(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6186093
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】金属製中空ゴルフクラブ
(51)【国際特許分類】
A63B 53/02 20150101AFI20170814BHJP
A63B 53/06 20150101ALI20170814BHJP
A63B 102/32 20150101ALN20170814BHJP
【FI】
A63B53/02
A63B53/06 Z
A63B102:32
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-571365(P2016-571365)
(86)(22)【出願日】2016年10月28日
(86)【国際出願番号】JP2016081984
【審査請求日】2016年12月5日
(31)【優先権主張番号】特願2015-212252(P2015-212252)
(32)【優先日】2015年10月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-212253(P2015-212253)
(32)【優先日】2015年10月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591002382
【氏名又は名称】株式会社遠藤製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 元成
(74)【代理人】
【識別番号】100139789
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 光信
(72)【発明者】
【氏名】落合 健二
【審査官】
砂川 充
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−29691(JP,A)
【文献】
特開平5−261167(JP,A)
【文献】
特開2000−202072(JP,A)
【文献】
実開平4−95062(JP,U)
【文献】
特開平11−267250(JP,A)
【文献】
特開平10−57532(JP,A)
【文献】
特開平10−57533(JP,A)
【文献】
国際公開第00/20075(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/00−53/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルフボールを打撃するフェース面を備えるヘッド本体と、
前記ヘッド本体に固定され、ゴルフシャフトの先端部が挿入、固定される挿入孔を有するホーゼル部とを有する金属製中空ゴルフクラブにおいて、
前記挿入孔内の軸線方向の任意の位置で前記先端部のみを固着可能なゴルフシャフト固着手段を備え、前記先端部の固着部上端を超える前記ゴルフシャフトは前記ホーゼル部の前記挿入孔内で非拘束であり、
前記ゴルフシャフト固着手段は、前記先端部が接着剤で内周孔に接着され、前記ホーゼル部の前記挿入孔に挿入されたスリーブを備え、
前記スリーブは、軸方向の全長が異なる複数のスリーブを選択的に使用可能で、
前記複数のスリーブの前記内周孔の軸方向の全長は、前記複数のスリーブの上端面から同一長さに形成されている
ことを特徴とする金属製中空ゴルフクラブ。
【請求項2】
請求項1に記載の金属製中空ゴルフクラブにおいて、
前記スリーブの上端面に接触して前記ホーゼル部の前記挿入孔に挿入され、前記先端部及び前記スリーブの内周孔より大径の内周孔を有するスペーサと、
前記スペーサの上端面に接触して前記ホーゼル部の前記挿入孔に挿入され、前記先端部及び前記スリーブの内周孔より大径の内周孔を有し、前記ホーゼル部にねじ込んで、前記スリーブと前記スペーサを押圧して固定するためのキャップとを備えた
ことを特徴とする金属製中空ゴルフクラブ。
【請求項3】
請求項1に記載の金属製中空ゴルフクラブにおいて、
前記スリーブの上端面に接触して前記ホーゼル部の前記挿入孔に挿入され、前記先端部及び前記スリーブの内周孔より大径の内周孔を有し、前記ホーゼル部にねじ込んで、前記スリーブを押圧して固定するためのキャップを備えた
ことを特徴とする金属製中空ゴルフクラブ。
【請求項4】
