特許第6186089号(P6186089)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6186089
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】鉄道車両用の操舵台車
(51)【国際特許分類】
   B61F 5/46 20060101AFI20170814BHJP
【FI】
   B61F5/46
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-564673(P2016-564673)
(86)(22)【出願日】2015年12月9日
(86)【国際出願番号】JP2015006133
(87)【国際公開番号】WO2016098316
(87)【国際公開日】20160623
【審査請求日】2017年1月19日
(31)【優先権主張番号】特願2014-254688(P2014-254688)
(32)【優先日】2014年12月17日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中尾 俊一
(72)【発明者】
【氏名】楠 武宜
【審査官】 志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−054404(JP,A)
【文献】 特開平09−226576(JP,A)
【文献】 米国特許第4640198(US,A)
【文献】 特開2007−216876(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第0365489(EP,A2)
【文献】 特開2011−213218(JP,A)
【文献】 特開2010−023743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 5/00 − 5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車体を支持するための台車枠と、
車幅方向に沿って延びる車軸及び前記車軸の両側に設けられた車輪を有する輪軸と、
前記輪軸又は前記輪軸と操舵方向に一体に変位する部材からなる押圧対象部材を押圧して前記輪軸を前記台車枠に対して操舵させる操舵装置と、を備え、
前記操舵装置は、前記押圧対象部材を押圧するために前記押圧対象部材に離間可能に接触する押圧部材と、前記押圧部材を前記押圧対象部材に対して接触及び離間させる動力機構とを含む少なくとも1つの操舵ユニットを有する、鉄道車両用の操舵台車。
【請求項2】
前記押圧対象部材は、前記輪軸の前記車輪であり、
前記操舵装置は、前記動力機構の動力により前記押圧部材が前記車輪を押圧することで前記輪軸を操舵させる、請求項1に記載の鉄道車両用の操舵台車。
【請求項3】
前記操舵装置は、前記動力機構の動力により前記押圧部材が前記車輪の踏面を押圧することで前記輪軸を操舵させる、請求項2に記載の鉄道車両用の操舵台車。
【請求項4】
前記押圧部材は、前記車輪に接触したときに前記車輪とともに回転可能なローラである、請求項2又は3に記載の鉄道車両用の操舵台車。
【請求項5】
前記押圧部材は、低摩擦材料で形成されている、請求項2乃至4のいずれか1項に記載の鉄道車両用の操舵台車。
【請求項6】
前記操舵装置は、複数の前記操舵ユニットを有し、
前記複数の操舵ユニットは、前記押圧対象部材のうち車幅方向一側の第1部分を離間可能に押圧する第1操舵ユニットと、前記押圧対象部材のうち車幅方向他側の第2部分を離間可能に押圧する第2操舵ユニットとを含み、
前記第1操舵ユニットと前記第2操舵ユニットとは、互いに異なる向きに前記押圧対象部材を押圧して前記輪軸を操舵させる、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の鉄道車両用の操舵台車。
【請求項7】
前記動力機構は、アクチュエータである、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の鉄道車両用の操舵台車。
