特許第6185804号(P6185804)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ KDDI株式会社の特許一覧

特許6185804判定装置、ネットワークノード、判定方法、及びプログラム
<>
  • 特許6185804-判定装置、ネットワークノード、判定方法、及びプログラム 図000003
  • 特許6185804-判定装置、ネットワークノード、判定方法、及びプログラム 図000004
  • 特許6185804-判定装置、ネットワークノード、判定方法、及びプログラム 図000005
  • 特許6185804-判定装置、ネットワークノード、判定方法、及びプログラム 図000006
  • 特許6185804-判定装置、ネットワークノード、判定方法、及びプログラム 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6185804
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】判定装置、ネットワークノード、判定方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 5/02 20100101AFI20170814BHJP
   G01S 5/14 20060101ALI20170814BHJP
   H04W 64/00 20090101ALI20170814BHJP
   G01S 5/08 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   G01S5/02 Z
   G01S5/14
   H04W64/00 130
   H04W64/00 173
   G01S5/08
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-195521(P2013-195521)
(22)【出願日】2013年9月20日
(65)【公開番号】特開2015-59906(P2015-59906A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(74)【代理人】
【識別番号】100131886
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 隆志
(74)【代理人】
【識別番号】100170667
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 浩次
(72)【発明者】
【氏名】花野 博司
(72)【発明者】
【氏名】難波 忍
(72)【発明者】
【氏名】林 高弘
【審査官】 安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−231473(JP,A)
【文献】 特表2010−500604(JP,A)
【文献】 特開2006−284557(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0076430(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00− 5/14,
G01S 19/00−19/55,
H04W 64/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置が固定された複数の通信装置からの無線信号の移動体装置における観測値と、複数の参照位置のそれぞれにおいて、前記複数の通信装置のそれぞれからの無線信号が予め観測されて記憶された観測値の参照値とを比較して、前記移動体装置の位置を判定する判定装置であって、
前記移動体装置が存在する位置を含むことが予想される地理的領域を、複数の基地局のそれぞれにおける信号の到来方向に基づいて推定して、取得する取得手段と、
前記地理的領域に基づいて、前記複数の参照位置のうち、前記移動体装置の位置の判定において比較の対象とする少なくとも1つの参照位置を特定する特定手段と、
前記少なくとも1つの参照位置における前記参照値と、前記移動体装置における前記観測値とを比較して前記移動体装置の位置を判定する判定手段と、
を有することを特徴とする判定装置。
【請求項2】
前記特定手段は、前記地理的領域に含まれる参照位置を、前記移動体装置の位置の判定において比較の対象とする少なくとも1つの参照位置として特定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の判定装置。