請求項1に記載の金属製中空ゴルフクラブにおいて、
前記スリーブの上端面よりも下方に形成された前記スリーブの段差面に接触して前記ホーゼル部の前記挿入孔に挿入され、前記先端部及び前記スリーブの内周孔より大径の内周孔を有し、前記ホーゼル部にねじ込んで、前記スリーブの段差面を押圧して前記スリーブを固定するためのキャップを備えている
ことを特徴とする金属製中空ゴルフクラブ。
【請求項5】
請求項1ないし4から選択される1項に記載の金属製中空ゴルフクラブにおいて、
前記スリーブの外周面と前記ホーゼル部の前記挿入孔の断面形状は、ともに同じ多角形であり、両者が係合している
ことを特徴とする金属製中空ゴルフクラブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製中空ゴルフクラブに関する。さらに詳しくは、ゴルファーによって異なる打撃時のヘッドスピードに応じて、適切な打ち出し角に調整することを可能にし、また、打撃時の打ち出し角を大きくして、ボールを遠くまで飛ばすことを可能にした金属製中空ゴルフクラブに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールを遠くまで飛ばすための打撃時の要素としては、(1)打撃時のボールの初速を高める、(2)打撃時のボールの打ち出し角度を大きくする、(3)ボールのバックスピン量を適正に減じる、等が大きな要素となる。ヘッドスピードが遅い(例えば、40m/s未満)ゴルファーにとっては、ボールを遠くまで飛ばすためには、打撃時のゴルフクラブのロフト角を大きくして、ボールの打ち出し角度を大きくすることが必要となる。
【0003】
図10は、従来の金属製中空ゴルフクラブのヘッド本体100を示す一部を断面で示した正面図である。
図10に示すように、ウッド等の金属製中空ゴルフクラブのヘッド本体100は、プレイヤーがボールを打撃する前は106’のように撓んだシャフト106の撓みが戻り、重心点104の回りに上下方向に回転し、即ち、打撃直前のみかけのロフト角は大きい。ここで、「公称のロフト角」はクラブがスウィングされない静的な状態で規定されるロフト角であるのに対して、「みかけのロフト角」はクラブをスウィングしてインパクトの際にフェースが実際にボールを迎え打つ時の動的な状態でのロフト角である。しかし、ウッドではアイアンに比べて重心深度Lが深いため、ボールの打撃時はボールの衝撃でヘッドが上下方向に僅かに揺動し、ロフト角α(静止時)が小さくなる角度α’に揺動した状態(α’<α)となる。また、
図10に示すように、従来のゴルフシャフト106は、ホーゼル部103の挿入孔の全長に渡ってエポキシ樹脂等で接着して固着されている。ホーゼル部103はフェース面102の上端部よりもかなり上方に配置されているのが一般的である(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。そのため、ゴルフシャフト106の固着部上端107は、打撃点(フェースセンター)1021よりもかなり上方に配置されている。
【0004】
固着部上端107をヘッド本体100の支点と考えると、固着部上端107よりもかなり下方でボールを打撃することになる。その結果、ヘッド本体100は、打撃時の衝撃によるヘッド本体100の回転モーメントによって、ロフト角αが小さくなる方向に僅かに揺動する。このヘッド本体100の両方向の回転によって、実際は、表示ロフト角よりも小さなロフト角α’でボールを打撃することになる。ヘッドスピードが早い(例えば、45m/s前後)ゴルファーは、吹け上がりを嫌うので、打撃時のロフト角αが小さい方が好ましい。
【0005】
しかし、従来の金属製中空ゴルフクラブは、ゴルフシャフト106の固着部上端107が、打撃点(フェースセンター)1021よりもかなり上方に配置されているため、打撃時のロフト角α’を大きくすることが難しかった。また、接着剤により固着したシャフトとヘッドの止着部の上端を、ヘッドのトップ部の頂部より下に配置して、打球時のヘッドの上下方向(トップ、ソール方向)の揺動を軽減して、打球の方向性を安定させたものも提案されている(特許文献4)。しかしながら、特許文献4に記載されたシャフトとヘッドの固着方法は、貫通孔であるヘッドのシャフト止着孔の上下から接着剤がはみ出し、正確に接着領域、非接着領域を確保することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−42951号公報
