特許第6185859号(P6185859)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6185859
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】車体パネル構造体
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/06 20060101AFI20170814BHJP
   B60R 13/08 20060101ALI20170814BHJP
   G10K 11/172 20060101ALI20170814BHJP
   B60R 13/02 20060101ALN20170814BHJP
【FI】
   B62D25/06 Z
   B60R13/08
   G10K11/172
   !B60R13/02 A
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-29457(P2014-29457)
(22)【出願日】2014年2月19日
(65)【公開番号】特開2015-151105(P2015-151105A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2016年3月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000124454
【氏名又は名称】河西工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(74)【代理人】
【識別番号】100186679
【弁理士】
【氏名又は名称】矢田 歩
(74)【代理人】
【識別番号】100189186
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】立木 智博
【審査官】 田合 弘幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−199276(JP,A)
【文献】 特開昭62−191890(JP,A)
【文献】 特開2003−108145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/06
B60R 13/08
G10K 11/172
B60R 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウターパネルと、
前記アウターパネルの裏面に配設された固着部材と、
前記固着部材を介して取り付けられた制振補強材と、を有し、
前記制振補強材は、吸音特性及び制振特性を有する基材層と,該基材層の表裏両面に各々積層配置された1対の第1及び第2の表皮層とが一体化されて構成されてなる、車体パネル構造体において、
前記基材層は、シート材を断面形状が凹凸を繰り返す波形に形成してマット状にされた、隔壁体を平板状に配設されてなり、
該隔壁体の表裏両面側に配置された前記第1及び第2の表皮層が、それぞれ前記隔壁体の稜線部分に当接して積層配置され、前記制振補強材の内部が前記隔壁体により複数個の部屋に区切られ、
前記アウターパネル側の前記第1の表皮層には、前記隔壁体の各稜線の間の凹部に対応して貫通した複数個の孔が設けられ、前記アウターパネルの裏面に配設された前記固着部材は、前記孔と重ならない位置に設けられて前記孔を塞ぐことがなく、
当該孔を介して、前記基材層の前記部屋の各々が音源側の外部と連通して前記制振補強材が音を吸収する、ヘルムホルツ型共鳴器構造を形成し、
該ヘルムホルツ型共鳴器構造では、前記第1の表皮層に形成した前記孔の空気マスAmと前記基材層内に形成される空気ばねAsの両者が共働して、音エネルギーを熱エネルギーに変換して、前記アウターパネルの振動を抑制するとともに、上記アウターパネルから浸透してきた音を吸収して、吸音を行う、
ことを特徴とする車体パネル構造体。
【請求項2】
前記表皮層が、単一材又は複合材で形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の車体パネル構造体。
【請求項3】
前記基材層が、前記波形の隔壁体を各々設けた上段層及び下段層と、該上段層と該下段層との間に積層配設されたシート状の中間層と、を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の車体パネル構造体。
