(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6185556
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】シール式ベルトテンショナ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 7/12 20060101AFI20170814BHJP
F16J 15/18 20060101ALI20170814BHJP
F02B 67/06 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
F16H7/12 A
F16J15/18 C
F02B67/06 A
【請求項の数】30
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-503404(P2015-503404)
(86)(22)【出願日】2013年3月22日
(65)【公表番号】特表2015-518117(P2015-518117A)
(43)【公表日】2015年6月25日
(86)【国際出願番号】US2013033395
(87)【国際公開番号】WO2013148477
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2016年3月7日
(31)【優先権主張番号】13/432,548
(32)【優先日】2012年3月28日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512309299
【氏名又は名称】デイコ アイピー ホールディングス,エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】DAYCO IP HOLDINGS,LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ドゥチル,ケビン,ジー.
(72)【発明者】
【氏名】ラナッティ,アンソニー,イー.
(72)【発明者】
【氏名】リンドストローム,ジェームス,ケビン
【審査官】
前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−57743(JP,A)
【文献】
実開平5−17252(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0015015(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/12
F02B 67/06
F16J 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部、
前記基部にピボット結合されたアームであって、係合面を有するとともに、前記基部に対してピボット回転軸を中心にしてピボット回転するアーム、
前記アームに動作結合して前記基部に対して前記アームにバイアスを作用させるバイアス作用機構、および
前記アームと前記基部との間にシール作用をもって位置するシール体からなるテンショナシステムにおいて、
前記シール体が、前記ピボット回転軸に対して同軸であり、かつ前記基部と前記アームとの間の相対的な軸方向移動および前記基部と前記アームとの間の相対的な半径方向移動に対処でき、その間両者間にシールを維持し、
前記アームが、前記基部の少なくとも一部の半径方向内側に位置する部分を有し、前記シール体が、この部分と前記基部との間に半径方向に位置することを特徴とするテンショナシステム。
【請求項2】
さらに、前記アームと前記基部との間に位置するブシュを有し、前記シール体が、外部
汚染物が前記ブシュに侵入することをブロックする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記ブシュに十分な摩耗が生じたさいに、前記基部と前記アームとの間の相対的な軸方向移動および前記基部と前記アームとの間の相対的な半径方向移動のうちの少なくとも一つが生じる請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
さらに、前記アームと前記基部との間に直接軸方向に位置するブシュを有し、前記ブシュに十分な摩耗が生じたさいに、前記基部と前記アームとの間の相対的な軸方向移動が生じ、そして前記シール体が、前記基部と前記アームとの間の前記の相対的な軸方向移動に対処でき、その間両者間にシールを維持する請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記シール体が、前記バイアス作用機構の半径方向外部に位置し、外部汚染物が前記バイアス作用機構に侵入することをブロックする請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記係合面が、前記ピボット回転軸から半径方向にオフセットした軸を中心として