(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記多孔性基板構造体は、前記高容量活物質がリチウム化理論容量のおよそ75%以上までリチウム化される際、およそ10%以上の多孔性を有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の電極物質複合構造体。
前記複数の多孔性基板構造体を設ける段階の前に、ヒュームドシリカをおよそ700℃未満で還元することにより前記複数の多孔性基板構造体を形成する段階をさらに備える、請求項24から28のいずれか1項に記載の電極の製造方法。
前記複数の多孔性基板構造体を設ける段階の前に、シリコン構造体をエッチングすることにより前記複数の多孔性基板構造体を形成する段階をさらに備える、請求項24から29のいずれか1項に記載の電極の製造方法。
前記1以上のシェルを形成する段階は、前記複数の多孔性基板構造体上で炭素含有物質の化学蒸着を行う段階を含む、請求項24から31のいずれか1項に記載の電極の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の説明において、提示される概念がより深く理解されるよう、様々な特定的な詳細が示される。提示される概念は、これら特定的な詳細のいくつか、若しくは全てがなくても実施することが可能である。他の例においては、説明される概念を不必要に曖昧にすることを避けるべく、周知の処理動作が詳細には説明されていない。特定的な実施形態に関連していくつかの概念が説明されるが、これらの実施形態は限定することを意図して説明されているわけではないことを理解いただけよう。
【0015】
高容量電気化学活物質は電気化学電池の容量を向上させられるが、これらの物質の多くは、リチウム化の間の膨張および脱リチウム化の間の収縮など、バッテリーのサイクリングの間に実質的な体積の変化を見せる。例えば、シリコンは、Li
4.4Siの構造体においておよそ4200mAh/gの理論容量までのリチウム化の間、400%までも膨張し得る。これ程大きな体積変化により、内部電極構造体の粉砕、電極との電気接続の喪失、および電池容量の減退などが引き起こされ得る。
【0016】
特定の理論に限らず、リチウム化−脱リチウム化のサイクルは高容量活物質構造体内の大きな引張応力に対応し、これにより一般的にこれらの構造体内、および内部電極構造体内で、ひびおよび他の形態の機械的な損傷が引き起こされると考えられている。結果として、高容量活物質を用いて製造された電極は、それら物質の特定の破壊限界、例えばシリコンでは数百ナノメートルよりも活物質構造体が大きければ、これら構造体の粉砕が起こり得る。これらの機械的な破壊は、電極内の電極接続の喪失へとつながり得、活物質の部分間が切断され、それら部分は電気化学的に不能となり、容量が減退する。高容量活物質構造体がリチウム化の間、膨張し、脱リチウム化の間、収縮すると、これらの構造体がそれら自体の固体電解質インタフェース(SEI)層を損傷させるという他の課題が生じる。形成サイクリングから長い時間経ってもSEI層が破壊と自己修復を繰り返し、SEI層全体の厚さが増すこと、リチウムおよび電解質溶媒を消費すること、およびその他の理由により、容量がさらに減退することとなる。
【0017】
提案するのは、高容量活物質を含有する多孔性基板構造体と、およびそれら多孔性基板構造体を封入するシェルとを含む新規の電極物質複合構造体である。シェルは、リチウム化−脱リチウム化のサイクリング間、多孔性基板を機械的に束縛する。シェルはリチウムイオンを通過させながら、高容量活物質と、電解質溶媒および/または他の電解質成分が相互作用するのを実質的に妨げる。そのようなものとして、多孔性基板構造体は一般的にSEI層を形成せず、シェルにより保護されたままである。代わりに、SEI層が、電解質成分に曝されるシェルの外面上に形成される。リチウム化の間、高容量活物質がシェル内で膨張するかもしれないが、多孔性基板構造体の多孔率が十分に高く、体積の増加を許容する。一般的にシェルは、多孔性基板構造体内に、および多孔性基板構造体とシェルとの間に、高容量活物質のリチウム化の作用限界に対応する、高容量活物質の膨張を許容することが出来る、何も存在しない空間が十分なだけある。この空間は多孔性基板構造体の細孔によって生じることもあり、特定の実施形態においては、シェルと基板構造体との間の空隙によって生じ得る。この利用可能な空間はリチウム化の間、部分的に、または完全に、満たされた状態となり、その後、脱リチウム化の間、再び形成される。サイクリングの間、例えば細孔と空隙との間などシェル内で、利用可能な空間の再分布が起こることもある。
【0018】
一例を簡単に説明することにより、様々な構造的および機能的特徴をよりよく理解いただけよう。多孔性基板構造体はシリコンを含んでよく、対応するシェルは炭素を含んでよい。多孔性シリコン構造体は、出発物質としてシリカを用いることにより、若しくは、シリコン粒子をエッチングすることにより形成してよい。その後、多孔性シリコン構造体上にカーボンシェルが形成され、電極物質複合構造体が形成されることとなる。複合構造体を導電性基板に取り付けるのに用いられるカーボンシェルが形成される間に、これらの複合構造体が負極へと組み込まれる。代替的に、例えば、複合構造体をポリマーバインダ内に混合させ、スラリーを形成し、スラリーを導電性基板上にコーティングすることにより、これらの複合構造体をカーボンシェルの形成後に負極に組み込んでもよい。リチウム化の間、シリコンはカーボンシェル内で膨張するが、シリコン基板構造体の多孔率が十分に高いので、この膨張を許容することが出来る。最初の多孔率は、シリコンが作用容量までリチウム化された時にまだある程度多孔性であるか、より一般的には、シェル内に開いた空間が残っているように選択される。なお、作用容量は、選択される活物質の理論容量に常に対応するわけではない。例えば、これらの多孔性シリコン構造体を含有する電極は、およそ1500〜3000mAh/gだけリチウム化されるかもしれない。特定の実施形態において、シェルは、複合構造体の全体的な容量に寄与する。
【0019】
前述の例に戻ると、シリコンがリチウム化し膨張すると、一般的に軟化する。反対に、炭素がリチウム化すると、硬化し、機械的応力に対し抵抗力を持つようになり、かつ、最初の体積を実質的に維持する。そのようなものとして、カーボンシェルは膨張するシリコン基板構造体を束縛することがさらに可能となり、軟化したリチウム化シリコンは、シェル内でより容易に再分布されることとなり、利用可能な空いた空間を占めることになる。リチウム化の程度、多孔率、シェルの厚さ、および他のパラメータは、サイクリングの間、シェルが破壊されず、破裂しないよう選択される。放電の間、シリコンは収縮し、シェル内に細孔および/または空隙を形成する。その後、続くサイクルの間、カーボンシェルを損傷することなくこのプロセスが繰り返される。
【0020】
シェル内の高容量活物質はサイクルの間、膨張し収縮するが、シェル自体は、比較的影響を受けず変化しない。特定の実施形態において、複合構造体、またはより詳細にはシェルは、サイクルの間に、外側の主要寸法が実質的に変化しない。他の実施形態において、複合活物質構造体の外方の体積変化は、様々な電極システムへと組み込まれる際に許容される程度のものである。例えば、バインダーシステムに組み込まれた場合でも、バインダーの伸縮特性を超えることがない。バインダー物質の例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)および/またはポリアクリル酸(PAA)系バインダーなどが挙げられる。特定の実施形態において、複合構造体の主要寸法は、サイクリングの間、およそ20%未満、若しくはより詳細にはおよそ10%未満しか変化しない。なお、構造体またはシェルのこれらの寸法変化は、シェル内に封入された高容量活物質の対応する変化よりも実質的に少ない。高容量活物質の体積変化は、多孔性基板構造体の細孔によってその大部分が許容され、特定の実施形態において、多孔性基板構造体とシェルとの間の空隙により許容される。
【0021】
本明細書では、電池の充電の間にリチウム化が起こる電極、つまり負極に関連する多数の実施形態を説明するが、そのような電極物質複合構造体および方法は電池の放電の間にリチウム化が起こる電極、つまり正極に関して用いることも可能である。リチウム化の間に膨張し、負極で用いられるように多孔性基板構造体に組み込まれ得るシリコンと同様に、多数の正極活物質もリチウム化の間、体積変化が起こる。そのような正極活物質の例としては、酸化コバルトリチウム、ニッケルコバルト酸化アルミニウム、ニッケルコバルト酸化マンガン、および当業者に公知の他の物質が挙げられる。