【請求項4】
前記上段層の凹凸のピッチと前記下段層の凹凸のピッチが異なる、ことを特徴とする請求項3に記載の車体パネル構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車体パネル構造体に関するものであり、特に、自動車のルーフパネル、ドアパネル、トランクサイドパネル等のパネルとして使用される車体パネル構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の車体部材のパネル構造体には、車室内空間の静寂さを保つため、吸音及び制振並びに補強をするための手段として、アウターパネルの裏面とインナーパネルとの空間に発泡成形体等でなる制振補強材(インシュレータ)を配設した構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特にルーフパネルの部分は、積雪や上からの荷重に対しパネルがへこまないようにするのに、国内仕様の自動車ではルーフボウを設定して補強し、欧州仕向けの自動車では例えば特許文献1で知られるように発泡成形体等でなる制振補強材をアウターパネルの裏面に取り付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−78985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の制振補強材のように、従来の発泡成形体等でなる制振補強材を使用したパネル構造体では、パネル振動を抑制することは可能であるが、パネルから透過してきた音を吸収することは極わずかで、十分な防音性能を得ることができないという問題点があった。
【0006】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、静かな車内空間を実現するためにより高い防音性能と制振性能に優れた車体パネル構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アウターパネルと、前記アウターパネルの裏面に配設された固着部材と、前記固着部材を介して取り付けられた制振補強材と、を有し、前記制振補強材は、吸音特性及び制振特性を有する基材層と,該基材層の表裏両面に各々積層配置された1対の第1及び第2の表皮層とが一体化されて構成されてなる、車体パネル構造体において、前記基材層は、シート材を断面形状が凹凸を繰り返す波形に形成してマット状にされた、隔壁体を平板状に配設されてなり、該隔壁体の表裏両面側に配置された前記第1及び第2の表皮層が、それぞれ前記隔壁体の稜線部分に当接して積層配置され、前記制振補強材の内部が前記隔壁体により複数個の部屋に区切られ、前記アウターパネル側の前記第1の表皮層には、前記隔壁体の各稜線の間の凹部に対応して貫通した複数個の孔が設けられ、前記アウターパネルの裏面に配設された前記固着部材は、前記孔と重ならない位置に設けられて前記孔を塞ぐことがなく、当該孔を介して、前記基材層の前記部屋の各々が音源側の外部と連通して前記制振補強材が音を吸収する、ヘルムホルツ型共鳴器構造を形成し、該ヘルムホルツ型共鳴器構造では、前記第1の表皮層に形成した前記孔の空気マスAmと前記基材層内に形成される空気ばねAsの両者が共働して、音エネルギーを熱エネルギーに変換して、前記アウターパネルの振動を抑制するとともに、上記アウターパネルから浸透してきた音を吸収して、吸音を行う、
車体パネル構造体を提供する。
【0008】
本発明は、前記表皮層が、単一材又は複合材で形成されている、請求項1に記載の車体パネル構造体を提供する。
【0009】
本発明は、前記基材層が、前記波形の隔壁体を各々設けた上段層及び下段層と、該上段層と該下段層との間に積層配設されたシート状の中間層と、を有する、請求項1に記載の車体パネル構造体を提供する。
【0010】
本発明は、前記上段層の凹凸のピッチと前記下段層の凹凸のピッチが異なる、請求項3に記載の車体パネル構造体を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、制振補強材によりパネルの振動を抑制するとともに、パネルを透過して来た音を表皮層に設けられている孔により吸収することができるので、車内空間側に伝わる騒音が低減する。また、その孔径及び孔のピッチを変えることで、問題となるパネル透過音の周波数域を吸音できるように、チューニングすることも可能になる。さらに、制振補強材に設けた孔により、室内側へ伝わる騒音を低減させることができるため、その分、ヘッドライニング等の内装トリムに設定されている吸音材等を撤去することができ、コスト及び重量低減が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る車体パネル構造体が適用された自動車の要部を模式的に示す縦断面図である。
