(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
伝熱体を封入する放電ランプでは、熱輸送効率を高めるため、電極先端部における肉厚が薄い。すなわち、内部空間底面と電極先端面との距離が短い。そのため、曲面状底面の形成、対流を規制するプレート配置といった構成では、十分にクリープ変形問題に対処できない。特に、大出力放電ランプの場合、電極サイズの大型化に伴って密閉空間サイズも拡大し、内部底面により大きな圧力がかかり、高温クリープ変形が生じてしまう。
【0006】
したがって、放電ランプを長時間使用しても十分耐久性があるとともに、電極先端部の熱を抑える電極構造が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の放電ランプは、電極対と電極対を内部に配置した放電管とを備え、少なくとも1つの電極は、軸方向に沿って延び、伝熱体が封入される密閉された筒状内部空間を有する。
【0008】
例えば電極は、柱状胴体部と、胴体部からアーク放電の生じる電極先端面に向けて先細くなる先端部から構成される。
【0009】
本発明では、電極先端部側の肉厚が、電極側面側の肉厚よりも大きい。伝熱体を密封する電極構造では、電極先端側の熱を輸送することを最重要課題とするため、従来では、電極先端部側の肉厚を電極側面側の肉厚よりも小さく設定し、これを電極構造の前提、必須要素としていた。
【0010】
しかしながら、伝熱体の密閉空間の流れを検討してみると、電極軸に沿って電極支持棒付近(先端部とは反対側)で生じる伝熱体の最大流速を大きくすることにより、先端部が肉厚の電極構造を採用しても効率よく熱輸送が行えることが見出された。例えば、内部空間の底面を胴体部内に位置するように構成することが可能である。
【0011】
そして、伝熱体の最大流速をより大きくする電極構造として、内部空間に平坦な底面が設けられ、内部空間には、内部空間側面から底面に向けて縮径した縮径面が形成される。平坦な底面かつ縮径面の形成によって、伝熱体の流れに淀みが生じず、また、伝熱体の電極軸に沿った上昇流が底面付近から始まって最大流速がより大きくなる。さらに、先端側肉厚が大きいため、先端部過熱による変形クリープ現象にも十分耐えられる。
【0012】
縮径面の構成としては、断面R形状、テーパー形状などが構成可能である。例えば、内部空間が、縮径面として所定の曲率半径をもつ湾曲面を有し、湾曲面は、以下の条件式を満たすように形成される。ただし、Rは湾曲面の曲率半径、L1は内部空間の径を表す。
0.03 ≦ R/L1 ≦ 0.27
【0013】
特に、湾曲面は、以下の式を満たすように形成することが可能である。
0.06 ≦ R/L1 ≦ 0.20
【0014】
また内部空間には、縮径面として所定の傾斜角度をもつテーパー面を設けることができる。テーパー面は、以下の条件を満たすように形成すればよい。ただし、aは、底面に対するテーパー面の傾斜角度を示し、L1は内部空間の径を表し、L3は、内部空間の径と底面の径との差の半分を表す。
0.03 ≦ L3/L1 ≦ 0.17
10≦ a ≦ 60
【0015】
本発明の放電ランプ用電極は、柱状胴体部と、胴体部から電極先端面に向けて先細くなる先端部と、軸方向に沿って延び、伝熱体が封入される密閉された筒状内部空間とを備え、電極先端部側の肉厚が、電極側面側の肉厚よりも大きく、内部空間が、平坦な底面を有内部空間が、内部空間側面から底面に向けて縮径した縮径面を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、放電ランプにおいて、熱輸送効率および耐熱構造に優れた電極を設けることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0019】
図1は、第1の実施形態である放電ランプを模式的に示した平面図である。
【0020】
放電ランプ10は、パターン形成する露光装置(図示せず)の光源などに使用可能であり、透明な石英ガラス製の放電管(発光管)12を備える。放電管12には、陰極20、陽極30が所定間隔をもって同軸上に対向配置される。
【0021】
放電管12の両側には、対向するように石英ガラス製の封止管13A、13Bが放電管12と一体的に設けられており、封止管13A、13Bの両端は、口金19A、19Bが配置されている。
【0022】
封止管13A、13Bの内部には、金属性の陰極20、陽極30を支持する導電性の電極支持棒17A、17Bが配設され、金属リング(図示せず)、モリブデンなどの金属箔16A、16Bを介して導電性のリード棒15A、15Bにそれぞれ接続される。
【0023】
封止管13A、13Bは、封止管13A、13B内に設けられるガラス管(図示せず)と溶着しており、これによって、水銀および希ガスが封入された放電空間DSが封止される。
【0024】