回転可能である請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記シール体が前記ピボット回転軸の円周方向に延在するリップシール、O−リング、X−リング、またはU−リングを有する請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記シール体が軸方向に圧縮されたシールを有し、このシールが本体を有し、かつこの本体から離間延在する偏向可能なフランジを有する請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記シールが、前記半径方向に張力状態にある請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
基部、
前記基部にピボット結合されたアームであって、係合面を有するとともに、前記基部に対してピボット回転軸を中心にしてピボット回転するアーム、
前記アームに動作結合して前記基部に対して前記アームにバイアスを作用させるバイアス作用機構、および
前記アームと前記基部との間にシール作用をもって位置するシール体からなるテンショナシステムにおいて、
前記シール体が、前記ピボット回転軸に対して同軸であり、かつ前記基部と前記アームとの間の相対的な軸方向移動および前記基部と前記アームとの間の相対的な半径方向移動に対処でき、その間両者間にシールを維持し、
前記シール体に、その半径方向のいずれかの側にクリアランスをもつシールを設けて、このシールがいずれかの半径方向に移動して前記アームと前記基部との間の前記の相対的な半径方向移動に対処できるように構成したことを特徴とするシステム。
【請求項11】
基部、
前記基部にピボット結合されたアームであって、係合面を有するとともに、前記基部に対してピボット回転軸を中心にしてピボット回転するアーム、
前記アームに動作結合して前記基部に対して前記アームにバイアスを作用させるバイアス作用機構、および
前記アームと前記基部との間にシール作用をもって位置するシール体からなるテンショナシステムにおいて、
前記シール体が、前記ピボット回転軸に対して同軸であり、かつ前記基部と前記アームとの間の相対的な軸方向移動および前記基部と前記アームとの間の相対的な半径方向移動に対処でき、その間両者間にシールを維持し、
前記アームが、前記基部の半径方向外部に位置する外側フランジを有し、前記シール体が、このフランジと前記基部との間に半径方向に位置するシールを有することを特徴とするシステム。
【請求項12】
前記アームが、前記フランジの軸方向端部に位置する全体として環状のプレートを有し、前記シール体がこのプレートに係合する請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記基部が、半径方向外側に突出する端部フランジを有し、前記シールがこの端部フランジにシール係合する請求項11に記載のシステム。
【請求項14】
前記シール体が、全体として、前記基部の軸方向中間点に位置する請求項11に記載のシステム。
【請求項15】
前記基部が軸方向に突出するストップ部を有し、前記シール体がこのストップ部にシール係合する請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
さらに、軸方向端部において前記基部に固定結合したカバー、および前記アームと前記カバーとの間にシール作用をもって位置する補完的なシール体を有する請求項1に記載のシステム。
【請求項17】
さらに、前記アームと前記カバーとの間に位置するブシュを有し、前記の補完的なシール体が、外部汚染物が前記ブシュに侵入することをブロックするように位置する請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記カバーが、バネキャップまたは偏向したアームプレートである請求項16に記載のシステム。
【請求項19】
さらに、前記アームと前記基部との間に位置するブシュを有し、前記シール体が、外部汚染物が前記ブシュの第1露出端部に侵入することをブロックするように位置し、そしてさらに外部汚染物が前記ブシュの第2の対向露出端部に侵入することをブロックするように位置する補完的なシール体を有する請求項1に記載のシステム。
【請求項20】
前記ブシュに十分な摩耗が生じたさいに、前記基部と前記アームとの間の相対的な軸方向移動が生じ、そしてこの相対的な軸方向移動によって前記シール体のうち一方のシール体が圧縮し、前記シール体のうち他方のシール体が膨張する請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
さらに、エンドレスループの形を取る動力伝達要素を有し、前記バイアス作用機構によってバイアスをかけられたさいに、前記係合面が前記動力伝達要素に係合して、力を前記動力伝達要素に加え、張力を誘導する請求項1に記載のシステム。
【請求項22】
基部、
前記基部にピボット結合され、係合面を有するアーム、
