特許第6186099号(P6186099)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6186099-弾性表面波素子用基板及びその製造方法 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6186099
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】弾性表面波素子用基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/25 20060101AFI20170814BHJP
   H03H 3/08 20060101ALI20170814BHJP
   C30B 29/30 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   H03H9/25 C
   H03H3/08
   C30B29/30 A
   C30B29/30 B
【請求項の数】9
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2017-125144(P2017-125144)
(22)【出願日】2017年6月27日
【審査請求日】2017年6月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596066600
【氏名又は名称】株式会社山寿セラミックス
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】佐橋 家隆
(72)【発明者】
【氏名】笹俣 武治
(72)【発明者】
【氏名】大橋 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】倉知 雅人
(72)【発明者】
【氏名】八木 透
(72)【発明者】
【氏名】東 浩之
(72)【発明者】
【氏名】梶谷 尚史
【審査官】 ▲高▼須 甲斐
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−016500(JP,A)
【文献】 特開平03−033096(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/046176(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/25
H03H 3/08
C30B 29/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiとNbとの原子比が0.9048≦Li/Nb≦0.9685であり、Mgの含有割合が1モル%以上9モル%以下であるマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶、
または、
LiとTaとの原子比が0.9048≦Li/Ta≦0.9685であり、Mgの含有割合が1モル%以上9モル%以下であるマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶、
からなる弾性表面波素子用基板(ただし、LiとNbとの原子比が0.9421≦Li/Nb≦0.9443であり、Mgの含有割合が1モル%以上9モル%以下であるマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶、または、LiとTaとの原子比が0.9421≦Li/Ta≦0.9443であり、Mgの含有割合が1モル%以上9モル%以下であるマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶、からなる弾性表面波素子用基板を除く)。
【請求項2】
前記マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶または前記マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶における前記Mgの含有割合が1モル%以上6モル%以下である請求項1に記載の弾性表面波素子用基板。
【請求項3】
厚みが1mm以下である請求項1又は2に記載の弾性表面波素子用基板。
【請求項4】
体積抵抗率が9.9×1012Ω・cm以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載の弾性表面波素子用基板。
【請求項5】
LiとNbとの原子比が0.9048≦Li/Nb≦0.9685であり、Mgの含有割合が1モル%以上9モル%以下であるマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶、
または、
LiとTaとの原子比が0.9048≦Li/Ta≦0.9685であり、Mgの含有割合が1モル%以上9モル%以下であるマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶、
からなり、
前記マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶のキュリー温度が1150℃以上1215℃以下であり、
または、
前記マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶のキュリー温度が620℃以上720℃以下である弾性表面波素子用基板。
【請求項6】
リチウム源となる炭酸リチウム(LiCO)とニオブ源となる五酸化ニオブ(Nb)とマグネシウム源となる酸化マグネシウム(MgO)とを、以下の(1)及び(2)を満たすように混合して、原料混合物を調製する原料混合物調製工程と、
(1)LiとNbとの原子比 ; 0.9048≦Li/Nb≦0.9685(ただし、0.9421≦Li/Nb≦0.9443の範囲を除く)
(2)LiCOおよびNbからLiNbOが生成されるとした場合におけるLiNbOとMgOの合計に対するMgOのモル比 ; 0.01≦MgO/(MgO+LiNbO)≦0.09、
該原料混合物を溶融させて原料混合物融液とする原料混合物溶融工程と、
該原料混合物融液の中に種結晶を浸し、引き上げることでマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶を育成する単結晶育成工程と、
該単結晶育成工程で得られたマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶から基板を作製する基板作製工程と、
を含む弾性表面波素子用基板の製造方法。
【請求項7】
リチウム源となる炭酸リチウム(LiCO)とタンタル源となる五酸化タンタル(Ta)とマグネシウム源となる酸化マグネシウム(MgO)とを、以下の(3)及び(4)を満たすように混合して、原料混合物を調製する原料混合物調製工程と、
(3)LiとTaとの原子比 ;0.9048≦Li/Ta≦0.9685(ただし、0.9421≦Li/Ta≦0.9443の範囲を除く)
(4)LiCOおよびTaからLiTaOが生成されるとした場合におけるLiTaOとMgOの合計に対するMgOのモル比 ; 0.01≦MgO/(MgO+LiTaO)≦0.09、
該原料混合物を溶融させて原料混合物融液とする原料混合物溶融工程と、
該原料混合物融液の中に種結晶を浸し、引き上げることでマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶を育成する単結晶育成工程と、
該単結晶育成工程で得られたマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶から基板を作製する基板作製工程と、
を含む弾性表面波素子用基板の製造方法。
【請求項8】
前記基板作製工程において、前記基板の厚みを1mm以下とする請求項6又は7に記載の弾性表面波素子用基板の製造方法。
【請求項9】
前記基板作製工程は、基板の還元処理工程を含み、
該還元処理工程は、前記基板と、アルカリ金属化合物を含む還元剤と、を処理容器に収容し、該処理容器内を減圧下、200℃以上かつ前記基板を構成する単結晶のキュリー温度未満の温度で保持することにより、該基板を還元する工程である請求項6〜8のいずれか一項に記載の弾性表面波素子用基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波デバイス等に用いられる弾性表面波素子用基板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンタル酸リチウム(LiTaO)単結晶(適宜LT単結晶と略す)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)単結晶(適宜LN単結晶と略す)は、圧電性酸化物単結晶として知られ、弾性表面波(Surface Acoustic Wave:以下適宜SAWと略す)素子の圧電基板等に使用されている。SAW素子は、圧電基板と、圧電基板の表面に配置された微細な櫛形電極とを有する。SAW素子は、例えば、SAWフィルタ、SAWデュプレクサ、SAWトリプレクサ、SAWセンサーなどに利用される。
【0003】
SAW素子は、圧電基板表面にアルミニウム等からなる電極薄膜を形成し、該電極薄膜を、フォトリソグラフィにより所定形状の電極とすることで製造される。具体的には、まず、圧電基板表面に、スパッタリング法等により電極薄膜を形成する。次いで、フォトレジストである有機樹脂を塗布し、高温下でプリベイクする。続いて、ステッパー等により露光して電極膜のパターンニングを行う。そして、高温下でのポストベイクの後、現像し、フォトレジストを溶解する。最後に、ウエットあるいはドライエッチングを施して所定形状の電極を形成する。
