特許第6185816号(P6185816)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6185816
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】細胞培養容器
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20170814BHJP
【FI】
   C12M3/00 Z
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-213988(P2013-213988)
(22)【出願日】2013年10月11日
(65)【公開番号】特開2015-73520(P2015-73520A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年8月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000158208
【氏名又は名称】AGCテクノグラス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今野 幸一
【審査官】 中村 勇介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/036011(WO,A1)
【文献】 特表2001−511078(JP,A)
【文献】 特開2003−180335(JP,A)
【文献】 特開2004−222545(JP,A)
【文献】 特開2010−158214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M1/00−3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被培養物が培養される隔室を形成する窪み部が複数形成された培養面と、
前記培養面を底面に備える容器本体と、
複数の窪み部の上部に載置され前記窪み部の開口を塞ぐ透液性蓋体とを備え、
前記培養面は、互いに近接する前記窪み部の間の頂部が非平坦面からなり、
前記透液性蓋体は、前記容器本体内の培養液中に浸漬された状態で前記窪み部の間の頂部との距離が、前記窪み部内で培養された前記被培養物の外径寸法よりも小さくなるよう配置されていることを特徴とする細胞培養容器。
【請求項2】
前記透液性蓋体は、前記窪み部の方向に付勢されていることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養容器。
【請求項3】
前記透液性蓋体は、前記容器本体に固定されていることを特徴とする請求項2に記載の細胞培養容器。
【請求項4】
前記透液性蓋体は、外周の少なくとも一部が前記容器本体の内側面に圧接されていることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養容器。
【請求項5】
前記透液性蓋体は、透液性シートと該透液性シートを保持する枠体とを備えることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の細胞培養容器。
【請求項6】
前記透液性蓋体は、前記被培養物の外径寸法よりも小さい透孔を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の細胞培養容器。
【請求項7】
前記透液性蓋体は、金属、樹脂、セルロース、ガラス、天然繊維からなる群より選択される1種以上の材質からなることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の細胞培養容器。
【請求項8】
前記透液性蓋体は、織物、不織繊維、スポンジ状物、多孔質材、板厚方向に連通孔が形成された板状物からなる群より選択される1種以上の形態からなることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の細胞培養容器。
【請求項9】
前記窪み部の開口の直径が20μm以上1500μm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の細胞培養容器。
【請求項10】
前記窪み部の深さが10μm以上1500μm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の細胞培養容器。
【請求項11】
前記窪み部が前記培養面に、10個/cm〜10000個/cm、形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の細胞培養容器。
