(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(x)前記外部から添加されたTGFβスーパーファミリーシグナル伝達阻害剤および/またはFGF8が、神経細胞への前記集団の分化に適切であると決定された量であり、および/または
(xx)神経分化効率を試験して、前記外部から添加されたTGFβスーパーファミリーシグナル伝達阻害剤および/またはFGF8の前記適切な量を、前記集団からの細胞の最高神経分化効率と関連付けられた量として決定するステップをさらに含む、
請求項2に記載の方法。
前記TGFβスーパーファミリーシグナル伝達阻害剤が、BMPシグナル伝達阻害剤および/またはアクチビン/ノーダル/TGFβ/GDFシグナル伝達阻害剤である、請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
ステップb)の前記培養培地が、栄養混合物F−12を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM/F12)、B−27サプリメントを含むDMEM−F12培地、N2サプリメントを含むDMEM−F12培地、またはインスリン、トランスフェリン、およびセレニウム(ITS)サプリメントを含むDMEM−F12培地である、請求項6に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0043】
I.導入
多様な異なる方法および組成物が、本明細書において説明される。ある特定の実施形態は、幹細胞分化過程を向上させる、いくつかの重要な利点に関する。多能性幹細胞の神経分化能は、分化前の幹細胞の培養環境により影響され得ることが発見されている。いくつかの実施形態において、方法は、特に神経分化能を低減する増殖因子の不在下で予備刺激培地を使用することにより、多能性幹細胞の分化からの神経細胞の均一性および収率を増加させるために開発され得る。
【0044】
「多能性」とは、1つ以上の組織または器官を構成するすべての細胞、例えば、内胚葉(胃の内壁、胃腸管、肺)、中胚葉(筋肉、骨、血液、泌尿生殖器)、または外胚葉(上皮組織および神経系)の3つの胚葉層のいずれかに分化する能力を有する幹細胞を指す。
【0045】
一般にiPS細胞またはiPSCと省略される「誘導多能性幹細胞」は、非多能性細胞、典型的に成体体細胞、または最終分化した細胞、例えば、線維芽細胞、造血細胞、筋細胞、ニューロン、上皮細胞等から、再プログラム化因子を導入するか、またはそれと接触させることにより、人工的に調製された多能性幹細胞の一種を指す。
【0046】
「胚幹(ES)細胞」は、初期胚に由来する多能性幹細胞である。
【0047】
「付着性培養物」は、細胞または細胞の凝集体が表面に付着する培養物を指す。
【0048】
「懸濁培養液」は、細胞または細胞の凝集体が、液体培地中に懸濁される間に増殖する培養液を指す。
【0049】
外部から添加された成分を「本質的に含まない」とは、細胞以外の源から特定された成分を培地内に含まないか、または本質的に含まない培地を指す。外部から添加された増殖因子またはシグナル伝達阻害剤、例えば、TGFβ、bFGF、TGFβスーパーファミリーシグナル伝達阻害剤等を「本質的に含まない」とは、最小量または検出不可能な量の外部から添加された成分を意味し得る。例えば、TGFβもしくはbFGFを本質的に含まない培地もしくは環境は、5、4、3、2、1、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1、0.01、0.001ng/mL未満、またはその中で導き出せる任意の範囲を含有することができる。例えば、シグナル伝達阻害剤を本質的に含まない培地もしくは環境は、0.2、0.1、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03、0.02、0.01、0.005、0.001μM未満、またはその中で導き出せる任意の範囲を含有することができる。
【0050】
「ROCK阻害剤」として省略される「Rho関連キナーゼ阻害剤」は、例えば、小分子、siRNA、miRNA、アンチセンスRNA等の細胞内のRho関連キナーゼまたはそのシグナル伝達経路の機能を阻害または低減する任意の物質を指す。本明細書で使用するとき、「ROCKシグナル伝達経路」は、細胞内のROCK関連シグナル伝達経路、例えば、Rho−ROCK−ミオシンIIシグナル伝達経路、その上流シグナル伝達経路、またはその下流シグナル伝達経路に関与する、任意のシグナルプロセッサを含み得る。ROCK阻害剤の例としては、Rho特異的阻害剤またはROCK特異的阻害剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
「ミオシンII阻害剤」は、細胞内のミオシンIIまたはそのシグナル伝達経路の機能を阻害または低減する任意の物質、例えば、小分子、siRNA、miRNA、アンチセンスRNA等を指す。ミオシンII阻害剤の例としては、MRLC(ミオシン調節軽鎖)特異的阻害剤またはミオシンII特異的阻害剤を含む。
【0052】
「分化」は、あまり特殊化されていない細胞が、より特殊化される、少なくとも新しい細胞型の子孫を形成する過程である。
【0053】
「凝集促進培地」という用語は、作用機序に関する任意の制限なしに、細胞の凝集体形成を強化する任意の培地を意味する。
【0054】
「凝集体」という用語、すなわち、胚様体は、懸濁液中で培養される分化した細胞、部分的に分化した細胞、および/または多能性幹細胞を含む、細胞の同種または異種クラスタを指す。
【0055】
「ニューロン」または「神経細胞」または「神経細胞型」または「神経系統」は、任意のニューロン系統細胞を含み得、特別の定めのない限り、任意の制限なしにニューロンの個体発生の任意の段階にある細胞を指す。例えば、ニューロンは、両ニューロン前駆体、成熟ニューロン、および星状細胞等の神経細胞型を含み得る。
【0056】
特定タンパク質を「コードする」「遺伝子」、「ポリヌクレオチド」、「コード領域」、「配列」、「セグメント」、または「フラグメント」は、適切な調節配列の制御下に配置される場合、インビトロまたはインビボで、転写され、また遺伝子生成物、例えば、ポリペプチドに随意に翻訳される核酸分子である。コード領域は、cDNA、ゲノムDNA、またはRNA形態のいずれかで存在し得る。DNA形態で存在する場合、核酸分子は、一本鎖(すなわち、センス鎖)または二本鎖であり得る。コード領域の境界は、5′(アミノ)末端の開始コドン、および3′(カルボキシ)末端の翻訳停止コドンにより決定される。遺伝子としては、原核または真核mRNAのcDNA、原核または真核DNAからのゲノムDNA配列、および合成DNA配列を挙げることができるが、これらに限定されない。転写終結配列は、通常、遺伝子配列に対して3′に位置する。
【0057】
「導入遺伝子」という用語は、人工的または自然な手段により細胞または有機体に導入された遺伝子、核酸、またはポリヌクレオチド、例えば、外因性核酸を指す。外因性核酸は、異なる有機体または細胞に由来し得るか、または有機体もしくは細胞内で自然発生する核酸の1つ以上の追加の複製であり得る。非限定的な例として、外因性核酸は、天然細胞の染色体位置とは異なる染色体位置にあるか、またはそうでなければ自然界に見られるものとは異なる核酸配列が両脇に並ぶ。
【0058】
「プロモータ」という用語は、本明細書において、DNA調節配列を含むヌクレオチド領域を指すように、その通常の意味で使用され、調節配列は、RNAポリメラーゼを結合し、下流(3′方向)コード領域の転写を開始することができる遺伝子に由来する。
II.多能性幹細胞の源
【0059】
多能性幹細胞は、多能性幹細胞の神経導入のために本方法において使用され得る。本発明において、神経発生能を向上させる条件下で多能性幹細胞を予備刺激することにより、神経分化効率を向上させるための方法および組成物が開示された。
【0060】
「多能性幹細胞」という用語は、全3つの胚葉層、つまり内胚葉、中胚葉、および外胚葉の細胞を生じることができる細胞を指す。理論では、多能性幹細胞は身体の任意の細胞に分化することができるが、実験的な多能性の決定は、典型的に、各胚葉層のいくつかの細胞型への多能性細胞の分化に基づく。本発明のいくつかの実施形態において、多能性幹細胞は、胚盤胞の内細胞塊に由来する胚幹(ES)細胞である。他の実施形態において、多能性幹細胞は、体細胞を再プログラム化することに由来する誘導多能性幹細胞である。ある特定の実施形態において、多能性幹細胞は、体細胞核移植に由来する胚幹細胞である。
A.胚幹細胞
【0061】
胚幹(ES)細胞は、胚盤胞の内細胞塊に由来する多能性細胞である。ES細胞は、発達する胚の外側栄養外胚葉層を除去し、次いで非増殖細胞の支持層上で内塊細胞を培養することにより単離され得る。適切な条件下で、増殖する未分化のES細胞のコロニーが生成される。コロニーは、除去され、個別の細胞に解離された後、新鮮な支持層上に再播種され得る。再播種された細胞は増殖を続けることができ、未分化のES細胞の新しいコロニーを生成する。次いで新しいコロニーが除去され、解離され、再度播種されて、増殖が可能になり得る。未分化のES細胞を「二次培養する」または「継代する」この過程を何度も反復して、未分化のES細胞を含有する細胞株を生成することができる(米国特許第5,843,780号、第6,200,806号、第7,029,913号)。「一次細胞培養物」は、胚盤胞の内細胞塊等の組織から直接得られる細胞の培養物である。「二次培養物」は、一時細胞培養物に由来する任意の培養物である。
【0062】
マウスES細胞を得るための方法はよく知られている。一方法において、マウスの129株からの移植前胚盤胞は、マウス抗血清で処理して栄養外胚葉を除去し、内細胞塊は、ウシ胎仔血清を含有する培地内で、化学的に不活性化されたマウス胚線維芽細胞の支持細胞層上で培養される。発達する未分化のES細胞のコロニーは、ウシ胎仔血清の存在下で、マウス胚線維芽細胞の支持層上で二次培養されて、ES細胞の集団を生成する。いくつかの方法において、マウスES細胞は、サイトカイン白血病阻害因子(LIF)を血清含有培養培地に添加することにより、支持層の不在下で増殖され得る(Smith,2000)。他の方法において、マウスES細胞は、骨形成タンパク質およびLIFの存在下で、無血清培地内で増殖され得る(Ying et al.,2003)。
【0063】
ヒトES細胞は、前述の方法を使用して胚盤胞から得ることができる(Thomson et al.,1995、Thomson et al.,1998、Thomson and Marshall,1998、Reubinoff et al,2000)。一方法において、5日目のヒト胚盤胞は、ウサギ抗ヒト脾細胞抗血清に曝露され、次いで溶解栄養外胚葉細胞に相補的なモルモットの1:5希釈に曝露される。溶解された栄養外胚葉細胞を正常な内細胞塊から除去した後、内細胞塊は、γ−不活性化マウス胚線維芽細胞の支持層上で、ウシ胎仔血清の存在下で培養される。9〜15日後、内細胞塊に由来する細胞の凝集塊は、化学的に(すなわち、トリプシンに曝露される)または機械的に解離され、ウシ胎仔血清およびマウス胚線維芽細胞の支持層を含有する新鮮な培地内に再播種され得る。さらなる増殖時に、未分化の形態を有するコロニーは、マイクロピペットにより選択され、機械的に凝集塊に解離されて、再播種される(米国特許第6,833,269を参照)。ES様形態は、明らかに高い核対細胞質比および顕著な核小体を有する小型コロニーとして特性化される。得られるES細胞は、簡単なトリプシン処理、またはマイクロピペットによる個別のコロニーの選択により日常的に継代され得る。いくつかの方法において、ヒトES細胞は、塩基性線維芽細胞増殖因子の存在下で、線維芽細胞の支持層上でES細胞を培養することにより、血清なしに増殖され得る(Amit et al.,2000)。他の方法において、ヒトES細胞は、塩基性線維芽細胞増殖因子を含有する「馴化」培地の存在下で、Matrigel(商標)またはラミニン等のタンパク質マトリックス上で細胞を培養することにより、支持細胞層なしに増殖され得る(Xu et al.,2001)。培地は、線維芽細胞と共培養することにより事前に馴化される。
【0064】
アカゲサルおよび一般的なマーモセットES細胞の単離方法も既知である(Thomson,and Marshall,1998、Thomson et al.,1995、Thomson and Odorico,2000)。
【0065】