【特許文献2】特開2006−204731号公報
【特許文献3】特開2004−329676号公報
【特許文献4】特開2001−276283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような背景で発明されたものであり、以下の目的を達成するものである。本発明の目的は、ゴルファーによって異なる打撃時のヘッドスピードに応じて、適切な打ち出し角に調整することを可能にした、金属製中空ゴルフクラブを提供することにある。
本発明の他の目的は、ヘッドとシャフトの固着において、接着領域、非接着領域を精密に制御できる固着方法とした金属製中空ゴルフクラブを提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、ゴルフシャフトの固着部上端を打撃点(フェースセンター)に接近して配置することにより、ボールの打ち出し角度を大きくして、ボールを遠くまで飛ばすことを可能にした、金属製中空ゴルフクラブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するために、次の手段を採る。
即ち、本発明1の金属製中空ゴルフクラブは、
ゴルフボールを打撃するフェース面を備えるヘッド本体と、
前記ヘッド本体に固定され、ゴルフシャフトの先端部が挿入、固定される挿入孔を有するホーゼル部とを有する金属製中空ゴルフクラブにおいて、
前記挿入孔内の軸線方向の任意の位置で前記先端部のみを固着可能なゴルフシャフト固着手段を備え、前記先端部の固着部上端を超える前記ゴルフシャフトは前記ホーゼル部の前記挿入孔内で非拘束であ
り、
前記ゴルフシャフト固着手段は、前記先端部が接着剤で内周孔に接着され、前記ホーゼル部の前記挿入孔に挿入されたスリーブを備え、
前記スリーブは、軸方向の全長が異なる複数のスリーブを選択的に使用可能で、
前記複数のスリーブの前記内周孔の軸方向の全長は、前記複数のスリーブの上端面から同一長さに形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明
2の金属製中空ゴルフクラブは、本発明
1において、前記スリーブの上端面に接触して前記ホーゼル部の前記挿入孔に挿入され、前記先端部及び前記スリーブの内周孔より大径の内周孔を有するスペーサと、前記スペーサの上端面に接触して前記ホーゼル部の前記挿入孔に挿入され、前記先端部及び前記スリーブの内周孔より大径の内周孔を有し、前記ホーゼル部にねじ込んで、前記スリーブと前記スペーサを押圧して固定するためのキャップとを備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明
3の金属製中空ゴルフクラブは、本発明
1において、前記スリーブの上端面に接触して前記ホーゼル部の前記挿入孔に挿入され、前記先端部及び前記スリーブの内周孔より大径の内周孔を有し、前記ホーゼル部にねじ込んで、前記スリーブを押圧して固定するためのキャップを備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明
4の金属製中空ゴルフクラブは、本発明
1において、前記スリーブの上端面よりも下方に形成された前記スリーブの段差面に接触して前記ホーゼル部の前記挿入孔に挿入され、前記先端部及び前記スリーブの内周孔より大径の内周孔を有し、前記ホーゼル部にねじ込んで、前記スリーブの段差面を押圧して前記スリーブを固定するためのキャップを備えていることを特徴とする。
【0013】
本発明
5の金属製中空ゴルフクラブは、本発明
1ないし4から選択される1つにおいて、前記スリーブの外周面と前記ホーゼル部の前記挿入孔の断面形状は、ともに同じ多角形であり、両者が係合していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の金属製中空ゴルフクラブは、打撃点(フェースセンター)とゴルフシャフトの先端部の固着部上端との間の距離を簡単に調整して組み付けることが可能となった。その結果、動的な状態でのロフト角が小さくなる方向へのヘッド本体の回転を調整して、ゴルファーによって異なる打撃時のヘッドスピードに応じて、適切な打ち出し角に調整することが可能になった。また、打撃点(フェースセンター)とゴルフシャフトの先端部の固着部上端を極めて接近して配置することが可能となる結果として、ロフト角が小さくなる方向へのヘッド本体の回転を小さく押さえられて、打撃時の打ち出し角度を大きくすることができるため、ボールを遠くまで飛ばすことが可能になる。さらに、本発明のヘッドとシャフトの固着構造は、設計通りに接着領域、非接着領域を精密に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施の形態の金属製中空ゴルフクラブのヘッド本体を示す一部を断面した正面図である。