【0022】
図1は、特定の実施形態に係る、電極物質複合構造体100の概略断面図である。複合構造体100は、高容量活物質を含有する多孔性基板構造体120を含む。詳細には、
図1は、多孔性基板構造体120全体に分散する複数の細孔130を示す。多孔性基板構造体120は、リチウム化の間、多孔性基板構造体120を機械的に束縛するシェル140に封入される。特定の実施形態において、シェル140は、多孔性基板構造体120の高容量活物質がサイクリングの間、膨張および収縮しても、塑性変形しない。シェル140は、リチウムイオンに対し透過性であり、多孔性基板構造体120の高容量活物質のリチウム化および脱リチウム化の間、リチウムイオンがシェル140を通って移動可能である。同時に、シェル140は、多孔性基板構造体120の高容量活物質と1以上の電解質溶媒が相互作用することを実質的に妨げる。よって、シェル140は、これらの電解質溶媒に対し実質的に不浸透性である。これらの状況において、SEI層は、シェル140の外面142を形成する。
【0023】
シェル140の透過性および機械的束縛性は、物質組成、厚さ、全体寸法、および他の要因によって決まる。シェル140の厚さは変化し得、一般的に平均厚さによって特徴づけられる。他の実施形態において、厚さは、シェル全体で実質的に均一である。特定の実施形態において、シェル140の平均厚さは、およそ1〜100ナノメートル、またはより詳細には、およそ5〜25ナノメートルである。電極物質複合構造体100、またはより詳細には、シェル140の外面142の全体寸法は、主要寸法により特徴づけられてよい。本明細書において、電極物質複合構造体の主要寸法とは、
図1に示すように、最も大きな全体寸法のことを指す。主要寸法は、最大主要寸法によってその上限が制限され、および/または、最小主要寸法によりその下限が制限される。小さな複合構造体は、非常に少量の活物質しか封入できず、この目的において、比較的大きなシェルが求められる。結果として、そのような構造体は、体積比当たり必要以上の外面面積を有し得、高容量活物質に対し、シェル物質が多すぎることとなる。なお、シェル物質は、複合構造体の全体的なリチウム化容量に対し、ほんの僅かだけ寄与するか、若しくは全く寄与せず、一般的にシェル物質の量は、多孔性コア物質の量に対して、またより詳細には高容量活物質に対して最小とされるべきである。反対に、大きい構造体は、
図3を参照してさらに説明する混合、コーティング、およびプレスなどの様々な電極製造技術を用いて処理するのが困難である。さらに、大きな構造体は、シェルおよび/または高容量活物質の破壊限界を超え、シェル内の高容量物質の機械的劣化が起こり得る。シェルの主要寸法が増加すると一般的に強度が低くなり、この要因により、リチウム化の間より膨張しやすい高容量活物質を含有する複合構造体、および/または、より広い範囲でリチウム化が起こる複合構造体にとって特に、全体寸法の上限が設定されることになる。
【0024】
同じ電極内で用いられる複数の構造体の主要寸法は、例えば、グラファイトまたはリチウム酸化コバルト粒子の粒度分布と同様に異なり得る。よって、電極物質複合構造体は典型的には、平均主要寸法により特徴づけられる。特定の実施形態において、複合構造体の平均主要寸法は、およそ50ナノメートル〜30マイクロメートル、またはより詳細には、およそ0.5〜10マイクロメートルである。複合構造体は、アスペクト比が低い形状または粒子であってよく、および/または、アスペクト比の高い(例えば、およそ4を超える)棒、管、またはワイヤであってよい。
【0025】
複合電極構造体のサイズおよび他の特性は、多孔性基板構造体を形成する高容量活物質の組成および形態によって決まり得る。例えば、アモルファスシリコンとは反対に結晶シリコンは、小さい複合構造体にとってより適切であり得る。さらに、複合設計により、封入がなくては不可能である程の大きさの高容量活物質構造体を用いることが可能となる。例えば、実質的に純粋なシリコンの構造体は、3つの寸法の全てが数百ナノメートルを超えると、リチウム化サイクリングの間にその破壊限界を超え得、破壊が起こり得る。しかし、本明細書で説明する特定のシリコン含有複合構造体は、1〜10マイクロメートルと大きくてもよく、複合構造体の破壊を引き起こすことなく動作することが出来る。シェル内の高容量活物質の破壊はあまり大きな懸念事項ではない。なぜならこれらの物質が多孔性であるからであり、かつ、活物質の外側への膨張を妨げ、破壊した部分の電気的および機械的な接続を維持できるシェル内に封入されているからである。サイクリングの間に破壊がいくらか起こったとしても、シェルによって、活物質の破片が複合構造体の残りの部分と電気的および機械的に隔てられてしまうことが妨げられる。多孔性基板構造体の異なる破片間の機械的および電気的統合がシェルを介して達成されている位置おいては、それら破片が隔てられ得る。
【0026】
上述したように、多孔性基板構造体120は1以上の高容量活物質を含む。それら高容量活物質の例としては、シリコン、アモルファスシリコン、酸化シリコン、酸窒化シリコン、スズ含有物質(例えば、スズ、酸化スズ、酸化チタンなど)、硫黄含有物質、ゲルマニウム含有物質、様々な金属水素化物(例えば、MgH2など)、シリサイド、リン化物、窒化物などが挙げられる。活物質およびそれらの組み合わせの他の例としては、炭素−シリコンの組み合わせ(例えば、炭素がコーティングされたシリコン、シリコンがコーティングされた炭素、シリコンが添加された炭素、炭素が添加されたシリコン、炭素およびシリコンを含有する合金など)、炭素−ゲルマニウムの組み合わせ(例えば、炭素がコーティングされたゲルマニウム、ゲルマニウムがコーティングされた炭素、ゲルマニウムが添加された炭素、炭素が添加されたゲルマニウムなど)、炭素−スズの組み合わせ(例えば、炭素がコーティングされたスズ、スズがコーティングされた炭素、スズが添加された炭素、炭素が添加されたスズ)、酸化物と混合させられたシリコンなどが挙げられる。高容量活物質は一般的に、およそ700mAh/g以上のリチウム化理論容量を有する活物質として定義される。特定の実施形態において、活性層内の高容量活物質の割合は、負極活物質の全体量に対し、およそ50%以上、またはおよそ75%以上、またはおよそ80%以上、またはおよそ85%以上、またはおよそ90%以上である。これらの物質が添加された不定比化合物を用いることも出来る。
【0027】
多孔性基板構造体120の最初の(リチウム化が起こる前の)多孔率は、予想される高容量活物質の膨張特性、および作用容量と呼ばれることもある所望のリチウム化レベルに基づいて選択される。特定の実施形態において、高容量活物質の作用容量は、理論容量のおよそ50%以上、より詳細には理論容量のおよそ75%以上、さらには、理論容量のおよそ90%以上である。この多孔率は、高容量物質がリチウム化し膨張するサイクリングの間に変化する。例えば、結晶シリコンのシリコン原子あたりの体積はおよそ0.02nm
3であり、Li
12Si
7ではおよそ0.06nm
3であり、Li
14Si
6ではおよそ0.052nm
3であり、Li
13Si
4ではおよそ0.067nm
3であり、Li
22Si
5ではおよそ0.082nm
3である。Li
22Si
5が、およそ4200mAh/gの容量に対応するシリコンのリチウム化の理論限界である。
【0028】
多孔性基板構造体120は一般的に、高容量活物質がリチウム化すると多孔率が低下し、リチウムが取り除かれると多孔率が上昇する。特定の実施形態において、多孔性基板構造体120は、典型的には理論容量よりも小さい作用容量まで高容量活物質が充電された時であっても、ある程度の多孔性は維持している。例えば、多孔性基板は、理論容量のおよそ50%以上、またはおよそ75%以上の値に対応し得る作用容量まで高容量活物質がリチウム化された時、およそ5%以上の、より詳細にはおよそ10%以上の、さらにはおよそ25%以上の多孔率を有してよい。特定的な実施形態において、高容量活物質はシリコンを含有し、およそ2000〜3000mAh/gの作用容量まで充電される。多孔性基板構造体はこのリチウム化レベルにおいて、ある程度の多孔性を維持する。作用容量限界における多孔率は、およそ5〜25%、より詳細には、およそ10〜20%であってよい。シリコン含有活物質の詳細な容量レベルは、およそ2500mAh/g、またはおよそ3000mAh/gである。
【0029】
