(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6185792
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】半導体ウエハの分断方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20170814BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
H01L21/78 Q
H01L21/78 V
H01L21/304 631
H01L21/78 G
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-178257(P2013-178257)
(22)【出願日】2013年8月29日
(65)【公開番号】特開2015-46555(P2015-46555A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年6月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114030
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿島 義雄
(72)【発明者】
【氏名】上村 剛博
【審査官】
中田 剛史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−089622(JP,A)
【文献】
特開2010−173251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工すべき半導体ウエハの一面を研削砥石で研削して薄板化すると共に分断予定ラインに沿って分断する半導体ウエハの分断方法であって、
円周稜線に沿って刃先を有するスクライビングホイールを、前記半導体ウエハの上面の分断予定ラインに沿って押圧しながら転動させることによって、厚み方向に浸透するクラックからなるスクライブラインを形成し、このとき形成されるクラック深さは次の研削砥石による研削で薄板化された半導体ウエハの厚み全域に浸透しない深さとし、
次いで、前記半導体ウエハを表裏反転させ、スクライブライン形成面の反対側の面を研削砥石で研削して半導体ウエハを薄板化し、
次いで、スクライブライン形成面の反対側の面から前記スクライブラインに沿ってブレイクバーを押圧することにより、前記半導体ウエハを撓ませて前記クラックをさらに浸透させて半導体ウエハを分断することを特徴とする半導体ウエハの分断方法。
【請求項2】
前記半導体ウエハに前記スクライブラインを形成した後、前記スクライブライン形成面に保護シートを貼り付けて前記研削砥石による研削を行うようにした請求項1に記載の半導体ウエハの分断方法。
【請求項3】
加工すべき半導体ウエハの一面を研削砥石で研削して薄板化すると共に分断予定ラインに沿って分断する半導体ウエハの分断方法であって、
円周稜線に沿って刃先を有するスクライビングホイールを、前記半導体ウエハの上面の分断予定ラインに沿って押圧しながら転動させることによって、厚み方向に浸透するクラックからなるスクライブラインを形成し、このとき形成されるクラック深さは次の研削砥石による研削で薄板化された半導体ウエハの厚み全域に浸透する深さとし、
次いで、スクライブライン形成面に保護シートを貼り付けて前記半導体ウエハを表裏反転させ、前記スクライブライン形成面の反対側の面を研削砥石で研削して半導体ウエハを薄板化すると同時に半導体ウエハを前記スクライブラインに沿って分断することを特徴とする半導体ウエハの分断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に電子回路が形成されたシリコン等の半導体ウエハの分断方法に関する。特に本発明は、母体となる半導体ウエハを、その表面に形成された複数の電子回路を区画する分断予定ラインに沿って分断し、チップサイズの単位製品に個片化する半導体ウエハの分断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種半導体デバイスの製造に用いられるシリコンウエハは、低電力、高集積化等の観点からその厚みを薄くすることが要求されており、最近では厚さを25μm〜50μmまで薄くすることが要求されている。通常、シリコンウエハを薄く加工するには、電子回路を形成した面とは反対側の面を平らな研削砥石で研削することにより行われている。しかし、厚みを薄くしていくと、電子回路形成時の残留応力等の影響で反りが発生するようになる。反りが発生したシリコンウエハを分断工程で分断しようとすると、欠けや不規則な亀裂が発生して不良品の原因となる。