ES細胞の別の源は、樹立ES細胞株である。様々なマウス細胞株およびヒトES細胞株は既知であり、それらの増殖および繁殖のための条件は定義されている。例えば、マウスCGR8細胞株は、マウス株129胚の内細胞塊から樹立され、CGR8細胞の培養物は、支持層なしにLIFの存在下で増殖され得る。さらなる例として、ヒトES細胞株H1、H7、H9、H13およびH14は、Thomsonらにより樹立された。加えて、H1株のサブクローンH9.1およびH9.2が開発されている。当該技術分野において既知の事実上任意のESまたは幹細胞株、例えば、参照により本明細書に援用される、Yu and Thomson,2008に記載されるもの等は、本発明とともに使用され得ることが予想される。
【0066】
本発明と併用するためのES細胞の源は、胚盤胞、胚盤胞の内細胞塊を培養することに由来する細胞、または樹立細胞株の培養物から得られる細胞であり得る。したがって、本明細書で使用するとき、「ES細胞」という用語は、胚盤胞の内細胞塊、内塊細胞の培養物から得られるES細胞、およびES細胞株の培養物から得られるES細胞を指し得る。
B.誘導多能性幹細胞
【0067】
誘導多能性幹(iPS)細胞は、ES細胞の特徴を有するが、分化した体細胞の再プログラム化により得られる細胞である。誘導多能性幹細胞は、様々な方法により得られている。一方法において、成人の皮膚線維芽細胞を、レトロウイルス導入を使用して、転写因子Oct4、Sox2、c−Myc、およびKlf4により形質導入される(Takahashi et al.,2007)。形質導入された細胞を、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を補充した培地内のSNL支持細胞(LIFを生成するマウス細胞線維芽細胞株)上に播種する。約25日後、ヒトES細胞コロニーに類似するコロニーが、培養物中に出現する。ES細胞様コロニーを採取し、bFGFの存在下、支持細胞上で拡大される。
【0068】
細胞特徴に基づいて、ES細胞様コロニーの細胞は、誘導多能性幹細胞である。誘導多能性幹細胞は、ヒトES細胞に形態的に類似し、様々なヒトES細胞マーカーを発現する。またヒトES細胞の分化をもたらすことが知られている条件下で増殖されるときに、誘導多能性幹細胞がそれに応じて分化する。例えば、誘導多能性幹細胞は、ニューロン構造およびニューロンマーカーを有する細胞に分化することができる。例えば、Yu and Thomson,2008に記載されるものを含む、事実上任意のiPS細胞または細胞株を、本発明とともに使用し得ることが予想される。
【0069】
別の方法において、ヒト胎児または新生児線維芽細胞は、レンチウイルス導入を使用して、4つの遺伝子、Oct4、Sox2、Nanog、およびLin28により形質導入される(Yu et al.,2007)。感染後12〜20日目に、ヒトES細胞形態を有するコロニーが目に見えるようになる。コロニーを採取し、拡大する。コロニーを形成する誘導多能性幹細胞は、ヒトES細胞に形態的に類似し、様々なヒトES細胞マーカーを発現して、マウスへの注入後に、神経組織、軟骨、および腸上皮を有する奇形腫を形成する。
【0070】
マウスから誘導多能性幹細胞を調製する方法も既知である(Takahashi and Yamanaka,2006)。iPS細胞の誘導は、典型的に、Soxファミリーの少なくとも1つのメンバー、およびOctファミリーの少なくとも1つのメンバーの発現またはそれらに対する曝露を必要とする。SoxおよびOctは、ES細胞同一性を特定する転写調節階級の中心となると考えられる。例えば、Soxは、Sox−1、Sox−2、Sox−3、Sox−15、またはSox−18であり得、OctはOct−4であり得る。付加因子は、Nanog、Lin28、Klf4、またはc−Mycのような再プログラム化効率を増加させ得、再プログラム化因子の特定群は、Sox−2、Oct−4、Nanog、および随意にLin−28を含む群、またはSox−2、Oct4、Klf、および随意にc−Mycを含む群であり得る。
【0071】
ES細胞のようなIPS細胞は、SSEA−1、SSEA−3、およびSSEA−4(Developmental Studies Hybridoma Bank,National Institute of Child Health and Human Development,Bethesda Md.)、ならびにTRA−1−60およびTRA−1−81の抗体を使用して、免疫組織化学またはフローサイトメトリーにより同定または確認され得る、特徴的な抗原を有する(Andrews et al.,1987)。胚幹細胞の多能性は、約0.5〜10×10
6個の細胞を、8〜12週齢の雄SCIDマウスの後脚筋肉に注入することにより確認され得る。3つの胚葉層のそれぞれの少なくとも1つの細胞型を実証する奇形腫が発達する。
【0072】
本発明のある特定の態様において、iPS細胞は、上述のKlfまたはNanogと併せて、Oct4およびSox2等のOctファミリーメンバーおよびSoxファミリーメンバーを含む再プログラム化因子を使用して、再プログラム化体細胞から形成される。本発明のある特定の態様における体細胞は、線維芽細胞、ケラチノサイト、造血細胞、間葉細胞、肝細胞、胃細胞、またはβ細胞等の多能性に誘導され得る任意の体細胞であり得る。ある特定の態様において、T細胞は、再プログラム化のための体細胞の源として使用され得る(参照により本明細書に援用される、米国特許出願第61/184,546号を参照)。
【0073】
再プログラム化因子は、統合ベクター、染色体的に非統合のRNAウイルスベクター(参照により本明細書に援用される、米国特許出願第13/054,022号を参照)、またはEBV要素ベースのシステム等のエピソームベクター(参照により本明細書に援用される、米国特許出願第61/058,858号、Yu et al.,2009を参照)等の1つ以上のベクターに含まれる発現カセットから発現され得る。さらなる態様において、再プログラム化タンパク質またはRNA(例えば、mRNAまたはmiRNA)は、タンパク質またはRNA形質導入により体細胞に直接導入され得る(参照により本明細書に援用される、米国特許出願第61/172,079号、Yakubov et al.,2010を参照)。
C.体細胞核移植に由来する胚幹細胞
【0074】
多能性幹細胞は、ドナー核が無紡錘卵母細胞に移植される体細胞核移植により調製され得る。核移植により生成される幹細胞は、遺伝子学的にドナー核と同一である。一方法において、アカゲザルの皮膚線維芽細胞からのドナー線維芽細胞核は、電気融合により無紡錘、成熟中期IIアカゲザル卵母細胞の細胞質に導入される(Byrne et al.,2007)。融合された卵母細胞は、イオノマイシンへの曝露により活性化された後、胚盤胞段階まで培養される。次いで選択された胚盤胞の内細胞塊を培養して、胚幹細胞株を生成する。胚幹細胞株は、正常なES細胞形態を示し、様々なES細胞マーカーを発現して、インビトロおよびインビボの両方で複数の細胞型に分化する。本明細書で使用するとき、「ES細胞」という用語は、受精した核を含有する胚に由来する胚幹細胞を指す。ES細胞は、核移植により生成される胚幹細胞から区別され、「体細胞核移植に由来する胚幹細胞」と称される。
III.多能性幹細胞の予備刺激および分化条件
【0075】
培養条件に応じて、多能性幹細胞は、分化した細胞または未分化細胞のコロニーを生成することができる。向上した分化の一貫性および効率のために、多能性幹細胞の分化の特定の予備刺激条件を使用するための方法が提供される。例えば、多能性幹細胞は、分化前、より具体的には凝集体形成の誘導前に、TGFβおよびbFGFのような増殖因子を本質的に含まない培地内で培養される。別段の定めがない限り、分化は、自発変化によらず、少なくとも培養条件の変化を伴い得る誘導(例えば、凝集体形成)により達成される。
【0076】
多能性幹細胞の「予備刺激」は、凝集体形成の開始前、多能性幹細胞が所望の分化のために調整され得る間の期間または過程を意味し得る。「分化する」という用語は、進行経路を下る細胞の進行を意味する。「分化した」という用語は、別の細胞と比較して、進行経路を下る細胞の進行を説明する相対用語である。例えば、多能性細胞は、体の任意の細胞を生じ得るが、造血細胞等のより分化した細胞は、より少数の細胞型を生じる。
【0077】
多能性幹細胞の培養物は、集団中の幹細胞およびそれらの誘導体の実質的な割合(例えば、少なくとも約50%、80%、90%、95%、99%、またはその中で導き出せる任意の範囲)が、未分化細胞の形態的特徴を示す場合に「未分化」とされ、胚または成体起源の分化した細胞からそれらを明らかに区別する。未分化ESまたはiPS細胞は、当業者により認識され、典型的に、高い核/細胞質比および顕著な核を有する細胞のコロニー内で2次元の顕微鏡ビューに出現する。未分化細胞のコロニーは、分化された近隣細胞を有し得ることが理解される。
【0078】
ある特定の態様において、本方法の開始細胞は、少なくとも、または約10
4、10
5、10
6、10
7、10
8、10
9、10
10、10
11、10
12、10
13個、またはその中で導き出せる任意の範囲の細胞を含み得る。開始細胞集団は、少なくとも、または約10、10
1、10
2、10
3、10
4、10
5、10
6、10
7、10
8個の細胞/mL、またはその中で導き出せる任意の範囲の播種密度を有し得る。
A.予備刺激および分化のための培地
【0079】
本発明のある特定の態様による予備刺激または分化培地は、その基礎培地として動物細胞を培養するために使用される培地を使用して調製され得る。予備刺激培地は、TGFβおよびbFGFを本質的に含まない培地であり得る。分化に使用される培地のいずれかは、TGFβおよびbFGFを含有し得るか、またはTGFβおよびbFGFを本質的に含まない培地であってもよい。ある特定の態様において、予備刺激培地または分化培地は、外部から添加されたTGFβスーパーファミリーシグナル伝達阻害剤および外部から添加されたbFGF阻害剤の必要性を排除し得る。
【0080】
ある特定の態様において、予備刺激培地、凝集体形成培地、またはさらなる分化のための培地は、FGF8(線維芽細胞増殖因子8)またはTGFβスーパーファミリーシグナル伝達の阻害剤、例えば、SB−431542またはドルソモルフィンを含有し得る。特定の態様において、FGF8またはTGFスーパーファミリーシグナル伝達阻害剤(複数可)は、細胞の同一バッチ、株、またはクローンに対する別個の実験により決定される適量で存在し得る(参照により本明細書に援用される、米国特許出願第61/394,589号を参照)。
【0081】
基礎培地として、任意の化学的に定義された培地、例えば、イーグル基礎培地(BME)、BGJb、CMRL1066、グラスゴーMEM、向上したMEM亜鉛オプション、Iscove改変ダルベッコ培地(IMDM)、培地199、イーグルMEM、αMEM、DMEM、Ham、RPMI 1640、およびフィッシャー培地、それらの変異型または組合せが使用され得、TGFβおよびbFGFは含まれても含まれなくてもよい。
【0082】
さらなる実施形態において、細胞予備刺激または分化環境は、B−27サプリメント、インスリン、トランスフェリン、およびセレニウム(ITS)サプリメント、L−グルタミン、NEAA(非必須アミノ酸)、P/S(ペニシリン/ストレプトマイシン)、N2サプリメント(5μg/mLインスリン、100μg/mLトランスフェリン、20nMプロゲステロン、30nMセレニウム、100μMプトレシン(Bottenstein,and Sato,1979 PNAS USA 76,514〜517)およびβ−メルカプトエタノール(β−ME)等のサプリメントを含有することもできる。フィブロネクチン、ラミニン、ヘパリン、ヘパリン硫酸、レチノイン酸を含むが、これらに限定されない付加因子が添加されてもされなくてもよいことが企図される。
【0083】
例えば、上皮増殖因子(EGF)のメンバー、FGF2および/またはFGF8を含む線維芽細胞増殖因子ファミリー(FGF)のメンバー、血小板由来増殖因子ファミリー(PDGF)のメンバー、形質転換増殖因子(TGF)/骨形成タンパク質(BMP)/成長および分化因子(GDF)因子ファミリー拮抗薬のメンバー(ノギン、ホリスタチン、コルジン、グレムリン、ケルベロス/DANファミリータンパク質、ベントロピン、および無羊膜を含むが、これらに限定されない)等の増殖因子は、予備刺激培地、凝集体形成培地、および/またはさらなる分化培地に添加されてもされなくてもよい。TGF、BMP、およびGDF拮抗薬は、TGF、BMP、およびGDF受容体−Fcキメラの形態でも添加され得る。添加されてもされなくてもよい他の因子としては、デルタ様および鋸歯状ファミリーのタンパク質、ならびにγセクレターゼ阻害剤およびDAPT等のノッチ処理または開裂の他の阻害剤を含むが、これらに限定されないノッチ受容体ファミリーを通じてシグナル伝達を活性化または不活性化することができる分子が挙げられる。他の増殖因子としては、インスリン様増殖因子ファミリー(IGF)、無翼関連(WNT)因子ファミリー、およびヘッジホッグ因子ファミリーのメンバーが挙げられ得る。