【
図2】
図2は、
図1のヘッド本体のホーゼル部近傍を示す拡大縦断面図である。
【
図3】
図3は、
図2のホーゼル部近傍を示す分解斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明の第2の実施の形態の金属製中空ゴルフクラブのヘッド本体を示す
図1相当図である。
【
図5】
図5は、
図4のヘッド本体のホーゼル部近傍を示す拡大縦断面図である。
【
図6】
図6は、
図5のホーゼル部近傍を示す分解斜視図である。
【
図7】
図7は、本発明の第3の実施の形態の金属製中空ゴルフクラブのヘッド本体を示す
図1相当図である。
【
図8】
図8は、
図7のヘッド本体のホーゼル部近傍を示す拡大縦断面図である。
【
図9】
図9は、
図8のホーゼル部近傍を示す分解斜視図である。
【
図10】
図10は、従来の金属製中空ゴルフクラブのヘッド本体を示す一部を断面した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔金属製中空ゴルフクラブの第1の実施の形態〕
以下、本発明の第1の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態の金属製中空ゴルフクラブのヘッド本体を示す一部を断面した正面図、
図2は、
図1のヘッド本体のホーゼル部近傍を示す拡大縦断面図、
図3は、
図2のホーゼル部近傍を示す分解斜視図である。第1の実施の形態のものは、比較的ヘッドスピードが遅い(例えば、40m/s未満)ゴルファーに適した打撃時のロフト角になるように調整した例である。
【0021】
図1から
図3に示すヘッド本体1は、メタルウッドクラブに適用した例であり、ヘッド本体1の体積は400〜470cm
3である。ヘッド本体1には、正面にボールを打撃するための打撃面を有するフェース面2、シャフト側にシャフト接続部であるホーゼル部3、上部にクラウン部4、地面に接する下部にソール部5が形成され、ホーゼル部3には、ゴルフシャフト6の一端が挿入されて固着されている。フェース面2、ホーゼル部3、クラウン部4、ソール部5はチタン又はチタン合金をプレス成形して形成され、各々の縁部を溶接して一体的に形成され、中空のヘッド本体1を形成している。
【0022】
ホーゼル部3は、有底の中空管状で、上部に円盤状の鍔部31を有し、鍔部31の下部に、軸状の円筒状部32を鍔部31と一体的に有している。円筒状部32は、ヘッド本体1の中空部を通って、ソール部5の近傍まで伸びて形成されている。ホーゼル部3の軸心には、その上端側から順に、雌ねじ孔33、円形孔34、断面が正八角形の正八角形孔35で構成される挿入孔が形成されている。
【0023】
ホーゼル部3の正八角形孔35には断面が同じ正八角形の外周面71を有するスリーブ7が挿入され、密に嵌合して係合し、スリーブ7はホーゼル部3に回り止めされる。第1の実施の形態のスリーブ7の軸方向の全長M1は、本発明の3種の実施の形態の中では最も短く形成されている。スリーブ7は有底である。スリーブ7の軸心には、円筒状の内周孔72が形成され、内周孔72にゴルフシャフト6の先端部が挿入され、主材がエポキシ樹脂からなる接着剤で接着して固着されている。スリーブ7の内周孔72の直径D1は、ゴルフシャフト6の先端部の直径dよりも若干大きく形成され、内周孔72とゴルフシャフト6の先端部の外周面との間の隙間に接着剤が入り込んで、スリーブ7にゴルフシャフト6の先端部(図示では下端部)を固着する。
【0024】
ホーゼル部3の軸心の円形孔34には、円筒状のスペーサ8が挿入され、スペーサ8の下端面がスリーブ7の上端面に接触している。また、ホーゼル部3の軸心の雌ねじ孔33には、キャップ9の下部の雄ねじ93がねじ込まれ、キャップ9の下端面がスペーサ8の上端面に接触している。従って、キャップ9はスペーサ8を介してスリーブ7を押圧して、スリーブ7をホーゼル部3から抜け止めしている。キャップ9の端面とホーゼル部3の上端面との間には、環状のゴム製パッキン91が挟み込まれていて、ホーゼル部3の軸心の挿入孔に水や塵埃が浸入することを防止している。