図2】本発明に係る車体パネル構造体の第1実施形態を示す断面図である(図1のA−A線断面に相当する)。
図3】第1実施形態における制振補強材を示す図で、(a)は上面側より見た制振補強材の斜視図、(b)は制振補強材の平面図である。
図4】第1実施形態における制振補強材の吸音作用を説明する図である。
図5】第1実施形態における車体パネル構造体の検証結果データの一例を示す図である。
図6】本発明に係る車体パネル構造体の第2実施形態を示す図で、(a)はその車体パネル構造体の断面図(図1のA−A線断面に相当する)、(b)は制振補強材の平面図である。
図7】本発明に係る車体パネル構造体の第3実施形態を示す図で、(a)はその車体パネル構造体の断面図(図1のA−A線断面に相当する)、(b)は制振補強材の平面図である。
図8】本発明に係る車体パネル構造体の第4実施形態を示し、(a)はその車体パネル構造体の断面図(図1のA−A線断面に相当する)、(b)は上面側より見た制振補強材の斜視図、(c)は制振補強材の平面図である。
図9】第4実施形態における制振補強材の吸音作用を説明する図である。
図10】本発明に係る車体パネル構造体の第5実施形態を示す図で、(a)はその車体パネル構造体の断面図(図1のA−A線断面に相当する)、(b)は制振補強材の斜視図である。
図11】車体パネル構造体の第6実施形態を示す断面図である(図1のA−A線断面に相当する)。
図12】本発明に係る車体パネル構造体の第7実施形態を示す断面図である(図1のA−A線断面に相当する)。
図13】本発明に係る車体パネル構造体の第8実施形態を示す断面図である(図1のA−A線断面に相当する)。
図14】本発明に係る車体パネル構造体の第9実施形態を示し、(a)はその車体パネル構造体の断面図(図1のA−A線断面に相当する)、(b)は制振補強材の平面図である。
図15】本発明に係る車体パネル構造体の第10実施形態を示し、(a)はその車体パネル構造体の断面図(図1のA−A線断面に相当する)、(b)は制振補強材の平面図である。
図16】本発明に係る車体パネル構造体の第11実施形態を示し、(a)はその車体パネル構造体の断面図(図1のA−A線断面に相当する)、(b)は制振補強材の平面図である。
図17】本発明に係る車体パネル構造体の第12実施形態を示し、(a)はその車体パネル構造体の断面図(図1のA−A線断面に相当する)、(b)は制振補強材の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の車体パネル構造体を実施するための形態(以下、「実施形態」という)を、添付図面に基づいて説明する。なお、以下の説明で、各実施形態において同一の構成部分は同一符号を付して説明をする。
【0021】
(第1実施形態)
図1は本発明に係る車体パネル構造の第1実施形態が適用された自動車の要部を模式的に示す縦断面図である。
【0022】
第1実施形態の車体パネル構造が適用された図1に示す自動車10は、乗員が座る座席シート11を囲む車室12を有している。車室12の天井は、アウターパネル(車体パネル)13と、そのアウターパネル13との間に空間を設けて該アウターパネル13の下側(車室12側)に配設されているヘッドライニング14と、そのアウターパネル13とヘッドライニング14との間に配設された制振補強材15とを備えている。
【0023】
前記制振補強材15は、概略マット状をしており、図1に示すように、例えば積雪や上からの荷重に対してアウターパネル13がへこまないように補強を必要とする箇所と、振動や騒音が問題となるような箇所等にて、アウターパネル13の下面(裏面)に配設されている。したがって、制振補強材15のマット形状は、アウターパネル13の形状に概略合わせて形成されている。
【0024】
また、制振補強材15のアウターパネル13への取り付けは、図2に示すように、アウターパネル13との間に空気層16が設けられるように、固着部材17を介することによってアウターパネル13との間に隙間を持たせて取り付けられている。なお、固着部材17としては、例えば両面テープ、反応型接着剤、ボルト・ナットを使用する。なお、図2図1のA−A線に相当する部分の拡大概略断面図であり、図2ではヘッドライニング14は省略している。