【請求項8】
前記動力機構は、前記車体に対する前記台車枠の鉛直軸回りの相対回動に応じて動作するリンク機構である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の鉄道車両用の操舵台車。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輪軸を台車枠に対して操舵させる操舵装置を有する鉄道車両用の操舵台車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両の曲線通過性能を向上させるために、アクチュエータを用いた操舵機構により曲線軌道の曲率に合わせて強制操舵させる操舵台車が提案されている。例えば、特許文献1の台車では、アクチュエータの一端部を台車枠に連結し、アクチュエータの他端部を軸箱に連結し、油圧によりアクチュエータを伸縮動作させることで、軸箱に支持された輪軸を強制操舵させる。また、ボルスタ(又は車体)と軸箱とに操舵リンクが連結され、曲線軌道の曲率に合わせて受動的に操舵させる操舵台車も知られている。例えば、特許文献2の台車では、車両の曲線通過時にボルスタが台車枠に対してヨーイング方向に回動するのに操舵リンクが機械的に連動することで軸箱が車両長手方向に移動させられ、輪軸が操舵される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−226576号公報
【特許文献2】特開2013−23094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の操舵台車では、アクチュエータの他端部が軸箱に連結されているため、アクチュエータが故障して固着した場合には、故障したアクチュエータが輪軸の操舵方向の動きを阻害することとなる。また、特許文献2の操舵台車でも、操舵リンクが故障した場合には、操舵リンクが輪軸の操舵方向の動きを阻害するかもしれない。このように、操舵装置の動力機構に何等か不具合が生じると、曲線通過時にレールから受ける横圧によって輪軸が自然に操舵することも困難となり、車輪のレールから受ける横圧が増大するため、車輪のフランジに摩耗が生じ易くなるとともに、車輪とレールとの間の摩擦によって、きしり音が生じる可能性もある。
【0005】
そこで本発明は、操舵装置の動力機構に故障等が生じたときの台車性能を良好に保つことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る鉄道車両用の操舵台車は、鉄道車両の車体を支持するための台車枠と、車幅方向に沿って延びる車軸及び前記車軸の両側に設けられた車輪を有する輪軸と、前記輪軸又は前記輪軸と操舵方向に一体に変位する部材からなる押圧対象部材を押圧して前記輪軸を前記台車枠に対して操舵させる操舵装置と、を備え、前記操舵装置は、前記押圧対象部材を押圧するために前記押圧対象部材に離間可能に接触する押圧部材と、前記押圧部材を前記押圧対象部材に対して接触及び離間させる動力機構とを含む少なくとも1つの操舵ユニットを有する。
【0007】
前記構成によれば、動力機構により押圧部材に押圧対象部材を押圧させることで輪軸が積極的に操舵される一方、輪軸を操舵させる必要ないときには、動力機構により押圧部材が押圧対象部材から離間させられる。このため、もし押圧部材が押圧対象部材から離間した状態で動力機構が故障等したとしても、押圧部材は輪軸の動きを規制せず、輪軸が操舵方向に動くことは許容される。それゆえ、動力機構が故障等した場合でも、曲線通過時にレールから受ける横圧による自然現象の範囲で輪軸がレールに沿って操舵することが可能となる。従って、操舵装置の動力機構に故障等が生じたときの台車性能を良好に保つことができる。
【発明の効果】
【0008】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、操舵装置の動力機構に故障等が生じたときの台車性能を良好に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る鉄道車両用の操舵台車の平面図である。