多孔性基板の細孔は互いに接続されていてもよく(つまり連続気泡構造)、もしくは隔てられてもよい(つまり独立気泡構造)。多孔性基板が互いに接続された細孔を有する場合、シェルの形成(例えば、析出など)の間に細孔が実質的に埋め込まれてしまうことを避けるべく、細孔のサイズは十分に小さくなくてはならない。特定の実施形態において、細孔がシェル物質で実質的に「プラグされ」埋め込まれてしまうのに十分な時間がないように、析出速度は十分に速い。
【0030】
特定の実施形態において、多孔性基板の細孔間の平均距離は、少なくとも最初の多孔性基板構造体に関しては、およそ1〜500ナノメートル、より詳細には、およそ10〜100ナノメートルである。この平均距離により、高容量活物質によって細孔間に形成される壁の厚さが決まる。特定の実施形態において、この距離は破壊閾値より低く保たれる。しかし上述したように、基板の破壊された破片は、それら破片が基板の他の部分、またはシェル自体が電気的に導電性であるなら、シェルに電気的に接続されたままであれば、電気化学的に活性状態のままである。最初の多孔性基板構造体の細孔の多孔率または配置は、最初のサイクリング後に変化し得、サイクル寿命を通じて変化し得る。いくつかの実施形態において、平均細孔径は、およそ5ナノメートル〜2マイクロメートル、より詳細には、およそ20〜500ナノメートルである。いくつかの構成例においては、平均細孔径は細孔間の平均距離よりも大きい。多孔性基板構造体の細孔は、閉じられた細孔であっても開かれた細孔であってもよい。
【0031】
シェル140の物質は、上述した機械的な特性および透過性を有するように選択される。これらの物質は、電気化学的に活性である、および/または電気化学的に不活性である。シェル物質のいくつかの例には、炭素、窒化リン酸リチウム(LiPON)、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタン、スズおよびスズ合金、銅および銅合金などが含まれる。一般的にシェル物質は、多孔性基板構造体物質とは組成および/または形態が異なる。例えば、カーボンシェルは、メソ多孔性シリコン基板と組み合わせて用いることが出来る。リチウム化の間、カーボンシェルは硬化し、内部のシリコンのメソ多孔性構造体は軟化し得る。硬化したシェルは、膨張する、リチウム化とともに軟化するシリコンをより良好に束縛し、複合構造体全体を膨張させるのではなく、内部の細孔内がシリコンで埋まる。上記で列挙したシェル物質のいくつかは、従来の電解質と組み合わせられ、それら電解質と共に安定したSEI層を形成する。
【0032】
一般的にシェルは、基板の細孔を実質的に埋めることなく、多孔性基板構造体のそれぞれを実質的に封入する。しかし、特定の実施形態において、複数の多孔性基板構造体が互いに接触し、その接触面ではシェル物質が存在しない。さらに、特定の実施形態において、多孔性基板構造体は導電性基板と接触し、その接触面においてはシェル物質が存在しない。これらの実施形態は、
図2A〜2Cを参照し、以下により詳細に説明する。しかし、これらの封入の方法に関わらず、多孔性基板構造体は電解質溶媒と直接接触しないよう保護されている。
【0033】
平坦なシリコン膜に関するいくつかの研究が行われ、測定によりリチウム化の際の圧縮応力が0.5〜2MPaであることがわかっている。各ナノワイヤでこの応力を測定することは出来ていないが、この範囲より低い範囲に含まれるものと考えられ、つまり、コアとシェルとの間の接触面での多孔率がゼロであると仮定した場合に内部の多孔性物質が束縛するシェルに対してかける最大応力は、およそ1.5〜2.0MPaであると考えられる。シェルは、このレベルの応力を許容するように構成されてよい。一般的にシェルは、1以上の硬質の物質から形成される。全体として、高容量活物質内の膨張および張力の緩和は、堅牢なシェルを設け、活物質内の多孔率を十分に高くすることにより達成される。
【0034】
特定の実施形態において、シェル140を用いて、多孔性基板構造体の高容量活物質へ、または高容量活物質から電流が流れる。よって、シェル140は、導電物質から形成される。さらにシェル140は、特に高容量活物質が脱リチウム化の間、接触する時、多孔性基板構造体120との実質的な接触を維持する必要がある。特定の実施形態において、中間層144がシェル140と多孔性基板構造体120との間に設けられ、多孔性基板構造体120とシェル140との付着を維持し、層間剥離が起こらないようにする。しかし、多孔性基板構造体120とシェル140との間の接触面にいくらか空隙が形成されてもよい。中間層144を用いて、多孔性基板構造体物質(例えば、高容量活物質)とシェル物質との間の反応を妨げ、シリコンの多孔性基板がカーボンシェルと直接接触した際に形成され得る炭化シリコンなどの所望されない化合物が接触面において形成されるのを妨げる。中間層144を形成するのに好ましい物質の例としては、PVDFまたは他の導電性ポリマーなどの導電性バインダーが挙げられる。
【0035】
特定の実施形態において、単一のシェルが複数の多孔性基板構造体を封入してもよい。詳細には、
図2Aは、特定の実施形態に係る、単一のシェル240によって封入された複数の多孔性基板構造体220を有する電極物質複合構造体200の概略断面図である。多孔性基板構造体220は個別に封入されてもよい。例えば、多孔性基板構造体220aはシェル物質により完全に包囲され、電極物質複合構造体200の他の要素には接触しない。例えば多孔性基板構造体220c〜220dのようにいくつかの多孔性基板構造体は互いに接触してよい。これらの「接触する」構造体は、それらの高容量活物質をいくらか共有している(例えば、結合した部分を形成している)かもしれない。そのようなものとして、電子およびイオンが最初にシェルを通過しなくてもよいよう、これらの構造間に電子およびイオンの直接的な経路が形成されていてもよい。
【0036】
特定の実施形態において、電極物質複合構造体200は、導電性基板242も含んでいてよく、シェル240を用いて、
図2Aに示すように複数の多孔性基板構造体220を基板242に機械的に取り付ける。さらに、シェル240が、複数の多孔性基板構造体220と基板242との間で電子の移動を可能としてもよく、リチウムイオンがシェル240を通過し、複数の多孔性基板構造体220に到達するようにしてもよい。基板が存在する場合、多孔性基板構造体220e、220fのようにいくつかの多孔性基板構造体が基板242に接触する。詳細には、いくつかの多孔性基板構造体は、基板242との間で直接的な電子の移動がある。いくつかの実施形態において、シェル240は、複数の多孔性基板構造体220を封入する一体的な、または連続する層を形成する。他の実施形態において、ほとんどの電極物質複合構造体は、ポリマーバインダまたは電極物質複合構造体の一部ではないいくつかの他の要素を用いて基板へ取り付けられる。
【0037】
典型的には、必須というわけではないが、基板はおよそ10
3S/m以上、より詳細にはおよそ10
6S/m以上、さらにはおよそ10
7S/m以上の伝導率を有する、導電物質から形成される。適した基板物質の例としては、銅、チタン、アルミニウム、ステンレス鋼、添加されたシリコン、および他の物質が挙げられる。
【0038】
特定の実施形態において、多孔性基板構造体の全て、若しくは実質的に全てが、導電性基板(つまり集電基板)に直接接続されている。場合によっては、これらの例は、形成および成長の間に多孔性基板構造体が基板へ取り付けられ、基板埋め込み形成多孔性基板構造体とも呼ばれ、より詳細な実施形態においては、埋め込み成長多孔性基板構造体とも呼ばれる。基板埋め込み形成および埋め込み成長構造体の様々な例が、2009年5月7日に提出された、タイトルが「ELECTRODE INCLUDING NANOSTRUCTURES FOR RECHARGEABLE CELLS」である米国特許出願第12/437,529号(代理人整理番号AMPRP001US)に説明されている。当該特許出願は、基板埋め込み形成および埋め込み成長構造体を説明する目的で、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。詳細には基板埋め込み形成多孔性基板構造体は、電極の集電体として機能する基板へ物理的および伝導的に取り付けられる構造体である。基板埋め込み形成多孔性基板構造体は(
図2Bに示すように)、電極に対し、構造体のプロファイルのランダムな位置に埋め込み形成され(ランダム埋め込み形成)、若しくは、構造体のいくつかの特定の位置へ選択的に埋め込み形成される(非ランダム埋め込み形成)。非ランダム埋め込み形成ナノ構造体の例としては、縁部分に埋め込み形成された構造体(
