【実施例】
【0076】
上記実施の形態に基づいて、まず、本発明で用いられるマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶を種々製造した。また、比較例として、ニオブ酸リチウム単結晶を製造した。
【0077】
〈マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の製造A〉
Li/Nbの値が0.9421〜0.9443、Mgの含有割合が5.15モル%であるマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶を4種類製造した。
【0078】
Li/Nbの値が0.9421、0.9425、0.9440、0.9443の各値となるように、またLiNbO
3とMgOの合計に対するMgOのモル比、すなわち、MgO/(MgO+LiNbO
3)の値が0.0515となるように、Li
2CO
3とNb
2O
5とMgOとを混合して、4種類の原料混合物を調製した。調製した原料混合物を、1000℃で10時間焼成した後、白金製の坩堝に入れ、高周波誘導加熱により溶融させた。溶融温度は1300℃とした。この原料混合物融液の中に種結晶を浸し、回転数10rpm、引き上げ速度5mm/hrで引き上げて、直径約80mm、長さ約60mmの単結晶を得た。種結晶として、目的とする軸の方位に切り出したLN単結晶を用いた。得られたマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶を#11〜#14の単結晶と番号付けした。
【0079】
〈製造したマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の評価〉
製造した上記#11〜#14の各マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶について、それぞれ結晶の上端から5mm、30mm、60mmの部分から厚さ1mmの板を切り出した。なお、結晶において種結晶に近い側、すなわち、先に引き上げられた方の端部を上端とした。そして、各板の両面を鏡面研磨して測定用ウェーハを作製した。つまり、マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶ごとに、切り出した部分によって上部、中部、下部の3種類の測定用ウェーハを作製した。作製した各測定用ウェーハを使用して、種々の測定および分析を行った。以下、各項目ごとに述べる。
【0080】
(I)Mgの分配係数の算出
得られたマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶と残融液とのMgの分配係数を求めるため、作製した上記各ウェーハおよび残融液のMgの含有割合を誘電結合プラズマ発光分析法(ICP−AES)により分析した。そして、各マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶について、3個のウェーハにおけるMgの含有割合の平均値を求めた。その平均値をそれぞれの残融液におけるMgの含有割合の値で除することにより、Mgの分配係数を求めた。
【0081】
(II)結晶育成成功率
上記各組成のマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の製造の際、どれ位の割合でクラックが発生したかを調査した。上記各組成のマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶を、上記方法によりそれぞれ20個製造し、クラックが発生しなかった結晶の割合を算出して結晶育成成功率(%)とした。つまり、結晶育成成功率は、結晶育成が成功した回数を結晶育成回数で割ったものを%表示したものである。
【0082】
上記(I)及び(II)の測定結果をまとめて表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
表1より、Li/Nbの値が0.9421、0.9425、0.9440、0.9443である#11〜#14の各マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶は、いずれもMgの分配係数がほぼ1となった。これは、単結晶と残融液とで、Mgの含有割合がほぼ一致することを示すものである。つまり、結晶の上部と下部とで組成は均一となった。
【0085】
また、#11〜#14のマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶では、ほとんどクラックが発生せず、結晶育成成功率が高いことがわかった。
【0086】
また、結晶の均一性の観点から、Li/Nbの値が0.9425〜0.9440がより好ましい範囲であることがわかった。結晶が均一であるほど、熱伝導率も高くなると推測される。
【0087】