図2図1に示す操舵台車の側面図である。
図3図1に示す操舵台車の輪軸を操舵するための操舵システムのブロック図である。
図4図1に示す操舵台車を搭載した鉄道車両の曲線通過状態を説明する平面模式図である。
図5】第2実施形態に係る鉄道車両用の操舵台車の平面図である。
図6図5に示す操舵台車の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態を図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、鉄道車両が進行する方向であって車体が延びる長さ方向を車両長手方向とし、それに直交する横方向を車幅方向として定義する(なお、実施形態においては、車両長手方向は前後方向とも称し、車幅方向は左右方向とも称しえる。)。また、図面中において同一の構成については同一符号を付している。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る鉄道車両用の操舵台車1の平面図である。図2は、図1に示す操舵台車1の側面図である。図1及び2に示すように、第1実施形態の操舵台車1は、鉄道車両の車体2を空気バネ3を介して支持する台車枠4を備える。空気バネ3は、車体2側に接続される上壁部3aと、台車枠4側に接続される下壁部3bと、上壁部3aと下壁部3bとを弾性的に結合する弾性部3cとを備える。空気バネ3は、上壁部3aと下壁部3bとが弾性部3cを介して水平方向に相対変位可能なように構成され、それにより車体2と台車枠4とがヨーイング方向に相対変位可能となっている。
【0012】
台車枠4は、車幅方向に延びて一対の空気バネ3が載せられる横梁4aと、横梁4aの車幅方向の両端部に接続されて車両長手方向に延びる一対の側梁4bとを有し、平面視でH形状を呈する。横梁4aの前方及び後方には、それぞれ車幅方向に沿って延びる輪軸5A,5Bが配置されている。輪軸5A,5Bは、車幅方向に沿って延びる車軸6と、車軸6の左右両側に夫々設けられた第1車輪7及び第2車輪8とを有する。なお、以下では、説明の都合上、車両進行方向を一方の向きに決めて、5Aを前輪側の輪軸、5Bを後輪側の輪軸とする。
【0013】
車軸6の車幅方向の両端部には、第1及び第2車輪7,8よりも車幅方向外側において車軸6を回転自在に支持する軸受9が設けられ、その軸受9は軸箱10に収容されている。軸箱10は、軸箱支持装置11(サスペンション)によって側梁4bに弾性結合されて懸架されている。軸箱支持装置11は、軸箱10と側梁4bとの間に介設されて鉛直方向に伸縮するコイルバネ12(軸バネ)と、軸箱10から一体に車両長手方向中央側に向けて延びて側梁4bに回動可能に連結される軸梁13とを備える。軸箱支持装置11は、いわゆる軸梁式である。
【0014】
軸梁13の先端部13aは、側梁4bのブラケット部4baに対してゴムブッシュ14を介して連結されている。軸梁13は、ゴムブッシュ14の弾性変形により、側梁4bに対してヨーイング方向に相対変位することが許容されている。即ち、軸梁13と一体にヨーイング方向に変位する部材である軸箱10及び輪軸5が、台車枠4に対してヨーイング方向に相対変位することが許容されている。台車枠4には、第1及び第2車輪7,8の踏面に押し付け可能な制輪子15aを有するブレーキ装置15が搭載されている。
【0015】
台車枠4には、第1及び第2車輪7,8(押圧対象部材)を押圧して一対の輪軸5A,5Bを台車枠4に対して操舵させる操舵装置16が搭載されている。操舵装置16の構成及び配置は、横梁4aを基準にして車両長手方向に対称(横梁4aを基準に線対称)であるので、以下では、操舵装置16のうち車両長手方向一方側、すなわち前輪側の輪軸5Aを操舵させる構成等について代表して説明する。
【0016】