【0003】
そこで、シリコンウエハを薄く研削加工する前に、ダイシングソーの回転ブレードでシリコンウエハの表面に分断用の溝を加工しておく技術(いわゆる「先ダイシング」)が特許文献1などで提案されている。
【0004】
図6は、上記特許文献等で開示された従来技術を示す説明図である。まず、
図6(a)に示すように、厚みのあるシリコンウエハ13の一面(電子回路形成面)の分断予定ライン上に、分断用の溝14をダイシングソーの回転ブレード15を用いて切削加工する。溝14の深さは、次工程で研削砥石により所定の厚みに研削されたときに、溝14が上下に貫通しない程度にしておく。
次いで
図6(b)に示すように、シリコンウエハ13の溝14加工面に保護シート16を貼着し、該保護シート16貼着面が下方となるように台板19上に載置し、上方から粗研削用の研削砥石17で研削して、
図6(c)に示すように所定の薄さに加工する。
最後に、
図6(d)に示すように、仕上げ研削用の研削砥石18で仕上げ研削を行い、溝14の残った底部分を研削除去することにより溝14を貫通させてシリコンウエハ13を分断する。
なお、研削砥石による研削作業を二段階に分けて行うのは、最初の粗研削の段階で溝14が開口するまで研削すると、目の粗い研削砥石17によって溝14の開口縁に欠け等の損傷が発生するからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−017442号公報
【特許文献2】特開平5−090403号公報
【特許文献3】特開2002−224929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した従来プロセスでは、シリコンウエハに分断用の溝を加工するに際しダイシングソーが用いられている。ダイシングソーは、特許文献2や特許文献3等に開示されているように、高速回転する回転ブレードを備え、回転ブレードの冷却と切削時に発生する切削屑を洗浄する切削液を回転ブレードに噴射しながら切削するように構成されている。
しかし、回転ブレードを用いた切削による溝加工では、切削屑が多量に発生し、たとえ切削液で洗浄したとしても、切削液の一部が溝内や溝形成面に残留したり、或いは切削時の飛散により切削屑がシリコンウエハに付着することがあって、品質や歩留まりの低下の大きな原因となる。また、切削液の供給や廃液回収のための機構や配管を必要とするため装置が大掛かりとなる。加えて、切削によって溝加工するものであることから、切削面や溝エッジに小さなチッピング(欠け)が発生して、きれいな分断面を得られないことがある。また、高速回転する回転ブレードの刃先はノコ歯状で形成されているため、刃先の摩耗や破損が生じやすく使用寿命が短い。さらに、回転ブレードの厚みは強度の面からあまり薄くすることができず、小径のものであっても60μm以上の厚みで形成されているため、そのブレードの幅に相当する切削幅を必要とし、材料の有効利用が制限される要因の一つにもなるなどの問題点があった。
さらに、従来プロセスでは、
図6に示したように粗研削砥石17でシリコンウエハ13を研削した後、溝14を貫通させるのに仕上げ砥石18で再度研削するため、研削屑などが貫通した溝14から保護シート16側に侵入して残留するといった問題点もあった。
【0007】
そこで本発明は、上記した従来課題の解決を図り、ダイシングソーを用いることなく、簡単な手法で効果的に、かつ、きれいに分断することができるとともに、薄板化することができる半導体ウエハの分断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明では次のような技術的手段を講じた。すなわち本発明は、加工すべき半導体ウエハの一面を研削砥石で研削して薄板化すると共に分断予定ラインに沿って分断する半導体ウエハの分断方法であって、円周稜線に沿って刃先を有するスクライビングホイールを、前記半導体ウエハの上面の分断予定ラインに沿って押圧しながら転動させることによって、厚み方向に浸透するクラックからなるスクライブラインを形成し、このとき形成されるクラック深さは次の研削砥石による研削で薄板化された半導体ウエハの厚み全域に浸透しない深さとし、次いで、前記半導体ウエハを表裏反転させ
