特許第6185872号(P6185872)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6185872高密度ポリエチレン系樹脂粒子、複合樹脂粒子、発泡粒子及び発泡成形体
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  • 特許6185872-高密度ポリエチレン系樹脂粒子、複合樹脂粒子、発泡粒子及び発泡成形体 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6185872
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】高密度ポリエチレン系樹脂粒子、複合樹脂粒子、発泡粒子及び発泡成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/12 20060101AFI20170814BHJP
   C08F 255/02 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   C08J3/12 ZCES
   C08F255/02
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-69591(P2014-69591)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-189912(P2015-189912A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年7月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002440
【氏名又は名称】積水化成品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】大脇 皓樹
(72)【発明者】
【氏名】権藤 裕一
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/138916(WO,A1)
【文献】 特開2004−291858(JP,A)
【文献】 特開2012−214691(JP,A)
【文献】 特開2012−184355(JP,A)
【文献】 特開平4−211447(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2001/0053824(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00− 3/28
9/00− 9/42
99/00
C08F 2/00− 2/60
251/00−283/00
283/00−289/00
291/00−297/08
B29C 44/00− 44/60
67/20− 67/24
B29D 30/00− 30/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シード重合時の種粒子として使用される高密度ポリエチレン系樹脂粒子であり、
前記種粒子が、高密度ポリエチレン100重量部とエチレン共重合体20〜100重量部との混合樹脂を含み、
前記高密度ポリエチレンが、935〜960kg/m3の密度と115〜130℃の軟化温度を有し、
前記エチレン共重合体が、アクリル酸アルキルエステル及び脂肪族飽和モノカルボン酸ビニルから選択されるエステル系モノマーとエチレンとの共重合体であり、エステル系モノマー由来成分を1〜20重量%含み、75〜110℃の軟化温度を有し、
前記アクリル酸アルキルエステルが、アクリル酸メチル及びアクリル酸エチルから選択され、
前記脂肪族飽和モノカルボン酸ビニルが、酢酸ビニル及びプロピオン酸ビニルから選択されることを特徴とする高密度ポリエチレン系樹脂粒子。
【請求項2】
前記エチレン共重合体が、0.2〜1.0g/10分のMFRを有し、前記エステル系モノマー由来成分を3〜15重量%含む請求項1に記載の高密度ポリエチレン系樹脂粒子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高密度ポリエチレン系樹脂粒子に由来する高密度ポリエチレン系樹脂100重量部と、前記高密度ポリエチレン系樹脂粒子にスチレン系モノマーを含浸重合させて得られたスチレン系重合体100〜500重量部とからなる樹脂分を含むことを特徴とする複合樹脂粒子。
【請求項4】
前記複合樹脂粒子が、前記樹脂分100重量部に対して、1.5〜6.0重量部の難燃剤を含む請求項3に記載の複合樹脂粒子。
【請求項5】
前記難燃剤が、ハロゲン系難燃剤である請求項4に記載の複合樹脂粒子。
【請求項6】
更に難燃助剤を含み、前記難燃助剤が、ジクミルパーオキサイド、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン及びクメンヒドロパーオキサイドから選択される請求項4又は5に記載の複合樹脂粒子。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか1つに記載の複合樹脂粒子に発泡剤を含浸した後、発泡させることにより得られ、50〜15kg/m3の嵩密度を有する発泡粒子。
【請求項8】
請求項7に記載の発泡粒子を発泡成形させることにより得られた発泡成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度ポリエチレン系樹脂粒子、複合樹脂粒子、発泡粒子及び発泡成形体に関する。更に詳しくは、本発明は、高倍でも機械的特性の向上した発泡成形体、この発泡成形体を高圧発泡成形の必要なしでも与えうる発泡粒子、この発泡粒子を製造するための複合樹脂粒子、及びこの複合樹脂粒子をシード重合法により得る際に種粒子として使用される高密度ポリエチレン系樹脂粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系樹脂からなる発泡成形体は、剛性、断熱性、軽量性、耐水性及び発泡成形性に優れていることが知られている。そのため、この発泡成形体は、緩衝材や建材用断熱材として広く用いられている。しかし、ポリスチレン系樹脂からなる発泡成形体は、耐薬品性及び耐衝撃性が劣るという課題があった。
【0003】