操舵装置16は、輪軸5Aを中立位置(非旋回位置)から一方向に操舵させるための第1及び第2操舵ユニット21,22と、輪軸5Aを中立位置(非旋回位置)から他方向に操舵させるための第3及び第4操舵ユニット23,24とを備える。第1〜第4操舵ユニット21〜24は、第1及び第2車輪7,8を押圧するために第1及び第2車輪7,8に離間可能に接触する第1〜第4押圧部材21a〜24aと、第1〜第4押圧部材21a〜24aを車輪7,8に対して接触及び離間させるように駆動する第1〜第4油圧シリンダ21b〜24b(アクチュエータ:動力機構)とを備える。
【0017】
第1〜第4油圧シリンダ21b〜24bは、油圧により進退するロッド21ba〜24baを有する。第1〜第4押圧部材21a〜24aは、ロッド21ba〜24baに回転自在に支持されたローラであり、車輪7,8に接触したときに車輪7,8の回転に従って回転する。第1〜第4押圧部材21a〜24aは、ブレーキ装置15の制輪子15aの摺動面の材料よりも摩擦係数が低い低摩擦材料で形成されている。このように、第1〜第4操舵ユニット21〜24自体は、互いに同じ構成である。
【0018】
第1操舵ユニット21は、第1車輪7の踏面(第1部分)に車両長手方向中央側から対向するように配置されている。第1油圧シリンダ21bは、台車枠4にブラケット17を介して固定されている。第1油圧シリンダ21bのロッド21baは、車両長手方向に伸縮する。第1油圧シリンダ21bのロッド21baが最収縮位置にあるとき、運行時のレールの最小曲線において、第1押圧部材21aは第1車輪7の踏面から離間している。第1油圧シリンダ21bのロッド21baが伸長することで、第1押圧部材21aは第1車輪7の踏面を車両長手方向外方に押して第1車輪7を変位させる。
【0019】
第2操舵ユニット22は、第2車輪8の外側面のうち車両長手方向中央側の部分(第2部分)に車幅方向外側から対向するように配置されている。第2油圧シリンダ22bは、台車枠4(側梁4b)に固定されている。第2油圧シリンダ22bのロッド22baは、車幅方向に伸縮する。第2油圧シリンダ22bのロッド22baが最収縮位置にあるとき、運行時のレールの最小曲線において、第2押圧部材22aは第2車輪8の外側面から離間している。第2油圧シリンダ22bのロッド22baが伸長することで、第2押圧部材22aは第2車輪8の外側面のうち車両長手方向中央側の領域を車幅方向内方に押して第2車輪8を変位させる。
【0020】
このように、第1及び第2油圧シリンダ21b,22bのロッド21ba,22baが伸長し、第1及び第2押圧部材21a,22aが第1及び第2車輪7,8を押すことで、輪軸5が中立位置から一方向に向けて強制操舵させられる。即ち、第1操舵ユニット21と第2操舵ユニット22とが、互いに異なる向き(本例では、直交する向き)に輪軸5を押圧することで、輪軸5Aが一方向に円滑に操舵されることになる。
【0021】
第3及び第4操舵ユニット23,24は、第1及び第2操舵ユニット21,22に対して車幅方向に対称に配置されている。第3操舵ユニット23は、第2車輪8の踏面に車両長手方向中央側から対向するように配置されている。第3油圧シリンダ23bは、台車枠4にブラケット18を介して固定されている。第3油圧シリンダ23bのロッド23baは、車両長手方向に伸縮する。第3油圧シリンダ23bのロッド23baが最収縮位置にあるとき、運行時のレールの最小曲線において、第3押圧部材23aは第2車輪8の踏面から離間している。第3油圧シリンダ23bのロッド23baが伸長することで、第3押圧部材23aは第2車輪8の踏面を車両長手方向外方に押して第2車輪8を変位させる。
【0022】
第4操舵ユニット24は、第1車輪7の外側面のうち車両長手方向中央側の部分に車幅方向外側から対向するように配置されている。第4油圧シリンダ24bは、台車枠4(側梁4b)に固定されている。第4油圧シリンダ24bのロッド24baは、車幅方向に伸縮する。第4油圧シリンダ24bのロッド24baが最収縮位置にあるとき、運行時のレールの最小曲線(最小曲率)において、第4押圧部材24aは第1車輪7の外側面から離間している。第4油圧シリンダ24bのロッド24baが伸長することで、第4押圧部材24aは第1車輪7の外側面のうち車両長手方向中央側の領域を車幅方向内方に押して第1車輪7を変位させる。
