨張量とヒートインシュレータの熱膨張量とに差が生じたとしても、ヒートインシュレータの他端側は排気管の熱膨張に追従することがないため、ヒートインシュレータに応力は生じ難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−307988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記スライド機構の作用(ヒートインシュレータの他端側が排気管の熱膨張に追従しないこと)は、排気管が直管で成る場合には効果的に生じさせることができる。しかしながら、排気管が屈曲部を有するものであった場合には、以下の課題がある。
【0005】
ここでは、図8(排気管100および従来のヒートインシュレータ200の一例を示す断面図)に示すような屈曲部102を有する排気管100をヒートインシュレータ200によって覆う場合を考える。この図8に示す排気管100は、屈曲部102よりも排気ガス流れ方向の上流側が傾斜している。この傾斜している部分を傾斜部101と呼ぶ。また、屈曲部102よりも排気ガス流れ方向の下流側は水平方向に延びている。この水平方向に延びている部分を水平部103と呼ぶ。ヒートインシュレータ200は、排気管100の傾斜部101を覆う傾斜被覆部201、屈曲部102を覆う屈曲被覆部202、水平部103を覆う水平被覆部203を備えている。ヒートインシュレータ200の傾斜被覆部201の一端(排気ガス流れ方向の上流側の端部)が溶接等によって排気管100の傾斜部101に接合されている。ヒートインシュレータ200の水平被覆部203の一端(排気ガス流れ方向の下流側の端部)がスライド機構204を介して排気管100の水平部103に相対移動自在に組み付けられている。
【0006】
排気管100の内部に高温の排気ガスが流れることで排気管100が熱膨張(排気管100の長手方向に沿って熱膨張)した場合、前記水平部103の熱膨張の方向は水平方向である(図8における矢印Aを参照)。この水平方向の熱膨張に対しては前述したようにスライド機構204が機能する。
【0007】
しかしながら、前記傾斜部101の熱膨張の方向は斜め下方である(図8における矢印Bを参照)。このため、図9(屈曲被覆部202周辺の断面図)に示すようにヒートインシュレータ200の水平被覆部203に、熱膨張した排気管100の一部が接触し、この水平被覆部203に、排気管100から斜め下向き方向の荷重が作用することがある。この場合、ヒートインシュレータ200が排気管100に接合されている部分(傾斜被覆部201における排気ガス流れ方向の上流側の端部)に応力が集中することになり、この部分に悪影響(接合強度の低下等)を与えてしまう可能性がある。
【0008】
なお、ヒートインシュレータ200の水平被覆部203の一端(排気ガス流れ方向の下流側の端部)が排気管100の水平部103に接合され、ヒートインシュレータ200の傾斜被覆部201の一端(排気ガス流れ方向の上流側の端部)がスライド機構を介して排気管100の傾斜部101に相対移動自在に組み付けられた構成においても、前述した場合と同様に、熱膨張した排気管100の一部がヒートインシュレータ200に接触し、ヒートインシュレータ200が排気管100に接合されている部分(水平被覆部203における排気ガス流れ方向の下流側の端部)に応力が集中することがある。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、屈曲部を有する排気管を覆うヒートインシュレータに対し、排気管が熱膨張した場合であっても、ヒートインシュレータが排気管に接合されている部分への悪影響を抑制できる構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための本発明の解決手段は、内燃機関の排気管に形成された屈曲部を覆う被覆部を備えたヒートインシュレータを対象とする。このヒートインシュレータに対し、前記被覆部に、前記排気管の周方向に沿って延びる複数のスリットを形成し、これらスリットを、それぞれ前記排気管の周方向の一方側のみを前記被覆部の端縁部において開放させると共に、前記排気管が延びる方向において互いに隣り合う前記スリットの開放方向を互いに反対方向にする。また、これらスリットを前記排気管が延びる方向において所定間隔を存して形成することにより前記スリット同士の間にスリット間プレート部を形成する。また、当該ヒートインシュレータの少なくとも一箇所を前記排気管に接合している。
