【実施例】
【0068】
本発明は、本発明の例示として示される以下の非限定的な例を参照することによってさらによく理解され得る。以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態をさらに詳細に例示するために示されるが、決して本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。参考文献番号に対応する参考文献は、実施例の後に一覧にされる。
【0069】
バクテリオファージPP7及びMS2並びに関連するプラスミド
以前に、本発明者は、ペプチド提示のためのバクテリオファージMS2のウイルス様粒子の使用について記載した。本発明者は、MS2コート蛋白質の一本鎖二量体が、ペプチド挿入物に対して非常に寛容性であること、及びそれらの合成をコードするmRNAを特異的にカプシドで包む正しく集合したVLPを作ること、を立証した(Peabody, D.S., Manifold-Wheeler, B., Medford, A., Jordan, S.K., do Carmo Caldeira, J., 及びChackerian, B.(2008年)Journal of Molecular Biology、第380巻、252〜263)。上記のように、MS2は、例えばPP7バクテリオファージなどの各メンバーが同様の分子生物学を共有する1つの大きなウイルスファミリーの、1つのメンバーに過ぎない。
【0070】
実験の概要
上記のように、本発明者は、ペプチド提示のための2種類のRNAバクテリオファージ、即ちMS2及びPP7のVLPの使用を以前に記載している。MS2及びPP7のコート蛋白質の一本鎖二量体は、ペプチド挿入物に対して非常に寛容性であり、ペプチド挿入物をVLP表面に高密度反復配列として提示する、正しく集合したVLPを作る。それらのVLPは高度に免疫原性であって、この高度な免疫原性をそれらの表面上に提示された異種ペプチドに付与する。本明細書では、ヒトパピローマウイルス(HPV)のマイナーカプシド蛋白質L2に由来するペプチド抗原を提示するVLPも説明する。そのような組み換えVLPは、様々なHPV株による感染を防ぐための予防ワクチンとして役立つ。下記のワクチンは、L2に対する高力価の抗体応答を誘導し、マウスを種々のHPV擬似ウイルスによる感染から守った。
【0071】
<実施例1>
上記のように、 現行のHPVワクチンは、ウイルスのメジャーカプシド蛋白質L1からなるVLPに基づいている。L1−VLPワクチンは非常に有効であるものの、型特異的である。これは、現行のHPVワクチンが、発癌性の15〜18種類のHPVの型を含むヒトに感染するHPVの100種類を超える型のごく一部に対して防御を提供するのみであるということを意味している。対照的に、HPVのマイナーカプシド蛋白質L2は、幅広い交差中和エピトープを含んでいる。L2内のこれらの高度に保存されたエピトープに対して特異的な抗体は、様々なHPVの型による感染を中和することができる(7)。従って、L2を標的とするワクチンは、種々のHPVの型による感染に対するより包括的な防御を提供し得る。L1と異なって、L2蛋白質はそれ自体で集合してVLPになることが無く、従ってあまり免疫原性ではない。このことは、それに対する高力価の抗体を誘導することが困難であることを意味している。
【0072】
本発明者は、HPVのL2蛋白質を標的とするVLPに基づいたワクチンを構築し、その有用性を立証した。下記のデータは、L2ペプチドを提示する組み換えMS2VLPの構築を説明している。これらのワクチンは、L2に対する高力価の抗体応答を誘導し、感染症のマウスモデルにおいてHPVによる攻撃を防御する。同様の技術は、L2ペプチドを提示するPP7VLPを構築するのにも用いられることができる。
【0073】
L2を提示するVLPの設計
上記のように、本発明者は、発現プラスミドpDSP62及びpDSP1の構築を以前に記載している(3)(