【0025】
更に説明すると、前記制振補強材15は、図2及び図3に示すように、基材層15aと、その基材層15aの表裏両面にそれぞれ積層配置されて該基材層15aと一体化された表皮層15b、15cとで構成されている。基材層15aは、吸音特性(吸音機能)及び制振特性(制振機能)を有する例えばウレタン等の発泡体や繊維体の多孔質体を使用し、厚みは約7mmである。
【0026】
一方、表皮層15b、15cは、例えば紙、樹脂、金属等の単一材または複合材を使用する。また、表皮層15b、15cは、撥水、傷付き防止、遮熱等の目的でフィルムを貼り付ける、あるいはコーティングする等してもよい。さらに、表皮層15b、15cのうち、アウターパネル13と対向して配置される表面側の表皮層15bには、貫通した複数個の円形状をした孔18が設けられており、この孔18を介して基材層15aが外部(音源側)と連通して、制振補強材15が音を吸収するヘルムホルツ型共鳴器構造を形成している。ここでは、孔18の孔径は約1mm、間隔は等ピッチ、個数は表皮層15bの面積に対して開口率が約0.09%となるようにして設けている。なお、孔18の孔径及びピッチを変えると、問題となるパネル透過音の周波数域を吸音できるよう、チューニングすることも可能である。
【0027】
また、孔18は、穴開け加工のしやすさから、図3に示すように円形が好ましいが、貫通した孔であれば特に制限はなく、例えば四角形であってもよい。さらに、固着部材17を設ける位置は、該孔18を塞がないように、孔18と重ならない位置に設ける。
【0028】
図4は、第1実施形態の車体パネル構造におけるヘルムホルツ型共鳴器構造を模式的に示す。この実施形態における車体パネル構造の吸音原理は、ヘルムホルツの共鳴器と同じであり、表皮層15bに形成した孔18の空気マスAmと基材層15a内に形成される空気ばねAsの作用で、音エネルギーを熱エネルギーに変換し、吸音を行うものである。
【0029】
そして、第1実施形態の車体パネル構造のように、基材層15aを多孔質体とした場合では、図4に示すように、表皮層15bの厚みをt、孔18の背後における空気層の厚さをL、孔18の直径をd、孔18の開口率をP、音速をcとしたとき、制振補強材15の共鳴周波数fは、次の(A)式から求められる。
【0030】
【数1】
【0031】
また、第1実施形態における車体パネル構造では、アウターパネル13と制振補強材15との間に、空気層16を設けることにより孔18の空気マスAmが振れやすくなり、吸音効果が増す。なお、このヘルムホルツ型共鳴器構造の吸音原理は、基材層15aに多孔質体を使用する、以下に説明する第2実施形態及び第2実施形態においても同じである。
【0032】
図5は、吸音効果を実車実験して得られた検証結果の一例を示す1/3オクターブバンドの周波数と騒音量の特性図である。図5では、表皮層15bに孔18を設けてなる第1実施形態における制振補強材15を設けた本発明における車体パネル構造(I)における吸音特性と、表皮層15bに孔18を設けていない制振補強材を設けた従来の車体パネル構造(II)における吸音特性と、天井にルーフボウだけを設定した従来の車体パネル構造(III)における吸音特性をそれぞれ示しており、横軸は1/3オクターブバンド中心周波数[Hz]、縦軸は騒音量(SPL[dB(A)])を示す。縦軸の騒音量(SPL)は低いほど良い。また、この実車実験では、1/3オクターブバンド中心周波数が1600Hz〜2000Hzでの騒音低減を目標としたものであり、制振補強材15における表皮層15bの厚みtは0.28mm、孔18の直径dは1mm、基材層15aの厚みLは7mm、孔18の開口率は0.09%である。
【0033】
図5において、1/3オクターブバンド中心周波数が2000Hzの場合、前記車体パネル構造(I)、(II)、(III)のうち、騒音の低減量は車体パネル構造(I)、(II)、(III)の順に低減できることが分かる。また、表皮層15bに孔18を設けてなる本実施形態における制振補強材15を使用した車体パネル構造(I)の場合では、表皮層15bに孔18を設けていない車体パネル構造(II)に比べて3dBも低減できていることがわかる。なお、この検証結果は、以下に説明する第2実施形態から第12実施形態についても同じである。
【0034】