【請求項12】
前記窪み部が前記培養面へのレーザ照射により形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載の細胞培養容器。
【請求項13】
前記容器本体の材質が合成樹脂からなることを特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の細胞培養容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞や組織片などの被培養物を培養してスフェロイド(細胞凝集塊)を作製する細胞培養容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞を二次元的に培養する単層培養に代わって、細胞を培養して三次元的に凝集させるスフェロイド培養が注目されている。スフェロイド培養は、単層培養に比べて、生体内の細胞に近い状態を構築することができるため、細胞が生体内で有する特異的な機能を引き出すことができる。
【0003】
スフェロイド培養を行う従来の培養基材として、例えば、特許文献1に記載される容器がある。この容器は、底面に互いに間隔を空けて複数の窪み部が形成されている。
【0004】
スフェロイド培養は、スフェロイド前駆体としての細胞が撹拌された培養液を容器内に流し込み、窪み部内で細胞を培養する。そうすると、窪み部内の細胞は、窪み部の形状・大きさに対応して培養されて、三次元的に凝集して、スフェロイドを形成する。
【0005】
また、特許文献1の容器と比較し、所望の大きさのスフェロイドを均一に形成でき、培養を効率的に行える培養容器が提案されている(特許文献2参照)。
この容器は、被培養物が培養される隔室を形成する窪み部が基材表面に複数形成されて、互いに近接する前記窪み部の間の基材表面が非平坦面であることを特徴としている。そのため、この容器は窪み部の間に平坦面がなく、窪み部の大きさに対応したスフェロイドの他に二次元的に培養されたり、窪みの大きさの影響を受けないランダムな大きさのスフェロイドが形成されることがない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2007/055056号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2012/036011号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上述した特許文献2の容器を用いてスフェロイド培養を行う際、容器の移動等で容器が大きく搖動すると、培養した細胞が当初居た窪み部から飛び出し隣接する他の窪み部に移動するという現象が確認された。
特許文献2の容器は、ひとつの窪み部に対して1つのスフェロイドを形成することで、所望の均一な大きさのスフェロイドを得るものである。しかしながら、前述のとおり容器の搖動によって培養途中の細胞が隣接する他の窪み部に移動すると、特定の窪み部には複数の細胞が存在することになる。そのため、形成されるスフェロイドの大きさがランダムとなるおそれがある。ランダムな大きさのスフェロイドは、窪みの大きさに対応した均一なスフェロイドと比較して、生理機能が異なったり、幹細胞培養の場合には、分化のステージが異なったりなど、培養容器内の細胞群の均一性が低くなり、実験データ評価等に支障をきたす。
【0008】
そこで、本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、容器が大きく搖動した際に生じる細胞の隣接する窪み部への移動を抑制することで、所望の大きさのスフェロイドを均一に形成でき、培養を効率的に行うことが可能な細胞培養容器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明に係る細胞培養容器は、被培養物が培養される隔室を形成する窪み部が複数形成された培養面と、前記培養面を底面に備える容器本体と、複数の窪み部の上部に載置され前記窪み部の開口を塞ぐ透液性蓋体とを備え、前記培養面は、互いに近接する前記窪み部の間の頂部が非平坦面からなり、前記透液性蓋体は、前記容器本体内の培養液中に浸漬された状態で前記窪み部の間の頂部との距離が、前記窪み部内で培養された前記被培養物の外径寸法よりも小さくなるよう配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、所望の大きさのスフェロイドを均一に形成し、細胞の培養を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施形態に係る細胞培養容器の縦断面図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る細胞培養容器の平面図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る細胞培養容器の一部を拡大した縦断面図である。