一方、ポリエチレン系樹脂からなる発泡成形体は、耐薬品性及び耐衝撃性に優れていることが知られている。そのため、この発泡成形体は、自動車関連部品に使用されている。しかし、ポリエチレン系樹脂は、発泡剤の保持性が劣ることから、発泡成形条件を精密に制御する必要がある。そのため製造コストが高くつくという課題があった。加えて、この発泡成形体は、ポリスチレン系樹脂からなる発泡成形体に比べて、剛性が劣るという課題もあった。
【0004】
上記ポリスチレン系樹脂又はポリエチレン系樹脂からなる発泡成形体の課題を解決するために、ポリスチレン系樹脂とポリエチレン系樹脂との複合樹脂粒子から得られた発泡成形体が種々報告されている。この発泡成形体は、ポリスチレン系樹脂の優れた剛性及び発泡成形性と、ポリエチレン系樹脂の優れた耐薬品性及び耐衝撃性とを兼ね備えている。しかし、機械的特性の温度依存性が高いという課題があった。この温度依存性を抑制するために、ポリエチレン系樹脂として高密度ポリエチレンを使用した発泡成形体が報告されている(特開2012−25347号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−25347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記公報に記載された複合樹脂粒子によれば、機械的特性の温度依存性が改善された発泡成形体を提供できる。しかし、発泡成形体の耐熱性及び遅燃性の大幅な低下なく、高倍時での耐衝撃性をより向上させ得る種粒子、複合樹脂粒子及び発泡粒子の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かくして本発明によれば、シード重合時の種粒子として使用される高密度ポリエチレン系樹脂粒子であり、
前記種粒子が、高密度ポリエチレン100重量部とエチレン共重合体20〜100重量部との混合樹脂を含み、
前記高密度ポリエチレンが、935〜960kg/m3の密度と115〜130℃の軟化温度を有し、
前記エチレン共重合体が、アクリル酸アルキルエステル及び脂肪族飽和モノカルボン酸ビニルから選択されるエステル系モノマーとエチレンとの共重合体であり、エステル系モノマー由来成分を1〜20重量%含み、75〜110℃の軟化温度を有し、
前記アクリル酸アルキルエステルが、アクリル酸メチル及びアクリル酸エチルから選択され、
前記脂肪族飽和モノカルボン酸ビニルが、酢酸ビニル及びプロピオン酸ビニルから選択されることを特徴とする高密度ポリエチレン系樹脂粒子が提供される。
【0008】
更に、本発明によれば、上記高密度ポリエチレン系樹脂粒子に由来する高密度ポリエチレン系樹脂100重量部と、前記高密度ポリエチレン系樹脂粒子にスチレン系モノマーを含浸重合させて得られたスチレン系重合体100〜500重量部とからなる樹脂分を含むことを特徴とする複合樹脂粒子が提供される。
また、本発明によれば、上記複合樹脂粒子に発泡剤を含浸した後、発泡させることにより得られ、50〜15kg/m3の嵩密度を有する発泡粒子が提供される。
更にまた、上記発泡粒子を発泡成形させることにより得られた発泡成形体が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発泡成形体の耐熱性及び遅燃性の大幅な低下なく、高倍時での耐衝撃性をより向上させ得るシード重合用の種粒子としての高密度ポリエチレン系樹脂粒子を提供できる。また、耐熱性及び遅燃性の大幅な低下なく、高倍時での耐衝撃性がより向上した発泡成形体を提供できる。
エチレン共重合体が、0.2〜1.0g/10分のMFRを有し、エステル系モノマー由来成分を3〜15重量%含む場合、発泡成形体の耐熱性及び遅燃性をより大幅に低下させることなく、高倍時での耐衝撃性を更に向上させ得るシード重合用の種粒子としての高密度ポリエチレン系樹脂粒子を提供できる。
複合樹脂粒子が、樹脂分100重量部に対して、1.5〜6.0重量部の難燃剤を含む場合、発泡成形体の耐熱性及び遅燃性をより大幅に低下させることなく、高倍時での耐衝撃性を更に向上させ得る複合樹脂粒子を提供できる。
【0010】
難燃剤が、ハロゲン系難燃剤である場合、発泡成形体の耐熱性及び遅燃性をより大幅に低下させることなく、高倍時での耐衝撃性を更に向上させ得る複合樹脂粒子を提供できる。
更に難燃助剤を含み、前記難燃助剤が、ジクミルパーオキサイド、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン及びクメンヒドロパーオキサイドから選択される場合、発泡成形体の耐熱性及び遅燃性をより大幅に低下させることなく、高倍時での耐衝撃性を更に向上させ得る複合樹脂粒子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】TMA曲線から針入温度の規定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
近年、発泡成形体の更なる軽量化要望と低コスト化志向から、高い生産性を維持しつつ、耐熱性、遅燃性及び耐衝撃性を有する高倍の発泡成形体を提供可能な樹脂粒子が望まれている。
そこで、本発明の発明者等は、発泡成形体の原料を見直した。発泡成形体は、種粒子にスチレンを含浸重合させる、所謂、シード重合法により製造された複合樹脂粒子を発泡成形することで得られる。上記各種物性には、種粒子の構成が大きく影響することを発明者等は見い出している。
【0013】
例えば、種粒子に、エチレン−酢酸ビニル共重合体のみを使用すると、高倍の発泡成形体を製造する場合、所定の遅燃性を実現するには、難燃剤量を多くする必要がある。しかし、難燃剤量を多くすると、耐熱性が低下することになる。
また、高密度ポリエチレンを使用すると、高倍でも所定の耐熱性及び遅燃性を得ることが可能であるが、耐衝撃性が低下することになる。
更に、直鎖状低密度ポリエチレンでは、所定の耐熱性及び遅燃性を得ることが困難である。
また更に、ポリプロピレンを使用すると、高倍でも所定の耐熱性、遅燃性及び耐衝撃性を得ることが可能であるが、発泡成形時に高圧の蒸気圧を使用することが必要となり、生産性が低下することになる。
上記結果を鑑み、発明者等は、更に、種々の原料を検討した結果、高密度ポリエチレンと、エチレンと特定種のエステル系モノマーとの共重合体との混合物を含むシード重合法用の種粒子としての高密度ポリエチレン系樹脂粒子により、高圧の蒸気圧での発泡成形を必要とせずに、発泡成形体の耐熱性及び遅燃性の大幅な低下なく、高倍時での耐衝撃性をより向上させ得ることを意外にも見出し、本発明に至った。
【0014】
(高密度ポリエチレン系樹脂粒子:種粒子)
本発明の種粒子は、高密度ポリエチレンとエチレン共重合体との混合樹脂を含む高密度ポリエチレン系樹脂粒子である。