したがって、このように構成された第1実施形態に係る車体パネル構造では、表皮層15bに孔18を設けた制振補強材15を使用することによってアウターパネル13の振動を抑制することができる。また、アウターパネル13から浸透してきた音を前記ヘルムホルツ型共鳴器構造によって吸収するので、室内騒音を大幅に低減して静かな車内空間を実現することができる。これにより、高い防音性能と制振性能に優れ、ヘッドライニング14に設定されていた吸音材を撤去することも可能になり、コスト及び重量低減を可能にする。
【0035】
(第2実施形態)
図6は本発明に係る車体パネル構造の第2実施形態を示すもので、(a)はその車体パネル構造の断面図(図1のA−A線断面に相当する)であり、(b)は制振補強材15の平面図(車室内側より見た図)である。なお、同図(a)の断面図では、ヘッドライニング14は省略している。
【0036】
図6に示す第2実施形態の車体パネル構造は、制振補強材15が、第1実施形態の車体パネル構造と同じように、吸音特性及び制振特性を有する例えばウレタン等の発泡体や繊維体の多孔質体でなる基材層15aと、その基材層15aの表裏両面にそれぞれ積層配置されて基材層15aと一体化されている表皮層15b、15cとで構成されている。そして、基材層15aの車室内側を向いた面、すなわちヘッドライニング14と対向している面に積層配置されている表皮層15cに、貫通した孔18を所要の孔径及びピッチで複数個設けて、ヘルムホルツ型共鳴器構造を形成してなる構成としたものである。その制振及び吸音原理は、第1実施形態の場合と同じであり、アウターパネル13の振動を抑制するとともに、そのアウターパネル13から浸透してきた音を吸収して室内騒音を低減する。
【0037】
(第3実施形態)
図7は本発明に係る車体パネル構造の第3実施形態を示すもので、(a)はその車体パネル構造の断面図(図1のA−A線断面に相当する)であり、(b)は制振補強材15の平面図(車室内側より見た図)である。なお、同図(a)の断面図では、ヘッドライニング14は省略して示している。
【0038】
図7に示す車体パネル構造は、制振補強材15が、第1実施形態の車体パネル構造と同じように、吸音特性及び制振特性を有する例えばウレタン等の発泡体や繊維体の多孔質体でなる基材層15aと、その基材層15aの表裏両面にそれぞれ積層配置されて基材層15aと一体化されている表皮層15b、15cとで構成されている。そして、基材層15aの表裏両面側にそれぞれ積層配置されている表皮層15b、15cの両方に、貫通した孔18を所要の孔径及びピッチで複数個設けて、ヘルムホルツ型共鳴器構造を形成してなる構成としたものである。その制振及び吸音原理は、第1、第2実施形態の場合と同じであり、アウターパネル13の振動を抑制するとともに、そのアウターパネル13から浸透してきた音を吸収して室内騒音を低減する。
【0039】
(第4実施形態)
図8は本発明に係る車体パネル構造の第4実施形態を示すもので、(a)はその車体パネル構造の断面図(図1のA−A線断面に相当する)であり、(c)は制振補強材15の平面図(車室内側より見た図)である。なお、同図(a)の断面図では、ヘッドライニング14は省略している。
【0040】
図8に示す車体パネル構造は、制振補強材15が、吸音特性及び制振特性を有する基材層25と、その基材層25の表裏両面にそれぞれ積層配置されて該基材層25と一体化されている表皮層15b、15cとで構成されている。
【0041】
前記基材層25は、例えば紙、樹脂、金属等の単一材又は複合材よりなるシート材を、断面形状が凹凸を繰り返す波形に形成してマット状にした隔壁体26を、平板状に配設してなるものである。その基材層25、すなわちマット状をした隔壁体26の表裏両面側には、表皮層15b、15cがそれぞれ隔壁体26の稜線27の部分に当接して積層配置され、制振補強材15の内部が隔壁体26により複数個の部屋に区切られた状態になっている。また、アウターパネル13と対向して配置される表皮層15bには、隔壁体26の各稜線27、27との間のへこんだ部分、すなわち凹部に対応して貫通した複数個の孔18が設けられ、この孔18を介して基材層25の各部屋が外部と連通して、制振補強材15がヘルムホルツ型共鳴器構造を形成している。
【0042】
図9は、第4実施形態における車体パネル構造のヘルムホルツ型共鳴器構造を示す。この実施形態における車体パネル構造の吸音原理は、ヘルムホルツの共鳴器と同じであり、表皮層15bに形成した孔18の空気マスAmと基材層25内に形成される空気ばねAsの作用で音エネルギーを熱エネルギーに変換し、吸音を行うものである。
