特許第6185725号(P6185725)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6185725-水性医薬組成物 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6185725
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】水性医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/192 20060101AFI20170814BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20170814BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20170814BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20170814BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   A61K31/192
   A61K47/04
   A61K47/26
   A61K9/08
   A61P27/02
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-33364(P2013-33364)
(22)【出願日】2013年2月22日
(65)【公開番号】特開2013-199475(P2013-199475A)
(43)【公開日】2013年10月3日
【審査請求日】2016年2月19日
(31)【優先権主張番号】特願2012-39229(P2012-39229)
(32)【優先日】2012年2月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000100492
【氏名又は名称】わかもと製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 光代
(72)【発明者】
【氏名】間宮 則
(72)【発明者】
【氏名】高島 有史
【審査官】 今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−035969(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/013794(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/058579(WO,A1)
【文献】 特開2011−105706(JP,A)
【文献】 特開2011−105707(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/026609(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 31/00−31/80
A61K 33/00−33/44
A61K 47/00−47/69
A61P 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A) ホウ酸もしくは薬学的に許容される塩が1.0〜4.1 w/v%で、(B) 2種の糖アルコールが1.5〜10 w/v%を含む水性医薬組成物であって、
(B) 2種の糖アルコールは、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、ラクチトールからなる組み合わせの群より選ばれる組成物であって、
さらに(C) 薬物として、ロキソプロフェンナトリウムのみを含む点眼用水性組成物。
【請求項2】
(B)2種類の糖アルコールが2〜4.1w/v%である請求項1〜2いずれか1項記載の点眼用水性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホウ酸と糖アルコールを含有させることにより、薬物の眼内移行性を向上させた
、水性医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ホウ酸あるいはホウ砂は、薬効薬理作用として弱い殺菌作用があり、局所刺激
作用が弱いため、医薬品において安定化剤、緩衝剤、等張化剤、保存剤、溶解剤などとし
て用いられており、糖アルコールは、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、エリ
スリトールなどが保存剤、安定化剤、等張化剤として医薬品の製剤化に用いられる添加剤
である。
【0003】
一方、ホウ酸と糖アルコールについては前記用途以外にも、眼科用組成物において保存効
力や、安定性を向上し、あるいは眼刺激を抑制した例として、次のような製剤が知られて
いる。
防腐剤であるクロロブタノールが熱や光により経時的に分解し、pHが低下することが