【0023】
このように、第3及び第4油圧シリンダ23b,24bのロッド23ba,24baが伸長し、第3及び第4押圧部材23a,24aが第2及び第1車輪8,7を押すことで、輪軸5Aが中立位置から他方向に向けて強制操舵させられる。
【0024】
図3は、図1に示す操舵台車1の輪軸5A,5Bを操舵するための操舵システム50のブロック図である。図4は、図1に示す操舵台車1を搭載した鉄道車両100の曲線通過状態を説明する平面模式図である。なお、図4では、一対のレール(図示せず)の間を通る中心線を示す軌道線200が図示されている。図3に示すように、操舵システム50は、曲線検知装置51と、操舵コントローラ52と、油圧ポンプ53と、第1〜第4切換弁54〜57と、前輪用の第1〜第4操舵ユニット21〜24と、後輪用の第1〜第4操舵ユニット21〜24とを備える。操舵システム50は、台車1及び車体2に搭載されている。例えば、曲線検知装置51、操舵コントローラ52、油圧ポンプ53、第1〜第4切換弁54〜57が、車体2に搭載され、前輪用及び後輪用の第1〜第4操舵ユニット21〜24が、台車1に搭載される。
【0025】
曲線検知装置51は、鉄道車両の走行中にレールの曲線領域を通過すること及び当該曲線の曲率を検知する公知の装置である。例えば、曲線検知装置51は、レールの曲線領域の位置及び曲率に関する情報を記録した曲線マップと、速度発電機からの情報により算出される累積走行距離等に基づいて車両の自車位置を検出可能な自車位置検出装置とを備え、検出された自車位置を曲線マップに照合することで、レールの曲線領域を通過すること及び当該曲線の曲率を検知する構成としてもよい。
【0026】
操舵コントローラ52は、曲線検知装置51で検知された情報に基づいて、第1及び第2操舵ユニット21,22、又は、第3及び第4操舵ユニットを選択的に駆動するように第1〜第4切換弁54〜57を制御する。油圧ポンプ53は、圧油を第1〜第4操舵ユニット21〜24(の第1〜第4油圧シリンダ21b〜24b)に供給するためのものである。
【0027】
第1及び第3切換弁54,56は、弁内部の切換要素(例えば、スプール)の位置を、第1及び第2操舵ユニット21,22の第1及び第2油圧シリンダ21b,22bのロッド21ba,22baを伸長させる第1位置と、第1及び第2操舵ユニット21,22の第1及び第2油圧シリンダ21b,22bのロッド21ba,22baを収縮させる第2位置と、第1及び第2油圧シリンダ21b,22bを停止させる中立位置との間で流路を切換可能である。
【0028】
第2及び第4切換弁55,57も、同様に、弁内部の切換要素(例えば、スプール)の位置を、第3及び第4操舵ユニット23,24の第3及び第4油圧シリンダ23b,24bのロッド23ba,24baを伸長させる第1位置と、第3及び第4操舵ユニット23,24の第3及び第4油圧シリンダ23b,24bのロッド23ba,24baを収縮させる第2位置と、第3及び第4油圧シリンダ23b,24bを停止させる中立位置との間で流路を切換可能である。
【0029】
操舵コントローラ52は、直線走行時には、第1〜第4操舵ユニット21〜24の何れもが輪軸5から離間した状態で(即ち、第1〜第4油圧シリンダ21b〜24bのロッド21ba〜24baが収縮した状態で)、第1〜第4切換弁54〜57を中立位置に保持する。輪軸5A,5Bを一方向に操舵させるときには、操舵コントローラ52は、第2及び第4切換弁55,57を中立位置で保持したまま、第1及び第3切換弁54,56を第1位置に切り換えて第1及び第2油圧シリンダ21b,22bのロッド21ba,22baを伸長させる。
【0030】
第1及び第2押圧部材21a,22bに押圧されることによる車輪7,8の変位量は、ロッド21ba,22baが伸長するストローク量によって決まる。ロッド21ba,22baが伸長するストローク量は、第1及び第3切換弁54,56が第1位置になってから中立位置に戻るまでの時間によって決まる。一例として、操舵コントローラ52が、第1及び第3切換弁54,56が第1位置になってから、車輪7,8の変位量を検出可能な変位検出器(図示せず)で検出される変位量が目標値に達した時点で、第1及び第3切換弁54,56を中立位置に戻すと、輪軸5A,5Bが目標の操舵角で維持される。変位検出器は、車輪7,8の側面の変位を非接触に測定するセンサでもよいし、油圧シリンダ21b,22bのロッド21ba,22baのストローク量を計測するものでもよい。