【0084】
付加因子を、予備刺激、凝集体形成、および/またはさらなる分化の培地に付加して、神経幹/前駆体増殖および生存、ならびにニューロン生存および分化を促進してもよい。これらの神経栄養因子としては、神経増殖因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3(NT−3)、ニューロトロフィン−4/5(NT−4/5)、インターロイキン−6(IL−6)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、白血病抑制因子(LIF)、カルジオトロフィン、形質転換増殖因子(TGF)/骨形成タンパク質(BMP)/成長および分化因子(GDF)ファミリーのメンバー、グリア由来神経栄養因子(GDNF)ファミリー(ニュールツリン、ニューブラスチン/アルテミン、およびペルセフィンを含むが、これらに限定されない)、ならびに肝細胞増殖因子に関連し、それを含む因子が挙げられるが、これらに限定されない。末端分化されて有糸分裂後ニューロンを形成する神経培養物は、5−フルオロ2′−デオキシウリジン、およびシトシンβ−D−アラビノ−フラノシド(Ara−C)を含むが、これらに限定されない有糸分裂阻害剤または有糸分裂の混合物も含有し得る。
【0085】
培地は、血清含有培地または無血清培地であり得る。無血清培地は、未処理または未精製血清を含まない培地を指してよく、したがって、精製血液由来成分または動物組織由来成分(例えば、増殖因子)を含む培地を含み得る。異種動物由来成分による汚染を防ぐ観点から、血清は、幹細胞(複数可)の動物と同一の動物に由来し得る。
【0086】
培地は、血清の任意の代替物を含有してもしなくてもよい。血清の代替物としては、アルブミン(例えば、脂質に富むアルブミン、組み換えアルブミン等のアルブミン代替物、植物デンプン、デキストラン、およびタンパク質加水分解物)、トランスフェリン(または他の鉄輸送体)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2−メルカプトエタノール、3′−チオールグリセロール、またはその相当物を適切に含有する材料を挙げることができる。血清の代替物は、例えば、国際公開第98/30679号に開示される方法により調製され得る。あるいは、さらなる便宜のために任意の市販の材料を使用することができる。市販の材料としては、ノックアウト血清代替物(KSR)、化学的に定義された脂質濃縮物(Gibco)、およびGlutamax(Gibco)が挙げられる。
【0087】
培地は、脂肪酸または脂質、アミノ酸(例えば、非必須アミノ酸)、ビタミン(複数可)、増殖因子、サイトカイン、抗酸化物質、2−メルカプトエタノール、ピルビン酸、緩衝剤、および無機塩を含有することもできる。2−メルカプトエタノールの濃度は、例えば、約0.05〜1.0mM、特に約0.1〜0.5、または0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.1、0.2、0.5、0.8、1、1.5、2、2.5、5、7.5、10mM、または任意の中間値であり得るが、濃度は、幹細胞(複数可)を培養するために適切である限り、特にそれに限定されない。
【0088】
多能性幹細胞の予備刺激のための時間は、向上した神経誘導等の所望の効果が達成され得るための期間である限り、特に限定されない。例えば、予備刺激のための時間は、解離前の少なくとも、または約10、15、20、25、30分から数時間(例えば、少なくとも、または約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、8時間、12時間、16時間、24時間、36時間、48時間、またはその中で導き出せる任意の範囲)であり得る。他の実施形態において、幹細胞は、少なくとも1〜5継代にわたって、予備刺激培地内で培養され得る。
【0089】
予備刺激される多能性幹細胞(複数可)の密度は、それが少なくとも、または約10、10
1、10
2、10
3、10
4、10
5、10
6、10
7、10
8細胞/cm
2、あるいは向上した神経誘導等の所望の効果が達成され得る密度である限り、特に限定されない。例えば、約1.0×10
4〜1.0×10
6細胞/cm
2、より具体的に約2.0×10
4〜6.5×10
5細胞/cm
2、および最も具体的に約3.0×10
4〜3.0×10
5細胞/cm
2である。
【0090】
ある特定の実施形態において、多能性幹細胞は、凝集体形成前に予備刺激培地内で培養され、神経誘導を向上させる(例えば、単一細胞または小さな凝集体に解離されて凝集体形成を誘導する前)。本発明のある特定の実施形態において、幹細胞は、支持細胞、支持細胞抽出物、および/または血清の不在下で培養され得る。
B.培養条件
【0091】
細胞(複数可)を培養するために使用される培養容器としては、細胞をその中で培養することができる限り、フラスコ、組織培養のためのフラスコ、スピナーフラスコ、皿、ペトリ皿、組織培養のための皿、マルチ皿、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マルチプレート、マルチウェルプレート、マイクロスライド、チャンバスライド、管、トレー、CellSTACK(登録商標)チャンバ、培養バッグ、およびローラーボトルが挙げられるが、これらに特に限定されない。細胞は、培養の必要性に応じて、少なくとも、または約0.2、0.5、1、2、5、10、20、30、40、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、800、1000、1500mL、あるいはその中で導き出せる任意の範囲の体積で培養され得る。ある特定の実施形態において、培養容器は、バイオリアクターであり得、生物学的に活性な環境を支持する任意の装置またはシステムを指し得る。バイオリアクターは、少なくとも、または約2、4、5、6、8、10、15、20、25、50、75、100、150、200、500リットル、1、2、4、6、8、10、15立方メートル、あるいはその中で導き出せる任意の範囲の体積を有し得る。
【0092】
培養容器表面は、目的により、細胞付着性を有してまたは有さずに準備され得る。細胞付着性培養容器は、細胞外マトリックス(ECM)等の細胞付着のための任意の基質で被覆されて、細胞に対する容器表面の付着性を向上させることができる。細胞付着に使用される基質は、幹細胞または支持細胞(使用される場合)を付着することが意図される任意の材料であり得る。細胞付着の非限定的な基質としては、コラーゲン、ゼラチン、ポリ−L−リシン、ポリ−D−リシン、ポリ−D−オルニチン、ラミニン、ビトロネクチン、およびフィブロネクチン、およびそれらの混合物、例えば、Engelbreth−Holm−Swarmマウス肉腫細胞からのタンパク質混合物(例えば、Matrigel(商標)またはGeltrex)および溶解細胞膜調製物が挙げられる(Klimanskaya et al.,2005)。
【0093】
他の培養条件は、適切に定義され得る。例えば、培養温度は、約30〜40℃、例えば、少なくとも、または約31、32、33、34、35、36、37、38、39℃であり得るが、特にそれらに限定されない。CO
2濃度は、約1〜10%、例えば、約2〜7%、またはその中で導き出せる任意の範囲であり得る。酸素圧は、少なくとも、または約1、5、8、10、20%、またはその中で導き出せる任意の範囲であり得る。
【0094】
付着培養物は、ある特定の態様において使用され得る。この場合、細胞は、支持細胞の存在下で培養され得る。支持細胞が本発明の方法において使用される例において、胎児線維芽細胞等のストローマ細胞は、支持細胞として使用され得る(例えば、Manipulating the Mouse Embryo A Laboratory Manual(1994)、Gene Targeting,A Practical Approach(1993)、Martin(1981)、Evans et al.(1981)、Jainchill et al.(1969)、Nakano et al.,Science(1996)、Kodama et al.,(1982)、ならびに国際公開第01/088100号および同第2005/080554号を参照)。
【0095】
他の態様において、懸濁培養液が使用され得る。懸濁培養液は、担体上の懸濁培養液(Fernandes et al.,2007)またはゲル/バイオポリマーカプセル化(米国特許公開第2007/0116680号)を含み得る。幹細胞の懸濁培養液は、幹細胞が、培地内の培養容器または支持細胞(使用される場合)に関して、非付着性条件下で培養されることを意味する。幹細胞の懸濁培養液としては、幹細胞の解離培養液および幹細胞の凝集体懸濁液が挙げられる。幹細胞の解離培養は、懸濁された幹細胞が培養されることを意味し、幹細胞の解離培養としては、単一細胞の解離培養、または複数の幹細胞(例えば、約2〜400細胞)からなる小細胞凝集体の解離培養が挙げられる。前述の解離培養が継続するときに、培養され、解離された細胞は、より大きな幹細胞の凝集体を形成し、その後凝集体懸濁培養が行われ得る。凝集体懸濁培養としては、胚様体培養法(Keller et al.,1995を参照)、およびSFEB(無血清胚様体)法(Watanabe et al.,2005、国際公開第2005/123902号)が挙げられる。
C.多能性幹細胞の培養
【0096】
ES細胞等の多能性幹細胞を調製および培養するための方法は、奇形腫および胚幹細胞を含む、細胞生物学、組織培養、および発生学における標準的なテキストおよびレビュー:A practical approach(1987)、Guide to Techniques in Mouse Development(1993)、Embryonic Stem Cell Differentiation in vitro(1993)、Properties and uses of Embryonic Stem Cells:Prospects for Application to Human Biology and Gene Therapy(1998)において認められ得、すべて参照により本明細書に援用される。組織培養において使用される標準方法は、概して、Animal Cell Culture(1987)、Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(1987)、およびCurrent Protocols in Molecular Biology and Short Protocols in Molecular Biology(1987&1995)に記載される。
【0097】
体細胞が再プログラム化因子の中に導入されるか、またはそれと接触した後に、これらの細胞は、多能性および未分化状態を維持するために十分な培地内で培養され得る。誘導多能性幹(iPS)細胞の培養は、参照により本明細書に援用される、米国特許公開第2007/0238170号、および米国特許公開第2003/0211603号、および米国特許公開第2008/0171385号に記載されるように、霊長類多能性幹細胞、より具体的には、胚幹細胞を培養するために開発された様々な培地および技法を使用することができる。当業者には既知であるように、多能性幹細胞の培養および維持のための付加的方法が、本発明とともに使用されてよいことが理解される。
【0098】
ある特定の実施形態において、未定義の条件が使用され得、例えば、多能性細胞は、幹細胞を未分化状態で維持するために、線維芽支持細胞または線維芽支持細胞に曝露された培地上で培養され得る。あるいは、多能性細胞は、定義された支持細胞非依存性の培養系、例えば、TeSR培地(Ludwig et al.,2006a、Ludwig et al.,2006b)またはE8培地(Chen et al.,2011:国際出願PCT/US2011/046796)を使用して、本質的に未分化状態で培養および維持されてよい。支持細胞非依存性の培養系および培地を使用して、多能性細胞を培養および維持し得る。これらのアプローチは、ヒト多能性幹細胞を、マウス線維芽細胞「支持細胞層」を必要とすることなく、本質的に未分化状態で維持することを可能にする。本明細書に記載のとおり、所望のとおり費用を低減するために、これらの方法に様々な修正を行ってよい。
