(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ゴム状重合体にメタクリル酸メチル、あるいはメタクリル酸メチルと他のビニル単量体、あるいはシアン化ビニル単量体と芳香族ビニル単量体、あるいはシアン化ビニル単量体と芳香族ビニル単量体と他のビニル単量体をグラフト重合させる請求項1又は2に記載のゴムグラフト共重合体の製造方法。
前記リン酸系化合物のアルカリ金属塩がアルキルリン酸塩類、および/またはアルキルアリールリン酸塩類である請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴムグラフト共重合体の製造方法。
グラフト部にエポキシ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルコキシ基、イソシアネート基、酸無水物基、および酸塩化物基から選ばれる1種または2種以上の反応性基を有する請求項1〜5のいずれか1項に記載のゴムグラフト共重合体の製造方法。
脂肪族ポリエステル樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、およびポリカーボネート樹脂からなる群より選ばれる1種または2種以上の樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物における、請求項1〜7のいずれか1項に記載のゴムグラフト共重合体の製造方法により得られるゴムグラフト共重合体の使用。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以下のいずれか又はその適宜の組み合わせを課題とする。すなわち本発明の目的の一つは、熱可塑性樹脂の耐衝撃性及び成形体外観をより高いレベルで両立するのに有用なゴムグラフト共重合体を提供する点にある。本発明の目的の他の一つは、ポリカーボネート等のエステル結合を有する樹脂を含有する組成物を高温成形して得られる成形体に熱安定性を付与し、さらに長期の耐湿熱老化性を付与しうる耐衝撃改質剤およびこれを含む熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。また、本発明の目的の別の一つは、さらにアロイ樹脂に添加することにより、成形体の耐衝撃性、パール光沢が低減した表面外観性に加えアロイ成分の相溶性や分散性を改善し得る耐衝撃改良剤およびこれを含む熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決する為に鋭意検討した結果、特定のゴムグラフト共重合体を用いることによって、ポリカーボネート等のエステル結合を有する樹脂を含有する組成物の耐衝撃性と成形体外観をより高いレベルで両立できることを見出した。また他の特定のゴムグラフト共重合体を用いることによって、ポリカーボネート等のエステル結合を有する樹脂を含有する組成物を高温成形して得られる成形体に熱安定性を付与し、さらに長期の耐湿熱老化性を付与しうる耐衝撃改質剤およびこれを含む熱可塑性樹脂組成物を提供できることを見出した。また、さらにアロイ樹脂に添加することにより、成形体の耐衝撃性、パール光沢が低減した表面外観性に加えアロイ成分の相溶性や分散性を改善し得る耐衝撃改良剤およびこれを含む熱可塑性樹脂組成物を提供することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] ゴム状重合体のコア層およびこのコア層にグラフトするシェル層から構成されるゴムグラフト共重合体と、ポリカーボネート樹脂および脂肪族ポリエステル樹脂から構成される熱可塑性樹脂とを、ゴムグラフト共重合体/熱可塑性樹脂の質量比が3/100以上となる範囲で含み、
前記シェル層がエポキシ基を有する(メタ)アクリレート系単量体の単独重合又は共重合によって得られる層であり、かつこのエポキシ基を有する(メタ)アクリレート系単量体の量が、ゴムグラフト共重合体100質量部に対して、3質量部以上29質量部未満であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【0011】
[2] 前記ゴムグラフト共重合体において、リン含有量が10ppm(質量基準)以上であり、アルカリ土類金属の含有量が3000ppm(質量基準)以下である[1]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0012】
[3] 前記シェル層を形成する単量体に、エポキシ基を有さない(メタ)アクリレート系単量体およびスチレン系単量体から選ばれる1種以上が含まれる[1]または[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0013】
[4] 前記エポキシ基を有する(メタ)アクリレート系単量体の量が、シェル層100質量部に対して、10質量部以上100質量部以下である[1]〜[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0014】
[5] 前記シェル層の量が、コア層100質量部に対して、20質量部以上55質量部以下である[1]〜[4]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0015】
[6] 前記ゴム状重合体がジエン系重合体である[1]〜[5]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0016】
[7] 前記脂肪族ポリエステル樹脂がポリ乳酸である[1]〜[6]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0017】
[8] (a)リン酸系化合物のアルカリ金属塩の存在下、pHを4.6〜9.4の条件で重合させることでゴムグラフト共重合体を含むラテックスを調製する工程、
(b)前記ラテックスに、アルカリ土類金属の塩化物溶液を添加して凝固を行う工程、および
(c)得られた凝固物を洗浄および乾燥する工程
を含むゴムグラフト共重合体の製造方法。
【0018】
[9] エポキシ基を有する(メタ)アクリレート系単量体の単独重合又は共重合によって得られるシェル層がゴム状重合体のコア層にグラフトしており、リン含有量が10ppm(質量基準)以上であり、アルカリ土類金属の含有量が3000ppm(質量基準)以上であるゴムグラフト共重合体。
【0019】
[10] 下記の(1)〜(3)を全て満たすゴムグラフト共重合体。
(1)リン酸系化合物のアルカリ金属塩の存在下で重合されたゴムグラフト共重合体
(2)ゴムグラフト共重合体中に前記リン酸系化合物がアルカリ土類金属塩として残留しない、あるいは残留する場合はリン酸系化合物のアルカリ土類金属塩の残存量が、アルカリ土類金属として3000ppm(質量基準)以下であるゴムグラフト共重合体
(3)pHが4.6〜9.4の条件下での重合により得られたゴムグラフト共重合体
【0020】
[11] リン含有量が10ppm(質量基準)以上である[10]に記載のゴムグラフト共重合体。
【0021】
[12] 前記ゴムグラフト共重合体中のゴム状重合体がポリブタジエンもしくはポリ(ブタジエン−スチレン)である[9]〜[11]のいずれかに記載のゴムグラフト共重合体。
【0022】
[13] 前記ゴム状重合体にメタクリル酸メチル、あるいはメタクリル酸メチルと他のビニル単量体、あるいはシアン化ビニル単量体と芳香族ビニル単量体、あるいはシアン化ビニル単量体と芳香族ビニル単量体と他のビニル単量体をグラフト重合させた[9]〜[12]のいずれかに記載のゴムグラフト共重合体。
【0023】
[14] 前記リン酸系化合物のアルカリ金属塩がアルキルリン酸塩類、および/またはアルキルアリールリン酸塩類である[9]〜[13]のいずれかに記載のゴムグラフト共重合体。
【0024】
[15] 前記リン酸系化合物のアルカリ金属塩がポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸塩である[9]〜[14]のいずれかに記載のゴムグラフト共重合体。
【0025】
[16] グラフト部にエポキシ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルコキシ基、イソシアネート基、酸無水物基、および酸塩化物基から選ばれる1種または2種以上の反応性基を有する[9]〜[15]のいずれかに記載のゴムグラフト共重合体。
【0026】
[17] 乳化重合により得られたゴムグラフト共重合体を含むラテックスに、アルカリ土類金属の塩化物溶液を接触させ凝固させて得られる[9]〜[16]のいずれかに記載のゴムグラフト共重合体。
【0027】
[18] ゴムグラフト共重合体が、水および/または溶剤により洗浄処理されたものである[9]〜[17]のいずれかに記載のゴムグラフト共重合体。
【0028】
[19] ゴムグラフト共重合体がコア-シェル構造である[9]〜[18]のいずれかに記載のゴムグラフト共重合体。
【0029】
