(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般に、電気配線に電線を用いる場合は、電線の両端に接続端子が取り付けられる。従来より、この種の接続端子として圧着端子が多用されている。圧着端子は、所与の電線を挿入または装着できる円筒状または断面U字状の圧着胴部(バレル部)と、この圧着胴部の一端から長手方向に延びる丸形または先開形の舌部とを一体に有している。圧着胴部に電線の一端部が圧着によって接続され、舌部がボルトで端子盤等に取り付けられる。一般に、圧着端子は、銅系の金属からなり、腐食防止のために錫メッキを施すこともある。
【0003】
一方、電線は、単線、多線(多芯)を問わず、銅線、特に被覆銅線が多用されている。被覆銅線を圧着端子に接続する場合は、銅線の表面から絶縁被膜を除去する必要があり、端子接続構造の量産工場ではヒュージング加工が行われている。
【0004】
この種のヒュージング加工においては、被覆銅線の一端部を包み込むようにして装着している圧着端子の圧着胴部を一対の電極で挟み付けて加圧し、両電極間に電流を流す。すると、圧着胴部で発生するジュール熱により被覆銅線の絶縁被膜が押し出されて除去され、中から銅線が露出し、圧着胴部と銅線との間で導通状態となり、銅線がジュール熱で軟化して圧着胴部と密着し固相接合する。さらに、銅線が圧着胴部によりかしめられ、接合強度が一層増大する。かかるヒュージング加工では、圧着胴部内で銅線を速やかに軟化させるために、700℃〜900℃の温度で加熱している。
【0005】
ところで、近年、自動車(特にハイブリッド自動車や電気自動車)用の電線やモータ用の電線(巻線)においては、軽量化とコストダウンを目的として、アルミ線(アルミニウム電線)の採用が検討されている。銅線をアルミ線に置き換えると、同じ電流を流す場合、約35%の軽量化を達成できる。しかしながら、アルミ線と圧着端子とは材質が異なるうえ、アルミ線の表面に酸化被膜が存在するため、ヒュージング加工によっても物理的および電気的に安定した端子接続構造を得ることは難しい。このため、銅線からアルミ線への置き換えは進んでいない。
【0006】
そこで、近頃は、銅線から銅クラッドアルミニウム電線への置き換えが検討されている。銅クラッドアルミニウム電線は、アルミニウムの芯部(芯線)と銅のクラッド層とを有する複合材料の電線であり、重量が銅線と比べて相当軽く、価格も銅線の約1/2程度と低い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
銅クラッドアルミニウム電線も、たとえば自動車用電線として電気配線に用いられるときは、その両端部に接続端子たとえば圧着端子が取り付けられる。銅クラッドアルミニウム電線の外観は銅線と同じなので、一見すると、従来の銅線と圧着端子との接続に用いられている従来のヒュージング加工を銅クラッドアルミニウム電線と圧着端子との接続にもそのまま使えるように考えられる。
【0009】
ところが、本発明者が実験で試したところ、銅クラッドアルミニウム電線と圧着端子との接続に従来のヒュージング加工を適用し、クラッド層の銅を軟化させるために700℃〜900℃の温度で熱カシメを行うと、芯部のアルミニウムが溶融して噴き出し、熱圧着の接続が上手くいかないことが判明した。また、溶融したアルミニウムがクラッド層の銅と合金を形成して酸化被膜の生成や腐食を招く結果、電気的特性も良くないことがわかった。特に、多数の細い銅クラッドアルミニウム素線からなる多芯式の銅クラッドアルミニウム電線においては、上記のような問題が顕著に露見することがわかった。
【0010】
