(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6185560
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】フッ素含有合成石英ガラスからなる円筒型部品を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C03B 19/14 20060101AFI20170814BHJP
C03B 8/04 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
C03B19/14 Z
C03B8/04 M
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-506207(P2015-506207)
(86)(22)【出願日】2013年4月16日
(65)【公表番号】特表2015-520098(P2015-520098A)
(43)【公表日】2015年7月16日
(86)【国際出願番号】EP2013057869
(87)【国際公開番号】WO2013156459
(87)【国際公開日】20131024
【審査請求日】2015年12月16日
(31)【優先権主張番号】102012007520.0
(32)【優先日】2012年4月17日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】599089712
【氏名又は名称】ヘレウス・クアルツグラース・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンディット・ゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Quarzglas GmbH & Co. KG
(73)【特許権者】
【識別番号】000190138
【氏名又は名称】信越石英株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】トロマー,マーチン
(72)【発明者】
【氏名】シュヴェリン,マルテ
(72)【発明者】
【氏名】ツヴァルク,シュテフェン
【審査官】
吉野 涼
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2003/0221459(US,A1)
【文献】
特表2010−519751(JP,A)
【文献】
特表2010−513179(JP,A)
【文献】
特開平08−188429(JP,A)
【文献】
特開平02−145448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 1/00−40/04
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)シリコン含有出発化合物の火炎加水分解又は酸化と、キャリア(1)上へのSiO2粒子の堆積によって、スート体(3)を生成する工程と、
(b)前記スート体(3)に脱水処理を施すことによって、水酸基を除去する工程と、
(c)フッ素含有雰囲気にて少なくとも750℃のフッ素化温度で前記スート体を処理することによって、前記スート体(3)にフッ素を付加する工程と、
(d)塩素含有雰囲気にて後塩素化温度で前記スート体を処理することによって、前記フッ素を付加したスート体(3)を後塩素化する工程と、
(e)前記スート体をガラス化温度まで加熱することによって、前記スート体(3)をガラス化して円筒型部品を得る工程と
を含むフッ素含有合成石英ガラスからなる円筒型部品を製造する方法であって、
(I)工程(b)による脱水処理において、ガラス化後に平均水酸基含有量が1重量ppm〜300重量ppmの範囲となるように、前記スート体(3)中の水酸基の濃度を調整し、
(II)工程(c)に従って前記スート体(3)にフッ素を付加する際に、ガラス化後に前記部品の合成石英ガラス中の平均フッ素含有量が少なくとも1500重量ppmとなるようにフッ素を付加し、
(III)工程(d)による後塩素化の際に、前記スート体(3)において、
・ガラス化後に前記部品の合成石英ガラス中の平均水酸基含有量が0.3重量ppm未満となるように、水酸基含有量を調整し、
・ガラス化後に前記部品の合成石英ガラス中の平均塩素含有量が少なくとも50重量ppmとなるように、但し、フッ素及び塩素の含有量の重量比が30未満となるように、塩素を付加し、