【0031】
そこから輪軸5A,5Bを中立位置に戻すには、操舵コントローラ52は、第2及び第4切換弁55,57を中立位置で保持したまま、第1及び第3切換弁54,56を第2位置に切り換えて第1及び第2油圧シリンダ21b,22bのロッド21ba,22baを収縮させる。そして、操舵コントローラ52は、ロッド21ba,22baが最縮退位置に戻ったと判断される時点で、第1及び第3切換弁54,56を中立位置に戻すことで、第1及び第2押圧部材21a,22bが車輪7,8から離間した状態に維持される。
【0032】
輪軸5を他方向に操舵させるときには、上記と逆の制御がなされる。即ち、操舵コントローラ52は、第1及び第3切換弁55,57を中立位置で保持したまま、第2及び第4切換弁55,57を第1位置に切り換えて第3及び第4油圧シリンダ23b,24bのロッド23ba,24baを伸長させる。輪軸5を中立位置に戻すには、操舵コントローラ52は、第1及び第3切換弁54,56を中立位置で保持したまま、第2及び第4切換弁55,57を第2位置に切り換えて第3及び第4油圧シリンダ23b,24bのロッド23ba,24baを収縮させる。
【0033】
操舵ユニット21〜24の動作範囲は、運行時の走行曲線の曲率に応じた輪軸5A,5Bの変位が得られるように調整され、その最大動作範囲は、運行時の走行曲線において適正な車輪7,8の変位が得られるように設定される。
【0034】
鉄道車両がレールの直線領域から曲線領域に移行するとき、台車1の輪軸5A,5Bのうち前輪側の輪軸5Aから先に曲線領域に進入し、その後に遅れて後輪側の輪軸5Bが曲線領域に進入する。そこで、操舵コントローラ52は、後輪側の輪軸5Bを操舵開始する時期を前輪側の輪軸5Aを操舵開始する時期から遅らせるように制御してもよい。具体的には、操舵コントローラ52は、前輪側の輪軸5Aが曲線領域に進入開始する時期と後輪側の輪軸5Bが曲線領域に進入開始する時期との時間差を計算し、その時間差の分だけ後輪側の輪軸5Bの操舵開始の時期を遅らせるようにしてもよい。なお、前輪側の輪軸5Aを操舵開始する時期と後輪側の輪軸5Bを操舵開始する時期とを同じにしてもよく、その場合には、曲線通過時にレールから受ける横圧による自然現象の範囲で輪軸5Bがレールに沿って操舵することになる。
【0035】
上記のようにして、図4に示すように、曲線通過時の鉄道車両100では、前述した操舵システム50により、車軸6が軌道線200に対して略直交する方向に向くように操舵され、レールから車輪7,8に付与される横圧が低減されるようになっている。
【0036】
以上に説明した構成によれば、第1及び第2油圧シリンダ21b,22bによる動力で第1及び第2押圧部材21a,22aに第1及び第2車輪7,8を押圧させることで輪軸5が一方向に強制操舵される一方、第3及び第4油圧シリンダ23b,24bによる動力で第3及び第4押圧部材23a,24aに第2及び第1車輪8,7を押圧させることで輪軸5が他方向に強制操舵される。そして、輪軸5を操舵させる必要ないときには、第1〜第4油圧シリンダ21b〜24bにより第1〜第4押圧部材21a〜24aが第1及び第2車輪7,8から離間させられる。このため、もし第1〜第4押圧部材21a〜24aが第1及び第2車輪7,8から離間した状態で第1〜第4油圧シリンダ21b〜24bの何れかが故障等したとしても、第1〜第4押圧部材21a〜24aは輪軸5の動きを規制せず、輪軸5が操舵方向に動くことは許容される。
【0037】
それゆえ、第1〜第4油圧シリンダ21b〜24bの何れかが故障等した場合でも、曲線通過時にレールから受ける横圧による自然現象の範囲で輪軸5がレールに沿って操舵することが可能となる。従って、操舵装置16の第1〜第4油圧シリンダ21b〜24bの何れかに故障等が生じたときの台車性能を良好に保つことができる。
