(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、燃料油に関しては規格によって分類されており、例えば、重油の場合は動粘度によりA重油、B重油、C重油に分類されている。また、A重油はさらに硫黄分により1号及び2号に細分され、C重油は動粘度により1号、2号及び3号に細分されている。しかし、その細分化された燃料油であっても、精油の仕方や製造者によって混合物などが異なり、燃焼性が異なる燃料油が流通している。
【0003】
そのため、例えば、船舶を例にすると、船舶は航海中に寄港地において燃料油を積み込むが、自船に適さない燃焼性の悪い燃料油もあり、燃料油に起因するトラブルが発生している。このトラブルとしては、例えば、着火性が悪く、連続した燃焼が難しいなどの燃焼トラブルや、燃料油中の混合物が機関に悪影響を及ぼす等のトラブルがある。
【0004】
一方、例えば、船舶の場合は主機関の仕様によって使用可能な燃料油の動粘度が設定されているが、燃料油の適否は、主機の種類、大きさ等によって様々である。また、同一仕様の主機であっても、その個体差により燃料油の適否が異なる場合がある。そのため、同じ動粘度の燃料を使用する船舶であっても、ある船舶に適した燃料油が他の船舶に対して適した燃料油とは限らない。つまり、同じ分類の燃料油で同じ仕様であったとしても、全ての船舶に対して適した燃料油であるとは限らない。
【0005】
燃料油の燃焼性としては、一般的に英国規格(IP541/06)に基づいた推定セタン価(Estimated Cetane Number:以下、「ECN」ともいう)で表される。一般に、ECNが低いほど燃料油の難燃性の度合いが強くなる。そして、ECNが20以下の場合は、燃焼トラブルを発生する可能性があるといわれている。
【0006】
このようなことから、船舶の乗組員は、燃料油の積み込み時に燃料油業者から燃料油の仕様書を提出させるとともに、確認のためにサンプルを採取して専門業者に分析を依頼している。
【0007】
しかし、専門業者による分析結果を入手するには早くても3日〜5日程度を要するため、乗組員は、その分析結果がでるまでタンク内に積み込んだ燃料油を使わないという対応などで、トラブル防止に努めなければならない状況にある。
【0008】
そのため、種々の燃料油の燃焼性を容易に且つ短時間で推定できる燃料油分析装置が切望されている。
【0009】
例えば、この種の先行技術として、燃料油の15℃における密度と50℃における動粘度を使用してCCAI値を算出することで、燃料油の着火性を判定しようとした品質分析装置がある(例えば、特許文献1参照)。この品質分析装置では、他に、燃料油に含まれる高分子成分の割合を分析、不溶解微粒子の割合を分析、硫黄の割合を分析することで、燃料油の品質が適したものか否かを判定するようにしている。
【0010】
また、他の先行技術として、装置内をサンプルが燃焼しない温度に維持し、サンプルの重量変化から揮発性物質含有量を測定するようにした揮発性物質含有量を測定する装置や(例えば、特許文献2参照)、試料中のアスファルト成分を燃焼させて重量減少分でアスファルト含有量を算出するようにしたアスファルト含有量の測定装置などがある(例えば、特許文献3参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献1に記載された発明では、燃料油の密度を測定する密度測定部が必要であるとともに、50℃に加熱した状態で動粘度を測定する粘度測定部が必要であり、装置の構成が複雑になるとともに大きくなる。
【0013】
また、燃料油に含まれる高分子成分の割合を分析、不溶解微粒子の割合を分析、硫黄の割合を分析することで、燃料油の品質が適したものか否かを判定しようとしても、これらの分析を行うための装置は構成が複雑になる。しかも、燃料油に含まれる高分子成分の割合を分析するためには、低分子成分を燃焼させる温度管理が必要となる。さらに、不溶解微粒子の割合を分析するためには、トルエンなどの溶媒を添加した混合液を濾過して不溶解微粒子を得る必要がある。また、硫黄の割合を分析するためには、試料容器内にX線を照射して硫黄の重量割合と対応するX線量を測定する必要がある。そのため、これらを実現するためには装置の構成が複雑になるとともに、使用者が取扱い方法を熟知する必要があり、使用方法が難しい。
【0014】
なお、上記特許文献2,3に記載された発明では、サンプルの重量変化から揮発性物質含有量を測定したり、試料中のアスファルト成分を燃焼させて重量減少分でアスファルト含有量を算出するものであり、燃料油の燃焼性に関する分析ができるものではない。
