【実施例1】
【0012】
図2にガスタービン構成図の概略を示す。以下、
図2を用いてガスタービンシステムの構成例について説明する。ガスタービンシステムは、空気16を圧縮して高圧空気161を生成する軸流圧縮機11と、高圧空気161と燃料162を混合して燃焼させる燃焼器12と、高温の燃焼ガス163により回転駆動するタービン13から構成されている。軸流圧縮機11とタービン13は回転軸15を介して発電機14と接続されている。
【0013】
次に、作動流体の流れについて説明する。作動流体である空気16は軸流圧縮機11へ流入し、軸流圧縮機11で圧縮されて高圧空気161となって燃焼器12に流入する。燃焼器12では高圧空気161と燃料162が混合燃焼され、燃焼ガス163が生成される。燃焼ガス163はタービン13を回転させた後、排気ガス165として系外部へ放出される。発電機14は、軸流圧縮機11とタービン13とを連通する回転軸15を通じて伝えられたタービン13の回転動力により駆動される。
【0014】
また、軸流圧縮機11の後段からは、高圧空気の一部がタービンロータ冷却空気およびシール空気として抽気され、ガスタービンの内周側流路を介してタービン13側へ供給される。この抽気空気167は、冷却空気としてタービンロータを冷却しながら、タービン13の高温燃焼ガス流路へ導かれる。この冷却空気は、タービンの高温燃焼ガス流路からタービンロータ内部へ高温ガスの漏れこみを抑制するシール空気の役割も兼ねている。
【0015】
図3に、多段の軸流圧縮機の模式図を示す。軸流圧縮機11は、回転軸であるロータ19と、ロータ19に取り付けられた動翼と、ロータ19を囲んで作動ガスを密閉するための圧縮機ケーシング20と、圧縮機ケーシング20に取り付けられた静翼を備える。軸流圧縮機11にはロータ19と圧縮機ケーシング20により環状流路が形成されている。動翼および静翼はそれぞれ周方向に複数枚配置されて動翼列17および静翼列18を形成している。また、動翼列17と静翼列18は軸方向に交互に配列されており、1つの動翼列17と静翼列18とで段を構成している。
【0016】
最も上流側に配置された動翼列17の上流側には、吸込み流量を制御するための入口案内翼21(IGV:Inlet Guide Vane)が設けられている。後側に配置された動翼列17に流入する作動ガスの流入角(即ち迎え角)は入口案内翼21によって制御される。軸流圧縮機11の前段側の静翼列は、起動時の旋回失速を抑制するための可変機構を備えている。
図3では可変機構を備えた静翼列18が可変静翼列181の一段だけの場合を図示しているが、可変静翼列は複数段備えていてもよい。
【0017】
最終段動翼列171の下流側には、最終段静翼列182と出口案内翼22(EGV:Exit Guide Vane)として前側出口案内翼221および後側出口案内翼222が設けられる。EGV221、222は環状流路内の動翼列17が作動流体に与えた旋回速度成分のほとんど全てを軸流速度成分に転向させる目的でケーシング20に取り付けられた静翼である。そして、EGV222を出た流れを減速させながら燃焼器12へ導入するために、EGV222の下流側にはディフューザ23が設置されている。
【0018】
なお、
図3では出口案内翼22が軸方向に2翼列取り付けられた場合を示すが、出口案内翼22は1翼列であっても、それ以上であっても構わない。また、最終段動翼列171の下流側かつ最終段静翼列182の上流側の内周には、タービンロータ冷却空気およびシール空気として利用する抽気空気167を抽気するための内周抽気スリット24が設けられている。
【0019】