図6及び7)。このプラスミドは、2コピーのコート蛋白質が遺伝学的に融合されて1つの「一本鎖の」二量体となった、MS2コート蛋白質の一変形の発現をコードしている。これらのプラスミドは特有のNcoI制限部位を含み、一本鎖二量体のN末端への配列の遺伝学的挿入を可能にしている。L2ペプチドを提示するVLPを作り出すために、本発明者は、3種類のHPV16のL2に由来する配列をコート蛋白質のN末端にクローニングすることを可能にするPCRプライマーを設計した。それらの配列は、HPV16のL2アミノ酸20−29、17−31、及び14−40である。それらの構築物を作るために用いられたプライマー及びそれらの挿入物のアミノ酸配列は、
図1に示されている。
【0074】
組み換え配列を含む改変されたpDSP62が、組み換えVLPを大腸菌内で発現するために用いられた。本発明者の標準的な発現及び精製の手順後に、組み換えVLPは透過電子顕微鏡法によって可視化された。
図2に示されているように、3種類の組み換えコート蛋白質の全てが、VLPを形成した。
【0075】
MS2VLPによって提示されたL2ペプチドは免疫原性である
VLPの免疫原性を試験するために、マウスが、筋肉注射によって16L2−VLP又は野生型MS2VLPで免疫性を与えられた。3匹のマウスからなる各群が、外因性アジュバント無しの10μgのVLPにより筋肉注射で免疫性を与えられた。全てのマウスは、2週間後に同量のVLPで追加免疫された。血清が各接種の1週間後に採取された。マウスの血清は、エンドポイント希釈法のELISAによって、16L2ペプチドに特異的なIgG抗体について試験された(
図3)。示されているように、3種類すべての16L2−VLPにおいて、免疫性を与えられたマウスは、対応するペプチドに対して高力価(幾何平均力価>10
4)のIgG応答を起こした。一方で対照マウスでは抗体は検出されなかった。従って、MS2の一本鎖二量体のVLP表面に提示されたL2ペプチドは、他のVLPによって提示された抗原の特徴である高い免疫原性を示す。
【0076】
HPV16のL2ペプチドを提示するPP7VLPは、同型及び異型の陰部へのHPV擬似ウイルスによる攻撃からマウスを守る中和抗体を誘導できる
本発明者が設計した16L2−VLPワクチンは、HPV16のL2、即ち1つ以上の高度な交差反応中和エピトープを含むことが示されている領域(1、5)のアミノ酸17−31を含んでいる。これは、16L2−VLPが、別のHPV株由来のL2配列と幅広く交差反応する抗体を誘導することができ、HPVによる攻撃に対する防御の可能性を示唆している。先ず、本発明者は、HPV16のL2(17−31)をN末端において提示する組み換えMS2VLPで免疫されたマウスの血清が、5種類のHPV株(HPV1、5、6、16、及び18)由来のL2アミノ酸14−40のペプチドと交差反応できるかどうかを評価した。
図4に示されているように、この血清は幅広く交差反応性であり、5種類全てのペプチドと反応した。意外なことに、同じHPV16のL2ペプチドをABループにおいて提示するPP7VLPで免疫性を与えられたマウスの血清は、それよりもかなり狭い交差反応性であった。
【0077】
MS2コート蛋白質のN末端へのエピトープ17−31の挿入で観察されたより幅広い交差反応性が、防御と相関するかどうかを明らかにするために、マウスが、HPV16のL2エピトープをMS2コート蛋白質のN末端(16L2(17−31)−N末端−MS2VLP)若しくはPP7コート蛋白質(16L2(17−31)−ABループ−PP7VLP)のABループのいずれかにおいて提示するVLPによって、又は対照のVLPによって免疫性を与えられた。2回目の免疫付与の3〜5週間後に、一群のHPVの擬似ウイルス(PsV)(PsV5、6、16、31、33、35、39、45、51、53、及び58)によって攻撃された。予想されたように、16L2(17−31)−N末端−MS2VLP又は16L2(17−31)−ABループ−PP7VLPで免疫性を与えられたマウスは、同型のHPV16のPsVによる高用量の膣内への攻撃に対して、ほぼ完全な防御を示した(