【0038】
また、第1〜第4操舵ユニット21〜24は、輪軸5A又は輪軸5Bと操舵方向に一体に変位する部材(軸箱10又は軸梁13等)からなる押圧対象部材に連結する必要がないので、既存の台車にも容易に追加することができる。また、第1〜第4押圧部材21a〜24aはローラであり、車輪7,8に接触したときに車輪7,8とともに回転するので、第1〜第4押圧部材21a〜24aの摩耗を抑制することができるとともに、第1〜第4押圧部材21a〜24aの押圧による車輪7,8の減速も抑制することができる。また、第1〜第4押圧部材21a〜24aは、低摩擦材料で形成されているので、前記した摩耗及び減速を更に抑制することができる。
【0039】
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態に係る鉄道車両用の操舵台車101の平面図である。図6は、図5に示す操舵台車101の側面図である。なお、第1実施形態と共通する構成については同一符号を付して詳細な説明を省略する。図5及び6に示すように、第2実施形態の操舵台車101は、空気バネ3を介して車体2を支持するための車幅方向に延びるボルスタ160を備える。ボルスタ160は、車体2のブラケット2aにボルスタアンカ169により接続されている。ボルスタ160は、台車枠104にヨーイング方向に相対回動可能に支持されている。台車枠104は、ボルスタ160の下方において車幅方向に延びる横梁104aと、横梁104aの車幅方向の両端部に接続されて車両長手方向に延びる一対の側梁104bとを有する。横梁104aの前方及び後方には、それぞれ車幅方向に沿って延びる輪軸5A,5Bが配置されている。
【0040】
台車101は、インナーフレーム式台車である。輪軸5A,5Bの車軸6は、第1車輪7及び第2車輪8よりも車幅方向内側において、軸受を介して軸箱10により回転自在に支持される。側梁104bは、第1車輪7及び第2車輪8よりも車幅方向内側において、横梁104aから軸箱10の上方位置まで車両長手方向に延びている。軸箱10は、第1実施形態と同様に、軸梁式の軸箱支持装置11によって側梁104bに弾性結合されている。
【0041】
台車枠104には、第1及び第2車輪7,8を押圧して一対の輪軸5A,5Bを台車枠104に対して操舵させる操舵装置116が搭載されている。操舵装置116は、車幅方向一方側に配置された第1操舵ユニット121と、車幅方向他方側に配置された第2操舵ユニット123とを備える。第1操舵ユニット121と第2操舵ユニット123とは、台車中心を基準として点対称に構成されるため、以下では代表して第1操舵ユニット121について説明する。
【0042】
第1操舵ユニット121は、第1車輪7に接触及び離間可能な第1押圧部材161と、第1車輪7に接触及び離間可能な第2押圧部材162と、第1及び第2押圧部材161,162を第1車輪7に対して接触及び離間させる動力を伝達する操舵リンク機構163(動力機構)とを備える。操舵リンク機構163は、台車枠104の車幅方向外側に配置された操舵テコ164を備える。操舵テコ164は、支点165、力点166、第1作用点167及び第2作用点168を有する。第1作用点167は支点165の一方側に配置され、第2作用点168は支点165の他方側に配置されている。操舵テコ164は、支点165において車幅方向に延びる軸線周りに回動自在に台車枠104に支持されている。操舵テコ164は、力点166において連結リンク170を介してボルスタ160に連結されている。
【0043】