軸流圧縮機11の環状流路内に作動ガスとして流入する空気16は、この環状流路を通過しながら、各翼列により減速、圧縮されて高温高圧の気流になる。具体的には、動翼列17の回転により流体の運動エネルギーが増加され、空気16は圧縮されながら軸方向に運搬される。そして、空気16は静翼列18で旋回方向速度成分を整流されると同時に減速され、運動エネルギーが圧力エネルギーに変換されることでさらに圧縮される。
【0020】
このように、作動空気には動翼列により旋回速度が与えられるので、軸流圧縮機11の最終段静翼列182への流れは約50〜60degの流入角で流入することになる。一方、空力性能向上のためには、圧縮機出口に位置するディフューザ23へ流入する流れである高圧空気161は、流入角ゼロ(軸流速度成分)にすることが望ましい。そのため、最終段静翼列182と出口案内翼221、222から構成される静翼列で流れを約60degから0degまで転向させることが重要となる。
【0021】
タービン13と軸流圧縮機11が1つの軸で連結されている1軸式ガスタービンの運転には、ガスタービンの燃焼温度を定格状態に保持して軸流圧縮機11のIGV21を閉じることで、ガスタービンの運用負荷領域を拡大する運転がある。このような運転においてIGV21を閉じた場合、圧縮機の後段翼列の負荷は増加する傾向にあり、特に最終段静翼列182の負荷増大が懸念される。
【0022】
図4に軸流圧縮機の定格負荷運転時の段圧力比分布を示す。一般的に、軸流圧縮機の定格負荷運転時の段圧力比分布は、
図4に実線で示すように、初段から最終段までほぼ線形に減少する分布である。一方で、部分負荷運転のIGV21および可変静翼181を閉じた場合の段圧力比分布を点線で示す。部分負荷運転時には、IGV21や可変静翼181を有する段落では動翼への流入角が小さくなるため、段圧力比(段負荷)が小さくなる。そして、可変静翼181の後ろの段から最終段までの段圧力比は線形に減少する。一方、可変静翼181段で減少した分の圧力上昇を他の段落で補う必要があるため、必然的に後段側になるほど段圧力比(段負荷)が定格負荷運転時に比べて高くなる。
【0023】
また、
図3で示した圧縮機前段側の可変静翼181が複数段ある場合、通常、複数段の可変静翼もIGV21と連動して開閉される。そのため、IGV21を閉じた部分負荷運転時には、可変静翼列も閉じられる。したがって、可変静翼列のある段落では段仕事が低減することになるが、圧縮機全体の圧力比は変わらないので、可変静翼181が複数段ある場合は後段翼列の負荷が更に増大する結果となる。
【0024】
さらに、環状流路の後段側では側壁境界層が発達しているため、側壁部分では軸流速度が更に低下する。そして、その影響で静翼列の側壁部では流入角が大きくなり主流部に比べて負荷が増大する。これにより後段側翼列の側壁部では前段側の翼列よりも流れが剥離しやすい状態となる。
【0025】
そして、大気温度が低い場合には、この部分負荷運転時の後段翼列の負荷増加が顕著となり、翼列の信頼性の低下と空力性能の低下をもたらす。翼負荷が限界ラインに達すると、翼列は剥離により流体励振される。そして、翼列振動応力が許容応力値以上になると翼列が損傷する可能性が高くなる。
【0026】
一方、タービンとして高圧タービンと低圧タービンとを備え、高圧タービンと圧縮機とを繋ぐ回転軸と、低圧タービンと発電機等の負荷機器とを繋ぐ回転軸とが異なる2軸式ガスタービンがある。このような2軸式ガスタービンにおいては、部分負荷運転で高圧タービンの出力と圧縮機動力をバランスさせるために、IGV21等を閉じて吸込流量を低減させて圧縮機動力を小さくする運転がある。このようなIGV21および可変静翼181が閉じられた運転では、上述の通り、後段翼列、特に最終段静翼列182の負荷が増加するため、性能および信頼性を確保することが課題となる。
【0027】
