特許第6185710号(P6185710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6185710
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】暖房送風機及び車両
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/22 20060101AFI20170814BHJP
   H02P 25/04 20060101ALI20170814BHJP
   H05B 6/44 20060101ALI20170814BHJP
   H05B 6/06 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   B60H1/22 611Z
   H02P25/04
   H05B6/44
   H05B6/06 301
   H05B6/06 391
【請求項の数】13
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-260577(P2012-260577)
(22)【出願日】2012年11月29日
(65)【公開番号】特開2014-107995(P2014-107995A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220712
【氏名又は名称】株式会社TBK
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】黒田 清志
(72)【発明者】
【氏名】大場 光義
【審査官】 河内 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−245871(JP,A)
【文献】 特許第4727746(JP,B2)
【文献】 特開2009−225603(JP,A)
【文献】 特開2002−067670(JP,A)
【文献】 特開2001−178173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/00−3/06
H05B 6/00−6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のステータコイルを含み、交流電源に接続されて磁界を発生する磁気発生部と、
複数のループ状のコイルが一定間隔に配列されて成るコイル列部材と該コイル列部材に積層された軟磁性金属板とを有し、前記コイル列部材側の面が所定の磁気空隙を隔てて前記ステータコイルと対向するように構成され、前記磁気発生部が発生する磁界により回転すると共に加熱される回転子と、
前記軟磁性金属部材に前記コイル列部材と反対側に固定され、前記回転子と一体的に回転する複数の羽根を含む羽根車を有する送風機と、
第1の周波数成分と、該第1の周波数成分よりも周波数が高い第2の周波数成分とを重畳させた交流駆動信号を前記磁気発生部に供給し、前記磁気発生部からの磁界により前記回転子を回転駆動させると共に、前記回転子を加熱させる駆動回路とを備え、
前記駆動回路が、前記交流駆動信号における前記第1の周波数成分の振幅と前記第2の周波数成分の振幅とを変化させることで、前記回転子の回転数と加熱量とをそれぞれ制御するものであることを特徴とする暖房送風機。
【請求項2】
前記交流駆動信号が、前記第2の周波数成分の周波数に対応した周期でプラスとマイナスとが交互に切り替わると共に、プラスとマイナスのピーク位置が前記第1の周波数成分の周波数に対応した周期で正弦波状に変化するものであることを特徴とする請求項1に記載の暖房送風機。
【請求項3】
前記駆動回路が、前記ステータコイルに、プラス側の電流を供給するための第1の電流供給部とマイナス側の電流を供給するための第2の電流供給部とを含み、該第1及び第2の電流供給部が、前記第2の周波数の半周期に対応した期間ごとに、交互に前記ステータコイルに電流を供給することを特徴とする請求項2に記載の暖房送風機。
【請求項4】
前記第1及び第2の電流供給部が、前記交流駆動信号の第1の周波数成分の最小値に対応した第1のレベルと最大値に対応した第2のレベルとの間で、前記第1の周波数に対応した周期で前記ステータコイルに供給する電流の大きさを変化させるものであることを特徴とする請求項3に記載の暖房送風機。
【請求項5】
前記駆動回路が、前記第2のレベルと前記第1のレベルとの間の差を変化させることで、前記回転子の回転数を制御するものであることを特徴とする請求項4に記載の暖房送風機。
【請求項6】
前記駆動回路が、前記第1のレベルを変化させることで、前記回転子の加熱量を制御するものであることを特徴とする請求項4又は5に記載の暖房送風機。
【請求項7】
前記第1のレベルに対応したパルス時間幅と前記第2のレベルに対応したパルス時間幅との間でパルス時間幅が変化するPWM信号(Pulse Width Modulation)を生成するPWM回路を含み、前記第1及び第2の電流供給部は、前記PWM信号のパルス時間幅に応じた時間だけ前記ステータコイルに電流を供給することを特徴とする請求項4から6何れかに記載の暖房送風機。
【請求項8】
前記駆動回路が、温度センサからの温度測定値と目標温度値との差に基づいて前記第1のレベルを変化させるものであることを特徴とする請求項4から7何れかに記載の暖房送風機。
【請求項9】