以上より、Li/Nbの値が0.9421≦Li/Nb≦0.9443、かつ、MgO/(MgO+LiNbO
3)の値が0.0515となるように、各原料を混合して製造した本発明で用いるマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶は、結晶の上部、中部、下部とで組成が均一である単結晶となることが確認できた。
【0088】
なお、マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶での結果を示したが、マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶においても同様のことが言える。
【0089】
また、表1の結果に見られるように、MgO/(MgO+LiNbO
3)の値が0.0515となるように、Li
2CO
3とNb
2O
5とMgOとを混合して、原料混合物を調製した場合、原料混合物である融液のMgモル%が、5.15であり、結晶の上部、中部、下部のMgモル%もほぼ同一の値となることが確認できた。このことから、MgO/(MgO+LiNbO
3)の値の%表示、すなわち原料混合物中のMgOの濃度(モル%)が、結晶のMgの含有割合(モル%)と同一になることがわかった。
【0090】
<還元処理されたマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の製造>
Li/Nbの値が0.9433、Mgの含有割合が1モル%〜9モル%であるマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶を9種類製造した。また、Mgが入っていない、Li/Nbの値が0.9433のニオブ酸リチウム単結晶を作製した。
【0091】
Li/Nbの値が0.9433となるように、かつLiNbO
3とMgOの合計に対するMgOのモル比、すなわち、MgO/(MgO+LiNbO
3)の値が0、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09の各値となるように、Li
2CO
3とNb
2O
5とMgOとをボールミルにより混合して、10種類の原料混合物を調製した。調製した原料混合物を、1000℃で10時間焼成した後、白金製の坩堝に入れ、高周波誘導加熱により溶融させた。溶融温度は1300℃とした。この原料混合物融液の中に種結晶を浸し、回転数10rpm、引き上げ速度5mm/hrで引き上げて、直径約100mm、長さ約60mmの単結晶を得た。得られた単結晶を#20〜#29の単結晶と番号付けした。種結晶として、目的とする軸の方位に切り出したLN単結晶を用いた。なお、以下、MgO/(MgO+LiNbO
3)の値を%表示にしたものを、MgO濃度(モル%)として示す。
【0092】
製造した上記#20のニオブ酸リチウム単結晶及び#21〜#29の各マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶について、それぞれ結晶の上端から5mm、60mmの部分から厚さ約0.35mmの板を切り出した。なお、結晶において種結晶に近い側、すなわち、先に引き上げられた方の端部を上端とし、種結晶から遠い側、すなわち上端と相対する端部を下端とした。つまり、マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶ごとに、切り出した部分によって上部、下部の2種類の板を作製した。
【0093】
得られた各板に、還元処理装置を用いて還元処理を行った。還元処理装置は、処理容器と、ヒータと、真空ポンプとを備え、処理容器の一端に配管が接続され、さらにその配管には真空ポンプが接続されている構造である。接続された配管を通して、処理容器中の排気が行われる。
【0094】
処理容器には、各板および還元剤としての塩化リチウム粉末を収容した。各板は、各板が約5mmの間隔をあけた状態で石英製のカセットケースに配置された。塩化リチウム粉末は、板とは別に、石英ガラス製のシャーレ内に収容された。収容される塩化リチウム粉末の量は100gであった。ヒータは、処理容器の周囲を覆うように配置された。
【0095】
還元処理装置による還元処理の一例の流れを説明する。まず、真空ポンプにより、処理容器内を1.33Pa程度の真空雰囲気とする。次いで、ヒータにより処理容器を加熱し、処理容器内の温度を3時間で550℃まで上昇させる。処理容器内の温度が550℃に達したら、その状態で18時間保持する。その後、ヒータを停止し、処理容器内を自然冷却し、還元処理された板を得た。
【0096】
還元処理された板の片面を鏡面研磨して測定用ウェーハを作製した。測定用ウェーハの直径は100mm径(4インチφ)、厚さは0.35mm、128°YカットX伝搬基板であった。最終研磨加工においては、コロイダルシリカによるメカノケミカルポリッシュ方式を採用した。
【0097】
マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶から作成されたウェーハは、還元処理前の色は白色であり、還元処理後は青灰色をしていた。また、また上記ウェーハの白色又は青灰色は、ウェーハ全体が均一な色になっており、添加元素であるマグネシウムが均一に添加されていることが一目で分かった
【0098】
〈製造した還元されたマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の評価〉
(III)キュリー点測定
結晶上部ウェーハおよび結晶下部ウェーハのキュリー点を、示差熱分析装置(DTA)により測定した。キュリー点は、ウェーハの中心部、およびウェーハエッジより5mm内側周部における四箇所の合計五箇所にて測定した。各五箇所の温度はほぼ同一であったため、各ウェーハの中心部にて測定された温度をキュリー点として表2に記載した。また、結晶上部ウェーハのキュリー点と、結晶下部ウェーハのキュリー点との差を算出した。なお、キュリー点の差の算出には、各ウェーハの中心部にて測定された値を用いた。
【0099】
(IV)ウェーハ良品率
ウェーハ良品率は、単結晶から厚さ0.6mmの板を切り出しその枚数100枚中の、最終製品としての良品の枚数を%表示した。良品とは、還元工程、洗浄、研磨工程を経たウェーハが、割れ、かけ、クラック等なく製品として使用可能と判断されたものとした。
【0100】
(V)体積抵抗率
体積抵抗率は、東亜ディーケーケー株式会社製「DSM−8103」を用いて測定した。
【0101】
上記(III)〜(V)の測定結果をまとめて表2に示す
【0102】
【表2】
【0103】
表2に見られるように、融液のLiとNbとの原子比がLi/Nb=0.9433であり、MgO濃度(モル%)が1モル%以上9モル%以下である#21〜#29の各マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶において、結晶上部ウェーハのキュリー点と、結晶下部ウェーハのキュリー点との差は微少であり、#21〜#29の各マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶は、均一な結晶であることがわかった。また、#20のニオブ酸リチウム単結晶のキュリー温度が1130℃であるのに対して、#21〜#29の各マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶のキュリー温度は1150℃以上1215℃以下であることがわかった。
【0104】
ウェーハ良品率からみると、MgO濃度(モル%)が1モル%以上7モル%未満であることが好ましく、1モル%以上6モル%以下であることがより好ましく、4モル%以上6モル%以下であることがさらに好ましいことがわかった。
【0105】
ここで、MgO濃度(モル%)は、マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶におけるMgの含有割合(モル%)と同一となるはずである。従って、MgO濃度(モル%)は、Mgの含有割合(モル%)を示すということができる。
【0106】
なお、表1及び表2では、マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶での結果を示したが、マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶と、マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶は結晶構造が同様であるので、マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶においても同様のことが合理的に推測できる。
【0107】
〈マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の製造B〉
Li/Nbの値が0.8868〜0.9802、Mgの含有割合が3モル%であるマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶を14種類製造した。
【0108】
Li/Nbの値が0.8868、0.9048、0.9231、0.9305、0.9380、0.9417、0.9421、0.9429、0.9436、0.9444、0.9455、0.9531、0.9685、0.9802の各値となるように、またLiNbO
3とMgOの合計に対するMgOのモル比、すなわち、MgO/(MgO+LiNbO
3)の値が0.03となるように、Li
2CO
3とNb
2O
5とMgOとを混合して、14種類の原料混合物を調製した。調製した原料混合物を、1000℃で10時間焼成した後、白金製の坩堝に入れ、高周波誘導加熱により溶融させた。溶融温度は1300℃とした。この原料混合物融液の中に種結晶を浸し、回転数10rpm、引き上げ速度5mm/hrで引き上げて、直径約80mm、長さ約60mmの単結晶を得た。種結晶として、目的とする軸の方位に切り出したLN単結晶を用いた。得られたマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶を#31〜#44の単結晶と番号付けした。