【0025】
スペーサ8の内周孔81の直径D2、キャップ9の内周孔92の直径D3は、スリーブ7の内周孔72の直径D1よりも大径に形成されている。より詳細には、ゴルフシャフト6の外周と、スペーサ8の内周孔81及びキャップ9の内周孔92との間は、円筒状の隙間が形成されている。従って、ゴルフシャフト6の先端部は、スリーブ7の内周孔72の軸方向の全長S部分だけが固着(接着)され、スペーサ8の内周孔81、キャップ9の内周孔92内では固着(接着)されない。すなわち、ゴルフシャフト6の先端部の固着部上端(スリーブ7の上端面)73を超える部分は、ホーゼル部3の挿入孔内で非拘束である。スリーブ7の内周孔72の軸方向の全長Sは、ゴルフシャフト6とスリーブ7との間に、打撃力に耐える十分な接着強度を確保できる長さに設定される。また、スペーサ8とキャップ9とゴルフシャフト6の外周面の間に、上記円筒状の隙間を形成したことにより、ゴルフシャフト6が大きくしなっても、スペーサ8の内周孔81でシャフト6の側面が支承されるので、この先端部の固着部上端(スリーブ7の上端面)73に応力が集中することはない。
【0026】
図1は、シャフト6が基準のライ角をなすようにヘッド本体1を水平面に置いた状態である。ボールを打撃時のフェース面2の打撃点(フェースセンター)21を通る水平線22を引く。また、ゴルフシャフト6の先端部の固着部上端(スリーブ7の上端面)73とゴルフシャフト6のシャフト軸線61との交点62を求める。すると、この交点62は水平線22の上方にあり、これを通る水平線23と、打撃点(フェースセンター)21を通る水平線22との間の距離H1が、本実施の形態では0〜15mm(
図1に示す静止時)の範囲に収まる。すなわち、打撃点(フェースセンター)21とゴルフシャフト6の先端部の固着部上端73を極めて接近して配置することが可能となった。なお、ゴルフクラブは、スウィングによって、遠心力が働きトウ側が下がる現象が起きるので、ボールの打撃時の上記距離(H1)は静止時より小さくなり、本例では、打撃時には上記距離H1が0〜5mmとなる。
【0027】
その結果、打撃時に、ロフト角が大きくなる方向へのヘッド本体1の重心点回りの回転に比較して、ヘッド本体1が固着部上端73を支点にしてロフト角(打撃時のロフト角)が小さくなる方向に揺動する量を極めて小さく抑えることができる。その結果、表示ロフト角よりも大きなロフト角(打撃時のロフト角)でボールを打撃することになる。そのため、打撃時の打ち出し角度を大きくすることができ、比較的ヘッドスピードが遅い(例えば、40/s未満)ゴルファーにとっては、ボールを遠くまで飛ばすことが可能になるため好ましい。
【0028】
〔金属製中空ゴルフクラブの第2の実施の形態〕
以下、本発明の第2の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図4は、本発明の第2の実施の形態の金属製中空ゴルフクラブのヘッド本体を示す
図1相当図、
図5は、
図4のヘッド本体のホーゼル部近傍を示す拡大縦断面図、
図6は、
図5のホーゼル部近傍を示す分解斜視図である。
図4から
図6に示す第2の実施の形態は、第1の実施の形態よりも、ヘッドスピードが平均的な(例えば、40m/s前後)ゴルファーに適した打撃時のロフト角になるように調整した例である。以下の説明では、第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付し、第1の実施の形態と重複する説明は省略する。
【0029】
第2の実施の形態のスリーブ701は、第1の実施の形態のスリーブ7と同様に、ホーゼル部3の断面形状が正八角形孔35に、断面が同じ正八角形の外周面71を有するスリーブ701が密に嵌合して係合し、スリーブ701はホーゼル部3に回り止めされる。第2の実施の形態のスリーブ701は、軸方向の全長M2が、第1の実施の形態のスリーブ7の軸方向の全長M1よりも、スペーサ8の軸方向の全長分だけ長く形成されている。スリーブ701の軸心の円筒状の内周孔72の軸方向の全長Sは、第1の実施の形態のスリーブ7の内周孔72の軸方向の全長Sと同一長さに形成されている。内周孔72にゴルフシャフト6の先端部(図示上の下端部)が挿入され、主材がエポキシ樹脂の接着剤で接着して固着されている。