前記駆動回路が、回転センサが検出した前記回転子の回転数と目標回転数との差に基づいて前記第1のレベルと前記第2のレベルとの差を変化させるものであることを特徴とする請求項4から8何れかに記載の暖房送風機。
【請求項10】
前記複数のステータコイルが、第1群のステータコイルと第2群のステータコイルとを含み、ディスク上の固定子の円周方向に沿って、前記第1群のステータコイルと第2群のステータコイルとが交互に配置されており、
前記駆動回路が、前記第1群のステータコイルと前記第2群のステータコイルとに、位相が90°異なる交流駆動信号を供給するものであることを特徴とする請求項1から9何れかに記載の暖房送風機。
【請求項11】
請求項1から10何れかに記載の暖房送風機を備えたことを特徴とする車両。
【請求項12】
前記暖房送風機が、車両内の複数の空気流吹出し口ごとに設置されていることを特徴とする請求項11に記載の車両。
【請求項13】
前記暖房送風機における送風量及び暖房能力が空気流吹出し口ごとに調整可能であることを特徴とする請求項12に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、暖房送風機に関し、更に詳しくは、誘導加熱で発生した熱を送風する暖房送風機に関する。
【0002】
また、本発明は、上記暖房送風機を搭載した車両に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、通常のエンジンを搭載した車両用の暖房装置の熱源には、エンジンからの排熱が一般的に利用されてきた。これに対し、エンジンを持たない電気自動車(EV)では、エンジン排熱が利用できないため、バッテリ電源をエネルギー源とした熱源が用いられることが多い。電気自動車で利用されている電気式暖房装置には、大きく分けて、ヒートポンプ方式の暖房装置と、セラミックヒータの暖房装置とがある。セラミックヒータには、空気加熱方式を用いるセラミックヒータと、水加熱方式を用いるセラミックヒータとが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−118126号公報
【特許文献2】特開平11-105537号公報
【特許文献3】特開2000-033916号公報
【特許文献3】特許第4727746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のヒートポンプ方式やセラミックヒータなどの電気式暖房装置では、以下に述べるような克服すべき欠点がある。第1は、発熱体(熱源)と送風機とが別体であるため、装置構成が複雑なことである。第2は、例えばヒートポンプ方式では熱源の温度上限が比較的低く、その場合、高い暖房能力を実現するには熱源を大型化する必要があることである。第3は、熱源には一般に配線及び配管の双方が付属するため、車両に対する熱源の脱着が容易ではなく、装置のメンテナンスが困難なことである。
【0006】
上記の問題点に対し、特願2011−118904において、固定子側から発生した回転磁界により回転子を回転させると共に、回転子を誘導加熱する電気式暖房装置(暖房送風機)が提案されている。回転子には送風用のファンが取り付けられており、誘導加熱された回転子からの熱は送風用のファンにより送風される。この暖房送風機では、発熱体である回転子と送風機とを一体化でき、装置構成が簡易であると共に、小型化も容易である。また、熱源に対する配管などは必要なく、車両に対する脱着も容易である。
【0007】
しかしながら、通常、誘導電動機は、単一の周波数成分の駆動電源で駆動される。上記した、回転と加熱とを同時に得るタイプの電気式暖房装置を単一周波数の電源で駆動すると、投入エネルギー(電力)のうち回転に変換されるエネルギーと熱に変換されるエネルギーとを、独立に制御することができない。暖房送風機を車両に搭載することを考えると、風量と熱量とは、それぞれ任意に制御可能であることが好ましい。
【0008】
本発明は、上記に鑑み、風量と熱量とを任意に制御可能な暖房送風機を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、上記暖房送風機を搭載した車両を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、複数のステータコイルを含み、交流電源に接続されて磁界を発生する磁気発生部と、複数のループ状のコイルが一定間隔に配列されて成るコイル列部材と該コイル列部材に積層された軟磁性金属板とを有し、前記コイル列部材側の面が所定の磁気空隙を隔てて前記ステータコイルと対向するように構成され、前記磁気発生部が発生する磁界により回転すると共に加熱される回転子と、前記軟磁性金属部材に前記コイル列部材と反対側に固定され、前記回転子と一体的に回転する複数の羽根を含む羽根車を有する送風機と、第1の周波数成分と、該第1の周波数成分よりも周波数が高い第2の周波数成分とを重畳させた交流駆動信号を前記磁気発生部に供給し、前記磁気発生部からの磁界により前記回転子を回転駆動させると共に、前記回転子を加熱させる駆動回路とを備え、前記駆動回路が、前記交流駆動信号における前記第1の周波数成分の振幅と前記第2の周波数成分の振幅とを変化させることで、前記回転子の回転数と加熱量とをそれぞれ制御するものであることを特徴とする暖房送風機を提供する。
【0011】
本発明では、前記交流駆動信号は、前記第2の周波数成分の周波数に対応した周期でプラスとマイナスとが交互に切り替わると共に、プラスとマイナスのピーク位置が前記第1の周波数成分の周波数に対応した周期で正弦波状に変化するものとすることができる。