[20] 脂肪族ポリエステル樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、およびポリカーボネート樹脂からなる群より選ばれる1種または2種以上の樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物に使用されるものである、[9]〜[19]のいずれかに記載のゴムグラフト共重合体。
【0030】
[21] 脂肪族ポリエステル樹脂、およびポリカーボネート樹脂、および[9]〜[19]のいずれかに記載のゴムグラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物。
【0031】
[22] 芳香族ポリエステル樹脂、およびポリカーボネート樹脂、および[9]〜[19]のいずれかに記載のゴムグラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物。
【0032】
[23] ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂)、ポリカーボネート樹脂、および[9]〜[19]のいずれかに記載のゴムグラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物。
【0033】
[24] 脂肪族ポリエステル樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、またはABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂)のうち、少なくとも1つがリサイクルされた樹脂である[21]〜[23]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0034】
[25] 脂肪族ポリエステル樹脂がポリ乳酸系樹脂であることを特徴とする[21]または[24]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0035】
[26] [1]〜[7]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を240℃以上で成形した、ゴムグラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物の成形体。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、(1)熱可塑性樹脂の耐衝撃性及び成形体外観をより高いレベルで両立するのに有用なゴムグラフト共重合体、(2)ポリカーボネート等のエステル結合を有する樹脂を含有する組成物を高温成形して得られる成形体に熱安定性を付与し、さらに長期の耐湿熱老化性を付与しうる耐衝撃改質剤およびこれを含む熱可塑性樹脂組成物、(3)さらにアロイ樹脂に添加することにより、成形体の耐衝撃性、パール光沢が低減した表面外観性に加えアロイ成分の相溶性や分散性を改善し得る耐衝撃改良剤およびこれを含む熱可塑性樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
1.熱可塑性樹脂組成物
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ゴム状重合体のコア層およびこのコア層にグラフトするシェル層から構成されるゴムグラフト共重合体と、ポリカーボネート樹脂および脂肪族ポリエステル樹脂から構成される熱可塑性樹脂とを、ゴムグラフト共重合体/熱可塑性樹脂の質量比が3/100以上となる範囲で含み、
前記シェル層がエポキシ基を有する(メタ)アクリレート系単量体の単独重合又は共重合によって得られる層であり、かつこのエポキシ基を有する(メタ)アクリレート系単量体の量が、ゴムグラフト共重合体100質量部に対して、3質量部以上29質量部未満であることを特徴とする。シェル層としてエポキシ基を有する(メタ)アクリレート系単量体を上記量でグラフト重合すると、成形体の耐衝撃性、パール光沢が低減した表面外観性、または熱可塑性樹脂組成物の流動性、熱可塑性樹脂の相溶性を改善することができる。
【0038】
(A)ゴムグラフト共重合体
ゴムグラフト共重合体は、後述される通りに、ゴム状重合体のコア層に、シェル層がグラフト結合したものであり、コア−シェル構造を有することが好適である。
【0039】
(A−1)ゴム状重合体(コア層)
本発明のゴムグラフト共重合体に用いられるゴム状重合体としては、ポリブタジエン、ポリ(スチレン−ブタジエン)、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)、ブタジエン−アクリル酸エステル共重合体などのジエン系重合体、ポリアクリル酸ブチル、アクリル酸ブチル−アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体などのアクリル系ゴム重合体、シリコン、シリコン−アクリルなどのポリオルガノシロキサン系ゴム重合体等が挙げられる。ゴム状重合体のガラス転移温度(Tg)が−50℃以下であることが好ましく、衝撃強度の改善効果が高いこと、および原料コストの観点からジエン系重合体が好ましく、ポリブタジエンが特に好ましい。ジエン系単量体と共重合されるビニル系単量体の種類や量は特に制限されないが、1,3−ブタジエン50〜100重量%とビニル系単量体0〜50重量%との(共)重合体であることが好ましく、1,3−ブタジエンホモポリマーであることが特に好ましい。
【0040】
前記ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル系単量体;アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリシジルなどの(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル系単量体;などを挙げることができる。ジエン系ゴムの重合に際し、ジビニルベンゼン、メタクリル酸アリル、ジメタクリル酸エチレングリコール、1,3−ブチレンジメタクリレートなどの多官能性単量体を適宜使用することができる。
【0041】
この他、ゴム状重合体にメタクリル酸メチル、あるいはメタクリル酸メチルと他のビニル単量体、あるいはシアン化ビニル単量体と芳香族ビニル単量体、あるいはシアン化ビニル単量体と芳香族ビニル単量体と他のビニル単量体をグラフト重合させてコア層を形成してもよいが、耐衝撃性を改善するためには、これら単量体を含まない方がよい。
【0042】
(A−2)グラフト部(シェル層)
シェル層は、エポキシ基を有する(メタ)アクリレートを所定量含む単量体で単独重合又は共重合された層である。前記(メタ)アクリレートには、メタアクリレートおよびアクリレートが含まれる。
エポキシ基を有する(メタ)アクリレートとしては、グリシジルメタアクリレート、1−メチル−1,2−エポキシ−エチルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタアクリレートグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、1−メチル−1,2−エポキシ−エチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル等が挙げられる。なかでも、成形体表面の外観性および耐衝撃性、または熱可塑性樹脂組成物の流動性を改善する観点から、グリシジルメタクリレートが特に好ましい。
【0043】
エポキシ基を有する(メタ)アクリレート系単量体の量は、ゴムグラフト共重合体100質量部に対して、3質量部以上29質量部未満であり、好ましくは6質量部以上28質量部以下、より好ましくは9質量部以上25質量部以下である。3質量部未満であると、成形体表面のパール光沢を十分に低減できず、耐衝撃性を十分に発現できない虞があり、また、熱可塑性樹脂組成物の流動性を高めることができない虞がある。29質量部以上であると、ラテックス中でゴムグラフト共重合体同士の凝集を引き起こして、耐衝撃性を十分に発現できない虞がある。
【0044】
前記エポキシ基を有する(メタ)アクリレート系単量体の量は、耐衝撃性またはパール光沢を低減する観点から、シェル層100質量部に対して、好ましくは10質量部以上100質量部以下、より好ましくは20質量部以上100質量部以下、さらに好ましくは30質量部以上80質量部以下である。前記エポキシ基を有する(メタ)アクリレート系単量体量が10質量部未満であると、成形体表面のパール光沢を低減しにくくなり、表面がパール光沢を帯びる虞がある。前記エポキシ基を有する(メタ)アクリレート系単量体量は、100質量部でもよいが、耐衝撃性を発現する観点から、コア層に対する量は、シェル層を構成する他の単量体を含む場合よりも少なくする必要がある。
【0045】
このシェル層を形成する単量体は、前記エポキシ基を有する(メタ)アクリレート以外のビニル系単量体を含有していてもよい。