図2Bに示す)および内側に埋め込み形成された構造体が挙げられる。縁部分に埋め込み形成された構造体は、構造体の端部または遠位部分において基板に選択的に固定される。この場合において、構造体は、(一般的に)何らかの主要寸法が、構造体の他の寸法より長いものとして仮定している。
【0039】
図2Bは、特定に実施形態に係る、複数の基板埋め込み形成多孔性基板構造体252を有する電極物質複合構造体250の概略断面図を示す。多孔性基板構造体252はそれぞれがその一端において、基板256へと取り付けられている。多孔性基板構造体252と基板256との間の接触面には、シェル物質がなくてもよい。シェル254は多孔性基板構造体252の残りの表面を覆ってもよく、特定の実施形態において、基板256の曝された表面、つまり基板埋め込み形成多孔性基板構造体252同士の間を覆ってもよい。特定の実施形態において、シェル254を用いて基板256上で多孔性基板構造体252を支持する。多孔性基板構造体252は基板256と直接接触しているので、シェル254には導電性の低い物質を用いてもよい。それでもシェル254は、シェル254を通ってリチウムイオンが基板埋め込み形成多孔性基板構造体252に入ったり、基板埋め込み形成多孔性基板構造体252を出たり出来るように、イオン伝導性を有していなければならない。
【0040】
図2Cは、特定の実施形態に係る、テンプレート構造体268上に形成された複数の多孔性基板構造体262を有する電極物質複合構造体260の概略断面図である。テンプレート構造体268を用いて、多孔性基板構造体262と基板266との間の機械的支持および/または電子の移動を可能としてもよい。テンプレートのいくつかの例としては、ナノワイヤ、ナノチューブ、粒子、および膜などが挙げられる。特定の実施形態において、テンプレートは、シリサイドナノワイヤー、より詳細には、導電性基板に対して埋め込み成長させられたシリサイドナノワイヤーである。テンプレートの様々な例が、2011年3月2日に提出され、タイトルが「TEMPLATE ELECTRODE STRUCTURES FOR DEPOSITING ACTIVE MATERIALS」である米国特許出願第13/039,031号(代理人整理番号AMPRP012US)、および、2011年5月24日に提出され、タイトルが「MULTIDIMENSIONAL ELECTROCHEMICALLY ACTIVE STRUCTURES FOR BATTERY ELECTRODES」である米国特許出願第13/114,413号(代理人整理番号AMPRP014US)に説明されている。当該特許出願は両方が、あらゆる目的で、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0041】
上述した複合構造体は、以下に
図6Aおよび6Bの場合についてさらに説明するように、リチウムイオン電極およびバッテリーを製造すべく、用いてもよい。特定の実施形態において、上述した複合構造体に加え、電極は、ポリマーバインダ物質を用いて複合構造体を支持する導電性基板も含んでよい。当該構造体は、導電性基板に亘って電極層を形成する。特定の実施形態において、電極層は、およそ50マイクロメートル以上の厚さを有する。同一の、または他の実施形態において、電極層は、およそ25%未満の多孔率を有する。
【0042】
多孔性基板構造体は、以下に説明する様々な技術により形成することが出来る。一般的にこれらの技術は、トップダウンのタイプと、ボトムアップのタイプとに分けられる。トップダウンの技術は、例えば最初は固体である構造体から何らかの物質を取り除き、多孔性基板構造体を形成する。そのような技術の例としては、SiOxの還元、電気化学エッチング、および化学エッチングなどが挙げられるが、これらに限定されない。ボトムアップの技術では、高容量活物質を全く含有しないか、若しくは限られた量の高容量活物質しか含有しない基板をまず準備し、当該基板上に、多孔性基板構造体を積み上げていく。そのような方法の例としては、化学蒸着(CVD)、物理的蒸着(PVD)、凝集、電着、および焼結などが挙げられるが、これらに限定されない。基板構造体を確実に多孔性とする技術の例としては、プラズマ水素化、電気化学リチウム化/脱リチウム化、イオン注入、ガス挿入、Si溶解混合物中での超音波処理を介したキャビテーション、およびゾルゲル合成などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
図3は、特定の実施形態に係る、リチウムイオン電池電極を製造する方法300に対応するプロセスのフローチャートである。方法300は、動作302において、1以上の高容量活物質を含む多孔性基板構造体を形成することから開始される。一実施形態において、シリコンを含有する多孔性基板が、およそ900°未満の温度で、ヒュームドシリカなどの酸化シリコンの還元を行うことにより形成される。マグネシウム(Mg)または塩化カリウム(KCl)、塩化リチウム(LiCl)、および塩化カルシウム(CaCl
2)の溶液などの特定の還元触媒を用いて、およそ500〜700℃などの低い温度でシリコンの還元を行ってもよい。このことにより、高密度化が起こることなく、シリカの元々の多孔性基板構造体を維持することが出来る。さらに、これらの触媒の処理条件(例えば圧力、温度、環境条件、還元比など)を調節し、酸素の除去を制御することにより、多孔率を上昇させたり低下させたりできる。他の実施形態において、シリコンを含有する多孔性基板が、シリコン構造体をエッチングすることにより形成される。
【0044】
金属アシストエッチングを用いて、所定の多孔性を有するナノワイヤおよび/またはナノ粒子を形成してもよい。例えば、高度にpドープされたウェハまたは他のシリコン構造体を、例えばおよそ5Mのフッ化水素濃度であり、例えばおよそ0.01〜0.05Mの濃度で硝酸銀も含有するフッ化水素(HF)系エッチング溶液でエッチングを行ってもよい。銀イオンがシリコン表面上で核形成し、電気化学的にエッチング処理(腐食)を促進させる。この処理は、およそ25〜50℃の温度で行ってもよい。シリコン内でのpタイプのドーピングのレベル、エッチング時間、温度、および/または、(エッチング溶液および触媒の濃度、pH、電気化学エッチングの場合、加えられる電圧および/または電流など)他の処理パラメータに応じて、エッチング処理により、例えばおよそ30〜90%の多孔率を有するナノワイヤを形成することが出来る。電気化学エッチング処理により形成されるナノワイヤの例としては、
図10A〜10DのSEMおよびTEM画像に示されている。より詳細には、
図10Cは、およそ1時間エッチングが行われたシリコンナノワイヤーを示し、
図10Dは、およそ2時間エッチングが行われたシリコンナノワイヤーを示す。電気化学エッチングによって多孔性シリコン構造体が形成されることがわかっている。
【0045】
特定の実施形態において、エッチング処理の間、アノード電位がシリコンに与えられる。ウェハのドープのタイプおよび量、加えてエッチングの時間が、形成される構造体の多孔性に影響を与える。例えばボールミルまたは他の適したツール内でアスペクト比が高い構造体を粉砕することにより、アスペクト比が低い構造体(例えばナノ粒子など)をアスペクト比の高い構造体(例えばナノワイヤなど)から形成することが出来る。
【0046】
シリコンを含有する多孔性基板構造体を形成する際、冶金級シリコンの製造の副産物として生成されヒュームドシリカなど多孔率が制御されたシリカ構造体が出発物質であってよい。シリカ構造体の所望される多孔率を得るべく、キャリアガスの濃度および/または他の処理条件がこれらの処理において調整される。シリカ構造体のサイズは、追加的なシリコン前駆体または還元剤/エッチング液と共に流動反応炉を用いることにより、制御することが出来る。これらの多孔性基板構造体はその後、前述した還元経路のいずれかを用いて、多孔性シリコン基板へと還元される。
【0047】
特定の実施形態において、冶金級シリコンは溶解物から結晶化される。形成されるシリコンの多孔率は、結晶化の間の様々な条件によって制御することが出来る。一構成例において、1以上の超音波処理を用いて、結晶体内に組み込まれる泡を導入することにより、溶融シリコンの処理が行われる。他の構成例において、多孔率は固体の焼き入れ速度または冷却速度を調整することにより調整出来る。さらに、酸素(H
2)、ヨウ素(I
2)、六フッ化硫黄(SF
6)、および臭素(Br
2)などの反応ガスを用いて、ある程度の、気相シリサイドを形成し、気相エッチング液として作用するシリコンを合金化し除去することにより、多孔率を制御することが出来る。
【0048】
