(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6186042
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】p型金属酸化物半導体材料及びトランジスタ
(51)【国際特許分類】
H01L 29/786 20060101AFI20170814BHJP
H01L 21/363 20060101ALI20170814BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
H01L29/78 618B
H01L21/363
H01L29/78 618Z
【請求項の数】10
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-99185(P2016-99185)
(22)【出願日】2016年5月18日
(65)【公開番号】特開2017-103446(P2017-103446A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2016年5月18日
(31)【優先権主張番号】104140699
(32)【優先日】2015年12月4日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】邱 顯浩
(72)【発明者】
【氏名】周 子▲き▼
(72)【発明者】
【氏名】趙 文軒
(72)【発明者】
【氏名】鄭 信民
(72)【発明者】
【氏名】張 睦東
(72)【発明者】
【氏名】黄 天恒
(72)【発明者】
【氏名】蔡 任豐
【審査官】
竹口 泰裕
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−228516(JP,A)
【文献】
特開2010−212285(JP,A)
【文献】
特開2012−216780(JP,A)
【文献】
特開2013−58637(JP,A)
【文献】
特開2010−219536(JP,A)
【文献】
特開2015−129079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/336、29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlxGe(1−x)Oy(0<x≦0.6であり、1.0≦y≦2.0)で構成されたp型金属酸化物半導体材料。
【請求項2】
アモルファスである、請求項1に記載のp型金属酸化物半導体材料。
【請求項3】
抵抗率が10−3Ω・cm〜103Ω・cmである、請求項1に記載のp型金属酸化物半導体材料。
【請求項4】
正孔移動度が0.5cm2V−1s−1〜75cm2V−1s−1である、請求項1に記載のp型金属酸化物半導体材料。
【請求項5】
正孔キャリア濃度が1013cm−3〜1021cm−3である、請求項1に記載のp型金属酸化物半導体材料。
【請求項6】
ゲート電極と、
ゲート絶縁層によって前記ゲート電極から隔てられたチャネル層と、
前記チャネル層の両側に接触するソース電極及びドレイン電極と、
を含むトランジスタであって、
前記チャネル層は、AlxGe(1−x)Oy(0<x≦0.6であり、1.0≦y≦2.0)で構成されたp型金属酸化物半導体材料である、トランジスタ。
【請求項7】
前記p型金属酸化物半導体材料はアモルファスである、請求項6に記載のトランジスタ。
【請求項8】
前記p型金属酸化物半導体材料の抵抗率は、10−3Ω・cm〜103Ω・cm〜である、請求項6に記載のトランジスタ。
【請求項9】
前記p型金属酸化物半導体材料の正孔移動度は、0.5cm2V−1s−1〜75cm2V−1s−1である、請求項6に記載のトランジスタ。
【請求項10】
前記p型金属酸化物半導体材料の正孔キャリア濃度は、1013cm−3〜1021cm−3である、請求項6に記載のトランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術分野は、p型金属酸化物半導体材料に関し、より詳細には、p型金属酸化物半導体材料の組成物及び応用に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ技術の急速な発展に伴い、様々な次世代製品及び材料が登場している。これらの製品においては、例えば透明性及び製品のインターオペラビリティ(interoperability)などの長所のために、透過型ディスプレイ(transparent displays)及びこの関連技術が近年特に注目されている。金属酸化物半導体材料は、透明薄膜トランジスタを製造するのに用いることができる。