特許 6185853 すべり軸受

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】特許公報(B2)

(11)【特許番号】6185853

(24)【登録日】2017年8月4日

(45)【発行日】2017年8月23日

(54)【発明の名称】すべり軸受

(51)【国際特許分類】

   F16C 33/10 20060101AFI20170814BHJP

   F16C 9/02 20060101ALI20170814BHJP

   F16C 17/02 20060101ALI20170814BHJP

【ＦＩ】

   F16C33/10 Z

   F16C9/02

   F16C17/02 Z

【請求項の数】3

【全頁数】7

(21)【出願番号】特願2014-9762(P2014-9762)

(22)【出願日】2014年1月22日

(65)【公開番号】特開2015-137709(P2015-137709A)

(43)【公開日】2015年7月30日

【審査請求日】2016年7月8日

(73)【特許権者】

【識別番号】000207791

【氏名又は名称】大豊工業株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】100080621

【弁理士】

【氏名又は名称】矢野 寿一郎

(72)【発明者】

【氏名】芦原 克宏

(72)【発明者】

【氏名】梶木 悠一朗

(72)【発明者】

【氏名】高田 裕紀

【審査官】 前田 浩

(56)【参考文献】

【文献】 特開２０１３−５７３５１（ＪＰ，Ａ）

【文献】 実開平１−１５４３２３（ＪＰ，Ｕ）

(58)【調査した分野】（Int.Cl.，ＤＢ名）

Ｆ１６Ｃ ３３／１０

Ｆ１６Ｃ ９／０２

Ｆ１６Ｃ １７／０２

(57)【特許請求の範囲】

【請求項1】

円筒を軸方向と平行に二分割した半割部材を上下に配置したすべり軸受であって前記下側の半割部材の軸方向両端部であって、回転方向下流側端部に細溝を設け、
前記細溝の軸方向外側の周縁部に凹部を設け、
前記凹部の底面は、前記細溝の底面よりも高さが高くなるように形成し、
前記凹部の円周方向の長さが、前記細溝の長さよりも短くなるように形成した
ことを特徴とするすべり軸受。

【請求項2】

前記凹部は、回転方向上流側の端部が、細溝の回転方向上流側端部と同じ位置になるように形成した
ことを特徴とする請求項１に記載のすべり軸受。

【請求項3】

前記凹部は、回転方向下流側の端部が、細溝の円周方向中央よりも上流側の位置になるように形成した
ことを特徴とする請求項２に記載のすべり軸受。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、すべり軸受の技術に関し、円筒を軸方向と平行に二分割した半割部材を上下に配置したすべり軸受の技術に関する。

【背景技術】

【0002】

従来、エンジンのクランクシャフトを軸支するための軸受であって、円筒形状を二分割した二つの部材を合わせる半割れ構造のすべり軸受が公知となっている。また、前記軸受の摺動面積を減らし、フリクション低減効果を得るために、前記軸受の幅を狭くする構造がある。しかし、軸受の幅を狭くすると、流出油量が増加していた。そこで、前記軸受の軸方向両端部に、全周に逃げ部分（細溝）を形成した軸受が公知となっている（例えば、特許文献１参照）。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0003】

【特許文献1】特表２００３−５３２０３６号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0004】

しかし、従来の全周に細溝を形成した軸受では、摺動面積減少により、負荷容量が低下し、良好な潤滑に必要な油膜厚さを確保することができず、且つ、総和の流出油量が多かった。

【0005】

そこで、本発明は係る課題に鑑み、フリクション低減効果を得ることができ、総和の流出油量を抑えることができる軸受を提供する。

【課題を解決するための手段】

【0006】

本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。

【0007】

即ち、請求項１においては、円筒を軸方向と平行に二分割した半割部材を上下に配置したすべり軸受であって前記下側の半割部材の軸方向両端部であって、回転方向下流側端部に細溝を設け、
前記細溝の軸方向外側の周縁部に凹部を設け、
前記凹部の底面は、前記細溝の底面よりも高さが高くなるように形成し、
前記凹部の円周方向の長さが、前記細溝の長さよりも短くなるように形成したものである。