【0043】
第4実施形態における車体パネル構造のように、基材層25を隔壁体26により複数個の部屋に区切った場合では、表皮層15bの厚みをt、孔18の背後における空気層の厚さをL、孔18の直径をd、孔18の開口率をP、各部屋(空間)の容積をV、音速をcとしたとき、制振補強材15の共鳴周波数fは、次の(B)式から求められる。
【0044】
【数2】
【0045】
また、第4実施形態における車体パネル構造でも、アウターパネル13と制振補強材15との間に、空気層16を設けることにより孔18の空気マスAmが振れやすくなり、吸音効果が増す。なお、このヘルムホルツ型共鳴器構造の吸音原理は、基材層25に隔壁体(あるいは仕切壁)を使用する、以下に説明する第5実施形態から第12実施形態においても同じである。
【0046】
したがって、第4実施形態のように構成された車体パネル構造では、表皮層15bに孔18を設けた制振補強材15を使用することによってアウターパネル13の振動を抑制するとともに、上記アウターパネル13から浸透してきた音を前記ヘルムホルツ型共鳴器構造によって吸収するので、室内騒音を大幅に低減することができる。これにより、ヘッドライニング14に設定されていた吸音材を撤去することができ、コスト及び重量低減が可能になる。
【0047】
(第5実施形態)
図10は本発明に係る車体パネル構造の第5実施形態を示すもので、(a)はその車体パネル構造の断面図(図1のA−A線断面に相当する)であり、(b)は制振補強材15の斜視図である。なお、同図(a)の断面図では、ヘッドライニング14は省略している。
【0048】
図10に示す第5実施形態の車体パネル構造は、制振補強材15が、第4実施形態の車体パネル構造と同じように、断面形状が凹凸を繰り返す波形をした隔壁体26を使用したものである。その隔壁体26は、中間層26aを間に挟んで、その中間層26aの上面側に上段層としての上部隔壁体26bを配置するとともに、下面側に下段層としての上部隔壁体26bを固定配置して、中間層26aと上部隔壁体26bと下部隔壁体26cを一体化したものである。
【0049】
また、前記中間層26aは、例えば紙、樹脂、金属等の単一材又は複合材でシート状に作られる。
【0050】
一方、上部隔壁体26b及び上部隔壁体26bは、例えば紙、樹脂、金属等の単一材又は複合材よりなるシート材を、断面形状が凹凸を繰り返す波形に形成して各々マット状に形成されて、稜線27の部分を中間層26aに当接固定させて平板状に積層配設されている。また、上部隔壁体26bと下部隔壁体26cとの凹凸ピッチ及び高さは異なり、上部隔壁体26bの凹凸ピッチ及び高さは下部隔壁体26cの凹凸ピッチの約2倍の大きさで形成されている。なお、この凹凸ピッチ及び高さは、上部隔壁体26b及び下部隔壁体26cが同じであってもよく、任意である。
【0051】
そして、制振補強材15の表裏面には、表皮層15b、15cがそれぞれ積層配置されて、制振補強材15の内部が上部隔壁体26b及び下部隔壁体26cと中間層26aとで複数個の部屋に区切られた状態になっている。また、アウターパネル13と対向して配置される表皮層15bには、上部隔壁体26bの各稜線27、27との間のへこんだ部分(凹部)に対応して貫通した複数個の孔18が設けられ、この孔18を介して上部隔壁体26bの各部屋が外部と連通して、制振補強材15がヘルムホルツ型共鳴器構造を形成している。
【0052】
したがって、第5実施形態のように構成された車体パネル構造でも、表皮層15bに孔18を設けた制振補強材15を使用することによってアウターパネル13の振動を抑制するとともに、第4実施形態で説明した場合と同じ前記ヘルムホルツ型共鳴器構造の吸音原理によってアウターパネル13から浸透してきた音を吸収するので、室内騒音を大幅に低減することができる。
【0053】
(第6実施形態)
図11は本発明に係る車体パネル構造の第6実施形態を示すもので、その車体パネル構造の断面図(図1のA−A線断面に相当する)である。なお、図11の断面図では、ヘッドライニング14は省略している。
【0054】
図11に示す第6実施形態の車体パネル構造は、図10に示した制振補強材15における基材層25の構造は同じである。そして、第5実施形態の構造の場合では、貫通した複数個の孔18を表皮層15bに設けていたのに対して、この第6実施形態の車体パネル構造では、貫通した複数個の孔18を、ヘッドライニング14と対向する表皮層15c側で、かつ下部隔壁体26cの各稜線27、27間に位置して設けたものである。したがって、この孔18を介して下部隔壁体26cの各部屋が外部と連通して、制振補強材15がヘルムホルツ型共鳴器構造を形成している。