業界では、むしろ、銅クラッドアルミニウム電線のクラッド層がはんだ付けしやすい銅であることを利用して、銅クラッドアルミニウム電線を圧着端子にはんだ付けで接続する端子接続技術の開発が主流になっている。しかしながら、銅のクラッド層は、薄いため(通常10μmm以下)、半田によって侵食(いわゆる銅食われ)されやすい。そして、銅のクラッド層が破れてアルミニウムの芯部が露出すると、半田はアルミニウムとは結合しないので、はんだ付けの接合強度および電気的伝導性が低下する。特に、多芯式の銅クラッドアルミニウム電線においては、はんだ浴に漬けて素線の間に半田を流し込むようにしているが、このような半田付け方法は長い処理時間を必要とするだけでなく、素線の間の隙間が半田で埋まってもいずれは銅食われが起きやすいので、問題は解決しない。
【0011】
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、銅クラッドアルミニウム電線と圧着端子との間で良好な物理的および電気的特性が安定確実に得られる端子接続構造ならびにその製造方法および製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明における端子接続構造の製造方法は、圧着端子の圧着胴部に複数の銅クラッドアルミニウム素線を含む銅クラッドアルミニウム電線が熱圧着で接続される端子接続構造を製造するための方法であって、前記銅クラッドアルミニウム電線を前記圧着端子の前記圧着胴部に包み込まれるように装着する第1の工程と、前記銅クラッドアルミニウム電線を包み込んでいる前記圧着胴部を相対向する第1の電極と第2の電極とで挟み込んで一方向に
あらかじめ設定された一定の加圧力を持続的に加える第2の工程と、前記圧着胴部に前記加圧力が加えられている間に、前記第1の電極と前記第2の電極との間ですべての前記銅クラッドアルミニウム素線のアルミニウム芯部および銅クラッド層が自らジュール熱を発生するように前記圧着胴部内の全域を横断して電流を流し、前記圧着胴部に前記銅クラッドアルミニウム電線を熱カシメによって接続する第3の工程と、前記圧着胴部の温度を測定または監視し、前記熱カシメの加工温度を所定の温度範囲内に制御または管理する第4の工程とを有し、
前記第3の工程において、前記圧着端子の前記圧着胴部を前記第1の電極と前記第2の電極との間で扁平に変形させ、扁平に変形した前記圧着胴部内では、すべての前記銅クラッドアルミニウム素線について、前記アルミニウム芯部を断面多角形に変形させるとともに、前記銅クラッド層を潰さずに前記アルミニウム芯部の変形に追従して断面多角形に変形させ、その断面多角形の全ての側面を、それと隣接する他の前記銅クラッドアルミニウム素線の断面多角形に変形している前記銅クラッド層の一側面または前記圧着胴部の内側面と固相接合させ、前記所定の温度範囲は、400℃以上660℃未満である。
【0013】
本発明の上記方法によれば、複数の銅クラッドアルミニウム素線を含む銅クラッドアルミニウム電線と圧着端子とを接続
するヒュージング加工において、熱カシメの温度を400℃以上600℃未満(より好ましくは450℃〜550℃)の範囲内に制御または管理
して、圧着端子の銅クラッドアルミニウム電線を包み込んでいる圧着胴部を第1の電極と第2の電極との間で扁平に変形させることにより、該圧着胴部の内側ですべての銅クラッドアルミニウム素線の間の隙間を
塞いで、かつすべての銅クラッドアルミニウム素線の銅クラッドを
潰さずかつ破らずに
各銅クラッドアルミニウム
素線を
断面多角形に塑性変形させて
、銅クラッドアルミニウム電線と圧着端子との間に物理的強度
および電気的伝導度
の優れた端子接続構造を得ることができる。
【0014】
特に、
本発明の上記方法によれば、圧着胴部の内側で、各々の銅クラッドアルミニウム素線を構成するアルミニウム芯部および銅クラッド層のうち、アルミニウム芯部は、溶けずに断面多角形に変形しており、銅クラッド層は、潰れずに一定の厚みを保ったままアルミニウム芯部の変形に追従して断面多角形に変形し、その断面多角形の全ての側面が、それと隣接する他の銅クラッドアルミニウム素線の断面多角形に変形している銅クラッド層の一側面または前記圧着胴部の内側面に固