【0015】
そこで、本願発明は、簡易な装置構成でもって燃料油の燃焼性を容易に且つ短時間で推定することができる燃料油分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本願発明は、燃料油の試料を入れる試料容器と、前記試料容器を収容する内部空間を有する加熱容器と、前記加熱容器の上部に配置する蓋体と、前記加熱容器内で前記試料容器を加熱する加熱部と、前記加熱容器内の温度変化を測定する温度測定部と、前記試料容器内の燃料油の重量変化を測定する重量測定部と、前記加熱容器の内部空間に配置された前記重量測定部の載置部と、前記温度測定部で測定した温度変化と前記重量測定部で測定した重量変化とから燃料油の燃焼性を推定する分析部と、を備え、前記試料容器は、前記蓋体の閉鎖により前記載置部に載置されるように構成されていることを特徴とする。この明細書及び特許請求の範囲の書類中では、「燃料油の試料」を「試料油」という。
【0017】
この構成により、蓋体を閉鎖することで試料容器を加熱容器の内部空間に配置することができる。そして、加熱容器内において試料容器を加熱することで、加熱容器内の温度変化と試料油の重量変化を測定し、その温度変化と重量変化との関係から試料油の燃焼性を推定することができる。従って、船舶の場合には、乗組員は燃料油の積込み時に、その燃料油の燃焼性を容易に且つ短時間で推定することができ、その燃料油の使用適否を迅速に判断することができる。そのため、専門業者による分析結果を待つことなく、速やかに積込んだ燃料油の使用開始や、場合によっては積込みを拒否することが可能となる。
【0018】
また、前記蓋体は、前記試料容器を係止する係止爪を備えており、前記係止爪は、前記蓋体を閉じることで前記試料容器を前記載置部に載置した後、前記試料容器から離れるように構成されていてもよい。
【0019】
このように構成すれば、蓋体の閉鎖動作によって係止爪で係止した試料容器が加熱容器の内部に入り、この試料容器を加熱容器内の載置部に載置することができる。しかも、係止爪は、試料容器の載置後に離れて待機するので、試料容器の重量測定に影響を与えることはない。
【0020】
また、前記係止爪は、前記試料容器を側方から挿入して外周部を係止するように形成されるとともに、前記試料容器の挿入方向に落下防止部が延設されていてもよい。
【0021】
このように構成すれば、蓋体の閉鎖動作によって加熱容器内の載置部に載置する試料容器を、適切に係止爪で係止して加熱容器の内部に落とさないようにできる。
【0022】
また、前記落下防止部は、上下方向に貫通する通気孔を有していてもよい。
【0023】
このように構成すれば、落下防止部は試料容器を加熱容器の内部に配置した後に加熱容器内にとどまるが、通気孔によって加熱容器の内部を上昇する気流を大きく乱さないようにできる。
【0024】
また、前記蓋体は、蓋本体に対して上下方向に移動可能に設けた筒状体を有し、前記筒状体は、蓋本体にガイドされて下端部が蓋体から下方に突出する状態から上下動するように構成され、前記蓋体は、加熱容器に向けて下降させ、前記筒状体の下面が加熱容器の上面に当接した後、所定量下降して閉鎖状態となるように構成されていてもよい。
【0025】
このように構成すれば、蓋体を閉鎖することで加熱容器に筒状体を当接させて、加熱容器からの排気を筒状体から適切に排出することができる。
【0026】
また、前記加熱容器の上面と前記筒状体の下面は、該筒状体の下面が加熱容器の上面に当接することで密接するように構成されていてもよい。
【0027】
このように構成すれば、蓋本体を閉じる課程で筒状体の下面を加熱容器の上面に密接させ、その状態で蓋本体をさらに下降させるので、筒状体は自重で加熱容器に密接(メタルタッチ)し、加熱容器からの排気を筒状体から排出することがより安定してできる。
【0028】
また、前記加熱容器を配置する上部ケースと前記重量測定部を配置する下部ケースとを有し、前記上部ケースと下部ケースとの間に空間を形成する隙間を設けてもよい。
【0029】
このように構成すれば、上部ケース内で加熱容器を加熱しても、その熱が重量測定部を配置した下部ケースに伝わらず、重量測定部において安定した重量測定ができる。
【0030】
また、前記加熱容器は円筒状に形成され、該加熱容器の周囲に、水平方向断面が等しい筒状の空間を形成するように前記加熱部が構成されていてもよい。
【0031】