金属酸化物半導体材料で製造される透明薄膜トランジスタは、アモルファスシリコンで製造される薄膜トランジスタに比べて、薄膜トランジスタのより小さいサイズ、より高い開口率、高精細化、改善された解像度、及び、より高いキャリア移動度(例えば電子移動度)を実現し得る。さらに、ディプレイにシンプルな外部回路を組み込むことができるので、電子デバイスをより軽く、より薄くすることができ、且つ、電力をより節約できるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】中国特許出願公開第101840863号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年発展してきている透明金属酸化物(transparent metal oxide)半導体材料は概ねn型であり、従来のp型金属酸化物半導体材料は、より不安定で再現性がより低いという性質を有している。このため、従来のn型金属酸化物半導体材料と組み合わせて用いることの可能な新規なp型金属酸化物半導体材料が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一実施形態では、Al
xGe
(1−x)O
y(0<x≦0.6であり、1.0≦y≦2.0)で構成されたp型金属酸化物半導体材料を提供する。
【0006】
本開示の一実施形態では、ゲート電極と、ゲート絶縁層によってゲート電極から隔てられたチャネル層と、チャネル層の両側に接触するソース電極およびドレイン電極と、を含むトランジスタであって、チャネル層が、Al
xGe
(1−x)O
y(0<x≦0.6であり、1.0≦y≦2.0)で構成されたp型金属酸化物半導体材料である、トランジスタを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、p型金属酸化物半導体材料の組成物及びこれを用いるデバイスが得られる。
【0008】
以下の実施形態において、添付の図面を参照しながら詳細な説明を行う。
【0009】
添付の図面を参照しながら以下の詳細な説明及び実施例を読むことによって、本開示の内容をより十分に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】本発明の一実施形態に係るアルミニウム置換ゲルマニウム酸化物(Al
xGe
(1−x)O
1)のシミュレーション及び計算結果を示す図である。
【
図1B】本発明の一実施形態に係るアルミニウム置換ゲルマニウム酸化物(Al
xGe
(1−x)O
2)のシミュレーション及び計算結果を示す図である。
【
図2】一実施形態に係るトランジスタを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の詳細な記載においては、説明の目的で、開示された実施形態が十分に理解されるように多数の特定の詳細が記載される。しかしながら、これらの特定の詳細がなくとも、一つ以上の実施形態が実施可能であることは明らかであろう。また、図を簡潔にするため、周知の構造及び装置については概略的に示されている。
【0012】
本開示の実施形態では、アルミニウム置換ゲルマニウム酸化物(aluminum substituted germanium oxide)(GeOまたはGeO
2)のp型金属酸化物半導体材料を形成する条件は、予備(preliminary)のシミュレーション及び計算手順(procedures)により得られる。次いで、アルミニウム置換ゲルマニウム酸化物のp型金属酸化物半導体材料を、成膜(deposition)又はソフト化学プロセスによって合成する。
【0013】
かかるシミュレーション及び計算手順は、以下のように示される。本開示では、VASP(Vienna Ab−initio Simulation Package)を用いて、アルミニウム置換ゲルマニウム酸化物のp型金属酸化物半導体材料におけるエネルギーに対する状態密度(density of states,DOS)の変化を計算した。その結果が、
図1A及び
図1Bに示されている。
【0014】
図1Aは、VASPシミュレーション及び計算手順から得られた例示的なアルミニウム置換ゲルマニウム酸化物(GeO)の状態密度対エネルギーのグラフを示している。シミュレーション及び計算手順から、アルミニウム置換ゲルマニウム酸化物のフェルミ準位が価電子帯(valence band, VB)にシフトしていることが分かるので、このアルミニウム置換ゲルマニウム酸化物は、p型金属酸化物半導体材料である。ゲルマニウム酸化物におけるGe原子の1/16は、Al原子で置換されるように設定されている(すなわち、Al
1Ge
15O
16)ことに留意されたい。実際にシミュレーション及び計算手順を実行する際、過大なデータや長い計算時間等の問題を回避するために、通常、選択した置換基の比率の予備計算を行う。予備計算の結果を確認した後に、置換基の含有量を調整して合成工程を行い、予備計算の結果を検証する。ここで、選択した置換基の比率以外では、アルミニウム置換ゲルマニウム酸化物(GeO)がp型半導体の特性を示さないということではない。