上記のようにガスタービンの軸流圧縮機11は定格運転のみならず起動時や部分負荷時、更に大気温度変化に対応して、性能および信頼性を確保する必要がある。特に起動時、部分負荷時および低気温時には最終段静翼列182や出口案内翼22の負荷が上昇するため、軸流圧縮機は、設計段階において想定される様々な運転条件において最終段静翼列182や出口案内翼22の信頼性を確保した状態を保てるよう設計され、製作される。
【0028】
しかしながら、ガスタービン建設後に出力向上、効率向上またはNOx低減を目的としてガスタービンシステムの変更または運転条件が想定された範囲から外れた運転を行う必要性が発生する場合がある。
【0029】
ガスタービン本体とは別に付加的な機構を設置することでガスタービンの性能を向上する技術の第一の例として燃焼器への蒸気噴射がある。蒸気噴射機構を備えた燃焼器12の構成について
図5を用いて説明する。蒸気噴射型ガスタービンの燃焼器12は車室26、燃焼室27、燃料ノズル28および蒸気ノズル29を有する。
【0030】
軸流圧縮機11で圧縮された高圧空気161は環状の車室26に流入し、一部は燃焼室27の周壁の下流側に設けられた希釈孔30から燃焼室27内に流入する。残りの高圧空気161は車室26内で燃料ノズル28の近接位置に取り付られた蒸気ノズル29より噴射された蒸気31と混合され温度が低下される。車室26内で蒸気31と混合された圧縮空気は、スワーラ32により旋回成分が付与され、旋回流として燃焼室27内に流入する。スワーラ32より燃焼室27内に流入した蒸気と混合された圧縮空気は燃料ノズル28から噴射された燃料162と混合されて燃焼し、蒸気とともに燃焼ガス163としてタービン13に送られる。
【0031】
ガスタービンの運転の高効率化・高出力化には、燃焼器の燃焼温度の高温化が有効であるが、その一方で燃焼温度の上昇に伴いNOxの発生量は指数関数的に上昇する。しかし、NOxは拡散火炎の局所的に温度の高い部位で発生するため、蒸気31を燃焼器12内に噴射することにより、燃焼器高温部の燃焼温度を低下させ、NOxを低減させることができる。また、蒸気31を噴射することで燃焼器12内の燃焼温度が低下するため、より多くの燃料を投入してガスタービン出力を増加させることも可能である。
【0032】
一方、蒸気噴射された燃焼器12では、蒸気31の噴射量の増加に伴い、軸流圧縮機11から吐出された高圧空気161及び蒸気31からなる圧縮流体の導入量が増加する。その結果、圧縮流体を燃焼器12で燃焼させた後の燃焼ガス163が円滑にタービン側へ流出しにくくなり、軸流圧縮機11の吐出圧でもある車室26内の圧力が上昇する。すなわち、蒸気噴射量の増加に伴い、軸流圧縮機11の圧力比が上昇することとなる。したがって軸流圧縮機11の翼の段あたりの圧力比も上昇し、翼負荷が上昇する。
【0033】
図6に、蒸気噴射機構を備えたガスタービンにおける軸流圧縮機11の段当たりの翼負荷を示す。蒸気噴射を行なうことによる燃焼器12の圧力上昇の影響は軸流圧縮機11の後段ほど顕著となり、
図6に示すように蒸気噴射を行なわない場合と比較して翼負荷は後段程高くなる傾向にある。
【0034】
上述のように、蒸気噴射はNOx低減およびガスタービンの出力向上に有効な技術であり、ガスタービン本体を変更せずに蒸気噴射機構を取り付けるだけで実施することができる。このため、既設のガスタービンの出力向上やNOx低減を目的として蒸気噴射機構を新たに付加する場合がある。またガスタービン建設時に既に蒸気噴射機構を備えていた場合でも、出力が不足した場合に出力向上を目的として初期の想定よりも蒸気噴射量を増加させる要求が発生する場合がある。
【0035】
一方、ガスタービンの軸流圧縮機11の翼は建設時に想定される運転条件において圧縮機の断熱効率が最適となるよう、また低気温時等の想定される最も過酷な運転条件においても翼の信頼性が確保できるよう最適設計がなされている。そのため、新たに蒸気噴射を増設した場合や出力向上を目的に蒸気噴射量を想定よりも増加させる場合に、軸流圧縮機11の後段翼で信頼性を十分に確保することが困難となる場合がある。