相接合している、端子接続構造を得ることができる。この端子接続構造においては、多数本の全ての銅クラッドアルミニウム素線について低抵抗の良好な電気的特性が得られ、ひいては銅クラッドアルミニウム電線全体としても電気配線において低抵抗の良好な電気的特性が得られる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の端子接続構造
およびその製造方法によれば、上記のような構成を有することにより、銅クラッドアルミニウム電線と圧着端子との間
に良好な物理的特性および電気的特性
を安定確実に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図を参照して本発明の一実施形態を説明する。
[圧着端子および銅クラッドアルミニウム電線の構成]
【0021】
図1に、この実施形態において端子接続構造を形成する圧着端子と銅クラッドアルミニウム電線の構成を示す。
【0022】
圧着端子10は、銅系の金属たとえば純銅、銅合金またはめっき銅からなり、円筒状の圧着胴部(バレル部)12と、この圧着胴部12の一端から長手方向に延びる丸形の舌部14とを一体に有している。後述するように、圧着胴部12は、銅クラッドアルミニウム電線16の一端部と熱圧着で接続するようになっている。舌部14は、電気配線の形態において、そのリングの穴にボルト(図示せず)を通され、端子盤(図示せず)等に取り付けられる。
【0023】
銅クラッドアルミニウム電線16は、多線または多芯式の電線であり、たとえばφ0.15〜0.3mmの細い銅クラッドアルミニウム素線18を複数本たとえば50〜150本撚り合わせている。銅クラッドアルミニウム電線16は、圧着端子10が取り付けられる両端部を除いて、ビニル等の絶縁被覆(外装)を纏っていてもよい。
【0024】
図2に示すように、銅クラッドアルミニウム素線18は、アルミニウムの芯部(芯線)20と、このアルミニウム芯部20を被覆する銅のクラッド層22と、この銅クラッド層22を被覆する絶縁被膜24とを有している。ここで、銅クラッド層22は、たとえば無酸素銅からなり、通常10μm以下の厚みで10〜15%の面積比(体積比)を有し、アルミニウム芯部20に金属結合しており、剥がれることはない。絶縁被膜24は、樹脂からなり、たとえば50〜100μmの厚さを有している。
【0025】
この実施形態において、圧着端子10に銅クラッドアルミニウム電線16を接続するときは、ヒュージング加工を行う前に、
図3に示すように、圧着端子10の圧着胴部12に銅クラッドアルミニウム電線16の一端部を挿入(装着)する。そして、後述するヒュージング装置(
図5)を用いて、圧着胴部12に銅クラッドアルミニウム電線16をヒュージング加工または熱カシメによって接続する。その結果、
図4に示すように、外観的には、圧着胴部12が扁平に変形して、銅クラッドアルミニウム電線16がかしめられる。圧着胴部12の内側では、後述するように、全ての銅クラッドアルミニウム素線18が隙間を作らずに断面多角形に塑性変形していて、隣接する素線18の間および隣接する素線18と圧着胴部12との間で良好な物理的および電気的接続が形成されている。
[ヒュージング装置の構成]
【0026】
図5に、この実施形態におけるヒュージング装置の構成を示す。このヒュージング装置は、上下方向で被加工物Wを挟着できるように相対向して相対的に移動可能に配置される上部電極30および下部電極32と、両電極30,32を介して被加工物Wに熱カシメ用の加圧力を加える加圧装置34と、両電極30,32を介して被加工物Wに熱カシメ用の電流を供給する電源部36と、被加工物Wの温度を非接触で測定する放射温度計38と、装置全体ないし各部、特に加圧装置34および電源部36を制御する制御部40とを有している。
【0027】