【0015】
図1Bは、VASPシミュレーション及び計算手順から得られた例示的なアルミニウム置換ゲルマニウム酸化物(GeO
2)の状態密度対エネルギーのグラフを示している。シミュレーション及び計算手順から、アルミニウム置換ゲルマニウム酸化物のフェルミ準位が価電子帯(VB)にシフトしていることが分かるので、このアルミニウム置換ゲルマニウム酸化物は、p型金属酸化物半導体材料である。ゲルマニウム酸化物におけるGe原子の1/16は、Al原子で置換されるように設定されている(すなわち、Al
1Ge
15O
32)ことに留意されたい。実際にシミュレーション及び計算手順を実行する際、過大なデータや長い計算時間等の問題を回避するために、通常、選択した置換基の比率の予備計算を行う。予備計算の結果を確認した後に、置換基の含有量を調整して合成工程を行い、予備計算の結果を検証する。ここで、選択した置換基の比率以外では、アルミニウム置換ゲルマニウム酸化物(GeO
2)がp型半導体の特性を示さないということではない。
【0016】
一実施形態では、アルミニウム置換ゲルマニウム酸化物を、上述したシミュレーション結果に基づいてスパッタリングにより形成することができ、アルミニウム置換ゲルマニウム酸化物は、p型金属酸化物半導体材料となり得る。先ず、成膜されるワーク(work piece)をスパッタチャンバー(sputtering chamber)に入れる。次いで、酸素及びアルゴンのガス混合物をスパッタチャンバー内に導入し、ゲルマニウムターゲット及びアルミニウムターゲットをスパッタして、アルミニウム置換ゲルマニウム酸化物を形成する。酸素とアルゴンとのモル比は5:95〜10:90であり、当該モル比は、p型金属酸化物半導体材料内の酸素含有量によって決まる。一実施形態では、ゲルマニウムターゲット及びアルミニウムターゲットのスパッタの出力、ゲルマニウムターゲットとワークとの間の距離、並びに、アルミニウムターゲットとワークとの間の距離は、所定のAl/Geの比率に基づいて選択される。スパッタリング中のワークの温度は、半導体材料における置換基の拡散運動エネルギー(diffusion kinetic energy)を提供するように設定されており、この温度は、成膜の配列(deposition arrangement)に有利な温度でもある。
【0017】
別の実施形態では、アルミニウム塩(硝酸塩又はクエン酸塩)、ゲルマニウム塩(硝酸塩又はクエン酸塩)、及び、キレート剤(例えば酒石酸)を量り取り、溶液中で混合する。次いで、この溶液を加熱し溶媒を蒸発させて、溶液をゲル状にする。そして、このゲルを乾燥して粉末にする。この粉末を焼結し、金属錯体を酸化させて、金属酸化物粉末を作る。続いて、圧縮成形(compression molding)、射出成形(injection molding)、冷間等方圧プレス(cold isostatic press,CIP)、及び、鋳込成形(slip casting)等の関連する工程を行い、焼結工程及び機械加工工程をさらに行って、アルミニウム置換ゲルマニウム酸化物のバルク又はターゲットを作製することができる。このバルク又はターゲットをスパッタ(又は類似する手段)して、アルミニウム置換ゲルマニウム酸化物のp型金属酸化物半導体材料薄膜を形成し、次いで、電子デバイス(例えば透過型ディスプレイ、透明電界効果トランジスタ、発光ダイオード若しくは透明集積回路半導体素子又はその他の電子デバイス)の作製に用いることができる。
【0018】
上述した工程により作られるp型金属酸化物半導体材料は、Al
xGe
(1−x)O
y(0<x≦0.6であり、1.0≦y≦2.0)で構成されている。x又はyが上記範囲以外の場合には、アルミニウム置換ゲルマニウムは、p型半導体の特性を有しない。一実施形態では、p型金属酸化物半導体材料はアモルファスであり、この抵抗率は10
−3Ω・cm〜10
3Ω・cm、正孔移動度(hole mobility)は0.5cm
2V
−1s
−1〜75cm
2V
−1s
−1、正孔キャリア濃度(hole carrier concentration)は10
13cm
−3〜10
21cm
−3である。
【0019】
一実施形態では、p型金属酸化物半導体材料は、トランジスタ等の電子デバイスに用いられる。
図2に示すように、ゲート電極20を基板10上に形成することができる。次に、ゲート絶縁材30をゲート電極20上に形成する。次いで、チャネル層40を、ゲート電極20に対応するようにゲート絶縁層30上に形成することができ、さらに、保護層60を、チャネル層40の中央部上に形成することができる。そして、保護層60及びチャネル層40の上に金属層を形成してから、パターン化して、チャネル層40の両側に接触すると共に各々の上に重なるようにソース電極50及びドレイン電極52を形成する。このようにして、トランジスタ1が完成する。チャネル層40の材料は、上述したp型金属酸化物半導体材料(Al