【0099】
様々なマトリックス成分は、ヒト多能性幹細胞を培養、維持、または分化する際に使用され得る。例えば、コラーゲンIV、フィブロネクチン、ラミニン、およびビトロネクチンを組み合わせて使用し、参照によりそれら全体が援用される、Ludwig et al.(2006a、2006b)に記載のとおり、多能性細胞増殖のための固体支持体を提供する手段として培養表面を被覆し得る。
【0100】
Matrigel(商標)を使用して、ヒト多能性幹細胞の細胞培養および維持のための基質を提供してもよい。Matrigel(商標)は、マウス腫瘍細胞により分泌されたゼラチン状タンパク質混合物であり、BD Biosciences(New Jersey,USA)から市販されている。この混合物は、多くの組織において認められる複雑な細胞外環境に類似し、細胞培養の基質として細胞生物学者により使用される。
D.ROCK阻害剤およびミオシンII阻害剤
【0101】
多能性幹細胞、特にヒトES細胞およびiPS細胞は、クローン単離または拡張および分化誘導に重要な、細胞分離および解離時にアポトーシスの影響を受け易い。分化のための幹細胞クローンを得るために、ROCK阻害剤またはミオシンII阻害剤を使用して、クローン化効率を増加させ得る。
【0102】
最近では、解離した多能性幹細胞のクローン化効率および生存を増加させる分子の小群、例えば、ROCK関連シグナル伝達経路の阻害剤である、Rho関連キナーゼ(ROCK)阻害剤、例えば、Rho特異的阻害剤、ROCK特異的阻害剤、またはミオシンII特異的阻害剤が発見されている。本発明のある特定の態様において、ROCK阻害剤は、多能性幹細胞の培養および継代、および/または幹細胞の分化のために使用され得る。したがって、ROCK阻害剤は、多能性幹細胞が増殖、解離、凝集体形成、または分化、例えば、付着性培養または懸濁培養を経る任意の細胞培養培地内で存在し得る。
【0103】
ROCKシグナル伝達経路は、RhoファミリーGTPase、ROCK(Rhoの下流にある主なエフェクタキナーゼ)、ミオシンII(ROCKの下流にある主要エフェクタ)(Harb et al.,2008)、および任意の中間、上流、または下流シグナルプロセッサを含み得る。ROCKは、ミオシンホスファターゼ標的サブユニット1(MYPT1)をリン酸化および不活性化し得、ROCKの主な下流標的の1つは、ミオシン調節軽鎖(MRLC)の脱リン酸化を通じて、ミオシン機能を負に調節する。
【0104】
Rho特異的阻害剤、例えば、ボツリヌス菌C3外酵素、および/またはミオシンII特異的阻害剤は、本発明のある特定の態様においてROCK阻害剤として使用されてもよい。本明細書において別段の定めがない限り、ミオシンII阻害剤、例えば、ブレビスタチンは、ROCK阻害剤の実験的使用の代用となり得る。
【0105】
ミオシンIIは、筋肉の収縮におけるその役割について最初に研究されたが、非筋肉細胞内でも機能する。ミオシンII(従来のミオシンとしても知られる)は、2つの重鎖を含有し、それぞれ約2000アミノ酸長であり、頭部および尾部ドメインを構成する。これらの重鎖のそれぞれは、N末端頭部ドメインを含有するが、C末端尾部は、巻かれたコイル形態を取り、2つの重鎖を一緒に保持する(例えば、カドゥケウスにおいて、互いに巻き付いている2匹の蛇を想像されたい)。したがって、ミオシンIIは、2つの頭部を有する。4つの軽鎖(1頭部当たり2つ)も含み、頭部と尾部の間の「頸部」領域において重鎖を結合する。これらの軽鎖は、必須軽鎖および調節軽鎖と呼ばれる場合が多い。例示のミオシンII特異的阻害剤は、ブレビスタチンまたはその類似体であり得る。
【0106】
ROCKは、Rhoの標的タンパク質として機能する、セリン/トレオニンキナーゼである(その3つのアイソフォームが存在する−RhoA、RhoB、およびRhoC)。これらのキナーゼは、RhoA誘導性ストレス線維および接着斑の形成の媒体として最初に特性化された。2つのROCKアイソフォーム、ROCK1(p160ROCK、ROKβとも呼ばれる)、およびROCK2(ROKα)は、N末端キナーゼドメインに続いて、Rho結合ドメインを含有する巻かれたコイルドメイン、およびプレクストリン相同ドメイン(PH)からなる。両ROCKは、細胞骨格調節因子であり、ストレス線維形成、平滑筋収縮、細胞付着、膜の波打ち、および細胞運動性に対するRhoA効果を媒介する。ROCKは、ミオシンII、ミオシン軽鎖(MLC)、MLCホスファターゼ(MLCP)、ならびにホスファターゼおよびテンシン相同体(PTEN)等の下流分子を標的とすることにより、それらの生物学的活性を誘起し得る。
【0107】
例示のROCK特異的阻害剤は、Y−27632であり、ROCK1を選択的に標的とする(だけでなくROCK2を阻害する)とともに、TNF−αおよびIL−1βを阻害する。他のROCK阻害剤としては、例えば、H−1152、Y−30141、Wf−536、HA−1077、ヒドロキシル−HA−1077、GSK269962A、およびSB−772077−Bが挙げられる。Doe et al.(2007)、Ishizaki et al.,(上記)、Nakajima et al.(2003)、およびSasaki et al.(2002)は、それぞれその全体が記載されるかのように、参照により本明細書に援用される。
【0108】
ROCK阻害剤の他の非限定的な例としては、ROCKのアンチセンス核酸、RNA干渉誘導核酸(例えば、siRNA)、競合ペプチド、拮抗薬ペプチド、阻害性抗体、抗体−ScFVフラグメント、優位陰性変異株およびそれらの発現ベクターが挙げられる。さらに、他の低分子化合物がROCK阻害剤として知られているため、かかる化合物またはその誘導体を実施形態において使用することもできる(例えば、参照により本明細書に援用される、米国特許公開第20050209261号、同第20050192304号、同第20040014755号、同第20040002508号、同第20040002507号、同第20030125344号、および同第20030087919号、ならびに国際特許公開第2003/062227号、同第2003/059913号、同第2003/062225号、同第2002/076976号、および同第2004/039796号を参照)。本発明のある特定の態様において、ROCK阻害剤の1つまたは2つ以上の組合せを使用することもできる。
【0109】
いくつかの実施形態により、幹細胞は、培地内のROCK阻害剤またはミオシンII阻害剤で処理され得る。それにより、本発明の方法において使用される培地は、既にROCK阻害剤またはミオシンII阻害剤を含有し得、あるいは代替として、本発明の方法は、ROCK阻害剤またはミオシンII阻害剤を培地に添加するステップを伴い得る。培地内のROCK阻害剤またはミオシンII阻害剤の濃度は、それが幹細胞の向上した生存率等の所望の効果を達成し得る限り、特に限定されない。ROCK阻害剤またはミオシンII阻害剤、例えば、Y−27632、HA−100、HA−1077、H−1152、またはブレビスタチンは、少なくとも、または約0.02、0.05、0.1、0.2、0.5、1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、100、150、200、500〜約1000μM、またはその中で導き出せる任意の範囲の有効濃度で使用され得る。これらの量は、ROCK阻害剤またはミオシンII阻害剤の個別の量、あるいは1つ以上のROCK阻害剤またはミオシンII阻害剤と併せた量を指し得る。
【0110】
ROCK阻害剤またはミオシンII阻害剤で処理するための時間は、それが幹細胞の向上した生存率等の所望の効果が達成され得る期間である限り、特に限定されない。例えば、幹細胞は、解離前の少なくとも、または約10、15、20、25、30分〜数時間(例えば、少なくとも、または約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、8時間、12時間、16時間、24時間、36時間、48時間、またはその中で導き出せる任意の範囲)の間、ROCK阻害剤またはミオシンII阻害剤の存在下で維持される。解離後、多能性幹細胞は、ROCK阻害剤またはミオシンII阻害剤で、例えば、少なくとも、または約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、16、24、48時間、またはそれ以上の間処理され、所望の効果を達成する。
【0111】
他の実施形態において、幹細胞は、少なくとも1〜5継代の間、ROCK阻害剤またはミオシンII阻害剤の存在下で維持される。随意に、ROCK阻害剤またはミオシンII阻害剤は、後次に、例えば、約4、8、12時間後、または約2、約4、または約6日後、あるいはその中で導き出せる任意の範囲後に培養培地から回収される。他の実施形態において、ROCK阻害剤またはミオシンII阻害剤は、少なくとも1、2、3、4、5継代またはそれ以上、あるいはその中で導き出せる任意の範囲後に回収される。
【0112】
ROCK阻害剤またはミオシンII阻害剤で処理される幹細胞(複数可)の密度は、それが幹細胞の向上した生存率等の所望の効果が達成され得る密度である限り、特に限定されない。例えば、約1.0×10
1〜1.0×10
7細胞/mL、より具体的には約1.0×10
2〜1.0×10
7細胞/mL、さらにより具体的には約1.0×10
3〜1.0×10
7細胞/mL、および最も具体的には約3.0×10
4〜2.0×10
6細胞/mLである。
【0113】
ある特定の実施形態において、幹細胞は、低密度での生存(単一細胞または小凝集体に解離される)、クローン化効率、または継代効率を向上させるように、ROCK阻害剤またはミオシンII阻害剤の存在下で培養される。本発明のある特定の実施形態において、幹細胞は、支持細胞、支持細胞抽出物、および/または血清の不在下で培養される。幹細胞は、サブクローン化または継代前、例えば、サブクローン化または継代前の少なくとも1時間、ROCK阻害剤またはミオシンII阻害剤の存在下で培養され得る。代替または付加として、幹細胞は、サブクローン化または継代の間または後にROCK阻害剤またはミオシンII阻害剤の存在下で維持される。
【0114】
ROCK阻害剤またはミオシンII阻害剤で処理される幹細胞は、細胞を予備刺激して神経誘導を向上させた後の解離細胞または非解離細胞であり得る。解離細胞は、細胞解離を促進するように処理された細胞を指す(例えば、後述の解離)。解離細胞は、いくつかの(典型的に約2〜50、2〜20、または2〜10)細胞の小さな細胞塊(凝集体)を形成した単一および複数の細胞を含む。解離細胞は、懸濁(浮遊)細胞または付着性細胞であり得る。例えば、ヒトES細胞等のES細胞は、解離(および/または解離後の懸濁培養)等の特定条件の影響を受け易いことがわかった。
【0115】
本発明のある特定の態様は、幹細胞を解離するステップをさらに伴い得る。幹細胞の解離は、任意の既知の手順を使用して行われ得る。これらの手順は、キレート化剤(例えば、EDTA)、酵素(例えば、トリプシン、コラゲナーゼ)等による処理、および機械的解離等の操作(例えば、ピペット操作)を含む。幹細胞(複数可)は、解離前および/または後にROCK阻害剤またはミオシンII阻害剤で処理され得る。例えば、幹細胞(複数可)は、解離後にのみ処理されてもよい。
E.単一細胞の継代
【0116】
多能性幹細胞培養のいくつかの実施形態において、培養容器が充填されると、解離に適した任意の方法により、コロニーは凝集された細胞またはさらに単一細胞に分割され、次いで細胞は、継代するための新しい培養容器に入れられる。細胞継代または分割は、長期間にわたって培養された条件下で、細胞が生存および増殖することを可能にする技法である。細胞は、典型的に、約70%〜100%コンフルエントであるときに継代される。
【0117】
多能性幹細胞の単一細胞解離に続く単一細胞の継代は、細胞拡大、細胞分類、および分化の定義された播種を促進する、および培養手順およびクローン拡張の自動化を可能にする等のいくつかの利点を有する本方法において使用され得る。例えば、単一細胞にクローン的に由来する子孫細胞は、遺伝的構造において同種であり、および/または細胞周期において同期され得、標的とされた分化を増加させ得る。単一細胞継代の例示的な方法は、参照により本明細書に援用される、米国特許出願第2008/0171385号に記載のとおりであり得る。
【0118】