より詳細には、下部電極32は床に固定されたベース42に支持されている。上部電極30は、加圧装置34に結合され、被加工物Wを挟んで下部電極32に所望の加圧力で押し付けられるようになっている。加圧装置34は、加圧力発生源として、たとえばエアシリンダを有している。電源回路36は、交流式または直流式のいずれであってもよく、負荷側に所要の電力または電流を供給できる電源回路と、出力電流のオン・オフないし可変制御を行えるスイッチング機構とを有しており、好ましくはインバータ回路を内蔵している。放射温度計38は、赤外線レンズ、光電変換素子および温度測定演算回路等を有しており、被加工物Wから放射される赤外線のエネルギー量を検知し、赤外線エネルギーの検知量から所定の演算を行って被加工物Wの温度測定値を求めるようになっている。通常、放射温度計38は、被加工物Wと略同じ高さで両電極30,32の傍らに配置され、圧着端子10の圧着胴部12を温度測定点とする。
【0028】
制御部40は、CPU(マイクロコンピュータ)を含んでおり、メモリに格納している各種プログラム(ソフトウェア)にしたがって装置全体ないし各部を制御し、特にこの実施形態のヒュージング加工では放射温度計38の出力信号に基づいて熱カシメの加工温度を制御または管理する機能を有している。また、主制御部40は、タッチパネル44の入力部および表示部を介してユーザ(作業員、保守員等)と情報(設定値、モニタ情報等)をやりとりする。
【0029】
この実施形態において、被加工物Wは、
図3および
図5に示すように、圧着端子10の圧着銅部12と、銅クラッドアルミニウム電線16の圧着銅部12に挿入(装着)されている部分とで構成される。
図6に、ヒュージング加工が行われる前の圧着端子部12内の構造を拡大して示す。図示のように、銅クラッドアルミニウム電線16を構成している個々の銅クラッドアルミニウム素線18は圧着端子部12の中でも互いに撚り合わさっているだけであり、電線の軸方向と直交する横断面内では隣接する素線18同士がそれぞれの表層部の絶縁被覆24(
図6では図示省略)を介して殆ど点で局所的に接触しており、隙間Gが数多く存在している。
[ヒュージング加工の作用]
【0030】
以下に、
図7〜
図12につき、このヒュージング装置より実施可能な本実施形態のヒュージング方法を説明する。
【0031】
先ず、ロボットのハンドリング操作または作業員のマニュアル操作により、銅クラッドアルミニウム電線16の一端部を包み込んでいる圧着端子10の圧着胴部12(被加工物W)が、下部電極32の上に載置される。直後に、制御部40は、加圧装置34を作動させ、上部電極30を下ろして、圧着胴部12の上面に当て、両電極32,34を介して被加工材Wに所定の加圧力F
Sを持続的に加える(
図7の(a))。この加圧力F
Sは、圧着端子10の材質(硬度)や銅クラッドアルミニウム電線16の線径(太さ)等によって異なる。加圧力F
Sが大きすぎると、母材が破壊することがある。しかし、加圧力F
Sが小さすぎると、圧着胴部12の中で素線18間の隙間Gがなくならない。通常、加圧力F
Sは50〜200kgの範囲内、好ましくは120〜160kgの範囲内に選ばれる。
【0032】
制御部40は、上記のようにして被加工材Wに一定の加圧力Fを加えている間に、電源部36を作動させ、両電極32,34を介して被加工物Wを通電させる(
図7の(b)。通電時間は、圧着端子10の材質や銅クラッドアルミニウム電線16の線径(太さ)等に応じて異なるが、通常0.5秒以上は必要であり、たとえば2秒前後に選ばれる。
【0033】