【0055】
したがって、第6実施形態のように構成された車体パネル構造でも、表皮層15bに孔18を設けた制振補強材15を使用することによってアウターパネル13の振動を抑制するとともに、第4実施形態で説明した場合と同じ前記ヘルムホルツ型共鳴器構造の吸音原理によってアウターパネル13から浸透してきた音を吸収するので、室内騒音を大幅に低減することができる。
【0056】
(第7実施形態)
図12は本発明に係る車体パネル構造の第7実施形態を示すもので、その車体パネル構造の断面図(図1のA−A線断面に相当する)である。なお、図12の断面図では、ヘッドライニング14は省略している。
【0057】
図12に示す第7実施形態の車体パネル構造は、図10に示した制振補強材15における基材層25の構造は同じである。そして、第5実施形態の場合では貫通した複数個の孔18を表皮層15b側だけに設けていたのに対して、この第7実施形態の構造では、ヘッドライニング14と対向している表皮層15c側にも貫通した複数個の孔18を、下部隔壁体26cの各稜線27、27間に位置して設けたものである。したがって、この孔18を介して上部隔壁体26bと下部隔壁体26cの各部屋が外部と各々連通して、制振補強材15がヘルムホルツ型共鳴器構造を形成している。
【0058】
したがって、第7実施形態のように構成された車体パネル構造でも、表皮層15cに孔18を設けた制振補強材15を使用することによってアウターパネル13の振動を抑制するとともに、第4実施形態で説明した場合と同じ前記ヘルムホルツ型共鳴器構造の吸音原理によってアウターパネル13から浸透してきた音を吸収するので、室内騒音を大幅に低減することができる。
【0059】
図13は本発明に係る車体パネル構造の第8実施形態を示すもので、その車体パネル構造の断面図(図1のA−A線断面に相当する)である。なお、図11の断面図では、ヘッドライニング14は省略している。
【0060】
図13に示す第8実施形態の車体パネル構造は、図10に示した制振補強材15における基材層25の構造は同じである。そして、第8実施形態の場合では、貫通した複数個の孔18を中間層26aに設け、その中間層26aに設けた孔18を介して上部隔壁体26b側の各部屋と下部隔壁体26cの各部屋とを各々連通して、制振補強材15がヘルムホルツ型共鳴器構造を形成している。
【0061】
したがって、第8実施形態のように構成された車体パネル構造でも、中間層26aに孔18を設けた制振補強材15を使用することによってアウターパネル13の振動を抑制するとともに、第4実施形態で説明した場合と同じ前記ヘルムホルツ型共鳴器構造の吸音原理によってアウターパネル13から浸透してきた音を吸収するので、室内騒音を大幅に低減することができる。
【0062】
図14は本発明に係る車体パネル構造の第9実施形態を示すもので、(a)はその車体パネル構造の断面図(図1のA−A線断面に相当する)であり、(b)は制振補強材15の平面図である。なお、同図(a)の断面図では、ヘッドライニング14は省略している。
【0063】
図14に示す第9実施形態の車体パネル構造は、表皮層15bと表皮層15cとの間の空間を、表皮層15bと表皮層15cとに掛け渡された状態にして表裏両面方向に延びる複数個の仕切壁28で区切り、その空間内に平面視縦縞型をなした複数個の部屋を設けてなる基材層25の構造としたものである。また、アウターパネル13と対向して配置される表面側の表皮層15bには各部屋に対応して貫通した複数個の孔18が設けられ、この孔18を介して各部屋が外部と連通されて、制振補強材15がヘルムホルツ型共鳴器構造を形成している。
【0064】
したがって、第9実施形態のように構成された車体パネル構造でも、表皮層15bに孔18を設けた制振補強材15を使用することによってアウターパネル13の振動を抑制するとともに、第4実施形態で説明した場合と同じ前記ヘルムホルツ型共鳴器構造の吸音原理によってアウターパネル13から浸透してきた音を吸収するので、室内騒音を大幅に低減することができる。
【0065】
図15は本発明に係る車体パネル構造の第10実施形態を示すもので、(a)はその車体パネル構造の断面図(図1のA−A線断面に相当する)であり、(b)は制振補強材15の平面図である。なお、同図(a)の断面図では、ヘッドライニング14は省略している。