知られていたため、薬物及びクロロブタノールを含有する眼科用剤に、ホウ酸と糖アルコ
ールを配合することにより、眼科用剤のpH低下を抑制できることを見出した製剤が開示
されている(特許文献1)。
パントテン酸類、特にその中でも前駆体であるパンテノ−ルと、ホウ酸、マンニトールを
配合する眼科用組成物において、安定性、防腐力が著しく高まり、しかも眼刺激が抑制さ
れた眼科用組成物が開示されている(特許文献2)。
【0004】
別に、局所投与を前提とする水性医薬組成物において、有効成分を患部に長く留まらせ
、持続性を向上させる、もしくは効果的な治療を施すための製剤技術は様々なものが開示
されている。
キサンタンガム水溶液は、液体として投与され、涙液中のリゾチーム成分とイオン性相
互作用を受けてゲル化する水性医薬組成として開示されている(特許文献3)。
また、有効成分であるβ遮断薬を、アルギン酸の水溶液に加え、pHをアルカリ性塩基に
よって増加した場合に、その投与後に延長効果が見られることを見出した眼科用組成物が
開示されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−105706
【特許文献2】特開2002−265357
【特許文献3】特表2002−510654
【特許文献4】特表2002−511430
【0006】
しかし、キサンタンガムなどの高分子によるゲル化技術は調製法が容易ではなく、また外
因性の要素によってゲル化の強度が異なるなどの難点がある。
また、アルギン酸の水溶液において延長作用が認められているのはβ遮断薬のみであり、
有効成分が限定されるなどの欠点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は、有効成分に限定されず、眼科溶剤に用いられる様々な
薬物を含有することができ、すでに安定化剤や等張化剤として知られている添加剤を独自
に組み合わせ、新たな組成物を調製することによって、角膜透過性を向上させることがで
きる水性医薬組成物もしくはその方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、有効成分の持続性を改良する目的で、角膜透過性を向上させる効果を持つ
水性医薬組成物について鋭意研究を行った。その結果、眼科用剤において等張化剤として
汎用性が高く、化合物として安定で、安全性が高く使用可能な糖アルコール類を複数選択
し、緩衝剤として一般的に用いられるホウ酸と組み合わせる特有な技術によって、上記の
課題を解決できることを見出した。
本発明の水性医薬組成物は、特殊な装置や複雑な手順を要する調製工程を必要としないも
のである。
そして驚くべきことに、ホウ酸と複数の糖アルコールを配合した眼科用剤において、有効
成分の角膜透過性の向上させる効果が得られることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水性医薬組成物は、主に眼科用組成物の基剤として用いることが可能であり、様
々な有効成分の角膜透過性を向上させる効果を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は試験例1の結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に用いられる(B)糖アルコール類としては、本発明の効果が得られれば特に制限
されないが、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトー
ル、ラクチトールから選ばれる組み合わせが好ましく、マンニトール、ソルビトール、キ
シリトール、エリスリトールから選ばれる組み合わせが特に好ましい。糖アルコール類の
使用濃度は、通常0.01〜10w/v%、好ましくは0.1〜7w/v%であり、より
好ましくは1〜4.4w/v%、最も好ましくは2〜4.1w/v%である。
【0012】
本発明に用いられる(A)ホウ酸の薬学的に許容される塩としてはホウ砂やナトリウム塩
等が挙げられる。本発明においてホウ酸と記載した場合に、ホウ酸の薬学的に許容される
塩を含む。ホウ酸もしくはその薬学的に許容される塩としての使用濃度は、薬物の角膜透
過性の向上が得られれば特に制限はないが、通常ホウ酸として0.1〜4w/v%、好ま
しくは0.5〜3w/v%であり、より好ましくは0.7〜2w/v%、最も好ましくは
0.85〜2w/v%である。
【0013】
本発明にも用いられる(A)ホウ酸及び(B)複数種の糖アルコールは1:0.5 〜
1:8.8の範囲の比で含有し、1:2.0 〜 1:4.1の範囲の比がさらに好まし
い。
【0014】
本発明に用いられる(C)薬物としては、アシタザノラスト水和物、レボカバスチン塩酸
塩、ケトチフェンフマル酸塩、クロモグリク酸ナトリウム、トラニラスト、オロパタジン
などの抗アレルギー薬、ベタメタゾンリン酸塩、フルオロメトロン、インドメタシン、デ
キサメタゾン、ヒドロコルチゾン、プラノプロフェン、ロキソプロフェンナトリウム、ジ