この場合、始めは、両電極32,34の間で圧着胴部12のみに電流が流れ、圧着胴部12がジュール熱を発生する。すると、圧着胴部12内の個々の銅クラッドアルミニウム素線18においては、圧着胴部12から受ける加熱と加圧により、絶縁被膜24が溶けて押し出され(剥離され)、銅クラッド層22が露出する。この後は、両電極32,34の間で電流が圧着胴部12および銅クラッドアルミニウム電線16(素線18)を横断して流れるようになる。これにより、個々の素線18においては、銅クラッド層22およびアルミニウム芯部20が、自らジュール熱を発生しながら、周囲から加熱と加圧を受ける。銅クラッド層22およびアルミニウム芯部20のいずれも熱伝導率が高く、圧着胴部12の熱伝導率も高いので、圧着胴部12内の全域つまり全ての銅クラッドアルミニウム素線18の温度が均一であり、圧着胴部12の温度も各素線18の温度と大体同じである。
【0034】
本発明者は、幾多の実験を通じて鋭意検討した結果、上記のような銅クラッドアルミニウム電線16と圧着端子10とを接続するためのヒュージング加工においては、熱カシメの温度を400℃以上であって、アルミニウムの溶融温度である660℃未満(より好ましくは450℃〜550℃)の範囲内に制御または管理することにより、圧着胴部12の内側で
図8(模式図)および
図9(断面写真)に示すような断面構造の熱圧着接合が得られ、これによって加工品(端子接続構造)の物理的および電気的特性を再現性よく安定確実に保証できることを突き止めた。
【0035】
図8および
図9に示す断面構造においては、圧着胴部12の内側で、各々の銅クラッドアルミニウム素線18を構成するアルミニウム芯部20および銅クラッド層22のうち、アルミニウム芯部20は、溶けずに断面多角形(略不等辺五角形)に変形しており、銅クラッド層22は、潰れずに一定の厚みを保ったままアルミニウム芯部20の変形に追従して断面多角形(略不等辺五角形)に変形している。そして、銅クラッド層22は、その断面多角形(略不等辺五角形)の全ての側面が、それと隣接する他の素線18の断面多角形(略不等辺五角形)に変形しているクラッド層22の一側面または圧着胴部12の内側面に密着して固
相接合している。ヒュージング加工を行う前に素線18同士の間および素線18と圧着胴部12の内側面との間に存在していた隙間Gは略完全になくなっている。
【0036】
本発明者が、144本のφ0.16mmの銅クラッドアルミニウム素線18を撚り合わせて構成される銅クラッドアルミニウム電線16を用いて、
図8および
図9に示すような断面形状が得られた端子接続構造において、各々の銅クラッドアルミニウム素線18について1本ずつ他端から圧着端子10の舌部14までの電気伝導性を検査したところ、144本全ての銅クラッドアルミニウム素線18について低抵抗の良好な電気的導通状態が得られた。
【0037】
理論的には、熱カシメの加工温度が400℃以上660℃未満の範囲内であるときは、アルミの融点(660℃)より低いため、アルミニウム芯部20は溶けずに軟化して塑性変形する。一方、銅クラッド層22は、溶けないのはもちろん、軟化もしない。しかし、銅クラッド層22は、銅箔のように薄いため(通常10μm以下)、アルミニウム芯部20の変形に追従して元の厚みを保ったまま潰れずかつ破れずに同じ形状つまり断面多角形に変形する。これにより、全ての素線18が、隣接する他の素線18とそれぞれの銅クラッド層22を介して固
相接合する。また、圧着胴部12の内側面に隣接する全ての素線18が、それぞれの銅クラッド層22を介して圧着胴部12の内側面と固
相接合する。
【0038】
もっとも、アルミは400℃以上で軟化するが、熱カシメにおいて銅クラッドアルミニウム素線18同士の間に隙間が残らないようにアルミニウム芯部20を迅速かつ十分に軟化させるには、それより高い温度が好ましい。本発明の実験によれば、450℃以上であれば隙間なく安定した接合ができることがわかった。また、アルミニウム芯部20が溶けなくても軟化の度合いが大きすぎると、銅クラッド層22の追従変形が不十分になったり、アルミニウム芯部20が溶出するおそれがある。本発明者の実験によれば、550℃以下であれば極めて安定な接合ができることがわかった。以上のように、圧着胴部12の内側で
図8および