このように構成すれば、加熱容器を周囲から均等に加熱することができるので、試料容器における試料油を周囲から均等に加熱することができる。
【0032】
また、前記加熱容器を気体冷却する冷却機を有し、前記冷却機は、前記加熱容器の上面に対して15°〜40°の範囲で下向きに冷却気体を前記加熱容器に向けて供給するように構成されていてもよい。
【0033】
このように構成すれば、燃料油の燃焼試験後に加熱容器に向けて冷却気体を通流させて加熱容器を迅速に冷却することができ、複数回の燃焼試験を迅速に行うことができる。
【発明の効果】
【0034】
本願発明によれば、簡易な装置で燃料油の燃焼性を容易に且つ短時間で推定することができるので、燃料油によるトラブルを未然に回避することができ、燃料油の積込み可否などを迅速に判断することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本願発明の実施形態を図面に基いて説明する。以下の実施形態では、船舶の燃料油である重油を分析する燃料油分析装置を例に説明する。
【0037】
図1に示すように、この実施形態の燃料油分析装置1は、試料容器60に入れた試料油80を加熱、蒸発又は燃焼させて温度変化と重量変化を測定する加熱装置10と、この加熱装置10を制御するとともに測定結果などを分析して表示する制御装置50とを備えている。
【0038】
加熱装置10は、上部ケース20と下部ケース23とを有している。上部ケース20は、試料油80を入れた試料容器60を収容する内部空間11を有する加熱容器12を備えている。この加熱容器12は、上部が開放した円筒状に形成されており、下部は塞がれている。加熱容器12は、下部が脚部材19によって上部ケース20に支持されている。
【0039】
また、加熱装置10は、加熱容器12の上部に配置する蓋体13と、加熱容器12内で試料容器60を加熱する加熱部たるヒータ14と、加熱容器12内の温度変化を測定する温度測定部たる温度センサ15〜18と、試料容器60内の試料油80の重量変化を測定する重量測定部たる秤70とを備えている。この秤70は、上方に延びる支持部材71と、その上端に設けられた載置部72とを有している。
【0040】
上記試料容器60は、上記加熱容器12の内部空間11に配置された載置部72に載置されるようになっている。載置部72は、加熱容器12の内部空間11におけるほぼ中央部に設定されている。この載置部72は、円筒状に形成された加熱容器12の中心部における軸方向のほぼ中央部に設けられており、載置部72に配置される試料容器60に入れられた試料油80を適切に加熱、蒸発又は燃焼させて試験ができるようにしている。また、加熱容器12は、その周囲に外周空間21が設けられ、その外周空間21の周囲に上記ヒータ14が配置されている。加熱容器12の周囲に設ける外周空間21としては、水平方向断面が等しい円筒状の気体層が好ましい。上記ヒータ14の周囲と下方には、断熱材22が設けられている。断熱材22は、上部ケース20の内部に設けられている。
【0041】
上記秤70は、上記支持部材71が加熱容器12と接することはなく、載置部72に載置された試料容器60の重量を正確に測定できるようになっている。秤70は、上記加熱容器12が設けられた上部ケース20と所定の隙間24を空けて設けられた下部ケース23の内部に設けられている。下部ケース23と上部ケース20との間に設けられる隙間24としては、加熱容器12の温度が下部ケース23に伝わらない空間を形成できる隙間に設定される。秤70は、例えば、測定精度が1mg〜数百mg程度の範囲で重量変化を測定できるものが用いられる。また、下部ケース23の内部には、上記ヒータ14の温度制御部25等も設けられている。
【0042】
さらに、上記上部ケース20の側部には、加熱容器12の内部を冷却する冷却機26が設けられている。この冷却機26は、下部にファン27が設けられ、上部には蓋体13を開放した状態で加熱容器12の内部に効率良く冷却空気を供給するノズル部28と補助ノズル29とが設けられている。この冷却機26を設けることにより、試験後に加熱容器12を迅速に冷却することができる。
【0043】
このように冷却機26を設け、試験後の加熱容器12を迅速に冷却できるようにすることで、燃料油分析装置1において複数回の燃焼試験を効率良く行えるようにしている。すなわち、複数回の燃焼試験を効率良く行えるようにすることで、簡易的な燃料油分析装置1において、燃焼試験の結果の精度を高めることができる。この冷却機26による加熱容器12の内部冷却は、後述する
図7において詳細に説明する。
【0044】