図4】本発明の第2の実施形態に係る細胞培養容器の縦断面図である。
図5】本発明の第2の実施形態に係る細胞培養容器の平面図である。
図6】本発明の第3の実施形態に係る細胞培養容器の縦断面図である。
図7】本発明の第3の実施形態に係る細胞培養容器の平面図である。
図8】本発明の第4の実施形態に係る細胞培養容器の縦断面図である。
図9】本発明の第4の実施形態に係る細胞培養容器の平面図である。
図10】本発明の第5の実施形態に係る細胞培養容器の縦断面図である。
図11】本発明の第5の実施形態に係る細胞培養容器の切断平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る細胞培養容器について、図1ないし図3を用いて説明する。図1は、細胞培養容器の縦断面図である。図2は、細胞培養容器の平面図である。図3は、図1に記載の細胞培養容器の窪み部付近の部分拡大図である。
【0013】
本実施形態に係る細胞培養容器10は、細胞を培養して三次元的に凝集させてなるスフェロイドを作製する細胞培養容器である。
【0014】
まず、本実施形態に係る細胞培養容器100の構成について説明する。
細胞培養容器100は、図1および図2に示したように、容器本体10、透液性蓋体20、保持具30とを備えている。この実施形態において、容器本体10の内側の底板部11の上面が培養面15に相当する部分となる。培養面15は、例えばポリスチレンなどの合成樹脂材から構成されている。本実施形態では、細胞培養容器100は、合成樹脂材料を用いた射出成形により得られる。なお、本実施形態では、透液性蓋体20は、透液性シート21からなる。
【0015】
容器本体10は、円板状の底板部11、および、環状の側壁部12を有している。側壁部12は、底板部11の外周縁から起立している。本実施形態では、底板部11の直径は、85mm、底板部11の厚さは、1mmに設計されている。また、側壁部12の高さは、20mmに設計されている。
【0016】
底板部11上面の培養面15(すなわち、被培養物50が培養される隔室が形成される領域)には、複数の窪み部17が形成されている。窪み部17の内面は、滑らかな凹面になっている。窪み部17は、被培養物が培養される隔室(ウェル:well)を形成する。本実施形態では、直径85mmの円形の培養面15に14200個程度(約250個/cm)の窪み部17が形成されている。1つの窪み部17には、所望の大きさの均一な1つの被培養物50(スフェロイド)が最終的に培養される。
【0017】
透液性蓋体20は、複数の窪み部17の開口を一括して塞ぐことで、移動等により容器本体10が大きく搖動する際、窪み部17にて培養されている被培養物50が、隣接する他の窪み部17に移動することを抑制するものである。そのため、透液性蓋体20は、容器本体10内に満たされている培養液16が透過でき、かつ窪み部17に存在する被培養物50(培養中の細胞)が通過しない程度の大きさの透孔を有している。また、透液性蓋体20は、容器本体10内の培養液16に浸漬され、培養面15の互いに近接する窪み部17の間の頂部の上方に載置される。
【0018】
透液性蓋体20は、金属、樹脂、セルロース、ガラス、天然繊維からなる群より選択される1種以上の材質からなる。また、透液性蓋体20は、織物、不織繊維、スポンジ状物、多孔質材、板厚方向に連通孔が形成された板状物からなる群より選択される1種以上の形態からなる。なお、天然繊維とは、植物繊維(綿、麻等)、動物繊維(羊毛、絹、カシミヤ等)、鉱物繊維(石綿等)を包含するものある。
透液性蓋体20は、例えばステンレス等の金属製メッシュより構成されている。金属製メッシュは、材質、メッシュ数、目開き、線径、開口率、織方(例えば、平織や綾織)などのバリエーションが多く、被培養物の大きさに応じた適宜のものを選択して用いることができる。また、金属製メッシュは、樹脂製メッシュと比較して自重によって撓みにくいため、使用時に枠体を用いずに平坦な状態を維持することができる。
また、透液性蓋体20は、例えば金属、樹脂、ガラス等からなり板厚方向に連通孔が形成された板状物であってもよい。板状物は、前述の金属製メッシュと同様に自重によって撓みにくいため、使用時に枠体を用いずに平坦な状態を維持することができる。
【0019】