【0109】
上記#21〜#29の各マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶と同様にして、#31〜#44の単結晶を還元処理した後、測定用ウェーハを作製した。各#31〜#44のマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の測定用ウェーハのキュリー点、ウェーハ良品率、体積抵抗率を上記(III)〜(V)と同様にして測定した。結果を表3にまとめて示す。
【0110】
【表3】
【0111】
表3の結果から、各#32〜#43のマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶は、ウェーハ良品率が80%以上であることがわかった。つまり、LiとNbとの原子比が0.9048≦Li/Nb≦0.9685であれば、ウェーハ良品率が高いことがわかった。ウェーハ良品率の結果は、結晶の均一性に影響されると考えられる。ウェーハ良品率が高いことは結晶の均一性が高いと考えられる。
【0112】
〈マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の製造C〉
Li/Nbの値が0.8868〜0.9802、Mgの含有割合が5モル%であるマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶を14種類製造した。
【0113】
Li/Nbの値が0.8868、0.9048、0.9231、0.9305、0.9380、0.9417、0.9421、0.9429、0.9436、0.9444、0.9455、0.9531、0.9685、0.9802の各値となるように、またLiNbO
3とMgOの合計に対するMgOのモル比、すなわち、MgO/(MgO+LiNbO
3)の値が0.05となるように、Li
2CO
3とNb
2O
5とMgOとを混合して、14種類の原料混合物を調製した。調製した原料混合物を、1000℃で10時間焼成した後、白金製の坩堝に入れ、高周波誘導加熱により溶融させた。溶融温度は1300℃とした。この原料混合物融液の中に種結晶を浸し、回転数10rpm、引き上げ速度5mm/hrで引き上げて、直径約80mm、長さ約60mmの単結晶を得た。種結晶として、目的とする軸の方位に切り出したLN単結晶を用いた。得られたマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶を#51〜#64の単結晶と番号付けした。
【0114】
上記#31〜#44の各マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶と同様にして、#51〜#64の単結晶を還元処理した後、測定用ウェーハを作製した。各#51〜#64のマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の測定用ウェーハのキュリー点、ウェーハ良品率、体積抵抗率を上記(III)〜(V)と同様にして測定した。結果を表4にまとめて示す。
【0115】
【表4】
【0116】
表4の結果から、各#52〜#63のマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶は、ウェーハ良品率が80%以上であることがわかった。つまり、LiとNbとの原子比が0.9048≦Li/Nb≦0.9685であれば、ウェーハ良品率が高いことがわかった。ウェーハ良品率の結果は、結晶の均一性に影響されると考えられる。ウェーハ良品率が高いことは結晶の均一性が高いと考えられる。なお、表3及び表4では、マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶での結果を示したが、マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶と、マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶は結晶構造が同様であるので、マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶においても同様のことが合理的に推測できる。
【0117】
<マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の熱伝導率測定>
上記#20のニオブ酸リチウム単結晶、#23及び#25のマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶を各2個ずつ用いて熱伝導率測定用のウェーハを作製した。それぞれ結晶の上端から10mmの部分から厚さ約1mmの板を切り出した。上記と同様にして還元処理を行ない、各板を研磨して厚み1mmの測定用ウェーハとした。最終研磨加工においては、コロイダルシリカによるメカノケミカルポリッシュ方式を採用した。