他の実施形態において、液体シラン前駆体、低温熱処理、および/またはレーザー脱重合を用いることにより、多孔性シリコン構造体が形成される。一例において、シランをトルエン内でエレクトロスピンし、その後、重合し加熱することによってアモルファスシリコンファイバを形成できる。他の例としては、CVD水素化、エッチング、およびゾルゲル技術が挙げられる。
【0049】
さらに他の実施形態において、凝集および/または相互結合技術を用いて多孔性シリコン構造体が形成される。処理は、例えば気相反応、還元シリカおよびその他の上述した処理技術のいずれかを用いてナノスケールのシリコン粒子を形成することから始まる。一次粒子を形成するのに用いられる前駆体および処理ガスの例としては、トリクロロシラン、四塩化シリコン、モノシラン、マンガンシリサイド、および/またはヨウ素が挙げられる。この最初の処理により、直径がおよそ100〜600ナノメートルのアモルファスシリコン粒子が生成される。これらの一次粒子は合成条件によって制御される何らかの特有の内部多孔率を有し得るが、効果的な封入による束縛を可能とする所望される多孔率を有さないかもしれない。
【0050】
処理では続いて、流動合成チャンバまたはバス内で、ナノスケールの粒子の凝集が行われる。流動合成チャンバまたはバスによって、ナノ粒子の懸濁液が生成され、ナノ粒子は、互いに自由にくっつき、つまり凝集する。クラスターサイズは、滞留時間、流速、粒子濃度、温度、および処理ガスの濃度によって決まる。この処理により、直径が数マイクロメータのクラスターが形成される。特定の実施形態において、最初のナノスケールの粒子が合成懸濁液内で互いに緩く相互結合しており、その後、所望されるメソ/マクロ粒子サイズが得られ、また特定の実施形態において、反応炉内で浮いている他のより小さな粒子からそれらを分離する所望される重量が得られる。この「自己パッキング」は、凝集した粒子が、束縛する外層により封入されリチウム化されると、最初のナノスケールのナノ粒子間の十分な内部スペースを形成し細孔を作り出し、かつ、膨張を許容する空き空間を形成する効果的なメソ/マクロ粒子の内部多孔率を達成できるように制御される。特定の実施形態において、製造処理は、多孔性コアおよび/またはシェルの事前のリチウム化を伴う。例えば、多孔性シリコンコアを有する活物質構造体は、およそ500mAh/g以上、より詳細にはおよそ1000mAh/g以上、さらにはおよそ1500mAg/g以上に事前にリチウム化することが出来る。
【0051】
図3に戻ると、方法300では続いて、動作304で多孔性基板構造体の外面に亘り、シェルを形成する。特定の実施形態において、この処理では、例えばシリコン含有多孔性基板構造体上で、炭素含有物質の化学蒸着(CVD)を行う。他の実施形態において、シェルの形成において、例えばシリコン含有多孔性基板構造体上で、ポリマー前駆体の炭化を行う。多孔性基板構造体を封入するシェルを形成する技術のいくつかの例としては、CVD、ゾルゲル技術、前駆体ポリマーの炭化、固体ポリマー電解質によるコーティング、および炭素の物理的蒸着(PVD)などが挙げられる。
【0052】
方法300では続いて、任意選択的な動作306において、複合構造体、ポリマーバインダ、および他の物質の混合、スラリーの形成、およびスラリーの導電性基板へのコーティングが行われ、その後任意選択的な動作308において、スラリーの乾燥が行われる。以下の説明では、スラリーを用いた析出技術の追加的な詳細を述べる。他の実施形態において、電極物質複合構造体は基板に取り付けられ、動作302において多孔性基板構造体が形成され、および/または動作304において多孔性基板構造体上にシェルが形成される。例えば、多孔性基板構造体は、以下に説明するような基板埋め込み形成構造体であってよい。同一の、または他の実施形態において、多孔性基板構造体は最初に、基板上に位置づけられるが、必ずしも基板へ取り付けられなくてもよい。その後、多孔性基板構造体上にシェルを形成することにより取り付けが行われる。
【0053】
最終的なスラリー混合物は、典型的には、例えば、複合構造体、バインダー、導電性添加物、および溶剤など、電極活性層の全ての物質を含有している。バインダーを用いて、基板上に活物質および導電剤を留める。一般的に、バインダーの量は、固形分ベース(つまり、溶剤を除いた)で活性層のおよそ2〜25重量パーセントである。
【0054】
溶剤は、用いるバインダーの種類によって、水性であっても非水性であってもよい。「非水性バインダー」のいくつかの例には、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)、またはカルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド、およびこれらの組み合わせなどが挙げられる。例えば、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)内に溶解された10〜20重量パーセントのPVDFを用いることが出来る。他の例としては、1〜10重量パーセントのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と1〜15重量パーセントのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを用いた組み合わせによるバインダーが挙げられる。他の例は、ポリアクリロニトリル(PAN)である。
【0055】
「水性バインダー」の例としては、カルボキシメチルセルロースおよびポリ(アクリル酸)および/またはアクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックスが挙げられる。水性バインダーの特定的な一例は、ポリアクリルアミドを以下の共重合体のうち少なくとも1つと組み合わせて用いたものである。それら共重合体は、カルボキシル化スチレン−ブタジエン共重合体およびアクリル酸スチレン共重合体である。ポリアクリルアミドのそのような共重合体に対する比率は、乾燥重量ベースでおよそ0.2:1〜1:1であってよい。他の特定の例において、水性バインダーは、カルボン酸エステルモノマーおよびメタクリロニトリルモノマーを含んでよい。他の特定の例において、バインダーは、フッ素重合体および金属キレート化合物を含んでよい。フッ素重合体は、フッ化ビニル(VF)、フッ化ビニリデン(VdF)、テトラフルオロエチレン(TFE)、三フッ化エチレン(TrFE)、塩化三フッ化エチレン(CTFE)、フッ化ビニルエーテル、フッ化アルキルアクリル酸塩/メタクリル酸塩、3〜10の炭素原子を有するペルフルオロオレフィン、ペルフルオロC1〜C8アルキルエチレン、およびフッ化ジオキソールなどのフッ化モノマーから重合されてよい。金属キレート化合物は、チタンおよびジルコニウムイオンなどの電子対受容体が配位結合により少なくとの2つの、N、O、およびSなどの電子対供与体非金属イオンに結合された複素環の形態であってよい。
【0056】
溶剤のタイプと量は、析出処理によって、所望される粘度を得られるように選択される。導電剤は、何らかのバインダーおよび導電剤を事前に混合させ、形成される混合物をボールミルまたはハイシアミキサーなどの分散システムを通過させることにより一般的に行われる、別個の分散処理を必要とする。特定の実施形態において、当該処理は数時間かかり、混合物は、例えばHegmanゲージを用いて周期的にテストを行い、分散させられていない導電剤粒子がないかが確認される。一般的に導電剤粒子のサイズは、およそ10〜100μmである。粒子サイズが活物質層の厚さのおよそ50%以下であることが特に有用である。粒子サイズが大きすぎると、スラリー析出処理に対する干渉が生じ得、層およびその電気特性の均一性に影響が表れ得る。
【0057】
残った成分はその後、スラリーへ添加される。この時点での溶剤を除いたスラリー(つまり固形分)の調合物は、通常、形成される活性層に反映される。典型的にはスラリーの粘度は、析出システムで用いるのに適した溶剤を添加することによって調整される。多くの処理において、スラリーの粘度は適切には、5,000〜40,000cPである。所望される粘度が得られると、スラリーは集電体上へコーティングされ、動作308において、溶剤は乾燥処理により取り除かれる。乾燥した活性層の典型的な重量密度は、基板を除いて、およそ0.001〜0.030g/cm2であってよい。
【0058】