【0004】
例えば、SAW素子は、携帯電話機等のような通信機器におけるバンドパスフィルタとして幅広く使用されている。近年、携帯電話の高機能化や、周波数バンド数の増加などにより、フィルタの小型化や低背化が進んでいる。また、センサー等の検知感度の向上要求により、同様にセンサー等の小型化、薄板化が進んでいる。それに伴い、SAW素子の圧電基板に使用される単結晶基板には薄板化の要求が厳しくなってきている。
【0005】
しかしながら、LT単結晶基板、LN単結晶基板は、加工性が悪く、単結晶特有のへき開割れが起こりやすく、少しの衝撃応力によって基板全体が割れてしまうという欠点を持つ。またLT単結晶、LN単結晶は、方位によって熱膨張係数が著しく異なるという特性を持つため、温度変化の大きな環境にさらされると内部に応力歪みが生じ、一瞬のうちに割れてしまうことがある。
【0006】
また、昨今、デバイスは小型化し、かつその高機能化に伴い、SAW素子の高密度積層化が進んでいる。デバイスの使用時にデバイス内の各部品は発熱することがある。小型化したデバイス内でSAW素子が高密度に積層されると、デバイス内で発生した熱は放熱しにくくなる。
【0007】
SAW素子の高密度積層化は近年さらに進んでおり、熱に対する対応が迫られている。この問題を解決し、放熱しやすい圧電基板等を開発することは近年の課題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、放熱しやすい、つまり熱伝導率が高い弾性表面波素子用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、Mgを所定の割合で含有するマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶又はMgを所定の割合で含有するマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶を用いることで熱伝導率が高い弾性表面波素子用基板を作製できることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の弾性表面波素子用基板は、LiとNbとの原子比が0.9048≦Li/Nb≦0.9685であり、Mgの含有割合が1モル%以上9モル%以下であるマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶、または、LiとTaとの原子比が0.9048≦Li/Ta≦0.9685であり、Mgの含有割合が1モル%以上9モル%以下であるマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶からなることを特徴とする。
【0011】
また本発明の弾性表面波素子用基板の製造方法は、リチウム源となる炭酸リチウム(LiCO)とニオブ源となる五酸化ニオブ(Nb)とマグネシウム源となる酸化マグネシウム(MgO)とを、以下の(1)及び(2)の条件を満たすように混合して原料混合物を調製する原料混合物調製工程と、(1)LiとNbとの原子比 ;0.9048≦Li/Nb≦0.9685、(2)LiCOおよびNbからLiNbOが生成されるとした場合におけるLiNbOとMgOの合計に対するMgOのモル比 ; 0.01≦MgO/(MgO+LiNbO)≦0.09、又は、リチウム源となる炭酸リチウム(LiCO)とタンタル源となる五酸化タンタル(Ta)とマグネシウム源となる酸化マグネシウム(MgO)とを、以下の(3)及び(4)の条件を満たすように混合して原料混合物を調製する原料混合物調製工程と、(3)LiとTaとの原子比 ;0.9048≦Li/Ta≦0.9685(4)LiCOおよびTaからLiTaOが生成されるとした場合におけるLiTaOとMgOの合計に対するMgOのモル比 ;0.01≦MgO/(MgO+LiTaO)≦0.09、原料混合物を溶融させて原料混合物融液とする原料混合物溶融工程と、原料混合物融液の中に種結晶を浸し、引き上げることでマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶又はマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶を育成する単結晶育成工程と、単結晶育成工程で得られたマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶又はマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶から基板を作製する基板作製工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の弾性表面波素子用基板は、熱伝導率が高い。本発明の弾性表面波素子用基板を用いれば、放熱性が高い弾性表面波素子を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1の基板及び比較例1の基板の温度に対する熱伝導率を比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(弾性表面波素子用基板)
本発明の弾性表面波素子用基板は、LiとNbとの原子比が0.9048≦Li/Nb≦0.9685であり、Mgの含有割合が1モル%以上9モル%以下であるマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶、または、LiとTaとの原子比が0.9048≦Li/Ta≦0.9685であり、Mgの含有割合が1モル%以上9モル%以下であるマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶からなることを特徴とする。
【0015】
ここで、Mgの含有割合とは、マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶又はマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶を構成する原子全体を100モル%とした場合のMg原子の含有割合を意味する。
【0016】
上記マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶及び上記マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶は均一な結晶であり、熱伝導率が高い。
【0017】
LiとNbとの原子比が0.9048≦Li/Nb≦0.9685であるLN単結晶及びLiとTaとの原子比が0.9048≦Li/Ta≦0.9685であるLT単結晶は、リチウムサイトに空位欠陥のある欠陥構造を有していると現在は考えられている。
【0018】
熱は結晶格子間を振動して伝わっていくため、格子に空位欠陥があると、熱伝導率は下がる。LN単結晶又はLT単結晶にMgを添加した場合、Mgはリチウムサイトの空位欠陥に入るといわれており、格子の空位欠陥を少なくすることで熱伝導率が高くなると考えられる。
【0019】
しかしながら、LN単結晶又はLT単結晶に余剰のMgが添加されると、Mgの偏析が生じ易くなる。また、余剰のMgが、リチウムサイトにおいてリチウムを置換して配置されたり、ニオブサイトまたはタンタルサイトに配置されると、結晶構造が不安定になると推測される。Mgの偏析が生じて結晶の均一性が損なわれたり、余剰のMgが結晶に入って結晶構造が不安定になると、熱伝導率が悪くなると推測される。従って、熱伝導率を向上させるには、均一な安定した結晶構造をとることが求められる。
【0020】
均一な安定した結晶構造とするためには、Mg原子の含有割合と各原子の含有割合との関係が重要であると推測される。
【0021】
本発明で用いられるマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶は、LiとNbとの原子比が0.9048≦Li/Nb≦0.9685であり、Mgの含有割合が1モル%以上9モル%以下である。また、本発明で用いられるマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶は、LiとTaとの原子比が0.9048≦Li/Ta≦0.9685であり、Mgの含有割合が1モル%以上9モル%以下である。
【0022】
Li/Nbの値が0.9048≦Li/Nbであれば、または、Li/Taの値が0.9048≦Li/Taであれば、結晶組成の変動が小さい。結晶組成の変動が小さいほうが、結晶作成時に結晶にクラックが入りにくい。特に、結晶組成の変動の観点からは0.9421≦Li/Nb、0.9421≦Li/Taとすると好適であり、0.9425≦Li/Nb、0.9425≦Li/Taとするとより好適であり、0.9429≦Li/Nb、0.9429≦Li/Taとするとさらに好適である。
【0023】
また、Li/Nbの値がLi/Nb≦0.9685であれば、または、Li/Taの値がLi/Ta≦0.9685であれば、結晶組成の変動が小さい。結晶組成の変動が小さいほうが、結晶作成時に結晶にクラックが入りにくい。特に、結晶組成の変動の観点からは、Li/Nb≦0.9443、Li/Ta≦0.9443とすると好適であり、Li/Nb≦0.9440、Li/Ta≦0.9440とするとより好適であり、Li/Nb≦0.9436、Li/Ta≦0.9436とするとさらに好適である。
【0024】