、スクライブライン形成面の反対側の面を研削砥石で研削して半導体ウエハを薄板化し、次いで、スクライブライン形成面の反対側の面から前記スクライブラインに沿ってブレイクバーを押圧することにより、前記半導体ウエハを撓ませて前記クラックをさらに浸透させて半導体ウエハを分断するようにしている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スクライブラインのクラックが厚み方向に浸透して半導体ウエハが分断されるものであるから、従来のダイシングソーの切削による場合のようなチッピング等の発生を抑制することができ、きれいな切断面で分断することができるとともに、ダイシングソーのような切削幅を必要とせず、材料を有効利用することができる。また、スクライブライン形成面に切削屑が生じないことから、切削屑の付着による品質の劣化や不良品の発生をなくすことができる。
特に本発明では、従来のダイシングソーのような切削液を使用せず、ドライ環境下で分断するものであるから、切削液の供給や廃液回収のための機構や配管を省略でき、かつ、切断後の洗浄や乾燥工程も省略できて装置をコンパクトに構成することができるといった効果がある。
【0010】
上記分断方法において、半導体ウエハにスクライブラインを形成した後、スクライブライン形成面に保護シートを貼り付けるようにするのがよい。
これにより、スクライブライン形成面に加工された電子回路を保護するとともに、スクライブラインのクラックを半導体ウエハの厚み全域に浸透させて分断したときに、分断された単位製品が保護シートに付着した状態で分散することなく保持することができる。
【0011】
本発明において、前記スクライビングホイールによるスクライブライン形成時に、スクライブラインのクラックを、次の研削砥石による研削で薄板化された半導体ウエハの厚み全域に浸透する深さとするのがよい。この場合、スクライブライン形成面には保護シートを貼り付けて研削を行うようにする。
これにより、スクライブライン形成面とは反対側の面を研削砥石で研削して薄板化したときに、厚み全域に浸透したクラックにより半導体ウエハがスクライブラインから分断されて、次のブレイク工程を省略することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の分断方法の加工対象となるシリコンウエハの平面図。
【
図3】本発明の分断方法の別実施例を示す
図2同様の説明図。
【
図4】本発明の分断方法のさらに他の実施例を示す
図2同様の説明図。
【
図5】本発明で使用されるスクライビングホイールとそのホルダ部分を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る半導体ウエハの分断方法の詳細を、図面に基づいて説明する。
図1は加工対象となるシリコンウエハの平面図であって、X−Y方向に延びる格子状の分断予定ラインLに沿って以下に述べる分断方法により分断することにより、チップサイズの単位製品W1が取り出される。この加工対象となるシリコンウエハWは、分断前において、例えば100〜300μmの厚みを有しており、以下に述べる分断の過程において25μm〜50μmの厚みに薄板化される。
【0014】
図2は本発明に係るシリコンウエハ(半導体ウエハ)Wの分断方法の一実施例を示す説明図である。
この実施例では、最初に、例えば100〜300μmの厚みを有するシリコンウエハWをテーブル1上に載置し、
図5に示すようなスクライビングホイール10を用いてシリコンウエハWの表面にクラック(厚み方向に浸透する亀裂)からなるスクライブラインSを加工する。
スクライビングホイール10は、超硬合金や焼結ダイヤモンドなどの工具特性に優れた材料で形成されており、円周稜線(外周面)に刃先10aが形成されている。具体的には直径が1〜10mm、特には1.5〜5mmで刃先角度が85〜160度のもの、特には90〜140度のものを使用するのが好ましく、加工される材料の厚みや種類によって選択される。
このスクライビングホイール10は、ホルダ11に回転可能に支持され、昇降機構12を介してスクライブヘッド(図示略)に保持される。スクライブヘッドは、シリコンウエハWを水平に載置する台板(図示略)の上方で分断予定ラインLの方向に沿って移動できるように形成されている。
そして
図2(a)に示すように、スクライビングホイール10を、シリコンウエハWの表面で分断予定ラインL(