【0036】
ガスタービン本体とは別に付加的な機構を設置することでガスタービンの性能を向上する技術の第2の例として、吸気噴霧がある。吸気噴霧は、軸流圧縮機入口に微細な液滴を噴霧する機構である。吸気噴霧された軸流圧縮機11における作動流体の流れについて
図7を用いて説明する。軸流圧縮機11は、大気から空気16を吸入する。大気から軸流圧縮機11に供給される空気16には吸気噴霧冷却装置35によって水36が噴霧される。噴霧水36は高圧ポンプ37で加圧された後、流量制御弁38で所定の流量に調整され、吸気噴霧冷却装置35内の噴霧ノズルで微細化されて空気16に噴霧される。
【0037】
微細液滴の一部は軸流圧縮機11に吸込まれる前に蒸発する。この蒸発潜熱により作動流体の温度を低下させることができる。このため大気より低温で高密度な吸込み空気を得ることができ、ガスタービンの出力を増加させられる。また、大気温度が高いほど圧縮機吸込み空気流量(質量流量)を多くする(大きな吸気冷却効果を得る)ことができる。そのため、吸気噴霧冷却装置35を使用することにより、夏季等における出力低下を抑制し、年間を通した大気温度変動に起因するガスタービン出力の変動を抑制することができる。
【0038】
また、微細液滴のうち軸流圧縮機11に流入する前に蒸発しきれなかった液滴は、液滴のまま軸流圧縮機11内部へ流入する。軸流圧縮機11の内部で液滴は動翼間および静翼間を通過しながら蒸発し、圧縮途中の作動流体の温度を低下させる。この中間冷却効果によって圧縮特性が等温圧縮に近づくため、軸流圧縮機11の動力は低減される。その結果ガスタービンの効率が向上する。軸流圧縮機11へ導入された液滴は、圧縮機吐出までに完全に蒸発する。作動流体は圧縮機吐出から排出される。
【0039】
図8を使用して吸気噴霧された軸流圧縮機の翼負荷について説明する。吸気噴霧された軸流圧縮機では、軸流圧縮機11の前側段から中間段にかけて液滴が蒸発し、作動ガスの体積流量が増大する。したがって軸流圧縮機11の前側段から中間段にかけては作動ガスの軸流方向速度が増加し、圧縮機翼に対するインシデンスは相対的に低下するため、翼負荷は低下する傾向にある。一方、蒸発が完了した後の圧縮機後段側では、吸気噴霧によって作動ガスが冷却された効果により作動ガスの密度が増加するため圧力が増加し、翼負荷が上昇する。
【0040】
上述のように、吸気噴霧はガスタービンの出力向上および圧縮機の効率向上に有効な技術であり、ガスタービン本体を変更せずに吸気噴霧機構を取り付けるだけで実施することができる。このため、既設のガスタービンの出力向上や効率向上を目的として吸気噴霧機構を新たに付加する場合がある。また、ガスタービン建設時に既に吸気噴霧機構を備えていた場合でも、夏季等に出力が不足した場合に出力向上を目的として初期の想定よりも吸気噴霧量を増加させる要求が発生する場合がある。
【0041】
一方、ガスタービンの軸流圧縮機の翼は建設時に想定される運転条件において圧縮機の断熱効率が最適となるよう、また低気温時等の想定される最も過酷な運転条件においても翼の信頼性が確保できるよう最適設計がなされている。そのため、新たに吸気噴霧機構を増設した場合や出力向上・効率向上を目的に吸気噴霧量を想定よりも増加させる場合に、圧縮機の後段翼で信頼性を十分に確保することが困難となる場合がある。
【0042】
このように、蒸気噴射機構や吸気噴霧機構を新設する場合や、蒸気噴射量や吸気噴霧量を想定よりも増加させる場合には、軸流圧縮機11の後段において翼の信頼性が十分に確保できなくなる場合がある。また、この他にも、例えば抽気量を変更する場合やIGVスケジュールを変更する場合等、ガスタービンの運用時において設計初期段階で想定された運転条件とは異なる運転が行われた場合には、軸流圧縮機11の後段において翼の信頼性が十分に確保できなくなる場合がある。