【0030】
第2の実施の形態では、第1の実施の形態のスペーサ8は取り外され、ホーゼル部3の軸心の雌ねじ孔33にねじ込まれたキャップ9の下端面が、スリーブ701の上端面に接触している。従って、キャップ9はスリーブ701を直接押圧して、スリーブ701をホーゼル部3から抜け止めしている。キャップ9の端面とホーゼル部3の上端面との間には、環状のゴム製パッキン91が挟み込まれていて、ホーゼル部3の軸心の挿入孔に水や塵埃が浸入することを防止している。
【0031】
キャップ9の内周孔92の直径D3は、スリーブ701の内周孔72の直径D1よりも大径に形成されている。従って、ゴルフシャフト6の先端部は、スリーブ701の内周孔72の軸方向の全長S部分だけが固着(接着)され、キャップ9の内周孔92内では固着(接着)されない。すなわち、ゴルフシャフト6の先端部の固着部上端(スリーブ701の上端面)730を超える部分は、ホーゼル部3の挿入孔内で非拘束である。その結果、固着部上端(スリーブ701の上端面)730は、第1の実施の形態の金属製中空ゴルフクラブの固着部上端(スリーブ7の上端面)73よりも上方になる。
【0032】
図4は、シャフト6が基準のライ角をなすようにヘッド本体1を水平面に置いた状態である。ボールを打撃時のフェース面2の打撃点(フェースセンター)21を通る水平線22を引く。また、ゴルフシャフト6の先端部の固着部上端(スリーブ701の上端面)730とゴルフシャフト6のシャフト軸線61との交点620を求める。すると、この交点620は水平線22の上方にあり、これと打撃点(フェースセンター)21を通る水平線22との間の距離H2が約15〜25mm(
図4の静止時)になる。すなわち、打撃点(フェースセンター)21とゴルフシャフト6の先端部の固着部上端730との間の距離を、第1の実施の形態の金属製中空ゴルフクラブよりも大きくなるように配置することが可能となった。
【0033】
その結果、打撃時に、ヘッド本体1が固着部上端730を支点にしてロフト角が小さくなる方向に揺動する量を、第1の実施の形態よりも大きくすることができる。第1の実施の形態よりも小さなロフト角(打撃時のロフト角)でボールを打撃することになる。そのため、打撃時の打ち出し角度を第1の実施の形態よりも小さくすることができ、比較的ヘッドスピードが平均的な(例えば、40m/s前後)ゴルファーにとっては、適切な打ち出し角になるため好ましい。
【0034】
〔金属製中空ゴルフクラブの第3の実施の形態〕
以下、本発明の第3の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図7は、本発明の第3の実施の形態の金属製中空ゴルフクラブのヘッド本体を示す
図1相当図、
図8は、
図7のヘッド本体のホーゼル部近傍を示す拡大縦断面図、
図9は、
図8のホーゼル部近傍を示す分解斜視図である。
図7から
図9に示す第3の実施の形態の金属製中空ゴルフクラブは、第2の実施の形態の金属製中空ゴルフクラブよりも、ヘッドスピードが早い(例えば、45m/s前後)ゴルファーに適した打撃時のロフト角になるように調整した例である。以下の説明では、上記した実施の形態と同一部分には同一符号を付し、上記した実施の形態と重複する説明は省略する。
【0035】
第3の実施の形態のスリーブ702は、第1の実施の形態のスリーブ7と同様に、ホーゼル部3の断面形状が正八角形孔35に、断面が同じ正八角形の外周面71を有するスリーブ702が密に嵌合して係合し、スリーブ702はホーゼル部3に回り止めされる。第3の実施の形態のスリーブ702は、軸方向の全長M3が、第2の実施の形態のスリーブ701の軸方向の全長M2よりも、キャップ9の軸方向の全長の半分程度長く形成されている。従って、スリーブ702の上端面は、第2の実施の形態のスリーブ701の上端面よりも、キャップ9の軸方向の全長の半分程度上方に配置されている。スリーブ702の軸心の円筒状の内周孔72の軸方向の全長Sは、第2の実施の形態のスリーブ701の内周孔72の軸方向の全長Sと同一長さに形成されている。内周孔72にゴルフシャフト6の先端部が挿入され、主材がエポキシ樹脂の接着剤で接着して固着されている。
【0036】