保持具30は、透液性蓋体20を容器本体10の窪み部17側(すなわち、培養面15側)に付勢した状態で保持するためのものである。保持具30は、一端が透液性蓋体20を窪み部側に付勢するように押え、他端が容器本体10の側壁部12に固定される。一端は、透液性蓋体20と接着されていても、接着されていなくてもよい。また、他端は、クリップのように側壁部12を挟み込むようになっていてもよいし、その他の手段で固定されてもよい。保持具30は、樹脂成型品であってもよいし、金属線の成形品であってもよく、その他前述の機能を備えればどのような素材や形態であってもよい。また、保持具30は、単一または複数のいずれであってもよい。
【0020】
蓋40(図示しない)は、容器本体10に上方の開口部に対応した形状に形成されている。蓋40は、細胞の培養環境を維持するために、細胞の培養中は容器本体10に被せられて使用される。
【0021】
次いで、図3を用いて、容器本体10と透液性蓋体20との位置関係について説明する。前述のとおり、透液性蓋体20は、複数の窪み部17の開口を一括して塞ぐことで、窪み部17にて培養されている被培養物50が、隣接する他の窪み部19に移動することを抑制するものである。そのため、窪み部の間の頂部18と前記透液性蓋体20との距離をa、窪み部内で培養された被培養物の外径寸法をbとした場合、距離aが寸法bよりも小さい。これにより、容器本体10が大きく搖動して、窪み部17内の被培養物50が窪み部17の開口から飛び出しそうになったとしても、透液性蓋体20が隣接する他の窪み部19への移動を阻止する。なお、被培養物の外径寸法bとは、個々の被培養物50の外径寸法の最大値を平均した値である。容器本体10中の被培養物50は個数が膨大であるため、外径寸法bを求める際は、被培養物50が均一に培養されていることを前提に、適宜の数量の外径寸法を測定し、そのデータを用いて外径寸法bを求めてもよい。
【0022】
容器本体10と透液性蓋体20との位置関係における「距離aが寸法bよりも小さい」は、対応する頂部18と透液性蓋体20との間で全体の40%以上の割合で満たしていれば、被培養物50が窪み部17からの飛び出し隣接する他の窪み部19に移動するのを抑制できる。前記関係を満たしている割合は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは60%以上である。他方、前記関係を満たしている割合が95%を超えると、各部材に非常に高い平坦性が求められ、製造コストが高くなる。前記関係を満たしている割合は、好ましくは90%以下であり、さらに好ましくは85%以下である。
【0023】
本実施形態では、窪み部17は、容器本体10の培養面15に対してレーザ光を照射することにより形成される。レーザ照射は、底板部11の上面に対して、レーザ光を深さ方向に照射して行う。
【0024】
まず、底板部11の平面方向をx−y軸とした場合、レーザ照射装置の照射部をx軸の正方向に走査させつつ、一定の間隔(例えば800μm)ごとにレーザ光を照射して、x軸方向に並んだ複数の窪み部17を形成する。続けて、照射部をy軸方向に一定の距離(例えば400μm)だけ走査させた後、照射部をx軸の負方向に走査させつつ、一定の間隔(例えば800μm)ごとにレーザ光を照射して、x軸方向に並んだ複数の窪み部17を形成する。同様に、照射部をy軸方向に一定の距離(例えば400μm)だけ走査させる。これを繰り返して、底板部11の上面に規則的に配列された複数の窪み部17を形成する。
【0025】
窪み部17は、培養面15の単位面積あたり、10個/cm〜10000個/cm、形成するのが好ましい。さらに好ましくは、20個/cm〜8000個/cm、さらに好ましくは、20個/cm〜3000個/cmである
上記した数値範囲を示す「〜」とは、特段の定めがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用され、以下本明細書において「〜」は、同様の意味をもって使用される。
【0026】
本実施形態では、レーザ光源には、COレーザを用い、レーザ光は、出力10W、照射速度6100mm/minでパルス照射される。照射スポットの形状は、円形であり、その直径は、約400μmである。スフェロイドは、小さすぎると所望の生理機能が生じず、また、大きすぎるとスフェロイドの中心部が壊死してしまう。これを考慮すると、照射スポットの直径は、20μm〜1500μmが適当である。
【0027】
培養面15(底板部11の上面)にレーザ光が照射されると、底板部11を構成する合成樹脂材が溶解して、窪み部17が形成される。さらに、窪み部17の開口周辺には、溶解した合成樹脂材が盛り上がって、土手部が形成されてもよい。互いに隣り合った2個の窪み部17は、1個または複数個の土手部を介して形成されており、互いに近接する窪み部17間の頂部18には、平坦面が残らない。すなわち、互いに近接する窪み部17間の培養面が非平坦面になっている。