【0043】
翼信頼性の問題以外にも、ガスタービン設計後に新たな技術が開発され、軸流圧縮機の後段翼の翼形状、翼取付け位置または翼段数を変更することで既設のガスタービンの性能向上が見込まれる場合がある。ガスタービンの性能向上が見込まれる翼変更の例としては、翼形状そのものを変更するものや、タンデム翼やスプリッタ翼等のように翼段数を変更することが考えられる。
【0044】
タンデム翼はほぼ同等の大きさの翼を回転軸方向について前後に近接させて配置する翼であり、前後翼による作動ガスへの影響が相互干渉することで双方の境界層剥離を抑制する等の効果が得られる場合がある。スプリッタ翼は前置翼に対して比較的翼弦長の短い翼を前置翼の近傍に取り付けることで前置翼の境界層剥離を抑制する等の効果が得られる場合がある。
【0045】
このように、軸流圧縮機では、設計当初に対して運転条件を変更したときに翼信頼性を確保する目的または軸流圧縮機の性能を向上させる目的で、出口案内翼22や最終段静翼182を始めとする静翼の翼形状や翼取付け位置、翼列の段数を変更する必要性が発生する場合がある。しかし、比較例の軸流圧縮機の静翼取付け構造では、一般に、翼をケーシングに取り付けるための溝であるケーシングのダブテイル溝が、初期設計段階における静翼のハブの大きさに合わせて設計されている。そのため、ダブテイル形状の制限から、静翼の翼形状や、翼取付け位置または翼列の段数の変更自由度が制限される問題がある。
【0046】
ここで、比較例の軸流圧縮機39の出口案内翼22または静翼列18の取付け構造について
図9を用いて説明する。
図9は比較例の軸流圧縮機39の出口案内翼221、222周辺の断面図である。
図9では出口案内翼22の1段あたりの負荷を低減するために出口案内翼が2段配置されている例を示す。出口案内翼221、222は、ガスパス中に位置して作動ガスを圧縮または整流する働きをもつ翼部41a、41bと、翼部41a、41bを支持するためのアキシャルダブテイルと呼ばれる回転軸方向に突き出た凸部421a、421bを持った土台であるダブテイル42a、42bとが、一体として機械加工されている。一方、圧縮機ケーシング43は、ダブテイル42a、42bを嵌め込むためのダブテイル42a、42bと概ね同形状のダブテイル溝44a、44bを有する。
【0047】
そして、ダブテイル44aの凸部421a、421は、それぞれダブテイル溝44aに設けられた凹部441a、441bに嵌め込まれている。同様に、ダブテイル44bも凸部421c、421dを有し、それぞれダブテイル溝44bに設けられた凹部441c、441dに嵌め込まれている。かくして、出口案内翼221、222は、環状流路内に落下しないよう支持されている。
【0048】
圧縮機運転時、出口案内翼221、222は作動ガスからガス曲げ力を受ける。このガス曲げ力はダブテイル42a、42bを介して圧縮機ケーシング43へ伝えられる。さらにモーメントの釣り合いにより、出口案内翼221、222は回転力を受ける。ダブテイル凸部421a、421b、421c、421dは、この回転力を相殺するためにケーシングより圧縮力を受ける。このように、ダブテイル凸部421a、421b、421c、421dは、曲げ応力を受けることになるため、曲げ応力が材料強度に対して十分に余裕を持つよう設計される。
【0049】
次に、
図10を用いて比較例の軸流圧縮機39のダブテイル形状を説明する。
図10は出口案内翼221、222のハブ部およびダブテイル42a、42bのガスパスに接する面を回転軸15側から見た図である。出口案内翼221、222は取付け方向45のように回転軸15に対して周方向へ挿入することで圧縮機ケーシング43に嵌め込まれる。