ある特定の実施形態において、多能性幹細胞は、単一の個別細胞、または単一の個別細胞の組合せ、および2、3、4、5、6、7、8、9、10個またはそれ以上の細胞を含む、小細胞群に解離され得る。解離は、機械的力、または細胞解離剤、例えば、NaCitrate、あるいは酵素、例えば、トリプシン、トリプシン−EDTA、TrypLE Select等により達成され得る。
【0119】
多能性幹細胞の源および拡大の必要性に基づいて、解離細胞は、個別に、または小さな群で新しい培養容器に、例えば、少なくとも、または約1:2、1:4、1:5、1:6、1:8、1:10、1:20、1:40、1:50、1:100、1:150、1:200、あるいはその中で導き出せる任意の範囲の分割比で移され得る。懸濁細胞株の分割比は、培養細胞懸濁液の体積に対して行われ得る。継代間隔は、少なくとも、または約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20日ごと、またはその中で導き出せる任意の範囲であり得る。例えば、異なる酵素継代プロトコルに達成可能な分割比は、3〜7日ごとに1:2、4〜7日ごとに1:3、および約7日ごとに1:5〜1:10、7日ごとに1:50〜1:100であり得る。高い分割率が使用される場合、継代間隔は、少なくとも12〜14日、過剰な自発分化または細胞死に起因して、細胞喪失なしに任意の期間まで延長され得る。
【0120】
ある特定の態様において、単一細胞継代は、クローン化効率および細胞の生存を増加させるために有効な小分子、例えば、上述のROCK阻害剤またはミオシンII阻害剤の存在下であり得る。かかるROCK阻害剤またはミオシンII阻害剤、例えば、Y−27632、HA−1077、H−1152、またはブレビスタチンは、有効な濃度、例えば、少なくとも、または約0.02、0.05、0.1、0.2、0.5、1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50〜約100μM、あるいはその中で導き出せる任意の範囲で使用され得る。
F.幹細胞の分化
【0121】
多能性幹細胞の神経分化効率を向上するための方法が提供され得る。多能性幹細胞の分化は、例えば、付着コロニー内で、または細胞凝集体の形成により、例えば、低付着環境内で、多様な方法で誘導され得、それらの凝集体は、胚葉体(EB)と称される。分子および細胞形態シグナル、ならびにEB内の事象は、胚の発達においてかかる細胞の自然な個体発生の多くの態様を模倣する。
【0122】
胚葉体(EB)は、ES細胞またはiPS細胞等の多能性幹細胞に由来する細胞の凝集体であり、マウス胚幹細胞を用いて長年研究されている。インビボ分化に固有のキューのいくつかを反復するために、本発明のある特定の態様は、三次元凝集体(すなわち、胚葉体)を中間ステップとして用い得る。細胞凝集体の開始時に、分化が開始され得、細胞は、限られた範囲内で胚の進化を反復し始める場合がある。それらは栄養外胚葉組織(胎盤を含む)を形成することはできないが、有機体に存在する事実上すべての他の種類の細胞が進化し得る。本発明は、神経分化に続く凝集体形成をさらに促進し得る。
【0123】
細胞凝集は、懸滴すること、非組織培養処理したプレートまたはスピナーフラスコ上に播種することにより課され得、いずれかの方法は、細胞が表面に付着して、典型的なコロニー増殖を形成することを防ぐ。上述のとおり、ROCK阻害剤またはミオシンII阻害剤は、多能性幹細胞を培養するための凝集体の形成前、形成中、または形成後に使用され得る。
【0124】
多能性幹細胞は、細胞培養の技術分野において知られている任意の方法を使用して、凝集促進培地に播種され得る。例えば、多能性幹細胞は、単一のコロニーまたはクローン群として凝集促進培地に播種され得、多能性幹細胞は、本質的に個別の細胞として播種され得る。いくつかの実施形態において、多能性幹細胞は、当該技術分野において知られている機械的または酵素的方法を使用して、本質的に個別の細胞に解離される。非限定的な例として、多能性幹細胞は、細胞と培養表面との間、ならびに細胞間の接続を妨害する、タンパク質分解酵素に曝露され得る。凝集体形成および分化のための多能性幹細胞を個別化するために使用され得る酵素としては、その様々な商用剤形のトリプシン、例えば、TrypLE、またはAccutase(登録商標)等の酵素の混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0125】
ある特定の実施形態において、多能性細胞は、培養表面上の培養形成のために、本質的に個別の(または分散された)細胞として、培養培地に添加または播種され得る。細胞が播種される培養培地は、TGFβおよびbFGF等の増殖因子を好ましくは本質的に含まない培地を含み得る。
【0126】
例えば、分散された多能性細胞は、約10
4細胞/mL〜約10
10細胞/mLの密度で培養培地に播種される。より具体的に、多能性細胞は、約10
5細胞/mL〜約10
7細胞/mL、または約0.5×10
6細胞/mL〜約3×10
6細胞/mLの密度で播種される。これらの実施形態において、培養表面は、当該技術分野において標準的な無菌細胞培養法と適合する任意の材料、例えば、非付着性表面から本質的になり得る。培養表面は、本明細書に記載されるマトリックス成分を付加的に含み得る。ある特定の実施形態において、マトリックス成分は、表面を細胞および培地と接触させる前に、培養表面に適用され得る。
【0127】
ある特定の実施形態において、付着性培養された多能性幹細胞は、TGFβおよびbFGFを本質的に含まない予備刺激培地に徐々に移行され得る。次いで予備刺激された細胞は、懸濁培養液中で凝集体に関連付けるように誘導され、神経系統にさらに分化され得る。
【0128】
この方法は、インビトロでの星状細胞への細胞の分化をさらに含み得る。ある特定の態様において、新規の予備刺激ステップは、他の神経分化手順より迅速かつ高い純度で神経分化を強化し得る。さらに、予備刺激された幹細胞からの星状細胞形成は、他の星状細胞生成手順と比較してはるかに速く、高い純度の星状細胞を産出する。多能性幹細胞由来の神経系統細胞からの星状細胞の分化は、増殖に至る一連の生物学的事象のカスケードを活性化する当該技術分野において知られる任意の方法により誘導され得、これにはイノシトール三リン酸塩および細胞内Ca
2+の解放、ジアシルグリセロールの解放、ならびにタンパク質キナーゼCおよび他の細胞キナーゼの活性化等が挙げられる。ホルボールエステル、分化誘導増殖因子、および他の化学シグナルによる処理は、分化を誘導し得る。分化は、ポリ−L−リシンおよびポリ−L−オルニチン等のイオン負荷した表面で被覆されたフラスコ、プレート、またはカバースリップ等の播種された基質上に細胞を置くことにより誘導することもできる。
【0129】
コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、マトリゲル等の他の基質を使用して、分化を誘導し得る。分化は、増殖を再開することなく(すなわち、神経球を解離することなく)、増殖誘導増殖因子の存在下で、細胞を懸濁液中に残すことにより誘導することもできる。
【0130】
1つの例示的な方法は、培養培地内の播種基質上で細胞を培養することを含む。次いで増殖誘導増殖因子は、細胞に投与され得る。増殖誘導増殖因子は、細胞を基質(例えば、ポリオルニチン処理されたプラスチックまたはグラス)に付着させ、平坦にし、異なる細胞型への分化を開始させることができる。
【0131】
培養培地は、星状細胞の形成を増強するために、ウシ胎仔血清(FBS)等の血清を0.5、1.0、2.0、5.0、10.0、15.0%(またはその中で導き出せる任意の範囲で)含有し得るが、ある特定の用途の場合、定義された条件が必要であれば、血清は使用されない。凝集体からのさらなる分化の開始後約20、30、40、50、60日以内に、細胞子孫の大部分またはすべては、当該技術分野においてよく知られている免疫細胞化学技法により決定される、星状細胞に特異的な抗原を発現し始める場合がある。
IV.シグナル伝達阻害剤
【0132】
本発明のある特定の態様において、TGFβシグナル伝達阻害剤は、神経細胞への幹細胞の分化に使用されてもされなくてもよい。TGFβスーパーファミリーシグナル伝達阻害剤としては、骨形成タンパク質のシグナル伝達経路の1つ以上の調節因子、アクチビンA/ノーダル/TGFβ/GDF、血管内皮増殖因子(VEGF)、dickkopf相同体1(DKK1)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、インスリン増殖因子(IGF)、および/または上皮増殖因子(EGF)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0133】
特定の態様において、分化の間にTGFβスーパーファミリーシグナル伝達阻害剤を添加する必要性は、予備刺激培養条件、特に外部から添加されたTGFβスーパーファミリーシグナル伝達調節因子およびbFGFを本質的に含まない条件において、多能性幹細胞を培養することにより排除され得る。
【0134】
特定の態様において、ある特定の多能性幹細胞株およびクローンは、高純度および効率で発生するために、TGFβスーパーファミリーシグナル伝達阻害剤が、神経分化のための予備刺激、凝集体形成、および/またはさらなる分化の間に存在する必要があり得る。さらに、この要件は、過程の予備刺激、凝集体形成、および/またはさらなる分化部分の1つ以上の時点で、FGF8が培地内に含まれる場合に除去され得る。
【0135】
幹細胞は、後生動物体の多数の胚および成体細胞型を生成する際に、自己再生能力および多能性を呈する(Rossi et al.,2008により検討される)。増殖因子、例えば、アクチビン/ノーダル/TGFβ/GDF、およびbFGFは、幹細胞自己再生および分化を調節する。
【0136】
形質転換増殖因子β(TGFβ)スーパーファミリーシグナル伝達経路は、細胞増殖、細胞分化、アポトーシス、細胞ホメオスタシス、および他の細胞機能を含む、成体有機体および進化している胚の両方における多くの細胞過程に関与する。TGFβスーパーファミリーシグナル伝達経路が調節する広範な細胞過程に関わらず、この過程は、比較的単純である。TGFβスーパーファミリーリガンドは、I型受容体を採用およびリン酸化するII型受容体に結合する。次いでI型受容体は、受容体調節されたSMAD(R−SMAD)をリン酸化し、ここでcoSMAD SMAD4を結合することができる。R−SMAD/coSMAD複合体は、それらが転写因子として作用し、標的遺伝子発現の調節に関与する核内に蓄積する。
【0137】
bFGF、FGF2、またはFGF−βとしても知られる塩基性線維芽細胞増殖因子は、線維芽細胞増殖因子ファミリーのメンバーである。培養物内でマウスおよびヒト胚幹細胞(ESC)自己再生を支持する、最も広く使用される増殖因子であるFGF2は、BMP様活動を抑制する一方で、TGFβ/アクチビン/ノーダル/GDFリガンド、および受容体を誘導する(Greber et al.,2007、Ogawa et al.,2007)。さらに、アクチビン/GDF/TGFβ/ノーダルI型受容体ファミリーの製薬学的阻害剤は、ヒトおよびマウスESC自己再生を抑制する(Ogawa et al.,2007)。一般に、TGFβアクチビン/ノーダル/GDFは、多能性前駆体細胞の分化を阻害するが、BMPは、それらの分化を誘導する(Watabe and Miyazono,2009)。
【0138】
ESCの自己再生を促進するために、TGFβ/ノーダル/アクチビン/GDFシグナル伝達は、SMAD2およびSMAD3を活性化し、重要な幹細胞転写因子の1つである、Nanogを直接誘導する(Xu,R.H.et al.,2008)。TGFβスーパーファミリーおよびFGFシグナル伝達は、Smad複合体のNanogプロモータへの結合を強化することにより相乗作用を与える。驚くべきことに、NANOGは、ESC内のTGFβ(自己再生因子)とBMP(分化因子)との間の拮抗薬に分子結合を提供する。Nanogは、SMAD1に結合し、その転写活性を阻害して、初期中胚葉分化または進化後期の組織特異的分化を促進するBMPシグナル伝達能を制限する(Suzuki et al.,2006)。この例は、これらの経路の転写およびシグナル伝達因子のゲノム全体の解析結果として、ESC自己再生および分化の付加調節因子に拡張される可能性がある(Chen et al.,2008)。
【0139】
