(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1空間と、第2空間と、該第1空間と該第2空間とを連通させて被処理物を搬送する通路であり鉛直方向の隙間高さHが25mm以上35mm以下である搬送通路を形成し且つ該第1空間と該第2空間とを仕切る隔壁と、を有する炉体と、前記被処理物を前記第1空間内,前記搬送通路,前記第2空間内の順で搬送する搬送手段と、を備えた熱処理炉における前記被処理物の熱処理方法であって、
前記第1空間の雰囲気と前記第2空間の雰囲気との温度を異ならせた状態で、前記被処理物を、前記第1空間内,前記搬送通路,前記第2空間内の順で前記搬送手段により搬送する工程、
を含み、
前記搬送手段は、前記被処理物を前記搬送通路内で搬送方向である水平方向に搬送する複数の搬送ローラーを有しており、該複数の搬送ローラーの少なくとも1つは前記搬送通路内に配置され、
前記隔壁は、前記搬送通路の鉛直上側に位置する上部隔壁と、前記搬送通路の鉛直下側に位置する下部隔壁と、を有し、
前記下部隔壁の1以上の上端部が、前記搬送方向で前記複数の搬送ローラーの間に位置し、且つ鉛直方向で前記複数の搬送ローラーの下端と同じかそれよりも上に位置している、
熱処理方法。
前記可変速領域は、前記搬送通路を通過する際の前記被処理物の温度変化速度を少なくとも150℃/min〜1000℃/minの範囲で変更可能となるように定められた領域であり、
前記工程では、前記被処理物はセッターに載置された状態で搬送され、
前記セッターは、それぞれ常温での物性値として、曲げ強度が100MPa〜250MPa、ヤング率が200GPa〜350GPa、熱膨張係数が4ppm/K〜5ppm/K、熱伝導率が50W/mK〜200W/mKである、
請求項7に記載の熱処理方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、被処理物を急速昇温する場合、昇温の前後の温度差を被処理物に応じた適切な値にする必要がある。しかしながら、昇温の前後の空間の一方から他方への輻射などの影響で、昇温の前後の温度差が大きくならず、被処理物に応じた適切な温度差とならない場合があった。また、被処理物を急速降温する場合についても、同様に降温前後の温度差が被処理物に応じた適切な温度差とならない場合があった。そこで、前後の空間の温度差をより大きくできるようにして、種々の被処理物に対応した急速昇温又は急速降温(急速昇降温)を可能とする熱処理炉が望まれていた。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、種々の被処理物に対応した急速昇降温を可能とすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の熱処理炉は、
被処理物の熱処理を行う熱処理炉であって、
第1空間と、第2空間と、該第1空間と該第2空間とを連通させて前記被処理物を搬送する通路であり鉛直方向の隙間高さHが25mm以上35mm以下である搬送通路を形成し且つ該第1空間と該第2空間とを仕切る隔壁と、を有する炉体と、
前記第1空間の雰囲気と前記第2空間の雰囲気との温度を異ならせる温度調整手段と、
前記被処理物を、前記第1空間内,前記搬送通路,前記第2空間内の順で搬送する搬送手段と、
を備えたものである。
【0007】
この本発明の熱処理炉では、第1空間の雰囲気と第2空間の雰囲気との温度を異ならせた状態で、被処理物を、第1空間内,搬送通路,第2空間内の順で搬送する。これにより、被処理物は、第1空間から搬送通路内を通過して温度の異なる第2空間に搬送されることで、急速昇降温される。そして、搬送通路は、鉛直方向の隙間高さHが25mm以上35mm以下となっている。隙間高さHを35mm以下とすることで、第1空間と第2空間との一方からの輻射が搬送通路を通過して他方へ到達することが抑制される。これにより
、第1空間の雰囲気と第2空間の雰囲気との温度差を大きくしやすくなる。そのため、昇降温の前後の温度差を被処理物に応じた適切な値にしやすくなり、種々の被処理物に対応した急速昇降温が可能となる。また、隙間高さHを25mm以上とすることで、被処理物が通過する隙間を十分確保することができる。ここで、隙間高さHは、搬送手段の搬送方向に沿って搬送通路をみたときの鉛直方向の隙間の大きさとする。また、搬送手段の搬送方向に沿って搬送通路をみたときの鉛直方向の隙間の大きさが異なる箇所がある場合には、最小値を隙間高さHとする。ここで、前記被処理物は、セッターに載置された状態で前記搬送手段に搬送されるものとしてもよい。
【0008】
本発明の熱処理炉において、前記温度調整手段は、前記第1空間の雰囲気の温度を加熱又は冷却する第1温度調整手段と、前記第2空間の雰囲気を加熱又は冷却する第2温度調整手段と、の少なくとも一方を備えるものとしてもよい。また、前記第1温度調整手段は、前記第1空間の雰囲気を加熱する第1加熱手段としてもよいし、第1空間の雰囲気を冷却する第1冷却手段としてもよい。前記第2温度調整手段は、前記第2空間の雰囲気を加熱する第2加熱手段としてもよいし、前記第2空間の雰囲気を冷却する第2冷却手段としてもよい。前記第1加熱手段を備える場合、前記第2加熱手段は、前記第2空間の雰囲気を前記第1空間よりも高温となるように加熱する手段としてもよいし、前記第2空間の雰囲気を前記第1空間よりも低温となるように加熱する手段としてもよい。第1加熱手段を備える場合、前記第2冷却手段は、前記第2空間の雰囲気を前記第1空間よりも低温となるように冷却する手段としてもよい。前記第1冷却手段を備える場合、前記第2加熱手段は、前記第2空間の雰囲気を前記第1空間よりも高温となるように加熱する手段としてもよい。前記第1冷却手段を備える場合、前記第2冷却手段は、前記第2空間の雰囲気を前記第1空間よりも高温となるように冷却する手段としてもよいし、前記第2空間の雰囲気を前記第1空間よりも低温となるように冷却する手段としてもよい。また、前記第1加熱手段は、前記第1空間の雰囲気を500℃〜850℃に加熱するものとしてもよい。前記第2加熱手段は、前記第2空間の雰囲気を1000℃〜1350℃に加熱するものとしてもよい。また、前記温度調整手段は、前記第1空間の雰囲気と前記第2空間の雰囲気との温度差が400℃〜600℃となるように該第1空間と該第2空間との少なくとも一方を加熱又は冷却するものとしてもよい。
【0009】
本発明の熱処理炉において、前記搬送通路の搬送方向長さLが前記隙間高さHの3倍以上であるものとしてもよい。搬送方向長さLを隙間高さHの3倍以上とすることで、第1空間と第2空間との一方からの輻射が搬送通路を通過して他方へ到達することが抑制される。これにより、第1空間の雰囲気と第2空間の雰囲気との温度差を大きくしやすくなり、より多くの種類の被処理物に対応した急速昇降温が可能となる。
【0010】
本発明の熱処理炉において、前記搬送手段は、前記第1空間内で前記被処理物を搬送する第1搬送手段と、前記第2空間内で前記被処理物を搬送する第2搬送手段と、前記第1搬送手段に搬送された前記被処理物を、前記搬送通路内を所定の搬送方向に通過させて前記第2搬送手段まで搬送し、前記第1搬送手段及び前記第2搬送手段よりも高速な可変速領域内で該搬送の速度を変更可能な可変速搬送手段と、を有していてもよい。被処理物の昇降温速度(温度変化速度)は、搬送通路内の搬送速度に応じて変化することになるが、この搬送速度は可変速領域の範囲内で変更可能である。そのため、被処理物に応じて昇降温速度を変更することができ、種々の被処理物に対応した急速昇降温が可能となる。ここで、前記可変速領域は、前記搬送通路を通過する際の前記被処理物の昇降温速度を少なくとも150℃/min〜750℃/minの範囲で変更可能となるように定められた領域としてもよいし、少なくとも150℃/min〜1000℃/minの範囲で変更可能となるように定められた領域としてもよい。また、前記被処理物は、セッターに載置された状態で前記第1,第2搬送手段及び前記可変速搬送手段に搬送されるものとしてもよい。なお、可変速領域が同じ数値範囲の場合、第1,第2空間の温度差が大きいほど、変更可
能な昇降温速度の範囲が広くなる。また、第1,第2空間の温度差が同じ値の場合、可変速領域が広い数値範囲であるほど、変更可能な昇降温速度の範囲が広くなる。