図9に示すような物理的および電気的特性に優れた端子接続構造を再現性よく安定確実に得るには、熱カシメの温度を450℃〜550℃の範囲内に制御また管理するのが好ましいことが実験によって確認された。
【0039】
この実施形態のヒュージング装置において、制御部40は、上記のような熱カシメの温度条件を満たすために、以下に述べる3種類の制御または管理方法MD1,MD2,MD3の少なくとも1つを実施するようになっている。
[熱カシメの温度条件を満たすための第1の方法]
【0040】
第1の方法MD1は、
図10に示すようなヒュージング加工手順の中(ステップS
4,S
5,S
6,S
9)で実行され、通電中に熱カシメの加工温度がたとえば
図7の(c)に示すような波形で変化する場合に好適に用いられる。
【0041】
この方法MD1では、制御部40が、予めタッチパネル44を通じて、当該端子接続構造を製造するためのヒュージング加工に適した所望の通電時間T
E(t
s〜t
e)を設定するとともに、この通電時間T
E(t
s〜t
e)の中に通電開始直後の一定時間(t
a〜t
b)を除く所望のモニタ期間T
Eを設定し、さらには上記所定の温度範囲(450℃〜550℃)内で所望の上限の監視値S
U(たとえば550℃)と下限の監視値S
L(たとえば450℃)を設定する。
【0042】
そして、ヒュージング加工の通電が開始されると、制御部40は、放射温度計38の出力信号を取り込んで、圧着胴部12の温度つまり加工温度の測定値を求め、その温度測定値を両監視値S
U,S
Lと比較し、モニタ期間T
E中に加工温度(測定値)が両監視値S
U,S
Lの中に収まっていたか否かを判定する(ステップS
4,S
5,S
6)。そして、通電時間T
Eの終了後に、タッチパネル44を通じて判定結果を出力する(ステップS
9)。
【0043】
すなわち、モニタ期間T
Eを通じて、熱カシメの加工温度(測定値)が下限の監視値S
Lと上限の監視値S
Uとの間に収まっていた場合は、圧着胴部12内には
図8および
図9に示すような断面構造が得られたものとみなし、このヒュージング加工によって得られた端子接続構造は良品であると判定する。しかし、モニタ期間T
E中に、熱カシメの加工温度(測定値)が一度でも下限の監視値S
Lを割り、または一度でも上限の監視値S
Uを超えた場合は、圧着胴部12内には
図8および
図9に示すような断面構造が得られなかったものとみなし、このヒュージング加工によって得られた端子接続構造は不良品であると判定する。
[熱カシメの温度条件を満たすための第2の方法]
【0044】
第2の方法MD2は、
図11に示すようなヒュージング加工手順の中(ステップS
14,S
15,S
16)で実行され、通電中に熱カシメの加工温度がたとえば
図7の(d)に示すような波形で変化する場合に好適に用いられる。
【0045】
この方法MD2では、制御部40が、予めタッチパネル44を通じて、上記所定の温度範囲(450℃〜550℃)内で所望の基準温度S
A(たとえば5400℃)を設定する。通電時間は、所望の値を設定しなくてよいが、最大または限界通電時間T
MAXを設定しておくのが好ましい。
【0046】
そして、ヒュージング加工の通電が開始されると、制御部40は、放射温度計38の出力信号を取り込んで、圧着胴部12の温度つまり加工温度の測定値を求め、その温度測定値が基準温度S
Aに到達するか否かを持続的または一定の時間間隔で検査し(ステップS
14〜S
17)、最大通電時間T
MAXが経過する前に熱カシメの加工温度(測定値)が基準温度S
Aに達したときは(ステップS
16)、その時点(t
c)で通電を止める(ステップS
18)。この場合は、圧着胴部12内には
図8および
図9に示すような断面構造が得られたものとみなし、このヒュージング加工によって得られた端子接続構造は良品であるとの判定結果を出力する(ステップS
20)。
【0047】