一方、上記制御装置50は、加熱装置10と複数の配線58で接続されている。加熱装置10は、これらの配線58を介して制御装置50によって制御される。この制御装置50は、上記温度センサ15〜18で測定した温度変化と、上記秤70で測定した重量変化とから、試料油80の燃焼性を推定する分析部53を備えている。
【0045】
また、この制御装置50には、上記分析部53で分析した結果を表示する表示部55が設けられている。この表示部55は、液晶モニタなどである。表示部55に表示するデータとしては、図示する試料油の温度変化と重量変化との関係を示す燃焼特性グラフや、温度変化と重量変化とから算出される試料油の推定燃焼性(推定セタン価:以下、「ECN」ともいう)などである。
【0046】
さらに、制御装置50には、試験を行った試料油80の「給油地」、「名称」、「業者」等の情報とともに、上記燃焼特性グラフや推定燃焼性などをデータベースとして保存しておく保存部56も備えている。この保存部56に燃焼特性グラフや推定燃焼性などをデータベースとして保存しておくことにより、後に他の試料油の試験結果と比較して試料油80の良否を推定する資料として利用できる。
【0047】
この利用方法としては、今試験をして表示部55に表示された試料油80の燃焼特性グラフと、過去のデータベースから同じ分類の試料油における燃焼特性グラフとを表示して比較する。これにより、今試験をした試料油80の燃焼性適否を、過去のデータから推定することができる。例えば、表示部55に、過去に問題のあった試料油の燃焼特性グラフと、全く問題のなかった試料油の燃焼特性グラフを表示する。そして、今試験をした試料油80の燃焼特性グラフがどちらの燃焼特性グラフに近似しているかを確認する。これにより、今試験をした試料油80の燃焼特性グラフが、過去に問題があった試料油の燃焼特性グラフに近似していれば問題があり、問題がなかった試料油の燃焼特性グラフに近似していれば問題はないだろう、と試料油80の燃焼性を推定することができる。また、制御装置50においてECNを算出して同時に表示し、試料油80の燃焼性の適否を判断するようにしてもよい。
【0048】
さらに、制御装置50には、各種操作を行う操作部57が設けられている。操作部57としては、タッチパネル式、ボタン式などが用いられる。
【0049】
図2は、上記燃料油分析装置1における制御に関する主な構成を示すブロック図である。図示するように、上記制御装置50の記録部52には、上記温度センサ(温度測定部)15〜18で測定した温度変化と、上記秤(重量測定部)70で測定した重量変化とが、入力部51を介して入力される。そして、分析部53により、記録部52に記録された温度変化と重量変化とから、試料油(燃料油)80の燃焼特性グラフの作成やECNが算出されるようになっている。この分析部53は、例えば、数値計算ができるCPUなどである。
【0050】
また、保存部56には、過去の燃焼特性グラフなどが保存されており、上記したように表示部55に表示して、新たに試験をした燃焼特性グラフを過去の燃焼特性グラフと比較することができる。しかも、分析部53の比較部54において、新たに得られた燃焼特性グラフを過去の燃焼特性グラフと比較することもできる。
【0051】
この実施形態では、記録部52を1つの構成で示しているが、温度記録部、重量記録部等の別々な構成としてもよい。また、記録部52及び分析部53は、例えば、パーソナルコンピュータとしてもよい。この場合、パーソナルコンピュータに温度及び重量の測定結果を送り、パーソナルコンピュータで分析して結果を表示するようにすればよい。
【0052】
次に、
図3に基いて上記加熱装置10における加熱容器12の周辺の構成を詳細に説明する。加熱容器12は、上部に鍔部31が設けられて下端が塞がれた筒状の容器である。加熱容器12は、縦型として内部空間11を円柱状とすることにより、試料容器60の周囲で均等に温度上昇するようにしている。
【0053】
加熱容器12の内部空間11には、中央部分に上記載置部72が位置し、この載置部72に試料容器60が載せられる。載置部72は、支持部材71の上端に設けられ、この支持部材71を介して試料容器60の重量変化が上記秤70(
図1)によって測定されるようになっている。支持部材71は、加熱容器12の下端を貫通しており、秤70に連結されている。
【0054】
試料容器60は、中央に凹部61が形成された円形皿状の容器であり、外周部が鍔部62になっている。凹部61は、所定量の試料油80を入れる容量を有している。この試料容器60は、支持部材71の上端に設けられた載置部72に載せられ、その後の試料油80の重量変化が秤70で測定される。