前記脱水処理が、真空下、又は無塩素雰囲気における不活性ガス下で、前記スート体(3)を加熱することを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
工程(a)に従って、前記スート体(3)を少なくとも20%でありかつ35%以下の平均密度で生成することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)に従って、前記スート体(3)を25%〜30%の範囲内の平均密度で生成することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程(c)による付加の際のフッ素含有量と、工程(d)による後塩素化の際の塩素の付加量を、前記部品の合成石英ガラス中のフッ素含有量が重量比で塩素含有量の15倍未満となるようにすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記後塩素化が、前記スート体(3)を750℃〜1200℃の範囲内の温度に加熱することを含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記後塩素化により、ガラス化後に前記部品の合成石英ガラス中の平均水酸基含有量が0.2重量ppm未満となるように、前記スート体(3)中の水酸基の濃度を調整することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(e)による前記スート体(3)のガラス化が、部分ごとに行われることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ガラス化が、前記スート体(3)を部分ごとに、前記ガラス化温度よりも低い温度に予備加熱することを含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
(a)シリコン含有出発化合物の火炎加水分解又は酸化と、キャリア上へのSiO
2粒子の堆積によって、スート体を生成する工程と、
(b)前記スート体に脱水処理を施すことによって、水酸基を除去する工程と、
(c)フッ素含有雰囲気にて少なくとも750℃のフッ素化温度で前記スート体を処理することによって、前記スート体にフッ素を付加する工程と、
(d)塩素含有雰囲気にて後塩素化温度で前記スート体を処理することによって、前記フッ素を付加したスート体を後塩素化する工程と、
(e)前記スート体をガラス化温度まで加熱することによって、前記スート体をガラス化して円筒型部品を得る工程と
を含むフッ素含有合成石英ガラスからなる円筒型部品を製造する方法に関する。
【0002】
石英ガラスへのフッ素のドープは、屈折率を低下させる。従って、フッ素ドープ石英ガラスは、光ファイバー内の光伝導性屈折構造を製造するために使用される。このような光ファイバー用の半製品として、径方向に屈折率プロファイルを有し、ファイバーに直接線引きすることができるプリフォーム、すなわち、フッ素ドープ石英ガラスから構成される少なくとも一つの層を含むロッド型又は管状の円筒が使用される。この円筒は、同軸に整列した集合体として、別の円筒型部品と共にファイバーへと引き延ばすことができる。このようなフッ素ドープ石英ガラス円筒は、レーザー及び半導体製造にも使用される。
【背景技術】
【0003】
前述の種類の方法及び石英ガラス部品は、米国特許出願公開第2003/0221459(A1)号明細書から公知である。多孔質SiO
2スートのプリフォームは、OVD(
Outside
Vapor
Deposition,外付け気相堆積)法によって製造される。このプリフォームは、中心領域にGeO
2がドープされており、この領域はドープされていない多孔質SiO
2材料からなるクラッドによって囲まれている。
【0004】
このスートプリフォームは、炉内に導入され、そこで複数の加熱処理工程を施される。これには、塩素含有雰囲気にて1000℃〜1225℃の範囲の温度で水酸基を除去するための第1の塩素化工程(全体処理時間:約90分)、SiF
4含有及びCl
2含有雰囲気にて1225℃のフッ素化温度でスートプリフォームを処理するフッ素付加工程(全体処理時間:約30分)、Cl
2含有雰囲気における1225℃の後塩素化温度での第2の塩素化工程、並びにヘリウム(He)及び一酸化炭素(CO)雰囲気にて1460℃のガラス化温度でスート体のガラス化を完了させ、合成石英ガラス体を得ることが含まれる。
【0005】
Cl