リガンドのTGFβスーパーファミリーは、骨形成タンパク質(BMP)、増殖および分化因子(GDF)、抗ミュラー管ホルモン(AMH)、アクチビン、ノーダル、およびTGFβを含む。シグナル伝達は、TGFβスーパーファミリーリガンドのTGFβII型受容体への結合から始まる。II型受容体は、セリン/トレオニン受容体キナーゼであり、I型受容体のリン酸化を触媒する。各リガンド群は、特定のII型受容体に結合する。哺乳類において、7つの既知のI型受容体および5つのII型受容体がある。
【0140】
3つのアクチビン:アクチビンA、アクチビンB、およびアクチビンABがある。アクチビンは、胚発生および骨形成に関与する。これらは、下垂体、生殖腺、および視床下部ホルモン、ならびにインスリンを含む多くのホルモンも調節する。それらは、神経細胞生存因子でもある。
【0141】
BMPは、骨形成タンパク質受容体2型(BMPR2)に結合する。それらは、骨形成、細胞分化、前方/後方軸特定化、増殖、およびホメオスタシスを含む多くの細胞機能に関与する。
【0142】
TGFβファミリーは、TGFβ1、TGFβ2、TGFβ3を含む。BMPと同様に、TGFβは、胚発生および細胞分化に関与するが、それらはアポトーシスならびに他の機能にも関与する。それらはTGFβ受容体2型(TGFBR2)に結合する。
【0143】
ノーダルは、アクチビンA受容体、IIB型ACVR2Bに結合する。次いで、アクチビンA受容体IB型(ACVR1B)またはアクチビンA受容体IC型(ACVR1C)のいずれかを有する受容体複合体を形成することができる。
【0144】
TGFβスーパーファミリーシグナル伝達経路(表1)は、広範な細胞過程に関与し、後次に極めて重度に調節される。経路が正負両方で調節される多様な機序があり、リガンドおよびR−SMADの作用薬があり、デコイ受容体があり、またR−SMADおよび受容体はユビキチン化される。
【表1】
【0145】
本明細書で使用するとき、「TGF−βスーパーファミリーのメンバー」または同様の用語は、TGF−βスーパーファミリーの既知のメンバーとの相同性、またはTGF−βスーパーファミリーの既知のメンバーとの機能の類似性に起因して、TGF−βスーパーファミリーに属するとして、当業者により一般に特性化される増殖因子を指す。本発明の特定の実施形態において、TGF−βスーパーファミリーのメンバーが存在する場合、TGF−βスーパーファミリーの変異型またはその機能フラグメントは、アクチビン/ノーダル/TGFβ/GDFブランチに対してSMAD2または3を活性化し、BMPブランチに対してSMAD1、5、または8を活性化する。ある特定の実施形態において、TGF−βスーパーファミリーのメンバーは、ノーダル、アクチビンA、アクチビンB、TGF−β、骨形成タンパク質−2(BMP2)、および骨形成タンパク質−4(BMP4)からなる群から選択される。一実施形態において、TGF−βスーパーファミリーのメンバーは、アクチビンAである。
【0146】
ある特定の実施形態において、組成物および方法は、アクチビン/ノーダル/TGFβ/GDFシグナル伝達の阻害剤もしくは不活性化剤の存在または不在下での条件を含む。本明細書で使用するとき、「アクチビン/ノーダル/TGFβ/GDFシグナル伝達の阻害剤または不活性化剤」は、1つ以上のアクチビン/ノーダル/TGFβ/GDFタンパク質、またはその可能なシグナル伝達経路のいずれかを通じてそれらの上流または下流シグナル伝達成分のいずれかの活性を無効にする薬剤を指す。非限定的な例としては、SB−431542が挙げられる。
【0147】
ある特定の実施形態において、組成物および方法は、BMPシグナル伝達の阻害剤または不活性化剤の存在または不在下での条件を含む。本明細書で使用するとき、「BMPシグナル伝達の阻害剤または不活性化剤」は、1つ以上のBMPタンパク質、またはその可能なシグナル伝達経路のいずれかを通じてそれらの上流または下流シグナル伝達成分のいずれかの活性を無効にする薬剤を指す。BMPシグナル伝達を不活性化するために使用される化合物(複数可)は、当該技術分野において既知であるか、または今後発見される任意の化合物であり得る。BMPシグナル伝達の阻害剤の非限定的な例としては、ドルソモルフィン、優位陰性切断BMP受容体、可溶性BMP受容体、BMP受容体−Fcキメラ、ノギン、ホリスタチン、コルジン、グレムリン、ケルベロス/DANファミリータンパク質、ベントロピン、高用量アクチビン、および無羊膜が挙げられる。
V.非静的培養
【0148】
ある特定の態様において、非静的培養は、多能性幹細胞の培養および分化に使用され得る。懸濁培養液を使用して、大規模なEBおよび後次に分化細胞を生成することができるが、静的培養は、形成されるEBの大きさおよび形状をほとんど制御せず、これはそこから分化される細胞の収率および品質に直接影響を及ぼす。非静的培養は、プラットホームまたは培養容器、特に大容量回転バイオリアクターを使用する、例えば、振とう、回転、または攪拌することにより、制御された移動速度で保持される細胞を有する任意の培養であり得る。攪拌は、栄養素および細胞廃棄物の循環を向上させ得、より均一な環境を提供することにより、細胞攪拌を制御するように使用され得る。例えば、回転速度は、少なくとも、または最大約25、30、35、40、45、50、75、100rpm、またはその中で導き出せる任意の範囲に設定され得る。多能性幹細胞、細胞凝集体、分化した幹細胞、またはそこから派生する子孫細胞の非静的培養における培養期間は、少なくとも、または約4時間、8時間、16時間、または1、2、3、4、5、6日、または1、2、3、4、5、6、7週間、あるいはその中で導き出せる任意の範囲であり得る。
VI.ニューロン系統の特性化
【0149】
神経細胞を同定し、神経系統に対する分化効率を決定し、神経細胞を選択または単離するか、または神経細胞を富化するために、神経系統の特徴が評価され得る(Schwartz et al.,2008)。
【0150】
特定の実施形態において、培養された細胞を含む前駆体神経系統細胞は、ネスチン、Sox1、Pax6、FORSE−1、N−CAD、CD133、FOXG1、および3CB2の検出可能なマーカーの1つ以上を発現することにより特性化され得る。かかる細胞の培養は、本明細書に記載の方法により、または今後開発される他の方法により生成され得る。特定の実施形態において、培養された細胞を含む成熟神経細胞は、Dcx、MAP−2、シナプシン1、TuJ1、NSE、Map2a、Gap43、NF、CD24、CDH2/CD325、シナプトフィシン、およびCD56/NCAMの検出可能なマーカーの1つ以上を発現することにより特性化され得る。かかる細胞の培養は、本明細書に記載の方法により、または今後開発される他の方法により生成され得る。
【0151】
神経細胞は、いくつかの表現型基準により特性化することができる。この基準は、形態的特徴の顕微鏡観察、発現した細胞マーカー、酵素活性、神経伝達物質、およびそれらの受容体の検出または定量、ならびに電気物理的機能を含むが、これらに限定されない。
【0152】
本発明において実現されるある特定の細胞は、ニューロン細胞に特徴的な形態的特徴を有する。これらの特徴は、当業者により認識される。例えば、ニューロンは、小細胞体、ならびに軸索および樹状細胞を連想させる複数の突起を含む。
【0153】
神経細胞は、それらがドーパミン作動性ニューロン(マーカーはTH、AaDC、Dat、Otx−2、およびVMAT2を含む)、コリン作動性ニューロン(マーカーは、NGF、ChATを含む)、GABA作動性ニューロン(マーカーは、GAD67およびvGATを含む)、グルタミン作動性ニューロン(マーカーはvGLUT1を含む)、セロトン作動性ニューロン、モーターニューロン(マーカーはHB9、SMN、ChAT、NKX6を含む)、感覚ニューロン(マーカーはPOU4F1およびペリフェリンを含む)、星状細胞(マーカーはGFAPおよびTapa1を含む)、およびオリゴデンドロサイト(マーカーはO1、O4、CNPase、およびMBPを含む)を含むが、これらに限定されない特定種の神経細胞を特徴とする表現型マーカーを発現するかどうかによっても特性化され得る。
【0154】
また特定の神経亜型、特に末端分化した細胞、例えば、ドーパミン作動性、GABA作動性、グルタミン作動性、セロトン作動性、およびコリン作動性ニューロンに特徴的であるのは、神経伝達物質の生合成、放出、および取り込みに関与する受容体および酵素、ならびにシナプス伝達に関連する脱分極および再分極に関与するイオンチャネルである。シナプス形成の証拠は、シナプトフィシンの染色により得られ得る。ある特定の神経伝達物質に対する受容性の証拠は、γアミノブチル酸(GABA)、グルタミン酸塩、ドーパミン、3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)、ノルアドレナリン、アセチルコリン、およびセロトニンの受容体を検出することにより得られ得る。
【0155】
特定の態様において、星状細胞を提供するための方法が提供され得る。星状細胞は、中枢神経系内のグリア細胞の亜型である。それらは星状グリア細胞としても知られる。星形をしたそれらの多くの突起は、ニューロンにより形成されたシナプスを被覆する。星状細胞は、組織学的分析を使用して従来同定され、これらの細胞の多くは、中間フィラメントグリア細胞線維性酸性タンパク質(GFAP)を発現する。星状細胞の3つの形態は、CNS、線維、原形質、および橈骨神経に存在する。線維性グリアは、通常、白質内に位置し、オルガネラが比較的少なく、長い未分枝細胞突起を呈する。この種は、多くの場合、細胞が近位にあるときに、細胞を毛細壁の外側に物理的に接続する「血管フィート」を有する。原形質グリアは、灰質組織において認められ、大量のオルガネラを有し、短く高度に分枝した三次突起を呈する。橈骨神経グリアは、心室の軸に垂直な平面に配置される。それらの突起の1つは軟膜を中心とするが、灰質に深く埋め込まれるものもある。橈骨神経グリアは、進化の間に大部分が存在し、ニューロンの遷移において役割を果たす。網膜のミュラー細胞および小脳皮質のBergmannグリア細胞は、成体期の間も存在するという例外を示す。軟膜の近位にあるときに、星状細胞の3つの形態はすべて、突起を出して軟膜−グリア膜を形成する。
VII.細胞の遺伝子変化
【0156】
本発明の細胞は、分化前、分化中、または分化後のいずれかに、細胞の遺伝子操作により1つ以上の遺伝子変化を含有するように形成され得る(米国特許公開第2002/0168766号)。ポリヌクレオチドが人工的操作の任意の適切な手段により細胞に移されるとき、または細胞がポリヌクレオチドを継承したもともと改変されている細胞の子孫である場合、「遺伝子的に改変される」または「遺伝子組み換えされる」と言われる。例えば、細胞は、それらが制限された発生系統の細胞または末端分化した細胞に進化する前または後のいずれかに、テロメラーゼ逆転写酵素を発現するように細胞を遺伝的に改変することにより、それらの複製能を増加させるように処理され得る(米国特許公開第2003/0022367号)。
【0157】
細胞の遺伝子操作には多様な機序が用いられ得る。例えば、統合がゲノム内の本質的にランダムな部位(複数可)で起こる場合において、ポリヌクレオチドは、レトロウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)、アデノ関連ウイルスベクター(機能的Rep遺伝子なし)内で、またはトランスポゾン系の一部として(例えば、ピギーバックベクター)導入され得る。他の態様において、ポリヌクレオチドは、選択されたゲノム部位に統合され、例えば、核酸は、AAVS1統合部位において統合され得る(例えば、機能的Rep遺伝子の存在下でアデノ関連ウイルスベクターを使用することにより)。同様に、ある特定の態様において、選択されたゲノム部位での統合は、相同的組み換えにより行われ得る。哺乳類細胞における標準HRの効率は、処理される細胞の10
−6〜10
−9のみである(Capecchi,1990)。メガヌクレアーゼ、またはホーミングエンドヌクレアーゼ、例えば、I−Scelの使用は、HRの効率を高めるために使用されている。天然メガヌクレアーゼならびに修飾された標的特異性を有する操作されたメガヌクレアーゼはいずれも、HR効率を高めるために利用されている(Pingoud and Silva,2007、Chevalier et al.,2002)。HRの効率を高めるための別の道は、プログラム可能なDNA特異性ドメインを有するキメラエンドヌクレアーゼを操作することである(Silva et al.,2011)。亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)は、かかるキメラ分子の一例であり、亜鉛フィンガーDNA結合ドメインは、FokI等のIIS型制限エンドヌクレアーゼの触媒ドメインと融合される(Durai et al,2005、国際出願PCT/US2004/030606において検討される)。かかる特異性分子の別の群は、FokI等のIIS型制限エンドヌクレアーゼの触媒ドメインに融合された転写活性化因子様エフェクタ(TALE)DNA結合ドメインを含む(Miller et al.,2011:国際出願PCT/IB2010/000154)。本明細書で使用するとき、選択されたゲノム部位での統合は、ゲノム内の2つの連続するヌクレオチド位の間、または連続しない2つのヌクレオチド位の間の核酸分子(またはその一部)の挿入を含み得る(例えば、介在するゲノム配列の置換をもたらす)。例えば、選択されたゲノム部位における核酸の統合は、遺伝子エクソン、イントロン、プロモータ、コード配列、または遺伝子全体の置換を含み得る。