リード棒15A、15Bは外部の電源部(図示せず)に接続されており、リード棒15A、15B、金属箔16A、16B、そして電極支持棒17A、17Bを介して陰極20、陽極30の間に電圧が印加される。放電ランプ10に電力が供給されると、電極間でアーク放電が発生し、水銀による輝線(紫外光)が放射される。
【0026】
陽極30は、
図1に示した電極支持棒17Bに接続される円柱状胴体部32と、円錐台形状先端部34とが一体的に形成された構造になっている。先端部34は、アーク放電が生じる電極軸Eに垂直な電極先端面34Sを有する。胴体部32内には、電極軸Eに沿って円筒状内部空間40が同軸的に形成されており、内部空間40は蓋42によって密閉されている。
【0027】
内部空間40には、銀など電極素材よりも融点の低い伝熱体Mが封入されている。ランプ点灯中、伝熱体Mは溶融し、液体となって内部空間40内部で対流する。これにより、電極先端部34の熱が電極支持棒側、電極側面側へ輸送され、電極先端部34が冷却される。
【0028】
内部空間40には、電極先端面34Sに平行であるフラットな底面40Bが形成されるととともに、側面40Sから底面40Bに向けて縮径する面(以下、湾曲面という)40Tが形成されている。具体的には、曲面40Tの断面形状が、所定の曲率半径をもつ四分円状になっている。平坦な円状底面40Bの径L2は、内部空間40の内径L1よりも小さい。
【0029】
内部空間40の底面40Bは、胴体部32内部に位置し、先端部34にまで延出していない。よって、陽極30の先端側肉厚D2は、側面側肉厚D1よりも大きい。ただし、側面側肉厚D1は、電極軸Eに垂直な方向に沿った内部空間40の側面40Sと電極外側面32Sとの距離を表し、先端側肉厚D2は、底面40Bから電極先端面34Sまでの距離を表す。先端側肉厚D2は、例えば側面側内厚D1の2倍以上に定められる。
【0030】
側面40Sと底面40Bとを繋ぐ湾曲面40Tは、伝熱体Mの熱移動に伴う流れの流速が大きくなるような形状に定められている。具体的には、湾曲面40Tの曲率半径をRとしたとき、曲率半径Rと内部空間40の内径L1との比が、以下の条件式を満たすように定められる。
0.03 ≦ R/L1 ≦ 0.27 ・・・(1)
【0031】
特に、大出力のショートアーク型放電ランプ等の場合、伝熱体Mの流速をより高めるため、以下の条件式を満たすように湾曲面40Tが形成される。
0.06 ≦ R/L1 ≦ 0.20 ・・・(2)
【0032】
また、内部空間の電極軸方向高さは、例えば内部空間の径L1の1〜2倍の範囲に定められる。特に、1.2〜1.6倍の高さに定めればよい。
【0033】
このような椀型曲面を底面側に設けた内部空間40を形成することにより、電極先端部の肉厚D2が比較的大きいにも関わらず、熱輸送効率が高まる。以下、
図3、4を用いてその理由を説明する。
【0034】
図3は、縮径面がない内部空間を設けた陽極および平坦な底面のない内部空間を設けた場合の伝熱体の流れを示した図である。
図4は、本実施形態における伝熱体の流れを示した図である。
【0035】
図3、4に示す矢印は、ランプ点灯中に伝熱体Mが対流しているときの流れを示している。伝熱体Mは、電極軸Eに沿ってその中心部で上昇し、側面に沿って下降する。電極先端部の熱の多くは、この電極軸Eに沿った伝熱体Mの上昇によって反対側へ輸送される。
【0036】
このような対流が内部空間40で生じている状態では、伝熱体Mは、蓋42近くまで上昇したとき、最大流速となる。熱の輸送効率は、この最大流速に依存し、最大流速が大きいほど熱輸送効率が上昇し、しいては電極先端部の温度上昇を抑えることができる。
【0037】
本実施形態では、内部空間の電極先端部側肉厚が、側面側肉厚に比べて大きい電極構造を採用する。その結果、先端側の温度が高くなって高温クリープ変形に対して十分耐えることができ、先端部破裂を防ぐ。しかしながら、このような電極構造の場合、電極先端面から伝熱体Mへの熱の移動は、従来のように肉厚が薄い電極構造に比べて移動効率が優れていない。したがって、伝熱体Mの最大流速をできる限り大きくし、上昇速度を上げることがより重要となる。
【0038】
しかしながら、
図3に示すように、電極先端側肉厚が大きい電極構造において縮経面を形成しない場合、底面隅付近で伝熱体の流れがスムーズにならず、淀みが生じる。その結果、伝熱体の最大流速が小さくなり、電極先端部の熱を効率よく輸送できない。
【0039】
一方、フラットな底面をもたず曲面のみで底部が形成された内部空間を形成した場合、伝熱体の流れが中央部に集まるため、底面中心付近で淀みが生じる。その結果、伝熱体の電極軸Eに沿った上昇流が底面中心部から離れた位置を起点として発生する。その結果、電極支持棒側での最大流速が小さくなる。
【0040】
一方、本実施形態では、電極先端側肉厚が大きい電極構造において、内部空間のフラット底面付近において縮径する湾曲面を設けている。その結果、内部空間底面の隅付近で淀みが生じることを防ぐとともに、伝熱体の電極軸に沿った上昇流が底面から開始される。これにより、電極軸に沿った伝熱体上昇流の電極支持棒付近における最大流速を大きくすることが可能となる。