2雰囲気における第2の塩素化工程は、スート体から水酸基を更に除去するため、又は塩素を特にスート体のクラッド領域に導入するために役立つ。クラッド領域に塩素を付加することによって、この領域における粘度がGeO
2ドープされたコア領域における粘度により良く適合され、その結果、ファイバーの線引きプロセスにおいて機械的応力が低減される。
【0006】
このようにして得られたプリフォームの中心領域は、GeO
2を19重量%まで含み、その直径全体に亘ってフッ素がドープされている。フッ素濃度は0.3重量%〜0.75重量%の間で変動する。さらに、このプリフォームは塩素を含んでおり、具体的には、GeO
2ドープ領域において約0.01〜0.13重量%の、それ以外の領域において0.003重量%〜0.07重量%の範囲で含む。
【0007】
米国特許出願公開第2008/0050086(A1)号明細書には、アルカリ酸化物がドープされたSiO
2からなるコアと純粋な石英ガラスからなるクラッドとを有する特殊な光ファイバーが記載されている。このコア材料は、水酸基は少量(<0.02ppm)だが、比較的多量のフッ素(>500ppm)と塩素(>500ppm)を含む。フッ素と塩素の量は、それぞれアルカリ酸化物の量より多い。このコアは、内部コア領域と外部コア領域から構成される。フッ素含有量は、コア全体に対する平均で、5000重量ppm未満である。
【0008】
光ファイバーにおける再現可能な光伝導性を保証するためには、所定のファイバー形状と、所定の径方向及び軸方向の屈折率プロファイルの遵守が不可欠である。石英ガラスの化学組成は、石英ガラスの屈折率と粘度の両方に影響を及ぼし得、またそのためファイバーの線引きプロセスにおける形状の設定に影響を及ぼし得る。従って、所定の径方向及び軸方向の化学組成のプロファイルを保証することは、円筒型部品の品質特性である。
【0009】
気相を介して多孔質スート体にフッ素又は塩素を付加するための、又はスート体から水酸基を除去するための高温処理では、拡散プロセスが重要な役割を果たす。水酸基は、水素化合物を生成しながら、フッ素及び塩素の両方と反応し得る。これらの成分の異なる拡散速度及び反応性は、軸方向又は径方向に不均質な濃度プロファイルを生む傾向がある。しかしながら、可能な限り均一な濃度分布が望まれる。
【0010】
従って、本発明の目的は、軸方向及び径方向に特に均質な材料成分の分布を有するフッ素ドープ合成石英ガラスからなる円筒型部品の再現可能で信頼性のある製造を可能とする方法を示すことである。
【発明の概要】
【0011】
上述の様式の方法から出発して、この目的は、
(I)工程(b)による脱水処理において、ガラス化後に平均水酸基含有量が1重量ppm〜300重量ppmの範囲となるように、前記スート体中の水酸基の濃度を調整し、
(II)工程(c)に従って前記スート体にフッ素を付加する際に、ガラス化後に前記部品の合成石英ガラス中の平均フッ素含有量が少なくとも1500重量ppmとなるようにフッ素を付加し、
(III)工程(d)による後塩素化の際に、前記スート体において、
・ガラス化後に前記部品の合成石英ガラス中の平均水酸基含有量が0.3重量ppm未満となるように、水酸基含有量を調整し、
・ガラス化後に前記部品の合成石英ガラス中の平均塩素含有量が少なくとも50重量ppmとなるように、但し、フッ素及び塩素の含有量の重量比が30未満となるように、塩素を付加する、本発明により達成される。
【0012】
スート体は、既知のVAD(Vapor Axial Deposition,気相軸付け堆積)法により、又はOVD(Outside Vapor Deposition,外付け気相堆積)法により得られる多孔質SiO
2スートからなる中空円筒又は中空でない円柱である。スート体を製造するため、CVD法(化学気相堆積)では、加水分解及び/又は酸化によってシリコン含有出発物質からSiO
2粒子を生成し、これらをキャリア上に堆積させる。SiO
2粒子の堆積の際の温度は、多孔質石英ガラスからなるロッド型又は管状のスート体が得られる程度に低く保たれる。OVD法では、管状又はロッド型のキャリアの外側表面で堆積が起こる。このキャリアは、後で取り除かれるか、あるいはスート体の孔内に残る。孔内に残るキャリアは、ドープされた、又はドープされていない石英ガラスから構成され、製造される石英ガラス部品の一部を形成する。
【0013】
スート体は、多段階の後処理を施される。一般に、スート体は、その製造プロセスに起因する高い水酸基(OH基)含有量を有するため、まず脱水処理に注意を払う必要がある。初期水酸基含有量や達成すべき平均水酸基含有量とは別に、乾燥プロセスの所要時間とその効率は、スート密度に依存する。