前記アームに動作結合して前記基部に対して前記アームにバイアスを作用させるバイアス作用機構、
前記アームと前記基部との間にシール作用をもって位置するシール体、および
前記アームと前記基部との間に軸方向に位置するブシュであって、前記アームと前記基部との間に直接半径方向に位置する前記ブシュからなるテンショナシステムにおいて、
前記ブシュに十分な摩耗が生じたさいに、前記基部と前記アームとの間の相対的な軸方向移動が生じ、そして前記シール体が、前記基部と前記アームとの間の前記の相対的な軸方向移動に対処でき、その間両者間にシールを維持し、
1)前記シール体が、シール本体部分と、前記シール本体部分に結合され且つ前記シール本体部分から離間延在する偏向可能なフランジとを含み、前記フランジが、軸方向に圧縮されているか、又は、2)前記シール体が、軸方向に圧縮されているO−リングを含むことを特徴とするテンショナシステム。
【請求項23】
基部、
前記基部にピボット結合され、係合面を有するアーム、
前記アームに動作結合して前記基部に対して前記アームにバイアスを作用させるバイアス作用機構、および
前記アームと前記基部との間にシール作用をもって位置するシール体を有するテンショナシステムにおいて、
前記シール体が、前記基部と前記アームとの間の相対的な軸方向移動および前記基部と前記アームとの間の相対的な半径方向移動に対処でき、その間両者間にシールを維持し、そして前記シール体が前記バイアス作用機構の半径方向外側に位置し、外部汚染物が前記バイアス作用機構に侵入することをブロックし、
1)前記シール体が、シール本体部分と、前記シール本体部分に結合され且つ前記シール本体部分から離間延在する偏向可能なフランジとを含み、前記フランジが、軸方向に圧縮されているか、又は、2)前記シール体が、軸方向に圧縮されているO−リングを含むことを特徴とするテンショナシステム。
【請求項24】
基部、
この基部にピボット結合され、この基部から半径方向にオフセットされた係合面を有するアーム、
前記基部の軸方向端部において固定結合されたカバー、
前記アームに動作結合して前記基部に対して前記アームにバイアスを作用させるバイアス作用機構、および
前記アームと前記カバーとの間にシール作用をもって位置するシール体からなり、
前記シール体が、前記アーム及び前記カバーに対して別の構成部品であることを特徴とするテンショナシステム。
【請求項25】
前記カバーが、バネキャップまたは偏向したアームプレートである請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
前記シール体が、前記アームと前記カバーとの間の相対的な軸方向移動に対処でき、その間両者間にシールを維持する請求項24に記載のシステム。
【請求項27】
さらに、前記基部を介して延在し、アンカー体に受け取られるファスナーを有し、このファスナーがヘッドを有し、そして前記シール体がこのファスナーのヘッドに隣接位置する請求項24に記載のシステム。
【請求項28】
さらに、前記アームと前記基部との間にシール作用をもって位置する補完的なシール体を有し、この補完的なシール体が、前記基部と前記アームとの間の相対的な軸方向移動および前記基部と前記アームとの間の相対的な半径方向移動に対処でき、その間両者間にシールを維持する請求項24に記載のシステム。
【請求項29】
さらに、前記アームと前記基部との間に位置するブシュを有し、前記シール体および前記補完的なシール体が、外部汚染物が前記ブシュに侵入することをブロックするように位置する請求項28に記載のシステム。
【請求項30】
前記アームが、ピボット回転軸を中心にして前記基部に対してピボット回転でき、前記係合面が、このピボット回転軸から半径方向にオフセットした軸を中心にして回転可能である請求項24に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベルトテンショナ装置に関し、より具体的には一つかそれ以上のシールを利用したベルトテンショナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルトテンショナは、自動車におけるベルトなど対応するベルトを所望の張力状態に確実に置き、かつこれを維持するために利用されている。このようなベルトテンショナの場合、環境要因や粉塵や流体などの外部汚染物に、場合にもよるが汚染される傾向がある。なお、既存の多くのベルトテンショナは、このような環境要因や外部汚染物に対する保護が十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】USP7,497,796
【特許文献2】USP7,887,445
【特許文献3】USP8,075,433
【特許文献4】USP6,575,860
【発明の概要】
【0004】