【0011】
なお、本発明の熱処理炉において、前記熱処理時における前記可変速領域内の所定速度を取得する速度取得手段と、前記所定速度で前記被処理物を搬送するよう前記可変速搬送手段を制御する可変速搬送制御手段と、を備えていてもよい。この場合において、前記速度取得手段は、ユーザーから前記所定速度を入力する手段としてもよい。また、前記速度取得手段は、ユーザーから入力した情報と予め記憶手段に記憶された情報との少なくともいずれかに基づいて前記所定速度を導出する手段としてもよい。
【0012】
本発明の熱処理炉において、前記搬送手段は、前記被処理物を前記搬送通路内で搬送方向である水平方向に搬送する複数の搬送ローラーを有しており、前記隔壁は、前記搬送通路の鉛直上側に位置する上部隔壁と、前記搬送通路の鉛直下側に位置する下部隔壁と、を有し、前記下部隔壁の1以上の上端部が、前記搬送方向で前記複数の搬送ローラーの間に位置し、且つ鉛直方向で前記複数の搬送ローラーの下端と同じかそれよりも上に位置していてもよい。こうすることで、搬送方向に沿って搬送通路をみたときのローラー下端と下部隔壁との上下の隙間をなくすことができる。これにより、第1空間と第2空間との一方からの輻射がこの隙間を通過して他方へ到達することが抑制される。したがって、第1空間の雰囲気と第2空間の雰囲気との温度差を大きくしやすくなり、より多くの種類の被処理物に対応した急速昇降温が可能となる。なお、「水平に搬送する」とは、熱処理炉の製造誤差や使用による変形が生じている場合、あるいは熱処理炉の載置場所が水平から傾いている場合など、略水平に搬送する場合を含む意味である。
【0013】
この場合において、前記下部隔壁は、前記上端部を有する凸状部を1以上有しており、該凸状部は前記上端部に向けて鉛直上側ほど前記搬送方向の幅が小さくなる形状をしていてもよい。すなわち、凸状部は、搬送手段の搬送通路における搬送方向と鉛直方向とに垂直な方向からみて、上端部に向けて先細り形状をしていてもよい。こうすることで、搬送方向で複数の搬送ローラーの間に下部隔壁の上端部を配置しつつ、下部隔壁が熱膨張した場合などにローラーと下部隔壁(凸状部)とが接触することを避けやすくなる。
【0014】
本発明の熱処理方法は、
第1空間と、第2空間と、該第1空間と該第2空間とを連通させて被処理物を搬送する通路であり鉛直方向の隙間高さHが25mm以上35mm以下である搬送通路を形成し且つ該第1空間と該第2空間とを仕切る隔壁と、を有する炉体、を備えた熱処理炉における前記被処理物の熱処理方法であって、
前記第1空間の雰囲気と前記第2空間の雰囲気との温度を異ならせた状態で、前記被処理物を、前記第1空間内,前記搬送通路,前記第2空間内の順で搬送する工程、
を含むものである。
【0015】
この本発明の熱処理方法では、被処理物は、第1空間から搬送通路内を通過して温度の異なる第2空間に搬送されることで、急速昇降温される。そして、搬送通路は、鉛直方向の隙間高さHが25mm以上35mm以下となっている。隙間高さHを35mm以下とすることで、第1空間と第2空間との一方からの輻射が搬送通路を通過して他方へ到達することが抑制される。これにより、第1空間の雰囲気と第2空間の雰囲気との温度差を大きくしやすくなる。そのため、昇降温の前後の温度差を被処理物に応じた適切な値にしやすくなり、種々の被処理物に対応した急速昇降温が可能となる。また、隙間高さHを25mm以上とすることで、被処理物が通過する隙間を十分確保することができる。
【0016】
本発明の熱処理方法において、前記搬送通路の搬送方向長さLが前記隙間高さHの3倍以上であるものとしてもよい。搬送方向長さLを隙間高さHの3倍以上とすることで、第
1空間と第2空間との一方からの輻射が搬送通路を通過して他方へ到達することが抑制される。これにより、第1空間の雰囲気と第2空間の雰囲気との温度差を大きくしやすくなり、より多くの種類の被処理物に対応した急速昇降温が可能となる。
【0017】
本発明の熱処理炉において、前記熱処理炉は、前記第1空間内で前記被処理物を搬送する第1搬送手段と、前記第2空間内で前記被処理物を搬送する第2搬送手段と、前記第1搬送手段に搬送された前記被処理物を、前記搬送通路内を所定の搬送方向に通過させて前記第2搬送手段まで搬送し、前記第1搬送手段及び前記第2搬送手段よりも高速な可変速領域内で該搬送の速度を変更可能な可変速搬送手段と、を備え、前記工程では、前記第1空間の雰囲気と前記第2空間の雰囲気との温度を異ならせた状態で、前記第1搬送手段により前記第1空間内を搬送された被処理物を、前記可変速搬送手段により前記可変速領域内の所定速度で前記搬送通路内を通過させて前記第2搬送手段まで搬送してもよい。被処理物の昇降温速度(温度変化速度)は、搬送通路内の搬送速度に応じて変化することになるが、この搬送速度は可変速領域の範囲内で変更可能である。そのため、被処理物に応じて昇降温速度を変更することができ、種々の被処理物に対応した急速昇降温が可能となる。
【0018】
本発明の熱処理方法において、前記可変速領域は、前記搬送通路を通過する際の前記被処理物の温度変化速度を少なくとも150℃/min〜1000℃/minの範囲で変更可能となるように定められた領域であり、前記工程では、前記被処理物はセッターに載置された状態で搬送され、前記セッターは、それぞれ常温での物性値として、曲げ強度が100MPa〜250MPa、ヤング率が200GPa〜350GPa、熱膨張係数が4ppm/K〜5ppm/K、熱伝導率が50W/mK〜200W/mKであるものとしてもよい。被処理物の温度変化速度(昇降温速度)を上記範囲で変更可能な場合において、上記の数値範囲を満たすセッターを用いることで、変更可能な昇降温速度の範囲内に亘ってセッターの耐熱性及び温度追従性が十分なものとなる。これにより、昇降温速度が変更されても同じセッターを用いて熱処理を行うことができ、昇降温速度に応じた複数種類のセッターを用意する必要がない。ここで、セッターの曲げ強度は、4点曲げ強度とする。
【0019】
この場合において、前記セッターは、Si結合SiC又は再結晶SiCからなるものとしてもよい。Si結合SiC又は再結晶SiCからなるセッターは、比較的容易に曲げ強度,ヤング率,熱膨張係数,熱伝導率の上記数値範囲を満たすことができ、本発明の熱処理方法に適している。
【0020】
本発明の熱処理方法において、前記搬送手段は、前記被処理物を前記搬送通路内で搬送方向である水平方向に搬送する複数の搬送ローラーを有しており、前記隔壁は、前記搬送通路の鉛直上側に位置する上部隔壁と、前記搬送通路の鉛直下側に位置する下部隔壁と、を有し、前記下部隔壁の1以上の上端部が、前記搬送方向で前記複数の搬送ローラーの間に位置し、且つ鉛直方向で前記複数の搬送ローラーの下端と同じかそれよりも上に位置していてもよい。こうすることで、搬送方向に沿って搬送通路をみたときのローラー下端と下部隔壁との上下の隙間をなくすことができる。これにより、第1空間と第2空間との一方からの輻射がこの隙間を通過して他方へ到達することが抑制される。したがって、第1空間の雰囲気と第2空間の雰囲気との温度差を大きくしやすくなり、より多くの種類の被処理物に対応した急速昇温が可能となる。
【0021】
この場合において、前記下部隔壁は、前記上端部を有する凸状部を1以上有しており、該凸状部は前記上端部に向けて鉛直上側ほど前記搬送方向の幅が小さくなる形状をしていてもよい。こうすることで、搬送方向で複数の搬送ローラーの間に下部隔壁の上端部を配置しつつ、下部隔壁が熱膨張した場合などにローラーと下部隔壁(凸状部)とが接触することを避けやすくなる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1実施形態]
次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態である熱処理炉10の縦断面図である。
図2は、
図1の搬送通路11c周辺を前方から見たA視図である。
図3は、搬送通路11c周辺の斜視図である。なお、
図3では、外壁11の図示を省略している。熱処理炉10は、炉体10aと、第1,第2搬送ローラー20a,20bと、可変速搬送ローラー20cと、第1,第2ヒーター21a,21bと、ガス供給装置22,24と、流量調整弁26,28と、コントローラー80と、を備えている。この熱処理炉10は、炉体10aの内部で複数の被処理物96を載置したセッター95を搬送しながら被処理物96に対する熱処理を行うローラーハースキルンとして構成されている。