【0011】
本発明に係るヒートインシュレータは、排気管の周方向に沿って延びる複数のスリットが形成されていることにより、排気管が熱膨張して排気管から荷重が作用した場合にスリットの縁部がスリットの開口幅を拡大する方向に変形する(所謂、口開き方向に変形する)。この変形により、ヒートインシュレータに作用する前記荷重が吸収される。また、本発明に係るヒートインシュレータは、スリット同士の間にスリット間プレート部が形成されている。このため、排気管が熱膨張して排気管から荷重が作用した場合にスリット間プレート部が前記荷重の作用方向に応じて変形することにより、これによってもヒートインシュレータに作用する前記荷重が吸収される。これらの荷重吸収作用により、ヒートインシュレータが排気管に接合されている部分での応力集中は抑制される。
【0012】
また、前記排気管は、前記屈曲部よりも排気ガス流れ方向の上流側部分である上流部と、前記屈曲部よりも排気ガス流れ方向の下流側部分である下流部とを備えている。そして、ヒートインシュレータとしては、第1インシュレータ部、第2インシュレータ部および第3インシュレータ部を備えさせることが好ましい。第1インシュレータ部は、前記排気管の前記屈曲部の上側半分を覆う前記被覆部、前記排気管の前記上流部の上側半分を覆う上流被覆部、および、前記排気管の前記下流部の上側半分を覆う下流被覆部を備えている。第2インシュレータ部は、前記排気管の前記上流部の下側半分を覆い、前記第1インシュレータ部の前記上流被覆部に接合され、この上流被覆部との間で前記排気管の前記上流部の全周囲を覆っている。第3インシュレータ部は、前記排気管の前記下流部の下側半分を覆い、前記第1インシュレータ部の前記下流被覆部に接合され、この下流被覆部との間で前記排気管の前記下流部の全周囲を覆うと共に、前記第2インシュレータ部との間に所定間隔を存して配設されている。そして、前記各スリットは前記第1インシュレータ部の前記被覆部に形成されている。また、前記第1インシュレータ部の前記上流被覆部および前記第2インシュレータ部が前記排気管に接合されている。
【0013】
この構成によれば、第2インシュレータ部と第3インシュレータ部との間に所定間隔が設けられている(第2インシュレータ部と第3インシュレータ部とが連結されていない)ことで、排気管からの荷重が第3インシュレータ部に作用した場合であっても、その荷重が第3インシュレータ部から第2インシュレータ部に直接的に伝達されることはない。この荷重は第3インシュレータ部から第1インシュレータ部に伝達されることになるが、第1インシュレータ部では、被覆部に形成されている各スリットの口開き方向の変形およびスリット間プレート部の変形がなされる。これにより、ヒートインシュレータが排気管に接合されている部分での応力集中は抑制され、このヒートインシュレータの接合部分に悪影響を与えてしまうことを抑制できる。
【0014】
また、前記第1インシュレータ部の前記下流被覆部および前記第3インシュレータ部が、前記排気管に対してスライド移動自在に支持されていることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、前記排気管における下流部が熱膨張した場合、この部分ではヒートインシュレータが排気管の熱膨張に追従することがなくなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、排気管の屈曲部を覆うヒートインシュレータの被覆部に複数のスリットを形成し、排気管が熱膨張してヒートインシュレータに接触した場合でも、このスリット周辺の変形により、ヒートインシュレータが排気管に接合されている部分での応力集中を抑制できるようにしている。これにより、ヒートインシュレータの接合部分への悪影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係る排気管およびヒートインシュレータを示す側面図である。