【0014】
脱水処理の間、スート体は、真空下で(<2ミリバール)、又は無塩素不活性ガス(希ガス又は窒素)雰囲気下で加熱されることによって純粋に熱で乾燥されるか、これに代わって又はこれに加えて、塩素又はフッ素などの乾燥剤を用いて化学的に乾燥される。いずれにせよ、脱水処理は上昇させた温度で実施されるが、スート体の実質的な緻密化は望ましくない。仮に、このプロセス段階において真空下でスート体をガラス化した場合には、平均水酸基含有量が300重量ppm未満となるように、スート体中の水酸基の濃度を調整することが重要である。
【0015】
後の工程において、水酸基含有量がスート体へのフッ素の効率的な付加を促進させることが明らかとなった。これは、フッ素による水酸基の置換に起因すると考えられる。従って、高い平均水酸基含有量は、平均フッ素含有量を高く調整することを容易にし、一方で、水酸基含有量が低い場合、スート体へのフッ素の添加が低減する可能性がある。
【0016】
しかしながら、脱水処理後、水酸基の分布は、通常、軸方向及び径方向に不均質であり、フッ素の付加後に得られるフッ素分布の初期プロファイルは、その前の水酸基の分布プロファイルとおおよそ一致する。水酸基はフッ素付加の前に実質的に除去されるか(この場合、フッ素濃度は低くなるが、フッ素の分布プロファイルは実質的に平坦になる)、300重量ppmまでの比較的高い水酸基含有量を維持するように脱水処理を行うか(この場合、対応してより高いフッ素濃度が得られるが、不均質な初期分布になるという欠点がある)のいずれかである。
【0017】
これに関して、水酸基濃度が1〜300重量ppmである範囲は、高いフッ素含有量と、フッ素付加工程後の均質な初期フッ素分布との適切な妥協である。以下において、本発明の方法によると、後続の工程において、具体的には後塩素化の際に、フッ素分布プロファイルの平坦化が達成されるので、スート体の高フッ素付加のために初期の不均質なフッ素分布を許容できることをより詳細に説明する。
【0018】
フッ素処理工程において、スート体は、C
2F
6、CF
4、又はSiF
4などのフッ素含有処理ガスを用いて高温で処理される。フッ素は石英ガラスの屈折率を下げる役割を果たす。塩素は屈折率への影響が少ない。
【0019】
従って、屈折率の減少を大きくするために、できるだけ多く、具体的には、真空下でスート体をガラス化した後に、得られる部品の合成石英ガラス中の平均フッ素含有量が少なくとも1500重量ppmとなるように、スート体にフッ素を付加することが目指される。付加時の温度は、できるだけ、スート体の重大な熱緻密化(この緻密化が起こった場合、後続のプロセスが損なわれるであろう)が起こらないように低く保たれる。
【0020】
しかしながら、水酸基及びフッ素を含む拡散及び反応プロセスにより、フッ素濃度の、特に径方向における不十分に均質な分布が、フッ素ドープ後のスート体の壁内でしばしば観察される。以上で説明したように、フッ素をドープした後に得られる軸方向及び径方向の分布は、観察される水酸基濃度プロファイルに決定的に依存する。
【0021】
工程(d)による後塩素化において、スート体はCl
2などの塩素含有処理ガスによって、先行のフッ素付加とほぼ同じ高温で、又はそれより僅かに高い温度で処理される。
【0022】
後塩素化は、フッ素濃度の一定の減少をもたらすが、同時に、それまで十分に均質でなかったフッ素の分布プロファイルを著しく平坦化することができるため、この減少は許容可能であることが明らかとなった。
【0023】
従って、本発明の方法では、平坦な径方向のフッ素濃度分布の利益により、水酸基とフッ素の両方の不均質な径方向の濃度分布を伴う、スート体における高い初期平均水酸基含有量を許容することができる。
【0024】
後塩素化は、当然、スート体への塩素の付加、又はその付加物への更なる塩素の付加を伴う。フッ素及び塩素の濃度比は、この尺度がフッ素分布プロファイルの適切な平坦化に影響を与える簡単な指標であることが明らかとなった。本発明によると、この比は(重量単位で)30の値を超えず、すなわち平均フッ素濃度は平均塩素濃度の30倍以下であり、かつ、塩素の濃度は50重量ppm以上である。
【0025】
この比較的多いスート体へのハロゲンの付加により、スート体のガラス化後に0.3重量ppm未満の低水酸基含有量が得られる。
【0026】
以下で詳細に具体化されるように、後塩素化工程が、フッ素濃度の径方向の分布におけるこの重要な効果を奏することを保証するためには、前処理工程(a)〜(d)において、上記の境界条件(I)〜(III)を遵守する必要がある。