【0024】
炉体10aは、外壁11と、外壁11内に配置された隔壁部30と、を備えている。外壁11は、略直方体に形成された断熱構造体であり、内部の空間である第1空間11a,第2空間11b,搬送通路11cを有している。また、外壁11は、外壁11の前端面12(
図1の左端面)に形成され外部から第1空間11aへの入口となる開口14と、外壁11の後端面13(
図1の右端面)に形成され第2空間11bから外部への出口となる開口15と、を有している。第1空間11aは、外壁11及び隔壁部30で囲まれた空間である。第2空間11bは、外壁11及び隔壁部30で囲まれた空間である。搬送通路11cは、第1空間11aと第2空間11bとを連通させる空間であり、隔壁部30により形成されている。第1空間11a,搬送通路11c,第2空間11bは、開口14から開口15に向けて前後方向(
図1の左右方向)でこの順に形成されている。
【0025】
隔壁部30は、第1空間11aと第2空間11bとを仕切る断熱構造体であり、鉛直上側に位置する上部隔壁31と、鉛直下側に位置する下部隔壁35と、を備えている。この上部隔壁31と下部隔壁35とで鉛直上下方向から挟まれた空間として、搬送通路11cが形成されている。上部隔壁31は、本体部32と、ビーム33とを備えている(
図1の左側に示した破線枠Sの拡大部分参照)。本体部32は例えばレンガなどで形成された略直方体の部材であり、上端及び左右端は外壁11と接している。本体部32は、一体に形成されていてもよいし、複数の部材を組み合わせて形成されていてもよい。ビーム33は、例えば金属などで形成され、長手方向が左右方向である板状の部材である。ビーム33は、外壁11の左右端で支持されており、上面が本体部32の下端と接して本体部32を下から支持している。下部隔壁35は、レンガなどで形成された部材であり、本体部36と、凸状部37a,37bとを備えている。本体部36は、略直方体の部材である。凸状部37a,37bは、下部隔壁35のうち鉛直上側の部分であり、下端で本体部36に接している。凸状部37a,38bは、前後方向に隣接して配置されている。凸状部37a,37bは、左右方向に垂直な断面が三角形となる三角柱状の部材である(
図3参照)。そのため、凸状部37a,37bは、鉛直上側ほど前後方向の幅が小さくなるように形成されている。そして、凸状部37a,37bの頂上部(左右方向に垂直な断面で見たときの三角形の頂点となる部分)である上端部38a,38bが、下部隔壁35の上端部となっている。なお、本体部36や凸状部37a,凸状部37bは、それぞれ一体に形成されていてもよいし、複数の部材を組み合わせて形成されていてもよい。また、下部隔壁35全体が一体に形成されていてもよい。隔壁部30は、熱伝導率の低い材料で形成すること
が好ましい。
【0026】
第1搬送ローラー20aは、第1空間11a内で所定の搬送方向に沿って複数(本実施形態では8個)配置され、セッター95を搬送する搬送ローラーである。なお、本実施形態では、第1搬送ローラー
20aの搬送方向は、水平方向であり、前方から後方に向かう方向(
図1の左側から右側に向かう方向)とした。第1搬送ローラー20aが回転することによって、複数の被処理物96が載置されたセッター95が開口14から第1空間11a内を搬送方向に搬送される。
【0027】
第2搬送ローラー20bは、第2空間11b内で所定の搬送方向に沿って複数(本実施形態では8個)配置され、セッター95を搬送する搬送ローラーである。なお、本実施形態では、第2搬送ローラー20bの搬送方向は、第1搬送ローラー20aの搬送方向と同じとした。第2搬送ローラー20bが回転することによって、複数の被処理物96が載置されたセッター95が第2空間11b内を開口15まで搬送方向に搬送される。
【0028】
可変速搬送ローラー20cは、第1搬送ローラー20aと第2搬送ローラー20bとの間に配置され、セッター95を搬送する搬送ローラーである。可変速搬送ローラー20cは、第1空間11a内から搬送通路11cを経由して第2空間11b内までに亘って、所定の搬送方向に沿って複数(本実施形態では10個)配置されている。なお、本実施形態では、可変速搬送ローラー20cの搬送方向は、第1搬送ローラー20aの搬送方向と同じとした。可変速搬送ローラー20cが回転することによって、複数の被処理物96が載置されたセッター95が搬送通路11cを搬送方向に搬送される。なお、可変速搬送ローラー20cのうち搬送方向の最も上流に位置するローラーは、第1搬送ローラー20aのうち搬送方向の最も下流に位置するローラーの隣に配置され、両ローラー間の距離は互いにセッター95の受け渡しができる距離になっている。同様に、可変速搬送ローラー20cのうち搬送方向の最も下流に位置するローラーは、第2搬送ローラー20bのうち搬送方向の最も上流に位置するローラーの隣に配置され、両ローラー間の距離は互いにセッター95の受け渡しができる距離になっている。これにより、可変速搬送ローラー20cは、第1搬送ローラー20aで搬送されたセッター95を、搬送通路11cを通過させて第2搬送ローラー20bまで搬送する。なお、本実施形態では、第1,第2搬送ローラー20a,20b,可変速搬送ローラー20cの全てが同じ直径であり、開口14から開口15までに亘って前後方向に等間隔に配置されているものとした。また、この可変速搬送ローラー20cは、図示しないモーターにより第1,第2搬送ローラー20a,20bよりも高速に回転可能であり、且つ、回転速度を調整することができるようになっている。これにより、可変速搬送ローラー20cは、第1,第2搬送ローラー20a,20bの搬送速度よりも高速な可変速領域内でセッター95の搬送速度を変更可能である。特にこれに限定するものではないが、本実施形態では、可変速領域は90mm/min〜600mm/minの範囲とした。
【0029】
第1ヒーター21aは、第1空間11a内に配置されている。この第1ヒーター21aは、第1搬送ローラー20a及び可変速搬送ローラー20cを上下から挟むように、外壁11の天井及び底部に複数(本実施形態では上下各4個)配置されている。第1ヒーター21aは、長手方向が搬送方向に直交する方向(左右方向)となるように配置されており、搬送方向に沿って複数配置されている。第1ヒーター21aは、第1空間11a内を通過する被処理物96や第1空間11aの雰囲気を加熱するものであり、例えばSiCヒーターなどのセラミックスヒーターとして構成されている。
【0030】
第2ヒーター21bは、第2空間11b内に配置されている。この第2ヒーター21bは、第2搬送ローラー20b及び可変速搬送ローラー20cを上下から挟むように、外壁11の天井及び底部に複数(本実施形態では上下各6個)配置されている。第2ヒーター
21bは、長手方向が搬送方向に直交する方向(左右方向)となるように配置されており、搬送方向に沿って複数配置されている。第2ヒーター21bは、第2空間11b内を通過する被処理物96や第2空間11bの雰囲気を第1空間11aよりも高温に加熱するものであり、例えばSiCヒーターなどのセラミックスヒーターとして構成されている。
【0031】
ガス供給装置22,24は、雰囲気ガスとして例えば窒素などの不活性ガスをそれぞれ第1,第2空間11a,11bに供給する。このガス供給装置22,24は、所定温度(例えば常温など)の雰囲気ガスをそのまま供給する装置としてもよいし、雰囲気ガスを加熱した上で供給する装置としてもよい。外壁11の底部のうち第1空間11aの後端面13側には、ガス供給装置22と接続されたガス供給口16が形成されている。このガス供給口16を介して、ガス供給装置22からの雰囲気ガスが第1空間11aに供給される。同様に、外壁11の底部のうち第2空間11bの後端面13側には、ガス供給装置24と接続されたガス供給口17が形成されている。このガス供給口17を介して、ガス供給装置24からの雰囲気ガスが第2空間11bに供給される。
【0032】