図2】実施形態に係る排気管およびヒートインシュレータを示す平面図である。
図3図2におけるIII−III線に沿った位置よりも排気ガス流れ方向の下流側における排気管およびヒートインシュレータを示す斜視図である。
図4図1におけるIV−IV線に沿った位置よりも排気ガス流れ方向の上流側における排気管およびヒートインシュレータを示す斜視図である。
図5】排気管に熱膨張が生じた際におけるヒートインシュレータの屈曲被覆部の変形状態を示す平面図である。
図6】排気管に熱膨張が生じた際におけるヒートインシュレータの屈曲被覆部の変形状態を示す側面図である。
図7図5におけるVII−VII線に沿ったヒートインシュレータの断面図である。
図8】排気管および従来のヒートインシュレータの一例を示す断面図である。
図9】熱膨張した排気管の一部がヒートインシュレータに接触した状態を示す屈曲被覆部周辺の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車用エンジン(例えばディーゼルエンジン;内燃機関)の排気管を覆うヒートインシュレータとして本発明を適用した場合について説明する。
【0019】
図1は、本実施形態に係る排気管1およびヒートインシュレータ2を示す側面図である。また、図2は、本実施形態に係る排気管1およびヒートインシュレータ2を示す平面図である。
【0020】
−排気管−
排気管1は、ステンレス鋼やアルミニウム合金等で形成され、排気ガス流れ方向の上流側(図1における右上側、図2における上側)から下流側(図1における左側、図2における下側)に亘って、傾斜部11、屈曲部12、水平部13を備え、これら傾斜部11、屈曲部12、水平部13が一体形成されて成る。なお、前記傾斜部11が本発明でいう上流部(排気管1の屈曲部12よりも排気ガス流れ方向の上流側部分である上流部)に相当し、前記水平部13が本発明でいう下流部(排気管1の屈曲部12よりも排気ガス流れ方向の下流側部分である下流部)に相当している。
【0021】
傾斜部(上流部)11は、車両が水平な路面上にある場合に、排気ガス流れ方向の上流側から排気ガス流れ方向の下流側に向かうに従って下側に傾斜した形状となっている。また、この傾斜部11は、排気ガス流れ方向の上流側端部にフランジ11aを備え、このフランジ11aが図示しない排気マニホールドに接続される。
【0022】
水平部(下流部)13は、車両が水平な路面上にある場合に、排気ガス流れ方向の上流側から排気ガス流れ方向の下流側に亘って水平方向に延びた形状となっている。また、この水平部13は、排気ガス流れ方向の下流側端部が触媒コンバータ3に接続されている。
【0023】
屈曲部12は、前記傾斜部11と水平部13との間に位置し、排気ガス流れ方向の上流側が傾斜部11に連続し、排気ガス流れ方向の下流側が水平部13に連続している。
【0024】
排気管1がこのような形状となっているので、エンジンの運転時に排出される排気ガスの流れ方向としては、傾斜部11内では斜め下方に向かい、屈曲部12内において、その流れ方向が斜め下方から水平方向に変更され、水平部13内では水平方向(図1における左側)に向かうことになる。
【0025】
また、排気管1に排気ガスが流れた場合、この排気管1は排気ガスからの熱を受けて熱膨張する。その熱膨張により、排気管1は、その長さ寸法が長くなる。
【0026】
具体的に、傾斜部11は、その排気ガス流れ方向の上流側端部が排気マニホールドを介してエンジンに接続されているので(剛性の高い部分に接続されているので)、排気ガス流れ方向の下流側端部が斜め下方に移動するように熱膨張して(図1における矢印Iを参照)、その長さ寸法が長くなる。
【0027】
また、屈曲部12は、傾斜部11に連続しているので、前述した如く傾斜部11における排気ガス流れ方向の下流側端部が斜め下方に移動するのに伴って、この傾斜部11の膨張分だけ屈曲部12も同じ方向(斜め下方)に移動することになる。
【0028】