(1)高密度ポリエチレン
高密度ポリエチレンは、エチレン単独重合体又はエチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンとの共重合体からなる樹脂である。また、前記α−オレフィンとしては耐熱性の観点から炭素数3〜4の例えばプロピレン、1−ブテンがより好ましい。
【0015】
本発明で用いる高密度ポリエチレンは、935〜960kg/m3の密度と115〜130℃の軟化温度を有する樹脂でありさえすれば、特に限定されず、市販の樹脂を使用できる。例えば、東ソー、ブラスケム、日本ポリエチレン等から入手可能である。
密度が935kg/m3未満の場合、成型体の耐熱性や遅燃性が低下することがある。960kg/m3より大きい場合、発泡性が低下したり耐衝撃性が不十分となることがある。好ましい密度は940〜960kg/m3であり、より好ましくは946〜955kg/m3である。軟化温度が115℃未満の場合、耐熱性が不足することがある。130℃より高い場合、シード重合による複合樹脂粒子製造において重合粉末が多数発生したり、発泡性が不十分となることがある。好ましい軟化温度は118〜128℃であり、より好ましくは115〜125℃である。
【0016】
(2)エチレン共重合体
エチレン共重合体は、アクリル酸アルキルエステル及び脂肪族飽和モノカルボン酸ビニルから選択されるエステル系モノマーとエチレンとの共重合体である。エステル系モノマーは、分子中に−COO−結合又は−OCO−結合を有していることが特徴的である。
アクリル酸アルキルエステルは、アクリル酸メチル及びアクリル酸エチルから選択され、脂肪族飽和モノカルボン酸ビニルは、酢酸ビニル及びプロピオン酸ビニルから選択される。
【0017】
エチレン共重合体は、エチレン系重合体をエステル系モノマー由来成分が占める割合が1〜20重量%であり、75〜110℃の軟化温度を有する重合体でありさえすれば、特に限定されず、市販の樹脂を使用できる。例えば、日本ポリエチレン、東ソー等から入手可能である。
エチレン共重合体のエステル系モノマー由来成分が占める割合が1重量%未満の場合、遅燃性の向上効果が不十分となることがある。20重量%より大きい場合、耐熱性の低下を招くことがある。より好ましい占める割合は5〜15重量%であり、更に好ましくは3〜10重量%である。
軟化温度が75℃未満の場合、耐熱性の低下を招くことがある。110℃より高い場合、遅燃性の向上効果が不十分となることがある。好ましい軟化温度は80〜100℃であり、より好ましくは80〜95℃である。
【0018】
エチレン共重合体は、0.2〜1.0g/10分のMFRを有していることが好ましい。MFRが0.2g/10分未満の場合、発泡時に発泡バラつきが発生したりすることがある。1.0g/10分より高い場合、耐熱性の低下や成型品に収縮が発生したりすることがある。より好ましいMFRは0.2〜0.8g/10分であり、更に好ましくは0.3〜0.6g/10分である。
【0019】
(3)高密度ポリエチレンとエチレン共重合体との混合割合
エチレン共重合体は、高密度ポリエチレン100重量部に対して、20〜100重量部の範囲で混合樹脂中に含まれる。エチレン共重合体の含有量が20重量部未満の場合、遅燃性の向上効果が不十分となることがある。100重量部より多い場合、耐熱性や耐衝撃性の低下を招くことがある。好ましい含有量は30〜90重量部であり、更に好ましくは40〜75重量部である。
【0020】
(4)その他の成分
種粒子には、高密度ポリエチレンとエチレン共重合体以外の成分(他の成分)が含まれていてもよい。他の成分としては、着色剤、核剤、安定剤、充填材(補強材)、高級脂肪酸金属塩、難燃剤、帯電防止剤、滑剤、天然又は合成油、ワックス、紫外線吸収剤、耐候安定剤、防曇剤、坑ブロッキング剤、スリップ剤、被覆剤、中性子遮蔽剤等が挙げられる。他の成分の含有量は、種粒子全量に対して、10重量%以下であることが好ましい。
【0021】
(5)種粒子の製法
種粒子は、公知の方法により得ることができる。例えば、高密度ポリエチレンとエチレン共重合体を、押出機中で溶融混練して押出すことでストランドを得、得られたストランドを、空気中でカット、水中でカット、加熱しつつカットすることで、造粒する方法が挙げられる。高密度ポリエチレンとエチレン共重合体を押出機に投入する前に、ミキサーにより混合しておいてもよい。
種粒子は、円筒状、楕円球状(卵状)又は球状であることが好ましい。また形状は、種粒子から得られる発泡粒子の金型への充填性をよくするために、楕円球状又は球状であることがより好ましい。
種粒子は、0.5〜1.4mmの平均粒子径を有していることが好ましい。
【0022】
(複合樹脂粒子)
(1)複合樹脂粒子の構成
本発明の複合樹脂粒子は、高密度ポリエチレン系樹脂と、スチレン系重合体とからなる樹脂分とを含んでいる。高密度ポリエチレン系樹脂は、高密度ポリエチレン系樹脂粒子に由来する。スチレン系重合体は、高密度ポリエチレン系樹脂粒子に、含浸重合させた(シード重合させた)スチレン系モノマーに由来する。
スチレン系重合体は、樹脂分中に、高密度ポリエチレン系樹脂粒子100重量部に対して、100〜500重量部の割合で含まれている。スチレン系重合体の含有量が100重量部より少ない場合、発泡成形体の剛性が低下することがある。含有量が500重量部を超える場合、発泡成形体の耐薬品性及び耐衝撃性が低下することがある。好ましい含有量は150〜400重量部であり、より好ましい含有量は200〜350重量部である。なお、スチレン系重合体の含有量は、スチレン系モノマーの添加量にほぼ対応する。
【0023】
スチレン系重合体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン等のスチレン系モノマーに由来する重合体が挙げられる。更に、スチレン系重合体は、スチレン系モノマーと、スチレン系モノマーと共重合可能な他のモノマーとの共重合体からなる成分であってもよい。他のモノマーとしては、ジビニルベンゼンのような多官能性モノマーや、(メタ)アクリル酸ブチルのような構造中にベンゼン環を含まない(メタ)アクリル酸アルキルエステル等が例示される。これら他のモノマーは、スチレン系重合体中に5重量%を超えない範囲で使用してもよい。
【0024】