【0050】
ダブテイル42a、42bが出口案内翼221、222の翼形状に対して過剰に大きく設計されると、
図9のケーシング首部431の幅が狭くなり、ケーシング強度が低下することが懸念される。このためダブテイル42a、42bの軸方向幅L1およびL2は出口案内翼221、222の軸方向長さB1、B2にフィレット幅を加えた長さが十分収まる範囲で小さく設計されており、L1およびL2は出口案内翼221、222の軸流方向長さと概ね同程度となる。具体的には、出口案内翼221、222の軸流方向長さB1およびB2とL1およびL2の比は例えば1.5以下である。一方、D1およびD2は空力的に設計された翼枚数が周方向に配置できるよう決定される。
【0051】
このように、比較例のダブテイル形状では、出口案内翼221、222の軸方向長さB1およびB2とダブテイル42a、42bの軸方向長さL1およびL2は概ね同程度で設計されている。そのため、既設の軸流圧縮機39に取り付けられた静翼の翼形状や翼取付け位置、翼列の段数を変更する場合にも、出口案内翼のハブがダブテイル42a、42bをはみ出さないよう設計する必要があり、変更の自由度が制限される。
【0052】
本発明の第1の実施例の静翼取付け構造を
図1を用いて説明する。
図1のうち、(a)は本発明の第1の実施例を適用した出口案内翼を回転軸の回転方向に沿って見た図であり、(b)は本発明の第1の実施例を適用した出口案内翼を回転中心から見た図である。
【0053】
本実施例における軸流圧縮機11は、圧縮機11の概中心を通る回転軸15を構成するロータ19と、ロータ19を覆う圧縮機ケーシング20と、ロータ19に取付けられた複数段の動翼列17と、圧縮機ケーシング20に取り付けられた複数段の静翼列18と、軸流圧縮機11の出口に取り付けられた複数段の出口案内翼48、49とを有する。
【0054】
そして、本実施例では、属する静翼列の異なる2つの静翼である出口案内翼48、49が一体型ダブテイル50に取り付けられており、一体型ダブテイル50は圧縮機ケーシング20に固定するための凸部501a、501bを有する。また、圧縮機ケーシング20には、一体型ダブテイル50の凸部501a、501bを嵌め込むための凹型の溝511a、511bを持つダブテイル溝51が形成されており、一体型ダブテイル50を介して、属する静翼列の異なる出口案内翼48、49が取り付けられている。
【0055】
本実施例のように、属する静翼列の異なる2つの出口案内翼48、49を一体型ダブテイル50に配置した場合、ダブテイル幅L3が翼1枚あたりの軸流方向長さB1に対して大きくとられる。B1とL3の比は例えば2以上である。本実施例の構造によれば、ダブテイル50の軸方向幅は比較例のダブテイル42と比較して大きくとられており、またダブテイル50は出口案内翼48、49の複数段に跨っている。そのため、出口案内翼48、49の再設計、段数変更、取付け位置の変更を行う場合に出口案内翼の形状・出口案内翼の軸方向位置、出口案内翼の段数を比較的自由に設計可能である。
【0056】
本実施例の構成は任意の段の静翼で適用可能だが、特に軸流圧縮機の後段に設けられた出口案内翼等、中間に動翼列の段がなく連続して取り付けられている複数の静翼段に適用する事が有効である。軸流圧縮機後段の連続した前後の静翼列に属する静翼を一体のダブテイルに取り付けることで、より高い信頼性と翼形状や翼の軸方向取付位置または翼枚数の変更自由度の確保が可能である。
【0057】