【請求項3】
前記複数の参照位置は、複数のグループのうちの1つのグループに属し、
前記特定手段は、前記地理的領域に含まれる参照位置が属するグループを特定し、その特定されたグループのいずれかに属する参照位置を、前記移動体装置の位置の判定において比較の対象とする少なくとも1つの参照位置として特定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の判定装置。
【請求項4】
請求項1からのいずれか1項に記載の判定装置を有することを特徴とするネットワークノード。
【請求項5】
位置が固定された複数の通信装置からの無線信号の移動体装置における観測値と、複数の参照位置のそれぞれにおいて、前記複数の通信装置のそれぞれからの無線信号が予め観測されて記憶された観測値の参照値とを比較して、前記移動体装置の位置を判定する判定装置における判定方法であって、
取得手段が、前記移動体装置が存在する位置を含むことが予想される地理的領域を、複数の基地局のそれぞれにおける信号の到来方向に基づいて推定して、取得する取得工程と、
特定手段が、前記地理的領域に基づいて、前記複数の参照位置のうち、前記移動体装置の位置の判定において比較の対象とする少なくとも1つの参照位置を特定する特定工程と、
判定手段が、前記少なくとも1つの参照位置における前記参照値と、前記移動体装置における前記観測値とを比較して前記移動体装置の位置を判定する判定工程と、
を有することを特徴とする判定方法。
【請求項6】
位置が固定された複数の通信装置からの無線信号の移動体装置における観測値と、複数の参照位置のそれぞれにおいて、前記複数の通信装置のそれぞれからの無線信号が予め観測されて記憶された観測値の参照値とを比較して、前記移動体装置の位置を判定する判定装置に備えられたコンピュータに、
前記移動体装置が存在する位置を含むことが予想される地理的領域を、複数の基地局のそれぞれにおける信号の到来方向に基づいて推定して、取得する取得工程と、
前記地理的領域に基づいて、前記複数の参照位置のうち、前記移動体装置の位置の判定において比較の対象とする少なくとも1つの参照位置を特定する特定工程と、
前記少なくとも1つの参照位置における前記参照値と、前記移動体装置における前記観測値とを比較して前記移動体装置の位置を判定する判定工程と、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体装置の位置推定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチパス環境や、見通し外環境において、移動体通信装置の位置を特定するための手法として、フィンガープリント測位方式が存在する(特許文献1参照)。この方式では、事前に位置が既知の装置において、フィンガープリントとなり得るパラメータを取得し、そのパラメータを位置と関連付けて記憶することによりデータベースを構築する。具体的には、例えば、広範な地理的領域に対して、多くの既知の位置(参照位置)において、基地局等の複数の固定の通信装置からの無線信号の特徴量を予め観測し、その観測値と送信元の通信装置と参照位置とに関する情報をデータベース内に記憶しておく。なお、ここでの無線信号の特徴量は、例えば、電波伝搬損失、受信信号強度(Received Signal Strength Indication、RSSI)などである。
【0003】
そして、フィンガープリント測位方式では、例えば基地局を介して移動体装置における無線信号の観測値が取得され、データベースに記憶されている情報とのパターンマッチングが行われることにより、その移動体通信装置の位置が推定される。フィンガープリント測位方式では、このようにして、予め参照位置における無線信号の特徴量に関する値を指紋として記憶しておき、記憶された指紋と、観測した無線信号の特徴量(判定対象の指紋)とを比較して、判定対象の移動体装置の位置を推定する。
【0004】