複合樹脂粒子は、難燃剤を含むことが好ましい。難燃剤としては、公知のハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、無機系難燃剤等が挙げられる。この内、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、塩素臭素含有難燃剤等のハロゲン系難燃剤が、少量で高い難燃性を発泡成形体に付与できる観点から好ましい。ハロゲン系難燃剤としては、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、テトラブロモシクロオクタン、ヘキサブロモシクロドデカン、トリスジブロモプロピルホスフェート、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)等が挙げられる。
難燃剤は、樹脂分100重量部に対して、1.5〜6.0重量部含まれていることが好ましい。難燃剤の含有量が1.5重量部より少ない場合、難燃性の向上効果が不足することがある。含有量が6.0重量部を超える場合、発泡成形体の耐薬品性及び耐衝撃性、耐熱性が低下することがある。好ましい含有量は1.5〜4.0重量部であり、より好ましい含有量は2.0〜3.5重量部である。
【0025】
複合樹脂粒子は、難燃剤に加えて、難燃助剤を含むことが好ましい。難燃助剤を含むことで、難燃剤により呈される難燃性をより高めることができる。難燃助剤としては、ジクミルパーオキサイド、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン(別名ビスクミル)、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、クメンヒドロパーオキサイドの有機過酸化物が挙げられる。
難燃助剤は、難燃剤100重量部に対して、50重量部までの量で含まれていることが好ましい。難燃剤の含有量が50重量部を超える場合、発泡成形体の耐薬品性及び耐衝撃性、耐候性が低下することがある。より好ましい含有量は10〜40重量部であり、更に好ましい含有量は15〜25重量部である。
複合樹脂粒子の形状は、円筒状、略球状ないしは球状であり、平均粒子径が0.6〜1.8mmであることが好ましい。形状は、複合樹脂粒子に由来する発泡粒子の金型への充填性をよくするには略球状又は球状がより好ましい。
【0026】
(2)複合樹脂粒子の製法
複合樹脂粒子は、高密度ポリエチレン系樹脂粒子を種粒子として使用する、所謂シード重合法により形成できる。シード重合法は、以下の手順で行うことができる。
すなわち、水性懸濁液中に、種粒子と、スチレン系モノマーと、必要に応じて重合開始剤とを分散させる。なお、スチレン系モノマーと重合開始剤とを予め混合して用いてもよい。
水性懸濁液を構成する水性媒体としては、水、水と水溶性溶媒(例えば、低級アルコール)との混合媒体が挙げられる。
【0027】
重合開始剤としては、一般にスチレン系モノマーの懸濁重合用の開始剤として用いられているものが使用できる。例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジt−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキサン、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチル−パーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート等の有機過酸化物である。これらの重合開始剤は単独もしくは2種以上を併用してもよい。
重合開始剤の使用量は、スチレン系モノマー100重量部に対して、0.1〜0.9重量部が好ましい。0.1重量部未満ではスチレン系モノマーの重合に時間がかかり過ぎることがある。0.9重量部を超える重合開始剤の使用は、ポリスチレン系樹脂の分子量が低くなることがある。より好ましい使用量は、0.2〜0.5重量部である。
【0028】
水系懸濁液には、必要に応じて分散剤を添加してもよい。分散剤としては、特に限定されず、公知のものをいずれも使用することができる。具体的には、リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム、ピロリン酸ナトリウム、酸化マグネシウム等の難溶性無機物が挙げられる。更に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのような界面活性剤を使用してもよい。
次に、得られた分散液をスチレン系モノマーが実質的に重合しない温度に加熱してスチレン系モノマーを種粒子に含浸させる。種粒子内部にスチレン系モノマーを含浸させる時間は、30分〜2時間が適当である。十分に含浸させる前に重合が進行するとポリスチレン系樹脂の重合体粉末を生成してしまうからである。スチレン系モノマーが実質的に重合しない温度とは、高い方が含浸速度を速めるには有利であるが、重合開始剤の分解温度を考慮して決定することが好ましい。
【0029】
次いで、スチレン系モノマーの重合を行う。重合は、特に限定されないが、105〜140℃で、1.5〜5時間行うことが好ましい。重合は、通常、加圧可能な密閉容器中で行われる。
なお、スチレン系モノマーの含浸と重合を複数回に分けて行ってもよい。複数回に分けることで、ポリスチレン系樹脂の重合体粉末の発生を極力少なくできる。
上記工程により複合樹脂粒子を得ることができる。得られた複合樹脂粒子は、内部がポリスチレン系樹脂リッチであり、外殻部がポリエチレン系樹脂リッチであるため、発泡成形体の物性に好影響を与えると発明者等は考えている。
難燃剤及び難燃助剤を含む複合樹脂粒子は、難燃剤及び難燃助剤をスチレン系モノマーと共に種粒子に含浸させる方法、重合後の樹脂粒子に含浸させる方法等により得ることができる。
【0030】
(発泡粒子)
発泡粒子は、複合樹脂粒子に発泡剤を含浸させることで発泡性粒子を得た後、発泡性粒子を発泡させることにより得られた粒子である。発泡剤としては、例えば、プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、ジメチルエーテル等が挙げられる。これら発泡剤は、単独もしくは2種以上混合して用いることができる。発泡剤の含有量は、複合樹脂粒子100重量部に対して、5〜25重量部であることが好ましい。
【0031】
また、発泡粒子は、50〜15kg/m3の嵩密度を有している。嵩密度が15kg/m3より小さい場合、発泡させたときに独立気泡率が低下して、予備発泡粒子から得られる発泡成形体の強度が低下することがある。一方、50kg/m3より大きい場合、得られる発泡成形体の軽量化の効果が小さいことがある。より好ましい嵩密度は、40〜22kg/m3である。