コーティングは、集電体のムービングウェブを用いて行われてよい。例えば、およそ10〜30μmの厚さおよびおよそ10〜500cmの幅を有する、銅、ニッケル、ステンレス鋼のフォイルのウェブを用いてよい。ウェブはスラリーの両面にパッチコーティングされる。各パッチは後に、電気化学電池内の電極として用いることが出来る。ウェブは、集電体として用いることが出来る。パッチ間のコーティングされていない間隙は、バッテリー端子を取り付けるべく用いることが出来る。代替的に、ウェブ(集電体)の片面または両面に、連続的なコーティングを塗布してもよい。
【0059】
コーティングされ、乾燥させられた集電体は通常、電極層の所望される密度を得るべく圧縮される。圧縮は、一定の圧力を保つ、または一定の間隙を保つ1組のローラを用いて行われてよい。ローラはおよそ60〜120℃まで加熱される。さらに、コーティングされた集電体を、およそ60〜120℃まで事前に加熱することにより、活物質層をより均一に圧縮することが出来る。電極は、活性層および集電体の両方を含んだ状態での全体的な厚さがおよそ50〜300μmとなるよう圧縮される。典型的には、圧縮された電極の多孔率は、およそ20〜50%であり、より詳細にはおよそ30〜40%である。最後に圧縮されコーティングされた集電体が、所望される幅および長さを有するようにカットされる。バッテリー端子は、カットの前か後に集電体へ取り付けられる。
【0060】
図4は、特定の実施形態に係る、本明細書で説明される電極を用いる、部分的に組み立てられた電気化学電池の平面図である。電池は、正極集電体503の主要な部分を覆うように示される正極活性層502を有する。電池は、負極集電体505の主要な部分を覆うよう示される負極活性層504も有する。正極活性層502と負極活性層504との間には、セパレータ506が設けられる。
【0061】
一実施形態において、負極活性層504は正極活性層502よりもわずかに大きく、正極活性層502から放出されたリチウムイオンを負極活性層504の活物質で確実に捕捉できるようにする。一実施形態において、負極活性層504は、正極活性層502から一以上の方向におよそ0.25〜5mmだけ延出する。より特定的な実施形態において、負極層は、正極層から一以上の方向におよそ1〜2mmだけ延出する。特定の実施形態において、セパレータ506の縁は、少なくとも負極活性層504の外縁から延出し、負極が完全にバッテリー要素から電気絶縁されるようにする。
【0062】
図5は、特定の実施形態に係る、本明細書で説明する電極を用いる、部分的に組み立てられた電気化学電池の電極スタック500の断面図である。一側面に正極活性層502aを有し、他方の側面に正極活性層502bを有する、正極集電体503が示されている。一側面に負極活性層504aを有し、他方の側面に負極活性層504bを有する負極集電体505が示されている。正極活性層502aと負極活性層504aとの間には、セパレータ506aが設けられている。セパレータ506は、正極活性層502aと負極活性層504aとの間の機械的な分離を維持するよう機能し、後に加えられる液体電解質(図示せず)を吸収するスポンジとして作用する。活物質が存在しない集電体503、505の端部は、電池(図示せず)の適切な端子へ接続する際に用いることが出来る。
【0063】
電極層502a、504aと、集電体503、505と、セパレータ506aとで電気化学電池ユニットを形成するということも出来る。
図5に示す完成されたスタック500は、電極層502b、504bおよび追加のセパレータ506bを含む。集電体503、505は隣接する電池間で共有することも出来る。このようなスタックが繰り返して形成されると、単一の電池ユニットよりも大きな容量を有する電池またはバッテリーが形成されることになる。
【0064】
大きな容量を有するバッテリーまたは電池を形成する他の方法としては、1つの非常に大きな電池ユニットを作成し、それを丸めることにより、複数のスタックを形成する方法がある。
図6Aに示す概略断面図は、2枚のセパレータと共に長く幅の狭い電極を丸めて、ゼリーロール600と呼ばれることもあるバッテリーまたは電池を形成する方法を示す。ゼリーロールは、湾曲した、円筒状であることも多いケース602の内部寸法に収まる形状およびサイズを有する。ゼリーロール600は、正極606および負極604を有する。電極間の白色の空間は、セパレータシートが存在する。ゼリーロールはケース602に挿入することが出来る。いくつかの実施形態において、ゼリーロール600は中央に、最初の巻き付け直径を定め、内部の巻きが中心軸領域を占めることを妨げる、マンドレル608を有してよい。マンドレル608は、導電物質から形成されてもよく、いくつかの実施形態においては、電池端子の一部である。
図6Bは、正極集電体(図示せず)から延出する正極タブ612および負極集電体(図示せず)から延出する負極タブ614を有するゼリーロール600の斜視図である。タブは集電体へ溶接されてもよい。
【0065】
電極の長さおよび幅は、電池の全体寸法、加えて、活性層および集電体の厚さによって決まる。例えば、直径が18mmで長さが65mmの従来の18650電池では、およそ300〜1000mmの長さの電極を有してよい。より遅い速度/より大きな容量の適用例に対応するより短い電極は、厚さが大きく、巻きが少ない。
【0066】
特にサイクリングの間に電極が膨張し、それによりケーシングに対して圧力がかかる場合、いくつかのリチウムイオン電池では円筒形のデザインが用いられる。出来るだけ薄く、かつ電池に対する圧力を(良好な安全マージンを残しつつ)十分に保てる円筒状のケーシングを用いるのが好ましい。プリズム(フラット)電池を同様に丸めることも出来るが、それらのケースは可撓性であることにより、内部圧力を許容すべく、長辺に沿って折り曲げることが出来る。さらに、圧力は電池内の位置によって異なり得、プリズム電池の隅部には何も存在しないことがある。一般的に、リチウムイオン電池内で何も存在しないポケット部が形成されるのは避けるべきである。なぜなら、電極が膨張すると、当該電極はこれらのポケット部へ不均一に押しやられることになるからである。さらに、何も存在しないポケット部で電解質が凝集し、電極間の乾燥したエリアが形成され、電極間のリチウムイオンの移動にマイナスの影響を与える。しかしながら、長方形であることが求められる場合など特定の適用例においては、プリズム電池を用いるのが適切である。いくつかの実施形態において、プリズム電池は、長方形の電極およびセパレータシートのスタックを用い、巻き付けられたプリズム電池において起こり得る課題のいくつかを回避する。
【0067】
図7は、巻き付けられたゼリーロール700の上面図である。ゼリーロール700は、正極704および負極706を含む。電極間の白色の空間はセパレータシートである。ゼリーロール700は、長方形のプリズムケース702によって囲まれている。
図6Aおよび6Bに示す円筒状のゼリーロールとは異なり、ゼリーロールの巻き付けは、ゼリーロールの中間部のフラットな延長部分から始まる。一実施形態において、ゼリーロールは、電極およびセパレータが巻き付けられるゼリーロールの中間部にマンドレル(図示せず)を含んでよい。
【0068】
図8Aは、積層電池の断面図である。積層電池は、複数の電池(801a、801b、801c、801d、801e)を含み、電池のそれぞれは、正極(例えば、803a、803b)、正極集電体(例えば、802)、負極(例えば、805a、805b)、負極集電体(例えば、804)、および電極間のセパレータ(例えば、806a、806b)を含む。各集電体は、隣接する電池間で共有されている。積層電池の利点の1つは、そのスタックがどのような形状にもできるということであり、このことにより、特にプリズムバッテリーに適している。集電体のタブは、典型的には、スタックから延出し、バッテリー端子へと繋がる。
図8Bは、複数の電池を含む積層電池の斜視図である。
【0069】
上述したように電極が構成されると、バッテリーが電解質で満たされる。リチウムイオン電池内の電解質は、液体、固体、またはゲルであってもよい。固体電解質を有するリチウムイオン電池は、リチウムポリマー電池とも呼ばれる。
【0070】
典型的な液体電解質の例としては、1以上の溶剤、および1以上の塩などが挙げられる。この場合、それらの溶剤および塩のうち少なくとも1つはリチウムを含む。最初の充電サイクルの間(形成サイクルと呼ばれることもある)、電解質中の有機溶剤は、部分的に、負極表面上で分解され、固体電解質インタフェース層(SEI層)を形成する。このインタフェースは、一般的に、電気絶縁性であるが、イオン伝導性であるので、リチウムイオンが通過できる。インタフェースにより、後の充電サブサイクルにおける、電解質の分解を妨げられる。
【0071】