本発明の一実施態様は、環境要因や外部汚染物から保護するために一つかそれ以上のシールを利用したベルトテンショナ装置に関する。より具体的には、本発明の一実施態様は、基部、およびこの基部にピボット結合したアームを有し、このアームが係合面を有し、上記基部に対してピボット軸を中心にしてピボット回転するように構成したテンショナシステムに関する。本発明システムは、さらに、上記アームに動作結合して上記基部に対して上記アームにバイアスを作用させるバイアス作用機構、および上記アームと上記基部との間にシール作用をもって設けられるシール体を有する。このシール体は、上記ピボット軸に対して同軸であり、上記基部と上記アームとの間の相対的な軸方向動作および上記基部と上記アームとの間の相対的な半径方向動作に対処でき、この間これらの間にシールを維持するものである。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】テンショナを利用したベルトシステムを示す正面図である。
【
図2】2−2線に沿って断面化した
図1のテンショナを示す側横断面図である。
【
図4】さらに別なテンショナを示す側横断面図である。
【
図5】さらに別なテンショナを示す側横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
図1は、ベルトテンショナ12に対応して示すベルトシステム10の正面図である。このベルトシステム10は、ベルト、チェーンなどのエンドレス動力伝達要素14を有し、この要素が各種のベルト車(滑車)、ギヤ、ガイドを介して走行する。これによって、動力伝達要素14が複数の被従動付属装置を駆動するか、および/またはそれ自体が上記の部材の一つかそれ以上によって駆動される。動力伝達要素14の一つの場合は、自動車に使用するために、タイミングベルト/チェーン、駆動ベルト/チェーン、伝達ベルト/チェーンなどの形を取る。テンショナ12が動力伝達要素14に係合し、所望の力が動力伝達要素14に作用するとともに、所望の張力を誘起する。
【0007】
図1および
図2を参照して説明すると、テンショナ12は、バネケースまたは基部20に移動自在に結合されたアーム18を有する。さらに、テンショナ12はアーム18の一端に位置するベルト係合面22、およびアーム18とバネケース20との間に位置するバイアス作用機構即ちエネルギー保存装置24を有する。一つの実施態様では、ベルト係合面22は、
図2に示すように、ベアリング28を介してアーム18に回転自在に結合された、全体として円筒形のローラー26の形を取るため、ベルト14が走行してテンショナ12を通り過ぎる間、ローラー26が回転する。あるいは、ベルト係合面22は、平滑ではあるが、非回転性の高潤滑作用部材、あるいは(チェーンとともに使用する)歯付きスプロケットなどの形を取ることができる。ベルト係合面22は軸31と整合する(aligned with)か、および/または軸31を中心にして回転可能である。
【0008】
アーム18はバネケース20にピボット結合し、バネケース20はエンジン、エンジンブロック、エンジンカバー、フレームなどのアンカー体30に固定的に、そして回転できないように結合する。一つの実施態様では、テンショナ12/バネケース20はボルトなどのネジを切ったファスナー32によってアンカー体30に結合し、テンショナ12のピボット管37の中心開口34を介してアンカー体30内まで延在させる。こうすると、ボルト32が軸33になるまたは、これに整合し、軸33を中心にしてアーム18がピボット回転できる。従って、図示の実施態様では、軸33はベルト係合面22の軸31から半径方向にずれる(オフセットする)ことになる。テンショナ12も、タブ/イア(tab/ear)構成などの各種の他の構成および方法で構成および/または装着することができる。
【0009】
バイアス作用機構24は、図示のヘリカルコイルバネなどのバネの形を取ることができる。このバイアス作用機構24は、アーム18/ローラー26を所望の力の量で押圧し、ベルト14に接触させるため、アーム18が軸33を中心にしてピボット回転し(
図1に示す矢印36の方向に)、ベルト14によってアーム18/ローラー26に加わる異なる力に対処することができる。ブシュ(bushing)40がアーム18とバネケース20との間に位置し、そしてバネキャップ42即ちカバーをバネ24の軸方向一端に設け、バネ24をカバーし、保護する。
【0010】
図2の実施態様では、アーム18はローラー26を担持するベルト車部分18a、およびバネケース20に隣接配置した本体部分18bを有する。アーム18の本体部分18bは全体として平坦な中心環状部分44、半径方向外側フランジ46、および中心部分44と外側フランジ46との間に半径方向に位置する半径方向内側フランジ48を有する。また、アーム18は外側フランジ46と内側フランジ48との間に位置する接続部分50を有する。バネ24は、半径方向内側フランジ48に隣接し、かつその内部に半径方向に、そして中心部分44より上でこれに隣接する。
【0011】