また、水平部13は、屈曲部12を介して傾斜部11に連続しているので、前述した如く傾斜部11における排気ガス流れ方向の下流側端部が斜め下方に移動するのに伴って、この水平部13の排気ガス流れ方向の上流側端部が、この傾斜部11の膨張分だけ同じ方向(斜め下方)に移動する。また、水平部13は、排気ガス流れ方向の下流側端部が図1における左側に移動するように熱膨張して(図1における矢印IIを参照)、その長さ寸法が長くなる。
【0029】
−ヒートインシュレータ−
ヒートインシュレータ2は、ステンレス鋼板やアルミニウムめっき鋼板等の板材で形成され、排気管1の外周面に近接し、その外周囲を覆っている。これにより、排気管1を流れる排気ガスの熱が外部に輻射されることを抑制する。つまり、このヒートインシュレータ2により、例えば、図示しないフロアパネルへの熱輻射を抑制できると共に、排気管1の近傍に樹脂製部品が配置されている場合にはこの樹脂製部品の熱変形を防止できる。
【0030】
本実施形態に係るヒートインシュレータ2は、第1、第2および第3の3個のインシュレータ部21,22,23が溶接等の手段によって一体的に接続された構成となっている。
【0031】
第1インシュレータ部21は、排気管1における傾斜部11、屈曲部12および水平部13それぞれの上方に亘って配置されている。つまり、この第1インシュレータ部21は、排気管1の傾斜部11の上側半分を覆う傾斜被覆部(本発明でいう上流被覆部;排気管の上流部(屈曲部よりも排気ガス流れ方向の上流側部分)の上側半分を覆う上流被覆部)21a、屈曲部12の上側半分を覆う屈曲被覆部(本発明でいう被覆部)21b、水平部13の上側半分を覆う水平被覆部(本発明でいう下流被覆部;排気管の下流部(屈曲部よりも排気ガス流れ方向の下流側部分)の上側半分を覆う下流被覆部)21cを備えている。これら傾斜被覆部21a、屈曲被覆部21b、水平被覆部21cは、排気管1が延びる方向に対して直交する方向での断面形状が略半円弧状となっている。
【0032】
第2インシュレータ部22は、排気管1における傾斜部11の下方に配置されている。この第2インシュレータ部22は、第1インシュレータ部21の傾斜被覆部21aと略対称な形状となっており、この傾斜被覆部21aとの間で排気管1の傾斜部11の全周囲を被覆している。
【0033】
具体的に、第1インシュレータ部21の傾斜被覆部21aおよび第2インシュレータ部22それぞれの外側縁部には、水平方向に延びるフランジ21d,22aが形成されており、これらフランジ21d,22a同士が溶接等の手段によって接合されることで一体化されている。これにより、第1インシュレータ部21の傾斜被覆部21aおよび第2インシュレータ部22が、排気管1の傾斜部11の全周囲を被覆している。より具体的に、図3図2におけるIII−III線に沿った位置よりも排気ガス流れ方向の下流側における排気管1およびヒートインシュレータ2を示す斜視図)に示すように、これら第1インシュレータ部21の傾斜被覆部21aと第2インシュレータ部22との接合部分にあっては、各フランジ21d,22a同士の間にインシュレータ支持ブラケット24の一部が挟まれて一体的に接合されており、このインシュレータ支持ブラケット24が排気管1の傾斜部11の外面に溶接されている。これにより、ヒートインシュレータ2が排気管1に支持されている。この部分が、本発明でいうヒートインシュレータにおいて排気管に接合されている部分に相当する。
【0034】
また、排気管1の傾斜部11の外面と、第1インシュレータ部21の傾斜被覆部21aおよび第2インシュレータ部22との間には、グラスウールやセラミックファイバー等で成る断熱材25,25が介在されている。この断熱材25,25が配設される領域は、排気管1の傾斜部11の長手方向の全体であってもよいし、その一部分であってもよい。
【0035】
第3インシュレータ部23は、排気管1における水平部13の下方に配置されている。この第3インシュレータ部23は、第1インシュレータ部21の水平被覆部21cとの間で排気管1の水平部13の全周囲を被覆している。
【0036】