【0027】
スート体のガラス化後に製造された石英ガラスは、フッ素、塩素、及び(微量の)水酸基を含む。これらの成分の全ては、石英ガラスの粘度を下げる効果がある。赤外波長域では水酸基は吸収を示すため、石英ガラス中の水酸基はできる限り低減される。フッ素及び塩素は、光信号伝達に関連する波長範囲において透過率を大きく減じることはないが、石英ガラスの屈折率に多大な影響を与える。これは特にフッ素に関して当てはまる。従って、径方向及び軸方向における光学的特徴をできるだけ均質になるように調整するためには、成分である塩素や特にフッ素の分布をできるだけ均質にすることが重要である。
【0028】
スート体の多孔度は、処理工程(b)、(c)、及び(d)の進行や結果に影響を与える。さらに、スート密度もまた、スート体に成分を付加するための、又はスート体から成分を除去するための別の気相反応に影響を与える。
【0029】
堆積プロセスにおいて、工程(a)に従って、スート体を少なくとも20%でありかつ30%以下の平均密度で生成する場合に有利であることが明らかとなった。
【0030】
平均密度が35%より高いと、処理時間が比較的長くなり、上述の成分の径方向の濃度プロファイルにおける勾配が大きくなる可能性がある。スート体の密度がこれより低ければ、成分の導入や、径方向に均質な濃度プロファイルの調整が容易になる。スート密度が20%未満の場合、気泡を発生させずにスート体をガラス化することがますます難しくなる。密度データにおいて、ドープされていない合成石英ガラスの密度は(2.21g/cm
3)とみなされる。
【0031】
一方でフッ素及び塩素の濃度プロファイルの均質性と、他方で再現可能な気泡のないスート体のガラス化との特に適切な妥協は、堆積プロセスにおいて、工程(a)に従って、スート体を25%〜30%の範囲内の平均密度で生成する場合に達成される。
【0032】
本発明による方法の好ましい実施形態において、脱水処理は、真空下、又は無塩素雰囲気における不活性ガス下で、スート体を加熱することを含む。
【0033】
上記で引用した従来技術とは対照的に、本発明における脱水処理は、ハロゲン含有雰囲気にてスート体を加熱することによって実施されるものではなく、2ミリバール以下の圧力下の真空中で、又は、不活性ガス(実質的に希ガスと窒素を意味する)下で行われる。これによって、フッ素の付加より前にハロゲンがスート体へ導入することが防止され、一定の水酸基含有量が維持される。このため、フッ素の付加がより効率的に行われること、すなわち、所定の平均フッ素含有量がより迅速に達成されることが明らかとなった。これは、SiO
2ネットワークにおいて、フッ素原子にとって好ましい結合部位が、ハロゲンによって既に占有されていないという事実に起因し得る。
【0034】
後塩素化の際のスート体の著しい緻密化は、ガラス化された石英ガラス部品において、十分に均質でない径方向のフッ素濃度の分布をもたらし得る。これに関して、後塩素化が、スート体を750℃〜1200℃の範囲内の温度に加熱することを含む場合に有用であることが明らかになった。
【0035】
本発明によって得られる石英ガラス部品の特に低い水酸基含有量は、石英ガラスが光ファイバーのコアに近いクラッド材料として使用される場合に特に必要とされる。脱水処理後に得られる水酸基含有量は、一般に依然として多すぎる。このため、後塩素化により、ガラス化後に上記部品の合成石英ガラス中の平均水酸基含有量が0.2重量ppm未満となるように、スート体中の水酸基の濃度を調整する場合に有用であることが明らかとなった。
【0036】
できるだけ平坦なフッ素及び塩素の両方の濃度プロファイルに関して、工程(c)による付加の際のフッ素含有量と、工程(d)による後塩素化の際の塩素含有量を、フッ素含有量が重量比で塩素含有量の15倍未満となるように調整する場合に有利であることが明らかとなった。
【0037】
また、工程(e)によるスート体のガラス化が、部分ごとに行われる場合に有用であることも明らかとなった。
【0038】
フッ素及び塩素が付加された乾燥したスート体は、最終的に真空ガラス化炉内に導入され、その一端から、環状の加熱部に連続的に供給され、そこで部分ごとに加熱される。ガラス化の間、溶解前線は、スート体の内部に外側から内側へと、また同時に、一方の端からもう一方の端へと移動する。スート体の全長に亘る十分に長い加熱領域内で、スート体全体が同時にガラス化され、溶解前線が外側から内側にのみ移動する等温的なガラス化と比較して、部分ごとに行う焼結は、スート体の壁内におけるガスの拡散及び分布を促進する。これによって、成分であるフッ素及び塩素の軸方向のより均一な濃度プロファイルが達成されることが明らかとなった。