【0066】
図15に示す第10実施形態の車体パネル構造は、表皮層15bと表皮層15cとの間の空間を、表皮層15bと表皮層15cとに掛け渡された状態にして表裏両面方向に延びる複数個の仕切壁28で平面視ハニカム型に区切り、その空間内にハニカム型をなした複数個の部屋を設けてなる基材層25の構造としたものである。また、アウターパネル13と対向して配置される表面側の表皮層15bには各部屋に対応して貫通した複数個の孔18が設けられ、この孔18を介して各部屋が外部と連通されて、制振補強材15がヘルムホルツ型共鳴器構造を形成している。
【0067】
したがって、第10実施形態のように構成された車体パネル構造でも、表皮層15bに孔18を設けた制振補強材15を使用することによってアウターパネル13の振動を抑制するとともに、第4実施形態で説明した場合と同じ前記ヘルムホルツ型共鳴器構造の吸音原理によってアウターパネル13から浸透してきた音を吸収するので、室内騒音を大幅に低減することができる。
【0068】
図16は本発明に係る車体パネル構造の第11実施形態を示すもので、(a)はその車体パネル構造の断面図(図1のA−A線断面に相当する)であり、(b)は制振補強材15の平面図である。なお、同図(a)の断面図では、ヘッドライニング14は省略している。
【0069】
図16に示す第11実施形態の車体パネル構造は、表皮層15bと表皮層15cとの間の空間を、表皮層15bと表皮層15cとに掛け渡された状態にして表裏両面方向に延びる複数個の仕切壁28を平面視格子状に配列して、その空間内に複数個の部屋を設けてなる基材層25の構造としたものである。また、アウターパネル13と対向して配置される表面側の表皮層15bには各部屋に対応して貫通した複数個の孔18が設けられ、この孔18を介して各部屋が外部と連通されて、制振補強材15がヘルムホルツ型共鳴器構造を形成している。
【0070】
したがって、第11実施形態のように構成された車体パネル構造でも、表皮層15bに孔18を設けた制振補強材15を使用することによってアウターパネル13の振動を抑制するとともに、第4実施形態で説明した場合と同じ前記ヘルムホルツ型共鳴器構造の吸音原理によってアウターパネル13から浸透してきた音を吸収するので、室内騒音を大幅に低減することができる。
【0071】
図17は本発明に係る車体パネル構造の第12実施形態を示すもので、(a)はその車体パネル構造の断面図(図1のA−A線断面に相当する)であり、(b)は制振補強材15の斜視図である。なお、同図(a)の断面図では、ヘッドライニング14は省略している。
【0072】
図17に示す第12実施形態の車体パネル構造は、表皮層15bと表皮層15cとの間の空間を、表皮層15bと表皮層15cとに掛け渡された状態にして表裏両面方向に延びる複数個の円形筒型に形成された仕切壁28を略等間隔で配設し、その空間内に複数個の円筒状をした部屋を設けてなる基材層25の構造としたものである。また、アウターパネル13と対向して配置される表面側の表皮層15bには、各部屋に対応して貫通した複数個の孔18が設けられ、この孔18を介して各部屋が外部と連通されて、制振補強材15がヘルムホルツ型共鳴器構造を形成している。
【0073】
したがって、第12実施形態のように構成された車体パネル構造でも、表皮層15bに孔18を設けた制振補強材15を使用することによってアウターパネル13の振動を抑制するとともに、第4実施形態で説明した場合と同じ前記ヘルムホルツ型共鳴器構造の吸音原理によってアウターパネル13から浸透してきた音を吸収するので、室内騒音を大幅に低減することができる。
【0074】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0075】
10 自動車
11 座席シート
12 車室
13 アウターパネル(車体パネル)
14 ヘッドライニング
15 制振補強材
15a 基材層
15b 表皮層(表面側)
15c 表皮層(裏面側)
16 空気層
17 固着部材
18 孔
25 基材層
26 隔壁体
26a 中間層
26b 上部隔壁体
26c 下部隔壁体
27 稜線
28 仕切壁
Am 空気マス
As 空気ばね
t 表皮層の厚み
L 空気層の厚さ
d 孔の直径
f 共鳴周波数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17