バネケース20は、円筒形の内側部分52、円筒形の外側部分56、および円筒形の内側部分52と円筒形の外側部分56との間に半径方向に位置する全体として平坦な本体部分54を有する。円筒形の外側部分56は、その上端から半径方向外側に延在する端部フランジ58を有する。円筒形の外側部分56およびバネケース20の端部フランジ58は、外側フランジ46とアーム18の内側フランジ48との間に半径方向に位置する。このように構成すると、アーム18およびバネケース20の各部分が軸方向および/または半径方向(axial and/or radial directions)に位置するか、あるいは重なる。
【0012】
バネキャップ42は、テンショナ12の上部中心端部に位置する。バネキャップ42は、ピボット管37とバネ24との間に位置する内側管部分60を有するため、バネ24は、内側管部分60/バネキャップ42とアーム18の半径方向内側フランジ48の間において半径方向に位置することになる。
【0013】
バネ24の一端はアーム18に(例えばアーム18の半径方向内側フランジ48、接続部分50または中心部分44に)固定的に結合し、そしてバネ24の他端はバネキャップ42に(例えばバネキャップ42の内側管部分60に)固定的に結合する。次に、バネキャップ42はピボット管37を介してバネケース20に固定的に結合する。このように構成すると、アーム18がピボット回転すると(
図1の矢印36の方向に)、ピボット回転の方向に応じて、バネ24が巻き出し、あるいは巻き取られるため、所望のバイアス作用力をアーム18に付与することができる。
【0014】
図2の実施態様では、ブシュ40はアーム18とバネケース20との間に位置する。図示の実施態様の場合、ブシュ40は一端に円筒形部分62を有し、他端にフランジ部分64を有し、そしてフランジ部分64と円筒形部分62との間に位置する全体として円錐形の部分66を有する。円筒形部分即ちピボットブシュ62は、アーム18とバネケース20との半径方向のアラインメント(整合)を適正化するのに役立ち、バネケース20の円筒形の外側部分56とアーム18の半径方向内側フランジ48との間に位置する。ブシュのフランジ部分即ちバネブシュ64は、アーム18とバネケース20との軸方向アラインメントの適正化に役立ち(helps to provide proper axial alignment)、バネケース20の端部フランジ58とアーム18の接続部分50との間に位置する。
【0015】
最後に、ブシュの円錐形部分即ちダンパーブシュ66(damper bushing)は、テンショナ12にダンパー特性を与え、アーム18およびバネケース20を半径方向および/または軸方向に位置決めを行い、そしてバネケース20の円筒形の外側部分56とアーム18の半径方向内側フランジ48との間に位置する。ブシュ40は広い範囲の各種の材料から形成できるが、一つ例では、プラスチック材料またはポリマー材料から形成すればよい。本発明のシール体を利用するテンショナに関するさらなる詳細については、USP7,497,796、7,887,445、8,075,433および6,575,860に開示があり、いずれもここに援用するものとする。
【0016】
ある場合、環境要因および粉塵、流体などの外部汚染物がテンショナ12に侵入し、ブシュ40などの構成部材の摩耗を引き起こす傾向がある。ブシュ40やその他の構成部材が摩耗すると、テンショナ12の性能に悪影響がでる。従って、
図2の実施態様では、シールシステム70を使用して、汚染物のブシュや他の構成部材への侵入を抑制する。
【0017】
図示のシールシステム70は、V−リングシール72またはリップシール(lip seal)を有し、このシールは本体部分74および一体的な可撓性フランジ76を有する。間隙78がフランジ76と本体部分74との間に存在し、フランジ76は比較的薄いため、本体部分74に対して偏向できる。図示の実施態様では、シール72は円筒形の外側部分56の半径方向外面の上で、バネケース20の端部フランジ58より下に位置する。
【0018】
さらに、シールシステム70はアーム18の外側フランジ46に結合され、そこから半径方向内側に延在するシールプレート80を有する。シールプレート80はステーキング(staking)によって外側フランジ46/アーム18に固定できるが、溶接、接着剤、ブレージング(brazing)などの各種の手段によっても固定できる。あるいは、シールプレート80は、アーム18/外側フランジ46とともに一体部材としても形成できる。
【0019】