なお、フィンガープリント測位方式において、複数の参照位置を領域ごとにグループ化して、一部のグループに属する参照位置を特定し、その参照位置に対応する参照値と、移動体装置における観測値とを比較する手法がある。この手法では、まず、各グループに対して、グループを代表する参照位置に対応する参照値と、移動体装置で観測した観測値とを比較して、観測値に近い参照値を有する参照位置を代表として有するグループが特定される。その後、その特定されたグループに属する参照位置における参照値と、移動体装置における観測値とが比較されて、移動体装置の詳細な位置が特定される。これにより、データベースに記憶されている全ての参照位置に対応する参照値についての観測値との比較を行わずに、一部の参照位置に対応する参照値についてのみ観測値との比較を行うため、測位に関する演算量を大幅に低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2012−512404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、参照位置のグループ化を行ったとしても広範囲な地理的領域をカバーする無線通信システムでは、グループ数が極めて多くなる。したがって、各グループを代表する参照位置に対応する参照値と、移動体装置における観測値との比較のために、演算量が増大してしまうという課題があった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、フィンガープリント測位方式において、演算量を抑えながら移動体装置の位置を推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明による判定装置は、位置が固定された複数の通信装置からの無線信号の移動体装置における観測値と、複数の参照位置のそれぞれにおいて、前記複数の通信装置のそれぞれからの無線信号が予め観測されて記憶された観測値の参照値とを比較して、前記移動体装置の位置を判定する判定装置であって、前記移動体装置が存在する位置を含むことが予想される地理的領域を、複数の基地局のそれぞれにおける信号の到来方向に基づいて推定して、取得する取得手段と、前記地理的領域に基づいて、前記複数の参照位置のうち、前記移動体装置の位置の判定において比較の対象とする少なくとも1つの参照位置を特定する特定手段と、前記少なくとも1つの参照位置における前記参照値と、前記移動体装置における前記観測値とを比較して前記移動体装置の位置を判定する判定手段と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フィンガープリント測位方式において、演算量を抑えながら移動体装置の位置を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】無線通信システムの例を示す図。
図2】移動体端末が存在すると予想される領域を示す概念図。
図3】位置判定装置の機能構成例を示す図。
図4】位置判定装置のハードウェア構成例を示す図。
図5】位置判定装置が実行する移動体端末の位置判定処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0012】
(無線通信システム)
図1に、本実施形態に係る無線通信システムを示す。本無線通信システムは、例えば、セルラネットワークに基づくシステムであり、基地局A、基地局B、基地局C及び移動体端末を含む。また、本無線通信システムにおいては、基地局A、基地局B及び基地局Cにネットワークを介して接続される位置判定装置が存在する。なお、以下では、位置判定装置を基地局A〜基地局Cと独立したネットワークノードとして説明するが、位置判定装置は、これらの基地局内に備えられてもよい。また、本例では、説明の簡略化のため、3つの基地局と1つの移動体端末とを含むシステムについて説明するが、4つ以上の基地局が存在してもよいし、2つ以上の移動体端末が存在してもよいことは明らかである。
【0013】
移動体端末は、移動可能であり位置が不定の無線通信装置である。移動体端末は、基地局A〜基地局Cの少なくともいずれかとの間で無線信号を送信または受信する。基地局A〜基地局Cは、固定された無線通信装置であり、自らの通信可能範囲(セル)において、移動体端末との間で通信を行う。本実施形態においては、基地局A〜基地局Cから送信され、各位置において観測された無線信号の特徴量が、指紋として使用され、移動体端末の位置が判定される。
【0014】
図1には、さらに、位置判定装置で移動体端末の位置を判定するのに使用する、複数の参照位置が示されている。図1では、黒塗りの丸により参照位置が示されている。本実施形態においては、参照位置において、予め複数の基地局からの無線信号の特徴量が観測されてデータベースに記憶される。なお、無線信号の特徴量は、例えば、電波伝搬損失、信号の受信電力(Reference Signal Received Power、RSRP)、信号対干渉及び雑音電力比(SINR)などを含む。また、データベースは、位置判定装置内に存在してもよいし、位置判定装置とは別のネットワークノードとして存在してもよいし、また、基地局内に存在してもよい。ここで、複数の参照位置のそれぞれについて観測された無線信号の特徴量は、例えば、その特徴量を示す値と、その値が生じた頻度(割合)とによって表される分布として記憶される。なお、無線信号の特徴量は、特徴量の平均値、上述の分布の中央値、または最頻値として表されてもよい。