【0046】
前記ビニル系単量体としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、不飽和カルボン酸および不飽和カルボン酸エステルなどが挙げられる。芳香族ビニル化合物の中では、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、α−メチルビニルトルエン、ジメチルスチレン、クロルスチレン、ジクロルスチレン、ブロムスチレン、ジブロムスチレンなどが好ましく、シアン化ビニル化合物の中では、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが好ましく、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸エステルの中では、アクリル酸、メタクリル酸、炭素数1〜12のアルキルエステルを有するアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルなどが好ましい。さらに、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の炭素数が1〜22のアルキル基を有し、ヒドロキシル基を有するエステル(メタ)アクリレート類;メトキシメチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシメチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート等の炭素数が1〜22のアルキル基を有し、アルコキシル基を有するエステル(メタ)アクリレート類等のビニル系単量体が含まれていてもよい。また、これら単量体を選択する際には、得られたゴムグラフト共重合体を配合し改質する熱可塑性樹脂の種類を考慮してもよく、例えば熱可塑性樹脂との相溶性、配合後の熱可塑性樹脂組成物の屈折率などに鑑みて、任意の混合比で2種以上を組み合わせてもよい。
【0047】
好ましいビニル系単量体は、エポキシ基を有さない(メタ)アクリレート系単量体(単量体Aともいう)およびスチレン系単量体(単量体Bともいう)から選ばれる1種以上である。
エポキシ基を有さない(メタ)アクリレート系単量体としては、アクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、ドデシルアクリレート、ステアリルアクリレート、ベヘニルアクリレート等の炭素数が1〜22のアルキル基を有するアルキルエステルアクリレート類;メタクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ベヘニルメタクリレート等の炭素数が1〜22のアルキル基を有するアルキルエステルメタクリレート類等のアルキル(メタ)アクリレート単量体が挙げられる。なかでも、成形体表面のパール光沢低減の観点から、メチルメタクリレートを使用することが好ましい。なお、これらは単独で用いても良く、2種以上組み合わせても良い。
スチレン系単量体は、上記芳香族ビニル化合物で挙げられたものを使用してもよい。
【0048】
前記単量体AまたはBの含有量は、グリシジル(メタ)アクリレート100質量部に対して、それぞれ以下の通りであることが好ましい。
単量体Aは、グリシジル(メタ)アクリレート100質量部に対して、好ましくは0質量部以上700質量部以下、より好ましくは0質量部以上400質量部以下、さらに好ましくは0.1質量部以上150質量部以下である。
単量体Bは、グリシジル(メタ)アクリレート100質量部に対して、好ましくは0質量部以上250質量部以下、より好ましくは0質量部以上150質量部以下、さらに好ましくは0質量部以上100質量部以下、さらにより好ましくは0.1質量部以上50質量部以下である。
【0049】
さらに、本発明のゴムグラフト共重合体では、グラフト部(シェル層)にエポキシ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルコキシ基、イソシアネート基、酸無水物基、および酸塩化物基から選ばれる1種または2種以上の反応性基を有することが好ましい。これにより、反応性基を含まないゴムグラフト共重合体を用いた場合に比べ、耐衝撃性をさらに向上させることが可能となる。さらに、ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂などのアロイ樹脂に、反応性基を有するゴムグラフト共重合体を添加することにより、ゴムグラフト共重合体が相溶化剤として機能しアロイ樹脂の分散性を向上させることが可能である。この相溶性や分散性の改善は、特に、ポリカーボネート樹脂/ポリ乳酸樹脂系アロイ組成物において顕著である。また、さらにポリカーボネートやポリエステルのリサイクル樹脂に、反応性基を有するゴムグラフト共重合体を添加することにより、低分子量化した樹脂を修復させることができ、物性を回復させられることも可能である。
【0050】
前記シェル層の量は、熱可塑性樹脂との相溶性、耐衝撃性、パール光沢の低減の観点から、コア層100質量部に対して、好ましくは20質量部以上55質量部以下、より好ましくは25質量部以上50質量部以下、さらに好ましくは30質量部以上45質量部以下である。シェル層が20質量部未満であると、熱可塑性樹脂との相溶性を高めにくくなり、また、成形体表面のパール光沢を低減できない虞がある。シェル層が55質量部を超えると、ゴムグラフト共重合体中のコア層の量が少なくなり、耐衝撃性を十分に発現できない虞がある。
【0051】
ゴムグラフト共重合体の製造方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合のいずれを採用してもよいが、乳化重合、すなわち、乳化グラフト重合が好ましい。具体的には、攪拌機を備えた反応容器に、ラテックスを加え、さらにビニル系単量体、重合開始剤、水を加え、必要に応じて連鎖移動剤や酸化還元剤を仕込み、加熱攪拌すればよい。
【0052】
ここで使用する重合開始剤、連鎖移動剤、酸化還元剤の種類には特に制限がなく、公知のものが使用できる。また、各原料の反応容器への添加方法についても特に制限がなく、重合開始前の一括添加の他、分割添加してもよい。また、グラフト重合は、一段または二段以上で行われ、各段の単量体組成が同一であっても異なっていてもよく、また、単量体を一括添加しても、連続的に添加しても、あるいはこれらを組み合わせてもよい。
【0053】
乳化重合法を採用する場合には、公知の重合開始剤、すなわち2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の熱分解型重合開始剤を用いることができる。また、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラメンタンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ヘキシルパーオキサイド等の有機過酸化物、もしくは過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物といった過酸化物と、必要に応じてナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、グルコース等の還元剤、及び必要に応じて硫酸鉄(II)等の遷移金属塩、更に必要に応じてエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム等のキレート剤、さらに必要に応じてピロリン酸ナトリウム等のリン系難燃剤等を併用したレドックス型重合開始剤として使用することもできる。
【0054】
レドックス型重合開始剤系を用いた場合には、前記過酸化物が実質的に熱分解しない低い温度でも重合を行うことができることから、重合温度を広い範囲で設定できるようになり好ましい。中でもクメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の芳香族環含有過酸化物をレドックス型重合開始剤として用いることが好ましい。前記重合開始剤の使用量、またレドックス型重合開始剤を用いる場合の前記還元剤・遷移金属塩・キレート剤等の使用量は、公知の範囲で用いることができる。
【0055】
好ましいゴムグラフト共重合体の製造方法としては、
(a)リン酸系化合物のアルカリ金属塩の存在下、pHを4.6〜9.4の条件で重合させることでゴムグラフト共重合体を含むラテックスを調製する工程、
(b)前記ラテックスに、アルカリ土類金属の塩化物溶液を添加して凝固を行う工程、および
(c)得られた凝固物を洗浄および乾燥する工程
を含むものが挙げられる。上記(a)〜(c)の工程を経てゴムグラフト共重合体を調製すれば、グラフト共重合体中のリン含有量およびアルカリ土類金属含有量を所定の範囲に調節することができ、熱可塑性樹脂組成物の熱安定性、耐湿熱老化性、色調等を確保することができる。
【0056】