【0012】
前記駆動回路は、前記ステータコイルに、プラス側の電流を供給するための第1の電流供給部とマイナス側の電流を供給するための第2の電流供給部とを含んでいてもよく、それら第1及び第2の電流供給部が、前記第2の周波数の半周期に対応した期間ごとに、交互に前記ステータコイルに電流を供給することとしてもよい。
【0013】
前記第1及び第2の電流供給部は、前記交流駆動信号の第1の周波数成分の最小値に対応した第1のレベルと最大値に対応した第2のレベルとの間で、前記第1の周波数に対応した周期で前記ステータコイルに供給する電流の大きさを変化させてもよい。
【0014】
上記の場合、前記駆動回路は、前記第2のレベルと前記第1のレベルとの間の差を変化させることで、前記回転子の回転数を制御することとしてもよい。また、前記第1のレベルを変化させることで、前記回転子の加熱量を制御してもよい。
【0015】
前記第1のレベルに対応したパルス時間幅と前記第2のレベルに対応したパルス時間幅との間でパルス時間幅が変化するPWM信号(Pulse Width Modulation)を生成するPWM回路を含む構成を採用してもよく、その場合、前記第1及び第2の電流供給部は、前記PWM信号のパルス時間幅に応じた時間だけ前記ステータコイルに電流を供給するようにしてもよい。
【0016】
前記駆動回路は、温度センサからの温度測定値と目標温度値との差に基づいて前記第1のレベルを変化させてもよい。また、回転センサが検出した前記回転子の回転数と目標回転数との差に基づいて前記第1のレベルと前記第2のレベルとの差を変化させてもよい。
【0017】
前記複数のステータコイルが、第1群のステータコイルと第2群のステータコイルとを含み、ディスク上の固定子の円周方向に沿って、前記第1群のステータコイルと第2群のステータコイルとが交互に配置されており、前記駆動回路が、前記第1群のステータコイルと前記第2群のステータコイルとに、位相が90°異なる交流駆動信号を供給することとしてもよい。
【0018】
本発明は、また、上記何れかに記載の暖房送風機を備えたことを特徴とする車両を提供する。
【0019】
本発明の車両において、暖房送風機の本体が、車両内の複数の空気流吹出し口ごとに設置されることとしてもよい。その場合、暖房送風機における送風量及び暖房能力が空気流吹出し口ごと調整可能であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の暖房送風機は、交流電源に接続されて磁気発生部、複数のループコイルが形成されたコイル列部材とそれに積層される軟磁性金属板とを含む回転子、及び回転子と一体に回転する羽根車を有し、磁気発生部に対して交流駆動信号を供給することにより、回転子が回転させられると共に回転子が誘導加熱される。本発明の暖房送風機では、駆動回路は、第1の周波数成分と、それよりも高い第2の周波数成分とを重畳させた交流駆動信号を、磁気発生部に供給する。交流駆動信号における第1の周波数成分は主に回転子の回転に対応しており、第2の周波数成分は主に回転子の誘導加熱に対応している。交流駆動信号における第1の周波数成分の振幅と第2の周波数成分の振幅とを変化させることで、回転子の回転数と加熱量とをそれぞれ制御することができ、暖房送風機の送風量と送風温度とを任意に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態の暖房送風機の回路接続を示すブロック図。
図2】暖房送風機本体の側面方向の一部断面図。
図3】磁気発生部の構成を示す正面図。
図4】回転子の背面図。
図5】暖房送風機本体全体の断面図。
図6】送風機の正面図。
図7】磁気発生部の駆動信号波形を示す波形図。
図8】交流電源の電圧(V)と誘導電動機の回転数(N)との関係を示すグラフ。
図9】駆動回路の構成を示すブロック図。
図10】ドライバの回路構成を示す回路図。
図11】PWM信号を示す波形図。
図12】送風能力と送風温度との関係を示すグラフ。
図13】暖房送風機を搭載した車両を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態の暖房送風機の回路接続を示す。暖房送風機100は、暖房送風機本体101と、駆動回路102とを含む。暖房送風機本体101は、誘導電動機と、誘導電動機により回転させられる送風機とを含む。駆動回路102は、例えば直流の電源103に接続されており、直流電源を交流電源に変換して暖房送風機本体101を駆動する。
【0023】
図2は、暖房送風機本体101の側面方向の一部断面図である。暖房送風機本体101は、ステータである磁気発生部10、ロータ(回転子)20、及び回転子20と共に回転する羽根車を含む送風機40を有する。磁気発生部10は、複数のステータコイルを含み、交流電源に接続されて磁界を発生する。駆動回路102は、複数の相の交流電源(交流駆動信号)、例えば2相交流を磁気発生部10に供給し、磁気発生部10は回転磁界を発生する。
【0024】
回転子20は、所定の磁気空隙を隔てて、例えば2〜10mm程度の空隙を隔てて磁気発生部10と対向し、磁気発生部10からの磁界により回転すると共に加熱される。回転子20は、複数のループ状のコイル(ループコイル)が一定間隔で配列されて成るコイル列部材22と、それに積層された軟磁性金属板21とで構成される。回転子20は、コイル列部材22側の面が磁気発生部10のステータコイルと対向するように配置される。磁気発生部10と回転子20とにより、誘導電動機が構成される。