【0015】
参照位置における無線信号の特徴量の観測は、例えば、GPS測位機能又はA−GPS測位機能を有する移動体端末によって実行される。この場合、GPS測位機能又はA−GPS測位機能による測位結果を参照位置として、その参照位置における無線信号の特徴量の観測値を観測値の参照値として、データベースに蓄積する。なお、この場合、移動体端末が完全に同じ位置で観測できるとは限らない。このため、例えば、地理的領域を例えば5m四方の領域に区切り、1つの領域内において観測されたデータは、同じ場所で観測されたものとして取り扱ってもよい。すなわち、5m四方の領域内で観測された特徴量をまとめて分布を生成し、その領域における1点を参照位置として、その分布をその参照位置に対応させてデータベースに蓄積するようにしてもよい。
【0016】
移動体端末は、基地局A〜基地局Cのそれぞれからの無線信号の特徴量を観測し、特徴量の情報を、その特徴量に対応する無線信号の送信元の基地局の情報(例えばセルID)と併せて、接続が確立されている基地局(例えばサービング基地局)へ通知する。なお、移動体端末は、一定期間、無線信号の特徴量を観測してその特徴量の情報を蓄積した後に、その蓄積された情報を基地局へ通知してもよい。情報を通知された基地局は、この情報を位置判定装置へ転送する。
【0017】
そして、位置判定装置は、移動体端末から通知された情報に基づいて、移動体端末における無線信号の特徴量を示す値と、その値が生じた頻度(割合)とによる分布を生成し、その分布と、参照位置に対応して記憶された分布とを比較する。そして、位置判定装置は、例えば、移動体端末における無線信号の特徴量の分布との間の相関が最も高い分布に対応する参照位置により、移動体端末の位置を推定する。すなわち、例えば、位置判定装置は、移動体端末が、移動体端末における無線信号の特徴量の分布との間の相関が最も高い分布に対応する参照位置に存在すると判定する。
【0018】
なお、位置判定装置は、例えば、移動体端末が観測した特徴量と、参照位置において予め観測された特徴量の平均値、分布における中央値又は最頻値によって表される参照値とを比較してもよい。この場合、位置判定装置は、例えば、移動体端末が観測した、基地局A〜基地局Cのそれぞれからの信号の特徴量と、各参照位置における参照値とを比較する。そして、位置判定装置は、例えば、基地局A〜基地局Cのそれぞれに関する特徴量と参照値との差を算出し、その絶対値の総和が最も小さくなる参照値に対応する参照位置を特定し、その特定された参照位置に移動体端末が存在すると判定する。
【0019】
このような測位方法では、広範囲にわたって細かく参照位置が存在することによって、測位の精度を向上させることができる。一方で、測位の精度を向上させるために参照位置を細かく設定すると、移動体端末の位置の判定において比較の対象となる参照位置が膨大となり、演算量が多大になるほか、位置を特定できるまでに要する時間が長時間化してしまう。また、参照位置をグループ化しても、そのグループ数が増大すると、グループの代表となる参照位置に関する参照値と、移動体端末における観測値とを比較するのに、多大な演算を要することとなる。
【0020】
このため、本実施形態では、位置判定装置は、まず、移動体端末が存在する位置を含むと予想される地理的領域を取得する。なお、位置判定装置は、例えば、基地局が移動体端末との間で通信をした際に記録しておいたコールログを用いて推定することにより、この地理的領域を取得することができる。
【0021】