なお前記ラテックス調製工程(a)は、通常、重合乳化剤の存在下、水中で所定の単量体を重合させてゴム状重合体(コア)層を形成するコア層形成工程(a1)と、重合乳化剤の存在下、水中で前記ゴム状重合体(コア)に所定の単量体をグラフトさせるグラフト層形成工程(a2)から構成される。前記リン酸系化合物のアルカリ金属塩は、前記コア層形成工程(a1)及びグラフト層形成工程(a2)の少なくともどちらかの重合乳化剤として用いられるものであり、コア層形成工程(a1)及びグラフト層形成工程(a2)の両方で使用するのが好ましい。リン酸系化合物のアルカリ金属塩としては特に制限はなく、リン酸系化合物とアルカリ金属の塩であれば従来公知のものを使用できる。その例としては、アルキルリン酸塩類、アルキルアリールリン酸塩類を挙げることができる。
【0057】
リン酸系化合物のアルカリ金属塩(例えばアルキルリン酸塩類、アルキルアリールリン酸塩類)は、重合時の安定性を確保する観点から、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸塩があることが好ましく、より好ましくはポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、さらに好ましくはポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩である。
【0058】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩のアルキル基は、例えば炭素数1〜20であり、前記アルキル基の炭素数は好ましくは5〜18、より好ましくは7〜16、さらに好ましくは10〜16である。
【0059】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩のオキシエチレン単位のユニット数は、例えば2〜14であり、好ましくは2〜10、より好ましくは2〜8、さらに好ましくは2〜6である。
【0060】
これらの乳化剤は、ポリカーボネート樹脂やポリエステル樹脂を容易には劣化させず、さらに水や溶剤による洗浄により、ゴムグラフト共重合体中からの除去が容易である。また、これらの強酸はアルカリ土類金属との塩として残留する場合、特にポリカーボネート樹脂やポリエステル樹脂を劣化させることが分かっている。
【0061】
ゴムグラフト共重合体中のアルカリ土類金属の含有量は、ポリカーボネート樹脂やポリエステル樹脂を劣化させることなく、良好な熱安定性を確保するためには、3000ppm(質量基準)以下であることが好ましく、より好ましくは2000ppm(質量基準)以下、さらに好ましくは1000ppm(質量基準)以下である。このゴムグラフト共重合体中のアルカリ土類金属の含有量の下限は、アルカリ土類金属塩の凝固剤を使用した後、リン酸系化合物のアルカリ土類金属塩を水などで洗浄していれば、特に限定されないが、例えば400ppm(質量基準)以上、好ましくは500ppm(質量基準)以上、より好ましくは600ppm(質量基準)以上、さらに好ましくは700ppm(質量基準)以上、さらにより好ましくは800ppm(質量基準)以上である。
より具体的には、グラフト共重合体の製造時に使用するリン酸系化合物がアルカリ土類金属塩として残留しない、あるいは残留する場合には、上記の範囲内であればよい。
そして、残留しないまたは残留しても上記の範囲内であれば、ゴムグラフト共重合体の熱安定性、色調、耐湿熱老化性が良好となる。
【0062】
ゴムグラフト共重合体中のリン含有量は、リン酸系化合物のアルカリ金属塩の重合乳化剤を用いて乳化重合したゴムグラフト共重合体の熱安定性、耐湿熱老化性、色調を改善する観点から、例えば10ppm(質量基準)以上であり、好ましくは30ppm(質量基準)以上、より好ましくは50ppm(質量基準)以上である。このゴムグラフト共重合体中のリン含有量の上限は、特に限定されないが、例えば1500ppm(質量基準)以下、好ましくは1000ppm(質量基準)以下であればよい。
【0063】
本発明のゴムグラフト共重合体は、重合溶液のpHが4.6〜9.4である条件下で製造されたものであり、好ましくは、ゴム状重合体製造時(コア層形成工程(a1)時)および/またはグラフト層形成工程(a2)時の重合溶液のpHが4.6〜9.4である条件下で製造されたものである。また本発明のゴムグラフト共重合体は、重合溶液のpHが5.0〜9.0である条件下で製造されたものであることが好ましく、さらに好ましくは、ゴム状重合体製造時および/またはグラフト層形成時の重合溶液のpHが5.0〜9.0である条件下で製造されたものである。また本発明のゴムグラフト共重合体は、重合溶液のpHが5.5〜8.5である条件下で製造されたものであることがより好ましく、さらに好ましくは、ゴム状重合体製造時および/またはグラフト層形成時の重合溶液のpHが5.5〜8.5である条件下で製造されたものである。
【0064】
pHが4.6未満、あるいは9.4を越えると、ポリカーボネートやポリエステル樹脂の分解を促進し、良好な熱安定性が得られない傾向にあるため、好ましくない。
【0065】
重合乳化剤の濃度は、ゴムグラフト共重合体を安定して乳化重合できる濃度であれば特に限定されないが、例えばゴム状重合体を構成する単量体の全量100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下であり、好ましくは0.3質量部以上3質量部以下、より好ましくは0.5質量部以上2質量部以下である。
【0066】
ゴム状重合体を重合する際の単量体濃度は、例えば、ゴム状重合体構成成分100質量%中、ブタジエンを100質量%等としてもよい。グラフト重合体を重合する際の単量体濃度は、例えば、グラフト重合体構成成分100質量%中、(1)メチルメタクリレートを60〜80質量%、スチレンを20〜40質量%、または(2)メチルメタクリレートを70〜99質量%、ブチルアクリレートを1〜30質量%、または(3)グリシジルメタクリレート30〜40質量%、メチルメタクリレートを45〜55質量%、スチレンを5〜25質量%としてもよい。
【0067】
重合時に使用される溶媒としては、乳化重合を安定に進行させるものであればよく、例えば、水等を好適に使用することができる。
【0068】
乳化重合時の温度は、重合乳化剤が溶媒に均一に溶解すれば、特に限定されないが、例えば、40〜75℃であり、好ましくは45〜70℃、より好ましくは49〜65℃である。
【0069】
本発明のゴムグラフト共重合体は、乳化重合により得られたゴムグラフト共重合体を含むラテックスに、アルカリ土類金属の塩化物溶液を接触させ凝固させて得られてもよい。乳化重合により本発明に用いるゴムグラフト共重合体を得た場合には、例えば、該グラフト共重合体のラテックスと塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化アルミニウム、酢酸カルシウムなどの二価以上の金属塩を混合することにより凝固した後に、公知の方法に従って、熱処理・脱水・洗浄・乾燥することにより、該グラフト共重合体を水性媒体から分離することができる(凝固法ともいう)。上記二価以上の金属塩としては、特に経済的に安価に入手でき、さらに取扱いやすい点から、塩化カルシウム、塩化マグネシウムが好ましい。環境への配慮から微量のハロゲンも含まないことが望まれる場合には、上記二価以上の金属塩として、硫酸マグネシウムが好適に用いられうる。ゴムグラフト共重合体は、水および/または溶剤により洗浄処理されることが好ましい。例えば、塩凝固の後の工程において、脱水前までにスラリーを前記ゴムグラフト共重合体の固形分の好ましくは20倍、より好ましくは30倍、さらには50倍以上に希釈するか、脱水後の工程で前記ゴムグラフト共重合体の固形分の好ましくは3倍、より好ましくは5倍、さらには10倍以上の溶剤、好ましくは環境負荷の観点から水を散布して洗浄するか、脱水後の工程で脱水樹脂を好ましくは固形分の5倍以上の前記溶剤、好ましくは水に再分散した後再度脱水することにより、ゴムグラフト共重合体中に残存する金属塩を減らすことができ、マトリックス樹脂の成形時の焼けや分解などの問題を減少させたり、良好な熱安定を付与させることが可能となるため好ましい。
【0070】
または、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール、アセトン等の水溶性有機溶剤をラテックスに添加してゴムグラフト共重合体を析出させ、遠心、又は濾過等により溶剤と分離した後、乾燥させ、単離することもできる。別の方法として、本発明に用いるゴムグラフト共重合体を含むラテックスにメチルエチルケトン等の若干の水溶性を有する有機溶剤を加えてラテックス中のゴムグラフト共重合体成分を有機溶剤層に抽出し、有機溶剤層を分離した後、水などと混合してゴムグラフト共重合体成分を析出させる方法等を挙げることができる。
【0071】