【0055】
さらに、加熱容器12の内部空間11には、この加熱容器12の内部温度を測定する複数個の温度センサ15〜18が上下位置に設けられている。この実施形態では、試料容器60の上方に設けられた温度センサ15,17と、試料容器60の下方に設けられた温度センサ16,18によって、加熱容器12の内部空間11における温度変化を測定している。試料容器60の上方と下方位置に比較的近接して温度センサ15,16が設けられ、離れた位置に温度センサ17,18が設けられている。温度センサ15〜18は、少なくとも試料容器60の上下に設けられている温度センサ15,16があればよいが、加熱容器12内の温度を正確に測定するために温度センサ17,18を設けている。これらの温度センサ15〜18は、熱電対を用いることができる。
【0056】
上記ヒータ14は、上記加熱容器12の内部空間11で試料容器60を全周から加熱するように周囲に設けられている。ヒータ14は、そのヒータ線が相互に接触しないように断熱材22に埋設されている。また、ヒータ14の外周も断熱材22によって覆われている。これにより、ヒータ14によって加熱容器12を加熱しても、上部ケース20の外面は断熱材22によって適温に保たれる。
【0057】
また、上記下部ケース23の内部には、上記ヒータ14の温度制御を行う温度制御部25が設けられている。この温度制御部25でヒータ14の温度制御が行われ、上記加熱容器12の内部空間11の温度が所定温度範囲で加熱制御される。
【0058】
さらに、この実施形態では、上記内部空間11に外部から空気を供給する空気ポンプ75が設けられている。この空気ポンプ75は、モータ76によって駆動されている。この空気ポンプ75により、配管77を介して内部空間11に空気が送られる。空気ポンプ75は、必要に応じて設けられる。
【0059】
一方、上記加熱容器12の上方には、開閉可能な蓋体13が設けられている。この蓋体13は、加熱容器12の上面を塞いでいる。蓋体13の中央部には、加熱容器12の上面に密接し、加熱容器12の内部空間11から空気を逃がす排気口34を有する筒状体33が設けられている。
【0060】
筒状体33には、下端に鍔部35が設けられており、上記加熱容器12の鍔部31と密接(メタルタッチ)するようになっている。筒状体33は、蓋体13の内部で昇降可能に設けられている。蓋体13は、上部ケース20に設けられた案内軸32に沿って昇降可能となっている。蓋体13の昇降は、アクチュエータや手動で行われる。
【0061】
この実施形態では、上記したように加熱容器12を縦型とし、内部空間11を円柱状とすることで、空気ポンプ75によって内部空間11に供給された空気が、加熱容器12の内部で均等な対流を生じながら蓋体13の排気口34に流れる。
【0062】
また、筒状体33には、上記試料容器60を載置部72に載置するための係止爪37が設けられている。係止爪37は、筒状体33の中心軸上を下方に延びるブラケット36に設けられている。この係止爪37は、試料容器60の鍔部62を下方から係止できる大きさに形成されている。図示する状態は、この係止爪37に試料容器60を係止し、蓋体13を閉じて試料容器60を載置部72に載置した状態を示している。
【0063】
図4に示すように、上記係止爪37は、試料容器60を一方(手前側)から挿入し、その鍔部62を係止できるように、3方に爪材38が設けられている。図示する奥位置と左右位置に爪材38が設けられ、これらの爪材38は試料容器60の鍔部(外周部)62を係止するように内方に向けて突出している。また、図示する左右位置に設けられた爪材38には、内方に向けて突出した部分から手前方向に落下防止部39が延設されている。この落下防止部39は、係止爪37に試料容器60を係止する時に、その試料容器60を加熱容器12の内部空間11に落とさないように、挿入方向(手前方向)に向けて延びている。
【0064】
また、この落下防止部39には、上下方向に貫通する通気孔40が設けられている。この通気孔40を設けることにより、試料容器60を載置部72に載せた後(
図3)、加熱容器12の内部空間11内にとどまる落下防止部39が内部空間11の気流を大きく乱さないようにしている。
【0065】
さらに、この実施形態では、試料容器60の鍔部62にも複数個の貫通穴63を設けている。この貫通穴63によっても、加熱容器12の内部空間11における気流を乱さないようにしている。
【0066】
次に、
図5A,