【0118】
上記#20のニオブ酸リチウム単結晶は、Li/Nbの値が0.9433で、MgO濃度(モル%)が0モル%であり、上記#23のマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶は、Li/Nbの値が0.9433で、MgO濃度(モル%)が3モル%であり、上記#25のニオブ酸リチウム単結晶は、Li/Nbの値が0.9433で、MgO濃度(モル%)が5モル%である。
【0119】
上記#20のニオブ酸リチウム単結晶から作製されたウェーハを比較例1の基板とし、#23及び#25のマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶から作製されたウェーハを実施例1及び実施例2の基板とする。各単結晶を2個ずつ用いたので、それぞれ実施例1−1実施例1−2、実施例2−1、実施例2−2、比較例1−1、比較例1−2と称す。
【0120】
この時の各熱伝導率測定用のウェーハは、直径は100mm径(4インチφ)、厚さは約0.35mm、128°YカットX伝搬基板であった。各ウェーハから縦10mm×横10mmに切り出した板を測定板として用いた。
【0121】
大気中、25℃でレーザーフラッシュ法にてZ軸方向の熱伝導率を測定した。熱伝導率の算出方法は最少二乗法とした。熱伝導率算出時に使用した密度は、各サンプル共に4.6g/cm
3を用いた。ここで使用した密度は、各サンプルの実測値の平均値である。各サンプルの熱伝導率を5回ずつ測定しその平均値を算出した。結果を表5に示す。
【0122】
また、各測定用ウェーハの体積抵抗率を、東亜ディーケーケー株式会社製「DSM−8103」を用いて測定した。
【0123】
【表5】
【0124】
表5の結果から、比較例1の基板の熱伝導率に比べて、実施例1及び実施例2の基板の熱伝導率は、高いことがわかった。また、MgO濃度(モル%)が5モル%である実施例2の基板の熱伝導率が、MgO濃度(モル%)が3モル%である実施例1の基板の熱伝導率よりも高いことがわかった。
【0125】
なお、MgO濃度(モル%)が1モル%以上9モル%であれば、MgO濃度(モル%)が0%に比べて、製造された基板の熱伝導率は高くなると推測される。
【0126】
また、表2の良品率の結果によれば、MgO濃度(モル%)が8モル%以上となると、MgO濃度(モル%)が5モル%に比べてウェーハ良品率が小さくなる。ウェーハ良品率の結果は、結晶の均一性に影響されると考えられる。結晶の均一性が高い方が、熱伝導率も高いのではないかと考えられるため、MgO濃度(モル%)が8モル%以上で製造されたマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の基板の熱伝導率は、MgO濃度(モル%)が5モル%で製造されたマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の基板の熱伝導率よりも小さくなるのではないかと思われる。
【0127】
従って、熱伝導率の観点から、MgO濃度(モル%)は1モル%以上7モル%以下であることが好ましく、3モル%以上6モル%以下であることがより好ましいことがわかった。
【0128】
なお、MgO濃度(モル%)は、Mgの含有割合(モル%)を示すということができる。
【0129】
<マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の測定温度を変化させた熱伝導率測定>
比較例1及び実施例1の基板の熱伝導率を、測定温度を変えて測定した。この時の各熱伝導率測定用のウェーハは、それぞれ還元処理されており、ウェーハの直径は100mm径(4インチφ)、厚さは約1mm、128°YカットX伝搬基板であった。各ウェーハから縦10mm×横10mmに切り出した板を測定板として用いた。
【0130】
実施例1と比較例1の基板のX軸方向の熱伝導率とZ軸方向の熱伝導率を、大気中、25℃、50℃、75℃、100℃、125℃、150℃において測定した。熱伝導率の算出方法は最少二乗法とした。熱伝導率算出時に使用した密度は、各サンプル共に4.6g/cm
3を用いた。ここで使用した密度は、各サンプルの実測値の平均値である。各サンプルを5回ずつ測定しその平均値を算出した。結果を表6及び
図1に示す。表6においてこの熱伝導率測定用ウェーハを実施例1−3、比較例1−3と称す。
【0131】
【表6】
【0132】
表6及び
図1にみられるように、25℃〜150℃の範囲において、実施例1の基板の熱伝導率は、比較例1の基板の熱伝導率に比べて、X軸方向でもZ軸方向でもきわめて高い結果となった。つまり、実施例1の基板は、25℃〜150℃の範囲において比較例1の基板に対して放熱性に優れていることがわかった。特に室温付近である25℃においてさえも実施例1の基板の熱伝導率は、X軸方向でもZ軸方向でもきわめて高く、実施例1の基板は、室温においてさえ、放熱性に優れていることがわかった。