【0041】
このように本実施形態によれば、陽極30内部に密閉された内部空間40を形成し、伝熱体Mを封入する。内部空間40には、フラットな底面40Bを胴体部32内に設け、電極先端側肉厚D2を側面側肉厚D1よりも大きくする。そして、内部空間40の底面付近において、側面40Sから底面40Bに向けて縮径し、断面形状が曲率半径Rとなる湾曲面40Tを形成する。
【0042】
次に、
図5を用いて、第2の実施形態である放電ランプについて説明する。第2の実施形態では、傾斜角度が一定のテーパー部が内部空間に形成される。
【0043】
図5は、第2の実施形態である放電ランプの陽極の概略的断面図である。
【0044】
陽極130は、胴体部132と先端部134から構成されており、蓋142によって密閉された内部空間140が形成されている。内部空間140は、フラットな底面140Bを有し、底面140B付近においては、底面140Bに対する傾斜角度a(°)をもつ円錐台形状のテーパー面140Tが形成されている。第1の実施形態と同様、陽極30の先端側肉厚D2は、側面側肉厚D1よりも大きい。
【0045】
内部空間140の内径L1と底面140Bの幅L2との差の半分である長さをL3とすると、L1/L3は、以下の条件式を満たすように定められる。また、傾斜角度aは、以下の範囲に定められる。
0.03 ≦ L3/L1 ≦ 0.17 ・・・(3)
10≦ a ≦ 60 ・・・(4)
【0046】
L3/L1の範囲は、テーパー面140Tの幅の範囲を示し、底面140Bの径L2の大きさの程度を示している。また、傾斜角度aは、内部空間140の底面隅における曲面形状を定め、傾斜角度aの範囲は、先細くなる程度の範囲を表す。
【0047】
上記条件式を満たすテーパー部140Tを形成することにより、第1の実施形態と同様、内部空間140の底面側隅で淀みが生じず、また、伝熱体Mの流れは、電極軸に沿って底面140Bから上昇流となり、最大流速が大きくなる。
【0048】
なお、第1、第2実施形態以外の縮径面を内部空間に形成してもよい。また、先端部側に内部空間底面が位置するようにしてもよい。
【0049】
以下、
図6〜8を用いて、第1、第2実施形態に応じた実施例を説明する。そこでは、上記(1)〜(4)式に基づく内部空間の形状が、電極先端部の温度および伝熱体の最大流速をどのように影響するかシミュレーションによって検証した。
【実施例1】
【0050】
実施例1の放電ランプは、湾曲面をもつ内部空間が形成された陽極を備える。内部空間の径(電極内径=L1)が30mm、陽極の径(電極外径)が40mm、内部空間底面の径(L2)が10mm、先端側肉厚(D2)が10mm、側面側肉厚(D1)が5mm、内部空間高さが35mmとなる陽極をモデル化し、電力14kWを想定した熱量に基づいて計算機による先端部温度および最大流速のシミュレーションを行った。
【0051】
このとき、曲率半径Rと内径L1(=30mm)との比R/L1を変えながら、電極先端部温度および最大流速を計算した。ただし、最大流速は、電極軸に沿って上昇する伝熱体の電極支持棒側付近で測定される流速を表す。
【0052】
図6は、R/L1に対する電極先端温度および最大流速の変化を示したグラフである。
図7は、最大流速と電極先端部温度の比例関係を示したグラフである。
【0053】
図7に示すように、最大流速が大きいほど電極先端部温度が低下していることがわかる。したがって、
図6の最大流速が比較的大きなR/L1の範囲を定めることで、電極先端部温度を低下させる電極を構成することができる。
【0054】
図6に示すように、最大流速は、R/L1=0.03付近から大きくなり、0.27付近まで比較的大きい。このようなR/L1の範囲は、上記(1)式の範囲に一致する。特に、最大流速が高いレベルで維持される範囲は0.06〜0.20であり、上記(2)式の範囲に一致する。これによって、上記(1)、(2)式を満たす内部空間をもつ電極は、優れた熱輸送効果を発揮することがわかる。
【実施例2】
【0055】
実施例2の放電ランプは、テーパー面をもつ内部空間が形成された陽極を備える。内部空間の径30mm、陽極の径が40mm、底面の径が10mm、先端側肉厚が10mm、側面側肉厚が5mm、内部空間高さ35mmとする陽極をモデル化し、電力14kWを想定した熱量に基づいて計算機によるシミュレーションを行った。
【0056】
このとき、内部空間の径L1とテーパー面の片側幅L3との比L1/L3を変えながら、電極先端部温度および最大流速を計算した。ただし、テーパー面の傾斜角度aは10°〜60°の範囲に定められており、ここでは45°としている。
【0057】
図8は、L1/L3に対する電極先端温度と最大流速の変化を示したグラフである。
【0058】
図8に示すように、最大流速が比較的大きなL1/L3の範囲は0.03〜0.17であり、上記(3)式を満たす範囲と一致する。よって、上記(3)、(4)式を満たす内部空間をもつ電極は優れた熱輸送効果を発揮することが確認される。