発泡性粒子は、重合中又は重合終了後の複合樹脂粒子に発泡剤を含浸することで得ることができる。この含浸は、それ自体公知の方法により行うことができる。例えば、重合中での含浸は、重合反応を密閉式の容器中で行い、容器中に発泡剤を圧入することにより行うことができる。重合終了後の含浸は、密閉式の容器中で、発泡剤を圧入することにより行われる。
更に、発泡性粒子の発泡は、例えば、容器中の発泡性粒子を水蒸気で加熱する方法のような公知の方法で行うことができる。
【0032】
(発泡成形体)
発泡成形体は、発泡粒子を発泡成形機の金型内に充填し、水蒸気で加熱して発泡粒子を発泡させながら、発泡粒子同士を熱融着させることで得ることができる。上記種粒子を含む発泡粒子は、発泡成形体を得るための発泡成形条件に、高圧を要求しないという利点を有する。具体的には、一般的なゲージ圧である0.05〜0.15MPaの圧力の水蒸気により、発泡成形体を得ることができる。従って、普通発泡用の発泡成形機を使用できるため、発泡成形体を得るためのコストを低減できる。
発泡成形体は、収縮率、難燃性及び耐衝撃性が特に優れている。
具体的には、JIS K6767に準拠した80℃での寸法変化測定時に、1.5%以下の寸法変化率を示す発泡成形体を提供できる。また、FMVSS 302に準拠した燃焼速度試験方法において、80mm/分以下の燃焼速度を示す発泡成形体を提供できる。更に、25cm以上の落球衝撃値を示す発泡成形体を提供できる。
【0033】
発泡成形体は、50〜20kg/m3の密度を有することが好ましい。密度が20kg/m3より小さい場合、独立気泡率が多くなるため、強度が低下することがある。一方、50kg/m3より大きい場合、軽量化の効果が小さいことがある。より好ましい密度は、40〜25kg/m3である。
本発明の発泡成形体は、種々の用途に使用できるが、バンパーの芯材、ドア内装緩衝材等の車両用緩衝材、電子部品、ガラスを含む各種工業資材、食品の緩衝材や搬送容器等の各種用途に使用できる。特に、車両用緩衝材に好適に使用できる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
以下の実施例における各種物性の測定法を下記する。
<高密度ポリエチレンの密度>
密度は、JIS K6922−1:1998に準拠して密度勾配管法で測定する。
【0035】
<高密度ポリエチレン及びエチレン共重合体のMFR>
メルトマスフローレイト(MFR)は、東洋精機製作所社製のセミオートメルトインデクサー2Aを用い、JIS K 7210:1999「プラスチック―熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」B法記載のb)ピストンが所定の距離を移動する時間を測定する方法により測定する。測定条件は、試料3〜8g、予熱270秒、ロードホールド30秒、試験温度190℃、試験荷重21.18N、ピストン移動距離(インターバル)25mmとする。試料の試験回数は3回とし、その平均をメルトマスフローレイト(g/10分)の値とする。
<高密度ポリエチレン及びエチレン系共重合体の融点>
JIS K7121:1987「プラスチックの転移温度測定方法」に記載されている方法で測定する。但し、サンプリング方法・温度条件に関しては以下のように行う。
示差走査熱量計装置 DSC6220型(エスアイアイナノテクノロジー社製)を用いアルミニウム製測定容器の底にすきまのないよう試料を約6mg充てんする。充填後、窒素ガス流量20mL/分のもと、30℃から−40℃まで降温した後10分間保持する。保持後、−40℃から220℃まで昇温し(1st Heating)、10分間保持する。次いで、220℃から−40℃まで降温し(Cooling)、10分間保持後−40℃から220℃まで昇温(2nd Heating)した時のDSC曲線を得る。なお、全ての昇温・降温は速度10℃/分で行い、基準物質としてアルミナを用いる。本明細書において、融点とは、装置付属の解析ソフトを用いて、2nd Heating過程にみられる融解ピークのトップの温度を読みとった値である。
【0036】
<高密度ポリエチレン及びエチレン系共重合体の軟化温度>
JIS K7196:1991「熱可塑性プラスチックフィルム及びシートの熱機械分析による軟化温度試験方法」記載の方法に準拠し測定する。
すなわち、樹脂試料を180℃で5分間熱プレスして、厚み1mm、直径10mmの円盤プレート状試験片を作製する。熱・応力・歪み測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、商品名「EXSTRAR TMA/SS6100」)を用い、窒素雰囲気下で針入試験モード(針の先端 φ1mm、石英製プローブ)、荷重500mNで、試験片に針を当てて、30℃から昇温速度5℃/分で温度を上げていきTMA曲線を得る。得られたTMA曲線を装置付属の解析ソフトで石英係数設定による補正を行い、TMA曲線の圧子(針)が侵入を始めるよりも低温側に認められる直線部分を高温側に延長し、侵入速度が最大となる部分の接線の低温側への延長との交点を針入温度とし、その針入温度をこの樹脂試料の軟化温度とする。なお、TMA曲線から針入温度の規定方法を図1に示す。
【0037】
<発泡粒子の嵩密度>
発泡粒子の嵩密度は、下記の要領で測定する。まず、発泡粒子をメスシリンダに500cm3の目盛りまで充填する。但し、メスシリンダを水平方向から目視し、発泡粒子が一粒でも500cm3の目盛りに達していれば、充填を終了する。次に、メスシリンダ内に充填した発泡粒子の重量を小数点以下2位の有効数字で秤量し、その重量をW(g)とする。次式により発泡粒子の嵩密度を算出する。
発泡粒子の嵩密度(kg/m3)=W/500×1000
【0038】
<発泡成形体の密度>
発泡成形体(成形後、50℃で4時間以上乾燥させたもの)から切り出した試験片(例75×300×35mm)の重量(a)と体積(b)をそれぞれ有効数字3桁以上になるように測定し、式(a)/(b)により発泡成形体の密度(kg/m3)を求める。
【0039】
<発泡成形体の加熱寸法変化率>