【0008】

請求項２においては、前記凹部は、回転方向上流側の端部が、細溝の回転方向上流側端部と同じ位置になるように形成したものである。

【0009】

請求項３においては、前記凹部は、回転方向下流側の端部が、細溝の円周方向中央よりも上流側の位置になるように形成したものである。

【発明の効果】

【0010】

本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。

【0011】

すなわち、油膜圧力の発生を妨げない程度の細溝を設けることで、摺動面積を減らしつつ、フリクション低減効果を得ることができ、かつ、総和の流出油量を抑えることができる。
また、前記細溝の周縁部に凹部を設けることで、油の吸い戻し量を多くするように調節することができる。
また、凹部の回転方向上流側端部が細溝の回転方向上流側端部から設けられていることで、回転方向上流側端部の吸い戻し量が増加する。また、凹部の回転方向下流側端部が細溝の周縁部の下流側に設けられていないため、漏れ油量が減少する。これにより漏れ油量の総量が減少する。

【図面の簡単な説明】

【0012】

【図1】本発明の実施形態に係るすべり軸受を示す正面図。

【図2】本発明の実施形態に係るすべり軸受を構成する半割部材を示す平面図。

【図3】（ａ）本発明の実施形態に係る半割部材を示す平面拡大図。（ｂ）同じくＡ−Ａ線断面拡大図。（ｃ）同じくＢ−Ｂ線断面拡大図。

【図4】（ａ）本発明の実施形態に係る半割部材を示すＣ−Ｃ線断面拡大図。（ｂ）本発明の実施形態に係る半割部材を示すＤ−Ｄ線断面拡大図。

【発明を実施するための形態】

【0013】

次に、発明の実施の形態を説明する。なお、図１はすべり軸受１の正面図であり、画面の上下を上下方向、画面の手前方向及び奥方向を軸方向（前後方向）とする。

【0014】

まず、第一の実施形態に係るすべり軸受１を構成する半割部材２について図１及び図２を用いて説明する。
すべり軸受１は円筒状の部材であり、図１に示すように、エンジンのクランクシャフト１１のすべり軸受構造に適用される。すべり軸受１は、二つの半割部材２・２で構成されている。二つの半割部材２・２は、円筒を軸方向と平行に二分割した形状であり、断面が半円状となるように形成されている。本実施形態においては、半割部材２・２は上下に配置されており、左右に合わせ面が配置されている。クランクシャフト１１をすべり軸受１で軸支する場合、所定の隙間が形成され、この隙間に対し図示せぬ油路から潤滑油が供給される。

【0015】

図２においては、上側および下側の半割部材２を示している。なお、本実施形態においては、クランクシャフト１１の回転方向を図１の矢印に示すように正面視時計回り方向とする。また、軸受角度ωは、図１における右端の位置を０度とし、図１において、反時計回り方向を正とする。すなわち、図１において、左端の位置の軸受角度ωが１８０度となり、下端の位置の軸受角度ωが２７０度となるように定義する。

【0016】

上側の半割部材２の内周には円周方向に溝が設けられており、中心に円形の孔が設けられている。また、上側の半割部材２の左右に合わせ面が配置されている。
下側の半割部材２の内周の摺動面において、その軸方向の端部に細溝３が形成されている。

【0017】

細溝３は下側の半割部材２に設けられる。本実施形態においては、細溝３は軸方向に並列して二本設けられている。細溝３の回転方向下流側端部３ａは、クランクシャフト１１の回転方向下流側合わせ面に近接しており、回転方向下流側端部３ａと回転方向下流側合わせ面とは連通することなく設けられている。
詳細には、細溝３の回転方向下流側端部３ａが、クランクシャフト１１の回転方向下流側合わせ面がある１８０度よりも大きい軸受角度ω０に配置されている。すなわち、細溝３は、クランクシャフト１１の回転方向下流側合わせ面（軸受角度ωが１８０度）よりも大きい軸受角度ωから軸受角度ωが正となる方向（反時計回り方向）に向けて円周方向に設けられる。
下側の半割部材２においては、図１の右側の合わせ面が回転方向上流側合わせ面、図１の左側の合わせ面が回転方向下流側合わせ面となる。

【0018】

細溝３の長さｌは、回転方向下流側端部３ａ（軸受角度がω０）から回転方向上流側端部３ｂ（軸受角度がω１）までの長さに形成したものである。なお、軸受角度ω１は、ω０よりも大きく２７０度以下である。より詳細には、軸受角度ω１は、通常２２５度よりも大きく２７０度以下である領域に存在する。