図5Bに基いて、上記試料容器60を載置部72に載置する流れを説明する。
図5Aに示すように、蓋体13を開放(上昇)した状態では、筒状体33は、ガイド部44が蓋本体41に設けられた案内部42にガイドされて自重で下降し、下端に設けられた係止片43で支持された状態となる。この状態では、筒状体33の下端の鍔部35が蓋本体41の下面から突出し、係止爪37が加熱容器12の上方に位置している。この状態で、所定量の試料油80を入れた試料容器60を係止爪37に係止する。
【0067】
そして、
図5Bに示すように、蓋体13を下降させると、まず係止爪37に係止された試料容器60が載置部72に載置される。その後、筒状体33の鍔部35の下面が加熱容器12の鍔部31の上面にメタルタッチで密接する。その後、さらに蓋体13を下降させると、筒状体33が加熱容器12の上部に載った状態のまま、蓋本体41のみが下降して断熱材22の上面に接して止まる。このように蓋体13を閉めた状態では、加熱容器12と筒状体33とが密接しているので、加熱容器12の内部で加熱された空気は筒状体33の排気口34からスムーズに外部へ排出することができる。
【0068】
このように、試料油80を入れた試料容器60を載置部72に載置し、蓋体13を閉めた状態で、燃料油分析装置1による試料油(燃料油)80の燃焼試験が行われる。この試験としては、制御装置50によってヒータ14に通電し、加熱容器12の内部空間11が加熱される。この加熱によって、加熱容器12の内部温度が上昇する。この温度変化は、温度測定部である温度センサ15〜18によって測定される。そして、測定された温度は、入力部51を介して記録部52に記録される。
【0069】
また、加熱容器12の内部温度上昇によって試料容器60に入れらた試料油80が蒸発又は発火することで重量が変化する。この重量変化は、重量測定部である秤70によって測定される。そして、この測定された重量変化も、入力部51を介して記録部52に記録される。
【0070】
その後、加熱容器12の内部温度を所定の温度まで上昇させることで得られた温度変化と、その温度上昇の過程で得られた試料油80の重量変化とから、分析部53によって以下のように試料油(燃料油)80の燃焼性が推定される。
【0071】
まず、上記分析部53において、試料油80の重量が大きく減少し、加熱容器12の内部温度が大きく上昇した温度が、その試料油80の発火温度と推定される。そして、その発火温度から試料油80のECNを推定することで、その試料油80の燃焼性を推定することができる。この推定としては、ECNが、例えば、20を超えるか否かを同時に表示するようにしてもよい。
【0072】
さらに、上記分析部53において、例えば、試験をする燃料油のECN実測値に基いてECN推定式を予め作成しておく。そして、そのECN推定式によって、設定温度域(例えば、低温域と高温域)における試料油80の重量減少量からECNを推定することで、その試料油80の燃焼性を推定するようにしてもよい。この推定としても、ECNが、例えば、20を超えるか否かを同時に表示するようにしてもよい。
【0073】
また、上記分析部53において、記録部52に記録した温度変化と重量変化とから、加熱温度に対する重量変化を試料油の燃焼特性グラフとして作成し、その燃焼特性グラフを表示部55に表示して試料油(燃料油)80の燃焼性を推定できるようにしてもよい。
【0074】
図6は、一例として、上記燃料油分析装置1によってC重油(500cSt)を燃焼試験し、その温度変化と重量変化とから作成した燃焼特性グラフである。このような燃焼特性グラフは、異なる燃料油(例えば、C重油(180cSt)、C重油(380cSt)など)においても同様に作成することができる。この燃焼特性グラフから燃焼性を推定する方法としては、例えば、良い燃料油は低い温度から重量が減少するが、悪い燃料油は緩やかに重量が減少し、高い温度で一気に重量が減少する、というような過去の経験などに基いて推定することができる。
図6に示す燃焼特性グラフによれば、「500−1」、「500−3」と表示された燃料油は、低い温度から重量が減少している。しかし、「500−6」と表示された燃料油は、高い温度で一気に重量が減少しているため、この「500−6」の燃料油は燃焼性が悪い、と推定することができる。
【0075】