また、ラテックスを噴霧乾燥法により直接粉体化することもできる。この場合、得られた粉体を前述の凝固法同様に溶剤で洗浄することにより、同様の効果を得ることができる。または得られた粉体に塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化アルミニウムなどを、好ましくは水溶液などの溶液で添加し、必要に応じて再乾燥することにより、同様の効果を得ることができる。
【0072】
別の態様において、本発明のゴムグラフト共重合体は、以下の(1)〜(3)を満足するものである。
(1)リン酸系化合物のアルカリ金属塩の存在下で重合されたゴムグラフト共重合体
(2)ゴムグラフト共重合体中に前記リン酸系化合物がアルカリ土類金属塩として残留しない、あるいは残留する場合はリン酸系化合物のアルカリ土類金属塩の残存量が、アルカリ土類金属として3000ppm(質量基準)以下であるゴムグラフト共重合体
(3)pHが4.6〜9.4の条件下での重合により得られたゴムグラフト共重合体。
【0073】
他の態様において、本発明のゴムグラフト共重合体は、エポキシ基を有する(メタ)アクリレート系単量体の単独重合又は共重合によって得られるシェル層がゴム状重合体のコア層にグラフトしており、リン含有量が10ppm(質量基準)以上であり、アルカリ土類金属の含有量が3000ppm(質量基準)以上である。
【0074】
ゴムグラフト共重合体の体積平均粒子径は、熱可塑性樹脂中で良好な分散性を呈する観点から、好ましくは10nm以上、1μm以下、より好ましくは20nm以上、800nm以下、さらに好ましくは50nm以上、600nm以下である。
【0075】
(B)熱可塑性樹脂
本発明のゴムグラフト共重合体は、耐衝撃性改質剤として、種々の熱可塑性樹脂に配合することができる。このような熱可塑性樹脂としては、塩化ビニル樹脂(PVC)、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂等の硬質、半硬質、軟質の含塩素系樹脂;ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のオレフィン系樹脂;ポリスチレン(PS)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、(メタ)アクリレート−スチレン共重合体(MS)、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS)、スチレン−無水マレイン酸共重合体(SMA)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)、アクリレート−スチレン−アクリロニトリル樹脂(ASA)、アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン樹脂(AES)等のスチレン系樹脂(St系樹脂);ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル系樹脂(Ac系樹脂);ポリカーボネート系樹脂(PC系樹脂);ポリアミド系樹脂(PA系樹脂);ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂(PEs系樹脂);ポリ乳酸樹脂、熱可塑性ポリビニルアルコール樹脂、ポリブチレンサクシネート、その他生分解性を有する天然原料、石油原料由来の環境適応樹脂(一般に生分解性樹脂と称されるもの);(変性)ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE系樹脂)、ポリオキシメチレン系樹脂(POM系樹脂)、ポリスルフォン系樹脂(PSO系樹脂)、ポリアリレート系樹脂(PAr系樹脂)、ポリフェニレン系樹脂(PPS系樹脂)、熱可塑性ポリウレタン系樹脂(PU系樹脂)等のエンジニアリングプラスチックス;スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、フッ素系エラストマー、1,2−ポリブタジエン、トランス1,4−ポリイソプレン等の熱可塑性エラストマー(TPE);PC/ABS等のPC系樹脂/St系樹脂アロイ、PVC/ABS等のPVC系樹脂/St系樹脂アロイ、PA/ABS等のPA系樹脂/St系樹脂アロイ、PA系樹脂/TPEアロイ、PA/PP等のPA系樹脂/ポリオレフィン系樹脂アロイ、PBT系樹脂/TPE、PC/PBT等のPC系樹脂/PEs系樹脂アロイ、ポリオレフィン系樹脂/TPE、PP/PE等のオレフィン系樹脂同士のアロイ、PPE/HIPS、PPE/PBT、PPE/PA等のPPE系樹脂アロイ、PVC/PMMA等のPVC系樹脂/Ac系樹脂アロイ等のポリマーアロイが挙げられる。これらは1種単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。これら熱可塑性樹脂の中でも、特にポリカーボネート樹脂、及びポリエステル樹脂からから選択される少なくとも一種を用いた時、本発明のゴムグラフト共重合体の熱安定性の効果が発現することから好適である。
【0076】
また、これらの熱可塑性樹脂はバージン材であってもリサイクル材であってもよい。特にポリカーボネートやポリエステルのリサイクル樹脂と、反応性基を有する本発明のゴムグラフト共重合体を組合わせた場合、低分子量化したリサイクル樹脂を修復(高分子量化)することができ、リサイクル樹脂の物性を回復させることが可能となり、好適である。またさらに、ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂などのアロイ樹脂に、反応性基を有する本発明のゴムグラフト共重合体を添加することにより、ゴムグラフト共重合体が相溶化剤として機能し、アロイ樹脂の分散性を向上させることが可能となり、好適である。
【0077】
本発明のゴムグラフト共重合体は、脂肪族ポリエステル樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、およびポリカーボネート樹脂から選ばれる1種または2種以上の樹脂に用いられることが好適である。また、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂)、およびポリカーボネート樹脂にゴムグラフト共重合体を用いてもよく、脂肪族ポリエステル樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、またはABS樹脂のうち少なくとも1つがリサイクルされたものをゴムグラフト共重合体と使用してもよい。
【0078】
前記脂肪族ポリエステル樹脂としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ3−ヒドロキシ酪酸、ポリ4−ヒドロキシ酪酸、ポリ4−ヒドロキシ吉草酸、ポリ3−ヒドロキシヘキサン酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンサクシネート等が挙げられる。
【0079】
本発明でアロイ樹脂として使用され得るポリ乳酸樹脂とは、L−乳酸及び/またはD−乳酸を主たる構成成分とするポリマーであるが、乳酸以外の他の共重合成分を含んでいてもよい。他のモノマー単位としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、およびカプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類を挙げることができる。このような他の共重合成分は、全単量体成分に対し、0〜30モル%であることが好ましく、0〜10モル%であることがさらに好ましい。
【0080】
ポリ乳酸樹脂は、変性したものを用いてもよく、例えば、無水マレイン酸変性ポリ乳酸樹脂、エポキシ変性ポリ乳酸樹脂、アミン変性ポリ乳酸樹脂などを用いることにより、耐熱性だけでなく、機械特性も向上する傾向にあり好ましい。ポリ乳酸樹脂の製造方法としては、公知の重合方法を用いることができ、乳酸からの直接重合法、およびラクチドを介する開環重合法などを挙げることができる。
【0081】
芳香族ポリエステル樹脂としては、芳香族環を有するポリエステル樹脂であれば特に限定されない。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等を適宜選択することができる。
【0082】
ポリカーボネート樹脂は、2価以上のフェノール系化合物と、ホスゲンまたはジフェニルカーボネート等の炭酸ジエステル化合物とを反応させて得られるものであればよい。
【0083】