図5A)。防御は、HPV16のL1L2−VLPで免疫性を与えられたマウスと同様であった。ただし、異型のHPVのPsVによる攻撃に対する防御には、劇的な差が存在した(
図5B)。L2−PP7VLPによる免疫付与は、異型のPsVに対して僅かな防御をもたらしたか、又は防御をもたらさなかった。対照的に、L2−MS2VLPによる免疫付与は、9種類の異型による膣内への攻撃及びHPV5のPsVによる経皮での攻撃に対してかなりの防御をもたらした。本発明者は、試験された10種類の異なるPsV型のうちの9種類による感染に対して非常に強力な(80〜7,190倍のシグナル低下)防御を観察した。HPV31のPsVに対する防御はやや弱かったが(17倍)、それでも統計的に有意であった(p<0.01、片側t検定)。従って、単一のHPV16のL2ペプチドを提示するMS2VLPによる免疫付与が、様々なHPV擬似ウイルス型に対する防御を提供した。
【0078】
本発明者の実験は、異型のHPVのPsVによる攻撃に対する防御に劇的な差が存在したことを示した。
図8を参照されたい。L2−PP7VLPによる免疫付与は、異型のPsVに対する僅かな防御をもたらしたか、又は防御をもたらさなかった。対照的に、本発明のN末端において提示されたL2−MS2VLPによる免疫付与は、9種類の異型による膣内への攻撃及びHPV5のPsVによる経皮での攻撃に対してかなりの防御をもたらした。本発明者は、試験された10種類の異なるPsV型のうちの9種類による感染に対する非常に強い(約80〜7,190倍のシグナル低下)防御を観察した。これは予期せぬ結果であった。この防御は、驚くべきことに、ABループにおいて提示されたL2で免疫性を与えられたマウスで観察されたものよりも、実質的に強力であった。従って、本発明者の実験結果は、同型による攻撃に対して本発明のVLPを用いる防御は、抗原性のL2ペプチドがABループにおいて提示された場合のVLPよりも、ほとんどの場合で少なくとも約5〜10倍優れていることを証明した。特に、異型の攻撃に対する防御は、N末端−VLP構築物を用いると、10〜25倍(HPV5、31、及び39)、40〜100倍(HPV45、51、53、及び58)、又は140〜1000倍(HPV6、33、及び35)良好であることが示された。
【0079】
まとめ
PP7VLP上におけるペプチドの遺伝学的な提示は、中和抗体の標的であることが公知の特異的なB細胞エピトープの厳密な標的化と良く一致している。インフルエンザ(4、12)、C型肝炎ウイルス(8)、及びHIV(2)などの多くの病原体については、幅広い中和抗体の標的エピトープは、免疫原性が不十分である。これは、全長蛋白質が、ワクチン接種による抗体応答の誘導にとって不十分であることを意味している。一方で、ワクチンとしてのペプチドエピトープの使用は、それらの不十分な免疫原性ゆえに、担体蛋白質に連結されない限りは制限される。上記のPP7VLP及びMS2VLPのプラットフォームは、大いに免疫原性の状態で、特異的なペプチドエピトープの標的を定めた摂取を可能にする。この実施例では、HPV16のL2蛋白質のN末端近傍での幅広い中和エピトープを標的とした。このエピトープは、HPV中和モノクローナル抗体の標的であり(5)、対応する合成ペプチドが担体蛋白質に連結された場合には、HPVに対する交差中和抗体を誘導することができることが既に示されている(1)。本発明者は、L2エピトープをバクテリオファージコート蛋白質のN末端において提示するMS2VLPが、高力価のペプチド特異的抗体を誘導することを示す。それらの抗体は十分に高い力価があり、同型(HPV16)及び異型(HPV5、6、31、33、35、39、45、51、53、及び58)の擬似ウイルスによる陰部への攻撃に対して、マウスのほぼ完全な防御を提供した。従って、MS2VLPは、特異的なエピトープに対する抗体の標的を定めた誘導にとっての有用性を示す。
【0080】
参考文献
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