クロフェナクナトリウ厶、ブロムフェナックナトリウム、ネパフェナク、メロキシカム、
ロルノキシカム、シクロスポリン、タクロリムス、アズレンスルホン酸ナトリウムなどの
抗炎症剤、イソプロピルウノプロストン、ビマトプロスト、ラタノプロスト、トラボプロ
スト、タフルプロストなどのプロスタグランジン誘導体、ドルゾラミド塩酸塩、ブリンゾ
ラミドなどの炭酸脱水素酵素阻害剤、チモロール、カルテオロール、ニプラジロール、ベ
タキソロール、レボブノロールなどのβ遮断薬、もしくはこれらの薬学的に許容される塩
が挙げられる。薬学的に許容される塩としては、マレイン酸塩、塩酸塩などが例示できる
【0015】
(C)薬物の使用濃度は、効果が得られれば特に制限はないが、通常0.0001〜10
w/v%、好ましくは0.001〜5w/v%である。
【0016】
なお、前記の(C)薬物は2種もしくは3種類であるよう同時に本発明の組成物中に配合
してもよい。
薬物を2種類もしくは3種類配合する際の濃度範囲は、通常0.001〜10w/v%、
好ましくは0.002〜5w/v%である。
【0017】
前述の中でも、本発明の組成物中に配合される薬物として、β遮断薬とプロスタグラン
ジン誘導体あるいはβ遮断薬と炭酸脱水素酵素阻害剤が好ましい。前記プロスタグランジ
ン誘導体においては、ラタノプロスト、トラボプロスト、ビマトプロスト及びタフルプロストが好ましい。前記炭酸脱水素酵素阻害剤において、ドルゾラミド塩酸塩、ブリンゾラミドが好ましい。
【0018】
本発明の組成物に、さらに配合される薬物としては、次のようなものが挙げられる。ジピ
ベフリン塩酸塩、エピネフリンなどの非選択性アドレナリン作動薬;ブリモニジン、アプ
ラクロニジン塩酸塩などのα2受容体選択性アドレナリン作動薬;ピロカルピン塩酸塩、
ジスチグミン臭化物などの副交感神経刺激薬、アムホテリシンB、フルコナゾール、ミコ
ナゾール硝酸塩、コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム、カルベニシリンナトリウム、
ゲンタマイシン硫酸塩、エリスロマイシン、アジスロマイシン、トブラマイシン、カナマ
イシン、シプロフロキサシン塩酸塩、ロメフロキサシン塩酸塩、オフロキサシン、レボフ
ロキサシン、ノルフロキサシン、パズフロキサシントシル酸塩、ガチフロキサシン、モキ
シフロキサシン塩酸塩、アシクロビル、ガンシクロビル、シドフォビル、ソリブジン、ト
リフルオロチミジン、ドキシサイクリンなどのテトラサイクリン類などの抗感染剤、アミ
ノエチルスルホン酸、アミノ酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウ
ム、ジクアホソルナトリウム、レバミピド、ドキシサイクリンを含むテトラサイクリン類
などの角膜障害あるいはドライアイ治療剤、シアノコバラミン、フラビンアデニンジヌク
レオチドナトリウムなどのビタミン製剤などを挙げることができる。
これらの薬物の配合量は、その効果が得られれば特に制限はないが、通常0.001〜1
0w/v%である。
【0019】
本発明における水性医薬組成物のpHは4.5〜9.0であり、好ましくは5.5〜8.
5であり、より好ましくは6.0〜8.0、最も好ましくは6.3〜8.0である。本発
明の水性医薬組成物のpHを調整するために、通常添加される種々のpH調整剤が使用さ
れる。酸類としては、例えば、アスコルビン酸、塩酸、グルクロン酸、グルコン酸、酢酸
、乳酸、リン酸、硫酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸などが挙げられる。塩基類としては
、例えば、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム
、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタモール
、メグルミンなどが挙げられる。その他のpH調整剤としては、グリシン、ヒスチジン、
イプシロンアミノカプロン酸などのアミノ酸類なども挙げることができる。
【0020】
本発明の水性医薬組成物を調製するにあたって、薬学的に許容し得る等張化剤、可溶化剤
、安定化剤、保存剤などを、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で本発明の水
性医薬組成物に添加することができる。
等張化剤としては、プロピレングリコール、グリセリン、塩化ナトリウム、塩化カリウム
などが挙げられる。可溶化剤としては、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒ
マシ油などが挙げられる。
保存剤としては、ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物及びクロルヘキシジン
グルコン酸塩などの逆性石鹸類、パラヒドロキシ安息香酸メチル、パラヒドロキシ安息香
酸プロピル、パラヒドロキシ安息香酸ブチル等のパラベン類、クロロブタノール、フェニ