【0025】
磁気発生部10が回転磁界を発生すると、磁束の変化に従ってコイル列部材22のループコイル及び軟磁性金属板21に渦電流が流れ、その渦電流により回転子20が回転駆動される。また、主に軟磁性金属板21に流れる渦電流により、回転子20が加熱される。送風機40は、回転子20と共に回転する例えばシロッコファン30などの羽根車を含み、加熱された回転子20からの熱を送風する。
【0026】
図3は、磁気発生部10の構成を示す正面図である。磁気発生部10は、円周方向(回転子の回転軸を中心とする円の円周方向)に等間隔に並んで配置される例えば8個のステータコイル11を含むステータコイル列を含む。各ステータコイル11は、磁心12を覆うボビン上に巻回されており、各磁心12は、磁気回路を構成する支持板13上に支持される。ステータコイル11は例えば銅線で形成され、磁心12は例えば外径が15mmφのフェライトで形成される。支持板13は例えばパーマロイで形成される。
【0027】
ステータコイル列は、各群が直列に接続された4つのステータコイル11から成る2つのコイル群から構成される。一方のステータコイル群に属するステータコイル11と、他方のステータコイル群に属するステータコイル11とが交互に並んで配置される。一方のステータコイル群(第1群)には、第1の交流駆動信号が供給され、他方のステータコイル群(第2群)には、位相が第1の交流駆動信号から例えば90°進んだ第2の交流駆動信号が供給される。
【0028】
図4は、回転子20の背面図である。回転子20は、積層された軟磁性金属板21とコイル列部材22とを含む。軟磁性金属板21は、例えば鉄や鉄とアルミニウムの合金などの金属板で形成される。軟磁性金属板21は、ディスク状に形成されている。その外径は例えば150mmで、厚みは約3〜5mmである。
【0029】
コイル列部材22は、円周方向に等間隔に配列された複数のループコイル(ワンターンコイル)を有する。各ループコイルは、磁気発生部10におけるステータコイル11(図3)に対応して配列されている。例えば図4では、8つのステータコイル11に対応して8つのループコイルが配列されている。コイル列部材22は、例えばアルミニウムなどの導電性を有する金属の板で形成される。金属板には複数の開口が形成されており、その金属板の開口に沿った周縁部が、ループコイルを構成する。金属板の外径は例えば150mmであ、厚みは2mmである。軟磁性金属板21及びコイル列部材22には、回転子20にシロッコファン30(図2)を固定するためのボルト孔23が形成されている。
【0030】
コイル列部材22のループコイルには、磁気発生部10が発生する回転磁界を受けて渦電流(循環電流)が発生する。その循環電流によりジュール熱が発生すると共に、循環電流を介して回転子20が回転磁界により回転駆動される。また、軟磁性金属板21には、ステータコイル11の回転磁界を受けて内部に渦電流が発生し、その渦電流によって回転子20の回転力の一部が補助される共に、軟磁性金属板21が誘導加熱される。この軟磁性金属板21に発生する熱は、暖房送風機本体101の主な熱源となる。
【0031】
図5は、暖房送風機本体101全体の断面図である。シロッコファン30は、台座31と、台座31に支持されるフレーム32と、複数の羽根33が円周方向に配列された羽根車とを含む。シロッコファン30の台座31は、ベアリング50及びベアリング支持柱51を介して、送風機40のケーシング本体部分41に回転可能に支持されている。回転子20と、シロッコファン30のフレーム32とは、ボルト34によって固定されており、回転子20とシロッコファン30とは一体的に回転する。シロッコファン30の羽根車は例えば外径が120mmであり、軸方向長さは53mmである。羽根33及びフレーム32は、例えば厚みが1mmのアルミニウムで形成される、
【0032】
図6は、送風機40の正面図である。送風機40は、吸気孔43から空気流52(図5)を吸い込むケーシング本体部分41と、そのケーシング本体部分41から延びて空気流53を吐出する空気流吐出部42とを有する。吸気孔43には多数の羽板44からなるルーバが形成されている。送風機40のケーシングには、暖房装置全体の熱効率を高めるために、断熱性が高い樹脂が用いられている。ケーシングは、シロッコファン30を全体として囲んでこれを保護する保護機能と、空気流を整流する整流機能とを有する。なお、ケーシングは、整流機能を有すれば足り、シロッコファン全体を囲むことや、これを保護する保護機能までは必ずしも必要としない。
【0033】
ここで、磁気発生部10と回転子20とから成る上記誘導電動機では、磁気発生部10と回転子20との間に電気接続配線や機械的な接続が必要なく、磁気発生部10と回転子20とを分離独立した別の器具として組み付けることが可能であり、回転子側を磁気発生部から分離して単独で取扱うことが可能である。しかしながら、その場合、磁気発生部10と回転子20との間の磁気空隙長が必然的に長くなるため、回転子20におけるエネルギーの出力が低下してしまうという問題がある。これは、磁気発生部10の上に回転子20を乗せる構造からくる制限で、回転子20が磁気発生部10から離れるに従って回転子20に発生する二次側誘導電流が減少するためである。
【0034】