前記2価以上のフェノール系化合物としては、特に制限はないが、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−(4−イソプロピルフェニル)メタン、ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1−ナフチル−1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1−フェニル−1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2−メチル−1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1−エチル−1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、4−メチル−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノナン、1,10−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンなどのジヒドロキシジアリールアルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロデカンなどのジヒドロキシジアリールシクロアルカン類、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)スルホンなどのジヒドロキシジアリールスルホン類、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エーテルなどのジヒドロキシアリールエーテル類、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンなどのジヒドロキシジアリールケトン類、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィドなどのジヒドロキシジアリールスルフィド類、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシドなどのジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルなどのジヒドロキシジフェニル類、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどのジヒドロキシアリールフルオレン類などが挙げられる。また、上記2価フェノール化合物以外に、ヒドロキノン、レゾルシノール、メチルヒドロキノンなどのジヒドロキシベンゼン類、1,5−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレンなどのジヒドロキシナフタレン類などが2価のフェノール系化合物として使用できる。
【0084】
なお、3価以上のフェノール系化合物も、得られるポリカーボネート樹脂が熱可塑性を維持する範囲で使用できる。前記3価以上のフェノール系化合物の例としては、2,4,4’−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,4,4’−トリヒドロキシフェニルエーテル、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシフェニルエーテル、2,4,4’−トリヒドロキシジフェニル−2−プロパン、2,2’−ビス(2,4−ジヒドロキシ)プロパン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシジフェニルメタン、2,4,4’−トリヒドロキシジフェニルメタン、1−[α−メチル−α−(4’−ジヒドロキシフェニル)エチル]−3−[α’,α’−ビス(4”−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン、1−[α−メチル−α−(4’−ジヒドロキシフェニル)エチル]−4−[α’,α’−ビス(4”−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン、α,α’,α”−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5’−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4’−ヒドロキシフェニル)−2−ヘプテン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4’−ヒドロキシフェニル)−2−ヘプタン、1,3,5−トリス(4’−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス[4,4−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル]プロパン、2,6−ビス(2’−ヒドロキシ−5’−イソプロピルベンジル)−4−イソプロピルフェノール、ビス[2−ヒドロキシ−3−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルベンジル)−5−メチルフェニル]メタン、ビス[2−ヒドロキシ−3−(2’−ヒドロキシ−5’−イソプロピルベンジル)−5−メチルフェニル]メタン、テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、トリス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2’,4’,7−トリヒドロキシフラバン、2,4,4−トリメチル−2’,4’,7−トリヒドロキシフラバン、1,3−ビス(2’,4’−ジヒドロキシフェニルイソプロピル)ベンゼン、トリス(4’−ヒドロキシフェニル)−アミル−s−トリアジンなどが挙げられる。
【0085】
これらの2価以上のフェノール系化合物は、それぞれ単独で用いても良く、2種以上を組み合わせても良い。
【0086】
ポリカーボネート樹脂には、必要に応じて、3価以上のフェノール系化合物以外にも分岐ポリカーボネート系樹脂にするための成分を、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができる。前記分岐ポリカーボネート系樹脂を得るために用いられる3価以上のフェノール系化合物以外の成分(分岐剤)としては、例えば、フロログルシン、メリット酸、トリメリット酸、トリメリット酸クロリド、無水トリメリット酸、没食子酸、没食子酸n−プロピル、プロトカテク酸、ピロメリット酸、ピロメリット酸二無水物、α−レゾルシン酸、β−レゾルシン酸、レゾルシンアルデヒド、トリメチルクロリド、イサチンビス(o−クレゾール)、トリメチルトリクロリド、4−クロロホルミルフタル酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸などが挙げられる。
【0087】
ポリカーボネート樹脂の共重合成分として、この他に、例えば、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸などの直鎖状脂肪族2価カルボン酸を用いても良い。
【0088】
ポリカーボネート樹脂の成分として、必要に応じて、重合時の末端停止剤として使用される公知の各種のものを、本発明の効果を損なわない範囲で用いることができる。具体的には、1価フェノール系化合物である、フェノール、p−クレゾール、p−t−ブチルフェノール、p−t−オクチルフェノール、p−クミルフェノール、ブロモフェノール、トリブロモフェノール、ノニルフェノールなどが挙げられる。
【0089】
ポリカーボネート樹脂の原料として使用する炭酸ジエステル化合物としては、ジフェニルカーボネートなどのジアリールカーボネートや、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのジアルキルカーボネートが挙げられる。
【0090】
ポリカーボネート樹脂の好ましい具体例としては、例えば、ビスフェノールAとホスゲンとを反応させる界面重縮合法により得られるポリカーボネート樹脂、ビスフェノールAとジフェニルカーボネートとを反応させる溶融重合法により得られるポリカーボネート樹脂などが挙げられる。
【0091】
本発明で使用されてもよいアロイ樹脂は、例えば、ポリカーボネート樹脂とポリ乳酸である。ポリカーボネート樹脂とポリ乳酸の質量比(ポリカーボネート樹脂/ポリ乳酸)は、50〜95/5〜50が好ましく、より好ましくは60〜90/10〜40、さらに好ましくは60〜80/20〜40である。
【0092】
ゴムグラフト共重合体と熱可塑性樹脂との質量比(ゴムグラフト共重合体/熱可塑性樹脂)は、3/100以上であり、好ましくは4/100以上、より好ましくは5/100以上である。この質量比の上限は、例えば30/100以下であり、好ましくは25/100以下、より好ましくは20/100以下である。上記質量比が3/100未満であると、耐衝撃性、表面外観性等を十分に呈することができない虞がある。上記質量比が30/100を超えると、熱可塑性樹脂組成物の粘度が上昇してゴムグラフト共重合体を十分に分散できない虞がある。
なお、ゴムグラフト共重合体がリンを含有しない場合、シェル層のエポキシ基を有する(メタ)アクリレートは必須ではなく、上述した単量体を適宜使用してもよい。また、熱可塑性樹脂としても任意のものが使用でき、熱可塑性樹脂に対するグラフト共重合体の割合も特に限定されない。
【0093】