発泡成形体の加熱寸法変化率をJIS K6767:1999「発泡プラスチック−ポリエチレン−試験方法」記載のB法にて測定する。具体的には、発泡成形体から縦150mm×横150mm×高さ20mmの試験片を切り出す。前記試験片の表面に、縦方向に指向する長さ50mmの直線を3本、互いに平行に50mm間隔毎に記入すると共に、横方向に指向する長さ50mmの直線を3本、互いに平行に50mm間隔毎に記入する。しかる後、試験片を80℃の熱風循環式乾燥機の中に168時間に亘って放置した後に取出し、標準状態(20±2℃、湿度65±5%)の場所にて1時間に亘って放置する。次に、試験片の表面に記入した6本の直線の長さをそれぞれ測定し、6本の直線の長さの相加平均値L1を算出する。下記の式に基づいて変化度Sを算出し、変化度Sの絶対値を加熱寸法変化率(%)とする。
S=100×(L1−50)/50
加熱寸法変化率について、
○(良) :0≦S<1.5;寸法変化率が低く、寸法の安定性が良好であった
×(不可):S≧1.5;寸法の変化が著しく見られた。
と判定する。
【0040】
<発泡成形体の燃焼速度>
燃焼速度は、米国自動車安全基準FMVSS 302に準拠した方法で測定する。
試験片は、350mm×100mm×12mm(厚み)とし、少なくとも350mm×100mmの二面には表皮が存在するものとする。
燃焼速度は、以下の基準で評価する。
○(良) :所定の密度の発泡成形体において、燃焼速度が80mm/分より小さい場合もしくは、所定の密度の発泡成形体において、測定開始点に達する前に消火した場合。なお、この場合の燃焼速度を0mm/分(自己消化性)とする。
×(不可):所定の密度の発泡成形体において、燃焼速度が80mm/分より大きい場合
【0041】
<発泡成形体の落球衝撃値>
JIS K7211:1976「硬質プラスチックの落錘衝撃試験方法通則」に記載の方法に準拠して落球衝撃強度を測定する。
所定の密度の発泡成形体を温度50℃で1日間乾燥した後、この発泡成形体から40mm×215mm×20mm(厚さ)の試験片(6面とも表皮なし)を切り出す。
次いで、支点間の間隔が150mmになるように試験片の両端をクランプで固定し、重さ321gの剛球を所定の高さから試験片の中央部に落下させて、試験片の破壊の有無を観察する。
試験片5個が全数破壊する最低の高さから全数破壊しない最高の高さまで5cm間隔で剛球の落下高さ(試験高さ)を変えて試験して、落球衝撃値(cm)、すなわち50%破壊高さを次の計算式により算出する。
H50=Hi+d[Σ(i・ni)/N±0.5]
【0042】
式中の記号は次のことを意味する。
H50:50%破壊高さ(cm)
Hi:高さ水準(i)が0のときの試験高さ(cm)であり、試験片が破壊することが予測される高さ
d:試験高さを上下させるときの高さ間隔(cm)
i:Hiのときを0とし,1つずつ増減する高さ水準(i=…−3、−2、−1、0、1、2、3…)
ni:各水準において破壊した(又は破壊しなかった)試験片の数で、いずれか多いほうのデータを使用(同数の場合はどちらを使用してもよい)
N:破壊した(又は破壊しなかった)試験片の総数(N=Σni)で、いずれか多いほうのデータを使用(同数の場合はどちらを使用してもよい)
±0.5:破壊したデータを使用するときは負の数、破壊しなかったデータを使用するときは正の数を採用
○(良) :落球衝撃値が30cm以上
△(可) :落球衝撃値が25cm以上30cm未満の範囲
×(不可):落球衝撃値が25cm未満
【0043】
<発泡成形体の耐薬品性>
発泡成形体から縦100mm×横100mm×厚み20mmの平面長方形状の板状試験片を切り出し、23℃、湿度50%の条件で24時間放置する。なお、試験片の上面全面が発泡成形体の表皮から形成されるように試験片を発泡成形体から切り出す。次に、試験片の上面にガソリン1gを均一に塗布し、23℃、湿度50%の条件で60分放置する。その後、試験片の上面から薬品を拭き取り、試験片の上面を目視観察して下記基準に基づいて判断する。
耐薬品性について、
○(良) :変化なし
△(可) :表面軟化
×(不可):面陥没(収縮)
と判定する。
【0044】
<成型性>
発泡粒子を発泡成形機の300mm×400mm×30mmの金型内に充填し、水蒸気により加熱して発泡粒子を発泡させながら、発泡粒子同士を熱融着させて縦400mm×横300mmの上面を有し、厚み30mmの直方体形状の発泡成形体を得る。
水蒸気による加熱の際、水蒸気の蒸気圧を0.08MPaから0.25MPaまで0.01MPa刻みで変化させて20秒間水蒸気を導入し成型テストを実施する。
以上の成型の結果、得られた発泡成形体の、融着率が90%以上であった最も低い蒸気圧を元に、以下の基準で評価する。また、90%の融着率が得られた最も低い蒸気圧を成型時調圧と称する。
〇(良) :0.15MPa以下の蒸気圧で融着率90%以上の発泡成形体が得られた。低圧での成形が可能であり、生産性が高い。
×(不可):0.15MPaを越える蒸気圧が融着率90%以上の発泡成形体を得るためには必要であり、生産性に難が見られる。
融着率は、以下の手順で測定する。
発泡成形体の上面に、カッターで横方向に沿って長さ300mm、深さ約5mmの切り込み線を入れ、この切り込み線に沿って発泡成形体を2分割する。そして、2分割された発泡成形体の破断面の発泡粒子について、発泡粒子内で破断している発泡粒子数(a)と、発泡粒子間の界面で破断している発泡粒子数(b)を測定し、下記式に基づいて融着率を算出する。
融着率(%)=100×(a)/〔(a)+(b)〕
【0045】
実施例1
密度936kg/m3、MFR2.6g/10分、融点123℃、軟化温度118℃の高密度ポリエチレン(東ソー社製、品番09S53B)100重量部とエチレン−酢酸ビニル共重合体(エチレン共重合体、脂肪族飽和モノカルボン酸ビニルとエチレンとの共重合体:日本ポリエチレン製、品番LV115、MFR0.3g/10分、融点108℃、軟化温度80℃、酢酸ビニル由来成分含有量4重量%)67重量部とをタンブラーミキサーに投入し、10分間混合した。
次いで、この樹脂混合物を押出機に供給して温度230〜250℃で溶融混練し、水中カット方式により造粒して楕円球状(卵状)に切断し、高密度ポリエチレン系樹脂粒子(種粒子)を得た。なお、この高密度ポリエチレン系樹脂粒子の平均重量は0.6mgであった。
【0046】
次に、攪拌機付の5リットルのオートクレーブに、ピロリン酸マグネシウム40g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.6gを純水2kgに分散させて分散用媒体を得た。分散用媒体に30℃で種粒子600gを分散させて10分間保持し、次いで60℃に昇温して懸濁液を得た。更に、この懸濁液に、重合開始剤としてジクミルパーオキサイドを0.6g溶解させたスチレン300gを30分かけて滴下した。滴下後、30分間保持することで、種粒子中にスチレンを含浸させた。含浸後、140℃に昇温し、この温度で2時間重合(第1重合)させた。