上記問題点に対し、磁気発生部を駆動する交流電源の駆動信号周期を、軟磁性金属板21の内部に生成される渦電流を最大とするものとすることで、磁気発生部10から回転子20への有効エネルギー伝送性能を向上させることが、特許文献4に記載されている。具体的には、交流電源の駆動信号周期Tgを、tdを電源による所定のステップ状電圧印加に対する、軟磁性金属板への磁束浸透拡散波による渦電流が最大となるまでの応答時間として、下記式、
Tg=4td
を満たすようにする。このような関係を満たすことで、軟磁性金属板21に生成された渦電流を持続的で大きな値で保ち続けることができ、磁気発生部10から回転子20への有効エネルギー伝送性能を向上させることができる。
【0035】
特許文献4には、二次誘導電流の増大を図るために、交流電源の周波数を100Hz〜1000Hzの範囲に設定することが記載されている。誘導電動機(モータ)を効率的に回転させることを考えた場合、交流電源の周波数は上記範囲に設定することが好ましい。一方で、回転子20を誘導加熱することを考えた場合、誘導加熱には通常20kHz〜40kHzの高周波が用いられることが多い。1000Hz以下の周波数を用いた場合、熱に変換されるエネルギーの量は相対的に大きくないと考えられる。
【0036】
暖房送風機において、モータ(送風機)としての性能を重視するのであれば交流電源の周波数は低い方が好ましく、熱源としての性能を重視するのであれば交流電源の周波数は高い方が好ましい。そこで、本実施形態では、駆動回路102(図1)は、第1の周波数成分と、それよりも高い第2の周波数成分とを重畳させた交流駆動信号を磁気発生部10のステータコイル11(図3)に供給する。第1の周波数は、回転子20の回転に対応した周波数であり、100Hz〜1000Hzの範囲の周波数である。第2の周波数は、回転子20の誘導加熱に対応した周波数であり、20kHz〜40kHzの範囲の周波数である。誘導電動機をこのような交流電源で駆動することにより、モータとしての機能と、熱源としての機能とを両立できる。
【0037】
図7に、磁気発生部10の駆動信号波形を示す。交流駆動信号は、第2の周波数fに対応した周期でプラスとマイナスとが交互に切り替わると共に、プラスとマイナスのピーク位置が第1の周波数fに対応した周期で正弦波状に変化するものである。第1の周波数fの信号の振幅(片振幅)はBであり、第2の周波数fの信号の振幅(片振幅)は最大でA+B、最小でAである。第2の周波数fの信号の各ピーク位置が第1の周波数fに合わせて変化するように、第2の周波数fの信号の振幅をAからA+Bまで連続的に変化させることで、第2の周波数成分に、第1の周波数成分の信号を乗せた交流駆動信号が得られる。この交流駆動信号の波形は、第2の周波数fの信号を、第1の周波数fの信号で振幅変調したものと似ている。
【0038】
図8に、交流電源の電圧(V)と誘導電動機の回転数(N)との関係を示す。交流電源の電圧(V)は、図7の駆動信号波形における片振幅Bに対応する。通常の誘導電動機では、その回転数は電源の周波数に依存し、図8にグラフBで示すように、電圧の変化に対して回転数は大きく変化しない。これに対し、本実施形態で用いる誘導電動機は通常の誘導電動機よりもすべりsが大きく、グラフAで示すように、印加電圧の大小に依存して回転数Nが大きく変化する。
【0039】
一方、誘導電動機における回転子の誘導加熱は、第2の周波数fの信号の振幅に依存する。従って、駆動回路102が、交流電源における第1の周波数成分の振幅と第2の周波数成分の振幅とを変化させることで、回転子20の回転数と加熱量とをそれぞれ制御することができる。
【0040】
図9は、駆動回路102の構成を示す。駆動回路102は、コントローラ201、PWM(Pulse Width Modulation)回路202、204、及びドライバ203、205を有する。駆動回路102は、位相が互いに90°ずれた交流駆動信号(2相交流)をステータコイルの第1群及び第2群に供給する。PWM回路202及びドライバ203は一方の層(A相)の交流駆動信号を生成するための回路であり、PWM回路204及びドライバ205は他方の相(B相)の交流駆動信号を生成するための回路である。
【0041】
コントローラ201は、PWM回路202、204に対して、パルス時間幅の指示値を出力する。PWM回路202、204は、それぞれ指示されたパルス時間幅のPWM信号を生成し、ドライバ203、205へ供給する。PWM回路202、204は、交流のプラス側とマイナス側とに対応した2つのPWM信号をそれぞれ出力する。ドライバ203、205は、それぞれ入力したPWM信号のハルス時間幅に応じて、各群のステータコイル11に対して駆動電流を供給する。PWM信号のパルス時間幅は、ステータコイル11の駆動電流の大きさに対応する。
【0042】
ドライバ203、205は、それぞれステータコイル11にプラス側の電流を供給するための第1の電流供給部と、マイナス側の電流を供給するための第2の電流供給部とを有する。第1及び第2の電流供給部は、第2の周波数の半周期に対応した期間ごとに、交互にステータコイル11に電流を供給する。第1及び第2の電流供給部は、交流駆動信号の第1の周波数成分の最小値に対応した第1のレベル(図7における振幅A)と最大値に対応した第2のレベル(振幅A+B)との間で、第1の周波数に対応した周期でステータコイル11に供給する電流の大きさを変化させる。PWM回路202、204は、それぞれPWM信号におけるパルス時間幅を、第1のレベルに対応したパルス時間幅と第2のレベルに対応したパルス時間幅との間で変化させる。
【0043】