シールプレート80の上面82が、シール72のフランジ76にシール係合するシール対向面になる。特に、シール72およびシールプレート80については、テンショナ12の組み立て時/取り付け時にシール72/フランジ76が軸方向に圧縮されて、シール作用を適正化し、テンショナ12の摩耗に対応できるようにする。また、シール72は、シール72がテンショナ12に取り付けられていないときに取ると考えられる直径よりも大きい直径にシール72を延伸することによって半径方向に延伸し、張力をかけてもよい。シール72は広い範囲にある各種の材料、例えばゴム、合成ゴム、ブチル材料、トリアルニトリル材料から形成できる。さらに、シール72は上記のV−リング以外の各種形状、例えばO−リング、X−リング、U−リングなどの形状も取ることが可能である。シール72は比較的圧縮性であってもよいが、比較的高いトレランスおよび摩耗に対処することが可能である。特に、シール72の場合、若干の移行/移動できる程度には圧縮性はあるが、このような移行/移動に対して大きな抵抗を示さない程度には圧縮性であることが望ましい。V−リングシールの場合、移行量が比較的高く(そのため摩耗およびトレランスが可能になるが)、大きな圧縮力が必要ないため、シール接触からのダンパー作用またはダンパー作用変動を抑制できる。なお、他の形状も使用可能である。
【0020】
ブシュ40のフランジ部分64が摩耗すると、バネケース20に対するアーム18の軸方向位置がシフトする(代表的には、フランジ部分64のいずれかの側にあるアーム18およびバネケース20が相互に接近しながら軸方向に移動する)。この位置シフトによって、シールプレート80が軸方向に移動してシール72から離れる。この場合、シール72/フランジ76が軸方向に単純に膨張し、そのグランドサイズ(gland size)が大きくなり、シールプレート80に追従し、適正なシールを維持する。一方、(例えば、バネプレート20に対するアーム18の傾きの原因になるブシュ40の均等ではない摩耗によって)シールプレート80がシール72に向かって移動した場合には、シール72/フランジ76が圧縮し、そのグランドサイズが小さくなり、同様に適正なシールを維持することになる。
【0021】
即ち、シール体70は、シールプレート80とシール72との間のいずれかの軸方向における軸方向位置シフトに対処できる。このように構成すると、ブシュ40の摩耗およびアーム18とバネケース20との間における軸方向位置シフトに容易に対処可能である。
【0022】
また、このシール体70は、ブシュ40の円筒形部分62の摩耗にも対処できる。特に、このような摩耗が生じると、シール72がシールプレート80に対して半径方向内側に、あるいは外側に移動する。ところが、この場合、フランジ76/シール72はシールプレート80/対向面82を横断して半径方向内側に単純に滑るため、このような位置シフトに対処できる。また、シール体70はシールプレート80のいずれかの側においてシール72に対して半径方向クリアランスをもつため、あるいはこれを担保するため、シールを維持した状態で、シール72/フランジ76がシールプレート80を横断して半径方向に滑る。なお、シール72のこのようなシールプレート80の半径方向横断移動は、摩耗に対処するためのもので、必ずしもバネケース20に対するアーム18の中心をはずれた移動即ち偏心移動に対処するものではない。
【0023】
ブシュ40の円錐形部分66に摩耗が生じると、シール72がシールプレート80に対して軸方向および半径方向の両方向にシフトする。ところが、上述したように、シール72が圧縮性/可動性を示すため、シール体70がこのような摩耗/シフト移動に対処できる。同様に上述したように、ブシュ40またはその各部分が経時的に不均一に摩耗することがあり、これを原因としてアーム18がバネケース20に対して傾き即ち角度を形成する。シール体70が可撓性を示し、動的特性をもつため、従って、シール体70はアーム18のこのような傾きまたはずれに対処できる。
【0024】
これによって、シール体70はブシュ40の周りにシールを維持できるため、粉塵や流体などの汚染物および他の環境要因がブッシュ40に侵入することはなく、テンショナ12の適正な動作を確保するために役立ち、テンショナの寿命が延びる。また、図示のシール体70はバネ24の外側に半径方向に位置するため、バネ24を外部環境から隔離する。このように、シール体70はバネ24の保護に役立ち、その可使時間が延長し、テンショナ12の動作が適正化する。
【0025】
図示の実施態様では、シール72/シール体70は、ボルト32/軸33に対して同心円的/同軸上(concentrically/coaxially)に取り付ける。この構成は、通常の動作条件において、アーム18がバネケース20に対してピボット回転しても、シール72がシール対向面82に対して半径方向に移動することがないことを担保するのに役立つ。特に、シール対向面82に対してシール72が繰り返し半径方向に移動すると、その作用が広範囲に及ぶ可能性があり、シール体70内部に汚染物が侵入し、ブシュ40またはその他の構成部材の摩耗の原因になり、ひいてはシール72それ自体の摩耗の原因になると考えられる。
【0026】
図2は、シール72のフランジ76がシール72の底部側に位置し、シールプレート80に係合する一つの具体的な構成におけるシール72を示す図である。なお、この構成を反転すれば、シール72の本体74をシールプレート80に隣接配置でき、そしてシール72のフランジ76を上部に設け、バネケース20の端部フランジ58に係合させることができる。この反転構成においても、シール体70がアーム18とバネケース20との間に軸方向移動および半径方向移動に対してすべての方向において対処できる。さらに、シール72はその側部においていずれかの方向に向けることができるため、フランジ76がバネケース20の円筒形の外側部分56あるいはアーム18の半径方向外側フランジ46のいずれかに対向でき(faces)、その間適正なシール作用を維持できるとともに、アーム18とバネケース20との間の相対的な軸方向動作および半径方向動作に対処できる。このように、シール72は、