また、本実施例の構成によれば、ダブテイル51が静翼1段の軸流方向長さに対して2倍以上の軸流方向幅を持つため、軸流圧縮機運用時運転条件が設計時から変更されて圧縮機後段の静翼の翼信頼性を確保するために軸流圧縮機後段の静翼形状を変更する場合や既設の軸流圧縮機の性能を向上させるために軸流圧縮機後段の静翼形状を変更する場合に、軸方向幅を初期静翼の軸方向長さと同等程度の大きさで設計されたダブテイルと比較してダブテイルの大きさによる変更の制限が比較的小さく、翼形状や翼の軸方向取付け位置、翼枚数を変更することが容易となる。
【0058】
本実施例のダブテイル構造における翼形状の変更方法の1番目の具体例を
図11を用いて説明する。
図11のうち、(a)が変更前の構造を示し、(b)が変更後の構造を示す。
図11に示すように、本実施例のダブテイル構造における翼形状の変更方法として、前後2段で設計された出口案内翼48、49を単段出口案内翼52に変更する方法がある。2段の出口案内翼48、49を単段出口案内翼52に変更して翼弦長および翼厚みを増加することで翼の剛性を向上させることができるため、既設のガスタービンに新たに吸気噴霧や蒸気噴射等の翼負荷に影響のある機構を追加する等して出口案内翼の翼負荷が設計時より増大した場合にも十分な信頼性を確保することが可能となる。また、翼段数を減らすことで加工工程が簡略化され、コストを低減させる効果も期待できる。
【0059】
また、この際、ダブテイル50の周方向幅を併せて変更することが可能であるため、段あたりの翼枚数を変更することもできる。
図11(b)では
図11(a)に対してダブテイル50の周方向幅を変更し、出口案内翼の段数を1段に変更し、かつ段あたりの翼枚数を変更している。このように出口案内翼の段数を変化させることは静翼列毎にダブテイルを1つずつ持つ比較例のダブテイル構造では困難である。また、
図11では2段の出口案内翼48、49を1段の単段出口案内翼52へ変更する例を示したが、反対に出口案内翼の段数を2段から3段に増加させることも可能である。
【0060】
なお、出口案内翼を一段に変更する必要性が生じた際に、ダブテイル溝が比較例のダブテイル溝44a、44bであった場合は、
図12に示すように、複数のダブテイル42a、42bを備えた一段の出口案内翼53を形成する変更方法も考えられる。この変更方法であれば変更を必要とする既設の軸流圧縮機39の出口案内翼221、222のダブテイルが比較例のダブテイル42a、42bであった場合でも、圧縮機ケーシング43の加工なしに翼段数を変更することができる。
【0061】
本実施例のダブテイル構造における出口案内翼48、49の変更方法の2番目の具体例を
図13を用いて説明する。
図13のうち、(a)が変更前の構造を示し、(b)が変更後の構造を示す。
図13に示すように、本実施例のダブテイル構造における翼形状の変更方法として、前側の出口案内翼48の取付け位置を後流側へ変更する方法がある。
図13(b)では
図13(a)に対して前側出口案内翼の取付け位置L4をL5(L4<L5)に変更している。
【0062】
出口案内翼48は、図示しないさらに前側の段の動翼によって発生する後流の影響で励振力を受けるが、例えば既設のガスタービンに新たに吸気噴霧や蒸気噴射等の翼負荷に影響のある機構を追加する場合や想定外の条件で運転を行なう場合には、出口案内翼48が受ける励振力が増大することが懸念される。このような場合に、出口案内翼48の静翼をより後流側に配置すれば、前側段の動翼の後流の影響を軽減し、信頼性の確保を図ることができる。なお、このように出口案内翼48の取付け位置を変化させることは静翼1段に対してダブテイル1体を割り当てる比較例のダブテイル構造では困難である。
【0063】
本実施例のダブテイル構造における出口案内翼48、49の変更方法の3番目の具体例について説明する。静翼1段に対してダブテイル1体を割り当てる比較例のダブテイル構造では、出口案内翼48、49をタンデム翼54、55やスプリッタ翼56、57に変化させることは困難であった。
【0064】