流量調整弁26,28は、炉体10a内から流出する雰囲気ガスの流量を調整する装置である。外壁11の天井部分のうち第1空間11aの前端面12側には、流量調整弁26と接続された流出口18が形成されている。流量調整弁26は、この流出口18を介して第1空間11aの雰囲気を流出させる際の流量を調整する。同様に、外壁11の天井部分のうち第2空間11bの前端面12側には、流量調整弁28と接続された流出口19が形成されている。流量調整弁28は、この流出口19を介して第2空間11bの雰囲気を流出させる際の流量を調整する。なお、流量調整弁26,28を通過した炉体10a内の雰囲気ガスは、排気されるものとしてもよいし、例えば酸素,水などの不要成分を除去した上でガス供給装置22,24の吸気として循環するものとしてもよい。
【0033】
ここで、可変速搬送ローラー20cと下部隔壁35との位置関係、及び搬送通路11cの隙間高さH及び搬送方向長さLについて説明する。まず、可変速搬送ローラー20cと下部隔壁35との位置関係について説明する。
図1,3に示すように、上述した下部隔壁35の上端部38a,38bは、搬送方向でそれぞれ可変速搬送ローラー20cのうち隣接する2つのローラーの間に位置している。また、上端部38a,上端部38bは互いに高さ(鉛直方向の位置)が同じであり、且つ、可変速搬送ローラー20cのローラーの下端と同じ高さに位置している。
【0034】
次に、搬送通路11cの隙間高さHについて説明する。搬送通路11cは、鉛直方向の隙間高さH(
図1,2参照)が、25mm〜35mmであることが好ましい。ここで、隙間高さHは、可変速搬送ローラー20cの搬送方向に沿って搬送通路11cをみたとき(
図1におけるA視に相当)の鉛直方向の隙間の大きさとする。
図2に示すように、可変速搬送ローラー20cの搬送方向に沿って搬送通路11cをみると、搬送通路11cの隙間として見えるのは可変速搬送ローラー20cの上端から上部隔壁31の下端までの隙間である。そのため、この隙間の鉛直方向の大きさが隙間高さHとなる。なお、本実施形態では、上部隔壁31の下端部は搬送方向に平行であり、
図2では左右方向の直線にみえるものとした。仮に、上部隔壁31の下端部が
図2の左右方向の直線にみえない(凹凸を有している、左右方向から傾いているなど)場合など、左右方向の位置によって搬送通路11cの隙間高さが一定ではない場合には、
図2における隙間高さの最小値を隙間高さHとする。すなわち、可変速搬送ローラー20cの搬送方向に沿って搬送通路11cをみたときの鉛直方向の隙間の大きさが異なる箇所がある場合には、最小値を隙間高さHとする。また、本実施形態では、上述したように上端部38a,上端部38bが可変速搬送ローラー20cのローラーの下端と同じ高さに位置しているため、下部隔壁35と可変速搬送ローラー20cとの間には隙間はない。仮に、両者に隙間がある場合には、上部隔壁31と可変速搬送ローラー20cとの隙間の高さ(の最小値)と、下部隔壁35と可変速搬送ロー
ラー20cとの隙間の高さ(の最小値)との和を、隙間高さHとする。このように、可変速搬送ローラー20cの搬送方向に沿って搬送通路11cをみたときに鉛直方向の位置が異なる複数の隙間があるときには、それぞれの隙間の高さ(の最小値)の和を、搬送通路11cの隙間高さHとする。
【0035】
続いて、搬送通路11cの搬送方向長さLについて説明する。搬送通路11cは、搬送方向長さLが隙間高さHの3倍以上であることが好ましく、4倍以上であることがより好ましい。ここで、搬送方向長さLは、図示するように隔壁部30のうち可変速搬送ローラー20cの搬送方向の上流側の開口から下流側の開口までの距離である。なお、本実施形態では、上部隔壁31及び下部隔壁35の搬送方向長さ(厚さ)は鉛直上下方向で一定とし、外壁11の天井から底部に亘って隔壁部30の搬送方向長さ(厚さ)は搬送方向長さLと同じとした。
【0036】
なお、搬送通路11cの左右方向長さ(水平方向のうち搬送方向に垂直な方向の長さ)は例えば300mm〜1500mmである。
【0037】
コントローラー80は、CPU81を中心とするマイクロプロセッサーとして構成されており、各種処理プログラムや各種データなどを記憶したフラッシュメモリー82と、一時的にデータを記憶するRAM84と、操作パネル88などと通信する図示しない内部通信インタフェース(I/F)と、を備えている。フラッシュメモリー82は、対応関係データ83を記憶している。対応関係データ83は、第1,第2空間11a
,11bの温度と、セッター95が搬送通路11cを通過する際の昇温速度と、可変速搬送ローラー20cの搬送速度と、の対応関係を表すデータである。
【0038】
このコントローラー80は、ガス供給装置22,24に制御信号を出力して、ガス供給口16,ガス供給口17を介した炉体10a内部への不活性ガスの供給量や供給温度を個別に制御する。コントローラー80は、流量調整弁26,28に制御信号を出力して流出口18,19から流出する雰囲気ガスの量を個別に制御する。さらに、コントローラー80は、第1,第2ヒーター21a,21bに制御信号を出力して第1空間11a,第2空間11bの温度を個別に調整したり、第1,第2搬送ローラー20a,20b及び可変速搬送ローラー20cの図示しないモーターに駆動信号を出力して、第1,第2搬送ローラー20a,20b及び可変速搬送ローラー20cを回転させる。また、コントローラー80は、操作パネル88の操作に応じて発生する操作信号を入力したり、操作パネル88に表示指令を出力したりする。
【0039】
また、コントローラー80は、
図1に示すように、機能ブロックとして、速度取得部85、搬送制御部86などを備えている。速度取得部85は、ユーザーから操作パネル88を介して入力された第1,第2空間11a,11bの温度に関する情報と、被処理物96が搬送通路11cを通過する際の昇温速度に関する情報と、対応関係データ83と、に基づいて、入力された第1,第2空間11a,11bの温度及び昇温速度に対応する熱処理時の可変速搬送ローラー20cの搬送速度に関する値を取得する機能を有する。搬送制御部86は、速度取得部85が取得した搬送速度でセッター95が搬送通路11cを通過するよう、可変速搬送ローラー20cの図示しないモーターの回転速度を制御する機能を有する。なお、速度取得部85,搬送制御部86は、ハードウエアとして構成してもよいし、CPU81がフラッシュメモリー82に記憶されたプログラムを実行することにより機能を発現するソフトウエアとして構成してもよい。
【0040】
操作パネル88は、表示部と、この表示部を含んで構成された操作部とを備える。表示部は、タッチパネル式の液晶ディスプレイとして構成されており、メニューや項目を選択する選択/設定ボタン、各種数値を入力するための数字ボタン、熱処理を開始するスター
トボタンなどを表示してタッチ操作を受け付け、タッチ操作に基づく操作信号をコントローラー80に送信する。また、コントローラー80からの表示指令を受信すると、表示指令に基づく画像や文字,数値などを表示部に表示する。
【0041】
セッター95は、被処理物96を載置するものである。セッター95は、被処理物96を載置した状態で第1,第2搬送ローラー20a,20b及び可変速搬送ローラー20cにより搬送されることができればよく、例えば平板状としてもよいし、メッシュ状としてもよい。また、セッター95は、例えば複数の平板と、平板間を上下方向に離間しつつ支持する支持部材とからなるものとし、被処理物96を載置可能な面を複数段有するものとしてもよい。本実施形態では、セッター95の搬送方向の長さは、搬送通路11cの搬送方向長さLよりも大きいものとした。なお、セッター95は、炉体10a内での被処理物96の熱処理に耐えられるよう、高い耐食性や耐熱性を有する材料から構成することが好ましい。また、セッター95は、複数の被処理物96をより均一に熱処理できるよう、自身の温度分布が生じにくい(温度追従性が高い)材料から構成することが好ましい。より具体的には、セッター95は、曲げ強度が100MPa〜250MPa、ヤング率が200GPa〜350GPa、熱膨張係数が4ppm/K〜5ppm/K、熱伝導率が50W/mK〜200W/mKであることが好ましい。なお、これらの値は、それぞれ常温での物性値とする。セッター95の曲げ強度は、4点曲げ強度とする。セッター95は、例えば、セラミックスなどからなるものであり、Si結合SiC(Si−SiC)又は再結晶SiCからなるものとすることが好ましい。セッター95がSi結合SiC又は再結晶SiCで構成されるものとすると、曲げ強度,ヤング率,熱膨張係数,熱伝導率の上記数値範囲を満たすものとしやすい。