【0039】
ガラス化の前に、ガラス化温度よりも低い温度で加熱することによって、具体的には、好ましくは部分ごとに一回又は繰り返し環状の加熱部に通すことによって、スート体を再び熱で乾燥した場合も、この効果は強化される。
【0040】
本発明の方法に従って製造された石英ガラスは、光ファイバーのコアに近いクラッド領域での使用に特に適している。これに関して、石英ガラスの水酸基含有量が0.2重量ppm未満である場合に有利である。
【0041】
以下、実施形態及び図面を参照し、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】異なる円筒型石英ガラス試料の場合における径方向の屈折率プロファイルを示す図である。
【
図2】異なる石英ガラス試料の塩素及びフッ素濃度の測定点を示す散布図である。
【
図3】SiO
2スート体を製造するために適した装置を概略図で示す。
【0043】
図3に示す装置は、両側をガラス旋盤の締め付け具7で締められた縦軸2周りに回転可能なキャリアチューブ1を具備する。SiO
2スートを生成するため、石英ガラスからなる堆積用バーナー4が設けられる。これらは、方向指示矢印6によって概略が示されるように、成長するスート体3の両端の間でキャリアチューブ1に沿って可逆的に移動可能な連結スライド5に、150mm毎の距離でそれぞれ固定されており、その垂直方向に移動可能である。
【0044】
SiO
2スート体3を生成するため、堆積用バーナー4はそれぞれバーナーガスとして酸素及び水素を供給され、また、SiO
2粒子を形成するための原料としてSiCl
4を含むガス流を供給される。これらの成分は各バーナー炎中でSiO
2粒子に変えられ、これは、多孔質SiO
2スート体3を形成しながら、キャリアチューブ1上に一層ずつ堆積される。ここで、堆積用バーナー4を備えたスライド5は、成長するスート体3に沿って、その両端の間で、100mm/minの平進速度で往復移動する。
【0045】
スート体堆積プロセスは、スート体3が約350mmの直径を有し次第すぐに終了される。冷却後、スート体3の孔からキャリアが引き出される。
【0046】
スートチューブ3は、その後、高温塩素化又は純粋な熱乾燥のいずれかとして実行される脱水処理(乾燥)を施される。
【0047】
高温塩素化の場合、管状スート体3は、脱水炉内に導入され、そこで約900℃の温度で加熱され、塩素含有雰囲気にて当該温度で数時間に亘って処理される。純粋な熱乾燥の場合、スート体は、清浄化操作中、窒素下で少なくとも1050℃の温度で処理される。
【0048】
いずれにせよ、脱水処理は、スート体中の平均水酸基含有量が1〜300重量ppmの範囲内となる効果を有する。脱水処理のパラメーターと、それぞれ得られた水酸基含有量を表1に示す。この方法段階における水酸基含有量は、(以下でまた説明される)標準的な方法によって真空下でスート体をガラス化し、そのガラス化された部品について平均水酸基濃度をIR分光法により決定するようにして測定された。スート体のガラス化により、元の水酸基含有量は変化している可能性がある。従って、これらは参考値にすぎず、その予測値は、このようにして決定された他の水酸基濃度との比較から実質的に得られたものである。乾燥プロセスは拡散によって制御されるため、脱水処理後に最終的に得られる平均水酸基含有量及び水酸基の分布は、スート体の形状に依存するという点に注意しなくてはならない。
【0049】
フッ素を付加するために、乾燥されたスート体3は、その後、ドープ炉に導入され、フッ素含有物質を含む雰囲気に高温で曝される。フッ素付加のパラメーター及び結果もまた表1に示される。
【0050】
ここで、フッ素は残存する水酸基と反応し、この水酸基と完全に又は部分的に置換することができる。従って、フッ素の付加の結果は、水酸基含有量に依存し、一般に、水酸基含有量が多いほど多くなり、観察される水酸基の分布とほぼ一致する。高水酸基含有量は、しばしば、大きな軸方向及び径方向の濃度勾配を伴う。一方、低水酸基含有量は、初めから、低い軸方向及び径方向の絶対的な濃度勾配を示す。このように、フッ素濃度の軸方向/径方向の分布は、フッ素付加の間に得られる。本発明は高いフッ素濃度もまた目的としているため、十分に均質ではない初期フッ素分布プロファイルの許容を示すことができる。
【0051】