しかし、本実施例のダブテイル構造によれば、出口案内翼48、49を
図14に示すようなタンデム翼54、55に変更することや、
図15に示すようなスプリッタ翼56、57に変更することができる。そして、本変更例のように出口案内翼48、49をタンデム翼54、55やスプリッタ翼56、57に変更することにより、出口案内翼48、49の翼負荷が設計時より増大した場合等に、タンデム翼前後翼54、55またはスプリッタ翼前後翼56、57の相互作用によって翼面の境界層剥離を抑制し、翼負荷を軽減させることが期待できる場合がある。
【0065】
上記以外にも、出口案内翼48、49におけるインシデンスを低減させるために取付角を変更する場合や、翼弦長を増加させる場合等の変更においても、本実施例のダブテイル構造は比較例のダブテイル構造と比較して翼形状の変更自由度が高い。このため、出口案内翼48、49の翼負荷が設計時より増大した場合や出口案内翼48、49の変更によって軸流圧縮機11の性能向上が見込まれる場合等に翼の設計変更が容易であるという利点がある。
【0066】
次に
図16を用いて、既設の軸流圧縮機の出口案内翼が比較例のダブテイル構造42a、42bとなっていたときの改造方法を示す。
図16(a)は比較例のダブテイル構造42a、42bで2段の出口案内翼221、222を有する軸流圧縮機39における圧縮機ケーシング43の断面図である。圧縮機ケーシング43ではケーシング首部431によって前後のダブテイル溝44a、44bが分断されている。そこでケーシング首部431を切削して除去することで、
図16(b)に示すような、前後複数段の翼が取り付けられる一体型ダブテイル50を取り付けるためのダブテイル溝51に変更できる。
【0067】
即ち、既設の軸流圧縮機において中間に動翼列の段がなく連続して取り付けられている複数の静翼段において、複数段のケーシングのダブテイル溝を連通するよう加工することで、既設の静翼ダブテイル2段ないし3段分に相当する比較的大きいダブテイルを取り付けられるようケーシングを加工することができる。そのため、既設の軸流圧縮機においても容易に一体型ダブテイルを取り付けることが可能となり、翼形状、翼の軸方向取付位置、翼枚数の変更が容易となる。
【0068】
ケーシング首部431を切削した際の切削面は
図16(b)のようにダブテイル溝51の底面と同じ高さとしてもよいが、ダブテイル溝底面よりもわずかに深く掘り込んでもよい。ケーシング首部431をダブテイル溝底面よりわずかに深く掘り込むことで切削公差により生じたわずかな凹凸がダブテイル50の底面と干渉して挿入を阻害するといった事態を未然に防ぐことができる。
【0069】
なお、本例では既設の軸流圧縮機39の出口案内翼が比較例のダブテイル42a、42bとなっていたときの改造方法を示したが、初期設計時からあらかじめダブテイル溝を
図16(b)のように複数段にわたって一体のダブテイル50を取り付けられる形状としておくことが望ましい。
【0070】
なお、本実施例では初期設計段階において軸方向に2段分の翼列を一体としたダブテイル構造を例に示したが、2段以上の翼列を一体のダブテイル構造としてもよい。この場合、ダブテイル幅に対してダブテイルをケーシングで支える面積が小さくなるためダブテイルの強度には注意が必要となるが、例えば1段あたりの翼弦長を1.5倍にして翼段数を3段から2段に変更するといった変更も可能となり、2段分を一体としたダブテイル構造より再設計の自由度はさらに向上する。
【0071】
また、本実施例では、前後2段の出口案内翼48、49を一体型ダブテイル50で保持する例について説明したが、ケーシングに取り付けられる複数段の静翼18であれば、一体型ダブテイル50の適用先は出口案内翼に限定されるものではなく、最終段静翼と出口案内翼や、その他の段の静翼のダブテイルとしても適用可能である。