第3の実施の形態では、第2の実施の形態と同様に、スペーサ8は取り外され、ホーゼル部3の軸心の雌ねじ孔33にねじ込まれたキャップ9の下端面が、スリーブ702の段差面740に接触している。段差面740はスリーブ702の上端面よりも下方に形成されている。従って、キャップ9はスリーブ702を直接押圧して、スリーブ702をホーゼル部3から抜け止めしている。キャップ9の端面とホーゼル部3の上端面との間には、環状のゴム製パッキン91が挟み込まれていて、ホーゼル部3の軸心の挿入孔に水や塵埃が浸入することを防止している。
【0037】
キャップ9の内周孔92の直径D3は、スリーブ702の内周孔72の直径D1よりも大径に形成されている。従って、ゴルフシャフト6の先端部は、スリーブ702の内周孔72の軸方向の全長S部分だけが固着(接着)され、キャップ9の内周孔92内では固着(接着)されない。すなわち、ゴルフシャフト6の先端部の固着部上端(スリーブ702の上端面)731を超える部分は、ホーゼル部3の挿入孔内で非拘束である。その結果、固着部上端(スリーブ702の上端面)731は、第2の実施の形態の固着部上端(スリーブ701の上端面)730よりも上方になる。
【0038】
図7は、ゴルフシャフト6が基準のライ角をなすようにヘッド本体1を水平面に置いた状態である。ボールを打撃時のフェース面2の打撃点(フェースセンター)21を通る水平線22を引く。また、ゴルフシャフト6の先端部の固着部上端(スリーブ702の上端面)731と、ゴルフシャフト6のシャフト軸線61との交点621を求める。すると、この交点621は水平線22の上方にあり、これと打撃点(フェースセンター)21を通る水平線22との間の距離H3が約25〜40mm(
図7の静止時)になる。すなわち、打撃点(フェースセンター)21とゴルフシャフト6の先端部の固着部上端731との間の距離を、第2の実施の形態よりも離して配置することが可能となった。
【0039】
その結果、打撃時に、ヘッド本体1が固着部上端731を支点にしてロフト角が小さくなる方向に回転する量を、第2の実施の形態よりも大きくすることができる。その結果、第2の実施の形態よりも小さなロフト角(打撃時のロフト角)でボールを打撃することになる。そのため、打撃時の打ち出し角度を第2の実施の形態よりも小さくすることができ、ヘッドスピードが早い(例えば、45m/s前後)ゴルファーにとっては、吹け上がり無い適切な打ち出し角になるため好ましい。
【0040】
すなわち、本発明の実施の形態の金属製中空ゴルフクラブは、同一のヘッド本体1を使用し、軸方向の長さが異なるスリーブから適切なものを選択してゴルフシャフト6を接着するだけで、ゴルファーによって異なる打撃時のヘッドスピードに応じて、適切な打ち出し角に調整することが可能となるため、打ち出し角の調整が簡単で、製造コストを低減することが可能となる。
【0041】
本発明の実施の形態の金属製中空ゴルフクラブ、比較例のクラブを用いて打撃点(フェースセンター)21での打撃テストを行った。実験で用いたドライバー、及びシャフトは、以下に示すものを用いた。本発明の実施例のドライバー、シャフトの仕様は、以下のものである。打撃試験は、打撃ロボット「ショットロボ10」(株式会社ミヤマエ(本社:日本国大阪府)製)を用いた。また、打撃に用いた使用ボールは「EPON Tour F3」(エポンゴルフ株式会社(本社:日本国新潟県))である。打撃ロボットの試験条件は、実施例、比較例は同一条件である。以下、使用したクラブの仕様である。
【0042】
[実施例のクラブ]
ドライバー(EPON AK−26):エポン株式会社(本社:日本国新潟県)製
ロフト角:10.5°±1.0°
フェース角:0°±1.0°
ライ角:58.0°±1.0°
距離(H):17.32mm(打撃点と接着部の上部の水平線との静止時の距離)
容量:460cc
ヘッド質量:194.0g
シャフト:Tour AD 5S(株式会社グラファイトデザイン(本社:日本国埼玉県)製)
[比較例1及び2のクラブ]
一般的なドライバーであり、シャフトの支点と打点の距離が長いものであり、本発明の比較例のドライバーの仕様は、以下のものである。比較例1のクラブは、一般的なアジャスタブルヘッドであり、比較例2のクラブは一般的なスルーボアヘッドのものである。
また、比較例1及び2は、従来技術の構造のものである。
ドライバー(EPON AF−153):エポン株式会社(本社:日本国新潟県)製
ロフト角:10.5°±0.5°
フェース角:0°H(フック)0.5°
ライ角:60.0°±0.5°
距離(H):39.60mm(打撃点と接着部の上部の水平線との静止時の距離)
容量:460cc
ヘッド質量:198.0g