図2に示す位置から90°、180°または270°回転できる。
【0027】
図3は、
図2および上記と同様なシール体70´を有する別な実施態様を示す図である。
図3のテンショナ12は
図2のテンショナと若干類似しているが、バネケース20との一体部材として形成したピボット管37を利用するものであり、バネ24は、テンショナ12がその自由端部からその名称上の位置へ移動している間巻き戻るエキスパンションバネである。さらに、バネキャップ42は内側管部分60を有し、その軸方向長さは
図2の実施態様の場合よりも短い。
【0028】
図3の実施態様では、シール72は、バネケース20の端部フランジ58より(下の代わりに)上に位置し、アーム18の接続部分50の下側に係合する。このように構成すると、接続部分50の下側が、シール72が可撓性作用およびシール作用をもって係合するシール対向面82として作用し、
図2の実施態様で上述した同じ作用効果を発揮する。さらに、この実施態様におけるシール72は、
図2の実施態様に示すシール72の位置から180°回転しているため、フランジ76はシール72の上部側に位置することになる。
図3におけるシール72(だけでなく、以下に説明し、かつ
図4および
図5に示す他の実施態様におけるシール)も各種の他の構成および配向で構成でき、また各種のシールの形を取ることができる上に、
図2に関連して説明した同じ材料を利用することができる。
【0029】
図3の実施態様では、シール72が(
図2の実施態様のように)端部フランジ58の下ではなく、フランジ58の上部に位置するため、アーム18およびバネケース20が相互に近接して移動するさいには(例えば、ブシュ40のフランジ部分64が摩耗したさいには)、シール72が(膨張する代わりに)圧縮されることになる。なおこの場合、シール72/フランジ76は単純に圧縮されるだけで、所望のシールを維持する。
【0030】
図3の実施態様でも、補足的な即ち第2のシール86を利用する。この実施態様では、この第2シールはV−リングシール86であり、本体部分88、フランジ90および間隙92を有する。第2シール86は、バネキャップ42の下側にある溝94内においてバネキャップ42とアーム18との間にシール作用をもって位置する。図示の実施態様では、第2シール86はファスナー32のヘッドに隣接位置する(一つの例では、遠位端部よりもファスナー32のヘッドにより近く位置する)。
図3の第2シール86は、第1シールについて上述した4つの回転位置のいずれかに設けることも可能である。
【0031】
この第2シール86は、上述した第1シール72と同じ動的シール特性を発揮できる。例えば、バネブシュ40またはブシュ40のフランジ部分64が摩耗すると、アーム18とバネケース24の間の軸方向間隙が狭くなり、これによってアーム18が移動してバネキャップ42から離れ、第2シール86が膨張する(そのグランド面積が広くなる)。従って、理解できるように、
図3の実施態様では第1シール72および第2シール86が縦列(タンデム)動作するため、一方のシール72/86が膨張すると、他方が圧縮されることになる。なお、第1シール72も
図2に示す構成/配向を利用することができ、この場合第1シール72/第2シール86は同じように膨張/圧縮を行う。
【0032】
第2シール86は、バネキャップ42とアーム18との間の間隙を通って外部汚染物がブシュ40に侵入することをブロックする。このように第1シール72が、汚染物がブシュ40の第1(上部)露出端部に侵入することを防止し、そして第2シール86が、汚染物がブシュ40の第2(下部)露出端部に侵入することを防止する。
図3の第2シール86も
図2のテンショナに、あるいは本明細書に記載する他のテンショナ設計にも利用可能である。
【0033】
図4は、動作および原理において
図2および
図3のテンショナと若干類似しているが、低度のオフセット設計を適用した別なテンショナ12を示す図である。さらに、アーム18およびバネケース20の部分が軸方向に位置しているか、あるいは大きく重なっているのではなく、アーム18およびバネケース20がバネブシュまたはフランジブシュ64によって分離された平面の面対面接触エリア内で合体する。アーム18の内側フランジ48は、ピボット管37に隣接するバネ24内に半径方向に位置する。さらに、