このプロセス段階における平均フッ素含有量は、スート体3の水酸基含有量の概算的な推定に関して上記で説明したように、標準的な方法によって真空下でスート体3をガラス化し、ガラス化された部品における平均水酸基濃度を湿式化学法により決定するようにして測定される。
【0052】
その後の後塩素化の際に、フッ素が付加されたスートチューブ3は、ほぼ同程度の高温で塩素含有処理ガスによって処理される。後塩素化プロセスのパラメーター及び結果も表1に示す。
【0053】
後塩素化によって、(SiF
4などの)化合物としての、又は自由フッ素分子としてのフッ素が、スート体3内でより均質に拡散され、SiO
2ネットワークと反応することが可能となる。この拡散又は分布は、塩素の存在により明らかに促進される。このようなプロセスは、予め調整された平均フッ素濃度を許容範囲外まで減少させることなく、それまで十分に均質ではなかったフッ素分布プロファイルを著しく平滑化することに寄与し得る。後塩素化は、塩素のスート体への付加、又はその付加物への塩素の更なる付加を伴う。後塩素化が予め調整されたフッ素分布プロファイルの適切な平滑化を提供するので、最小の塩素付加がなされる。所望される平均フッ素含有量が多いほど、この付加量は多くなる。
【0054】
同時に、ハロゲンであるフッ素及び塩素による集中的な処理は、低水酸基含有量を自動的にもたらす。このため、初めに含まれる水酸基は、単に、石英ガラスの高平均フッ素付加のための中間体として機能する。
【0055】
このようにして処理されたスートチューブ3は、その後、縦軸が垂直に置かれた状態で真空ガラス化炉内に導入され、その下端から開始して、上方から連続的に5mm/minの供給速度で環状の加熱部に供給され、部分ごとに加熱される。加熱部の温度は、1400℃に予め設定されている。焼結の間、溶解前線は、スート体3の内部に外側から内側へと、また同時に、上から下に移動する。ガラス化炉内の内圧は、焼結の間、連続的な排気により0.1ミリバールで保たれる。
【0056】
これによって、50mmの内径を有する石英ガラスチューブ(外径:150mm)であって、フッ素及び塩素を含み、高純度であり、特に水酸基含有量が低いことによって特徴付けられるチューブが得られる。この石英ガラスチューブは、光ファイバー用のプリフォームのコアに近い領域での使用、例えばMCVD法による内付け堆積用の基体管としての使用に適している。また、この石英ガラスチューブは、例えば、ファイバーの線引きの際のコアロッドの被覆に、プリフォームの製造に、又はレーザー及び半導体用途用の石英ガラスチューブを製造するための半製品としても適している。
【0057】
表1に記載された試料の物理的特性は、以下の方法に基づいて決定された。
【0058】
(i)OH基濃度の測定
「D.M.Dodd,D.B.Fraser,Optical determination of OH in fused silica,Journal of Applied Physics,Vol. 37(1966),3911頁」に記載の方法によって測定を行った。
【0059】
(ii)塩素濃度の測定
試験試料をHF水溶液中に溶解し、得られた溶液を、AgNO
3を添加した後に比濁分析にかけることよって測定を行った。
【0060】
(iii)フッ素濃度の測定
NaOH水溶液中に試験試料を溶解させ、イオン電極法によりF濃度を決定することによって測定を行った。
【0061】
(iv)フッ素及び塩素それぞれについての径方向の濃度プロファイルの測定、並びにその平均値の決定
肉厚80mm、長さ50mmの管状石英ガラス材料において、壁全体に亘って約1mmの距離間隔で約60箇所における各濃度をX線蛍光分析(ESMA)によって測定した。
【0062】
(v)石英ガラス中に含まれる金属不純物の測定
不純物Na、K、Mg、Ca、及びFeの濃度を原子吸光分光法によって測定し、不純物Li、Cr、Ni、Mo、及びWの濃度を誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)によって測定した。
【0063】
【表1】
【0064】
表1において、全ての濃度データは、重量比に関連する。
【0065】
Δフッ素(ppm)及びΔ塩素(ppm)は、(明らかな境界効果を無視した場合の)径方向の濃度プロファイルの最小値と最大値の差を表す。
【0066】
「n.d.」は「測定不可」を意味する。
【0067】
「乾燥方法」の行において、「塩素化」は高温塩素化を、「熱」は、(前述したように)ハロゲンが乾燥雰囲気に付加されていない窒素下における高温での熱乾燥を示す。
【0068】