【0028】
レーザ光の照射位置や出力量などの照射条件を調節することにより、近接する窪み部17間の距離、窪み部17の径・深さ、土手部の幅・高さなどを調節できる。本実施形態では、互いに近接する窪み部17間の培養基材表面に平坦面が残らないように、すなわち、互いに近接する窪み部17間の頂部18が非平坦面になるように、レーザ光の照射条件が設定されて、レーザ照射が行われる。
【0029】
なお、窪み部17の深さ(すなわち、レーザ照射前の底板部11)の上面を基準とした深さ)dは、10μm〜1500μmに設計されることが望ましく、本実施形態では、200μm±20μmに設計されている。なお、底板部11の厚さは、深さdに応じて貫通しないよう適宜設計される。また、略楕円形の窪み部17の開口の長径(レーザ照射前の底板部14の上面での長径)Dは、10μm〜1500μmに設計されることが望ましく、本実施形態では、500μm±20μmに設計されている。さらに、土手部の高さ(すなわち、図4、5に示したように、レーザ照射前の底板部14の上面を基準とした高さ)hは、10μm〜50μmに設計されることが望ましく、本実施形態では、25μm±5μmに設計されている。
【0030】
底板部11の上面、すなわち培養面は、細胞接着抑制剤(図示省略)により被膜されていることが好ましい。細胞接着抑制剤は、細胞が底板部11の上面、特に、窪み部17の内面に接着するのを抑制する役割を果たす。細胞接着抑制剤としては、例えば、リン脂質ポリマー、ポリヒドロキシエチルメタアクリレート、あるいは、ポリエチレングリコールなどが用いられる。
【0031】
次に、本実施形態に係る細胞培養容器100を用いた被培養物50の培養方法について説明する。
【0032】
被培養物であるスフェロイド前駆体としての細胞を培養液16に入れて、撹拌する。撹拌後、培養液16を液面が窪み部17の頂部18より上となるように容器本体10内に流し入れる。そうすると、培養液16中の細胞は、沈殿して、窪み部17内に収まる。
【0033】
その後、容器本体10に蓋40を被せて、数日〜数十日間放置する。窪み部17内の細胞は、培養され、増殖する。このとき、窪み部17の内面が細胞接着抑制剤により被膜されているため、細胞は、窪み部17の形状・大きさに対応して、三次元的に凝集する。こうして、スフェロイドが得られる。
【0034】
本実施形態に係る細胞培養容器では、隣接する窪み部17間の頂部18は、非平坦面になっている。そのため、単層培養されたり、不均一なスフェロイドが形成されにくく、均一なスフェロイドが形成される確率が高く、スフェロイド培養を効率良く行うことができる。
【0035】
スフェロイドの用途や培養する細胞の種類などに応じて、作製すべきスフェロイドの大きさはそれぞれ異なる。そのため、スフェロイドの作製にあたっては、所望するスフェロイドの大きさに対応した窪み部17を備えた培養基材1を用意する必要がある。ここで、本実施形態では、レーザ照射により窪み部17を形成する。したがって、照射位置や出力量などの照射条件を調節することによって、培養面15に任意の大きさの窪み部17を容易に形成することができる。
【0036】
また、容器本体10として、ポリスチレンなどの透明な合成樹脂材を使用し、この合成樹脂材に対して、レーザ光照射加工により窪み部を形成した場合、窪み部17の断面形状は上開きとなり、かつ、レーザ光の熱により窪み部17の内面が滑らかになって、透過光が乱反射するのを低減することができ、窪み部17内で培養されるスフェロイドの顕微鏡による観察を、容易に行うことができる。
【0037】
次に、本実施形態に係る細胞培養容器100における透液性蓋体20の使用方法について説明する。
細胞培養容器100内の被培養物50の観察や培養液16の交換の際に、細胞培養容器100を移動することがある。その際、細胞培養容器100を移動する前に、蓋40を細胞培養容器100から取り外し、事前に滅菌処理された透液性蓋体20を静かに培養液16に浸漬する。それにより、透液性蓋体20は、窪み部17の頂部18の上方に載置される。
次いで、事前に滅菌処理された保持具30を用いて、透液性蓋体20を窪み部17の方向に付勢し、その状態を維持するように容器本体の側壁部12に他端を挟み込むようにして固定する。
【0038】
これにより、窪み部17の頂部18と透液性蓋体20との距離を、窪み部17内の被培養物50の外径寸法よりも小さくする。
このようにした上で容器本体10を移動することで、容器本体10が大きく搖動して、窪み部17内の被培養物50が窪み部17の開口から隣接する他の窪み部19に移動することを抑制できる。