しかも、この燃焼特性グラフによる燃焼性の推定としては、上記比較部54において、今試験をした燃料油の燃焼特性グラフと、過去の同一分類の燃料油における燃焼特性グラフとを表示部55に表示させ、それらの燃焼特性グラフを比較して燃焼性を推定するようにしてもよい。このようにして燃焼性を推定する場合、例えば、今試験をした燃料油の燃焼特性グラフと、過去に問題がなかった燃料油と、問題があった燃焼特性グラフと、を同時に表示部55に表示させる。そして、今試験をした燃料油の燃焼特性グラフが過去のどちらの燃焼特性グラフに近似しているかを比較することで、今試験をした燃料油の燃焼性に問題が有るか無いかを推定することができる。
【0076】
一方、
図1に示すように、この実施形態の燃料油分析装置1は、加熱容器12の側方に、この加熱容器12を強制冷却する冷却機26を備えている。燃料油分析装置1における燃焼試験は、少量の試料油80を燃焼させて行うため、複数回の試験を行うことで信頼性の高い燃焼性の判断をすることができる。そのため、燃焼試験によって高温(例えば、800℃)に加熱された加熱容器12を迅速に冷却することで、試験間隔を短くして効率良く燃焼試験を行うことができる。
【0077】
図7に示すように、この実施形態では、ノズル部28の先端に補助ノズル29が設けられており、蓋体13を開放した後、補助ノズル29を加熱容器12の方向に傾ける。そして、冷却機26の下部に設けられたファン27(
図1)を駆動すると、上部のノズル部28から冷却空気30が加熱容器12に向けて噴射される。これにより、補助ノズル29の先端部から噴射される冷却気体30は、その噴射角度θが、加熱容器12の内部空間11に供給されやすい角度で噴射される。この噴射角度θは、水平線に対して約15°〜40°程度が好ましい。
【0078】
しかも、この実施形態では、補助ノズル29から噴射した冷却気体30を、加熱容器12の内部空間11と加熱容器12とヒータ14(断熱材22)との間の外周空間21に通流させて、加熱容器12を内側と外側とから効率良く冷却することができる。
【0079】
従って、高温まで加熱した加熱容器12を測定開始温度まで迅速に冷却して、複数回の燃焼試験を効率良く行うことができる。
【0080】
以上のように、上記燃料油分析装置1によれば、試料容器60に所定量の試料油80を入れ、その試料容器60を蓋体13の係止爪37に係止して蓋体13を閉じることにより、加熱容器12の内部空間11に設けられた載置部72に試料容器60を適切に載置することができる。その後、制御装置50を操作することにより、加熱容器12がヒータ14で加熱され、その内部空間11で試料油80の燃焼試験が行われる。そして、内部空間11における温度変化と試料容器60の重量変化とが測定されて、制御装置50の記録部52に記録される。この燃焼試験時には、加熱容器12が設けられた上部ケース20の熱が隙間24によって下部ケース23に伝わらないため、秤70による重量測定を安定して行える。
【0081】
また、これらの重量変化と温度変化との関係から、分析部53で試料容器60に入れられた試料油80の燃焼特性グラフが作成され、さらに、推定セタン価(ECN)が算出される。これら燃焼特性グラフとECNは、表示部55に表示することで、試験者はこれらの情報から試料油80の燃焼性を判断することができる。
【0082】
その上、上記燃料油分析装置1によれば、試験後、蓋体13を開放することで試料容器60を係止爪37によって加熱容器12の上方まで出すことができる。そして、冷却機26の補助ノズル29を加熱容器12に向けて傾け、冷却気体30を供給することで、加熱容器12を迅速に冷却することができる。そのため、複数回の燃焼試験を行う場合でも、高温まで加熱した加熱容器12を測定開始温度まで迅速に冷却することができ、効率良く複数回の燃焼試験を行うことができる。
【0083】
なお、上記実施形態では、蓋体13の筒状体33によって試料容器60を載置部72に載置し、その筒状体33の下面を加熱容器12の上面に密接させて排気口34と連なるようにしている。しかし、試料容器60を載置部72に載置する構成と、加熱容器12の上面を排気口34と連なるようにする構成とを別々にしてもよく、これらは上記実施形態に限定されるものではない。
【0084】
また、上記実施形態では、加熱装置10の下部ケース23にヒータ14の温度制御部25を設けている。しかし、この温度制御部25は制御装置50に設けてもよく、各構成は加熱装置10又は制御装置50の好ましい方に設けるようにすればよく、上記実施形態に限定されるものではない。
【0085】
さらに、上記実施形態は一例を示しており、本願発明の要旨を損なわない範囲での種々の変更は可能であり、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。