試料B及びEを除き、全ての試料に後塩素化を行った。それにもかかわらずこれらの試料において測定することができる塩素含有量は、(製造プロセスに起因する)SiO
2スート体の生成のために、出発物質として塩素含有SiCl
4を使用したことによるものである。これらの測定値は、測定方法の検出限界に近い。
【0069】
表1の測定結果から分かるように、また、
図1を参照してより詳細に説明されるように、試料B及びEは、高フッ素付加が可能であるが、後塩素化処理が行われていないため、Δフッ素値が高く、好ましくない径方向のフッ素濃度分布が得られる。以下において
図2を参照して詳細に考察されるように、それぞれ155(試料B)及び240(試料E)の高い濃度比[F]/[Cl]は、不利な径方向の濃度分布の指標として見なされる。
【0070】
試料Cでは、塩素化による効率的な乾燥により、スート体において低い初期水酸基含有量が得られるが、これはフッ素化後に比較的低いフッ素含有量を示す。最大濃度差Δフッ素、及び最終産物の塩素含有量は他より低く、9.6の小さい濃度比[F]/[Cl]を示す。
【0071】
試料A及びDは、フッ素付加の強度が実質的に異なる。両試料は、それぞれ5.6(試料A)及び10.7(試料D)の小さい濃度比[F]/[Cl]で表される、高塩素含有量及び比較的平坦なフッ素濃度プロファイルを示す。
【0072】
後塩素化を除いて、試料A及びBに違いはない。これは、そこまで明確ではないが、試料D及びEの直接の比較についてもある程度は当てはまる。これらの比較は、乾燥及びフッ素化によるそれまでの条件に関わらず、後塩素化によって径方向のフッ素濃度プロファイルの著しい平坦化がもたらされることを示している。このことは、以下でより詳細に説明するように、それぞれの小さいΔフッ素値や
図2によって示される。
【0073】
全ての試料において、不純物Li、Na、K、Mg、Ca、及びFeの濃度は、5重量ppb未満である。不純物Cu、Cr、Ni、Mo、及びMnの濃度は、1重量ppb未満である。
【0074】
図1は、試料A〜Eの径方向の屈折率プロファイルを示す。塩素及び水酸基は、フッ素含有量と比べ、屈折率にあまり大きな影響を与えないため、これらのプロファイルは実質的にフッ素濃度の径方向の分布を反映している。y軸には、ドープされていない石英ガラスと対比した屈折率の差分Δnがプロットされている(以下で「屈折率ジャンプ」と呼ぶ)。ドープされていない石英ガラスの屈折率を0の値とし、そこからフッ素ドープによる屈折率の低下を得た。x軸には、(試料の半径が標準化された)径方向の位置rがプロットされている。0の値はチューブの中心軸に相当する。
【0075】
後塩素化していない試料B及びEは大きな屈折率ジャンプを示すが、これは非常に不均質な径方向のフッ素濃度分布を伴うことがこの図から理解される。フッ素付加の場合において、高い平均フッ素含有量と不均質な径方向のフッ素分布の両方は、対応するその前の水酸基の不均質な分布に起因し得る。最終産物におけるこれらの好ましくない径方向のフッ素分布から、試料B及びEは本発明に対する比較例を表す。
【0076】
試料Cの低い平均フッ素含有量は、ドープされていない石英ガラスと比較して、−8×10
−4の小さい屈折率ジャンプをもたらす。一方でこの試料は、全試験中、最も平坦な径方向のフッ素分布を示すことから、本発明の実施例としてみなされる。
【0077】
同様の平坦な径方向の屈折率プロファイルは試料Dと、それより劣るが、試料Aでのみ観察された。
【0078】
本発明の試料A、C、及びDの共通の特徴は、濃度比[F]/[Cl]が小さいことである。
図2は、2次元的な組成領域において、試料A〜Dの塩素及びフッ素の濃度を分散図で示している。塩素の各濃度は、y軸に(重量ppmで)プロットされ、関連するフッ素の濃度は、x軸に(重量ppmで)プロットされている。さらに、2つの線L1及びL2が引かれている。これらの線が急勾配であるほど、塩素に対するフッ素含有量が低い。
【0079】
L1の場合、濃度比は[F]/[Cl]=30であり、L2の線より上方では、フッ素含有量は、塩素含有量の15倍未満である。
【0080】
フッ素濃度分布の径方向プロファイルが許容可能に平坦であることによって特徴付けられる本発明による試料A、C、及びDは、全て線L1及びL2より上方の組成領域内に位置する。このことから、濃度プロファイル[F]/[Cl]が径方向のフッ素濃度分布の尺度となること、また、平坦な濃度プロファイルが30未満、好ましくは15未満の[F]/[Cl]比を前提とすることが推量される。