【0158】
また本発明の細胞は、組織再生に関与する能力、または投与部位に治療的遺伝子を送達する能力を強化するために、遺伝子的に改変され得る。例えば、ベクターは、所望の遺伝子に対して既知のコード配列を使用して設計され、神経特異的なプロモータに操作可能に結合される。
【0159】
本発明のある特定の実施形態において、所望の核酸構成を含有する細胞は、発現ベクター内に、例えば、選択可能またはスクリーニング可能なマーカー等のマーカーを含むことにより、インビトロまたはインビボで同定され得る。かかるマーカーは、細胞への同定可能な変化を付与し、発現ベクターを含有する細胞の容易な同定を可能にするか、または組織特異的なプロモータを使用することにより、分化した神経細胞の富化または同定を助ける。例えば、TuJ−1、Map−2、Dcx、シナプシン、エノラーゼ2、グリア細胞線維性酸性タンパク質、またはチューブリンα−1A鎖を含むが、これらに限定されないニューロン特異的なプロモータが使用され得る。
【0160】
一般に、選択可能マーカーは、選択を可能にする特性を付与するものである。正の選択可能マーカーは、マーカーの存在がその選択を可能にするものであるが、負の選択可能マーカーは、その存在がその選択を防ぐものである。正の選択可能マーカーの例は、薬物耐性マーカーである。通常、薬物選択マーカーの包含は、形質転換細胞のクローニングおよび同定を支援し、例えば、ブラスチシジン、ネオマイシン、プロマイシン、ヒグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシン、およびヒスチジノールへの耐性を付与する遺伝子は、有用な選択可能マーカーである。
【0161】
条件の実施に基づいて形質転換細胞の区別を可能にする表現型を付与するマーカーに加えて、GFP等のスクリーニング可能なマーカーを含み、その基礎が比色分析である、他の種のマーカーも考慮される。代替として、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)等のスクリーニング可能な酵素が利用され得る。当業者は、恐らくFACS分析と併せて、免疫学的マーカーを用いる方法も把握している。このマーカーは、遺伝子生成物をコードする核酸と同時に発現することができる限り使用され得る。選択可能かつスクリーニング可能なマーカーのさらなる例は、当業者によく知られている。
VIII.神経細胞または神経細胞型の使用
【0162】
本発明の方法を使用して生成されたヒト神経細胞(星状細胞等の神経細胞型を含む)は、多様な用途を有する。特に、神経細胞は、核移植技術の核材料の源として使用することができ、移植のための器官の細胞、組織、または成分を生成するために使用することができる。本発明は、本発明の神経細胞がヒト細胞治療またはヒト遺伝子治療において使用されて、パーキンソン病、ハンチントン病、リソソーム蓄積病、多発性硬化症、記憶および行動障害、アルツハイマー病、てんかん、発作、黄斑変性、および他の網膜症を含むが、これらに限定されない神経疾患または障害を有する患者を治療し得ると考える。
【0163】
これらの細胞は、脊髄損傷、脳卒中、または他の神経外傷から生じる神経系傷害の治療において使用することもできるか、または手術、化学療法、薬物またはアルコール乱用、環境毒素および汚染により誘発される神経疾患および損傷を治療するために使用することができる。これらの細胞は、傷害、糖尿病、自己免疫障害、または循環系障害と関連付けられる末梢神経障害の治療においても有用である。これらの細胞を使用して、神経分泌系、ならびに交感神経系および副交感神経系を含む自律神経系の疾患または障害を治療し得る。
【0164】
好適な実施形態において、治療上有効な量の神経細胞または神経細胞内で富化された細胞培養物は、神経疾患のある患者に投与される。本明細書で使用するとき、「治療上有効な量」という用語は、神経疾患、障害、神経系傷害、損傷、または神経疾患の症状の1つを少なくとも軽減するために十分な細胞の数を指す。
【0165】
本発明の神経細胞は、神経分化もしくは生存に対する分子の効果を試験する際、毒性試験において、または神経もしくはニューロン機能に対するそれらの効果について分子を試験する際にも使用され得る。これは、神経またはニューロン分化、発達、生存、可塑性、または機能に影響する特定の特性を有する因子を同定するためのスクリーンを含み得る。本出願において、細胞培養物は、神経幹細胞、神経前駆体、または分化した神経もしくはニューロン細胞型と相互作用し、その生物学に影響する新しい薬物および化合物の発見、開発、および試験において優れた利用性を有し得る。神経細胞は、軸誘導、神経変性疾患、ニューロン可塑性、ならびに学習および記憶を含むが、これらに限定されない神経発達および機能不全の細胞および分子的根拠を同定するように設計された研究においても優れた利用性を有し得る。かかる基礎的神経生物学研究は、これらの過程の新規分子成分を同定し、既存の薬物および化合物に新規の用途を提供すると同時に、新しい薬物標的または薬物候補を同定し得る。
【0166】
神経細胞内で富化された神経細胞またはヒト細胞培養物は、脳移植に続いてインビボで分散および分化し得る。特に、脳室内移植に続いて、細胞は、脳室壁に沿って広く分散し、上衣下層に移動することができ得る。細胞はさらに、脳の未治療(例えば、注入により)側、視床、前頭皮質、尾状核被殻、および小隆起を含むが、これらに限定されない部位を含む、脳のより深い領域に移動することができる。さらに、神経細胞または神経細胞内で富化されたヒト細胞培養物は、神経組織に直接注入され得、続いて注入部位から細胞の分散を伴う。これは、中枢神経系または末梢神経系の任意の領域、核、神経叢、神経節、または構造を含み得る。
【実施例】
【0167】
IX.実施例
以下の実施例は、本発明の好適な実施形態を実証するために含まれる。当業者であれば、以下の実施例に開示される技法が、本発明の実践において良好に機能することが本発明者により発見された技法を表し、したがって、その実践の好適な様式を構成すると考慮され得る。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、開示される特定の実施形態において多くの変更を行うことができ、それでもなお同様または類似の結果を得ることができることを理解する。
(実施例1)
分化前のiPS細胞の予備刺激は優れた神経誘導をもたらす
【0168】
細胞凝集体または胚様体(EB)の懸濁培養による機能性ニューロンへの多能性細胞培養物の分化は、変動性の高い過程である。TGFβ阻害剤(例えば、SB−431542、ドルソモルフィンまたはノギン(これらもまたBMP阻害剤である))を使用する現在公開されている方法による神経分化の成功は、使用される細胞株ならびに多能性細胞培養方法および培地に依存し、継代間で変動し得る。
【0169】
ここで多能性細胞は、凝集体/EB形成前に増殖因子を含まない培地において「予備刺激」され、TGFβスーパーファミリーの小分子阻害剤(例えば、アクチビン/ノーダル/TGFβ/GDF分枝およびBMP分枝)を使用せずに、非常に効率的な分化をニューロン系統にもたらした(95%超の純度)。この予備刺激法は、TGFβシグナル伝達経路の2つの阻害剤を使用する、公開された文献に基づく方法を対照とする(BMPシグナル伝達阻害剤およびアクチビン/ノーダル/TGFβ/GDFシグナル伝達阻害剤:米国特許公開第20110229441号および国際出願PCT/US2010/024487)。
図1Aは、TeSR培地内で凝集体を形成する(80% 1X TeSR、20% TeSR1 5Xサプリメント)、99% 1X DMEM−F12、1% N2 50Xサプリメント培地に凝集体を移す、および凝集体を10μM SB−431542および1μMドルソモルフィンで処理する方法を使用して、分化された細胞の純度を示す。
図1Bは、90% 1X DMEM−F12、1% N2 50Xサプリメント培地内で、凝集体形成前の3日間、多能性細胞を予備刺激することにより生成された培養物の純度を示す(−3日目=40% 1X TeSR、10% TeSR1 5Xサプリメント、49.5% 1X DMEM−F12、0.5% N2 100Xサプリメント:−2日目および−1日目=99% 1X DMEM−F12、1% N2 100Xサプリメント)。SB431542およびドルソモルフィンは使用されなかった。純度は、β
IIIチューブリンを関与ニューロンマーカーとして使用し、ネスチンを神経前駆体マーカーとして使用するフローサイトメトリーにより決定された。
(実施例2)
DMEM−F12およびN2サプリメントを用いた予備刺激による神経誘導は、bFGFおよびTGFβの除去に起因する
【0170】
多能性細胞は、通常、多能性の維持のための主な増殖因子として、bFGFおよびTGFβを含有する、mTeSR培養培地内で維持される。TeSRは、基礎培地としてのDMEM−F12からなり、bFGFおよびTGFβに加えて、インスリン、ホロトランスフェリン、およびセレニウムも含有する。N2サプリメントは、インスリン、ホロ−トランスフェリン、セレニウム、プロゲステロン、およびプトレシンを含有する。N2サプリメント内の個別の成分の濃度は、供給者により変動し得る。1X N2サプリメントを含むDMEM−F12培地に多能性細胞を徐々に移行することは、長期間にわたってbFGFおよびTGFβ増殖因子の利用可能性を低減し、他の成分における変化はほとんどない。mTeSR内で著しいレベルで利用可能でない1X N2サプリメントを含むDMEM−F12培地内に存在する唯一の成分は、プロゲステロンおよびプトレシンである。N2サプリメント内に存在する特定成分が神経誘導の増加に関与するかどうかを調査するために、実施例1に詳述されるように、凝集体形成前に、様々な供給者からのN2または市販のITS(インスリン、トランスフェリン、およびセレニウム)溶液のいずれかを補充したDMEM−F12培地、ならびに追加のサプリメントを含まない単独DMEM−F12培地内でそれらを培養することにより、多能性細胞を3日間予備刺激した。結果は、2D形式で予備刺激されたすべての条件が、95%以上のニューロンを呈した培地をもたらしたことを示した(
図2A〜2D)。これらの結果は、予備刺激の作用の主な機序は、3D凝集体形成前のbFGFおよびTGFβ増殖因子濃度の段階的な低減であることを示す。
(実施例3)
ニューロン生成手順
【0171】
iPS細胞は、TeSR培地内のマトリゲル(Stem Cell Technologies)およびクエン酸ナトリウム上で維持され、凝集体形成前に1継代分裂し、T150フラスコ内で増殖されるが、他の培養形式の開始細胞に対して拡大縮小され得る。可変濃度のTGFβおよび/またはbFGFを含有する代替多能性細胞培養培地(例えば、E8培地、Chen et al.,2011)を使用して、異なるiPS細胞株またはクローンの神経分化を最適化することができる。次いで多能性細胞培養物を、凝集体形成前の3または4日間、分化のために「予備刺激」した。細胞の予備刺激は、1X N2サプリメントを含むDMEM−F12に細胞を段階的に移行することを伴い、これはTGFβおよびbFGFを含有しない。予備刺激プロトコルの例は、上記からのクエン酸ナトリウム分割細胞を、−4および−5日目の間(凝集体形成の開始について参照される)、80% 1X TeSR/20% TeSR1 5Xサプリメントおよび10μMブレビスタチン内で培養することと、消費した培地を−3日目に除去することと、細胞を1日神経移植培地(40% 1X TeSR、10% TeSR1 5Xサプリメント、49.5% 1X DMEM−F12、0.5% N2 100Xサプリメント)内で培養することと、消費した培地を−2日目に除去することと、細胞を−2および−1日目に神経誘導培地(99% 1X DMEM−F12、1% N2 100Xサプリメント)内で、−1日目に培地変化を伴って培養することと、を含む。予備刺激後の例示の神経誘導手順に関する詳細は、以下に提供される。