図4のテンショナ12は、アーム18とピボット管37との間にピボットブシュ62を有し、かつ軸方向上面に位置するダンパーブシュ66を有する。偏向したアームプレート即ちカバー98は、ダンパーブシュ66の上部に位置し、ダンパーブシュ66を所定位置に維持する。この実施態様では、3つの個別部分を有する独立した一つのブシュ40ではなく、3つの個別のブシュ62、64、66を設け、それぞれのブシュ62、64、66が一つの個別な機能を発揮する。
【0034】
図4の実施態様は、外観および機能が、
図3に示したシールシステム70´に類似しているシールシステム70´´を使用する。特にシール72については、本体74がバネケース20の端部フランジ58に隣接して(その上に)位置し、そしてシール72のフランジ76がアーム18に係合する。なお
図4の実施態様では、シールシステム70´´は、テンショナ12のほぼ軸方向中間点に位置するとともに、バネブシュ64に隣接して位置し、バネブシュ64を流体分離するとともに、汚染物がバネブシュ64に接触することを防止する。
【0035】
図4の実施態様も
図3の第2シール86に若干類している第2シール86´を使用する。なお、
図4の第2シール86´はアーム18と偏向した(deflected)アームプレート98との間に位置する。さらに、
図4の第2シール86´は、図示のように、
図3の第2シール86の位置から180°回転している。なお、
図4の第2シール86´はいずれの方向にも設けることが可能である。第2シール86´はダンパーブシュ66を流体作用により汚染物から分離し、保護する。
【0036】
図4の実施態様では、バネブシュ64が摩耗した時には、第1シール72がさらに圧縮する(即ち、そのグランド面積が小さくなる)。ダンパーブシュ66が摩耗した時には、第2シール86´がさらに圧縮する(即ち、そのグランド面積が小さくなる)。
【0037】
図5は、中程度のオフセット設計を適用し、そして
図2〜4に示す横断面が円形のバネの代わりに薄板バネ24を利用する別なテンショナ12を示す図である。この実施態様では、ピボット管37をバネケース20との一体物(as one piece)として形成する。
図5のテンショナ12は、アーム18とピボット管37/バネケース20との間に位置する円筒形部分62と偏向したアームプレート98とアーム18との間に位置するダンパー部分66の両者を有するブシュ成分102を有する。このテンショナ12も、
図4の実施態様におけるブシュ64に若干類似した、アーム18の面対面接触(face-to-face contact)エリア18とバネケース20との間に位置するフランジ部分ブシュ64を有する。
【0038】
この実施態様では、シール70´´´はアーム18とバネケース20との間の半径方向内側位置に位置し、バネケース20と一体的なシールストップ100内に半径方向に位置する。この具体的な実施態様では、薄板バネ24は、バネケース20の外部に位置するアンカーフック(anchor hook)を有するため、バネケース20/テンショナ12のシールが難しい。従って、この場合、ブシュ62に隣接して、バネ24の半径方向内側にシール70´´´を設けるとともに、アーム18とバネケース20との間にシール作用をもって設けて、ブシュ62をシールする。
【0039】
第2シール86´は、
図4の実施態様における第2シール86´と同様に、アーム18と偏向したアームプレート98との間に位置する。なお
図5の実施態様では、第2シール86´は、全体として閉じたキャビティに位置するため、上記4つの半径方向位置のいずれかに設けることができる。このように、
図5の第1シール70´´´および第2シール86´は、円筒形部分62およびダンパーブシュ部分60をシールし、テンショナ12の適正な動作を確保する。
【0040】
以上から理解できるように、本発明の各種のシールは、ブシュまたはその部分、バネ、または他の部分を始めとするテンショナの各種内部部材に汚染物が侵入することを防止するのに役立つ。これによって汚染物の侵入を抑制すると、テンショナの寿命が長くなり、テンショナの動作が適正化し、従ってベルトシステム10の寿命が長くなり、その動作も適正化する。
【0041】
以上いくつかの実施態様に関連して本発明を詳しく説明してきたが、発明の範囲から逸脱しなくても各種の変更などが可能であることは明らかなはずである。
【符号の説明】
【0042】
10:ベルトシステム
12:ベルトテンショナ
14:エンドレス動力伝達要素
18:アーム
20:バネケースまたは基部
22:ベルト係合面
24:バイアス作用機構即ちエネルギー保存装置
26:ローラー
28:ベアリング
30:アンカー体
31:軸
32:ファスナー
33:軸
34:中心開口
37:ピボット管
40、62、64、66:ブシュ
42:バネキャップ
44:中心環状部分
46:半径方向外側フランジ
48:半径方向内側フランジ
50:接続部分
52:円筒形の内側部分
56:円筒形の外側部分
58:端部フランジ
60:内側管部分
62:円筒形部分即ちピボットブシュ
64:バネブシュ
66:円錐形部分即ちダンパーブシュ
70:シールシステム、シール体
72:V−リングシール、シール、第1シール
76:フランジ
80:シールプレート
86:第2シール