【0039】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る細胞培養容器200について、図4および図5を用いて説明する。図4は、細胞培養容器200の縦断面図である。図5は、細胞培養容器200の平面図である。なお、本実施形態は、第1の実施形態の変形例であって、第1の実施形態と同一部分または類似部分には、同一符号を付して、重複説明を省略する。
【0040】
第1の実施形態では、透液性蓋体20は、透液性シート21からなる。一方、本実施形態では、透液性蓋体20は、透液性シート21および枠体22からなる。枠体22は、円環状の部材であり、透液性シート21の外周を保持するものである。枠体22を用いることで、自重により撓みやすいもの、例えば樹脂製フィルタや紙製フィルタなどの安価なものを透液性シート21として使用することができる。これは、枠体22によって透液性シート21の外周を保持するため、透液性シート21が柔軟であっても使用時に撓むことなく平坦性がよい状態で用いることができるためである。
枠体22は、保持具30に固定されていても、固定されていなくてもよい。また、枠体22は保持具30と一体成形されていてもよい。
枠体22による透液性シート21の保持方法は、接着剤を用いた接着、熱融着等の適宜方法を用いることができる。
【0041】
本実施形態に係る細胞培養容器200における透液性蓋体20の使用方法については、第1の実施形態と同様である。
細胞培養容器200を用いることで、容器本体10を移動する際に、容器本体10が大きく搖動して、窪み部17内の被培養物50が窪み部17の開口から隣接する他の窪み部17に移動することを抑制できる。
【0042】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態に係る細胞培養容器300について、図6および図7を用いて説明する。図6は、細胞培養容器300の縦断面図である。図7は、細胞培養容器300の平面図である。なお、本実施形態は、第1の実施形態の変形例であって、第1の実施形態と同一部分または類似部分には、同一符号を付して、重複説明を省略する。
【0043】
第1の実施形態では、透液性蓋体20は、保持具30を用いて容器本体10の窪み部17側に付勢された状態で保持される。一方、本実施形態では、保持具30を用いず、透液性蓋体20は、その外周の少なくとも一部が容器本体10の内側面に圧接されることで、容器本体10の窪み部17の頂部18と透液性蓋体20との距離を一定以下とした状態で保持される。
透液性蓋体20は、第1の実施形態に記載されたものと同様のものを用いることができる。そして、外周の少なくとも一部を曲げ、曲げた先端部が容器本体10の内側面に圧接される。なお、透液性蓋体20の外周の曲げる程度は、容器本体10の内径寸法等によって、適宜調整する。また、なお、透液性蓋体20は、外周の一部のみが曲げられていてもよいし、全周が曲げられていてもよい。
【0044】
次に、本実施形態に係る細胞培養容器300における透液性蓋体20の使用方法について説明する。
細胞培養容器300内の被培養物50の観察や培養液16の交換の際に、細胞培養容器300を移動することがある。その際、細胞培養容器300を移動する前に、蓋40を細胞培養容器300から取り外す。
そして、透液性蓋体20を培養液16に浸漬する。その際、透液性蓋体20の外周先端部を容器本体10の内側面に圧接した状態で、容器本体10の下方に押し下げる。
このようにすることで、容器本体10の窪み部17の頂部18と透液性蓋体20との距離を一定以下とした状態で、透液性蓋体20は保持される。
【0045】
これにより、窪み部17の頂部18と透液性蓋体20との距離を、窪み部17内の被培養物50の外径寸法よりも小さくする。
このようにした上で容器本体10を移動することで、容器本体10が大きく搖動して、窪み部17内の被培養物50が窪み部17の開口から隣接する他の窪み部19に移動することを抑制できる。
【0046】
[第4の実施形態]
本発明の第4の実施形態に係る細胞培養容器400について、図8および図9を用いて説明する。図8は、細胞培養容器400の縦断面図である。図9は、細胞培養容器400の平面図である。なお、本実施形態は、第3の実施形態の変形例であって、第3の実施形態と同一部分または類似部分には、同一符号を付して、重複説明を省略する。
【0047】
第3の実施形態では、透液性蓋体20は、透液性シート21からなる。一方、本実施形態では、透液性蓋体20は、透液性シート21および枠体22からなる。枠体22は、円環状の部材であり、透液性シート21の外周を保持するものである。枠体22を用いることで、自重により撓みやすいもの、例えば樹脂製フィルタや紙製フィルタなどの安価なものを透液性シート21として使用することができる。これは、枠体22によって透液性シート21の外周を保持するため、透液性シート21が柔軟であっても使用時に撓むことなく平坦性がよい状態で用いることができるためである。