図10は、ドライバ203の回路構成を示す。ドライバ203は、トランジスタTR1〜4と、逆流防止用のダイオードD1〜D4とを有する。なお、ドライバ205も同様な回路構成を有する。トランジスタTR1及びTR4は第1の電流供給部に相当する。トランジスタTR2及びTR3は第2の電流供給部に相当する。
【0044】
ドライバ203の入力端子PWM1、PWM2には、交流駆動信号のプラス側に対応したPWM信号1と、マイナス側に対応したPWM信号2とが入力される。マイナス側に対応したPWM信号2は、プラス側に対応したPWM信号1に対して位相が180°遅れている。トランジスタTR1及びTR4は、PWM信号1に応答してオンし、トランジスタTR2及びTR3は、PWM信号2に応答してオンする。出力端子a及びbには、ステータコイル11が接続される。
【0045】
PWM信号1がHレベルを取るとき、トランジスタTR1及びTR4がオンする。このときPWM信号2はLレベルを取り、トランジスタTR2及びTR3はオフしたままである。トランジスタTR1及びTR4がオンすることで、電源VDCと出力端子aとが接続されると共に、出力端子bとグランドとが接続される。この場合、ステータコイル11には、出力端子a側から出力端子b側に電流が流れる。電流が流れる期間(電流の大きさ)は、PWM信号1のパルス時間幅に応じて決まる。つまり、第1の電流供給部に相当するトランジスタTR1及びTR4は、PWM信号1のパルス時間幅に応じた時間だけステータコイル11にプラス側の電流を供給する。
【0046】
PWM信号2がHレベルを取るとき、トランジスタTR2及びTR3がオンする。このときPWM信号1はLレベルを取り、トランジスタTR1及びTR4はオフしたままである。トランジスタTR2及びTR3がオンすることで、電源VDCと出力端子bとが接続されると共に、出力端子aとグランドとが接続される。この場合、ステータコイル11には、出力端子b側から出力端子a側に電流が流れる。電流が流れる期間(電流の大きさ)は、PWM信号2のパルス時間幅に応じて決まる。つまり、第1の電流供給部に相当するトランジスタTR2及びTR3は、PWM信号2のパルス時間幅に応じた時間だけステータコイル11にマイナス側の電流を供給する。
【0047】
図11は、PWM信号を示す。同図には、第1の周波数fの半周期分のPWM信号を示している。ここでは、第1の周波数f=400Hz、第2の周波数f=20kHzとする。また、第2の周波数f(20kHz)の1周期(50μs)の半分(25μs)を1デューティー期間と定義する。パルス時間幅Wは、1デューティー期間に対する比率で表現する。パルス時間幅Wは交流駆動信号の第1のレベル(図7における振幅A)に対応しており、パルス時間幅Wは交流駆動信号の第2のレベル(振幅A+B)に対応している。2相交流のA相及びB相のそれぞれに対して、PWM信号1及び2を生成する。PWM信号2は、PWM信号1に対して位相が180°ずれている。B相におけるPWM信号1及び2は、A相におけるPWM信号1及び2に対してそれぞれ位相が90°遅れている。
【0048】
PWM信号は、第1の周波数f(400Hz)の半周期(1.25ms)の時間をかけて、パルス時間幅Wからパルス時間幅Wまで変化する。パルス時間幅Wは例えばデューティー比70%(1デューティー期間の70%)であり、パルス時間幅Wは例えばデューティー比90%である。この場合、k番目(k=0、1、2、・・・)のパルスのデューティー比は、W=80+10sin(−90°+kα)[%]で表わすことができる。ここで、α=180°/nであり、n=2f/fである。交流駆動信号の振幅Aに対応したデューティー比をDU[%]、振幅A+Bに対応したデューティー比をDUA+B[%]と定義すれば、パルス時間幅はW={(DU+DUA+B)/2}+{(DUA+B−DU)/2}sin(−90°+kα)[%]と一般化することができる。
【0049】
駆動回路102は、交流駆動信号における第2のレベルと第1のレベルとの間の差を変化させることで、回転子20の回転数を制御する。また、駆動回路102は、第1のレベルを変化させることで、回転子20の加熱量を制御する。例えば回転子20の回転数を一定に保ったままで回転子20の加熱量を増減させたいときは、パルス時間幅WとWの差を一定に保ったままで、パルス時間幅を全体的に増減させればよい。具体的には、パルス時間幅Wをデューティー比60%とし、パルス時間幅Wをデューティー比80%として、パルス時間幅をデューティー比60%から80%の範囲で変化させるようにすることで、回転数(送風能力)はほぼ一定のまま加熱量(送風温度)を低下させることができる。
【0050】
上記とは逆に、回転子20の加熱量を一定に保ったままで回転子20の回転数を増減させたいときは、パルス時間幅Wを一定に保ったままで、パルス時間幅Wを増減させればよい。具体的には、パルス時間幅Wをディーティー比70%に固定して、パルス時間幅Wを85%に変更し、パルス時間幅をデューティー比70%から85%の範囲で変化させることで、加熱量(送風温度)はほぼ一定のまま回転数(送風能力)を減少させることができる。
【0051】
ここで、回転子20の回転数に関連する、交流駆動信号における振幅B(図7)の大きさには上限を設けておくとよい。例えば、パルス時間幅Wとパルス時間幅Wとの差が、デューティー比20%を上限とするように設定しておく。この場合、回転子20の回転数は、ディーティー比0%からディーティー比20%に対応した駆動交流信号の振幅の範囲で制御可能である。
【0052】