次に、115℃に下げた懸濁液中に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3gを純水20gに分散させ10分かけて滴下した後、ジクミルパーオキサイドを4g溶解させたスチレン1100gを4時間30分かけて滴下した。滴下後、120℃で1時間保持することで、種粒子中にスチレンを含浸させた。含浸後、140℃に昇温し、この温度で3時間保持して重合(第2重合)させた。この重合の結果、複合樹脂粒子を得ることができた(種粒子とポリスチレンとの重量比30/70)。
【0047】
その後、反応系の温度を60℃にして、この懸濁液中に、難燃剤としてトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(日本化成社製)50gと、難燃助剤としてジクミルパーオキサイド10gとを投入した。投入後、反応系の温度を130℃に昇温し、2時間攪拌を続けることで難燃剤含有複合樹脂粒子を得た。
次いで、30℃以下まで冷却し、オートクレーブから複合樹脂粒子を取り出した。複合樹脂粒子2kgと水2リットル、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.0gとを、5リットルの攪拌機付オートクレーブに入れた。更に、発泡剤としてブタン(n-ブタン:i-ブタン=7:3)15重量部(300g、520mL)をオートクレーブに入れた。この後、70℃に昇温し、4時間攪拌を続けることで発泡性粒子を得ることができた。その後、30℃以下まで冷却して、発泡性粒子をオートクレーブから取り出し、脱水乾燥させた。
【0048】
次いで、得られた発泡性粒子を嵩密度25kg/m3に予備発泡させることで、発泡粒子を得た。得られた発泡粒子を1日間室温(23℃)に放置した後、400mm×300mm×30mmの大きさの成形用金型に入れた。
その後、0.09MPaの水蒸気を20秒間導入して加熱し、次いで、発泡成形体の最高面圧が0.01MPaに低下するまで冷却することで、融着率90%以上の密度25kg/m3の発泡成形体を得た。
得られた発泡成形体の外観は良好であった。
【0049】
実施例2
発泡粒子の嵩密度及び発泡成形体の密度を21kg/m3に変更すること以外は実施例1と同様にして融着率90%以上の発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の外観は共に良好であった。
実施例3
発泡粒子の嵩密度及び発泡成形体の密度を33kg/m3に変更すること以外は実施例1と同様にして融着率90%以上の発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の外観は良好であった。
【0050】
実施例4
分散用媒体に30℃で種粒子800gを分散させ、第1の重合において、ジクミルパーオキサイドを0.8g溶解させたスチレン単量体400gを使用し、第2の重合において、ジクミルパーオキサイドを4g溶解させたスチレン単量体800gを使用することと、発泡粒子の嵩密度及び発泡成形体の密度を33kg/m3に変更することと、0.10MPaの水蒸気を用いて加熱すること以外は実施例1と同様にして融着率90%以上の発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の外観は良好であった。
実施例5
高密度ポリエチレンを、密度953kg/m3、MFR2.2g/10分、融点131℃、軟化温度128℃の高密度ポリエチレン(ブラスケム社製、品番SEG7252)に変更することと、0.13MPaの水蒸気を用いて加熱すること以外は実施例1と同様にして融着率90%以上の発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の外観は良好であった。
【0051】
実施例6
高密度ポリエチレンを、密度951kg/m3、MFR2.5g/10分、融点132℃、軟化温度122℃の高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製、品番HY350)に変更することと、0.13MPaの水蒸気を用いて加熱すること以外は実施例1と同様にして融着率90%以上の発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の外観は良好であった。
実施例7
エチレン共重合体をアクリル酸アルキルエステルとエチレンとの共重合体(日本ポリエチレン社製、品番A1100、MFR0.4g/10分、融点104℃、軟化温度83℃、アクリル酸エチル由来成分含有量10重量%)に、難燃助剤をビスクミルに変更することと、0.08MPaの水蒸気を用いて加熱すること以外は実施例1と同様にして融着率90%以上の発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の外観は良好であった。
【0052】
実施例8
エチレン共重合体をアクリル酸アルキルエステルとエチレンとの共重合体(日本ポリエチレン社製、品番A1100)に、高密度ポリエチレンとアクリル含有共重合体との重量比を60:40に、難燃助剤をビスクミルに変更することと、0.09MPaの水蒸気を用いて加熱すること以外は実施例1と同様にして融着率90%以上の発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の外観は良好であった。
実施例9
エチレン共重合体を日本ポリエチレン社製、品番LV430(MFR1.0g/10分、融点89℃、軟化温度73℃、酢酸ビニル由来成分含有量15重量%)に、難燃助剤をビスクミルに変更することと、0.08MPaの水蒸気を用いて加熱すること以外は実施例1と同様にして融着率90%以上の発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の外観は共に良好であった。
【0053】
実施例10
エチレン共重合体を日本ポリエチレン社製、品番LV211(MFR0.3g/10分、融点103℃、軟化温度84℃、酢酸ビニル由来成分含有量6重量%)に変更すること以外は実施例1と同様にして融着率90%以上の発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の外観は良好であった。
実施例11