【0048】
また、本実施形態では、第3の実施形態と同様に、保持具30を用いず、透液性蓋体20は、その外周の少なくとも一部が容器本体10の内側面に圧接されることで、容器本体10の窪み部17の頂部18と透液性蓋体20との距離を一定以下とした状態で保持される。
透液性蓋体20は、第2の実施形態と同様に透液性シート21と枠体22によって構成される。ただし、本実施形態では、枠体22もよって透液性蓋体20を容器本体10の内側面に圧接して保持するため、枠体22は外周の少なくとも一部が曲げられているか、曲った状態で成形されることが好ましい。なお、枠体22の外周の曲げる程度は、容器本体10の内径寸法によって、適宜調整する。また、枠体22に硬質ゴム等の弾性体を用いれば、枠体22の外周を曲げることなく、透液性蓋体20を容器本体10の内側面に圧接することができる。
【0049】
本実施形態に係る細胞培養容器400における透液性蓋体20の使用方法については、第3の実施形態と同様である。
細胞培養容器400を用いることで、容器本体10を移動する際に、容器本体10が大きく搖動して、窪み部17内の被培養物50が窪み部17の開口から隣接する他の窪み部19に移動することを抑制できる。
【0050】
[第5の実施形態]
本発明の第5の実施形態に係る細胞培養容器500について、図10および図11を用いて説明する。図10は、細胞培養容器500の縦断面図である。図11は、細胞培養容器500の切断平面図(図10に記載のx−xラインで切断した際の平面図)である。なお、本実施形態は、第1の実施形態の変形例であって、第1の実施形態と同一部分または類似部分には、同一符号を付して、重複説明を省略する。
【0051】
第1の実施形態では、透液性蓋体20は、保持具30を用いて容器本体10の窪み部17側に付勢された状態で保持される。一方、本実施形態では、保持具30の代わりに、蓋40の裏面に設けた押さえ具45により、透液性蓋体20を容器本体10の窪み部17側に付勢された状態で保持する。
蓋40の裏面に設けた押さえ具45は、透液性蓋体20を上方から押さえることができれば、どのような形状であってもよい。例えば、押さえ具45は、透液性蓋体20の外周と寸法が略同一の筒状体や透液性蓋体20の外周に沿うように配置した複数の棒状体や板状体であってもよい。
【0052】
本実施形態に係る細胞培養容器500における透液性蓋体20の使用方法については、透液性蓋体20を保持具30に替えて押さえ具45によって保持することを除いて、第1の実施形態と同様である。
細胞培養容器500を用いることで、容器本体10を移動する際に、容器本体10が大きく搖動して、窪み部17内の被培養物50が窪み部17の開口から隣接する他の窪み部19に移動することを抑制できる。
【0053】
[他の実施形態]
上記の各実施形態に係る細胞培養容器は、代表的な例示であって、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、透液性蓋体20を金属製メッシュのような培養液16に浸漬した際に浮遊しない素材、すなわち透液性蓋体20の自重により培養面15上に載置されるもので構成してもよい。これにより、透液性蓋体20を容器本体10の内側面へ圧接したり保持具30を用いる等の透液性蓋体20の保持手段を用いることなく、透液性蓋体20を適切な位置に配置することができる。
また、上記の各実施形態に係る細胞培養容器の使用方法の説明において、透液性蓋体20は細胞培養容器の移動の前に容器本体10に載置するとしたが、常時培養液16中に浸漬した状態としてもよい。この場合、透液性蓋体20がメッシュ状であれば、透明な蓋体40を付けた状態であっても窪み部17内で培養されるスフェロイドの顕微鏡による観察が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の細胞培養容器は、所望の大きさのスフェロイドを均一に形成でき、培養を効率的に行うことが可能である。
【符号の説明】
【0055】
10…容器本体、11…容器本体の底板部、12…容器本体の側壁部、15…培養面、16…培養液、17,19…窪み部、18…頂部、20…透液性蓋体、21…透液性シート、22…枠体、30…保持具、40…蓋、45…押さえ具、50…被培養物、100,200,300,400,500…細胞培養容器。
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