リチウムイオン電池に用いるのに適切な非水性溶剤のいくつかの例としては、環状炭酸エステル(例えば、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸ブチレン(BC)、および炭酸ビニルエチレン(VEC)など)、ラクトン(例えば、ガンマブチロラクトン(GBL)、ガンマバレロラクトン(GVL)、およびアルファアンゲリカラクトン(AGL)など)、線状カーボネート(例えば、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸エチルメチル(MEC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸メチルプロピル(MPC)、炭酸ジプロピル(DPC)、炭酸メチルブチル(NBC)、炭酸ジブチル(DBC)など)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2ジメトキシエタン(DME)、1,2−ジエトキシエタン、および1,2−ジブトキシエタンなど)、亜硝酸塩(例えば、アセトニトリルおよびアジポニトリルなど)、線状エステル(例えば、プロピオン酸メチル、ピバル酸メチル、ピバル酸ブチル、およびピバル酸オクチルなど)、アミド(例えば、ジメチルホルムアミドなど)、有機リン酸塩(例えば、リン酸塩トリメチルおよびリン酸トリオクチルなど)、S=Oグループを含有する有機化合物(例えば、ジメチルスルホンおよびジビニルスルホン)、およびこれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0072】
非水性液体溶媒は、組み合わせて用いることが出来る。それら組合せの例としては、環状炭酸エステル−線状炭酸塩、環状炭酸エステル−ラクトン、環状炭酸エステル−ラクトン−線状炭酸塩、環状炭酸エステル−線状炭酸塩−ラクトン、環状炭酸エステル−線状炭酸塩−エーテル、および環状炭酸エステル−線状炭酸塩−線状エステルなどが挙げられる。一実施形態において、環状炭酸エステルは、線状エステルと組み合わせられてもよい。さらに、環状炭酸エステルは、ラクトンおよび線状エステルと組み合わせられてもよい。特定の実施形態において、環状炭酸エステルの線状エステルに対する比率は、体積ベースでおよそ1:9〜10:0、好ましくは2:8〜7:3である。
【0073】
液体電解質の塩の例としては、LiPF
6、LiBF
4、LiClO4、LiAsF
6、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(C
2F
5SO
2)
2、LiCF
3SO
3、LiC(CF
3SO
2)
3、LiPF
4(CF
3)
2、LiPF
3(C
2F
5)
3、LiPF
3(CF
3)
3、LiPF
3(iso−C
3F
7)
3、LiPF
5(iso−C
3F
7)、環状アルキル基を有するリチウム塩(例えば、(CF
2)
2(SO
2)
2xLiおよび(CF
2)
3(SO
2)
2xLi)およびこれらの組み合わせなどのうち1以上が挙げられる。一般的な組み合わせとしては、LiPF
6とLiBF
4との組み合わせ、LiPF
6とLiN(CF
3SO
2)
2との組み合わせ、LiBF
4とLiN(CF
3SO
2)
2との組み合わせなどが挙げられる。
【0074】
一実施形態において、液体非水性溶剤(または溶剤の組み合わせ)の塩の全体的な濃度は、およそ0.3M以上であり、より特定的な実施形態においては、塩の濃度はおよそ0.7M以上である。濃度の上限は、溶解限度によって決まり、およそ2.5M以下であり、より特定的な実施形態においては、およそ1.5M以下である。
【0075】
典型的には固体電解質は、それ自体がセパレータとして機能するので、セパレータなしで用いる。固体電解質は、電気絶縁性であり、イオン伝導性であり、電気化学的に安定性である。固体電解質の構成において、上述した電解質電池に用いられるものと同じであってよい塩を含有するリチウムが用いられるが、有機溶剤に溶解されるのではなく、固体のポリマー複合材料内に保持される。固体ポリマー電解質の例は、伝導する間に電解質塩のリチウムイオンがくっつき、また移動することの出来る、弧立電子対を有する原子を含有するモノマーから調整されるイオン伝導性ポリマーが挙げられる。その例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)またはポリ塩化ビニリデン、またはこれらの誘導体の共重合体、ポリ(塩化三フッ化エチレン)、ポリ(エチレン−塩化三フッ化−エチレン)、ポリ(フッ化エチレンプロピレン)、ポリエチレンオキシド(PEO)、オキシメチレン結合PEO、三官能性ウレタンで結合されたPEO−PPO−PEO、ポリ(ビス(メトキシ−エトキシ−エトキシド))ホスファゼン(MEEP)、二官能性ウレタンで結合されたトリオール型PEO、ポリ((オリゴ)オキシエチレン)メタクリレート−co−アルカリ金属メタクリレート、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリル酸メチル(PNMA)、ポリメチルアクリロニトリル(PMAN)、ポリシロキサンおよびその共重合体および誘導体、アクリル酸塩系ポリマー、他の同様の溶剤を含まないポリマー、異なるポリマーが形成されるよう濃縮された、または結合された、上述したポリマーの組み合わせ、上述したポリマーのいずれかの物理的な混合物などが挙げられる。他の伝導性の低いポリマーを上述したポリマーと組み合わせ、薄い積層の強度を高めてもよい。それらの伝導性の低いポリマーの例としては、ポリエステル(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などが挙げられる。
【0076】
図9は、一実施形態に係る、円筒状に巻かれた電池の断面図を示す。ゼリーロールは、螺旋状に巻かれた正極902、負極904、および2枚のセパレータ906を含む。ゼリーロールは電池ケース916内に挿入され、キャップ918およびガスケット920を用いて電池をシーリングする。いくつかの場合において、キャップ918またはケース916は、安全装置を含む。例えば、安全用のベントまたは破裂弁を用いて、バッテリー内に過剰な圧力が蓄積した場合には壊れて開放されるように構成してもよい。また、電池に短絡が生じたときに引き起こされ得る損傷を軽減すべく、PTCサーミスタをキャップ918の導電経路へ組み込んでもよい。キャップ918の外面は、正端子として用いてもよく、電池ケース916の外面は、負端子として機能してもよい。代替的な実施形態において、バッテリーの極性が反転させられ、キャップ918の外面は負端子として用いられ、電池ケース916の外面は、正端子として機能する。タブ908、910を用いて、正極、負極、および対応する端子を接続してもよい。内部の短絡を防ぐべく、適切な絶縁ガスケット914、912を挿入してもよい。例えば、Kapton(登録商標)フィルムを用いて内部の絶縁を行う。製造の間、電池をシーリングすべく、キャップ918はケース916に対しクリンピング(crimped)される。しかしこの処理の前に、電解質(図示しない)がゼリーロールの細孔空間を埋めるべく添加される。
【0077】
典型的には、リチウムイオン電池には剛性のケースが必要であり、リチウムポリマー電池は、可撓性の、フォイルのような(ポリマーの薄板)のケースにパックされてよい。ケースの形成には様々な物質を用いることが出来る。リチウムイオンバッテリーに関しては、Ti−6−4、他のTi合金、Al、Al合金、および300系ステンレス鋼が、正の導電性ケース部分およびエンドキャップに適している。工業用純Ti、Ti合金、Cu、Al、Al合金、Ni、Pb、およびステンレス鋼が、負の導電性ケース部分およびエンドキャップに適している。
【0078】
電池パックまたはバッテリーパックを形成するか、もしくはそれらの一部となるリチウムイオンバッテリーは、それぞれが電気化学活物質を含有する1以上のリチウムイオン電気化学電池を含む。電池に加え、リチウムイオンバッテリーは、複数の電池間の電力のバランスを制御し、充電および放電パラメータを制御し、安全を確保し(熱暴走および電気暴走)、および他の目的を達成する電力管理回路も含んでよい。個々の電池は、互いに直列に、および/または並列に接続され、適切な電圧、電力、および他の特性を有するバッテリーを形成してよい。
【0079】
明確に理解いただけるよう上述した概念はいくらかの詳細を用いて説明されてきたが、
本願発明の態様内で変更および修正を加えられることが明らかである。処理、システム、
および装置を実施する代替的な方法が多くある。したがって、本実施形態は例示的なもの