例えば、位置判定装置は、移動体端末又は各基地局で測定された、移動体端末と基地局との間の伝搬遅延(電波の到来時間)から、移動体端末と基地局との間の距離を推定する。なお、伝搬遅延は、例えば、送信側の装置が送信時刻を含む信号を送信して、受信側の装置がその信号を受信した受信時刻を測定して、受信時刻から送信時刻を減じた結果として得ることができる。また、送信側の装置が、ある信号を送信してから、その信号に対する受信側の装置からの応答の信号を受信するまでの時間(ラウンドトリップタイム)を測定し、その測定値から受信側の装置での処理時間を減じて2で割ることにより、伝搬遅延を推定可能である。そして、基地局と移動体端末との間の距離は、伝搬遅延に、光の速さを乗算することにより推定することができる。このとき、伝搬路における反射又は回折などにより、基地局と移動体端末との間の推定された距離と実際の距離とが乖離する場合がある。このため、位置判定装置は、この推定された距離に、誤差を加味して、移動体端末が存在すると予想される地理的領域を推定する。このときの、移動体端末が存在すると予想される地理的領域について、図2を用いて説明する。
【0022】
図2では、移動体端末と基地局A〜Cのそれぞれについて、伝搬遅延に基づいて、距離(lA〜lC)が推定されている。そして、このとき、各基地局からの距離の誤差eA〜eCが与えられる。この誤差は、例えば、距離の算出精度を示す値によって高精度に距離が算出されたと考えられる場合は誤差が小さく、算出精度が低い場合には誤差が大きく、それぞれ定められてもよいし、所定値に固定されてもよい。このとき、移動体端末は、基地局Aから見て、距離lA−eA〜lA+eAの範囲に存在すると予想される。同様に、移動体端末は、基地局Bから見て、距離lB−eB〜lB+eBの範囲に存在すると予想される。さらに、移動体端末は、基地局Cから見て、距離lC−eC〜lC+eCの範囲に存在すると予想される。この結果、これらの全てを満たす範囲は、図2における斜線で塗られた領域となる。したがって、位置判定装置は、この領域を、移動体端末が存在すると予想される領域として取得することができる。
【0023】
なお、この地理的領域の推定は、移動体端末で行われてもよく、この場合、位置推定装置は、基地局及びネットワークを介して、移動体端末からこの地理的領域の情報を受信して取得することとなる。また、上述の説明では、伝搬遅延から各基地局と移動体端末との間の距離を推定することによって、誤差を加味して、移動体端末が存在すると予想される地理的領域が推定される場合について説明した。しかしながら、地理的領域の取得方法はこれに限られない。例えば、複数の基地局における移動体端末からの信号の到来時間差から、移動体端末が存在すると予想される位置を三辺測量により特定してもよい。また、複数の基地局において、移動体端末からの信号の到来方向を観測し、この到来方向に基づいて、移動体端末が存在すると予想される位置を特定してもよい。これらの場合、その特定した地点を中心とし、加味される誤差に対応する半径を有する円により、移動体端末が存在すると予想される地理的領域を推定することができる。同様に、移動体端末においてGPS又はA−GPS測位を行った場合に、測位結果の地点を中心とし、測位レベルに応じた誤差に対応する半径を有する円により、移動体端末が存在すると予想される地理的領域を推定することができる。また、移動体端末が接続している基地局によって展開されているセルまたはセクタにより、移動体端末が存在すると予想される地理的領域を特定してもよい。
【0024】
その後、位置判定装置は、取得した地理的領域に含まれる参照位置を特定してデータベースから抽出し、参照位置に対応する無線信号の特徴量の参照値と、移動体端末における無線信号の特徴量の観測値とを比較し、フィンガープリント測位を実行する。
【0025】
これにより、まず、演算量の少ない測位方法によって精度が粗いことが許容される測位を実行し、その測位の結果によって、フィンガープリント測位で比較の対象となる参照位置を絞り込むことができる。この結果、フィンガープリント測位における演算量を削減することができ、全体の演算量を削減して、高精度なフィンガープリント測位によって移動体端末の位置を判定することができる。
【0026】
続いて、本実施形態に係る位置判定装置の構成及び処理について説明する。
【0027】
(位置判定装置の機能構成)
図3は、位置判定装置の機能構成例を示すブロック図である。位置判定装置は、その機能として、例えば、情報取得部301、事前測位部302、比較対象特定部303、参照位置情報データベース(DB)304、位置判定部305及び位置情報出力部306を有する。
【0028】
情報取得部301は、例えば、各基地局から、移動体端末との通信を行った際に残されるコールログを取得する。コールログは、通信した移動体端末の識別子、通信時刻、及び通信時において移動体端末が受信した信号(電波)の特徴量を含む。ここで、特徴量は、例えば、移動体端末と通信を行った基地局(サービング基地局)又はその隣接基地局などの移動体端末の周囲の基地局の識別子と、各基地局に対する電波伝搬損失、受信信号強度(RSSI、RSRP)、SINRなどを含む。情報取得部301は、取得した情報を事前測位部302へ受け渡す。