エチレン共重合体をアクリル酸アルキルエステルとエチレンとの共重合体(日本ポリエチレン社製、品番A3100、MFR3g/10分、融点104℃、軟化温度75℃、アクリル酸エチル由来成分含有量10重量%)に、高密度ポリエチレンとアクリル含有共重合体との重量比を20:80に、難燃助剤をビスクミルに変更することと、0.10MPaの水蒸気を用いて加熱すること以外は実施例1と同様にして融着率90%以上の発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の外観は良好であった。
【0054】
実施例12
エチレン共重合体をアクリル酸アルキルエステルとエチレンとの共重合体(日本ポリエチレン社製、品番A1100、MFR0.4g/10分、融点104℃、軟化温度83℃、アクリル酸エチル由来成分含有量10重量%)に、高密度ポリエチレンを密度951kg/m3、MFR2.5g/10分、融点132℃、軟化温度122℃の高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製、品番HY350)に、難燃助剤をビスクミルに変更すること以外は実施例1と同様にして融着率90%以上の発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の外観は良好であった。
【0055】
比較例1
種粒子として、ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー社製、品番F744NP)のみからなる粒子を使用し、分散用媒体に30℃で種粒子800gを分散させ、第1の重合において、ジクミルパーオキサイドを0.8g溶解させたスチレン単量体400gを使用し、第2の重合において、ジクミルパーオキサイドを4g溶解させたスチレン単量体800gを使用することと、0.25MPaの水蒸気を用いて加熱すること以外は実施例1と同様にして融着率90%以上の発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の外観は良好であった。
比較例2
種粒子として、低密度ポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン社製、品番NF444A、密度912kg/m3、MFR2g/10分、融点121℃、軟化温度93℃)のみからなる粒子を使用することと、0.08MPaの水蒸気を用いて加熱すること以外は実施例1と同様にして融着率90%以上の発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の外観は良好であった。
【0056】
比較例3
種粒子として、高密度ポリエチレンのみからなる粒子を使用することと、0.10MPaの水蒸気を用いて加熱すること以外は実施例1と同様にして融着率90%以上の発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の外観は良好であった。
比較例4
エチレン共重合体をメタクリル酸アルキルエステルとエチレンとの共重合体(住友化学社製、品番WD201、MFR2g/10分、融点100℃、軟化温度75℃、メタクリル酸メチル由来成分含有量10重量%)に変更することと、0.10MPaの水蒸気を用いて加熱すること以外は実施例1と同様にして融着率90%以上の発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の外観は良好であった。
【0057】
比較例5
高密度ポリエチレンとエチレン共重合体との重量比を10:90に変更することと、0.10MPaの水蒸気を用いて加熱すること以外は実施例1と同様にして融着率90%以上の発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の外観は良好であった。
比較例6
高密度ポリエチレンとエチレン共重合体との重量比を20:80に変更することと、0.08MPaの水蒸気を用いて加熱すること以外は実施例1と同様にして融着率90%以上の発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の外観は良好であった。
比較例7
種粒子として、高密度ポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン社製、品番HY350)のみからなる粒子を使用することと、発泡粒子の嵩密度及び発泡成形体の密度を33kg/m3に変更すること、0.08MPaの水蒸気を用いて加熱すること以外は実施例1と同様にして融着率90%以上の発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の外観は良好であった。
【0058】
比較例8
高密度ポリエチレン樹脂を低密度ポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン社製、品番NF444A)に変更することと、0.08MPaの水蒸気を用いて加熱すること以外は実施例1と同様にして融着率90%以上の発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の外観は良好であった。
上記実施例及び比較例から得られた結果を表1〜3に示す。
表中、A樹脂はエチレン共重合体を、B樹脂は高密度ポリエチレンを、TAIC6Bはトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートを、BCはビスクミルを、DCPはジクミルパーオキサイドを、AEは自己消火性を、意味する。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
表1及び2から以下のことが分かる。
実施例と比較例1とから、高密度ポリエチレンに代えて、ポリプロピレンのみを使用すると、所望の倍数の発泡成形体を得るために高圧が必要となることが分かる。
実施例と比較例3から、高密度ポリエチレンのみを使用すると、落球衝撃値が低下することが分かる。
実施例と比較例4とから、エチレン共重合体がメタクリル酸アルキルエステルとエチレンとの共重合体であると、加熱寸法変化率が増加することが分かる。
実施例と比較例5から、種粒子中の高密度ポリエチレンが多すぎると、燃焼速度が増加することが分かる。
実施例と比較例6から、種粒子中の高密度ポリエチレンが少なすぎると、加熱寸法変化率が増加することが分かる。
実施例1、5及び6から、種粒子中の高密度ポリエチレンの密度が高いほど、加熱寸法変化率をより少なくできることが分かる。
図1