また、マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶又はマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶のMgの含有割合が9モル%以下であれば、結晶中にMgの偏析が生じにくく、組成が均一になりやすい。結晶組成が均一のほうが、薄板切断加工時にクラックが発生しにくい。特に、マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶又はマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶のMgの含有割合は、7モル%未満とするとより好適であり、6モル%以下とするとさらに好適である。
【0025】
マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶又はマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶のMgの含有割合が1モル%以上であれば、Mgによる格子の空位欠陥が補填され、熱伝導率を上げる効果が出やすい。マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶又はマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶のMgの含有割合は3モル%以上とするとより好適であり、4モル%以上とするとさらに好適である。
【0026】
マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶又はマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶は、Mgを含有することにより、ニオブ酸リチウム単結晶又はタンタル酸リチウム単結晶よりもキュリー温度が上昇する。そのため、簡便的に、単結晶のキュリー温度を測定することでマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶又はマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶にMgが含有されていることが判別できる。
【0027】
ニオブ酸リチウム単結晶のキュリー温度は、1130℃近辺であり、タンタル酸リチウム単結晶のキュリー温度は、603℃近辺である。マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶のキュリー温度が、1150℃以上1215℃以下であれば、Mgの含有割合が1モル%以上9モル%以下であるマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶であることが簡易的に判別でき、マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶のキュリー温度が、620℃以上720℃以下であれば、Mgの含有割合が1モル%以上9モル%以下であるマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶であることが簡易的に判別できる。
【0028】
本発明の弾性表面波素子用基板は、体積抵抗率が9.9×1012Ω・cm以下であることが好ましく、9.9×1011Ω・cm以下であることがより好ましく、9.9×1010Ω・cm以下であることがさらに好ましい。
【0029】
弾性表面波素子の製造工程には、基板表面への電極薄膜の形成や、フォトリソグラフィでのプリベイクやポストベイク等、基板の温度変化を伴う工程がいくつかある。基板の体積抵抗率が高すぎると、温度変化により基板の表面に電荷が発生するおそれがある。一旦発生した電荷は基板に蓄積され、外部から除電処理を施さない限り基板の帯電状態が続いてしまう。基板が帯電すると、基板内で静電気放電が生じ、クラックや割れが起こるおそれがある。
【0030】
一般的に、LN単結晶及びLT単結晶の基板の体積抵抗率は1015Ω・cm程度であり、絶縁体である。
【0031】
基板の帯電を抑制するには、基板の導電性を高めればよい。基板の体積抵抗率を下げることで基板の電気伝導性が高くなる。そのため、体積抵抗率を上記範囲にすれば、基板は温度が変化しても電荷を生じにくい。
【0032】
下記で説明する基板の還元処理を行なうことで容易に基板の体積抵抗率を下げることができる。
【0033】
本発明の弾性表面波素子用基板は、その厚みが1mm以下であることが好ましく、0.0.5mm以下であることがより好ましく、0.35mm以下であることがさらに好ましい。基板の厚みが上記範囲であれば、その基板を用いた弾性表面波素子を薄板化でき、デバイスの小型化に対応できる。なお、本発明の弾性表面波素子用基板は、均一な組成の結晶からできているため、厚みが薄くなってもクラックが発生しにくい。
【0034】
(弾性表面波素子用基板の製造方法)
本発明の弾性表面波素子用基板の製造方法は、原料混合物調製工程と、原料混合物溶融工程と、単結晶育成工程と、基板作製工程とを含む。以下、各工程について説明する。
【0035】
(原料混合物調製工程)
〈マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の原料混合物調整工程〉
本工程は、リチウム源となる炭酸リチウム(LiCO)とニオブ源となる五酸化ニオブ(Nb)とマグネシウム源となる酸化マグネシウム(MgO)とを、以下の(1)及び(2)を満たすように混合して、原料混合物を調製する工程である。
【0036】
(1)LiとNbとの原子比 ; 0.9048≦Li/Nb≦0.9685、
(2)LiCOおよびNbからLiNbOが生成されるとした場合におけるLiNbOとMgOの合計に対するMgOのモル比 ; 0.01≦MgO/(MgO+LiNbO)≦0.09。
【0037】
リチウム源となるLiCOとニオブ源となるNbとは、LiとNbとの原子比が0.9048≦Li/Nb≦0.9685となるように混合する。また、LiCOおよびNbから生成されるニオブ酸リチウムの単結晶の化学式をLiNbOとして、MgOの混合割合を決定する。これにより、生成されるマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶におけるMgの含有割合が決まることになる。具体的には、マグネシウム源となるMgOを、LiNbOとMgOの合計に対するMgOのモル比が0.01≦MgO/(MgO+LiNbO)≦0.09となるように混合する。
【0038】
Li/Nbの値が0.9048以上であれば、リチウム原子がニオブ原子に対して少なすぎず、リチウムサイトの空位欠陥が少なくなる。Mgの量に対してリチウムサイトの空位欠陥が少なければ、結晶の育成中にMgが徐々に結晶中に取り込まれて、育成される結晶と残融液とにおけるMgの分配係数が1になりやすい。Mgの分配係数とは、結晶中のMg濃度と残融液中のMg濃度の比である。そのため、Li/Nbの値が0.9048以上の状態で製造して得られる結晶の上部と下部とではMgの含有割合がばらつきにくい。結晶中でMgの含有割合がばらつかないようにするためには、0.9421≦Li/Nbとすると好適であり、0.9425≦Li/Nbとするとより好適であり、0.9429≦Li/Nbとするとさらに好適である。
【0039】
また、Li/Nbの値が0.9685以下であれば、リチウム原子がニオブ原子に対して少なく、多くのリチウムサイトの空位欠陥が生じる。Mgに対してリチウムサイトの空位欠陥が多ければ、結晶の育成中に結晶中に入らないで残ったMgの増加に伴い、残融液中のMg濃度が多くなることが抑制され、Mgの分配係数が1になりやすい。それに加え、Li/Nbの値が0.9685以下であれば、結晶中にMgの偏析が生じにくく、組成が均一になりやすい。Li/Nb≦0.9443とすると好適であり、Li/Nb≦0.9440とするとより好適であり、Li/Nb≦0.9436とするとさらに好適である。
【0040】
MgO/(MgO+LiNbO)が0.01以上であれば、育成される結晶と残融液とにおけるMgの分配係数が1になりやすく、得られる結晶の上部と下部とで組成が均一になりやすい。特に、0.03≦MgO/(MgO+LiNbO)とするとより好適であり、0.04≦MgO/(MgO+LiNbO)とするとさらに好適である。
【0041】
また、MgO/(MgO+LiNbO)が0.09以下であれば、同様に、Mgの分配係数が1になりやすく、結晶中にMgの偏析が生じにくく、組成が均一になりやすい。MgO/(MgO+LiNbO)<0.07とするとより好適であり、MgO/(MgO+LiNbO)≦0.06とするとさらに好適である。
【0042】
上記製造方法で製造されたマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶は、Mgの分配係数が1になるように、つまり、融液中のMg濃度と、結晶中のMg濃度と、残融液中のMg濃度とが同じになるように製造されているため、製造されたマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶中のMgの含有割合(モル%)は、原料混合物全体中のMgOの濃度(モル%)と同じとなる。つまり、MgO/(MgO+LiNbO)の比が、製造されたマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶中のMgの含有割合の比と同一となる。
【0043】
なお、上記三種類の原料の混合は、公知の方法で行えばよく、例えば、原料の混合として、ボールミルを用いる混合が挙げられる。混合時間は、特に限定されるものではなく、例えば、混合時間として、10時間程度が挙げられる。
【0044】
〈マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶の原料混合物調整工程〉