【0133】
<マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶の製造>
Li/Taの値が0.9433となるように、またLiTaO
3とMgOの合計に対するMgOのモル比、すなわち、MgO/(MgO+LiTaO
3)の値が0.05となるように、Li
2CO
3とTa
2O
5とMgOとをボールミルにより混合して、原料混合物を調製した。調製した原料混合物を、1200℃で10時間焼成した後、イリジウム製の坩堝に入れ、高周波誘導加熱により溶融させた。溶融温度は1710℃とした。この原料混合物融液の中に、所定の方位に切り出した種結晶を浸し、回転数10rpm、引き上げ速度5mm/hrで引き上げて、直径約100mm、長さ約60mmの単結晶を得た。種結晶は、所定の方位に切り出したLT単結晶を用いた。
【0134】
得られた単結晶の上端から10mmの位置から、それぞれ厚さ1mmの板を切り出した。
切り出した板に上記マグネシウムニオブ酸リチウム単結晶の測定用ウェーハの還元処理と同様の還元処理を行なった。その板の片面を鏡面研磨して測定用ウェーハを作製した。最終研磨加工においては、コロイダルシリカによるメカノケミカルポリッシュ方式を採用した。
【0135】
還元処理されたマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶から作成されたウェーハは、還元処理前の色は白色であり、還元処理後は青灰色をしていた。また、また上記ウェーハの白色又は青灰色は、ウェーハ全体が均一な色になっており、添加元素であるマグネシウムが均一に添加されていることが一目で分かった。
【0136】
<LT単結晶の製造>
Li/Taの値が0.9433となるように、Li
2CO
3とTa
2O
5とをボールミルにより混合して、原料混合物を調製した。調製した原料混合物を、1200℃で10時間焼成した後、イリジウム製の坩堝に入れ、高周波誘導加熱により溶融させた。溶融温度は1710℃とした。この原料混合物融液の中に、所定の方位に切り出した種結晶を浸し、回転数10rpm、引き上げ速度5mm/hrで引き上げて、直径約100mm、長さ約60mmの単結晶を得た。種結晶は、所定の方位に切り出したLT単結晶を用いた。
【0137】
得られた単結晶の上端から10mmの位置から、それぞれ厚さ1mmの板を切り出した。切り出した板に還元処理を行い、還元処理後の板の片面を鏡面研磨して測定用ウェーハを作製した。最終研磨加工においては、コロイダルシリカによるメカノケミカルポリッシュ方式を採用した。また、タンタル酸リチウム単結晶への還元処理は、マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶に対して行なった還元処理と同様にした。
【0138】
<マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶の熱伝導率測定>
還元処理されたマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶の基板を実施例2の基板とし、還元処理されたタンタル酸リチウム単結晶からなる基板を比較例2の基板とする。
【0139】
実施例2の基板と、比較例2の基板の25℃でのX軸方向とZ軸方向の熱拡散率とX軸方向とZ軸方向の熱伝導率を上記と同様にレーザーフラッシュ法で測定した。結果を表7に示す。熱伝導率算出時に使用した密度は、各サンプル共に7.45g/cm
3を用いた。ここで使用した密度は、各サンプルの実測値の平均値である。なお、比較例2の体積抵抗率は4.53×10
11Ω・cmであり、実施例2の体積抵抗率は5.11×10
11Ω・cmであった。
【0140】
【表7】
【0141】
表7に見られるように、25℃において、比較例2の基板の熱伝導率に比べて実施例2の基板の熱伝導率はX軸方向もZ軸方向も高かった。また25℃において、比較例2の基板の熱拡散率に比べて実施例2の基板の熱拡散率はX軸方向もZ軸方向も高かった。
【0142】
また、詳細は省略するが、タンタル酸リチウム単結晶のキュリー温度は、603℃であるのに対して、マグネシウムタンタル酸リチウム単結晶のキュリー温度は620℃以上720℃以下であることがわかった。
【0143】
上記の結果から、LiとNbとの原子比が0.9048≦Li/Nb≦0.9685であり、Mgの含有割合が1モル%以上9モル%以下であるマグネシウムニオブ酸リチウム単結晶、及びLiとTaとの原子比が0.9048≦Li/Ta≦0.9685であり、Mgの含有割合が1モル%以上9モル%以下であるマグネシウムタンタル酸リチウム単結晶、からなる弾性表面波素子用基板は、熱伝導率が高く、薄板化可能であることがわかった。熱伝導率の高い弾性表面波素子用基板を用いることで、デバイス内に弾性表面波素子が高密度積層されても、放熱しやすいと推測される。