【0042】
なお、上記数値範囲を満たすSi結合SiCからなるセッター95は、例えば以下のように製造することができる。まず、SiC粉体を主成分とする基材原料とバインダーと水とを含む成型用原料を混練し、セッター95の形状に成形して成形体とする。次いで、この成形体中を金属Si雰囲気下で、減圧の不活性ガス雰囲気又は真空中におき、成形体中に金属シリコンを含浸させて(例えば気孔率が1%以下となるまで)、Si結合SiCの焼結体とし、セッター95とする。なお、基材原料は、C粉体を含むものとしてもよいし、微量成分としてAl,Fe,Coを含有することが好ましい。なお、このようなSi結合SiCからなるセッターの製造方法は、例えば特開2012−56831号公報に記載されている。
【0043】
被処理物96は、炉体10a内を通過する際に第1,第2ヒーター21a,21bからの熱により例えば焼成などの熱処理を行うものである。特に限定するものではないが、本実施形態では、被処理物96は、セラミックス製の誘電体(基材)と電極とを積層した積層体(寸法は例えば縦横が1mm以内)であり、焼成後にセラミックスコンデンサのチップとなるものとした。また、本実施形態では、被処理物96は、熱処理炉10で熱処理される前に、例えば800℃〜900℃などで予め熱処理しておき、被処理物96のバインダーの除去及び半焼結を行っておくものとした。
【0044】
次に、こうして構成された熱処理炉10を用いて被処理物96の熱処理を行う様子について説明する。まず、ユーザーが操作パネル88を操作して熱処理条件などの各種設定値の入力を行い、スタートボタンを押下する。なお、操作パネル88がユーザーから入力する各種設定値には、例えば第1,第2空間11a,11bの温度や、セッター95が搬送通路11cを通過する際の昇温速度に関する情報が含まれる。また、各種設定値には、ガス供給装置22,24からの雰囲気ガスの供給量(供給速度)及び温度、流量調整弁26,28を流れる雰囲気ガスの流量などに関する情報が含まれる。
【0045】
これらの値が入力されてスタートボタンが押下されると、コントローラー80は操作パ
ネル88からの操作信号によりユーザーからの各種設定値などを入力してRAM84に記憶し、記憶した各種設定値に基づく熱処理を開始する。具体的には、コントローラー80は、入力されたガス供給装置22,24からの雰囲気ガスの供給量(供給速度)及び温度、流量調整弁26,28を流れる雰囲気ガスの流量などに関する情報に基づいて、ガス供給装置22,24、流量調整弁26,28に制御信号を出力する。また、入力された第1,第2空間11a,11bの温度に関する情報に基づいて、第1,第2ヒーター21a,21bに制御信号を出力する。これにより、第1,第2空間11a,11bの雰囲気は不活性ガス雰囲気になり、第1空間11a,第2空間11bの雰囲気が加熱される。なお、上述したように、第2空間11bは、第1空間11aよりも高温に加熱される。本実施形態では、第1空間11aが700℃、第2空間11bが1200℃になるように加熱されるものとした。また、本実施形態では、ガス供給装置22,ガス供給装置24による炉体10a内への雰囲気ガスの流入量の和と、流量調整弁26,流量調整弁28による炉体10a内からの雰囲気ガスの流出量の和とを同じにし、且つ、流量調整弁28からの流出量をガス供給装置24からの流入量よりも小さくするものとした。こうすることで、第2空間11b内の雰囲気ガスの一部は搬送通路11c及び第1空間11aを通過して流出口18から流出する。そのため、第2空間11bで高温に加熱された雰囲気ガスの一部を第1空間11aの加熱にも用いることができ、効率よく第1空間11aを加熱できる。
【0046】
こうして第1空間11a,第2空間11bの雰囲気の調整を完了した後、コントローラー80は、図示しないモーターに制御信号を出力して、第1搬送ローラー20a,第2搬送ローラー20b,可変速搬送ローラー20cを回転させる。そして、ユーザー又は図示しない搬送装置により開口14から被処理物96を炉体10a内に搬入する。搬入された被処理物96は、第1搬送ローラー20a,可変速搬送ローラー20c,第2搬送ローラー20bにより、第1空間11a,搬送通路11c,第2空間11b内をこの順で搬送されて、開口15から搬出される。この間に被処理物96の熱処理が行われる。なお、熱処理炉10には、被処理物96を載置したセッター95を順次搬入して、被処理物96の熱処理を連続的に行っていく。なお、開口15よりも搬送方向下流側には被処理物96を冷却するための図示しない空間が形成されており、開口15から搬出された被処理物96はこの空間を搬送されながら所定の降温速度で降温(例えば第2空間11bの温度から常温まで)される。
【0047】
なお、熱処理時の第1搬送ローラー20a,第2搬送ローラー20bの搬送速度は、本実施形態では同じ速度とし、上述した可変速搬送ローラー20cの可変速領域よりも低い速度として、予め定められているものとした。また、可変速搬送ローラー20cの搬送速度は、以下のように制御されるものとした。まず、速度取得部85が、RAM84に記憶された第1,第2空間11a,11bの温度と、被処理物96が搬送通路11cを通過する際の昇温速度とを読み出す。そして、速度取得部85が、読み出したデータと、対応関係データ83と、に基づいて、ユーザーに入力された昇温速度で被処理物96を昇温するための可変速搬送ローラー20cの搬送速度(上述した可変速領域の範囲内の搬送速度)に関する値を取得する。続いて、搬送制御部86は、速度取得部85が取得した搬送速度でセッター95が搬送通路11cを通過するよう、可変速搬送ローラー20cの図示しないモーターの回転速度を制御する。なお、対応関係データ83で表される対応関係は、テーブルとしてもよいし、計算式としてもよい。この対応関係データ83は、例えば実験により予め求めておくことができる。
【0048】
なお、本実施形態では、第1空間11aが700℃,第2空間11bが1200℃の場合に、上述した可変速領域の範囲で可変速搬送ローラー20cの搬送速度を変化させることで、搬送通路11cを通過する際の被処理物96の昇温速度を少なくとも150℃/min〜1000℃/minの範囲で変更可能であるものとした。ユーザーは、この昇温速度の範囲で、被処理物96の材質等に応じた適切な昇温速度を入力する。昇温速度を適切
な値とすることで、被処理物96の温度を第1空間11aから第2空間11bまで急速に昇温して、被処理物96の基材と電極との収縮タイミングを近づけることができ、昇温速度が低すぎることによる焼成時の割れや剥離などの発生を抑制することができる。また、昇温速度が高すぎることによる不均一な焼成を抑制することができる。なお、第1,第2空間11a,11bの温度(特に、両空間の温度差)を他の値にすれば、同じ可変速領域でも調整可能な昇温速度は変化することになる。例えば、第1空間11aと第2空間11bとの温度差が400℃〜600℃となるように両空間の温度を定めてもよい。
【0049】
ここで、第1実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態の第1空間11aが本発明の第1空間に相当し、第2空間11bが第2空間に相当し、搬送通路11cが搬送通路に相当し、隔壁部30が隔壁に相当し、炉体10aが炉体に相当し、第1,第2ヒーター21a,21bが温度調整手段に相当し、第1ヒーター21aが第1温度調整手段及び第1加熱手段に相当し、第2ヒーター21bが第2温度調整手段及び第2加熱手段に相当し、第1,第2搬送ローラー20a,20b及び可変速搬送ローラー20cが搬送手段に相当し、第1搬送ローラー20aが第1搬送手段に相当し、第2搬送ローラー20bが第2搬送手段に相当し、可変速搬送ローラー20cが可変速搬送手段に相当する。また、速度取得部85が速度取得手段に相当し、搬送制御部86が搬送制御手段に相当する。
【0050】