本工程は、リチウム源となる炭酸リチウム(LiCO)とタンタル源となる五酸化タンタル(Ta)とマグネシウム源となる酸化マグネシウム(MgO)とを、以下の(3)及び(4)を満たすように混合して、原料混合物を調製する工程である。
【0045】
(3)LiとTaとの原子比 ; 0.9048≦Li/Ta≦0.9685、
(4)LiCOおよびTaからLiTaOが生成されるとした場合におけるLiTaOとMgOの合計に対するMgOのモル比 ; 0.01≦MgO/(MgO+LiTaO)≦0.09。
【0046】
リチウム源となるLiCOとタンタル源となるTaとは、LiとTaとの原子比が0.9048≦Li/Ta≦0.9685となるように混合する。LiCOおよびTaから生成されるタンタル酸リチウムの単結晶の化学式をLiTaOとして、MgOの混合割合を決定する。これにより、生成されるマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶におけるMgの含有割合が決まることになる。具体的には、マグネシウム源となるMgOを、LiTaOとMgOの合計に対するMgOのモル比が0.01≦MgO/(MgO+LiTaO)≦0.09となるように混合する。
【0047】
Li/Taの値が0.9048以上であれば、リチウム原子がタンタル原子に対して少なすぎず、リチウムサイトの空位欠陥が少なくなる。Mgの量に対してリチウムサイトの欠陥が少なければ、結晶の育成中にMgが徐々に結晶中に取り込まれて、育成される結晶と残融液とにおけるMgの分配係数が1になりやすい。そのため、Li/Taの値が0.9048以上の状態で製造して得られる結晶の上部と下部とではMgの含有割合がばらつきにくい。結晶中でMgの含有割合がばらつかないようにするためには、0.9421≦Li/Taとすると好適であり、0.9425≦Li/Taとするとより好適であり、0.9429≦Li/Taとするとさらに好適である。
【0048】
また、Li/Taの値が0.9685以下であれば、リチウム原子がタンタル原子に対して少なく、多くのリチウムサイトの空位欠陥が生じる。Mgに対してリチウムサイトの空位欠陥が多ければ、結晶の育成中に結晶中に入らないで残ったMgの増加に伴い、残融液中のMg濃度が多くなることが抑制され、Mgの分配係数が1になりやすい。それに加え、Li/Taの値が0.9685以下であれば、結晶中にMgの偏析が生じにくく、組成が均一になりやすい。Li/Ta≦0.9443とすると好適であり、Li/Ta≦0.9440とするとより好適であり、Li/Ta≦0.9436とするとさらに好適である。
【0049】
MgO/(MgO+LiTaO)が0.01以上であれば、育成される結晶と残融液とにおけるMgの分配係数が1になりやすく、得られる結晶の上部と下部とで組成が均一になりやすい。結晶中でMgの含有割合がばらつかないようにするためには、特に、0.03≦MgO/(MgO+LiTaO)とするとより好適であり、0.04≦MgO/(MgO+LiTaO)とするとさらに好適である。
【0050】
また、MgO/(MgO+LiTaO)が0.09以下であれば、同様に、Mgの分配係数が1にはなりやすいことに加え、結晶中にMgの偏析が生じにくく、組成が均一になりやすい。特に、MgO/(MgO+LiTaO)<0.07とするとより好適であり、MgO/(MgO+LiTaO)≦0.06とするとさらに好適である。
【0051】
上記製造方法で製造されたマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶は、Mgの分配係数が1になるように、つまり、融液中のMg濃度と、結晶中のMg濃度と、残融液中のMg濃度とが同じになるように製造されているため、製造されたマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶中のMgの含有割合(モル%)は、原料混合物全体中のMgOの濃度(モル%)と同じとなる。つまり、MgO/(MgO+LiTaO)の比が、製造されたマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶中のMgの含有割合の比と同一となる。
【0052】
なお、上記三種類の原料の混合は、公知の方法で行えばよく、例えば、ボールミルを用いて混合すればよい。混合時間は、特に限定されるものではなく、例えば、10時間程度行えばよい。
【0053】
従来、例えば、チョクラルスキー法等により、Mgを含んだ所定の原料を混合、溶融して結晶を育成した場合には、育成される結晶と残融液とにおいて、Mgの分配係数が1にはならないという問題があった。すなわち、原料である融液と育成された結晶とで、Mgの含有割合が異なってしまうのである。このため、結晶を引き上げる過程で、原料である融液と育成された結晶のMgの濃度勾配が生じ、育成された結晶において先に引き上げられた部分と後に引き上げられた部分、つまり、結晶の上部と下部とで組成が不均一になっていた。
【0054】
本発明の製造方法は、リチウム源とニオブ源とマグネシウム源とからなる三成分系の原料組成又はリチウム源とタンタル源とマグネシウム源とからなる三成分系の原料組成に着目し、各原料の混合割合を、結晶と残融液とのMgの分配係数がほぼ1となるように特定したものである。すなわち、原料となる上記三種類の化合物を、上記(1)及び(2)の条件を満たすように、又は(3)及び(4)の条件を満たすように混合した原料混合物を出発原料とすることで、結晶と残融液とのMgの分配係数をほぼ1にすることができる。Mgの分配係数がほぼ1となることにより、結晶の上部と下部とでMgの含有割合が均一となる。したがって、本発明の製造方法によれば、原料混合物調整工程において、原料となる三種類の化合物を上記特定の割合で混合することで、均質なマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶又はマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶を得ることができる。
【0055】
また、上記各原料を混合して原料混合物を調製した後、焼成してから次工程の原料混合物溶融工程へ供してもよい。この場合には、本発明の製造方法は、原料混合物調製工程の後、原料混合物溶融工程の前に、さらに、調製された原料混合物を焼成する原料混合物焼成工程を含む。原料混合物焼成工程における焼成温度は、特に限定されるものではなく、例えば、900℃〜1200℃の範囲で行えばよい。また、焼成は一回でもよく、複数回に分けて行ってもよい。焼成時間も特に限定されるものではなく、10時間程度行えばよい。
【0056】
(原料混合物溶融工程)
本工程は、原料混合物を溶融させて原料混合物融液とする工程である。原料混合物の溶融方法は、特に限定されるものではない。例えば、LN単結晶の場合は、白金製の坩堝に原料混合物を入れて、高周波誘導加熱により溶融させればよく、溶融する温度は、1260℃〜1350℃とすればよい。LT単結晶の場合は、イリジウム製の坩堝に原料混合物を入れて、高周波誘導加熱により溶融させればよく、溶融する温度は、1650℃〜1710℃とすればよい。
【0057】
(単結晶育成工程)
本工程は、前記原料混合物溶融工程で得られた原料混合物融液の中に種結晶を浸し、種結晶を引き上げることでマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶又はマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶を育成する工程である。ここで、種結晶は、目的とする軸の方位に切り出したニオブ酸リチウム単結晶片又はタンタル酸リチウム単結晶片を使用すればよい。この種結晶を原料混合物融液の中に浸し、引き上げることでマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶又はマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶を育成する。単結晶の引き上げ条件は、特に限定されるものではなく、例えば、単結晶の引き上げを、回転数5〜20rpmで回転させながら、引き上げ速度1〜10mm/hr等で行えばよい。
【0058】
(基板作製工程)
基板作製工程は、単結晶育成工程で得られたマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶又はマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶から基板を作製する工程である。基板作製工程は、切断工程及び研磨工程を含む。基板作製工程は、必要に応じて、さらに還元処理工程などを含む。
【0059】
切断工程は、単結晶から目的の軸の方位となるような方向で所定の厚みの板を切りだす工程である。切断は、マルチワイヤーソーなどの市販の切断機を用いて行なえばよい。切断厚みは特に限定されず、ほぼ所望の厚みに切断し、後の研磨工程にて所望の厚みになるまで研磨すればよい。切断機の切断条件も特に限定はなく、例えば、マルチワイヤーソーの場合、直径0.1mm〜0.15mmのワイヤーを用いて、切断速度5.0mm/hr〜10.0mm/hrで、所望の厚みになるように単結晶を切断すればよい。
【0060】
研磨工程は、切断工程で切り出された板の片面又は両面を鏡面研磨する工程である。鏡面研磨は、一般的な研磨機を用いて行なえばよく、例えば、鏡面研磨方法として、コロイダルシリカによるメカノケミカルポリッシュ方式を好ましく用いることができる。鏡面研磨された基板の厚みは、1mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましく、0.35mm以下であることがさらに好ましい。
【0061】