であり、本願発明を限定するわけではないものとして見なされるべきである。
なお、本願明細書に記載の実施形態によれば、以下の構成もまた開示される。
[項目1]
リチウムイオン電池の電極で用いる電極物質複合構造体であり、
高容量活物質を有する多孔性基板構造体と、
前記多孔性基板構造体を封入するシェルであり、前記多孔性基板構造体を機械的に束縛し、前記高容量活物質のリチウム化および脱リチウム化の間にリチウムイオンを通過させながら、前記シェル内に封入された前記高容量活物質と1以上の電解質溶媒が相互作用するのを実質的に妨げる前記シェルと
を備え、
前記多孔性基板構造体の多孔率は、前記高容量活物質のリチウム化の間に低下し、前記高容量活物質の脱リチウム化の間に上昇する、電極物質複合構造体。
[項目2]
負極物質である、項目1に記載の電極物質複合構造体。
[項目3]
前記高容量活物質は、結晶シリコン、アモルファスシリコン、酸化シリコン、酸窒化シリコン、スズ含有物質、硫黄含有物質、およびゲルマニウム含有物質からなる群より選択される1以上の物質を含む、項目1または2に記載の電極物質複合構造体。
[項目4]
前記シェルは、炭素、窒化リン酸リチウム(LiPON)、酸化チタン、酸化シリコン、酸化アルミニウム、スズ、銅、スズ合金、および銅合金からなる群より選択される1以上の物質を含有する、項目1から3のいずれか1項に記載の電極物質複合構造体。
[項目5]
前記多孔性基板構造体は、前記高容量活物質のリチウム化および脱リチウム化の間、常に一定以上の多孔率を維持する、項目1から4のいずれか1項に記載の電極物質複合構造体。
[項目6]
前記多孔性基板構造体は、前記高容量活物質がリチウム化理論容量のおよそ75%以上までリチウム化される際、およそ10%以上の多孔性を有する、項目1から5のいずれか1項に記載の電極物質複合構造体。
[項目7]
前記シェルは、前記高容量活物質のリチウム化および脱リチウム化の間、実質的に全く塑性変形しない、項目1から6のいずれか1項に記載の電極物質複合構造体。
[項目8]
追加の多孔性基板構造体をさらに備え、
前記シェルは、2以上の多孔性基板構造体を封入する、項目1から7のいずれか1項に記載の電極物質複合構造体。
[項目9]
前記2以上の多孔性基板構造体は、前記電極物質複合構造体内で互いに接触する、項目8に記載の電極物質複合構造体。
[項目10]
前記シェルは、前記多孔性基板構造体および前記追加の多孔性基板構造体を電気接続する、項目8または9に記載の電極物質複合構造体。
[項目11]
前記電極物質複合構造体は、およそ50ナノメートルから30マイクロメートルの平均主要寸法を有する、項目1から10のいずれか1項に記載の電極物質複合構造体。
[項目12]
前記シェルは、およそ1から100ナノメートルの平均厚さを有する、項目1から11のいずれか1項に記載の電極物質複合構造体。
[項目13]
前記多孔性基板構造体と前記シェルとの間に位置する中間層をさらに備える、項目1から12のいずれか1項に記載の電極物質複合構造体。
[項目14]
前記高容量活物質は、シリコンを含み、
前記シェルは炭素を含む、項目1から13のいずれか1項に記載の電極物質複合構造体。
[項目15]
前記シェルは、前記多孔性基板構造体内に存在しない物質を1以上含む、項目1から14のいずれか1項に記載の電極物質複合構造体。
[項目16]
前記シェルに対する前記多孔性基板構造体の体積比は、およそ10以上である、項目1から15のいずれか1項に記載の電極物質複合構造体。
[項目17]
電気化学活性複合構造体と、
導電性基板を
を備え、
前記電気化学活性複合構造体は、
高容量活物質を有する多孔性基板構造体と、
前記多孔性基板構造体を封入するシェルであり、前記多孔性基板構造体を機械的に束縛し、前記高容量活物質のリチウム化および脱リチウム化の間にリチウムイオンを通過させながら、前記シェル内に封入された前記高容量活物質と1以上の電解質溶媒が相互作用するのを実質的に妨げる前記シェルと
を有し、
前記多孔性基板構造体の多孔率は、前記高容量活物質のリチウム化の間に低下し、前記高容量活物質の脱リチウム化の間に上昇し、
前記導電性基板は、前記電気化学活性複合構造体を支持し、かつ、前記電気化学活性複合構造体の前記多孔性基板構造体の前記高容量活物質との間の電子の移動を可能とする、電極。
[項目18]
前記導電性基板上で前記電気化学活性複合構造体を支持するバインダー物質をさらに備える、項目17に記載の電極。
[項目19]
前記シェルは、前記電気化学活性複合構造体を前記導電性基板へ取り付ける、項目17または18に記載の電極。
[項目20]
前記シェルは、前記導電性基板の表面上に形成されるシェル物質の層と一体構造を形成する、項目19に記載の電極。
[項目21]
前記多孔性基板構造体は、前記導電性基板と直接接触する、項目17から20のいずれか1項に記載の電極。
[項目22]
前記多孔性基板構造体は、前記導電性基板上に埋め込み形成された基板である、項目21に記載の電極。
[項目23]
前記多孔性基板構造体は、前記導電性基板上に埋め込み成長させられる、項目22に記載の電極。
[項目24]
電気化学活性複合構造体を有する負極と、
正極と、
前記負極と前記正極との間のイオンの移動を可能とし、リチウムイオンを有する電解質と
を備え、
前記電気化学活性複合構造体は、
高容量活物質を有する多孔性基板構造体と、
前記多孔性基板構造体を封入するシェルであり、前記多孔性基板構造体を機械的に束縛し、前記高容量活物質のリチウム化および脱リチウム化の間に前記リチウムイオンを通過させながら、前記シェル内に封入された前記高容量活物質と1以上の電解質溶媒が相互作用するのを実質的に妨げる前記シェルと
を有し、
前記多孔性基板構造体の多孔率は、前記高容量活物質のリチウム化の間に低下し、前記高容量活物質の脱リチウム化の間に上昇する、リチウムイオン電池。
[項目25]
前記1以上の電解質溶媒は、炭酸塩、亜硝酸塩、エステル、アミド、およびリン酸塩からなる群より選択され、
前記シェルは、前記1以上の電解質溶媒に対し実質的に不浸透性である、項目24に記載のリチウムイオン電池。
[項目26]
前記シェルは、前記シェルの外面上にSEI層を形成し、
前記シェルの前記外面は、前記シェルによって、前記多孔性基板構造体から隔てられる、項目24または25に記載のリチウムイオン電池。
[項目27]
リチウムイオン電池で用いる電極の製造方法であり、
高容量活物質を有する多孔性基板構造体を設ける段階と、
前記多孔性基板構造体の前記高容量活物質を封入する1以上のシェルであり、前記多孔性基板構造体を機械的に束縛し、前記高容量活物質のリチウム化および脱リチウム化の間にリチウムイオンを通過させながら、前記1以上のシェル内に封入された前記高容量活物質と1以上の電解質溶媒が相互作用するのを実質的に妨げる前記1以上のシェルを前記多孔性基板構造体上に形成する段階と
を備え、
前記多孔性基板構造体の多孔率は、前記高容量活物質のリチウム化の間に低下し、前記高容量活物質の脱リチウム化の間に上昇する、方法。
[項目28]
前記1以上のシェルに封入される前記多孔性基板構造体をバインダー内に混合させ、スラリーを形成する段階と、
前記スラリーを導電性基板上にコーティングする段階と
をさらに備える、項目27に記載の方法。
[項目29]
前記1以上のシェルを形成する段階は、前記多孔性基板構造体を導電性基板へ取り付ける段階を含む、項目27または28に記載の方法。
[項目30]
前記多孔性基板構造体は、導電性基板上に設けられる、項目27に記載の方法。
[項目31]
前記1以上のシェルの一部は、前記導電性基板上の層を形成する、項目30に記載の方法。
[項目32]
前記多孔性基板構造体を設ける段階の前に、ヒュームドシリカをおよそ700℃未満で還元することにより前記多孔性基板構造体を形成する段階をさらに備える、項目27から31のいずれか1項に記載の方法。
[項目33]
前記多孔性基板構造体を設ける段階の前に、シリコン構造体をエッチングすることにより前記多孔性基板構造体を形成する段階をさらに備える、項目27から32のいずれか1項に記載の電極の製造方法。
[項目34]
前記多孔性基板構造体を設ける段階の前に、冶金級シリコンから前記多孔性基板構造体を形成する段階をさらに備える、項目27から33のいずれか1項に記載の電極の製造方法。
[項目35]
前記1以上のシェルを形成する段階は、前記多孔性基板構造体上で炭素含有物質の化学蒸着を行う段階を含む、項目27から34のいずれか1項に記載の電極の製造方法。
[項目36]
前記1以上のシェルを形成する段階は、ポリマー前駆体の炭化を行う段階を含む、項目27から35のいずれか1項に記載の電極の製造方法。