シャフト(比較例1):Tour AD 5R1(株式会社グラファイトデザイン(本社:日本国埼玉県)製)
シャフト(比較例2):Tour AD 5S(株式会社グラファイトデザイン(本社:日本国埼玉県)製)
【0044】
表1に示す数値は、以上の条件で、10球の打撃時の平均値を求めたものである。その結果、長さ、素材が同一でかつ同一長さのシャフトで、表1に示すように、ヘッドスピードが0.6m/s上昇した。これは、両クラブの全長は同じであるが、上記距離(H)の違いにより、実質的にシャフトが長くなりしなやかさが増すためと解釈される。また、長さが増すために、シャフトがしなり易くなり、硬いシャフトでも(実施例と比較例1参照)ヘッドスピードが落ちない。更に、ゴルフシャフト6の固着部上端とシャフト軸線61との交点62、620、621(
図1、4、7参照)と、ヘッドの重心との距離が近くなるので、打球時のヘッドの上下方向(トップ、ソール方向)の揺動が少なくなり、打球の方向性を安定させる。更に、打撃時のインパクトを受けた時のロフト角(静止時とは異なる)が大きくなり(実施例と比較例2参照)、上下打出角が大きくなる(表1参照)。なお、ゴルフクラブは、スウィングによって、遠心力が働きトウ側が下がる現象が起きるので、ボールの打撃時の上記距離(H)は静止時より小さくなる。
【0045】
以上の実施の形態において、スリーブ7にゴルフシャフト6の先端を接着したので、スリーブ7の長さで所望の正確な距離(H1〜H3)が確保できる。また、ゴルフシャフト6とスリーブ7をホーゼル部3から取り出せるので、接着作業を行うとき作業性が向上する。更に、スリーブ7をホーゼル部3から着脱自在であるので、異なる距離(H)を有するシャフトを自由に交換可能である。なお、スリーブ7とホーゼル部3の固着は、前述した実施の形態のように機械的なクランプではなく、接着剤で固着しても良い。
【0046】
[その他の実施の形態]
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されることはない。例えば、前述した実施の形態では、ゴルファーのヘッドスピードに応じて軸方向の長さが異なる3種類のスリーブを選択している。しかし、軸方向の長さの異なるスリーブの種類を増やして、打ち出し角の調整をより細かく出来るようにしてもよい。また、前述した実施の形態では、スペーサとキャップは各1種類であるが(スペーサは第1の実施の形態のみ)、選択するスリーブの軸方向の長さに応じて、軸方向の長さの異なる複数の種類のスペーサとキャップから選択するようにしてもよい。また、スリーブを介さず、シャフトを直接ホーゼル部に接着してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1…ヘッド本体
2…フェース面
21…打撃点(フェースセンター)
22…水平線
23…水平線
3…ホーゼル部
31…鍔部
32…円筒状部
33…雌ねじ孔
34…円形孔
35…正八角形孔
4…クラウン部
5…ソール部
6…ゴルフシャフト
61…シャフト軸線
62…交点
620…交点
621…交点
7…スリーブ
701…スリーブ
702…スリーブ
71…外周面
72…内周孔
73…固着部上端(スリーブ7の上端面)
730…固着部上端(スリーブ701の上端面)
731…固着部上端(スリーブ702の上端面)
740…段差面
8…スペーサ
81…内周孔
9…キャップ
91…パッキン
92…内周孔
93…雄ねじ
100…ヘッド本体
102…フェース面
1021…打撃点(フェースセンター)
103…ホーゼル部
104…重心点
106…ゴルフシャフト
107…固着部上端
【要約】
スペーサ8の内周孔81の直径D2、キャップ9の内周孔92の直径D3は、スリーブ7の内周孔72の直径D1よりも大径に形成されている。ゴルフシャフト6の先端部は、スリーブ7の内周孔72の軸方向の全長S部分だけが固着され、スペーサ8の内周孔81、キャップ9の内周孔92内では固着されない。ゴルフシャフト6の先端部の固着部上端73を超える部分は、ホーゼル部3の挿入孔内で非拘束である。スリーブ7の内周孔72の軸方向の全長Sは、ゴルフシャフト6とスリーブ7との間に、打撃力に耐える十分な接着強度を確保できる長さに設定される。ゴルファーによって異なる打撃時のヘッドスピードに応じて、適切な打ち出し角に調整することを可能であり、打ち出し角を大きくしてボールを遠くまで飛ばすとが可能になる。