また、本発明の製造方法により得られるマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶又はマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶は、Mgの偏析が少なく組成が均一であるため、切断時や研磨時にクラックの発生が少ない。したがって、本発明の製造方法によれば、結晶組成が均一でクラックの発生が少ないマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶又はマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶からなる弾性表面波素子用基板を高収率で得ることができる。
【0062】
還元処理工程は、作製された基板を還元する工程である。還元処理方法は、焦電効果の抑制を行うための還元処理方法であれば、特に限定されない。例えば、還元処理方法としては、マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶またはマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶からなる基板とアルカリ金属化合物を含む還元剤とを処理装置に収容し、処理装置内を減圧下、200℃以上かつ基板を構成する単結晶のキュリー温度未満の温度で保持することにより、上記基板を還元する方法が挙げられる。
【0063】
還元剤を構成するアルカリ金属化合物は、所定の条件下で蒸発し、還元力の高い蒸気となる。この蒸気に曝されることで、基板は表面から順に還元される。そして、還元剤を供給し続けることにより、還元反応を連続的に進行させることができ、基板全体を均一に還元することができる。
【0064】
還元により、基板の抵抗は低下する。よって、還元された基板は、その導電率が高いため、温度が変化しても電荷を生じ難い。また、仮に、基板表面に電荷が発生しても速やかに自己中和して、電荷を除去することができる。還元された基板は、帯電し難いため、取り扱い易く安全である。そのため、この還元された基板を用いれば、保管時や使用中においても静電気による不良の発生が少ない弾性表面波素子を構成することができる。
【0065】
また、還元剤として比較的反応が穏やかなアルカリ金属化合物を用いる場合は、還元剤の取り扱いが容易であり、安全性も高い。また、還元剤の種類、使用量、配置形態、処理容器内の真空度、温度、および処理時間を適宜調整することによって、基板の還元度合いを制御することができる。
【0066】
基板をマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶から作製した場合には、基板の還元処理温度を200℃以上1000℃以下とすることが望ましい。マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶は、キュリー温度が1200℃近辺であり、キュリー温度以上の高温に曝されると、その圧電性が失われるおそれがある。
【0067】
基板をマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶から作製した場合には、基板の還元処理温度を200℃以上600℃以下とすることが望ましい。マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶は、キュリー温度が700℃近辺であり、キュリー温度以上の高温に曝されると、その圧電性が失われるおそれがある。よって、マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶から作製された基板を還元する場合には、600℃以下の比較的低温で処理することが望ましい。なお、還元性の高いアルカリ金属化合物を用いる場合は、600℃以下の温度でも基板全体を充分に還元することができる。
【0068】
このように、比較的低温で還元処理を行うことで、圧電性を損なうことなく、マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶及びマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の帯電を抑制することができる。
【0069】
基板の還元は、133×10−1Pa〜133×10−7Paの減圧下で行うことが望ましい。133×10−2Pa〜133×10−6Paの減圧下で行なうことがより好ましい。処理容器内の真空度を高くすることで、比較的低温下でも、アルカリ金属化合物を還元力の高い蒸気にすることができる。
【0070】
基板の還元は、基板の体積抵抗率が9.9×1012Ω・cm以下になるまで行なうことが好ましく、9.9×1011Ω・cm以下になるまで行なうことがより好ましく、9.9×1010Ω・cm以下になるまで行なうことがさらに好ましい。
【0071】
また、還元剤として用いるアルカリ金属化合物をリチウム含有化合物とすることが望ましい。マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶中の酸素やマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶中の酸素は、リチウムとの結合力が強い。このため、還元処理では、酸素はリチウムと結合した状態、つまり酸化リチウムの状態で放出され易い。その結果、単結晶中のリチウム濃度が減少し、単結晶中のリチウムとタンタルの比又はリチウムとニオブの比が変化して、圧電性が変化するおそれがある。還元剤として用いるアルカリ金属化合物をリチウム含有化合物とすると、還元剤から供給されるリチウム原子で、単結晶中の酸素を反応させることができる。このため、単結晶中のリチウム原子は放出され難い。よって、単結晶中のリチウムとタンタルの比又はリチウムとニオブの比が変化して圧電性が低下することを抑制することができる。
【0072】
また、還元剤として用いるアルカリ金属化合物をリチウム化合物とすると、還元剤から供給されるリチウム原子が単結晶中に混入しても、もともとリチウムは単結晶の構成成分であるため、単結晶構造に大きな構造変化は見られにくい。
【0073】
アルカリ金属化合物からなる還元剤を用い、還元剤と基板とを別々に配置して、または基板を還元剤に埋設して基板の還元を行う態様を採用してもよい。その場合は、還元剤としてアルカリ金属化合物の粉末、ペレット等を用いることができる。アルカリ金属化合物の粉末、ペレット等をそのまま使用できるため、この態様は実施し易い。また、基板を還元剤に埋設させた場合には、還元剤が基板の表面に高濃度で接触する。よって基板の還元をより促進することができる。
【0074】
また、還元剤として、アルカリ金属化合物が溶媒に溶解または分散したアルカリ金属化合物溶液を用いた場合には、還元剤と基板とを別々に配置して、または基板を還元剤に浸漬して、または還元剤を基板の表面に塗着して、基板の還元を行う態様を採用することができる。アルカリ金属化合物を有機溶媒に溶解または分散させたアルカリ金属化合物溶液は、加熱により有機ガスを発生する。この有機ガス中にアルカリ金属化合物の蒸気を充満させることで、アルカリ金属と基板との反応性を高めることができる。これより、基板全体がむら無く還元される。また、基板を同溶液に浸漬させた場合、あるいは、同溶液を基板の表面に塗着した場合には、還元剤が基板の表面に高濃度で接触する。よって、基板の還元をより促進することができる。
【0075】
以上、本発明の弾性表面波素子用基板及びその製造方法の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0076】
上記実施の形態に基づいて、まず、本発明で用いられるマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶を種々製造した。また、比較例として、ニオブ酸リチウム単結晶を製造した。
【0077】
〈マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の製造A〉
Li/Nbの値が0.9421〜0.9443、Mgの含有割合が5.15モル%であるマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶を4種類製造した。
【0078】
Li/Nbの値が0.9421、0.9425、0.9440、0.9443の各値となるように、またLiNbOとMgOの合計に対するMgOのモル比、すなわち、MgO/(MgO+LiNbO)の値が0.0515となるように、LiCOとNbとMgOとを混合して、4種類の原料混合物を調製した。調製した原料混合物を、1000℃で10時間焼成した後、白金製の坩堝に入れ、高周波誘導加熱により溶融させた。溶融温度は1300℃とした。この原料混合物融液の中に種結晶を浸し、回転数10rpm、引き上げ速度5mm/hrで引き上げて、直径約80mm、長さ約60mmの単結晶を得た。種結晶として、目的とする軸の方位に切り出したLN単結晶を用いた。得られたマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶を#11〜#14の単結晶と番号付けした。
【0079】
〈製造したマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の評価〉