以上説明した第1実施形態の熱処理炉10では、第1ヒーター21aにより第1空間11aの雰囲気を加熱し、第2ヒーター21bにより第2空間11bの雰囲気を第1空間11aよりも高温となるように加熱した状態で、第1搬送ローラー20aにより第1空間11a内を搬送された被処理物96を、可変速搬送ローラー20cにより第1,第2搬送ローラー20a,20bよりも高速な可変速領域内の所定速度で搬送通路11c内を通過させて第2搬送ローラー20bまで搬送する。これにより、被処理物96は、第1空間11aから搬送通路11c内を通過して高温の第2空間11bに高速に搬送されることで、急速昇温される。そして、このときの昇温速度は、搬送通路11c内の搬送速度に応じて変化することになるが、この搬送速度は可変速領域の範囲内で変更可能である。そのため、被処理物96に応じて昇温速度を変更することができ、種々の被処理物96に対応した急速昇温が可能となる。なお、被処理物96を急速昇温する場合の適切な昇温速度は被処理物
96に含まれる材料や被処理物96の大きさなどによって異なる。そして、例えば昇温速度が低すぎると、被処理物96中の異なる材料間の収縮差により割れや剥離などが生じる場合がある。また、昇温速度が高すぎると、被処理物96の表面だけが先に焼成してしまうなど焼成が不均一になる場合がある。第1実施形態の熱処理炉10では、こうしたことを抑制して、種々の被処理物96に対応した急速昇温を可能とすることができる。
【0051】
また、搬送通路11cの隙間高さHを35mm以下とすることで、第2空間11bからの輻射が搬送通路11cを通過して第1空間11aへ到達することが抑制される。これにより、第1空間11aの雰囲気と第2空間11bの雰囲気との温度差を大きくしやすい。なお、可変速領域が同じ数値範囲の場合、第1,第2空間11a,11bの温度差が大きいほど、変更可能な昇温速度の範囲が広くなる。また、被処理物96を適切に急速昇温するには、昇温速度だけでなく昇温前後の温度差も適切な値とする必要がある。そのため、第1,第2空間11a、11bの温度差を大きくしやすくすることで、より多くの種類の被処理物96に対応した急速昇温が可能となる。また、隙間高さHを25mm以上とすることで、被処理物96やセッター95が通過する隙間を十分確保することができる。なお、隙間高さHには、セッター95や被処理物96の高さを考慮していない。しかし、セッター95や被処理物96が搬送通路11cを通過する際には、実際の搬送通路11cの鉛直方向の隙間はセッター95,被処理物96の高さ分だけさらに狭まることになる。そのため、セッター95や被処理物96の存在は、第1空間11aの雰囲気と第2空間11bの雰囲気との温度差を大きくしやすい方向に働く。したがって、隙間高さHにこれらの高
さを考慮しなくとも問題はない。
【0052】
さらに、搬送通路11cの搬送方向長さLを前記隙間高さHの3倍以上とすることで、第2空間11bからの輻射が搬送通路11cを通過して第1空間11bへ到達することがより抑制される。これにより、第1空間11aの雰囲気と第2空間11bの雰囲気との温度差を大きくしやすくなり、より多くの種類の被処理物96に対応した急速昇温が可能となる。
【0053】
さらにまた、可変速搬送ローラー20cは、被処理物96を搬送通路11c内で水平に搬送する複数のローラーを有しており、隔壁部30は、搬送通路11cの鉛直上側に位置する上部隔壁31と、搬送通路11cの鉛直下側に位置する下部隔壁35と、を有している。そして、下部隔壁35の上端部38a,38bが、搬送方向で複数の可変速搬送ローラー20cの間に位置し、且つ鉛直方向で複数の可変速搬送ローラー20cの下端と同じ高さに位置している。こうすることで、搬送方向に沿って搬送通路11cをみたときの可変速搬送ローラー20cの下端と下部隔壁35との上下の隙間をなくすことができる。これにより、第2空間11bからの輻射がこの隙間を通過して第1空間11aへ到達することが抑制される。したがって、第1空間11aの雰囲気と第2空間11bの雰囲気との温度差を大きくしやすくなり、より多くの種類の被処理物96に対応した急速昇温が可能となる。
【0054】
そしてまた、下部隔壁35は、上端部38a,38bを有する凸状部37a,37bを有しており、凸状部37a,37bは上端部38a,38bに向けて鉛直上側ほど搬送方向の幅が小さくなる形状をしている。こうすることで、搬送方向で複数の可変速搬送ローラー20cの間に下部隔壁35の上端部38a,38bを配置しつつ、下部隔壁35が熱膨張した場合などに可変速搬送ローラー20cと下部隔壁35(特に凸状部37a,37b)とが接触することを避けやすくなる。
【0055】
そしてまた、可変速搬送ローラー20cの可変速領域は、搬送通路11cを通過する際の被処理物96の昇温速度を少なくとも150℃/min〜1000℃/minの範囲で変更可能となるように定められた領域である。そして、熱処理において、被処理物96はセッター95に載置された状態で搬送される。このとき、セッター95を、それぞれ常温での物性値として、曲げ強度が100MPa〜250MPa、ヤング率が200GPa〜350GPa、熱膨張係数が4ppm/K〜5ppm/K、熱伝導率が50W/mK〜200W/mKであるものとすることで、変更可能な昇温速度の範囲内に亘ってセッターの耐熱性及び温度追従性が十分なものとなる。これにより、昇温速度が変更されても同じセッター95を用いて熱処理を行うことができ、昇温速度に応じた複数種類のセッター95を用意する必要がない。またセッター95を、Si結合SiC又は再結晶SiCからなるものとすると、比較的容易に曲げ強度,ヤング率,熱膨張係数,熱伝導率の上記数値範囲を満たすことができる。なお、本実施形態では、セッター95の搬送方向の長さは、搬送通路11cの搬送方向長さLよりも大きいものとした。このようなセッター95が搬送通路11cを通過する際には、セッター95のうち搬送方向上流側の一部が第2空間11bに到達しても搬送方向下流側の一部はまだ第1空間11a内に存在することになる。この場合、セッター95は上流側と下流側とで温度差が生じやすく、自身の温度分布が生じやすくなる。セッター95が上記の数値範囲のうち特に熱伝導率が50W/mK〜200W/mKを満たすようにすることで、このような場合でもセッター95の温度分布を抑制して、被処理物96をより均一に熱処理することができる。
【0056】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。
図4は、変形例の熱処理炉110の縦断面図である。熱処理炉110は、第2空間11bの搬送方向下流(後方)に、さらに第3空間1
11bを備える点、及び第2空間11bと第3空間111bとの間を仕切る隔壁130を備える点以外は、熱処理炉10と同様の構成である。なお、
図4では、熱処理炉110のうち搬送通路11cよりも搬送方向上流側の構成(例えば第1空間11aなど)については、図示を省略している。また、熱処理炉110については、上述した熱処理炉10と同じ構成要素については同じ符号を付して説明を省略し、以下には異なる構成要素について説明する。
【0057】
熱処理炉110は、炉体110aと、第3搬送ローラー120bと、ガス供給装置124と、流量調整弁128と、冷却パイプ140と、空冷ジャケット142,144と、冷媒供給源146,148と、を備えている。炉体10aは、外壁111と、外壁111内に配置された隔壁部130と、を備えている。外壁111は、外壁11をさらに後方に拡張したものであり、第2空間11bの後方に、内部の空間である搬送通路111c及び第3空間111bをこの順に有している。また、外壁111は、外壁111の後端面113に形成され第3空間111bから外部への出口となる開口115、を有している。第3空間111bは、外壁111及び隔壁部130で囲まれた空間である。搬送通路111cは、第2空間11bと第3空間111bとを連通させる空間であり、隔壁部130により形成されている。
【0058】
隔壁部130は、本体部132及びビーム133を備える
上部隔壁131と、本体部136及び凸状部137a,137bを備える
下部隔壁135と、を備えている(
図4の左側に示した破線枠S2の拡大部分参照)。凸状部137a,137bは頂上部である上端部138a,138bを備えている。この隔壁部130は、第2空間11bと第3空間111bとを仕切る点、及び可変速搬送ローラー20cに代えて第3搬送ローラー120bが搬送通路111cに配置されている点以外は、隔壁部30と同じ構成である。