具体的に、図4図1におけるIV−IV線に沿った位置よりも排気ガス流れ方向の上流側における排気管1およびヒートインシュレータ2を示す斜視図)に示すように、第1インシュレータ部21の水平被覆部21cおよび第3インシュレータ部23それぞれの外側縁部には、水平方向に延びた後に鉛直方向に延びるフランジ21e,23aが形成されており、これらフランジ21e,23aの鉛直方向に延びた部分同士が重ね合わされて溶接等の手段によって接合されている。これにより、第1インシュレータ部21の水平被覆部21cと第3インシュレータ部23とが一体化されて、排気管1の水平部13の全周囲を被覆している。また、排気管1の外周面と、第1インシュレータ部21の水平被覆部21cおよび第3インシュレータ部23との間に公知のSUSメッシュ26,26,26が介在されている。これらSUSメッシュ26,26,26の外面は第1インシュレータ部21の水平被覆部21cまたは第3インシュレータ部23に溶接されている。また、このSUSメッシュ26,26,26の内面は排気管1の外周面には接合されておらず、この排気管1との間で相対移動自在(排気管1が延びる方向にスライド移動自在)となっている。これにより、第1インシュレータ部21の水平被覆部21cおよび第3インシュレータ部23はSUSメッシュ26,26,26を介して排気管1に対して相対移動自在に支持され、これによりスライド機構が構成されている。
【0037】
なお、本実施形態に係るヒートインシュレータ2は、第2インシュレータ部22と第3インシュレータ部23との間に所定間隔S(図1を参照)が設けられている。つまり、第2インシュレータ部22における排気ガス流れ方向の下流側端縁22bと第3インシュレータ部23における排気ガス流れ方向の上流側端縁23bとの間に所定間隔Sが設けられて、これら第2インシュレータ部22と第3インシュレータ部23とが直接的には連結されていない構成となっている。また、この第2インシュレータ部22と第3インシュレータ部23との間の所定間隔Sに臨む排気管1の屈曲部12には、排気管1内に尿素水を噴射供給する尿素水インジェクタの取り付け部14が設けられている。
【0038】
−第1インシュレータ部の屈曲被覆部−
本実施形態の特徴は、前記第1インシュレータ部21の屈曲被覆部21bの構成にある。以下、この第1インシュレータ部21の屈曲被覆部21bの構成について説明する。
【0039】
図1図4に示すように、第1インシュレータ部21の屈曲被覆部21bには、2本のスリット41,42が形成されている。これらスリット41,42は、図2に示す如く排気管1の周方向に沿って延びている。また、これらスリット41,42は、排気管1が延びる方向において所定間隔(図2における寸法t1)を存し、これらスリット41,42同士の間にスリット間プレート部43が形成されている。ここでは、排気ガス流れ方向の上流側に位置するスリットを第1スリット41と呼び、排気ガス流れ方向の下流側に位置するスリットを第2スリット42と呼ぶこととする。前記スリット41,42同士の間隔寸法(図2における寸法t1)、および、排気管1の周方向に沿ったスリット間プレート部43の長さ寸法t2(スリット41,42同士のオーバラップ寸法)は、後述する捩れ変形の変形量が十分に確保されるように実験またはシミュレーションによって規定されている。一例として、スリット41,42同士の間隔寸法t1は8mmとされ、スリット間プレート部43の長さ寸法t2は25mmとされている。これら値はこれに限定されるものではない。
【0040】
より具体的に、各スリット41,42はそれぞれ一方側のみが開放されており、第1スリット41の開放方向と第2スリット42の開放方向とは互いに反対方向となっている。つまり、第1スリット41は、その長手方向の一端側(図2における右側)が非開放とされ、他端側(図2における左側)が開放されている。これに対し、第2スリット42は、その長手方向の他端側(図2における左側)が非開放とされ、一端側(図2における右側)が開放されている。
【0041】
第1スリット41の非開放側の位置(図2における右端位置)は、第1インシュレータ部21の屈曲被覆部21bにおける幅方向(図2における左右方向)の中央位置よりも僅かに右側に設定されている。また、第1スリット41の開放側の構成としては、この第1スリット41が、第1インシュレータ部21の屈曲被覆部21bに形成されているフランジ(図2の左側に位置するフランジ)21fまで延びており、このフランジ21fの端縁部で開放されている。