図1参照)に沿って押圧しながら転動させることにより、シリコンウエハWにクラック(亀裂)からなるスクライブラインSを形成する。このスクライブラインSは、次の工程の研削砥石3による研削で25〜50μmの厚みに薄板化されたシリコンウエハWの厚み全域に浸透しない程度、好ましくは厚みの半分程度に浸透するクラック深さとなるように形成する。
【0015】
次いで、
図2(b)に示すように、スクライブラインS形成面に保護シート2を貼り付けてシリコンウエハWを表裏反転させ、テーブル1上に載置する。そして、スクライブラインS形成面とは反対側の面を研削砥石3(
図6の粗研削用砥石17と同じものでよい)で研削して、
図2(c)に示すように、シリコンウエハWを25〜50μmの厚みまで薄板化する。
【0016】
次いで、
図2(d)に示すように、シリコンウエハWの保護シート2を貼り付けたスクライブラインS形成面で、スクライブラインSを挟むようにその両脇に沿って延びる左右一対の受台4、4を配置し、シリコンウエハWの外面側(受台4、4の反対側)からスクライブラインSに向けて長尺のブレイクバー5を押しつける。これにより、シリコンウエハWが押圧方向とは反対側に撓んで、シリコンウエハWのスクライブラインSのクラックが厚み全域に浸透してシリコンウエハWが分断される。
最後に保護シート2を取り除くことにより、
図1に示す個片化されたチップサイズの単位製品W1が取り出される。
【0017】
上記実施例において、ブレイクバー5によるブレイク加工時に、シリコンウエハWを受ける左右一対の受台4、4に代えて、
図3に示すように、シリコンウエハWが撓む程度に凹ませることが可能な厚みを有するクッション材6をシリコンウエハWのスクライブラインS形成面に接して配置するようにしてもよい。
【0018】
図4は本発明に係る分断方法の別の実施例を示すものである。
この実施例では、
図4(a)で示すスクライビングホイール10によるスクライブラインS形成時に、スクライブラインSのクラックを、次の研削砥石3による研削で薄板化されたシリコンウエハWの厚み全域に浸透する深さとした。
したがって、
図4(b)に示すように、
図2と同様の工程によりシリコンウエハWのスクライブラインS形成面に保護シート2を貼り付けた後、スクライブラインS形成面とは反対側の面を研削砥石3(
図6の粗研削用砥石17と同じものでよい)で研削して、
図4(c)のように薄板化したときに、シリコンウエハWはその厚み全域に浸透したクラックによってスクライブラインSから分断される。これにより、次のブレイク工程を省略することができる。
この場合、研削砥石3でクラックに到達する薄さまで研削したときに、クラックは幅を有しない亀裂であることから、研削屑がクラックから下方に侵入することはほとんどなく、また、クラックは幅のない亀裂であって溝ではないため溝縁に砥石が当たってクラック部分に欠け等の損傷を生じさせることもない。
【0019】
以上のように本発明では、スクライブラインSのクラックが厚み方向に浸透してシリコンウエハWが分断されるものであるから、従来のダイシングソーによる切削加工の場合のようなチッピングの発生を抑制することができ、きれいな切断面で分断することができるとともに、ダイシングソーのブレード幅に相当する切削幅を必要とせず、材料を有効利用することができる。また、スクライブライン形成面に切削屑が生じないことから、切削屑の付着による品質の劣化や不良品の発生をなくすことができる。特に本発明では、従来のダイシングソーのような切削液を使用せず、ドライ環境下で分断するものであるから、切削液の供給や廃液回収のための機構や配管を省略でき、装置をコンパクトに構成することができる。
【0020】
以上本発明の代表的な実施例について説明したが、本発明は必ずしも上記の実施形態に特定されるものではない。例えば、
図3で示した実施例において、シリコンウエハWのスクライブラインS形成面に貼り付ける保護シート2を省略することもできる。
その他本発明では、その目的を達成し、請求の範囲を逸脱しない範囲内で適宜修正、変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の分断方法は、シリコン等からなる半導体ウエハの薄板化と分断に利用できる。
【符号の説明】
【0022】
L 分断予定ライン
S スクライブライン
W 半導体ウエハ(シリコンウエハ)
1 テーブル
2 保護シート
3 研削砥石
4 受台
5 ブレイクバー
10 スクライビングホイール
10a 刃先