図12は、送風能力と送風温度との関係を示すグラフである。本発明者らは、暖房送風機を試作し、第1の周波数成分と第2の周波数成分とを重畳させた交流駆動信号の第1の周波数成分及び第2の周波数成分の振幅をそれぞれ変化させることで、送風能力と送風温度とがどのように変化するかを実験した。実験に用いた暖房送風機におけるステータコイル11(図3)の磁極対は4(ステータコイル総数は8個)で、ステータコイル11とコイル列部材22との磁気空隙は10mmとした。第1の周波数は400Hzとし、第2の周波数は20kHzとした。
【0053】
図12において、グラフaは、回転子の誘導加熱の消費電力が0.5kWとなるように交流駆動信号の第2の周波数成分を調整し、回転子の回転成分の消費電力が0Wから60Wの範囲となるように交流駆動信号の第1の周波数成分を調整したときの回転子20の回転数と送風機の出口付近での送風温度との関係を示したものである。同様に、グラフb、c、d、eは、それぞれ誘導加熱の消費電力が1kW、1.5kW、2kW、2.5kWとなるように交流駆動信号の第2の周波数成分を調整し、回転成分の消費電力が0Wから60Wの範囲となるように交流駆動信号の第1の周波数成分を調整したときの回転子20の回転数と送風温度との関係を示したものである。回転成分の消費電力及び誘導加熱の消費電力の大きさは、交流駆動信号における第1の周波数成分及び第2の周波数成分の振幅を変えることで変化させることができる。
【0054】
また、図12において、グラフfは、回転子の回転成分の消費電力が0Wとなるように交流駆動信号の第1の周波数成分を調整し、回転子の回転成分の消費電力が0.5kWから2.5kWの範囲となるように交流駆動信号の第2の周波数成分を調整したときの回転子20の回転数と送風温度との関係を示したものである。同様に、グラフg、h、iは、それぞれ回転成分の消費電力が15W、30W、60Wとなるように交流駆動信号の第1の周波数成分を調整し、誘導加熱の消費電力が0.5kWから2.5kWの範囲となるように交流駆動信号の第2の周波数成分を調整したときの回転子20の回転数と送風温度との関係を示したものである。
【0055】
図12を参照すると、交流駆動信号における第1の周波数成分の振幅と第2の周波数成分の振幅とを制御することで、所望の回転数(送風量)と送風温度とを得ることができることがわかる。例えば、回転成分の消費電力が15Wで誘導加熱の消費電力が1.0kWで運転を行っているときに、交流駆動信号における第1の周波数成分の振幅を保ったまま第2の周波数成分の振幅を増加させることで、相風量と送風温度との組み合わせを、図12におけるグラフbとグラフgの交点から、グラフcとグラフgの交点に変化させることができる。このように、2つの周波数成分が重畳された交流駆動信号における双方の周波数成分の振幅を制御することで、入力エネルギーのうちで、回転に変換されるエネルギーの比率と熱に変換されるエネルギーの比率とを変化させることが可能であることが確かめられた。
【0056】
交流駆動信号における第1及び第2の周波数成分の振幅は、フィードバック制御により自動的に調整されてもよい。例えば、暖房送風機本体101の送風出口(図6の空気吐出部42)付近に温度センサを設け、その温度センサの測定結果と温度指令値(目標温度)との偏差を求め、PID(Proportional, Integral, Differential)制御により、主に交流駆動信号における第2の周波数成分の振幅(図7の振幅Aに対応)を増減する。このような制御を行うことにより、送風温度を一定に保つことが可能になる。また、暖房送風機本体101に回転子20又はシロッコファン30の回転数を計測するための回転センサを設け、回転センサが検出した回転数と回転数の指令値(目標回転数)との偏差を求め、PID制御により、主に交流駆動信号における第1の周波数成分の振幅(図7の振幅Bに対応)を増減する。このような制御を行うことにより、暖房送風機の送風量を一定に保つことが可能になる。温度センサと回転センサとを同時に用いることで、送風温度と送風量とを一定に保つことが可能である。
【0057】
本実施形態では、暖房送風機本体101は、磁気発生部10、コイル列部材22とそれに積層された軟磁性金属板21とを有する回転子20、及び回転子20と一体的に回転する羽根車を有する送風機40とを備えている。駆動回路102は、第1の周波数成分と、それよりも高い第2の周波数成分とを重畳させた交流駆動信号を磁気発生部10に供給し、磁気発生部10からの磁界により回転子20を回転駆動させると共に、回転子20を誘導加熱させる。駆動回路102が、交流駆動信号における第1の周波数成分の振幅を変化させることで、回転子20の回転数を変化させることができ、暖房送風機の送風量を変化させることができる。また、第2の周波数成分の振幅を変化させることで、回転子20の発熱量を変化させることができ、暖房送風機の送風量を変化させることができる。
【0058】
ここで、従来は、単一周波数の交流駆動信号で暖房送風機本体101を駆動していた。単一周波数の交流駆動信号を用いる場合は、入力エネルギーのうちで回転に変換されるエネルギーと熱に変換されるエネルギーの割合はほぼ一定であり、回転数及び発熱量の強弱を一体的に調整することしかできなかった。例えば送風量を増加させるために交流駆動信号の電圧を増加させると、それに伴って回転子の発熱量も増加するため、送風温度を上げずに送風量だけを上げることはできなかった。これに対して、回転成分に対応した第1の周波数成分と、誘導加熱に対応した第2の周波数成分とを含む交流駆動信号を使用しており、双方の周波数成分の振幅をそれぞれ制御することで、送風温度と送風量との組み合わせを任意に制御することができる。