【0042】
一方、第2スリット42の非開放側の位置(図2における左端位置)は、第1インシュレータ部21の屈曲被覆部21bにおける幅方向の中央位置よりも僅かに左側に設定されている。また、第2スリット42の開放側の構成としては、この第2スリット42が、第1インシュレータ部21の屈曲被覆部21bに形成されているフランジ(図2の右側に位置するフランジ)21fまで延びており、このフランジ21fの端縁部で開放されている。
【0043】
以上の構成により、前述した如く、屈曲被覆部21bには、排気管1の周方向に沿って延びる複数のスリット41,42が形成されていると共に、これらスリット41,42が排気管1が延びる方向において所定間隔を存して形成されていることによりスリット41,42同士の間にスリット間プレート部43が形成されていることになる。
【0044】
次に、排気管1の内部に排気ガスが流れた際の作用について説明する。
【0045】
前述したように、ヒートインシュレータ2には、排気管1の周方向に沿って延びるスリット41,42が形成されている。このため、排気管1が熱膨張した場合、図5(排気管1に熱膨張が生じた際におけるヒートインシュレータ2の屈曲被覆部21bの変形状態を示す平面図)に示すように、第1インシュレータ部21の屈曲被覆部21bにあっては、この屈曲被覆部21bに形成されている各スリット41,42の縁部がスリット41,42の開口幅t3を拡大する方向に変形する(所謂、口開き方向に変形する)。この変形により、ヒートインシュレータ2に作用する荷重(前述したように傾斜部11での熱膨張方向(図1における矢印Iを参照)と水平部13での熱膨張方向(図1における矢印IIを参照)とが異なることに起因して排気管1がヒートインシュレータ2に接触することにより作用する斜め下向き方向の荷重)が吸収される。
【0046】
また、前述したように、ヒートインシュレータ2には、スリット41,42同士の間にスリット間プレート部43が形成されている。このため、排気管1が熱膨張した場合、図6(排気管1に熱膨張が生じた際におけるヒートインシュレータ2の屈曲被覆部21bの変形状態を示す側面図)および図7図5におけるVII−VII線に沿ったヒートインシュレータ2の断面図)に示すように、スリット間プレート部43が、排気管1の延びる方向に対して略直交する方向に延びる捩れ中心軸O1の回りに捩れ変形する(図7の矢印を参照)。この変形によっても、ヒートインシュレータ2に作用する荷重が吸収される。
【0047】
このようにしてヒートインシュレータ2に作用する荷重が吸収されるため、ヒートインシュレータ2が排気管1に接合されている部分での応力集中は抑制される。つまり、第1インシュレータ部21の傾斜被覆部21aおよび第2インシュレータ部22と、排気管1とが接合されている部分(これら傾斜被覆部21aおよび第2インシュレータ部22が前記インシュレータ支持ブラケット24を介して排気管1に接合されている部分)での応力集中は抑制される。このため、このヒートインシュレータ2の接合部分に悪影響(接合強度の低下等)を与えてしまうことを抑制できる。
【0048】
より具体的に説明すると、本実施形態の構成では、第2インシュレータ部22は、排気管1における傾斜部11の下方に配置されて、第1インシュレータ部21の傾斜被覆部21aに接合されている。また、第3インシュレータ部23は、排気管1における水平部13の下方に配置されて、第1インシュレータ部21の水平被覆部21cに接合されていると共に、第2インシュレータ部22との間に所定間隔Sを存している。つまり、第2インシュレータ部22と第3インシュレータ部23とが連結されていない。このため、排気管1から下向き方向の荷重が第3インシュレータ部23に作用した場合、その荷重が第3インシュレータ部23から第2インシュレータ部22に直接的に伝達されることはない。この荷重は第3インシュレータ部23から第1インシュレータ部21に伝達されることになるが、第1インシュレータ部21では、前述したように屈曲被覆部21bに形成されている各スリット41,42の口開き方向の変形およびスリット間プレート部43の捩れ変形がなされる。これにより、ヒートインシュレータ2が排気管1に接合されている部分での応力集中は抑制され、このヒートインシュレータ2の接合部分に悪影響を与えてしまうことを抑制できる。