【0172】
ニューロン分化過程の0日目に(具体的には、凝集体形成)、T150フラスコから細胞を採取し(一度に最大5個のフラスコ)、培地が吸引された後、12mLの温かいTrypLEを各フラスコに添加し、細胞を37℃で7分間インキュベートする。一方で、各T150に1本の50mL円錐管を、12mL90%1X DMEM−F12/10% FBSを添加することにより調製する。7分間のインキュベーション後に、単一細胞溶液への静かな滴定により細胞を解離し、細胞溶液を調製した50mL管に移す。細胞を1200rpmで5分間遠心分離し、上澄みを吸引する。各ペレットは、少なくとも20mLの凝集体形成培地(99% 1X DMEM−F12、10μMブレビスタチンを含む1% N2 100Xサプリメント)内で再懸濁する。管は組み合わされてよく、細胞をカウントする(CEDEX HiRES細胞カウンター)。細胞は、凝集体形成培地(上記参照)を含むT25およびスピナーフラスコのいずれの場合も1mL当たり1.0×10
6細胞に希釈される。濃縮された細胞懸濁液は、適切な体積の凝集体形成培地とともに、スピナーフラスコに直接添加され得る。希釈された細胞ストックをカウントする(CEDEX HiRES細胞カウンター)。5mLの希釈された細胞ストックは、T25ULAフラスコに注ぎ、125mLまたは1Lの希釈された細胞ストックは、125mLまたは1Lのスピナーフラスコにそれぞれ注ぐ。希釈された細胞を含む各フラスコは、7% CO
2を含む37℃インキュベーター内のロッカーまたはスピナーベース上に置く。ロッカーは、T25の場合、約15RPMで回転する必要があり、スピナーフラスコは、70RPM(125mLスピナーの場合)または40RPM(1Lスピナーの場合)で動作する磁気攪拌プラットホーム上に置く必要がある。
【0173】
1日目に、T25フラスコ内の細胞は、細胞培養フード内の縁部で各フラスコを、角度をつけて動かすことにより供給され、懸濁した凝集体がフラスコまたはスピナーフラスコの底に10分間沈殿することを可能にする。消費された培地を吸引し、T25の場合、細胞に5mLの神経誘導培地(99% 1X DMEM−F12、1% N2 100Xサプリメント)、125mLスピナーフラスコの場合、約100mL、および1Lスピナーフラスコの場合約800mLが供給される。7% CO
2を含む37℃のインキュベーターにフラスコを戻す。2日目〜6日目の各日に、フラスコを処理し、培地を同一方法でリフレッシュする。7日目から、一日おきに新しい神経誘導培地を細胞に供給することを除いて、同一方法でフラスコを処理する。14日目は、凝集体解離および2D培養容器への個別化した細胞の播種に最適な日である。凝集体は、円錐管に移され、遠心分離機において1200RPMで30秒間回転することにより分注する。上澄みを吸引し、5mLの凝集体培養当たり1mLの温かいTrypLEを添加し、37℃の温浴中で5〜8分間インキュベートする。静かに分注することにより、細胞の第1の管の解離を評価する。凝集体が容易に分解する場合、TrypLEを当量の90%1X DMEM−F12/10% FBSで急冷する。凝集体が容易に分解しない場合は、より長くインキュベートし、次いで解離を再度評価した後に急冷する。P1000ピペットマンまたは血清学ピペットを使用して、凝集体を静かに解離する。細胞は、1200RPMで5分間、遠心分離機内でペレット操作される。細胞を2.3mL(またはスピナーフラスコに対して拡大縮小される)の神経播種培地(98% 1X DMEM−F12、2% B27 50Xサプリメント、10μMブレビスタチン)内で再懸濁する。懸濁液中の細胞をCEDEX上でカウントし、神経播種培地を用いて、濃度を1.0×10
6細胞/mLに調整する。CEDEX上で再度細胞をカウントする。マトリゲルで被覆された6ウェルプレートの各ウェルに(ウェル当たり約200万細胞で播種される)、2mLの細胞懸濁液を添加し、T150フラスコ(30mL)または二重CellStacks(260mL)に播種するために適切に拡大縮小され得る。解離した凝集体を播種した翌日、およびその2日後(例えば、15日目および17日目)、消費された培地を吸引し、2D培養容器に付着性の神経維持培地(98% DMEM−F1、2% B27 50Xサプリメント)が以下のように供給される。6ウェルプレートのウェル当たり2mL培地、T150当たり30mL、および二重CellSTACK当たり260mL。付着性の神経維持培地の4日後(2回の供給)、19日目に神経成熟培地#1(98% 1X DMEM−F12、2% B27 50Xサプリメント、2.5μM DAPT)を培養物に1回供給する。21日目に、適量の温かいTrypLEを使用して、約6分間、細胞を採取する。等量の90% 1X DMEM−F12/10% FBSを含有する円錐管に細胞を移す。次いで培養容器を当量の90% 1X DMEM−F12/10% FBSで洗浄し、追加の細胞を回復する。細胞は、1200RPMで5分間、ピペットで取り、上澄みを吸引する。神経播種培地#2(97% 1X Neurobasal、2% B27 50Xサプリメント、1% Glutamax−I 100Xサプリメント、10μMブレビスタチン)内で細胞を再懸濁し、ポリ−L−オルニチン/ラミニンで被覆された培養容器の上に約280k細胞/cm
2の密度で播種される。24時間後、培地を吸引し、当量の神経成熟培地#2と置き換えた(97% 1X Neurobasal、2% B27 50Xサプリメント、1% Glutamax−I 100Xサプリメント、2.5μM DAPT)。培地交換は、神経成熟培地#2を最初に供給した後、所望の神経成熟が達成されるまで48時間ごとに行われる(典型的に、28日目または30日目)。
【0174】
ニューロンは、ニューロン特異的プロモータ(例えば、DCX、TUJ−1、SY1、ENO2 NSE、GFAP、TUBA1A、またはMap−2)の調節下で、抗生物質抵抗性遺伝子(例えば、ブラスチジン、ネオマイシン、プロマイシン、またはヒグロマイシンに対する抵抗性を付与する遺伝子)またはスクリーニング可能なマーカー(例えば、蛍光タンパク質)を含有する多能性幹細胞クローンを利用することにより、分化手順の間に富化または選択され得る。分化手順の最後に(30日目〜45日目)、1)βIII−チューブリン/ネスチン、および/またはDCX/ネスチン二本鎖を用いるフローサイトメトリーにより純度、2)免疫細胞化学による神経亜型の相対組成物(例えば、ドーパミン作動性、GABA作動性、またはグルタミン作動性)、および3)電気物理学による所望の神経機能(例えば、単一細胞パッチ塊または多電極アレイ)について細胞を試験する。
(実施例4)
多能性幹細胞株およびクローン変動性
【0175】
多能性幹細胞の分化能は、幹細胞の内因性シグナル伝達状態の株間およびさらにはクローン間変動性に起因し得ることが観察された。実施例3のニューロン分化手順を利用して、異なる多能性幹細胞株およびクローンが、神経系統への分化を向上させるために、予備刺激培地、凝集体培地、および/またはさらなる分化培地内で1つ以上のTGFβスーパーファミリー阻害剤および/またはFGF8の添加を必要とすることが観察された。FGFシグナル伝達は、内因性神経誘導体として報告されるFGF8による神経誘導において重要な役割を果たすことが報告された(Stemeckert et al.,2010)。上記実施例3に詳述される手順を利用して、iPSC株1729c4は、10μM SB−431542および/または1μMドルソモルフィンおよび/または10ng/mL FGF8も含有する、細胞培養培地内で、−3、−2、−1、0、1、2、3、および4日目の間(0日目は凝集体形成の開始日)培養した(
図3A)。27日目に、βIII−チューブリン/ネスチン二本鎖を用いるフローサイトメトリーにより、細胞の純度を試験した(
図3B)。一般に、この特定のiPSC株について、阻害剤を含有する条件は、予備刺激、凝集体形成、および/またはさらなる分化の間のある日数の間、阻害剤を含有しない条件(阻害剤またはFGF8が添加されない対照実施例3)より高い神経系統純度をもたらした。例えば、SB−431542およびドルソモルフィンが−2、−1、0、および1日目に存在する場合(
図3Bにおいて「阻害剤−2〜2日目」と示される)、細胞の92%はβIII−チューブリン/ネスチン陽性であった。しかしながら、FGF8は、高純度のニューロン培養を産出する阻害剤の代わりに使用され得る(すなわち、−3日目に存在するFGF8、細胞の90%はβIII−チューブリン/ネスチン陽性であった)。異なるiPSC株を利用する別個の実験において(2.042)、−2、−1、0、および1日目に、培地中の10μM SB−431542または1μMドルソモルフィンの1つのみを添加することは、両方の阻害剤が使用された場合と比較して、βIII−チューブリン/ネスチン二本鎖により決定されるように、同様に高いニューロン純度をもたらしたが(
図3C)、阻害剤の欠失(実験3過程対照)は、9日目までに分化の失敗をもたらした。これらの結果は、TGFβスーパーファミリーシグナル伝達阻害剤および/またはFGF8の組合せ、ならびに両方を欠失する条件を利用する滴定実験は、個別の多能性幹細胞株およびクローンについて、神経系統への分化を最適化するための重要な最初のステップであり得ることを示唆する。
(実施例5)
星状細胞生成手順
【0176】
星状細胞は、中枢神経系において認められる星状膠細胞である。それらは、脳内の正常なホメオスタシスを維持することを含む、多様な機能を行う。星状細胞の機能における異常は、いくつかの疾患状態において示唆されている。このようにして、時間効率の良い手順により生成された高純度の星状細胞の容易に入手可能な源を有することは、星状細胞の役割の理解ならびに神経障害および傷害の治療に著しく有益であり得る。多能性幹細胞から星状細胞を生成するための方法は、既に報告されている(Krencik and Zhang,2011、Krencik et al.,2011)。しかしながら、プロトコルの多くは、比較的長く(6ヶ月以上)、および/または細胞および他のニューロン細胞型を汚染することと比較して、星状細胞の低い純度をもたらす。このようにして、高純度の星状細胞を生成するための時間効率の良い手順が必要とされる。
【0177】
iPS細胞株8004は、−2、−1、0、および1日目に、10μM SB−431542を培養培地に添加するかしないかに関わらず、実施例3の手順を使用して分化された。28日目に、TUJ1/ネスチンフローサイトメトリー染色により決定されるニューロン純度は、SB−431542を添加しない場合80%、SB−431542を添加した場合は97%であった。手順の30日目から開始して、細胞に90% 1X DMEM−F12/10% FBSを7日おきに供給した。星状細胞の過増殖は、45日目に最初に検出された。48日目に、星状細胞のマーカーとしてGFAPを使用して、星状細胞の純度について、培養物をフローサイトメトリーにより分析した。−2、−1、0、および1日目に、SB−431542を添加せずに培養した細胞は、91% GFAP細胞を呈した(星状細胞を示す)。興味深いことに、SB−431542を添加して培養した細胞は、56% GFAP陽性細胞を呈した。これらの結果は、神経系統分化の初期段階で神経細胞型の純度が低いほど(TUJ1/ネスチンフローサイトメトリー染色により評価されたように)、星状細胞をもたらす条件下で培養された場合、より高い純度の星状細胞を産出し得ることを示す。つまり、本明細書に詳述される方法は、既存の星状細胞分化方法に対して時間効率の良い方法で高純度の星状細胞の培養を生成する方法を提供する。
***
【0178】
本明細書に開示および請求される方法のすべては、本開示に照らして、過度の実験を行うことなく生成および実行され得る。本発明の組成物および方法は、好適な実施形態に関して説明されたが、本発明の概念、趣旨、および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載される方法、ステップ、または方法のステップのシーケンスに変型が適用され得ることは、当業者には明らかであろう。より具体的に、化学的および生理学的に関連するある特定の薬剤は、本明細書に記載の薬剤に代替され得るが、同一または類似の結果が達成されることが明らかとなるであろう。当業者に明らかなかかる類似の代替物および修正のすべては、添付の請求項により定義されるように、本発明の趣旨、範囲、および概念内であると見なされる。
【0179】
参考文献
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