ルエチルアルコール及びベンジルアルコールなどのアルコール類、デヒドロ酢酸ナトリウ
ム、ソルビン酸及びソルビン酸カリウムなどの有機酸などが例示できる。
また、その他の添加剤としては、エチレンジアミン四酢酸及びそれらの薬学的に許容され
る塩、トコフェロール及びその誘導体、亜硫酸ナトリウムなどの安定化剤が挙げられる。
【0021】
本発明の水性医薬組成物の浸透圧比は、本発明の効果が得られれば特に制限はないが、通
常は0.5〜2.0であり、好ましくは0.7〜1.6、より好ましくは0.8〜1.3
、最も好ましくは0.9〜1.2である。
【0022】
以下、本発明の水性医薬組成物の製法を例示する。
ホウ酸と任意の種類の糖アルコール、各種添加剤を滅菌精製水に添加し、良く攪拌する。
すべての成分が溶解し、薬液が澄明になったことを確認後、pHを調整し、滅菌精製水で
メスアップする。この水溶液をメンブレンフィルターによるろ過滅菌後、ガラスもしくは
プラスチック製容器などに充填する。
【0023】
有効成分となる薬物と任意の種類の糖アルコール類、ホウ酸もしくは薬学的に許容される
塩、各種添加剤を滅菌精製水に添加し、良く攪拌する。すべての成分が溶解し、薬液が澄
明になったことを確認後、pHを調整し、滅菌精製水でメスアップする。この水溶液をメ
ンブレンフィルターによるろ過滅菌後、プラスチック製点眼ボトルなどに充填する。
【実施例】
【0024】
[実施例1〜6]
任意の糖アルコールを数種選択し、2.0gのホウ酸を適量の滅菌精製水に添加し、溶解
した後、滅菌精製水で100mLにメスアップして、試験溶液とした。FITC−Dex
tran(製品名:Fluorescein isothiocynate−dextr
an average mol wt 4,000, SIGMA−ALDRICH社製,
以下、FD4とする)をリン酸緩衝液(製品名:りん酸緩衝剤粉末(1/15 mol/
L pH 7.0), 和光純薬工業株式会社製)で2mg/mLに調製し、FD4溶液を作製した。試験溶液とFD4溶液を1:1の割合で混合し、実施例1〜6とした。
【0025】
[比較例1]
4.0gのマンニトール、2.0gのホウ酸を適量の滅菌精製水に添加し、溶解した後、
滅菌精製水で100mLにメスアップしてコントロール溶液とした。コントロール溶液と
前述のFD4溶液を1:1の割合で混合し、比較例1とした。実施例及び比較例はいずれ
もpH7であった。
実施例1〜6及び比較例1の組成を表1に示した。
【0026】
【表1】
【0027】
<試験例1 角膜透過性評価>
ヒト角膜上皮株細胞(製品名:Human cornea epithelial
cell(HCE−T), 理化学研究所バイオリソースセンター)を使用した。24wel
lプレートの各穴(ボトムチャンバー)に600μLのSHEM改変培地(5%FBS含
有DMEM/F−12(1:1)+1%PS+10ng/mLのEGF+5μg/mLの
インスリン+0.5%DMSO)を添加後、5×10 cellsの細胞をトップチャ
ンバーに播種した。同プレートをCOインキュベーター内で72時間培養した。トップ
チャンバー及びボトムチャンバーをリン酸緩衝液(製品名:りん酸緩衝剤粉末(1/15
mol/L pH 7.0), 和光純薬工業株式会社製)で洗浄し、ボトムチャンバーにリ
ン酸緩衝液を600 μL添加した。比較例1あるいは実施例1〜6をそれぞれのトップ
チャンバーに100 μLずつ添加し、同プレートを室温で10分間静置した。10分後
トップチャンバーをはずし、ボトムチャンバー内の溶液を採取し、蛍光マイクロプレート
リーダー(装置名:Infinite M200 PRO, TECAN社製)を用いて、励
起波長 480nm,蛍光波長 520nmの蛍光強度を測定した。本試験の結果を図1に示した。
【0028】
実施例1〜6はいずれも比較例1よりも高い蛍光強度を示した。これは、ホウ酸と糖アル
コール1種よりも、本発明であるホウ酸と複数の糖アルコールの組み合わせにおいて、角
膜透過性亢進作用を示すことが推測された。
【0029】
本発明により次のような水性医薬組成物を調製することが可能である。
[実施例7〜12]
所定量のマンニトール、ソルビトール、キシリトールもしくはエリスリトールのうち2種
類を選択し、1.0gのホウ酸と共に滅菌精製水80mLに添加し、溶解した。ここに任
意の薬物を添加し、溶解した。更に1N水酸化ナトリウムを添加し、所定のpHに調整し
た。次に、滅菌精製水で100mLにメスアップして、メンブランフィルターでろ過をし
、本発明の水性医薬組成物を調製した。実施例7〜12の組成を表2に示した。
【0030】
【表2】
【0031】
[実施例13〜15]
所定量のマンニトール、ソルビトール及びホウ酸を滅菌精製水80mLに添加し、溶解し
た。ここに1.0gのロキソプロフェンナトリウムを添加し、更に1N水酸化ナトリウム
を添加して、pHを約7.0に調整した。次に、滅菌精製水で100mLにメスアップし
て、メンブランフィルターでろ過をし、本発明の点眼用水性組成物(実施例13〜15)
を調製した。
【0032】