製造した上記#11〜#14の各マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶について、それぞれ結晶の上端から5mm、30mm、60mmの部分から厚さ1mmの板を切り出した。なお、結晶において種結晶に近い側、すなわち、先に引き上げられた方の端部を上端とした。そして、各板の両面を鏡面研磨して測定用ウェーハを作製した。つまり、マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶ごとに、切り出した部分によって上部、中部、下部の3種類の測定用ウェーハを作製した。作製した各測定用ウェーハを使用して、種々の測定および分析を行った。以下、各項目ごとに述べる。
【0080】
(I)Mgの分配係数の算出
得られたマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶と残融液とのMgの分配係数を求めるため、作製した上記各ウェーハおよび残融液のMgの含有割合を誘電結合プラズマ発光分析法(ICP−AES)により分析した。そして、各マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶について、3個のウェーハにおけるMgの含有割合の平均値を求めた。その平均値をそれぞれの残融液におけるMgの含有割合の値で除することにより、Mgの分配係数を求めた。
【0081】
(II)結晶育成成功率
上記各組成のマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の製造の際、どれ位の割合でクラックが発生したかを調査した。上記各組成のマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶を、上記方法によりそれぞれ20個製造し、クラックが発生しなかった結晶の割合を算出して結晶育成成功率(%)とした。つまり、結晶育成成功率は、結晶育成が成功した回数を結晶育成回数で割ったものを%表示したものである。
【0082】
上記(I)及び(II)の測定結果をまとめて表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
表1より、Li/Nbの値が0.9421、0.9425、0.9440、0.9443である#11〜#14の各マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶は、いずれもMgの分配係数がほぼ1となった。これは、単結晶と残融液とで、Mgの含有割合がほぼ一致することを示すものである。つまり、結晶の上部と下部とで組成は均一となった。
【0085】
また、#11〜#14のマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶では、ほとんどクラックが発生せず、結晶育成成功率が高いことがわかった。
【0086】
また、結晶の均一性の観点から、Li/Nbの値が0.9425〜0.9440がより好ましい範囲であることがわかった。結晶が均一であるほど、熱伝導率も高くなると推測される。
【0087】
以上より、Li/Nbの値が0.9421≦Li/Nb≦0.9443、かつ、MgO/(MgO+LiNbO)の値が0.0515となるように、各原料を混合して製造した本発明で用いるマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶は、結晶の上部、中部、下部とで組成が均一である単結晶となることが確認できた。
【0088】
なお、マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶での結果を示したが、マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶においても同様のことが言える。
【0089】
また、表1の結果に見られるように、MgO/(MgO+LiNbO)の値が0.0515となるように、LiCOとNbとMgOとを混合して、原料混合物を調製した場合、原料混合物である融液のMgモル%が、5.15であり、結晶の上部、中部、下部のMgモル%もほぼ同一の値となることが確認できた。このことから、MgO/(MgO+LiNbO)の値の%表示、すなわち原料混合物中のMgOの濃度(モル%)が、結晶のMgの含有割合(モル%)と同一になることがわかった。
【0090】
<還元処理されたマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の製造>
Li/Nbの値が0.9433、Mgの含有割合が1モル%〜9モル%であるマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶を9種類製造した。また、Mgが入っていない、Li/Nbの値が0.9433のニオブ酸リチウム単結晶を作製した。
【0091】
Li/Nbの値が0.9433となるように、かつLiNbOとMgOの合計に対するMgOのモル比、すなわち、MgO/(MgO+LiNbO)の値が0、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09の各値となるように、LiCOとNbとMgOとをボールミルにより混合して、10種類の原料混合物を調製した。調製した原料混合物を、1000℃で10時間焼成した後、白金製の坩堝に入れ、高周波誘導加熱により溶融させた。溶融温度は1300℃とした。この原料混合物融液の中に種結晶を浸し、回転数10rpm、引き上げ速度5mm/hrで引き上げて、直径約100mm、長さ約60mmの単結晶を得た。得られた単結晶を#20〜#29の単結晶と番号付けした。種結晶として、目的とする軸の方位に切り出したLN単結晶を用いた。なお、以下、MgO/(MgO+LiNbO)の値を%表示にしたものを、MgO濃度(モル%)として示す。
【0092】
製造した上記#20のニオブ酸リチウム単結晶及び#21〜#29の各マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶について、それぞれ結晶の上端から5mm、60mmの部分から厚さ約0.35mmの板を切り出した。なお、結晶において種結晶に近い側、すなわち、先に引き上げられた方の端部を上端とし、種結晶から遠い側、すなわち上端と相対する端部を下端とした。つまり、マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶ごとに、切り出した部分によって上部、下部の2種類の板を作製した。
【0093】
得られた各板に、還元処理装置を用いて還元処理を行った。還元処理装置は、処理容器と、ヒータと、真空ポンプとを備え、処理容器の一端に配管が接続され、さらにその配管には真空ポンプが接続されている構造である。接続された配管を通して、処理容器中の排気が行われる。
【0094】
処理容器には、各板および還元剤としての塩化リチウム粉末を収容した。各板は、各板が約5mmの間隔をあけた状態で石英製のカセットケースに配置された。塩化リチウム粉末は、板とは別に、石英ガラス製のシャーレ内に収容された。収容される塩化リチウム粉末の量は100gであった。ヒータは、処理容器の周囲を覆うように配置された。
【0095】
還元処理装置による還元処理の一例の流れを説明する。まず、真空ポンプにより、処理容器内を1.33Pa程度の真空雰囲気とする。次いで、ヒータにより処理容器を加熱し、処理容器内の温度を3時間で550℃まで上昇させる。処理容器内の温度が550℃に達したら、その状態で18時間保持する。その後、ヒータを停止し、処理容器内を自然冷却し、還元処理された板を得た。
【0096】
還元処理された板の片面を鏡面研磨して測定用ウェーハを作製した。測定用ウェーハの直径は100mm径(4インチφ)、厚さは0.35mm、128°YカットX伝搬基板であった。最終研磨加工においては、コロイダルシリカによるメカノケミカルポリッシュ方式を採用した。
【0097】
マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶から作成されたウェーハは、還元処理前の色は白色であり、還元処理後は青灰色をしていた。また、また上記ウェーハの白色又は青灰色は、ウェーハ全体が均一な色になっており、添加元素であるマグネシウムが均一に添加されていることが一目で分かった
【0098】
〈製造した還元されたマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の評価〉
(III)キュリー点測定
結晶上部ウェーハおよび結晶下部ウェーハのキュリー点を、示差熱分析装置(DTA)により測定した。キュリー点は、ウェーハの中心部、およびウェーハエッジより5mm内側周部における四箇所の合計五箇所にて測定した。各五箇所の温度はほぼ同一であったため、各ウェーハの中心部にて測定された温度をキュリー点として表2に記載した。また、結晶上部ウェーハのキュリー点と、結晶下部ウェーハのキュリー点との差を算出した。なお、キュリー点の差の算出には、各ウェーハの中心部にて測定された値を用いた。
【0099】
(IV)ウェーハ良品率
ウェーハ良品率は、単結晶から厚さ0.6mmの板を切り出しその枚数100枚中の、最終製品としての良品の枚数を%表示した。良品とは、還元工程、洗浄、研磨工程を経たウェーハが、割れ、かけ、クラック等なく製品として使用可能と判断されたものとした。
【0100】
(V)体積抵抗率
体積抵抗率は、東亜ディーケーケー株式会社製「DSM−8103」を用いて測定した。
【0101】
上記(III)〜(V)の測定結果をまとめて表2に示す
【0102】
【表2】
【0103】