【0059】
第3搬送ローラー120bは、搬送通路111c内及び第3空間111b内で所定の搬送方向である水平方向に沿って複数(本実施形態では14個)配置され、セッター95を搬送する搬送ローラーである。第3搬送ローラー120bが回転することによって、第2搬送ローラー20bで搬送されたセッター95は、搬送通路111c及び第3空間111b内を通過して開口115まで搬送方向に搬送される。
【0060】
ガス供給装置124は、ガス供給装置24と同様の構成であり、外壁111の底部のうち第3空間111bの後端面113側に形成されたガス供給口117を介して、第3空間111bに雰囲気ガスを供給する。なお、本実施形態では、ガス供給装置124は、例えば20℃の雰囲気ガスを供給して第3空間111bを冷却するものとした。
【0061】
流量調整弁128は、流量調整弁28と同様の構成であり、外壁111の天井部分のうち第3空間111bの前端面12側(前方)に形成された流出口119に接続されている。流量調整弁128は、この流出口119を介して第3空間111bの雰囲気を流出させる際の流量を調整する。
【0062】
冷却パイプ140は、第3搬送ローラー120bを上下から挟むように、第3空間111b内で外壁111の天井及び底部に複数(本実施形態では上下各3個)配置されている。冷却パイプは、冷媒(例えば空気など)が内部を通過可能であり、この冷媒により第3空間111b内を冷却する。
【0063】
空冷ジャケット142,144は、第3空間111bを冷却するものであり、外壁111の天井と底部とにそれぞれ配置されている。この空冷ジャケット142,144は、第3空間111b内に表面が露出しており、冷媒供給源146,148からの冷媒(空気)が内部を通過可能である。空冷ジャケット142,144は、この冷媒により第3空間1
11bに露出した表面を介して第3空間111bを冷却する。なお、空冷ジャケット142,144の第3空間111b内の露出面には多数の凹凸が形成されており、第3空間111bとの接触面積を増やして冷却効率が高められている。
【0064】
こうして構成された熱処理炉110では、被処理物96の熱処理が開始されると、コントローラー80が、ガス供給装置124からの雰囲気ガスの供給量及び温度、流量調整弁128を流れる雰囲気ガスの流量、冷却パイプ140,空冷ジャケット142,144を通過する冷媒(空気)の供給量及び温度などを制御する。これにより、第3空間111bの雰囲気は不活性ガス雰囲気になると共に、第3空間111bが第2空間11bの温度(例えば1200℃)よりも低い温度(例えば500℃〜650℃)になるように冷却される。なお、第1空間11a,第2空間11bの雰囲気の調整は、熱処理炉10と同様に行う。
【0065】
そして、第1空間11a,第2空間11b,第3空間111bの雰囲気の調整を完了した後、コントローラー80は、図示しないモーターに制御信号を出力して、第1搬送ローラー20a,第2搬送ローラー20b,可変速搬送ローラー20c,第3搬送ローラー120bを回転させる。そして、ユーザー又は図示しない搬送装置により開口14から被処理物96を炉体10a内に搬入する。搬入された被処理物96は、第1搬送ローラー20a,可変速搬送ローラー20c,第2搬送ローラー20bにより、第1空間11a,搬送通路11c,第2空間11b内をこの順で搬送され、この間に被処理物96の熱処理(焼成)が行われる。そして、焼成後の被処理物96は、第3搬送ローラー120bにより搬送通路111c及び第3空間111b内をこの順で搬送される。このとき、被処理物96は第2空間11bと第3空間111bとの温度差により、所定の降温速度で急速降温される。その後、被処理物96は開口115から搬出され、外気温度(例えば常温)まで降温される。なお、第3空間111bの温度(第2空間11bや外気との温度差)は、焼成後の被処理物96を適切に冷却できるように予め定めておく。例えば、第2空間11bと第3空間111bとの温度差が400℃〜600℃となるように第3空間111bの温度を定めてもよい。
【0066】
ここで、第2実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。なお、第2実施形態には、上述した第1実施形態と同様の対応関係が含まれているが、同じ対応関係については記載を省略して、第1実施形態とは異なる対応関係(主に第3空間111bに関連した構成要素と本発明との対応関係)について以下に記載する。本実施形態の第2空間11bが本発明の第1空間に相当し、第3空間111bが第2空間に相当し、搬送通路111cが搬送通路に相当し、隔壁部130が隔壁に相当し、炉体110aが炉体に相当し、第2ヒーター21b,ガス供給装置124,流量調整弁128,冷却パイプ140,空冷ジャケット142,144,冷媒供給源146,148が温度調整手段に相当し、第2ヒーター21bが第1温度調整手段及び第1加熱手段に相当し、ガス供給装置124,流量調整弁128,冷却パイプ140,空冷ジャケット142,144,冷媒供給源146,148が第2温度調整手段及び第2冷却手段に相当し、第2搬送ローラー20b及び第3搬送ローラー120bが搬送手段に相当する。
【0067】
以上説明した第2実施形態の熱処理炉110では、第1実施形態と同様の構成により、同様の効果が得られる。例えば、搬送通路111cの隙間高さHを35mm以下とすることで、第2,第3空間11b,111bの温度差を大きくしやすくなり、より多くの種類の被処理物96に対応した急速降温が可能となる。また、隙間高さHを25mm以上とすることで、被処理物96やセッター95が通過する隙間を十分確保することができる。さらに、搬送通路111cの搬送方向長さLを隙間高さHの3倍以上とすることで、第2空間11bの雰囲気と第3空間111bの雰囲気との温度差を大きくしやすくなる。
【0068】
さらにまた、下部隔壁135の上端部138a,138bが、搬送方向で複数の第3搬送ローラー120bの間に位置し、且つ鉛直方向で複数の第3搬送ローラー120bの下端と同じ高さに位置している。そのため、搬送方向に沿って搬送通路111cをみたときの第3搬送ローラー120bの下端と下部隔壁135との上下の隙間をなくすことができる。
【0069】
さらにまた、下部隔壁135は、上端部138a,138bを有する凸状部137a,137bを有しており、凸状部137a,137bは上端部138a,138bに向けて鉛直上側ほど搬送方向の幅が小さくなる形状をしている。そのため、搬送方向で複数の第3搬送ローラー120bの間に下部隔壁135の上端部138a,138bを配置しつつ、下部隔壁135が熱膨張した場合などに第3搬送ローラー120bと下部隔壁135(特に凸状部137a,137b)とが接触することを避けやすくなる。
【0070】
さらにまた、セッター95を、第1実施形態と同様の物性値(常温での、曲げ強度が100MPa〜250MPa、ヤング率が200GPa〜350GPa、熱膨張係数が4ppm/K〜5ppm/K、熱伝導率が50W/mK〜200W/mK)とすることで、第2空間11b,搬送通路111c,第3空間111bをセッター95が通過するときの降温の温度差や降温速度に対する耐熱性及び温度追従性が十分なものとなる。例えば、昇温速度と同様に150℃/min〜1000℃/minの範囲の降温速度において、セッター95の耐熱性及び温度追従性が十分なものとなる。
【0071】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0072】
例えば、上述した実施形態では、上端部38a,38bは、可変速搬送ローラー20cの下端と同じ高さに位置するものとしたが、上端部38a,38bが可変速搬送ローラー20cの下端より上に位置していてもよい。第2実施形態の上端部138a,138bについても同様である。
【0073】