【0049】
更に、本実施形態の構成では、第1インシュレータ部21の水平被覆部21cおよび第3インシュレータ部23が、スライド機構によって排気管1に対してスライド移動自在に支持されている。このため、排気管1における水平部13が熱膨張した場合、この部分ではヒートインシュレータ2が排気管1の熱膨張に追従することがない。
【0050】
−他の実施形態−
以上説明した実施形態は、自動車用ディーゼルエンジンの排気管1を覆うヒートインシュレータ2として本発明を適用した場合について説明した。本発明はこれに限らず、自動車用ガソリンエンジンの排気管を覆うヒートインシュレータとして適用することも可能である。また、自動車用以外のエンジンの排気管を覆うヒートインシュレータとして適用することも可能である。
【0051】
また、前記実施形態では、第1インシュレータ部21の傾斜被覆部21aおよび第2インシュレータ部22を排気管1の傾斜部11に接合し、第1インシュレータ部21の水平被覆部21cおよび第3インシュレータ部23を排気管1にスライド移動自在に支持した構成としていた。本発明はこれに限らず、第1インシュレータ部21の水平被覆部21cおよび第3インシュレータ部23を排気管1の傾斜部11に接合し、第1インシュレータ部21の傾斜被覆部21aおよび第2インシュレータ部22を排気管1にスライド移動自在に支持する構成としてもよい。また、これら各部を排気管1に接合する構成としてもよい。
【0052】
また、前記実施形態では、スリット41,42を、排気管1が延びる方向に対して略直交する周方向に延びる形状としていた。本発明はこれに限らず、排気管1が延びる方向に対して直交する周方向から所定角度(例えば30°程度)だけ傾いた方向に延びる形状であってもよい。また、スリット41,42の配設箇所としては2箇所には限定されず、3箇所以上であってもよい。この場合、隣り合うスリット同士の開放方向(第1インシュレータ部21の屈曲被覆部21bに形成されているフランジ21fの端縁部での開放方向)は互いに反対方向となっていることが好ましい。
【0053】
更に、前記実施形態では、ヒートインシュレータ2を、第1、第2および第3の3個のインシュレータ部21,22,23を一体的に接続した構成としていた。本発明はこれに限らず、ヒートインシュレータを、4個以上のインシュレータ部を一体的に接続した構成としてもよいし、2個のインシュレータ部を一体的に接続した構成としてもよい。また、ヒートインシュレータ2に、排気管1の屈曲部12の下側半分を覆う部分を備えさせた構成としてもよい。
【0054】
また、前記実施形態では、屈曲部12よりも排気ガス流れ方向の上流側部分が傾斜した配管(傾斜部11)となっており、屈曲部12よりも排気ガス流れ方向の下流側部分が水平方向に延びる配管(水平部13)となっている排気管1に適用されるヒートインシュレータ2について説明した。本発明に係るヒートインシュレータ2は、これに限らず、屈曲部12よりも上流側部分と下流側部分とで配管の延びる方向が異なっている排気管1であれば同様の効果を奏することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、屈曲部を有する排気管を覆うヒートインシュレータに適用可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 排気管
11 傾斜部
12 屈曲部
13 水平部
2 ヒートインシュレータ
21 第1インシュレータ部
21a 傾斜被覆部
21b 屈曲被覆部(被覆部)
21c 水平被覆部
22 第2インシュレータ部
23 第3インシュレータ部
24 インシュレータ支持ブラケット
26 SUSメッシュ
41,42 スリット
43 スリット間プレート部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9