表2に見られるように、融液のLiとNbとの原子比がLi/Nb=0.9433であり、MgO濃度(モル%)が1モル%以上9モル%以下である#21〜#29の各マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶において、結晶上部ウェーハのキュリー点と、結晶下部ウェーハのキュリー点との差は微少であり、#21〜#29の各マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶は、均一な結晶であることがわかった。また、#20のニオブ酸リチウム単結晶のキュリー温度が1130℃であるのに対して、#21〜#29の各マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶のキュリー温度は1150℃以上1215℃以下であることがわかった。
【0104】
ウェーハ良品率からみると、MgO濃度(モル%)が1モル%以上7モル%未満であることが好ましく、1モル%以上6モル%以下であることがより好ましく、4モル%以上6モル%以下であることがさらに好ましいことがわかった。
【0105】
ここで、MgO濃度(モル%)は、マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶におけるMgの含有割合(モル%)と同一となるはずである。従って、MgO濃度(モル%)は、Mgの含有割合(モル%)を示すということができる。
【0106】
なお、表1及び表2では、マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶での結果を示したが、マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶と、マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶は結晶構造が同様であるので、マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶においても同様のことが合理的に推測できる。
【0107】
〈マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の製造B〉
Li/Nbの値が0.8868〜0.9802、Mgの含有割合が3モル%であるマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶を14種類製造した。
【0108】
Li/Nbの値が0.8868、0.9048、0.9231、0.9305、0.9380、0.9417、0.9421、0.9429、0.9436、0.9444、0.9455、0.9531、0.9685、0.9802の各値となるように、またLiNbOとMgOの合計に対するMgOのモル比、すなわち、MgO/(MgO+LiNbO)の値が0.03となるように、LiCOとNbとMgOとを混合して、14種類の原料混合物を調製した。調製した原料混合物を、1000℃で10時間焼成した後、白金製の坩堝に入れ、高周波誘導加熱により溶融させた。溶融温度は1300℃とした。この原料混合物融液の中に種結晶を浸し、回転数10rpm、引き上げ速度5mm/hrで引き上げて、直径約80mm、長さ約60mmの単結晶を得た。種結晶として、目的とする軸の方位に切り出したLN単結晶を用いた。得られたマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶を#31〜#44の単結晶と番号付けした。
【0109】
上記#21〜#29の各マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶と同様にして、#31〜#44の単結晶を還元処理した後、測定用ウェーハを作製した。各#31〜#44のマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の測定用ウェーハのキュリー点、ウェーハ良品率、体積抵抗率を上記(III)〜(V)と同様にして測定した。結果を表3にまとめて示す。
【0110】
【表3】
【0111】
表3の結果から、各#32〜#43のマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶は、ウェーハ良品率が80%以上であることがわかった。つまり、LiとNbとの原子比が0.9048≦Li/Nb≦0.9685であれば、ウェーハ良品率が高いことがわかった。ウェーハ良品率の結果は、結晶の均一性に影響されると考えられる。ウェーハ良品率が高いことは結晶の均一性が高いと考えられる。
【0112】
〈マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の製造C〉
Li/Nbの値が0.8868〜0.9802、Mgの含有割合が5モル%であるマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶を14種類製造した。
【0113】
Li/Nbの値が0.8868、0.9048、0.9231、0.9305、0.9380、0.9417、0.9421、0.9429、0.9436、0.9444、0.9455、0.9531、0.9685、0.9802の各値となるように、またLiNbOとMgOの合計に対するMgOのモル比、すなわち、MgO/(MgO+LiNbO)の値が0.05となるように、LiCOとNbとMgOとを混合して、14種類の原料混合物を調製した。調製した原料混合物を、1000℃で10時間焼成した後、白金製の坩堝に入れ、高周波誘導加熱により溶融させた。溶融温度は1300℃とした。この原料混合物融液の中に種結晶を浸し、回転数10rpm、引き上げ速度5mm/hrで引き上げて、直径約80mm、長さ約60mmの単結晶を得た。種結晶として、目的とする軸の方位に切り出したLN単結晶を用いた。得られたマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶を#51〜#64の単結晶と番号付けした。
【0114】
上記#31〜#44の各マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶と同様にして、#51〜#64の単結晶を還元処理した後、測定用ウェーハを作製した。各#51〜#64のマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の測定用ウェーハのキュリー点、ウェーハ良品率、体積抵抗率を上記(III)〜(V)と同様にして測定した。結果を表4にまとめて示す。
【0115】
【表4】
【0116】
表4の結果から、各#52〜#63のマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶は、ウェーハ良品率が80%以上であることがわかった。つまり、LiとNbとの原子比が0.9048≦Li/Nb≦0.9685であれば、ウェーハ良品率が高いことがわかった。ウェーハ良品率の結果は、結晶の均一性に影響されると考えられる。ウェーハ良品率が高いことは結晶の均一性が高いと考えられる。なお、表3及び表4では、マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶での結果を示したが、マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶と、マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶は結晶構造が同様であるので、マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶においても同様のことが合理的に推測できる。
【0117】
<マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の熱伝導率測定>
上記#20のニオブ酸リチウム単結晶、#23及び#25のマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶を各2個ずつ用いて熱伝導率測定用のウェーハを作製した。それぞれ結晶の上端から10mmの部分から厚さ約1mmの板を切り出した。上記と同様にして還元処理を行ない、各板を研磨して厚み1mmの測定用ウェーハとした。最終研磨加工においては、コロイダルシリカによるメカノケミカルポリッシュ方式を採用した。
【0118】
上記#20のニオブ酸リチウム単結晶は、Li/Nbの値が0.9433で、MgO濃度(モル%)が0モル%であり、上記#23のマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶は、Li/Nbの値が0.9433で、MgO濃度(モル%)が3モル%であり、上記#25のニオブ酸リチウム単結晶は、Li/Nbの値が0.9433で、MgO濃度(モル%)が5モル%である。
【0119】
上記#20のニオブ酸リチウム単結晶から作製されたウェーハを比較例1の基板とし、#23及び#25のマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶から作製されたウェーハを実施例1及び実施例2の基板とする。各単結晶を2個ずつ用いたので、それぞれ実施例1−1実施例1−2、実施例2−1、実施例2−2、比較例1−1、比較例1−2と称す。
【0120】
この時の各熱伝導率測定用のウェーハは、直径は100mm径(4インチφ)、厚さは約0.35mm、128°YカットX伝搬基板であった。各ウェーハから縦10mm×横10mmに切り出した板を測定板として用いた。
【0121】
大気中、25℃でレーザーフラッシュ法にてZ軸方向の熱伝導率を測定した。熱伝導率の算出方法は最少二乗法とした。熱伝導率算出時に使用した密度は、各サンプル共に4.6g/cmを用いた。ここで使用した密度は、各サンプルの実測値の平均値である。各サンプルの熱伝導率を5回ずつ測定しその平均値を算出した。結果を表5に示す。
【0122】