【0029】
なお、情報取得部301は、例えば、GPS測位機能を有する移動体端末から、コールログと共に、そのログに対応する通信時刻でのGPS測位結果を取得してもよい。この場合、情報取得部301は、GPS測位結果とコールログに含まれる特徴量の情報とを関連付けて、参照値として参照位置情報DB304に記憶させてもよい。また、GPS測位結果と測位レベルとを事前測位部302に受け渡し、事前測位部302は、これらの情報から、移動体端末が存在する位置を含むと予想される地理的領域を特定してもよい。
【0030】
事前測位部302は、情報取得部301から受け取ったコールログに基づいて、フィンガープリント測位において比較対象とする参照位置を特定するための、移動体端末の位置の事前測位を実行する。この測位は、例えば、上述のように、電波の伝搬遅延量の推定による測位、移動体端末の接続先の基地局を特定することによる測位などを含む。例えば、事前測位部302は、コールログに伝搬遅延の情報が含まれる場合、その伝搬遅延の情報を用いて測位を実行する。また、事前測位部302は、例えば、移動体端末が通信時に接続している基地局(サービング基地局)によって展開されたセルまたはセクタにより、事前測位を実行してもよい。事前測位部302は、このような事前測位の結果に応じて、移動体端末が存在する位置を含むと予想される地理的領域を特定し、比較対象特定部303へその特定結果を受け渡す。
【0031】
比較対象特定部303は、事前測位部302が特定した地理的領域に基づき、参照位置情報DB304に記憶された参照位置のうち、フィンガープリント測位において移動体端末が観測した特徴量との比較の対象となる、少なくとも1つの参照位置を特定する。なお、比較対象特定部303は、参照位置がグループ化されている場合、事前測位部302が特定した地理的領域に含まれる参照位置が属するグループを特定し、その後、特定したグループに属する参照位置を特定してもよい。そして、この場合、比較対象特定部303は、その特定した1つ以上のグループに属する参照位置を全て抽出して、フィンガープリント測位において移動体端末が観測した特徴量との比較の対象となる参照位置として特定してもよい。この場合、例えば、1つのグループが一定の領域に対応し、その領域に事前測位部302が特定した地理的領域が包含される場合、その地理的領域に含まれない参照位置を含め、そのグループに属する参照位置の全てが、比較対象の参照位置として特定される。また、参照位置がグループ化されている場合であっても、そのグループによらず、事前測位部302が特定した地理的領域に含まれる参照位置のみを、フィンガープリント測位で使用する参照位置として特定してもよい。
【0032】
参照位置情報DB304は、例えば、参照位置と、その参照位置において観測された、各基地局からの無線信号の特徴量の値の平均値、その値がどの値域に含まれるかの頻度を示す分布、又はその分布の中央値若しくは最頻値を、参照値として予め記憶しておく。参照位置は、例えば、緯度、経度の情報により特定される。また、参照位置は、例えば、領域を5m四方の小領域に区分し、その中心点又は小領域内の任意の点として定められてもよい。このとき、参照位置情報DB304は、ある小領域内に含まれるGPS測位結果と共に無線信号の特徴量の観測値が入力される場合、この観測値の全てが小領域の中心点で観測されたものとみなして、特徴量の値又は分布を生成して記憶してもよい。また、参照位置情報DB304は、複数の参照位置を領域で区分して、グループ化しておいてもよい。この場合、例えば、複数の参照位置は、それぞれ、複数のグループのうちのいずれか1つに属する。参照位置情報DB304は、例えば、特徴量の平均値または特徴量の分布などに基づいて、複数の参照位置のそれぞれにおいて、最も強く受信されやすい無線信号の送信元の基地局を特定し、その特定した基地局に応じて、複数の参照位置をグループ化してもよい。この場合、おおむね各基地局が展開するセルを単位とした、グループ化が行われる。
【0033】
位置判定部305は、比較対象特定部で特定された参照位置についての受信信号の特徴量(参照値)と、測位対象の移動体端末において観測された基地局からの無線信号の特徴量とを比較して、移動体端末の位置を判定する。なお、移動体端末における観測値は、測位を開始した後に移動体端末において観測した結果を用いてもよいし、上述のコールログを用いてもよい。ここでは、観測値及び参照値として、特徴量の分布が用いられる場合について説明する。分布は、上述のように、特徴量の値が、複数に区分された値域のうちのどの値域に含まれるかの頻度(度数をサンプル数で除算したもの)として表される。位置判定部305は、例えば、参照位置がI個存在する場合、それぞれの参照位置に対して以下のdi(1≦i≦I)を、