xGe
(1−x)O
y)とすることができる。
図2におけるトランジスタ1は例示に過ぎず、p型金属酸化物半導体材料(Al
xGe
(1−x)O
y)が、他のトランジスタのチャネル層又は他の電子デバイスのp型半導体層として使用可能であることが理解されるべきである。
【0020】
以下に、当該分野における当業者が容易に理解できるように、添付の図面を参照しながら例示的な実施形態を詳細に記載する。本発明の概念は、本明細書にて述べられた例示的な実施形態に限定されることなく、様々な形で具体化され得る。明確にするために、既知の部分についての記述を省いており、全体を通して、類似する参照番号が類似の構成要素に言及しているものとする。
【実施例】
【0021】
実施例1
【0022】
試料の作製にはオフアクシスDC反応性マグネトロンスパッタリング法を採用し、アルミニウム置換ゲルマニウム酸化物薄膜を成長させた。純度99.999%、直径3インチ、厚さ6mmのゲルマニウム金属ターゲットと、純度99.9999%、直径2インチ、厚さ6mmのアルミニウム金属ターゲットとは、Ultimate materials Technology Co.Ltd製のものを用いた。スパッタリング法の反応ガスは、純度の高い酸素(O
2、99.9995%)とアルゴン(Ar、99.999%)との混合物とした。先ず、ガラス基板(Eagle XG、Corning Glass社製)をロードロックチャンバー内のチャックに入れ、次いで、当該ロードロックチャンバーを真空引きした。次いで、このガラス基板をスパッタの主チャンバーに移し、当該主チャンバーを5×10
−6torrまで真空引きした後、マスフローコントローラ(MFC)でアルゴンを当該主チャンバー内に導入し、プレスパッタリング(pre−sputtering)ステップを10分間行ってゲルマニウムターゲット及びアルミニウムターゲット表面の酸化物および汚れを除去した。プレスパッタリングの後、酸素及びアルゴンを混ぜてMFCによりチャンバー内に導入し、次いで、シャッターを開けてスパッタを開始し、アモルファスアルミニウム置換ゲルマニウム酸化物薄膜(Al
xGe
(1−x)O
1)を得た。アルミニウム置換比率が異なる薄膜ごとに、抵抗率、正孔移動度及び正孔キャリア濃度を表1に示す。表1における薄膜のアルミニウム置換比率は、ICP−Massにより決定したものである。薄膜の抵抗率、正孔移動度及び正孔キャリア濃度を、ホール効果測定システム(Nanometrics, HL5500PC)で測定した。基本的なスパッタリングファクター(basic sputtering factors)は以下のとおりである。ガラス基板とゲルマニウムターゲットとの距離は7.2cm、ガラス基板とアルミニウムターゲットとの距離は13.5cm、スパッタ時間は10分、アルゴンと酸素の総流量は20sccm、ガス混合物に酸素が占める割合は5%、スパッタ圧(sputtering pressure)は20mtorr、スパッタ時の基板の温度は約380℃、ゲルマニウムターゲットのスパッタ出力(sputtering power)は80W、アルミニウムターゲットのスパッタ出力は0〜200W。
【0023】
【表1】
【0024】
表1に示すように、アルミニウム置換ゲルマニウム酸化物薄膜(Al
xGe
(1−x)O
1)は、p型半導体材料であった。
【0025】
実施例2
【0026】
実施例2は実施例1と類似しており、実施例2で相違しているのは、酸素がガス混合物の10%を占める点である。その他の工程及び測定は実施例1と同様であるため、関連する記載については省くものとする。実施例2で形成されたアルミニウム置換ゲルマニウム酸化物薄膜(Al
xGe
(1−x)O
2)は、アモルファスp型半導体材料であった。アルミニウム置換比率が異なる薄膜ごとに、抵抗率、正孔移動度及び正孔キャリア濃度を表2に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
表2に示すように、アルミニウム置換ゲルマニウム酸化物薄膜(Al
xGe
(1−x)O
2)は、p型半導体材料であった。
【0029】
開示した方法及び物質に各種の変更及び変形を加え得ることが当業者には明らかであろう。明細書及び実施例は、単に例示として見なされることを意図しており、本発明の真の範囲は、添付の特許請求の範囲及びこれらの均等物によって示される。
【符号の説明】
【0030】
1…トランジスタ
10…基板
20…ゲート電極
30…ゲート絶縁層
40…チャネル層
50…ソース電極
52…ドレイン電極
60…保護層