また、各測定用ウェーハの体積抵抗率を、東亜ディーケーケー株式会社製「DSM−8103」を用いて測定した。
【0123】
【表5】
【0124】
表5の結果から、比較例1の基板の熱伝導率に比べて、実施例1及び実施例2の基板の熱伝導率は、高いことがわかった。また、MgO濃度(モル%)が5モル%である実施例2の基板の熱伝導率が、MgO濃度(モル%)が3モル%である実施例1の基板の熱伝導率よりも高いことがわかった。
【0125】
なお、MgO濃度(モル%)が1モル%以上9モル%であれば、MgO濃度(モル%)が0%に比べて、製造された基板の熱伝導率は高くなると推測される。
【0126】
また、表2の良品率の結果によれば、MgO濃度(モル%)が8モル%以上となると、MgO濃度(モル%)が5モル%に比べてウェーハ良品率が小さくなる。ウェーハ良品率の結果は、結晶の均一性に影響されると考えられる。結晶の均一性が高い方が、熱伝導率も高いのではないかと考えられるため、MgO濃度(モル%)が8モル%以上で製造されたマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の基板の熱伝導率は、MgO濃度(モル%)が5モル%で製造されたマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の基板の熱伝導率よりも小さくなるのではないかと思われる。
【0127】
従って、熱伝導率の観点から、MgO濃度(モル%)は1モル%以上7モル%以下であることが好ましく、3モル%以上6モル%以下であることがより好ましいことがわかった。
【0128】
なお、MgO濃度(モル%)は、Mgの含有割合(モル%)を示すということができる。
【0129】
<マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の測定温度を変化させた熱伝導率測定>
比較例1及び実施例1の基板の熱伝導率を、測定温度を変えて測定した。この時の各熱伝導率測定用のウェーハは、それぞれ還元処理されており、ウェーハの直径は100mm径(4インチφ)、厚さは約1mm、128°YカットX伝搬基板であった。各ウェーハから縦10mm×横10mmに切り出した板を測定板として用いた。
【0130】
実施例1と比較例1の基板のX軸方向の熱伝導率とZ軸方向の熱伝導率を、大気中、25℃、50℃、75℃、100℃、125℃、150℃において測定した。熱伝導率の算出方法は最少二乗法とした。熱伝導率算出時に使用した密度は、各サンプル共に4.6g/cmを用いた。ここで使用した密度は、各サンプルの実測値の平均値である。各サンプルを5回ずつ測定しその平均値を算出した。結果を表6及び図1に示す。表6においてこの熱伝導率測定用ウェーハを実施例1−3、比較例1−3と称す。
【0131】
【表6】
【0132】
表6及び図1にみられるように、25℃〜150℃の範囲において、実施例1の基板の熱伝導率は、比較例1の基板の熱伝導率に比べて、X軸方向でもZ軸方向でもきわめて高い結果となった。つまり、実施例1の基板は、25℃〜150℃の範囲において比較例1の基板に対して放熱性に優れていることがわかった。特に室温付近である25℃においてさえも実施例1の基板の熱伝導率は、X軸方向でもZ軸方向でもきわめて高く、実施例1の基板は、室温においてさえ、放熱性に優れていることがわかった。
【0133】
<マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶の製造>
Li/Taの値が0.9433となるように、またLiTaOとMgOの合計に対するMgOのモル比、すなわち、MgO/(MgO+LiTaO)の値が0.05となるように、LiCOとTaとMgOとをボールミルにより混合して、原料混合物を調製した。調製した原料混合物を、1200℃で10時間焼成した後、イリジウム製の坩堝に入れ、高周波誘導加熱により溶融させた。溶融温度は1710℃とした。この原料混合物融液の中に、所定の方位に切り出した種結晶を浸し、回転数10rpm、引き上げ速度5mm/hrで引き上げて、直径約100mm、長さ約60mmの単結晶を得た。種結晶は、所定の方位に切り出したLT単結晶を用いた。
【0134】
得られた単結晶の上端から10mmの位置から、それぞれ厚さ1mmの板を切り出した。
切り出した板に上記マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の測定用ウェーハの還元処理と同様の還元処理を行なった。その板の片面を鏡面研磨して測定用ウェーハを作製した。最終研磨加工においては、コロイダルシリカによるメカノケミカルポリッシュ方式を採用した。
【0135】
還元処理されたマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶から作成されたウェーハは、還元処理前の色は白色であり、還元処理後は青灰色をしていた。また、また上記ウェーハの白色又は青灰色は、ウェーハ全体が均一な色になっており、添加元素であるマグネシウムが均一に添加されていることが一目で分かった。
【0136】
<LT単結晶の製造>
Li/Taの値が0.9433となるように、LiCOとTaとをボールミルにより混合して、原料混合物を調製した。調製した原料混合物を、1200℃で10時間焼成した後、イリジウム製の坩堝に入れ、高周波誘導加熱により溶融させた。溶融温度は1710℃とした。この原料混合物融液の中に、所定の方位に切り出した種結晶を浸し、回転数10rpm、引き上げ速度5mm/hrで引き上げて、直径約100mm、長さ約60mmの単結晶を得た。種結晶は、所定の方位に切り出したLT単結晶を用いた。
【0137】
得られた単結晶の上端から10mmの位置から、それぞれ厚さ1mmの板を切り出した。切り出した板に還元処理を行い、還元処理後の板の片面を鏡面研磨して測定用ウェーハを作製した。最終研磨加工においては、コロイダルシリカによるメカノケミカルポリッシュ方式を採用した。また、タンタル酸リチウム単結晶への還元処理は、マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶に対して行なった還元処理と同様にした。
【0138】
<マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶の熱伝導率測定>
還元処理されたマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶の基板を実施例2の基板とし、還元処理されたタンタル酸リチウム単結晶からなる基板を比較例2の基板とする。
【0139】
実施例2の基板と、比較例2の基板の25℃でのX軸方向とZ軸方向の熱拡散率とX軸方向とZ軸方向の熱伝導率を上記と同様にレーザーフラッシュ法で測定した。結果を表7に示す。熱伝導率算出時に使用した密度は、各サンプル共に7.45g/cmを用いた。ここで使用した密度は、各サンプルの実測値の平均値である。なお、比較例2の体積抵抗率は4.53×1011Ω・cmであり、実施例2の体積抵抗率は5.11×1011Ω・cmであった。
【0140】
【表7】
【0141】
表7に見られるように、25℃において、比較例2の基板の熱伝導率に比べて実施例2の基板の熱伝導率はX軸方向もZ軸方向も高かった。また25℃において、比較例2の基板の熱拡散率に比べて実施例2の基板の熱拡散率はX軸方向もZ軸方向も高かった。
【0142】
また、詳細は省略するが、タンタル酸リチウム単結晶のキュリー温度は、603℃であるのに対して、マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶のキュリー温度は620℃以上720℃以下であることがわかった。
【0143】
上記の結果から、LiとNbとの原子比が0.9048≦Li/Nb≦0.9685であり、Mgの含有割合が1モル%以上9モル%以下であるマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶、及びLiとTaとの原子比が0.9048≦Li/Ta≦0.9685であり、Mgの含有割合が1モル%以上9モル%以下であるマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶、からなる弾性表面波素子用基板は、熱伝導率が高く、薄板化可能であることがわかった。熱伝導率の高い弾性表面波素子用基板を用いることで、デバイス内に弾性表面波素子が高密度積層されても、放熱しやすいと推測される。
【要約】
【課題】 熱伝導率が高い弾性表面波素子用基板を提供することを解決すべき課題とする。
【解決手段】 本発明の弾性表面波素子用基板は、LiとNbとの原子比が0.9048≦Li/Nb≦0.9685であり、Mgの含有割合が1モル%以上9モル%以下であるマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶、または、LiとTaとの原子比が0.9048≦Li/Ta≦0.9685であり、Mgの含有割合が1モル%以上9モル%以下であるマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶、からなる(ただし、LiとNbとの原子比が0.9421≦Li/Nb≦0.9443であり、Mgの含有割合が1モル%以上9モル%以下であるマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶、または、LiとTaとの原子比が0.9421≦Li/Ta≦0.9443であり、Mgの含有割合が1モル%以上9モル%以下であるマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶、からなる弾性表面波素子用基板を除く)。
【選択図】 なし
図1