操舵テコ164は、第1作用点167において第1操舵リンク171の長手方向の内端部に連結されている。操舵テコ164は、第2作用点168において第2操舵リンク172の長手方向の内端部に連結される。第1操舵リンク171の長手方向の外端部には、第1押圧部材161が接続されている。第2操舵リンク172の長手方向の外端部には、第2押圧部材162が接続されている。第1及び第2押圧部材161,162は、第1車輪7の踏面に車両長手方向中央側から対向している。第1及び第2押圧部材161,162は、第1及び第2操舵リンク171,172の外端部に回転自在に支持されたローラである。台車枠104には、第1及び第2操舵リンク171,172をそれぞれ案内するガイド部材173,174が設けられている。ガイド部材173,174は、第1及び第2操舵リンク171,172の車幅方向の所定以上の変位を規制しながら第1及び第2操舵リンク171,172を長手方向に摺動自在に下方から支持する。
【0044】
以上の構成によれば、台車101が曲線を通過する際には、ボルスタ160及び車体2に対する台車枠104の鉛直軸回りの相対回動に連動して操舵リンク機構163が動作することで、操舵テコ164が支点165を中心として鉛直平面内で回動して第1及び第2押圧部材161,162が台車枠104に対して車両長手方向に相対変位する。操舵リンク機構163により第1及び第2押圧部材161,162が互いに離間する方向に変位すると、第1及び第2押圧部材161,162が輪軸5A,5Bの第1車輪7の踏面を車両長手方向外方に押圧し、一対の輪軸5A,5Bが操舵される。そして、操舵リンク機構163により第1及び第2押圧部材161,162が互いに近接する方向に変位すると、第1及び第2押圧部材161,162が第1車輪7の踏面から離れ、一対の輪軸5A,5Bが中立位置に戻される。
【0045】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲でその構成を変更、追加、又は削除することができる。前記各実施形態は互いに任意に組み合わせてもよく、例えば1つの実施形態中の一部の構成を他の実施形態に適用してもよい。実施形態中の一部の構成は、その実施形態中の他の構成から分離して任意に抽出可能である。例えば、台車は、ボルスタレス台車でもボルスタ付き台車でも何れでもよいし、アウターフレーム式でもインナーフレーム式でも何れでもよい。軸箱支持装置は、軸梁式に限られず、輪軸が台車枠に対してヨーイング方向に相対変位可能なものであれば種々のタイプのものが利用可能である。操舵装置が輪軸を操舵させるために押圧する押圧対象部材は、輪軸に限られず、輪軸と操舵方向に一体に変位する部材(例えば、軸箱又は軸梁等)であればよい。押圧部材を車輪に接触及び離間させるためのアクチュエータは、油圧シリンダに限られず、空気圧シリンダでもよいし、電気式の直動モータ等でもよい。
【0046】
押圧部材は、回転自在なローラに限られず、輪軸に対して摺動自在に面接触する摺動部材でもよい。その場合、摺動部材は、少なくともブレーキ装置の制輪子の摺動面の材料よりも摩擦係数が低い低摩擦材料で形成される。第1操舵ユニット21が第1車輪7の踏面を車両長手方向外方に押し、第2操舵ユニット22が第2車輪8の踏面を車両長手方向内方に押すことで(即ち、第1車輪7と第2車輪8とを180°異なる向きに押すことで)、輪軸5を操舵させてもよい。あるいは、第2操舵ユニット22及び第4操舵ユニット24を廃止して、第1操舵ユニット21のみで輪軸5を一方向に操舵させ、第3操舵ユニット23のみで輪軸5を他方向に操舵させてもよい。また、一対の輪軸5A,5Bのうち一方のみが操舵される構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上のように、本発明に係る鉄道車両用の操舵台車は、上述した優れた効果を有し、この効果の意義を発揮できる鉄道車両に広く適用すると有益である。
【符号の説明】
【0048】
1 操舵台車
2 車体
4 台車枠
5A,5B 輪軸(押圧対象部材)
6 車軸
7 第1車輪
8 第2車輪
16,116 操舵装置
21〜24,121,123 第1〜第4操舵ユニット
21a〜24a,161,162 第1〜第4押圧部材
21b〜24b 第1〜第4油圧シリンダ(アクチュエータ:動力機構)
50 操舵システム
163 操舵リンク機構(動力機構)
100 鉄道車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6