上述した実施形態では、凸状部37a,37bは、左右方向に垂直な断面が三角形であり、鉛直上側ほど前後方向の幅が小さくなるように形成されているものとしたが、断面が三角形の場合のように鉛直上側ほど前後方向の幅が連続的に小さくなるものに限らず、ステップ関数的に小さくなるものとしてもよい。例えば、凸状部37a,37bは、左右方向に垂直な断面が階段状であってもよい。凸状部37a,37bは鉛直上側ほど前後方向の幅が小さくなるものに限らず、例えば左右方向に垂直な断面が四角形であるものとしてもよい。この場合も、凸状部37a,37bの搬送方向の幅を可変速搬送ローラー20cの搬送方向の間隔よりも小さくすれば、下部隔壁35の上端部を可変速搬送ローラー20cの間に配置し且つ可変速搬送ローラー20cの下端以上の高さに配置することはできる。第2実施形態の凸状部137a,137bについても同様である。
【0074】
上述した実施形態では、第1,第2ヒーター21a,21bにより第1,第2空間11a,11bの加熱を行うものとしたが、第1,第2空間11a,11bの加熱を行うものであれば他の加熱手段を用いてもよい。例えば、ヒーターに代えてガスバーナーなどを用いてもよい。あるいは、ガス供給装置22,24から高温の雰囲気を供給するものとして、この雰囲気ガスにより第1,第2空間11a,11bの加熱を行ってもよい。
【0075】
上述した実施形態では、隔壁部30で仕切られた第2空間11bの雰囲気を第1空間11aよりも高温にするものとしたが、これに限られない。隔壁で仕切られた第1空間の雰囲気と第2空間の雰囲気との温度が異なっていればよい。また、隔壁で仕切られた両空間の雰囲気の温度を異ならせるものであれば、空間を加熱する手段と空間を冷却する手段と
をどのように組み合わせてもよい。
【0076】
上述した第2実施形態では、隔壁130で仕切られた第2空間11bと第3空間111bとの温度差により、被処理物96の焼成後の急速降温を行うものとしたが、これに限られない。例えば、焼成後の被処理物96に対してアニール処理(例えば1000℃での熱処理など)を行った後に、急速降温を行うものとしてもよい。すなわち、このアニール処理を行った空間を本発明の第1空間とし、その次に被処理物96が搬送される空間を本発明の第2空間として、両空間を隔壁130で仕切り、この第2空間を第1空間より低い温度に調整して被処理物のアニール後の急速降温を行ってもよい。
【0077】
上述した第2実施形態では、可変速搬送ローラーではなく第3搬送ローラー120bを用いて搬送通路111c内での被処理物96の搬送を行うものとしたが、搬送通路11cと同様に可変速搬送ローラーで搬送してもよい。こうすれば、急速降温の降温速度を搬送通路111c内の搬送速度に応じて変化させることができ、より多くの種類の被処理物96に対応した急速降温が可能となる。
【0078】
上述した実施形態では、隔壁部30,130は炉体内の2つの空間を仕切るものとしたが、炉体の搬入口や搬出口となる位置にも隔壁部30,130と同様の隔壁部を配置してもよい。すなわち、隔壁部30,130と同様の隔壁部が、炉体内の空間と外部空間とを仕切るものとしてもよい。
【実施例】
【0079】
[実施例1]
実施例1の熱処理炉として、
図1〜3に示した熱処理炉10を作製した。この熱処理炉10は、隙間高さHを30.0mm、搬送方向長さLを100mmとした。また、搬送通路11cの左右方向長さを700mmとした。また、可変速搬送ローラー20cの可変速領域を90mm/min〜600mm/minとした。
【0080】
[比較例1]
隙間高さHを36mm、搬送方向長さLを50mmとした点以外は、実施例1と同様の熱処理炉10を作製し、比較例1とした。
【0081】
[実施例2]
実施例2の熱処理炉として、
図4に示した熱処理炉110を作製した。この熱処理炉110は、搬送通路111cの隙間高さHを30.0mm、搬送方向長さLを100mmとした。また、搬送通路111cの左右方向長さを700mmとした。
【0082】
実施例1の熱処理炉10において、ガス供給装置22,24により第1,第2空間11a,11bの雰囲気を窒素雰囲気とした。その後、ガス供給装置22,24からのガスの供給及び流量調整弁26,流量調整弁28からのガスの流出がいずれもない状態にした。この状態で、熱処理時の第1空間11aの温度(目標温度)を700℃、第2空間11bの温度(目標温度)を1200℃として、コントローラー80により第1,第2ヒーター21a,21bの出力を制御したところ、第1,第2空間11a,11bのいずれの雰囲気の温度も、目標温度に調整できた。なお、第1,第2空間11a,11bの雰囲気の温度は、いずれも空間内の中心で測定した温度とした。
【0083】
比較例1の熱処理炉10において、ガス供給装置22,24により第1,第2空間11a,11bの雰囲気を窒素雰囲気とした。その後、ガス供給装置22,24からのガスの供給及び流量調整弁26,流量調整弁28からのガスの流出がいずれもない状態にした。この状態で、熱処理時の第1空間11aの温度(目標温度)を800℃、第2空間11b
の温度(目標温度)を1200℃として、コントローラー80により第1,第2ヒーター21a,21bの出力を制御した。第2空間11bの温度は目標温度の1200℃に調整できたが、第1空間11aの温度は、第1ヒーター21aの出力を0%としても、900℃にしかならず、目標温度の800℃にはならなかった。すなわち、比較例1では第1,第2空間11a,11bの温度差が300℃を超えなかった。
【0084】
実施例2の熱処理炉110において、ガス供給装置24,124により第2,第3空間11b,111bの雰囲気を窒素雰囲気とした。その後、ガス供給装置24,124からのガスの供給及び流量調整弁28,128からのガスの流出がいずれもない状態にした。この状態で、熱処理時の第2空間11bの温度(目標温度)を1000℃、第3空間111bの温度(目標温度)を300℃として、コントローラー80により第2ヒーター21bの出力と冷却パイプ140及び空冷ジャケット142,144を通過する空気の流量及び温度を制御した。その結果、第2,第3空間11b,111bのいずれの雰囲気の温度も、目標温度に調整できた。なお、第2,第3空間11b,111bの雰囲気の温度は、いずれも空間内の中心で測定した温度とした。
【0085】
以上のことから、実施例1では隙間高さHを25mm以上35mm以下、搬送方向長さLを隙間高さHの3倍以上としたことで、第1,第2空間11a,11bの温度差を比較例1よりも大きい500℃にすることができていると考えられる。
【0086】
また、実施例2でも、隙間高さHを25mm以上35mm以下、搬送方向長さLを隙間高さHの3倍以上としたことで、第2,第3空間11b,111bの温度差を700℃にすることができていると考えられる。
【0087】
実施例1の熱処理炉10において、熱処理時の第1空間11aの温度を700℃、第2空間11bの温度を1200℃に調整した状態で、被処理物96を載置したセッター95を開口14から開口15まで搬送した。このとき、搬送通路11cを通過する際の搬送速度及び被処理物96の昇温速度を測定した。具体的には、セッター95はSi結合SiC製のセッターとし、前後長さ(搬送方向長さ)が250mm,左右長さが250mm,厚さが4mmのものを用いた。セッター95は、常温での物性値として、曲げ強度が250MPa、ヤング率が350GPa、熱膨張係数が4.5ppm/K、熱伝導率が150W/mKであった。被処理物96は、焼成後にセラミックスコンデンサのチップとなるものとし、セッター95の上面の中央に載置した。また、炉体10a内のうち隔壁部30から搬送方向上流に100mm離れた位置と、隔壁部30から搬送方向下流に150mm離れた位置と、にセッター95を検知する非接触センサーを配置した。そして、セッター95を搬送して、上流側のセンサーがセッター95を検知したとき(=セッター95の下流端が隔壁部30から搬送方向上流に100mm離れた位置にきたとき)と、下流側のセンサーがセッター95を検知したとき(=セッター95の下流端が隔壁部30から搬送方向下流に150mm離れた位置にきたとき)の2点における被処理物96の温度及び時刻を測定した。この2点における被処理物96の温度差及び時間差から、被処理物96の昇温速度を算出した。このような昇温速度の算出を、可変速搬送ローラー20cの搬送速度を変えて複数回行った。可変速搬送ローラー20cの搬送速度を100mm/min〜600mm/minの範囲で変えて複数回昇温速度を測定したところ、被処理物96の昇温速度は167℃/min〜1000℃/minの範囲で変化していた。また、搬送されたセッター95はいずれの測定でも同じものを用いたが、割れなどは生じなかった。