のように計算する。ここで、Pは判定に用いる基地局の個数である。ここで、複数の基地局のそれぞれが送信した信号について、受信点において観測された特徴量の分布が存在する。このため、上述の式は、複数の基地局についてそれぞれ存在する分布のうち、P個の基地局についての分布のみを判定において考慮することを示す。Pは1以上の整数である。Jは、例えば、参照位置情報DB304に記憶される分布における、特徴量(例えばRSRP)の値域の個数である。例えば、分布において、全体で30dBmの幅を1dBmの幅で区切って、その区切られた区間(値域)に含まれる特徴量が生じた度数をカウントした場合は、J=30となる。また、ρi,p,jは、i番目の参照位置についての、p番目の基地局についての分布に関する、j番目の値域に含まれる特徴量が生じた頻度(確率)を示す。また、rp,jは、測位対象の移動体端末における、p番目の基地局からの無線信号の特徴量の観測値が、j番目の特徴量の値域に含まれる確率を示している。
【0034】
上述のdiの計算により、参照位置に関して予め生成された、各基地局からの無線信号の特徴量の分布と、測位対象の移動体端末において観測された各基地局からの無線信号の特徴量の分布とがどれほど異なるかを判定することができる。そして、位置判定部305は、移動体端末において観測された分布との相違が最小となる分布に対応する参照位置を、移動体端末が存在する位置と判定する。すなわち、位置判定部305は、算出したI個のdi(1≦i≦I)のうち、値が最小となるi0を判定し、i0番目の参照位置に移動体端末が存在すると判定する。
【0035】
位置情報出力部306は、この判定結果を、データベース若しくはファイルなどの媒体に格納し、又は、ネットワークを介して各基地局(例えば、移動体端末のサービング基地局)へ通知する。判定結果は、移動体端末に通知されてもよい。また、移動体端末は、この判定結果を不図示のディスプレイに表示してユーザに通知してもよい。例えば、移動体端末は、地図アプリ上で、自らの位置を特定する指標を表示してもよい。
【0036】
(位置判定装置のハードウェア構成)
位置判定装置は、一例において、図4に示すようなハードウェア構成を有し、例えば、CPU401、ROM402、RAM403、外部記憶装置404、及び入出力装置405を有する。位置判定装置では、例えばROM402、RAM403及び外部記憶装置404のいずれかに記録された、上述の各機能を実現するプログラムがCPU401により実行される。そして、位置判定装置は、入出力装置405を用いて、例えば、ネットワークからの移動体端末における特徴量の観測値の情報の取得と、ネットワークへの位置判定結果の出力とを行う。
【0037】
なお、位置判定装置は、上述の各機能を実行する専用のハードウェアを備えてもよいし、一部をハードウェアで実行し、プログラムを動作させるコンピュータでその他の部分を実行してもよい。また、上述の全機能をコンピュータとプログラムにより実行させてもよい。
【0038】
(位置判定装置における位置判定処理)
図5に、位置判定装置が実行する移動体端末の位置判定処理の流れを示す。なお、ここでは、参照位置に関するDBの構築はすでに終わっているものとする。
【0039】
位置判定装置は、まず、測位対象の移動体端末に対するコールログを取得する(S501)。その後、位置判定装置は、取得したコールログに基づいて、移動体端末の事前測位を行い(S502)、移動体端末が存在する位置を含むと予想される地理的領域を特定する(S503)。その後、位置判定装置は、その特定した地理的領域に基づいて、比較対象となる参照位置を特定する(S504)。続いて、位置判定装置は、特定された参照位置に基づいて、移動体端末の位置を判定する(S505)。
【0040】
以上のようにすることで、フィンガープリント測位方式において、事前に移動体端末の大まかな位置を特定した後に、その結果に応じて比較対象となる参照位置を限定することが可能となる。この結果、比較対象の参照位置が限定されるため、測位に関する演算量又は処理時間を低減することが可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5