【0059】
上記の暖房送風機は、車両の暖房装置として好適に使用できる。例えば車両内の複数の空気流吹出し口ごとに暖房送風機本体101を設置する。空気流の吹出し口ごとに暖房送風機本体101を配置することで、送風ダクトなどの設置が不要となり、車両内の機器配置効率の向上が期待できる。各暖房送風機本体101に対応して駆動回路102(図1)を設け、暖房送風機本体101における送風量及び暖房能力を、空気流吹出し口ごと調整としてもよい。あるいは、いくつかの暖房送風機本体を座席(座席位置)に対応付けてグループ化し、グループごとに駆動回路102を設け、グループ単位で送風量及び暖房能力を調整可能としてもよい。このようにする場合、車内の部分ごとに温度及び送風量を設定することができる。
【0060】
図13は、暖房送風機を搭載した車両を示す。紙面向って左側が車両の前部であるとする。同図には計6つの暖房送風機本体101−1〜101−6が図示されている。暖房送風機本体101−1及び102−2は、運転席301に座る運転者用の暖房送風機本体であり、暖房送風機本体101−3及び101−4は、助手席302に座る同乗者用の暖房送風機本体である。暖房送風機本体101−5は、後部座席303の進行方向を向いて右側に座る同乗者用の暖房送風機本体であり、暖房送風機本体101−6は、後部座席303の左側に座る同乗者用の暖房送風機本体である。
【0061】
車両300には、4つの座席位置に対応した4つの駆動回路102−1〜102−4が設置されている。駆動回路102−1は運転席301に対応しており、運転席に対応した暖房送風機本体101−1及び101−2を駆動する。駆動回路102−2は助手席302に対応しており、助手席に対応した暖房送風機本体101−3及び101−4を駆動する。また、駆動回路102−3及び102−4は、後部座席303に対応しており、後部座席に対応した暖房送風機本体101−5及び101−6をそれぞれ駆動する。
【0062】
運転者は、駆動回路102−1に対して所望の温度設定及び風量設定を行うことにより、運転席に対応した暖房送風機本体101−1及び101−2から送風される空気の温度及び送風量を所望のものに制御することができる。他の座席に座る同乗者も、対応する座席位置の駆動回路102に対して所望の温度設定及び風量設定を行うことにより、各座席に対応した暖房送風機本体101から送風される空気の温度及び送風量を所望のものに制御することができる。
【0063】
暖房送風機本体101を搭載する車両としては、自動車、特にアイドリングストップ機能付きの自動車や電気自動車、バス、船、飛行機など、多様なものが考えられる。特に、電気自動車は、エンジンの排熱が使用できないため、上記実施形態の暖房送風機本体101を暖房装置として好適に用いることができる。また、上記実施形態の暖房送風機本体101は通常の車両に用いられる暖房装置と併用することもでき、例えば運転者などの頭部に送風する部分暖房のために上記実施形態の暖房送風機本体101を用いることもできる。
【0064】
なお、上記実施形態では、暖房送風機本体101から加熱された空気を送風するように駆動することについて説明したが、暖房送風機本体101に運転モードとして暖房を伴わない送風モードを設け、暖房送風機本体101を単なる送風機として用いることとしてもよい。送風モードに設定されたときは、駆動回路102は、第1の周波数成分のみの交流駆動信号を暖房送風機本体101に供給すればよい。例えば、PWM回路202、204(図9)が通常のPWM制御でドライバ203、205を駆動し、第1の周波数の交流駆動信号をステータコイルに供給すればよい。
【0065】
上記実施形態では、送風機としてシロッコファンを採用した例を示した。シロッコファンを採用したことにより、暖房送風機のサイズの縮小が容易になる。しかし、本発明の暖房送風機に使用される送風機は、必ずしもシロッコファンに限定されず、熱源となる回転子に固定でき、これと一体的に回転可能であれば足り、種々の形式の送風機が使用可能である。また、回転磁界を2相交流によって発生させる例を示したが、回転磁界は、3相以上の多相交流によって発生させてもよい。
【0066】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明の暖房送風機及び車両は、上記実施形態にのみ限定されるものではなく、上記実施形態の構成から種々の修正及び変更を施したものも、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0067】
10:磁気発生部
11:ステータコイル
12:磁心
13:支持板
20:回転子
21:軟磁性金属板
22:コイル列部材
23:ボルト孔
30:シロッコファン
31:台座
32:フレーム
33:羽根
34:ボルト
40:送風機
41:ケーシング本体部分
42:空気流吐出部
43:吸気孔
44:羽板
50:ベアリング
51:ベアリング支持柱
52、53:空気流
100:暖房送風機
101:暖房送風機本体
102:駆動回路
103:電源
201:コントローラ
202、204:PWM回路
203、205:ドライバ
300:車両
301:運転席
302:助手席
303:後部座席
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13