[比較例2]
0.69gの塩化ナトリウムを滅菌精製水80mLに添加し、溶解した。ここに1.0gの
ロキソプロフェンナトリウムを添加し、更に1N水酸化ナトリウムを添加して、pHを約
7.0に調整した。次に、滅菌精製水で100mLにメスアップして、メンブランフィル
ターでろ過をし、比較例2とした。
【0033】
[比較例3]
0.7gのホウ酸、2.0gのマンニトールを滅菌精製水80mLに添加し、溶解した。こ
こに1.0gのロキソプロフェンナトリウムを添加し、更に1N水酸化ナトリウムを添加
して、pHを約7.0に調整した。次に、滅菌精製水で100mLにメスアップして、メンブランフィルターでろ過をし、比較例3とした。実施例13〜15及び比較例2〜3の組成を表3に示した。
【0034】
【表3】
【0035】
<試験例2 角膜透過性評価>
日本白色種家兎(性別:雄性、体重:2.0〜2.5kg)に実施例13〜15、比較例
2及び3を30μLずつ異なる眼にそれぞれ点眼し、点眼45分後に房水を採取した。1
組成物あたりの例数は5〜6眼とした。
【0036】
ロキソプロフェンナトリウムはプロドラッグであり、投与後に代謝され、2-[p-トラン
ス-2-ヒドロキシシクロペンチルメチルフェニル]プロピオン酸(以下、Trans-OH
体という)に変換されて、優れた抗炎症作用を発現する。
よって、房水中ロキソプロフェン濃度及び房水中Trans-OH体濃度を、HPLCに
て測定した。
【0037】
HPLC測定方法を以下に示す。
房水50μLに、超純水50μL及び移動相150μLを加え試験管ミキサーでよく撹拌
した。小型微量遠心機で約5秒間スピンダウンした後、全量をフィルター(0.2μm)
で濾過し試料溶液とした。
【0038】
HPLCの測定条件:カラム:CHEMCOSORB 5−ODS−H(φ4.6×15
0mm、ケムコ社製)、移動相:0.1%リン酸、30%アセトニトリル/超純水、検出
波長:222nm、流速:1mL/min、カラム温度:室温、保持時間:ロキソプロフ
ェン=22.0分;Trans−OH体=16.0分。
【0039】
表4に、点眼45分後の房水中ロキソプロフェン濃度及び房水中Trans-OH体濃度
の平均値(μg/mL)、並びに比較例2及び3に対する各組成物の房水中薬物濃度比を
それぞれ示した。
【0040】
【表4】
【0041】
ホウ酸及び2種類の糖アルコール(マンニトール及びソルビトール)を含有した実施例
13〜15は、塩化ナトリウム及びpH調整剤以外の添加物を含有しない比較例2よりも
、ロキソプロフェンについては1.8〜2.2倍、Trans−OH体については1.3
倍〜1.6倍の濃度比を示した。
ホウ酸及び1種類の糖アルコールとしてマンニトールを含有した比較例3に対して、実施
例14及び15は、ロキソプロフェン、Trans−OH体について、いずれも1.2倍
の濃度比を示した。
【0042】
本試験の結果から、本発明の点眼用水性医薬組成物はプロドラッグのみならず、代謝によ
る活性体においても高い角膜透過性を示すことが明らかとなった。
ホウ酸及び複数の糖アルコールを水性組成物中に添加することによって、角膜透過性を向
上することを示した。
【0043】
本発明により次のような水性医薬組成物を調製することが可能である。
【0044】
[実施例16〜18]
所定量のマンニトール、キシリトール及びホウ酸を滅菌精製水80mLに添加し、溶解し
た。ここに0.68gのチモロールマレイン酸塩及び1.12gのドルゾラミド塩酸塩を
添加し、更に1N水酸化ナトリウムを添加して、pHを約6.4に調整した。次に、滅菌
精製水で100mLにメスアップして、メンブランフィルターでろ過をし、本発明の点眼
用水性組成物(実施例16〜18)を調製した。
実施例16〜18の組成を表5に示した。
【0045】
【表5】
【0046】
[実施例19〜21]
0.005gのラタノプロスト、0.5gのポリソルベート80及び0.5gのポリオキ
シエチレン硬化ヒマシ油60を滅菌精製水80mLに添加し、溶解した。ここに所定量の
マンニトール、キシリトール、ホウ酸およびプロピレングリコールを添加し、更に1N水
酸化ナトリウムを添加して、pHを約6.7に調整した。次に、滅菌精製水で100mLにメスアップして、メンブランフィルターでろ過をし、本発明の点眼用水性組成物(実施例19〜21)を調製した。
実施例19〜21の組成を表6に示した。
【0047】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0048】
眼科用組成物にホウ酸と複数の糖アルコールを配合することで、薬物の角膜透過性を向上
させることが可能になる。本発明により提供される眼科用組成物によって、同用法におい
て有効成分の濃度を低下させるか、もしくは同用量において点眼回数を低減させることに
つながり、その結果、薬物投与量を減少させることが可能になる。そのため、全身的な副
作用の低減が期待できる。また、投与回数の低減によりQOLの向上、点眼し忘れによる
治療効果の低下防止も期待できる。
図1