しかし、熱カシメの加工温度(測定値)が基準温度S
Aに達することなく最大通電時間T
MAXが経過した場合は(ステップS
15)、その時点(t
m)で通電を止める(ステップS
18)。この場合は、圧着胴部12内には
図8および
図9に示すような断面構造が得られなかったものとみなし、このヒュージング加工によって得られた端子接続構造は不良品であるとの判定結果を出力する(ステップS
20)。
[熱カシメの温度条件を満たすための第3の方法]
【0048】
第3の方法MD3は、
図12に示すようなヒュージング加工手順の中(ステップS
34〜S
37)で実行され、通電中に熱カシメの加工温度をたとえば
図7の(e)に示すような波形に強制的に制御する。
【0049】
この方法MD3では、制御部40が、予めタッチパネル44を通じて、当該端子接続構造を製造するためのヒュージング加工に適した所望の通電時間T
E(t
s〜t
e)を設定するとともに、上記所定の温度範囲(450℃〜550℃)内で所望の基準温度S
Bたとえば500℃)を設定する。
【0050】
そして、ヒュージング加工の通電が開始されると、制御部40は、放射温度計38の出力信号を取り込んで、圧着胴部12の温度つまり熱カシメ加工温度の測定値を求め、その温度測定値が基準温度S
Bに一致または近似するように、電源部36を通じて両電極30,32間を流れる電流の電流値をフィードバック制御方式で制御する(ステップS
34〜S
37)。
【0051】
この場合、フィードバック制御方式には2種類ある。1つの方式は、オン・オフ制御方式である。すなわち、熱カシメの加工温度(測定値)が基準温度S
Bを超えた時はいったん通電を停止し、熱カシメの加工温度(測定値)が基準温度S
Bを割った時は通電を再開する。そして、この通電のオン・オフ動作を通電時間T
Eの終了時まで続ける。
【0052】
もうひとつの方式は、たとえば10kHz〜100kHzの各サイクル毎に熱カシメの加工温度(測定値)を基準温度S
Bと比較して、比較誤差を求め、その比較誤差を零に近づけるように次のサイクルで流す電流の電流値を高速のスイッチング手段を用いて可変に制御する方式であり、インバータ回路を備える場合に好適に実施できる。
【0053】
この第3の方法MD3によれば、通電時間T
Eを通じて熱カシメの加工温度を強制的に基準温度S
B近辺に制御するので、制御部40において特に判定機能は不要である。すなわち、特別なエラーが発生しない限り、作業員または管理者において、圧着胴部12内には
図8および
図9に示すような断面構造が得られたものとみなし、このヒュージング加工によって得られた端子接続構造は良品であるとの判定結果を出してよい。
[他の実施形態または変形例]
【0054】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものではない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0055】
たとえば、上記実施形態において、圧着端子10の圧着胴部12は円筒状に形成されていた。しかし、圧着胴部12が、たとえば横向きの断面U字状に形成されていてもよい。圧着端子10の舌部14は、リング形に限らず、U字状またはY字状に開放するタイプであってもよい。また、圧着胴部12の材質として、銅系以外たとえば鉄系の金属も可能である。
【0056】
銅クラッドアルミニウム電線16において、銅クラッドアルミニウム素線18の断面形状は任意であり、円形に限らず、矩形であってもよい。また、銅クラッドアルミニウム電線16は、多線(多芯)式に限るものではなく、単線式であってもよい。
【0057】
実施形態におけるヒュージング加工において、熱カシメの加工温度を測定する温度センサは、上記のような放射温度計38が最も好ましい。しかし、他の非接触式の温度センサも使用可能であり、接触式の温度センサ(たとえば熱電対)も使用可能である。