このように他の熱可塑性樹脂にゴムグラフト共重合体を配合して得られる熱可塑性樹脂組成物中では、ゴムグラフト共重合体の含有量が1〜60質量%で、熱可塑性樹脂の含有量が99〜40質量%であることが好ましい。より好ましいゴムグラフト共重合体の含有量は1〜40質量%であり、さらに好ましくは1〜20質量%である。このような範囲であると、熱可塑性樹脂の熱安定性を低下させるなどの影響を与えることなく、耐衝撃性を付与することができる。
【0094】
なお、熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて染料、顔料、安定剤、補強剤、充填剤、難燃剤、発泡剤、滑剤、可塑剤などを配合することができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法には特に制限がなく、原料の混合には、ヘンシェルミキサーやタンブラーミキサーなどが利用でき、溶融混練には、単軸または二軸押出機、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、ミキシングロールなどの混練機を利用することができる。このようにして製造された熱可塑性樹脂組成物は各種用途に製造でき、建築用途、電気・電子用途、車輌用途等に利用することができ、例えば、パソコン、液晶ディスプレイ、プロジェクター、PDA、プリンター、コピー機、ファックス、ビデオカメラ、デジタルカメラ、携帯電話(スマートフォン)、携帯オーディオ機器、ゲーム機、DVDレコーダー、電子レンジ、炊飯器等の電気・電子用途;道路透光板、採光窓、カーポート、照明用レンズ、照明用カバー、建材用サイジング、ドア等の建築用途;ハンドル、シフトレバー、防振材等の自動車、電車の窓、表示、照明、運転席パネル等の車輌用途等に利用することができる。
【0095】
本発明のゴムグラフト共重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物は、特に高温で成形した際に、従来のゴムグラフト共重合体を含有した熱可塑性樹脂組成物に対して、熱安定性、耐湿熱老化性の改良効果が顕著になる。240℃以上の成形温度で改良効果が顕著になり、さらに260℃以上でより顕著になる。さらに280℃以上で成形した場合、特に顕著になる。
【0096】
なお本発明の概要は上述した通りであるが、ゴムグラフト共重合体中のリン含有量が10ppm(質量基準)以上である場合、および/またはアルカリ土類金属が3000ppm(質量基準)以下である場合、シェル層を、エポキシ基を有する(メタ)アクリレート系モノマー以外のモノマーから形成してもよい。
【0097】
本願は、2012年4月18日に出願された日本国特許出願第2012−094701号に基づく優先権の利益を主張するものである。2012年4月18日に出願された日本国特許出願第2012−094701号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例】
【0098】
以下、本発明を、実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。なお、以下における測定および試験はつぎのようにして行った。
【0099】
[ゴムグラフト共重合体の元素分析]
得られた粉体状グラフト共重合体中のアルカリ土類金属(カルシウム)、リン、イオウ、塩素の濃度を蛍光X線分析装置(XEPOS SPECTRO社)により測定した。
【0100】
[重合条件下でのpH測定]
重合中のラテックスの一部を採取しpHを測定した。pHの測定はpHメーター(D−21 HORIBA社)により行った。
【0101】
[重合転化率]
得られたラテックスの一部を採取・精秤し、それを熱風乾燥器中で120℃、1時間乾燥し、その乾燥後の重量を固形分量として精秤した。次に、乾燥前後の精秤結果の比率をラテックス中の固形成分比率として求めた。最後に、この固形成分比率を用いて、以下の式1により重合転化率を算出した。
(式1)
重合転化率=(仕込み原料総重量×固形成分比率−単量体以外の原料総重量)/仕込み単量体重量×100(%)
【0102】
[体積平均粒子径]
ゴム状重合体、及びグラフト共重合体の体積平均粒子径はラテックスの状態で測定した。測定装置として、日機装株式会社製のMICROTRAC UPA150を用いて体積平均粒子径(μm)を測定した。
【0103】
[耐衝撃性]
ASTM D−256に準じて、1/8インチノッチ付きアイゾット衝撃強度を測定した。
【0104】
[色調]
ASTM−E1925に準じ、日本電色工業社製の色差計(型式:SE−2000)を用いて、厚さ2mmのプレートの色調/YIを測定した。
【0105】
[熱安定性]
120℃のドライオーブンに厚さ2mmのプレートを所定時間静置し、ASTM−E1925に準じ、日本電色工業社製の色差計(型式:SE−2000)を用いた測定方法で色調/YIを測定した。
【0106】
[湿熱老化性]
1/8インチノッチ付アイゾット用試験片を90℃×95%RHの恒温恒湿器に所定時間静置し、ASTM D−256に準じた測定方法で、アイゾット衝撃強度を測定した。
【0107】
[外観]
目視により成形体の表面状態を観察した。均一の場合は最良(◎)、極一部がパール光沢のようにまだら模様を呈する場合は良好(○)、一部がパール光沢のようにまだら模様を呈する場合は(○−)、全体がパール光沢のようにまだら模様を呈する場合は不良(×)とした。
【0108】
[メルトフローレート(MFR)]
ASTMD1238に準じ、MFRを測定した。
【0109】
[合成例1]ゴムグラフト共重合体の合成
(製造例1a) ゴム状重合体の製造
撹拌機付耐圧容器に
純水 200部、
エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム塩 0.002部、
硫酸第一鉄 0.0012部、
エチレンジアミンテトラ酢酸ジナトリウム塩 0.008部、
ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム 0.03部、
を仕込み、脱酸した後に、
ブタジエン 100部、
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.05部、
パラメンタンハイドロパーオキサイド 0.2部、
を添加し、それから6時間かけてポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウムを1.4部滴下した後、反応溶液中のpH6.5〜7.5において50℃で124時間保持し、転化率98重量%で、体積平均粒子径180nmのジエン系ゴムラテックス(1a)を得た。
【0110】
(製造例1b)グラフト層の形成によるグラフト共重合体の製造
上記で得られたゴムラテックス(1a)(固形分約71部)を60℃に保持しながら、単量体としての
メタクリル酸メチル 22部、
スチレン 7部、
を1時間にわたって添加した。
また上記単量体の添加と同時に、
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.07部、
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.1部、
の添加を開始し、それから反応溶液中のpHを6.5〜7.5、温度を約60℃に保ちながら2時間かけて全量を添加した。さらに反応溶液を、約60℃で1時間保持して、体積平均粒子径200nmのグラフト共重合体ラテックス(1b)を得た。
【0111】
このグラフト共重合体ラテックスにフェノール系の抗酸化剤であるIRGANOX−1076〔n−オクタデシル−3−(3’,5’,ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕2部を添加した後、塩化カルシウム水溶液で凝析を行い、水洗、脱水、乾燥して、pH6.5〜7.5の粉体状グラフト共重合体(1c)を得た。得られた粉体状グラフト共重合体(1c)中の、リン、イオウ、カルシウム、塩素のそれぞれの残存量は、550ppm、<5ppm、850ppm、350ppmであった。
【0112】
[合成例2および3]ゴムグラフト共重合体の合成
ゴム状重合体製造の際、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウムの代わりに他の乳化剤を用いたこと以外は合成例1と同様にして、粉体状のグラフト共重合体(2c、3c)を得た。ここでドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(強酸のアルカリ金属塩)を用いて製造したグラフト共重合体を、粉体状グラフト共重合体(2c)と、半硬化牛脂脂肪酸カリウム(脂肪酸のアルカリ金属塩)を用いて製造したグラフト共重合体を、粉体状グラフト共重合体(3c)とする。得られた粉体状グラフト共重合体(2c)および(3c)中の、リン、イオウ、カルシウム、塩素のそれぞれの残存量は、2c:<5ppm、1100ppm、900ppm、350ppm、3c:<5ppm、<5ppm、1020ppm、1230ppmであった。