【0019】

細溝３は、図４に示すように、軸受厚さＴよりも浅い深さｄとなるように形成されている。また、細溝３の幅はｗとなるように形成されている。
また細溝３の軸方向外側面には周縁部２ａが形成されており、図４（ｂ）に示すように、周縁部２ａの高さｈは、軸受厚さＴと同じ高さになるように構成されている。
また、細溝３の軸方向外側面を形成する周縁部２ａには、凹部２ｂが設けられている。

【0020】

凹部２ｂは、軸方向において周縁部２ａと略同じ幅で形成されており、断面視において、碗状に形成されている。
凹部２ｂは、図３（ａ）及び（ｃ）に示すように、その回転方向上流側端部２ｃが、細溝３の回転方向上流側端部３ｂ（軸受角度がω１）と円周方向において同じ位置となるように形成されている。また、凹部２ｂの回転方向下流側端部２ｄが、細溝３の回転方向下流側端部３ａよりも上流側に設けられている。これにより、凹部２ｂの円周方向の長さｌ１は、細溝３の長さｌよりも短くなるように構成されることになる。また、より詳細には、凹部２ｂの回転方向下流側端部２ｄは、細溝３の円周方向中央（軸受角度ωがω２）よりも上流側に設けられている。このように構成することにより、回転方向上流側端部３ｂでのみ吸い戻し量を増加させることができる。すなわち、回転方向下流側端部３ａでは吸い戻し量は増加しないが、漏れ油量が増加するのを防止することができる。

【0021】

凹部２ｂの設けられた部分の周縁部２ａの高さｈは、細溝３の底面よりも高い位置になるように構成されている。すなわち凹部２ｂの底面が最も低くなる位置（軸受角度ωがω３）においても、図４（ａ）に示すように、凹部２ｂの設けられた部分の周縁部２ａの高さｈ１は、細溝３の底面よりも高い位置になるように構成されている。本実施形態においては、凹部２ｂの底面が最も低くなる位置（軸受角度ωがω３）は凹部２ｂの円周方向中央に設けられている。

【0022】

なお、本実施形態においては、凹部２ｂ以外の周縁部２ａの高さｈは、一定となるように構成しているが、これに限定するものではなく、例えば、凹部２ｂ以外の周縁部２ａの高さｈを円周方向に対して連続的に変化させることも可能である。

【0023】

以上のように、円筒を軸方向と平行に二分割した半割部材２・２を上下に配置したすべり軸受１であって下側の半割部材２の軸方向端部に、円周方向に細溝３を設け、細溝３の軸方向外側の周縁部２ａに凹部２ｂを設け、凹部２ｂの円周方向の長さｌ１が、細溝３の長さｌよりも短くなるように形成したものである。
このように構成することにより、周縁部２ａに凹部２ｂを設けることで、油膜圧力勾配を変化させて油の吸い戻し量を多くするように調節することができる。すなわち、凹部２ｂを設けたことにより軸受表面と細溝との間に空間が生まれ、油の吸い戻し量が増加するものである。

【0024】

また、凹部２ｂは、回転方向上流側端部２ｃが、細溝３の回転方向上流側端部３ｂと同じ位置になるように形成したものである。
このように構成することにより、凹部２ｂの回転方向上流側端部２ｃが細溝３の回転方向上流側端部３ｂから設けられていることで、細溝３の回転方向上流側端部３ｂの吸い戻し量が増加する。

【0025】

また、凹部２ｂは、回転方向下流側端部２ｄが、細溝３の円周方向中央（軸受角度ωがω２）よりも上流側の位置になるように形成したものである。
このように構成することにより、凹部２ｂの回転方向下流側端部２ｄが細溝３の周縁部２ａの下流側に設けられていないため、細溝３の回転方向下流側における漏れ油量が減少する。これにより漏れ油量の総量が減少する。

【符号の説明】

【0026】

１ すべり軸受
２ 半割部材
２ａ 周縁部
２ｂ 凹部
２ｃ 回転方向下流側端部
２ｄ 回転方向上流側端部
３ 細溝
３ａ 回転方向下流側端部
３ｂ 回転方向上流側端部
１１ クランクシャフト

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】