【0113】
[合成例4および5]ゴムグラフト共重合体の合成
ゴム状重合体およびグラフト共重合体の製造の際、反応溶液中のpHを変更した以外は合成例1と同様にして、粉体状のグラフト共重合体(4c、5c)を得た。ここでpH3.5−4.5の条件でゴム状重合体を製造しグラフト層を形成して得られたグラフト共重合体を、粉体状グラフト共重合体(4c)と、pH9.5−10.5の条件でゴム状重合体を製造しグラフト層を形成して得られたグラフト共重合体を、粉体状グラフト共重合体(5c)とする。得られた粉体状グラフト共重合体(4c)および(5c)中の、リン、イオウ、カルシウム、塩素のそれぞれの残存量は、4c:540ppm、<5ppm、900ppm、410ppm、5c:550ppm、<5ppm、890ppm、400ppmであった。
【0114】
[合成例6および7]ゴムグラフト共重合体の合成
グラフト共重合体の製造において、合成例1で用いた単量体(メタクリル酸メチル 22部、スチレン 7部)と異なる単量体を用いた以外は、合成例1と同様にして、粉体状のグラフト共重合体(6c、7c)を得た。ここで「メタクリル酸メチル 26.1部、アクリル酸ブチル 2.9部」を用いて製造したグラフト共重合体を、粉体状グラフト共重合体(6c)と、「メタクリル酸グリシジル 10部、メタクリル酸メチル 14部、スチレン 5部」を用いて製造したグラフト共重合体を、粉体状グラフト共重合体(7c)とする。得られた粉体状グラフト共重合体(6c)および(7c)中の、リン、イオウ、カルシウム、塩素のそれぞれの残存量は、6c:540ppm、<5ppm、870ppm、360ppm、7c:530ppm、<5ppm、880ppm、420ppmであった。
【0115】
[合成例8]ゴムグラフト共重合体の合成
グラフト共重合体の製造において、固形分71重量部のゴム状重合体の代わりに固形分78重量部のゴム状重合体を、単量体として「メタクリル酸メチル 22部、スチレン 7部」の代わりに「メタクリル酸メチル 19.8部、アクリル酸ブチル 2.2部」を用いた以外は、合成例1と同様にして、粉体状のグラフト共重合体(8c)を得た。得られた粉体状グラフト共重合体(8c)中の、リン、イオウ、カルシウム、塩素のそれぞれの残存量は、570ppm、<5ppm、930ppm、430ppmであった。
【0116】
[合成例9]ゴムグラフト共重合体の合成
グラフト共重合体の製造において、塩化カルシウム水溶液で凝析を行った後に、水洗を行わなかったこと以外は、合成例1と同様にして、粉体状のグラフト共重合体(9c)を得た。得られた粉体状グラフト共重合体(9c)中の、リン、イオウ、カルシウム、塩素のそれぞれの残存量は、1850ppm、<10ppm、3200ppm、500ppmであった。
【0117】
[合成例10]ゴムグラフト共重合体の合成
グラフト共重合体の製造において、合成例1で用いた単量体(メタクリル酸メチル 22部、スチレン 7部)と異なる単量体を用いた以外は、合成例1と同様にして、粉体状のグラフト共重合体(10c)を得た。ここで「メタクリル酸グリシジル 0部、メタクリル酸メチル 22部、スチレン 7部」を用いて製造したグラフト共重合体を、粉体状グラフト共重合体(10c)とする。得られた粉体状グラフト共重合体(10c)中の、リン、イオウ、カルシウム、塩素のそれぞれの残存量は、10c:550ppm、<5ppm、850ppm、350ppmであった。
【0118】
[合成例11]ゴムグラフト共重合体の合成
グラフト共重合体の製造において、合成例1で用いた単量体(メタクリル酸メチル 22部、スチレン 7部)と異なる単量体を用いた以外は、合成例1と同様にして、粉体状のグラフト共重合体(11c)を得た。ここで「メタクリル酸グリシジル 1.5部、メタクリル酸メチル 20.5部、スチレン 7部」を用いて製造したグラフト共重合体を、粉体状グラフト共重合体(11c)とする。得られた粉体状グラフト共重合体(11c)中の、リン、イオウ、カルシウム、塩素のそれぞれの残存量は、11c:550ppm、<5ppm、870ppm、400ppmであった。
【0119】
[合成例12]ゴムグラフト共重合体の合成
グラフト共重合体の製造において、合成例1で用いた単量体(メタクリル酸メチル 22部、スチレン 7部)と異なる単量体を用いた以外は、合成例1と同様にして、粉体状のグラフト共重合体(12c)を得た。ここで「メタクリル酸グリシジル 3部、メタクリル酸メチル 19部、スチレン 7部」を用いて製造したグラフト共重合体を、粉体状グラフト共重合体(12c)とする。得られた粉体状グラフト共重合体(12c)中の、リン、イオウ、カルシウム、塩素のそれぞれの残存量は、12c:530ppm、<5ppm、800ppm、400ppmであった。
【0120】
[合成例13]ゴムグラフト共重合体の合成
グラフト共重合体の製造において、合成例1で用いた単量体(メタクリル酸メチル 22部、スチレン 7部)と異なる単量体を用いた以外は、合成例1と同様にして、粉体状のグラフト共重合体(13c)を得た。ここで「メタクリル酸グリシジル 6部、メタクリル酸メチル 16部、スチレン 7部」を用いて製造したグラフト共重合体を、粉体状グラフト共重合体(13c)とする。得られた粉体状グラフト共重合体(13c)中の、リン、イオウ、カルシウム、塩素のそれぞれの残存量は、13c:500ppm、<5ppm、800ppm、420ppmであった。
【0121】
[合成例14]ゴムグラフト共重合体の合成
グラフト共重合体の製造において、合成例1で用いた単量体(メタクリル酸メチル 22部、スチレン 7部)と異なる単量体を用いた以外は、合成例1と同様にして、粉体状のグラフト共重合体(14c)を得た。ここで「メタクリル酸グリシジル 15部、メタクリル酸メチル 7部、スチレン 7部」を用いて製造したグラフト共重合体を、粉体状グラフト共重合体(14c)とする。得られた粉体状グラフト共重合体(14c)中の、リン、イオウ、カルシウム、塩素のそれぞれの残存量は、14c:500ppm、<5ppm、820ppm、440ppmであった。
【0122】
[合成例15]ゴムグラフト共重合体の合成
グラフト共重合体の製造において、合成例1で用いた単量体(メタクリル酸メチル 22部、スチレン 7部)と異なる単量体を用いた以外は、合成例1と同様にして、粉体状のグラフト共重合体(15c)を得た。ここで「メタクリル酸グリシジル 20部、メタクリル酸メチル 2部、スチレン 7部」を用いて製造したグラフト共重合体を、粉体状グラフト共重合体(15c)とする。得られた粉体状グラフト共重合体(15c)中の、リン、イオウ、カルシウム、塩素のそれぞれの残存量は、15c:500ppm、<5ppm、880ppm、480ppmであった。
【0123】
[合成例16]ゴムグラフト共重合体の合成
グラフト共重合体の製造において、合成例1で用いた単量体(メタクリル酸メチル 22部、スチレン 7部)と異なる単量体を用いた以外は、合成例1と同様にして、粉体状のグラフト共重合体(16c)を得た。ここで「メタクリル酸グリシジル 25部、メタクリル酸メチル 0部、スチレン 0部」を用いて製造したグラフト共重合体を、粉体状グラフト共重合体(16c)とする。得られた粉体状グラフト共重合体(16c)中の、リン、イオウ、カルシウム、塩素のそれぞれの残存量は、16c:550ppm、<5ppm、830ppm、460ppmであった。
【0124】
[合成例17]ゴムグラフト共重合体の合成
グラフト共重合体の製造において、合成例1で用いた単量体(メタクリル酸メチル 22部、スチレン 7部)と異なる単量体を用いた以外は、合成例1と同様にして、粉体状のグラフト共重合体(17c)を得た。ここで「メタクリル酸グリシジル 29部、メタクリル酸メチル 0部、スチレン 0部」を用いて製造したグラフト共重合体を、粉体状グラフト共重合体(17c)とする。得られた粉体状グラフト共重合体(17c)中の、リン、イオウ、カルシウム、塩素のそれぞれの残存量は、17c:540ppm、<5ppm、850ppm、400ppmであった。
【0125】
得られたゴムグラフト共重合体を用いて表1、表2、表3、および表4に示す熱可塑性樹脂組成物を調製した。得られた評価結果を表1、表2、表3、および表4に示す。
【0126】
【表1】
【0127】
【表2】
【0128】
【表3】
【0129】
【表4】
【0130】
表1、表2に示すように本発明のゴムグラフト共重合体を用いた熱可塑性樹脂組成物は、熱安定性が良好で高温での貯蔵後も色調変化(YI値の変動)が少ないことが分かる。さらに、湿熱老化試験後のIzod強度の保持率が高く、物性低下が少ないことが分かる。
【0131】
また、表3、および表4に示すように、本発明のゴムグラフト共重合体を用いたポリカーボネート樹脂/ポリ乳酸樹脂系アロイ組成物は、良好な耐衝撃性を示すだけでなく、パール光沢が低減されて表面状態が均一となり、ポリカーボネート樹脂とポリ乳酸樹脂の相溶性(分散性)が改善されていることが分かる。